説明

直動転がり案内ユニット用のスライダ

【課題】 スムーズな転動と確実な潤滑を確保しながらも、精密な寸法管理を不要とすることで製作コストを低減することができる直動転がり案内ユニット用のスライダを提供する。
【解決手段】 エンドキャップ2の方向転換路10外周面に潤滑面20を露出させた潤滑部材Aを備える。そして、転動体11が方向転換路10を転動する過程で、上記潤滑面20に転動体11が接触して転動体11を潤滑する。上記潤滑面20は、方向転換路10の円弧面10bに露出させるとともに、当該潤滑面20と方向転換路10の外周面とが2ヶ所で交差する関係を維持している。しかも、上記潤滑面20は、上記2ヶ所間の長さよりも長くする一方、この余剰長さ部分における潤滑面20と方向転換路10の外周面との間に凹部21が形成される構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラックレールに形成した軌道面上に転動体を転動させることにより、レール上をスムーズに相対移動する直動転がり案内ユニット用のスライダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の直動転がり案内ユニット用のスライダとして、特許文献1に示すものが知られている。
このスライダは、ケーシングの両端にエンドキャップを固定するとともに、上記ケーシングに形成した転動路と、エンドキャップに形成した方向転換路とによって循環路を形成し、この循環路内に転動体を循環させている。そして、上記エンドキャップには潤滑剤を含浸した潤滑部材を組み込むとともに、この潤滑部材の一部をエンドキャップに形成した方向転換路に露出させている。図18に、潤滑部材および方向転換路の具体的な構造を示す。
【0003】
図18に示すように、エンドキャップ101には、方向転換路102が形成されている。このエンドキャップ101の図中上方には、図示しないケーシングが固定されており、このケーシングに形成した転動路に、上記方向転換路102の両端が連続するようにしている。
上記方向転換路102は、図示のとおり、直線状の直線部102aと、この直線部102aに連続するとともに、所定の曲率を有する円弧状部102bとからなる。
一方、上記エンドキャップ101には、潤滑部材103が組み込まれている。この潤滑部材103は、その一部に凸部104を形成するとともに、この凸部104を、上記方向転換路102の直線部102aに露出している。上記凸部104は、その先端面を潤滑面104aとしており、この潤滑面104aが上記直線部102aと平行になるようにしている。
【0004】
上記方向転換路102内には、複数の転動体Bが組み込まれており、これら転動体Bは、方向転換路102内を転動しながら通過する。そして、転動体Bは、上記直線部102aを転動する過程で、潤滑面104aに接触するとともに、潤滑部材103が含浸する潤滑剤が、潤滑面104aから転動体Bに塗布されて、当該転動体Bが潤滑されることとなる。
このように、方向転換路102を通過する過程で転動体Bが潤滑されるので、長期にわたって転動体Bの転動をスムーズにすることができる。
【特許文献1】特開2007−100951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、転動体Bを潤滑するためには、当然のこととして、潤滑面104aが方向転換路102の外周面105から突出するか、あるいは、潤滑面104aが方向転換路102の外周面105と一致する関係にならなければならない。
しかし、潤滑面104aが外周面105から突出しすぎて、外周面105と潤滑面104aとの間にできる段差xが大きくなると、転動体Bがスムーズに転動できなくなってしまう。一方、潤滑面104aが外周面105から僅かでも凹んでしまうと、転動体Bを潤滑することが全くできなくなってしまう。
このように、転動体Bの転動を阻害することなく、確実に潤滑機能を発揮するためには、潤滑面104aと外周面105とが面一になるように、精密な寸法管理をしなければならず、その分、製造や組付け作業が煩雑となり、製作コストが高くなるという問題があった。
【0006】
この発明の目的は、スムーズな転動と確実な潤滑を確保しながらも、精密な寸法管理を不要とすることで製作コストを低減することができる直動転がり案内ユニット用のスライダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、転動体をガイドする転動路を有するケーシングと、このケーシングの両端に固定するとともに、上記転動路に連続する円弧面を有する方向転換路を形成してなる一対のエンドキャップと、この一対のエンドキャップのいずれか一方または双方に設けるとともに、上記方向転換路に潤滑面を露出させた潤滑部材とを備え、上記転動路と方向転換路とによって、転動体が転動しながら循環する循環路を形成する一方、転動体が上記方向転換路を転動する過程で、上記潤滑面に転動体が接触して当該転動体を潤滑する直動転がり案内ユニット用のスライダにおいて、上記潤滑面は、方向転換路の円弧面に露出させるとともに、当該潤滑面と方向転換路の外周面とが2ヶ所で交差する関係を維持してなり、しかも、上記潤滑面は、上記2ヶ所間の長さよりも長くする一方、この余剰長さ部分における潤滑面と方向転換路の外周面との間に凹部が形成される点に特徴を有する。
【0008】
なお、潤滑面と方向転換路の外周面とを2ヶ所で交差させる場合、上記2ヶ所が円弧面に位置する場合と、いずれか一方が円弧面に位置し、いずれか他方が直線部に位置する場合とがあるが、この発明においては、これらのいずれの場合をも含むものである。
つまり、潤滑面が方向転換路の円弧面に露出するというのは、潤滑面の一部が直線部に露出している場合をも含むものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、潤滑面を、当該潤滑面と方向転換路の外周面とが交差する2ヶ所間の長さよりも長くし、この余剰長さ部分における潤滑面と上記外周面との間に凹部を形成した。したがって、製作時における寸法誤差によって、円弧面に対する潤滑面の突出量が増えたとしても、当該寸法誤差が凹部の深さの範囲内である限り、方向転換路の外周面と潤滑面との間に段差が生じることがない。
つまり、この発明によれば、潤滑部材やエンドキャップ等に寸法誤差や組み立て誤差が生じても、この寸法誤差を凹部が吸収するので、潤滑面と方向転換路との間に段差が生じず、しかも、しっかりと転動体を潤滑することができる。
そして、上記のように寸法誤差や組み立て誤差を吸収できるので、精密な寸法管理を必要とせず、組付けが簡単になるので、設計上の自由度も大きくなり、製作過程での大幅なコストダウンが可能になる。
【0010】
また、この発明によれば、潤滑面を方向転換路の円弧面に露出させているので、当該潤滑面の露出量を変えるだけで、転動体との接触長さを任意に設定することができる。したがって、転動体と潤滑面との接触長さが不必要に長くなって、潤滑剤が転動体に大量に塗布されてしまい、潤滑剤が早期に吐き出されてしまうこともない。
さらに、上記凹部には、油や磨耗粉等を溜める機能をも有するので、スライダの摺動を一層スムーズにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1〜図17を用いて、この発明の直動転がり案内ユニット用のスライダについて説明する。
図1〜図3に示すように、トラックレールRの長手方向に沿って摺動するこの発明のスライダSは、ケーシング1の両端に一対のエンドキャップ2,2を固定している。図3に示すように、上記ケーシング1は、一対の袖部1a,1aを有するとともに、上記エンドキャップ2,2も一対の袖部2a,2aを有している。上記一対の袖部1a,1aおよび2a,2aは、図示の如くトラックレールRの両側面に対向しており、スライダSがトラックレールRを跨ぐこととなる。
また、上記ケーシング1の袖部1a,1aには、図4に示すように、それぞれ一対の転動路3,4を形成している。
【0012】
一方、上記エンドキャップ2は、図5〜図7に示すとおりである。このエンドキャップ2は、図5に示すように、面5側をケーシング1の両端に接触させて固定する。そして、図6に示すように、このエンドキャップ2には、面5側に開口する一対の嵌合凹部6,7を、互いに直交するようにして袖部2a,2aに形成している。なお、図7は、エンドキャップ2を、面5とは反対側の面8側から見た図である。
そして、上記ケーシング1にエンドキャップ2,2を固定した状態を図8に示す。この図からも明らかなように、転動路3は、ケーシング1の長手方向に形成され、トラックレールRの軌道面12に対向する軌道路3bと、転動体をリターンさせる貫通孔3aとからなる。
一方、上記エンドキャップ2には、面5側にスペーサ9を固定するとともに、このスペーサ9と嵌合凹部6(7)とによって方向転換路10が形成されるようにしている。そして、この方向転換路10に、上記貫通孔3aおよび軌道路3bを連続させることによって、転動路3および方向転換路10が循環路を形成するようにしている。
【0013】
この転動路3および方向転換路10によって形成される循環路内には、複数の転動体11が転動自在に組み込まれている。そして、ケーシング1およびエンドキャップ2,2からなるスライダSを、トラックレールRに対して相対移動させると、転動体11がトラックレールRの軌道面12上を転動するので、スライダSがトラックレールRに対してスムーズに摺動することができる。
なお、図中符号13はスリーブであり、焼結樹脂からなる多孔質成形体で構成され、転動路3(貫通孔3a)内を通過する転動体11を潤滑している。この多孔質成形体は、超高分子量の合成樹脂微粒子を押し固めて加熱成形された焼結樹脂により合成樹脂微粒子間が保形された連通状態の多孔部を有し、潤滑剤が多孔部に含浸されている。
そして、上記エンドキャップ2,2には、面8側から潤滑部材Aを組み込むとともに、当該面8にエンドシール14を固定している。
【0014】
上記潤滑部材Aは、上記スリーブ13と同様、焼結樹脂からなる多孔質成形体で構成されており、潤滑剤が含浸されている。この潤滑部材Aは、図9に示すように、エンドキャップ2の面8側から組み込む。具体的には、エンドキャップ2の面8側には、組み込み凹部15a,15bが左右対称に開口しており、図中左側に位置する組み込み凹部15aに潤滑部材A1を組み込み、図中右側に位置する組み込み凹部15bに潤滑部材A2を組み込んでいる。
【0015】
なお、図10は潤滑部材A1の平面図、図11は潤滑部材A1の側面図であり、また、図12は潤滑部材A2の平面図、図13は潤滑部材A2の側面図である。
図10〜図13に示すように、潤滑部材A1,A2は、その本体16が、それぞれ組み込み凹部15a,15bにちょうど嵌まる平面形状にしている。そして、この潤滑部材A1,A2は、図11,13からも明らかなように、本体16から突出する突出部17と、この突出部17よりも突出量を小さくした凸部18とを形成している。
【0016】
上記突出部17は、潤滑部材A1,A2をエンドキャップ2に組み込んだとき、組み込み凹部15a,15b内に密着して固定されるが、このように突出部17を設けるのは、潤滑部材A1,A2の容積を大きくして潤滑剤の含浸量を増やすためである。
一方、本体16から突出する上記凸部18は、方向転換路10を通過する転動体11を潤滑する機能を発揮するが、その詳細は次のとおりである。
すなわち、図7および図9に示すように、エンドキャップ2の組み込み凹部15a,15bには、当該エンドキャップ2を貫通する貫通孔19a,19bがそれぞれ形成されている。なお、図6からも明らかなように、貫通孔19aは嵌合凹部7に位置し、貫通孔19bは嵌合凹部6に位置するようにしている。
【0017】
そして、潤滑部材A1,A2をエンドキャップ2に組み込むと、上記潤滑部材A1,A2の凸部18が、貫通孔19a,19bに嵌合して方向転換路10に臨む。このときの、凸部18と方向転換路10との関係について図14〜図16を用いて説明する。
なお、図14は、図9におけるA−A線断面図である。したがって、ここでは、潤滑部材A2をエンドキャップ2に組み込んだ場合について説明する。
この図からも明らかなように、エンドキャップ2には、嵌合凹部6とスペーサ9とによって方向転換路10が形成される。この方向転換路10は、ケーシング1の転動路3(貫通孔3a,軌道路3b)に連続する連続直線部10a,10aと、これら連続直線部10a,10aに連続するとともに、所定の曲率を有する円弧面10b,10bと、これら円弧面10b,10bに連続する直線部10cとからなる。そして、上記円弧面10b,10bに、上記貫通孔19bが開口している。なお、この直線部10cは、上記連続直線部10a(転動路3)に対して略直交する関係にしている。
【0018】
一方、上記潤滑部材A2の凸部18は、図15に示すように、その先端を切り欠いて平面状の潤滑面20を形成している。そして、上記凸部18を貫通孔19bに嵌合したとき、上記方向転換路10の円弧面10bから、潤滑面20が露出するようにしている。そして、潤滑面20と方向転換路10(円弧面10b)とが交点y,yの2ヶ所で交差するとともに、潤滑面20が方向転換路10の外周面(円弧面10b)に対して弦となる関係にしている。
また、図16からも明らかなように、潤滑面20は、その両端部20a,20bを上記交点y,yよりも外方に位置させている。言い換えれば、潤滑面20は、円弧面10bと交差する2点y,y以上に長くしている。そして、この余剰長さ部分における潤滑面20と円弧面10bとの間に凹部21が形成されるようにしている。
【0019】
このように、潤滑面20は、その中央部では円弧面10bから方向転換路10内に突出し、両端部20a,20b近傍では、凹部21の深さ分だけ、方向転換路10よりも凹んで位置している。したがって、凹部21の深さの範囲内において、エンドキャップ2あるいは潤滑部材Aに寸法誤差や組み立て誤差が生じたとしても、上記凹部21がこの寸法誤差を吸収することができる。
言い換えれば、ある程度エンドキャップ2や潤滑部材Aの寸法をラフにして製作しても、凹部21の深さの範囲内であれば、方向転換路10の外周面と潤滑面20との間に段差を生じることなく、転動体11をしっかりと潤滑することができる。
【0020】
なお、転動体11が円弧面10bを通過する際には遠心力が作用するので、潤滑面20が円弧面10bから突出していれば、転動体11は潤滑面20に確実に圧接する。したがって、円弧面10bの内周から潤滑面20までの距離L1は、転動体11が通過することができれば、とくに厳密な寸法管理を必要としない。このことからも、エンドキャップ2や潤滑部材Aの寸法管理がラフになること明らかである。
【0021】
また、上記実施形態においては、潤滑面20と方向転換路10の外周面とが交わる2ヶ所の交点を、円弧面10bの範囲内に位置させたが、図17に示す他の実施形態のように、潤滑面20が、円弧面10bと直線部10cとにわたって交わるようにしても構わない。
つまり、潤滑面20と方向転換路10の外周面との2ヶ所の交点のうち、一方が円弧面10bの範囲内に位置し、他方が直線部10cあるいは連続直線部10aの範囲内に位置するようにしても構わない。このようにしても、上記潤滑面20が円弧面10bから露出していることに変わりはないので、上記と同様の効果をえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施形態における直動転がり案内ユニットの側面図である。
【図2】上記直動転がり案内ユニットの平面図である。
【図3】上記直動転がり案内ユニットの正面図である。
【図4】図2におけるIV−IV線断面図である。
【図5】上記実施形態のエンドキャップの側面図である。
【図6】上記エンドキャップのケーシング固定面側の正面図である。
【図7】上記エンドキャップのケーシング固定面とは反対側面の正面図である。
【図8】図1におけるスライダの循環路を示す断面図である。
【図9】この実施形態における潤滑部材を組み込んだ状態を示す上記エンドキャップの正面図である。
【図10】この実施形態における一方の潤滑部材を示す平面図である。
【図11】上記一方の潤滑部材の側面図である。
【図12】この実施形態における他方の潤滑部材を示す平面図である。
【図13】上記他方の潤滑部材の側面図である。
【図14】潤滑部材およびエンドキャップの側面断面図である。
【図15】潤滑面と方向転換路との関係を示す立体図である。
【図16】潤滑面と方向転換路との関係を示す平面図である。
【図17】他の実施形態における潤滑面と方向転換路との関係を示す平面図である。
【図18】従来の潤滑部材を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ケーシング
2 エンドキャップ
3,4 転動路
10 方向転換路
10b 円弧面
11 転動体
20 潤滑面
21 凹部
A 潤滑部材
S スライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体をガイドする転動路を有するケーシングと、このケーシングの両端に固定するとともに、上記転動路に連続する円弧面を有する方向転換路を形成してなる一対のエンドキャップと、この一対のエンドキャップのいずれか一方または双方に設けるとともに、上記方向転換路の外周面に潤滑面を露出させた潤滑部材とを備え、上記転動路と方向転換路とによって、転動体が転動しながら循環する循環路を形成する一方、転動体が上記方向転換路を転動する過程で、上記潤滑面に転動体が接触して当該転動体を潤滑する直動転がり案内ユニット用のスライダにおいて、上記潤滑面は、方向転換路の円弧面に露出させるとともに、当該潤滑面と方向転換路の外周面とが2ヶ所で交差する関係を維持してなり、しかも、上記潤滑面は、上記2ヶ所間の長さよりも長くする一方、この余剰長さ部分における潤滑面と方向転換路の外周面との間に凹部が形成される構成にした直動転がり案内ユニット用のスライダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−63059(P2009−63059A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230762(P2007−230762)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】