説明

直動案内装置及びその製造方法

【課題】軽量な直動案内装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】リニアガイドの案内レール1は、転動体転動溝10を有する転動体摺動部材15と転動体転動溝10を有しない非摺動部材16との2種の部材で構成されている。転動体摺動部材15は鉄系材料で構成され、非摺動部材16は、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを積層させた積層体からなる炭素繊維強化プラスチックで構成されている。スライダ本体2Aは、転動体転動溝11を有する転動体摺動部材17と転動体転動溝11を有しない非摺動部材18との2種の部材で構成されている。転動体摺動部材17は鉄系材料で構成され、非摺動部材18は、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを積層させた積層体からなる炭素繊維強化プラスチックで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置(リニアガイド)としては、図4及び図5に示すものが知られている。図4は、リニアガイドの構造を示す斜視図であり、図5は、図4のリニアガイドを軸方向に垂直な面で破断した断面図である。
リニアガイド20は、断面が矩形の案内レール21を備えており、この案内レール21の両側面には、断面円弧形状の転動体転動溝22が軸方向に沿って形成されている。転動体転動溝22には多数の球状転動体23が係合しており、これらの球状転動体23が転動体転動溝22に沿って転がり運動をすると、スライダ24が案内レール21の長手方向に直線移動するようになっている。
【0003】
スライダ24は、スライダ本体25と、このスライダ本体25の軸方向前端と軸方向後端に設けられたエンドキャップ26,26とからなる。そして、スライダ本体25の両袖部25a,25aには、転動体転動溝22との間に直線状の転動体通路を画成する転動体転動溝27が形成されているとともに、円形の転動体通路孔28が転動体転動溝27と平行に形成されている。
【0004】
一方、エンドキャップ26には、U字状に湾曲した転動体通路孔が形成されている。この湾曲した転動体通路孔は、転動体転動溝22及び転動体転動溝27の間に画成された直線状の転動体通路と転動体通路孔28とにそれぞれ連通しているので、転動体転動溝22及び転動体転動溝27の間に画成された直線状の転動体通路を転動した球状転動体23は、転動体通路孔28とエンドキャップ26に設けられた転動体通路孔とを通って直線状の転動体通路を繰返し転動するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−170639号公報
【特許文献2】特開2004−340281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、地球温暖化対策として炭酸ガス排出量の低減要求が強まっており、それに対応するために、各種部品の軽量化が進んでいる。しかしながら、直動案内装置は、一部に樹脂やゴムを使用している以外は、大部分が鉄系材料で構成されているため、軽量化への対応は十分ではなかった。
例えば、図4,5のリニアガイド20に場合は、エンドキャップ26はポリアセタール樹脂等の樹脂材料で構成されているものの、案内レール21,スライダ本体25,及び球状転動体23は鉄系材料で構成されている。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、軽量な直動案内装置及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の直動案内装置は、軸方向に延びる転動体転動溝を外面に有する案内レールと、該案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有するとともに軸方向に相対移動可能に前記案内レールに取り付けられたスライダと、前記案内レールの転動体転動溝と前記スライダの転動体転動溝との間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える直動案内装置において、前記案内レール及び前記スライダの少なくとも一方は、前記転動体転動溝を有する転動体摺動部材と、前記転動体転動溝を有しない非摺動部材とを一体的に接合してなり、前記転動体摺動部材を鉄系材料で構成し、前記非摺動部材を、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを積層させた積層体からなる炭素繊維強化プラスチックで構成したことを特徴とする。
このような直動案内装置においては、前記転動体摺動部材の表面のうち前記非摺動部材との接合面に、凹凸を形成する粗面化処理を施すことが好ましい。そして、この粗面化処理は、エッチングを伴う化学的処理であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の直動案内装置の製造方法は、軸方向に延びる転動体転動溝を外面に有する案内レールと、該案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有するとともに軸方向に相対移動可能に前記案内レールに取り付けられたスライダと、前記案内レールの転動体転動溝と前記スライダの転動体転動溝との間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、前記案内レール及び前記スライダの少なくとも一方は、前記転動体転動溝を有する転動体摺動部材と、前記転動体転動溝を有しない非摺動部材とを一体的に接合してなる直動案内装置を製造する方法であって、鉄系材料に粗加工及び熱処理を施して前記転動体摺動部材を得、その表面のうち前記非摺動部材との接合面に、凹凸を形成する粗面化処理を施して金型内に入れ、前記粗面化処理を施した前記接合面の上に、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを複数積層し、加圧しながら加熱して、前記プリプレグの積層体からなる炭素繊維強化プラスチックで前記非摺動部材を構成するとともに、前記転動体摺動部材と前記非摺動部材を一体的に接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の直動案内装置は、軽量である。また、本発明の直動案内装置の製造方法は、軽量な直動案内装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る直動案内装置の一実施形態であるリニアガイドの構造を示す斜視図である。
【図2】図1のリニアガイドを軸方向から見た正面図である。
【図3】産業用ロボットの側面図である。
【図4】従来のリニアガイドの構造を示す斜視図である。
【図5】図4のリニアガイドを軸方向に垂直な面で破断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る直動案内装置及びその製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る直動案内装置の一実施形態であるリニアガイドの構造を示す斜視図である。また、図2は、図1のリニアガイドを軸方向から見た正面図(ただし、エンドキャップを省略して図示している)である。
まず、本実施形態のリニアガイドの構造を説明する。軸方向に延びる横断面略角形の案内レール1上に、横断面形状が略コ字状のスライダ2が軸方向に相対移動可能に組み付けられている。なお、前記横断面形状とは、軸方向に直交する平面で破断した断面の形状を意味する。
この案内レール1の上面と両側面とが交差する稜線部には、軸方向に延びる断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝からなる転動体転動溝10,10が形成され、また、案内レール1の両側面の高さ方向中間位置には、軸方向に延びる断面ほぼ半円形の凹溝からなる転動体転動溝10,10が形成されている。
【0012】
また、スライダ2は、スライダ本体2Aと、その軸方向両端部に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ2B,2Bと、で構成されており、さらに、スライダ2の両端部(各エンドキャップ2Bの端面)には、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口をシールするサイドシール5,5が装着されている。
さらに、スライダ本体2Aの両袖部6,6の内側面の角部には、案内レール1の転動体転動溝10,10に対向する断面ほぼ半円形の転動体転動溝11,11が形成され、両袖部6,6の内側面の高さ方向中央部には、案内レール1の転動体転動溝10,10に対向する断面ほぼ半円形の転動体転動溝11,11が形成されている。
【0013】
そして、案内レール1の転動体転動溝10,10,10,10と両袖部6,6の転動体転動溝11,11,11,11とで、断面ほぼ円形の転動体転動路14,14,14,14が形成されていて、これらの転動体転動路14は軸方向に延びている。なお、案内レール1及びスライダ2が備える転動体転動溝10,11の数は片側二列に限らず、例えば片側一列又は三列以上などであってもよい。
さらにまた、スライダ2は、スライダ本体2Aの袖部6,6の肉厚部分の上部及び下部に、転動体転動路14と平行をなして軸方向に貫通する貫通孔からなる直線路13,13,13,13を備えている。
【0014】
一方、断面略コ字状のエンドキャップ2B,2Bは、スライダ本体2Aとの当接面(裏面)に、転動体転動路14とこれに平行な直線路13とを連通させる略U字状の湾曲路(図示せず)を有している。そして、直線路13と両端の湾曲路とで、転動体3を転動体転動路14の終点から始点へ送り循環させる転動体戻し路(図示せず)が構成され、この転動体戻し路と転動体転動路14とで、略環状の転動体循環路(図示せず)が形成されている。この転動体循環路内には、例えば鋼球からなる多数の転動体3が転動自在に装填されている。
【0015】
案内レール1に組みつけられたスライダ2を案内レール1に沿って軸方向に移動させると、転動体転動路14内に装填されている転動体3は、転動体転動路14内を転動しつつ案内レール1に対してスライダ2と同方向に移動する。そして、転動体3が転動体転動路14の一端(終点)に達すると、エンドキャップ2B内に備えられたタング部(図示せず)によって転動体転動路14からすくい上げられ、前記湾曲路へ送られる。
湾曲路に入った転動体3はUターンして直線路13に導入され、直線路13を通って反対側の湾曲路に至る。ここで再びUターンして転動体転動路14に戻り、このような転動体循環路内の循環を無限に繰り返す。
【0016】
次に、本実施形態のリニアガイドの前記各部品について詳細に説明する。案内レール1は、転動体転動溝10を有する転動体摺動部材15と転動体転動溝10を有しない非摺動部材16との2種の部材で構成されている。すなわち、軸方向に延びる略平板状の非摺動部材16の上に、転動体転動溝10を有する転動体摺動部材15が載置され、両者15,16は分離しないように接合され一体化されている。そして、転動体摺動部材15は鉄系材料で構成され、非摺動部材16は、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを積層させた積層体からなる炭素繊維強化プラスチック(以降はCFRPと記すこともある)で構成されている。
【0017】
また、スライダ本体2Aも案内レール1と同様であり、転動体転動溝11を有する転動体摺動部材17と転動体転動溝11を有しない非摺動部材18との2種の部材で構成されている。すなわち、転動体転動溝10を有する断面略コ字状の転動体摺動部材17の上に、略平板状の非摺動部材18が載置され、両者17,18は分離しないように接合され一体化されている。そして、転動体摺動部材17は鉄系材料で構成され、非摺動部材18はCFRPで構成されている。
【0018】
さらに、転動体3は、転動体摺動部材15,17と同様に鉄系材料で構成されている。さらに、エンドキャップ2Bは、ポリアセタール樹脂等の樹脂材料で構成されている。
案内レール1及びスライダ本体2Aの非摺動部材16,18は、前述したようにCFRPで構成されているが、CFRPの成形用中間材料であるプリプレグは、炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたシート状の材料である。複数のプリプレグを積層し、加圧しながら熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度で加熱すれば、所定の形状のCFRPを成形することができる。
【0019】
プリプレグとしては、炭素繊維を一方向に揃えて並べた一方向炭素繊維プリプレグと、炭素繊維を平織りにした平織り炭素繊維プリプレグとがあるが、非摺動部材16,18の内部における様々な方向の強度を確保するためには、炭素繊維の延びる方向(角度)を少しずつずらしつつ複数の一方向炭素繊維プリプレグを積層して、CFRPを成形することが好ましい。
ただし、非摺動部材16,18の最表層部、特にねじの取付穴の加工を施す部分については、CFRPの外観を良好にするため、及び、加工後に炭素繊維がバラバラになることを防止するために、平織り炭素繊維プリプレグを用いることが好ましい。
【0020】
プリプレグの炭素繊維の種類は特に限定されるものではないが、引張強度が1.5GPa以上5.5GPa以下のものが好ましく、3.5GPa以上5.5GPa以下のものがより好ましい。具体的には、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が問題なく使用可能であるが、上記の引張強度が達成が可能なPAN系炭素繊維がより好適である。引張弾性率については、120GPa以上590GPa以下のものが好ましく、230GPa以上590GPa以下のものがより好ましい。
【0021】
また、炭素繊維の平均直径は、5μm以上21μm以下であることが好ましい。平均直径が5μm未満であると、繊維径が細すぎて、繊維一本当たりの強度が低い。そのため、プリプレグの安定した製造が困難となり、大幅なコストアップとなるので、プリプレグの実用性が低い。一方、平均直径が21μmを超える場合は、一本当たりの強度は高くなるものの、繊維が太くなることにより成形時の変形に対応しにくくなるため、好ましくない。このような不都合がより生じにくくするためには、炭素繊維の平均直径は、7μm以上15μm以下であることがより好ましい。
【0022】
さらに、炭素繊維としては、液状の熱硬化性樹脂との接着性を向上させるために、ウレタン樹脂,エポキシ樹脂,アクリル樹脂,ビスマレイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種のサイジング剤で繊維表面が処理されたものを用いることが好ましい。
プリプレグのバインダーである熱硬化性樹脂の種類は特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂が好適に用いられる。その他には、ビスマレイミド樹脂,ポリアミノアミド樹脂,フェノール樹脂等も使用可能である。なお、ポリアミノアミド樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤としても使用可能である。
【0023】
プリプレグ中の熱硬化性樹脂の含有率は、20質量%以上40質量%以下であることが好ましい。熱硬化性樹脂の含有率が20質量%未満であると、熱硬化性樹脂が少なすぎて、プリプレグ同士の安定した接着接合が難しく、安定した成形体を製造することが困難となるおそれがある。一方、40質量%を超えると、成形体の柔軟性は向上するものの、炭素繊維の絶対量が少なすぎるために、鉄鋼材料に近い引張強度を達成することが難しくなるおそれがある。このような不都合がより生じにくくするためには、プリプレグ中の熱硬化性樹脂の含有率は、24質量%以上33質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
次に、案内レール1及びスライダ本体2Aの転動体摺動部材15,17及び転動体3は、前述したように鉄系材料で構成されているが、鉄系材料の種類は特に限定されるものではなく、SUS420,SUS430等のステンレス鋼や軸受鋼などを問題なく使用することができる。転動体摺動部材15,17及び転動体3は、鉄系材料を粗加工により所望の形状に成形した後に、熱処理を施したものである。熱処理により表面硬度が高くなっており、耐摩耗性が向上されている。
【0025】
さらに、転動体摺動部材15,17の表面のうち少なくとも非摺動部材16,18との接合面には、凹凸を形成する粗面化処理が施されていることが好ましい。粗面化処理により、転動体摺動部材15,17と非摺動部材16,18との接合強度が向上する。粗面化処理の種類は特に限定されるものではなく、ショットブラスト(エアーブラスト) 加工のような物理的粗面化処理や、エッチングを伴う化学的粗面化処理が適用可能であるが、エッチングを伴う化学的粗面化処理がより好ましい。この化学的粗面化処理によって凹凸を形成すると、内部が入りロ部分(開口部)よりも狭い蟻溝構造を有する凹部を形成することができるので、転動体摺動部材15,17と非摺動部材16,18との接合強度をより高めることが可能である。
【0026】
以下に、エッチングを伴う化学的粗面化処理について詳細に説明する。鉄系材料がSUS420,SUS430等のステンレス鋼である場合は、粗面化処理は以下のような工程で行われる。
まず、鉄系材料製部材の表面をアルカリ脱脂剤で清浄した後に、常温の酸性溶液(例えば希塩酸)中に数分間浸漬して酸洗する。そして、少なくともシュウ酸イオンとフッ素化合物イオンを含有するシュウ酸鉄処理液に数分間浸漬して、鉄系材料製部材の表面にシュウ酸鉄皮膜を形成する(第一の工程)。
【0027】
次に、このシュウ酸鉄皮膜が形成された鉄系材料製部材を、常温の硝酸−フッ化水素酸混酸の水溶液等に数分間浸漬して、下地のステンレス鋼が侵されないレベルまで、シュウ酸鉄皮膜の大部分を除去する。すると、鉄系材料製部材の表面にエッチングによる凹凸が形成される(第二の工程)。
この凹凸は化学的に形成されるので、ショットブラスト法等による機械的凹凸に比べて、鉄系材料製部材の形状依存性がなく、凹凸が全表面に均一に形成される。また、上記のような化学的粗面化処理によれば、内部が入りロ部分(開口部)よりも狭い蟻溝構造を有する凹部を形成することができる。
【0028】
このようにして粗面化処理が施された鉄系材料製部材(転動体摺動部材15,17)を金型内に入れ、粗面化処理が施された面の上に、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを複数積層する。そして、加圧しながら、プリプレグの熱硬化性樹脂の硬化温度以上で加熱すると、プリプレグの積層体からなるCFRPにより非摺動部材16,18が成形されるとともに、転動体摺動部材15,17と非摺動部材16,18とが一体的に接合される(成形工程)。このとき、非摺動部材16,18との接合面に形成された凹凸の凹部内に、プリプレグのバインダーである熱硬化性樹脂が主に入り込むため、転動体摺動部材15,17と非摺動部材16,18とが機械的に強固に接合される。そして、最後に仕上げ加工を行って、案内レール1及びスライダ本体2Aを完成する。
【0029】
なお、第二の工程と成形工程との間に、鉄系材料製部材の防錆性を向上させる処理又は熱硬化性樹脂との密着性を向上させる処理を、第三の工程として行ってもよい。防錆性を向上させる処理としては、例えば、第二の工程で行ったシュウ酸鉄皮膜処理があげられる。ただし、第二の工程で形成された凹凸表面を覆い尽くさないように、微細な結晶で構成されるシュウ酸鉄皮膜を形成することが好ましい。この微細結晶を得る手段としては、シュウ酸鉄皮膜処理の前に、鉄系材料製部材を表面調整液に浸漬して、結晶核を形成しておく方法が効果的である。
【0030】
また、熱硬化性樹脂との密着性を向上させる処理としては、例えば、シランカップリング剤による処理が効果的である。シランカップリング剤をアルコール等で希釈した希釈液に、鉄系材料製部材を浸漬した後、必要に応じて乾燥することにより、鉄系材料製部材の表面にシランカップリング剤皮膜が形成される。この処理により形成されたシランカップリング剤皮膜は、熱硬化性樹脂のプライマーとして機能する。シランカップリング剤の種類は特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂の官能基と反応性が高いアミノ基,エポキシ基等を片末端に有するものが好ましい。具体的には、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が好適である。
【0031】
第三の工程で形成される皮膜の厚さは、0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。皮膜の厚さが0.01μm未満であると、防錆性や熱硬化性樹脂との密着性の向上効果が乏しくなり、皮膜の厚さが1.0μmを超えると、第二の工程で設けた凹凸表面が覆い尽くされる割合が増えるので好ましくない。このような不都合がより生じにくくするためには、第三の工程で形成される皮膜の厚さは、0.01μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。
【0032】
第二の工程あるいは第三の工程まで行って得られた鉄系材料製部材の表面の凹凸の状態は、JIS B0601(2001)で規定される算術平均高さRaで0.2μm以上2.0μm以下、最大高さRzで1.5μm以上10μm以下が好ましい。凹凸の状態がこれらの下限値未満であると、くさび効果を発現させることが困難になる。一方、凹凸の状態がこれらの上限値を超えると、それだけくさび効果は向上するものの、そのような凹凸表面を、エッチングを伴う化学的粗面化処理で達成することは難しいため、実用性が低下する。
【0033】
また、鉄系材料がステンレス鋼以外の鉄系磁性材料(例えばSPCC等の冷延鋼板)である場合は、上記の第一の工程を下記のように変更し、他の工程を上記と同様に実施することにより、エッチングを伴う化学的粗面化処理を施すことができる。すなわち、第一の工程で用いられる表面処理液を、シュウ酸鉄処理液から、亜鉛イオン,ニッケルイオン,コバルトイオン,カルシウムイオン,及びマンガンイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種の重金属イオンと、リン酸イオンとを含有する処理液に変更する。具体的には、リン酸亜鉛処理液,リン酸マンガン処理液等に変更する。
【0034】
このようにして案内レール1及びスライダ本体2Aが製造された本実施形態のリニアガイドは、これらの部材の一部がCFRPで構成されているので、従来と比べて大幅に軽量化されている。また、転動体摺動部材15,17は鉄系材料で構成されているので、本実施形態のリニアガイドは従来と変わらない摺動特性を有している。
このような本実施形態のリニアガイドは軽量であるため、産業用ロボット,工作機械,射出成形機,半導体製造機械,運搬機械等に組み込まれ、直線運動する物体を案内する機械部品として好適である。特に、2次以上の駆動部を有する産業用ロボットにおける2次以上の駆動部に対して、本実施形態のリニアガイドは好適である。例えば、図3に示すような3次の駆動部を有する産業用ロボットに対して、本実施形態のリニアガイドは好適である。
【0035】
図3の産業用ロボット30は、1次駆動部31により回転駆動されるアーム32を備えている。このアーム32の先端には、2次駆動部に相当するリニアガイド33の案内レールが取り付けられており、リニアガイド33のスライダが水平方向に直線移動するようになっている。さらに、該リニアガイド33のスライダの先端には、3次駆動部に相当するリニアガイド34の案内レールが取り付けられており、リニアガイド34のスライダが鉛直方向に直線移動するようになっている。さらに、該リニアガイド34のスライダの先端には、工具35が取り付けられている。そして、1次〜3次駆動部31,33,34を駆動して、工具35を所望の位置に移動させ、図示しない被工作物に対して加工を行うようになっている。
【0036】
このような産業用ロボット30においては、アーム32に2つのリニアガイド33,34が取り付けられているので、産業用ロボット30の作動性等を考えると、これらのリニアガイド33,34は可能な限り軽量であることが要求される。よって、軽量な本実施形態のリニアガイドは、このような1次〜3次の駆動部を有する産業用ロボット30における2次,3次の駆動部として好適である。
【0037】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、プリプレグの樹脂として熱硬化性樹脂を使用したが、エンジニアリングプラスチック等の熱可塑性樹脂を使用することも可能である。
また、本実施形態においては、プリプレグの繊維として炭素繊維を使用したが、炭素繊維の一部又は全部を他の繊維に置き換えることも可能である。使用可能な他の繊維としては、例えば、アラミド繊維,ポリアリレート繊維,ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維があげられる。
【0038】
〔実施例〕
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。鉄系材料で構成された転動体摺動部材とCFRPで構成された非摺動部材とを一体的に接合してなる案内レール及びスライダ本体を、上型及び下型からなる2分割の金型を用いて製造した。この金型の内部空間は、案内レール及びスライダ本体の最終形状に近い形状をなしている。
まず、熱処理により硬化が可能なマルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS440C製の素材に、転動体転動溝、転動体通路孔、取付ネジ用穴等を設ける粗加工を施して、案内レール又はスライダ本体の転動体摺動部材の形状に加工した。そして、熱処理を施して、表面硬度を向上させた。
【0039】
次に、この転動体摺動部材の表面のうち非摺動部材との接合面に、表面処理液として前述のシュウ酸鉄処理液を用いて、エッチングを伴う化学的粗面化処理を施し、凹凸を形成した。その結果、接合面の算術平均高さRaは1.5μmとなった。なお、化学的粗面化処理を施す際には、転動体摺動部材の表面のうち接合面以外の面はマスキングして、接合面のみに凹凸を形成した。
【0040】
この転動体摺動部材を下型の内部空間内に配し、その接合面上に複数のプリプレグを積層した状態で載置した。プリプレグとしては、一方向炭素繊維プリプレグと平織り炭素繊維プリプレグを用いた。すなわち、案内レールやスライダ本体の側面部にあたる部分の最表面には平織り炭素繊維プリプレグを用い、内部には一方向炭素繊維プリプレグを用いた。そして、複数の一方向炭素繊維プリプレグは、各一方向炭素繊維プリプレグの炭素繊維の延びる方向(角度)を少しずつずらしつつ積層した。具体的には、案内レール(スライダ本体)の軸方向に対して、炭素繊維の延びる方向のなす角度が0°のもの、45°のもの、90°のもの、135°のもの、0°のものの順番で積層した。
【0041】
使用した炭素繊維プリプレグは、下記の通りである。一方向炭素繊維プリプレグは、東邦テナックス株式会社製のテナックス・UDプリプレグを使用した。このプリプレグは、厚さが0.084mmで、1m2 当たりの総重量は133gであり、そのうち炭素繊維の重量は100gである。このプリプレグに使用されている樹脂は、硬化温度130℃のエポキシ樹脂であり、プリプレグ中の樹脂の含有率は25質量%である。また、このプリプレグに使用されている炭素繊維フィラメントは、直径が5.0μmで、引張強度は5.79GPa、引張弾性率は285GPaである。
【0042】
一方、平織り炭素繊維プリプレグは、東邦テナックス株式会社製のテナックス・織物プリプレグW−3101/Q−112Jを使用した。このプリプレグは、厚さが0.221mmで、1m2 当たりの総重量は333gであり、そのうち炭素繊維の重量は200gである。このプリプレグに使用されている樹脂は、硬化温度130℃のエポキシ樹脂であり、プリプレグ中の樹脂の含有率は40質量%である。また、このプリプレグに使用されている炭素繊維フィラメントは、直径が7.0μmで、引張強度は3.92GPa、引張弾性率は235GPaである。
【0043】
次に、下型に上型を乗せて一体とし、この時点で締め代が若干発生するようにした。そして、金型中で加圧しながら130℃で1時間加熱することにより、プリプレグの積層体からなるCFRPを形成し、非摺動部材を製造するとともに、転動体摺動部材と非摺動部材を一体的に接合した。これにより、最終形状に近い形状の案内レール又はスライダ本体が得られた。
【0044】
なお、金型中で加熱する際には、転動体摺動部材の取付ネジ用穴には穴埋め部材を挿入しておくことが好ましい。そうすれば、転動体摺動部材とCFRPとが均一に接合される。この穴埋め部材には予め離型剤等を塗布しておき、加熱終了後に転動体摺動部材の取付ネジ用穴から容易に取り外すことができるようにしておくことが好ましい。
最後に、CFRPで構成された非摺動部材の部分にも取付ネジ用穴加工を行った後、最終仕上げ加工を行うことにより、案内レール又はスライダ本体が得られた。
【符号の説明】
【0045】
1 案内レール
2 スライダ
2A スライダ本体
2B エンドキャップ
3 転動体
10 転動体転動溝
11 転動体転動溝
15 転動体摺動部材
16 非摺動部材
17 転動体摺動部材
18 非摺動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる転動体転動溝を外面に有する案内レールと、該案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有するとともに軸方向に相対移動可能に前記案内レールに取り付けられたスライダと、前記案内レールの転動体転動溝と前記スライダの転動体転動溝との間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える直動案内装置において、
前記案内レール及び前記スライダの少なくとも一方は、前記転動体転動溝を有する転動体摺動部材と、前記転動体転動溝を有しない非摺動部材とを一体的に接合してなり、前記転動体摺動部材を鉄系材料で構成し、前記非摺動部材を、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを積層させた積層体からなる炭素繊維強化プラスチックで構成したことを特徴とする直動案内装置。
【請求項2】
前記転動体摺動部材の表面のうち前記非摺動部材との接合面に、凹凸を形成する粗面化処理を施したことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項3】
前記粗面化処理が、エッチングを伴う化学的処理であることを特徴とする請求項2に記載の直動案内装置。
【請求項4】
軸方向に延びる転動体転動溝を外面に有する案内レールと、該案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有するとともに軸方向に相対移動可能に前記案内レールに取り付けられたスライダと、前記案内レールの転動体転動溝と前記スライダの転動体転動溝との間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、前記案内レール及び前記スライダの少なくとも一方は、前記転動体転動溝を有する転動体摺動部材と、前記転動体転動溝を有しない非摺動部材とを一体的に接合してなる直動案内装置を製造する方法であって、
鉄系材料に粗加工及び熱処理を施して前記転動体摺動部材を得、その表面のうち前記非摺動部材との接合面に、凹凸を形成する粗面化処理を施して金型内に入れ、前記粗面化処理を施した前記接合面の上に、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを複数積層し、加圧しながら加熱して、前記プリプレグの積層体からなる炭素繊維強化プラスチックで前記非摺動部材を構成するとともに、前記転動体摺動部材と前記非摺動部材を一体的に接合することを特徴とする直動案内装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−153689(P2011−153689A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16980(P2010−16980)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】