説明

皮革印刷物

【課題】従来の皮革印刷物に比べ、製造工程が簡単で、しかも積層物全体の厚みが増して柔軟性が不足するというような問題が発生しない皮革印刷物を提供する。
【解決手段】皮革と;前記皮革表面上に形成された、カチオン性脂肪酸縮合物およびバインダー樹脂を含むベースコート層と;前記ベースコート層上に形成されたトップコート層と;を含み、前記ベースコート層上にインク受容層を設けることなく紫外線硬化型インクによる画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革表面に印刷画像が形成された皮革印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面に意匠を付与した皮革の需要が高まっており、印刷による画像が形成された皮革着色物の開発も進められている。たとえば、アニオン性のベースコート層上に、印刷画像を定着させるためのカチオン性のインク受容層を設け、その上にトップコート層を設けた皮革着色物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−31467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記公知の皮革着色物は、皮革表面に、ベースコート層、インク受容層、およびトップコート層の少なくとも3層が設けられた構成であるため、製造工程が複雑になるとともに、積層物全体の厚みが増して柔軟性が不足するという問題がある。
そこで本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、皮革と;前記皮革表面上に形成された、カチオン性脂肪酸縮合物およびバインダー樹脂を含むベースコート層と;前記ベースコート層上に形成されたトップコート層と;を含み、前記ベースコート層上にインク受容層を設けることなく紫外線硬化型インクによる画像が形成されていることを特徴とする皮革印刷物に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、ベースコート層にカチオン性脂肪酸縮合物が含まれている。この構成により、紫外線硬化型インクにより形成された画像のベースコート層への密着性が良好となるため、ベースコート層上にインク受容層を設ける必要性がない。その結果、層構成が単純化されて生産性が向上されるとともに、ベースコート層およびトップコート層を含む積層物(膜)全体の厚みを薄くすることもでき、皮革への追従性を高め、さらに、皮革本来の風合いを保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
用いられる皮革は、特に種類等が限定されることはなく、天然皮革でも人工皮革でも、いずれであってもよい。天然皮革の場合は、表面バフ処理などの画像形成以外の任意の処理が施されていてもよい。
天然皮革を製造する工程は、皮から革として不要な組織や化学的作用および物理的・機械的処理によって除去するための準備工程、クロム鞣剤や植物タンニンなどを用いて「皮」を「革」に不可逆的に変えるなめし工程、色付けや風合いを付与する再鞣・染色・加脂工程、革表面を平坦にし、革と薬品の結合強化、乾燥、柔軟性の調整等を行なう仕上げ準備工程に分けられる。
これらの工程において、個々の条件および工程の組み合わせなどには自由度があり、各工程で行なう操作自体は、ほぼ定まっており、公知の工程である。
【0008】
ベースコート層は、皮革塗膜形成層の中で最も厚みのある層であり、皮革表面の隠蔽効果が最も高いことが特徴である。さらにベースコート層は、皮革表面の凹凸を平滑にし、表面を均一化する働きがあり、型押し加工を行なう際の型付性の向上および次塗装工程時に起こる吸い込み等による色むらの発生を軽減する働きもある。
このベースコート層において、ウレタン樹脂やアクリル樹脂が塗膜形成の主成分となり、必要に応じて、助剤や架橋剤を加えても良い。
【0009】
カチオン性脂肪酸縮合物は、カチオン性官能基として4級アミノ基を含む化合物と脂肪酸との縮合物であり、たとえば炭素数8〜20程度の高級脂肪酸とポリアミンとの縮合物が挙げられる。高級脂肪酸は、高級脂肪酸エステルであってもよく、各種油脂を用いることができる。動物油脂としては、たとえば、豚脂、牛脂、乳脂、いか油、いわし油、まっこう鯨油等が挙げられ、植物油脂としては、たとえば、あまに油、オリーブ油、ごま油、大豆油、なたね油、パーム油、パーム核油、ひまし油、綿実油、やし油等が挙げられる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等が挙げられる。
カチオン性脂肪酸縮合物を構成するこれらの脂肪酸およびアミン成分は、それぞれが複数種含まれていてもよいし、異なる構成の複数種のカチオン性脂肪酸縮合物を用いることもできる。
【0010】
カチオン性脂肪酸縮合物は、ベースコート層中に、画像の密着性向上と型押し時の型板との剥離を補助する観点から5質量%以上含まれていることが好ましく、塗装間の層間密着の観点から15質量%以下程度含まれていることが好ましい。
【0011】
バインダー樹脂としては、特に限定されず、たとえば(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、(メタ)アクリル−酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、ブタジエン−(メタ)アクリレート系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリウレタン等を好ましく用いることができる。これらの樹脂は、複数種を組み合わせて使用してもよい。環境保護の観点から、ベースコート層形成に際し水を溶剤とした組成物(ベースコート層形成用組成物)とすることが好ましいため、バインダー樹脂は、水溶性樹脂または水分散性樹脂であることが好ましい。
なかでも、生産性の観点から硬化性(重合性)樹脂を用いることが好ましく、さらに皮革の伸びに追従できる伸びと柔軟性を確保して耐揉み性および耐屈曲性を向上させる観点から、ウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、アクリル樹脂を用いることも好ましい。
【0012】
ウレタン樹脂は、市販品を使用することができ、たとえば好ましい一例として、BASF社製FINISH PFM、FINISH PUMN、MATTING MA、FINISH SUSI、ASTACIN FINISH PW TF、NOVOMATT GG;クラリアント社製MELIO RESIN A-946、MELIO RESIN PROMUL 95.A、DP-2055、AQUALEN TOP D-2018.A;ランクセス社製FINISH BB、FINISH LB、51UD、61UD、85UD、BOTTOM DLV、BOTTOM CTR;(株)トウペ製H-58、H-59、H59-5、ウレタン1、ウレタン2、トアタンA-2;DIC(株)製UB-1802、UB-1803、UB-1450、UB-1770、UB-1804、UB-1650F;ユニオンペイント(株)製水性クリヤー、水性マットクリヤーなどを挙げることができる。
アクリル樹脂も、ランクセス社製SB300、HYDRHOLAC CR-15、HYDRHOLAC AD-1、OPTI-MATT A-1000、BASF社製LEPTON ULTRASOFT NTなどの市販品を好ましく使用できる。さらに、スタール社製RH-6677;中央理化工業(株)製SU-U0603、SU-U0505などのアクリル/ウレタン樹脂を使用することも好ましい。
これらのバインダー樹脂は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
上記のバインダー樹脂は、必要に応じて架橋剤と共に用いることも可能である。この場合、使用する樹脂に適した架橋剤を適宜選択して配合すればよく、その種類および量は特に限定はされない。
バインダー樹脂(架橋剤を含む場合は架橋剤も含めた量)は、ベースコート層中に、生産性の観点から40質量%以上含まれていることが好ましく、65質量%以下程度含まれていることが好ましい。
【0014】
ベースコート層は、その表面に、紫外線硬化型インク(UVインク)を用いて形成された任意の画像を備える。この画像は、ベースコート層上に印刷層(画像層)を形成する。
UVインクは、特に限定されないが、インクジェット記録法により印刷できるインクであることが好ましい。このUVインクとしては、紫外線の照射によりビヒクルが重合するタイプであればよく、公知のインクを用いることができる。たとえば、顔料等の着色剤;ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等の光重合性オリゴマー;単官能アクリレート、多官能アクリレート等の光重合性モノマー(反応性希釈剤);および光重合開始剤を含む組成を例示できるが、これに限定されることはない。
【0015】
より詳細には、たとえば、着色剤1〜30質量%、分子量が4000以上であり1分子中に2〜3個のアクリロイル基またはメタアクリロイル基を有するウレタンアクリレート5〜20質量%、反応性希釈剤10〜70質量%、および紫外線重合開始剤1〜15質量%を含むインクを好ましい一実施形態として挙げることができる。さらに、フタル酸ジエステル、脂肪族二塩基酸エステル等の可塑剤を含むことも好ましい。
【0016】
好ましく使用できるウレタンアクリレートとしては、たとえば、日本合成化学工業株式会社製UV−3200B、UV−2000B、UV−3000B、UV−3700B;ダイセルサイテック株式会社製EBECRYL8804;新中村化学工業株式会社製NKオリゴU−200AX、U−340A;東亞合成株式会社製アロニックスM−1310;サートマー・ジャパン株式会社製CN959、CN961、CN962、CN965、CN966、CN973、CN996、CN9001、CN9002、CN9004、CN9009、CN9014、CN9178、CN9782、CN9893等の市販品が挙げられる。前記の他、モノマー希釈タイプとして市販されているウレタンアクリレートも使用可能である。
これらのウレタンアクリレートは、それぞれ単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
インクは、ベースコート層のバインダー樹脂を溶解できる組成であることが望ましい。それにより、形成される画像のベースコート層への密着性がより良好なものとなる。換言すると、ベースコート層に含まれるバインダー樹脂は、UVインクに溶解できるものであることが好ましい。
バインダー樹脂がインクに溶解できるか否かは、次のようにして評価する。すなわち、基材(PET)フィルム上にNo.4のバーコーターでベースコート層形成用組成物を塗布後、80℃で10分間乾燥して硬化塗膜を作成する。得られた塗膜を基材フィルムから剥がし、その3gを3cm角に切断し、25℃でインク10gに入れて、室温で10分間攪拌する。塗膜が0.3g以上溶解するものを、バインダー樹脂がインクに溶解すると判断した。本願発明の構成においては、この溶解特性を備えることにより、画像の密着性が格段に向上する。一方、この塗膜の溶解性が高すぎると、インクの硬化性が不充分となり、皮膜の剥がれや割れが生じる恐れがあるため、塗膜の溶解は2.5g以下であることが好ましい。
【0018】
上記バインダー樹脂とインクとの溶解性の観点から、たとえばバインダー樹脂に極性の高い官能基が含まれている場合は、エチレンオキサイド鎖またはプロピレンオキサイド鎖等のアルキレンオキサイド骨格を有するアクリレートを含むインクを用いることが好ましく、反対にバインダー樹脂の極性が低い場合は、アルキレン鎖骨格を有するアクリレートを含むインクを選択することが好ましい。
【0019】
トップコート層は、ベースコート層上に形成される層であり、塗膜表面に強度を付与して耐摩耗性を確保し、表面の触感の付与および艶等の外観を調整するために用いられる。このトップコート層は、ベースコート層上に直接形成される場合と、任意の層(たとえば、後述するミドルコート層)を介してベースコート層上に形成される場合とがある。
【0020】
トップコート層は、上記ベースコート層と同様にバインダー樹脂を含み、上記ベースコート層用として例示した樹脂と、用途によっては同様の種類の樹脂を好ましく使用できる。ベースコート層上に形成された画像の視認性を高めるため、トップコート層は透明であることが好ましい。
【0021】
ベースコート層およびトップコート層は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、各種添加剤を任意に含むことができる。たとえば、充填剤、着色剤(顔料等)、レベリング剤、増粘剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤などが挙げられる。トップコート層には、マット剤や艶消し剤を添加して、光の反射を制御し表面の艶を調整することができる。
【0022】
ベースコート層およびトップコート層は、それぞれの層形成用組成物を調製し、それを塗布することで好ましく形成できる。各層形成用組成物は、水溶液として調製することが、スプレー塗装またはロール塗装等の塗装方法を用いた際の生産性の観点および環境保護の観点から好ましい。
【0023】
皮革印刷物の製造方法は、皮革表面にベースコート層を形成する工程;ベースコート層表面に紫外線硬化型インクを用いて画像(印刷層)を形成する工程;画像を備えたベースコート層上にさらにトップコート層を形成する工程;を含むことができる。画像形成工程は、任意の印刷機を用いてインクジェット記録法により行なわれることが好ましい。
【0024】
ベースコート層およびトップコート層の形成方法(塗布方法)は、特に限定されず、ロール塗装またはスプレー塗装など、公知の方法により行なわれる。塗装後は乾燥処理を行なうことが好ましく、たとえば80℃以上の熱風乾燥により好ましく実施できる。
ベースコート層をスプレー塗装またはロール塗装で形成した後は、型押し(プレス処理)をして表面にシボ付けすることが好ましい。ただし、型押し(プレス処理)はトップコート層を形成した後に行ってもよい。
【0025】
皮革印刷物は、上記ベースコート層とトップコート層以外の1以上の層を含む構成であってもよい。たとえば、両者の中間に塗膜物性の強化等の目的でミドルコート層を設けてもよいし、トップコート層上にさらに機能性付与または塗膜耐久性向上の目的で第2トップコート層を設けてもよい。ミドルコート層および第2トップコート層は、たとえば、トップコート層と同様の種類の樹脂や各種添加剤を任意に含むものであることが好ましい。
【0026】
ベースコート層は、乾燥後の塗布量が100〜120g/m程度となるように形成されることが好ましく、膜厚は用途によって自由に変えることができるが、一般的に5〜35μm(乾燥後)程度であることが好ましい。しかし、塗布量も膜厚も、これらの好ましい範囲に限定されることはない。
【0027】
トップコート層(および任意でミドルコート層を設ける場合のミドルコート層または第2トップコート層)は、乾燥後の塗布量が20〜50g/m程度となるように形成されることが好ましく、乾燥後の膜厚は、5〜15μm程度であることが好ましいが、革の用途によってはいずれもこの好ましい範囲に限定されることはない。
皮革表面に形成される積層物(任意に形成される層も含む)全体の膜厚(乾燥後)は、30〜70μm程度であることが好ましい。
【0028】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、「質量%」を単に「%」、「質量部」を単に「部」と記す。
【実施例】
【0029】
(1)インクの調製
表1に示した組成に従い、各成分を高速撹拌機を用いて充分に混合し、各UVインクを調製した。
使用した成分の詳細は次のとおりである。
顔料:カーボンブラック(三菱化学(株)製MA11)
顔料分散剤:ソルスパース24000(ノヴェオン社製)
多官能モノマー(1):1,9−ノナンジオールジアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレート、1,9−NDA)
多官能モノマー(2):1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(共栄社化学(株)製)
多官能モノマー(3):ポリエチレングリコールジアクリレート(第一工業製薬(株)製PE−300)
多官能モノマー(4):PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート(第一工業製薬(株)製NPG−2PO)
多官能モノマー(5):ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬(株)製MANDA)
単官能モノマー:イソボニルアクリレート(共栄社化学(株)製ライトアクリレート、IB−XA)
オリゴマー:ウレタンアクリレート(日本合成(株)製UV3000B)
重合開始剤:イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ(株))
増感剤(1):日本化薬(株)製DETX−S
増感剤(2):日本化薬(株)製EPA
重合禁止剤:和光純薬工業(株)製Q−1301
【0030】
【表1】

【0031】
(2)ベースコート層形成用組成物の調製
表2に示すように、顔料(クラリアント社製Neosan 2000 White:92.32部、Neosan 2000 Black:0.82部、Neosan 2000 Yellow 01:6.58部、Neosan 2000 Bordeaux:0.25部、Neosan 2000 Blue:0.03部)合計100部、ウレタン樹脂(1)(クラリアント社製 Melio Resin A-946 200部)およびウレタン樹脂(2)(クラリアント社製Melio Resin Promul 95.A 300部)合計500部、イソシアネート架橋剤(クラリアント社製Aquaren EP-70)10部、カチオン性脂肪酸縮合物(1)(クラリアント社製 Melio Ground BG)50部、および水200部を混合して、ベースコート層形成用組成物(1)を調製した。
カチオン性脂肪酸縮合物(1)を(2)(クラリアント社製 Melio Ground K)50部に変更して、上記同様に、他のカチオン性脂肪酸縮合物を含むベースコート層形成用組成物(2)を調製した。
【0032】
比較例用として、上記顔料100部、上記ウレタン樹脂(1)および(2)合計500部、上記イソシアネート架橋剤10部、および水200部を混合して、カチオン性脂肪酸縮合物を含まないベースコート層形成用組成物(3)を調製した。
【0033】
(3)トップコート層形成用組成物の調製
ウレタン樹脂550部(クラリアント社製Aqualen Top D-2018.A:250部、同社製Melio Resin A-946:100部、同社製Melio Promul 95.A:200部)、イソシアネート架橋剤(クラリアント社製Aquaren IW80)70部、助剤(クラリアント社製Melio WF-5233)70部、レベリング剤(クラリアント社製Melio LV-03)60部、および水250部を混合して、トップコート層形成用組成物を調製した。
【0034】
(4)サンプルの形成と評価
<溶解性の評価方法>
PETフィルム上にNo.4のバーコーターでベースコート層形成用組成物を塗布後、80℃で10分間乾燥して塗膜を作成した。得られた塗膜を基材フィルムから剥がし、その3gを25℃でインク10gに入れて、室温で10分間攪拌した。得られた攪拌物を8μmのフィルターにかけ、フィルター上の固形物の重量を測定して、溶解した塗膜量を算出した。その結果、溶解した塗膜量が0.3g以上2.5g以下のものをA、0.3g未満のものをB、2.5gを超えて溶解したものをCとして評価した。
【0035】
<密着性の評価方法>
天然皮革上に上記ベースコート形成用組成物をスプレー塗装後、80℃で10分間乾燥し、さらに常温で3日間乾燥させてベースコート層(厚み20〜40μm)を形成した。得られたベースコート層上に、上記UVインクを用いて、1mm×1mmの正方形を1mm間隔で5×5箇所(5マス×5マス)印字し、その後、アイグラフィックス社のメタルハライドランプを用いて130mJ/cmの照射強度で紫外線照射を行ない、上記印刷面のインクを硬化させた。その後、印面にセロテープ(登録商標)を指圧にて圧着させ、45度の剥離角度で剥離させた時の状態を目視により観察し、以下のように評価した。
A:マスの剥れなし
B:剥れが5マス未満
C:剥れが5マス以上
【0036】
<耐揉み試験方法>
天然皮革上に上記ベースコート層形成用組成物をスプレー塗装後、80℃で10分間乾燥し、さらに常温で3日間乾燥させてベースコート層(厚み20〜40μm)を形成した。得られたベースコート層上に、上記トップコート形成用組成物をスプレー塗装後、80℃で10分間乾燥し、さらに常温で3日間乾燥させてトップコート層(厚み5〜15μm)を形成し、試験用サンプルとした。
【0037】
耐揉み試験は、JIS L1096に準じて行なった。すなわち、2枚のサンプルを、その層形成面同士が内側になるように重ねて、掴み間隔30mmで1対の掴み具で掴み、この30mmの間隔から掴み具の互いの表面が接触するまで徐々に狭め、接触した時点で加重を9.8Nになるまで加えた。その後、往復速度120回/分、移動距離±25mmで2000回の揉み試験を行なった。
【0038】
試験後の膜の柔軟性、割れ、および剥がれ(内部)の有無を次の基準に従って評価した。すなわち、膜の柔軟性は、目視により塗膜に異常が無いものをA、異常が認められるものをBとした。膜の割れは、目視により割れが見られないものをA、5mm以内の割れが1〜5本認められるものをB、B以上の割れが認められる(5mm以上の割れが認められる、または、5mm以内の割れが6本以上認められる)ものをCとした。膜の剥がれについては、断面観察を行ない、剥離が無く表面の白化も無いものをA、剥離は無いが表面の白化が見られるものをB、剥離が認められるものをCとして評価した。
得られた結果を、表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示されるように、カチオン性脂肪酸縮合物を含むベースコート層と表1のインクとを用いた実施例では、画像の密着性および耐揉み性に優れた皮革印刷物を形成することができた。
【0041】
より詳細に説明すると、カチオン性脂肪酸縮合物を含むベースコート層形成用組成物(1)により形成されたベースコート層上に表1のUVインクで画像を形成した実施例1〜5は、密着性試験についてはマスの剥れがないためA、耐揉み試験については、膜の柔軟性は塗膜の異常が無くA、膜の割れは割れが見られずA、膜の剥がれは剥離が無く表面の白化も無くAと、画像の密着性および耐揉み性に優れた皮革印刷物を形成することができた。
また、ベースコート層形成用組成物(1)とは異なるカチオン性脂肪酸縮合物を含むベースコート層形成用組成物(2)により形成されたベースコート層上に表1のインク(2)で画像を形成した実施例6は、実施例1〜5と同様で画像の密着性および耐揉み性に優れた皮革印刷物を形成することができた。
【0042】
しかし、カチオン性脂肪酸縮合物を含まないベースコート層形成用組成物(3)により形成されたベースコート層上に表1のインク(1)または(2)で画像を形成した比較例1および2は、密着性試験については剥れが5マス以上ありC、耐揉み試験については、膜の柔軟性は塗膜の異常が無いA又は異常が認められるB、膜の割れは5mm以内の割れが1〜5本認められるB又はB以上の割れが認められるC、膜の剥がれは剥離が認められるCと評価され、画像の密着性および耐揉み性の悪い皮革印刷物となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮革と、
前記皮革表面上に形成された、カチオン性脂肪酸縮合物およびバインダー樹脂を含むベースコート層と、
前記ベースコート層上に形成されたトップコート層と、
を含み、前記ベースコート層上にインク受容層を設けることなく紫外線硬化型インクによる画像が形成されていることを特徴とする皮革印刷物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂が、ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂を含む、請求項1記載の皮革印刷物。
【請求項3】
前記紫外線硬化型インクが、前記バインダー樹脂を溶解するものである、請求項1または2記載の皮革印刷物。
【請求項4】
前記紫外線硬化型インクが、着色剤1〜30質量%、分子量が4000以上であり1分子中に2〜3個のアクリロイル基またはメタアクリロイル基を有するウレタンアクリレート5〜20質量%、反応性希釈剤10〜70質量%、および紫外線重合開始剤1〜15質量%を含むインクである、請求項1〜3のいずれか1項記載の皮革印刷物。

【公開番号】特開2010−185054(P2010−185054A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31806(P2009−31806)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】