説明

目標検出装置

【課題】重複選択に起因する目標画素の広がりの発生を適切に抑制し低SNR環境下における目標検出精度を向上させる。
【解決手段】尤度比算出部3からの尤度比に基づき現フレームの観測画像の各画素に対する加算処理順を決定する加算処理順決定部5と、現フレームの観測画像の各画素に対し、加算処理部6からの加算処理結果に基づいた選択処理を行い、選択対象が他の現フレームの観測画像画素と競合し競合する画素と同じ対象を選択する重複選択が発生する場合は、重複選択を許容するか否かを判定して選択処理を行う選択処理部7とを有し、加算処理順決定部5は、尤度比が大きい画素に対する加算処理が優先的に行われるように加算処理順を決定し、選択処理部7は、対象画素の加算処理結果としてのトラックスコアが競合画素のトラックスコアの最小値よりも大きいか、または対象画素の推移確率が競合画素の推移確率の最小値よりも大きければ、重複選択を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、観測センサにより取得された低SNR(Signal to Noise Ratio)画像中の目標、特に微小目標を検出する目標検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低SNR画像中の目標を検出する従来技術として、低SNR画像中の目標はノイズに埋もれているため1枚の画像による検出は困難であることから、連続観測された複数フレームの画像に対する加算処理を繰り返すことにより目標の検出を行う方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1では、入力画像の各画素の尤度比(画素が目標である確からしさを表す)と、事前に規定した運動モデルに基づいた1フレーム前の画素から現フレームの画素への推移確率を用いて式(1)で定義するトラックスコアSi,j(K)を算出し、目標検出を行う。
【0004】
【数1】

【0005】
式(1)に示したトラックスコアは、追尾予測結果に基づいた1フレーム前の画素から現フレームの画素への推移確率と、現フレーム画素の尤度比と、1フレーム前のトラックスコアとを、繰り返し加算処理することにより、目標が存在する位置のトラックスコアが高い値となり、低SNR画像中の目標の検出を可能としている。
【0006】
図8は、非文献文献1に示されている処理の動作概念を示したものであり、フレームKを現フレームとする。図中、フレームKの画素(i,j)に対する加算処理(トラックスコアの算出)を行う場合を例に加算処理を説明する。事前に規定した運動モデルにより、フレームKの画素(i,j)に推移できる1フレーム前(フレームK−1)の画像の画素は限られ、図8では破線で囲まれた『画素(i,j)に推移可能な範囲』に含まれる画素がフレームKの画素(i,j)に推移可能である。
【0007】
式(1)の右辺第1項は、画素(i,j)に推移可能なフレームK−1の各画素のトラックスコアと、当該画素から画素(i,j)への推移確率の和の最大値を求めている。これは、『フレームKの画素(i,j)のトラックスコアを最大にする、画素(i,j)に推移可能なフレームK−1の画素』を選択することを意味している。ここで、例えば、図8の画素(m,n)が画素(i,j)のトラックスコアを最大とする場合『画素(i,j)は画素(m,n)を選択する』と言うことにする。
【0008】
非特許文献1の方式は、上記に示した通り、事前に規定した運動モデルに基づき、現フレームの各画素が独立に自身のトラックスコアが最も高くなる1フレーム前の画素を選択することを繰り返すことで目標位置のトラックスコアを高く積み上げ、目標検出を行う。
【0009】
また、非特許文献1の手法を改善した発明として、SNRが0以下と非常に低い目標の検出を目的とした発明がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−275339号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Arnold、 S. Shaw、 H. Pasternack “Efficient Target Tracking Using Dynamic Programming”、 IEEE Trans. Aerospace and Electronic Systems、 Vol. 29、 No. 1、 pp. 44-56 (1993).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1に示されている手法は、現フレームの個々の画素が独立に自身のトラックスコアを最大にする1フレーム前の画素を選択するため、現フレームの複数の画素が1フレーム前の同一画素を選択するという状況が発生する。この状況を重複選択と呼ぶことにする。
【0013】
図9は、重複選択を模式的に示したものである。図9において、フレームKの画素A、画素B、画素CがそれぞれフレームK−1の画素Xを選択した状況を示している。非特許文献1の手法では、フレームKの各画素が、トラックスコアを最大にするフレームK−1の画素を独立に選択するため、このような状況が発生する。逆に、フレームKの1つの画素がフレームK−1の複数の画素と対応付く事は無い。
【0014】
図9に示した状況は、フレームK−1の1画素の目標がフレームKでは複数画素に広がってしまうことを示しており、加算処理が進むにつれこの広がりは拡大する。これを『目標画素の広がり』と呼ぶ。この目標画素の広がりにより、最終加算処理結果においては正確な目標位置の検出が困難になり、特に複数目標が存在する場合に判別が困難となるという問題がある。
【0015】
また、特許文献1には目標画素の広がりを解決する方式等については示されていない。
【0016】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、尤度比が高い画素に対する加算処理が優先的に行われるように加算処理順を決定し、さらに重複選択が発生する場合には、トラックスコアあるいは推移確率の値に基づき重複選択可否の判断を行うことにより、重複選択の発生を適切に抑制し、目標画素広がりを一定範囲内に抑え、目標の検出精度を向上させ、近接目標の検出を可能とする目標検出装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係る目標検出装置は、連続撮影された複数の観測画像を加算処理することにより低SNR環境下であっても目標検出を可能とする目標検出装置であって、目標の観測を行うセンサ部と、前記センサ部で観測された画像を取得する観測画像取得部と、前記観測画像取得部が取得した観測画像における各画素の尤度比を算出する尤度比算出部と、1フレーム前の観測画像の各画素から前記観測画像取得部が取得した現フレームの観測画像の各画素に目標が移動する推移確率を算出する推移確率算出部と、前記尤度比算出部により算出される現フレームの観測画素の尤度比に基づき現フレームの観測画像の各画素に対する加算処理順を決定する加算処理順決定部と、前記加算処理順決定部で決定された加算処理順に従って、現フレームの観測画像の各画素に対して、前記尤度比算出部で求めた尤度比と、前記推移確率算出部で求めた推移確率と、1フレーム前の加算処理結果とを加算して、現フレームにおける各画素の加算処理結果を求める加算処理部と、現フレームの観測画像の各画素に対して、前記加算処理部で求められた加算処理結果に基づいた選択処理を行い、選択対象が他の現フレームの観測画像画素と競合し、競合する画素と同じ対象を選択する重複選択が発生する場合は、重複選択を許容するか否かを判定し、判定結果に基づく選択処理を行う選択処理部と、現フレームの各画素が選択した1フレーム前の画素から現フレームの各画素への推移情報に基づき現フレームの各画素に目標が存在していると仮定した場合の次フレームにおける目標予測位置を算出する追尾処理部と、加算フレーム数または累積処理時間に基づいて加算処理の終了判定を行う終了判定部と、最終加算処理結果より、目標位置を検出する目標検出部とを備え、前記加算処理順決定部は、現フレームの観測画像の尤度比が大きい画素に対する加算処理が優先的に行われるように加算処理順を決定し、前記選択処理部は、重複選択の可否判定処理において、対象画素の加算処理結果としてのトラックスコアが競合画素のトラックスコアの最小値よりも大きいか、または対象画素の推移確率が競合画素の推移確率の最小値よりも大きければ、重複選択を許容することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、入力画像の尤度比の高い画素の加算処理を優先して行うことにより重複選択の可否の判定を効率的に行うことが可能となり、さらに競合画素と比較してトラックスコアか推移確率のどちらか一方が競合画素よりも勝っていれば重複選択を許容することにより、適切に重複選択を抑制することが可能となる。その結果、目標画素の広がりを抑制し低SNR環境下における目標検出精度を向上させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1における目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す加算処理順決定部5における画素抽出の例を示す図である。
【図3】図1に示す選択処理部7における重複選択可否判定の動作を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態2における目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図4における軌跡蓄積部11の最新のNフレーム分の各画素の軌跡を生成・更新・蓄積処理を説明する図である。
【図6】図4における推移確率算出部4Aの推移確率係数の算出手順を説明する図である。
【図7】この発明の実施の形態3における目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図8】非文献文献1に示されている目標検出処理の動作概念を示す図である。
【図9】非文献文献1における重複選択を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における目標検出装置の構成を示すブロック図である。図1に示す目標検出装置は、連続撮影された観測画像を加算処理することにより、低SNR環境下であっても目標の検出を可能とする目標検出装置である。図1に示す構成において、センサ部1は、定期的に一定範囲内の空間を観測し観測画像を生成する。観測画像取得部2は、センサ部1が生成した観測画像を取得する。
【0022】
尤度比算出部3は、観測画像取得部2が取得した画像における各画素の尤度比を算出し、推移確率算出部4は、想定する運動モデルに基づき、現フレームにおける加算処理対象画素(i,j)への目標の移動が可能な、1フレーム前に取得した画像の画素から画素(i,j)に目標が移動する確率(推移確率と呼ぶ)を、追尾処理部8より得られる追尾処理結果を利用して算出する。
【0023】
加算処理順決定部5は、現フレーム画素の尤度比に基づき各画素の加算処理順を決定し、加算処理部6は、加算処理順決定部5で決定した加算処理順に従って、尤度比算出部3で求めた尤度比と、推移確率算出部4で求めた推移確率と、1フレーム前の加算処理結果(トラックスコアと呼ぶ)を加算し、現フレームにおける各画素のトラックスコアを求める。
【0024】
選択処理部7は、加算処理部6における加算処理後に重複選択が発生する場合、加算処理対象画素とその競合画素のトラックスコアおよび推移確率を比較し、重複選択を許容するか否かを判断し、重複選択を許容しない場合はトラックスコアの再計算を行う。
【0025】
追尾処理部8は、1フレーム前から現フレームへの画素の推移情報より、追尾フィルタを用いて次フレームでの推移予測位置を求める。
【0026】
終了判定部9は、加算フレーム数または累積処理時間が上限に達したら処理を終了し、そうでなければ処理を観測画像取得部2に戻し、目標検出部10は、最終加算処理結果より目標位置を検出する。
【0027】
次に、図1の構成を有する目標検出装置の一連の動作について説明する。まず、センサ部1は、決められた空間を周期的に観測し観測画像を生成する。ここで、観測画像の取得単位をフレームと呼ぶ。
【0028】
観測画像取得部2は、センサ部1より観測画像を取得し、取得した観測画像を尤度比算出部3および推移確率算出部4に出力する。
【0029】
尤度比算出部3は、観測画像取得部2より出力された画像(現フレーム画像)の各画素に対して尤度比を算出する。尤度比とは各画素が目標である確からしさを示す指標であり、例えば、フレームKの画素(i,j)の振幅値(輝度値)zijが目標である場合の密度関数をp(zij|θij)、zijがノイズである場合の密度関数をp(zij|H)とすると、尤度比Li,j(k)は、式(2)により定義する。
【0030】
【数2】

【0031】
また、確率密度関数p(zij|θij)およびp(zij|H)は、例えば、式(3)、式(4)を用いて定義する。
【0032】
【数3】

【数4】

【0033】
次に、推移確率算出部4は、追尾処理部8において想定する目標の運動モデルに基づき求めた予測位置を用いて、1フレーム前の画素(m,n)から現フレームの画素(i,j)への目標の推移確率を算出する。
【0034】
想定する目標の運動モデルは適用先によって異なるので、推移確率の定義も適用先毎に異なり一意に決めることはできないが、定義式の一例を式(5)に示す。式(5)は、追尾処理部8における追尾処理により、フレームK−1の画素(m,n)からフレームKへの目標の予測移動位置として(x(m,n),y(m,n))が得られた場合の、フレームK−1の画素(m,n)からフレームKの画素(i,j)への推移確率を示したものである。式(5)によると、フレームK−1の画素(m,n)に対する追尾処理によるフレームKにおける予測位置と画素(i,j)の差が小さいほど、推移確率が高くなる。
【0035】
【数5】

【0036】
次に、加算処理順決定部5は、現フレームの尤度比が高い画素に対して優先的に加算処理が実行されるように加算処理順を決定し、加算処理部6は、加算処理順決定部5が決定した加算処理順に従い各画素の加算処理を実行し、選択処理部7は、加算処理部6における加算処理結果に基づき選択処理を行い、さらに重複選択が発生する場合には重複選択を許容するか否かの判定を行う。
【0037】
これら加算処理順決定部5、加算処理部6、選択処理部7の動作の詳細を以下のstep1〜step8により示す。
【0038】
step1.
加算処理順決定部5は、現フレームの画像における最大尤度比と最小尤度比を求める。最大尤度比をLmax、最小尤度比をLminとする。
【0039】
step2.
加算処理順決定部5は、現フレームの画素(i,j)の尤度比をL(i,j)とした時、式(6)を満たす画素を抽出する。式(6)において、αはパラメータであり、αの値によって抽出される画素の数が異なる。
【0040】
【数6】

【0041】
図2(a)は、step2における画素抽出の例を示したものである。図2(a)において、正方形が各画素を表しており、その上の長方形が各画素の尤度比の大きさを表している。説明の都合上、画素を尤度比の高い順にソートした形で表示しているが、実際の処理では必ずしもソートを行う必要はない。
【0042】
step2において抽出される画素は、尤度比がLmax−α(Lmax−Lmin)以上で、かつLmax以下の画素であり、図2(a)では、一番左の画素から左から4番目の画素までが抽出されることを表している。
【0043】
step3.
加算処理順決定部5は、step2において抽出された画素に対して、ランダムに加算処理順を決定する。尤度比が高い画素は目標である可能性が高いが、各画素の振幅値にはノイズが含まれているため、尤度比が高い画素が必ずしも目標であるとは言えない。そこで、step2においてある程度尤度比が高い画素を絞り込み、step3において尤度比の大きさに依存しないように加算処理の順番を決定している。
【0044】
step4.
加算処理部6は、step2において抽出された画素に対して、step3で決定された順番に加算処理を実行し、各画素に対して式(7)で定義されるトラックスコアSi,j(K)を計算する。
【0045】
【数7】

【0046】
step5.
選択処理部7は、step2において抽出された画素を対象とし(以降、対象画素と呼ぶ)、step3で決定された順番に、step4での加算処理結果より、対象画素のトラックスコアを最大にする1フレーム前の画素を選択した場合に重複選択が発生しなければ、そのまま選択を確定し、重複選択が発生する場合には以下の手順により重複選択可否判定を行い、重複選択が可能と判断した場合のみ選択を確定させる。
【0047】
[重複選択可否判定]
フレームKの対象画素(i,j)がフレームK−1の画素(m,n)を選択しょうとした時、競合画素(対象画素と同じフレームK−1の画素(m,n)を選択しているフレームKの画素)のトラックスコアの最小値をSc(m,n)、競合画素の推移確率の最小値をPc(m,n)、対象画素(i,j)がフレームK−1の画素(m,n)を選択した場合の対象画素(i,j)のトラックスコアをSi,j(m,n)、推移確率をPi,j(m,n)とすると、式(8)または式(9)のどちらか一方が満たされれば重複選択が可能と判断し、対象画素(i,j)が画素(m,n)を選択することを許容する。そうでなければ選択不可とする。
【0048】
【数8】

【数9】

【0049】
選択処理部7における重複選択可否判定の動作を図3に例を示して説明する。図3において、フレームKの画素(i,j)が対象画素であり、フレームK−1の画素(m,n)が対象画素(i,j)のトラックスコアを最大にする画素とする。また、既にフレームKの画素(a,b)と画素(x,y)がフレームK−1の画素(m,n)を選択しているものとする。すなわち、画素(a,b)と画素(x,y)が対象画素(i,j)の競合画素となる。
【0050】
この時、競合画素(a,b)のトラックスコアと競合画素(x,y)のトラックスコアの最小値をSc(m,n)とし、画素(m,n)から競合画素(a,b)への推移確率と画素(m,n)から競合画素(x,y)への推移確率の最小値をPc(m,n)とする。対象画素(i,j)が画素(m,n)を選択した場合のトラックスコアをSi,j(m,n)、画素(m,n)から対象画素(i,j)への推移確率をPi,j(m,n)とすると、式(8)または式(9)のどちらか一方が満たされれば、重複選択可能と判断し、対象画素(i,j)が画素(m,n)を選択することを許容する。
【0051】
step6.
step5における重複選択可否判定において重複選択不可と判断した場合、選択処理部7は、対象画素のトラックスコアが2番目に大きくなる1フレーム前の画素に対してstep5と同様に重複可否判定を行う。さらに選択が確定しない場合は、選択が確定するまで、トラックスコアが3番目以降の画素に対してトラックスコアの降順にstep5と同様に重複可否判定を行う。
【0052】
step7.
対象画素(i,j)が選択可能な1フレーム前の画素全てが選択不可であった場合、選択処理部7は対象画素(i,j)を初探知画素と見なし、そのトラックスコアSi,j(K)を式(10)により求める。
【0053】
【数10】

【0054】
step8.
step2において抽出された全ての画素に対するstep5〜step7の選択処理部7の処理の完了後、現フレームの全ての画素に対する選択処理部7の処理が完了していれば、追尾処理部8の処理に進む。
【0055】
そうでなければ、加算処理順決定部5がLmaxの値を更新し、step2の処理に戻る。更新前のLmaxをLmax_OLD、更新後のLmaxをLmax_NEWとすると、加算処理順決定部5におけるLmaxの更新は、式(11)および式(12)で定義する。
【0056】
【数11】

【数12】

【0057】
図2(b)は、更新後のLmaxの値を用いたstep2における画素の抽出例を示しており、左から5〜8番目の画素が抽出画素となることを示している。
【0058】
次に、追尾処理部8は、例えばα−βフィルタ等の追尾フィルタを用いて、現フレーム各画素が選択した1フレーム前の画素から現フレームの各画素への推移情報(推移前後の画素位置)に基づき、現フレームの各画素に目標が存在していると仮定した場合の、次フレームにおける目標予測位置を算出する。この目標予測位置は推移確率算出部4における推移確率の算出に用いられる。
【0059】
次に、現フレームの全画素のトラックスコアおよび目標予測位置の算出が終了すると、終了判定部9により加算処理を繰り返すか否かの判定を行い、加算処理を繰り返すと判定した場合は観測画像取得部2に処理を戻し、次フレームの観測画像を取得する。一方、加算処理を繰り返さない(加算処理を終了する)と判定した場合には、目標検出部10に処理を進める。終了判定部9における終了判定基準としては、例えば、「加算処理フレーム数が上限に達したか否か」や、「累積処理時間が上限値に達したか否か」などを用いる。
【0060】
次に、目標検出部10は、最終加算処理結果より、トラックスコアの平均をμ、標準偏差をσ、係数をCとすると、トラックスコアがμ+Cσを超える位置を目標位置として検出する。
【0061】
上記のような目標検出装置では、入力画像の尤度比の高い画素の加算処理を優先して行うことにより重複選択の可否の判定を効率的に行うことが可能となり、さらに競合画素と比較してトラックスコアか推移確率のどちらか一方が競合画素よりも勝っていれば重複選択を許容することにより、適切に重複選択を抑制することが可能となる。その結果、目標画素の広がりを抑制し低SNR環境下における目標検出精度を向上させる効果がある。
【0062】
実施の形態2.
図4は、この発明の実施の形態2における目標検出装置の構成を示すブロック図である。実施の形態2における目標検出装置は、実施の形態1における目標検出装置の機能に加え、各画素の速度ベクトルのバラツキ具合が小さいほど推移確率が高くなるように推移確率の係数を求め、速度ベクトルのバラツキ具合が小さいほどトラックスコアを大きくする機能を備えることを特徴とする。
【0063】
図4に示したブロック図のうち、センサ部1、観測画像取得部2、尤度比算出部3、加算処理順決定部5、選択処理部7、追尾処理部8、終了判定部9、目標検出部10の機能および動作は、実施の形態1と同じであるため、ここでは説明を割愛する。
【0064】
新たな構成としての軌跡蓄積部11は、各画素の軌跡を生成・更新・蓄積および速度ベクトル平滑値の蓄積を行う。推移確率算出部4Aは、現フレームにおける各画素の推移確率の算出(実施の形態1に示した推移確率算出部4と同じ)と、トラックスコア算出式における推移確率算出項の係数(推移確率係数と呼ぶ)の算出を行う。
【0065】
次に、軌跡蓄積部11および推移確率算出部4Aの動作について説明する。軌跡蓄積部11は、選択処理部7の処理結果より得られる現フレーム各画素の選択結果より、最新のNフレーム分の各画素の軌跡を生成・更新・蓄積し、さらに追尾処理部8の処理結果より得られる各画素の速度ベクトル平滑値を最新のNフレーム分蓄積する。
【0066】
ここで、軌跡の定義を示しておく。フレームKまでの加算処理において、フレームKの画素(7,4)がフレームK−1の画素(4,3)を選択し、フレームK−1の画素(4,3)はフレームK−2の画素(2,2)を選択したとする。図5(a)にその選択の様子を示す。この時、フレームKの画素(7,4)の軌跡は{(2,2),(4,3),(7,4)}となる。図5(b)にその軌跡を示す。
【0067】
推移確率算出部4Aは、現フレームにおける各画素の推移確率を算出し(実施の形態1における推移確率算出部4と同じ動作であるので詳細な説明は割愛する)、更に軌跡蓄積部11に蓄積されている最新のNフレーム分の軌跡情報と、速度ベクトル情報よりトラックスコア算出式における推移確率算出項の係数(推移確率係数と呼ぶ)Di,jを求める。なお、Di,jは、フレームKの画素(i,j)における推移確率係数である。
【0068】
図6を用いて推移確率算出部4Aにおける推移確率係数Di,jの算出手順を説明する。図6は、フレームKの画素(9,8)を終点とする最新N=5フレーム分の軌跡を示している。この例で求める推移確率係数はD9,8である。
【0069】
フレームKの画素(9,8)を終点とする軌跡を構成する画素は、フレームK−4からフレームKまでの{(2,2),(4,3),(5,5),(7,7),(9,8)}である。また、各画素における速度ベクトルは、x方向成分、y方向成分に分けられ、
{(vK−4(2,2),vK−4(2,2)),
(vK−3(4,3),vK−3(4,3)),
(vK−2(5,5),vK−2(5,5)),
(vK−1(7,7),vK−1(7,7)),
(v(9,8),v(9,8))}
である。軌跡蓄積部11には、フレームKの画素(9,8)を終点とする軌跡情報として、上記軌跡を構成する画素と、軌跡を構成する各画素における速度ベクトルが保存されている。
【0070】
推移確率算出部4Aは、軌跡蓄積部11に保存されているフレームKの画素(9,8)を終点とする軌跡の速度ベクトル情報を用いて、以下の手順により推移確率係数D9,8を算出する。
【0071】
step1.
軌跡の各速度ベクトル成分の標準偏差を、式(13)および式(14)より求める。なお、Vs(9,8)はフレームKの画素(9,8)を終点とする軌跡の速度ベクトルx方向成分の標準偏差、Vs(9,8)はy方向成分の標準偏差、STD()は標準偏差を求める関数である。
【0072】
step2.
速度ベクトル成分の最大値および最小値をそれぞれVsmax、Vsminとした時、式(15)によりD9,8を求める。
【0073】
【数13】

【数14】

【数15】

【0074】
上記例では、フレームKの画素(9,8)を終点とする軌跡について推移確率係数の算出手順を示したが、推移確率算出部4Aは、現フレームをフレームKとした時、フレームKの各画素を終点とする全ての軌跡に対して同様の手順により推移確率係数を求める。
【0075】
推移確率算出部4Aでの推移確率および推移確率係数算出後、加算処理部6が、加算処理順決定部5が決定した加算処理順に従い、式(16)を用いて各画素のトラックスコアを算出する。
【0076】
【数16】

【0077】
上記のような目標検出装置では、入力画像の尤度比の高い画素の加算処理を優先して行うことにより重複選択の可否の判定を効率的に行うことが可能となり、さらに競合画素と比較してトラックスコアか推移確率のどちらか一方が競合画素よりも勝っていれば重複選択を許容することにより、適切に重複選択を抑制することが可能となる。さらに、最新のNフレーム分の軌跡の速度ベクトルのバラツキが小さいほど推移確率が高くなるように推移確率係数を算出することで、目標が存在する位置のトラックスコアがより高く積み上がるようになる。その結果、目標画素の広がりを抑制し、低SNR環境下における目標検出精度を向上させる効果がある。
【0078】
実施の形態3.
図7は、この発明の実施の形態3における目標検出装置の構成を示すブロック図である。実施の形態3における目標検出装置は、実施の形態2における目標検出装置の機能に加え、各フレームにおける加算処理後のトラックスコア最大画素が一定回数以上連続して同じ軌跡に属していれば重複選択の抑制を行い、そうでなければ重複選択抑制を行わない、重複選択抑制の切り替え機能を備えることを特徴とする。
【0079】
図7に示したブロック図のうち、センサ部1、観測画像取得部2、尤度比算出部3、推移確率算出部4A、加算処理順決定部5、加算処理部6、追尾処理部8、終了判定部9、目標検出部10、軌跡蓄積部11の機能および動作は、実施の形態2と同じであるため、ここでは説明を割愛する。
【0080】
新たな構成としてのTS(TS:トラックスコア)最大軌跡検出・蓄積部12は、トラックスコアが最大となる軌跡の検出および蓄積を行い、選択処理部7Aは、TS最大軌跡検出・蓄積部12におけるトラックスコア最大軌跡の検出結果より重複選択を全て許容するか、重複選択の抑制を行うかの判断を行う。
【0081】
次に、TS最大軌跡検出・蓄積部12および選択処理部7Aの動作について説明する。TS最大軌跡検出・蓄積部12は、選択処理部7Aにおける処理結果よりトラックスコアが最大となる画素を含む軌跡を軌跡蓄積部11に保存されている軌跡より検出し、1フレーム前のトラックスコア最大画素が当該検出軌跡に含まれていれば連続検出カウンタの値を1増加させ、そうでなければ連続検出カウンタの値を0にリセットする。また、トラックスコア最大画素を含む軌跡情報を保存する。
【0082】
選択処理部7Aは、TS最大軌跡検出・蓄積部12より連続検出カウンタの値を取得し、連続検出カウンタの値が予め指定する閾値を超えていれば、重複選択可否の判断を行うため、実施の形態1において説明した選択処理部7の処理を実行する。連続検出カウンタの値が閾値以下であれば、重複選択の抑制は行わず全ての重複選択を許容する。
【0083】
以下に、TS最大軌跡検出・蓄積部12および選択処理部7Aの動作を、以下の手順により説明する。
【0084】
step1.
現フレームをフレームKとする。TS最大軌跡検出・蓄積部12は、フレームKの全ての画素に対する加算処理の終了後、選択処理部7Aより全画素のトラックスコアを取得し、フレームKにおけるトラックスコア最大画素を検出する。検出されたトラックスコア最大画素をGTSmaxとする。
【0085】
step2.
TS最大軌跡検出・蓄積部12は、軌跡値軌跡部11に保存されている軌跡情報を取得し、step1で検出した画素GTSmaxを含む軌跡を検出する。検出された軌跡をTrkとする。
【0086】
step3.
TS最大軌跡検出・蓄積部12は、1フレーム前(すなわちフレームK−1)におけるトラックスコア最大画素GK−1TSmaxがstep2で検出したTrkに含まれていれば、同一軌跡が連続して検出されたと判断して連続検出カウンタの値を1増加させ、GK−1TSmaxがTrkに含まれてなければ連続検出カウンタの値を0にリセットする。
【0087】
step4.
選択処理部7Aは、フレームK+1における処理において、TS最大軌跡検出・蓄積部12より連続検出カウンタの値を取得し、連続検出カウンタの値が事前に定めた閾値を超えていれば、実施の形態1に示した選択処理部7の処理を実施し、連続検出カウンタの値が閾値以下であれば、重複選択を全て許容する。
【0088】
上記のような目標検出装置では、入力画像の尤度比の高い画素の加算処理を優先して行うことにより重複選択の可否の判定を効率的に行うことが可能となること、競合画素と比較してトラックスコアか推移確率のどちらか一方が競合画素よりも勝っていれば重複選択を許容することにより、適切に重複選択を抑制することが可能となること、さらに、最新のNフレーム分の軌跡の速度ベクトルのバラツキが小さいほど推移確率が高くなるように推移確率係数を算出することで、一定方向に運動する目標が存在する位置のトラックスコアがより高く積み上がるようになることに加え、加算処理を2段階に分け、第1段階は全ての重複選択を許容することにより低SNR環境下での目標位置のトラックスコアの積み上がりを促進し、第2段階は一定フレーム数連続してトラックスコア最大画素が属する同一軌跡が存在する場合は重複選択を適切に抑制することにより目標画素の広がりを抑制することで、低SNR環境下における目標検出精度を向上させる効果がある。
【符号の説明】
【0089】
1 センサ部、2 観測画像取得部、3 尤度比算出部、4,4A 推移確率算出部、5 加算処理順決定部、6 加算処理部、7,7A 選択処理部、8 追尾処理部、9 終了判定部、10 目標検出部、11 軌跡蓄積部、12 TS最大軌跡検出・蓄積部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続撮影された複数の観測画像を加算処理することにより低SNR環境下であっても目標検出を可能とする目標検出装置であって、
目標の観測を行うセンサ部と、
前記センサ部で観測された画像を取得する観測画像取得部と、
前記観測画像取得部が取得した観測画像における各画素の尤度比を算出する尤度比算出部と、
1フレーム前の観測画像の各画素から前記観測画像取得部が取得した現フレームの観測画像の各画素に目標が移動する推移確率を算出する推移確率算出部と、
前記尤度比算出部により算出される現フレームの観測画素の尤度比に基づき現フレームの観測画像の各画素に対する加算処理順を決定する加算処理順決定部と、
前記加算処理順決定部で決定された加算処理順に従って、現フレームの観測画像の各画素に対して、前記尤度比算出部で求めた尤度比と、前記推移確率算出部で求めた推移確率と、1フレーム前の加算処理結果とを加算して、現フレームにおける各画素の加算処理結果を求める加算処理部と、
現フレームの観測画像の各画素に対して、前記加算処理部で求められた加算処理結果に基づいた選択処理を行い、選択対象が他の現フレームの観測画像画素と競合し、競合する画素と同じ対象を選択する重複選択が発生する場合は、重複選択を許容するか否かを判定し、判定結果に基づく選択処理を行う選択処理部と、
現フレームの各画素が選択した1フレーム前の画素から現フレームの各画素への推移情報に基づき現フレームの各画素に目標が存在していると仮定した場合の次フレームにおける目標予測位置を算出する追尾処理部と、
加算フレーム数または累積処理時間に基づいて加算処理の終了判定を行う終了判定部と、
最終加算処理結果より、目標位置を検出する目標検出部と
を備え、
前記加算処理順決定部は、現フレームの観測画像の尤度比が大きい画素に対する加算処理が優先的に行われるように加算処理順を決定し、
前記選択処理部は、重複選択の可否判定処理において、対象画素の加算処理結果としてのトラックスコアが競合画素のトラックスコアの最小値よりも大きいか、または対象画素の推移確率が競合画素の推移確率の最小値よりも大きければ、重複選択を許容する
ことを特徴とする目標検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の目標検出装置において、
前記追尾処理部の処理結果より、各画素の過去Nフレーム分の軌跡におけるフレーム毎の速度ベクトルを蓄積する軌跡蓄積部をさらに備え、
前記推移確率算出部は、各画素の過去Nフレーム分の速度ベクトルのバラツキが小さいほど値が大きくなるように係数を求め、推移確率算出時に前記係数を当該画素の推移確率に掛ける
ことを特徴とする目標検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の目標検出装置において、
前記選択処理部が出力するフレーム毎の加算処理結果よりトラックスコアが最大となる画素を求め、当該画素を含む軌跡の検出と蓄積を行うトラックスコア最大軌跡検出・蓄積部をさらに備え、
前記選択処理部は、1フレーム前までのトラックスコア最大軌跡検出・蓄積部の蓄積情報より、一定フレーム数連続してトラックスコア最大画素が属する同一軌跡が存在する場合は重複選択の抑制を行い、そうでない場合は重複選択の抑制を行わない
ことを特徴とする目標検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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