説明

皮膚繊維芽細胞増殖促進剤及び皮膚コラーゲン産生促進剤

【課題】化粧品、飲食品、医薬品等の様々な用途に利用することができる皮膚繊維芽細胞増殖促進剤及び皮膚コラーゲン産生促進剤を提供する。
【解決手段】本発明の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤及び皮膚コラーゲン産生促進剤は、アピシンを有効成分として含有する。好ましくは、アピシンはローヤルゼリーから液体クロマトグラフィーを用いて分離されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローヤルゼリーに含有されるアピシン(Apisin)を有効成分として含有する皮膚繊維芽細胞増殖促進剤及び皮膚コラーゲン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ローヤルゼリーは、羽化後3〜15日の雌のミツバチが下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作るゼリー状の物質で、特有のタンパク質、脂肪酸及びミネラル等が含有されていることが知られている。ローヤルゼリーは、血圧降下作用、抗腫瘍作用、抗菌作用等の種々の生理作用を有していることが知られている。よって従来より、ローヤルゼリーは、栄養価の高い健康食品のみならず、医薬品等の用途にも用いられてきた。
【0003】
ローヤルゼリーエキスはデセン酸をはじめとするローヤルゼリーに特有な脂肪酸、そのエステルからなる脂質、ローヤルゼリーにのみ含有される特殊な水溶性タンパク質、アミノ酸、糖質、ミネラル等を含有している。それらの中で、タンパク質は、ローヤルゼリー中において、10%以上を占めるものの、詳細な機能及び生理作用に関しては未だ十分に解明されていない。
【0004】
従来より、ローヤルゼリー中に含まれるタンパク質として、分子量350kDの糖タンパク質としてアピシンが知られている(非特許文献1)。アピシンは、ヒト血球系単球細胞株に対する増殖作用を有することが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ミツバチ科学19(1):15−22(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アピシンが皮膚繊維芽細胞増殖促進作用及び皮膚コラーゲン産生促進作用を発揮することを見出したことによりなされたものである。
本発明の目的とするところは、化粧品、飲食品、医薬品等の様々な用途に利用することができる皮膚繊維芽細胞増殖促進剤及び皮膚コラーゲン産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤は、アピシンを有効成分として含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤において、前記アピシンは、ローヤルゼリーから液体クロマトグラフィーを用いて分離されたものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の皮膚コラーゲン産生促進剤は、アピシンを有効成分として含有することを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の皮膚コラーゲン産生促進剤において、前記アピシンは、ローヤルゼリーから液体クロマトグラフィーを用いて分離されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、化粧品、飲食品、医薬品等の様々な用途に利用することができる皮膚繊維芽細胞増殖促進剤及び皮膚コラーゲン産生促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】アピシンのヒト皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用に関する試験結果を示す。
【図2】アピシンのヒト皮膚繊維芽細胞のコラーゲン産生促進作用に関する試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤を具体化した第1実施形態を説明する。
本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤は、アピシンを有効成分として含有する。アピシンは、ローヤルゼリー中に含まれる水溶性の糖タンパク質であり、2種類の58kDaのサブユニットが3分子ずつ会合した分子量約350kDのヘテロオリゴマータンパク質である。
【0012】
アピシンは、ローヤルゼリーを原料として入手することができる。原料のローヤルゼリーとしては、生ローヤルゼリー及び生ローヤルゼリーを凍結乾燥処理等により乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末(FD−RJ)のいずれも使用することができる。本実施形態において使用される生ローヤルゼリー及び乾燥ローヤルゼリーの産地は、特に限定されないが、例えば中国、台湾、日本等のアジア諸国、ヨーロッパ諸国、北アメリカ諸国、ブラジル等の南アメリカ諸国、オセアニア諸国のいずれでもよい。
【0013】
アピシンは、分子量約350kDの水溶性の糖タンパク質であり、ローヤルゼリーを抽出原料として公知の抽出、分離及び精製方法を用いて抽出・精製することができる。具体的には、抽出原料から溶媒を用いた抽出処理、限外濾過及び透析を用いた分離処理、並びにクロマトグラフィーを用いた分離・精製処理が挙げられる。
【0014】
抽出処理において、抽出に用いられる溶媒としては、例えば水、親水性有機溶媒、及び水/親水性有機溶媒の混合液が用いられる。これらの中で、アピシンの抽出効率に優れる観点から水が好ましい。水は、抽出効率をより上げるために各種酸の塩類を添加した緩衝液として用いるのが好ましい。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液、及び酢酸緩衝液が挙げられる。親水性有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコールのほか、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、及び酢酸エチルが挙げられる。
【0015】
クロマトグラフィーとしては、公知のクロマトグラフィー、例えば液体クロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、及び薄層クロマトグラフィーを用いることができるが、アピシンはタンパク質成分であることから液体クロマトグラフィーが好ましく適用される。液体クロマトグラフィーとしては、例えばカラムクロマトグラフィーを用いることができ、より具体的には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びオープンカラムクロマトグラフィーを挙げることができる。クロマトグラフィー担体としては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー(順相・逆相クロマトグラフィー)、吸着クロマトグラフィー、及び分子排斥クロマトグラフィー(ゲル濾過・分子篩クロマトグラフィー)が挙げられる。アピシンは、等電点が4.4〜5.4であり、酸性タンパク質であるため、イオン交換クロマトグラフィーとして陰イオン交換樹脂が好ましく用いられる。陰イオン交換樹脂として、例えばDEAEセルロース及びQセファロースが挙げられる。それらを適宜組み合わせて、公知の使用方法でアピシン成分を分離・精製することができる。
【0016】
本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤は、皮膚の繊維芽細胞の増殖を促進したり、延命する作用を有する。皮膚繊維芽細胞の増殖促進により、皮膚繊維芽細胞によって産生される細胞外マトリックス、例えば皮膚の弾力性に寄与するコラーゲン、保湿成分であるヒアルロン酸、及びコラーゲンの線維を支え、皮膚の弾力性に寄与するエラスチンの増加が期待される。加齢に伴い、又は皮膚が紫外線及び活性酸素等に曝されると繊維芽細胞が減少することが知られている。それにより、繊維芽細胞によってもたらされるコラーゲン等の細胞外マトリックスも減少し、老化現象、例えば真皮の厚みの減少、皮膚のしわ及びたるみの発生、はりの消失、並びに保湿性の低下が生じる。本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤により、皮膚の繊維芽細胞の増殖が促進されると、しわやたるみの防止、はりの消失の防止、及び皮膚の保湿性の向上が期待され、優れた皮膚の老化防止・改善効果が発揮される。したがって、本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤は、皮膚の老化防止剤又は改善剤としての適用が期待される。
【0017】
また、皮膚組織が損傷した場合、損傷部位から繊維芽細胞が遊走・増殖し、細胞外マトリックスの合成により、損傷箇所が修復されることが知られている。本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤により、皮膚の繊維芽細胞の増殖が促進されると、皮膚組織の損傷修復が促進され、治癒が早まることが期待される。したがって、本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤は、皮膚創傷治癒促進剤として適用できることが期待される。
【0018】
本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等として適用することができる。これらの中で、本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤は皮膚外用剤や化粧品として皮膚表面(表皮)に塗布されることが好ましい。本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤を皮膚外用剤、化粧品、及び飲食品として適用する場合は、従来品と区別するために、上記作用・効果、例えば皮膚の繊維芽細胞の増殖促進、しわやたるみの防止、はりの消失の防止、皮膚の保湿性の向上、老化防止・改善、及び皮膚創傷治癒促進等の効果を得ることを目的とする旨の表示を付すことが好ましい。
【0019】
本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤を化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状などのいずれであってもよい。このような化粧品を肌に適用することにより、皮膚繊維芽細胞増殖促進作用を得ることができる。化粧品基剤は、一般に化粧品に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
【0020】
本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤を飲食品に適用する場合、皮膚繊維芽細胞増殖促進剤を飲食品そのものとして、又は種々の食品素材又は飲料品素材に配合して使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0021】
本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤を医薬用素材又は医薬品として使用する場合は、皮膚への塗布、服用(経口摂取)により投与する場合の他、皮下注射、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。また、本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤を皮膚繊維芽細胞増殖促進用の試薬の形態で実験用・研究用試薬として適用してもよい。皮膚繊維芽細胞が関係する生理作用のメカニズムの解明又は各種症状の治療法等の研究・開発等の分野において、好適に用いられる。
【0022】
皮膚繊維芽細胞増殖促進剤の投与量は、特に限定されないが、優れた効能を発揮する観点から、有効成分であるアピシンの濃度として、ローヤルゼリー中に含有されるアピシンの濃度(固形分として約20質量%)よりも高い濃度(比率)で投与されることが好ましい。
【0023】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤は、優れた皮膚繊維芽細胞増殖促進作用を発揮する。したがって、皮膚繊維芽細胞増殖促進作用の発揮を目的とした皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等の分野に好ましく適用することができる。
【0024】
(2)好ましくは、本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤において、有効成分であるアピシンは、天然由来の原料としてローヤルゼリーから分離されたものである。したがって、安全に皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等の分野に適用することができる。また、ローヤルゼリーをそのまま投与するよりも、高い濃度(比率)でアピシンを投与することができる。
【0025】
(3)好ましくは、本実施形態の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤において、有効成分であるアピシンの濃度(比率)として、ローヤルゼリー中に含有されるアピシンの濃度(比率)よりも高い濃度で投与される。したがって、皮膚繊維芽細胞増殖促進に関連するより優れた各種効能を発揮することができる。
【0026】
(第2実施形態)
以下、本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤は、アピシンを有効成分として含有する。アピシンの入手方法は、第1実施形態と同一である。
【0027】
本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤は、皮膚において、特に繊維芽細胞においてコラーゲン産生を促進する作用を有する。加齢に伴い繊維芽細胞が減少したり、又は紫外線及び活性酸素等で変性することにより皮膚コラーゲンが減少することが知られている。それにより、老化現象、例えば真皮の厚みの減少、皮膚のしわ及びたるみの発生、並びにはりの消失が生じる。本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤により、皮膚のコラーゲンの産生が促進されると、しわやたるみの防止、はりの消失の防止が期待され、優れた皮膚の老化防止・改善効果が発揮される。したがって、本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤は、皮膚の老化防止剤又は改善剤としての適用が期待される。
【0028】
また、皮膚組織が損傷した場合、損傷部位において繊維芽細胞が、コラーゲンを合成することにより、損傷箇所が修復されることが知られている。本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤により、皮膚のコラーゲン産生が促進されると、皮膚組織の損傷修復を促進し、治癒を早めることが期待される。したがって、本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤は、皮膚創傷治癒促進剤として適用できることが期待される。
【0029】
本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等として適用することができる。これらの中で、本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤は皮膚外用剤や化粧品として皮膚表面(表皮)に塗布されることが好ましい。本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤を皮膚外用剤、化粧品、及び飲食品として適用する場合は、従来品と区別するために、上記作用・効果、例えば皮膚のコラーゲン産生促進、しわやたるみの防止、はりの消失の防止、老化防止・改善、及び皮膚創傷治癒促進等の効果を得ることを目的とする旨の表示を付すことが好ましい。その他、具体的な配合形態は、第1実施形態と同一である。
【0030】
皮膚コラーゲン産生促進剤の投与量は、特に限定されないが、優れた効能を発揮する観点から、有効成分であるアピシンの濃度として、ローヤルゼリー中に含有されるアピシンの濃度(固形分として約20質量%)よりも高い濃度(比率)で投与されることが好ましい。
【0031】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤は、優れた皮膚コラーゲン産生促進作用を発揮する。したがって、皮膚コラーゲン産生促進作用の発揮を目的とした皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等の分野に好ましく適用することができる。
【0032】
(2)好ましくは、本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤において、有効成分であるアピシンは、天然由来の原料としてローヤルゼリーから分離されたものである。したがって、安全に皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等の分野に適用することができる。また、ローヤルゼリーをそのまま投与するよりも、高い濃度(比率)でアピシンを投与することができる。
【0033】
(3)好ましくは、本実施形態の皮膚コラーゲン産生促進剤において、有効成分であるアピシンの濃度として、ローヤルゼリー中に含有されるアピシンの濃度(比率)よりも高い濃度(比率)で投与される。したがって、皮膚コラーゲン産生促進に関連するより優れた各種効能を発揮することができる。
【0034】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態における有効成分であるアピシンは、ローヤルゼリーから粗抽出したもの、粗精製したもの、精製したもののいずれを使用してもよい。
【0035】
・上記実施形態における有効成分であるアピシンは、好ましくはローヤルゼリーを抽出原料として抽出することにより入手される。しかしながら、天然物からの抽出方法以外に、公知の遺伝子工学的手法によって入手してもよい。遺伝子工学的手法によって本実施形態のアピシンを得るためには、公知のインビトロ(in vitro)タンパク合成系を利用して製造することができる。具体的には、アピシンをコードする塩基配列からなる遺伝子を公知の任意のベクターに組み込み、該ベクターを宿主内に導入して形質転換体を作製し、該形質転換体を培養することによって得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例において、アピシンのヒト皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用及びコラーゲン産生促進作用について試験・検討した。
【0037】
(1)アピシンの調製
中国産の生ローヤルゼリー(生RJ)を蒸留水で2倍希釈し、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)に対して分画分子量10000の透析膜で48時間透析を行った。その後、遠心分離(15000×g、60分、4℃)し、得られた上清をローヤルゼリー可溶性タンパク質とした。これを、DEAE−セルロファインA−500カラム(生化学工業社製)に添加し、非吸着画分を同緩衝液で溶出させた後、NaCl濃度を0〜0.3Mまで直線的に増加させることにより吸着画分を溶出させ、ローヤルゼリーから分離した。なお、流速は90mL/時間で行い、280nmにおける紫外吸収によりタンパク質を検出した。タンパク質の濃度はDCプロテインアッセイ(Bio-Rad Laboratories社製)を用いて測定した。上記のように溶出させた画分をアピシン含有画分(アピシン含有率約80%以上(固形分中))として下記繊維芽細胞を用いた試験において使用した。尚、中国産の生ローヤルゼリーを凍結乾燥したものを比較対象として使用した。
【0038】
(2)ヒト皮膚繊維芽細胞
ヒト皮膚繊維芽細胞は、NB1RGB株を使用した。NB1RGB株は、理化学研究所より購入した。NB1RGB株は、10%FBS、100単位/mLペニシリン、0.1mg/mLストレプトマイシンを含むDMEMで、37℃、5%COの条件下で培養した。細胞継代は3〜4日毎にトリプシン処理により行った。
【0039】
(3)ヒト皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用及びコラーゲン産生促進作用の検討
NB1RGB株を96ウェルプレート中に10000細胞/ウェルになるように播種し、37℃、5%COの条件下で一晩培養した。無血清のDMEMにより2回細胞を洗浄し、この培地に置き換えた。試験試料であるアピシン及びローヤルゼリーをDMEMに溶解後、フィルターろ過した。アピシンは、培養液中の濃度が20μg/mL,100μg/mL,300μg/mLとなるように添加し、ローヤルゼリーは、固形分濃度が100μg/mLとなるように添加した。また、繊維芽細胞のコラーゲン産生の際に還元剤として必須であるビタミンC配糖体(AA−2G、Hayashibara Biochemical Laboratories社製)を250μMの濃度で各試験試料と同時に添加した。ビタミンC配糖体を添加しないものをコントロール群とした。また、ビタミンC配糖体のみを添加し、各試験試料を添加しなかったものを0μg/mL群とする。各試験試料を添加して96時間後に細胞生存率及びコラーゲン産生量を測定した。細胞生存率はCell Counting kit-8(WST-8)(Dojin Kagaku社製)を用いて細胞内脱水素酵素により還元され生成したホルマザン量から算出した。各試験試料の細胞生存率はコントロールを100%とした場合の値(%)として求めた。ホルマザンは492nmにおける紫外吸収により測定した。コラーゲン産生量はProcollagen type I C-peptide(PIP)EIA Kit(Takara社製)を用いて細胞培養上清中に分泌されたI型コラーゲン量を定量した。PIP EIA kitは、I型プロコラーゲンC末端プロペプチド(PIP)に特異的なモノクローナル抗体を用いて発色させ、450nmにおける紫外吸収により測定した。各試験試料のコラーゲン産生量はコントロールを100%とした場合の値(%)として求めた。細胞生存率の結果を図1に、コラーゲン産生量の結果を図2に示す。尚、実験結果はすべて平均±標準偏差で表し、危険率5%以下を有意とした。統計学的解析は分散分析法(Dunnet法)により行った。
【0040】
(4)結果
アピシンを添加して、1日目から5日目まで継時的に繊維芽細胞増殖作用を検討した結果、アピシン添加群は1日目から対照群と比較して増殖傾向にあり、4日目において最も対照群との差が認められた(データ不添付)。このことから、被検サンプル添加後4日目の細胞生存率及びコラーゲン産生量を測定した。
【0041】
図1に示されるように、繊維芽細胞の増殖に関して、ビタミンC配糖体を添加しなかったコントロール群と各試験試料を添加せず、ビタミンC配糖体のみを添加した0μg/mL群の結果に差は認められなかった。ビタミンC配糖体の存在下でアピシン100〜300μg/mLの添加により有意な細胞増殖促進作用が認められた。アピシン300μg/mLの添加によりビタミンC配糖体のみを添加した0μg/mL群と比較して約1.3倍の増加が認められた。ローヤルゼリー100μg/mL投与群では繊維芽細胞増殖作用は認められなかった。
【0042】
図2に示されるように、コラーゲン産生に関し、各試験試料を添加せず、ビタミンC配糖体のみを添加した0μg/mL群は、ビタミンC配糖体を添加しなかったコントロール群と比べて、約1.6倍のコラーゲン産生量の増加が認められた。ビタミンC配糖体の存在下でアピシンの添加によりコラーゲン産生量が濃度依存的に増加する傾向を示すことが確認された(p値<0.1)。ローヤルゼリー100μg/mL投与群ではコラーゲン産生はビタミンC配糖体のみを添加した0μg/mL群と比較し、促進する傾向を示すことが確認された(p値<0.1)。
【0043】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。(イ)ローヤルゼリー中に含有されるアピシンの濃度よりも高い濃度で投与される前記皮膚繊維芽細胞増殖促進剤及び皮膚コラーゲン産生促進剤。(ロ)アピシンを有効成分とする皮膚創傷治癒促進剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アピシンを有効成分として含有することを特徴とする皮膚繊維芽細胞増殖促進剤。
【請求項2】
前記アピシンは、ローヤルゼリーから液体クロマトグラフィーを用いて分離されたものであることを特徴とする請求項1に記載の皮膚繊維芽細胞増殖促進剤。
【請求項3】
アピシンを有効成分として含有することを特徴とする皮膚コラーゲン産生促進剤。
【請求項4】
前記アピシンは、ローヤルゼリーから液体クロマトグラフィーを用いて分離されたものであることを特徴とする請求項3に記載の皮膚コラーゲン産生促進剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−56890(P2012−56890A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202061(P2010−202061)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】