説明

直動装置

【課題】進み角の差異によるメリットをより有効活用すること。
【解決手段】進み角が異なるねじ部を有した駆動軸51と伝達軸71との間にクラッチ機構60を介在させ、かつ回転体30に対する第1ハウジング10および第2ハウジング20の相対的な回転を規制する固定体52およびスプリング73を設けている。このため、クラッチ機構60を伝達状態と非伝達状態とに切り替えることにより、回転動作させるねじ部を選択的に変更することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、直動装置は、例えば、車両におけるバックドアの開閉作業の容易化を図るために用いられている。この直動装置は、互いに同一軸心上となる位置に配置される第1ハウジングと第2ハウジングとを備えて構成されている。第1ハウジングは、同一軸心上となる位置に回転軸を備えている。この回転軸は、外周面におねじ部が形成されたもので、駆動モータの駆動によって第1ハウジングに対して相対的に回転動作するように構成されている。第2ハウジングは、めねじ部を介して回転軸に螺合されている。このような直動装置は、第1ハウジングと第2ハウジングとのいずれか一方が、車両に取り付けられ、他方がバックドアに取り付けられる。この直動装置では、回転軸のおねじ部と第2ハウジングのめねじ部とが螺合しているため、該回転軸の回転動作に従って第1ハウジングと第2ハウジングとが互いに軸方向に沿って相対移動することになる。これにより、直動装置を伸縮動作させることが可能となり、車両に対してバックドアを開閉することが可能となる。
【0003】
一般的に、おねじ部およびめねじ部の進み角を小さくしていくと、軸方向に沿って移動する際の力が大きくなるものの、1回転当たりの軸方向に沿った移動量が小さくなり、逆に、おねじ部およびめねじ部の進み角を大きくしていくと、1回転当たりの軸方向に沿った移動量を大きくすることができるものの、軸方向に沿って移動する際の力は小さくなるという相反する性質を持つ。
【0004】
従来の直動装置の中には、こうした進み角の差異によるメリットを有効活用すべく、回転軸に進み角が異なる複数のおねじ部を形成したものも提供されている。この直動装置によれば、例えば伸長動作する際に、動作初期において進み角が小さい部分で大きな力を発生することができ、その後、進み角が大きい部分において1回転当たりの軸方向の移動量を大きくすることができるようになる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0060463号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した直動装置では、回転軸に設けたおねじ部の順番に従って伸縮動作が決定されてしまうことになり、これを任意に変更することはできない。例えば、上述した例のように、伸長動作する際に、動作初期において進み角が小さい部分で大きな力を発生し、その後、進み角が大きい部分において1回転当たりの軸方向の移動量を大きくするように構成した直動装置では、短縮動作する場合、進み角が大きいため動作初期において大きな力を発生することができず、その後、進み角が小さくなるため1回転当たりの軸方向の移動量が小さくならざるを得ない。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、進み角の差異によるメリットをより有効活用することのできる直動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る直動装置は、回転体と、前記回転体と同一軸心上に配置され、前記回転体に対して該回転体の軸心回りに回転可能、かつ前記回転体に対して該回転体の軸方向に沿って移動可能に構成した第1ハウジングと、前記回転体と同一軸心上に配置され、前記回転体に対して該回転体の軸心回りに回転可能、かつ前記回転体に対して該回転体の軸方向に沿って移動可能に構成した第2ハウジングと、前記第1ハウジングと同一軸心上となる位置に、第1の進み角で形成した駆動ねじ部を有し、前記第1ハウジングに対して該第1ハウジングの軸心回りに回転動作した場合に、前記駆動ねじ部を介して前記第1ハウジングと前記回転体とを軸方向に沿って相対的に移動する駆動軸と、前記第2ハウジングと同一軸心上となる位置に、前記第1の進み角と異なる第2の進み角で形成した伝達ねじ部を有し、前記第2ハウジングに対して該第2ハウジングの軸心回りに回転動作した場合に、前記伝達ねじ部を介して前記第2ハウジングと前記回転体とを軸方向に沿って相対的に移動する伝達軸と、前記第1ハウジングに対して前記回転体が軸方向に沿って所定距離移動した場合に、前記駆動軸に対する前記回転体の軸心回りの回転を規制する第1規制体と、前記第2ハウジングに対する前記回転体の回転を規制する第2規制体と、前記駆動軸と前記伝達軸との間に介在し、前記駆動軸が回転する動作を前記伝達軸に伝達する伝達状態と、前記駆動軸が回転する動作の前記伝達軸への伝達を断つ非伝達状態とに切り替え可能に構成したクラッチ機構とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、進み角が異なるねじ部を有した駆動軸と伝達軸との間にクラッチ機構を介在させ、かつ回転体に対する第1ハウジングおよび第2ハウジングの相対的な回転を規制する第1規制体および第2規制体を設けている。このため、クラッチ機構を伝達状態と非伝達状態とに切り替えることにより、回転動作させるねじ部を選択的に変更することが可能となる。これにより、進み角の差異によるメリットをより有効活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる直動装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
図1〜図4は、本発明の実施の形態である直動装置を示したものである。ここで例示する直動装置は、図5に示すような四輪自動車の車両本体Bにおいて、後端部に配置された上方ヒンジのバックドアDを開閉する開閉手段として適用されるもので、第1ハウジング10、第2ハウジング20および回転体30を備えて構成してある。
【0012】
第1ハウジング10は、図1に示すように、円筒状の第1ハウジング本体11に一端部を閉塞する態様で連結体12を取り付けたものである。この連結体12は、蓋部12aおよび連結部12bを有している。蓋部12aは、第1ハウジング本体11の外径よりも大きな外径を有する円盤状の部分であり、一端面を介して第1ハウジング本体11の一端面を閉塞している。連結部12bは、蓋部12aの他端面から突出した突出部12cの突出端部に球状を成すピボット部12dを形成した部分である。
【0013】
第2ハウジング20は、図1に示すように、円筒状の第2ハウジング本体21に一端部を閉塞する態様で連結体22を取り付けたものである。第2ハウジング本体21は、第1ハウジング本体11の外径よりも大きな外径を有し、かつ該第1ハウジング本体11よりも軸方向の長さが長く形成してある。連結体22は、栓部22aおよび連結部22bを有している。栓部22aは、第2ハウジング本体21の内径とほぼ同一の外径を有する円盤状の部分である。連結部22bは、栓部22aの一端面から突出した突出部22cの突出端部に球状を成すピボット部22dを形成した部分である。
【0014】
また、第2ハウジング20は、図1に示すように、第2ハウジング本体21の内部にナット体23を備えている。ナット体23は、第2ハウジング本体21よりも軸方向の長さが短く、かつ該第2ハウジング本体21の内径よりも小さな外径を有する円筒状の部材である。このナット体23は、第2ハウジング本体21と同一軸心となる態様で、一端部を介して連結体22における栓部22aの他端面に取り付けてある。また、このナット体23には、他端部に伝達凸部24が形成してある。伝達凸部24は、ナット体23の他端部において内径を局部的に小さくした環状の凸部である。この伝達凸部24の内壁面には、伝達めねじ部25が形成してある。この伝達めねじ部25は、例えば、2〜6条のねじ溝で形成してある。
【0015】
回転体30は、図1に示すように、円筒状の部材であり、基部31、収容端部32および連係端部33を有している。基部31は、第2ハウジング本体21の外径と略同一の外径を有し、かつ回転体30において内径を局部的に小さくした部分である。この基部31の内壁面には、駆動めねじ部34が形成してある。この駆動めねじ部34は、第2ハウジング20に取り付けたナット体23の伝達めねじ部25よりも進み角を小さくした1条のねじ溝で形成してある。
【0016】
収容端部32は、基部31の一端部から軸方向の一方側に向けて突設した部分であり、基部31と同一の外径を有し、かつ第1ハウジング本体11よりも軸方向の長さが長く形成してある。この収容端部32は、第1ハウジング本体11の外径よりも大きな内径を有し、内部に円柱状の収容空間35を画成している。
【0017】
連係端部33は、基部31の他端部から軸方向の他方側に向けて突設した部分であり、基部31と同一の外径を有し、かつ第2ハウジング本体21の内径よりも小さく、ナット体23の外径よりも大きな内径を有するように形成してある。この連係端部33は、その一端部に作用端部36を有している。
【0018】
作用端部36は、連係端部33の一端部から軸方向の他方側に向けて突設した部分であり、第2ハウジング本体21よりも軸方向の長さが短く、かつ該第2ハウジング本体21の内径よりも小さな外径を有する円筒状を成している。この作用端部36は、連係端部33と同一の内径を有し、連係端部33とともに、内部に円柱状の作用空間37を画成している。また、この作用端部36には、連係端部33側となる部位に作用凸部38が形成してある。作用凸部38は、作用端部36の連係端部33側となる部位において内径を局部的に小さくした環状の凸部である。以下の説明において、図1において作用凸部38の左側となる作用空間37を「第1作用空間37a」、図1において作用凸部38の右側となる作用空間37を「第2作用空間37b」と称する。
【0019】
また、上記直動装置には、図1に示すように、第1ハウジング10における第1ハウジング本体11の内部に、駆動モータ41および回転センサ42が収容してある。
【0020】
駆動モータ41は、出力軸41aの軸心が第1ハウジング本体11と同一軸心となる態様で、本体ケース41bが第1ハウジング本体11に固定してある。この駆動モータ41は、減速機構付きの電動モータであり、電源が供給された場合に、該減速機構を介して出力軸41aを本体ケース41bに対して相対的に回転動作するものである。回転センサ42は、駆動モータ41の出力軸41aの回転数を検出し、この検出結果を車両の制御部(図示せず)に出力するものである。
【0021】
また、駆動モータ41の出力軸41aには、図1に示すように、同一軸心上となる位置に駆動軸50を支持させてある。駆動軸50は、出力軸41aが回転動作した場合に、該出力軸41aとともに一体となって回転動作するように、一端部を介して出力軸41aに係合した円柱状の部材である。この駆動軸50には、外周面に駆動おねじ部(駆動ねじ部)51が形成してある。この駆動おねじ部51は、回転体30における基部31の駆動めねじ部34に螺合可能に形成してある。図1に示すように、この駆動おねじ部51の軸方向の長さは、駆動めねじ部34の軸方向の長さよりも長くなるように構成してある。
【0022】
ここで、上述した回転体30は、図1に示すように、収容空間35に第1ハウジング本体11を収容する態様で、回転体30における基部31の駆動めねじ部34を駆動軸50の駆動おねじ部51に螺合してある(1条ねじ)。これにより、第1ハウジング10の同一軸心上となる位置に回転体30が配置されることになる。
【0023】
また、駆動軸50は、図1に示すように、他端部側となる部位に固定体(第1規制体)52を備えている。固定体52は、回転体30における連係端部33の内径と略同一の外径を有する環状の部材である。この固定体52は、駆動軸50とともに一体となって回転動作するように、該駆動軸50に同一軸心となる態様で取り付けてある。
【0024】
さらに、駆動軸50には、図1に示すように、同一軸心上となる位置にクラッチ機構60を介して伝達軸70を支持させてある。伝達軸70は、クラッチ機構60を介して駆動軸50の回転動作が伝達された場合に、回転動作する円柱状の部材である。この伝達軸70には、外周面に伝達おねじ部(伝達ねじ部)71が形成してある。この伝達おねじ部71は、第2ハウジング20に取り付けたナット体23の伝達めねじ部25に螺合可能に形成してある。図1に示すように、この伝達おねじ部71の軸方向の長さは、伝達めねじ部25の軸方向の長さよりも長くなるように構成してある。さらに、図1に示すように、この伝達おねじ部71の軸方向の長さは、駆動おねじ部51の軸方向の長さよりも長くなるように構成してある。
【0025】
ここで、上述した第2ハウジング20は、図1に示すように、第2ハウジング本体21の内部に回転体30における作用端部36を収容する態様で、ナット体23の伝達めねじ部25を伝達軸70の伝達おねじ部71に螺合してある(多条ねじ)。これにより、第1ハウジング10および回転体30と同一軸心上となる位置に第2ハウジング20が配置されることになる。
【0026】
また、伝達軸70は、図1に示すように、一端部側となる部位に軸受部材72を備えている。軸受部材72は、第2ハウジング20に取り付けたナット体23の内径と略同一の外径を有する環状の部材である。この軸受部材72は、伝達軸70とともに一体となって回転動作するように、該伝達軸70に同一軸心となる態様で取り付けてある。
【0027】
クラッチ機構60は、駆動軸50と伝達軸70との間に介在し、駆動軸50が回転する動作を伝達軸70に伝達する伝達状態と、駆動軸50が回転する動作の伝達軸70への伝達を断つ非伝達状態とに切り替え可能に構成してある。本実施の形態では、クラッチ機構60に、電源の供給によって伝達状態と非伝達状態とに切り替え可能に構成した電磁クラッチを適用している。
【0028】
また、第2ハウジング20と回転体30との間には、図1に示すように、スプリング(第2規制体)73が設けてある。スプリング73は、作用端部36の内周面とナット体23の外周面との相互間に収容してある。このスプリング73は、作用凸部38と連結体22における栓部22aの他端面とを、第2ハウジング20の軸方向に沿って互いに離反する方向に向けて常時押圧するものである。
【0029】
ここで、上述した直動装置は、図には明示していないが、車両本体Bの後端部において、該車両本体Bの室内の左右両端に一対配設してある。この一対の直動装置は、図5に示すように、連結体12のピボット部12dを、車両本体Bの室内の上方となる部位に形成された装着部(図示せず)にそれぞれ取り付けてある。一方、この一対の直動装置は、図5に示すように、連結体22のピボット部22dを、バックドアDを閉成した状態において、該バックドアDにおける車両本体Bの室内側となる部位に形成された装着部(図示せず)にそれぞれ取り付けてある。これにより、一対の直動装置が、それぞれピボット部12d,22dを中心として車両本体Bの左右方向に沿った軸心回りに揺動可能、かつ第1ハウジング10の軸心回りに回転不能に支持される。
【0030】
上記のように構成した直動装置では、図1に示す状態において、回転体30における収容端部32の一端部が、連結体12における蓋部12aの一端面に当接している。また、この図1に示す状態においては、連結体22における栓部22aの他端面が、回転体30における作用端部36の一端部に当接しているとともに、第2ハウジング本体21の他端面が、回転体30における連係端部33の一端部に当接している。この状態においては、図5に示すように、車両本体Bに対してバックドアDが閉成されており、この閉成状態が車両本体Bに設けられたストライカ(図示せず)と、バックドアDに設けられたラッチ(図示せず)との係合で保持されている。このとき、クラッチ機構60は、非伝達状態にある。
【0031】
図1に示す状態から開閉スイッチ(図示せず)が操作されると、車両の制御部(図示せず)からの開成指令によって、車両本体Bに設けられたストライカ(図示せず)と、バックドアDに設けられたラッチ(図示せず)との係合関係が解除され、その後駆動モータ41が駆動されることになる。駆動モータ41の駆動によって出力軸41aが回転動作されると、該出力軸41aとともに一体となって駆動軸50が回転することになる。
【0032】
ここで、回転体30における作用端部36の作用凸部38がスプリング73によって第2ハウジング20から離反する方向に押圧されているため、第2ハウジング20に対する回転体30の回転が規制されている。そのため、駆動軸50が回転体30に対して回転することになり、図2に示すように、回転体30が軸方向に沿って第1ハウジング10に対して離反する方向に移動することになる。このとき、第2ハウジング20は、作用端部36の一端部、および連係端部33の一端部を介して回転体30に押圧されることになり、図2に示すように、回転体30とともに第1ハウジング本体11の軸方向に沿って第1ハウジング10に対して離反する方向に移動することになる。
【0033】
上述したように回転体30および第2ハウジング20が軸方向に沿って第1ハウジング10に対して離反する方向に移動すると、直動装置の軸方向長さが長くなる。つまり、この直動装置の伸長動作によって、車両本体Bに取り付けた連結体12のピボット部12dと、バックドアDに取り付けた連結体22のピボット部22dとの相互間距離が長くなる。
【0034】
上述した動作の間、直動装置が、ピボット部12dを中心として車両本体Bの左右方向に沿った軸心回りに適宜揺動しながら、車両本体Bに対してバックドアDを押圧することになる。さらに、本実施の形態では、上述した動作の間、進み角を伝達おねじ部71と比較して小さくした駆動おねじ部51の回転動作により、直動装置を伸長動作している。これにより、図5に示すようなバックドアDが略鉛直に沿った姿勢であって、開動作に必要な力が大きい場合にも、第1ハウジング10に対して第2ハウジング20を軸方向に沿って移動することができる。
【0035】
また、上述した動作の間に、例えば、バックドアDが手動で開動作された場合、第2ハウジング20は、ナット体23の伝達めねじ部25を介して伝達軸70に螺合しているが、第1ハウジング本体11の軸方向に沿って第1ハウジング10に対して離反する方向に移動することができる。すなわち、この移動の間、ナット体23の伝達めねじ部25に螺合した伝達軸70は、伝達おねじ部71の進み角を駆動おねじ部51と比較して大きくしているため、第2ハウジング20に対して適宜回転動作することができる。さらに、この状態においては、クラッチ機構60が非伝達状態にあるため、伝達軸70が回転動作したとしても、この回転動作が駆動軸50に伝達されることはない。したがって、駆動軸50は、駆動おねじ部51の進み角を伝達おねじ部71と比較して小さくしたとしても、該駆動軸50の回転動作によって第1ハウジング10を介して車両本体Bにおけるピボット部12dの装着部(図示せず)に負荷がかかる事態を防止することができる。
【0036】
上述したように伸長動作すると、やがて直動装置は、図1に示した状態に対して駆動軸50の軸方向の長さが15mm伸長した状態となる。これにより、車両本体Bに設けられたストライカ(図示せず)と、バックドアDに設けられたラッチ(図示せず)とが係合可能な領域から、バックドアDが退避することになる。
【0037】
さらに、図1に示した状態に対して駆動軸50の軸方向の長さが15mm伸長した状態では、図2に示すように、駆動軸50に取り付けた固定体52が回転体30における基部31の他端面に当接することになる。ここで、本実施の形態では、車両の制御部(図示せず)からの給電指令によって車両からクラッチ機構60に電源を供給し、非伝達状態から伝達状態に切り替える。
【0038】
この図2に示す状態では、駆動軸50に取り付けた固定体52と回転体30における基部31の他端面と当接により、回転体30の第1ハウジング10に対する離反する方向への移動が規制されることになる。この結果、引き続き駆動軸50が回転動作すると、回転体30は、スプリング73の押圧力に抗して駆動軸50とともに一体となって回転動作することになる。このように、固定体52を設けることで、回転体30と駆動軸50とを一体的に回転動作させることが可能となることから、駆動おねじ部51と駆動めねじ部34の長さを抑えつつ、後述する伝達軸70を回転動作させることができ、軸心方向における装置の小型化を図ることができる。
【0039】
一方、この状態においては、クラッチ機構60が伝達状態にあるため、駆動軸50が回転動作すると、伝達軸70が第2ハウジング20に対して回転動作することになる。この結果、伝達おねじ部71に螺合したナット体23が、図3に示すように、第2ハウジング20の軸方向に沿って第1ハウジング10および回転体30に対して離反する方向に移動することになる。
【0040】
上述したようにナット体23が第2ハウジング20の軸方向に沿って第1ハウジング10および回転体30に対して離反する方向に移動すると、直動装置の軸方向長さが長くなる。つまり、この直動装置の伸長動作によって、車両本体Bに取り付けた連結体12のピボット部12dと、バックドアDに取り付けた連結体22のピボット部22dとの相互間距離が長くなる。
【0041】
上述した動作の間も引き続き、直動装置が、ピボット部12dを中心として車両本体Bの左右方向に沿った軸心回りに適宜揺動しながら、車両本体Bに対してバックドアDを押圧することになる。この状態においては、バックドアDが前傾姿勢になり、かつスプリング73が回転体30における作用端部36の作用凸部38と第2ハウジング20における連結体22の栓部22aとを互いに離反する方向に向けて押圧するため、開動作に必要な力が図1に示す初期段階と比較して小さくなる。そこで、本実施の形態では、上述した動作の間、進み角を駆動おねじ部51と比較して大きくした伝達おねじ部71の回転動作により、直動装置を伸長動作している。これにより、バックドアDの開動作の初期段階よりも、第1ハウジング10に対して第2ハウジング20を軸方向に沿って移動する場合に、伝達おねじ部71の1回転当りに対する第1ハウジング10と第2ハウジング20との相対移動距離を長くすることができる。
【0042】
上述したように伸長動作すると、やがて、直動装置は、図3に示す状態まで伸長動作することになり、図6に示すように、車両本体Bに対してバックドアDが最も開成されることになる。このバックドアDの全開状態は、スプリング73が回転体30における作用端部36の作用凸部38と第2ハウジング20における連結体22の栓部22aとを互いに離反する方向に向けて押圧することにより、これを保持することができる。
【0043】
図3に示す状態において、本実施の形態では、車両の制御部(図示せず)からの給電指令によって車両からクラッチ機構60に電源を供給し、伝達状態から非伝達状態に切り替える。
【0044】
これにより、例えば、図3に示す状態において、バックドアDが手動で閉動作された場合、第2ハウジング20は、ナット体23の伝達めねじ部25を介して伝達軸70に螺合しているが、第1ハウジング本体11の軸方向に沿って第1ハウジング10に対して近接する方向に移動することができる。すなわち、この移動の間、ナット体23の伝達めねじ部25に螺合した伝達軸70は、伝達おねじ部71の進み角を駆動おねじ部51と比較して大きくしているため、第2ハウジング20に対して適宜回転動作することができる。さらに、この状態においては、クラッチ機構60が非伝達状態にあるため、伝達軸70が回転動作したとしても、この回転動作が駆動軸50に伝達されることはない。したがって、駆動軸50は、駆動おねじ部51の進み角を伝達おねじ部71と比較して小さくしたとしても、該駆動軸50の回転動作によって第1ハウジング10を介して車両本体Bにおけるピボット部12dの装着部(図示せず)に負荷がかかる事態を防止することができる。
【0045】
この図3に示す状態から開閉スイッチ(図示せず)が操作されると、車両の制御部(図示せず)からの閉成指令によって、駆動モータ41が駆動されることになる。駆動モータ41の駆動によって出力軸41aが上述したバックドアDの開成動作とは逆に回転動作されると、該出力軸41aとともに一体となって駆動軸50が回転することになる。
【0046】
ここで、回転体30における作用端部36の作用凸部38がスプリング73によって第2ハウジング20から離反する方向に押圧されているため、第2ハウジング20に対する回転体30の回転が規制されている。そのため、駆動軸50が回転体30に対して回転することになり、図4に示すように、回転体30が軸方向に沿って第1ハウジング10に対して近接する方向に移動することになる。
【0047】
上述した動作の間、例えば、バックドアDが手動で閉動作された場合、第2ハウジング20は、ナット体23の伝達めねじ部25を介して伝達軸70に螺合しているが、第1ハウジング本体11の軸方向に沿って第1ハウジング10に対して近接する方向に移動することができる。すなわち、この移動の間、ナット体23の伝達めねじ部25に螺合した伝達軸70は、伝達おねじ部71の進み角を駆動おねじ部51と比較して大きくしているため、第2ハウジング20に対して適宜回転動作することができる。さらに、この状態においては、クラッチ機構60が非伝達状態にあるため、伝達軸70が回転動作したとしても、この回転動作が駆動軸50に伝達されることはない。したがって、駆動軸50は、駆動おねじ部51の進み角を伝達おねじ部71と比較して小さくしたとしても、該駆動軸50の回転動作によって第1ハウジング10を介して車両本体Bにおけるピボット部12dの装着部(図示せず)に負荷がかかる事態を防止することができる。
【0048】
図4に示す状態において、本実施の形態では、車両の制御部(図示せず)からの給電指令によって車両からクラッチ機構60に電源を供給し、非伝達状態から伝達状態に切り替える。
【0049】
この図4に示す状態では、回転体30における収容端部32の一端部が、第1ハウジング10における連結体12の蓋部12aに当接することになり、回転体30の第1ハウジング10に対する近接する方向への移動が規制されることになる。この結果、引き続き駆動軸50が回転すると、回転体30は、スプリング73の押圧力に抗して駆動軸50とともに一体となって回転動作することになる。よって、上述の固定体52と同様に、回転体30と駆動軸50とを一体的に回転動作させることで、軸心方向における装置の小型化に寄与する。
【0050】
一方、この状態においては、クラッチ機構60が伝達状態にあるため、伝達軸70が第2ハウジング20に対して回転動作することになる。この結果、伝達おねじ部71に螺合したナット体23が、図1に示すように、第2ハウジング20の軸方向に沿って第1ハウジング10および回転体30に対して近接する方向に移動することになる。
【0051】
上述したようにナット体23が第2ハウジング20の軸方向に沿って第1ハウジング10および回転体30に対して近接する方向に移動すると、直動装置の全長が短くなる。つまり、この直動装置の短縮動作によって、車両本体Bに取り付けた連結体12のピボット部12dと、バックドアDに取り付けた連結体22のピボット部22dとの相互間距離が短くなる。
【0052】
上述した動作の間、直動装置が、ピボット部12dを中心として車両本体Bの左右方向に沿った軸心回りに適宜揺動しながら、車両本体Bに対してバックドアDを引張することになる。さらに、本実施の形態では、上述した動作の間、進み角を駆動おねじ部51と比較して大きくした伝達おねじ部71の回転動作により、直動装置を短縮動作している。この状態においては、バックドアDが略水平に沿った姿勢であり、閉動作に必要な力が図1に示す初期段階と比較して小さくなる。そこで、本実施の形態では、上述した動作の間、進み角を駆動おねじ部51と比較して大きくした伝達おねじ部71の回転動作により、直動装置を短縮動作している。これにより、バックドアDの開動作の初期段階よりも、第1ハウジング10に対して第2ハウジング20を軸方向に沿って移動する場合に、伝達おねじ部71の1回転当りに対する第1ハウジング10と第2ハウジング20との相対移動距離を長くすることができる。
【0053】
上述したように伸長動作すると、やがて、直動装置は、再び図1に示す状態まで短縮動作することになり、この状態においては、図5に示すように、再び車両本体Bに対してバックドアDが閉成され、車両本体Bに設けられたストライカ(図示せず)と、バックドアDに設けられたラッチ(図示せず)とが係合する。ここで、本実施の形態では、車両の制御部(図示せず)からの給電指令によってクラッチ機構60に電源を供給し、伝達状態から非伝達状態に切り替える。
【0054】
これにより、例えば、図1に示す状態において、バックドアDが手動で開動作された場合、第2ハウジング20は、ナット体23の伝達めねじ部25を介して伝達軸70に螺合しているが、第1ハウジング本体11の軸方向に沿って第1ハウジング10に対して離反する方向に移動することができる。すなわち、この移動の間、ナット体23の伝達めねじ部25に螺合した伝達軸70は、伝達おねじ部71の進み角を駆動おねじ部51と比較して大きくしているため、第2ハウジング20の移動に伴い、該第2ハウジング20に対して適宜回転動作することができる。さらに、この状態においては、クラッチ機構60が非伝達状態にあるため、伝達軸70が回転動作したとしても、この回転動作が駆動軸50に伝達されることはない。したがって、駆動軸50は、駆動おねじ部51の進み角を伝達おねじ部71と比較して小さくしたとしても、該駆動軸50の回転動作によって第1ハウジング10を介して車両本体Bにおけるピボット部12dの装着部(図示せず)に負荷がかかる事態を防止することができる。
【0055】
上記のように構成した直動装置によれば、進み角が異なるねじ部を有した駆動軸51と伝達軸71との間にクラッチ機構60を介在させ、かつ回転体30に対する第1ハウジング10および第2ハウジング20の相対的な回転を規制する固定体52およびスプリング73を設けている。このため、クラッチ機構60を伝達状態と非伝達状態とに切り替えることにより、回転動作させるねじ部を駆動ねじ部51と伝達ねじ部71とに選択的に変更することが可能となる。これにより、進み角の差異によるメリットをより有効活用することができる。
【0056】
なお、本実施の形態では、回転体30における基部31の内壁面に形成したねじ溝で駆動めねじ部34を形成しているが、駆動軸50の回転動作に従って回転体30を第1ハウジング10に対して移動できれば、必ずしもねじ溝で駆動めねじ部34を形成する必要はない。例えば、駆動おねじ部51を形成するねじ溝に係合可能な突起を基部31の内壁面に設け、この突起と駆動おねじ部51との係合作用によって、駆動軸50の回転動作に従って回転体30を第1ハウジング10に対して移動するようにしても良い。
【0057】
また、本実施の形態では、ナット体23における伝達凸部24の内壁面にねじ溝で形成したねじ溝で伝達めねじ部25を形成しているが、伝達軸70の回転動作に従ってナット体23を第2ハウジング20に対して移動できれば、必ずしもねじ溝で伝達めねじ部25形成する必要はない。例えば、伝達おねじ部71に形成するねじ溝に係合可能な突起を伝達凸部24の内壁面に設け、この突起と伝達おねじ部71との係合作用によって、伝達軸70の回転動作に従ってナット体23を第2ハウジング20に対して移動するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態である直動装置を示した縦断面図である。
【図2】図1に示した直動装置を伸長動作した状態を示す縦断面図である。
【図3】図2に示す状態において引き続き直動装置を伸長動作した状態を示す縦断面図である。
【図4】図3に示す状態において直動装置を短縮動作の途中状態を示す縦断面図である。
【図5】本発明の実施の形態である直動装置を適用する車両の側面概念図である。
【図6】図5に示した車両においてバックドアを開成した状態を示す側面概念図である。
【符号の説明】
【0059】
10 第1ハウジング
20 第2ハウジング
23 ナット体
25 伝達めねじ部
30 回転体
31 基部
32 収容端部
33 連係端部
34 駆動めねじ部
36 作用端部
41 駆動モータ
41a 出力軸
50 駆動軸
51 駆動おねじ部(駆動ねじ部)
52 固定体(第1規制体)
60 クラッチ機構
70 伝達軸
71 伝達おねじ部(伝達ねじ部)
72 軸受部材
73 スプリング(第2規制体)
B 車両本体
D バックドア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、
前記回転体と同一軸心上に配置され、前記回転体に対して該回転体の軸心回りに回転可能、かつ前記回転体に対して該回転体の軸方向に沿って移動可能に構成した第1ハウジングと、
前記回転体と同一軸心上に配置され、前記回転体に対して該回転体の軸心回りに回転可能、かつ前記回転体に対して該回転体の軸方向に沿って移動可能に構成した第2ハウジングと、
前記第1ハウジングと同一軸心上となる位置に、第1の進み角で形成した駆動ねじ部を有し、前記第1ハウジングに対して該第1ハウジングの軸心回りに回転動作した場合に、前記駆動ねじ部を介して前記第1ハウジングと前記回転体とを軸方向に沿って相対的に移動する駆動軸と、
前記第2ハウジングと同一軸心上となる位置に、前記第1の進み角と異なる第2の進み角で形成した伝達ねじ部を有し、前記第2ハウジングに対して該第2ハウジングの軸心回りに回転動作した場合に、前記伝達ねじ部を介して前記第2ハウジングと前記回転体とを軸方向に沿って相対的に移動する伝達軸と、
前記第1ハウジングに対して前記回転体が軸方向に沿って所定距離移動した場合に、前記駆動軸に対する前記回転体の軸心回りの回転を規制する第1規制体と、
前記第2ハウジングに対する前記回転体の回転を規制する第2規制体と、
前記駆動軸と前記伝達軸との間に介在し、前記駆動軸が回転する動作を前記伝達軸に伝達する伝達状態と、前記駆動軸が回転する動作の前記伝達軸への伝達を断つ非伝達状態とに切り替え可能に構成したクラッチ機構とを備えた
ことを特徴とする直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−53905(P2010−53905A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217258(P2008−217258)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】