説明

皮膚用水中油型乳化組成物

【課題】適度な冷感作用を皮膚に与えることが可能で、冷凍温度条件下に冷やした状態においても使用性および使用感が良好であり、かつ、冷凍と室温との温度変化に対する安定性も高い新たな皮膚用水中油型乳化組成物を提供すること。
【解決手段】本発明では、−5℃以下に冷却して使用される皮膚用水中油型乳化組成物であって、乳化剤、油剤、粘度付与剤、多価アルコールを必須成分とし、前記粘度付与剤がビニル系粘度付与剤およびセルロース系粘度付与剤であり、前記多価アルコールを6質量%以上26質量%以下で含有させることにより、−20℃における稠度が100以上250以下であり、かつ、氷晶が非連続的に分散されてなる皮膚用水中油型乳化組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚用水中油型乳化組成物に関する。より詳細には、−5℃以下に冷却して使用される皮膚用水中油型乳化組成物であって、所定の温度において新規な物理的性質を備える皮膚用水中油型乳化組成物、並びに該皮膚用水中油型乳化組成物を用いた化粧料および皮膚外用剤に関する。なお、本発明において、化粧料とは、薬用化粧料(医薬部外品)を含む概念である。
【背景技術】
【0002】
従来から、肌の引き締め(たるみ改善)や毛穴の引き締め、あるいは透明感向上効果などを有する化粧料や皮膚外用剤が開発されている。例えば、特許文献1には、イチョウ、コウソウ、ヒバマタなどの肌引き締め剤と、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸アミド、酢酸トコフェロールなどの血行促進剤を含有することで、短時間で有効に肌のたるみを改善することができる化粧料が開示されている。
【0003】
特許文献2には、グリシルグリシン、架橋型ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン重合物、平均粒子径が0.2〜0.5μmの二酸化チタン又は二酸化チタンを核とする複合粉体、エタノール、をそれぞれ所定の量で含有させることにより、毛穴隠蔽効果を有する油中水型化粧料が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、シアノコバラミンなどのビタミンB12活性を有するコバラミン類からなるトリプシン及び、キモトリプシン様プロテアーゼの角層剥離効果を高める角質剥離促進剤、これらの角質剥離促進剤を含有させることにより、肌の透明感を向上させる効果を有する皮膚化粧料が開示されている。
【0005】
これらの化粧料は、肌の引き締め(たるみ改善)や毛穴の引き締め、あるいは透明感向上効果などを備える薬剤的な物質を配合することで、実際の効果を得ようという技術を用いた化粧料である。しかし、このような薬剤的な物質のみで効果を得る化粧料や皮膚外用剤は、皮膚へ塗布した直後の効果については十分に期待できるものであっても、薬剤的な物質による刺激で皮膚に負担がかかる場合もあり、後にほてりなどを生じる場合があると言った問題もあった。
【0006】
一方、肌の引き締め(たるみ改善)や毛穴の引き締め、あるいは透明感向上効果を狙って、化粧料や皮膚外用剤自体を物理的に冷やした状態で用いることも行われている。化粧料や皮膚外用剤を冷やすには、一般的に3〜5℃程度に冷蔵することが多く、それより低い、いわゆる冷凍した状態で化粧料や皮膚外用剤を用いることは、化粧料や皮膚外用剤の安定性の悪化などの観点からも、あまり行われていないのが現状である。
【0007】
数少ないとはいえ、冷凍して用いる化粧料や皮膚外用剤としては、例えば、特許文献4には、化粧品を冷凍し、シャーベット状あるいは氷状になった化粧品を肌に塗布することにより、肌を冷却することで美肌効果を促進しシミを防止する技術が開示されている。ここで用いる冷凍化粧品は、シャーベット状あるいは氷状であるため、使用する際は、スパチュラなどを用いてかき氷を食す際のように掻き出して用いる必要がある。そのため、一般的な化粧料のように、指でとることができず使用性が良くない(指どれが悪い)という問題がある。
【0008】
また、例えば、特許文献5には、アイスクリーム又はアイスクリーム類似物に無数の塩粒を満遍なく混ぜ込んで、冷凍庫で保管する化粧料が提案されている。この化粧料は、前記特許文献4の化粧料と異なり、冷凍してもソフトなアイスクリーム状を保ったままで、氷のように固化状態にならないという特徴がある。しかし、食用のアイスクリームと同様の原料(牛乳など)を用いて、食用のアイスクリームと同様の製造方法で作製されるため、化粧料としては、べたつきすぎており、使用感が悪いという問題がある。
【0009】
また、食用のアイスクリームと同様に、一旦溶かしてしまうと、再度冷凍した場合には元のソフトな状態に戻らず強固に凝固してしまい、使用性が著しく悪くなる(指どれが悪くなる)という問題があった。即ち、冷凍と室温との温度変化に対して安定性が大いに欠けるという問題があった。
【0010】
ところで、冷凍下でも柔らかさを保つ技術として、飲食業界、特にアイスクリーム業界などでは、水中油型乳化物に空気を含有させた状態で冷凍するという技術が用いられている。例えば、特許文献6には、油脂中にSUS型トリグリセリド、ラウリン系油脂を含む油脂及び糖類を主成分とする水中油型乳化物を起泡し、その起泡状態が3分立て〜9分立てであり、オーバーランが25〜360%である含気泡油脂組成物を使用した冷菓が開示されている。
【0011】
このようなアイスクリーム業界で用いられている技術を応用することで、化粧料や皮膚外用剤に用いる組成物を製造することも理論的には可能である。しかしながら、乳化物に空気を含有させるという技術では、冷凍した化粧料や皮膚外用剤を一旦溶解すると、化粧料や皮膚外用剤中の気泡が消滅してしまい、再度冷凍した場合には、元の柔らかさには戻らず強固に凝固してしまう。そのため、何度も冷凍と室温との温度変化を繰り返すような化粧料や皮膚外用剤には、温度変化に対して安定性が悪いという観点からも、応用し難いのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−269054号公報
【特許文献2】特開2009−155274号公報
【特許文献3】特開2002−234845号公報
【特許文献4】特開2011−20985号公報
【特許文献5】特開平8−169807号公報
【特許文献6】特開2003−9774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のように、薬剤的な物質のみで、肌の引き締め(たるみ改善)や毛穴の引き締め、あるいは透明感向上効果などが付与された化粧料や皮膚外用剤は、薬剤的な物質による皮膚への刺激などの問題があった。
【0014】
一方、物理的に化粧料や皮膚外用剤を冷やして用いる場合には、薬剤的な物質のみで前記効果が付与された化粧料や皮膚外用剤に比べ、いわゆる副作用的な現象を防ぐことが可能である。しかし、冷凍した状態で用いる化粧料や皮膚外用剤では、前述のように、指どれが悪いといった使用性の悪さや、使用感の悪さ、冷凍と室温との温度変化に対する安定性の欠如といった問題があった。
【0015】
そこで、本発明では、適度な冷感作用を皮膚に与えることが可能で、冷凍温度条件下に冷やした状態においても使用性および使用感が良好であり、かつ、冷凍と室温との温度変化に対する安定性も高い新たな皮膚用水中油型乳化組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、冷凍温度条件下に冷やした状態で用いる化粧料および皮膚外用剤などの使用性、使用感、および温度変化に対する安定性について鋭意研究を行った結果、化粧料および皮膚外用剤などに用いる皮膚用組成物の稠度およびその物理的な構成が重要であることを突き止め、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本発明では、まず、−5℃以下に冷却して使用される皮膚用水中油型乳化組成物であって、
乳化剤、油剤、粘度付与剤、多価アルコールを必須成分とし、
前記粘度付与剤がビニル系粘度付与剤およびセルロース系粘度付与剤であり、
前記多価アルコールを6質量%以上26質量%以下で含有させることにより、
−20℃における稠度が100以上250以下であり、かつ、
氷晶が非連続的に分散されてなる皮膚用水中油型乳化組成物を提供する。
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、所定の成分を含有させることにより、前記の稠度を有し、かつ、氷晶が非連続的に分散された新規な物理的構成であるため、冷凍温度条件下に冷やした状態においても強固に凝固することはない。
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物中の乳化滴は、本発明の効果を損なうことがなければ、その大きさを自由に設計することができるが、本発明においては特に、乳化滴の平均粒径を、0.5μm以上50μm以下とすることが好ましい。
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に含有させる前記油剤の含有量は、本発明の効果を損なうことがなければ、自由に設定することができるが、本発明においては特に、0.7質量%以上21質量%以下で含有させることが好ましい。
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に用いることができる前記ビニル系粘度付与剤は、本発明の効果を損なうことがなければ、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な公知のビニル系粘度付与剤を自由に選択して用いることができるが、本発明においては特に、カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーを用いることが好ましい。
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物には、本発明の効果を損なうことがなければ、他の有効成分などを自由に含有させることができる。例えば、アスコルビン酸誘導体を更に含有させることも可能である。
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、その冷感作用を利用して様々な用途に用いることが可能である。例えば、マッサージ用化粧料や皮膚引き締め用化粧料などの化粧料、および皮膚外用剤などとして用いることが可能である。
【0018】
ここで、本発明に用いる技術用語の定義付けを行う。
本発明において、「稠度」とは、JIS−K2220に規格化された試験方法を用いて測定した値をいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、適度な冷感作用を皮膚に与えることが可能で、冷凍温度条件下に冷やした状態においても使用性および使用感が良好であり、かつ、冷凍と室温との温度変化に対する安定性も高い。そのため、冷凍温度条件下に冷やした状態であっても、従来の皮膚用水中油型乳化組成物と同様の使用方法で様々な用途に応用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、−5℃以下に冷却して使用される皮膚用水中油型乳化組成物であって、(1)乳化剤、(2)油剤、(3)ビニル系粘度付与剤および(4)セルロース系粘度付与剤の粘度付与剤、(5)多価アルコール、からなる水中油型乳化組成物である。また、必要に応じて、(6)添加剤、(7)有効成分、などを更に含有させることも可能である。
【0022】
そして、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、前記成分を所定量含有させることにより、−20℃における稠度が100以上250以下であり、かつ、氷晶が非連続的に分散された構造を呈することを特徴とする。
【0023】
ここで、−20℃というのは、一般的な冷凍庫の温度であり、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、使用前にあらかじめ冷凍庫等に入れておき、使用時は冷凍庫から取り出して少なくとも−5℃以下で使用する。少なくとも−5℃での使用としたのは、冷蔵庫から取り出して室温下で使用する場合には、皮膚用水中油型乳化組成物自体の温度が上昇する場合があるからであり、また、少なくとも−5℃以下であれば、前記氷晶が融けることなく、本発明の皮膚用水中油型乳化組成物中に存在するからである。
【0024】
従来の皮膚用水中油型乳化組成物を冷凍温度条件下で冷やすと、連続相を構成する水性成分が凝固するため、指どれが著しく悪くなる。しかし、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、前記成分を所定量含有させることにより、連続相を構成する水性成分が全て凝固することなく、氷晶が非連続的に分散された構造を呈している。そのため、分散された氷晶により、適度な冷感作用を皮膚に与えることが可能であり、かつ、通常の皮膚用水中油型乳化組成物のように皮膚へ容易に塗布することが可能である。
【0025】
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物中に分散する氷晶の大きさは、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されず、自由に設計することができる。本発明では特に、皮膚用水中油型乳化組成物中の氷晶の平均粒径を、0.1μm以上3000μm以下に設計することが好ましい。氷晶の平均粒径を0.1μm以上とすることで、更に好適な冷感を皮膚に与えることができる。また、氷晶の平均粒径を3000μm以下とすることで、更に指どれが良好になり、使用性を向上させることができる。なお、本発明において、氷晶の平均粒径の測定は、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製)を用いて、−20℃の恒温槽で6時間冷やしたサンプルを恒温槽から取り出してすぐに写真を撮影し、その写真における氷晶100個の粒径を測定し、それらの平均値を算出することにより行う。
【0026】
また、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、前記成分を所定量含有させることにより、−20℃における稠度を100以上250以下に調整している。稠度を100未満にすると、氷晶が連続相を形成していない場合であっても、硬すぎて指どれが悪くなる場合があり、逆に、稠度を250以上にすると、氷晶が存在している場合であっても、その量が十分でなく、皮膚への冷感作用が低下する場合があるからである。
【0027】
このように、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、100以上250以下という稠度および氷晶が非連続的に分散された構造が相俟って、適度な冷感作用を皮膚に与えることができ、また冷凍温度条件下に冷やした状態においても使用性および使用感を良好に保つことを実現している。
【0028】
以下、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物の構成成分について、詳細に説明する。
【0029】
(1)乳化剤
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に用いることができる乳化剤は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されず、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な公知の乳化剤を1種又は2種以上自由に選択して、用いることが可能である。例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0030】
非イオン界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ソルビタン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ソルビトールの脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラノリンのアルキレングリコール付加物、ポリオキシアルキレンアルキル共変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0031】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、α−スルホン化脂肪酸塩、アシルメチルタウリン塩、N−メチル−N−アルキルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキル燐酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸塩、N−アシルアミノ酸塩、N−アシル−N−アルキルアミノ酸塩、ο−アルキル置換リンゴ酸塩、アルキルスルホコハク酸塩などが挙げられる。
【0032】
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、ポリアミン及びアルカノールアミン脂肪酸誘導体、アルキル四級アンモニウム塩、環式四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0033】
両性界面活性剤としては、アミノ酸タイプやベタインタイプのカルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型のものがあり、人体に対して安全とされるものが使用できる。例えば、N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシルメチルアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸、N,N,N−トリアルキル−N−スルフォアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビス(ポリオキシエチレン硫酸)アンモニウムベタイン、2−アルキル−1−ヒドロキシエチル−1−カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン、レシチンなどが挙げられる。
【0034】
本発明の皮膚用水中油型乳化組成物における乳化剤の含有量は、後述する油剤を安定的に水中に乳化できれば特に限定されないが、本発明においては、0.1質量%以上3質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、0.3質量%以上2質量%以下の範囲で含有させることにより、乳化性および経時安定性を特に向上させることが可能である。
【0035】
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に含有する乳化滴の大きさは、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されず、自由に設計することができる。本発明では特に、皮膚用水中油型乳化組成物中の乳化滴の平均粒径を、0.5μm以上50μm以下とすることが好ましい。乳化滴の平均粒径を0.5μm以上とすることで、更に指どれが良好になり、使用性を向上させることができる。また、乳化滴の平均粒径を50μm以下とすることで、更に好適な冷感を皮膚に与えることができる。なお、本発明において、乳化滴の平均粒径の測定は、光学顕微鏡(オリンパス社製)を用いて、室温にて乳化滴100個の粒径を測定し、それらの平均値を算出することにより行う。
【0036】
(2)油剤
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に用いることができる油剤は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されず、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な公知の油剤を1種又は2種以上自由に選択して、用いることが可能である。例えば、動物油、植物油、合成油などの起源及び、固形油、半固形油、液体油、揮発性油などの性状を問わず、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、脂肪酸類、シリコーン油類、フッ素系油類、ラノリン誘導体類などの油剤が挙げられる。
【0037】
具体的には、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャトロプスワックスなどの炭化水素類、オリーブ油、ヒマシ油、ミンク油、マカデミアンナッツ油、ゲイロウなどの油脂類、ミツロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ゲイロウなどのロウ類、セチルイソオクタネート、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリオクタン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル、ロジン酸ペンタエリトリットエステル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコールなどのエステル類、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ロジン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などの脂肪酸類、低重合度ジメチルポリシロキサン、高重合度ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、フッ素変性シリコーンなどのシリコーン類、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタンなどのフッ素系油剤類、ラノリン、酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリンアルコールなどのラノリン誘導体類などが挙げられる。なお、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に用いる油剤としては、常温で液状の油剤を選択することが好ましい。常温で液状の油剤を選択することにより、皮膚用水中油型乳化組成物の安定性を更に向上させることができる。
【0038】
本発明の皮膚用水中油型乳化組成物における油剤の含有量は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されないが、本発明においては、0.7質量%以上21質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、1質量%以上15質量%以下の範囲で含有させると更に好ましい。本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物中の油剤の含有量を0.7質量%以上とすることで、更に指どれが良好になり、使用性を向上させることができる。また、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物中の油剤の含有量を21質量%以下とすることで、更に好適な冷感を皮膚に与えることができる。
【0039】
(3)ビニル系粘度付与剤
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に用いることができるビニル系粘度付与剤は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されず、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な公知のビニル系粘度付与剤を1種又は2種以上自由に選択して、用いることが可能である。例えば、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、酢酸ビニルポリマーなどを挙げることができる。この中でも本発明では特に、ビニル系粘度付与剤として、カルボキシビニルポシマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーを選択することが好ましい。これはバルクに粘度を付与させつつも、連続層である水系成分が冷凍温度条件下に冷やした状態においても氷晶の連続層を形成するのを防止することができるからである。更にアルキル変性カルボキシビニルポリマーは疎水基を有するため、氷晶の連続層を形成させない効果に更に優れる。
【0040】
本発明の皮膚用水中油型乳化組成物におけるビニル系粘度付与剤の含有量は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されないが、本発明においては、0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、0.15質量%以上0.3質量%以下の範囲で含有させると更に好ましい。本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に、前記の範囲でビニル系粘度付与剤を含有させることにより、冷凍温度条件下に冷やした状態においても指どれの良好な皮膚用水中油型乳化組成物を調整することが可能である。
【0041】
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物には、このビニル系粘度付与剤を中和するために、中和剤を含有させることができる。本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に用いることができる中和剤は、前記ビニル系粘度付与剤を中和させることができれば特に限定されず、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な公知の中和剤を1種又は2種以上自由に選択して、用いることが可能である。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、L−アルギニン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
【0042】
本発明の皮膚用水中油型乳化組成物における中和剤の含有量は、前記ビニル系粘度付与剤の含有量に応じて自由に設定することができるが、本発明の皮膚用水中油型乳化組成物の25℃におけるpHが5〜8の範囲となるように、より好ましくは、25℃におけるpHが6〜7の範囲となるように含有することが好ましい。なお、ここでいうpHの測定値は、25℃でガラス電極式水素イオン濃度計(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した値とする。
【0043】
(4)セルロース系粘度付与剤
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に用いることができるセルロース系粘度付与剤は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されず、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な公知のセルロース系粘度付与剤を1種又は2種以上自由に選択して、用いることが可能である。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系水溶性高分子を挙げることができる。
【0044】
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物において、セルロース系粘度付与剤は、前記ビニル系粘度付与剤と絡み合って、皮膚用水中油型乳化組成物中の氷晶をコントロールする役割を担っている。
【0045】
本発明の皮膚用水中油型乳化組成物におけるセルロース系粘度付与剤の含有量は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されないが、本発明においては、0.01質量%以上0.3質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、0.03質量%以上0.2質量%以下の範囲で含有させると更に好ましい。本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に、前記の範囲でセルロース系粘度付与剤を含有させることにより、冷凍温度条件下に冷やした状態においても指どれの良好な皮膚用水中油型乳化組成物の開発が可能である。
【0046】
(5)多価アルコール
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に用いることができる多価アルコールは、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されず、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な公知の多価アルコールを1種又は2種以上自由に選択して、用いることが可能である。例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオールなどが挙げられる。
【0047】
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物には、前記多価アルコールを6質量%以上26質量%以下の範囲で含有させることを特徴とする。本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に、6質量%以上の多価アルコールを含有させることにより、適度な稠度を与えることができ、また、氷晶が連続的に形成されてしまうのを防止することができる。本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物の多価アルコールの含有量を26質量%以下とすることにより、稠度が低下するのを防止し、また、氷晶を非連続的に分散させることができる。
【0048】
(6)添加剤
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物には、必要に応じて、皮膚用組成物分野で通常使用し得るあらゆる添加剤を含有させることができる。例えば、基剤、保存剤、着色剤、防腐剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、香料、体質顔料、着色顔料、アルコール、粉体、キレート剤、酵素、pH調整剤などを挙げることができる。
【0049】
本発明の皮膚用水中油型乳化組成物における各種添加剤の含有量は特に限定されず、含有させる添加剤の種類や性状、目的などに応じて自由に設定することが可能である。
【0050】
(7)有効成分
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に含有させることができる有効成分は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されず、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に含有させることが可能な公知の有効成分を1種又は2種以上自由に選択して、含有させることが可能である。例えば、抗酸化剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、紫外線防止剤、保湿剤、血行促進剤、抗菌剤、美白剤、活性酵素除去剤、植物抽出物、ビタミン類など、あらゆる有効成分を含有することができる。これらの有効成分は、経皮吸収により全身又は局所においてその効果を発揮したり、あるいは塗布された部位において局所的に効果を発揮する。
【0051】
具体的な一例を挙げると、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に、アスコルビン酸誘導体を含有させることにより、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物の持つ皮膚の透明感向上効果を更に高めることが可能である。
【0052】
具体的には、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸カリウム、L−アスコルビン酸マグネシウム等のL−アスコルビン酸塩、L−アスコルビン酸リン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸リン酸カリウム、L−アスコルビン酸リン酸マグネシウム、L−アスコルビン酸リン酸カルシウム等のL−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸硫酸マグネシウム、L−アスコルビン酸硫酸カルシウム等のL−アスコルビン酸硫酸エステル塩、L−アスコルビン酸グルコシドが例示される。
【0053】
本発明の皮膚用水中油型乳化組成物におけるアスコルビン酸誘導体の含有量は、本発明の効果を損なうことがなければ特に限定されないが、本発明においては、0.01質量%以上1質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、0.02質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有させると更に好ましい。本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に、前記の範囲でアスコルビン酸誘導体を含有させることにより、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物の持つ皮膚の透明感向上効果を、より一層高めることが可能である。
【0054】
以上説明した本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、氷晶が非連続的に分散されているため、適度な冷感作用、引き締め作用、透明感向上作用を皮膚に与えることが可能である。そのため、他の冷感剤、毛穴引き締め剤、美白剤などの薬効成分を含有することなく、若しくはその含有量を低減した場合でも、適度な冷感作用、引き締め作用、透明感向上作用を皮膚に与えることが可能である。そのため、薬効成分による皮膚への刺激を抑制することが可能である。その結果、皮膚のほてりなどの副反応を有利に抑制することが可能である。また、他の有効成分との相互作用を低減することができるため、様々な効能を付与させた化粧料や皮膚外用剤などに適応することが可能である。
【0055】
また、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、氷晶が連続しておらず、かつ、前述した適度な稠度に調整されているため、冷凍温度条件下に冷やした状態においても指どれなどの使用性や皮膚への密着性などの使用感が良好である。そのため、冷凍温度条件下に冷やした状態においても従来の皮膚用水中油型乳化組成物と同様の使用方法を実現でき、様々な用途に応用することが可能である。
【0056】
例えば、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物の冷感作用、引き締め作用、透明感向上作用などを利用して、化粧料に用いることができる。例えば、マッサージ用化粧料や皮膚引き締め用化粧料などに応用することができる。あるいは、乳液、クリーム、アイクリーム、美容液、パック料、ハンドクリーム、ボディクリーム、日焼け止め化粧料、洗顔料などのスキンケア化粧料に応用することで、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物の冷感作用、引き締め作用、透明感向上作用などを十分に発揮することが可能である。
【0057】
若しくは、シャンプー、ヘアートリートメント、養毛剤、育毛剤などの頭髪化粧料へ応用することで、頭皮に対する冷感作用、引き締め作用を頭髪化粧料に付与することも可能である。
【0058】
また、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物の冷感作用、引き締め作用、透明感向上作用などを利用して、皮膚外用剤に用いることができる。例えば、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、リニメント剤、ハップ剤等に用いることができる。
【0059】
更に、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、冷凍温度条件下に冷やした状態における柔らかさを保つために、製造工程において空気などを含有させるといった特別な方法ではなく、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な成分を用いて、その含有および含有割合などを工夫するだけで、使用性および使用感の向上を実現している。そのため、室温に戻した場合も氷晶の有無の差以外は皮膚用水中油型乳化組成物としての性状が変化せず、再度冷凍温度条件下に冷やせば、氷晶が非連続的に分散された特有の構造および前述した適度な稠度に戻すことが可能である。即ち、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、冷凍と室温との温度変化に対する安定性が極めて高い。
【0060】
加えて、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、製造工程において空気などを含有させるといった特別な方法を用いる必要がないため、従来からの皮膚用水中油型乳化組成物製造に用いる装置や技術をそのまま活用することができ、新たなコストや時間の削減に貢献することも可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0062】
<皮膚用水中油型乳化組成物の調整>
後述する表9に示す組成の実施例1〜16、後述する表10に示す組成の比較例1〜8に係る皮膚用水中油型乳化組成物の調整を行った。なお、本実施例では、乳化剤の一例として、水添レシチン80%+コレステロール20%(商品名「COMPOSITE−PC(登録商標)」日本精化株式会社製)、ポリオキシエチレン(8モル)アルキル(12〜15)エーテルリン酸(商品名「DDP−8」日本サーファクタント工業株式会社製)、ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油(商品名「ニッコールHCO−60(登録商標)」日本サーファクタント工業株式会社製)を、油剤の一例として、ジメチルポリシロキサン(商品名「シリコンKF−96A(6CS)」信越化学工業株式会社製)、ステアリン酸硬化ヒマシ油(商品名「キャストライドMS」ナショナル美松株式会社製)、重質流動イソパラフィン(商品名「パールリーム18(登録商標)」日油株式会社製)、流動パラフィン(商品名「ハイコールK−230(登録商標)」カネダ株式会社製)を、ビニル系粘度付与剤の一例として、カルボキシビニルポリマー(商品名「CARBOPOL940(登録商標)」LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS社製)、アルキル変性カルボキシビニルポリマー(商品名「CARBOPOL1342(登録商標)」LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS社製)を、セルロース系粘度付与剤の一例として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名「メトローズ65SH4000(登録商標)」信越化学工業株式会社製)を、有効成分の一例として、L−アスコルビン酸硫酸エステル二ナトリウム(商品名「ニッコールVC−SS(登録商標)」日本サーファクタント工業株式会社製)を、それぞれ用いた。
【0063】
[実施例1〜16]
まず、乳化剤を多価アルコールと混合溶解させた後、油剤と90℃にて加熱混合し、一部の加熱した精製水を添加することで乳化する。これを40℃まで冷却した後、残りの精製水とビニル系粘度付与剤およびその中和剤、セルロース系粘度付与剤、添加剤、有効成分などを添加することで目的サンプルを得た。実施例1〜16に係る皮膚用水中油型乳化組成物を調製した。
【0064】
[比較例1〜8]
比較例6については油剤を用いず、比較例7についてはセルロース系粘度付与剤を用いず、比較例8についてはビニル系粘度付与剤および中和剤を用いなかったこと以外は、前記実施例1〜16と同様の方法により、比較例1〜8に係る皮膚用水中油型乳化組成物を調整した。
【0065】
<効果の検討>
前記で調整した実施例1〜16および比較例1〜8に係る皮膚用水中油型乳化組成物について、下記表1〜8に記載の評価基準に基づき、(1)氷晶の分散性、(2)−20℃における稠度、(3)安定性、(4)肌の透明感、(5)毛穴引き締め効果、(6)指どれ、(7)冷感作用について評価を行った。なお、(1)氷晶の分散性、(6)指どれ、(7)冷感作用については、専門パネル30名の官能評価試験による最多数の評価を、(5)毛穴引き締め効果については、専門パネル30名の平均値を評価値とした。
【0066】
(1)氷晶の分散性(目視により評価)
【表1】

【0067】
(2)−20℃における稠度
各試料を−20℃で6時間冷やした後、室温に取り出して30秒以内に稠度を測定した。なお、稠度はJIS−K2220に基づき、2号アルミコーンを用いて測定した値であり、2号アルミコーンはあらかじめ−20℃にしたものである。
【0068】
【表2】

【0069】
(3)安定性
各試料を−20℃で12時間冷やした後、室温(RT)に取り出して12時間静置するサイクルを1サイクルとし、合計3サイクルを行った後の排液の程度を室温にて目視にて観察した。
【0070】
【表3】

【0071】
(4)肌の透明感
専門パネル30名による官能評価試験を行い、下記表4に示す評価基準にて7段階に評価し評点を付け、各試料のパネル全員の評点合計から、その平均値を算出し、下記表5に示す判定基準により判定した。
【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
(5)毛穴引き締め効果
具体的には、洗顔して15分間馴化し、蒸しタオルによって2分間顔を温めた後、フェイスアナライザー(商品名「SkinAnalyzer Clinical Suite RSA100」株式会社インフォワード社製)を用いて顔面正面の毛穴数を測定し、ブランクとした。次いで、前記で調整した実施例1〜16および比較例1〜8に係る皮膚用水中油型乳化組成物を顔面に塗布し、余分量を軽くふき取った。その2分後に再度、前記フェイスアナライザーを用いて顔面正面の毛穴数を測定し、ブランクと比較して毛穴数量の減少率を下記の数式(1)を用いて算出した。
【0075】
【数1】

【0076】
算出した毛穴数量の減少率について、下記の表6に示す評価基準に基づいて評価を行った。
【0077】
【表6】

【0078】
(6)指どれ
【表7】

【0079】
(7)冷感作用
【表8】

【0080】
実施例1〜16の結果を表9に、比較例1〜8の結果を表10にそれぞれ示す。
【0081】
【表9】

【0082】
【表10】

【0083】
表9に示す通り、乳化剤、油剤、ビニル系粘度付与剤、およびセルロース系粘度付与剤を全て含有し、多価アルコールを6質量%以上26質量%以下で含有させた実施例1〜16に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、油剤の種類に関わらず全て、氷晶が非連続的に分散された構造を呈しており、−20℃における稠度が100以上250以下であり、安定性、肌の透明感および毛穴引き締め効果も良好であった。
【0084】
一方、表10に示す通り、多価アルコールの含有量が6質量%未満の比較例1および3に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、安定性、肌の透明感および毛穴引き締め効果は概ね良好であったが、氷晶が大きすぎて使用感が悪く、稠度も100未満で硬すぎるために指どれが悪かった。
【0085】
多価アルコールの含有量が26質量%を超える比較例2および4に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、氷晶の量が少なすぎて皮膚への冷感作用があまり感じられず、稠度も250を超えて柔らかすぎるために塗布し難く、油が排液しているために安定性が悪く、肌の透明感および毛穴引き締め効果も悪い結果であった。
【0086】
油剤を含有させなかった比較例6に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、安定性は良好であったが、氷晶が連続的に存在、即ち全体的に凍った状態であったため、指どれが著しく悪く、肌への塗布もうまく行うことができなかった。そのために、肌の透明感および毛穴引き締め効果も悪い結果であった。また、稠度も50未満と硬すぎる結果であった。
【0087】
ビニル系粘度付与剤を含有させなかった比較例8に係る皮膚用水中油型乳化組成物およびセルロース系粘度付与剤を含有させなかった比較例7に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、氷晶が全く存在せず、皮膚への冷感作用がほとんど感じられず、稠度が300を超えて液状の状態であり非常に塗布し難かったために、肌の透明感および毛穴引き締め効果も悪い結果であった。また、油が多量に排液し、安定性も悪い結果であった。
【0088】
添加剤であるエタノールを多く添加した比較例5に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、氷晶の量が少なすぎて皮膚への冷感作用があまり感じられず、稠度も250を超えて柔らかすぎるために塗布し難く、油が多量に排液しているために安定性が悪く、肌の透明感および毛穴引き締め効果も悪い結果であった。これは、エタノールが不凍溶液であるためと推定された。従って、不凍性の性質を有する添加剤は、その添加量を注意する必要があることが分かった。
【0089】
実施例の中で油剤の含有量の違いによる効果を比較すると、油剤の含有量が0.7質量%未満の実施例9に係る皮膚用水中油型乳化組成物に比べ、油剤の含有量が0.7質量%以上21質量%以下の実施例6〜8に係る皮膚用水中油型乳化組成物の方が、冷凍温度条件下に冷やした状態においても指どれが良好であった。
【0090】
また、油剤の含有量が21質量%を超える実施例10に係る皮膚用水中油型乳化組成物に比べ、油剤の含有量が0.7質量%以上21質量%以下の実施例6〜8に係る皮膚用水中油型乳化組成物の方が、冷凍温度条件下に冷やした状態において適度な粒径の氷晶を有しており、適度な冷感を与えることのできる結果であった。
【0091】
このことから、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物において、油剤の含有量は、0.7質量%以上21質量%以下とすることが好ましいことが分かった。
【0092】
実施例1に係る皮膚用水中油型乳化組成物に、有効成分であるアスコルビン酸誘導体を含有させた実施例16に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、実施例1の稠度、安定性、毛穴引き締め効果はそのまま良好さを保ったまま、肌の透明感を更に向上させた結果となった。このことから、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に、他の有効成分を添加することにより、本発明の効果はそのままに、他の効果を追加できることが示唆された。
【0093】
<応用用途の検討>
本実験例では、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物を、様々な用途に用いた場合の各効果について検討した。
【0094】
1.皮膚引き締め用化粧料
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物を、皮膚引き締め用化粧料として用いた場合の毛穴引き締め効果を検討した。ここでは、前記実施例1に係る皮膚用水中油型乳化組成物と前記比較例7に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いて、毛穴引き締め効果を検討した。
【0095】
具体的には、洗顔して15分間馴化し、蒸しタオルによって2分間顔を温めた後、フェイスアナライザー(商品名「SkinAnalyzer Clinical Suite RSA100」株式会社インフォワード社製)を用いて顔面正面の毛穴数を測定し、ブランクとした。次いで、前記実施例1および前記比較例7に係る皮膚用水中油型乳化組成物を顔面に塗布し、余分量を軽くふき取った。その2分後に再度、前記フェイスアナライザーを用いて顔面正面の毛穴数を測定し、ブランクと比較した。結果を表11に示す。
【0096】
【表11】

【0097】
表11に示す通り、実施例1に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いた皮膚引き締め用化粧料は、比較例7に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いた皮膚引き締め用化粧料に比べ、明らかに毛穴数が減少していた。このことから、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いた皮膚引き締め用化粧料は、従来の皮膚引き締め用化粧料に比べ、非常に高い毛穴引き締め効果を有することが確認できた。
【0098】
2.マッサージ用化粧料
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物を、マッサージ用化粧用として用いた場合の肌の透明感向上効果を検討した。ここでは、前記実施例1に係る皮膚用水中油型乳化組成物と前記比較例2に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いてマッサージ用化粧料を作成し、肌の透明感向上効果の比較を行った。
【0099】
具体的には、洗顔して15分間馴化し、蒸しタオルによって2分間顔を温めた後、前記で調整した実施例1および比較例2に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いたマッサージ用化粧料を顔面に塗布し、5分間マッサージを行い、余分量を軽くふき取った。その5分後に、前記表4および表5に示す評価基準に基づいて、肌の透明感向上効果の検討を行った。結果を表12に示す。
【0100】
【表12】

【0101】
表12に示す通り、実施例1に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いたマッサージ用化粧料は、比較例2に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いたマッサージ用化粧料に比べ、明らかに肌の透明感が良好であった。このことから、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物を用いたマッサージ用化粧料は、従来のマッサージ用化粧料に比べ、非常に高い肌の透明感向上効果を有することが確認できた。
【0102】
<皮膚用水中油型乳化組成物中の乳化滴の平均粒径の検討>
本実験例では、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に含有される乳化滴の好ましい平均粒径を検討した。
【0103】
1.皮膚用水中油型乳化組成物の調整
具体的には、後述する表13に示す組成の実施例17〜21に係る皮膚用水中油型乳化組成物の調整を前記と同様の方法で行った。なお、混練に用いるデスパの回転数を相違させることにより、乳化滴の平均粒径を調整した。
【0104】
2.効果の検討
(1)乳化滴の平均粒径の測定
前記で調整した実施例17〜21に係る皮膚用水中油型乳化組成物について、光学顕微鏡(オリンパス社製)を用いて、室温にて乳化滴100個の粒径を測定し、それらの平均値を算出することにより、乳化滴の平均粒径を測定した。
【0105】
(2)指どれ、冷感作用
前記で調整した実施例17〜21に係る皮膚用水中油型乳化組成物について、指どれおよび冷感作用について評価を行った。なお、指どれについては前記表7、冷感作用については前記表8の評価基準に基づいて、専門パネル30名の官能評価試験による再多数の評価を評価値とした。
【0106】
各評価の結果を下記表13に示す。
【表13】

【0107】
表13に示す通り、乳化滴の平均粒径が0.5μm未満の実施例20に係る皮膚用水中油型乳化組成物では、氷晶が成長しやすく指どれが悪くなりがちであり、指どれが悪くなることで使用性が悪くなる傾向がみられた。また、乳化滴の平均粒径が50μmを超える実施例21に係る皮膚用水中油型乳化組成物では、連続層を油滴が大局的に占有する部分が多くなり、氷晶が成長しづらくなり冷感が感じられにくくなる傾向がみられた。
【0108】
以上の結果より、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物中の乳化滴の平均粒径は、0.5μm以上50μm以下に調整することが好ましいことが分かった。
【0109】
<皮膚用水中油型乳化組成物中の氷晶の平均粒径の検討>
本実験例では、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物に分散される氷晶の好ましい平均粒径を検討した。
【0110】
1.皮膚用水中油型乳化組成物の調整
具体的には、後述する表14に示す組成の実施例22〜26に係る皮膚用水中油型乳化組成物の調整を前記と同様の方法で行った。
【0111】
2.効果の検討
(1)氷晶の平均粒径の測定
前記で調整した実施例22〜26に係る皮膚用水中油型乳化組成物について、光学顕微鏡(オリンパス社製)を用いて、−20℃の恒温槽で6時間冷やしたサンプルを恒温槽から取り出してすぐに写真を撮影し、その写真における氷晶100個の粒径を測定し、それらの平均値を算出することにより、氷晶の平均粒径を測定した。
【0112】
(2)指どれ、冷感作用
前記で調整した実施例22〜26に係る皮膚用水中油型乳化組成物について、指どれおよび冷感作用について評価を行った。なお、指どれについては前記表7、冷感作用については前記表8の評価基準に基づいて、専門パネル30名の官能評価試験による再多数の評価を評価値とした。
【0113】
各評価の結果を下記表14に示す。
【表14】

【0114】
表14に示す通り、氷晶の平均粒径が0.1μm未満の実施例25に係る皮膚用水中油型乳化組成物では冷感が少なくなり、氷晶の平均粒径が3000μmを超える実施例26に係る皮膚用水中油型乳化組成物では指どれが悪くなる傾向であった。
【0115】
以上の結果より、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物中の氷晶の平均粒径は、0.1μm以上3000μm以下に調整することが好ましいことが分かった。
【0116】
<皮膚外用剤の処方例>
本実験例では、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物を含有する皮膚外用剤の一例として、表15の処方に従って実施例27に係る皮膚軟化用皮膚外用剤を作製した。
【0117】
【表15】

【0118】
(製造方法)
A:1〜9を70℃に加熱し均一に混合溶解した。
B:70℃に加熱し均一混合した10〜14をAに加え乳化した。
C:Bに70℃で15〜17を加えた。
D:Cを45℃まで冷却し、18〜21まで加えて、実施例27に係る皮膚軟化用皮膚外用剤を作製した。
【0119】
実施例27の皮膚軟化用皮膚外用剤は、氷晶が全体に適度に分散しており、−20℃における稠度も適度であり、指どれに優れ、冷感作用や安定性等に優れる皮膚軟化用皮膚外用剤であった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、所定の稠度および氷晶が非連続的に分散された従来にない構造を呈するため、適度な冷感作用を皮膚に与えることができ、また冷凍温度条件下に冷やした状態においても、通常の皮膚用水中油型乳化組成物と同様の使用性および使用感を実現している。
【0121】
その結果、冷凍温度条件下に冷やした状態においても従来の皮膚用水中油型乳化組成物と同様の使用方法を実現でき、様々な用途に応用することが可能である。
【0122】
また、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、他の薬効成分を含有することなく、適度な冷感作用、引き締め作用、透明感向上作用を皮膚に与えることが可能である。そのため、薬効成分による皮膚への刺激を抑制し、皮膚のほてりなどの副反応を有利に抑制することが可能である。また、他の有効成分との相互作用を心配する必要が低いため、様々な効能を付与させた化粧料や皮膚外用剤などに広く適応することが可能である。
【0123】
更に、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、気泡を含有させることなく、従来の皮膚用水中油型乳化組成物に用いることが可能な成分を用いて、その含有および含有割合などを工夫するだけで、冷凍温度条件下に冷やした状態における柔らかさを保っている。そのため、室温に戻した場合も氷晶の有無の差以外は皮膚用水中油型乳化組成物としての性状が変化せず、再度冷凍温度条件下に冷やせば、氷晶が非連続的に分散された特有の構造および前述した適度な稠度に戻すことが可能であり、冷凍と室温との温度変化に対する安定性が極めて高い。
【0124】
加えて、本発明に係る皮膚用水中油型乳化組成物は、特別な製造方法を用いることなく製造することが可能であるため、従来からの皮膚用水中油型乳化組成物製造に用いる装置や技術をそのまま活用することができ、新たなコストや時間の削減に貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−5℃以下に冷却して使用される皮膚用水中油型乳化組成物であって、
乳化剤、油剤、粘度付与剤、多価アルコールを必須成分とし、
前記粘度付与剤がビニル系粘度付与剤およびセルロース系粘度付与剤であり、
前記多価アルコールを6質量%以上26質量%以下で含有させることにより、
−20℃における稠度が100以上250以下であり、かつ、
氷晶が非連続的に分散されてなる皮膚用水中油型乳化組成物。
【請求項2】
乳化滴の平均粒径が、0.5μm以上50μm以下である請求項1記載の皮膚用水中油型乳化組成物。
【請求項3】
油剤の含有量が、0.7質量%以上21質量%以下である請求項1又は2に記載の皮膚用水中油型乳化組成物。
【請求項4】
前記ビニル系粘度付与剤が、カルボキシビニルポシマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーである請求項1から3のいずれか一項に記載の皮膚用水中油型乳化組成物。
【請求項5】
アスコルビン酸誘導体を更に含有する請求項1から4のいずれか一項に記載の皮膚用水中油型乳化組成物。
【請求項6】
化粧料として用いられる請求項1から5のいずれか一項に記載の皮膚用水中油型乳化組成物。
【請求項7】
マッサージ用化粧料として用いられる請求項6記載の皮膚用水中油型乳化組成物。
【請求項8】
皮膚引き締め用化粧料として用いられる請求項6又は7に記載の皮膚用水中油型乳化組成物。
【請求項9】
皮膚外用剤として用いられる請求項1から5のいずれか一項に記載の皮膚用水中油型乳化組成物。

【公開番号】特開2013−35785(P2013−35785A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173676(P2011−173676)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】