説明

目標物速度特定装置、目標物速度特定プログラム及び目標物速度特定方法

【課題】アジマス圧縮後のSAR画像から高精度に目標物の速度を特定する。
【解決手段】目標物の複数の予測速度を入力する。SARと目標物との相対距離と、合成開口時間とに基づき計算されるアジマス圧縮用の参照関数を、入力された予測速度毎に生成する。特に、所定の場合には、予測速度に応じて合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて参照関数を生成する。入力されたアジマス圧縮後のSAR画像を、一旦アジマス解凍して、アジマス圧縮前のデータに戻し、生成した各参照関数に基づき再びアジマス圧縮して画像を再生する。最も鮮明な画像を再生する際に使用した参照関数を特定し、特定した参照関数を生成する際に用いた予測速度を目標物の速度として特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、SAR(Synthetic Aperture Radar)画像から目標物の速度を特定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アジマス圧縮後のSAR画像(アジマス圧縮後データ)から目標物の速度を特定することについて記載されている。特許文献1では、アジマス圧縮後データを、アジマス圧縮に用いたアジマス圧縮参照関数を用いて解凍して、アジマス圧縮前のデータに戻す。そして、目標物の予測速度を変化させて、複数のアジマス圧縮参照関数を生成し、生成した各アジマス圧縮参照関数を用いてアジマス圧縮前のデータを再びアジマス圧縮して、複数のアジマス圧縮後データを生成する。生成した複数のアジマス圧縮後の画像の中で、最も鮮明な画像データを得る際に使用したアジマス圧縮参照関数を特定し、そのアジマス圧縮参照関数を生成する際に使用した目標物の予測速度を、その目標物の速度であると特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−292532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法でも、目標物の速度を特定することは可能である。しかし、特許文献1に記載された方法では、特定した目標物の速度に所定以上の誤差を含んでしまう虞がある。
この発明は、アジマス圧縮後のSAR画像から高精度に目標物の速度を特定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る目標物速度特定装置は、
SAR(Synthetic Aperture Radar)により観測された目標物の速度を特定する目標物速度特定装置であり、
SARが観測した目標物のデータについてレンジ圧縮したレンジ圧縮後データを入力して記憶装置に記憶するデータ入力部と、
SARを搭載したSAR搭載機の速度を入力して記憶装置に記憶するSAR速度入力部と、
合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを示す合成開口時間情報を入力して記憶装置に記憶する合成開口時間情報入力部と、
目標物の複数の予測速度を入力して記憶装置に記憶する予測速度入力部と、
前記SAR速度入力部が入力したSAR搭載機の速度と、前記合成開口時間情報入力部が入力した合成開口時間情報が示す合成開口時間と、前記予測速度入力部が入力した複数の予測速度とに基づき、前記予測速度入力部が入力した予測速度毎に、前記SAR搭載機の速度と目標物の速度とに基づき表される前記SARと前記目標物との相対距離と、合成開口時間とから得られる参照関数を処理装置により生成することで、複数の参照関数を生成する参照関数生成部であって、所定の場合には前記予測速度に応じて前記合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて参照関数を生成する参照関数生成部と、
前記参照関数生成部が生成した複数の参照関数の各参照関数に基づき、前記レンジ圧縮後データをアジマス圧縮し複数のアジマス圧縮後データを処理装置により生成するアジマス圧縮処理部と、
前記アジマス圧縮処理部が生成した複数のアジマス圧縮後データの各アジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を処理装置により算出する鮮明度算出部と、
前記鮮明度算出部が算出した前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成部が使用した予測速度を目標物の速度として処理装置により特定する速度特定部と
を備えることを特徴とする。
【0006】
前記予測速度入力部は、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式と、目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式とについて、所定の多項式の所定の次数から順に、その多項式のその次数の係数を変化させることにより生成した目標物の複数の予測速度を入力し、
前記速度特定部は、その次数の多項式で表した場合の目標物の速度を特定することで、その多項式のその次数の係数を特定し、
前記予測速度入力部は、その多項式のその次数の係数以外の係数は、前記速度特定部により既に特定されている場合には特定された値とし、特定されていない場合には所定の値とする
ことを特徴とする。
【0007】
前記参照関数生成部は、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、予測速度に応じて前記合成開口時間を変化させて参照関数を生成する
ことを特徴とする。
【0008】
前記参照関数生成部は、
目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度と、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の1次の係数を変化させて生成された予測速度とのいずれかが入力された場合には、前記SARと前記目標物との相対距離を表す数1を数2に基づき展開して2次の項までに限定した式に基づき、数3を計算して参照関数を生成し、
目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、数1を展開して2次の項までに限定した式に基づくとともに、数4に基づき合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて数3を計算して参照関数を生成する
ことを特徴とする。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

ここで、rPTはSARと目標物との相対距離、tは時刻、Rは合成開口中心でのSARと目標物との距離、vrEは地球の自転による目標物のレンジ方向速度、vaEは地球の自転による目標物のアジマス方向速度、VrTは目標物自身の移動による目標物のレンジ方向速度、VaTは目標物自身の移動による目標物のアジマス方向速度、aP_0はSAR搭載機の速度の0次成分、fref(t)は参照関数、rect(t/T)はtがTに含まれる場合は1、tがTに含まれない場合は0となる関数、λは、SARから放射される電波の波長、αstartは前記合成開口時間情報入力部が入力した合成開口時間の開始時刻、αendは前記合成開口時間情報入力部が入力した合成開口時間の終了時刻、aは数5、aは数6である。
【数5】

【数6】

【0009】
前記参照関数生成部は、
他の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、前記SARと前記目標物との相対距離を表す数1を所定の次数まで展開した式に基づき、数2を計算して参照関数を生成する
ことを特徴とする。
【0010】
前記予測速度入力部は、目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度と、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の1次の係数を変化させて生成された予測速度とを所定の順に入力し、次に目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度を入力し、その後他の係数を変化させて生成された予測速度を所定の順に入力する
ことを特徴とする。
【0011】
前記速度特定部は、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合において、前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データが複数存在する場合には、前記目標物の画像の鮮明度が高い複数のアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成部が使用した予測速度のうちで最も速い予測速度を目標物の速度として特定する
ことを特徴とする。
【0012】
この発明に係る目標物速度特定プログラムは、
SAR(Synthetic Aperture Radar)により観測された目標物の速度を特定する目標物速度特定プログラムであり、
SARが観測した目標物のデータについてレンジ圧縮したレンジ圧縮後データを入力するデータ入力処理と、
SARを搭載したSAR搭載機の速度を入力するSAR速度入力処理と、
合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを示す合成開口時間情報を入力する合成開口時間情報入力処理と、
目標物の複数の予測速度を入力する予測速度入力処理と、
前記SAR速度入力処理で入力したSAR搭載機の速度と、前記合成開口時間情報入力処理で入力した合成開口時間情報が示す合成開口時間と、前記予測速度入力処理で入力した複数の予測速度とに基づき、前記予測速度入力処理で入力した予測速度毎に、前記SAR搭載機の速度と目標物の速度とに基づき表される前記SARと前記目標物との相対距離と、合成開口時間とから得られる参照関数を生成することで、複数の参照関数を生成する参照関数生成処理であって、所定の場合には前記予測速度に応じて前記合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて参照関数を生成する参照関数生成処理と、
前記参照関数生成処理で生成した複数の参照関数の各参照関数に基づき、前記レンジ圧縮後データをアジマス圧縮し複数のアジマス圧縮後データを生成するアジマス圧縮処理と、
前記アジマス圧縮処理で生成した複数のアジマス圧縮後データの各アジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を算出する鮮明度算出処理と、
前記鮮明度算出処理で算出した前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成処理で使用した予測速度を目標物の速度として特定する速度特定処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0013】
前記予測速度入力処理では、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式と、目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式とについて、所定の多項式の所定の次数から順に、その多項式のその次数の係数を変化させることにより生成した目標物の複数の予測速度を入力し、
前記速度特定処理では、その次数の多項式で表した場合の目標物の速度を特定することで、その多項式のその次数の係数を特定し、
前記予測速度入力処理では、その多項式のその次数の係数以外の係数は、前記速度特定処理で既に特定されている場合には特定された値とし、特定されていない場合には所定の値とする
ことを特徴とする。
【0014】
前記参照関数生成処理では、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、予測速度に応じて前記合成開口時間を変化させて参照関数を生成する
ことを特徴とする。
【0015】
前記参照関数生成処理では、
目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度と、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の1次の係数を変化させて生成された予測速度とのいずれかが入力された場合には、前記SARと前記目標物との相対距離を表す数7を数8に基づき展開して2次の項までに限定した式に基づき、数9を計算して参照関数を生成し、
目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、数7を展開して2次の項までに限定した式に基づくとともに、数10に基づき合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて数9を計算して参照関数を生成する
ことを特徴とする。
【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

ここで、rPTはSARと目標物との相対距離、tは時刻、Rは合成開口中心でのSARと目標物との距離、vrEは地球の自転による目標物のレンジ方向速度、vaEは地球の自転による目標物のアジマス方向速度、VrTは目標物自身の移動による目標物のレンジ方向速度、VaTは目標物自身の移動による目標物のアジマス方向速度、aP_0はSAR搭載機の速度の0次成分、fref(t)は参照関数、rect(t/T)はtがTに含まれる場合は1、tがTに含まれない場合は0となる関数、λは、SARから放射される電波の波長、αstartは前記合成開口時間情報入力処理で入力した合成開口時間の開始時刻、αendは前記合成開口時間情報入力処理で入力した合成開口時間の終了時刻、aは数11、aは数12である。
【数11】

【数12】

【0016】
前記参照関数生成処理では、
他の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、前記SARと前記目標物との相対距離を表す数7を所定の次数まで展開した式に基づき、数8を計算して参照関数を生成する
ことを特徴とする。
【0017】
前記予測速度入力処理では、目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度と、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の1次の係数を変化させて生成された予測速度とを所定の順に入力し、次に目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度を入力し、その後他の係数を変化させて生成された予測速度を所定の順に入力する
ことを特徴とする。
【0018】
前記速度特定処理では、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合において、前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データが複数存在する場合には、前記目標物の画像の鮮明度が高い複数のアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成処理で使用した予測速度のうちで最も速い予測速度を目標物の速度として特定する
ことを特徴とする。
【0019】
この発明に係る目標物速度特定方法は、
SAR(Synthetic Aperture Radar)により観測された目標物の速度を特定する目標物速度特定方法であり、
SARが観測した目標物のデータについてレンジ圧縮したレンジ圧縮後データを入力するデータ入力工程と、
SARを搭載したSAR搭載機の速度を入力するSAR速度入力工程と、
合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを示す合成開口時間情報を入力する合成開口時間情報入力工程と、
目標物の複数の予測速度を入力する予測速度入力工程と、
前記SAR速度入力工程で入力したSAR搭載機の速度と、前記合成開口時間情報入力工程で入力した合成開口時間情報が示す合成開口時間と、前記予測速度入力工程で入力した複数の予測速度とに基づき、前記予測速度入力工程で入力した予測速度毎に、前記SAR搭載機の速度と目標物の速度とに基づき表される前記SARと前記目標物との相対距離と、合成開口時間とから得られる参照関数を生成することで、複数の参照関数を生成する参照関数生成工程であって、所定の場合には前記予測速度に応じて前記合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて参照関数を生成する参照関数生成工程と、
前記参照関数生成工程で生成した複数の参照関数の各参照関数に基づき、前記レンジ圧縮後データをアジマス圧縮し複数のアジマス圧縮後データを生成するアジマス圧縮処理工程と、
前記アジマス圧縮処理工程で生成した複数のアジマス圧縮後データの各アジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を算出する鮮明度算出工程と、
前記鮮明度算出工程で算出した前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成工程で使用した予測速度を目標物の速度として特定する速度特定工程と
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係る目標物速度特定装置は、所定の場合には予測速度に応じて合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて参照関数を生成することにより、高精度に目標物の速度を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】SARと、移動する目標物との相対距離の説明図。
【図2】目標物が移動していることの影響の説明図。
【図3】実施の形態1における目標物速度特定装置100の機能を示す機能ブロック図。
【図4】目標物速度特定装置100の処理を示すフローチャート。
【図5】第1速度成分特定ステップの処理を示すフローチャート。
【図6】(S22)で生成される複数の参照関数fref(t)の説明図。
【図7】第2速度成分特定ステップの処理を示すフローチャート。
【図8】(S32)で生成される複数の参照関数fref(t)の説明図。
【図9】第3速度成分特定ステップの処理を示すフローチャート。
【図10】画像再生ステップの処理を示すフローチャート。
【図11】ドップラ周波数帯域が制限された場合の一例を示す図。
【図12】ドップラ周波数領域と時間領域との対応関係を示す図。
【図13】ドップラ周波数領域が制限されている場合に、(S34)で計算される鮮明度の変化を示す図。
【図14】鮮明度が最も高くなるピークが所定の範囲を持つことの説明図。
【図15】目標物速度特定装置100のハードウェア構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図に基づき、この発明の実施の形態について説明する。
なお、以下の説明において、処理装置は後述するCPU911等である。記憶装置は後述するROM913、RAM914、磁気ディスク920あるいはCPU911が有するキャッシュメモリやレジスタ等である。入力装置は後述するキーボード902、通信ボード915等である。つまり、処理装置、記憶装置、入力装置はハードウェアである。
【0023】
実施の形態1.
SAR画像再生処理では、一般に、SARによって得られた信号を、レンジ圧縮し、レンジマイグレーション補正をし、アジマス圧縮して画像データを生成する。
アジマス圧縮とは、レンジ圧縮後のデータと参照関数fref(t)(アジマス圧縮参照関数)との相関処理である。参照関数fref(t)は、SARと目標物との相対距離(相対運動)から求められる関数であり、数13のように表される。また、アジマス圧縮では、参照関数fref(t)を基にドップラ周波数が計算され、通常ゼロドップラに結像させて画像データを得る。
【数13】

ここで、tは、時刻である。Tは、合成開口時間である。rect(t/T)は、tがTに含まれる場合は1、tがTに含まれない場合は0となる関数である。λは、SARから放射される電波の波長である。rPTは、SARと目標物との相対距離である。
【0024】
図1は、SARと、移動する目標物との相対距離の説明図である。なお、目標物の移動には、目標物自身の移動と、地球の自転による移動との2つがある。
図1に示すように、SARと移動する目標物との相対距離は、数14のように表せる。
【数14】

ここで、Rは、合成開口中心(t=0)でのSARと目標物との距離である。vrEは、地球の自転による目標物のレンジ方向速度である。vrTは、目標物自身の移動による目標物のレンジ方向速度である。vaTは、目標物自身の移動による目標物のアジマス方向速度である。Vは、SARを搭載したSAR搭載機の速度(アジマス方向速度)である。
なお、数14では、地球の自転がレンジ方向にだけ影響する場合を示している。しかし、地球の自転がレンジ方向だけでなく、アジマス方向にも影響する場合も考えられ、この場合には、数14は数15のように書き換えられる。
【数15】

ここで、vaEは、地球の自転による目標物のアジマス方向速度である。
【0025】
また、数14,15は、SARから電波をスクイントさせずに、SAR搭載機の進行方向と垂直な方向(真横)へ放射した場合におけるSAR搭載機と目標物との相対距離を表す。SARから電波をスクイントさせて放射する場合は、数15を数16のように表すことができる。なお、電波をスクイントさせて放射するとは、SARから電波を、SARの進行方向と垂直な方向へ放射せず、SARの進行方向前方や後方へ傾けて放射することである。
【数16】

ここで、αは、SAR搭載機の進行方向真横に対して、スクイントさせた電波の放射角度である。
【0026】
以下の説明では、説明を簡単にするため、数14を用いる。つまり、地球の自転がレンジ方向にだけ影響する場合であり、SARから電波をスクイントさせずに、SAR搭載機の進行方向と垂直な方向(真横)へ放射した場合を一例として説明する。しかし、以下の説明に基づき、数15や数16を用いた場合へ応用することは容易である。
【0027】
(t),vrT(t),vaT(t)をそれぞれ以下のように定義する。
(t)=aP_0+aP_1t+aP_2+・・・+aP_n
rT(t)=arT_0+arT_1t+arT_2+・・・+arT_k
aT(t)=aaT_0+aaT_1t+aaT_2+・・・+aaT_l
すると、rPTを展開して数17のように表すことができる。
【数17】

【0028】
数17を時刻tに関する2次の項までの式とすると、数18のように表される。
【数18】

【0029】
数19のように定義する。
【数19】

すると、数18を数20のように変形できる。
【数20】

数20から、時刻tの2次関数の頂点(x,y)は、数21のように表せる。
【数21】

【0030】
図2は、目標物が移動していることの影響の説明図である。図2では、数20に示す目標物が移動している場合の曲線を実線で示す。また、図2では、実線で示す目標物の合成開口中心の位置で目標物が静止している場合に得られる曲線を破線で示す。なお、図2では、縦軸がSARと目標物との相対距離、横軸が時刻である。
なお、目標物が静止しているとは、目標物自身の移動がないだけでなく、地球の自転により目標物が移動することもない場合である。そのため、目標物が静止している場合には、数18のvrE,arT_0,arT_1,vaE,aaT_0に0を代入することで、目標物が静止している場合におけるrPTを数22のように表すことができる。
【数22】

ここで、数22においてaは、数23である。
【数23】

【0031】
図2から分かるように、目標物が移動している場合、目標物が静止している場合と比較して、数20に示す2次関数の頂点(x,y)の位置と、2次関数によって表される曲線の形状(曲率)とが異なる。
【0032】
まず、2次関数の頂点(x,y)の位置が異なることの影響について説明する。
上述したように、SAR画像再生処理では、通常、ゼロドップラに結像させて画像データを得る。ゼロドップラは、時間軸における2次関数の頂点位置である。つまり、目標物が静止している場合であれば、合成開口中心の位置である図2の(0,a)に画像が結像される。したがって、目標物が静止している場合には、目標物の本来の位置に目標物が表示される。
しかし、目標物が移動している場合、図2の(−a/2a,a−a/4a)の位置に画像が結像される。つまり、目標物が移動している場合、アジマス圧縮後データでは、目標物が本来表示されるべき合成開口中心での位置(0,a)とは異なる位置(−a/2a,a−a/4a)に目標物の画像が結像され目標物が表示されてしまう。
なお、アジマス圧縮後データを見ても、目標物が本来表示されるべき位置(0,a)はわからない。
【0033】
また、図2に示す移動している目標物も静止している目標物も同様に、本来、開始時刻−T/2から終了時刻T/2までの合成開口時間Tに基づき生成される参照関数fref(t)を用いてアジマス圧縮されるべきである。
しかし、通常、時間軸における2次関数の頂点位置が合成開口中心であるとして、合成開口中心の前後所定の時間を合成開口時間として生成された参照関数fref(t)を用いてアジマス圧縮される。つまり、図2では、開始時刻−T/2−a/2aから終了時刻T/2−a/2aまでの合成開口時間T’に基づき生成された参照関数fref(t)を用いてアジマス圧縮される。
移動する目標物についての信号値は、時刻−T/2から時刻T/2までにのみ存在しており、時刻T/2から時刻T/2−a/2aまでには存在しない。したがって、開始時刻−T/2から終了時刻T/2までの合成開口時間Tに基づき生成される参照関数fref(t)を用いてアジマス圧縮する場合と比べて、開始時刻−T/2−a/2aから終了時刻T/2−a/2aまでの合成開口時間T’に基づき生成された参照関数fref(t)を用いてアジマス圧縮する場合、移動する目標物についての信号値と参照関数fref(t)との相関が低くなる。つまり、アジマス圧縮後データにおける目標物の画素の輝度は低く、不鮮明なボケた状態になる。
【0034】
次に、2次関数によって表される曲線の形状(曲率)が異なることの影響について説明する。
通常、目標物が静止していることを前提とした参照関数fref(t)を用いてアジマス圧縮される。目標物が静止していることを前提とした参照関数fref(t)の曲線の形状(曲率)と、移動する目標物についての信号値の曲線の形状(曲率)とは異なる。そのため、移動する目標物についての信号値と参照関数fref(t)との相関をとると、相関が低い。つまり、アジマス圧縮後データにおける目標物の画素の輝度は低く、不鮮明なボケた状態になる。
【0035】
ここで、数19に示すように、目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0は、aとaとには含まれず、aにのみ含まれる。また、数20に示すように、aはtの係数となっていないため、aは時刻tの2次関数によって表される曲線の形状(曲率)には影響しない。つまり、目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0は、時刻tの2次関数によって表される曲線の形状には影響しない。
一方、数21から分かるように、aは時刻tの2次関数の頂点(x,y)の位置に影響する。つまり、目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0は、時刻tの2次関数の頂点(x,y)の位置に影響する。
【0036】
特許文献1では、曲線の形状(曲率)の違いに基づく画像のボケを利用して速度特定する。しかし、上述したように、3次以上の高次成分を除いた数18では、目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0は、2次関数の曲線の形状(曲率)には影響を与えない。そのため、特許文献1の方法では、3次以上の高次成分を除いた数18を用いて目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0を特定することはできない。
なお、数17に示すように、高次成分にも目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0は含まれている。したがって、特許文献1で目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0を特定することは理論上可能である。
しかし、車両等の移動する目標物の速度は、低次成分の影響が強く、高次成分の影響は弱い。そのため、車両等の移動する目標物の速度を特許文献1の方法で特定した場合、レンジ方向速度の定数成分arT_0に誤差が含まれる可能性がある。
そこで、この実施の形態に係る目標物速度特定装置100は、2次関数の頂点位置のずれを利用して、目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0を特定する。これにより、特許文献1の方法よりも高精度に目標物のレンジ方向速度を特定することができる。
【0037】
この実施の形態に係る目標物速度特定装置100について説明する。
図3は、この実施の形態における目標物速度特定装置100の機能を示す機能ブロック図である。
目標物速度特定装置100は、入力部110、処理部120を備える。
入力部110は、データ入力部111、予測速度入力部112、合成開口時間情報入力部113、SAR速度入力部114を備える。
処理部120は、参照関数生成部121、画像再生部122、鮮明度算出部123、速度特定部124を備える。また、画像再生部122は、レンジマイグレーション補正部125、ゼロ詰め処理部126、FFT処理部127、アジマス圧縮処理部128、IFFT処理部129を備える。
【0038】
図4は、目標物速度特定装置100の処理を示すフローチャートである。
(S1:入力ステップ)
データ入力部111は、アジマス圧縮後データ(SLC(シングルルックコンプレックス)画像)から目標物を1箇所選び、目標物を含む範囲を処理装置により切り出し、切り出した範囲の画像のアジマス圧縮を解凍して生成したレンジ圧縮後データを処理装置により生成する。そして、データ入力部111は、レンジ圧縮後データを入力して記憶装置に記憶する。なお、アジマス圧縮を解凍するとは、アジマス圧縮時に使用した参照関数fref(t)を用いて、アジマス圧縮の逆処理を行うことである。
また、合成開口時間情報入力部113は、合成開口時間tの開始時刻αstartと終了時刻αendとを示す合成開口時間情報を入力して記憶装置に記憶する。なお、目標物についての合成開口時間は、目標物が結像された位置から特定される。
また、SAR速度入力部114は、SAR搭載機の速度Vを入力して記憶装置に記憶する。なお、前提として、SAR搭載機の速度Vは既知であるとする。
【0039】
(S2:第1速度成分特定ステップ)
目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0とレンジ方向速度の1次成分arT_1とを所定の順に特定する。ここでは、まず、目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0を特定し、次に、レンジ方向速度の1次成分arT_1を特定するものとして説明する。
なお、ここでは、曲線の形状(曲率)の違いに基づく画像のボケを利用して、目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0とレンジ方向速度の1次成分arT_1とを特定する。
【0040】
図5は、第1速度成分特定ステップの処理を示すフローチャートである。
まず、目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0を特定する。
(S21:速度入力ステップ)
予測速度入力部112は、様々な目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0を予測速度として入力して記憶装置に記憶する。また、予測速度入力部112は、レンジ方向速度の1次成分arT_1として0あるいは所定の値を入力して記憶装置に記憶する。
(S22:参照関数生成ステップ)
参照関数生成部121は、SARと目標物との相対運動を示す式として、数18における目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0を0とした数24を用い数13を計算することにより、処理装置により参照関数fref(t)を生成する。
【数24】

参照関数生成部121は、(S1)で入力されたSAR搭載機の速度V(ここでは、Vの定数成分aP_0)と、(S21)で入力された目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を、数24に示す式に代入する。さらに、参照関数生成部121は、(S21)で入力された目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0を、数24に示す式に代入して、目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0毎にrPT(t)を計算する。そして、参照関数生成部121は、計算されたrPT(t)を用いて、数13を計算することにより、(S21)で入力された目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0毎に参照関数fref(t)を処理装置により生成する。
図6は、(S22)で生成される複数の参照関数fref(t)の説明図である。図6では、目標物の信号値を実線で示し、生成される参照関数fref(t)のいくつかの例を破線で示す。図6に示すように、参照関数生成部121は、目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0に応じて、tの2次関数の曲線の形状(曲率)を様々に変化させた複数の参照関数fref(t)を生成する。
なお、(S1)で入力された合成開口時間は図6に示す合成開口時間T’である。
(S23:画像再生ステップ)
画像再生部122は、(S22)で生成した各参照関数fref(t)に基づき(S1)で入力されたレンジ圧縮後データをアジマス圧縮して、アジマス圧縮後データを処理装置により生成する。なお、画像再生ステップについて、詳しくは後述する。
(S24:鮮明度算出ステップ)
鮮明度算出部123は、(S23)で生成したアジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を処理装置により算出する。ここで、鮮明度とは、画像の画素の輝度であり、言い替えれば、画像再生処理で実行されたアジマス圧縮において、参照関数fref(t)と信号値との相関の高さを表す。
つまり、鮮明度算出部123は、図6において、合成開口時間T’が示す範囲における目標物の信号値を示す実線と、各参照関数fref(t)を示す破線との相関(一致の程度)を計算する。図6から分かるように、目標物の信号値を示す実線の曲率と、参照関数fref(t)を示す破線の曲率とが近いほど、相関は高くなる。
(S25:速度特定ステップ)
速度特定部124は、(S24)で算出した目標物の画像の鮮明度が最も高いアジマス圧縮後データを処理装置により特定する。速度特定部124は、特定したアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数fref(t)を処理装置により特定する。つまり、図6において、目標物の信号値を示す実線と、参照関数fref(t)を示す破線との一致の程度が最も大きい参照関数fref(t)を特定する。
そして、速度特定部124は、特定した参照関数fref(t)を(S22)で生成する場合に使用した目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0を処理装置により特定する。これにより、目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0を特定することができる。
【0041】
次に、(S21)へ戻って、目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を特定する。
(S21:速度入力ステップ)
予測速度入力部112は、様々な目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を入力して記憶装置に記憶する。また、予測速度入力部112は、上述した処理により特定した目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0を入力して記憶装置に記憶する。
(S22:参照関数生成ステップ)
参照関数生成部121は、(S1)で入力されたSAR搭載機の速度V(ここでは、Vの定数成分aP_0)と、(S21)で入力された目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0とを数24に示す式に代入する。さらに、参照関数生成部121は、(S21)で入力された目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を、数24に示す式に代入して、目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1毎にrPT(t)を計算する。そして、参照関数生成部121は、計算されたrPT(t)を用いて、数13を計算することにより、(S21)で入力された目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1毎に参照関数fref(t)を処理装置により生成する。
つまり、参照関数生成部121は、目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1に応じて、tの2次関数の曲線の形状(曲率)を様々に変化させた複数の参照関数fref(t)を生成する。
(S23:画像再生ステップ)
画像再生部122は、(S22)で生成した各参照関数fref(t)に基づき(S1)で入力されたレンジ圧縮後データをアジマス圧縮して、アジマス圧縮後データを処理装置により生成する。
(S24:鮮明度算出ステップ)
鮮明度算出部123は、(S23)で生成したアジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を処理装置により算出する。
(S25:速度特定ステップ)
速度特定部124は、(S24)で算出した目標物の画像の鮮明度が最も高いアジマス圧縮後データを処理装置により特定する。速度特定部124は、特定したアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数fref(t)を生成する場合に、(S22)で使用した目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を処理装置により特定する。これにより、目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を特定することができる。
以上により、目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0とレンジ方向速度の1次成分arT_1とを特定できたので、(S2)の処理を終了して(S3)の処理へ進む。
【0042】
(S3:第2速度成分特定ステップ)
目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0を特定する。
なお、上述したように、目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0は、時刻tの2次関数によって表される曲線の形状には影響しない。そこで、ここでは、2次関数の頂点位置のずれを利用して、目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0を特定する。
【0043】
図7は、第2速度成分特定ステップの処理を示すフローチャートである。
(S31:速度入力ステップ)
予測速度入力部112は、様々な目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0を、予測速度として入力して記憶装置に記憶する。また、(S2)で特定した目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0とレンジ方向速度の1次成分arT_1とを入力して記憶装置に記憶する。
(S32:参照関数生成ステップ)
参照関数生成部121は、数24を用い数13を計算することにより、処理装置により参照関数fref(t)を生成する。
まず、参照関数生成部121は、(S1)で入力されたSAR搭載機の速度V(ここでは、Vの定数成分aP_0)と、(S31)で入力された目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0とレンジ方向速度の1次成分arT_1とを、数24に示す式に代入する。これにより、rPT(t)が1つ計算される。
また、参照関数生成部121は、(S1)で入力された合成開口時間tの開始時刻αstartと終了時刻αendとを、それぞれ開始時刻αstart+a/2aと終了時刻αend+a/2aとする。つまり、参照関数生成部121は、静止した目標物を再生する場合における合成開口時間tが、合成開口開始時刻αstartと終了時刻αendとから「αstart≦t<αend」で表される場合、ここでの合成開口時間tを「αstart+a/2a≦t<αend+a/2a」とする。
そして、これに基づき、参照関数生成部121は、数13を計算して参照関数fref(t)を生成する。なお、a,aは、数19に示した通りであり、aにはレンジ方向速度の1次成分arT_0が含まれる。したがって、(S31)で入力されたレンジ方向速度の1次成分arT_0毎に参照関数fref(t)が生成される。
図8は、(S32)で生成される複数の参照関数fref(t)の説明図である。なお、図8では、目標物の信号値を実線で示し、生成される参照関数fref(t)を破線で示す。図8に示すように、(S2)で目標物のアジマス方向の定数成分aaT_0とレンジ方向速度の1次成分arT_1とが特定されているため、2次関数の曲線の形状(曲率)は1つに特定されている。ここでは、参照関数生成部121は、特定された曲線の形状(曲率)の2次関数の切り出す範囲を、合成開口時間(1)(2)(3)のように時間軸方向にずらした複数の参照関数fref(t)を生成する。なお、切り出す範囲の時間軸方向の幅は固定であり、どの合成開口時間も合成開口時間(1)に示すαend−αstartと等しい。
(S33:画像再生ステップ)
画像再生部122は、(S32)で生成した各参照関数fref(t)に基づき(S1)で入力されたレンジ圧縮後データをアジマス圧縮して、アジマス圧縮後データを処理装置により生成する。
(S34:鮮明度算出ステップ)
鮮明度算出部123は、(S33)で生成したアジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を処理装置により算出する。
つまり、鮮明度算出部123は、図8において、目標物の信号値を示す実線と、各合成開口時間における破線との相関(一致の程度)を計算する。目標物の信号値を示す実線の時間軸方向の範囲と、合成開口時間の範囲とが近いほど、相関は高くなる。
(S35:速度特定ステップ)
速度特定部124は、(S34)で算出した目標物の画像の鮮明度が最も高いアジマス圧縮後データを処理装置により特定する。速度特定部124は、特定したアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数fref(t)を生成する場合に、(S32)で使用した目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を処理装置により特定する。これにより、目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を特定することができる。
【0044】
(S4:第3速度成分特定ステップ)
目標物の残りの速度成分を特定する。つまり、目標物のアジマス方向の1次成分以上の成分と、レンジ方向の2次成分以上の成分とを所定の順に特定する。例えば、目標物のアジマス方向の1次成分、目標物のレンジ方向の2次成分、目標物のアジマス方向の2次成分、目標物のレンジ方向の3次成分・・・の順に次数の低い成分から特定する。
なお、ここでは、曲線の形状の違いに基づく画像のボケを利用して、目標物の残りの速度成分を特定する。
【0045】
図9は、第3速度成分特定ステップの処理を示すフローチャートである。
(S41:速度入力ステップ)
予測速度入力部112は、特定しようとする速度成分を様々に変化させて、予測速度として入力して記憶装置に記憶する。また、予測速度入力部112は、(S2)、(S3)で特定した目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0と、レンジ方向速度の定数成分arT_0及び1次成分arT_1とを入力して記憶装置に記憶する。また、予測速度入力部112は、その他の速度成分については、0あるいは所定の値を入力して記憶装置に記憶する。
例えば、目標物のアジマス方向の1次成分を特定する場合、予測速度入力部112は、目標物のアジマス方向の1次成分aaT_1を様々に変化させて、予測速度として入力する。また、予測速度入力部112は、(S2)及び(S3)で特定したアジマス方向速度の定数成分aaT_0と、レンジ方向速度の定数成分arT_0及び1次成分arT_1とを入力する。また、予測速度入力部112は、他の速度成分(目標物のアジマス方向の2次成分以上の成分、及び、目標物のレンジ方向の2次成分以上の成分)として、0又は所定の値を入力する。
(S42:参照関数生成ステップ)
参照関数生成部121は、(S1)で入力されたSAR搭載機の速度Vと、(S41)で入力された各速度成分を数17に示す式に代入する。これにより、(S41)で入力された特定しようとする速度成分(ここでは、目標物のアジマス方向速度の1次成分aaT_1)毎に、rPT(t)が計算される。そして、参照関数生成部121は、計算されたrPT(t)を用いて、数13を計算することにより、(S31)で入力された特定しようとする速度成分毎に参照関数fref(t)を処理装置により生成する。つまり、参照関数生成部121は、特定しようとする速度成分に応じて、tの2次関数の曲線の形状を様々に変化させた複数の参照関数fref(t)を生成する。
(S43:画像再生ステップ)
画像再生部122は、(S42)で生成した各参照関数fref(t)に基づき(S1)で入力されたレンジ圧縮後データをアジマス圧縮して、アジマス圧縮後データを処理装置により生成する。
(S44:鮮明度算出ステップ)
鮮明度算出部123は、(S43)で生成したアジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を処理装置により算出する。
(S45:速度特定ステップ)
速度特定部124は、(S44)で算出した目標物の画像の鮮明度が最も高いアジマス圧縮後データを処理装置により特定する。速度特定部124は、特定したアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数fref(t)を生成する場合に、(S42)で使用した速度成分(ここでは、目標物のアジマス方向速度の1次成分aaT_1)を処理装置により特定する。これにより、その速度成分(ここでは、目標物のアジマス方向速度の1次成分aaT_1)を特定することができる。
全ての速度成分が特定されていない場合、再び処理を(S41)へ戻して、他の速度成分を特定する。これを繰り返すことで、全ての速度成分を特定することができる。
【0046】
以上のように、この実施の形態に係る目標物速度特定装置100は、目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を特定する際、2次関数の頂点位置のずれに着目し、合成開口時間を変化させて複数の参照関数fref(t)を生成した。これにより、目標物のレンジ方向速度の1次成分arT_1を高精度に特定することができる。
【0047】
目標物速度特定装置100は、例えば、アジマス圧縮後のSAR画像から目標物の速度を高精度に特定できるため、海洋においては、不審船や流氷等の動作の分析、動作の監視、動向予測等に応用できる。また、陸上や海上の交通の監視にも有効である。
また、アジマス圧縮後のSAR画像における各画素についての速度を求め、所定の速度以上の速度の画素を抽出することにより、アジマス圧縮後のSAR画像に含まれる移動体を検出することができる。つまり、移動体検出(MTI:Moving Target Indicator)技術に応用することができる。
【0048】
また、(S2)、(S3)で特定した目標物のアジマス方向速度の定数成分aaT_0と、レンジ方向速度の定数成分arT_0及び1次成分arT_1とに基づき、数21を計算すると、目標物を本来結像すべき位置と、数18に示す2次関数の頂点位置とのずれ量が得られる。そのため、目標物を本来結像すべき位置、つまり合成開口中心における目標物の位置を特定することができる。
【0049】
なお、上記説明では、(S1)でSAR画像のSLCデータを入力するとした。しかし、複素数のデータであれば、SLCの数ピクセルを重み付けして1ピクセルとするいわゆるマルチルック処理した画像であるMLC(マルチルックコンプレックス)データであってもよい。
【0050】
補足として、(S23),(S33),(S43)の画像再生ステップについて説明する。なお、画像再生ステップの処理は一般的な処理であるため、簡単に説明する。
図10は、画像再生ステップの処理を示すフローチャートである。
【0051】
(S51:レンジマイグレーション補正ステップ)
レンジマイグレーション補正部125は、相対距離rPT(t)に応じて、補正量Crを算出する。なお、補正量Crの算出方法は、例えば特許文献1に記載された方法等である。レンジマイグレーション補正部125は、算出された補正量Crに基づいて、(S1)でデータ入力部111が入力したレンジ圧縮後データについてレンジマイグレーション補正し補正後データを生成する。
【0052】
(S52:ゼロ詰め処理ステップ)
ゼロ詰め処理部126は、(S51)で生成した補正後データに0を詰めることにより、補正後データの画素数を2のべき乗としたゼロ詰めデータを処理装置により生成する。
【0053】
(S53:高速フーリエ変換処理ステップ)
FFT処理部127は、(S52)で生成したゼロ詰めデータをFFT(高速フーリエ変換)しFFT後データを処理装置により生成する。
また、FFT処理部127は、参照関数生成部121が生成した参照関数fref(t)をFFTしFFT後参照関数を処理装置により生成する。
【0054】
(S54:アジマス圧縮処理ステップ)
アジマス圧縮処理部128は、(S53)でFFT処理部127が生成したFFT後参照関数に基づき、FFT後データをアジマス圧縮しアジマス圧縮後データを処理装置により生成する。
【0055】
(S55:逆高速フーリエ変換処理ステップ)
IFFT処理部129は、(S54)でアジマス圧縮したアジマス圧縮後データをIFFT(逆高速フーリエ変換)し、IFFT後データを処理装置により生成する。これにより、アジマス圧縮したSAR画像データが生成される。
【0056】
実施の形態2.
実施の形態2では、ドップラ周波数の帯域制限がされた場合について説明する。
【0057】
静止目標を対象としたシステムでは、静止したドップラ周波数を高品質に画像化するために、ドップラ周波数帯域を制限する場合がある。ドップラ周波数帯域を制限するとは、一部の周波数帯域についての信号値をカット(削除)してしまうことである。通常、高周波帯域の信号値がカットされる。図11は、ドップラ周波数帯域が制限された場合の一例を示す図である。図11では、周波数帯域Sの範囲の信号値がカットされている。
なお、ドップラ周波数領域における目標距離の軌跡と時間領域における目標距離の軌跡とは、同等に扱うことができる。図12は、ドップラ周波数領域と時間領域との対応関係を示す図である。図12では、目標が静止している場合を例として示す。ドップラ周波数領域における相対距離の変化とそれに対応する時刻が既知であるため、時間軸と周波数軸とをユニークに対応付けることができる。図12では、周波数領域における領域S1と時間領域における領域S1’とが対応しており、周波数領域における領域S2と時間領域における領域S2’とが対応している。ここで、ドップラ周波数領域で高周波成分をカットするということは、時間軸で2次関数の頂点位置から遠い部分をカットすることに対応する。
【0058】
図13は、ドップラ周波数領域が制限されている場合に、(S34)で計算される鮮明度の変化を示す図である。図13では、縦軸が鮮明度の評価値であり、横軸がレンジ方向速度の定数成分である。
図13に示すように、ドップラ周波数領域が制限されている場合、(S34)で計算される鮮明度が最も高くなるピークが1点ではなく、所定の範囲を持つことになる。つまり、レンジ方向速度の定数成分がarT_01からarT_02までの範囲で、鮮明度が最も高くなる。
【0059】
図14は、鮮明度が最も高くなるピークが所定の範囲を持つことの説明図である。
図14では、本来の合成開口時間は合成開口時間Tであり、この範囲においては信号値を有するが、このうち領域Sの信号(二点破線部分)がカットされている。この場合、参照関数fref(t)を生成する際に用いる合成開口時間T’が合成開口時間Tと一致する場合(図14の合成開口時間t(1)となる場合)の速度arT_0が本来求めるべき速度である。
しかし、(S1)で丹生慮臆された合成開口時間tを徐々に図14の左側へずらしていくと、開始時刻αstartが信号がカットされた領域Sと重なる合成開口時間t(2)になった時点で、合成開口時間t(1)となる場合と、目標物の信号値を示す実線と、各合成開口時間における破線との相関(一致の程度)が同一になる。そのまま、合成開口時間tを徐々に図14の左側へずらしていくと、開始時刻αstartが信号がカットされた領域Sと重なっている間は、ずっと合成開口時間t(1)となる場合と、目標物の信号値を示す実線と、各合成開口時間における破線との相関(一致の程度)が同一になる。そして、開始時刻αstartが信号がカットされた領域Sを越えると、目標物の信号値を示す実線と、各合成開口時間における破線との相関(一致の程度)が低くなる。
つまり、図14において開始時刻αstartが信号がカットされた領域Sと重なる状態となるレンジ方向速度の定数成分arT_0の範囲が、図13で示すarT_01からarT_02までの範囲であり、鮮明度が最も高くなる。そして、鮮明度が最も高くなる範囲において、本来求めるべき速度は、(S1)で入力された合成開口時間tから最も大きくずらした合成開口時間となる場合の速度である。
ここで、レンジ方向速度の定数成分arT_0が大きいほど、生成される参照関数fref(t)における合成開口時間tと、(S1)で入力された合成開口時間tとの間のずれが大きい。したがって、鮮明度が最も高くなる速度範囲で、最も速い速度を特定することで、本来求めるべき速度を特定することができる。したがって、図14では、arT_02をレンジ方向速度の定数成分として特定すればよい。
【0060】
つまり、ドップラ周波数の帯域制限がされた場合には、(S35)において、速度特定部124は、複数のアジマス圧縮後データを特定することになる。そこで、速度特定部124は、特定した複数のアジマス圧縮後データを生成するために使用した複数の参照関数fref(t)を生成する場合に、(S32)で使用した複数の目標物のレンジ方向速度の定数成分arT_0を特定し、そのうち最も速い速度を特定する。これにより、本来求めるべき目標物のレンジ方向速度の定数成分を特定することができる。
【0061】
次に、目標物速度特定装置100のハードウェア構成について説明する。
図15は、目標物速度特定装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。
図15に示すように、目標物速度特定装置100は、プログラムを実行するCPU911(Central・Processing・Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサともいう)を備えている。CPU911は、バス912を介してROM913、RAM914、LCD901(Liquid Crystal Display)、キーボード902(K/B)、通信ボード915、磁気ディスク装置920と接続され、これらのハードウェアデバイスを制御する。磁気ディスク装置920(固定ディスク装置)の代わりに、光ディスク装置、メモリカード読み書き装置などの記憶装置でもよい。磁気ディスク装置920は、所定の固定ディスクインタフェースを介して接続される。
【0062】
ROM913、磁気ディスク装置920は、不揮発性メモリの一例である。RAM914は、揮発性メモリの一例である。ROM913とRAM914と磁気ディスク装置920とは、記憶装置(メモリ)の一例である。また、キーボード902、通信ボード915は、入力装置の一例である。また、通信ボード915は、通信装置(ネットワークインタフェース)の一例である。さらに、LCD901は、表示装置の一例である。
【0063】
磁気ディスク装置920又はROM913などには、オペレーティングシステム921(OS)、ウィンドウシステム922、プログラム群923、ファイル群924が記憶されている。プログラム群923のプログラムは、CPU911、オペレーティングシステム921、ウィンドウシステム922により実行される。
【0064】
プログラム群923には、上記の説明において「入力部110」、「処理部120」等として説明した機能を実行するソフトウェアやプログラムやその他のプログラムが記憶されている。プログラムは、CPU911により読み出され実行される。
ファイル群924には、上記の説明において被覆情報記憶装置34が記憶する情報やデータや信号値や変数値やパラメータが、「ファイル」や「データベース」の各項目として記憶される。「ファイル」や「データベース」は、ディスクやメモリなどの記録媒体に記憶される。ディスクやメモリなどの記憶媒体に記憶された情報やデータや信号値や変数値やパラメータは、読み書き回路を介してCPU911によりメインメモリやキャッシュメモリに読み出され、抽出・検索・参照・比較・演算・計算・処理・出力・印刷・表示などのCPU911の動作に用いられる。抽出・検索・参照・比較・演算・計算・処理・出力・印刷・表示のCPU911の動作の間、情報やデータや信号値や変数値やパラメータは、メインメモリやキャッシュメモリやバッファメモリに一時的に記憶される。
【0065】
また、上記の説明におけるフローチャートの矢印の部分は主としてデータや信号の入出力を示し、データや信号値は、RAM914のメモリ、その他光ディスク等の記録媒体やICチップに記録される。また、データや信号は、バス912や信号線やケーブルその他の伝送媒体や電波によりオンライン伝送される。
また、上記の説明において「〜部」として説明するものは、「〜回路」、「〜装置」、「〜機器」、「〜手段」、「〜機能」であってもよく、また、「〜ステップ」、「〜手順」、「〜処理」であってもよい。また、「〜装置」として説明するものは、「〜回路」、「〜機器」、「〜手段」、「〜機能」であってもよく、また、「〜ステップ」、「〜手順」、「〜処理」であってもよい。さらに、「〜処理」として説明するものは「〜ステップ」であっても構わない。すなわち、「〜部」として説明するものは、ROM913に記憶されたファームウェアで実現されていても構わない。或いは、ソフトウェアのみ、或いは、素子・デバイス・基板・配線などのハードウェアのみ、或いは、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実施されても構わない。ファームウェアとソフトウェアは、プログラムとして、ROM913等の記録媒体に記憶される。プログラムはCPU911により読み出され、CPU911により実行される。すなわち、プログラムは、上記で述べた「〜部」としてコンピュータ等を機能させるものである。あるいは、上記で述べた「〜部」の手順や方法をコンピュータ等に実行させるものである。
【符号の説明】
【0066】
100 目標物速度特定装置、110 入力部、120 処理部、111 データ入力部、112 予測速度入力部、113 合成開口時間情報入力部、114 SAR速度入力部、121 参照関数生成部、122 画像再生部、123 鮮明度算出部、124 速度特定部、125 レンジマイグレーション補正部、126 ゼロ詰め処理部、127 FFT処理部、128 アジマス圧縮処理部、129 IFFT処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SAR(Synthetic Aperture Radar)により観測された目標物の速度を特定する目標物速度特定装置であり、
SARが観測した目標物のデータについてレンジ圧縮したレンジ圧縮後データを入力して記憶装置に記憶するデータ入力部と、
SARを搭載したSAR搭載機の速度を入力して記憶装置に記憶するSAR速度入力部と、
合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを示す合成開口時間情報を入力して記憶装置に記憶する合成開口時間情報入力部と、
目標物の複数の予測速度を入力して記憶装置に記憶する予測速度入力部と、
前記SAR速度入力部が入力したSAR搭載機の速度と、前記合成開口時間情報入力部が入力した合成開口時間情報が示す合成開口時間と、前記予測速度入力部が入力した複数の予測速度とに基づき、前記予測速度入力部が入力した予測速度毎に、前記SAR搭載機の速度と目標物の速度とに基づき表される前記SARと前記目標物との相対距離と、合成開口時間とから得られる参照関数を処理装置により生成することで、複数の参照関数を生成する参照関数生成部であって、所定の場合には前記予測速度に応じて前記合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて参照関数を生成する参照関数生成部と、
前記参照関数生成部が生成した複数の参照関数の各参照関数に基づき、前記レンジ圧縮後データをアジマス圧縮し複数のアジマス圧縮後データを処理装置により生成するアジマス圧縮処理部と、
前記アジマス圧縮処理部が生成した複数のアジマス圧縮後データの各アジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を処理装置により算出する鮮明度算出部と、
前記鮮明度算出部が算出した前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成部が使用した予測速度を目標物の速度として処理装置により特定する速度特定部と
を備えることを特徴とする目標物速度特定装置。
【請求項2】
前記予測速度入力部は、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式と、目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式とについて、所定の多項式の所定の次数から順に、その多項式のその次数の係数を変化させることにより生成した目標物の複数の予測速度を入力し、
前記速度特定部は、その次数の多項式で表した場合の目標物の速度を特定することで、その多項式のその次数の係数を特定し、
前記予測速度入力部は、その多項式のその次数係数の以外の係数は、前記速度特定部により既に特定されている場合には特定された値とし、特定されていない場合には所定の値とする
ことを特徴とする請求項1記載の目標物速度特定装置。
【請求項3】
前記参照関数生成部は、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、予測速度に応じて前記合成開口時間を変化させて参照関数を生成する
ことを特徴とする請求項2記載の目標物速度特定装置。
【請求項4】
前記参照関数生成部は、
目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度と、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の1次の係数を変化させて生成された予測速度とのいずれかが入力された場合には、前記SARと前記目標物との相対距離を表す数1を数2に基づき展開して2次の項までに限定した式に基づき、数3を計算して参照関数を生成し、
目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、数1を展開して2次の項までに限定した式に基づくとともに、数4に基づき合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて数3を計算して参照関数を生成する
ことを特徴とする請求項3に記載の目標物速度特定装置。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

ここで、rPTはSARと目標物との相対距離、tは時刻、Rは合成開口中心でのSARと目標物との距離、vrEは地球の自転による目標物のレンジ方向速度、vaEは地球の自転による目標物のアジマス方向速度、VrTは目標物自身の移動による目標物のレンジ方向速度、VaTは目標物自身の移動による目標物のアジマス方向速度、aP_0はSAR搭載機の速度の0次成分、fref(t)は参照関数、rect(t/T)はtがTに含まれる場合は1、tがTに含まれない場合は0となる関数、λは、SARから放射される電波の波長、αstartは前記合成開口時間情報入力部が入力した合成開口時間の開始時刻、αendは前記合成開口時間情報入力部が入力した合成開口時間の終了時刻、aは数5、aは数6である。
【数5】

【数6】

【請求項5】
前記参照関数生成部は、
他の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、前記SARと前記目標物との相対距離を表す数1を所定の次数まで展開した式に基づき、数2を計算して参照関数を生成する
ことを特徴とする請求項4に記載の目標物速度特定装置。
【請求項6】
前記予測速度入力部は、目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度と、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の1次の係数を変化させて生成された予測速度とを所定の順に入力し、次に目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度を入力し、その後他の係数を変化させて生成された予測速度を所定の順に入力する
ことを特徴とする請求項5に記載の目標物速度特定装置。
【請求項7】
前記速度特定部は、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合において、前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データが複数存在する場合には、前記目標物の画像の鮮明度が高い複数のアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成部が使用した予測速度のうちで最も速い予測速度を目標物の速度として特定する
ことを特徴とする請求項3から6までのいずれかに記載の目標物速度特定装置。
【請求項8】
SAR(Synthetic Aperture Radar)により観測された目標物の速度を特定する目標物速度特定プログラムであり、
SARが観測した目標物のデータについてレンジ圧縮したレンジ圧縮後データを入力するデータ入力処理と、
SARを搭載したSAR搭載機の速度を入力するSAR速度入力処理と、
合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを示す合成開口時間情報を入力する合成開口時間情報入力処理と、
目標物の複数の予測速度を入力する予測速度入力処理と、
前記SAR速度入力処理で入力したSAR搭載機の速度と、前記合成開口時間情報入力処理で入力した合成開口時間情報が示す合成開口時間と、前記予測速度入力処理で入力した複数の予測速度とに基づき、前記予測速度入力処理で入力した予測速度毎に、前記SAR搭載機の速度と目標物の速度とに基づき表される前記SARと前記目標物との相対距離と、合成開口時間とから得られる参照関数を生成することで、複数の参照関数を生成する参照関数生成処理であって、所定の場合には前記予測速度に応じて前記合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて参照関数を生成する参照関数生成処理と、
前記参照関数生成処理で生成した複数の参照関数の各参照関数に基づき、前記レンジ圧縮後データをアジマス圧縮し複数のアジマス圧縮後データを生成するアジマス圧縮処理と、
前記アジマス圧縮処理で生成した複数のアジマス圧縮後データの各アジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を算出する鮮明度算出処理と、
前記鮮明度算出処理で算出した前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成処理で使用した予測速度を目標物の速度として特定する速度特定処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とする目標物速度特定プログラム。
【請求項9】
前記予測速度入力処理では、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式と、目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式とについて、所定の多項式の所定の次数から順に、その多項式のその次数の係数を変化させることにより生成した目標物の複数の予測速度を入力し、
前記速度特定処理では、その次数の多項式で表した場合の目標物の速度を特定することで、その多項式のその次数の係数を特定し、
前記予測速度入力処理では、その多項式のその次数の係数以外の係数は、前記速度特定処理で既に特定されている場合には特定された値とし、特定されていない場合には所定の値とする
ことを特徴とする請求項8記載の目標物速度特定プログラム。
【請求項10】
前記参照関数生成処理では、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、予測速度に応じて前記合成開口時間を変化させて参照関数を生成する
ことを特徴とする請求項9記載の目標物速度特定プログラム。
【請求項11】
前記参照関数生成処理では、
目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度と、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の1次の係数を変化させて生成された予測速度とのいずれかが入力された場合には、前記SARと前記目標物との相対距離を表す数7を数8に基づき展開して2次の項までに限定した式に基づき、数9を計算して参照関数を生成し、
目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、数7を展開して2次の項までに限定した式に基づくとともに、数10に基づき合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて数9を計算して参照関数を生成する
ことを特徴とする請求項10に記載の目標物速度特定プログラム。
【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

ここで、rPTはSARと目標物との相対距離、tは時刻、Rは合成開口中心でのSARと目標物との距離、vrEは地球の自転による目標物のレンジ方向速度、vaEは地球の自転による目標物のアジマス方向速度、VrTは目標物自身の移動による目標物のレンジ方向速度、VaTは目標物自身の移動による目標物のアジマス方向速度、aP_0はSAR搭載機の速度の0次成分、fref(t)は参照関数、rect(t/T)はtがTに含まれる場合は1、tがTに含まれない場合は0となる関数、λは、SARから放射される電波の波長、αstartは前記合成開口時間情報入力処理で入力した合成開口時間の開始時刻、αendは前記合成開口時間情報入力処理で入力した合成開口時間の終了時刻、aは数11、aは数12である。
【数11】

【数12】

【請求項12】
前記参照関数生成処理では、
他の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合には、前記SARと前記目標物との相対距離を表す数7を所定の次数まで展開した式に基づき、数8を計算して参照関数を生成する
ことを特徴とする請求項11に記載の目標物速度特定プログラム。
【請求項13】
前記予測速度入力処理では、目標物のアジマス方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度と、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の1次の係数を変化させて生成された予測速度とを所定の順に入力し、次に目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度を入力し、その後他の係数を変化させて生成された予測速度を所定の順に入力する
ことを特徴とする請求項12に記載の目標物速度特定プログラム。
【請求項14】
前記速度特定処理では、目標物のレンジ方向の予測速度を表す多項式の0次の係数を変化させて生成された予測速度が入力された場合において、前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データが複数存在する場合には、前記目標物の画像の鮮明度が高い複数のアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成処理で使用した予測速度のうちで最も速い予測速度を目標物の速度として特定する
ことを特徴とする請求項10から13までのいずれかに記載の目標物速度特定プログラム。
【請求項15】
SAR(Synthetic Aperture Radar)により観測された目標物の速度を特定する目標物速度特定方法であり、
SARが観測した目標物のデータについてレンジ圧縮したレンジ圧縮後データを入力するデータ入力工程と、
SARを搭載したSAR搭載機の速度を入力するSAR速度入力工程と、
合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを示す合成開口時間情報を入力する合成開口時間情報入力工程と、
目標物の複数の予測速度を入力する予測速度入力工程と、
前記SAR速度入力工程で入力したSAR搭載機の速度と、前記合成開口時間情報入力工程で入力した合成開口時間情報が示す合成開口時間と、前記予測速度入力工程で入力した複数の予測速度とに基づき、前記予測速度入力工程で入力した予測速度毎に、前記SAR搭載機の速度と目標物の速度とに基づき表される前記SARと前記目標物との相対距離と、合成開口時間とから得られる参照関数を生成することで、複数の参照関数を生成する参照関数生成工程であって、所定の場合には前記予測速度に応じて前記合成開口時間の開始時刻と終了時刻とを変化させて参照関数を生成する参照関数生成工程と、
前記参照関数生成工程で生成した複数の参照関数の各参照関数に基づき、前記レンジ圧縮後データをアジマス圧縮し複数のアジマス圧縮後データを生成するアジマス圧縮処理工程と、
前記アジマス圧縮処理工程で生成した複数のアジマス圧縮後データの各アジマス圧縮後データが示す目標物の画像の鮮明度を算出する鮮明度算出工程と、
前記鮮明度算出工程で算出した前記目標物の画像の鮮明度が高いアジマス圧縮後データを生成するために使用した参照関数を生成する場合に、前記参照関数生成工程で使用した予測速度を目標物の速度として特定する速度特定工程と
を備えることを特徴とする目標物速度特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−191267(P2011−191267A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59618(P2010−59618)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(591102095)三菱スペース・ソフトウエア株式会社 (148)
【Fターム(参考)】