説明

直動転がり案内ユニット

【課題】この直動転がり案内ユニットは,ケーシングの袖部をアンダーカットして凹溝を形成し,凹溝にリターン路を形成するスリーブを配設し,加工コストを低減する。
【解決手段】 スライダ2は,上部5と袖部6から成るケーシング3,ケーシング3の両端面21にそれぞれ固着されたエンドキャップ4,ケーシング3の袖部6の外側面8に摺動方向に密接して配設されたリターン路19を形成するスリーブ10を備えている。ケーシング3の袖部6の外側には摺動方向にアンダーカット50された凹溝7が形成され,スリーブ10が凹溝7に配設されている。スリーブ10の両端部23はエンドキャップ4に形成された方向転換路と連通する接続管部25に位置決め嵌合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,長尺な軌道レール及び該軌道レール上を転動体を介して相対移動するスライダから構成された直動転がり案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,直動転がり案内ユニットは,半導体製造装置,工作機械,産業用ロボット等における直線往復運動機構等の各種装置の摺動部への適用が拡大している現状であり,通常,循環路において転動体に対して転走をスムーズにし,転動体への潤滑を良好にするため,潤滑剤を給油口から定期的に給油している。しかしながら,各種装置について,省エネであり,装置そのものの構造をシンプルにして低コストであると共に,ランニングコストや設備維持コストを削減するという観点から,メンテナンスフリーが要求されるようになり,各種装置に組み込まれる直動転がり案内ユニットについても,使用状態において潤滑剤の供給を行わないメンテナンスフリーの実現が要望されると共に,潤滑剤の使用量を最小限に抑えることが益々求められている。
【0003】
本出願人は,直動案内ユニットとして,スムースな方向転換路を形成して潤滑油を長期にわたって転動体であるボールに供給して耐久性を向上させたものを開発し,先に特許出願した。該直動案内ユニットは,図9に示すように,軌道溝4Pを両側面に形成した軌道レール1P,及び軌道レール1Pに跨架して往復移動するスライダ2Pから構成されている。スライダ2Pは,軌道溝4Pに対向した軌道溝14Pが形成されたケーシング10P,その両端に固定されたエンドキャップ11P,及びエンドキャップ11Pの端面に固着されたエンドシール13Pから構成されている。転動体であるボール20Pは,軌道溝4Pと軌道溝14Pとの間に形成される負荷軌道路21P,エンドキャップ11Pに形成された方向転換路,及びケーシング10Pに形成されたリターン路22Pから構成される無限循環路を転走するように組み込まれている。ケーシング10Pに形成された挿通孔5Pには,多孔質構造の焼結樹脂部材で形成したリターン路部材6Pが挿通されて,ケーシング10Pにリターン路22Pが設けられている。リターン路部材6Pに形成されたリターン路22Pは,エンドキャップ11Pに形成された接続管部に形成された方向転換路と連通されている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,アクチュエータとして,一対の側壁を持つ基台と,該基台内を移動可能なスライダから成るものが知られている。該アクチュエータは,一対のスライダ側転動体転走溝の間にスライダ側転動体転走溝に対して平行に延長形成された一対の挿入路が形成され,該挿入路に隙間を存した状態で,一対の筒体が配置されている。前記筒体は,その両端が挿入路より所定量だけ突出配置され,耐摩耗性の材質であるステンレス継目無鋼管製から形成されている。筒体の両端は,一対のリターンキャップの受け部によって位置決め保持されている(例えば,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−90338号公報
【特許文献2】特許第3174232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,本出願人に係る特許出願である特許文献1に開示された直動案内ユニットでは,図9に示すように,スライダ2Pにおけるケーシング10Pに設けられたリターン路22Pを構成するリターン路部材6Pは,多孔質構造の焼結樹脂部材で形成されており,リターン路部材6Pとエンドキャップ11Pの方向転換路とは,接続管部で連通してスムースな方向転換路を形成しており,潤滑剤を長期にわたって転動体のボール20Pに供給して耐久性を向上させたものである。しかしながら,スライダ2Pにおけるケーシング10Pにリターン路22Pを設ける構造であるため,ケーシング10Pに挿通孔5Pを切削加工し,その挿通孔5Pにリターン路22Pを形成するリターン路部材6Pを挿通配置する必要があり,そのため,ケーシング10Pに挿通孔5Pを切削加工しなければならず,ケーシング10Pへの孔加工を高精度に行うのに,精密な孔加工を行う必要があり,加工が困難であり,加工コストをアップするという問題があった。
【0007】
また,上記特許文献2に開示されたアクチュエータでは,基台が一対の側壁を持ち,基台内をスライダが配設されて移動するものであり,スライダの底面に一対の筒体を配設するため一対の切欠部を形成したものであり,リターンキャップに形成されたリターン路の端部の周りを大径にして筒体端部を受けるための筒体受け部が形成されている。即ち,特許文献2は,アクチュエータのスライダ側の循環孔に筒体を設けたものであるが,該筒体をスライダに配設するため,スライダに孔を明けたり,或いはスライダの底面に深い切欠部を形成する必要があり,そのため加工コストがアップするという問題があった。また,筒体をエンドキャップに差し込んだ構造であるが,筒体とリターンキャップとのつなぎ合わせ部分に段差が生じ易いという問題があった。リターンキャップ内で方向転換して転走する転動体には,方向転換路のR部分からストレート部分にかけて遠心力と慣性力が多大に加わる状態になり,その境界の段差の部分で転動体がひっかかったり,つまったりしてスライダの摺動状態が悪化するという問題があった。また,その段差部分での転動体の衝突により筒体やリターンキャップに異常磨耗が発生したり,転動体が千鳥状態の転走になってつまり易くなり,摺動が悪化するという問題があった。
【0008】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,半導体製造装置,工作機械,産業用ロボット等の直線往復運動機構等の各種装置の摺動部に使用され,転動体であるボールが転走するリターン路を形成するのに,従来ケーシングの袖部に形成していた挿通孔を形成することなく,ケーシングに密接して配設したスリーブをエンドキャップの方向転換路から突出する接続管部に直接嵌め込むことにより,ケーシングへの加工をシンプルに容易にし,切削加工コストを抑え,ひいては装置全体のコストダウンを図ると共に,スリーブの内側を多孔質構造の焼結樹脂部材である多孔質成形体で構成すれば,潤滑のメンテナンスフリーを実現することができ,スリーブの構造変更によって種々の機能に対応できる設計の自由度を確保することができる直動転がり案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は,長手方向両側面にそれぞれ形成された第1軌道溝を備えた軌道レール,前記第1軌道溝に対向して形成された第2軌道溝を備え且つ前記軌道レールに跨架して相対移動するスライダ,並びに前記第1軌道溝と前記第2軌道溝との間に形成された負荷軌道路,前記負荷軌道路に沿って延びる前記スライダに設けられたリターン路,及び前記負荷軌道路と前記リターン路を接続する前記スライダに設けられた方向転換路から成る無限循環路を転走する複数の転動体であるボールを有する直動転がり案内ユニットにおいて,
前記スライダは,上部と該上部の両側から前記軌道レールの前記側面に沿って延びる袖部から成るケーシング,前記ケーシングの両端面にそれぞれ固着されたエンドキャップ,及び前記ケーシングの前記袖部の外側面に摺動方向に接して配設され且つ前記リターン路を構成するパイプ状のスリーブを備えており,前記ケーシングの前記袖部の内側には前記第2軌道溝が形成され,前記袖部の外側には前記摺動方向にアンダーカットされた凹溝が形成され,前記スリーブが前記凹溝に配設されて前記スリーブの前記リターン路と前記エンドキャップに形成された前記方向転換路とが連通していることを特徴とする直動転がり案内ユニットに関する。
【0010】
また,前記エンドキャップは,前記ケーシングの前記上部に対向する上部と前記ケーシングの前記袖部に対向する袖部から成り,前記ケーシングの前記アンダーカットの領域に対向する前記エンドキャップの前記袖部には,前記方向転換路から延びる前記リターン路と連通する接続管部が突出して形成されており,前記スリーブの両端部が前記エンドキャップの前記接続管部にそれぞれ位置決め嵌合して前記方向転換路と前記リターン路とが接続されているものである。
【0011】
また,前記ケーシングの前記袖部の前記凹溝は,円筒形に形成された前記スリーブの外面に接するように半円状にアンダーカットされているものである。
【0012】
前記スリーブは,ステンレススチール,アルミニウム合金,セラミックス,樹脂材又はカーボン繊維で補強された複合材料から成る外側パイプ部材と,前記外側パイプ部材に挿通配置され且つ潤滑剤が含浸された多孔質構造の焼結樹脂製材から成る内側パイプ部材とから構成されているものである。
【0013】
この直動転がり案内ユニットは,前記内側パイプ部材が挿通嵌合された前記外側パイプ部材の両端部には,前記エンドキャップの前記接続管部が嵌合され,前記接続管部の端面と前記内側パイプ部材の端面とが当接すると共に,前記内側パイプ部材と前記接続管部との肉厚が等しく形成されて前記方向転換路と前記リターン路とが段差無くスムーズに連通されているものである。
【0014】
また,この直動転がり案内ユニットは,前記外側パイプ部材の内周面と前記内側パイプ部材の外周面との間には,零ないしわずかな隙間があるものである。
【0015】
或いは,この直動転がり案内ユニットにおいて,前記スリーブは,補強された高強度の樹脂製又は金属製材料から一体構造に構成され,前記スリーブの両端部が中央部より大径に形成され,前記両端部は前記エンドキャップの前記接続管部が嵌合する内径に形成され,前記スリーブの中央部と前記接続管部との内径が等しく形成されて前記方向転換路と前記リターン路とが段差無くスムーズに連通されている。又は,前記スリーブによって形成された前記リターン路と前記エンドキャップに設けられた前記接続管部との内径は等しく形成されて前記方向転換路と前記リターン路とが段差無くスムーズに連通されているものである。
【0016】
また,この直動転がり案内ユニットにおいて,前記スリーブは,前記ケーシングの少なくとも側面より内方に位置するように前記凹溝に配設されている。
【発明の効果】
【0017】
この発明による直動案内ユニットは,上記のように構成されているので,ケーシングにリターン路を形成するためリターン路部材を挿通する挿通孔をケーシングの袖部に穿孔する必要がなく,ケーシングの加工時にケーシングの袖部をアンダーカット加工すればよく,加工が容易であり,シンプルであり,ケーシングの加工コストを低減できると共に,袖部の外側部分のアンダーカットされた凹溝にリターン路を形成するスリーブを配置することによって転動体であるボールの循環路を容易にシンプルに構成でき,ケーシングの袖部の外側部分をアンダーカットした分だけ袖部の肉厚を薄く構成でき,その薄い分がスライダの軽量化に貢献することができ,装置自体を軽量化することができる。また,スリーブを,金属等の高強度の外側パイプ部材と,外側パイプ部材に挿通配置された潤滑剤が含浸された多孔質構造の焼結樹脂製材から成る内側パイプ部材とで構成すると,構造が簡単でシンプルであるだけでなく,スリーブの強度を確保できると共に潤滑のメンテナンスフリーを達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明による直動転がり案内ユニットを示し,一部を破断した状態を示す斜視図である。
【図2】この発明の第1実施例におけるスライダを示す分解斜視図である。
【図3】図2に示すスライダを構成するエンドキャップとエンドシールを取り除いた状態におけるケーシングとスリーブとを示す正面図である。
【図4】図2に示すスライダを構成するケーシングを示す正面図である。
【図5】図2に示すスライダを構成するスリーブを示し,(A)は側面図であり,(B)は正面図である。
【図6】この発明の第2実施例におけるスリーブを示し,(A)は側面図であり,(B)は正面図である。
【図7】この発明の第3実施例におけるスライダを示す分解斜視図である。
【図8】この発明の第4実施例におけるスライダを示す分解斜視図である。
【図9】従来の直動転がり案内ユニットを示し,一部を破断した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この直動転がり案内ユニットは,例えば,半導体製造装置,産業ロボット,工作機械等の各種装置の相対移動部に介在して部品,機器間の相対移動をスムーズに達成させるものである。この発明による直動転がり案内ユニットは,主として,従来ケーシングに孔加工して設けていたリターン路をケーシングとは別体のスリーブで形成したことに特徴とするものである。以下,図面を参照して,この発明による直動転がり案内ユニットの実施例について説明する。
【0020】
まず,図1及び図2を参照して,この直動転がり案内ユニットについて,基本構成を概略的に説明する。この直動転がり案内ユニットは,例えば,ベッドとテーブルのような相対移動する部材間に適用されるユニットであり,軌道レール1と軌道レール1上を跨架して摺動自在なスライダ2とを備えている。軌道レール1には,その長手方向両側面9に軌道溝14(第1軌道溝)がそれぞれ形成されている。軌道レール1の上面46には,軌道レール1をベッド,機台等のベース47に取り付けるための取付け孔27が形成されている。スライダ2は,軌道レール1に相対移動可能に跨架し,軌道レール1の軌道溝14に対向して軌道溝15(第2軌道溝)が形成されている。スライダ2は,軌道レール1の上面46に跨架するケーシング3,ケーシング3の長手方向両端面21に位置して取り付けられたエンドキャップ4,及び軌道レール1とエンドキャップ4との間の隙間をシールするためエンドキャップ4の外側端面22に配設されたエンドシール13から構成されている。また,軌道レール1の軌道溝14とスライダ2の軌道溝15との間には負荷軌道路17が形成され,スライダ2の軌道レール1に対する相対移動に伴って転動体であるボール20が負荷軌道路17を転走する。エンドキャップ4とエンドシール13とは,取付けねじ41を取付け孔43,44に挿通してケーシング3に設けたねじ孔42に螺入し,ケーシング3に取り付けられている。ケーシング3には,軌道溝15と,スライダ2をテーブルに取り付けるため頂面48に開口するねじ穴16とが形成されている。
【0021】
また,スライダ2を軌道レール1に対して摺動可能にするため,軌道レール1に形成されている軌道溝14とケーシング3に形成されている軌道溝15との間に形成される負荷軌道路17にはボール20が転走可能になっている。ボール20は,スライダ2を軌道レール1から分離した状態にしても散逸しないように,保持バンド26によってケーシング3に保持されている。ボール20は,負荷軌道路17からエンドキャップ4に形成された一方の方向転換路18へ転走し,一方の方向転換路18から後述のリターン路19へと転走し,次いで,リターン路19から他方の方向転換路18へ,そして,負荷軌道路17へと転走し,無限循環路を無限循環して転走する。ボール20に潤滑剤(潤滑油)を供給するためのグリースニップル49がエンドシール13の外面の潤滑油給油孔45から突出した状態でスライダ2に取り付けられている。グリースニップル49からの潤滑剤は,エンドキャップ4に設けた油孔と油溝(図示せず)を通ってボール20へと供給される。
【0022】
この発明による直動転がり案内ユニットは,概して,長手方向両側面9にそれぞれ形成された軌道溝(第1軌道溝)14を備えた軌道レール1,軌道溝14に対向して形成された軌道溝(第2軌道溝)15を備え且つ軌道レール1に相対移動可能に跨架したスライダ2,並びに軌道溝14と軌道溝15との間に形成された負荷軌道路17,負荷軌道路17に沿って延びるスライダ2に設けられたリターン路19,及び負荷軌道路17とリターン路19を接続するスライダ2に設けられた方向転換路18から成る無限循環路を転走する転動体である複数のボール20を有し,特に,スライダ2は,上部5と上部5の両側から軌道レール1の側面9に沿って垂下して延びる袖部6とから成るケーシング3,ケーシング3の両端21にそれぞれ固着されたエンドキャップ4,及びケーシング3の袖部6の外側に摺動方向に密接して配設され且つリターン路19を構成するパイプ状のスリーブ10を備えており,ケーシング3の袖部6の内側には軌道溝15が形成され,袖部6の外側には摺動方向の全域にわたってアンダーカット50された凹溝7が形成され,凹溝7にはスリーブ10が密接して配設されてスリーブ10のリターン路19とエンドキャップ4に形成された方向転換路18とが連通していることを特徴としている。
【0023】
また,この直動転がり案内ユニットにおいて,スリーブ10は,ケーシング3の少なくとも幅方向側面8より内方に位置して側方に突出しないように,アンダーカット50された凹溝7に配設されている。また,エンドキャップ4は,ケーシング3の上部5に対向する上部28とケーシング3の袖部6に対向する袖部29から成り,ケーシング3のアンダーカット50に対向した領域に位置するエンドキャップ4の袖部29には,方向転換路18から延びる接続管部25が突出して形成されており,エンドキャップ4の接続管部25にスリーブ10の両端部23がそれぞれ位置決め嵌合して方向転換路18とリターン路19とが接続されている。また,ケーシング3の袖部6の凹溝7は,円筒形に形成されたスリーブ10の両端部23と中央部24との外面の全体が干渉しないように接して又はわずかの隙間を有して着座できるように半円形状にアンダーカット50されている。
【0024】
この直動転がり案内ユニットの実施例では,スリーブ10は,特に,図5に示すように,高強度で且つ耐食性を確保できるステンレススチール(例えば,オーステナイト系ステンレスのSUS304等),アルミニウム合金,非磁性材のセラミックス,高強度の樹脂材又はカーボン繊維で補強された複合材から成る外側パイプ部材11と,外側パイプ部材11に挿通して配置され且つ潤滑剤が含浸された多孔質構造の焼結樹脂製材の多孔質成形体から成る内側パイプ部材12とから構成されている。また,内側パイプ部材12が挿通嵌合された外側パイプ部材11の両端部23には,エンドキャップ4の接続管部25がそれぞれ嵌合されており,接続管部25の端面51と内側パイプ部材12の端面52とが当接状態になっていると共に,内側パイプ部材12と接続管部25との肉厚が等しく形成され,方向転換路18とリターン路19とが段差無くスムーズに連通されている。更に,この直動転がり案内ユニットは,外側パイプ部材11の内周面53と内側パイプ部材12の外周面54との間には,零ないしわずかな隙間(例えば,0〜0.1mm程度)がある状態に形成されている。
【0025】
外側パイプ部材11は,上記のように,強度もあり,錆びにくく,安価な材料,或いは,セラミックスや樹脂製,又は樹脂製のカーボン繊維で補強した複合材で作製できる。また,内側パイプ部材12は,潤滑剤を含浸した多孔質構造の焼結樹脂部材をパイプ状に金型成形して作製されている。スリーブ10は,外側パイプ部材11の中に,内側パイプ部材12を挿入して配置し,この状態でエンドキャップ4の接続管部25の外径を,外側パイプ部材11の内径側に嵌合させることによって,スライダ2に組み込むことができる。また,内側パイプ部材12の長さは,ケーシング3の両端21に取り付けるエンドキャップ4の接続管部25の長さ分だけ短く形成されている。また,エンドキャップ4の接続管部25の長さは,転動体であるボール20の直径の1/ 2〜1個分程度の長さになるように形成されている。ケーシング3の袖部6の外側形状は,スリーブ10が接して又は隙間を設けて嵌まり込むように,切り欠き半丸形状の凹溝7に形成されている。
【0026】
ケーシング3の袖部6に形成された凹溝7の外面とスリーブ10の外形との間には,接して又は0.1〜0.2mm程度の隙間があるように形成されている。この実施例では,軌道レール1の幅は,例えば,12mmである。ケーシング3が小型の場合には,ケーシング3の袖部6の外側面の凹溝7は,基本的には引き抜き加工面とし,切削加工コストを抑えた製作になっている。ケーシング3が大形であったり,ロングタイプの場合には,ケーシング3の引き抜き加工時の歪が大きくなるので,その時には凹溝7を切削加工で形成することが好ましい。また,ケーシング3の熱処理後の歪が大きい場合では,転走面となる軌道溝15の研削加工の際に,研削加工する場合もある。
【0027】
次に,この発明による直動転がり案内ユニットの別の実施例(第2実施例)を,図6を参照して説明する。スリーブ30は,ジュラコン(登録商標)等の樹脂製材料やカーボン繊維で補強された高強度の樹脂製材料又は金属製材料から一体構造,即ち,ワンピースに構成され,両端部31の内径が中央部32の内径より大径に形成され,端部31の内径と中央部32の内径との境界には段差があり,その段差は接続管部25の肉厚と同じ大きさである。両端部31の内径はエンドキャップ4の接続管部25の外径が嵌合する内径に形成され,スリーブ30の中央部32と接続管部25との内径が等しく形成され,方向転換路18とリターン路19とが段差無くスムーズに連通されている。スリーブ30は,その中央部32の端面55と接続管部25の端面51とが当接した状態で,接続管部25に嵌合されている。第2実施例では,スリーブ30は,ジュラコン(登録商標)の樹脂製材料やカーボン繊維で補強した高強度の複合材料を一体成形して作製できるものであるので,潤滑をリターン路19でなく別の領域で行う場合には,リターン路19をスリーブ30のみの極めて簡単な構造に構成することができ,好ましい実施例となる。勿論,スリーブ30は,ステンレス鋼管製材料,アルミニウム合金,非磁性のセラミックス等の材料でもよいことは勿論である。第2実施例は,第1実施例と機能が異なる点について,スリーブ30を潤滑剤を含浸した多孔質の焼結樹脂部材を使用していないタイプで構成している点であり,リターン路19での潤滑を行う必要がないタイプ,或いは潤滑のメンテナンスフリーをリターン路19で達成する必要がなく,潤滑剤を定期的に補給する必要がある場合に適用して好ましいものである。
【0028】
また,この発明による直動転がり案内ユニットの更に別の実施例(第3実施例)を,図7を参照して説明する。スリーブ33は,その両端部34が中央部35に比較して大径に形成されている。スリーブ33の両端部34は,エンドキャップ4の接続管部25に嵌合できる形状に形成されており,また,中央部35の内径は接続管部25の内径と等しくなるように形成されている。凹溝7は,スリーブ33の形状に合せて,両端部34が嵌着する端部凹溝36が中央部35が嵌着する中央部凹溝37よりも深くアンダーカットされている。また,スリーブ33の両端部34の内径が接続管部25の外径に等しくそれぞれ形成されている。第3実施例では,中央部35と接続管部25との内径が等しいので,接続管部25の方向転換路18とスリーブ33のリターン路19とが段差無く,スムーズに連通されており,ボール20がスムーズに転走することができる。
【0029】
更に,この発明による直動転がり案内ユニットの他の実施例(第4実施例)を,図8を参照して説明する。スリーブ38は,リターン路19を構成するためストレートな円筒形に形成されている。スリーブ38はワンピースで構成され,これに伴って,ケーシング3に形成された凹溝7はストレートに半円形に形成されると共に,エンドキャップ4の袖部29には,接続管部を構成する突出部40が設けられ,突出部40の外側にはスリーブ38を支持するため支持ボス部39が突出して設けられている。スリーブ38の両端面は,接続管部を構成する突出部40の端面に当接した状態で,ケーシング3の凹溝7に配設されている。第4実施例では,スリーブ38によって形成されたリターン路19とエンドキャップ4に設けられた接続管部の突出部40との内径は,等しく形成されており,方向転換路18とリターン路19とが段差無くスムーズに連通されており,ボール20がスムーズに転走することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明による直動転がり案内ユニットは,半導体製造装置,工作機械,各種組立装置,搬送機械,各種ロボット,精密機械,測定・検査装置,医療機器,マイクロマシーン等の各種装置における摺動部に組み込んで利用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0031】
1 軌道レール
2 スライダ
3 ケーシング
4 エンドキャップ
5,28 上部
6,29 袖部
7 凹溝
8 外側面
9 側面
10,30,33,38 スリーブ
11 外側パイプ部材
12 内側パイプ部材
14 軌道溝(第1軌道溝)
15 軌道溝(第2軌道溝)
17 負荷軌道路
18 方向転換路
19 リターン路
20 ボール
21,22 端面
23,31,34 端部
24,32,35 中央部
25 接続管部
50 アンダーカット
51,52 端面
53 内周面
54 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向両側面にそれぞれ形成された第1軌道溝を備えた軌道レール,前記第1軌道溝に対向して形成された第2軌道溝を備え且つ前記軌道レールに跨架して相対移動するスライダ,並びに前記第1軌道溝と前記第2軌道溝との間に形成された負荷軌道路,前記負荷軌道路に沿って延びる前記スライダに設けられたリターン路,及び前記負荷軌道路と前記リターン路を接続する前記スライダに設けられた方向転換路から成る無限循環路を転走する複数の転動体であるボールを有する直動転がり案内ユニットにおいて,
前記スライダは,上部と該上部の両側から前記軌道レールの前記側面に沿って延びる袖部から成るケーシング,前記ケーシングの両端面にそれぞれ固着されたエンドキャップ,及び前記ケーシングの前記袖部の外側面に摺動方向に接して配設され且つ前記リターン路を構成するパイプ状のスリーブを備えており,前記ケーシングの前記袖部の内側には前記第2軌道溝が形成され,前記袖部の外側には前記摺動方向にアンダーカットされた凹溝が形成され,前記スリーブが前記凹溝に配設されて前記スリーブの前記リターン路と前記エンドキャップに形成された前記方向転換路とが連通していることを特徴とする直動転がり案内ユニット。
【請求項2】
前記エンドキャップは,前記ケーシングの前記上部に対向する上部と前記ケーシングの前記袖部に対向する袖部から成り,前記ケーシングの前記アンダーカットの領域に対向する前記エンドキャップの前記袖部には,前記方向転換路から延びる前記リターン路と連通する接続管部が突出して形成されており,前記スリーブの両端部が前記エンドキャップの前記接続管部にそれぞれ位置決め嵌合して前記方向転換路と前記リターン路とが接続されていることを特徴とする請求項1に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項3】
前記ケーシングの前記袖部の前記凹溝は,円筒形に形成された前記スリーブの外面に接するように半円状にアンダーカットされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項4】
前記スリーブは,ステンレススチール,アルミニウム合金,セラミックス,樹脂材又はカーボン繊維で補強された複合材料から成る外側パイプ部材と,前記外側パイプ部材に挿通配置され且つ潤滑剤が含浸された多孔質構造の焼結樹脂製材から成る内側パイプ部材とから構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項5】
前記内側パイプ部材が挿通嵌合された前記外側パイプ部材の両端部には,前記エンドキャップの前記接続管部が嵌合され,前記接続管部の端面と前記内側パイプ部材の端面とが当接すると共に,前記内側パイプ部材と前記接続管部との肉厚が等しく形成されて前記方向転換路と前記リターン路とが段差無くスムーズに連通されていることを特徴とする請求項4に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項6】
前記外側パイプ部材の内周面と前記内側パイプ部材の外周面との間には,零ないしわずかな隙間があることを特徴とする請求項4又は5に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項7】
前記スリーブは,樹脂製材料やカーボン繊維で補強された高強度の樹脂製又は金属製材料から一体構造に構成され,前記スリーブの両端部の内径が中央部の内径より大径に形成され,前記両端部の内径は前記エンドキャップの前記接続管部が嵌合する内径に形成され,前記スリーブの中央部と前記接続管部との内径が等しく形成されて前記方向転換路と前記リターン路とが段差無くスムーズに連通されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項8】
前記スリーブによって形成された前記リターン路と前記エンドキャップに設けられた前記接続管部との内径は等しく形成されて前記方向転換路と前記リターン路とが段差無くスムーズに連通されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項9】
前記スリーブは,前記ケーシングの少なくとも幅方向側面より内方に位置するように前記凹溝に配設されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−47288(P2012−47288A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190719(P2010−190719)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】