説明

皿ばね及びその製造方法

【課題】 帯材から皿ばねを成形する。
【解決手段】 帯材10をリング状に曲げ、端部12と端部14を突き合わせる。帯材10の短手方向に沿って、電子ビーム26をデフォーカスした状態で、溶接部位20に照射する。次に、電子ビーム26の焦点28を溶接溶融部25に合わせ、電子ビーム溶接を実行する。次いで、帯材10の短手方向に沿って、電子ビーム26をデフォーカスした状態で溶接部位20に照射し、さらに冷却する。これによって、溶接溶融部のデンドライト二次アーム間隔の平均値を7μm乃至30μmの範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皿ばね及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皿ばねの製造方法としては、鋼製の平板材をプレス機でリング状に打ち抜いて成形する方法(以下、打抜き法と呼ぶ)が知られている。打抜き法では、平板材の多くの部分が廃材となり、材料歩留まりが悪い。このため、材料歩留まりのよい皿ばねの製造方法が開発されている(例えば、特許文献1〜5)。この製造方法では、鋼製の帯材をリング状に曲げ成形した後に切断し、その帯材の両端を突き合わせて溶接することによって接合し、切頭円錘筒形状に成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−106277号公報
【特許文献2】特開平8−135706号公報
【特許文献3】特開2001−225112号公報
【特許文献4】特開2003−329072号公報
【特許文献5】特開2004−202499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に皿ばねに使われるような鋼材(高炭素鋼、中炭素鋼、特殊鋼等)は、溶接時に割れが生じやすい。本願発明者らは、上記の文献に記載の製造方法により皿ばねを製造したところ、溶接部位での割れが高確率で発生した。また、割れが発生しなかった場合でも、溶接部位の接合強度が弱く、皿ばねとして要求される耐疲労性、引張強度等の性能を有していないことが判明した。従って、上記の文献に記載の技術のみでは製品としての皿ばねの品質を確保することができないため、実用化に至っていない。
本願は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、帯材から皿ばねを製造する技術において、溶接部位における割れの発生を防止すると共に製品として十分な品質を有する皿ばねを製造することが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、上述した実情に鑑みて、溶接部位の割れの発生の原因を検討した。その結果、溶接時の急熱や急冷によって溶接部位が硬化することが、溶接部位の割れの発生の原因となっていることを突き止めた。そこで、溶接時の温度プロファイルを制御することによって、溶接部位の割れを起こさず、かつ、製品として十分な品質を有する皿ばねを製造する方法を見出した。
【0006】
本明細書によって開示される皿ばねの製造方法は、帯材を曲げ成形することでリング状に成形する成形工程と、リング状に成形した帯材の両端を電子ビーム溶接により接合する溶接工程と、溶接工程において生じる溶接溶融部を冷却する冷却工程とによって構成される。冷却工程では、溶接溶融部の凝固組織のデンドライト二次アーム間隔(以下、DASIIと呼ぶ)の平均値が7μm乃至30μmとなるように冷却する。
【0007】
上記の構成によると、帯材の両端を電子ビーム溶接することで、リング状に成形された帯材の両端が接合される。そして、電子ビーム溶接によって生じる溶接溶融部は、その凝固組織に生成されるデンドライト組織のDASIIの平均値が7μm乃至30μmとなるように冷却される。すなわち、溶接溶融部が緩やかに冷却される。これによって、溶接溶融部の割れの発生を防ぐことができ、かつ、製品として十分な品質を有する皿ばねを得ることができる。
【0008】
さらに、本明細書は、製品として十分な品質を有する「リング状に曲げ成形した帯材の両端が溶接されている皿ばね」を提供する。この皿ばねは、溶接溶融部の凝固組織のデンドライト二次アーム間隔の平均値が7μm乃至30μmとなっている。なお、溶接溶融部とは、溶接部位のうち、帯材の両端部が溶融して相互に接合されている部位をいう。
【0009】
上記の皿ばねは、溶接溶融部のDASIIの平均値が7μm乃至30μmであることによって、割れの防止を確保しながら、製品として十分な品質を有することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施例の皿ばねの製造方法を示す。
【図2】電子ビームによる溶接部位の予熱と後熱を説明するための図。
【図3】溶接溶融部の拡大写真を示す。
【図4】溶接溶融部のDASIIを模式的に示す。
【図5】予熱及び後熱の有無とDASIIの変化を示す。
【図6】冷却速度とDASIIの変化を示す。
【図7】本実施例の皿ばねの製造に用いた電子ビーム溶接の機械的特性試験に用いられたテストピースを示す。
【図8】四点曲げ疲労試験の方法を示す。
【図9】四点曲げ疲労試験の結果を示す。
【図10】引張強度試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここでは、以下の実施例に記載の技術の一部を列挙しておく。
(形態1)成形工程後であって溶接工程前に、溶接部位に電子ビームによって予熱を与える予熱工程を実行してもよい。
【0012】
(形態2)冷却工程では、溶接部に電子ビームによって後熱を与える後熱処理を実行してもよい。
【0013】
(形態3)冷却工程の前、もしくは冷却工程の間に焼きなまし工程を実行してもよい。
【0014】
(形態4)予熱及び後熱のための電子ビームの照射範囲は溶接溶融部よりも広い範囲の溶接部位であってもよい。
【0015】
(形態5)予熱及び後熱のための電子ビームの照射は、帯材からデフォーカスすることによって照射してもよい。また、予熱及び後熱のための電子ビームの照射は、電子ビームをオシレーションしながら照射してもよい。
【0016】
(形態6)帯材の端部の形状は互いに整合するように、平面であってもよいし、凹凸を有していてもよいし、傾斜を有していてもよいし、カーブを有していてもよい。また、リング状に成形した帯材の端部同士は、同一平面上であってもよいし、重なっていてもよい。
【0017】
(形態7)冷却工程における冷却方法は、空冷であってもよいし、炉冷であってもよいし、冷却装置による冷却であってもよい。
【0018】
(形態8)皿ばねの外径をDとし、皿ばねの幅をbとすると、D/b≧8となることが好ましい。
【実施例1】
【0019】
本実施例で開示される皿ばねの製造方法を、図1と図2を用いて説明する。図1に示す帯材10は、皿ばねの素形材である。帯材10は例えば、SK85(SK5),SK85M(SK5M)、SWRH82A等の公知の鋼材を使用することができる。鋼材は、長尺の平板状素材がロール状に巻かれている。皿ばねを製造するためには、成形装置による成形工程と、溶接装置による溶接工程と、プレス装置によるプレス成形工程が実行される。以下、各工程について説明する。
【0020】
(成形工程)
図1に示すように、成形装置はローラ22,24を備えている。ローラ22,24は互いに独立して図示の矢印方向に回転している。なお、ローラ22,24以外にも図示しない複数のローラが設置されている。ローラ22,24の下流には曲げガイド11が配されている。曲げガイド11は所定の角度で傾斜している。さらに曲げガイド11の下流近傍には図示しないカッターが配されている。
【0021】
帯材10はローラ22,24の回転によって曲げガイド11に送り出される。曲げガイド11が所定の角度で傾斜しているため、曲げガイド11に送り出された帯材10には曲げ加工が施される。これによって、帯材10がリング状に成形される。図1では、帯材10の長手方向の側面の一つは、リング状に成形されることによって外周側の縁18になる。帯材10の長手方向のもう一方の側面は、リング状に成形されることによって内周側の縁16になる。上記の所定の角度は、ばね製品の所望とする径に基づいて決定される。
【0022】
帯材10が、所定の長さまで送り出されて曲げガイド11を通過すると、帯材10は成形装置に配されたカッターによって切断される。このときの帯材10の切断面は、図1では端部14として示される。次いで、端部12と端部14を互いに突き合わせる。上記の所定の長さは、上記の所定の角度と同様に、ばね製品の所望とする径に基づいて決定される。なお、リング状に成形された部材の外径をDとし、皿ばねの幅をbとすると、D/b≧8となることが好ましい。D/bが8未満となるとリング状への成形が困難となるためである。
【0023】
また、端部12と端部14は、両者が接合可能な形状となるのであれば、図1に示す形状に限られない。たとえば、端部12と端部14のそれぞれの端面は、互いに整合するように、凹凸や、傾斜や、カーブを有していても良い。溶接溶融部の形状が複雑な場合、皿ばねの使用に伴う劣化によって万一溶接溶融部に割れが発生しても、溶接距離が長いために破断するまでの割れの進行を緩やかすることができる。また、端部12と端部14は、互いに同一平面上とならなくても、一部が重なっていてもよい。両端部が重なっていても、電子ビーム溶接によって一体となるためである。また、電子ビーム溶接によって溶接部位に膨らみが生じても、後述のバリ取り工程のときに平坦にすることができる。
【0024】
(溶接工程)
帯材10の両端を溶接する溶接工程を、図2を用いて説明する。図2に示すように、本実施例の電子ビーム溶接装置は、帯材10の溶接部位に電子ビーム26の照射が可能となっている。電子ビーム26の焦点を溶接部位に合わせることによって、帯材10を溶融させて溶接を行うことができる。また、電子ビーム26の焦点をデフォーカスさせることによって、帯材10を溶融させることなく加熱することができる。また、電子ビーム26は、帯材10の長手方向、または短手方向に自在にオシレーションでき、また、帯材10に対して回転や、スライドをすることができる。電子ビーム溶接装置には、公知の電子ビーム溶接装置を使用することができる。なお、帯材10の溶接には、電子ビーム溶接以外にも、アーク溶接やスポット溶接などが可能であるが、電子ビーム溶接は真空中で行うため、溶接部位の酸化が生じない。また、ビームのエネルギー密度が非常に高いため、溶接による熱影響が生じる部位が非常に狭く、熱歪の極めて小さな溶接が可能である。さらに、電子ビームのデフォーカスとオシレーションを制御することによって、後述する電子ビームによる溶接部位の予熱、及び後熱を、容易且つ瞬時に行うことができる。
【0025】
上述した溶接装置により溶接を行うためには、まず、図2で示すように、リング状に成形した帯材10を、帯材10の端部12と端部14を突き合わせた状態で固定し、溶接部位20に電子ビーム26が照射されるように位置調整を行う。なお、帯材10の両端を溶接する前に、溶接部位20が予熱される。溶接部位20を予熱することによって、帯材10の急激な加熱が抑制され、溶接の接合強度を増大させることができる。
【0026】
本実施例では、次に説明する予熱処理を実行する。予熱処理では、電子ビーム26の焦点28を帯材10からデフォーカスさせた状態で、電子ビーム26を溶接部位20に照射する。次いで、電子ビーム26を帯材10の長手方向にオシレーションしながら、帯材10の短手方向にスライドして、溶接部位20に照射する。これによって、帯材10の溶接溶融部25を中心に、溶接部位20全体が予熱される。予熱は、溶接溶融部25付近の温度が400℃程度となることが好ましい。例えば、帯材10の短手方向の幅21が13.5mm、厚さが2.7mmのSK85を使用した場合には、電子ビーム26による予熱範囲(溶接部位20)を10mm程度、ビーム出力(電流値20mA、電圧値60kV)、照射時間をおよそ1.5秒とすると、溶接溶融部25付近の温度が400℃となる。
【0027】
次いで、電子ビーム26の焦点28を、帯材10の溶接溶融部25に合わせて電子ビーム溶接を実行する。これによって、溶接溶融部25の鋼材が溶融し、帯材10の端部12と端部14が接合する。電子ビーム溶接の溶接条件は、皿ばねの寸法や鋼材の種類によって適宜設定することができる。例えば、上述した場合(即ち、帯材10の短手方向の幅21が13.5mm、厚さが2.7mmのSK85を使用した場合)では、電子ビーム26の照射時間がおよそ1秒、ビーム出力(電流値25mA、電圧値60kV)、照射幅が0.2mmで、溶接溶融部の幅はおよそ2mmとする。なお、電子ビーム溶接は予熱工程の直後に実行されることが好ましい。これは、溶接部位20の温度プロファイルの管理を容易にするためである。
【0028】
次いで、冷却工程では、後熱処理が実行されることが好ましい。溶接部位20を後熱することによって、溶接溶融部25の冷却速度を遅くすることができる。これによって、溶接の接合強度を増大させることができる。
【0029】
本実施例では、次に掲げる後熱処理を実行する。後熱処理では、電子ビーム26の焦点28を、帯材10からデフォーカスさせた状態で、溶接部位20に照射する。次いで、電子ビーム26を帯材10の長手方向にオシレーションしながら、帯材10の短手方向にスライドして、溶接部位20に照射する。これによって、帯材10の溶接溶融部25を中心に、溶接部位20全体が予熱される。後熱は、溶接部位20の温度が600℃程度となることが好ましい。例えば、上述した場合(即ち、帯材10の短手方向の幅21が13.5mm、厚さが2.7mmのSK85を使用した場合)では、電子ビーム26による加熱範囲(溶接部位20)を10mm程度、ビーム出力(電流値15mA、電圧値60kV)、照射時間をおよそ1.5秒とすると、溶接部位20の温度が600℃となる。なお、後熱工程は溶接の直後に実行されることが好ましい。これは、溶接部位20の温度プロファイルの管理を容易にするためである。
【0030】
引き続き冷却工程では、溶接部位20を空冷する。一般に、空冷による冷却速度は、10K/秒程度である。なお冷却工程は、温度プロファイルを管理できれば、空冷の他にも、公知の冷却装置を用いてもよいし、炉冷であってもよい。なお、加工硬化による内部の歪みを取り除くために、焼きなまし処理等の溶接後熱処理を行っても良い。また、冷却工程の後もしくは冷却工程の間に、溶接工程によって生じたバリを取るためのバリ取り工程を実行してもよい。バリ取り工程には、公知のトリミング加工を用いることができる。
【0031】
(プレス成形工程)
次いで、端部が溶接された帯材10をプレス装置によりプレス成形する。プレス装置は、円錘筒形状の成形面を有する成形用金型を備えている。成形用金型の金型面は、所定の角度で勾配を有するようにテーパー面が形成されている。なお、プレス装置は、公知のプレス加工機を使用することができる。また、打ち抜き法で使用されるプレス装置を用いることもできる。成形用金型に帯材10をセットすると、プレス装置は帯材10に所定の圧力を作用させることによって、帯材10に円錘筒形状のテーパー面を成形する。これによって、図1に示されるように、切頭円錘筒形状の皿ばね2が得られる。
【0032】
本実施例の皿ばね2の製造方法について詳しく説明した。本実施例の製造方法では、溶接の前後に予熱工程及び後熱工程を実行することによって、溶接溶融部25の急激な加熱と冷却が抑制され、溶接時の割れの発生を防ぐことができる。実際に、予熱及び後熱を施さないで電子ビーム溶接を行った場合(比較例)では、10点中4点の皿ばねに溶接部位20の割れが見られた。しかしながら、本実施例の製造方法で製造した皿ばねでは、10点とも目視レベルの割れが生じなかった。従って、帯材10の両端を溶接して皿ばねを製造する方法において、溶接の前後に溶接部位20に予熱及び後熱を施すことによって、割れが発生すること無く、皿ばね2を製造することができることが確認できた。従って、本実施例の製造方法によると、打ち抜き法よりも歩留まりの良い皿ばねを製造することができる。次に、本実施例で製造した皿ばね2の特徴について、以下に図を用いて説明する。
【0033】
図3には、本実施例で製造した皿ばね2の、溶接溶融部25の拡大写真を示す。図3に示すように、溶接溶融部25には、電子ビーム溶接後の冷却工程によって樹枝状結晶が析出した状態が見られる。図3のスケールバーは50μmを表す。図4には、図3の樹枝状結晶の形状を模式化したものを示している。樹枝状結晶は、一次枝30から枝分かれして二次枝31が伸びている。一般に、二次枝31間の距離32はデンドライト二次アーム間隔(以下、DASIIと呼ぶ)と呼ばれている。DASIIの値は冷却速度と相関があることが知られている。DASIIと冷却速度の関係式は、DASII=aV−0.3で表される。aは合金によって決まる定数であり、DASIIは冷却速度の0.3乗に逆比例することになる。例えば、冷却速度が速ければDASIIは小さい値となり、冷却速度が遅ければDASIIは大きな値となる。従って、DASIIは冷却速度に依存するため、予熱及び後熱を施した溶接とそうでない溶接とでは、DASIIは大きく異なる。本実施例で実行する予熱及び後熱とDASIIの相関について、図を用いて以下に説明する。
【0034】
図5は、帯材10に対して本実施例の電子ビーム溶接をしてから空冷したもの(図中の白□○)と、予熱及び後熱を施さないで電子ビーム溶接を行ってから空冷したもの(図中の黒■●)との、DASII(μm)の分布を示している。縦軸はDASII(μm)を表す。予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接では、DASIIはおよそ5μmとなっている(図中の黒■)。さらに、空冷後に焼きなまし等の溶接後熱処理を行った場合には、DASIIはおよそ6μmとなった(図中の黒●)。一方で、本実施例の電子ビーム溶接では、DASIIはおよそ11μmとなっている(図中の白□)。さらに、溶接後熱処理を行った場合には、DASIIはおよそ8μmとなった(図中の白○)。従って、本実施例の電子ビーム溶接と予熱・後熱を行わない電子ビーム溶接とのDASIIの境界値は、実験的に7μmとなった。
【0035】
次いで、図6を用いて、本実施例の電子ビーム溶接と予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接のDASIIと冷却速度の関係について以下に説明する。図6の縦軸はDASIIであり、横軸は冷却速度を示している。図に示すように、本実施例の電子ビーム溶接を行ったときの冷却速度V2=1.3K/秒となり、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接は10K/秒となった。従って、本実施例の冷却速度V2と比較例の冷却速度V1とは一桁オーダー異なり、明確な冷却速度の差があると言える。
【0036】
なお、冷却速度を遅くすれほどDASIIは大きくなるが、冷却速度を遅くしすぎると抗折強度が低下してしまう。したがって、冷却工程では、炉冷(空冷よりもさらに冷却速度の遅い)以上の冷却速度で冷却することが好ましい。図6には、電子ビーム溶接後に炉冷により冷却した場合のDASIIを示している。図から明らかなように、炉冷により冷却した場合の冷却速度V3は0.05K/秒であり、DASII=30μmであった。従って、DASIIは30μm以下となるように冷却することが好ましい。
【0037】
次いで、本実施例の電子ビーム溶接により接合された接合部の機械的特性について、図7乃至図10を用いて説明する。図7は、接合部の機械的特性を検査するために用いたテストピース4を示している。テストピース4は、2枚の板材の端部同士を電子ビーム溶接により接合したものであり、長手方向の長さが100mm、短手方向の長さが13.5mm、帯材厚さが2.7mmであった。接合部(溶接溶融部)125は、テストピース4の長手方向のほぼ中間位置に、短手方向に横断して形成されている。図8は4点曲げ疲労試験の模式図である。テストピース4の溶接溶融部125が座軸間36の中央に配されるように台座軸42上にテストピース4を設置し、その上部から加圧軸40をあてる。また、テストピース4の溶接溶融部125は、加圧軸間34の中央に配される。加圧軸40の上に、溶接溶融部125近傍に破断が生じるまで所定の負荷38を繰り返しかける。これにより、ばね材料としての疲れ強度を測定する。
【0038】
図9には、図8の曲げ疲労試験を、本実施例の電子ビーム溶接と、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接とで比較した結果を示す。縦軸は上記の所定の負荷38を表す応力振幅(MPa)、横軸は溶接溶融部125近傍に破断が生じるまでの上記負荷の繰り返し数(回)(対数目盛)を表す。負荷の繰り返し数が多いほど、ばね材料としての疲れ強度が高いことが示される。曲げ疲労試験には、本実施例の電子ビーム溶接と、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接のそれぞれで製造されたテストピースの各8点について、応力振幅を300〜550MPaの間で変化させて計測を行った。
【0039】
曲げ疲労試験の結果、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接では300乃至550MPaの応力振幅に対して、負荷の繰り返し数が100回乃至30000回の間で大きなバラツキを示した。応力振幅の値と負荷の繰り返し数には相関は見られなかった。負荷の繰り返し数が100〜3000の間の4点は、溶接時の割れを起点とした早期折損であると考えられ、製品とした場合に十分な耐疲労性を有するとは言えない。一方で本実施例の電子ビーム溶接では、応力振幅が550MPaのときの負荷の繰り返し数は7000回程度であり、応力振幅が300MPaのときの負荷の繰り返し数は50000回を示した。本実施例の電子ビーム溶接では、負荷の繰り返し数は6000回以上に局在しており、製品とした場合に十分な耐疲労性を有すると言える。また、本実施例の電子ビーム溶接では、応力振幅と負荷の繰り返し数には逆比例の線形な相関が見られたことから、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接よりもばね材料としての疲れ強度のバラツキが低減することができるといえる。
【0040】
次いで、溶接溶融部125の継手強度を測定するため、引張試験を行った。図10は徐冷溶接、並びに予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接で製造した皿ばね材料のテストピース4における引張試験の結果を示す。縦軸はテストピース4が破断するまでの引張荷重を示す引張強度(MPa)を表す。横軸は破断が生じるまでの上記負荷の繰り返し数(回)を表す。引張試験には、本実施例の電子ビーム溶接によって製造したテストピースの4点と、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接によって製造したテストピースの6点について継手強度を測定し、溶接部を有さない母材のままの鋼材の4点については引張強度を測定した。
【0041】
引張試験結果から、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接によって製造したテストピース4の継手強度は200乃至1450MPaの間でバラツキが見られた。一方で、本実施例の電子ビーム溶接の場合には1400乃至1500MPaに集中し、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接よりも継手強度のバラツキが低減されていることが示された。また、母材そのものの引張強度は1500MPa前後であり、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接による継手強度は、母材の引張強度と同等であるといえる。従って、引張応力に対して、溶接溶融部125が原因となって破断が生じる可能性は、およそ無いといえる。
【0042】
さらに、車両等の用途に要求される皿ばねの製品規格としてのビッカース硬さHVは、400乃至500(HV)である。このHVを引張強度に換算すると、およそ1285乃至1700MPaに相当する。従って、継手強度は1285MPa以上が必要である。しかしながら、図10に示されるように、予熱及び後熱処理を施さない電子ビーム溶接によって製造したテストピース4は、6点中4点が規格を満たしていなかったが、本実施例の電子ビーム溶接の4点すべてのテストピース4が、規格を満たすことが示される。
【0043】
以上、本実施例による皿ばね2の特徴について詳しく説明した。本実施例の皿ばねの製造方法によれば、帯材10の溶接溶融部25に割れを生じさせることなく、皿ばね2を製造することができる。さらに、本実施例の製造方法によって製造した皿ばね2は、品質を安定化することができ、かつ継手強度を向上する。また、本実施例によって製造された皿ばね2は、車両等の用途に要求される皿ばねの製品規格を満足することができる。従って、品質が安定し、且つ歩留まりの良い皿ばねを提供することができる。
【0044】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0045】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0046】
2:皿ばね、10:帯材、11:曲げガイド、12,14:端部、16:内周側の縁、18:外周側の縁、20:溶接部位、21:短手方向の幅、22,24:ローラ、25:溶接溶融部、26:電子ビーム、28:焦点、30:一次枝、31:二次枝、32:DASII

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皿ばねの製造方法であって、
帯材を曲げ成形することでリング状に成形する成形工程と、
リング状に成形した帯材の両端を電子ビーム溶接により接合する溶接工程と、
溶接工程において生じる溶接溶融部を冷却する冷却工程と、を備えており、
冷却工程では、溶接溶融部の凝固組織のデンドライト二次アーム間隔の平均値が7μm乃至30μmとなるように冷却することを特徴とする皿ばねの製造方法。
【請求項2】
リング状に曲げ成形した帯材の両端が溶接されている皿ばねであって、溶接溶融部の凝固組織のデンドライト二次アーム間隔の平均値が7μm乃至30μmであることを特徴とする皿ばね。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−21624(P2011−21624A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164605(P2009−164605)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000210986)中央発條株式会社 (173)
【Fターム(参考)】