説明

皮膚状態の評価方法

【課題】 本発明は、化粧料などに応用すべく、簡便、且つ、定量的な皮膚状態の評価方法、並びに、当該評価方法を用いた化粧料の選択方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明によれば、角層中におけるAGEsの含有量に着目することにより、簡便、且つ、定量的に表皮弾力性及び/又は皮膚表面形態(平均粗さ:Ra)などの皮膚状態を評価する方法を見出し、当該評価方法を利用した化粧料の選択方法に応用することにより、前記課題を解決することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料の選択に好適な皮膚状態の評価方法に関し、詳しくは、角層中におけるAGEs(Advanced Glycation end products:AGEs)含有量を指標とする皮膚状態の評価方法に関する。更に、本発明は、前記皮膚状態の評価方法に基づく化粧料の選択方法に関する。

【背景技術】
【0002】
アミノ酸及び還元糖を加熱することにより褐色の色素が生成する糖化反応は、1912年にL.C.Maillardにより発見されたことからメイラ−ド反応として知られる様になった。メイラ−ド反応は、アミノ酸が有するアミノ基とグルコ−スなどの還元糖が有するカルボニル基が非酵素的に反応することによりシッフ塩基を形成した後、中間体のエナミノ−ルを経由し、アマドリ転移反応などによりアマドリ化合物を生成する。アマドリ化合物及びアマドリ化合物より生成したα−ジカルボニル化合物、シッフ塩基などの化合物は、更に分解反応、脂質過酸化反応、転移反応や縮合反応を経由し、終末糖化産物(Advanced Glycation end products:AGEs)を生成する。AGEsは、その特性により数十種類の化合物(例えば、クロスリン、ピロピリジン、ペントシジン、ピラリン、カルボキシメチルリジンなど)が存し、様々な性質を示すことが知られている。
【0003】
AGEsには、AGE化した蛋白質(AGE修飾蛋白質)をリガンドとして認識するAGE受容体の存在が明らかとなっている。該受容体は、サイトカインや成長因子の産生亢進などの細胞情報伝達系に作用(例えば、非特許文献1を参照)することにより、様々な生物活性を引き起こし、糖尿病性血管合併症、動脈硬化、アルツハイマ−病などの様々な疾患と深く関与していること(例えば、非特許文献2を参照)が知られている。また、皮膚に関しては、表皮(例えば、特許文献1を参照)及び真皮(例えば、特許文献2を参照)におけるAGEsの存在は、既に知られている。特に、真皮AGEsに関する研究は盛んに行われており、真皮AGEsの産生を抑制することによる皮膚老化防止又は改善(例えば、特許文献3を参照)、美白剤を併用した皮膚外用剤による美白作用(例えば、特許文献4を参照)などが知られている。一方、表皮AGEs、特に、角層AGEsに関しては、その存在は明らかになっているものの、その役割等に関する研究はほとんどなされていない。
【0004】
また、皮膚中におけるAGEs含有量の測定に関しては、本発明者等が既に明らかにしている(例えば、特許文献5を参照)。これにより、真皮中のみならず、角層中にもAGEsが存在することが見出された。さらに、皮膚中におけるAGEsと皮膚の性状に関しては、真皮中におけるAGEs含有量と皮膚の性状との関係に関し、幾つかの報告がなされているが、詳細は明らかにされていない。加えて、角層中におけるAGEs含有量と、皮膚の性態との関係に関しては、これまで何ら検討がなされてこなかった。実際、我々の研究においては、真皮中におけるAGEs含有量と年齢、皮膚弾力性(Ur/Uf)等の指標との間には、有意な相関関係が認められた。しかしながら、角層中におけるAGEs含有量と前記の皮膚性状の指標との間には、相関関係が認められなかった。このことは、皮膚の両部位におけるAGEs含有量と、皮膚の性状との関係は全く異なることを示唆している。これらとは別に、角層の形状、形態に付いては、皮膚の性状との関係が多数明らかにされており、例えば、厚さ、扁平の程度、重層剥離の有無などが皮膚バリア機能、皮膚保湿機能に深く関係していること、角層中のメラニンの量と分布状況がくすみや色黒感に関与していること等が明らかにされている(例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14を参照)。しかし、これらの中にはAGEsに関係するものも、皮膚柔軟性や皮膚表面形態との関係に関わるものは存しない。皮膚表面形態に関しては、角層からの情報は得がたく、皮膚レプリカの観察に依存するのが常であった。他方、角層を用いた皮膚性状の鑑別においては、皮膚バリア機能、皮膚保湿機能、くすみなどとの相関関係の高さから、個人個人に適合した化粧料の選択などに利用されており、前記の機能以外への発展と応用の拡大が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−008460号公報
【特許文献2】特開2003−261432号公報
【特許文献3】特開2001−122758号公報
【特許文献4】特開2007−161662号公報
【特許文献5】特開2009−008460号公報
【特許文献6】特開2008−280265号公報
【特許文献7】特開2005−283596号公報
【特許文献8】特開2005−270116号公報
【特許文献9】特開2005−119995号公報
【特許文献10】特開2005−49215号公報
【特許文献11】特開2004−105700号公報
【特許文献12】特開2003−199727号公報
【特許文献13】特開2001−13138号公報
【特許文献14】特開2000−211273号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】繁田幸雄 等 編集、蛋白の糖化 AGEsの基礎と臨床(医学書院)、P163(1997)
【非特許文献2】山岸昌一 編集、AGEs研究の最前線 糖化蛋白質関連疾患研究の現状(メディカルレビュ−社、P231、(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な状況下において為されたものであり、角層を用いた皮膚性状の鑑別において、その鑑別範囲を拡大し、化粧料選択の確度を向上せしめる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この様な状況に鑑みて、本発明者等は、角層を用いた皮膚性状の鑑別において、その鑑別範囲を拡大し、化粧料の選択の確度を向上せしめる技術を求めて、鋭意努力・研究を重ねた結果、角層中におけるAGEs含有量を指標とする皮膚状態の評価方法、並びに、当該評価方法を用いた化粧料の選択方法を見出し、本発明を完成させるに至った。発明は、以下に示す通りである。
<1> 角層中におけるAGEs(advanced glycation end products:AGEs)の存在態様を指標とする、皮膚状態の評価方法。
<2> 前記AGEsの存在態様は、角層中におけるAGEsの存在量であることを特徴とする、<1>に記載の皮膚状態の評価方法。
<3> 採取された角層中に存在するAGEsを定量し、該AGEsの存在量が多いほど皮膚の状態が好ましくない状態にあると鑑別することを特徴とする、<1>又は<2>に記載の皮膚状態の評価方法。
<4> 角層中におけるAGEs存在量が、1)採取された角層を、AGEsを認識する標識抗体と反応させ、角層中における標識存在量を、免疫組織染色した角層の画像を用いた画像解析により推定することを特徴とする、<1>〜<3>の何れか一項に記載の皮膚状態の評価方法。
<5> 前記の皮膚状態の評価が、表皮弾力性及び/又は皮膚表面形態の評価であることを特徴とする、<1>〜<4>の何れか一項に記載の皮膚状態の評価方法。
<6> 前記の皮膚表面形態の評価が、平均粗さ(Ra)の評価であることを特徴とする、<5>に記載の皮膚状態の評価方法。
<7> 化粧料選択のための皮膚状態の評価方法であることを特徴とする、<1>〜<6>からの何れか一項に記載の皮膚状態の評価方法。
<8> 採取された角層について、角層の形状の特徴、角層におけるメラニンの存在状況と共に<1>〜<7>の何れか一項に記載のAGEsの存在態様から求められる皮膚状態の評価値を因子として加え、化粧料を選択することを特徴とする、化粧料の選択方法。
<9> <8>に記載の化粧料の選択方法において、AGEsの存在態様より鑑別される皮膚状態の評価値が好ましいものではなかった場合、AGEs分解剤を含有する化粧料を勧めるステップを有することを特徴とする、<8>に記載の化粧料の選択方法。
<10> 前記AGEs分解剤は、モクセイ科に属する植物、ユキノシタ科に属する植物、バラ科に属する植物、マメ科に属する植物又はキク科に属する植物より得られる抽出物であることを特徴とする、<8>又は<9>に記載の化粧料の選択方法。
<11> 前記モクセイ科に属する植物、ユキノシタ科に属する植物、バラ科に属する植物、マメ科に属する植物より得られる抽出物が、モクセイ科オリ−ブ属オリ−ブ、ユキノシタ科ユキノシタ属ユキノシタ、バラ科シモツケソウ属シモツケソウ(別名セイヨウナツユキソウ)、マメ科アスパラトゥス属ルイボス、バラ科ポテンチラ属トルメンチラより得られる植物抽出物であることを特徴とする、<8>〜<10>の何れか一項に記載の化粧料の選択方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、角層を用いた皮膚性状の鑑別において、その鑑別範囲を拡大し、化粧料選択の確度を向上せしめる技術を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】角層中におけるAGEsの存在量を評価するための標準標本を示す図である。
【図2】角層AGEsのグレ−ド値とImage Jによる評価値との関係を示す図である。
【図3】角層AGEsと表皮弾力性の関連性を示す図である。
【図4】角層AGEsと皮膚表面形態(水平方向の平均粗さ:Ra)の関連性を示す図である。
【図5】角層AGEsと皮膚表面形態(垂直方向の平均粗さ:Ra)の関連性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の角層中におけるAGEsの存在態様を指標とする皮膚状態の評価方法>
身体の表面を覆う皮膚は、表皮、真皮及び皮下組織により構成され、表皮はさらに、角層、顆粒層、有棘層及び基底層より構成されている。角層は、ケラチンなどの蛋白質を主成分とし、様々な外部からの刺激に対し肌を守る「バリア機能」、肌内部の水分蒸散を防ぐ「保湿機能」という2つの大切な役割を担っている。表皮の最も外側に位置する角層は、皮膚生理学的に重要な前記機能を果たすのに加え、角層の状態そのものが皮膚状態として人目に触れるために、美容上においても大きな意義を持つ。このため、角層中におけるバイオマ−カ−を指標とする非侵襲的な皮膚状態の評価方法は、皮膚生理学的な情報を簡便に入手し、定量的に評価できる重要な方法である。加えて、第三者により認識される見た目の皮膚状態を評価方法に直接的に反映することが出来るために、非常に有用な皮膚状態の評価方法になり得ると考えられる。
【0012】
本発明の皮膚状態の評価方法は、皮膚状態を評価するのに際し、角層中に存在するAGEsの存在態様を指標とすることを特徴とする。ここにおいて、用いる角層は、皮膚表面、好ましくは、顔面の皮膚、より好ましくは、頬部の皮膚より採取されたものを用いることが好ましく、前記採取は、薄いプラスチック板に粘着剤を塗布してなる粘着ディスク、乃至は、透明テ−プに粘着剤を塗工してなる粘着テ−プを貼布し、剥離して得られた角層を透明粘着テ−プに転写したサンプルを用いることが好ましい。かくして得られた角層標本は、二分して、一方をAGEs測定用に、もう一方を角層の形状観察用に用いることが好ましい。かくして得られた角層標本についての、本発明の角層中におけるAGEsの存在態様とは、角層中におけるAGEsの組成、濃度、存在量、分布などの存在状態を意味し、これらの内では、角層中におけるAGEsの存在量、即ち、角層中におけるAGEsの存在量が多いか、少ないかを指標とすることが好ましい。特に、角層中におけるAGEsの存在量は、角層が採取された部分の皮膚状態を厳密に反映する。後述の通り、角層中におけるAGEsの存在量には、皮膚性状や皮膚表面形態との間に相関関係が認められる。皮膚性態や皮膚表面形態を表す物性値としては、「表皮弾力性」及び「皮膚表面形態」等が好適に例示出来、前記皮膚表面形態としては、「平均粗さ(Ra)」が好適に例示出来る。皮膚表面形態の「平均粗さ(Ra)」は、それぞれ水平又は垂直方向の平均粗さ(Ra)を表し、具体的には、皮膚表面における皮溝の深さを意味し、肌の肌理を表現するパラメ−タ−として使用される。角層中におけるAGEsの存在量と「表皮弾力性」及び「皮膚表面形態」との関係には、「AGEsの存在量が少ないほど、皮膚表皮弾力性が向上する」、又は、「AGEsの存在量が少ないほど、皮膚表面形態の水平又は垂直方向への平均粗さ(Ra)は大きく、肌理細かい、好ましい皮膚状態にあるといえる」など関係が見出されている。これは、コラ−ゲン部分におけるメイラ−ド反応により生じるAGEsが、コラ−ゲン部分同士を架橋構造させることにより、皮膚構造を構築する分子構造が硬化し、本来、皮膚が有する弾力性が失われることにより起こる。また、AGEsより生成する架橋物を異物と判断し、分解酵素(コラゲナーゼ、エラスターゼ)の分泌量が増えることにより、肌のハリや弾力性が失われ、また肌が脆くなると考えられる。この様な真皮膚において観察される現象が、角層においても同様に起こっていると考えられる。前記の現象が意味するところは、角層中におけるAGEsの多少と、肌のハリ、弾力、肌理、皮膚表面構造と良好な相関関係が存し、角層中のAGEsの多少を鑑別すれば、肌のハリ、皮膚表面形態の肌理などをキュ−トメ−タ−などの測定装置を用いることなく、レプリカを取ることなく、これらの評価項目を確度の高い推測がなし得ることを意味する。加えて、角層など、皮膚に存在するAGEsを分解、除去することにより、AGEsに起因する弾力の消失、皮膚表面構造の変化を好ましい方向へ戻すことも可能であることも示している。
【0013】
本発明の角層中におけるAGEsの存在量は、採取された角層中におけるAGEsの存在量を化学的又は生化学的分析方法等により測定し、定量的に評価することが出来る。前述の如く、角層中におけるAGEsを測定するための角層標本は、採取された角層をそのまま角層標本として皮膚状態の評価に使用することも出来るし、採取された角層を媒体等に転写するなどして作製された角層標本を、皮膚状態の評価に使用することも出来る。ここで、角層を採取する方法の一例を挙げれば、市販の粘着テ−プ等を利用し、頬部よりテ−プストリッピングにより採取した角層をスライドグラスに転写することにより、皮膚状態を評価するための角層標本を作製することが出来る。
【0014】
本発明における採取された角層標本を用い角層中におけるAGEsの存在量を測定する方法としては、得られた角層標本をホモジネ−トし、これによりAGEsを抽出して、これを高速液体クロマトグラフ法などの化学的分析方法、又は、角層中におけるAGEsを特異的に認識する抗体を利用した直接又は間接法による免疫組織染色方法等の生化学的分析方法の何れかを単独で用いることも出来るし、それらを組み合わせて用いることも出来る。これらの内、好ましものとしては、AGEsを特異的に認識する抗体によりAGEsを標識した後、発色試薬を用いて染色する免疫組織染色方法による生化学的分析方法を用いることが好ましい。具体的には、免疫組織染色方法に用いる一次抗体としては、Anti AGE monoclonal antibody(mouse、TransGenic社製)、二次抗体としては、Biotin−Rabbit Anti Mouse IGg conjugate、ZYMED社製)を用い、二次抗体を認識するABC試薬(R.T.U VECTASTAIN社製)、さらには、発色試薬として、AEC基質を反応させ、免疫組織染色することが好適に例示出来る。また、前記の一次抗体以外に、一次抗体としてCML(carboxy methyl lysine、TransGenic社製)及びペントシジン(TransGenic社製)、二次抗体として、蛍光ビオチンやFITC標識抗体等を使用することも可能である。
【0015】
前記の免疫組織染色により染色された角層中におけるAGEsは、赤〜赤橙色に染色される。免疫組織染色法により作製された角層AGEs標本を用い、角層中におけるAGEsの存在量を定量する方法としては、角層AGEs標準標本を用いた目視による角層AGEs標本のスコア化方法、更には、角層AGEs標本より得られる画像をコンピュ−タ−等の媒体に取り込んだ後、RGB分解処理、二値化処理等の画像処理を行い、輝点の数などで定量化する、或いは、得られた画像を目視によりスコア化する方法及び/又は画像解析による方法等が好適に例示出来る。
【0016】
角層AGEs標準標本を用いた目視による角層AGEs標本のスコア化方法としては、免疫組織染色により得られる異なる角層中におけるAGEsの存在量が異なる標準標本を用い、角層中におけるAGEsの存在量をスコア化することにより定量化する方法が好適に例示出来る。前記の免疫組織染色された角層AGEs標本においては、角層AGEs部分は、赤〜赤橙色に染色される。角層中におけるAGEsの染色強度(存在量)が異なる角層AGEs標準標本を基に、各角層AGEs標本をスコア化することにより定量化することが可能である。また、本方法における角層AGEs標本より得られるスコア値は、後記の表皮弾力性及び/又は皮膚表面状態(平均粗さ:Ra)との間に相関関係が認められる。
【0017】
また、角層中におけるAGEsの存在量を定量する方法として、角層標本より得られる画像をコンピュ−タ−等の媒体に取り込んだ後、角層AGEs標準標本を用いてスコア化する方法、又は、画像解析する方法が存する。具体例を挙げれば、顕微鏡にて20〜50倍に拡大された染色された角層AGEs標本の拡大画像をデジタル式のマイクロスコ−プ等を利用して、コンピュ−タに取り込み、汎用的な画像解析ソフトウエアを用いて、手動又は自動処理を行い、AGEsの存在量を定量化することが出来る。デジタル式のマイクロスコ−プとしては、例えば、(株)モリテックスのコスメテック用マイクロスコ−プ、汎用的画像解析のソフトウエアとしては、例えば、三谷商事(株)のWinRooF(登録商標)が好適に例示出来る。画像処理は、一般的な手法によって行えばよく、例えば、角層AGEs標本の拡大イメ−ジ画像であるカラ−画像をモノクロ濃淡画像に変換後、当該モノクロ画像に必要に応じてフィルタ−を処理後、二値化処理を行い、統計処理によって角層AGEsの存在割合に相関する染色部の総面積を算出すればよい。
【0018】
かくして得られた角層中におけるAGEsの存在量を定量した値は、表皮弾力性及び皮膚表面形態(特に、水平又は垂直方向への平均粗さ(Ra))等の皮膚状態を表す物性値との間に相関関係が認められる。即ち、「角層中におけるAGEsの存在量が少ないほど、皮膚表皮弾力性が向上する」、又は、「角層中におけるAGEsの存在量がすくないほど、水平又は垂直方向への平均粗さ(Ra)が大きく(皮膚表面における皮溝が大きく)、肌の肌理が細かい好ましい皮膚状態にある」ことを意味する。
【0019】
かくして得られた、角層中におけるAGEs量の定量値、該AGEsの定量値より求められた、皮膚の弾力、皮膚表面構造の状態の示性値は、従前に行われていた、角層の形状、採取の際の剥離形態(重層剥離の有無)、角層におけるメラニンの分布状況などのデ−タと共に化粧料の選択のためのデ−タとして用いることが好ましい。かかる化粧料の選択に際しては、既にAGEs分解作用を有する生薬成分が認められていることから、AGEsの過剰な産生に対して、後記に示す様なAGEs分解作用を有する成分を含有する化粧料を選択する、選択肢を設けることが好ましい。

【0020】
<本発明の化粧料の必須成分であるAGEs分解剤>
本発明におけるAGE分解剤は、後記のAGEs分解作用評価において、AGEs分解作用を有する植物抽出物を意味し、かかる成分を唯1種のみを含有することも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。ここで、本発明の抽出物とは、抽出物自体、抽出物の分画、精製した分画、抽出物乃至は分画、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。本発明のAGEs阻害作用を有する植物抽出物としては、モクセイ科に属する植物、ユキノシタ科に属する植物、バラ科に属する植物、マメ科に属する植物、キク科に属する植物より得られる抽出物が好適に例示出来、より好ましくは、モクセイ科オリ−ブ属オリ−ブ、ユキノシタ科ユキノシタ属ユキノシタ、バラ科シモツケソウ属シモツケソウ(別名:セイヨウナツユキソウ)、マメ科アスパラトゥス属ルイボス、バラ科ポテンチラ属トルメンチラより得られる植物抽出物が好適に例示出来る
【0021】
地中海地方が原産地とされるモクセイ科オリ−ブ属オリ−ブは、日本においては、香川県、岡山県などで栽培され、果実は、オリ−ブオイルやピクルスを作るために使用されている植物である。本発明のオリ−ブの抽出物は、オリ−ブ自体を裁断、破砕、粉砕等して含有させたものであってもよいが、好ましくは植物体の全部乃至は一部或いはその加工物を溶媒で抽出したエッセンスを有効成分として含有させる。なお、前記成分はオリーブの植物体の一部又は全部であれば特段の限定無く得ることができ、例えば、果実、果皮、樹皮、幹、枝、葉、花、根、種子等が挙げられる。日本及び中国を原産地とするユキノシタ科ユキノシタ属ユキノシタは、山地の日陰や谷川沿いに自生する常緑の多年草であり、民間薬としても利用されている。本発明のユキノシタの抽出物は、ユキノシタの植物体の一部及び/又は全部であれば特段の限定無く得ることができ、例えば、樹皮、幹、枝、葉、花、根、種子等が挙げられる。これらは単独の部位を用いてもよいし、2部位以上を用いてもよい。これらの内最も好ましい部位は枝葉である。インドから中国大陸を原産地とするバラ科シモツケソウ属シモツケソウ(別名:セイヨウナツユキソウ)は、日本においては、本州以西に自生する多年草である。本発明のシモツケソウ(セイヨウナツユキソウ)より得られる抽出物は、かかる植物の抽出物の製造に用いる植物体の部位としては、特段の限定がされず、全草を用いることができるが、花又は花序を用いることが特に好ましい。勿論、葉、茎、根などの部位のみを使用することも可能である。南アフリカ共和国を原産とするマメ科アスパラトゥス属ルイボスは、乾燥した葉が、健康茶などに使用されている。かかる植物の抽出物の製造に用いる植物体の部位としては、特段の限定がされず、全草を用いることができるが、葉を用いることが特に好ましい。勿論、花穂、花蕾、葉、茎、根などの部位のみを使用することも可能である。ヨ−ロッパを原産とするバラ科ポテンチラ属トルメンチラは、根茎が薬用に用いられる多年草である。かかる植物の抽出物の製造に用いる植物体の部位としては、特段の限定がされず、全草を用いることができる。勿論、花穂、花蕾、葉、茎、根などの部位のみを使用することも可能である。本発明における前記の植物より得られる抽出物は、日本に於いて自生又は生育された植物、漢方生薬原料などとして販売される日本産のものを用い抽出物を作製することも出来るし、丸善株式会社などの植物抽出物を扱う会社より販売されている市販の抽出物を購入し、使用することも出来る。抽出に際し、植物体、地上部又は木幹部は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。
【0022】
<試験例1: 本発明のAGEs分解作用を有する植物抽出物の製造>
バラ科ポテンチラ属トルメンチラの全草の乾燥物100gを、細切した後、500mLの50%エタノ−ル水溶液を加えて3時間、加熱還流し、冷却後濾過にて不溶物を取り除いた後、減圧濃縮し、ついで凍結乾燥し、抽出物1を得た。しかる後に、抽出物1に200mLの水と200mLの酢酸エチルを加え、液液抽出を行い、酢酸エチル相をとり、減圧濃縮し、抽出物2を得た。
【0023】
<試験例2: AGEs分解作用評価(α−ジケトンのC−C結合切断能の測定)>
22mM 1−フェニル−1,2−プロパンジオン/メタノ−ル+0.1M リン酸緩衝液(PH7.4) 1mLと、ポテンチラ属の植物の抽出物乃至は分画精製物1mLを混合し、37℃で10時間反応させ、安息香酸の量をHPLCにて定量した。
(HPLC条件)
分析条件 検出器 :紫外吸光光度計(測定波長:260nm)
カラム :東ソ− TSK−ODS80TsQA
カラム温度:室温
移動層 :氷酢酸2g/アセトニトリル 500mL+エデト酸二ナトリウム溶液(1→250) 500mL
流量:1ml/min
【0024】
前記測定において1−フェニル−1,2−プロパンジオンの量からの理論的な安息香酸の生成量に対して、40%以上、より好ましくは45%以上あった場合に、本発明の化粧料に含有させるのに適切なAGEs分解作用を有する植物抽出物と判断し、化粧料に配合する。このとき、力価が一定になるように、安息香酸の生成量が40乃至は45%になる量に抽出物乃至は分画精製物を水や1,3−ブタンジオールなどで希釈して配合することもできる。
【0025】
前記の抽出物1、2に付いて、試験例2のAGEs分解作用評価(α−ジケトンのC−C結合切断能の測定)に記載の方法に従い、α−ジケトンのC−C結合切断能の測定を行った。抽出物1は切断能が56%で、分画精製により有効性を高める必要があることが判明した。分画精製を行った抽出物2は85.4%であり、化粧料に配合するのに適切な効果を有することがわかった。
【0026】
更に、AGEs分解作用としての確実性を期す場合には、前記の評価に加えて、実際にグルコ−スと牛血清アルブミンとをインキュベ−トし作製したAGEsを分解せしめ、分解量を確認した上で配合することが好ましい。AGEsの分解能の評価の一例を次に示す。
【0027】
<試験例2:AGEs分解作用評価2(グルコ−ス−牛血清アルブミンAGEs分解能の測定)>
以下の試験材料を用い、AGEs分解作用評価を実施した。
AGE-BSA:グルコ−スとBSAを37℃で12週間以上インキュベ−トし、PD−10 columns(Amersham Biosciences 17−0851−01)にて余分なglucoseを除いたもの、1次抗体 :Anti-Albumin、Bovine Serum、Rabbit−Poly ROCKLAND 201−41331/20000、2次抗体 :Goat anti−rabbit IGg horseradish peroxidase conjugate BioRAD 170−6515 1/10000、基質 :TBS solution Wako 546−01911
(手順)
Type I コラ−ゲンコ−トした96穴マイクロプレ−ト(Bio Coat 35 4407)に10μg/mLのAGE−BSAを100μl加え、1.0μg(AGE−BSA/well) 37℃にて4時間静置した後、0.05%Tween20/PBS(−)にて3回洗浄(マイクロミキサ−上で室温、3分間振とうし)、PBS(−)に溶解した各濃度の試料を100μlを加え、37℃で10時間以上反応させる。その後、0.05%Tween20/PBS(−)にて3回洗浄し、1次抗体を各wellに100μl/well加え、室温で30分間静置する。0.05%Tween20/PBS(−)にて3回洗浄し、2次抗体を100μl/well入れ、室温30分間静置する。0.05%Tween20/PBS(−)にて3回洗浄し、TMBを100μl/well加え、室温15分反応させる。1N 塩酸を100μl/well入れ、反応を止め、450nmの吸光度を測定する。AGEsの量を変え、検量線を引き、この検量線より残存AGEs量を定量した。残存AGEsを添加したAGEsより減じ、添加したAGEsで除し、100を乗じてAGEs分解率を算出した。
【0028】
この評価において、AGEsの分解率が15%以上であった場合には本発明の化粧料への配合に適当な抽出物或いは分画精製物であると判断する。配合に当たっては、分解率が15%になるように調製して用いれば、安定した力価の成分を含有することができる。又、有効濃度の設定については、かかる検討で有効と認められた濃度を含有する様に設定することが好ましい。
【0029】
前記の抽出物2に付いて、[0026]に記載したグルコ−ス−牛血清アルブミンAGEs分解能の測定を行った。抽出物2のAGEs分解率は23.25%(1X10−5%)、23.8%(1X10−4%)、25.38%(1X10−3%)であった。分画精製により有効性を高める必要があることが判明した。分画精製を行った抽出物2は85.4%であり、化粧料に配合するのに適切な効果を有することがわかった。
【0030】
<本発明のAGEs分解剤を含有する化粧料>
本発明の化粧料は、採取された角層に付いて、角層の形状の特徴、角層におけるメラニンの存在状況と共に、AGEsの存在態様より鑑別される皮膚状態の評価値が好ましいものではなかった場合、化粧料の必須成分としてAGEs分解剤を含有することを特徴とする。また、本発明の化粧料においては、前記必須成分以外に、通常化粧料で使用される任意成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリ−ブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、オクチルドデカノ−ル等の高級アルコ−ル、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコ−ル、グリセリン、1,3−ブタンジオ−ル等の多価アルコ−ル類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を含有することができる。製造は、常法に従い、これらの成分を処理することにより、困難なく、為しうる。
【0031】
これらの必須成分、任意成分を常法に従って処理し、ロ−ション、乳液、エッセンス、クリ−ム、パック化粧料、洗浄料などに加工することにより、本発明の皮膚外用剤は製造できる。皮膚に適応させることの出来る剤型であれば、いずれの剤型でも可能であるが、有効成分が皮膚に浸透して効果を発揮することから、皮膚への馴染みの良い、ロ−ション、乳液、クリ−ム、エッセンスなどの剤型がより好ましい。
【0032】
以下に、実施例をあげて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ、限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0033】
<本発明の角層中におけるAGEsの存在量のスコア化による定量化検討>
以下の手順に従い、角層中におけるAGEsの存在量をスコア化した。
1) 被験者
2007年10月に静岡県在住の健常成人女性40名(20〜56歳、平均年齢38.1歳)の顔頬部を対象に皮膚状態を評価した。
2) 角層中におけるAGEsの免疫組織染色
頬部よりセロハンテ−プで採取した角層をスライドガラスに転写し、一次抗体(anti AGE monoclonal antibody,
mouse、TransGenic社製)、二次抗体(Biotin-Rabbit Anti Mouse IgG conjugate、ZYMED社製)で反応後、ABC試薬(R.T.U VECTASTAIN社製)で反応させてAEC基質(DAKO社製)で発色させた。
3) 角層中におけるAGEs存在量のスコア化検討
免疫組織染色した画像を用い、グレ−ド1〜5までの角層AGEs標準標本を作製し、これらを基準にとして各角層AGEs標本の5段階によるスコア化を行った。角層AGEs標準標本におけるグレ−ド1〜5は、標本中における角層AGEsの免疫組織染の色度合いを指標としてグレ−ドを分類した(図1参照)。角層中におけるAGEs評価グレ−ドを用い、40名の角層中におけるAGEs含有量を評価した。
4) 角層中におけるAGEs存在量のImage Jを用いた画像解析検討
顕微鏡にて20〜50倍に拡大された染色された角層AGEs標本の拡大画像をデジタル式のマイクロスコ−プ等を利用して、コンピュ−タに取り込み、汎用的な画像解析ソフトウエアを用いて、手動又は自動処理を行い、AGEsの存在量を定量化することが出来る。デジタル式のマイクロスコ−プとしては、例えば、(株)モリテックスのコスメテック用マイクロスコ−プ、汎用的画像解析のソフトウエアとしては、例えば、三谷商事(株)のWinRooF(登録商標)が好適に例示出来る。画像処理は、一般的な手法によって行えばよく、例えば、角層AGEs標本の拡大イメ−ジ画像であるカラ−画像をモノクロ濃淡画像に変換後、当該モノクロ画像に必要に応じてフィルタ−を処理後、二値化処理を行い、統計処理によって角層AGEsの存在割合に相関する染色部の総面積を算出した。
【0034】
角層中におけるAGEs存在量のスコア化検討の結果、並びに、Image Jを用いた画像解析検討の結果の相関関係を検討した。結果を図2に示す。目視による角層中におけるAGEsグレ−ド値と角層中におけるAGEsのImage Jによる評価値には、明らかな相関関係が認められ、標準標本を用いた目視によるスコア化した評価方法とImage Jを用いた画像解析による角層中のAGEsの存在量の結果はよく一致した。これにより、Image Jを利用した画像解析により角層中におけるAGEsの存在量を測定することを、目視によるスコア化により定量化することにより推定することが出来る。
【0035】
<本発明の表皮弾力性評価>
以下の手順に従い、表皮弾力性を評価した。表皮の弾力性は、ヴィ−ナストロン(アクシム社製)を用い、頬部を50Hzセンサ−にて測定し、5gpressureでの測定値から算出(△△f(5g))した。
【0036】
<本発明の皮膚表面形態評価>
本発明の皮膚表面形態(水平又は垂直方向への平均粗さ:Ra)を以下の手順に従い評価した。頬部に印象剤(ASB−01−WW、アサヒバイオメッド社製)を塗布してレプリカを作製した。1cm四方を対象に転写された皮膚表面三次元情報を、レ−ザ−イメ−ジプロセッサ−LIP50(商標登録、サイエンスシステムズ社製)を用いて測定し、解析ソフトTalymap(Taylor Hobson社製)を用いてガウシアンフィルタ−処理を行い、水平又は垂直方向への平均粗さ(JISパラメ−タ−Ra)を算出した。
【0037】
前記方法に従い得られた角層中におけるAGEsの存在量に関するグレ−ド値と、表皮弾力性及び皮膚表面形態(水平又は垂直方向への平均粗さ:Ra)との関係を検討した。結果を図3〜図5に示す。図3〜5の結果より、角層中におけるAGEsの存在量と表皮弾力性(△△f(5g))及び皮膚表面形態(水平又は垂直方向への平均粗さ:Ra)には、相関関係が認められた。このことより、角層中におけるAGEsの存在量が少ない場合には、「表皮弾力性が高い」、「皮膚表面形態の水平又は垂直方向への平均粗さ(Ra)が大きい」ことがわかった。皮膚表面形態の水平又は垂直方向への平均粗さ(Ra)が大きいことは、皮溝が深く、肌の肌理が細かい好ましい肌状態にあることを表す。このことにより、角層中におけるAGEsの存在量が少ない場合には、皮膚状態が好ましい状態であると認められる。
【0038】
<本発明のAGEs分解剤を含有する化粧料>
表1に示す処方に従い、本発明のAGEs分解剤を含有する化粧料を作製した。即ち、処方成分を80℃にて攪拌可溶化し、攪拌冷却して化粧水1を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
化粧水1及び化粧水1の抽出物2を水に置換した比較例1の化粧水を用いて、年齢60歳以上の肌にくすみのある人をパネラ−として、使用テストを行った。パネラ−は10名用意し、ばらつきがないように5名ずつ2群に群分けし、1群は化粧水1を、残る1群は比較例1の化粧水を渡し、12週間朝晩2回適量を塗布する態様で連続使用してもらった。試験前と終了後にコニカミノルタ株式会社製の色彩色差計で白色板に対する値を測定し、試験後のb*値−試験前のb*値の式で黄味の減少度合いを計測した。結果は、化粧水1の群が−2.1±0.5で、比較例1の群が+0.4±0.7で、本発明の化粧料である化粧水1使用群においては、AGEsが分解され、黄色み、くすみが改善されたことがわかる。また、アンケ−トの結果、皮膚の弾力性に関しても化粧水1の使用群の方が優れていた。かくの如くに、AGEsの過剰な蓄積に起因する皮膚弾力の喪失、くすみなどにはAGEs分解剤を含有する化粧料の投与が有効であることがわかる。
【実施例2】
【0041】
無作為に集めた78人のパネラ−を、年齢構成にばらつきが出ない様に1群39名の2群にわけた。1群は、従前の角層からのくすみの程度と皮膚バリア機能に基づいた化粧料選択(特開2000−212038 号公報、特開2001−13138 号公報に記載の技術)を行い(比較対照群)、もう一群にはこれらに加えて、角層中におけるAGEs含有量の多少の判別を行い、AGEsの量が多い人にはAGEs分解剤を含有する化粧料を勧める要素を加えた。(本発明群)以下詳細に説明を加える。
【0042】
<比較対照群>
被験者より粘着ディスクを用いて角層を採取し、これを透明粘着テ−プに転写し、標本とした。0.5%の硝酸銀水溶液にアンモニア水を滴下しpHを10に調整した銀染色液を用い、45℃10分間処理し銀染色した後、3回水洗し0.15%ゲンチアナバイオレット液で10分処理した。この標本を水洗、乾燥させ、透明シリコ−ン剤を染色済みの部分を覆うように流し込みカバ−グラスをのせてサンプルとし、顕微鏡下観察し、角層細胞面積、重層剥離の度合い、有核細胞の有無より皮膚バリア機能を非常によいスコア5〜非常に悪いスコア1の5段階に分け、スコア1のパネラ−は化粧料使用不能者として試験から外し、スコア2の人は皮膚バリア機能低下者として判別した。また、同標本のメラニンの分布とメラニン量より、くすみの程度を、メラニンが多く、分布の偏りが著しいスコア1〜メラニンの量が少なく分布も均一スコア1の5段階に分け、スコア1とスコア2の人はくすみが著しい人と判別した。皮膚バリア機能が低いと判別された人には、下記のロ−ションにグリセリン5質量%とバリア機能向上成分であるポリメタクリロイルリジン0.1質量%を加えた化粧料を処方し、くすみが著しいと判別された人には下記のロ−ションに4−n−ブチルレゾルシノ−ル0.3質量%を加えた化粧料を処方した。バリア機能が低く、くすみが著しい人には、グリセリン5質量%とバリア機能向上成分であるポリメタクリロイルリジン0.1質量%と4−n−ブチルレゾルシノ−ル0.3質量%を加えた化粧料を処方した。被験者にはこれらの化粧料を朝晩2回30日使用してもらい、化粧料に対する満足度をスコア5(非常に満足)、スコア4(満足)、スコア3(可もなく不可もなく)、スコア2(不満)、スコア1(大いに不満)で評価してもらった。
【0043】
<本発明群>
比較対照群と同様に被験者から角層を採取し、皮膚バリア機能とくすみの判別用の標本と、AGEs計測用の標本とを作製した。皮膚バリア機能とくすみの判別用の標本からは比較対照群と同様の処置で、皮膚バリア機能の低い人と、くすみの著しい人とを判別した。AGEs計測用の標本は、実施例1の手技に従ってグレ−ド1(AGEsが殆ど角層中に存しない)からグレ−ド5(AGEsが多量に角層中に存在する)のグレ−ドを判別した。グレ−ド4、グレ−ド5の人はAGEsの蓄積が著しい人と判別し、AGEsの蓄積が著しい人には、下記のロ−ションに抽出物2を0.1質量%加えた化粧料を処方し、比較対照群の選別方法に加えた。同様に処方後30日間の使用の後にアンケ−トを実施した。
【0044】
【表2】

【0045】
<結果>
アンケ−トの結果は以下に示すとおりであり、因子としてAGEsの多少とAGEs分解剤を含有する化粧料の選択を加えることにより、より満足度の高い化粧料の選択がなし得ること、言い換えれば、より確度の高い化粧料の選択がなし得ることが判る。
【0046】
【表3】


【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は化粧料に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角層中におけるAGEs(advanced glycation end products:AGEs)の存在態様を指標とする、皮膚状態の評価方法。
【請求項2】
前記AGEsの存在態様は、角層中におけるAGEsの存在量であることを特徴とする、請求項1に記載の皮膚状態の評価方法。
【請求項3】
採取された角層中に存在するAGEsを定量し、該AGEsの存在量が多いほど皮膚の状態が好ましくない状態にあると鑑別することを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚状態の評価方法。
【請求項4】
角層中におけるAGEs存在量が、1)採取された角層を、AGEsを認識する標識抗体と反応させ、角層中における標識存在量を、免疫組織染色した角層の画像を用いた画像解析により推定することを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の皮膚状態の評価方法。
【請求項5】
前記の皮膚状態の評価が、表皮弾力性及び/又は皮膚表面形態の評価であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の皮膚状態の評価方法。
【請求項6】
前記の皮膚表面形態の評価が、平均粗さ(Ra)の評価であることを特徴とする、請求項5に記載の皮膚状態の評価方法。
【請求項7】
化粧料選択のための皮膚状態の評価方法であることを特徴とする、請求項1〜6からの何れか一項に記載の皮膚状態の評価方法。
【請求項8】
採取された角層について、角層の形状の特徴、角層におけるメラニンの存在状況と共に請求項1〜7の何れか一項に記載のAGEsの存在態様から求められる皮膚状態の評価値を因子として加え、化粧料を選択することを特徴とする、化粧料の選択方法。
【請求項9】
請求項8に記載の化粧料の選択方法において、AGEsの存在態様より鑑別される皮膚状態の評価値が好ましいものではなかった場合、AGEs分解剤を含有する化粧料を勧めるステップを有することを特徴とする、請求項8に記載の化粧料の選択方法。
【請求項10】
前記AGEs分解剤は、モクセイ科に属する植物、ユキノシタ科に属する植物、バラ科に属する植物、マメ科に属する植物又はキク科に属する植物より得られる抽出物であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の化粧料の選択方法。
【請求項11】
前記モクセイ科に属する植物、ユキノシタ科に属する植物、バラ科に属する植物、マメ科に属する植物より得られる抽出物が、モクセイ科オリ−ブ属オリ−ブ、ユキノシタ科ユキノシタ属ユキノシタ、バラ科シモツケソウ属シモツケソウ(別名セイヨウナツユキソウ)、マメ科アスパラトゥス属ルイボス、バラ科ポテンチラ属トルメンチラより得られる植物抽出物であることを特徴とする、請求項8〜10の何れか一項に記載の化粧料の選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−271163(P2010−271163A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122819(P2009−122819)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】