説明

白金材料容器の乾燥被膜及びその形成方法

【課題】ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を長期間にわたって低減することができる白金材料容器の焼成被膜を形成するための乾燥被膜及びその形成方法並びに焼成被膜を得る。
【解決手段】白金材料からなる容器10の表面を被覆する乾燥被膜11であって、ガラス粉末及びアルミナファイバーを含み、容器10の表面上に形成される最内層12と、最も外側に形成される最外層13とを少なくとも有し、最内層12におけるガラス粉末の含有割合が、最外層13におけるガラス粉末の含有割合より高いことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製造装置等に用いられる白金材料からなる容器の表面を被覆する乾燥被膜及びその形成方法並びに焼成被膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学ガラス、ディスプレイ用ガラス等の高品位のガラスを製造するための装置(攪拌槽、清澄槽等)の構成材料として、一般的に白金または白金合金などの白金材料が使用されている。ガラス製造工程における装置温度は、約1200℃〜1600℃であり、1000℃以上の高温の環境下にある。白金材料は、高温安定性に優れるため、このような高温環境下でも装置内部のガラスを汚染することなく、長期間使用することが可能である。
【0003】
しかしながら、白金材料を用いたガラス製造装置においては、ガラス製造時にガラス中の水分に起因する泡が、白金材料との界面に発生するという問題があった。この現象は、ガラス中の水が分解し、分解により生成した水素は白金部材を透過して外部に放出されるが、酸素は白金部材を透過できないため、白金部材の界面近傍に酸素濃度の高いガラスが存在し、ガラスの酸素溶解度以上の酸素濃度となると、酸素が発泡し、泡となってガラス中に含まれるためであると考えられる。
【0004】
特許文献1においては、ガラス溶融物が接する白金部材の反対側の面上に水素を供給することにより、気泡の生成を防止する方法が開示されている。しかしながら、この方法は高価であり、水素ガス濃度が高すぎると、白金を通して外部から水素が供給され、ガラス中に水素泡が発生する現象が確認されており、適正な水素濃度を制御することが困難である。
【0005】
特許文献2及び3においては、ガラス製造時における泡の発生の問題を解決するため、白金部材の外表面に、水素不透過性のガラス系被膜を設けることが提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2及び3に開示されたガラス系被膜を白金部材の外表面に設けるだけでは、ガラス製造時における泡の発生を十分に低減することができなかった。
【0007】
特許文献4及び5においては、耐火材料とガラス成分を含むコーティング層を白金部材の表面にコーティングすることが提案されている。しかしながら、このような方法によれば、初期の水素遮蔽性は満足されるが、長期間使用するとコーティング被膜の水素遮蔽性が低下することが判明した。
【特許文献1】国際公開WO98/18731号パンフレット
【特許文献2】特表2004−5223449号公報
【特許文献3】特表2006−522001号公報
【特許文献4】国際公開WO2006/030738号パンフレット
【特許文献5】特開2006−77318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を長期間にわたって低減することができる白金材料容器の焼成被膜を形成するための乾燥被膜及びその形成方法並びに焼成被膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の乾燥被膜は、白金材料からなる容器の表面を被覆する乾燥被膜であって、ガラス粉末及びアルミナファイバーを含み、容器の表面上に形成される最内層と、最も外側に形成される最外層とを少なくとも有し、最内層におけるガラス粉末の含有割合が、最外層におけるガラス粉末の含有割合より高いことを特徴としている。
【0010】
本発明の乾燥被膜においては、最内層におけるガラス粉末の含有割合が、最外層におけるガラス粉末の含有割合より高くなっている。このため、本発明の乾燥被膜を焼成して得られる焼成被膜においては、白金材料の容器側においてガラス成分の量が多くなり、緻密な組成となっている。このため、十分な水素遮蔽性を有し、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を低減することができる。
【0011】
また、焼成被膜の外側においては、ガラス成分が少なくなり、相対的に耐熱性の高いセラミック成分が多くなるので、焼成被膜内のガラス成分が外部に漏れ出すのを防止することができる。このため、白金材料容器の表面近傍に存在するガラス成分を保持することができ、長期間にわたって泡の発生を低減することができる。
【0012】
また、本発明の乾燥被膜においては、最外層におけるアルミナファイバーの含有割合が、最内層におけるアルミナファイバーの含有割合より高いことが好ましい。最外層におけるアルミナファイバーの含有割合を、最内層におけるアルミナファイバーの含有割合より高くすることにより、乾燥被膜を焼成して得られる焼成被膜において、外側でのアルミナファイバーの含有割合を高くすることができ、白金材料容器の表面近傍におけるガラス成分が焼成被膜の外部に漏れ出すのをより効率的に防ぐことができる。
【0013】
アルミナファイバーは、繊維状であるので、シリカ粒子やアルミナ粒子などの粒子形状のセラミックに比べ、より嵩高い構造を形成することができ、ガラス成分が流動するのをより効果的に抑制することができる。従って、上述のように、焼成被膜の外側に内側より多くのアルミナファイバーが存在することにより、焼成被膜内のガラス成分の流動を抑制することができ、ガラス成分が焼成被膜から漏れ出すのをより効果的に防止することができる。
【0014】
本発明においては、乾燥被膜中にコロイダルシリカが含まれていることが好ましい。コロイダルシリカは、乾燥被膜を形成するためのスラリーにおいて、バインダー的な機能を発揮し、スラリーの粘度を高め、スラリーを塗布した際のスラリーの塗着性を高めることができる。また、スラリーを乾燥して形成した乾燥被膜における膜強度を向上させることができる。
【0015】
また、乾燥被膜を焼成して焼成被膜を形成した際、コロイダルシリカは微粒子であり、反応性が高いため、乾燥被膜中のガラス粉末が溶解した際、ガラスと反応し、ガラス成分の粘性を高めることができる。このため、ガラス成分が焼成被膜中から流出するのを防ぐ効果をさらに高めることができる。
【0016】
本発明における乾燥被膜は、最内層と最外層の少なくとも2層を有していればよい。本発明においては、必要に応じて、最内層と最外層の間に、さらに乾燥被膜を構成する層を少なくとも1層設けてもよい。この場合、最内層と最外層の間に配置される層におけるガラス粉末の含有割合は、最内層における含有割合と最外層における含有割合の間の範囲内であることが好ましく、アルミナファイバーの含有割合も同様に、最外層における含有割合と最内層における含有割合の間の範囲内であることが好ましい。また、最内層と最外層の間に複数の層を設ける場合には、最内層に近づくにつれてガラス粉末の含有割合が高くなるようにそれぞれの層の含有割合が設定されていることが好ましい。アルミナファイバーの含有割合は、最外層に近づくにつれて高くなるようにそれぞれの層の含有割合が設定されていることが好ましい。
【0017】
本発明の乾燥被膜の形成方法は、上記本発明の乾燥被膜を形成することができる方法であり、ガラス粉末及びアルミナファイバーを含み、最内層を形成するための第1のスラリーと、ガラス粉末及びアルミナファイバーを含み、最外層を形成するための第2のスラリーとを、第1のスラリーの固形分中のガラス粉末の含有割合が、第2のスラリーの固形分中のガラス粉末の含有割合より高くなるように調製する工程と、第1のスラリーを塗布し、乾燥させて最内層を形成する工程と、第2のスラリーを塗布し、乾燥させて最外層を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0018】
本発明の乾燥被膜の形成方法においては、最内層を形成するための第1のスラリーの固形分中のガラス粉末の含有割合が、最外層を形成するための第2のスラリーの固形分中のガラス粉末の含有割合より高くなるように調製されているので、第1のスラリー及び第2のスラリーを用いて最内層及び最外層を形成することにより、最内層におけるガラス粉末の含有割合が、最外層におけるガラス粉末の含有割合より高い最内層及び最外層を形成することができる。
【0019】
従って、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を長期間にわたって低減することができる焼成被膜を形成するための乾燥被膜を形成することができる。
【0020】
最外層におけるアルミナファイバーの含有割合を、最内層におけるアルミナファイバーの含有割合より高くする場合には、第2のスラリーの固形分中のアルミナファイバーの含有割合が、第1のスラリーの固形分中のアルミナファイバーの含有割合より高くなるように調製する。
【0021】
また、上述のように、コロイダルシリカを第1のスラリー及び/または第2のスラリーに含有させることができる。コロイダルシリカを含有させることにより、上述のように、スラリーの白金固着性を高めることができ、スラリーの塗着性を高めることができる。
【0022】
また、上述のように、最内層と最外層の間に、さらに乾燥被膜形成のための層を配置する場合には、乾燥粉末及びアルミナファイバーを所定の含有割合で含有するスラリーを調製し、これを塗布し乾燥させて形成することができる。
【0023】
本発明の乾燥被膜の形成方法において、第1のスラリー及び第2のスラリーの塗装方法は、特に限定されるものではないが、スプレーコートにより塗布することが好ましい。スプレーコートにより塗布することにより、緻密で均一な乾燥被膜を白金材料容器の表面上に形成することができる。スプレーコートによる塗布と乾燥とを複数回繰り返すことにより、最内層及び最外層をそれぞれ形成することが好ましい。
【0024】
塗布したスラリー被膜の乾燥温度は、特に限定されるものではないが、一般には40〜95℃程度の温度であることが好ましい。乾燥は、例えば白金材料容器を温風加熱することにより行うことができる。
【0025】
本発明の焼成被膜は、上記本発明の乾燥被膜を加熱して焼成することにより得られ、アルミナファイバーを含むガラス材料からなることを特徴としている。
【0026】
本発明の乾燥被膜は、ガラス粉末の含有割合が相対的に高い最内層と、ガラス粉末の含有割合が相対的に低い最外層を有しているので、本発明の焼成被膜は、白金材料容器の表面近傍においてガラス成分の濃度が高くなっている。このため、白金表面近傍に緻密なガラス質の被膜を形成することができ、十分な水素遮蔽性を示し、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を低減することができる。
【0027】
また、本発明の焼成被膜は、外側に近づくにつれてガラス成分の濃度が低くなり、相対的にセラミック質の濃度が高くなっている。このため、焼成被膜内のガラス成分が外部に漏れ出すのを防ぐことができ、長期間にわたって、泡の発生を低減させる効果を持続することができる。
【0028】
また、最外層におけるアルミナファイバーの含有割合が、最内層におけるアルミナファイバーの含有割合より高い乾燥被膜を焼成することにより、焼成被膜の外側においてアルミナファイバーの含有割合を高めることができ、アルミナファイバーによる嵩高い構造を焼成被膜の外側に形成して、焼成被膜からガラス成分が流動して漏れ出すのを防ぐことができる。このため、泡の発生を長期間にわたって、より効率的に低減することができる。
【0029】
また、上述のように、乾燥被膜にコロイダルシリカが含有されている場合、焼成被膜においてコロイダルシリカの少なくとも一部がガラス材料中に溶け込む。このため、ガラス成分の粘性を高めることができ、ガラス成分が焼成被膜から外部に漏れ出すのをさらに効果的に防止することができ、泡の発生を長期間にわたってさらに効果的に低減することができる。
【0030】
本発明のガラス製造装置は、上記本発明の焼成被膜で表面が被覆された容器内に、溶融したガラスが保持されることを特徴とするガラス製造装置である。
【0031】
本発明のガラス製造装置において、溶融したガラスが保持される容器の表面には、上記本発明の焼成被膜が被覆されているので、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を長期間にわたって低減することができる。
【0032】
本発明のガラス製造装置において、容器の表面上の焼成被膜は、容器内に溶融したガラスが保持されることにより、溶融したガラスからの熱で乾燥被膜を焼成して形成することができる。従って、乾燥被膜を表面に形成した容器内に、溶融したガラスを供給することにより、溶融したガラスからの熱で乾燥被膜を焼成して焼成被膜を形成することができる。
【0033】
本発明のガラスの製造方法は、上記ガラス製造装置を用いてガラスを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明の乾燥被膜は、これを焼成することにより、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を長期間にわたって低減することができる焼成被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に従う具体的な実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
図1は、本発明に従う一実施形態の乾燥被膜を示す断面図である。
【0037】
図1に示すように、白金材料容器の壁部10の上には、ガラス粉末及びアルミナファイバーを含む乾燥被膜11が形成されている。乾燥被膜11は、容器の壁部10の表面上に形成される最内層12と、最内層12の上に形成される最外層13から構成されている。本実施形態において、乾燥被膜11は、最内層12と最外層13の2層から形成されている。
【0038】
最内層12及び最外層13は、それぞれガラス粉末及びアルミナファイバーを含んでおり、最内層12におけるガラス粉末の含有割合は、最外層13におけるガラス粉末の含有割合よりも高くなっている。最内層におけるガラス粉末の含有割合は、最外層におけるガラス粉末の含有割合の1.05倍以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.1〜3.0倍の範囲である。
【0039】
また、本実施形態において、最外層13におけるアルミナファイバーの含有割合は、最内層12におけるアルミナファイバーの含有割合よりも高くなっている。最外層13におけるアルミナファイバーの含有割合は、最内層12におけるアルミナファイバーの含有割合の1.5倍以上であることが好ましく、さらに好ましくは2.0〜8.0倍の範囲である。
【0040】
本発明において用いるアルミナファイバーの平均繊維径は、0.5μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、平均繊維長は10μm〜1mmの範囲内であることが好ましい。または、平均繊維長は、平均繊維径よりも長いことが好ましい。より好ましい平均繊維径は、0.5μm〜10μmの範囲内であり、平均繊維長は20μm〜500μmの範囲内である。平均繊維径が小さすぎると、焼成時に繊維が細すぎてガラスと反応し、ガラスに溶け込み、焼成被膜内において繊維として存在できにくくなり、ガラス成分の流動を抑制する効果が十分に得られない場合がある。また、平均繊維径が大きすぎると、緻密な膜質を得ることが困難になる場合がある。平均繊維長が50μm未満であると、繊維が短くなりすぎ、ガラス成分の流動を抑制する効果が十分に得られない場合がある。また、平均繊維長が長すぎると、スプレーコートによる塗装が困難になり、かつ緻密な膜質を得ることが困難になる場合がある。本発明におけるアルミナファイバーの組成は、アルミナの比率が高いものが好ましい。アルミナファイバーにおける好ましいアルミナの比率は60重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。アルミナの比率が少ないと、シリカ等の比率が増えるため、耐熱性が低下し、1500℃〜1600℃程度の高温になると、アルミナファイバーがガラスに溶け込み、焼成被膜内で繊維として存在することができにくくなり、ガラス成分の流動の抑制効果が十分に得られない場合がある。
【0041】
本発明におけるガラス粉末の組成は、特に限定されるものではないが、容器内に保持されるガラスがアルカリフリーガラスである場合には、アルカリフリーガラスであることが望ましい。このようなガラスとしては、アルカリ成分の含有量が0.1重量%以下であるものが挙げられる。このようなガラスの具体例としては例えば、ホウケイ酸ガラス、アルミナホウケイ酸ガラスが挙げられる。
【0042】
本発明において用いるガラス粉末の平均粒子径は、1〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは5〜20μmの範囲内である。ガラスの平均粒径が1μm未満になると加工が非常に困難となる。また、微粉すぎてスプレー塗布しにくい。100μm以上ではガラス粉末の粒子が粗すぎて緻密な膜を形成することが困難となる。
【0043】
本発明においては、コロイダルシリカを乾燥被膜中に含有させてもよい。コロイダルシリカの平均粒子径としては、10nm〜100nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは10〜50nmの範囲であり、さらに好ましくは10〜30nmの範囲である。コロイダルシリカは、上述のように、乾燥被膜中において無機バインダーとして働くものである。また、コロイダルシリカを用いることにより、焼成被膜中のガラス成分の粘度を上昇させることができ、ガラス成分が焼成被膜から漏れ出るのを抑制することができる。
【0044】
本発明においては、さらに必要に応じてアルミナ粒子を含有させてもよい。アルミナ粒子の平均粒子径は、1μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは3〜80μmの範囲内である。
【0045】
または、必要に応じて、シリカ粒子を乾燥被膜中に含有させてもよい。シリカ粒子の平均粒子径は、1μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは3〜80μmの範囲内である。
【0046】
本発明において、乾燥被膜を構成する最内層及び最外層並びにこられの間に配置される層の膜厚は、100μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは200μm〜1000μmの範囲内である。各層の膜厚が100μm未満であると、焼成被膜において緻密な構造が得られにくい場合がある。また、各層の膜厚が1000μmを越えると、膜厚が厚くなりすぎて、焼成の際の収縮が三次元的に発生し、焼成被膜に亀裂が発生する場合がある。
【0047】
また、本発明において、トータルの乾燥被膜の膜厚は、500μm〜3000μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは500μm〜2000μmの範囲内である。乾燥被膜の膜厚が500μm未満であると、泡の発生を抑制する効果が十分に得られない場合がある。また、乾燥被膜の膜厚が3000μmを越えると、長時間の作製時間が必要となり、また焼成被膜を形成する際に、収縮による割れが発生するおそれがある。
【0048】
図2は、本発明に従う一実施形態のガラス製造装置を示す模式図である。ガラス製造装置1は、溶融ガラスの供給源となる溶解槽2と、溶解槽2の下流側に設けられた清澄槽3と、清澄槽3の下流側に設けられた攪拌槽4と、攪拌槽4の下流側に設けられた成形装置5とを備えている。溶解槽2、清澄槽3、攪拌槽4、及び成形装置5は、それぞれ連絡流路6、7及び8によって接続されている。
【0049】
溶解槽2は、耐火物で形成され、バーナー、電極等が設けられており、ガラス原料を溶融することができる。溶解槽2の下流側の側壁には、流出口が形成されており、該流出口に、連絡流路6の一端が接続されており、連絡流路6の他端は清澄槽3に接続されている。清澄槽3と攪拌槽4の間には、連絡流路7が設けられている。攪拌槽4と成形装置5の間には、連絡流路8が設けられている。本実施形態においては、連絡流路6、清澄槽3、連絡流路7、攪拌槽4、及び連絡流路8が、白金材料、すなわち白金または白金合金から形成されており、その表面には、本発明の焼成被膜が形成されている。従って、本実施形態における、連絡流路6、清澄槽3、連絡流路7、撹拌槽4、及び連絡流路8は、本発明における白金材料容器となっている。これらの白金材料容器の外側表面には本発明の焼成被膜が形成されており、その周りを耐火物材料からなる保持部材で覆い、保持部材と白金材料容器との間には耐熱材料であるアルミナキャスタブル等が充填されている。
【0050】
本発明において、焼成被膜を形成する前の乾燥被膜における、ガラス粉末、アルミナファイバー、アルミナ粒子、及びコロイダルシリカの好ましい含有割合は最外層、最内層ともに以下の範囲内である。
【0051】
ガラス粉末:10〜75重量%
アルミナファイバー:0.1〜30重量%
アルミナ粒子:0〜50重量%
コロイダルシリカ:10〜50重量%
また、各成分の好ましい含有割合は、使用温度域に対応して適宜調整すればよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明をさらに具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔白金界面発泡試験〕
・白金坩堝
サンドブラスト処理した直径46mm、高さ40mmの白金(Pt)/ロジウム(Rh)10重量%の白金坩堝を用いた。
【0054】
・スラリーの調製
以下の各表に示す成分を、各表に示す含有割合となるようにスラリーを調製した。ガラス粉末、アルミナファイバー、アルミナ粒子及びコロイダルシリカとしては以下のものを用いた。
【0055】
ガラス粉末:アルカリフリーアルミノホウケイ酸ガラス:組成(重量%)SiO 60(重量%)、B 10(重量%)、Al 15(重量%)、CaO 6(重量%)、SrO 6(重量%)、BaO 2(重量%)、ZnO 1(重量%)を、ボールミル中で粉砕し、平均粒子径約10μmに加工したものを用いた。
【0056】
アルミナファイバー:デンカアルセン社製のアルミナファイバー(BULK(Al/SiO重量比=97/3)、平均繊維径3μm)を、アルミナ乳鉢にて粉砕し、平均繊維長約100μmの単繊維状に加工したものを用いた。
【0057】
アルミナ粒子:住友化学製 AL−42A 平均粒子径約50μmを用いた。
【0058】
コロイダルシリカ:グレース製 ルドックスSK 平均粒子径約12nmを用いた。
【0059】
上記の各成分の固形重量の2倍量の水に、各成分を添加して懸濁させ、さらに、メチルセルロースを固形分に対し3重量%となるように添加し、スラリーを調製した。
【0060】
・乾燥被膜の形成
上記の白金坩堝をホットガンで約60℃〜95℃に加熱した状態で、スプレー法により、上記で調製したスラリーを塗布して、白金坩堝の外側表面に乾燥被膜を形成した。
【0061】
・焼成被膜の形成
乾燥被膜を形成した白金坩堝を、80℃で約1日乾燥させた後、アルミナキャスタブルを内側に充填したアルミナ坩堝B5(外径88mm、高さ72mm)内に入れ、室温で約1日乾燥した後、80℃で約1日乾燥させた。
【0062】
次に、昇温速度10℃/分で、所定の試験温度まで昇温し、その温度を5日間保持して、白金坩堝の表面の乾燥被膜を焼成して、焼成被膜を形成した。なお試験温度は、1500℃及び1350℃に設定した。
【0063】
・白金界面発泡状態の観察
上記のようにして、試験温度で焼成した白金坩堝内に、試験用ガラスを充填し、試験温度にて所定時間(1500℃で試験する場合は1時間及び5日間、1350℃で試験する場合は1.5時間及び5日間)保持し、白金界面発泡の状態を評価した。
【0064】
以下の各表に、評価結果を示した。評価は、以下の基準で行った。
【0065】
◎:白金界面発泡なし 泡面積比率0〜3%未満
〇:白金界面発泡ほとんどなし 泡面積比率3〜10%未満
×:白金界面発泡有り 泡面積比率10%以上
【0066】
評価結果を各表に示す。なお図2に示すガラス製造装置1においては、連絡流路6、清澄槽3、連絡流路7、攪拌槽4、及び連絡流路8の順に使用温度域が低くなっており、上記試験条件は製造装置1における1500℃及び1350℃に相当する温度域での使用を想定して設定したものである。
【0067】
図3は、白金界面発泡試験の評価方法を説明するための断面図である。
【0068】
図3に示すように、アルミナ坩堝24内にアルミナキャスタブル23が配置されており、アルミナキャスタブル23中に埋め込まれるように白金坩堝20が配置されている。白金坩堝20の外側表面には、乾燥被膜を焼成することにより形成した焼成被膜21が設けられている。白金坩堝20内には、試験用ガラス22が入れられている。この状態で、所定の試験温度で保持し、白金坩堝20との界面近傍の試験用ガラス22中に発生する泡の状態を観察した。
【0069】
<試験温度1500℃>
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
図4は、実施例1−3の白金坩堝の界面近傍のガラス中に発生した泡の状態を観察した写真である。図5は、比較例1−1の白金坩堝の界面近傍のガラス中に発生した泡の状態を観察した写真である。評価基準における「泡面積比率」は、白金坩堝内のガラスを上方から観察したときの所定面積当たりのガラス全体の面積に対する泡全体の面積比率である。
【0074】
<試験温度1350℃>
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
上記各表に示す結果から明らかなように、本発明に従う焼成被膜を形成した各実施例においては、ガラス中の水分に起因する泡の発生を、長期間にわたって低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に従う一実施形態の乾燥被膜を示す模式的断面図。
【図2】本発明に従う一実施形態におけるガラス製造装置を示す模式図。
【図3】本発明に従う実施例における白金界面発泡試験での評価方法を説明するための模式的断面図。
【図4】本発明に従う実施例1−3における白金坩堝との界面近傍のガラス中に発生する泡の状態を観察した写真。
【図5】比較例1−1における白金坩堝との界面近傍のガラス中に発生する泡の状態を観察した写真。
【符号の説明】
【0079】
1…ガラス製造装置
2…溶解槽
3…清澄槽
4…攪拌槽
5…成形装置
6,7,8…連絡流路
10…白金材料容器の壁部
11…乾燥被膜
12…最内層
13…最外層
20…白金坩堝
21…焼成被膜
22…試験用ガラス
23…アルミナキャスタブル
24…アルミナ坩堝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金材料からなる容器の表面を被覆する乾燥被膜であって、
ガラス粉末及びアルミナファイバーを含み、
前記容器の表面上に形成される最内層と、最も外側に形成される最外層とを少なくとも有し、
前記最内層におけるガラス粉末の含有割合が、前記最外層におけるガラス粉末の含有割合より高いことを特徴とする白金材料容器の乾燥被膜。
【請求項2】
前記最外層におけるアルミナファイバーの含有割合が、前記最内層におけるアルミナファイバーの含有割合より高いことを特徴とする請求項1に記載の白金材料容器の乾燥被膜。
【請求項3】
コロイダルシリカがさらに含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の白金材料容器の乾燥被膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の乾燥被膜を形成する方法であって、
ガラス粉末及びアルミナファイバーを含み、前記最内層を形成するための第1のスラリーと、ガラス粉末及びアルミナファイバーを含み、前記最外層を形成するための第2のスラリーとを、前記第1のスラリーの固形分中のガラス粉末の含有割合が、前記第2のスラリーの固形分中のガラス粉末の含有割合より高くなるように調製する工程と、
前記第1のスラリーを塗布し、乾燥させて前記最内層を形成する工程と、
前記第2のスラリーを塗布し、乾燥させて前記最外層を形成する工程とを備えることを特徴とする白金材料容器の乾燥被膜の形成方法。
【請求項5】
前記第1のスラリー及び前記第2のスラリーをスプレーコートによって塗布することを特徴とする請求項4に記載の白金材料容器の乾燥被膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の乾燥被膜を加熱して焼成することにより得られる、アルミナファイバーを含むガラス材料からなる白金材料容器の焼成被膜。
【請求項7】
前記乾燥被膜にコロイダルシリカが含有されており、前記焼成被膜においてコロイダルシリカの少なくとも一部が前記ガラス材料中に溶け込んでいることを特徴とする請求項6に記載の白金材料容器の焼成被膜。
【請求項8】
請求項6または7に記載された焼成被膜で表面が被覆された前記容器内に、溶融したガラスが保持されることを特徴とするガラス製造装置。
【請求項9】
溶融したガラスが前記容器内に保持されることにより、溶融したガラスからの熱で前記乾燥被膜が焼成されて、前記焼成被膜が形成されていることを特徴とする請求項8に記載のガラス製造装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載のガラス製造装置を用いてガラスを製造することを特徴とするガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−150103(P2010−150103A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332315(P2008−332315)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】