説明

発電機ロータの回転停止位置自動決定装置

【課題】発電機ロータの周方向停止位置を自動的にかつ的確に位置決めできる発電機ロータの回転停止位置自動決定装置を提供する。
【解決手段】タービン発電機ロータ上に設けられその回転方向の位置を示すマークの位置を検出するセンサと、ロータを回転させるターニング装置への電力の供給と遮断とを行う遮断器と、マークの検出信号に基づいてターニング装置への電力を遮断しロータに設けられた指定点を目標停止位置に停止させるロータ停止位置制御装置と、予め設定された定格角速度と定格角速度で回転するロータのターニング装置への電力遮断後の慣性回転による停止までの時間との関係に基づいて定格角速度で回転するロータのマーク検出時点からのターニング装置への電力の遮断時期までのディレイ時間を求め、定格角速度で回転するロータの前記マークを検出した瞬間から時間計測を開始し、計測時間がディレイ時間経過後にターニング装置への電力を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力又は原子力発電所のタービン発電機の保守点検時に、発電機ロータの周方向停止位置を自動的にかつ的確に位置決めできる発電機ロータの回転停止位置自動決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所、原子力発電所の発電機の発電機ロータは、その自重による曲がりを防止するためにN極又はS極を真上として特定の周方向位置で停止させ、駆動モータとギア装置などからなるターニング装置を用いて一定時間ごとに発電機ロータを低速(約2ないし10回転/分)で回転させて、上下反転させることが必要とされている。さらに、保守点検時には、発電機ロータに直結されているタービンロータのバランス調整作業も行われ、タービンロータのバランス調整用の錘の取付位置(バランスホールの位置)が取付作業位置(バランシング作業ポート位置)に一致するようにタービンロータを停止させる必要がある。
【0003】
従来このようなターニング装置を用いて一定時間ごとに発電機ロータを低速で回転させ、上下反転させる方法として、発電機ロータをターニング装置により低速回転させ、一作業員が発電機ロータの回転移動量を目視で検知し、他の作業員にターニングモータ停止の合図を送ってターニング装置のモータ駆動電源を遮断していた。
【0004】
また、ターニングモータ駆動電源をON/OFFさせて発電機ロータを少しずつ動かす所謂インチング操作により、ロータを所定の位置で停止させる手法も併用されていた。この場合も、前述と同様に、一作業員が発電機ロータの回転移動量を目視で検知し、他の作業員にターニングモータ停止の合図を送ってターニングモータ駆動電源を操作していた。
【0005】
保守点検時には、発電機ロータに直結されているタービンロータのバランス調整作業も行われる。この作業では、タービンロータのバランス調整用の錘の取付位置(バランスホールの位置)が取付作業位置(バランスポート位置)に一致するようにタービンロータを停止させる必要がある。この場合も、前述と同様に、一作業員がロータの回転移動量を目視で検知し、他の作業員にターニングモータ停止の合図を送ってターニングモータ駆動電源を操作していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ターニングモータ駆動電源を遮断しても発電機ロータが直ちに停止するわけではなく、発電機ロータの回転の慣性と発電機ロータ軸受の摩擦抵抗で決まる完全停止までの時間遅れがある。慣性による発電機ロータの回転角度は潤滑油の温度によっても変化するので、同じ操作を行っても発電機ロータが同じ停止位置になるとはかぎらない。このため、作業員の高度な経験と作業員間の的確な連携が必要なばかりであることは言うまでも無いが、それにもかかわらず、N極又はS極を所定の位置で停止させることが困難であり、何度も位置決めをやり直しせざるを得なかった。
【0007】
本発明の目的は、火力発電所、原子力発電所等の発電機の保守点検時において、発電機ロータの周方向停止位置を自動的にかつ的確に位置決めできる発電機ロータの回転停止位置自動決定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、保守点検時のタービン発電機ロータを回転させるターニング装置と、前記タービン発電機ロータ上に設けられその回転方向の位置を示すマークの位置を検出する位置検出センサと、前記ターニング装置への電力の供給と遮断とを行う遮断器と、前記位置検出センサからの前記マークの検出信号に基づいて前記ターニング装置への電力を遮断し前記タービン発電機ロータに設けられた指定点を目標停止位置に停止させるロータ停止位置制御装置とを備え、
前記ロータ停止位置制御装置は、予め設定された定格角速度と該定格角速度で回転する前記タービン発電機ロータの前記ターニング装置への電力遮断後の慣性回転による停止までの時間との関係に基づいて前記定格角速度で回転する前記タービン発電機ロータの前記マーク検出時点からの前記ターニング装置への電力の遮断時期までのディレイ時間を求め、前記定格角速度で回転する前記タービン発電機ロータの前記マークを検出した瞬間から時間計測を開始し、該計測時間が前記ディレイ時間経過後に前記ターニング装置への電力を遮断する調整手段を有することを特徴とする発電機ロータの回転停止位置自動決定装置にある。
【0009】
より具体的には、本発明の発電機ロータの回転停止位置自動決定装置は、火力又は原子力発電所等のタービン発電機において、発電機ロータ上の指定点、マーク、位置検出センサ、発電機ロータ上の指定点の目標停止位置をロータ軸方向に垂直な平面上に投影したとき、発電機ロータ軸中心に対して発電機ロータ上の指定点とマークのなす角が位置検出センサと目標停止位置のなす角に等しくなるように配置し、予め、定格隔速度で回転する発電機ロータの慣性回転時間を実測し、この実測データを基に位置検出センサがマークを検知してからターニングモータへの電力を遮断する時間を制御することにより、ターニング装置による駆動回転角度とターニングモータへの電力遮断後の慣性回転による発電機ロータの回転時間又は回転角度を調整して、発電機ロータの指定点を目標停止位置に停止させることを特徴とする。
【0010】
即ち、定格角速度で回転する前記タービン発電機ロータの前記マーク検出後の前記ターニング装置への電力の遮断時期が、前記定格角速度で回転する前記タービン発電機ロータの前記ターニング装置への電力遮断後の慣性回転による停止までの時間又は回転角度に一致し、発電機ロータの指定点を目標停止位置に自動的に停止させることができる。
【0011】
即ち、ロータ停止位置制御装置は位置検出センサからのマークの検出信号に基づいてターニングモータへの電力遮断時期を調整することにより、ターニングモータへの電力遮断後の慣性回転によるロータの回転角度を制御し、発電機ロータ上の指定点を目標停止位置に停止させるので、発電機ロータ上の指定点を目標停止位置に短時間で、自動的に、かつ、正確に停止させることが出来る。
【0012】
又、発電機ロータ上の指定点が目標停止位置の少し手前の位置で慣性回転中の発電機ロータが停止した時に、発電機ロータ上の指定点が丁度前記目標停止位置に到達するまで、遮断後の慣性による発電機ロータの回転移動が無視できるほど充分短い通電時間でターニングモータをON/OFF駆動させて、発電機ロータを回転移動させることにより発電機ロータの指定点を前記目標停止位置に停止させるので、ターニングモータへの電力供給時間を増加又は/及び減少させることのみで発電機ロータ上の指定点を目標停止位置に停止させるよりは操作回数が少なくてすむ。したがって、より短時間で、発電機ロータ上の指定点を目標停止位置に自動的に、かつ、正確に停止させることが出来る。
【0013】
更に、好ましくは互いに対向位置に配置された発電機ロータ上の2点の指定点及び互いに対向位置に配置された2台の位置検出センサを備え、発電機ロータ上の指定点の一方の指定点を目標停止位置に停止させるときは一方の位置検出センサを用いて操作し、他の指定点を目標停止位置に停止させるときは他の位置検出センサを用いて操作するので、N極、S極の位置を上下反転させる操作が容易となる。
【0014】
又、複数の指定点のそれぞれに対応した目標停止位置があって、各々の指定点に対してマークと位置検出センサが設けられ、複数のマークが発電機ロータの露出部の発電機ロータ軸方向に異なる複数の円周上に設けられており、各々のマークに対応した位置検出センサが発電機ロータ軸方向に設置されているので、希望する発電機ロータ上の指定点と希望する目標停止位置のみを入力すれば自動的に発電機ロータ上の指定点を目標停止位置に停止させることが出来る。したがって、装置の操作は簡単になり、操作ミスは低減できる。しかも、発電機ロータ上の指定点を目標停止位置に短時間で、自動的に、正確に停止させることが出来る。
【0015】
マークは光反射体が好ましく、位置検出センサを光検出センサとすることにより、応答速度は速く、信頼性及び経済性の点からも優れている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、火力発電所、原子力発電所等の発電機の保守点検時において、発電機ロータの周方向停止位置を自動的にかつ的確に位置決めできる発電機ロータの回転停止位置自動決定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施する最良の形態を具体的な実施例によって説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明に係るタービン発電機ロータの回転停止位置決定装置を備えた発電機設備全体構成図である。図1に示すように、発電機ロータ1はローラ16上に回転可能に載置され、指定点3a、3bが2点あり、例えば、2極モータのN極とS極で、これらの指定点3a、3bは互いに対向した位置にある。すなわち、或る場合には、N極(指定点3a)を発電機ステータの真上の目標停止位置13に停止させ、また或る場合には、S極(指定点3b)をこの目標停止位置13に停止させることになる。また、図1の例では、発電機ロータ1の回転方向位置を示すマーク12としてタービン発電機ロータ1の露出部の円周上に取り付けられた光反射体を用い、光反射体を検出し、発電機ロータ1上の指定点3a、3bの位置を検出する位置検出センサ11a、11bとして光センサを用いている。
【0019】
先ず、指定点3aを発電機ステータの真上の目標停止位置13に停止させる場合を例にとり説明する。この場合、位置検出センサ11aを用いる。本実施例の発電機ロータ1の回転停止位置自動決定装置は発電機ロータ1をロータギア21を介してロータ回転方向18に回転させるターニング装置4、ターニング装置4を制御するロータ停止位置制御装置10、タービン発電機の露出部に設置され、発電機ロータ1の回転方向位置を示す光反射体からなる発電機ロータ1上のマーク12、マーク12を検出し発電機ロータ1上の指定点3aの位置を検出する位置検出センサ11a、この位置検出センサ11aに対向して設置された他の位置検出センサ11b、発電機ロータ1の回転・停止を検出するための回転計15、ターニング装置4の駆動源20であるターニングモータ5への電力をON−OFFするための遮断器14などから構成されている。発電機ロータ1にはフランジ17を介してタービンロータ2が接続される。
【0020】
図2は、発電機ロータ上の指定点、マーク、位置検出センサ及び目標停止位置の位置関係を示す図である。先ず、発電機ロータ1上の指定点3a、マーク12、位置検出センサ11a、目標停止位置13の間の位置関係は、発電機ロータ上の指定点3aが目標停止位置13に停止したとき、位置検出センサ11aによりマーク12が検出されるように配置される。言い換えると、発電機ロータ上の指定点3a、マーク12、位置検出センサ11a、目標停止位置13をロータ軸方向に垂直な平面上に投影したとき、発電機ロータ1の軸中心に対して発電機ロータ上の指定点3aとマーク12のなす角θaが位置検出センサ11aと目標停止位置13のなす角φaに等しくなるように発電機ロータ上の指定点3a、マーク12、位置検出センサ11a、目標停止位置13を配置する。ここで、他の位置検出センサ11bは、発電機ロータ上の指定点3bを目標停止位置13に停止させるときに使われる。
【0021】
又、発電機ロータ上の指定点3bを目標停止位置13に停止させる場合は、位置検出センサ11bが使われる。さらに、指定点3bは指定点3aの対向位置にあり、かつ、位置検出センサ11bは位置検出センサ11aの対向位置にあるため、図2に示したように、発電機ロータ1の軸中心に対して発電機ロータ上の指定点3bとマーク12のなす角θbが位置検出センサ11bと目標停止位置13のなす角φbに等しくなる。
【0022】
ターニング装置4はターニングモータ5、複数のターニングギア6、ギア噛合操作機構7、発電機ロータ1のロータギア21への接続と引き離しを矢印の方向に行う可動可能なターニング装置側噛合ギア8などから構成されている。保守点検時に発電機ロータ1を回転させる場合には、ターニング装置4をタービンの軸受箱に設置し、ギア噛合操作機構7を操作することにより、ターニング装置側噛合ギア8をロータ側噛合ギア9に噛合せる。ターニングモータ5を駆動することにより発電機ロータ1を回転し、一定の回転速度に到達する。この状態で、ターニングモータ5への電力を遮断すると、ギア噛合操作機構7が作動してターニング装置側噛合ギア8とロータ側噛合ギア9の噛合が自動的に解除される。この解除によって発電機ロータ1は自由慣性回転状態に入り、発電機ロータ1の回転速度は軸受の摩擦抵抗により徐々に遅くなり、やがて停止する。ギア噛合操作機構7は油圧シリンダー22の駆動によってターニング装置側噛合ギア8の噛合が行われ、バネ装置23によって噛合における衝撃が緩和される。
【0023】
図3はターニング開始から停止するまでの発電機ロータの回転速度の時間変化を示す図である。次に、発電機ロータ1のターニング開始から停止までの過程の概要を説明する。図3に示すように、ギアの噛合せ後、時刻τ0でターニングモータ5への電力が供給されると、ターニングモータ5は1500rpmで回転し、ターニンギア6を介して徐々に加速され時刻τ1でロータ回転速度は定格の一定値(ターニング定格速度2rpm)に到達する。発電機ロータ1の定格回転中の時刻τ2で、位置検出センサ11a(または11b)が発電機ロータ1上の光反射体からなるマーク12を検知すると、ロータ停止位置制御装置10は時間計測を開始する。指定された時間(ディレイ時間)td経過後の時刻τ3で、ターニングモータ5への電力が遮断され、同時にギアの噛合せは解除される。この時点で、発電機ロータ1は慣性回転状態となり、発電機ロータ1はロータ軸受の摩擦抵抗により、図3の実際のコーストダウン曲線に沿って徐々に減速され、時刻τ4で停止する。
【0024】
本実施例では、ディレイ時間tdを調整することにより発電機ロータ1上の指定点3a(又は、指定点3b)を目標停止位置13に停止させる。位置検出センサ11a(または11b)が発電機ロータ1上のマーク12を検知してから駆動電源を切断するまでのディレイ時間tdの時間内に発電機ロータ1が1周以上(360度以上)回転させても無意味であるから、ディレイ時間tdは下記の条件を満たすように決めなければならない。
td(sec)<60/n0(rpm)=360/ω0(度/sec) …(1)
ここで、td:ディレイ時間(sec)、n0:ターニング定格回転数(rpm)
ω0:ターニング定格角速度(度/sec)
例えば、ターニング定格回転数n0が2rpm、すなわち、ターニング定格角速度ω0が12度/secのとき、ディレイ時間tdは30秒以下でなければならない。ディレイ時間td内に発電機ロータが回転する角度は次式で求められる。
Δψd=ω0×td …(2)
ここで、Δψd:ディレイ時間内にロータが回転する角度(度)
また、時刻τ3から時刻τ4で停止するまでの発電機ロータの慣性回転状態では、発電機ロータは発電機ロータ軸受の摩擦抵抗により徐々に減速される。この時間内での発電機ロータの回転速度変化は等減速と近似できるので、図3のコーストダウン近似直線で示したように、次式により求められる。
ω=dψ/dt≒ω0[1-(t/te)] …(3)
ここで、ω:ロータの角速度 (度/sec)、ψ:ロータの回転角(度)、t:時間(sec)
te:発電機ロータの回転慣性時間(sec)
発電機ロータの回転慣性時間teは予め実測することができる。(3)式を時刻τ3から時刻τ4まで積分すると、発電機ロータが停止するまでの慣性回転角度は、次式で近似できる。
Δψe≒1/2×ω0×te …(4)
ここで、Δψe:発電機ロータの慣性回転角度(度)
したがって、位置検出センサ11aが発電機ロータ1上の光反射体からなるマーク12を検知して(時刻τ2)から、発電機ロータが停止する(時刻τ4)までの発電機ロータの回転角度は、次の近似式(5)により求まる。
Δψ=Δψd+Δψe≒ω0×[td+te/2] …(5)
図2に示したように、マーク12が丁度位置検出センサ11aの位置に一致するように、発電機ロータが停止すれば、角θaは角φaに等しいから、発電機ロータ上の指定点3aが目標停止位置13に停止していることになる。したがって、発電機ロータ上の指定点3aが目標停止位置13に停止させるためには、次式(6)から式(7)を満足するディレイ時間tdを求めればよい。
Δψ=360×N≒ω0×[td+te/2] …(6)
ここで、N:正の整数
すなわち、
td≒[360×N/ω0]-[te/2]=[60×N/n0(rpm)]-[te/2] …(7)
しかし、この値は上記のように近似式から求めたもので、次に述べる、ロータ回転停止位置自動決定処理の初期値として使われる。
【0025】
以上のように、ロータ停止位置制御装置10は、予め設定された定格角速度とその定格角速度で回転するタービン発電機ロータ1のターニング装置4への電力遮断後の慣性回転による停止までの時間との関係に基づいて定格角速度で回転するタービン発電機ロータ1のマーク12の検出時点からのターニング装置4への電力の遮断時期までのディレイ時間tdを求め、定格角速度で回転するタービン発電機ロータ1のマーク12を検出した瞬間から時間計測を開始し、その計測時間がディレイ時間td経過後にターニング装置4への電力を遮断する調整手段を有するものである。そして、ターニングモータ5への電力が遮断されると、ギア噛合操作機構7が作動してターニング装置側噛合ギア8とロータ側噛合ギア9の噛合が自動的に解除され、発電機ロータ1は自由慣性回転状態に入る。
【0026】
図4は発電機ロータの回転停止位置自動決定の制御ロジックを示すフローチャートである。図4を用いてロータ停止位置制御装置10が行うロータ回転停止位置自動決定の制御ロジックを以下説明する。この処理はマイクロコンピュータを用いてソフト的に実行可能である。図4に示すように、発電機ロータ1の回転停止位置自動決定の制御ロジックは、最初に、ステップS1でターニングモータ5を駆動し、発電機ロータ1の回転が一定速度に到達したときのターニング定格角速度ω0(または、ターニング定格回転数n0)を実測する。さらに、ターニングモータ5への電力を遮断して、発電機ロータ1の回転慣性時間teを実測する。その後、ターニング条件の入力や、必要な演算をする。すなわち、発電機ロータ1上の指定点3、この場合、N極かS極、この指定点3の目標停止位置13、例えば、真上の位置、ターニングモータ5を駆動し、位置検出センサ(光センサ)11aが発電機ロータ1上の光反射体からなるマーク12を検知してから駆動電源を切断するまでのディレイ時間tdの初期値td0の式(6)を用いて計算や、この初期値td0が式(1)を満足しているか否かなどのチェックを行う。以下、N極(発電機ロータ1上の指定点3a)を真上(目標停止位置13)に停止させる場合を例に説明する。
【0027】
ステップS2では、ロータ停止位置制御装置10からターニング装置に信号が送られ、ギア噛合操作機構7を操作することにより、ターニング装置側噛合ギア8をロータ側噛合ギア9に噛合せる。さらに、遮断器14に信号を送り、ターニングモータ5が駆動され、ロータを回転する。
【0028】
ステップS3では、発電機ロータ1の回転速度がターニング定格回転数に到達したか否かを判定する。ターニング定格回転数に到達していなければ、到達するまでこの判定は繰り返される。ロータの回転速度がターニング定格回転数に到達していれば、処理はステップS4へ進む。
【0029】
ステップS4では、位置検出センサ11aがマーク12を検知したか否かを判定する。位置検出センサ11aがマーク12を検知していなければ、検知するまでこの判定は繰り返される。位置検出センサ11aがマーク12を検知すれば、処理はステップS5へ進む。
【0030】
ステップS5では、位置検出センサ11aがマーク12を検知してからの時間の計測を行う。
【0031】
ステップS6では、計測された時間tがステップS1でセットされたディレイ時間tdに達したか否かを判定する。計測された時間tがディレイ時間tdに達していなければ、ディレイ時間tdに達するまで、この判定処理は繰り返される。計測された時間tがディレイ時間tdに達すれば、処理はステップS7へ進み、ターニングモータ5への電力供給は遮断され、同時に、ターニング装置4のギア噛合せは解除される。これにより、発電機ロータ1は慣性回転状態に入る。
【0032】
ステップS8では、計測された時間tがステップS1でセットされたロータ停止時間{td+te}よりもΔt1だけ前の時刻{td+te-Δt1}に達したか否かを判定する。時間Δt1については後で述べる。計測された時間tが{td+te-Δt1}に達していなければ、{td+te-Δt1}に達するまで、この判定処理は繰り返される。計測された時間tが{td+te-Δt1}に達すれば、処理はステップS9へ進み、位置検出センサ11aはマーク12の通過を継続的に監視(モニタリング)する。
【0033】
ここで、上述の時間Δt1について説明する。ステップS4で位置検出センサ11aがマーク12を検知してから発電機ロータ1が停止するまで、すなわち、{td+te}時間内に発電機ロータ1が2回転またはそれ以上回転する場合は、マーク12が最終的に位置検出センサ11aの近傍に停止する以前に何回か位置検出センサ11aの前面を通過することになる。発電機ロータ1が停止する直前のΔt1時間内に位置検出センサ11aによるマーク12検知の有無が判れば、マーク12が位置検出センサ11aの手前で停止したか、あるいは、通過して少しずれた位置に停止したかを判定できる。ロータ停止前のΔt1時間の間に、すなわち、時刻τ4-Δt1から時刻τ4の間に、発電機ロータ1が回転する角度Δψ1は式(3)から以下の(式8)のように表される。

ここで、Δt1は正の数であることを考慮して、(式8)式を書き換えると(式9)のようになる。

発電機ロータ1のコーストダウンを直線で近似したとき、停止寸前の回転角度の誤差は数度程度と考えられるので、停止前のΔt1時間の間に発電機ロータ1が回転する角度Δψ1は数度程度と考えられる。例えば、Δψ1が5度とし、ターニング定格回転数n0が2rpm、すなわち、ターニング定格角速度ω0が12度/sec、発電機ロータ1の回転慣性時間teが50秒とすると、式(9)からΔt1は約6秒となる。teが400秒とし、あとの条件は同じとすると、Δt1は約18秒となる。
【0034】
ステップS9では、時刻{td+te-Δt1}以降において、位置検出センサ11aがマーク12を検知したか否かを判定する。位置検出センサ11aがマーク12を検知していれば、ステップS10へ進み、発電機ロータ1が停止したか否かを判定する。発電機ロータ1が停止していれば、ただちにステップS11へ進む。発電機ロータ1が停止していなければ、発電機ロータ1が停止するまでこの判定は繰り返され、マーク12の通過が継続的に監視(モニタリング)される。発電機ロータ1が停止すれば、ステップS11へ進み、位置検出センサ11aがマーク12を検知しているか否かを判定する。位置検出センサ11aがマーク12を検知していれば、発電機ロータ1上の指定点3aが目標停止位置13で停止していることを意味するので、発電機ロータ1の回転停止位置自動決定処理は終了する。
【0035】
ステップS11で、位置検出センサ11aがマーク12を検知していなければ、発電機ロータ1上の指定点3aが目標停止位置13を通過してしまって停止したことを意味するので、ステップS12へ進み、ディレイ時間tdをΔt2だけ小さいtd= td-Δt2とし、ステップS2へ戻って、ステップS2以降の処理を繰り返す。
【0036】
ここで、上記のディレイ時間の変更量Δtdの大きさをどのように決めるかを説明する。時刻{td+te-Δt1}から時刻{td+te}の時間内に、ステップS9で位置検出センサ11aがマーク12を検知し、かつ、時刻{td+te}に、すなわち、発電機ロータ1の停止状態で位置検出センサ11aがマーク12を検知していない場合であるから、発電機ロータ1停止前のΔt1時間内に発電機ロータ1が回転した角度Δψ1に相当する角度をターニング定格回転中に減少させればよいことが判る。したがって、(式9)から、

すなわち、この(式10)を整理した(式11)からΔtdが求まる。

例えば、Δψ1が5度とし、ターニング定格角速度ω0が12度/secとすると、(式11)からΔt2は約0.4秒となる。
【0037】
前に戻って、ステップS9で位置検出センサ11aがマーク12を検知していなければ、ステップS13へ進み、発電機ロータ1が停止したか否かを判定する。発電機ロータ1が停止していれば、ただちにステップS14へ進む。発電機ロータ1が停止していなければ、ステップS9へ戻り、位置検出センサ11aがマーク12を検知したか否かを判定する。マーク12を検知していなければ、前述と同様の処理が行われる。検知していなければ、発電機ロータ1が停止するまでこの判定は繰り返される。発電機ロータ1が停止すれば、ステップS14へ進み、インチング操作を行う。
【0038】
インチング操作とは、ターニングモータ駆動電源をON/OFFさせて発電機ロータ1を少しずつ動かし、発電機ロータ1を所定の位置で停止させる方法である。図5は本実施例で使われるインチング操作の説明図である。
【0039】
図5の左側に示したように、ターニングモータ5への通電を断続的にON/OFFさせると、ロータは図5の右側に示したように、少しずつ回転移動する。このとき、ターニングモータ5への通電時間tpが充分短ければ、通電OFF後の慣性によるロータの回転移動は無視できるほど小さい。したがって、発電機ロータ上の指定点が目標停止位置の少し手前に来て停止した場合、発電機ロータ発電機上の指定点が丁度目標停止位置に到達するまで、ステップS14とステップS15でインチング操作を繰り返す。
【0040】
以上の操作により、発電機ロータ上の指定点3aを目標停止位置13に停止させることが出来る。以上に述べたステップS9以降の操作をまとめると以下のようになる。
(A)時刻{td+te-Δt1}以降に、マーク12が位置検出センサ11aで検知され、かつ、発電機ロータ1の停止状態でマーク12が位置検出センサ11aで検知される場合、操作終了。
(B)時刻{td+te-Δt1}以降に、マーク12が位置検出センサ11aで検知され、かつ、発電機ロータ1の停止状態でマーク12が位置検出センサ11aで検知されない場合、発電機ロータ1を再起動して、ディレイ時間tdをΔt2だけ小さいtd=td-Δt2とし、ステップS2以降の処理を繰り返す。
(C)時刻{td+te-Δt1}以降に、マーク12が位置検出センサ11aで検知されず、かつ、発電機ロータ1の停止状態でマーク12が位置検出センサ11aで検知されない場合、インチング操作を行う。
【0041】
なお、ケース(C)の場合、発電機ロータ1を再起動して、ディレイ時間tdをΔt2だけ大きいtd=td+Δt2とし、ステップS2以降の処理を繰り返しても、発電機ロータ上の指定点3aを目標停止位置13に停止させることが出来る。また、発電機ロータ上の指定点3b(S極)を目標停止位置13に停止させる場合は、位置検出センサ11bを用いて、ステップS1以降の操作を前記と同様に行えばよい。
【0042】
以上、本実施例によれば、火力発電所、原子力発電所等の発電機の保守点検時において、発電機ロータの周方向停止位置を自動的にかつ的確に位置決めできる発電機ロータの回転停止位置自動決定装置を提供することができる。
【実施例2】
【0043】
図6は本発明に係る複数の指定点を設けた発電機ロータの回転停止位置自動決定装置における他の例を示す斜視図である。本実施例が実施例1と異なる点は、図6に示したように、2つの発電機ロータ上に複数の指定点3a,3bを設け、それに対応して2つのマーク12a,12bが発電機ロータ軸方向に異なる円周上に設けられており、更にそれぞれのマーク12aと12bに対応して2台の位置検出センサ11a、11bがロータ軸方向にずれた位置に設置されていることである。複数の指定点を設けることによって複数の位置に発電機ロータ1を停止させることができ、長時間の発電機ロータの停止状態での変形を緩和することができる。
【0044】
図6では発電機ロータ上の指定点3a,3bに対応して目標停止位置13a,13bは2箇所となっているが、1箇所のみ、すなわち、目標停止位置13aと目標停止位置13bが重なっていても構わない。発電機ロータ上の指定点、目標停止位置、位置検出センサ、光反射体によるマークの位置関係は、発電機ロータ上の指定点3aが目標停止位置13aに停止したとき位置検出センサ11aによりマーク12aが検出されるように配置されている。また、発電機ロータ上の指定点3bが目標停止位置13bに停止したとき位置検出センサ11bによりマーク12bが検出されるように配置されている。
【0045】
本実施例は、基本的に、1つの発電機ロータ上の指定点3に対応して1つのマーク12が発電機ロータ1の軸円周上に設けられており、そのマーク12に対応して位置検出センサ11が設置されており、その発電機ロータ上の指定点3を1つの目標停止位置13に停止させる2組の位置検出センサとマークのセットがロータ軸方向にずれた位置に並列設置されていることと同等である。したがって、このようなセットを2組以上並列に設置することも可能である。
【0046】
本実施例での発電機ロータ1の回転停止位置自動決定の制御ロジックは、図4に示した実施例1のロジックと同じであるので、説明を省略する。
【0047】
本実施例においても、火力発電所、原子力発電所等の発電機の保守点検時において、発電機ロータの周方向停止位置を自動的にかつ的確に位置決めできる発電機ロータの回転停止位置自動決定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る発電機ロータの回転停止位置自動決定装置を備えた発電機設備全体構成図である。
【図2】発電機ロータ上の指定点、マーク、位置検出センサ、目標停止位置の位置関係を説明する図である。
【図3】ターニング開始から停止するまでの発電機ロータの回転速度の時間変化を示す線図である。
【図4】発電機ロータの回転停止位置自動決定の制御ロジックを示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る発電機ロータの回転停止位置自動決定装置におけるインチング操作を説明する図である。
【図6】本発明に係る発電機ロータの回転停止位置自動決定装置における他の例を示す発電機ロータの斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1…発電機ロータ、2…タービンロータ、3,3a,3b…発電機ロータ上の指定点、4…ターニング装置、5…ターニングモータ、6…ターニングギア、7…ギア噛合操作機構、8…ターニング装置側噛合ギア、9…ロータ側噛合ギア、10…ロータ停止位置制御装置、11,11a,11b…位置検出センサ、12,12a,12b…マーク、13…目標停止位置、14…遮断器、15…回転計、16…ローラ、17…フランジ、18…ロータ回転方向、19…ターニング装置側噛合ギアの回転方向、20…モータ電源、21…発電機ロータギア、22…油圧スリンダ、23…コイルバネ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
保守点検時のタービン発電機ロータを回転させるターニング装置と、前記タービン発電機ロータ上に設けられその回転方向の位置を示すマークの位置を検出する位置検出センサと、前記ターニング装置への電力の供給と遮断とを行う遮断器と、前記位置検出センサからの前記マークの検出信号に基づいて前記ターニング装置への電力を遮断し前記タービン発電機ロータに設けられた指定点を目標停止位置に停止させるロータ停止位置制御装置とを備え、
前記ロータ停止位置制御装置は、予め設定された定格角速度と該定格角速度で回転する前記タービン発電機ロータの前記ターニング装置への電力遮断後の慣性回転による停止までの時間との関係に基づいて前記定格角速度で回転する前記タービン発電機ロータの前記マーク検出時点からの前記ターニング装置への電力の遮断時期までのディレイ時間を求め、前記定格角速度で回転する前記タービン発電機ロータの前記マークを検出した瞬間から時間計測を開始し、該計測時間が前記ディレイ時間経過後に前記ターニング装置への電力を遮断する調整手段を有することを特徴とする発電機ロータの回転停止位置自動決定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ディレイ時間td(sec)は、以下の式によって求められることを特徴とする発電機ロータの回転停止位置自動決定装置。
td=[60×N/n0(rpm)]-[te/2]
{N:正の整数、n0:ターニング定格回転数(rpm)、te:発電機ロータの回転慣性時間(sec)}
【請求項3】
請求項1又は2において、前記調整手段は、前記発電機ロータの前記指定点が前記目標停止位置の手前で停止した時、前記ターニングモータへの前記電力の供給と遮断を繰り返して前記指定点を前記目標停止位置に停止させることを特徴とする発電機ロータの回転停止位置自動決定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記調整手段は、前記発電機ロータの前記指定点が前記目標停止位置を越えて停止した時、再度定格角速度で前記タービン発電機ロータを回転させると共に、前記マーク検出後の前記ターニング装置への電力の遮断時期を、前記目標停止位置を越えて停止するまでの時間を差し引いて設定されることを特徴とする発電機ロータの回転停止位置決定装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかにおいて、所定の位置に配置された2つの前記指定点と、該指定点に対向した位置に配置された2台の前記位置検出センサとを有し、前記一方の指定点を前記目標停止位置に停止させるときは一方の前記位置検出センサを用い、他方の前記指定点を前記目標停止位置に停止させるときは他方の前記位置検出センサを用いて操作することを特徴とする発電機ロータの回転停止位置自動決定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−144760(P2006−144760A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339727(P2004−339727)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】