説明

白血病における酵素阻害剤

本発明は、白血病、好ましくは急性白血病の治療のため、より好ましくはAMLの治療のための医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラスターゼ阻害剤による、急性骨髄性(AML)のようなヒト白血病の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、自己再生および分裂可能であり、より多くの幹細胞または分化細胞を導く。造血幹細胞(HSC)または造血始原細胞(HPC)は、造血不全から、致死的に照射されたレシピエントを救うために、十分な造血活性を引き起こす特性を有する(Morrisonら、1995)。
【0003】
骨髄は、間葉系幹細胞および造血幹細胞を含む。間葉系幹細胞は、骨髄の間質細胞を含む、含脂肪細胞、軟骨細胞および骨細胞系列をのもととなる(Pittengerら、1999)。造血幹細胞(HSCs)は、リンパ球、骨髄性細胞および赤血球系列のもととなる。
【0004】
マウスにて、HSCsは、全骨髄の0.01%のわずかな集団を表し、Thylow系列−Scal+c−kithigh(KTLS)マーカーの組み合わせを用いて単離された。ヒトにおいて、CD34+ Thy−1+Lin−造血幹細胞が、マウスKTLS造血幹細胞のヒト等価物である(Ikutaら、1992)。
【0005】
幹細胞移植の成功が、レシピエントの骨髄中の移植細胞の十分な標的化に依存することから、循環造血始原細胞(HPCまたはHSC)をガイドする機序が、臨床的に重要である(Mazoおよびvon Adrian、1999)。骨髄移植が、任意の他の器官の移植の場合でのように、侵襲的手術を必要とするのではなく、単純な静脈注入によって実施されうるのは、移植された細胞のこの標的化(またはホーミング)による。HPCのホーミングは、循環HPCが、骨髄内皮細胞を認識して接着し、そしてそれを介して遊走可能にし、結果として、骨髄の固有の造血−促進微小環境における、HPCの蓄積となる、一組の分子相互作用として定義可能である。始原細胞のホーミングは、多段階現象として考えることができる。骨髄に到着したHPCは、まず、骨髄内皮の内腔表面と相互作用するに違いない。この相互作用は、HPCが、骨髄微小血管に入って数秒以内に発生し、接着細胞を、流れている血液によっておこる剪断力に抵抗させるのに十分な機械的強度を提供するに違いない。ついで接着HPCが、内皮層を通過して、造血コンパートメントに入るに違いない。管外遊出の後、HPCは、その並置が、系列特異的HPC分化、増殖および成熟、間質誘導サイトカインおよび他の増殖シグナルが関与する行程に加えて、自己−再生行程による、細胞の未熟プールの維持を支持する、特定の間質細胞に遭遇する。
【0006】
またプレ−B−細胞増殖−刺激因子(PBSF)とも呼ばれる、SDF−1が、リンパ球、単球および初代CD34+細胞に対して、強力な化学誘因物質(ケモカイン)であることが報告されてきている。SDF−1は、細胞の遊走を誘導する化学誘導因子であり、細胞運動の方向が、SDF−1の濃度勾配によって決定され(KimおよびBroxmeyer 1998)、末梢血で低く、骨髄で高い。SDF−1は、骨髄間質細胞によって産出されるので、SDF−1勾配が、骨髄微小環境〜血液系の間で形成される。この勾配が、HPCを誘引し、この勾配が、血液中に効果器分子が投与されるまたは誘導されることによって破壊されないかぎり、骨髄微小環境にこれらをとどまらせる。
【0007】
SDF−1レセプター、CXCR4は、CD34+細胞、多能性造血前駆細胞である、CD34+CD38−細胞を含む、骨髄細胞、移動骨髄細胞、臍帯血細胞を含む、多くの細胞種上で発現される。移植の前の、抗CXCR4抗体でのヒトHPCs、CD34+細胞の処理は結果として、移植NOD/SCIDマウスにおける、骨髄増殖片の阻害となる(Peledら Science 1999)。
【0008】
生体内にて、SDF−1の勾配に向かって遊走せず、生体内で齧歯類骨髄にホーミングせず、再居住しない、未熟ヒトCD34+細胞および未熟CD34+/CD38−/low細胞が、移植の前に、SLFおよびIL−6のようなサイトカインでの、短期間16〜48時間の生体内刺激によって、機能的再居住細胞になりうる(Kolletら 2000,Peledら、1999 Lapidot 2001)。これらのサイトカインは、表面CXCR4発現、生体内で、SDF−1に向かう遊走、生体内でのホーミングおよび再居住を増加させる。
【0009】
SDF−1がまた、骨髄微小環境における、内皮細胞へのヒト幹細胞接着の刺激において、鍵となる因子であることが報告されてきた(Peledら The Journal of Clinical Investigation 1999)。したがって、SDF−1は、幹および始原細胞に対する化学誘因物質としてのみでなく、骨髄の移植のために必要な、インテグリン依存細胞接着および経内皮遊走のメディエーターとして関わる。
【0010】
成人期を通して、造血系が、骨髄(BM)から末梢および第二器官に放出される、成熟リンパ球、骨髄および赤血球細胞の一定の産出によって維持される。興味深いことに、主にBM内に存在する、造血幹細胞がまた、非常に低いレベルで、血中に循環していることがみられる。相当成熟および未熟胞の放出(egress)は、しっかりと制御されていなければならないが、遊走および細胞放出を調節している分子機構は、ほとんど特性化されていない。
【0011】
HPCsは、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー−刺激因子(G−CSF)、およびスティール因子(SLF)のような、注入サイトカインに対する応答において、末梢血に対して、脊髄より移動させることができる[Sienaら、1989、Duhrsenら 1988、Drizeら 1996]。移植手順のために、ドナー骨髄から血液中への幹細胞の移動、および血液からのそれらの復帰が、世界的にますます使用されており、侵襲性手術を用いる、ドナーの骨髄からの、これらの幹細胞の回復を置換している。
【0012】
移動によって、照射および化学治療処置(自己移植)より前に、患者から回収され、逆の、固有のHSCでの骨髄再居住が可能になる。HSCの回復は、臍帯血または骨髄施術からよりも、移動からがより多い。
【0013】
BM細胞の幹細胞および始原細胞放出の機構を解読することを目的とする研究は、広く、臨床移植のために、HSCを移動させ、回収させるために使用される、顆粒球コロニー−刺激因子(G−CSF)を含む、LPS、ケモカインまたはサイトカインのような試薬を含む、種々のストレスによって誘導される白血球増加に焦点をあててきた[To、1997][Thomas、2002]。最近数年、G−CSF誘導移動を支配している機構が、浮かび上がり始め、G−CSFは、間質VCAM−1、ICAM−1、P−セレクチンレセプターPSGL−1ならびにサイトカインSDF−1およびサイトカインkitリガンドを分解する、BM中での多量のエラスターゼおよびカテプシンGのような好中球プロテアーゼを放出する、骨髄細胞の伸長を誘導する[Lapidot、2002][Papayahnnopoulou、2004]。VCAM−1/VLA−4、c−kit/kitリガンドおよびSDF−1/CXCR4相互作用両方が、BM内での、造血細胞の停泊と保持の重要な調節物であると信じられている。さらに、MMP−9のようなメタロプロテナーゼもまた、細胞のG−CSF誘導放出に関与している[Heissig、2002]。興味深いことに、ヒト白血球エラスターゼをコードしているELA2遺伝子中のヘテロ接合生殖細胞変異が、環状好中球減少およびコストマン病のような種々の遺伝性好中球減少性症候群と関連し、これらは、循環中への好中球放出の重度の不全によって特徴づけられる[Aprikyan、2001]。
【0014】
好中球またはリンパ球エラスターゼは、脊髄細胞のアズール顆粒中に保存された、セリンプロテアーゼであり、活性化および脱顆粒に際して放出される。エラスターゼは、非常に広範囲のタンパク質分解酵素であり、その基質には、エラスチン、フィブロネクチンおよびコラーゲンのような種々の細胞外マトリックスタンパク質、ICAM−1および接合部カドヘリンのような接着分子が含まれ、これは、細胞経内皮移動遊走を促進することにおける、エラスターゼの役割を示唆している[Ginzberg、2001]。さらに、エラスターゼは、多数の可溶性タンパク質様凝固因子、免疫グロブリン、補体、プロテアーゼ阻害剤、サイトカイン、増殖因子およびそれらのレセプターを分解する[Bank、2001][Lee、2001]。
【0015】
白血病の臨床および研究室特徴は、正常の血液細胞の形成の抑制、および悪性クローンによる組織浸潤によって引き起こされる。白血病細胞によって産出される阻害因子、または骨髄空間の置換が、正常の造血を抑制しえ、貧血、血小板減少症および顆粒球減少症を確かにする。白血病細胞の器官浸潤は結果として、肝臓、脾臓およびリンパ節、ときおり肝臓および性腺関与の増大となる。髄膜浸潤が、結果として、頭蓋内圧の増加と関連した臨床特徴となる(たとえば頭蓋神経麻痺)。
【0016】
白血病は本来、生存予想に基づいて、急性または慢性と呼ばれていたが、現在は、細胞の成熟度に関連して分類されている。急性白血病は、主に未熟の細胞(通常芽形態)からなり、慢性白血病は、より成熟した細胞からなる。
【0017】
急性白血病は、リンパ性(ALL)および骨髄性(AML)型に分けられ、これはさらに、フレンチ−アメリカン−ブリティッシュ(FAB)分類(表A)または免疫表現系にしたがって、形態学的および細胞化学的外観によって分けられうる。フローサイトメトリーと一緒に、特定のB−細胞およびT−細胞、および骨髄−抗原モノクローナル抗体が、ALL対AMLを分類するために非常に助けとなり、治療のために重要である。
【0018】
【表1】

【0019】
慢性白血病は、リンパ性(CLL)または骨髄性(CML)と記述されている。
【0020】
骨髄異形成症候群は、進行性骨髄不全をあらわすが、AMLの明確な診断に関して、芽細胞の割合は不十分(<30%)であり、40〜60%の場合が、AMLに発展する。
【0021】
急性骨髄芽球性白血病(AML)は、その成熟工程にて停止された悪性骨髄始原細胞のBM内での制御されていない増殖と、これらの異常細胞の循環内への放出によって特徴づけられる。先行研究によって、高レベルの細胞内エラスターゼ活性、およびAMLによるエラスターゼタンパク質の分泌が報告された[Hunter、2003]。
【0022】
白血病細胞は、MMP−2、MMP−9、MT1−MMP(Riesら Clinical cancer research 1999、(5)1115)およびエラスターゼのような、種々のプロテアーゼを高レベルで発現しているようである。
【0023】
最近の証拠によって、エラスターゼが、フィラデルフィアクロモソームと関連した、慢性骨髄性白血病の発達において、そして、慢性相(CML−CP)のみの元での患者において、役割を果たすことが明らかになった[El−Ouriaghli、Blood 15 Volume 102 number 10、2003]。El−Ouriaghliは、CML細胞増殖および正常始原細胞(NPC)増殖両方が、エラスターゼによって阻害されるが、CML増殖は、より低い程度阻害されることを報告している。
【0024】
G−CSFは、NPCの増殖を誘導する増殖因子である。El−Ouriaghliにしたがって、エラスターゼは、増殖を直接は阻害しないが、G−CSF、およびG−CSFレセプターを消化することによって(Hunterら 2003)、そして結果としてNPC増殖をさせることによって、阻害する。El−Ouriaghoiは、CML細胞増殖が、NPCと比較して、外部伝達した増殖因子に依存しないので、CMLは、エラスターゼによって影響を受けにくいが、完全に不感受性というわけではないことを説明している。
【0025】
El−Ouriaghliは、MM−9、プロテアーゼ3のような好中球セリンプロテナーゼ、またはカテプシンGのような、そしてCML中のエラスターゼを含む、異なるプロテアーゼの持続濃度が、CML患者の血中への特徴的な未熟骨髄細胞の導入に関して関与しうることを示唆している。
【0026】
SDF−1/CXC4相互作用が、NOD/SCID不全マウス内に移植した正常ヒト幹細胞のホーミングおよび再移住に関して重要である[Kollet、2001][Peled、1999]。本発明者らは最近、NOD/SCID/B2mnullマウスでの、BMおよび脾臓への、悪性ヒトAMLおよびプレB ALL細胞のホーミングもまた、CXCR4に依存することを示した[Tavor、2004、Asaf、Blood]。
【0027】
急性前骨髄球性白血病(APL)の患者の90%以上で存在する転座が、2つの融合タンパク質PML−RARとRAR−PMLを産出する。エラスターゼによるタンパク質分解処理が、最近、APLの発達において重要な役割を果たすことが示唆された。Laneら(Cell vol115 305,2003)は、急性前骨髄球性白血病(APL)に関連した融合タンパク質PML−RARが、好中球エラスターゼによって開裂されること、および好中球エラスターゼ欠損マウスが、APLの発達から、部分的に保護されること、を示した(Lane、2003)。
【0028】
より最近、エラスターゼの使用が、白血病反応性細胞傷害性T細胞を誘導するための、白血病の治療のために提案された(Fujiwaraら、2004 Blood、103(5)3076)。
【0029】
したがって、白血病を治療するための、実現可能な治療方法が提供される必要性が存在する。
【発明の開示】
【0030】
本発明は、白血病、好ましくは急性白血病の治療のための、より好ましくはAMLの治療のための医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0031】
本発明の1つの実施態様において、エラスターゼ阻害剤は、エラスターゼ−中和抗体、MeOSuc−AAPV−CMKまたはa1−アンチトリプシンである。
【0032】
他の実施態様において、本発明は、急性白血病、好ましくはAMLのような白血病を患っている患者における、造血幹細胞(HSC)自己移植を補助するための、医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤、および任意には動員剤(mobilizing agent)の使用に関する。
【0033】
さらなる実施態様において、本発明は、急性白血病、好ましくはAMLのような白血病を患っている患者において、造血器官、好ましくは骨髄から血液への白血病細胞の放出を防止または阻害するための医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0034】
他のさらなる実施態様において、本発明は、白血病細胞の遊走を防止または阻害するための、医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0035】
他のさらなる実施態様において、本発明は、急性白血病、好ましくはAMLのような、白血病細胞の増殖を防止または阻害するための医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0036】
他のさらなる実施態様において、本発明は、患者から抽出された細胞の混合物をエラスターゼ阻害剤と共にインキュベートする段階、および高速遊走細胞、好ましくはSDF−1勾配に遊走する細胞を回収する段階を含む、該細胞の混合物中で白血病細胞から正常造血幹細胞を分離するための、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0037】
他のさらなる実施態様において、本発明は、必要としている患者にエラスターゼ阻害剤を投与することを含む白血病の治療方法に関する。
【0038】
他のさらなる実施態様において、本発明の方法は、急性白血病および好ましくはAMLに関する。
【0039】
他のさらなる実施態様において、本発明の方法は、エラスターゼ−中和抗体、MeOSuc−AAPV−CMKまたはa1−アンチトリプシンのようなエラスターゼ阻害剤に関する。
【0040】
他のさらなる実施態様において、本発明は、動員剤を投与する段階、動員された細胞をエラスターゼ阻害剤に接触させる段階、細胞を回収する段階、および細胞を患者に移植して戻す段階を含む、白血病を患っている患者における、造血幹細胞(HSC)自己移植の方法に関する。本発明の好ましい実施態様において、エラスターゼ阻害剤を動員された細胞に接触させる段階が、患者に細胞を移植して戻す前に、生体外で実施される。
【0041】
他のさらなる実施態様において、本発明は、エラスターゼ阻害剤の投与を含む白血病を患っている患者の治療方法に関する。
【0042】
他のさらなる実施態様において、本発明は、エラスターゼ阻害剤を、白血病を患っている患者に投与することを含む、該患者において、造血器官から血液への、白血病細胞の放出を防止または阻害する方法に関する。
【0043】
他のさらなる実施態様において、本発明は、急性白血病を患っている患者の骨髄中のエラスターゼの濃度をモニタする段階を含む、該患者における、白血病細胞の成熟段階を診断する方法に関する。
【0044】
他のさらなる実施態様において、本発明は、患者から抽出された細胞の混合物をエラスターゼ阻害剤と共にインキュベートする段階、および高速遊走細胞、任意にSDF−1勾配中を遊走する細胞を回収する段階を含む、正常造血幹細胞および白血病細胞の該混合物を分離する方法に関する。
【0045】
他のさらなる実施態様において、本発明は、免疫不全マウスにヒト白血病細胞を注射すること、および前記細胞を骨髄に移植して、キメラマウスを得ることを含む、白血病細胞の放出を評価するための動物モデルに関する。
【0046】
他のさらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルの使用を含む、白血病細胞の放出または増殖を阻害または防止することが可能な薬物を単離する方法に関する。
【0047】
他のさらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを使用することによって得られうる、白血病細胞の放出または増殖を阻害または防止することが可能な薬物に関する。
【0048】
他のさらなる実施態様において、本発明は、本発明の分離方法を用いて得られうる、細胞調製物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明は、白血病の治療のための、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0050】
1つの態様において、本発明は、正常幹細胞、とりわけ移植により好適な幹細胞の系列の増殖を促進させるとともに、白血病細胞の増殖を阻害するための、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0051】
他の態様において、本発明は、たとえば骨髄のような患者の造血器官から、循環内への、白血病細胞の遊走および放出を防止するためのエラスターゼ阻害剤の使用、および白血病細胞の放出を阻害することが可能な薬物のスクリーニングのためのアッセイに関する。
【0052】
さらなる態様において、本発明は、白血病患者における自己移植を補助するための、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0053】
さらに、本発明は、白血病患者中の白血病細胞の成熟ステージを検出するための診断方法に関する。
【0054】
本発明はしたがって、さらに、白血病を治療するための医薬の製造のための、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0055】
本発明は、慢性白血病および、好ましくは急性前骨髄球性白血病(APL)および急性骨髄性白血病(AML)などの急性白血病のような任意の種類の白血病の治療における、エラスターゼ阻害剤の使用に関する。
【0056】
本発明は、以下のインビトロ実験の発見に基づいている:
AML細胞は、外部刺激に独立してエラスターゼを分泌するだけでなく、細胞表面上に均質にアセンブルしたエラスターゼを構造的に発現もする。Cepinskasら、(1999)は、活性好中球にて、可溶性エラスターゼとは異なり、膜結合エラスターゼが触媒活性的であり、循環プロテアーゼによるタンパク質分解に耐性であることを示唆した。したがって、AMLの膜エラスターゼは、循環プロテアーゼによる、タンパク質分解から保護され、AML細胞を、骨髄ECM(細胞外マトリックス)および内皮バリアに浸潤可能にし、循環内へのその散布を促進する。生体内で得られた結果により、膜結合エラスターゼの役割は、BM内皮のような、機械的バリアを介したAML浸潤を補助することだけでなく、3つの異なるエラスターゼ阻害剤MeOSuc−AAPV−CMK(EI)、a1−アンチトリプシンまたは抗エラスターゼ抗体を用いてインビトロ遊走アッセイにて観察されたように、たとえば、細胞骨格再編成および細胞極性化を誘導することによって、エラスターゼが、AML運動性(方向的、SDF−1依存、および突発性遊走両方)のために必要であることが示される。
【0057】
NOD/SCID/B2mnullマウス中の、悪性ヒトAMLおよびプレB ALL細胞の、BMおよび脾臓へのホーミングがまた、SDF−1/CXCR4相互作用に依存することが最近示された[Tavor、2004、Asaf、Blood]。AML遊走におけるエラスターゼの役割を示している以上の結果をみると、SDF−1が、エラスターゼ調節において役割を有し得ることが予想された。実際、本発明にしたがって、SDF−1が、細胞表面エラスターゼの発現を調節し、AMLにおいてと、正常CB CD34+細胞において、反対の効果をもつことが発見された。SDF−1は、AML細胞中の表面エラスターゼを増加させたが、正常CB CD34+濃縮細胞上の表面エラスターゼを減少させた。
【0058】
AMLは、BM内での、過剰で、制御されていないAML細胞によって特性化される。したがって、本発明者らは、エラスターゼがAML細胞増殖の調節にも関与しうる可能性を確認した。
【0059】
AML増殖におけるエラスターゼの役割を試験するために、AML細胞(初代AML細胞)、または正常臍帯血(CB)CD34+濃縮細胞を、エラスターゼ阻害剤(EI)あり、またはなしでの増殖培地中で増殖させ、生細胞の数を、培養中で、数日後に測定した。得られた結果によって、AML細胞の増殖が、エラスターゼ阻害剤の存在下で細胞を培養することによって阻害され、一方で、エラスターゼ阻害剤が、同様の条件にて培養した、正常CB CD34+の増殖速度を増強したことが示されている。さらに、本発明者らは、CD34+/38−系列のより未熟な始原細胞が、EIの存在下で、培養中で3日後に、有意に増加したことを発見し、これは、正常幹細胞の分化におけるエラスターゼの役割を示唆している。したがって、エラスターゼが、AML増殖のために必要であること、およびエラスターゼ阻害剤が、AML増殖を阻害すること、および正常CD34+細胞の増殖を増加させるだけでなく、加えて、培養中での、未分化始原移植コンピテントCD34+/38−幹細胞を維持したことが示されている。
【0060】
本発明はまた、ヒトAML幹細胞の、骨髄へのホーミングおよび移植(または確立)、および骨髄からの放出を可能にし、したがって、患者における、ヒトAMLの多くの生物学的観点を模倣する、前臨床免疫不全NOD/SCIDマウス実験モデルを用いた、以下の生体内実験発見に基づいてもいる(Lapidot Nature 1994)。
【0061】
実験モデルにおいて、ヒト(ドナー)細胞、たとえばAML細胞を、亜致死照射、非肥満糖尿病重度混合免疫不全(NOD/SCIDまたはB2mnull NOD/SCID)マウス(レシピエント)に投与し、細胞投与の数時間後(たとえば16時間)、特定の器官(たとえば骨髄)に到着している、またはホーミングしているヒト細胞をモニタする(Kolletら 2001)。
【0062】
ホーミングモデルを用いて得られた結果によって、EI前処理初代AML細胞、または濃縮CD34+ AML始原細胞のホーミングが、未処理細胞と比較して減少したことが示されている。AMLと反対に、EI前処理正常ヒトCD34+濃縮細胞のホーミングが、未処理細胞と比較して増加した。一緒に考えると、これらの結果は、AMLホーミングにおけるエラスターゼの中心的役割と、骨髄性白血病CD34+細胞中、および正常CD34+細胞中の、ホーミングにおける、エラスターゼおよびエラスターゼ阻害の反対の効果を示している。
【0063】
キメラ免疫不全NOD/SCIDマウスおよびAMLによって、骨髄から循環へのヒトAML幹細胞の放出を試験することが可能なる(放出モデル)。放出モデルは、AML細胞を注射し、ヒトAML−マウスキメラ(移植)を確立した、亜致死照射NOD/SCIDマウスからなる。骨髄から循環へのAML放出を、AML注射後約2〜4週間モニタする。このAML放出モデルを用いて、骨髄からのAML放出における薬物投与の効果を試験することが可能である。
【0064】
本発明者らの結果が、AML細胞の遊走におけるエラスターゼの役割を示したので、本発明者らは、エラスターゼが、BMから循環へのAMLの放出を促進する候補プロテアーゼでありうると仮説を立てた。したがって、本発明者らは、放出モデルを用いて、AML細胞の放出におけるEIの効果を試験した。得られた結果によって、AML細胞(初代および細胞株)の放出が、未処理マウスと比較して、EI処理マウスで減少したことが示されている(図5および表1 表B)。したがって、これらの結果によって、エラスターゼがヒトAML放出を制御すること、およびエラスターゼ阻害が、骨髄から循環へのAML細胞放出を効果的に押さえうること、が示されている。
【0065】
本発明の実施態様は、エラスターゼ阻害が、AML増殖、BMからのAML遊走およびAML放出を阻害することを示している。したがって、エラスターゼ阻害を、AMLを治療するために使用可能である。
【0066】
本発明者らは、AMLおよび正常造血幹および始原細胞のホーミングおよび増殖におけるエラスターゼの異なる効果を示し、これは、白血病患者からのAML細胞を本質的に含まない、造血幹細胞の集団を得るために、有利に使用可能である。たとえば、患者から抽出した、正常造血幹細胞と白血病細胞の混合物を、エラスターゼ阻害剤を含む培地中で増殖可能であり、正常造血幹細胞で濃縮された細胞集団からなる、任意にSDF−1勾配中で、高速遊走している細胞を回収可能である。
【0067】
本発明者らはまた、AMLの骨髄中のエラスターゼが、白血病細胞の成熟ステージと相関し、たとえば、最も高いBMエラスターゼ濃度が、M3およびM4 AMLサブタイプでみられ、未分化M0 AMLの骨髄中では、非常に低いレベルであり、したがって、白血病患者のBM中のエラスターゼのレベルをモニタすることを、たとえば実施例1で示したように、患者におけるAML細胞の成熟ステージを診断するために使用可能であることを示した。
【0068】
本発明の文脈中の語句「エラスターゼの阻害剤(inhibitor of elastase)」は、エラスターゼ産出および/または活性が減衰、減少または部分的、本質的または完全に抑制またはブロックされる方法で、エラスターゼ産出および/または活性を調節する任意の分子を意味する。語句「エラスターゼ阻害剤(elastase inhibitor)」は、エラスターゼ産出の阻害剤、ならびにエラスターゼ活性の阻害剤を含んで意味する。エラスターゼ阻害剤は、低分子であるか、またはポリペプチドまたはペプチドでありうる。
【0069】
産出の阻害剤は、エラスターゼの合成、処理または成熟に陰性に影響を与える任意の分子であり得る。本発明にしたがって考慮される阻害剤は、たとえば、エラスターゼの遺伝子発現の抑制物、エラスターゼmRNAの転写を減少させるかまたは防止し、mRNAの分解を導くアンチセンスmRNAs、正確なホールディングを損なわせ、またはエラスターゼの分泌を部分的または本質的に防止するタンパク質、いったん合成されたらば、エラスターゼを分解するプロテアーゼ、エラスターゼ活性化の阻害剤および顆粒から細胞表面へのエラスターゼ分泌の阻害剤でありうる。エラスターゼ活性の阻害剤は、a1アンチトリプシンのような天然の阻害剤でありうる。エラスターゼのアンタゴニストは、十分な親和性および特異性で、エラスターゼ分子それ自身に結合するか、または隔離し、エラスターゼのそのリガンドへの結合の原因である、エラスターゼまたはエラスターゼ結合部位(群)を部分的または本質的に中和する。
【0070】
エラスターゼ活性の阻害剤は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体のようなエラスターゼ抗体、またはその標的へのエラスターゼの結合を防止し、したがって、エラスターゼによって仲介される反応を減弱または防止する任意の他の試薬または分子でありうる。
【0071】
本発明の好ましい実施態様において、エラスターゼの阻害剤は、EI、エラスターゼに直接対するa1アンチトリプシン抗体、エラスターゼと競合するエラスターゼのアンタゴニスト、エラスターゼ結合タンパク質から選択される。
【0072】
本発明の文脈内で、表現「遊走(migration)」および「ホーミング」は、同意語として使用されている。
【0073】
本発明にしたがって使用されるべき、造血ヒト幹および/または前駆細胞は、ヒト臍帯血細胞のような、胎児および/または新生児のもの、および/または成人幹細胞(たとえば骨髄、記述したような移動末梢血液細胞)でありうる(Kolletら、2001)。幹および/または前駆体細胞の供給源は、(HLA−ミスマッチドナー)同種異系、好ましくは(HLA−マッチサブリングスのような)同型、およびもっとも好ましくは自己(すなわち患者本人より由来する)であってよい。
【0074】
幹細胞および/または始原細胞は、G−CSFのような移動誘導試薬で処理したドナーまたは患者の末梢血から、または外科診療によって骨髄から、回収および単離可能である。G−CSFは、造血器官、たとえば骨髄から末梢血への、幹細胞および/または始原細胞の移動を誘導する。
【0075】
造血幹および始原細胞は、標準の技術(Koletら、2001)によって、前記造血供給源中の成熟血液細胞とのそれらの細胞混合物から単離され、たとえば、血液試料を、Mg2+/Ca2+なしの、リン酸緩衝食塩水(PBS)中で1:1に希釈する。低密度単核細胞を、Ficoll−Paque(ファルマシア バイオテック(Pharmacia Biotech)、ウプサラ、スウェーデン)上での標準の分離の後に回収して、PBS中で洗浄した。CD34+細胞を、取扱説明書にしたがって、MACS細胞単離キットおよびMidiMacsカラムまたはAutoMACS(ミルテニ バイオテック(Miltenyi Biotec)、ベルジッヒ・グラバッハ(Bergisch Gladbach)、ドイツ)を用いて、単離可能であり、95%以上の純度を得ることができる。単離されたCD34+細胞を、ホーミング実験のために直後に、または10%牛胎児血清(FCS)または血清フリーおよび幹細胞因子(SCF)(50ng/mL)を含むRPMIとともに一晩インキュベートした後に使用可能である。種々の技術を使用して、まず、専用の系統の細胞を除去することによって細胞を分離可能である。特定の系列のマーカーを認識している抗体、たとえば、CXCR4レセプターに対する抗体を、必要とする細胞の分離のために使用可能である。また、濃縮CD34+細胞をさらに、ヒト特異的モノクローナル抗体(mAb)抗−CD34 FITC(ベクトン ディッキンソン(Becton Dickinson)、サンジョゼ、カリフォルニア)および抗−CD38 PE(ベクトン ディッキンソン、サンジョゼ、カリフォルニア)で標識化し、FACSVentage(ベクトン ディッキンソン)によって、CD34+CD38-/low−またはCD34+CD38+−精製亜集団に関してソート可能であり、97%〜99%の純度が得られうる。
【0076】
異なる効果の種々の技術を用いて、細胞の濃縮調節物をえることが可能である。そのような細胞の濃縮した調製物は、総細胞の10%まで、通常5%以下、好ましくは約1%以下である。
【0077】
HSC/始原細胞系列の分離のための手順には、物理的分離、たとえば密度勾配遠心、細胞表面(レクチンおよび抗体親和性)、磁気分離などが含まれる。よい分離を提供する好ましい技術は、フローサイトメトリーである。
【0078】
細胞表面マーカーの存在または不在を決定する方法が、本技術分野でよく知られている(Encuclopedia of Immunology Ed.Roitt、Delves、Vol−1 134)。典型的に、マーカーに特異的な標識化抗体を使用して、細胞集団を同定する。ヒト細胞表面マーカーThy−1およびCD34に特異的な試薬が、本技術分野で公知であり、市販されている。
【0079】
末梢血内に幹細胞を移動するための方法が、本技術分野で公知であり、一般的に、化学治療薬剤、たとえばシクロホスファミド(CY)、およびサイトカイン類、たとえばG−CSF、GM−CSF、G−CSF+IL3などでの処理が含まれる。
【0080】
化学治療処置ありおよびなしで、サイトカイン刺激によって移動された、単離した患者の造血幹細胞を、ホーミングコンポーネント造血幹細胞の生存および増殖を支持し、白血病細胞の増殖(proliferation)/増殖(growth)を阻害するために、エラスターゼ阻害剤で、移植前に、生体外で処理可能である。
【0081】
エラスターゼ阻害試薬を産出している遺伝的に改変したHSCを、本発明の方法にしたがって使用してよい。HSCおよび/または前駆体への遺伝子伝達は、Zhengら、2000およびLottiら、2002にて記述されたような、治療試薬、たとえばエラスターゼ阻害剤をコードしている、アデノ−関連ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスおよびアデノ−レトロウイルスキメラの形質導入によって実施可能である。そのような遺伝的に改変されたHSCを、白血病患者において、本発明にしたがって使用可能である。
【0082】
エラスターゼ阻害剤の内部産出を誘導するおよび/または増強するためのベクターの使用もまた、本発明にしたがって企図される。ベクターには、内生エラスターゼ阻害剤を発現するために好適な細胞内での調節配列機能が含まれる。そのような調節配列は、プロモーターまたはエンハンサーであってよい。調節配列をついで、相同組換えによって、ゲノムの正しい座内に導入し、したがって調節配列を、その配列が誘導または増強されることが必要である遺伝子に動作可能に連結する。この過剰発現は安定であるか、または一過性でありうる。本技術は通常、「内生遺伝子活性化(endogenous gene activation)」(EGA)とよばれ、たとえば国際公開第91/09955号パンフレットで記述されている。
【0083】
a1 アンチトリプシンンのような天然のエラスターゼ阻害剤に加えて、悪性ヒトAML細胞中でのエラスターゼ活性を誘導する、SDF−1またはそのレセプターCXCR4の阻害もまた使用可能である(実施例7を参照のこと)。AML上でのエラスターゼ活性化も防止する、SDF−1およびCXCR4阻害剤は、たとえば、抗SDF−1および抗CXCR4抗体、AMD3100、TC140および、または、リガンドおよび、またはレセプターを不活性化する、タンパク質分解酵素を含む、本ケモカインおよびレセプターの任意の他の阻害剤である(CD26 MMP2/9、カセプシンG)。
【0084】
エラスターゼ阻害剤を、悪性細胞増殖を防止することによって、白血病負荷を減少させるために、白血病を患っている患者に投与可能である。動員剤との組み合わせでのエラスターゼ阻害剤を、HSCおよび/または始原移植の前、間または後に、白血病を患っている患者に投与可能であり、そこで、移植は自己または異種である。
【0085】
本発明はまた、阻害剤を、生理学的に許容可能な担体、および/または安定剤および/または賦形剤と混合することによって、EI、a1−アンチトリプシン阻害剤、抗エラスターゼ抗体、SDF−1阻害剤、CXCR4阻害剤、または阻害剤の混合物のようなエラスターゼ阻害剤の投与のために調製し、たとえば投与バイアル中での凍結乾燥によって、投与形態中で調製した薬理学的組成物に関する。
【0086】
本発明はさらに、治療的に効果的な量のエラスターゼ阻害剤を含む、とりわけ、白血病細胞増殖および/または造血器官から末梢血への放出を防止するために有用である薬理学的組成物に関する。
【0087】
本発明はさらに、白血病を患っている患者の治療のための、薬理学的に許容可能な担体と、エラスターゼ阻害剤、たとえばEIまたは阻害剤の混合を含む、薬理学的組成物に関する。好ましくは、エラスターゼ阻害剤は、細胞移動の前、後、または間に、患者に直接注射することによって投与しうる。
【0088】
あるいは、内生エラスターゼ阻害剤を、好ましくは、内生エラスターゼ阻害剤を誘導する試薬を投与することによって誘導してよい。
【0089】
以上で記述したように、エラスターゼ阻害剤は、薬理学的組成物の好ましい活性成分である。
【0090】
薬理学的組成物は、薬理学的に許容可能な担体、EI、a1−アンチトリプシン阻害剤、抗エラスターゼ抗体、SDF−1阻害剤、CXCR4阻害剤、またはこれらの混合物を含んでよく、および任意にさらに1つまたはそれ以上の動員剤を含む。
【0091】
「薬理学的に許容可能」の定義は、活性成分の生物学的活性の効果と干渉せず、投与される宿主に毒性ではない、任意の担体を含むことを意味する。たとえば、非経口投与のために、活性成分を、食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミンおよびリンガー溶液のような賦形剤中に、注射のためのユニット投与形態中で処方してよい。
【0092】
本発明にしたがった薬理学的組成物の活性成分は、種々の方法にて、個体に投与可能である。投与の治療的に効果的な経路が、たとえば、上皮または内皮組織を介した吸収、または活性試薬をコードしているDNA分子を(たとえばベクターを介して)患者に投与し、結果として、活性試薬が、生体内で発現し、分泌される、遺伝子治療によって使用可能である。さらに、本発明にしたがったエラスターゼ阻害剤(類)を、薬理学的に許容可能な界面活性剤、賦形剤、担体、希釈液および賦形剤のような生物学的に活性な試薬の他の成分とともに投与可能である。
【0093】
非経口(たとえば静脈内、筋肉内)投与のために、活性エラスターゼ阻害剤(類)を、薬理学的に許容可能な非経口賦形剤(たとえば水、生理食塩水、デキストロース溶液)および等張性(たとえばマンニトール)、または化学的安定性(たとえば保存剤および緩衝液)を維持する添加剤とともに、溶液、懸濁液、エマルジョンまたは凍結乾燥粉末として処方可能である。処方は、一般的に使用されている技術によって滅菌する。
【0094】
本発明にしたがった活性エラスターゼ阻害剤(類)のバイオアベイラビリティーをまた、ヒト体内での分子の半減期を増加させる連結手順を用いて、たとえば、国際公開第92/13095号パンフレットで記述されたように、分子をポリエチレングリコールに連結して、改良可能である。
【0095】
治療的に効果的な量の活性分子は、使用する分子の型、分子によって提示される任意の残余細胞毒性活性、投与経路、患者の臨床的な状態を含む、多くの変数の関数であり得る。
【0096】
「治療的に効果的な量(therapeutically effective amount)」は、投与したときに、エラスターゼ阻害剤が結果として、循環への白血病細胞の放出を減少させるか、またはその増殖を減少させる、および/または遊走および/またはホーミングを減少させることである。個体へ、単一または多重用量として投与された用量は、分子薬物動態学的特性、投与経路、患者の状態および特性(性別、年齢、体重、健康、大きさ)、症状の程度、平行治療、治療の頻度および望む効果を含む、種々の因子に依存して変化しうる。確立した用量範囲の適合および操作を、当業者は心得ており、個体における分子の効果を決定する生体内および生体内法も同様である。
【0097】
本発明にしたがって、エラスターゼ阻害剤、たとえばEI、a1−アンチトリプシン阻害剤、抗エラスターゼ抗体、SDF−1阻害剤、CXCR4阻害剤またはこれらの混合物を、治療的に効果的な量で、他の治療レジメ(たとえば多重薬物レジメ)または試薬、とりわけ、移植HSCおよび/または始原細胞、および/または動員剤の前に、同時に、または連続して、個体に投与可能である。
【0098】
本発明はさらに、薬理学的に効果的な量のエラスターゼ阻害剤を、それらを必要とする患者に投与することを含む、白血病を治療する方法に関する。
【0099】
本明細書で完全に本発明を記述しているが、同様なものを、本発明の精神および目的から逸脱しない限り、そして不必要な実験なしに、広い範囲の等価なパラメータ、濃度および条件で実施可能であることが、当業者によって理解されるであろう。
【0100】
本発明は、その特定の実施態様に関連して記述されているが、さらなる改変が可能であることが理解されるであろう。本明細書は、一般的に、本発明の原理にしたがって、本発明の任意の変化、使用または適合をカバーし、本発明が属する技術内の公知または習慣的な実施内に入る、そして、本明細書以上で列記された重要な特徴に適合可能であり得、付随する請求項の目的内である、本発明からの変化が含まれる。
【0101】
雑誌記事または要約、発行されたまたは未発行の米国または海外特許明細書、付与された米国または外国特許または他の参考文献を含む、本明細書で引用されたすべての参考文献は、参考文献内で引用されたすべてのデータ、表、図および文章を含んで、すべて本明細書で、参考文献にて組み込まれている。さらに、本明細書で引用されている参考文献内に引用されている参考文献の全内容もまた、すべて組み込まれている。
【0102】
公知の方法段階、従来の方法段階、公知の方法または従来の方法に対する参照は、本発明の任意の態様、記述または実施態様が、関連技術分野で開示され、教義されまたは提案されていることを許容する方法ではない。
【0103】
特定の実施態様の以上の記述は、(本明細書で引用された参考文献の内容を含む)当業者の知識を適用することによって、他者が、不必要な実験なしに、本発明の一般的なコンセプトから逸脱することなしに、そのような特定の実施態様の種々の適用に対して、簡単に改変および/または適合可能である、本発明の一般的な特性を完全に明らかにするであろう。したがって、そのような適合および改変は、本明細書で示された教義およびガイダンスに基づいて、広範囲の開示された実施態様の等価物の意味内であることが意図されている。本明細書での語句または用語は、記述の目的であり、制限の目的でなく、本明細書の語句または用語は、当業者の知識と組み合わせて、本明細書で示された教義およびガイダンスに関して、当業者によって解釈される。
【実施例】
【0104】
実施例1:初代ヒトAML細胞が、循環中の芽細胞レベルと相関する、異常に多量のエラスターゼを分泌する。骨髄(BM)および末梢血(PB)血清中に分泌されたエラスターゼを、異なるFAB(フレンチ−アメリカン−ブリティッシュ分類、上記表Aを参照のこと)サブタイプを有する10人のAML患者において、ELISA(取扱説明書にしたがって、ベンダー メドシステムズ(Bender MedSystems)、サンブルノ(San Bruno)、カリフォルニア)によって定量した。本発明者らは、試料のうちBMおよびPB中でのエラスターゼの量の変化を発見した(図1A)。興味深いことに、BM中のエラスターゼのレベルと、AMLのサブタイプ(またはFAB)の間に相関が観察された。たとえば、ほとんど分化していないAML型(M0)では、骨髄中のエラスターゼは非常に低いレベルであるが、一方で、より分化された細胞では、より高い酵素レベルを示した。APLおよび骨髄単球性白血病(M4)では、BM中に分泌されたエラスターゼが、非常に多量であった(図1A)。しかしながら、PB中のエラスターゼの量の変化と、異なるAMLサブタイプ間では相関が見られなかった。正常な個体のPB血清と比較した場合、ほとんどのAML患者に、有意に高い濃度のエラスターゼが検出された(図1B)。注目すべきは、循環中にほとんど芽細胞を持たない、2人のAML患者(M2およびM5)において、エラスターゼのレベルは正常であると検出されたことである(図1B)。この発見によって、PBエラスターゼの濃度が、循環白血病芽細胞の数と相関しうることが示唆される。実際、本発明者らが、血清中の分泌されたエラスターゼタンパク質の量と、末梢血中のAML芽細胞の数を比較した場合、これらのパラメータ間での有意な相関が見られた(図1C)。これらの結果によって、血清中の分泌されたエラスターゼタンパク質のレベルが、血中に存在するAML芽細胞によることが例証され、エラスターゼが、悪性AML細胞散布(dissemination)に関与しうることが示唆される。注意することは、白血球細胞数は高いけれども、M0型患者由来のPB血清中では、エラスターゼ濃度は非常に低かった(WBC)。
【0105】
実施例2:AML細胞は、それら細胞表面上に、構造的にエラスターゼを発現している。好中球にて、エラスターゼ発現が、好中球活性化の後、または該細胞が死ぬときに発生する脱顆粒化の間に誘導される。エラスターゼは、活性化好中球のならし培地中でみることができる。しかしながら、活性化好中球はまた、膜結合エラスターゼを発現し、化学走化性シグナルにおいて、遊走好中球のリーディングエッジ上で再局在化する(Cepinska、1999)。
【0106】
AML細胞が、エラスターゼ発現のダウンレギュレート活性化を示したので、本発明者らは、4つのAML細胞株(HL−60、U937、ML−1、ML−2)ならびに初代AML細胞におけるエラスターゼの発現レベルおよび局在化を調査した。
【0107】
初代AMLおよび細胞株上、または正常CB CD34+濃縮細胞上の細胞表面エラスターゼを、以下のようにフローサイトメトリーによって解析した。AML細胞を、ポリクローナルウサギ抗ヒトエラスターゼ(バイオデザイン(Biodesign)、ケネバンクポート(Kennebunkport)、メイン)とともに30分間インキュベートし、洗浄し、抗体の結合を、二次抗−ウサギ−FITCを用いて検出した(図2A、上パネルおよび2B)。
【0108】
細胞質エラスターゼを以下のように検出した。細胞内フローサイトメトリーによって、4%パラホルムアルデヒド中、20分間の固定化、および0.5%トライトン中10分間の浸透化後、染色化(図2A下パネル)。このアプローチを用いて、本発明者らは、AML細胞の表面上に、高レベルのエラスターゼを発見した。FACSに加えて、本発明者らは、免疫蛍光顕微鏡によって、膜−結合エラスターゼの存在を確認した(図2B)。
【0109】
さらに、本発明者らは、CXCR4とエラスターゼ間の共局在化がないことを発見した(データは示していない)。
【0110】
これらの結果によって、AML細胞が、外部刺激に独立してエラスターゼを分泌するだけでなく、構造的に、細胞表面上に相同的にアセンブルしたエラスターゼを発現することが示唆される。Cepinskasら、(Journal of Cell Science 112、1937、1999)は、活性化好中球中の膜結合エラスターゼが、触媒活性的であり、循環プロテアーゼによるタンパク質分解に耐性であることを示唆した。したがって、AML細胞中の膜結合エラスターゼによって、AML細胞が、骨髄内皮バリアに浸潤可能になり、それらの循環中への散布を促進しうる。
【0111】
実施例3:エラスターゼ阻害剤は、AML細胞のSDF−1誘導性遊走を減少させる。AML細胞の遊走におけるエラスターゼの役割を研究するために、本発明者らは、生体内トランスウェルアッセイによって、自発的、またはSDF−1誘導性AML遊走におけるエラスターゼ阻害の効果を評価した。遊走アッセイは以下のように実施した。125ng/mL 組換え体ヒトSDF−1(rhSDF−1)(ペプロテック(Peprotech)、ロッキーヒル、ニュージャージー)の存在下または非存在下で、10%FCSを含む、合計600mLのRPMIを、5mm孔フィルター(コーニング(Corning)、ニューヨーク)を備えたコスター(Costar)24−ウェル トランスウェルプレートの下チャンバーに加えた。30分間の、エラスターゼ阻害剤(EI)MeOSuc−AAPV−CMK(10μg/ml カルビオケム(Calbiochem)、ラ・ホーヤ、カリフォルニア)またはモノクローナルマウス抗ヒト好中球エラスターゼAb(70μg/mlを50〜100μl、ダコ(Dako)、グロストラップ(Glostrup)、デンマーク)での前処理あり、またはなしで、10万の初代MNC白血病細胞またはAML細胞株を上チャンバーに加え、37℃にて4時間、下チャンバーへ遊走させた。遊走細胞を下チャンバーから回収し、FACSCalibur(ベクトン ディッキンソン)を用いて計数した。
【0112】
生体内アッセイによって得られた結果は、AML細胞、初代および細胞株の、5〜10μg/ml EIとの30分間の前インキュベートが、細胞のSDF−1依存遊走を有意に減少させたことを示した(p=0.039)(図3A)。SDF−1非存在下での、自発性遊走もまた減少した(データは示していない)。AML遊走におけるエラスターゼの役割を確かめるために、本発明者らは、同様のアッセイにて、EIの代わりに、中和抗−エラスターゼAbs、またはプロテアーゼ阻害剤a1−アンチトリプシン阻害剤 100μg/mlを用いた(それぞれ図3BおよびC)。抗体およびプロテアーゼ阻害剤で得られた結果は、EIで得られた結果と同様であり、AML遊走におけるエラスターゼの役割を確認した。
【0113】
これらの観察によって、エラスターゼが、自発性およびSDF−1依存性AML遊走両方に対して重要であることが例証される。エラスターゼ阻害による遊走の減少が、結局CXCR4発現の減少によるのかどうかを試験するために、本発明者らは、AML CXCR4発現におけるエラスターゼ阻害の効果を試験した。本発明者らは、EIは、FACSによって試験したように、細胞表面CXCR4発現のレベルを変化させなかったことを発見した(データは示していない)。したがって、AML細胞の遊走におけるエラスターゼの役割は、CXCR4調節を介して働くのではないことが明らかである。
【0114】
細胞遊走は、細胞骨格再配列を必要とし、SDF−1は、細胞骨格再配列を誘導することが示されており、これが、突起の形成および細胞極性化を導く(Avigdorら Blood.2004 Apr 15;103(8):2981−9.Epub 2004 Jan 15)。白血病細胞を、エラスターゼ阻害剤(EI)にて前処理した場合、SDF−1誘導突起の形成が防止された(図3D)。注目すべきは、SDF−1非存在下での、基底細胞極性化もまた、EIによって止められることである。これらの結果によって、エラスターゼが、細胞骨格再配列および細胞極性化の直接の制御を介して、白血病細胞運動性に関与することが示される。
【0115】
トランスウェルアッセイは、空のフィルター上で実施したので、観察された効果は、細胞外マトリックス(ECM)巨大分子の分解によるものではない。実際、本発明者らは、エラスターゼ阻害が、細胞極性化および突起形成を防止することを示し、エラスターゼによる、細胞骨格再配列の調節が暗示される。
【0116】
結果は、エラスターゼ阻害剤、a1−アンチトリプシンまたはエラスターゼ−中和ABsいずれかによるエラスターゼの阻害が、自発性およびSDF−1誘導の両方の、AML細胞の遊走に影響を与えることを示している。したがって、結果は、エラスターゼが、AML細胞の遊走のために必要であることを示している。
【0117】
実施例4:エラスターゼは、NOD/SCIDのBM内へのヒトAML細胞のホーミングのために必要である。前臨床免疫不全NOD/SCIDマウスモデルによって、ヒトAML幹細胞の移植が可能であり、ヒトAMLの多くの観点を模倣可能である(Lapidot Nature.1994 Feb 17;367(6464):645−8)。
【0118】
ヒトAML細胞のBMへのインビボ遊走(またはホーミング)におけるエラスターゼ阻害の効果を査定するために、AML単核細胞(MNC)細胞(5×106)を、亜致死照射B2mnull NOD/SCIDマウス内に、未処理またはEIとの30分間のインキュベーション(10μg/ml)後に、注射した。
【0119】
より具体的には、示した細胞用量での、ヒト初代AML MNC、濃縮CD34+AMLまたはCB細胞を、10%FCSを含む500mlのRPMI中に懸濁させ、エラスターゼ阻害剤(10μg/ml)存在下または非存在下のいずれかで、37℃にて30分間インキュベートし、背側尾静脈を介して、マウスに注射した。マウスを移植16時間後に安楽死させ、大腿骨および頸骨両方から流れ出たBM細胞を、回収して、単一細胞懸濁液中に再懸濁させた。ヒト細胞の割合を、抗−ヒトCD45−FITC mAB(イムノ クオリティー プロダクツ(Immuno Quality Products)フローニンゲン、オランダ)での免疫染色によって決定した。ヒトFcレセプターを、抗−マウスCD16−CD32(ファーミンゲン(Pharmingen))(1:50)による、ヒト血漿(1%)および齧歯類Fcレセプターでブロックした。イソタイプ対照抗体を、擬陽性細胞(BD)を排除するために使用した。染色後、細胞を、Cell Questソフトウェアを用いて、FACS Calibur(BD)上で解析した。
【0120】
得られた結果は、M2およびM4初代AML細胞の、NOD/SCIDマウスBMへのホーミングが、未処理対照細胞と比較して、EI処理細胞で有意に減少したことを示している(図4A/B)。興味深いことに、初代M1およびM5 AML細胞は、阻害されず、増加した(図4A)。
【0121】
本発明者らは、エラスターゼ阻害の後、正常の濃縮CD34+細胞のホーミングを試験した。同様の原始幹細胞集団を解析するために、CB CD34+細胞を、異なるFABサブタイプの3人の他の患者の初代濃縮CD34+AML細胞(1.5〜3×106)と比較した。エラスターゼ阻害は、AML濃縮ヒトCD34+細胞の、マウスBMへのホーミングを減少させ(図4C)、一方で、正常CD34+細胞のホーミングを増加させた(図4C)。考え合わせると、これらの結果は、エラスターゼが、正常および骨髄性白血病CD34+細胞のホーミングにおいて、正反対な効果を有することを示唆している。
【0122】
実施例5:BMから循環内へのAML細胞放出は、生体内でエラスターゼ阻害剤の投与によって阻害される。G−CSFは、BMから循環への幹細胞の放出(移動)を誘導する。移動は、カセプシンGおよびエラスターゼのようなタンパク質分解酵素による、VCAM−1、c−kitレセプターおよびSDF−1の分解を含む、BM造血微小環境の重度の変化によって引きおこされることが明らかである[Petit, Nat Immunol.2002 Jul;3(7):687−94,2002;Levesque,2003 J Clin Invest.2003 Jan;111(2):187−96,Levesque Exp Hematol.2003 Feb;31(2):109−17]。エラスターゼのブロッキングが、G−CSF誘導移動を防止する(PetitおよびLapidot Exp Hematol.2002 Sep;30(9):973−81.2002)。白血病細胞は、MMP−2、MMP−9、MT1−MMPのような種々のプロテアーゼ(Riesら Clinical cancer rfesearch 1999、(5)1115)およびエラスターゼを高レベルで発現している。エラスターゼが、AML細胞移動性およびホーミングの調節において役割を果たすという本発明者らの発見に関して(実施例3および4)、本発明者らは、AML細胞によって発現されたすべてのプロテアーゼのうち、エラスターゼが、BMから循環へのAML細胞の放出を促進しうることを予想した。
【0123】
この予想を試験するために、初代AML細胞(20〜40×106)を、亜致死照射NOD/SCIDマウスに注射して、ヒトAML−マウスキメラを確立し、骨髄から循環へのAML放出を、未処理マウスと比較して、エラスターゼ阻害剤で処理したマウスにて、24時間にモニタした。
【0124】
よりとりわけ、ヒト初代AML MNC細胞(10〜30×106)またはHL60 AML細胞株(20×106)を、NOD/SCIDマウスに注射した。24週間後、EI(1mg)を4連続日間、1日1回注射した。乾燥氷にて窒息させたマウスからのPBを、ヘパリン処理チューブ内の心臓吸引によって回収し、BMを前述したように回収した。ヒト細胞の割合を、前述したように、CD45に関して、免疫蛍光によって決定した。
【0125】
得られた結果は、PBへのAML細胞放出が、未処理マウスと比較して、EI処理マウスで減少したことを示している(図5および表B)。同様の結果が、ヒト初代細胞およびヒトAML株で観察された。
【0126】
これらの結果は、初めて、エラスターゼが、BMから循環へのヒトAML細胞遊走の調節に関与し、エラスターゼ阻害剤の投与が、骨髄から循環への、AML細胞放出を効果的に防止可能であることを示している。
【0127】
【表2】

【0128】
実施例6:AML細胞増殖は、エラスターゼ依存である。AMLは、BM内での、広範囲の、無制御AML細胞増殖によって特徴づけられる。本発明者らは、エラスターゼが、AML細胞増殖に影響を与えうるかどうかの可能性を確認した。
【0129】
AML細胞の増殖におけるエラスターゼの役割を試験するために、初代AML細胞(1×106/ml)、AML細胞株(1×104/ml)または正常CD34+濃縮臍帯血(CB)細胞(1×105/ml)を、エラスターゼ阻害剤(10μg/ml)あり、またはなしで、10%FCSを含むRPMI中で増殖させた。生細胞の数を、トリパンブルー排除を用いて、第0、1、3、5および7日に測定した。
【0130】
初代MNC AML細胞およびAML細胞株(ML−2、U937)の増殖速度におけるEIの効果を、培養中でそれぞれ3〜7日後に評価した。初代細胞の数が、培養中3日後に減少し、EIの添加が、生AML細胞の数を有意に減少させた(図6A)。培養中7日後、ML2およびU937の数が増加し、細胞増殖が、EIの存在下での細胞の培養によって阻害された(図6A)。したがって、この結果は、エラスターゼが、AML細胞の増殖を誘導することを示唆している。
【0131】
正常CD CD34+細胞を、同様の条件下で培養した場合、エラスターゼ阻害が、その増殖速度を増強した(図6A)。さらに、本発明者らは、未発達始原細胞CD34+/38−の割合が、サイトカインおよびEIの存在下、培養中で、3日後に有意に増加したことを発見した(図6B)。したがって、この結果は、エラスターゼが、正常細胞の増殖を阻害しうることを示唆し、正常幹細胞の分化において役割をもつことを暗示している。
【0132】
したがって、本発明にしたがって、エラスターゼが、AML増殖に必要であること,エラスターゼ阻害が、効果的にAML細胞増殖を抑制すること、同時に、培養中の未成熟移植−コンピテントCD34+/38−幹細胞を維持する、正常CD34+細胞増殖の増殖を誘導可能であることがわかった。
【0133】
実施例7:SDF−1は、AML細胞上の表面エラスターゼの発現を増加させ、正常CD34+細胞にて減少させる。本発明者らは最近、BMおよび脾臓NOD/SCID/B2mnullマウスへホーミングしている悪性ヒトAMLおよびプレB ALL細胞がまた、SDF−1/CXCR4相互作用依存であることを示した[Tavor Cancer Res.2004 Apr 15;64(8):2817−24]。本発明者らは、AML細胞の遊走における、SDF−1の効果の一部が、エラスターゼ発現の調節を介している可能性を予想した。
【0134】
本発明者らの予想を確かめるために、初代AML細胞および正常CB CD34+細胞を、SDF−1(200ng/ml)にて、1および3時間処理し、細胞表面エラスターゼの発現をFACSによって決定した(図7)。
【0135】
得られた結果は、SDF−1が、AML中の細胞表面エラスターゼ発現、およびCB CD34+細胞におけるエラスターゼ発現において、反対の効果を持ち、SDF−1が、AML細胞の表面エラスターゼを増加させ、正常CD CD34+細胞上の表面エラスターゼを減少させることを示している。
【0136】
したがって、得られた結果に関して、SDF−1は、正常CD34+細胞遊走とは反対に、細胞表面エラスターゼ発現をアップレギュレートすることによって、AML遊走に影響を与える。
【0137】
実施例8:細胞培養。細胞株:ヒト骨髄U937、HL60、ML2およびML1(Hadassah University Hospital、Jerusalem,Israel)を、10%ウシ胎児血清(FCS)を含むRPMI中で増殖させた。
【0138】
ヒト細胞:全期間伝達からのヒト臍帯血(CB)細胞、および15人の新規診断AML患者からの、末梢血(PB)および/またはBM細胞を得た。白血病の診断は、FAB分類を用いて、従来の形態学的評価、免疫表現系決定および細胞化学標本に基づいた。
【0139】
試料を、リン酸−緩衝−食塩水(PBS)中で1:1に希釈した。低密度単核細胞(MNC)を、Ficoll−Paque(ファルマシア バイオテック、ウプサラ、スウェーデン)上での標準分離後に回収し、PBS中で洗浄した。CD34+細胞を、取扱説明書にしたがって、MACS細胞単離キットおよびAutoMacs磁気細胞ソーター(ミルテニ バイオテック、ベルジッヒ・グラバッハ、ドイツ)を用いて濃縮し、95%以上の純度を得た。細胞を新鮮に、または液体窒素中での保存のために、FCS+10%ジメチルスルホキシド(DMSO)中で使用した。
【0140】



【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】AML患者のBMおよび末梢血におけるエラスターゼのレベルを示す。(A)いろいろな表現系を持つ10人のAML患者由来の、BM(黒棒)および末梢血(白棒)から、エラスターゼの血清レベルを、ELISAによって決定した。各試料を三重に測定した。示したデータは、平均値±標準誤差(SE)を表している。(B)正常個体(正常)、末梢血中で芽細胞を示しているAML患者(PB)、循環中に芽細胞なし(PB芽細胞なし)、またはPB中に芽細胞を有するM0 FABサブタイプのAML患者由来の末梢血中のエラスターゼの血清レベル。各試料を二重または三重にて測定した。示したデータは平均値を表している。各群の平均値を示す。(C)PBエラスターゼレベルと、循環AML芽細胞の数との相関。エラスターゼの血清レベルを、循環芽細胞の数に対してプロットした。R=0.6、p=0.01。
【図2】AML細胞上のエラスターゼの細胞表面発現を示す。(A)AML細胞株(HL−60、U937およびML−1)ならびにBM由来の初代AML(患者BM)およびPB由来の初代AML(患者PB)を、外部および内部エラスターゼに関して染色した。エラスターゼの、AML細胞株(左パネル)および初代白血病細胞(右パネル)のFACS解析。斜線ヒストグラムは、アイソタイプ−適合対照抗体での染色を示し、空ヒストグラムは、エラスターゼ抗体での染色を示す。(B)ポリ−L−リジンに接着し、抗−CXCR4および抗−エラスターゼAbsにて間接的に免疫染色された、一次AML患者から得た細胞中の、膜エラスターゼ局在の免疫細胞化学解析。本来の倍率100×。
【図3】AML細胞によるエラスターゼ分泌が、それらのSDF−1−誘導トランスウェル遊走に影響を与えることを示す。(A)未処理、またはエラスターゼ阻害剤、10μl/ml EI(MeOSuc−AAPV−CMK)(A)、抗エラスターゼAbs(B)またはa−アンチトリプシン(a1−AT)(C)で30分間処理のいずれかの、AML細胞のインビトロトランスウェル遊走アッセイ。結果は、4時間後、125ng/ml SDF−1に向かって遊走した細胞の割合を示す。(D)ポリ−L−リジンコート表面上の初代AML細胞の免疫細胞化学解析。細胞を、エラスターゼ阻害剤(EI)で30分間前処理するか、または未処理のままで、200ng/ml SDF−1の非存在下(−)または存在下で、接着させ、固定し、抗−CXCR4および抗−エラスターゼAbにて間接的に免疫標識した。本来の倍率100×。
【図4】エラスターゼ阻害剤が、AML細胞のホーミングを阻害することを示している。(A)未処理、またはエラスターゼ阻害剤(10μg/ml)で30分間インキュベートした後の、8人の患者からの初代ヒトAML細胞を、亜致死照射B2mnull NOD/SCIDマウス内に注射した。BM中のヒトCD45+細胞の割合を、16時間後に測定した。(A)データは、未処理対照(100%)と比較して、エラスターゼ阻害剤−処理ヒト細胞の割合を示している。(B)代表的な実験のFACS解析。示した数字は、1.5×106獲得BM細胞あたりの、ヒトCD45+細胞の数を表している。(C)初代AML CD34+細胞および正常CB高含有CD34+細胞のホーミングにおける、エラスターゼ阻害剤(10μg/ml)の効果の比較。
【図5】エラスターゼの阻害が、循環中への、移植したヒトAML細胞の放出を防止することを示す。AML細胞を移植したNOD/SCIDマウスを、4連続日、1mgのエラスターゼ阻害剤で処理した。BM中および末梢血中のAML細胞のレベルを、CD45染色によって決定した。1つの代表的な実験からのFACS解析を示す(A)。パネルBは、PB中のヒト移植細胞の割合/エラスターゼ阻害剤の処置あり、またはなしでの、BM中の移植細胞の割合を表している。マウス間の移植の割合の変動のために、PB/BM比の比較を実施した。データは、4つの独立した実験からの平均の結果を示している。
【図6】エラスターゼ阻害剤が、AML細胞の増殖を阻害することを示す。10μg/ml エラスターゼ阻害剤(EI)あり、またはなしでの、初代AML細胞、AML細胞株およびヒト臍帯血(CB)細胞を、3〜7日間培養し、生存細胞の数を、トリパンブルー排除を用いて決定した(A)。全期間送出からの濃縮CD34+ CB細胞を、SCF、FLT3LおよびIL6を含むRPMI/10% FCS中で増殖させた。EIあり、またはなしで培養した、全濃縮CD34+ CB細胞からのCD34+/38−細胞の割合を、FACSによって決定した(B)。
【図7】SDF−1が、AML細胞上のエラスターゼの細胞表面発現を増加させ、正常CD34+細胞上で減少させることを示す。初代AML細胞およびCB CD34+細胞を、SDF−1(200ng/ml)で1および3時間処理し、エラスターゼの細胞表面の発現を、FACSによって決定した。(a)アイソタイプ対照、(b)未処理細胞、(c)SDF−1で1時間、(d)SDF−1で3時間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白血病の治療のための医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用。
【請求項2】
急性白血病の治療のための請求項1記載の使用。
【請求項3】
AMLの治療のための請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
白血病を患っている患者における、造血幹細胞(HSC)自己移植を補助するための、医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用。
【請求項8】
前記医薬がさらに、動員剤を含む請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記患者が、急性白血病を患っている請求項7または8記載の使用。
【請求項10】
前記患者が、AMLを患っている請求項9記載の使用。
【請求項11】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項7〜10記載の使用。
【請求項12】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項7〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項7〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
白血病を患っている患者において、造血器官から血液への白血病細胞の放出を防止または阻害するための、医薬の製造におけるエラスターゼ阻害剤の使用。
【請求項15】
急性白血病にて使用するための請求項1記載の使用。
【請求項16】
AMLでの使用のための請求項15記載の使用。
【請求項17】
前記造血器官が、骨髄である請求項14〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項14〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項14〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項14〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
白血病細胞の遊走を防止または阻害するための、医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用。
【請求項22】
急性白血病細胞の遊走を防止または阻害するための請求項21記載の使用。
【請求項23】
AML細胞の遊走を防止または阻害するための請求項22記載の使用。
【請求項24】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項21または23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項21または23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項21または23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
白血病細胞の増殖を防止または阻害するための、医薬の製造における、エラスターゼ阻害剤の使用。
【請求項28】
急性白血病細胞の増殖を防止または阻害するための請求項27記載の使用。
【請求項29】
AML細胞の増殖を防止または阻害するための請求項28記載の使用。
【請求項30】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項27または29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項27または29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項32】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項27または29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項33】
エラスターゼ阻害剤との細胞の混合物をインキュベートする工程、および高速遊走細胞を回収する工程を含む、患者から抽出された細胞の混合物中において、白血病細胞から正常造血幹細胞を分離するための、エラスターゼ阻害剤の使用。
【請求項34】
高速遊走細胞を、SDF−1勾配を通して分離する請求項33記載のエラスターゼ阻害剤の使用。
【請求項35】
前記患者が急性白血病を患う請求項33または34記載の使用。
【請求項36】
前記急性白血病がAMLである請求項35記載の使用。
【請求項37】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項33〜36のいずれか1項に記載の使用。
【請求項38】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項33〜36のいずれか1項に記載の使用。
【請求項39】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項33〜36のいずれか1項に記載の使用。
【請求項40】
必要とする患者へのエラスターゼ阻害剤の投与を含む白血病の治療方法。
【請求項41】
急性白血病の治療のための請求項40記載の方法。
【請求項42】
AMLの治療のための請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項40〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項40〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項40〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
動員剤を投与する段階、および動員した細胞をエラスターゼ阻害剤に接触させる段階、細胞を回収する段階、および細胞を患者に移植して戻す段階を含む、白血病を患っている患者における、造血幹細胞(HSC)自己移植の方法。
【請求項47】
急性白血病の治療のための請求項46記載の方法。
【請求項48】
AMLの治療のための請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項46〜48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項46〜48のいずれか1項に記載の方法
【請求項51】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項46〜48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
エラスターゼ阻害剤を動員した細胞に接触させる段階が、細胞を患者に移植して戻す前に、生体外で実施される請求項46〜51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
エラスターゼ阻害剤の投与を含む、白血病を患っている患者の治療方法。
【請求項54】
前記患者が、急性白血病を患っている請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記患者が、AMLを患っている請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項53〜55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項33〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項33〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
エラスターゼ阻害剤を、白血病を患っている患者に投与することを含む、該患者において造血器官から血液への、白血病細胞の放出を防止するかまたは阻害する方法。
【請求項60】
前記患者が、急性白血病を患っている請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記患者が、AMLを患っている請求項60記載の方法。
【請求項62】
前記阻害剤が、エラスターゼ−中和抗体である請求項59〜61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
前記阻害剤が、MeOSuc−AAPV−CMKである請求項59〜61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
前記阻害剤が、a1−アンチトリプシンである請求項59〜61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
急性白血病を患っている患者の骨髄中の、エラスターゼの濃度をモニタする段階を含む、該患者における白血病細胞の成熟ステージを診断する方法。
【請求項66】
前記患者が、急性白血病を患っている請求項65記載の方法。
【請求項67】
前記患者が、AMLを患っている請求項66記載の方法。
【請求項68】
細胞の混合物をエラスターゼ阻害剤と共にインキュベートする段階、および高速遊走細胞を回収する段階を含む、患者から抽出した正常造血幹細胞と白血病細胞との混合物を分離する方法。
【請求項69】
前記細胞が、SDF−1勾配中に遊走している請求項68記載の方法。
【請求項70】
免疫不全マウスに、ヒト白血病細胞を注射すること、および該細胞を骨髄に移植して、キメラマウスを得ることを含む、白血病細胞の放出を評価するための動物モデル。
【請求項71】
請求項70に記載の動物モデルの使用を含む、白血病細胞の放出または増殖を阻害するまたは防止することが可能である薬物を単離する方法。
【請求項72】
請求項70に記載の動物モデルを用いて得られうる、白血病細胞の放出または増殖を阻害または防止可能な薬物。
【請求項73】
請求項68に記載の細胞の分離方法を用いて得られうる細胞調製物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−509903(P2008−509903A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525446(P2007−525446)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【国際出願番号】PCT/IL2005/000840
【国際公開番号】WO2006/016353
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(500018608)イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド (35)
【Fターム(参考)】