説明

白金及び/又は金ならびに酸化鉄を含む磁性微粒子および該磁性微粒子を含む水性コロイド組成物

【課題】水中あるいは血液等の電解質水溶液中において安定性に優れ、かつ安全性の高い磁性微粒子の提供及び該磁性微粒子を含む感度の高い造影剤、ならびに温熱効果の高い温熱療法用製剤の提供。
【解決手段】
白金及び/又は金ならびに酸化鉄を含み、平均粒径が5nm以上20nm以下であり、かつ保磁力が16KA/m以下0.1KA/m以上である磁性微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金及び/又は金ならびに酸化鉄を含む磁性微粒子および該磁性微粒子を含む水性コロイド組成物に関する。さらに本発明は、該磁性微粒子を含む造影剤及び/又は温熱療法用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性微粒子は近年医療分野への応用が期待されているものの1つである。水性溶液に分散させ生体への適用が可能となった磁性微粒子に関連する技術としては、水溶性高分子化合物でコーティングされたフェライト等の強磁性金属酸化物の微粒子(特許文献1参照)及び0価遷移金属微粒子と非イオン性親水性配位子とからなる金属微粒子複合体(特許文献2参照)などが報告されている。そして、前者はMRI造影剤として、後者はX線造影剤又はMRI造影剤としての有用性が記載されている。
【0003】
さらに特許文献3には、デキストランと金属又は金属化合物の磁性超微粒子とから成る複合体が交番磁界中で効率よく発熱し、この複合体を主成分とする組成物は悪性腫瘍等の温熱療法剤として優れていることが開示されている。
磁性微粒子を用いてX線検査やMRI検査で患部を識別できると同時に治療できれば理想的であるが、かかる報告は未だにない。また、副作用低減の観点から、少量の投与でも高感度に検出でき、高効率で温熱療法が可能な材料組成物の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】WO95/31220
【特許文献2】特開平10−330288号
【特許文献3】特開平2−174720号公報(PCT国際公開W090/01939)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、水中あるいは血液等の電解質水溶液中において安定性に優れ、かつ安全性の高い磁性微粒子を提供することである。本発明の別の課題は、感度の高い造影剤および温熱効果の高い温熱療法用製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、下記[1]〜[15]により達成された。
[1]白金及び/又は金ならびに酸化鉄を含み、平均粒径が5nm以上20nm以下であり、かつ保磁力が16KA/m以下0.1KA/m以上である磁性微粒子。
[2]白金及び/又は金がコアとなり酸化鉄が該コアを覆っている[1]に記載の磁性微粒子。
[3]鉄1kg当りの飽和磁化量が10A・m2/kg以上200A・m2/kg以下である[1]又は[2]に記載の磁性微粒子。
【0007】
[4] 白金、金及び鉄の総量に対する白金及び金の含有比率が5原子%〜70原子%である[1]〜[3]のいずれか一項に記載の磁性微粒子。
[5]前記含有比率が30原子%〜60原子%である[4]に記載の磁性微粒子。
[6]表面の少なくとも一部にメルカプト化合物が吸着している[1]〜[5]のいずれか一項に記載の磁性微粒子。
[7]前記メルカプト化合物がさらにアミノ基、カルボキシル基、水酸基のいずれかを有している[6]に記載の磁性微粒子。
[8]表面の少なくとも一部が下記一般式[I]で表わされる部分構造を有する化合物又はその分解生成物で被覆されている[1]〜[7]のいずれか一項に記載の磁性微粒子。
【0008】
【化1】

(式中、MはSi又はTi原子を示し、Rは分子プローブと反応性を有する有機性基を示す。)
【0009】
[9][1]〜[8]のいずれか一項に記載の磁性微粒子を含む造影剤。
[10][1]〜[8]のいずれか一項に記載の磁性微粒子を含む温熱療法用製剤。
[11][1]〜[8]のいずれか一項に記載の磁性微粒子を含む水性コロイド組成物。
[12]糖アルコール化合物を含有する[11]に記載の水性コロイド組成物。
[13]単糖類又は多糖類を含有する[11]又は[12]に記載の水性コロイド組成物。
【0010】
[14]白金含有金属塩及び/又は金含有金属塩ならびに鉄含有金属塩を包含する逆ミセルから平均粒径が5nm以上20nm以下である磁性微粒子を形成すること;
該磁性粒子表面の少なくとも一部にメルカプト化合物を吸着させること;および
該磁性粒子を水に分散させること
をこの順に含む磁性微粒子含有水性コロイド組成物の製造方法。
【0011】
[15]白金含有金属塩及び/又は金含有金属塩ならびに鉄含有金属塩を包含する逆ミセルから平均粒径が5nm以上20nm以下である磁性微粒子を形成すること;
[8]に記載の前記一般式[I]で表わされる部分構造を有する化合物又はその分解生成物で該磁性粒子表面の少なくとも一部を被覆すること;および
該微粒子を水に分散させること
をこの順に含む磁性微粒子含有水性コロイド組成物の製造方法。
【0012】
また、本発明の別の観点からは、MRI造影剤もしくはX線造影剤などの造影剤又は温熱療法用製剤の製造のための上記いずれかの磁性微粒子の使用;MRI造影又はX線造影などの造影法であって、上記いずれかの磁性微粒子を、ヒトを含む哺乳類動物に投与した後に造影を行う工程を含む方法;血温熱療法であって、上記いずれかの磁性微粒子を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁性微粒子は水中あるいは血液等の電解質水溶液中における安定性に優れ、かつ安全性が高い。本発明の磁性微粒子は造影剤、ならびに温熱療法用製剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0015】
磁性微粒子
本発明の磁性微粒子は、水中や血液等の電解質水溶液中において安定に分散することを特徴とする。また、癌などの標的部位に集積することによりコントラストの高い造影や交番磁場での加熱効果を高めることを可能とする。さらに、本発明の磁性微粒子は生体に安全に投与でき、副作用が少ない。
本発明の磁性微粒子の平均粒径は、5〜20nmであり、好ましくは6〜15nmであればよい。なお、粒径の判断には後述のように、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、「粒径」とは磁性微粒子の電子顕微鏡写真画像を同面積の円とした時の直径を意味する。
【0016】
造影のコントラストや、交番磁場での加熱効果をより高めるために、本発明の磁性微粒子は各粒子の磁気モーメント向きが不規則となっている超常磁性ないし軟磁性であることが好ましい。磁性微粒子の保磁力は16KA/m{約200Oe}以下0.1KA/m以上であることが好ましく、12KA/m以下0.1KA/m以上であることがより好ましい。磁性微粒子の保磁力が16KA/mより大きいと磁性微粒子が凝集しやすくなる場合がある。また、本発明の磁性微粒子に含まれる鉄1kg当りの飽和磁化量は10A・m2/kg以上200A・m2/kg以下、すなわち、鉄1g当りの飽和磁化量が10emu以上200emu以下であることが好ましく、20A・m2/kg以上150A・m2/kg以下であることがより好ましい。前記飽和磁化量が10A・m2/kg未満であると、造影剤または温熱療法用製剤として用られた場合に磁気応答性が不十分になる可能性がある。
【0017】
本発明の磁性微粒子には白金及び金の両方が含まれていてもよいが、白金又は金が含まれていることが好ましく、白金が含まれていることがより好ましい。
酸化鉄としては、α−Fe23、γ−Fe23、FeO、またはFe34などのいずれでもよく、これらいずれかの複合物であってもよい。また、酸化鉄は結晶であっても非晶質であってもよい。さらに酸化鉄は0価の金属鉄を含有していてもよく、この0価の鉄が白金又は金と合金を形成していてもよい。
本発明の磁性微粒子の構造は特に限定されないが、白金及び/又は金がコアとなり酸化鉄が該コアを覆っているコア−シェル構造であることが好ましい。酸化鉄粒子の一部に白金又は金を含有するものである。白金、金及び鉄の総量に対する白金及び金の含有比率{(白金+金)/(鉄+白金+金)×100%}の含有比率は目的に応じて任意に選択できるが、好ましくは5原子%〜70原子%、さらに好ましくは30原子%〜60原子%である。
【0018】
本発明の磁性微粒子の形成には、気相法、液相法、その他公知のナノ粒子形成法を用いることができる。これらのうち量産性に優れる液相法が好ましい。液相法で用いられる溶媒は有機溶剤でも水でもよく、また有機溶剤と水の混合液を用いてもよい。
液相法による製造法としては、アルコール類、ポリオール類、アミノアルコール類、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸、水素ガスなどの還元剤を用いて白金又は金のナノ粒子を形成した後、これをコアとして酸化鉄を形成する方法、鉄−白金、鉄−金等の合金を熱分解、超音波分解、もしくは還元剤還元法で形成した後、酸化処理を行うことにより鉄の少なくとも一部を酸化させる方法などを単独でまたは組み合わせて採用することができる。また、反応系で分けると、共沈法、ソルボサーマル法、逆ミセル法などがありいずれも本発明に使用することができる。これらの中でも粒子サイズを制御しやすく、飽和磁化量が大きくかつ保磁力が小さい磁性粒子が得られやすいことから逆ミセル法が最適である。粒子サイズの変動係数は20%未満が好ましく、より好ましくは10%以下である。
【0019】
逆ミセル法
逆ミセル法は、少なくとも(1)2種の逆ミセル溶液を混合して還元反応を行う還元工程と、(2)還元反応後に所定温度で熟成する熟成工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
(1)還元工程
まず、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒と、還元剤を含有する還元剤水溶液とを混合した逆ミセル溶液(B)を調製する。
【0020】
前記界面活性剤としては、油溶性界面活性剤が用いられる。具体的には、スルホン酸塩型(例えばエーロゾルOT(東京化成製))、4級アンモニウム塩型(例えばセチルトリメチルアンモニウムブロマイド)、エーテル型(例えば、ペンタエチレングリコールドデシルエーテル)などが挙げられる。非水溶性界面活性剤の界面活性剤量は、20〜200g/リットルであることが好ましい。
【0021】
前記界面活性剤を溶解する非水溶性有機溶媒として好ましくは、アルカン類、エーテル類などが挙げられる。アルカン類としては、炭素数7〜12のアルカン類が好ましく、具体的にはヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどが挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどが好ましい。
【0022】
ここで、逆ミセル溶液(B)溶液中の水と界面活性剤との質量比(水/界面活性剤)は、20以下となるようにすることが好ましい。質量比が20以下であると、沈殿の生成を抑え、粒子径をそろえやすいという利点がある。質量比は、15以下とすることが好ましく、0.5〜10とすることがより好ましい。なお、逆ミセル溶液(B)溶液とともに、目的に応じて上記質量比や使用原料を変えた逆ミセル溶液などを調製し、これらを併用してもよい。
【0023】
上記とは別に、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒と金属塩水溶液とを混合した逆ミセル溶液(A)を調製する。ここで、白金含有金属塩及び/又は金含有金属塩ならびに鉄含有金属塩を包含する逆ミセルを形成させることができる。界面活性剤および非水溶性溶媒の条件(使用する物質、濃度など)については、逆ミセル溶液(B)の場合と同様である。なお、逆ミセル溶液(B)と同種のものまたは異種のものを使用することができる。また、逆ミセル溶液(A)中の水と界面活性剤との質量比も逆ミセル溶液(B)の場合と同様であり、逆ミセル溶液(B)の質量比と同一としてもよく、異なっていてもよい。また、逆ミセル溶液(A)とともに、目的に応じて上記質量比や使用原料を変えた逆ミセル溶液などを調製し、これらを併用してもよい。
【0024】
以上のようにして調製した逆ミセル溶液(A)と(B)とを混合する。混合方法としては、特に限定されるものではないが、還元の均一性を考慮して、逆ミセル溶液(B)を撹拌しながら、逆ミセル溶液(A)を添加していって混合することが好ましい。混合終了後、還元反応を進行させることになるが、その際の温度は−5〜30℃の範囲で一定の温度とすることが好ましい。−5℃より低い温度では水相が凝結して還元反応が不均一になるといった問題が生じる場合があり、30℃を超えると、凝集または沈殿が起こりやすく系が不安定となる場合があるので、それぞれ好ましくない。好ましい還元温度は0〜25℃であり、より好ましくは5〜25℃である。ここで、前記「一定温度」とは、設定温度をT(℃)とした場合、当該TがT±3℃の範囲にあることをいう。なお、このようにした場合であっても、当該Tの上限および下限は、上記還元温度(−5〜30℃)の範囲にあるものとする。
【0025】
還元反応の時間は、逆ミセル溶液の量などにより適宜設定する必要があるが、1〜30分とすることが好ましく、5〜20分とすることがより好ましい。1分より短い時間では核形成が不十分であり、30分を越えると粒子成長が始まって、作製される磁性微粒子の粒子径が不揃いとなる場合がある。
【0026】
前記逆ミセル溶液(A)および(B)の少なくともいずれかに、アミノ基、カルボキシ基またはスルフィン酸基を1〜3個有する少なくとも1種の分散剤を、作製しようとする磁性微粒子1モル当たり、0.001〜10モル添加することが好ましい。
かかる分散剤を添加することで、より単分散で、凝集の無い磁性微粒子を得ることが可能となる。添加量が、0.001未満では、磁性微粒子の単分散性をより向上させることできない場合があり、10モルを超えると凝集が起こる場合がある。
【0027】
前記分散剤としては、磁性微粒子表面に吸着する基を有する有機化合物が好ましい。具体的には、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基またはスルフィン酸基を1〜3個有するものであり、これらを単独または併用して用いることができる。好ましくはアミノ基、カルボキシ基を1〜3個有するものである。構造式としては、R−NH2、NH2−R−NH2、NH2−R(NH2)−NH2、R−COOH、COOH−R−COOH、COOH−R(COOH)−COOH、R−SO3H、SO3H−R−SO3H、SO3H−R(SO3H)−SO3H、R−SO2H、SO2H−R−SO2H、SO2H−R(SO2H)−SO2Hで表される化合物であり、式中のRは直鎖、分岐または環状の飽和、不飽和の炭化水素である。
【0028】
分散剤として特に好ましい化合物はオレイン酸である。オレイン酸の比較的長い(たとえば、オレイン酸は18炭素鎖を有し、長さは〜20オングストローム(〜2nm)である。オレイン酸は脂肪族ではなく二重結合が1つある)鎖は粒子間の強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与えることができる。エルカ酸やリノール酸など類似の長鎖カルボン酸もオレイン酸同様に(たとえば、8〜22の間の炭素原子を有する長鎖有機酸を単独でまたは組み合わせて用いることができる)用いられる。オレイン酸は(オリーブ油など)容易に入手できる安価な天然資源であるので好ましい。また、オレイン酸から誘導されるオレイルアミンもオレイン酸同様有用な分散剤である。
【0029】
(2)熟成工程
還元反応終了後、反応後の溶液を熟成温度まで昇温する。前記熟成温度は、30〜90℃で一定の温度とするが、その温度は、前記還元反応の温度より高くする。また、熟成時間は、5〜180分とする。熟成温度および時間が上記範囲より高温長時間側にずれると、凝集または沈殿が起きやすく、逆に低温短時間側にずれると、反応が完結しなくなり組成が変化する。好ましい熟成温度および時間は40〜80℃および10〜150分であり、より好ましい熟成温度および時間は40〜70℃および20〜120分である。
【0030】
ここで、前記「一定温度」とは、還元反応の温度の場合と同義(但し、この場合、「還元温度」は「熟成温度」となる)であるが、特に、上記熟成温度の範囲(30〜90℃)内で、前記還元反応の温度より5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。5℃未満では、処方通りの組成が得られないことがある。
【0031】
金属塩
本発明の磁性微粒子の合成に使用する金属塩(白金含有金属塩、金含有金属塩、及び鉄含有金属塩)としては、H2PtCl6、K2PtCl4、Na2PtCl4、PtCl4、Pt(CH3COCHCOCH3)2、KAuCl4、HAuCl4、NaAuCl4、AuCl3、Au(CH3COCHCOCH3)3、Fe2(SO4)3、Fe(NO3)3、(NH4)3Fe(C24)3、Fe(CH3COCHCOCH3)3、Fe(OC25)3、(CH3COO)2Fe、FeCl3、FeCl2などが挙げられる。磁性微粒子の合成の際には、これらの金属塩を溶媒に溶解して反応に用いることができる。溶液の濃度は0.1〜1000μmol/mlが好ましく、1〜100μmol/mlがより好ましい。
【0032】
磁性微粒子の合成後には溶液から塩類を除くことが好ましい。粒子の分散安定性を向上させ、また投与する血液の浸透圧の変化を抑制するためである。脱塩法としては、アルコールなどを過剰に加えて軽凝集を起こし自然沈降あるいは遠心沈降させ塩類を上澄みと共に除去する方法、透析法、限外濾過法またはゲル濾過法などが挙げられ、合成法に最適な方法を採用することができる。
【0033】
本発明の磁性微粒子の粒径評価には透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、磁性微粒子の結晶系の決定にはTEMによる電子線回折やX線回折を用いることができる。磁性微粒子の内部の組成分析には電子線を細く絞ることができるFE-TEMにEDAXを用いることができる。配位構造解析にはXAFSやSTEM/EDSを用いることができる。また、磁性微粒子の磁気的性質の評価はVSMを用いて行うことができる。
【0034】
メルカプト化合物
本発明の磁性微粒子にはメルカプト化合物が吸着していることが望ましい。メルカプト化合物は、分子内にアミノ基、カルボキシル基、水酸基にいずれかを有していることが好ましい。これらの基を介して、特定の抗原や癌マーカーなどと特異的に反応する抗体などの蛋白質を結合させることによって、特定の部位に磁性微粒子を集積しやすくし、その部位の造影および温熱療法の効果を高めることができる。なお、血液等の電解質水溶液中における未反応基による凝集を抑制するために、上記メルカプト化合物において、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基等は分子中にそれぞれ1つだけ存在することが好ましい。また、水性コロイド組成物の安定性の観点から、メルカプト化合物の総炭素数は6以上20以下、特に8以上18以下が好ましい。
【0035】
メルカプト化合物の具体例としては、6-メルカプト-n-ヘキサノール、8-メルカプト-n-オクタノール等のメルカプトアルコール類、1-メルカプト-2-デオキシグルコース、1-メルカプト-1-デオキシガラクトース、1-メルカプト-2-デオキシマンノース、1-メルカプト-1-デオキシフコース、1-メルカプト-1-デオキシキシロース、1-メルカプト-1-デオキシリボース、1-メルカプト-1-デオキシアラビノース、2-メルカプト-2-デオキシグルコース、3-メルカプト-3-デオキシグルコース、4-メルカプト-4-デオキシグルコース、6-メルカプト-6-デオキシグルコース、6-メルカプト-6-デオキシガラクトース、6-メルカプト-6-デオキシマンノース等のメルカプトポリアルコール類及びメルカプト糖類、6-メルカプト‐n‐ヘキシルアミン8-メルカプト-n-オクチルアミン等のメルカプトアルキルアミン類、6-メルカプトヘキサン酸、11-メルカプトウンデカン酸等のメルカプト脂肪酸類、上記のメルカプトポリアルコール類やメルカプト糖類の水酸基をカルバメート化もしくはチオカルバメート化して得られるメルカプトカルバメート類及びメルカプトチオカルバメート類、片末端にメルカプト基を有するポリエチレンオキシド、片末端にメルカプト基を有するポリプロピレンオキシド等のメルカプトポリアルキレンオキシド類、2-メルカプト-1-デオキシグルクロン酸、2-メルカプト-2-デオキシグルクロン酸、3-メルカプト-3-デオキシグルクロン酸、4-メルカプト-4-デオキシグルクロン酸等のメルカプト糖カルボン酸類、1-メルカプト-1-デオキシグルコサミン、1-メルカプト-1-デオキシガラクトサミン、1-メルカプト-1-デオキシマンノサミン、1-メルカプト-1-デオキシフコサミン、1-メルカプト-1-デオキシキシロサミン、1-メルカプト-1-デオキシリボサミン、1-メルカプト-1-デオキシアラピノサミン、3-メルカプト-3-デオキシグルコサミン、4-メルカプト-4-デオキシグルコサミン、6-メルカプト-6-デオキシグルコサミン等のメルカプトアミノデオキシ糖類等が挙げられる。
【0036】
メルカプト化合物は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの水に混和する有機溶媒に必要量溶解してメルカプト化合物溶液として用いることができる。このメルカプト化合物溶液と磁性微粒子(製造後の磁性微粒子分散物等)とを混合することにより、該磁性微粒子に吸着させることができる。
メルカプト化合物の使用量は、磁性微粒子総量に対して1〜200質量%、好ましくは2〜100質量%であればよい。1質量%より少ないと結合する抗体などのタンパクが少なくなり効果が小さくなる可能性があり、200質量%より多いと未反応のアミノ基やカルボキシル基による体液中での凝集が大きくなる可能性がある。
【0037】
Si化合物及びTi化合物
磁性微粒子の表面修飾剤として、下記一般式[I]で表わされる部分構造を有する化合物又はその分解生成物を用いることができる。表面修飾剤を用いることにより磁性微粒子の水や電解水への分散性が改良でき、標的化合物を検出するための分子プローブを結合しやすくなる。
【0038】
【化2】

【0039】
式中、MはSi又はTi原子を、Oは酸素原子を、Rは分子プローブと反応性を有する有機性基を示す。
Rで表わされる分子プローブと反応性を有する基としては、連結基Lを介して、末端にビニル基、アリルオキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアナト基、ホルミル基、エポキシ基、マレイミド基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲンなどを有する基であればよい。Rとして好ましくは末端にアミノ基を有する基であればよい。アミノ基、カルボキシル基などは、酸又は塩基と塩を形成していてもよい。
【0040】
連結基Lとしては、例えば、アルキレン基(例:メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、プロピレン基、エチルエチレン基、シクロヘキシレン基などの炭素数が1〜10の基、好ましくは炭素数が1〜8の鎖状または環状の基)、アルケニレン基(例:ビニレン基、プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、2−ペンテニレン基、8−ヘキサデセニレン基、1,3−ブタンジエニレン基、シクロヘキセニレン基など炭素数が1〜10の基、好ましくは炭素数が1〜8の鎖状または環状の基)、アリーレン基(例:フェニレン基又はナフチレン基などの炭素数が6〜10の基、好ましくは炭素数6のフェニレン基)が挙げられる。
【0041】
連結基Lは1個又は2個以上のヘテロ原子(窒素原子、酸素原子、硫黄原子などの炭素原子以外の任意の原子を意味する)を有していてもよい。へテロ原子としては酸素原子又は硫黄原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。ヘテロ原子の数は特に限定されないが5個以下であることが好ましく、3個以下であることがより好ましい。
【0042】
連結基Lは上記ヘテロ原子と該へテロ原子と隣接する炭素原子とを含む官能基を部分構造として含んでいてもよい。該官能基としてはエステル基(カルボン酸エステル、炭酸エステル、スルホン酸エステル、スルフィン酸エステルを含む)、アミド基(カルボン酸アミド、ウレタン、スルホン酸アミド、スルフィン酸アミドを含む)、エーテル基、チオエーテル基、ジスルフィド基、アミノ基、イミド基などが挙げられる。上記の官能基はさらに置換基を有していてもよく、これらの官能基はLにそれぞれ複数個存在してもよい。複数個存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
官能基として好ましくは、エステル基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ジスルフィド基又はアミノ基であり、さらに好ましくはアルケニル基、エステル基、エーテル基である。
【0043】
O(酸素原子)に結合する基としては、上記Mの他、水素原子、アルキル基(好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基など)及びフェニル基が挙げられる。これらのアルキル基及びフェニル基はさらに置換基を有していてもよいが、O(酸素原子)に結合する基としては合計の炭素数が8以下の基が望ましい。
【0044】
一般式[I]で表される部分構造を有する化合物の分解生成物としては、アルコキシ基が加水分解した水酸化物、水酸基同士間の脱水縮合反応により生成した低分子量のオリゴマー(これはリニア構造、環状構造、架橋構造などのいずれでもよい)、水酸基と未加水分解のアルコキシ基による脱アルコール縮合反応生成物、これらがさらに脱水縮合反応して形成したゾル、及びゲルなどが挙げられる。
【0045】
本発明に用いられるSi化合物及びTi化合物は、シランカップリング剤及びチタンカップリング剤を原料物質として合成すればよい。原料物質の具体例を列挙するが、これらの化合物に限定されるものではない:
N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、N−(3−アミノプロピル)−ベンズアミドトリメトキシシラン、3−ヒドラジドプロピルトリメトキシシラン、3−マレイミドプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、(p−カルボキシ)フェニルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルチタニウムトリプロポキシド、3−アミノプロピルメトキシエチルチタニウムジエトキシド、3−カルボキシプロピルチタニウムトリメトキシド、3−メルカプトプロピルチタニウムトリエトキシドなど。
【0046】
本発明に用いられる上記Si化合物及びTi化合物は、末端のアミノ基又はカルボキシル基が、酸又は塩基と塩を形成したものであってもよい。また、末端のアミノ基又はカルボキシル基には腫瘍などの異常細胞への集積特異性を有する種々のレセプターを結合させて治療剤としての機能を付与できる。該レセプターとしては、例えば、種々のモノクロナール抗体、種々の蛋白質、ペプチド、ステロイド、免疫関連剤(免疫細胞賦活、活性化材料)が挙げられる。Si化合物及びTi化合物への機能付与は、例えば腫瘍の診断または温熱治療に有益であり、キラー細胞誘導効果をもたらす可能性もある。
Si化合物及びTi化合物は、磁性微粒子の表面全体を被覆していても、その一部を被覆していてもよい。また、単独で用いても複数併用してもよい。上記Si化合物及びTi化合物は、磁性微粒子の合成後に添加し、加水分解反応により該磁性微粒子に結合、被覆させることが望ましい。Si化合物及びTi化合物の使用量は、磁性微粒子に対して10〜200質量%、好ましくは20〜150質量%であればよい。
【0047】
本発明の磁性微粒子を含む水性コロイド組成物は、非イオン性界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル系、グリセリン・ポリグリセリン脂肪酸エステル及び酢酸エステル系、グリセリン・プロピレングリコール脂肪酸エステルの酸化エチレン誘導体系、ボリエチレングリコール脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体系など)を含んでいてもよい。また、糖アルコール化合物や多糖類などの水溶性高分子化合物に、腫瘍などの異常細胞への集積特異性を有する前述のレセプターを結合させて治療剤としての機能を付与できる。
【0048】
糖アルコール化合物
水性コロイド組成物に糖アルコール化合物を含有させることによって、本発明の磁性微粒子を水溶媒中でより安定に分散させることができ、浸透圧の調節が容易になる。糖アルコール化合物としては、D−エリトリット、L−エリトリット、メソエリトリットなどのエリトリット類(4価アルコール)、D−アラビット、L−アラビット、アドニット、キシリットなどのペンチット類(5価アルコール)、D−ソルビット、L−ソルビット、D−マンニット、L−マンニット、D−イジット、L−イジット、ズルシット、D−タリット、L−タリット、アリットなどのヘキシット類(6価アルコール)などが挙げられる。水性コロイド組成物における糖アルコール化合物の濃度は1〜100mg/mlが好ましい。
【0049】
単糖類及び多糖類
水性コロイド組成物に単糖類及び多糖類を含有させることによって、本発明の磁性微粒子を水溶媒中でより安定に分散させることができ、本発明の磁性微粒子を例えば造影剤として血流中に注入した場合にも安全であって血流中で沈殿性の凝集を生じにくくすることができる。単糖類は、アルドース(アルデヒドアルコール)でもケトース(ケトンアルコール)でもよい。アルドースとしては、D−およびL−トレオース、D−およびL−エリトロースなどのアルドテトロース、D−およびL−アラビノース、D−およびL−リキソース、D−およびL−リボース、D−およびL−キシロースなどのアルドペントース、D−およびL−グルコース、D−およびL−グロース、D−およびL−マンノース、D−およびL−イドース、D−およびL−ガラクトース、D−およびL−タロース、D−およびL−アルトロース、D−およびL−アロースなどのアルドヘキソースなどが挙げられる。ケトースとしては、ジヒドロキシアセトンなどのケトトリオース、D−エリトルロースなどのケトテトロース、D−リブロース、D−キシルロースなどのケトペントース、D−ブシコース、D−フルクトース、D−ソルボース、D−タガトースなどのケトヘキソースなどが挙げられる。
【0050】
多糖類としては、中性多糖類、酸性多糖類及び塩基性多糖類が挙げられる。中性多糖類としては、例えば、グルコースポリマーであるデキストラン、デンプン、デキストリン、グリコーゲン、セルロース、プルラン、カードラン、シゾフイラン、レンチナン、ペスタロチアン等又はそれらのアルカリ処理物またはカルボキシアルキル誘導体;フラクトースポリマーであるイヌリン、レバン等; マンノースポリマーであるマンナン等;ガラクトースポリマーであるアガロース、ガラクタン、アラビノガラクタン等;キシロースポリマーであるキシラン等;L一アラビノースポリマーであるアラビナン等が挙げられる。塩基性多糖類としては、例えば、グルコサミンポリマーであるキチン等を挙げることができる。酸性多糖類としては、例えば、アルギン酸、ペンチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン4−硫酸、シアル酸、ノイラミン酸、デキストランスルホン酸などを挙げることができる。多糖類としては、二糖類、三糖類、四糖類などのオリゴ糖類でも高分子化合物でもよい。
【0051】
単糖類及び多糖類の数平均分子量は、水性コロイド組成物の安定性及び絶対粘度の観点から、約500〜約30万であればよく、約1000〜約10万が好ましく、約1500〜約3万が特に好ましい。水性コロイド組成物における単糖類及び多糖類の濃度は1〜300mg/mlであればよく、10〜100mg/mlが好ましい。
【0052】
水性コロイド組成物の絶対粘度は、操作性、温熱療法における発熱効率に影響を与える物性値である。本発明の磁性微粒子を含む水性コロイド組成物の絶対粘度は特に限定されないが、一般的には1〜5万mPa・s{=CP(センチポイズ)}、好ましくは2〜1万mPa・s、さらに好ましくは3〜2千mPa・sの範囲であればよい。
【0053】
水性コロイド組成物中の白金及び金の含有量は目的に応じて変えることができる。例えば、MRI造影剤として用いる場合は0.05〜20質量/容量%、好ましくは0.1〜10質量/容量%であり、X線造影剤として用いる場合は1〜50質量/容量%、好ましくは2〜30質量/容量%である。また、温熱療法用製剤として用いる場合は0.1〜20質量/容量%、好ましくは0.2〜10質量/容量%であればよい。
【0054】
本発明の磁性微粒子又は該微粒子を含む水性コロイド組成物がMRI造影剤もしくはX線造影剤などの造影剤又は温熱療法用製剤として用いられる場合の投与方法は、通常、静脈内投与などの非経口投与であればよいが、経口投与でもよい。非経口投与の製剤、即ち注射剤等の製造に用いられる溶剤、または懸濁化剤としては、例えば水、プロピレングリコール、ボリエチレングリコール、ベンジルアルコール、オレイン酸エチル、レシチン等が挙げられる。また造影剤又は温熱療法用製剤を経口投与の形態とする場合、例えば穎粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、硬シロップ剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、リポソーム、液剤等の剤形とすればよい。固体製剤を製造する際に用いられる賦形剤としては、例えば乳糖、ショ糖、デンプン、タルク、セルロース、デキストリン、カオリン、炭酸カルシウム等が挙げられる。経口投与のための液体製剤、即ち乳剤、シロップ剤、懸濁剤、液剤等は、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば植物油等を含む。この製剤は不活性な希釈剤以外に補助剤、例えば湿潤剤、懸濁補助剤、甘味剤、芳香剤、着色剤または保存剤等を含むこともできる。液体製剤にして、ゼラチンのような吸収されうる物質のカプセル中に含ませてもよい。
【0055】
本発明の磁性微粒子又は該微粒子を含む水性コロイド組成物がMRI造影剤もしくはX線造影剤などの造影剤又は温熱療法用製剤として用いられる場合、所望に応じて、薬理学的に活性のある薬剤、例えば、制癌剤を混和することもできる。制癌剤を含有する組成物は、温熱療法と癌化学療法剤との併用効果が発現し、優れた抗腫瘍効果を期待できる合理的なものである。制癌剤の添加割合は、従来の投与法を参考に比較的広い範囲が採用できるが、一般に組成物全体の約0.01〜約10質量%、好ましくは約0.1〜約5質量%の範囲を採用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
(例1)
1.Pt含有酸化鉄微粒子分散液の調製
シュウ酸鉄(III)アンモニウム3水和物0.82gおよび塩化白金(II)酸カリウム0.79gを水68mlに溶解し、エーロジルOT(AOT)23gをデカン225mlに溶解した溶液を加え、スリーワンモーターで10分混合した(A液)。 水素化ホウ素ナトリウム1.13gを水85mlに溶解し、エーロジルOT(AOT)29gをデカン280mlに溶解した溶液を加え、スリーワンモーターで10分混合した(B液)。A液にB液を添加し、室温にて5分混合した。その後40℃に昇温して1時間攪拌した。
冷却後、11−メルカプトウンデカン酸1.7gを加えたメタノール700mlおよび水700mlを加え、攪拌後静置したところ二相に分離した。下相を廃却した後、エタノール700mlを加えて遠心分離して析出物を沈降させ上澄みを取り除いた。さらに析出物をエタノールで洗浄した。その後、1N−NaOH溶液1ml及び0.5質量%のデキストラン(分子量15000〜25000)水溶液20mlに分散させて水性コロイド組成物を得た。得られた水性コロイド組成物は、生理食塩水と混合しても沈降が起こらなかった。
得られた水性コロイド組成物をTEM観察用のメッシュに乗せ乾燥させてTEM用試料を作成した。加速電圧150KVの日立製作所製透過電子顕微鏡(TEM)を用い粒子サイズを調べたところ、得られた水性コロイド組成物は平均粒径9nmのナノ粒子を含むことがわかった。TEM写真を図1に示す。また、ICP測定からFeとPtの元素比率は約1:1であること、X線回折パターンおよびXAFS構造解析より、白金コアの周りに非晶質酸化鉄が覆っていることがわかった。調製した水性コロイド組成物の組成は以下のとおりであった。Pt:3.5mg/ml、酸化鉄:Feとして0.9mg/ml、白金の含有比率:53原子%、デキストラン:5mg/ml。
【0057】
2.磁気特性の評価
磁性微粒子の磁気特性は東英工業製の高感度磁化ベクトル測定機(VSM)と同社製DATA処理装置を使用し、印加磁場796KA/mで測定した。飽和磁化120A・m2/kgFe、保磁力4.8KA/mを得た。
3.細胞毒性の評価
上記水性コロイド組成物をラットに2ml/kgの割合で投与した。ラットは3日間異常なく生存した。その後の解剖の結果、肝臓に集積されていることがわかった。
【0058】
4.MRI造影試験
上記水性コロイド組成物をラットに0.5ml/kgの割合で静脈投与してMRI造影を行なった。投与前と投与20分後の画像を図2に示す。図2より肝臓などが明瞭に造影できることがわかった。
5.X線造影試験
上記水性コロイド組成物を20倍濃縮し、ラットに2ml/kgの割合で静脈投与してX線造影を行なったところ、高い造影効果を示すことがわかった。
【0059】
6.発熱特性の評価
第29回日本応用磁気学会学術講演会概要集163頁(2005)に記載の方法に準じて、上記合金磁性微粒子の水性コロイドに150kHz、150Oeの交番磁界を20分間印加したところ、液温が13.3℃上昇した。
【0060】
(例2)
塩化白金(II)酸カリウムの代わりに塩化金(III)酸カリウムを同重量用いた以外は例1と同様の操作を行い、金コアを有する磁性微粒子(平均粒径10nm、飽和磁化110A・m2/kgFe、保磁力75Oe)を含む水性コロイド組成物(組成は、Au:3.6mg/ml、酸化鉄:Feとして1.0g、金の含有比率:50原子%、デキストラン:5mg/ml)を得た。この水性コロイドも例1と同様、MRI造影が可能であること、また、20倍濃縮によりX線造影もできることがわかった。さらに発熱特性を評価したところ、150kHz、11.9KA/mの交番磁界を20分間印加して、液温が12.1℃上昇した。
【0061】
(例3)
シュウ酸鉄(III)アンモニウム3水和物0.82gおよび塩化白金(II)酸カリウム0.79gを水68mlに溶解し、エーロジルOT(AOT)23gをデカン225mlに溶解した溶液を加え、スリーワンモーターで10分混合した(A液)。水素化ホウ素ナトリウム1.13gを水85mlに溶解し、エーロジルOT(AOT)29gをデカン280mlに溶解した溶液を加え、スリーワンモーターで10分混合した(B液)。A液にB液を添加し、室温にて5分混合した。その後40℃に昇温して1時間攪拌した。その後、メタノール700mlおよび水700mlを加え、攪拌後静置したところ二相に分離した。下相を廃却した後、3−アミノプロピルトリメトキシシランを1ml添加して60℃で4時間攪拌した。
冷却後、ろ過により析出物を分離し、さらに析出物をエタノールで洗浄した。その後、0.5質量%のデキストラン(分子量15000〜25000)水溶液20mlに分散させて、水性コロイド組成物を得た。得られた水性コロイド組成物は安定で、生理食塩水と混合しても沈降しなかった。
【0062】
調製した分散液をTEM観察用のメッシュに乗せ乾燥させてTEM用試料を作成した。加速電圧150KVの日立製作所製透過電子顕微鏡(TEM)を用い粒子サイズを調べたところ、得られた水性コロイド組成物は平均粒径11nmのナノ粒子を含むことがわかった。TEM写真を図3に示す。また、ICP測定からFeとPtの元素比率は約1:1であること、X線回折パターンおよびXAFS構造解析より、白金コアの周りに非晶質酸化鉄が覆っており、さらにシリカ化合物で被覆されていることがわかった。調製した合金磁性微粒子の水性コロイドの組成は以下のとおりであった。Pt:3.5mg/ml、酸化鉄:Feとして0.9mg/ml、白金の含有比率:53原子%、Si:6.2mg/ml、デキストラン:5mg/ml。また、この微粒子の磁気特性は、飽和磁化104A・m2/kgFe、保磁力3.8KA/mであった。
この水性コロイドも例1と同様、MRI造影が可能であること、また、20倍濃縮によりX線造影もできることがわかった。さらに発熱特性を評価したところ、150kHz、150Oeの交番磁界を20分間印加して、液温が12.9℃上昇した。
【0063】
(比較例1)
逆ミセル合成時の水の使用量を1.8倍とした以外は例1と同様の操作を行い、平均粒径25nmのPt含有磁性微粒子を合成した。例1と同様の方法で水性コロイド組成物の調製を試みたところ、粒子が凝集して、調製できなかった。VSMで磁性微粒子の磁気特性を評価したところ、飽和磁化114A・m2/kgFe、保磁力34.2KA/mであった。粒子サイズの増大に伴い硬磁性に変化したことにより粒子が凝集したものとみられる。
【0064】
(比較例2)
塩化白金(II)酸カリウムを添加しなかった以外は例1と同様の操作を行って酸化鉄磁性微粒子を合成し、水性コロイド組成物を調製した。得られた磁性微粒子は平均粒径10nmであった。水性コロイド組成物の組成は、酸化鉄(Feとして)1.0mg/ml、デキストラン5mg/mlであり、磁気特性は飽和磁化70A・m2/kgFe、保磁力3.3KA/mであった。この水性コロイド組成物をラットに2ml/kgの割合で投与したが細胞毒性は示さなかった。MRI造影およびX線造影試験を実施したところいずれも例1の組成物より信号強度が小さかった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】例1で得られた水性コロイド組成物中の磁性微粒子のTEM写真を示す図である。
【図2】例1で得られた水性コロイド組成物をラットに0.5ml/kgの割合で静脈投与した投与前(左側)と投与20分後(右側)のMRI造影画像である。
【図3】例3で得られた水性コロイド組成物のTEM写真を示す図である。右の写真は左の写真の拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金及び/又は金ならびに酸化鉄を含み、平均粒径が5nm以上20nm以下であり、かつ保磁力が16KA/m以下0.1KA/m以上である磁性微粒子。
【請求項2】
白金及び/又は金がコアとなり酸化鉄が該コアを覆っている請求項1に記載の磁性微粒子。
【請求項3】
鉄1kg当りの飽和磁化量が10A・m2/kg以上200A・m2/kg以下である請求項1又は2に記載の磁性微粒子。
【請求項4】
白金、金及び鉄の総量に対する白金及び金の含有比率が5原子%〜70原子%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁性微粒子。
【請求項5】
前記含有比率が30原子%〜60原子%である請求項4に記載の磁性微粒子。
【請求項6】
表面の少なくとも一部にメルカプト化合物が吸着している請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁性微粒子。
【請求項7】
前記メルカプト化合物がさらにアミノ基、カルボキシル基、水酸基のいずれかを有している請求項6に記載の磁性微粒子。
【請求項8】
表面の少なくとも一部が下記一般式[I]で表わされる部分構造を有する化合物又はその分解生成物で被覆されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の磁性微粒子。
【化1】

(式中、MはSi又はTi原子を示し、Rは分子プローブと反応性を有する有機性基を示す。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の磁性微粒子を含む造影剤。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の磁性微粒子を含む温熱療法用製剤。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の磁性微粒子を含む水性コロイド組成物。
【請求項12】
糖アルコール化合物を含有する請求項11に記載の水性コロイド組成物。
【請求項13】
単糖類又は多糖類を含有する請求項11又は12に記載の水性コロイド組成物。
【請求項14】
白金含有金属塩及び/又は金含有金属塩ならびに鉄含有金属塩を包含する逆ミセルから平均粒径が5nm以上20nm以下である磁性微粒子を形成すること;
該磁性粒子表面の少なくとも一部にメルカプト化合物を吸着させること;および
該磁性粒子を水に分散させること
をこの順に含む磁性微粒子含有水性コロイド組成物の製造方法。
【請求項15】
白金含有金属塩及び/又は金含有金属塩ならびに鉄含有金属塩を包含する逆ミセルから平均粒径が5nm以上20nm以下である磁性微粒子を形成すること;
請求項8に記載の前記一般式[I]で表わされる部分構造を有する化合物又はその分解生成物で該磁性粒子表面の少なくとも一部を被覆すること;および
該微粒子を水に分散させること
をこの順に含む磁性微粒子含有水性コロイド組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189967(P2008−189967A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23931(P2007−23931)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】