説明

発電システム

【課題】 本発明は、蒸気タービンによる汽力発電を用いた火力発電、原子力発電において、発電量を画期的に増加させ、蒸気タービン復水器から排出される温海水を停止させるシステムを提供する。
【解決手段】 高圧水蒸気タービン及び発電機と、高圧水蒸気タービンから排出された水蒸気の熱エネルギーによって、沸点が0〜−30℃の液体有機媒体を蒸気に変換し、かつ水蒸気を復水させる水蒸気−液体有機媒体熱交換器と、水蒸気−液体有機媒体熱交換器から発生した蒸気有機媒体の熱エネルギーによって回転作動する低圧タービン及び発電機と、低圧タービンから排出された蒸気有機媒体を冷却、液化させる液体有機媒体熱交換器及び冷却機能を持つ冷凍機と、液体有機媒体熱交換器から排出された液体有機媒体を前記水蒸気−液体有機媒体熱交換器(復水器)から排出された高温凝縮水によって予熱させる凝縮水−液体有機媒体熱交換器を備えた発電システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンによる気力発電を用いた火力発電、原子力発電において、発電量を画期的に増加させ、蒸気タービン復水器から排出される温海水を停止させるシステムを提供する。
【背景技術】
【0002】
日本の火力発電は、1887年に日本橋茅場町に設置されてから、地勢的、気象的な要因により、「水主火従」の形で電源開発は進められてきたが、高度経済成長に伴う電力需要の急増と経済的な水力資源の減少、火力発電設備の信頼性と経済性の向上などによって、電源開発の主体は「火主水従」へと移行した。
熱エネルギーを電気エネルギーに変換するのが火力発電であり、これを原動機別にみると、蒸気タービンによる汽力発電、ディーゼル機関などによる内燃力発電、ガスタービン発電、そしてガスタービン発電と汽力発電を複合したコンバインドサイクル(複合)発電に分類される。
【0003】
しかし、火力発電は化石燃料をエネルギー源としているので、その埋蔵量には限界があり、燃料価格も上昇し続けたので、他のエネルギー源として商用原子力発電が1954年にソ連のオブニンスクにて世界最初に運転開始した。我が国においては、1966年に東海発電所にて商用運転を開始し、2009年時点で4880万kW(54基)まで増設されている。
【0004】
一方、1973年に発生したオイルショックを契機にして化石燃料価格が高騰し、エネルギー源の多様化が叫ばれるようになり、その一環として地熱発電が世界的に注目されるようになった。火山地帯が多い我が国においては大きな期待が寄せられて研究開発が進められ、2005年時点で55万kW規模の発電量となったが、以降建設は停滞している。
【0005】
地熱発電の装置構成としては、火山地帯の地下から噴出する水蒸気でタービンを駆動して発電を行い、排水蒸気は空冷または水冷によって復水させる方式と、地下から噴出する熱水、水蒸気でペンタン、ブタンなどの低沸点有機媒体の熱交換を行い、発生する中圧蒸気でタービンを駆動して発電を行い、排蒸気は空冷または水冷で液化して循環使用する方式がある。(特許文献1、2)
【0006】
1950年代半ばから始まった我が国の高度経済成長に伴って、産業廃棄物および家庭一般ごみの排出量が急増したため、全国各都市はごみ焼却場を設置して焼却処分するようになった。エネルギー事情から必然的に焼却炉で発生する燃焼熱で水蒸気を発生させて発電する方式が採用された。しかし、ごみ焼却炉で発生する水蒸気は圧力、温度が通常の火力発電所のそれよりかなり低いので、発電量も少ない。
この発電量の改善策として、水蒸気タービンから排出する水蒸気の凝縮潜熱を低沸点の有機媒体(プロパン、アレンなど)に伝達して中圧蒸気を発生させて、その蒸気でタービンを駆動してバイナリー発電を行う方式である。(特許文献3)この方式でも有機媒体蒸気の冷却は空冷または水冷で行っているので、後段のタービンによる発電増加量は前段水蒸気タービン発電量の最大12%程度である。
【0007】
前記のように多様な発電方式があるが、その発電量の約90%を火力発電と原子力発電が占めているので、この発電方式における発電能力の向上は、省エネ、温暖化防止に対する寄与が極めて大きいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−122006号公報
【特許文献2】特開昭58−5485号公報
【特許文献3】特開2000−145408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の火力発電方式においては、ボイラで高温に熱せられた水蒸気は、水蒸気タービンを駆動させた後も多くの熱エネルギーを持って復水器に入り、冷却凝縮されているため、水蒸気の熱エネルギーの電力化が極めて不十分であるとともに、温海水による環境汚染の問題も深刻である。原子力発電においては、高温、高圧水蒸気が原子炉で生成されること以外のサイクルは火力発電と同一であり、問題点が同一である。
【0010】
一方、特許文献1〜3に記載されているような有機媒体を低温熱源で加熱して蒸発させ、その蒸気でタービンを駆動させる地熱発電、ごみ焼却炉発電においては、有機媒体蒸気の凝縮を空冷または水冷で行うので、冷却が不充分で発電量が少なく、顕著な発電量の増加は達成できない。また、有機媒体の漏洩が発生した場合、有機媒体の温度が高いために圧力が高く、環境への放散量が多くなり、爆発の危険性と環境破壊が大きくなる。
【0011】
また、地熱発電またはごみ焼却炉発電においては、有機媒体蒸気の凝縮を空冷または水冷で行う場合、季節および時刻的な温度変化により、非定常な発電となり、運転管理が複雑となるという問題点がある。
【0012】
そこで、本発明は、蒸気タービンによる気力発電を用いた火力発電、原子力発電において、発電量を画期的に増加させ、蒸気タービン復水器から排出される温海水を停止させるシステムを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記技術的課題は以下の通りの本発明により達成できる。
【0014】
即ち、本発明は、熱を利用して給水を加熱して水蒸気を発生させるボイラと、前記ボイラからの水蒸気の熱エネルギーによって回転作動する高圧水蒸気タービンおよび該高圧水蒸気タービンによって駆動する発電機と、前記高圧水蒸気タービンから排出された水蒸気の熱エネルギーによって、沸点が0〜−30℃である液体有機媒体を蒸気に変換させ、かつ前記水蒸気を復水させる水蒸気−液体有機媒体熱交換器(復水器)と、前記水蒸気−液体有機媒体熱交換器(復水器)から発生した蒸気有機媒体の熱エネルギーによって回転作動する低圧タービンおよび該低圧タービンによって駆動する発電機と、前記低圧タービンから排出された蒸気有機媒体を冷却、液化させる液体有機媒体熱交換器およびその冷却機能を持つ冷凍機と、前記液体有機媒体熱交換器から排出された液体有機媒体を、前記水蒸気−液体有機媒体熱交換器(復水器)から排出された高温凝縮水によって予熱させる凝縮水−液体有機媒体熱交換器を備えることを特徴とする発電システムである(本発明1)。
【0015】
また、本発明は、前記低圧タービンから排出された蒸気有機媒体を、前記液体有機媒体熱交換器から排出された液体有機媒体によって冷却する蒸気有機媒体熱交換器を更に備えることを特徴とする本発明1に記載の発電システムである(本発明2)。
【0016】
また、本発明は、前記有機媒体がブタンであることを特徴とする本発明1又は2に記載の発電システムである(本発明3)。
【0017】
また、本発明は、水蒸気の発生が化石燃料の燃焼に伴う熱を利用するものである本発明1〜3のいずれかに記載の発電システムである(本発明4)。
【0018】
また、本発明は、水蒸気の発生が核燃料の核分裂に伴う熱を利用するものである本発明1〜3のいずれかに記載の発電システムである(本発明5)。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る発電システムによれば、従来の蒸気タービンによる気力発電を用いた火力発電、原子力発電において利用されていなかった発電利用後の高エネルギー水蒸気を、有機媒体タービンを付設して再利用することで、発電量を画期的に増加させることができる。さらに、蒸気タービン復水器から排出される温海水を停止させることで、発電所付近の海水温の上昇がなくなり、海の生態系を乱すこという環境破壊もなくすことができる。また、ブタン等の有機媒体の漏洩が起こった場合には復水器への液体ブタンの供給を停止すれば、有機媒体が液化して低蒸気圧になるので環境への放散は防止できる。
さらに、本発明に係る発電システムによれば、低圧タービンから排出された有機媒体蒸気の液化温度を冷凍機を用いて安定化することができるため、定常な発電が容易にでき、運転管理がしやすい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る発電システムの概略図である。
【図2】本発明に係る発電システムの別の態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、有機媒体をブタンとした場合の本発明の実施形態について、表1と図1に基づいて説明する。
【0022】
図1は、水蒸気、蒸気ブタンによる汽力発電を行う火力発電システムの概略構成図である。この発電システムは、主要構成部として、ボイラ1、発電水蒸気タービン2、発電ブタン蒸気タービン3、発電機4、5、水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6、液体ブタン熱交換器8、冷凍機9、液体ブタンポンプ10、凝縮水−液体ブタン熱交換器11、給水ポンプ23を備える。
【0023】
発電水蒸気タービン2から排出される水蒸気13(約105℃)は水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6に送られる。水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6では、水蒸気13を液体ブタン21(98℃)の蒸発に利用して、飽和蒸気ブタン15(98℃)を発生させ、水蒸気13は液体ブタンの蒸発により冷却されて液体の凝縮水14(100℃)に変換される。水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6にて液体の水に変換された凝縮水14は、凝縮水−液体ブタン熱交換器11で液体ブタン熱交換器8からの液体ブタン20(−10℃)と熱交換してボイラ給水22(2℃)となり、ボイラ排ガスを利用して加熱され、給水ポンプ23により再びボイラ1に送られる。なお、各向流型熱交換器における加熱流体入口と被加熱流体出口との温度差は全て2℃とする。
【0024】
凝縮水−液体ブタン熱交換器11で液体ブタン19が予熱されて液体ブタン21(98℃)になり、水蒸気−液体ブタン熱交換器6に入って飽和蒸気ブタン15となる。その飽和蒸気ブタン15は、発電ブタン蒸気タービン3に送られる。発電ブタン蒸気タービン3は、飽和蒸気ブタンの熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、発電機5を回転駆動して電力を出力する。
【0025】
発電ブタン蒸気タービン3から排出される蒸気ブタン16(2℃)は液体ブタン熱交換器8に送られる。液体ブタン熱交換器8で、蒸気ブタン16は冷凍機9で冷却された冷媒18(−12℃)と熱交換して−10℃の液体ブタン19となる。
【0026】
液体ブタン熱交換器8から排出された液体ブタン19(−10℃)は、凝縮水−液体ブタン熱交換器11に送られ、凝縮水14との熱交換で液体ブタン21(98℃)として繰り返し利用する。
【0027】
次に、図2に基づいて、本発明の別の態様について説明する。
【0028】
図2は、水蒸気、蒸気ブタンによる汽力発電を行う火力発電システムの概略構成図である。この発電システムは、主要構成部として、ボイラ1、発電水蒸気タービン2、発電ブタン蒸気タービン3、発電機4、5、水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6、蒸気ブタン熱交換器7、液体ブタン熱交換器8、冷凍機9、液体ブタンポンプ10、凝縮水−液体ブタン熱交換器11、給水ポンプ23を備える。
【0029】
前記蒸気ブタン熱交換器7を備えることによって、より効率よく熱交換することが可能となる。
【0030】
発電水蒸気タービン2から排出される水蒸気13(約105℃)は水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6に送られる。水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6では、水蒸気13を液体ブタン21(98℃)の蒸発に利用して飽和蒸気ブタン15(98℃)を発生させ、水蒸気13は液体ブタンの蒸発により冷却されて液体の凝縮水14(100℃)に変換される。水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6にて液体の水に変換された凝縮水14は、凝縮水−液体ブタン熱交換器11で蒸気ブタン熱交換器7からの液体ブタン20(0℃)と熱交換してボイラ給水22(2℃)となり、ボイラ排ガスを利用して加熱され、再びボイラ1に送られる。
【0031】
凝縮水−液体ブタン熱交換器11で液体ブタン20(0℃)が予熱されて液体ブタン21(98℃)になり、水蒸気−液体ブタン熱交換器6に入って飽和蒸気ブタン15(98℃)となる。その飽和蒸気ブタン15は、発電ブタン蒸気タービン3に送られる。発電ブタン蒸気タービン3は、飽和蒸気ブタン15の熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、発電機5を回転駆動して電力を出力する。
【0032】
水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6で生成する飽和蒸気ブタン15が発電ブタン蒸気タービン3の運転上で支障があるようであれば、高圧水蒸気12と飽和蒸気ブタン15との熱交換器を設置して、過熱蒸気ブタンにすれば運転支障は解消できる。そのプロセス変更は系内のエンタルピー授受であるから、総発電量の変化は殆どない。
【0033】
発電ブタン蒸気タービン3から排出される蒸気ブタン16(2℃)は蒸気ブタン熱交換器7に送られる。蒸気ブタン熱交換器7で、蒸気ブタン16は予め冷凍機で冷却された液体ブタン19(−10℃)と熱交換して冷却された蒸気ブタン17(0℃)となる。この冷却された蒸気ブタン17は、液体ブタン熱交換器8に送られて冷凍機9で冷却された冷媒18(−12℃)と熱交換して−10℃の液体ブタン19となり、上記の蒸気ブタン熱交換器7へ戻されて、蒸気ブタン16の冷媒として利用する。
【0034】
蒸気ブタン熱交換器7から排出された液体ブタン20(0℃)は、凝縮水−液体ブタン熱交換器11に送られ、凝縮水14との熱交換で液体ブタン21(98℃)として繰り返し利用する。
【0035】
なお、本発明においては、水蒸気の発生方法は特に限定されるものではないが、、化石燃料の燃焼に伴う熱を利用するもの、又は、核燃料の核分裂に伴う熱を利用するものであることが好ましい。
【0036】
<作用>
本発明は上記のようにシステム構成されるが、下記に発電プロセスを例示し、その効果作用を説明する。
【0037】
まず、発電の規模については9.0×10kWとし、水蒸気タービンは表1に示す仕様とする(火力発電、電気学会大学講座(1966))。
【0038】
【表1】

【0039】
次に、図2に基づいて、プロセス詳細について述べる。
【0040】
<タービンに送入すべき水蒸気量の算出>
発電量9.0×10kWの電気エネルギーに相当する熱エネルギーは、9.0×10×860.5=7.75×10kcal/hとなり、この電気エネルギーを得るためのタービンに送入すべき水蒸気量は、タービンおよび発電機の総合有効効率を76%とすると、7.75×10kcal/[(820.9−641.4)×0.76]=5.68×10kg/hとなる。
【0041】
<給水ポンプ動力>
火力発電プロセスを構成するための補助機器として、ボイラ給水22をボイラ1に送入する給水ポンプ23が必要である。このポンプの消費電力量と9×10kWの発電量を確保するために、発電水蒸気タービン2に供給すべき水蒸気量をx[kg/h]とすれば、ポンプ所要動力Wp[kW]は次式となる。
Wp=VΔP/(η×3.67×10)…(1)
ここで、送液流量V[m/h]、凝縮水とボイラ水蒸気との圧力差ΔP[kgf/m]、単位換算係数;3.67×10kgf・m/kWhである。また、ポンプ効率η[−]は78%である(火力発電、電気学会大学講座(1966))。
【0042】
上記(1)式に本例の各数値を代入すると、Wp[kW]が求められる。
Wp=x×10−3×(170−1)×10/(0.78×3.67×10
=5.90×10−3
【0043】
一方、xkg/hの高圧水蒸気12による発電量は、前記計算より、9.0×10×(x/5.68×10)=0.158xkWとなる。したがって、発電水蒸気タービン2に送入すべき水蒸気量xは(2)式で求められる。
0.158x−5.90×10−3x=9.0×10…(2)
【0044】
この式より、発電水蒸気タービン2への高圧水蒸気12の送入量xは5.92×10kg/hとなる。
【0045】
<液体ブタンによる排水蒸気の復水器>
従来の火力発電は、水蒸気のエンタルピー差を電力に変換し、100℃近くで水蒸気が凝結する前に、タービンから抜き出して復水器で凝縮させている。すなわち820.9−641.4=179.5kcal/kgを発電に利用し、538.8kcal/kgの凝縮潜熱を環境に放出している。この潜熱を液体ブタンの蒸発に利用して98℃、14.6kgf/cmの飽和蒸気ブタン15を発生させ、この飽和蒸気ブタン15で低圧タービン5による発電を行い、タービンからの蒸気ブタン16は冷凍機9により−10℃程度に冷却して液化して循環させることによりサイクルを構成するプロセスである。
【0046】
排水蒸気が凝縮により液体ブタンに与えるエンタルピーは、5.92×10×538.8=3.19×10kcal/hとなる。冷凍機で冷却された−10℃程度の液体ブタン19は、蒸気ブタン熱交換器7において2℃程度でブタンタービンから排出させる蒸気ブタン16と熱交換して、0℃程度の液体ブタン20となる。この液体ブタンを98℃に予熱するためには、その比熱が0.549kcal/kg・Kであるから、(98−0)×0.549=53.8kcal/kgの熱量が必要である。水蒸気タービン出口では水蒸気温度105℃、圧力1.0kgf/cmであるから、過熱水蒸気である。これを水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)6において98℃の液体ブタンと熱交換すれば凝縮水14(100℃)、蒸気ブタン15(98℃)となる。
【0047】
凝縮水−液体ブタン熱交換器11では、凝縮水は100℃から2℃までの顕熱(98kcal/kg)が液体ブタン20の予熱に利用でき、水蒸気タービン排水蒸気1kgで蒸発する蒸気ブタンx(kg)は下記の熱収支(3)式から4.50kgとなる。したがって、水蒸気−液体ブタン熱交換器6で発生する98℃の蒸気ブタン15の重量は、5.92×10×4.50=2.66×10kg/hとなる。
x =(水の凝縮潜熱+100〜2℃の凝縮水顕熱)/(ブタン蒸発潜熱+0〜98℃のブタン顕熱)
=(538.8+98)/(87.75+53.8) …(3)
ここでブタンの蒸発潜熱は87.75kcal/kgである。
【0048】
<ブタン蒸気タービン>
蒸気ブタンの定圧比熱Cp(kcal/kg・K)は下記の(4)式で表わされる(出展;化学工学便覧)。
Cp=0.0766+1.243×10−3T−0.382×10−6 …(4)
【0049】
この式から98℃の蒸気ブタン15のエンタルピーh98(kcal/kg)を求めると、下記の値となる。

98=∫0371CpdT=0.0766×371+1.243×10−3×(1/2)
×371−0.382×10−6×(1/3)×371
=107.5
【0050】
また、ブタンの沸点は−0.5℃であるから、低圧タービンから蒸気ブタンは2℃程度で抜き取る必要があると考えると、2℃の蒸気ブタン16のエンタルピーh(kcal/kg)は下記の値となる。
=∫0275CpdT=0.0766×275+1.243×10−3×(1/2)
×275−0.382×10−6×(1/3)×275
=65.4
【0051】
ブタンタービン発電機の総合有効効率を76%とすれば、飽和蒸気ブタン15のタービンへの流入量2.66×10kg/hであるから、その発電量(kW)は下記の値となる。
2.66×10×(107.5−65.4)×0.76/860.5
=9.89×10
【0052】
以上の計算より、ブタンタービンは水蒸気タービンの9.89×10/(9.0×10)×100=110%の発電を行うことになる。
【0053】
<ブタン蒸気圧>
Antoine式によるブタンの蒸気圧P(kPa)は下記の(5)式で表される。
logP=5.93386−935.86/(238.73+θ)…(5)
ここでθはブタン温度(℃)である。
【0054】
上記の式より、ブタンタービン入口における98℃の飽和蒸気圧logP98は3.155となり、P98 は 1.43×10kPa(14.6kgf/cm)となる。また、ブタンタービン出口の2℃における蒸気圧logPは2,046、Pは111kPa(1.13kgf/cm)となる。したがって、ブタンタービンは、14.6kg/cmから1.13kgf/cmへ圧力降下および98℃から2℃へ温度降下することによって駆動する。
【0055】
<蒸気ブタン凝縮機>
上記で示したように、蒸気ブタン16は2℃でタービンから排出し、−10℃まで冷凍機9で冷却される間に凝縮して−10℃の液体ブタン19となって循環利用される。冷却熱量計算は、2〜−4℃の間ではブタンは気体状で冷却され、−4℃で全凝縮して−4〜−10℃の間は液体ブタンとして冷却されるとして冷熱計算を行う。ブタン冷却の各過程での計算結果を下記表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
<冷凍機>
飽和蒸気ブタン15の重量は2.66×10kg/hであるから、所要冷熱量(冷凍機負荷)は、93.36×2.66×10=2.48×10kcal/h(2.88×10kW)となる。ここで、−10℃の液体ブタン19は、蒸気ブタン熱交換器7において2℃でブタンタービンから排出する蒸気ブタン16と0℃まで熱交換することにより冷熱源となる。その冷熱量は2.66×10×10×0.549=1.46×10kcal/hである。したがって、冷凍機負荷は2.48×10−1.46×10=2.33×10kcal/h(2.71×10kW)となる。
【0058】
<液体ブタンポンプ>
液体ブタン19は、蒸気ブタン熱交換器7および凝縮水−液体ブタン熱交換器11で予熱された後、水蒸気−液体ブタン熱交換器6で加熱されて、98℃、14.6kgf/cmの蒸気ブタン15となる。そのため、熱交換器6、7、11での圧力損失を考慮すれば、液体ブタンポンプ10の吐出圧力Pは16kgf/cm程度は必要と考えられ、その場合のポンプの所要動力Wp(kW)は(1)式より下記の値となる。−10℃におけるブタン蒸気圧は(5)式より69.5kPa(0.71kgf/cm)である。
Wp=(2.66×10/0.598)×10−3×(16−0.71)×10
/(0.78×3.67×10
=2.38×10
ここで、送液流量V;2.66×10kg/h、液体ブタン比重d;0.598、ポンプ効率;78%、単位換算係数;3.67×10kgf・m/kWhである。
で求められる。
【0059】
液体ブタンポンプ所要動力に加えて、冷凍機のエネルギー消費効率COPが6の産業用冷凍機、および11の最近開発された冷凍機を組み込んだ場合の所要電力、ブタンタービンの正味の発電増加量および水蒸気タービンの発電量に対する発電増加率を計算した結果を表3に示すように発電量は大幅に増加する。
【0060】
【表3】

【0061】
以上のように従来の蒸気タービンによる汽力発電を用いた火力発電所、原子力発電所において、蒸気タービンの後段にブタンタービンとCOP6、11の冷凍機を付設することで、蒸気タービン単独に比べて155および177%の発電を行うことが可能となる。なお、本発明に用いることのできるブタン(沸点−0.5℃)以外の低沸点有機溶媒としては、媒体タービンの発電量増加と冷凍機負荷の軽減の観点から、蒸発潜熱が小さく、98〜−30℃の間のエンタルピー差が大きい有機媒体が好ましく、より好ましくはイソブチレン(−6.9℃)、イソブタン(−12℃)、塩化ビニル(−13℃)などの沸点0〜−15℃の有機媒体である。
【符号の説明】
【0062】
1 ボイラ
2 発電水蒸気タービン
3 発電ブタン蒸気タービン
4 発電機
5 発電機
6 水蒸気−液体ブタン熱交換器(復水器)
7 蒸気ブタン熱交換器
8 液体ブタン熱交換器
9 冷凍機
10 液体ブタンポンプ
11 凝縮水−液体ブタン熱交換器
12 高圧水蒸気(550℃)
13 水蒸気(105℃)
14 凝縮水(100℃)
15 飽和蒸気ブタン(98℃)
16 蒸気ブタン(2℃)
17 蒸気ブタン(0℃)
18 冷媒(−12℃)
19 液体ブタン(−10℃)
20 液体ブタン(0℃)
21 液体ブタン(98℃)
22 ボイラ給水
23 給水ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱を利用して給水を加熱して水蒸気を発生させるボイラと、前記ボイラからの水蒸気の熱エネルギーによって回転作動する高圧水蒸気タービンおよび該高圧水蒸気タービンによって駆動する発電機と、前記高圧水蒸気タービンから排出された水蒸気の熱エネルギーによって、沸点が0〜−30℃である液体有機媒体を蒸気に変換させ、かつ前記水蒸気を復水させる水蒸気−液体有機媒体熱交換器(復水器)と、前記水蒸気−液体有機媒体熱交換器(復水器)から発生した蒸気有機媒体の熱エネルギーによって回転作動する低圧タービンおよび該低圧タービンによって駆動する発電機と、前記低圧タービンから排出された蒸気有機媒体を冷却、液化させる液体有機媒体熱交換器およびその冷却機能を持つ冷凍機と、前記液体有機媒体熱交換器から排出された液体有機媒体を、前記水蒸気−液体有機媒体熱交換器(復水器)から排出された高温凝縮水によって予熱させる凝縮水−液体有機媒体熱交換器を備えることを特徴とする発電システム。
【請求項2】
前記低圧タービンから排出された蒸気有機媒体を、前記液体有機媒体熱交換器から排出された液体有機媒体によって冷却する蒸気有機媒体熱交換器を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の発電システム。
【請求項3】
前記有機媒体がブタンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の発電システム。
【請求項4】
水蒸気の発生が化石燃料の燃焼に伴う熱を利用するものである請求項1〜3のいずれかに記載の発電システム。
【請求項5】
水蒸気の発生が核燃料の核分裂に伴う熱を利用するものである請求項1〜3のいずれかに記載の発電システム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−11272(P2013−11272A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−127585(P2012−127585)
【出願日】平成24年6月4日(2012.6.4)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【出願人】(391051393)富士化水工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】