説明

目標観測レーダ装置及び目標追尾方法

【課題】平行移動による観測予報値の補正に代わる補正方式を提供する。
【解決手段】観測した目標物の軌道データに基づいて観測予報値を作成する観測計画作成処理部と、前記観測計画作成処理部からの前記観測予報値に基づいて、目標物を観測した軌道データに含まれるデータ誤差と、目標物固有の軌道の不安定要素とを含んだ誤差値を考慮した2以上の軌道モデルを求め、前記目標物を初期捕捉した観測データに近似した軌道データを前記軌道データから抽出し、前記抽出した軌道データの観測予報値を目標物の追尾観測データとして出力する観測実行計画処理部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球軌道を周回する人工衛星或いはスペースデブリ等の人工物体(以下、目標物という)を探知及び追跡(以下、観測という)する地上設置型の目標観測レーダ装置及び目標追尾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地上設置型の目標観測レーダ装置、いわゆる一次レーダ装置による観測は、既に運用停止して、二次レーダ装置から送信される質問信号に応答しなくなった衛星本体、アクティブな応答機能のないスペースデブリ(ロケットブースタ−あるいは衝突、爆発等で飛散した破片等)を対象として行われている(特許文献1〜4)。
【0003】
前記一次レーダ装置による観察対象物としては、既に過去の観測からその軌道値が判明してカタログ化されている目標物と、新しく発生して軌道の未知な目標物とに分類される。
【0004】
一次レーダ装置を用いた一般的な観測システムを図5に示す。図5に示す一次レーダ装置は、未知の目標物を発見して、その目標物を追跡し、その航跡から軌道を求めるのが主要な役割である。図5に示す一次レーダ装置は、空中線を放射するレーダ部1と、信号処理部2と、軌道値変換処理部3と、軌道データベース4と、初期捕捉計画処理部5と、ビーム走査データ処理部6とを有している。
【0005】
図5に示す一次レーダ装置は、目標物の位置及び運動に対する予見情報を備えていないのが一般的であり、目標を検出した後、検出データから位置変化(ベクトル)を求め、次のレーダヒットで空中線のビーム方向を制御することで、自律的な追尾を行うものである。
【0006】
地球を周回している目標物の場合、図6に示すように、2以上のレーダ局9を地球上に分散配置し、それぞれのレーダ局9同士をネットワーク10で結んでいる。ネットワーク10を介して移動する目標物の観測データを次々とリレーすることで、軌道値に変化があっても、時間的間隔を短くすることで、その変化分が少なくなり、目標物を見逃さない方式が取られている。
【0007】
既に軌道値が知られており何時何処を通過するかを軌道計算で求めることの可能な目標物については、事前に観測予報値を作成しておき、それに沿って観測することで、観測の能率を上げることができる。この種のレーダ装置を図7に示す。
【0008】
図7に示すレーダ装置は、空中線より電波を放射するレーダ部1と、信号処理部2と、軌道値変換処理部3と、軌道データベース4と、観測計画作成処理部7と、ビーム走査データ処理部6とを有している。
【0009】
図7に示すレーダ装置は、AOSに始まりLOSで終了する一連のパラメータ(観測予報値)を観測開始前に準備しておき、それに従って初期捕捉・追尾を実施する。ある程度軌道安定度が高い場合であっても、実際の観測において誤差ΔTはゼロではないので、初期捕捉が終了した時点で、予報値の修正が必要となる。この場合の予報値の修正は、観測予報値をΔT分だけ時間軸上で移動して、新しい観測値を生成する方式である。
【0010】
図8に示すレーダ装置は、軌道安定度の低い目標物の観測システムであり、空中線より電波を放射するレーダ部1と、信号処理部2と、軌道値変換処理部3と、軌道データベース4と、観測計画作成処理部7と、観測パラメータ再構築処理部8と、ビーム走査データ処理部6とを有している。
【特許文献1】特開2002−249100号公報
【特許文献2】特開2004−205525号公報
【特許文献3】特開2006−213089号公報
【特許文献4】特許第3001757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図7に示すレーダ装置の場合、図10(a),(b)に示すように、軌道の時間ずれΔTの絶対値t1が小さい場合は、平行移動で近似できるが、ある程度絶対値t2が大きいと、観測予報値をΔT分だけ時間軸上で移動して、新しい観測値を生成することは、事実上不可能となる。
【0012】
図8に示すレーダ装置は、低い軌道上にある目標物のため軌道安定度が低く、ΔT分の平行移動では不十分な場合を想定したものであり、目標物の初期捕捉で求まったΔTを、観測予報値の生成に使用した計算にフィードバックし、再度最初から計算をやり直すことで新しい観測予報値を得ようとするものである。
【0013】
しかし、図8のレーダ装置では、前記再計算処理を初期捕捉終了時点から、追尾開始時点の間にリアルタイムで計算処理する必要があり、システムへの負担を考えると現実的ではないため、これに代わる等価な方策が求められている。
【0014】
本発明の目的は、平行移動による観測予報値の補正に代わる補正方式を採用した目標観測レーダ装置及び目標追尾方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明に係る目標観測レーダ装置は、目標物を追尾観測する目標観測レーダ装置であって、
目標物の軌道データに基づいて観測予報値を作成する観測計画作成処理部と、
前記観測計画作成処理部からの前記観測予報値に誤差を考慮して可能性のある時間ずれの範囲を設定し、前記範囲内で目標物の2以上の軌道モデルを求め、前記目標物を初期捕捉した観測データに近似した前記軌道モデルを抽出し、前記抽出した軌道モデルに基づくデータを目標物の追尾観測データとして出力する観測実行計画処理部と、を有することを特徴とするものである。
【0016】
なお、本発明は、ハードウェアとしての目標観測レーダ装置として構築される場合に限られるものではない。本発明は、ソフトウェアとしての目標観測プログラム、或いは目追尾方法として構築してもよいものである。
【0017】
本発明に係る目標観測プログラムは、目標物を追尾観測する目標観測レーダ装置を構成するコンピュータに、
目標物の軌道データに基づいて観測予報値を作成する機能と、
前記観測計画作成処理部からの前記観測予報値に誤差を考慮して可能性のある時間ずれの範囲を設定し、前記範囲内で目標物の2以上の軌道モデルを求める機能と、
前記目標物を初期捕捉した観測データに近似した前記軌道モデルを抽出し、前記抽出した軌道モデルに基づくデータを目標物の追尾観測データとして出力する機能とを実行させる構成として構築する。
【0018】
本発明に係る目標追尾方法は、目標物を追尾観測する目標追尾方法であって、
目標物の軌道データに基づいて観測予報値を作成し、
前記観測予報値に誤差を考慮して可能性のある時間ずれの範囲を設定し、前記範囲内で目標物の2以上の軌道モデルを求め、
前記目標物を初期捕捉した観測データに近似した前記軌道モデルを抽出し、前記抽出した軌道モデルに基づくデータを目標物の追尾観測データとして出力する構成として構築する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、軌道ずれの大きい目標物に対して補正精度を向上でき、追尾継続時間を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0021】
目標物が例えば地球を周回する人工衛星である場合、目標物の観測予報値と実際の観測との差異は、(1)予測に使用した過去の観測データに含まれる誤差に基づいて予測がずれる場合と、(2)過去の観測時点から現在に至る時間経過内に生じた各種の外部要因の揺らぎ(例えば、太陽活動に影響を受けている高空域の大気密度の変動,地球の地域的な質量の差異など)により目標物の軌道がすれる場合とが考えられる。
【0022】
(1)の場合は、レーダ観測システムの特性に依存するランダムな誤差であるのに対し、(2)の場合は、観測時点では予測不可能な変動要素として扱われる。目標物が比較的低い高度の軌道上にある場合は、特に大きく軌道が変動し、特に大気圏に突入(落下)間近の目標物を確実に観測するためには、この変動に対応できる観測方法を考案する必要がある。これらの軌道の変化は高度の変化として現れ、目標物の地球周回の角速度が変化するため、レーダ局の視野に入る時間(AOS)が変化する。同時に地球の自転の関係から方位角度のずれと最大仰角の変化となって現れる。
【0023】
図9に、軌道が変化した目標物がレーダ局の視野内に出現する方位、仰角の関係を示す一例を示すものである。図9において、実線で示す目標物の軌道R1を基準とすると、1点鎖線で示す目標物の軌道R2は、軌道R1上での予測時間より目標物がレーダ局の視野内に早く出現する場合(時間ずれΔTが負)でt=aの時点で既に仰角が40度付近にある。2点鎖線で示す目標物の軌道R3は、軌道R1上での予測時間より目標物がレーダ局の視野内に遅れて出現する場合(時間ずれΔTが正)で、t=aの時点ではまだ40度より下方である。
【0024】
以上の関係から、目標物がレーダ局の視野内に出現する時間(AOS)及び目標物がレーダ局の視野内外に消える時間(LOS)付近では、時間的なずれのみが顕著であるのに対し、高仰角の領域では方位、仰角、時間の三者が大きくずれる。
【0025】
時間ずれΔTの絶対値が比較的小さな場合(例えば、10秒程度以下)の場合に限定すれば、既に求められている予報値に対して初期捕捉で求まったΔTだけ時間移動(補正)することで、およそ真値に近い近似値が得られる。しかし、図10(a),(b)に示すように絶対値が大きな場合は、近似が十分でなく、特に高仰角付近で追尾が破綻するため、さらなる対策が必要である。
【0026】
本発明の実施形態に係る目標観測レーダ装置は図1に示すように、図2に示すフェーズドアレイ空中線により電子的にビーム指向方向を制御可能なシステムを使用し、自局で観測したデータを使用することで、目標物、例えば衛星のように地球周回を重ねて再び自局の視野に現れる目標物を捕捉するという一局のみで継続的な観測を可能とするシステムを構築するものである。
【0027】
本発明の実施形態に係る目標観測レーダ装置は図1に示すように、レーダ部1と、信号処理部2と、軌道値変換処理部3と、軌道データベース4と、ビーム走査データ処理部6とに加えて、観測計画作成処理部11と、観測実行計画処理部12とを含むものである。
【0028】
レーダ部1は図2に示すように、レーダ局13から電波ビーム14を目標物が通過する空間に向けて放射し、その電波ビーム14のスポット14aを、横方向に設定した方位セクタ捜索エリア(n)と縦方向に設定した仰角セクタ捜索エリア(m)との範囲内で空間をスキャンすることで、目標物を捕捉するものである。
【0029】
図2に示す例では、レーダ部1は、電波ビーム14のスポット14aを方位セクタ捜索エリア(n)の内で時間t1,t2・・・t(n)で横方向にスキャンさせ、次に方位セクタ捜索エリア(n)の基準位置(図2では右端)に戻し、仰角セクタ捜索エリア(m)の縦方向に一段シフトさせて再び横方向に時間t(n+1)からスキャンさせ、方位セクタ捜索エリア(n)と仰角捜索エリア(m)とを捜索する。方位セクタ捜索エリア(n)と仰角捜索エリア(m)とを電波ビーム14のスポット14aで捜索する捜索ボリュームは(n*m)である。
【0030】
図2において、矢印Aは目標物の移動軌跡を示している。●は、目標物を電波ビーム14のスポット14aで検出したことを示している。○は、目標物を電波ビーム14のスポット14aで検出しなかったことを示している。なお、図2に示すレーダ部1は、一例であって、図2による捜索方式以外のものを用いてもよいものである。要は、レーダ部1としては、目標物を捕捉可能な方式であれば、いずれのものであってもよいものである。
【0031】
信号処理部2は、レーダ部1から放射された電波ビームが目標物で反射した反射信号を雑音信号の中から識別することで目標物を検知し、目標物の位置情報を軌道値変換処理部3に送信する。信号処理部2は、レーダ部1の備えたモノパルス測角機能を利用することで、方位セクタエリア(n)と仰角エリア(m)との範囲内で検出された目標物の移動軌跡と基準となる目標物の移動軌跡との時間ずれΔTを検出し、その時間ずれのデータを軌道値変換処理部3に送信する。信号処理部2の上述した処理は汎用のものであって、その処理に本発明の実施形態の特徴がなく、その詳細な説明を省略する。信号処理部2は、目標物がレーダ部1の電波ビーム14の中心から一定限度で外れると、逐次補正データをビーム走査データ処理部6に送信する。
【0032】
軌道値変換処理部3は、信号処理部2から受信した目標物の位置情報を、レーダ部1で捕捉した目標物の軌道データに変換し、そのデータを実際に観測した目標物の軌道データとして軌道データベース4に送信する。軌道値変換処理部3は、信号処理部2から受信した前記時間ずれのデータ(図1のΔTデータ)を後述する観測実行計画処理部12に送信する。軌道値変換処理部3の上述した処理は汎用のものであって、その処理に本発明の実施形態の特徴がなく、その詳細な説明を省略する。
【0033】
軌道データベース4は、軌道値変換処理部3から受信した、実際の観測データである目標物の軌道データを逐次記憶し保存する。
【0034】
観測計画作成処理部11は、軌道データベース4からデータを読み出し、観測した目標の軌道データに基づいて、次に観測するための目標物の軌道の観測予報値を作成する。
【0035】
観測計画作成処理部11は、軌道データベース4に保存された、過去の観測により求められた目標物の軌道データを使用して、将来、かかる目標物がレーダ部1の視野内に到達する時刻を求め、さらに目標物がレーダ部1の視野内を通過する期間において、所望の時間間隔で、目標物の方位角,仰角及び距離を事前に計算し、これを観測予報値として記憶する。
【0036】
観測実行計画処理部12は、観測計画作成処理部11からの観測予報値に誤差を考慮して可能性のある時間ずれΔTの範囲を設定し、図3(a),(b)に示すような前記設定範囲内で仰角及び方位と時間との関係における目標物の2以上の軌道モデルM1〜Mnを求め、目標物を初期捕捉した観測データに近似した前記軌道データM1〜Mnを抽出し、前記抽出した軌道モデルM1〜Mnに基づくデータを目標物の追尾観測データとして出力する。
【0037】
観測実行計画処理部12は、前記観測予報値に対して考慮する前記誤差として、目標物の軌道データに含まれる誤差として例えば予報値精度を考慮し、目標物固有の軌道の不安定要素として例えば軌道安定度を考慮する。観測実行計画処理部12は、前記時間ずれΔTの範囲として、目標物の実際の軌道と観測予報値との差である予報値誤差の最大幅を設定する。
【0038】
観測実行計画処理部12は、前記軌道モデルに基づくデータとして、前記抽出した軌道モデルに対応する観測予報値を用いる。観測実行計画処理部12は、前記抽出した軌道モデルM1〜Mn毎に観測予報値、すなわち観測時刻に対するAOS(図9参照),方位角,仰角,距離,視線速度などの観測パラメータを算出し、それらの観測予報値を記録保存する。軌道モデル毎に観測予報値を算出する処理は汎用のものであり、その処理に本発明の実施形態での特徴がないため、その詳細な説明を省略する。
【0039】
ビーム走査データ処理部6は、観測実行計画処理部12から出力される目標物の追尾観測データを、電波ビーム14を制御するための制御信号に変換し、その制御信号をレーダ部1に送信する。
【0040】
以上の説明では、ハードウェアの目標観測レーダ装置として構築したが、信号処理部2と、軌道値変換処理部3と、軌道データベース4と、観測計画作成処理部11と、観測実行計画処理部12との機能をコンピュータに実行させるソフトウェアとしてのプログラムとして構築してもよいものである。
【0041】
次に、図1に示す本発明の実施形態に係る目標観測レーダ装置を用いて目標物の追尾観測を実行する場合を図4に基づいて説明する。
【0042】
観測計画処理部11は、軌道データベース4の保存データから、観測期間内にレーダ部1の視野内を通過する目標物のデータを全て抽出し、さらに、抽出した目標物毎に、観測パラメータ(観測時刻に対するAOS,方位角,仰角,距離及び視線速度等)、すなわち、観測予報値を生成する(図4のステップS1)。
【0043】
観測実行計画処理部12は、観測計画処理部11から観測予報値を受信すると、前記観測予報値に誤差(予測値精度,軌道安定度など)を考慮して可能性のある時間ずれΔTの範囲を設定し、図3(a),(b)に示すような前記設定範囲内で仰角及び方位と時間との関係における目標物の2以上の軌道モデルM1〜Mnを求める(図4のステップS2)。
【0044】
具体的には、観測実行計画処理部12は、前記設定した範囲内で±ΔTの区間を細分化(量子化)して、異なる予報値誤差(時間ずれΔT)を離散的に設定し、図3(a),(b)に示すように異なる予報値誤差(時間ずれΔT)をもつ2以上の軌道モデルM1〜Mnを求める。
【0045】
観測実行計画処理部12は、前記軌道モデルM1〜Mnに対する観測予報値(観測パラメータ)を演算し、その演算結果を記憶保存する(図4のステップS3)。
【0046】
以上の観測計画作成処理部11及び観測実行計画処理部12による処理を、目標物の追尾観測を行う前処理として実行する。
【0047】
目標物の追尾観測を実行する指令を外部から受信すると、観測実行計画処理部12は、指令を受けた目標物がレーダ部1の視野内に出現する観測時刻直前になると、目標物の追尾観測データ(観測予報値)をビーム走査データ処理部6に送信する。
【0048】
ビーム走査データ処理部6は、観測実行計画処理部12から出力される目標物の追尾観測データを、電波ビーム14を制御するための制御信号に変換し、その制御信号をレーダ部1に送信する。
【0049】
レーダ部1は、前記制御信号を受信すると、電波ビーム14を方位セクタエリアと仰角セクタエリアの範囲に放射し、前記エリアを通過する目標物の通過を監視する。レーダ部1は、追尾観測を開始して、目標物の初期捕捉において、目標物で電波ビームが反射した反射信号を検知すると、その反射信号を受信した目標物が追尾観測の対象物であるか否かを判定し、認識(同定)すると、目標物の初期捕捉を終了させる(図4のステップS4)。
【0050】
軌道値変換処理部3は、レーダ部1による目標物の初期捕捉期間に得られたデータに基づいて、目標物の実際の軌道と観測予報値との予報値誤差(時間ずれ;ΔTデータ)を求め、その予報値誤差(時間ずれ;ΔTデータ)を観測実行計画処理部12に送信する(図4のステップS5)。
【0051】
観測実行計画処理部12は、軌道値変換処理部3から予報値誤差(時間ずれ;ΔTデータ)のデータを受信すると、目標物を初期捕捉した観測データに近似した前記軌道データM1〜Mnの一つを抽出し、保存している前記抽出した軌道データM1〜Mnに対応する観測予報値(観測パラメータ)を目標物の追尾観測データとしてビーム走査データ処理部6に送信する(図4のステップS6)。
【0052】
以降、前記抽出した軌道データM1〜Mnに基づいて目標物の追尾観測を行う。
【0053】
前記目標物の追尾観測を行う過程で、軌道モデルの量子化の精度が不完全であって、目標物が電波ビームの中心から一定限度はずれると、信号処理部1は、逐次補正データをビーム走査データ処理部6に送信する。ビーム走査データ処理部6は、逐次補正データを受信すると、電波ビーム14の放射方向を制御し、目標物を電波ビームの中心で追尾するように制御する。
【0054】
目標物の追尾観測が終了すると、前記追尾観測で得られた一連の観測データは、軌道値変換処理部3により、目標物の軌道値に変換され、その変換されたデータは軌道データベース4に目標物の新たな軌道値として登録される(図4のステップS7)。
【0055】
以上のように本発明の実施形態によれば、観測予報値に従って目標の追尾を行う方式において、実際の目標の軌道のずれを本方式で補正することで、時間ずれΔTの平行移動による補正方式に比べ、軌道のずれの大きな(予報値誤差の大きな)目標物に対して、高仰角付近での補正精度を向上することができ、追尾継続時間を長くすることができる。このため、1パス内で得られるデータ量が多くなり、軌道決定精度を向上できる。
【0056】
時間ずれΔTが得られてから新たに軌道モデルを設定し、観測予報値の計算をさせる方式と比較した場合、それらの計算を実行させる替わりに、あらかじめ準備されている軌道モデルから適切な軌道モデルを選択し、既に計算されている観測予報値を選択するだけであるため、処理時間を短縮でき、目標物の初期捕捉の終了時点からの遅滞なく追尾モードに移行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、地球軌道を周回する人工衛星或いはスペースデブリなどの人工物体を探知及び追跡する装置として最適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る目標観測レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態において用いたレーダ部の一例を示す図である。
【図3】仰角及び方位と時間との関係において、Tを変数とした軌道モデルの例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る目標物観測レーダ装置を用いて目標物の追尾観測を行う場合を説明するフローチャートである。
【図5】関連する目標観測レーダ装置を示すブロック図である。
【図6】関連する目標観測レーダ装置を示すブロック図である。
【図7】関連する目標観測レーダ装置を示すブロック図である。
【図8】関連する目標観測レーダ装置を示すブロック図である。
【図9】目標方位と仰角との関係を示す特性図である。
【図10】関連する技術の問題点を説明する特性図である。
【符号の説明】
【0059】
1 レーダ部
2 信号処理部
3 軌道値変換処理部
4 軌道データベース
6 ビーム走査データ処理部
11 観測計画作成処理部
12 観測実行計画処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物を追尾観測する目標観測レーダ装置であって、
目標物の軌道データに基づいて観測予報値を作成する観測計画作成処理部と、
前記観測計画作成処理部からの前記観測予報値に誤差を考慮して可能性のある時間ずれの範囲を設定し、前記範囲内で目標物の2以上の軌道モデルを求め、前記目標物を初期捕捉した観測データに近似した前記軌道モデルを抽出し、前記抽出した軌道モデルに基づくデータを目標物の追尾観測データとして出力する観測実行計画処理部と、を有することを特徴とする目標観測レーダ装置。
【請求項2】
前記観測実行計画処理部は、
前記誤差として、目標物の軌道データに含まれる誤差と目標物固有の軌道の不安定要素とを考慮する、請求項1に記載の目標観測レーダ装置。
【請求項3】
前記観測実行計画処理部は、
前記時間ずれの範囲として、目標物の実際の軌道と観測予報値との差である予報値誤差の最大幅を設定する、請求項1に記載の目標観測レーダ装置。
【請求項4】
前記観測実行計画処理部は、
前記軌道モデルに基づくデータとして、前記抽出した軌道モデルに対応する観測予報値を用いる、請求項1に記載の目標観測レーダ装置。
【請求項5】
目標物を追尾観測する目標観測レーダ装置を構成するコンピュータに、
目標物の軌道データに基づいて観測予報値を作成する機能と、
前記観測計画作成処理部からの前記観測予報値に誤差を考慮して可能性のある時間ずれの範囲を設定し、前記範囲内で目標物の2以上の軌道モデルを求める機能と、
前記目標物を初期捕捉した観測データに近似した前記軌道モデルを抽出し、前記抽出した軌道モデルに基づくデータを目標物の追尾観測データとして出力する機能とを実行させることを特徴とする目標観測用プログラム。
【請求項6】
目標物を追尾観測する目標追尾方法であって、
目標物の軌道データに基づいて観測予報値を作成し、
前記観測予報値に誤差を考慮して可能性のある時間ずれの範囲を設定し、前記範囲内で目標物の2以上の軌道モデルを求め、
前記目標物を初期捕捉した観測データに近似した前記軌道モデルを抽出し、前記抽出した軌道モデルに基づくデータを目標物の追尾観測データとして出力することを特徴とする目標追尾方法。
【請求項7】
前記誤差として、目標物の軌道データに含まれる誤差と目標物固有の軌道の不安定要素とを考慮する、請求項6に記載の目標追尾方法。
【請求項8】
前記時間ずれの範囲として、目標物の実際の軌道と観測予報値との差である予報値誤差の最大幅を設定する、請求項6に記載の目標追尾方法。
【請求項9】
前記軌道モデルに基づくデータとして、前記抽出した軌道モデルに対応する観測予報値を用いる、請求項6に記載の目標追尾方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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