説明

直動案内装置用伸縮量吸収装置およびこれを備えるテーブル装置

【課題】直動案内装置の案内レールとこの案内レールが取り付けられるベース部材相互の伸縮量の差異を吸収する伸縮量吸収装置を提供する。
【解決手段】この直動案内装置用伸縮量吸収装置10は、ベース部材1側に取り付けられる基部11と、案内レール2側に取り付けられる従動部13と、この従動部13と前記基部11とを案内レール2の軸方向の両側でそれぞれ繋ぐ一対の連結部15とを有し、この一対の連結部15が、スライダ3の進行方向に限ってベース部材1と案内レール2相互の伸縮量の差異を逃がすように、案内レール2の軸方向に弾性変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば精密検査などの軽負荷用途のテーブル装置とする上で好適であり、また、直動案内装置の案内レールの伸縮量を吸収する上で好適な直動案内装置用伸縮量吸収装置およびこれを備えるテーブル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置は、案内レールと、この案内レールに複数の転動体を介してスライド移動可能に跨設されるスライダとを有する。ところで、案内レールが取り付けられるベース部材と案内レール相互の材質が異なる場合がある。この場合に、ベース部材と案内レール相互の熱膨張係数が異なれば、相互の伸縮量の差異によって案内レールが所望の精度からはずれるという問題がある。
【0003】
そこで、このような問題を解決するために特許文献1記載の技術が提案されている。同文献記載の技術では、ベース部材に「あり溝」を設け、このあり溝に沿って案内レールを押し当てて固定している。このような構成によれば、ベース部材と案内レール相互の材質が異なる場合であっても、押し当てて固定する構造により、案内レールの軸方向に滑りを生じさせることができる。これにより、この軸方向の滑りによって伸縮量の差異を吸収可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−349564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、ベース部材に設けたあり溝に沿って案内レールを押し当てて固定するので、このあり溝の面精度(底面と側面)に案内レールの精度が依存する。そのため、案内レール上をスライド移動するスライダの運動の真直度にも影響を及ぼすこととなり、スライダの運動精度を向上させる上で検討の余地がある。
また、特許文献1記載の技術においては、案内レールの軌道面とは別途にあり溝の精度をも高精度に加工する必要があり、さらに、このあり溝に押し当てて固定する案内レールの当接面についても高精度な加工を必要とするから、案内レールおよびベース部材がともに専用になるばかりか、対応する専用の加工機も必要となるなど、製造コストが高いものとなる。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、専用の加工機が不要であり、従来の一般的な案内レールに対して適用可能としつつも、案内レールとベース部材相互の伸縮量の差異を吸収し得る直動案内装置用伸縮量吸収装置およびこれを備えるテーブル装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置は、案内レールと、該案内レールに複数の転動体を介してスライド移動可能に跨設されるスライダとを有する直動案内装置の装着に用いられ、前記案内レールと当該案内レールが取り付けられるベース部材との相互間に熱膨張などによって発生する前記ベース部材と前記案内レール相互の伸縮量の差異を吸収する直動案内装置用伸縮量吸収装置であって、前記ベース部材側に取り付けられる基部と、該基部に対向して前記案内レール側に取り付けられる従動部と、該従動部と前記基部とを前記案内レールの軸方向の両側でそれぞれ繋ぐ一対の連結部とを有し、前記一対の連結部は、前記スライダの進行方向に限って前記ベース部材と前記案内レール相互の伸縮量の差異を逃がすように、前記案内レールの軸方向に弾性変形することを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る伸縮量吸収装置は、ベース部材側に取り付けられる基部と、該基部に対向して案内レール側に取り付けられる従動部と、この従動部と基部とを案内レールの軸方向の両側でそれぞれ繋ぐ一対の連結部とを有する構成なので、この伸縮量吸収装置を、直動案内装置の案内レールとこの案内レールが取り付けられるベース部材相互間に容易に介装することができる。よって、専用の加工機が不要であり、従来の一般的な案内レールに対して適用可能である。そして、この伸縮量吸収装置は、一対の連結部が、前記スライダの進行方向に限って前記ベース部材と前記案内レール相互の伸縮量の差異を逃がすように、案内レールの軸方向に弾性変形するので、案内レールとベース部材相互の伸縮量の差異を吸収することができる。
【0009】
ここで、本発明の一態様に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置において、前記基部、前記従動部および前記一対の連結部は、それぞれ別個の部材から構成されており、前記一対の連結部が、板ばねからなることは好ましい。
また、本発明の一態様に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置において、前記基部、前記従動部および前記一対の連結部は、一体の部材から構成されており、前記一対の連結部が、前記スライダの進行方向に対してはそれ以外の方向よりも剛性が低くなるように肉厚の薄い薄肉部を有することは好ましい。
【0010】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るテーブル装置は、案内レールおよび該案内レールに複数の転動体を介してスライド移動可能に跨設されるスライダを有する直動案内装置と、前記案内レールが取り付けられるベース部材と、前記スライダに連結されるテーブルと、前記案内レールとベース部材相互間に介装されて前記案内レールと当該案内レールが取り付けられるベース部材との相互間に熱膨張などによって発生する前記ベース部材と前記案内レール相互の伸縮量の差異を吸収する伸縮量吸収装置とを備えるテーブル装置であって、前記伸縮量吸収装置として、上記本発明の一態様に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置を備えていることを特徴とする。
本発明の一態様に係るテーブル装置によれば、上記本発明の一態様に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置を備えているので、上記本発明の一態様に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置同様の作用効果を奏するものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
上述のように、本発明によれば、専用の加工機が不要であり、従来の一般的な案内レールに対して適用可能としつつも、案内レールとベース部材相互の伸縮量の差異を吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一態様に係るテーブル装置の一実施形態を説明する図であり、同図(a)は、その平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図2】本発明の一態様に係るテーブル装置に具備された本発明の一態様に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置の一実施形態を説明する図であり、同図(a)は図1でのA部を示しており、(b)は一対の連結部が、案内レールの軸方向に弾性変形した状態を示している。
【図3】本発明の一態様に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置の一実施形態の変形例を説明する図であり、同図は、図2(a)に対応する図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一態様に係るテーブル装置の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、このテーブル装置20は、平面視が長方形状のベース部材1を有する。このベース部材1はアルミ合金製である。そして、このベース部材1の上面に、二組の直動案内装置5が、複数の伸縮量吸収装置10を介してベース部材1の各長辺に沿って装着されている。
【0014】
各直動案内装置5は、ベース部材1の各長辺に沿って配設される案内レール2を有する。各案内レール2は鋼製であり、2つのスライダ3が案内レール2の軸方向に沿ってスライド移動可能に跨設されている。そして、計4つのスライダ上には、矩形板状のテーブル4が連結されている。テーブル4の裏面には、駆動部6(詳細な図示は省略)の備えるボールねじのナットが連結されており、この駆動部6のモータを駆動すると、モータの出力軸に連結されたボールねじのねじ軸が回転し、このねじ軸上のナットがねじ軸に沿って直線駆動されることでテーブル4を案内レール2の軸方向に沿ってスライド移動する一軸のテーブル装置を構成している。
【0015】
ここで、案内レール2のそれぞれには、自身の軸方向に沿って座繰り穴が形成されている。一方、ベース部材1の上面には、各長辺に沿って複数の雌ねじが加工されている。そして、ベース部材1の上面と各案内レール2の下面との間に、上記複数の伸縮量吸収装置10が介装されている。この例では、各案内レール2の中央部分は、固定ブロック18が介装されており、上下に貫通する固定ボルト19によってリジットに固定されている。そして、この固定ブロック18を基準として、その左右について各案内レール2の片側に二個ずつ伸縮量吸収装置10が介装されている。
【0016】
詳しくは、この伸縮量吸収装置10は、図2(a)に拡大図示するように、それぞれ別個の部材から構成された、矩形板状の基部11、矩形板状の従動部13、および一対の連結部15を有する。基部11と従動部13の左右側面には不図示の雌ねじが形成されており、連結部15には、この雌ねじに対向する位置に不図示の取り付け穴が形成されており、連結ねじ16によって矩形枠状に連結されている。そして、一対の連結部15が、上記従動部13と基部11とを案内レール2の軸方向の両側でそれぞれ繋いでいる。
【0017】
この一対の連結部13は、薄肉の板ばねからなり、図2(b)に示すように、スライダ3の進行方向に限ってベース部材1と案内レール2相互の伸縮量の差異を逃がすように、案内レール2の軸方向に弾性変形するようになっている。換言すれば、スライダの進行方向に対しては剛性が低くなっており、それ以外の方向(つまり、スライダの進行方向に対して90°の水平方向および垂直方向)には、スライダの進行方向に対しての剛性よりも剛性が高くなっている。
【0018】
そして、上記基部11には、ベース部材1の雌ねじに対向する位置に座繰り穴が形成されており、ベース部材1側に基部固定ねじ12によって取り付けられる。なお、この例では、基部11上面の中央部には、基部固定ねじ12を装着時に通すための切り欠き溝が形成されている。また、従動部13は、上記基部11の上方に離間して対向配置され、案内レール2の座繰り穴に対向する位置に雌ねじが形成されており、案内レール2の裏面に従動部固定ねじ14によって固定される。
【0019】
次に、この伸縮量吸収装置10およびこれを備えるテーブル装置20の作用・効果について説明する。
上述のように、このテーブル装置20は、直動案内装置5の装着に用いられる伸縮量吸収装置10を備えており、この伸縮量吸収装置10は、ベース部材1側に取り付けられる基部11と、案内レール2側に取り付けられる従動部13と、この従動部13と基部11とを案内レール2の軸方向の両側でそれぞれ繋ぐ一対の連結部15とを有しており、一対の連結部15は、スライダ3の進行方向に限ってベース部材1と案内レール2相互の伸縮量の差異を逃がすように、案内レール2の軸方向に弾性変形するようになっているので、鋼製の案内レール2とアルミ合金製のベース部材1相互の伸縮量の差異を吸収することができる。
【0020】
そして、この伸縮量吸収装置10によれば、ベース部材1側に取り付けられる基部11と、案内レール2側に取り付けられる従動部13と、この従動部13と基部11とを案内レール2の軸方向の両側でそれぞれ繋ぐ一対の連結部15とを有する構成なので、上記例示した特許文献1記載の技術に比べ、専用の加工機が不要であり、従来の一般的な案内レールに対して適用可能である。
【0021】
なお、本発明に係る直動案内装置用伸縮量吸収装置およびこれを備えるテーブル装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態においては、案内レール2の中央を基準(固定)に構成した例で説明したが、これに限らず、基準(固定)位置と伸縮量吸収装置10の装着位置との関係は、例えば各案内レール2の一端部を基準(固定)位置とし、他端部側を伸縮量吸収装置10の装着位置とするなど、用途に合わせて適宜に設定することができる。
【0022】
また、例えば上記実施形態では、伸縮量吸収装置10は、基部11、従動部13および一対の連結部15は、それぞれ別個の部材から構成され、一対の連結部15が、板ばねからなる例で説明したが、これに限定されず、例えば図3に変形例を示すように、基部11、従動部13および一対の連結部15が一体の部材から構成され、一対の連結部15が、スライダ3の進行方向に対してはそれ以外の方向よりも剛性が低くなるように肉厚Tの薄い薄肉部を有する構成とすることができる。このような構成であれば、伸縮量吸収装置10を鋳造などによって製造する上で好適である。
【符号の説明】
【0023】
1 ベース部材
2 案内レール
3 スライダ
4 テーブル
5 直動案内装置
6 駆動部
10 伸縮量吸収装置
11 基部
12 基部固定ねじ
13 従動部
14 従動部固定ねじ
15 連結部
16 連結ねじ
18 固定ブロック
19 固定ボルト
20 テーブル装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、該案内レールに複数の転動体を介してスライド移動可能に跨設されるスライダとを有する直動案内装置の装着に用いられ、前記案内レールと当該案内レールが取り付けられるベース部材との相互間に熱膨張などによって発生する前記ベース部材と前記案内レール相互の伸縮量の差異を吸収する直動案内装置用伸縮量吸収装置であって、
前記ベース部材側に取り付けられる基部と、該基部に対向して前記案内レール側に取り付けられる従動部と、該従動部と前記基部とを前記案内レールの軸方向の両側でそれぞれ繋ぐ一対の連結部とを有し、
前記一対の連結部は、前記スライダの進行方向に限って前記ベース部材と前記案内レール相互の伸縮量の差異を逃がすように、前記案内レールの軸方向に弾性変形することを特徴とする直動案内装置用伸縮量吸収装置。
【請求項2】
前記基部、前記従動部および前記一対の連結部は、それぞれ別個の部材から構成されており、前記一対の連結部が、板ばねからなることを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置用伸縮量吸収装置。
【請求項3】
前記基部、前記従動部および前記一対の連結部は、一体の部材から構成されており、前記一対の連結部が、前記スライダの進行方向に対してはそれ以外の方向よりも剛性が低くなるように肉厚の薄い薄肉部を有することを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置用伸縮量吸収装置。
【請求項4】
案内レールおよび該案内レールに複数の転動体を介してスライド移動可能に跨設されるスライダを有する直動案内装置と、前記案内レールが取り付られるベース部材と、前記スライダに連結されるテーブルと、前記案内レールとベース部材相互間に介装されて前記案内レールと当該案内レールが取り付られるベース部材との相互間に熱膨張などによって発生する前記ベース部材と前記案内レール相互の伸縮量の差異を吸収する伸縮量吸収装置とを備えるテーブル装置であって、
前記伸縮量吸収装置として、請求項1〜3のいずれか一項に記載の直動案内装置用伸縮量吸収装置を備えていることを特徴とするテーブル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−7455(P2013−7455A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140966(P2011−140966)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】