説明

直動案内軸受装置

【課題】転動体が方向転換路を通過する際の転走方向へのズレと傾きを小さくし、スキューを軽減することができる直動案内軸受装置を提供する。
【解決手段】直動案内軸受装置は、案内レールと、多数の円筒ころの転動を介して軸方向に沿って相対移動可能に案内レールに跨架されたスライダと、エンドキャップ40とを有する。円筒ころには、周方向に沿って1以上の溝部が形成されている。エンドキャップ40には、円筒ころの循環路の一部として方向転換路が形成される。この方向転換路の転動体が当接する面には、円筒ころの溝部に遊嵌する突条46が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば製造装置や加工機械、測走機器等の各種機械に用いられる直動案内軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の直動案内軸受装置(直動装置)としては、例えば特許文献1に開示されているものが知られている。この直動装置は、転動体としての円筒ころの全周にわたって溝部が形成され、この溝部に遊嵌する鍔部がスライダ内に形成された転走路(転動体通路)に設けられることによって、該転走路内における円筒ころの姿勢を維持できる構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−76677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された直動案内軸受装置(直動装置)は、転走路に設けられた鍔部の加工が難しく、歩留まり向上に改善の余地があった。また、転動体としての円筒ころを用いた場合、エンドキャップに形成された方向転換路からスライダ本体内の転走路に進入する際に、転動体(円筒ころ)が傾いてスキューを発生することが多かった、これは、転動体が方向転換路を通過する際に軸方向へのズレと傾きが大きくなることが原因と考えられ、このような現象を低減するために改善の余地があった。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、転動体が方向転換路を通過する際の軸方向へのズレと傾きを小さくし、スキューを軽減することができる直動案内軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明は、両側部に軸方向に延びる転動体転動溝を有して軸方向に延長された案内レールと、該案内レールの前記転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有し、これらの両転動体転動溝間に挿入された転動体の転動を介して軸方向に沿って相対移動可能に前記案内レールに跨架されたスライダとを備え、前記スライダは、前記転動体転動溝及び軸方向に貫通する転動体通路が設けられたスライダ本体と、前記両転動体転動溝間と前記転動体通路とを連通する湾曲状の方向転換路を有して前記スライダ本体の軸方向の両端面に固定された一対のエンドキャップとを具備する直動案内軸受装置であって、
前記転動体には、その全周にわたって溝部が形成され、
前記溝部に遊嵌する突条が前記方向転換路の前記転動体の周面が当接する面に形成されたことを特徴としている。
【0006】
請求項1に係る発明によれば、転動体に形成された溝部に遊嵌する突条を転動体の転走方向に沿うように設けることで、方向転換路内における転動体の転走方向がガイドされ、その結果、転動体の姿勢が維持される。従って、転走方向に対する転動体のズレと傾きを小さくすることができ、スキューを軽減する直動案内軸受装置を提供することができる。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の直動案内軸受装置において、前記方向転換路を構成する内循環路及び外循環路の少なくともいずれか一方の外周面に前記突条が形成されていることを特徴としている。
請求項2に係る発明によれば、転動体の遠心力により、外循環路や内循環路に関係なく外周面側に接触するため、外周面側のみに突条を設けても、転動体のズレと傾きを確実に小さくすることができる。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の直動案内軸受装置において、前記突条が複数形成されたことを特徴としている。
請求項3に係る発明によれば、方向転換路内における転動体の転走方向をより確実にガイドし、転走方向に対する転動体のズレと傾きをさらに小さくすることができる。その結果として、スキューをさらに軽減する直動案内軸受装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、転動体が方向転換路を通過する際の転走方向へのズレと傾きを小さくし、スキューを軽減することができる直動案内軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る直動案内軸受装置の一実施形態における構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る直動案内軸受装置の一実施形態におけるエンドキャップの構成を示す背面図である。
【図3】本発明に係る直動案内軸受装置の一実施形態におけるリターンガイドを装着する前のエンドキャップの構成を示す背面図である。
【図4】図2の4−4線を切断線としてスライダの軸方向に沿う断面図である。
【図5】本発明に係る直動案内軸受装置の一実施形態におけるリターンガイドの構成を示す図であり、(a)は底面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る直動案内軸受装置の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る直動案内軸受装置の一実施形態における構成を示す斜視図である。また、図2は、本発明に係る直動案内軸受装置の一実施形態におけるエンドキャップの構成を示す背面図である。また、図3は、本発明に係る直動案内軸受装置の一実施形態におけるリターンガイドを装着する前のエンドキャップの構成を示す背面図である。また、図4は、図2の4−4線を切断線としてスライダの軸方向に沿う断面図である。また、図5は、本発明に係る直動案内軸受装置の一実施形態におけるリターンガイドの構成を示す図であり、(a)は底面図、(b)は側面図である。
図1〜図4に示すように、直動案内軸受装置1は、軸方向に延びる案内レール10と、該案内レール10上に軸方向に相対移動可能に跨架されたスライダ20とを備える。
【0012】
<スライダ>
スライダ20は、スライダ本体20Aと、エンドキャップ40とを有する。エンドキャップ40の外側には、異物の侵入を阻止するサイドシールが設けられてもよい。
スライダ本体20Aは略コ字状の断面形状をなし、その開口部を案内レール10に向けて案内レール10上に跨架される。エンドキャップ40は、略コ字状の断面形状をなし、スライダ本体20Aの軸方向(移動方向)の両端部に設置される。サイドシールは、略コ字状の断面形状をなし、エンドキャップ40,40の軸方向(移動方向)のそれぞれの外側端部に設置される。
【0013】
案内レール10の両側面にはそれぞれ軸方向に延びる転動体転動面11,11が2条ずつ形成されている。また、スライダ20のスライダ本体20Aには、その両袖部20B,20Bの内側面には、それぞれ転動体転動面11に対向する転動体転動溝21,21が2条ずつ形成されている。そして、案内レール10の転動体転動面11とスライダ本体20Aの転動体転動溝21との間には転動体30としての多数の円筒ころが転動自在に装填されている。すなわち、これら転動体(円筒ころ)30の転動を介してスライダ20が案内レール10上を軸方向に沿って相対移動できるようになっている。
【0014】
また、スライダ本体20Aの両側の袖部20B内には、図4に示すように、それぞれ軸方向に貫通する上下二つ(合計4つ)の転動体通路60が形成されている。また、スライダ本体20Aの軸方向の両端にねじ等を介して固定された一対のエンドキャップ40,40は、それぞれ、転動体通路60に連通する方向転換路70を備えた転動体循環部品として機能する。
【0015】
<エンドキャップ>
エンドキャップ40には、図4に示すように、両転動体転動溝11,21間と転動体通路60とに連通する半円弧状に湾曲した方向転換路70がスライダ20の軸方向の内側と外側とに形成されている。すなわち、転動体転動溝11,21間と、転動体通路60と、内側の方向転換路70(内循環路71)又は外側の方向転換路70(外循環路72)によって、転動体30の無限循環軌道が形成されている。
【0016】
また、図3に示すように、エンドキャップ40のスライダ本体20Aに対向する端面40aには、軸方向(エンドキャップ40がスライダ本体20Aに対して取り付けられる方向)にリターンガイド50が嵌め込まれる外循環路形成溝41と、内循環路形成溝42とが形成されている。
外循環路形成溝41と、内循環路形成溝42とは、端面40aからの深さを異ならせて直交するように形成されている。具体的には、外循環路形成溝41のほうが内循環路形成溝42よりも端面40aから離れて形成されている。
【0017】
また、図3に示すように、内循環路形成溝42は、外循環路形成溝41によって分断されており、外循環路形成溝41に嵌め込まれたリターンガイド50の内周面50a(図5(a),(b)参照)によって面一にされる。このとき、リターンガイド50は、その側面50c,50c(図5(a),(b)参照)と外循環形成溝41の側面41b,41bとを当接させて外循環形成溝41に嵌め込まれる。
【0018】
ここで、外循環路形成溝41の底面41aは、外循環路72の外周面を形成する。また、リターンガイド50の外周面50aは、外循環路72の内周面を形成する。外循環路72内に装填された転動体30は、外循環路72の外周面及び内周面に当接しながら転送する。また、内循環路形成溝42の分断された底面42a,42aは、リターンガイド50の内周面50bとともに内循環路71の外周面を形成する。さらに、内循環路71の内周面は、別途設置される内周ガイド43(図4参照)によって形成される。内循環路71内に装填された転動体30は、遠心力によって、内循環路71の外周面に当接しながら転送する。
【0019】
また、図3(a)に示すように、エンドキャップ40には、図4に示す転動体通路60及び方向転換路70に転動体30を装填するために、方向転換路70に連通する装填用貫通孔44がエンドキャップ40を貫通して形成されている。そして、この装填用貫通孔44は、図3(b),(c)に示す蓋部45を嵌め込むことで塞がれると共に、この蓋部45の内面45aが外循環路形成溝41の底面41aとともに外循環路72の外周面を形成する。
【0020】
[突条]
図5(a)に示すように、本実施形態の直動案内軸受装置で用いられる転動体30は、転動面である周面30aの全周にわたって溝部31が1条以上形成されている。
そして、図2〜図4に示すように、外循環路形成溝41の底面41a、内循環路形成溝42の底面42a、及び蓋部45の内面45aの少なくともいずれかには、方向転換路70における転動体30の転走方向に沿って突条46が1条以上形成されている。
この突条46は、溝部31に遊嵌する形状で形成され、方向転換路70内における転動体30の転走を妨げない限り、数や形状に制限はなく、目的に応じて適宜設定される。
【0021】
突条46は、外循環路72(外循環形成溝41)の底面41aや、内循環路71の底面などに形成されることが好ましい。その理由は、図4に示すように、転動体30が方向転換路70から転動体通路60に移る際、方向転換路70の構成部材としての外循環路72の外周面が途中までしか形成されていないが、転動体30は遠心力にて外循環路72及び内循環路71の外周面に必ず接触する。この方向転換路にて、転動体30がズレと傾きを確実に小さくすることができるため、後は正しい姿勢にて、惰性で方向転換路70を出る。
【0022】
[リターンガイド]
次に、外循環形成溝41に嵌め込まれるリターンガイド50について、以下に説明する。リターンガイド50は、図5(a),(b)に示すように、U字形状をなし、エンドキャップ40と同様に、樹脂材料(例えばポリアセタール、ポリアミド等)の射出成形で作製される。
リターンガイド50は、湾曲する外周面50aを外循環路72の内周面とし、内周面50bの底部50bbを内循環路71の外周面として方向転換路70を構成するように成形されている。そして、リターンガイド50は、外周面50aをエンドキャップ40の端面40aに対向させて外循環路形成溝41に嵌め込まれる。リターンガイド50は、外循環路形成溝41に一体成形されてもよい。
【0023】
なお、リターンガイド50は、図5(a),(b)に示すように、内循環路71を形成する内周面50bにのみ突条51が形成されてもよい。本実施形態では、方向転換路70を構成する面に、転動体30の転走方向に沿う突条46が形成されていればよく、外循環路72を形成するリターンガイド50の外周面50aは、平坦面であってもよい。突条51がリターンガイド50にも形成されることにより、方向転換路70内における転動体30の転走方向がより確実にガイドされる。
【0024】
このように、内循環路71の外周面、及び外循環路72の外周面の少なくともいずれかに突条46が形成されることによって、方向転換路70内における転動体30の転走方向がガイドされ、その結果、転動体30の姿勢が維持される。従って、転走方向に対する転動体30のズレと傾きを小さくすることができ、スキューを軽減する直動案内軸受装置1を提供することができる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。例えば、上述の実施形態では、方向転換路70を構成する外循環路形成溝41及び内循環路形成溝42の少なくともいずれか一方に突条46を1条形成した態様について説明したが、この突条46は、複数並行して設けられてもよい。そしてこのような複数の突条46,46を有する直動案内軸受装置に用いられる転動体30は、その全周にわたって突条46,46に遊嵌する複数の溝部31,31が形成されている。複数の突条46が並行して方向転換路70内に形成されることによって、方向転換路70内における転動体30の転走方向をより確実にガイドし、転走方向に対する転動体30のズレと傾きをさらに小さくすることができる。そして、その結果として、スキューをさらに軽減する直動案内軸受装置1を提供することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 直動案内軸受装置
10 案内レール
11 転動体転動溝
20 スライダ
20A スライダ本体
21 転動体転動溝
30 転動体(円筒ころ)
40 エンドキャップ
46 突条
70 方向転換路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側部に軸方向に延びる転動体転動溝を有して軸方向に延長された案内レールと、該案内レールの前記転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有し、これらの両転動体転動溝間に挿入された転動体の転動を介して軸方向に沿って相対移動可能に前記案内レールに跨架されたスライダとを備え、前記スライダは、前記転動体転動溝及び軸方向に貫通する転動体通路が設けられたスライダ本体と、前記両転動体転動溝間と前記転動体通路とを連通する湾曲状の方向転換路を有して前記スライダ本体の軸方向の両端面に固定された一対のエンドキャップとを具備する直動案内軸受装置であって、
前記転動体には、その全周にわたって溝部が形成され、
前記溝部に遊嵌する突条が前記方向転換路の前記転動体の周面が当接する面に形成されたことを特徴とする直動案内軸受装置。
【請求項2】
前記方向転換路を構成する内循環路及び外循環路の少なくともいずれか一方の外周面に前記突条が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の直動案内軸受装置。
【請求項3】
前記突条が複数形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の直動案内軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−237393(P2012−237393A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107332(P2011−107332)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】