白蟻防除方法
【課題】 環境に対する配慮がなされ、しかも有効性が高く、経済性も高い白蟻防除方法を提供する。
【解決手段】 アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有した混合溶液に水を加えて吹き付け溶液とする。木造建造物における布基礎10の内面全体に、前記吹き付け溶液による吹き付け処理を施して吹き付け溶液の固化膜11を形成する。布基礎10に囲まれた床下の土間またはコンクリート間に白蟻防除装置20を設置する。固化膜11中の植物油が有する嫌蟻作用、並びにアクリル樹脂が有する表面の平滑性及び付着性により、前記布基礎10の内面に蟻道が形成されるのを防止しつつ、布基礎10に囲まれた床下の土間又はコンクリート間に設置された白蟻防除装置20により白蟻を駆除する。
【解決手段】 アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有した混合溶液に水を加えて吹き付け溶液とする。木造建造物における布基礎10の内面全体に、前記吹き付け溶液による吹き付け処理を施して吹き付け溶液の固化膜11を形成する。布基礎10に囲まれた床下の土間またはコンクリート間に白蟻防除装置20を設置する。固化膜11中の植物油が有する嫌蟻作用、並びにアクリル樹脂が有する表面の平滑性及び付着性により、前記布基礎10の内面に蟻道が形成されるのを防止しつつ、布基礎10に囲まれた床下の土間又はコンクリート間に設置された白蟻防除装置20により白蟻を駆除する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既築新築を問わず木造建造物全般に対して有効な白蟻防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既に建築された家屋等の建築物における白蟻の防除対策としては、従来より床下の周囲を布基礎で囲まれた土間、または土間をコンクリートで固めたコンクリート間と称する所に、白蟻駆除用の薬液を噴霧したり、固形薬剤を内蔵した白蟻捕獲器を設置したりすることが行なわれている。すなわち、白蟻は、一般的に、高温多湿で暗黒の条件を好むことから、この条件に適した土中に多くが生存する。そして、土中から家屋床下の土間又はコンクリート間へと侵入し、ここから布基礎(特に四隅のコーナー部)を伝って上方へ這い上がるいわゆる蟻道(ありみち)を形成して、最終的に布基礎上に組まれた土台等の木質建材に被害を及ぼすのである。
【0003】
しかしながら、上記した従来の対策は、いずれも白蟻の駆除を薬剤に頼るものであったため、その薬効が失われると、白蟻被害を全く予防することができなかった。したがって、薬効が失われるまでの短期間に、同様の対策を繰り返し行なう必要があった。また、最近は環境上の観点から、強力な薬剤を使用することができなくなり、駆除効果が低下するだけでなく、駆除の繰り返し回数も増える傾向にあった。
【0004】
このような状況を背景として、本出願人は先に、布基礎の四隅コーナー部を含む内面全周に、所要幅の薄鋼板を貼り付けて、布基礎の内面に蟻道が形成されるのを阻止する白蟻防除方法を先に開発した(特許文献1)。布基礎の内面に蟻道が形成されるのを物理的に阻止する方法であるために、長期間にわたって防除効果を発揮し続けることができ、しかも環境へ悪影響を及ぼす危険がない。布基礎にて囲まれた床下の土間又はコンクリート間に、白蟻侵入用のスリットを備える容器内に、白蟻誘引剤と、白蟻の餌となる白蟻殺虫薬を含浸させたセルローズ系ロール紙とを収容してなる白蟻防除装置を所要数設置して、土間又はコンクリート間に侵入した白蟻を捕獲し、殺虫することにより、白蟻防除効果は更に向上する。
【0005】
本出願人が開発したこの白蟻防除方法は防除効果が高く環境上も問題の少ない非常に優れたものであるが、最近は鉄鉱石の値上がりなどもあって鋼板価格が高騰し、施工費が高くなることが問題となってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−252361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のこのような問題を解決するためになされたものであり、環境に対する配慮がなされ、しかも有効性が高く、経済性も高い白蟻防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ところで、環境面を配慮した白蟻防除方法としては、嫌蟻作用を有する生薬ウコン、菜種油などの植物から採取した植物油を含有した溶液やその植物油成分を含有した粒状剤が開発されているが、それらの嫌蟻作用だけでは布基礎や、布基礎に囲まれた床下の土間、コンクリート間に蟻道が形成されるのを完全に阻止することができず、建造物に被害を及ぼすという問題が指摘されている。
【0009】
本発明者は前記目的を達成するために、上述した嫌蟻性植物油系の薬剤に注目し、その薬剤溶液の吹き付け処理における問題点及びその解決策について鋭意検討した。その結果、以下のような新しい事実が判明した。
【0010】
床下の布基礎周辺の薬剤溶液吹き付け対象面はセメント面や木面、金属面など多岐にわたっており、それらの表面には凹凸も存在する。薬剤溶液の吹き付け処理においては、吹き付け対象面の全てに対して付着の耐用期間も含めた強力な付着性が要求され、吹き付け溶液の固化膜に対しては、高度の平滑性が要求されるが、嫌蟻性植物油を含有した溶液を吹き付けるだけではこれらの要望に応えることができず、これが従来の嫌蟻性植物油系薬剤溶液の吹き付け処理における問題原因の一つであることが判明した。
【0011】
そこで、本発明者は植物油系の薬剤による対策のかかる問題原因を取り除くべく、アクリル樹脂を主成分とする溶液の併用を考え出した。アクリル樹脂を主成分とする溶液による吹き付け処理は、吹き付け対象面の性状に関係なく付着性に優れ、吹き付け溶液固化膜の平滑性に優れる。このため、アクリル樹脂を主成分とする溶液と嫌蟻性植物油を含む溶液の混合溶液を水で希釈して吹き付ければ、布基礎の内面等に強固に付着し、付着の耐用期間が長くなると共に、固化膜表面の平滑性に優れ、布基礎の内面等における蟻道の形成を化学的、物理的の両面から長期間にわたって阻止することが可能となるのである。
【0012】
本発明の白蟻防除方法はかかる知見を基礎として完成されたものであり、アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有する混合溶液を吹き付け可能に希釈して吹き付け溶液となす工程と、木造建造物における布基礎の内面全体に、前記吹き付け溶液による吹き付け処理を施して吹き付け溶液の固化膜を形成する工程と、前記布基礎に囲まれた床下の土間またはコンクリート間に白蟻防除装置を設置する工程とを含み、固化膜中の植物油が有する嫌蟻作用、並びにアクリル樹脂が有する表面の平滑性及び付着性により前記布基礎の内面に蟻道が形成されるのを防止しつつ、前記布基礎に囲まれた土間またはコンクリート間に設置された白蟻防除装置により白蟻を駆除することを特徴としている。
【0013】
本発明の白蟻防除方法においては、アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有する混合溶液を吹き付け可能に希釈して調製した吹き付け溶液が布基礎の内面全体に吹き付けられる。吹き付けられた溶液はアクリル樹脂を主成分としているので、布基礎の内面全体に強固に付着し、付着の耐用期間も長い。また、吹き付け溶液の固化膜の表面の平滑性が高い。固化膜表面の平滑性が高いと、土中から布基礎の内側に侵入した白蟻が布基礎を伝って上方へ這い上がろうとしても滑って滑落することにより、蟻道の形成が阻止されるのである。そして更に、その固化膜中には嫌蟻作用のある植物油成分が含まれている。これらのため、布基礎の内面に蟻道が形成されるのが物理、化学の両面から効果的に阻止される。これにより、布基礎の内側に侵入した白蟻は布基礎の内側に封じ込められ、その内側に配置された白蟻防除装置により強制駆除される。
【0014】
ここで、アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有する混合溶液は、通常はアクリル樹脂を主成分とする溶液と嫌蟻性植物油を含有した溶液とを混合することによりつくられる。アクリル樹脂を主成分とする溶液とは、具体的にはメタクリル酸メチルの重合体(アクリルエマルジョン)を主成分とし、これに水及び活性剤を加えた高分子液状材料であり、塗布対象材料面の凹凸を解消してその平滑化を図る。また、強力な付着性により固化膜付着の耐用期間を延長することができる。また、嫌蟻性植物油を含有する溶液とは、白蟻を寄せつけない嫌蟻作用を有する生薬ウコン、菜種油、ヒバ中性油、ヤシ油脂肪酸などの何れかを含有した溶液のことである。嫌蟻油を吹き付け溶液に含ませることにより、吹き付け溶液の固化膜は嫌蟻作用を有することになる。
【0015】
吹き付け溶液は、アクリル樹脂を主成分とし植物油を含有する混合溶液を1として、これに4〜5の割合で水を加えて吹き付け性をよくすることによりつくられる。
【0016】
布基礎に囲まれた床下の土間又はコンクリート間上に設置される白蟻防除装置は、白蟻侵入用のスリットを備える容器内に、白蟻が分泌するフェロモンを主成分とする白蟻誘引剤と、アジエンダSCなどの白蟻殺虫薬を含浸させたセルローズ系ロール紙とを収容した構成が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の白蟻防除方法は、環境上問題のない嫌蟻性植物油とアクリル樹脂とを混合した吹き付け溶液の固化膜を布基礎の内面全体に被覆することにより、価格の高い鋼板を使うことなく、布基礎の内面に蟻道が形成されるのを長期にわたって阻止することができる。そして、その布基礎によりその内側に封じ込めた白蟻を、その内側に配置された白蟻防除装置にて強制的に駆除することにより、環境に悪影響を与えることなく長期間にわたって優れた白蟻防除効果を発揮し続けることができる。更に施工費も安くすみ、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明法の実施形態を説明するための木造建造物の床下部分の斜視図である。
【図2】本発明法で使用される白蟻防除装置の縦断面図である。
【図3】本発明法の効果を立証するための試験装置の縦断面図で、(A)は本発明法の場合を示し、(B)は比較法の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本実施形態の白蟻防除方法は、図1に示すように、木造建造物の床下部分、より具体的には、土台である布基礎10の内側に実施される。
【0021】
詳しく説明すると、まず、吹き付け溶液を調製する。具体的には、アクリル樹脂を主成分とする溶液、より詳しくはメタクリル酸メチルの重合体(アクリルエマルジョン)を主成分とし、これに水及び活性剤を加えた高分子液状材料と、嫌蟻性植物油を含有する溶液、より詳しくは白蟻を寄せつけない嫌蟻作用を有する生薬ウコン、菜種油、ヒバ中性油、ヤシ油脂肪酸などの何れかを含有した溶液とを混合し、その混合溶液を吹き付け可能な粘度とするべく、当該混合溶液に水を加える。
【0022】
調製された吹き付け溶液を高圧スプレーガンにより、図1中にハッチングで示す布基礎10の内面全体に吹き付ける。特に蟻道を作りやすいコーナー部内面に対して入念に吹き付け処理を行う。吹き付けられた吹き付け溶液は固化し、布基礎10の内面全体に吹き付け溶液の固化膜11を形成する。
【0023】
一方、布基礎10に囲まれた空間の床面12である土間又はコンクリート間にはその広さに応じて所定数の白蟻防除装置20が設置されている。白蟻防除装置20は、図2に示すように、白蟻侵入用の複数のスリット22を備える円筒状容器21内に、白蟻が分泌するフェロモンを主成分とする白蟻誘引剤23と、白蟻殺虫薬(例えばアジェンダSC薬液)を含浸させたセルローズ系ロール紙24とを収容してなり、白蟻誘引剤23により誘引されて、スリット22より容器21内に侵入した白蟻が、好物であるセルローズ系ロール紙24を食べると殺虫されるようにしたものであり、床面12の広さに応じて適数配置される。
【0024】
本実施形態の白蟻防除方法においては、布基礎10の外側の土中に存在する営巣から布基礎10の内側に侵入した白蟻が、布基礎10の内面を這い上がろうとしても、その内面の全体にアクリル樹脂を主成分とした表面が平滑で且つ嫌蟻性植物油を含んだ固化膜11が被覆されているため、そもそも白蟻が布基礎10の内面に近寄るのさえ嫌がり、仮にその内面を這い上がり始めても容易に滑り落ち、蟻道をつくるまでには至らない。
【0025】
その一方で、布基礎10に囲まれた空間の床面12上には白蟻防除装置20が設置されており、その容器21内には白蟻誘引剤23が収容されているので、白蟻は好んで容器21内に侵入する。そして、その容器21内には白蟻誘引剤23と共に、白蟻の好物であるセルローズ系ロール紙24が収容されているので、白蟻はセルローズ系ロール紙24を好んで食するが、セルローズ系ロール紙24は白蟻殺虫薬を含浸させているので、セルローズ系ロール紙24を食すると同時に死に至る。
【0026】
より正確にいえば、布基礎10の内側に侵入した白蟻は、布基礎10の内面を這い上がる以前に、まずその大半が、固化膜11中の嫌蟻性植物油と白蟻防除装置20内の誘引剤との協同作用により白蟻防除装置20内に捕獲され、殺虫される。したがって、布基礎10を這い上がろうとする白蟻の数自体が著しく減少するとともに、万が一白蟻が布基礎10の内面を這い上がった場合でも、固化膜11の表面が平滑であるために滑落するから、蟻道の形成がきわめて困難となる。
【0027】
かくして、本実施形態の白蟻防除方法においては、布基礎10の内側に白蟻が侵入することはあっても、その白蟻が布基礎10の上に構築された土台等の木質建材に到達することはないので、土台等の木造建材が白蟻から確実に保護される。しかも、固化膜11はアクリル樹脂を主成分としているので、吹き付け対象面の形状、凹凸、材質等に関係なく強固に付着する。このため、付着の耐用期間が長く、白蟻防除効果も長期間継続される。更に、鋼板などの価格の高い材料を使用せず、施工も吹き付け程度ですこぶる簡単であるので、施工コストも安価である。
【実施例】
【0028】
本発明法の効果を確認するために比較実験を行なった。この比較実験の詳細を図3(A)(B)を参照して説明する。
【0029】
白蟻の営巣70から1mの地面上に、蓋付きコンクリート製升を利用した角筒状の無底コンクリート容器30を設置した。無底コンクリート容器30の寸法は縦80cm、横80cm、高さ40cm、厚さ10cmである。このような無底コンクリート容器30を2つ用意した。そして、一方の無底コンクリート容器30については、図3(A)に示すように、内側面全体に吹き付け溶液を吹き付けて固めた固化膜11を形成した。
【0030】
吹き付け溶液は、アクリル樹脂を主成分とする溶液と嫌蟻性植物油を含む溶液の混合溶液を水で希釈したものであり、具体的には、組成が重量比でアクリルエマルジョン60%、水20%、活性剤18.3%、ヒバ中性油1.7%である混合溶液「1」に対して水「4」を加えた希釈溶液である。吹き付けはスプレーガンにより行い、蟻道をつくりやすいコーナー部には表面の凹凸がなくなるまで複数回吹き付けを繰り返した。
【0031】
そして無底コンクリート容器30内の地面上に、前述した白蟻防除装置20をセットし、裏面に餌木41をつけたコンクリート蓋40で上面開口部を閉止した。
【0032】
他方の無底コンクリート容器30については、図3(B)に示すように、容器内の地面上に、嫌蟻性植物油であるヒバ中性油を1.7%含み造粒液を加えてつくった粒状剤50を厚さ2cmに敷き詰めた。更に、無底コンクリート容器30の内側面には、嫌蟻性植物油であるヒバ中性油を1.7%含み乳液と水を加えてつくった溶液を塗布し、上面開口部は裏面に餌木41をつけたコンクリート蓋40で閉止した。
【0033】
両方の無底コンクリート容器30について、内側面における蟻道60の形成状況を5日後、10日後、20日後に調査した。また、前者の無底コンクリート容器30については、内部にセットした白蟻防除装置20内の白蟻捕獲量を5日後、10日後、20日後に調査した。調査結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1中の本発明容器Aは、本発明例である前者〔図3(A)図示〕の無底コンクリート容器30であり、比較例容器Bは、比較例である後者〔図3(B)図示〕の無底コンクリート容器30である。
【0036】
本発明容器Aにおいては、5日後はもとより20日後も蟻道の形成は認められなかった。白蟻防除装置20内の白蟻捕獲量は5日後で13頭、10日後で38頭、20日後で235頭と期間経過と共に飛躍的に増加した。一方、比較例容器Bにおいては、容器内の地面上に嫌蟻性植物油含有の粒状剤50を敷き詰め、内側面に嫌蟻性植物油を含む溶液を塗布するという嫌蟻処理を実施しているにもかかわらず、粒状剤50の隙間から容器の内側面を白蟻が這い上がり、10日後にはその内側面に蟻道60が形成され始め、20日後には2つのコーナー部に高さが10mm、20mmにそれぞれ達する蟻道60が形成されていた。
【0037】
この比較試験の結果から明らかなように、本発明の白蟻防除方法は、白蟻の確実な駆除と、布基礎の内側面における蟻道の形成阻止との両面から、布基礎上の木質建材を白蟻被害から長期間有効に防御することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 布基礎
11 固化膜
12 床面
20 白蟻防除装置
21 円筒状容器
22 スリット
23 白蟻誘引剤
24 セルローズ系ロール紙
30 無底コンクリート容器
40 コンクリート蓋
41 餌木
50 粒状剤
60 蟻道
70 営巣
【技術分野】
【0001】
本発明は、既築新築を問わず木造建造物全般に対して有効な白蟻防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既に建築された家屋等の建築物における白蟻の防除対策としては、従来より床下の周囲を布基礎で囲まれた土間、または土間をコンクリートで固めたコンクリート間と称する所に、白蟻駆除用の薬液を噴霧したり、固形薬剤を内蔵した白蟻捕獲器を設置したりすることが行なわれている。すなわち、白蟻は、一般的に、高温多湿で暗黒の条件を好むことから、この条件に適した土中に多くが生存する。そして、土中から家屋床下の土間又はコンクリート間へと侵入し、ここから布基礎(特に四隅のコーナー部)を伝って上方へ這い上がるいわゆる蟻道(ありみち)を形成して、最終的に布基礎上に組まれた土台等の木質建材に被害を及ぼすのである。
【0003】
しかしながら、上記した従来の対策は、いずれも白蟻の駆除を薬剤に頼るものであったため、その薬効が失われると、白蟻被害を全く予防することができなかった。したがって、薬効が失われるまでの短期間に、同様の対策を繰り返し行なう必要があった。また、最近は環境上の観点から、強力な薬剤を使用することができなくなり、駆除効果が低下するだけでなく、駆除の繰り返し回数も増える傾向にあった。
【0004】
このような状況を背景として、本出願人は先に、布基礎の四隅コーナー部を含む内面全周に、所要幅の薄鋼板を貼り付けて、布基礎の内面に蟻道が形成されるのを阻止する白蟻防除方法を先に開発した(特許文献1)。布基礎の内面に蟻道が形成されるのを物理的に阻止する方法であるために、長期間にわたって防除効果を発揮し続けることができ、しかも環境へ悪影響を及ぼす危険がない。布基礎にて囲まれた床下の土間又はコンクリート間に、白蟻侵入用のスリットを備える容器内に、白蟻誘引剤と、白蟻の餌となる白蟻殺虫薬を含浸させたセルローズ系ロール紙とを収容してなる白蟻防除装置を所要数設置して、土間又はコンクリート間に侵入した白蟻を捕獲し、殺虫することにより、白蟻防除効果は更に向上する。
【0005】
本出願人が開発したこの白蟻防除方法は防除効果が高く環境上も問題の少ない非常に優れたものであるが、最近は鉄鉱石の値上がりなどもあって鋼板価格が高騰し、施工費が高くなることが問題となってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−252361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のこのような問題を解決するためになされたものであり、環境に対する配慮がなされ、しかも有効性が高く、経済性も高い白蟻防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ところで、環境面を配慮した白蟻防除方法としては、嫌蟻作用を有する生薬ウコン、菜種油などの植物から採取した植物油を含有した溶液やその植物油成分を含有した粒状剤が開発されているが、それらの嫌蟻作用だけでは布基礎や、布基礎に囲まれた床下の土間、コンクリート間に蟻道が形成されるのを完全に阻止することができず、建造物に被害を及ぼすという問題が指摘されている。
【0009】
本発明者は前記目的を達成するために、上述した嫌蟻性植物油系の薬剤に注目し、その薬剤溶液の吹き付け処理における問題点及びその解決策について鋭意検討した。その結果、以下のような新しい事実が判明した。
【0010】
床下の布基礎周辺の薬剤溶液吹き付け対象面はセメント面や木面、金属面など多岐にわたっており、それらの表面には凹凸も存在する。薬剤溶液の吹き付け処理においては、吹き付け対象面の全てに対して付着の耐用期間も含めた強力な付着性が要求され、吹き付け溶液の固化膜に対しては、高度の平滑性が要求されるが、嫌蟻性植物油を含有した溶液を吹き付けるだけではこれらの要望に応えることができず、これが従来の嫌蟻性植物油系薬剤溶液の吹き付け処理における問題原因の一つであることが判明した。
【0011】
そこで、本発明者は植物油系の薬剤による対策のかかる問題原因を取り除くべく、アクリル樹脂を主成分とする溶液の併用を考え出した。アクリル樹脂を主成分とする溶液による吹き付け処理は、吹き付け対象面の性状に関係なく付着性に優れ、吹き付け溶液固化膜の平滑性に優れる。このため、アクリル樹脂を主成分とする溶液と嫌蟻性植物油を含む溶液の混合溶液を水で希釈して吹き付ければ、布基礎の内面等に強固に付着し、付着の耐用期間が長くなると共に、固化膜表面の平滑性に優れ、布基礎の内面等における蟻道の形成を化学的、物理的の両面から長期間にわたって阻止することが可能となるのである。
【0012】
本発明の白蟻防除方法はかかる知見を基礎として完成されたものであり、アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有する混合溶液を吹き付け可能に希釈して吹き付け溶液となす工程と、木造建造物における布基礎の内面全体に、前記吹き付け溶液による吹き付け処理を施して吹き付け溶液の固化膜を形成する工程と、前記布基礎に囲まれた床下の土間またはコンクリート間に白蟻防除装置を設置する工程とを含み、固化膜中の植物油が有する嫌蟻作用、並びにアクリル樹脂が有する表面の平滑性及び付着性により前記布基礎の内面に蟻道が形成されるのを防止しつつ、前記布基礎に囲まれた土間またはコンクリート間に設置された白蟻防除装置により白蟻を駆除することを特徴としている。
【0013】
本発明の白蟻防除方法においては、アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有する混合溶液を吹き付け可能に希釈して調製した吹き付け溶液が布基礎の内面全体に吹き付けられる。吹き付けられた溶液はアクリル樹脂を主成分としているので、布基礎の内面全体に強固に付着し、付着の耐用期間も長い。また、吹き付け溶液の固化膜の表面の平滑性が高い。固化膜表面の平滑性が高いと、土中から布基礎の内側に侵入した白蟻が布基礎を伝って上方へ這い上がろうとしても滑って滑落することにより、蟻道の形成が阻止されるのである。そして更に、その固化膜中には嫌蟻作用のある植物油成分が含まれている。これらのため、布基礎の内面に蟻道が形成されるのが物理、化学の両面から効果的に阻止される。これにより、布基礎の内側に侵入した白蟻は布基礎の内側に封じ込められ、その内側に配置された白蟻防除装置により強制駆除される。
【0014】
ここで、アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有する混合溶液は、通常はアクリル樹脂を主成分とする溶液と嫌蟻性植物油を含有した溶液とを混合することによりつくられる。アクリル樹脂を主成分とする溶液とは、具体的にはメタクリル酸メチルの重合体(アクリルエマルジョン)を主成分とし、これに水及び活性剤を加えた高分子液状材料であり、塗布対象材料面の凹凸を解消してその平滑化を図る。また、強力な付着性により固化膜付着の耐用期間を延長することができる。また、嫌蟻性植物油を含有する溶液とは、白蟻を寄せつけない嫌蟻作用を有する生薬ウコン、菜種油、ヒバ中性油、ヤシ油脂肪酸などの何れかを含有した溶液のことである。嫌蟻油を吹き付け溶液に含ませることにより、吹き付け溶液の固化膜は嫌蟻作用を有することになる。
【0015】
吹き付け溶液は、アクリル樹脂を主成分とし植物油を含有する混合溶液を1として、これに4〜5の割合で水を加えて吹き付け性をよくすることによりつくられる。
【0016】
布基礎に囲まれた床下の土間又はコンクリート間上に設置される白蟻防除装置は、白蟻侵入用のスリットを備える容器内に、白蟻が分泌するフェロモンを主成分とする白蟻誘引剤と、アジエンダSCなどの白蟻殺虫薬を含浸させたセルローズ系ロール紙とを収容した構成が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の白蟻防除方法は、環境上問題のない嫌蟻性植物油とアクリル樹脂とを混合した吹き付け溶液の固化膜を布基礎の内面全体に被覆することにより、価格の高い鋼板を使うことなく、布基礎の内面に蟻道が形成されるのを長期にわたって阻止することができる。そして、その布基礎によりその内側に封じ込めた白蟻を、その内側に配置された白蟻防除装置にて強制的に駆除することにより、環境に悪影響を与えることなく長期間にわたって優れた白蟻防除効果を発揮し続けることができる。更に施工費も安くすみ、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明法の実施形態を説明するための木造建造物の床下部分の斜視図である。
【図2】本発明法で使用される白蟻防除装置の縦断面図である。
【図3】本発明法の効果を立証するための試験装置の縦断面図で、(A)は本発明法の場合を示し、(B)は比較法の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本実施形態の白蟻防除方法は、図1に示すように、木造建造物の床下部分、より具体的には、土台である布基礎10の内側に実施される。
【0021】
詳しく説明すると、まず、吹き付け溶液を調製する。具体的には、アクリル樹脂を主成分とする溶液、より詳しくはメタクリル酸メチルの重合体(アクリルエマルジョン)を主成分とし、これに水及び活性剤を加えた高分子液状材料と、嫌蟻性植物油を含有する溶液、より詳しくは白蟻を寄せつけない嫌蟻作用を有する生薬ウコン、菜種油、ヒバ中性油、ヤシ油脂肪酸などの何れかを含有した溶液とを混合し、その混合溶液を吹き付け可能な粘度とするべく、当該混合溶液に水を加える。
【0022】
調製された吹き付け溶液を高圧スプレーガンにより、図1中にハッチングで示す布基礎10の内面全体に吹き付ける。特に蟻道を作りやすいコーナー部内面に対して入念に吹き付け処理を行う。吹き付けられた吹き付け溶液は固化し、布基礎10の内面全体に吹き付け溶液の固化膜11を形成する。
【0023】
一方、布基礎10に囲まれた空間の床面12である土間又はコンクリート間にはその広さに応じて所定数の白蟻防除装置20が設置されている。白蟻防除装置20は、図2に示すように、白蟻侵入用の複数のスリット22を備える円筒状容器21内に、白蟻が分泌するフェロモンを主成分とする白蟻誘引剤23と、白蟻殺虫薬(例えばアジェンダSC薬液)を含浸させたセルローズ系ロール紙24とを収容してなり、白蟻誘引剤23により誘引されて、スリット22より容器21内に侵入した白蟻が、好物であるセルローズ系ロール紙24を食べると殺虫されるようにしたものであり、床面12の広さに応じて適数配置される。
【0024】
本実施形態の白蟻防除方法においては、布基礎10の外側の土中に存在する営巣から布基礎10の内側に侵入した白蟻が、布基礎10の内面を這い上がろうとしても、その内面の全体にアクリル樹脂を主成分とした表面が平滑で且つ嫌蟻性植物油を含んだ固化膜11が被覆されているため、そもそも白蟻が布基礎10の内面に近寄るのさえ嫌がり、仮にその内面を這い上がり始めても容易に滑り落ち、蟻道をつくるまでには至らない。
【0025】
その一方で、布基礎10に囲まれた空間の床面12上には白蟻防除装置20が設置されており、その容器21内には白蟻誘引剤23が収容されているので、白蟻は好んで容器21内に侵入する。そして、その容器21内には白蟻誘引剤23と共に、白蟻の好物であるセルローズ系ロール紙24が収容されているので、白蟻はセルローズ系ロール紙24を好んで食するが、セルローズ系ロール紙24は白蟻殺虫薬を含浸させているので、セルローズ系ロール紙24を食すると同時に死に至る。
【0026】
より正確にいえば、布基礎10の内側に侵入した白蟻は、布基礎10の内面を這い上がる以前に、まずその大半が、固化膜11中の嫌蟻性植物油と白蟻防除装置20内の誘引剤との協同作用により白蟻防除装置20内に捕獲され、殺虫される。したがって、布基礎10を這い上がろうとする白蟻の数自体が著しく減少するとともに、万が一白蟻が布基礎10の内面を這い上がった場合でも、固化膜11の表面が平滑であるために滑落するから、蟻道の形成がきわめて困難となる。
【0027】
かくして、本実施形態の白蟻防除方法においては、布基礎10の内側に白蟻が侵入することはあっても、その白蟻が布基礎10の上に構築された土台等の木質建材に到達することはないので、土台等の木造建材が白蟻から確実に保護される。しかも、固化膜11はアクリル樹脂を主成分としているので、吹き付け対象面の形状、凹凸、材質等に関係なく強固に付着する。このため、付着の耐用期間が長く、白蟻防除効果も長期間継続される。更に、鋼板などの価格の高い材料を使用せず、施工も吹き付け程度ですこぶる簡単であるので、施工コストも安価である。
【実施例】
【0028】
本発明法の効果を確認するために比較実験を行なった。この比較実験の詳細を図3(A)(B)を参照して説明する。
【0029】
白蟻の営巣70から1mの地面上に、蓋付きコンクリート製升を利用した角筒状の無底コンクリート容器30を設置した。無底コンクリート容器30の寸法は縦80cm、横80cm、高さ40cm、厚さ10cmである。このような無底コンクリート容器30を2つ用意した。そして、一方の無底コンクリート容器30については、図3(A)に示すように、内側面全体に吹き付け溶液を吹き付けて固めた固化膜11を形成した。
【0030】
吹き付け溶液は、アクリル樹脂を主成分とする溶液と嫌蟻性植物油を含む溶液の混合溶液を水で希釈したものであり、具体的には、組成が重量比でアクリルエマルジョン60%、水20%、活性剤18.3%、ヒバ中性油1.7%である混合溶液「1」に対して水「4」を加えた希釈溶液である。吹き付けはスプレーガンにより行い、蟻道をつくりやすいコーナー部には表面の凹凸がなくなるまで複数回吹き付けを繰り返した。
【0031】
そして無底コンクリート容器30内の地面上に、前述した白蟻防除装置20をセットし、裏面に餌木41をつけたコンクリート蓋40で上面開口部を閉止した。
【0032】
他方の無底コンクリート容器30については、図3(B)に示すように、容器内の地面上に、嫌蟻性植物油であるヒバ中性油を1.7%含み造粒液を加えてつくった粒状剤50を厚さ2cmに敷き詰めた。更に、無底コンクリート容器30の内側面には、嫌蟻性植物油であるヒバ中性油を1.7%含み乳液と水を加えてつくった溶液を塗布し、上面開口部は裏面に餌木41をつけたコンクリート蓋40で閉止した。
【0033】
両方の無底コンクリート容器30について、内側面における蟻道60の形成状況を5日後、10日後、20日後に調査した。また、前者の無底コンクリート容器30については、内部にセットした白蟻防除装置20内の白蟻捕獲量を5日後、10日後、20日後に調査した。調査結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1中の本発明容器Aは、本発明例である前者〔図3(A)図示〕の無底コンクリート容器30であり、比較例容器Bは、比較例である後者〔図3(B)図示〕の無底コンクリート容器30である。
【0036】
本発明容器Aにおいては、5日後はもとより20日後も蟻道の形成は認められなかった。白蟻防除装置20内の白蟻捕獲量は5日後で13頭、10日後で38頭、20日後で235頭と期間経過と共に飛躍的に増加した。一方、比較例容器Bにおいては、容器内の地面上に嫌蟻性植物油含有の粒状剤50を敷き詰め、内側面に嫌蟻性植物油を含む溶液を塗布するという嫌蟻処理を実施しているにもかかわらず、粒状剤50の隙間から容器の内側面を白蟻が這い上がり、10日後にはその内側面に蟻道60が形成され始め、20日後には2つのコーナー部に高さが10mm、20mmにそれぞれ達する蟻道60が形成されていた。
【0037】
この比較試験の結果から明らかなように、本発明の白蟻防除方法は、白蟻の確実な駆除と、布基礎の内側面における蟻道の形成阻止との両面から、布基礎上の木質建材を白蟻被害から長期間有効に防御することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 布基礎
11 固化膜
12 床面
20 白蟻防除装置
21 円筒状容器
22 スリット
23 白蟻誘引剤
24 セルローズ系ロール紙
30 無底コンクリート容器
40 コンクリート蓋
41 餌木
50 粒状剤
60 蟻道
70 営巣
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有する混合溶液を吹き付け可能に希釈して吹き付け溶液となす工程と、木造建造物における布基礎の内面全体に、前記吹き付け溶液による吹き付け処理を施して吹き付け溶液の固化膜を形成する工程と、前記布基礎に囲まれた床下の土間またはコンクリート間に白蟻防除装置を設置する工程とを含み、
固化膜中の植物油が有する嫌蟻作用、並びにアクリル樹脂が有する表面の平滑性及び付着性により前記布基礎の内面に蟻道が形成されるのを防止しつつ、前記布基礎に囲まれた土間またはコンクリート間に設置された白蟻防除装置により白蟻を駆除することを特徴とする白蟻防除方法。
【請求項1】
アクリル樹脂を主成分とし嫌蟻性植物油を含有する混合溶液を吹き付け可能に希釈して吹き付け溶液となす工程と、木造建造物における布基礎の内面全体に、前記吹き付け溶液による吹き付け処理を施して吹き付け溶液の固化膜を形成する工程と、前記布基礎に囲まれた床下の土間またはコンクリート間に白蟻防除装置を設置する工程とを含み、
固化膜中の植物油が有する嫌蟻作用、並びにアクリル樹脂が有する表面の平滑性及び付着性により前記布基礎の内面に蟻道が形成されるのを防止しつつ、前記布基礎に囲まれた土間またはコンクリート間に設置された白蟻防除装置により白蟻を駆除することを特徴とする白蟻防除方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2011−234665(P2011−234665A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108457(P2010−108457)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【特許番号】特許第4567809号(P4567809)
【特許公報発行日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(592017345)近畿白蟻株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【特許番号】特許第4567809号(P4567809)
【特許公報発行日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(592017345)近畿白蟻株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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