説明

白金材料容器の乾燥被膜及び焼成被膜の形成方法

【課題】アルミナキャスタブルの配置による水素遮蔽性の低下を抑制することができる焼成被膜を形成するための乾燥被膜及びその形成方法並びに焼成被膜を得る。
【解決手段】白金材料からなる容器10の外表面上に形成され、その周囲にアルミナキャスタブル14を配置した後、焼成して焼成被膜を形成するための乾燥被膜11を形成する方法であって、ガラス粉末及びセラミック粉末を含むスラリーを調製する工程と、スラリーを白金材料容器10の外表面に塗布し無機材料膜12を形成する工程と、無機材料膜12の表面上に撥水剤13を塗布する工程とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製造装置等に用いられる白金材料からなる容器の表面を被覆する乾燥被膜及び焼成被膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学ガラス、ディスプレイ用ガラス等の高品位のガラスを製造するための装置(攪拌槽、清澄槽等)の構成材料として、一般的に白金または白金合金などの白金材料が使用されている。ガラス製造工程における装置温度は、約1200℃〜1600℃であり、1000℃以上の高温の環境下にある。白金材料は、高温安定性に優れるため、このような高温環境下でも装置内部のガラスを汚染することなく、長期間使用することが可能である。
【0003】
しかしながら、白金材料を用いたガラス製造装置においては、ガラス製造時にガラス中の水分に起因する泡が、白金材料との界面に発生するという問題があった。この現象は、ガラス中の水が分解し、分解により生成した水素は白金部材を透過して外部に放出されるが、酸素は白金部材を透過できないため、白金部材の界面近傍に酸素濃度の高いガラスが存在し、ガラスの酸素溶解度以上の酸素濃度となると、酸素が発泡し、泡となってガラス中に含まれるためであると考えられる。
【0004】
特許文献1においては、ガラス溶融物が接する白金部材の反対側の面上に水素を供給することにより、気泡の生成を防止する方法が開示されている。しかしながら、この方法は高価であり、水素ガス濃度が高すぎると、白金を通して外部から水素が供給され、ガラス中に水素泡が発生する現象が確認されており、適正な水素濃度を制御することが困難である。
【0005】
特許文献2及び3においては、ガラス製造時における泡の発生の問題を解決するため、白金部材の外表面に、水素不透過性のガラス系被膜を設けることが提案されている。また特許文献4及び5においては、耐火材料とガラス成分を含むコーティング層を白金部材の表面にコーティングすることが提案されている。
【0006】
一般に、コーティング層が表面に形成された白金部材の周りには、保温用の耐火物が設けられ、コーティング層が表面に形成された白金部材と保温用耐火物との間には、アルミナキャスタブルが充填される。本発明者は、このようなアルミナキャスタブルが配置されることにより、コーティング層が有する本来の水素遮蔽性が低減されるという課題を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO98/18731号パンフレット
【特許文献2】特表2004−523449号公報
【特許文献3】特表2006−522001号公報
【特許文献4】国際公開WO2006/030738号パンフレット
【特許文献5】特開2006−77318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アルミナキャスタブルの配置による水素遮蔽性の低下を抑制することができる白金材料容器の焼成被膜を形成するための乾燥被膜及び焼成被膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の乾燥被膜の形成方法は、白金材料からなる容器の外表面上に形成され、焼成して焼成被膜を形成するための乾燥被膜を形成する方法であって、ガラス粉末及びセラミック粉末を含むスラリーを調製する工程と、前記スラリーを前記白金材料容器の外表面に塗布し無機材料膜を形成する工程と、前記無機材料膜の表面上に撥水剤を塗布する工程とを備えることを特徴としている。
【0010】
白金材料容器の外表面上に乾燥被膜を形成した後、上述のように、その周囲にはアルミナキャスタブル等が配置される。一般に、アルミナキャスタブルは、スラリーの形態で配置される。このような水性スラリーが、ガラス粉末及びセラミック粉末を含む無機材料膜の表面上に配置されると、無機材料膜が、スラリーと直接接することにより、無機材料膜の表面の緻密性が破壊され、無機材料膜の膜質が変化し、その結果、水素遮蔽性が低下することを本発明者は見出した。
【0011】
また、アルミナキャスタブル中には、不純物であるCaO等の成分が含まれており、このような成分が、無機材料膜中に溶け出すことにより、無機材料膜のガラス質コーティング成分が軟化し、ガラス質成分が無機材料膜中から溶け出て、アルミナキャスタブル中に吸収される。これによって、無機材料膜が粗な膜質に変化し、水素遮蔽性が低下することを本発明者は見出した。
【0012】
本発明者は、水素遮蔽性が低下する原因を上記のように解明し、これらの原因に基づく問題を解消するため鋭意検討した結果、無機材料膜の表面上に撥水剤を塗布し、無機材料膜に撥水剤を含浸させて撥水性を有する無機材料膜を形成することにより、上記問題を解消し得ることを見出した。
【0013】
本発明に従い、無機材料膜の表面上に撥水剤を塗布し、無機材料膜に撥水剤を含浸させることにより、多孔質体である無機材料膜の内部の孔内に撥水剤が充填された状態となる。従来においては、このような無機材料膜の孔を通り、アルミナキャスタブル等が侵入していたが、本発明によれば、無機材料膜のこのような孔に撥水剤が含浸されることにより、アルミナキャスタブル等が配置された際に、アルミナキャスタブル等のスラリーが無機材料膜中に侵入し、緻密な膜が粗な膜質に変化するのを抑制することができる。また、アルミナキャスタブル中に含まれる不純物であるCaO等の成分が、無機材料膜中に溶け込むことを抑制することができ、焼成後の焼成被膜が軟化するのを抑制することができる。このため、アルミナキャスタブル等の配置による水素遮蔽性の低下を抑制することができる。従って、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を効率良く低減することができる。
【0014】
なおアルミナキャスタブルに代えて、他の水性スラリー材料、例えばガラス粉末を含むスラリー(ガラススラリー)が配置される場合にも、同様に本発明を適用することが可能である。
【0015】
本発明においては、白金材料からなる容器の外表面上に形成され、その周囲にアルミナキャスタブルを配置した後、焼成して焼成被膜を形成するための乾燥被膜を形成する方法であることが好ましい。
【0016】
本発明における撥水剤としては、シリコーン系の撥水剤、フッ素系の撥水剤などが挙げられるが、好ましくは、シリコーン系の撥水剤が用いられる。シリコーン系の撥水剤としては、シリコーンオイルが挙げられる。
【0017】
撥水剤の粘度としては、5000cs(センチストークス)以下であることが好ましく、さらに好ましくは3100cs以下であり、さらに好ましくは、1500cs以下である。撥水剤の粘度の下限値は、特に限定されるものではないが、一般には500cs以上である。撥水剤の粘度を低くすることにより、無機材料膜の表面に撥水剤を塗布した際、撥水剤が無機材料膜中に含浸されやすくなり、撥水性を有する無機材料膜を形成することができ、水素遮蔽性をより効果的に高めることができる。
【0018】
本発明においては、無機材料膜中にコロイダルシリカがさらに含まれていることが好ましい。コロイダルシリカは、無機材料膜を形成するためのスラリーにおいて、バインダー的な機能を発揮し、スラリーの粘度を高め、スラリーを塗布した際のスラリーの塗着性を高めることができる。また、スラリーを乾燥して形成した無機材料膜における膜強度を向上させることができる。
【0019】
また、乾燥被膜を焼成して焼成被膜を形成した際、コロイダルシリカは微粒子であり、反応性が高いため、無機材料膜中のガラス粉末が溶解した際、ガラスと反応し、ガラス成分の粘性を高めることができる。このため、ガラス成分が焼成被膜中から流出するのを防ぐ効果をさらに高めることができる。
【0020】
本発明において、無機材料膜中に含まれるセラミック粉末としては、アルミナ粉末、シリカ粉末などが挙げられる。アルミナ粉末及びシリカ粉末は、乾燥被膜を焼成して焼成被膜を形成する際、無機材料膜中において溶融したガラス粉末に、一部が溶解することにより、焼成被膜内のガラス成分の流動を抑制することができる。ガラス成分の流動を抑制する観点からは、アルミナ粉末、特にアルミナファイバーが好ましく用いられる。アルミナファイバーは、繊維状であるので、シリカ粒子やアルミナ粒子などの粒子形状のセラミック粉末に比べ、より嵩高い構造を形成することができる。このため、ガラス成分の流動をより効果的に抑制することができる。
【0021】
本発明において、無機材料膜は、組成の異なる複数の層を積層して形成してもよい。この場合、外側に位置する層に、アルミナファイバーを含有させることが好ましい。外側に位置する層にアルミナファイバーを含有させることにより、焼成被膜内のガラス成分の流動をより効果的に抑制することができ、ガラス成分が焼成被膜から漏れ出すのをより効果的に防止することができる。
【0022】
本発明の形成方法においては、上述のように、コロイダルシリカをスラリーに含有させることができる。コロイダルシリカを含有させることにより、スラリーの白金に対する固着性を高めることができ、スラリーの塗着性を高めることができる。
【0023】
本発明の乾燥被膜の形成方法において、スラリーの塗布方法は、特に限定されるものではないが、スプレーコートで塗布することが好ましい。スプレーコートで塗布することにより、緻密で均一な無機材料膜を白金材料容器の表面上に形成することができる。スプレーコートによる塗布と乾燥とを数回繰り返すことにより、所定の膜厚の無機材料膜を形成することが好ましい。
【0024】
塗布したスラリー被膜の乾燥温度は、特に限定されるものではないが、一般には、40〜95℃程度の温度であることが好ましい。乾燥は、例えば、白金材料容器を温風下に位置させることにより行うことができる。
【0025】
本発明の乾燥被膜は、上記本発明の乾燥被膜の形成方法により形成されたことを特徴としている。
【0026】
本発明の乾燥被膜においては、撥水剤が乾燥被膜中に含浸しているため、乾燥被膜の周囲にアルミナキャスタブル等を配置した際、アルミナキャスタブル等の水性スラリーが、乾燥被膜内に侵入し、無機材料膜の緻密な膜構造が破壊されるのを抑制することができ、焼成被膜が粗な膜質に変化するのを抑制することができる。
【0027】
本発明の焼成被膜の形成方法は、上記本発明の方法により乾燥被膜を形成する工程と、乾燥被膜を焼成して焼成被膜を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0028】
本発明の焼成被膜の形成方法においては、乾燥被膜の表面に、撥水剤を塗布することにより、撥水剤が乾燥被膜中に含浸し、撥水性を有する乾燥被膜が形成されるため、乾燥被膜の周囲にアルミナキャスタブル等を配置した際、アルミナキャスタブル等のスラリーが、乾燥被膜内に侵入し、無機材料膜の緻密な膜構造が破壊されるのを抑制することができる。また、アルミナキャスタブル中のCaO等の不純物成分が、乾燥被膜中に溶け込むのを抑制することができ、焼成被膜が粗な膜質に変化するのを抑制することができる。このため、焼成被膜の水素遮蔽性の低下を抑制することができ、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制することができる。
【0029】
上述のように、乾燥被膜にコロイダルシリカが含有されている場合、焼成被膜においてコロイダルシリカの少なくとも一部がガラス材料中に溶け込む。このため、ガラス成分の粘性を高めることができ、ガラス成分が焼成被膜から外部に漏れ出すのをさらに効果的に防止することができ、緻密な焼成被膜により泡の発生をさらに効果的に低減することができる。
【0030】
なおアルミナキャスタブルに代えて、他の水性スラリー材料、例えばガラス粉末を含むスラリー(ガラススラリー)を配置する場合にも、同様に本発明を適用することが可能である。
【0031】
本発明においては、さらに乾燥被膜の周囲にアルミナキャスタブルを配置する工程を備えることが好ましい。
【0032】
本発明の焼成被膜は、上記本発明の焼成被膜の形成方法により形成されたことを特徴としている。
【0033】
本発明の焼成被膜においては、撥水剤が乾燥被膜中に含浸し、撥水性を有する乾燥被膜の周囲にアルミナキャスタブル等の水性スラリーを配置した後焼成されるものであり、このような水性スラリーが乾燥被膜内に侵入するのを抑制した状態で焼成されたものであるので、緻密な膜質を有しており、良好な水素遮蔽性を有するものである。このため、白金材料容器内でのガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制することができる。
【0034】
本発明のガラス製造装置は、上記本発明の焼成被膜で外表面が被覆された容器内に、溶融したガラスが保持されることを特徴とするガラス製造装置である。
【0035】
本発明のガラス製造装置において、溶融したガラスが保持される容器の外表面には、上記本発明の焼成被膜が被覆されているので、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生を低減することができる。
【0036】
本発明のガラス製造装置において、容器の外表面上の焼成被膜は、容器内に溶融したガラスが保持されることにより、溶融したガラスからの熱で乾燥被膜を焼成して形成することができる。従って、乾燥被膜を外表面に形成した容器内に、溶融したガラスを供給することにより、溶融したガラスからの熱で乾燥被膜を焼成して焼成被膜を形成することができる。
【0037】
本発明のガラスの製造方法は、上記ガラス製造装置を用いてガラスを製造することを特徴としている。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、アルミナキャスタブル等の配置による焼成被膜の水素遮蔽性の低下を抑制することができる。従って、本発明によれば、ガラス製造時におけるガラス中の水分に起因する泡の発生をより効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に従う一実施形態の乾燥被膜の形成方法を示す模式的断面図。
【図2】本発明に従う一実施形態におけるガラス製造装置を示す模式図。
【図3】本発明に従う実施例における白金界面発泡試験での評価方法を説明するための模式的断面図。
【図4】実施例1〜3及び比較例1〜2における白金坩堝との界面近傍のガラス中に発生する泡の状態を観察した写真。
【図5】実施例4〜5及び比較例3における白金坩堝との界面近傍のガラス中に発生する泡の状態を観察した写真。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に従う具体的な実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0041】
図1は、本発明に従う一実施形態の乾燥被膜の形成方法を示す模式的断面図である。
【0042】
図1(a)に示すように、白金材料容器の壁部10の表面上に、ガラス粉末及びセラミック粉末を含むスラリーを塗布し、無機材料膜12を形成する。無機材料膜12は、上述のように、スラリーの塗布と乾燥を繰り返すことにより、所定の膜厚に形成される。白金材料容器の壁部10を加熱しておくことにより、スラリーを塗布すると同時に乾燥し、この塗布と乾燥を繰り返すことにより、無機材料膜12を形成することが好ましい。無機材料膜12は、スラリーに含まれていた水分が揮発することにより、多孔質体として形成される。
【0043】
無機材料膜12の上には、図1(a)に示すように、撥水剤13が塗布される。塗布された撥水剤13は、多孔質体である無機材料膜12中に染み込み、含浸され、図1(b)に示すように、乾燥被膜11が形成される。乾燥被膜11内には、撥水剤が含浸されているため、乾燥被膜11に撥水性が付与されている。
【0044】
次に、図1(c)に示すように、乾燥被膜11が形成された白金材料容器の壁部10の周囲に、白金材料容器を保持するための耐火物材料からなる保持部材15が設けられる。さらに、保持部材15と乾燥被膜11との間には、耐熱材料であるアルミナキャスタブル14が配置される。アルミナキャスタブル14は、アルミナキャスタブルの水性スラリーを乾燥被膜11と保持部材15の間に充填した後、乾燥することにより、乾燥被膜11と保持部材15の間に配置される。
【0045】
本発明においては、乾燥被膜11中に撥水剤が含浸されており、乾燥被膜11の孔には、撥水剤が充填されているので、乾燥被膜11と保持部材15との間にアルミナキャスタブル14が配置された際、アルミナキャスタブル14を形成するためのスラリーが、乾燥被膜11中に侵入するのを抑制することができる。このため、乾燥被膜11を焼成して形成される焼成被膜が粗な膜質に変化することを抑制することができる。
【0046】
無機材料膜12中には、上述のように、ガラス粉末及びセラミック粉末が含まれている。
【0047】
本発明におけるガラス粉末の組成は、特に限定されるものではないが、容器内に保持されるガラスがアルカリフリーガラスである場合には、アルカリフリーガラスであることが望ましい。このようなガラスとしては、アルカリ成分の含有量が0.1重量%以下であるものが挙げられる。このようなガラスの具体例としては例えば、ホウケイ酸ガラス、アルミナホウケイ酸ガラスが挙げられる。
【0048】
本発明において用いるガラス粉末の平均粒子径は、1〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは5〜20μmの範囲内である。ガラスの平均粒径が1μm未満になると加工が非常に困難となる。また、微粉すぎてスプレー塗布しにくい。100μm以上ではガラス粉末の粒子が粗すぎて緻密な膜を形成することが困難となる。
【0049】
本発明におけるセラミック粉末としては、アルミナ粒子、シリカ粒子などが挙げられる。アルミナ粒子の平均粒子径は、1〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは3〜80μmの範囲内である。
【0050】
シリカ粒子の平均粒子径は、1〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは3〜80μmの範囲内である。
【0051】
また、上述のように、無機材料膜中においては、コロイダルシリカを含有させることが好ましい。
【0052】
コロイダルシリカの平均粒子径としては、10〜100nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは10〜50nmの範囲であり、さらに好ましくは10〜30nmの範囲である。コロイダルシリカは、上述のように、無機材料膜中において無機バインダーとして働くものである。また、コロイダルシリカを用いることにより、焼成被膜中のガラス成分の粘度を上昇させることができ、ガラス成分が焼成被膜から漏れ出るのを抑制することができる。
【0053】
また、本発明においては、セラミック粉末として、アルミナファイバーを用いてもよい。本発明において用いるアルミナファイバーの平均繊維径は、0.5〜50μmの範囲内であることが好ましく、平均繊維長は10μm〜1mmの範囲内であることが好ましい。または、平均繊維長は、平均繊維径よりも長いことが好ましい。より好ましい平均繊維径は、0.5〜10μmの範囲内であり、平均繊維長は20〜500μmの範囲内である。
【0054】
無機材料膜12は、ガラス粉末及びセラミック粉末を含む水性スラリーを塗布し、これを乾燥することにより形成することができる。水性スラリーには、必要に応じて水溶性の有機バインダー等を添加する。
【0055】
また無機材料膜12は、撥水剤13が表面に塗布される。塗布された撥水剤13は、無機材料膜12内に染みこみ、乾燥被膜11に撥水性を与える。撥水剤としては、上述のように、シリコーンオイルなどのシリコーン系撥水剤を好ましく用いることができる。撥水剤は、スプレーや刷毛塗りなどにより塗布することができる。
【0056】
本発明において、無機材料膜の厚みは、100〜2000μmの範囲内であり、さらに好ましくは、500〜2000μmの範囲内である。無機材料膜の膜厚が薄過ぎると、泡の発生を抑制する効果が十分に得られない場合がある。また、無機材料膜の膜厚が厚過ぎると、長時間の作製時間が必要となり、また、焼成被膜を形成する際に、収縮によるワレが発生するおそれがある。
【0057】
本発明において用いられるアルミナキャスタブルは、Al及びSiOを主成分とするキャスタブル耐火物であり、Al及びSiOの含有量は、好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは95重量%以上であり、特に好ましくは97重量%以上である。
【0058】
アルミナキャスタブルは、適当量の水を添加してスラリー状に調製し、このスラリーを乾燥被膜と保持部材の間にキャストした後、乾燥して形成される。
【0059】
保持部材は、耐火物材料から形成される。耐火物材料としては、SiO、ZnO、Al等の緻密性の高い高耐熱耐火物の使用が望ましい。
【0060】
図2は、本発明に従う一実施形態のガラス製造装置を示す模式図である。ガラス製造装置1は、溶融ガラスの供給源となる溶解槽2と、溶解槽2の下流側に設けられた清澄槽3と、清澄槽3の下流側に設けられた攪拌槽4と、攪拌槽4の下流側に設けられた成形装置5とを備えている。溶解槽2、清澄槽3、攪拌槽4、及び成形装置5は、それぞれ連絡流路6、7及び8によって接続されている。
【0061】
溶解槽2は、耐火物で形成され、バーナー、電極等が設けられており、ガラス原料を溶融することができる。溶解槽2の下流側の側壁には、流出口が形成されており、該流出口に、連絡流路6の一端が接続されており、連絡流路6の他端は清澄槽3に接続されている。清澄槽3と攪拌槽4の間には、連絡流路7が設けられている。攪拌槽4と成形装置5の間には、連絡流路8が設けられている。本実施形態においては、連絡流路6、清澄槽3、連絡流路7、攪拌槽4、及び連絡流路8が、白金材料、すなわち白金または白金合金から形成されており、その表面には、本発明の焼成被膜が形成されている。従って、本実施形態における、連絡流路6、清澄槽3、連絡流路7、攪拌槽4、及び連絡流路8は、本発明における白金材料容器となっている。これらの白金材料容器の外表面には本発明の焼成被膜が形成されており、その周りを耐火物材料からなる保持部材で覆い、保持部材と白金材料容器との間には耐熱材料であるアルミナキャスタブルが充填されている。
【0062】
本発明の乾燥被膜を外表面に形成した白金材料容器の周りを、保持部材で覆い、保持部材と白金材料容器との間にアルミナキャスタブルを配置した後、白金材料容器内に、溶融したガラスを流すことにより、溶融したガラスからの熱で白金材料容器の外表面上に形成された乾燥被膜を焼成し、焼成被膜を形成することができる。
【0063】
本発明において、焼成被膜を形成する前の乾燥被膜の無機材料膜におけるガラス粉末、アルミナ粒子、コロイダルシリカ、及びアルミナファイバーの好ましい含有割合は、以下の範囲内である。
【0064】
ガラス粉末:10〜75重量%
アルミナ粒子:0〜50重量%
コロイダルシリカ:10〜50重量%
アルミナファイバー:0〜30重量%
【0065】
また、各成分の好ましい含有割合は、使用温度域に対応して適宜調整すればよい。
【実施例】
【0066】
以下、本発明をさらに具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
<実験1>
〔白金界面発泡試験〕
・白金坩堝
サンドブラスト処理した直径46mm、高さ40mmの白金(Pt)/ロジウム(Rh)10重量%の白金坩堝を用いた。
【0068】
・スラリーの調製
以下の表1に示す成分を、表1に示す含有割合となるようにスラリーを調製した。ガラス粉末、アルミナ粒子、コロイダルシリカ、及びアルミナファイバーとしては以下のものを用いた。
【0069】
ガラス粉末:アルカリフリーアルミノホウケイ酸ガラス:組成(重量%)SiO 60(重量%)、B 10(重量%)、Al 15(重量%)、CaO 6(重量%)、SrO 6(重量%)、BaO 2(重量%)、ZnO 1(重量%)を、ボールミル中で粉砕し、平均粒子径約10μmに加工したものを用いた。
【0070】
アルミナ粒子:住友化学製 AL−42A 平均粒子径約50μmを用いた。
【0071】
コロイダルシリカ:グレース製 ルドックスSK 平均粒子径約12nmを用いた。
【0072】
アルミナファイバー:デンカアルセン社製のアルミナファイバー(BULK(Al/SiO重量比=97/3)、平均繊維径3μm)を、アルミナ乳鉢にて粉砕し、平均繊維長約100μmの単繊維状に加工したものを用いた。
【0073】
上記の各成分の固形重量の2倍量の水に、各成分を添加して懸濁させ、さらに、メチルセルロースを固形分に対し3重量%となるように添加し、スラリーを調製した。
【0074】
・乾燥被膜の形成
上記の白金坩堝をホットガンで約60℃〜95℃に加熱した状態で、スプレー法により、上記で調製したスラリーを塗布して、白金坩堝の外側表面に無機材料膜を形成した。
【0075】
次に、無機材料膜の上に、以下の撥水剤Aを刷毛にて塗布して、室温にて約半日乾燥した。
【0076】
撥水剤A:製品名「X−21−5841」、信越シリコーン社製、両末端OH基ジメチルシリコーンオイル、粘度1100cs
【0077】
なお、表1に示すように、実施例3においては、無機材料膜を、2層から形成した。内側の層は、ガラス粉末、アルミナ粒子、及びコロイダルシリカを含有しており、外側の層は、ガラス粉末、アルミナファイバー、アルミナ粒子、及びコロイダルシリカを含有している。外側の層に、アルミナファイバーを含有させることにより、粒子形状のセラミックに比べ、より嵩高い構造を形成し、焼成被膜内のガラス成分の流動を抑制し、ガラス成分が焼成被膜から漏れ出すのを効果的に防止することができる。
【0078】
表1に示すように、比較例1及び比較例2においては、撥水剤を塗布せずに、無機材料膜のみを乾燥被膜として用いている。
【0079】
以上のようにして、白金坩堝の外側表面に撥水剤を塗布してなる撥水性を有する乾燥被膜及び撥水剤を塗布しない乾燥被膜を形成した。
【0080】
・焼成被膜の形成
乾燥被膜を形成した白金坩堝を、80℃で約1日乾燥させた後、アルミナキャスタブルスラリーを内側に充填したアルミナ坩堝B5(外径88mm、高さ72mm)内に入れ、室温で約1日乾燥した後、80℃で約1日乾燥させた。
【0081】
次に、昇温速度10℃/分で、所定の試験温度まで昇温し、その温度を24時間保持して、白金坩堝の表面の乾燥被膜を焼成して、焼成被膜を形成した。なお試験温度は、1500℃に設定した。
【0082】
・白金界面発泡状態の観察
上記のようにして、試験温度で焼成した白金坩堝内に、試験用ガラスを充填し、試験温度(1500℃)にて1時間保持し、白金界面発泡の状態を評価した。
【0083】
以下の各表に、評価結果を示した。評価は、以下の基準で行った。
【0084】
〇:白金界面発泡なし 泡面積比率0〜3%未満
△:白金界面発泡ほとんどなし 泡面積比率3〜10%未満
×:白金界面発泡有り 泡面積比率10%以上
【0085】
評価結果を表1に示す。なお図2に示すガラス製造装置1においては、連絡流路6、清澄槽3、連絡流路7、攪拌槽4、及び連絡流路8の順に使用温度域が低くなっており、上記試験条件は製造装置1における1500℃に相当する温度域での使用を想定して設定したものである。
【0086】
図3は、白金界面発泡試験の評価方法を説明するための断面図である。
【0087】
図3に示すように、アルミナ坩堝24内にアルミナキャスタブル23が配置されており、アルミナキャスタブル23中に埋め込まれるように白金坩堝20が配置されている。白金坩堝20の外側表面には、乾燥被膜を焼成することにより形成した焼成被膜21が設けられている。白金坩堝20内には、試験用ガラス22が入れられている。この状態で、所定の試験温度で保持し、白金坩堝20との界面近傍の試験用ガラス22中に発生する泡の状態を観察した。
【0088】
【表1】

【0089】
図4は、実施例1〜3及び比較例1〜2の白金坩堝の界面近傍のガラス中に発生した泡の状態を観察した写真である。評価基準における「泡面積率」は、白金坩堝内のガラスを上方から観察したときの所定面積当たりのガラス全体の面積に対する泡全体の面積比率である。
【0090】
表1に示すように、本発明に従い、無機材料膜に撥水性を付与した乾燥被膜を用いた実施例1〜3は、撥水性を付与していない比較例1及び2に比べ、ガラス中の水分に起因する泡の発生が低減されており、高い水素遮蔽性を有する焼成被膜を形成できることがわかる。
【0091】
<実験2>
表2に示すように、実施例4においては、撥水剤Bを用いて、撥水剤を塗布する以外は、実験1と同様にして乾燥被膜を形成して、これを焼成して焼成被膜を形成した。
【0092】
また、表2に示すように、比較例3においては、撥水剤を塗布せずに、無機材料膜をそのまま乾燥被膜として用い、焼成被膜を形成した。
【0093】
撥水剤Bは、以下の通りである。
【0094】
撥水剤B:製品名「KF−9701」、信越シリコーン社製、両末端OH基ジメチルシリコーンオイル、粘度3080cs
【0095】
実施例4〜5及び比較例3について、実験1と同様にして、白金界面発泡状態を観察し、評価結果を表2に示した。
【0096】
【表2】

【0097】
図5は、実施例4〜5及び比較例3の白金坩堝の界面近傍のガラス中に発生した泡の状態を観察した写真である。
【0098】
表2に示す結果から明らかなように、本発明に従い、無機材料膜の上に撥水剤を塗布、含浸させることで撥水性を有する乾燥被膜を形成することにより、ガラス中の水分に起因する泡の発生を低減することができる。
【0099】
また、実施例4と実施例5の比較から明らかなように、撥水剤の粘度が、低いほど、ガラス中の水分に起因する泡の発生を低減できることがわかる。この理由は、撥水剤の粘性が低いほど無機材料膜中に撥水剤が含浸しやすく、撥水性がより発現するためであると推測する。
【符号の説明】
【0100】
1…ガラス製造装置
2…溶解槽
3…清澄槽
4…攪拌槽
5…成形装置
6,7,8…連絡流路
10…白金材料容器の壁部
11…乾燥被膜
12…無機材料膜
13…撥水剤
14…アルミナキャスタブル
15…保持部材
20…白金坩堝
21…焼成被膜
22…試験用ガラス
23…アルミナキャスタブル
24…アルミナ坩堝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金材料からなる容器の外表面上に形成され、焼成して焼成被膜を形成するための乾燥被膜を形成する方法であって、
ガラス粉末及びセラミック粉末を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを前記白金材料容器の外表面に塗布し無機材料膜を形成する工程と、
前記無機材料膜の表面上に撥水剤を塗布する工程とを備えることを特徴とする白金材料容器の乾燥被膜の形成方法。
【請求項2】
白金材料からなる容器の外表面上に形成され、その周囲にアルミナキャスタブルを配置した後、焼成して焼成被膜を形成するための乾燥被膜を形成する方法であることを特徴とする請求項1に記載の白金材料容器の乾燥被膜の形成方法。
【請求項3】
前記撥水剤がシリコーンオイルであることを特徴とする請求項1または2に記載の白金材料容器の乾燥被膜の形成方法。
【請求項4】
前記スラリー中にさらにコロイダルシリカが含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の白金材料容器の乾燥被膜の形成方法。
【請求項5】
前記セラミック粉末としてアルミナ粉末が含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の白金材料容器の乾燥被膜の形成方法。
【請求項6】
前記スラリーをスプレーコートによって塗布することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の白金材料容器の乾燥被膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって形成されたことを特徴とする乾燥被膜。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により乾燥被膜を形成する工程と、
前記乾燥被膜を焼成して焼成被膜を形成する工程とを備えることを特徴とする白金材料容器の焼成被膜の形成方法。
【請求項9】
前記焼成工程の前に、前記乾燥被膜の周囲にアルミナキャスタブルを配置する工程を備えることを特徴とする請求項8に記載の白金材料容器の焼成被膜の形成方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載された方法によって形成されたことを特徴とする焼成被膜。
【請求項11】
請求項8または9に記載された方法で形成された焼成被膜で外表面が被覆された前記容器内に、溶融したガラスが保持されることを特徴とするガラス製造装置。
【請求項12】
溶融したガラスが前記容器内に保持されることにより、溶融したガラスからの熱で前記乾燥被膜が焼成されて、前記焼成被膜が形成されていることを特徴とする請求項11に記載のガラス製造装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載のガラス製造装置を用いてガラスを製造することを特徴とするガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−188299(P2010−188299A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36598(P2009−36598)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】