説明

直動転がり案内ユニット用の潤滑部材およびこの潤滑部材を用いた直動転がり案内ユニット用のスライダ

【課題】 あらゆる直動転がり案内ユニットに用いることができ、しかも長期に亘って適度に軌道面を潤滑することができる潤滑部材を提供する。
【解決手段】 本体4に潤滑剤を含浸するとともに、この含浸した潤滑剤をレールの軌道面に接触供給する直動転がり案内ユニット用の潤滑部材において、上記本体4には凹みまたは孔からなる一または複数の組み込み部8を形成するとともに、この組み込み部8には、上記本体4よりも単位体積あたりの潤滑剤保持量が多く、かつ、潤滑剤の吸引力が上記本体と等しいか、あるいは、上記本体よりも弱い関係にある含浸保持部材9を組み込んだ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スライダをレールに対して相対移動させる直動転がり案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
レールに対してスライダを相対移動させる直動転がり案内ユニットにおいては、軌道面に潤滑剤を供給することによって、両者の相対移動をスムーズにすることができる。
このように、軌道面を潤滑する方法としては、軌道面上を転動する転動体を潤滑したり、あるいは軌道面を直接潤滑したりする等いろいろであるが、軌道面を直接潤滑する場合には、例えば特許文献1に示す潤滑部材が用いられる。
この潤滑部材は、油等からなる潤滑剤を含浸しており、この潤滑部材の一部を軌道面に接触させるようにしてスライダに固定される。したがって、スライダが軌道面に沿って摺動すれば、潤滑部材からレールの軌道面に潤滑剤が供給されて、当該軌道面を潤滑することができる。
【0003】
そして、上記のように軌道面を潤滑すると、当然のこととして、潤滑部材から潤滑剤が徐々に排出されて枯渇していき、最終的には軌道面を潤滑することができなくなる。そこで、この潤滑部材においては、潤滑剤を後から補給可能な構成にすることで、長期に亘って軌道面を潤滑可能にしている。この潤滑部材の構成について図8を用いて説明する。
図8に示す潤滑部材は、油等の潤滑剤を含浸した本体101からなり、この本体101の上面102に、一対の凹部103,103を開口している。この一対の凹部103,103は、上面102から本体101の中ほどまで掘り下げられており、これら凹部103,103に油等の液状潤滑剤104を貯蔵するようにしている。
【0004】
そして、上記潤滑部材がスライダと一体となってレール上を摺動すると、本体101の組織内に予め含浸された潤滑剤が軌道面に徐々に染み出す。この染み出した潤滑剤によって軌道面は潤滑されるが、その間、凹部103,103に貯蔵された液状潤滑剤104が、本体101の分子結合の隙間に徐々に広がっていく。
このように、液状潤滑剤104が本体101に吸収されたら、本体101の上面102から、凹部103,103に液状潤滑剤104を補給すれば、本体101から潤滑剤が枯渇することなく、長期に亘って軌道面を潤滑することができる。
【特許文献1】特開平9−152095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の潤滑部材においては、液状潤滑剤104を貯蔵する凹部103,103を、本体101の上面102に開口させている。このように、凹部103,103を上面102に開口させる上記従来の潤滑部材は、図示のように上面102が上方に位置する場合にしか利用することができない。
つまり、凹部103,103が上方に開口する向きでなければ、凹部103,103から液状潤滑剤104がこぼれてしまうため、水平に敷設したレール上を摺動するスライダにしか用いることができず、壁面や天井面に敷設したレール上を摺動するスライダには用いることができない。
このように、従来の潤滑部材は、それを用いることができる直動転がり案内ユニットが非常に限られてしまうという問題があった。
【0006】
また、従来の潤滑部材においては、凹部103,103に液状の潤滑剤104を補給している。このように、液状の潤滑剤104を凹部103,103に直接補給すると、当該液状潤滑剤104が本体101に非常に早く、かつ大量に吸収されてしまう。
このようにして液状潤滑剤104が本体101に吸収されてしまうと、本体101に含浸される潤滑剤が過多状態となって、必要以上に潤滑剤が軌道面に供給されてしまい、潤滑剤の消耗が早くなって、長期に亘って適度に軌道面を潤滑することができなくなってしまうという問題があった。
【0007】
この発明の目的は、あらゆる直動転がり案内ユニットに用いることができ、しかも長期に亘って適度に軌道面を潤滑することができる直動転がり案内ユニット用の潤滑部材、および、この潤滑部材を用いた直動転がり案内ユニット用のスライダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、本体に潤滑剤を含浸するとともに、この含浸した潤滑剤をレールの軌道面に接触供給する直動転がり案内ユニット用の潤滑部材において、上記本体には凹みまたは孔からなる一または複数の組み込み部を形成するとともに、この組み込み部には、上記本体よりも単位体積あたりの潤滑剤保持量が多く、かつ、潤滑剤の吸引力が上記本体と等しいか、あるいは、上記本体よりも弱い関係にある含浸保持部材を組み込んだ点に特徴を有する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明を前提としつつ、本体に組み込み部を密封する閉塞部材を固定するとともに、この閉塞部材に上記組み込み部を外部に連通する一または複数の供給孔を設けた点に特徴を有する。
【0010】
第3の発明は、ケーシングの両端に一対のエンドキャップを固定するとともに、上記ケーシングおよびエンドキャップに転動体を転動自在に組み込む無限循環路を形成し、しかも、上記エンドキャップのいずれか一方または双方には、潤滑剤を本体に含浸した潤滑部材を設け、レールの軌道面上に上記転動体を転動させてレールと相対移動を行いながら、上記潤滑部材に含浸した潤滑剤を軌道面に接触供給する直動転がり案内ユニット用のスライダにおいて、上記潤滑部材の本体には、凹みまたは孔からなる一または複数の組み込み部を形成するとともに、この組み込み部に、上記本体よりも単位体積あたりの潤滑剤保持量が多く、かつ、潤滑剤の吸引力が上記本体と等しいか、あるいは、上記本体よりも弱い関係にある含浸保持部材を組み込んだ点に特徴を有する。
【0011】
第4の発明は、上記第3の発明を前提としつつ、上記本体に、組み込み部を密封する閉塞部材を固定するとともに、この閉塞部材に上記組み込み部を外部に連通する一または複数の供給孔を設けた点に特徴を有する。
【0012】
第5の発明は、上記第4の発明を前提としつつ、閉塞部材が、本体と同一素材からなる点に特徴を有する。
【0013】
第6の発明は、第3〜5の発明を前提としつつ、上記組み込み部が、当該スライダの摺動方向側に位置する面に開口する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、潤滑剤を含浸する含浸保持部材を本体に組み込んだので、当該潤滑部材をどのような向きにしても、潤滑剤が漏れることがない。したがって、どのような位置でどのような向きで使用されるスライダにも、当該潤滑部材を利用することができる。
また、含浸保持部材に潤滑剤を含浸させて保持したので、潤滑剤を徐々に本体に補給することができる。したがって、潤滑剤が本体に大量に吸収されることがなく、潤滑部材が潤滑剤の過多状態にならず、適度な潤滑剤の含浸状態を維持することができる。このように、本体に適度に潤滑剤が含浸されるので、潤滑剤が必要以上に軌道面に供給されてしまい、必要以上に早く潤滑剤が枯渇することがない。つまり、当該潤滑部材を用いれば、長期に亘って適度に軌道面を潤滑することができる。
【0015】
第2の発明によれば、含浸保持部材を組み込んだ組み込み部を閉塞部材で密封したので、含浸保持部材が大気に晒されて乾燥してしまうことがない。また、閉塞部材には組み込み部を外部に連通する供給孔を設けたので、閉塞部材を分解することなく、閉塞部材を固定したまま、供給孔から含浸保持部材に潤滑剤を補給することができる。
【0016】
第3の発明によれば、潤滑剤を含浸する含浸保持部材を潤滑部材に組み込んだので、当該潤滑部材をどのような向きにしても、潤滑剤が漏れることがない。したがって、例えば、壁面や天井面等、レールをどのような位置にどのような向きで敷設したとしても、当該レール上にスライダを摺動させることができる。
また、含浸保持部材に潤滑剤を含浸させて保持したので、潤滑剤を徐々に潤滑部材に補給することができる。
したがって、潤滑剤が本体に大量に吸収されることがなく、本体が潤滑剤の過多状態にならず、適度な潤滑剤の含浸状態を維持することができる。このように、本体に適度に潤滑剤が含浸されるので、潤滑剤が必要以上に軌道面に供給されてしまい、必要以上に早く潤滑剤が枯渇することがない。つまり、長期に亘って適度に軌道面を潤滑することができる。
【0017】
第4の発明によれば、含浸保持部材を組み込んだ組み込み部を閉塞部材で密封したので、含浸保持部材が大気に晒されて乾燥してしまうことがない。また、閉塞部材には組み込み部を外部に連通する供給孔を設けたので、閉塞部材を分解することなく、閉塞部材を固定したまま、供給孔から含浸保持部材に潤滑剤を補給することができる。
第5の発明によれば、閉塞部材を本体と同一素材で構成したので、潤滑部材全体として、より多くの潤滑剤を保持することができる。
第6の発明によれば、スライダの摺動方向側に位置する面に組み込み部を開口したので、スライダ上に台や他の装置等が固定された状態でも、含浸保持部材に潤滑剤を補給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1,2を用いて、この発明の第1実施形態について説明する。
図1は、この発明の潤滑部材を用いる直動転がり案内ユニット用のスライダであるが、このスライダSは、軌道面を側面に形成したレールを跨いだ状態で摺動する。
具体的には、スライダSは、ケーシング1の両端にエンドキャップ2,2を固定しており、これらケーシング1とエンドキャップ2,2とには、ころからなる複数の転動体が無限に循環する無限循環路が形成されている。ケーシング1は、平面部1aと、この平面部1aの両端から直角に突出する一対の側部1b,1bとからなる。また、上記エンドキャップ2も、上記ケーシング1と同様、平面部2aと、この平面部2aの両端から直角に突出する一対の側部2b,2bとからなる。つまり、スライダS全体としても、平面部と、この平面部の両端から直角に突出する側部を備えることとなり、この側部に無限循環路を形成して転動体を転動自在に保持している。
【0019】
そして、ケーシング1の一対の側部1b,1b対向面側には、上記転動体が露出しており、この転動体がレールの軌道面上を転動することによって、スライダSとレールとが相対移動することとなる。
また、一方のエンドキャップ2(図中右側のエンドキャップ2)であって、ケーシング1との接触面とは反対側の面には、当該エンドキャップ2と別体からなる側面シール3を固定している。この側面シール3は、レールの軌道面に接触するリップ部3a(図中左側の側面シール3参照)を備えており、スライダSがレール上を摺動する際に、スライダS内にダスト等が侵入しないようにしている。
なお、上記とは他方のエンドキャップ2(図中左側のエンドキャップ2)側にも側面シール3を固定することとなるが、この側面シール3とエンドキャップ2との間には、この発明の潤滑部材Aが介在している。
【0020】
この潤滑部材Aは、本体4の一方の面にプレート5を固定し、本体4の他方の面にオイルパッキン6を固定し、これら本体4、プレート5、およびオイルパッキン6をケース7に組み込んで構成している。
上記本体4は、例えば、合成樹脂と油とを加圧一体成型したり、あるいは粒状合成樹脂を成型後、潤滑剤を含浸させたりして形成するもので、成型過程で形成される微細な連続気泡に、油等の潤滑剤を含浸することができる樹脂製の部材である。
この本体4も、上記ケーシング1およびエンドキャップ2と同様、平面部4aおよびこの平面部4aの両端から直角に突出する一対の側部4b,4bとを備えている。そして、この側部4b,4bの対向面には、円弧状の接触潤滑部4c,4cを突出させており、スライダSがレールを跨いだとき、この接触潤滑部4c,4cがレール側面に形成した軌道面に軽く接触する寸法関係を維持している。
【0021】
また、本体4における平面部4aには、スライダSの摺動方向側に位置する一方の面に凹みからなる組み込み部8を開口している。この組み込み部8は、両側部4b,4bに亘って形成される断面長方形の凹みであり、この凹みに含浸保持部材9を挿入・固定し、必要に応じて圧入される。
この含浸保持部材9は、例えばフェルト材のように潤滑剤を含浸することができる部材である。なお、含浸保持部材9は、それに潤滑剤を含浸することができ、かつ、上記本体4よりも、単位体積あたりの含油空間、すなわち、単位体積あたりの潤滑剤保持量が多ければ、どのような素材でも構わない。
ただし、含浸保持部材9における潤滑剤の吸引力と、本体4における潤滑剤の吸引力とは、それらが等しいか、あるいは本体4の方が強い吸引力を有する関係でなければならない。なお、ここでいう潤滑剤の吸引力とは、含浸保持部材9あるいは本体4に、毛管現象や表面張力によって潤滑剤を吸引する強さのことをいう。いずれにしても、含浸保持部材9および本体4における吸引力の関係は、含浸保持部材9から本体4に潤滑剤が浸み込む関係でなければならない。
【0022】
そして、上記含浸保持部材9を本体4の組み込み部8に固定したら、組み込み部8の開口を密封するように、本体4の一方の面にオイルパッキン6を重ねる。このオイルパッキン6は、接触潤滑部4cを除く本体4の一面(スライダSの摺動方向側に位置する面)をほぼ覆うような構成にしている。上記オイルパッキン6は、組み込み部8に対応する部分に、小孔からなる供給孔6aを形成しており、この供給孔6aを介して組み込み部8を外部に連通するようにしている。
なお、上記オイルパッキン6が、この発明の閉塞部材である。
【0023】
そして、上記本体4およびオイルパッキン6は、図2に示すようにして、ケース7に組み込まれる。ケース7は、オイルパッキン6および本体4の外周面を覆うとともに、それに組み込んだオイルパッキン6におけるスライダSの摺動方向に位置する面を覆う構成にしている。そして、オイルパッキン6を組み込んだとき、当該オイルパッキン6に形成した供給孔6aに一致する部分に、貫通孔7aが形成されている。
また、上記プレート5は金属製の部材であり、本体4であってオイルパッキン6を重ねた面とは反対側の面に重ねられる。つまり、本体4およびオイルパッキン6は、ケース7とプレート5の間に挟まれるとともに、一対の側部4b,4bの対向面を除く全面を、ケース7およびプレート5によって覆われることになる。
【0024】
上記の構成からなる潤滑部材Aは、図2に示すように、プレート5側をエンドキャップ2に接触させた状態で、ネジN,NによってスライダSのケーシング1に固定されるが、このとき、ケース7であって、エンドキャップ2に固定する面とは反対側の面に、上記側面シール3を同時に固定するようにしている。
そして、このケース7に固定する側面シール3は、上記供給孔6aおよび貫通孔7aに対応する部分に、挿入孔3bが形成されている。したがって、本体4に形成した組み込み部8は、オイルパッキン6の供給孔6a、ケース7の貫通孔7a、および側面シール3の挿入孔3bを介して外部に連通することとなる。
【0025】
上記のように、潤滑部材Aを一方のエンドキャップ2に固定したスライダSは、潤滑部材Aの接触潤滑部4c,4cを、レールの軌道面に接触させながらレールとの相対移動を行う。そして、本体4に含浸された潤滑剤が、接触潤滑部4c,4cからレールの軌道面に供給されて当該軌道面を潤滑することとなる。
そして、上記のように、接触潤滑部4c,4cから潤滑剤が軌道面に供給されると、本体4から潤滑剤が徐々に減少するが、本体4から潤滑剤が減少すると、含浸保持部材9に含浸された潤滑剤が、徐々に本体4に浸み込む。
この含浸保持部材9は、上記したように、本体4よりも単位体積あたりの潤滑剤保持量が多いので、本体4に比べて体積は小さいものの、本体4から減少した潤滑剤を十分に補給することができる。
【0026】
そして、含浸保持部材9から本体4に潤滑剤が補給されると、今度は含浸保持部材9から潤滑剤が徐々に減少するが、この潤滑部材Aにおいては、含浸保持部材9に、次のようにして、潤滑剤を補給することができる。
すなわち、本体4に形成した組み込み部8は、供給孔6a、貫通孔7a、挿入孔3bを介して側面シール3の表面側に連通している。
そして、側面シール3側から油等の液状潤滑剤を貯蔵した注入器10を挿入するとともに、注入器10の先端を供給孔6aに貫通させる。この状態で、組み込み部8に固定された含浸保持部材9に液状潤滑剤を補給すれば、液状潤滑剤が含浸保持部材9に備蓄され、再び本体4への潤滑剤補給が可能となる。
【0027】
このように、第1実施形態の潤滑部材Aによれば、潤滑剤を含浸保持する含浸保持部材9を本体4に組み込んだので、潤滑部材Aをどのような向きにしても、潤滑剤が漏れることがない。したがって、どのような位置でどのような向きで使用されるスライダにも、当該潤滑部材Aを利用することができる。
また、含浸保持部材9に潤滑剤を含浸させて保持したので、潤滑剤を徐々に本体4に補給することができる。したがって、潤滑剤が本体4に大量に吸収されることがなく、潤滑部材Aが潤滑剤の過多状態にならず、適度な潤滑剤の含浸状態を維持することができる。このように、本体4に適度に潤滑剤が含浸されるので、潤滑剤が必要以上に軌道面に供給されてしまい、必要以上に早く潤滑剤が枯渇することがない。つまり、当該潤滑部材Aを用いれば、長期に亘って適度に軌道面を潤滑することができる。
【0028】
また、含浸保持部材9を組み込んだ組み込み部8をオイルパッキン6で密封したので、含浸保持部材9が大気に晒されて乾燥してしまうことがない。しかも、オイルパッキン6には、組み込み部8を外部に連通する供給孔6aを設けたので、潤滑部材Aを分解することなく、そのまま供給孔6aから含浸保持部材9に潤滑剤を補給することができる。
さらに、上記潤滑部材Aによれば、スライダSの摺動方向側に位置する面に組み込み部8を形成するとともに、この組み込み部8が供給孔6aを介して外部に連通するので、例えば、スライダS上に台や他の装置等が固定された状態でも、そのまま含浸保持部材9に潤滑剤を補給することができる。
【0029】
図3,4を用いて第2実施形態の潤滑部材について説明する。
なお、この第2実施形態の潤滑部材は、本体と、この本体に形成した組み込み部を密封する閉塞部材の構成のみ上記第1実施形態と異なり、その他の構成は全て上記第1実施形態と同じである。したがって、第1実施形態と同じ構成については、上記と同様の符号を付し、その詳細な説明は省略することとする。
図3に示すように、本体11は、平面部11aおよびこの平面部11aの両端から直角に突出する一対の側部11b,11bとを備えている。そして、この側部11b,11bの対向面には、円弧状の接触潤滑部11c,11cを突出させており、スライダSがレールを跨いだ状態で、この接触潤滑部11c,11cがレール側面に形成した軌道面に軽く接触する寸法関係を維持している。
なお、本体11は、上記第1実施形態と同様、例えば、合成樹脂と油とを加圧一体成型したり、あるいは粒状合成樹脂を成型後、潤滑剤を含浸させたりして形成するもので、成型過程で形成される微細な連続気泡に油等の潤滑剤を含浸する樹脂製の部材である。
【0030】
そして、本体11における平面部11aには、スライダSの摺動方向側に位置する一方の面に、凹みからなる組み込み部12を開口している。この組み込み部12は、両側部11b,11bに亘って形成される断面長方形の凹みであり、その開口面には、図4に示すように、当該組み込み部12の縁よりも開口を広くした段部12aを形成している。
そして、上記組み込み部12を密封するのが、この発明の閉塞部材を構成する蓋体13であるが、この蓋体13は、本体11と同一の素材で構成される。この蓋体13は、上記段部12aにぴったりと密着する寸法関係を維持するとともに、圧入または接着により段部12aに固定される。また、組み込み部12には、上記第1実施形態と同じ含浸保持部材9が組み込まれるが、この組み込み部12に含浸保持部材9を組み込んで、段部12aに蓋体13を固定したとき、蓋体13と本体11の面とが面一になるようにしている。
【0031】
なお、上記蓋体13には組み込み部12を外部に連通する供給孔13aが設けられている。したがって、この第2実施形態の潤滑部材においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
しかも、蓋体13は、本体11と同一素材で構成されるため、蓋体13も、本体11と同様に潤滑剤を含浸保持することができる。このように、蓋体13にも潤滑剤保持機能を持たせれば、潤滑部材全体の潤滑剤保持量をより多くすることができる。
なお、潤滑部材全体としてより多くの潤滑剤を保持させる場合には、図5に示す第3実施形態のように、閉塞部材を、本体と同一素材で、しかも、同一の平面形状からなる蓋体14で構成すればよい。このようにしても、上記第1,2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0032】
図6を用いて第4実施形態の潤滑部材について説明する。
なお、この第4実施形態の潤滑部材は、本体と、この本体に形成した組み込み部を密封する閉塞部材の構成のみ上記第1実施形態と異なり、その他の構成は全て上記第1実施形態と同じである。したがって、第1実施形態と同じ構成については、上記と同様の符号を付し、その詳細な説明は省略することとする。
図6に示すように、本体15は、平面部15aおよびこの平面部15aの両端から直角に突出する一対の側部15b,15bとを備えている。そして、この側部15b,15bの対向面には、そこから突出する円弧状の接触潤滑部15c,15cを形成しており、スライダSがレールを跨いだとき、この接触潤滑部15c,15cがレール側面に形成した軌道面に軽く接触する寸法関係を維持している。
なお、本体15は、上記第1実施形態と同様、例えば、合成樹脂と油とを加圧一体成型したり、あるいは粒状合成樹脂を成型後、潤滑剤を含浸させたりして形成するもので、成型過程で形成される微細な連続気泡に油等の潤滑剤を含浸する樹脂製の部材である。
【0033】
そして、本体15における平面部15aには、スライダSの摺動方向側に位置する一方の面に、凹みからなる組み込み部16を開口している。この組み込み部16は、本体15の両側部15b,15bに亘って形成される断面長方形の凹みであり、その両端に、側部15b,15bの先端に向かって延伸する溜め部17,17を連通させている。
この溜め部17,17は、液状の潤滑剤を貯蔵するスペースであり、この溜め部17,17に貯蔵された液状潤滑剤と、組み込み部16に組み込まれた含浸保持部材9が保持する潤滑剤との双方で、本体15への潤滑剤供給量を調整している。
【0034】
上記の構成によれば、液状の潤滑剤が溜め部17から本体15へ補給され、本体15に多量の潤滑剤が保持される。したがって、スライダの使用初めには、本体15からより多くの潤滑剤がレールを万遍無く潤滑することができる。
一方、スライダSがある程度レール上を摺動して、溜め部17に貯蔵された液状潤滑剤が全て本体15へ供給されると、今度は含浸保持部材9から本体15へ徐々に潤滑剤が補給される。含浸保持部材9から本体15への潤滑剤補給は、上記のように徐々になされるので、適度な潤滑剤の含浸状態を維持することができ、長期に亘って適度に軌道面を潤滑することができる。
上記第4実施形態の潤滑部材によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができ、しかも、溜め部17と含浸保持部材9とによって、本体15への潤滑剤供給量を調整することができるので、使用状況に応じて最適な潤滑を行うことができる。
【0035】
なお、上記各実施形態においては、組み込み部をスライダSの摺動方向側に位置する面に形成したが、例えば、図7に示す第5実施形態のようにしてもよい。すなわち、本体18の平面部18aであって、スライダSの摺動方向に直交する側の面(側部が突出する面とは反対側の面)に、組み込み部19を開口させるとともに、この開口を供給孔20aを形成した蓋体20からなる閉塞部材で密封するようにしてもよい。ただし、上記第1〜4実施形態のように、スライダSの摺動方向側に位置する面に組み込み部を開口させれば、スライダS上に台や他の装置等が固定された状態でも、含浸保持部材に簡単に潤滑剤を補給することができる。
【0036】
また、上記各実施形態においては、組み込み部を一方の面に開口する凹部によって形成したが、組み込み部は両面に貫通する孔でもよい。また、組み込み部は一つであってもよいし複数であっても構わない。
さらに、上記各実施形態においては、供給孔を一つ形成したが、複数の供給孔を設けてもよい。このように、一つの組み込み部に対して、複数の供給孔を形成するとともに、各供給孔から潤滑剤を補給すれば、含浸保持部材に均等に潤滑剤を補給することができ、速やかに潤滑剤の補給をすることができる。
なお、潤滑部材は、一方のエンドキャップに固定してもよいし、両方のエンドキャップに固定してもよいこと当然である。
また、上記第2,3実施形態においては、閉塞部材と本体とを同一素材で構成したが、必ずしも同一素材で構成しなくてもよい。本体と異なる素材であっても、閉塞部材が潤滑剤を含浸することができれば、同様の効果を得ることができる。
さらに、含浸保持部材に最も近い位置に形成する供給孔は、潤滑剤を注入するための孔であるが、この供給孔は、含浸保持部材に注入した潤滑剤が漏れないように小孔にしており、実用的には直径2mm未満が望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1実施形態における潤滑部材の組み立て図である。
【図2】第1実施形態における潤滑部材を組み立てた状態を示す図である。
【図3】第2実施形態における潤滑部材の本体および閉塞部材を示す図である。
【図4】図3におけるIV−IV線断面図である。
【図5】第3実施形態における潤滑部材の本体および閉塞部材を示す図である。
【図6】第4実施形態における潤滑部材の本体を示す図である。
【図7】第5実施形態における潤滑部材の本体断面図である。
【図8】従来の潤滑部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ケーシング
2 エンドキャップ
4,11,15,18 本体
6 閉塞部材を構成するオイルパッキン
6a,13a,20a 供給孔
8,12,16,19 組み込み部
9 含浸保持部材
13,14,20 閉塞部材を構成する蓋体
A 潤滑部材
S スライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体に潤滑剤を含浸するとともに、この含浸した潤滑剤をレールの軌道面に接触供給する直動転がり案内ユニット用の潤滑部材において、上記本体には凹みまたは孔からなる一または複数の組み込み部を形成するとともに、この組み込み部には、上記本体よりも単位体積あたりの潤滑剤保持量が多く、かつ、潤滑剤の吸引力が上記本体と等しいか、あるいは、上記本体よりも弱い関係にある含浸保持部材を組み込んだ直動転がり案内ユニット用の潤滑部材。
【請求項2】
上記本体には、組み込み部を密封する閉塞部材を固定するとともに、この閉塞部材に上記組み込み部を外部に連通する一または複数の供給孔を設けた請求項1記載の直動転がり案内ユニット用の潤滑部材。
【請求項3】
ケーシングの両端に一対のエンドキャップを固定するとともに、上記ケーシングおよびエンドキャップに転動体を転動自在に組み込む無限循環路を形成し、しかも、上記エンドキャップのいずれか一方または双方には、潤滑剤を本体に含浸した潤滑部材を設け、レールの軌道面上に上記転動体を転動させてレールと相対移動を行いながら、上記潤滑部材に含浸した潤滑剤を軌道面に接触供給する直動転がり案内ユニット用のスライダにおいて、上記潤滑部材の本体には、凹みまたは孔からなる一または複数の組み込み部を形成するとともに、この組み込み部に、上記本体よりも単位体積あたりの潤滑剤保持量が多く、かつ、潤滑剤の吸引力が上記本体と等しいか、あるいは、上記本体よりも弱い関係にある含浸保持部材を組み込んだ直動転がり案内ユニット用のスライダ。
【請求項4】
上記本体には、組み込み部を密封する閉塞部材を固定するとともに、この閉塞部材に上記組み込み部を外部に連通する一または複数の供給孔を設けた請求項3記載の直動転がり案内ユニット用のスライダ。
【請求項5】
上記閉塞部材は、本体と同一素材からなる請求項4記載の直動転がり案内ユニット用のスライダ。
【請求項6】
上記組み込み部は、当該スライダの摺動方向側に位置する面に開口した上記請求項3〜5記載の直動転がり案内ユニット用のスライダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−232305(P2008−232305A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73668(P2007−73668)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】