説明

皮膚用針製造方法

【課題】充分な量の機能性材料を皮膚角質層に付与ないし投薬し、経済性や安全性の高い皮膚用針の製造方法を提供する。
【解決手段】ヒーターによってヒーター基板に設置された基板3を溶解させる。ピンに該溶解した基板3の一部を付着させ、付着部分の張力によって突起させられた突起部から離隔させマイクロパイル根元部2を形成する(第一の針成形工程)。次いで、ヒーターによってヒーター基板に設置された機能性材料を溶解させる。マイクロパイル根元部2に該溶解した機能性材料の一部を付着させ、該根元部の先端部に付着した部分を針先端部1として形成する(第二の針成形工程)。該針先端部1が選択的に皮膚内に残存し、充分な量の機能性材料を皮膚内に付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療や化粧等で用いられる皮膚用針の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚用針としては、機能性材料を生分解性材料に混合させて、1個または複数並べた形状のものが考案されている。(例えば、特許文献1)
【0003】
【特許文献1】特開2003―238347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の皮膚用針は、機能性材料(物質)を生分解性材料(物質)で形成された皮膚用針のみに混合させているため、機能性材料を皮膚用針中に均一に分散させることが困難であり、皮膚用針先端部に充分な量の機能性材料を含有させることが難しく、実際に人体の皮膚に刺した場合、充分な量の機能性材料が皮膚角質内に付与できないという問題があった。また、針の先端以外は廃棄されるので、その部分に含有されている高価は機能性材料も廃棄することになり、経済性が悪いという問題があった。また、針に使用される機能性材料が健康面あるいは環境面で法律上使用制限されるものなどに該当する場合には、上記廃棄を特別な回収により行わなければならないという問題が生じる。
【0005】
本発明は、充分な量の機能性材料を皮膚内に付与でき、経済性や安全性の高いる皮膚用針の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の皮膚用針の製造方法は、溶解した第一の皮膚用針材料にピン部材を接触付着させる第一の接触付着工程と、第一の接触付着工程でピン部材に付着した第一の皮膚用針材料をその表面張力により引き伸ばして第一の針を成型する第一の針成型工程と、第一の針成型工程で成型された第一の針の針先部を溶解した第二の皮膚用針材料材料に接触付着させる第二の接触付着工程と、第二の接触付着工程で第一の針の針先部に付着した第二の皮膚用針材料をその表面張力により引き伸ばし、第一の針の先端部上に第二の針を成型する第二の針成型工程とを備えた構成としている。この構成により、皮膚用針全体としての根元部(第一の針部分)と先端部(第二の針部分)に異なる成分を有する皮膚用針を製造することができる。したがって、材料を適宜選択することにより、皮膚内に充分な量の機能性材料を効果的に付与することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、充分な量の機能性材料を皮膚内に付与することができる皮膚用針を製造することができると共に、経済性のよい皮膚用針を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて説明する。図1に本実施において作製した皮膚用針(以下、「マイクロパイル」ともいう)を示す。皮膚用針は、基板3の上に複数の根元部2設置されており、それらの先端部には、それぞれ針先端部1が一体的に接合されている。針先端部1には機能性材料が含有されている。
【0009】
本実施例では基板3の大きさは約10×10mm、厚さは約0.5mmであり、材料は生分解性材料であるマルトースを使用した。基板3の材料はマルトース以外にもポリ乳酸などでも良い。
【0010】
マイクロパイルの根元部2は断面が円形状の円錐であり、直径は0.1〜80μm、長さは0.1〜1mmである。直径を0.1〜80μmとしたのは、人体の皮膚は直径80μm以下の針には痛みを感じないためである。
【0011】
根元部2の断面は円形以外にも三角形、四角形などの多角形でも良い。根元部2の材料は生分解材料であるマルトースを使用した。このため、皮膚に刺した後、人体に悪影響を与えない皮膚用針が作製可能である。マルトースの他に、ポリ乳酸などの生分解材料を皮膚用針の材料に使用することができる。
【0012】
マイクロパイルの針先端部1の形状は根元部2の形状に依存するが、本実施例では断面が円形状の円錐であり、直径は0.1〜80μm、長さは0.1〜0.5mmである。直径を0.1〜80μmとしたのは、人体の皮膚は直径80μm以下の針には痛みを感じないためである。
【0013】
針先端部1の断面は円形以外にも三角形、四角形などの多角形でも良い。針先端部1の材料は生分解材料であるマルトースと皮膚のしわ取りに有効なビタミンCの混合物を使用した。ビタミンCの他にも、皮膚のしみ取りに有効な染色材、糖尿病の治療に有効なインシュリン、筋肉痛に有効なインドメタシンなどを針先端部1の材料に混合することができる。
【0014】
針先端部1はマルトースを含有しているため、皮膚に刺した後、人体に悪影響を与えない皮膚用針が作製可能である。マルトースの他に、ポリ乳酸などの生分解材料を皮膚用針の材料に使用することができる。
【0015】
図2にパイル根元部2を作製するためのマイクロパイル引き上げ装置4を示す。図2に示すように、本実施の形態に係る皮膚用針製造装置としてのマイクロパイル引き上げ装置4は、地面6上に設置されて室5aを形成する壁部5と、壁部5に設置されて室5a内の湿度を60%以下に維持する湿度維持手段としての湿度維持装置7と、室5a内に設置されてマイクロパイル根元部2(図4参照)の材料である基板3が設置される材料設置部材としてのヒーター基板8と、ヒーター基板8の温度を変更する部材温度変更手段としてのヒーター12と、ヒーター基板8に固定された柱部10と、柱部10に沿って矢印11a、11bで示す方向に移動可能に柱部10に支持された移動部11と、移動部11に固定されたヒーター基板13と、ヒーター基板13の温度を変更するヒーター14と、ヒーター基板13に設置されて基板3の一部を付着させるための複数本(例えば約50〜1000本)のピン15と、移動部11を柱部10に沿って移動させるための駆動機構16と、ヒーター12、ヒーター14及び駆動機構16の動作を制御する制御手段としてのコンピュータ9とを備えている。
【0016】
ヒーター基板13は、複数本のピン15が設置される部分の大きさ及び形状が約5〜50mm角の正方形となっている。ヒーター14は、ヒーター基板13の温度を変更することによってヒーター基板13を介して間接的にピン15の温度を変更するようになっており、ピン温度変更手段を構成している。
【0017】
複数本のピン15は、格子点状に略等間隔でヒーター基板13に設置されており、熱伝導性の高い金属等によって形成されている。なお、図2においてピン15を5本しか描いていないのは、視認性を考慮して簡略化しているためである。
【0018】
駆動機構16は、移動部11を柱部10に沿って移動させることによって、移動部11に固定されたヒーター基板13に設置されたピン15を、基板3に対して移動させるようになっている。
【0019】
次に、マイクロパイル引き上げ装置4の動作について説明する。湿度維持装置7は、室5a内の湿度を所定の範囲に常に維持している。まず、マイクロパイル引き上げ装置4は、ヒーター基板8に基板3が設置される。
【0020】
(第一の材料溶解工程)
そして、マイクロパイル引き上げ装置4の操作者からマイクロパイルの製造がコンピュータ9に指示されると、コンピュータ9は、ヒーター12によってヒーター基板8の温度を約100℃に維持するように制御することによって、ヒーター基板8に設置された基板3を溶解させる。
【0021】
(第一の接着付着工程)
次に、コンピュータ9は、駆動機構16によって移動部11を柱部10に沿って矢印11aで示す方向に移動させることによって、移動部11に固定されたヒーター基板13に設置されたピン15を、ヒーター基板8上で溶解している基板(溶解した材料)3に図3(a)に示すように接触させ、ピン15に基板3の一部を付着させる。ここで、マイクロパイル引き上げ装置4は、ヒーター基板13に設置された複数本のピン15が均一に溶解材料3に接触するように、精度良く形成されている。
【0022】
(第一の針成形工程)
次いで、コンピュータ9は、ヒーター12によってヒーター基板8の温度を約100℃に維持するように制御したまま、ヒーター14によってヒーター基板13を介してピン15の温度を約120℃に維持するように制御した後、駆動機構16によって移動部11を柱部10に沿って矢印11bで示す方向に約2mm/secで約500μm〜約5mm移動させることによって、移動部11に固定されたヒーター基板14に固定されたピン15を、図3(b)に示すように、基板3のうちピン15に付着した付着部分3aの張力によって突起させられた突起部分3bから離隔させ、突起部分3bを引き伸ばして長さが約500μmの略錐型のマイクロパイル根元部2(図4参照)として形成する。なお、複数本のピン15が格子点状に略等間隔でヒーター基板13に設置されているので、基板3上には、複数本の突起部分3bが格子点状に略等間隔で成形される。
【0023】
(第一の切離工程)
最後に、コンピュータ9は、ヒーター14によってヒーター基板13を介してピン15の温度を下げて約100℃に維持するように制御した後、駆動機構16によって移動部11を柱部10に沿って矢印11bで示す方向に約5mm/secで移動させることによって、移動部11に固定されたヒーター基板13に設置されたピン15を、図3(c)に示すように基板3の突起部分3bから離隔させ、ピン15に付着した付着部分3aをマイクロパイル根元部2として成形された突起部分3bから切り離す。
【0024】
以上のようにして、図4に示しように、マルトースが主成分であるマイクロパイル根元部2を製造することができる。
【0025】
次に図5に針先端部1を根元部2の先端部に接合するための機能性材料(針先端部)形成装置30を示す。図5に示すように、本実施の形態に係る皮膚用針製造装置としての機能性材料形成装置16は、地面18上に設置されて室17aを形成する壁部17と、壁部17に設置されて室17a内の湿度を60%以下に維持する湿度維持手段としての湿度維持装置19と、室17a内に設置されて機能性材料25が設置される材料設置部材としてのヒーター基板20と、ヒーター基板20の温度を変更する部材温度変更手段としてのヒーター24と、ヒーター基板20に固定された柱部22と、柱部22に沿って矢印23a、23bで示す方向に移動可能に柱部22に支持された移動部26と、移動部26に固定された基板3と、基板3に形成された複数本のマイクロパイル根元部2と、移動部26を柱部22に沿って移動させるための駆動機構27と、ヒーター24及び駆動機構27の動作を制御する制御手段としてのコンピュータ21とを備えている。
【0026】
駆動機構27は、移動部26を柱部22に沿って移動させることによって、移動部26に固定された基板3およびマイクロパイル根元部2を、機能性材料25に対して移動させるようになっている。
【0027】
(第二の材料溶解工程)
そして、機能性材料形成装置16の操作者から機能性材料を形成がコンピュータ21に指示されると、コンピュータ21は、ヒーター24によってヒーター基板20の温度を約100℃に維持するように制御することによって、ヒーター基板20に設置された機能性材料25を溶解させる。
【0028】
(第二の接着付着工程)
次に、コンピュータ21は、駆動機構27によって移動部26を柱部22に沿って矢印23aで示す方向に移動させることによって、移動部26に固定された基板3とマイクロパイル根元部2を、ヒーター基板20上で溶解している機能性材料25に図6(a)に示すように接触させ、マイクロパイル根元部2に機能性材料25の一部を付着させる。ここで、機能性材料形成装置16は、移動部26と基板3に設置された複数本のマイクロパイル根元部2が均一に機能性材料25に接触するように、精度良く形成されている。
【0029】
(第二の針成形工程)
次いで、コンピュータ21は、ヒーター24によってヒーター基板20の温度を約100℃に維持するように制御したまま、駆動機構27によって移動部26を柱部22に沿って矢印23bで示す方向に約3〜約5mm/secで約1mm〜約5mm移動させることによって、移動部26と基板3に固定されたマイクロパイル根元部2を、図6(c)に示すように、機能性材料25のうちマイクロパイル根元部2の先端部に付着した部分を針先端部1として形成する。針先端部1は長さが約300μmの略錐型の突起として形成した。なお、複数本のマイクロパイル根元部2が格子点状に略等間隔で基板3に設置されているので、基板3上には、複数本の針先端部1が格子点状に略等間隔で成形される。
また、前記接着付着工程と前記針成形工程を各々少なくとも2回以上繰り返し複数の該針先端部を形成することもできる。
【0030】
製造した皮膚用針を人体の皮膚に刺すことにより、針先端部1が選択的に皮膚内に残存し、充分な量の機能性材料(針先端部1)を皮膚内に投薬あるいは付与することが可能となる。
【0031】
本発明に係る皮膚用針によれば、その根元部分と針先端部分とを異なる成分で構成しているので、充分な量の機能性材料を皮膚内に付与あるいは投薬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態である皮膚用針の外観斜視図
【図2】本発明の一実施の形態である皮膚用針のマイクロパイルを作製するためのマイクロパイル引き上げ装置の側面断面図
【図3】(a)図2に示すマイクロパイル引き上げ装置の材料付着工程における基板の一部の側面図 (b)図2に示すマイクロパイル引き上げ装置の成形工程における基板の一部の側面図 (c)図2に示すマイクロパイル引き上げ装置の切離工程における基板の一部の側面図
【図4】図2に示すマイクロパイル引き上げ装置によって作製されたマイクロパイル根元部2の外観斜視図
【図5】本発明の一実施の形態である皮膚用針を作製するための機能性材料形成装置の側面断面図
【図6】(a)図5に示す機能性材料形成装置の機能性材料付着工程におけるマイクロパイルと機能性材料の一部の側面図 (b)図5に示す機能性材料形成装置の機能性材料形成工程におけるマイクロパイルと機能性材料の一部の側面図
【符号の説明】
【0033】
1 マイクロパイル針先端部
2 マイクロパイル根元部
3 基板
4 マイクロパイル引き上げ装置
7 湿度維持装置
8 ヒーター基板
9 コンピュータ
12 ヒーター
13 ヒーター基板
14 ヒーター
15 ピン
16 駆動機構
19 湿度維持装置
20 ヒーター基板
21 コンピュータ
24 ヒーター
25 機能性材料
30 機能性材料(針先端部)形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解した第一の皮膚用針材料にピン部材を接触付着させる第一の接触付着工程と、第一の接触付着工程でピン部材に付着した第一の皮膚用針材料をその表面張力により引き伸ばして第一の針を成型する第一の針成型工程と、第一の針成型工程で成型された第一の針の針先部を溶解した第二の皮膚用針材料材料に接触付着させる第二の接触付着工程と、第二の接触付着工程で第一の針の針先部に付着した第二の皮膚用針材料をその表面張力により引き伸ばし、第一の針の先端部上に第二の針を成型する第二の針成型工程と、を備えたことことを特徴とする皮膚用針製造方法。
【請求項2】
前記第二の皮膚用針材料が、生分解性物質および機能性物質を含有することを特徴とする請求項1に記載の皮膚用針製造方法。
【請求項3】
前記第二の皮膚用針材料に含有される機能性材料の濃度が、前記第一の皮膚用針材料に含有される機能性材料の濃度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の皮膚用針製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−346127(P2006−346127A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175756(P2005−175756)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】