説明

直噴式ディーゼル機関

【課題】シリンダボア周縁の温度負荷を均等化させて極端な温度勾配の発生を抑制し、もって冷却効率を向上できる共に、シリンダヘッドの熱変形や破損を未然に防止できる直噴式ディーゼル機関を提供する。
【解決手段】6噴孔の燃料噴射ノズル3を用いた場合、平面視での各気筒の燃料噴射ノズル3の燃料噴霧4の噴射方向を奇数気筒と偶数気筒とで噴孔割付位相である60°の1/2だけ相違させる。これにより熱が溜まり易い隣り合う気筒間の領域の温度負荷を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各気筒のシリンダボアの略中心位置に配設した燃料噴射ノズルからシリンダボア周縁に向けて等間隔で放射状に複数条の燃料噴霧を噴射して着火・燃焼させる直噴式ディーゼル機関に係り、詳しくは、その平面視における燃料噴射方向の設定に関する。
【背景技術】
【0002】
筒内に直接燃料を噴射する直噴式ディーゼル機関では、燃料噴射ノズルからの燃料噴霧の噴射状況が着火後の燃焼状態に大きく影響することから、燃料噴射状況を改善するための種々の対策が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1に記載された技術では、機関負荷の大小によって燃料噴射ノズルの筒内への突き出し量を調整するように構成されており、例えば高負荷時には燃料噴射ノズルの突き出し量を減少させてピストンから遠ざけ、これにより排ガス特性の改善を図っている。
ところで、直噴式ディーゼル機関では、一般的に各気筒のシリンダボアの略中心位置に燃料噴射ノズルの噴孔部を配設しており、この燃料噴射ノズルの噴孔部からシリンダボア周縁に向けて等間隔で放射状に複数条の燃料噴霧を噴射して着火・燃焼させている。
【0003】
図5は噴孔部を6噴孔としたときの燃料噴射状況を示す図であり、シリンダヘッド1を下方より見た平面視で表している。6噴孔の噴孔部からは60°間隔で放射条に6条の燃料噴霧4が噴射され、各燃料噴霧4はシリンダボア2周縁に衝突して着火・燃焼する。
周知のように、ディーゼル機関の各気筒には同一仕様の燃料噴射ノズル3が組み付けられ、これにより燃料噴射ノズル3の製造時、及び機関への組付時の省力化を図っている。そして、燃料噴射ノズル3はデリバリパイプから燃料を供給されるが、このデリバリパイプとの接続構造を共通化しているため、必然的にシリンダヘッド1に対して各気筒の燃料噴射ノズル3は平面視において同一角度で取り付けられている。結果として図5に示すように、各燃料噴射ノズル3の平面視における噴射方向も共通化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−242646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5に示す従来の直噴式ディーゼル機関では、各燃料噴射ノズル3の噴射方向を共通としていることに起因して、筒内燃焼に伴う温度負荷に関して大きな問題を抱えていた。
即ち、上記のように噴孔部から60°間隔で放射条に噴射された6条の燃料噴霧4はシリンダボア2周縁に衝突して着火・燃焼するため、シリンダボア2周縁に対応するシリンダヘッド1の下面やシリンダブロックのライナ部などの領域は温度負荷が元々高い。特に図に示すように複数の気筒を列設した多気筒機関では、シリンダボア2周縁の中でも隣り合う気筒間の領域がこれと直交する気筒両側の領域に比較して熱が溜まり易いことから温度負荷は一層高くなる傾向がある。
【0006】
ここで本発明者は、シリンダボア2周縁の隣り合う気筒間の領域と気筒両側の領域との温度負荷を、以下の手順により検証した。
図6は隣り合う気筒の燃料噴射ノズル3の噴射方向を模式的に示す説明図である。まず、各気筒の両側で気筒列設方向(図中の左右方向)に延びてシリンダボア2周縁にそれぞれ接する第1の仮想ラインL1、及び隣り合う気筒間で第1の仮想ラインL1と直交する方向(図中の上下方向)に延びてシリンダボア2周縁にそれぞれ接する第2の仮想ラインにより、各気筒のシリンダボア2周縁をそれぞれ取り囲んだ場合を想定する。
【0007】
以下、第1の仮想ラインL1の内、両気筒の一側に位置する一対の第1の仮想ラインをL1a(気筒両側の何れでもよく、図では上側としている)、第2の仮想ラインL2の内、隣り合う気筒間に位置する一対の第2の仮想ラインをL2aとし、これらの仮想ラインL1a,L2aに対して各燃料噴射ノズル3から噴射される燃料噴霧4の条数を検証する。一対の第1の仮想ラインL1aに対しては、奇数気筒の燃料噴射ノズル3から1条の燃料噴霧4が衝突し、偶数気筒の燃料噴射ノズル3からも1条の燃料噴霧4が衝突することから、計2条の燃料噴霧4が衝突することになる。また、一対の第2の仮想ラインL2aに対しては、奇数気筒の燃料噴射ノズル3から2条の燃料噴霧4が衝突し、偶数気筒の燃料噴射ノズル3からも2条の燃料噴霧4が衝突することから、計4条の燃料噴霧4が衝突することになる。
【0008】
シリンダボア2周縁の隣り合う気筒間の領域は第2の仮想ラインに相当し、両気筒の一側(両側の一方)の領域は第1の仮想ラインL1に相当するが、第2の仮想ラインには第1の仮想ラインL1の2倍の燃料噴霧4が衝突することになる。燃料噴霧4の衝突条数は衝突領域に対する温度負荷と相関することから、この先行技術では、熱が溜まり易い隣り合う気筒間の領域が極めて高温になり、結果として隣り合う気筒間の領域と気筒両側の領域との間に大きな温度勾配(温度格差)が発生してしまう。そして、このような温度勾配は、シリンダヘッド1内やシリンダブロック内を流れる冷却水による冷却効率を低下させると共に、シリンダヘッド1の熱変形や破損を引き起こす要因になるという問題があった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シリンダボア周縁の温度負荷を均等化させて極端な温度勾配の発生を抑制し、もって冷却効率を向上できる共に、シリンダヘッドの熱変形や破損を未然に防止することができる直噴式ディーゼル機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、各気筒のシリンダボアの略中心位置に燃料噴射ノズルの噴孔部をそれぞれ配設し、各燃料噴射ノズルの噴孔部からシリンダボア周縁に向けて等間隔で放射状に複数条の燃料噴霧を噴射して着火・燃焼させる直噴式ディーゼル機関において、各気筒の両側で気筒列設方向に延びてシリンダボア周縁にそれぞれ接する第1の仮想ライン、及び隣り合う気筒間で第1の仮想ラインと直交する方向に延びてシリンダボア周縁にそれぞれ接する第2の仮想ラインにより、各気筒のシリンダボア周縁をそれぞれ取り囲んだとき、隣り合う気筒間で両気筒のシリンダボア周縁にそれぞれ接する一対の第2の仮想ラインに対して燃料噴射ノズルの燃料噴霧が衝突する条数が、同じく両気筒の一側でシリンダボア周縁にそれぞれ接する一対の第1の仮想ラインに対して燃料噴射ノズルの燃料噴霧が衝突する条数以下となるように、各気筒の燃料噴射ノズルの平面視における噴射方向を相違させたものである。
請求項2の発明は、請求項1において、各気筒の燃料噴射ノズルの平面視における噴射方向を奇数気筒と偶数気筒とで相違させることにより、第2の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数を第1の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数以下としたものである。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように請求項1の発明の直噴式ディーゼル機関によれば、各気筒の両側の第1の仮想ライン及び隣り合う気筒間の第2の仮想ラインで各気筒のシリンダボア周縁を取り囲んだとき、隣り合う気筒間の一対の第2の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数が、両気筒の一側の一対の第1の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数以下となるように、各気筒の燃料噴射ノズルの平面視における噴射方向を相違させた。
燃料噴射ノズルから放射状に噴射された複数条の燃料噴霧はシリンダボア周縁に衝突して着火・燃焼することから、シリンダボア周縁に対応するシリンダヘッドの下面やシリンダブロックのライナ部などの領域は他の箇所よりも温度負荷が元々高く、特にシリンダボア周縁の中でも隣り合う気筒間の領域は、気筒両側の領域に比較して熱が溜まり易いことから温度負荷は一層高くなる傾向がある。本発明において、シリンダボア周縁の隣り合う気筒間の領域は第2の仮想ラインに相当し、両気筒の一側(両側の内の一方)の領域は第1の仮想ラインに相当するが、第2の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数が第1の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数以下となるため、熱的に余裕が少ない隣り合う気筒間の領域の温度負荷を低減して気筒両側の領域との間の温度勾配(温度格差)を縮小でき、結果として冷却効率の向上、及びシリンダヘッドの熱変形や破損の防止が可能となる。
【0011】
請求項2の発明の直噴式ディーゼル機関によれば、請求項1に加えて、奇数気筒と偶数気筒とで燃料噴射ノズルの噴射方向を相違させるだけで、第2の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数を第1の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数以下とすることができ、例えば噴射方向の異なる2種の燃料噴射ノズルを用いたり、或いは共通の燃料噴射ノズルを用いてディーセル機関に対して2種の角度で取り付けたりすることで容易に実施可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の直噴式ディーゼル機関のシリンダヘッドを下方より見た平面視を示す図である。
【図2】第1実施形態の隣り合う気筒の燃料噴射ノズルの噴射方向を模式的に示す説明図である。
【図3】第2実施形態の直噴式ディーゼル機関のシリンダヘッドを下方より見た平面視を示す図である。
【図4】第2実施形態の隣り合う気筒の燃料噴射ノズルの噴射方向を模式的に示す説明図である。
【図5】先行技術の直噴式ディーゼル機関のシリンダヘッドを下方より見た平面視を示す図である。
【図6】先行技術の隣り合う気筒の燃料噴射ノズルの噴射方向を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化した直列6気筒の直噴式ディーゼル機関の第1実施形態を説明する。
図1は本実施形態の直噴式ディーゼル機関のシリンダヘッドを下方より見た平面視を示す図である。シリンダヘッド1の下面は燃焼室を備えずに平坦に形成されており、燃焼室は図示しないピストン頂部に形成されている。図では各気筒毎に設けられた吸排気バルブの図示が省略されると共に、環状のシリンダボア2が仮想的に示されている。このシリンダボア2と同一径のシリンダライナがシリンダブロック側に設けられ、シリンダライナ内でピストンが上下動するようになっている。図中の破線は、シリンダヘッド1内に形成された冷却水路内での冷却水の流通方向を示しており、このように冷却水はシリンダヘッド1の一側(図中の右側)から他側(図中の左側)へと流通しながら、各気筒の筒内での燃焼により発生した熱を吸収してシリンダヘッド1を冷却するようになっている。
【0014】
各気筒のシリンダボア2の中心位置には燃料噴射ノズル3の噴孔部がそれぞれ配設され、各燃料噴射ノズル3の噴孔部は6噴孔(噴孔割付位相=360°/6=60°)として設定されている。このため図1に示すように、噴孔部からは平面視において等間隔で放射状に6条の燃料噴霧4が噴射されるようになっている。また、図示はしないが側面視における燃料噴霧4の噴射方向は水平やや斜め下方に設定されており、結果として6条の燃料噴霧4はシリンダボア2周縁に衝突して着火・燃焼するようになっている。
本実施形態では、平面視での各気筒の燃料噴射ノズル3の噴射方向(換言すれば燃料噴射ノズル3の平面視における取付位相)を奇数気筒(#1,#3,#5)と偶数気筒(#2,#4,#6)とで噴孔割付位相である60°の1/2だけ相違させている。即ち、奇数気筒の燃料噴射ノズル3が図5に示す先行技術と同様の噴射方向に設定されているのに対し、偶数気筒の燃料噴射ノズル3は30°分位相をずらして取り付けられている。
【0015】
このため、奇数気筒の燃料噴射ノズル3から噴射される6条の燃料噴霧4のそれぞれの中間角度で偶数気筒の燃料噴射ノズル3から6条の燃料噴霧4が噴射されることになる。
なお、周知のように燃料噴射ノズル3は個々同一方向のデリバリパイプから燃料を供給されるため、奇数気筒と偶数気筒の燃料噴射ノズル3噴射の噴射方向を相違させるには、何らかの対策を必要とする。そこで、具体的な対策としては、デリバリパイプの接続構造を共通としながら奇数気筒と偶数気筒とで噴射角度を30°相違(具体的には、互いの噴孔の位相を相違させることにより対処)させた2種の燃料噴射ノズル3を用意すればよい。また、燃料噴射ノズル3の仕様を共通とした場合には、奇数気筒と偶数気筒とでシリンダヘッド1への燃料噴射ノズル3の取付位相を30°相違させると共に、奇数気筒と偶数気筒との何れの燃料噴射ノズル3とも接続可能なようにデリバリパイプの形状を変更すればよい。
【0016】
図2は以上のように構成された本実施形態の直噴式ディーゼル機関における隣り合う気筒の燃料噴射ノズル3の噴射方向を模式的に示す説明図である。
ここで、各気筒の両側で気筒列設方向(図中の左右方向)に延びてシリンダボア2周縁にそれぞれ接する第1の仮想ラインL1、及び隣り合う気筒間で第1の仮想ラインL1と直交する方向(図中の上下方向)に延びてシリンダボア2周縁にそれぞれ接する第2の仮想ラインL2により、各気筒のシリンダボア2周縁をそれぞれ取り囲んだ場合を想定する。
【0017】
以下、第1の仮想ラインL1の内、両気筒の一側に位置する一対の第1の仮想ラインをL1a(気筒両側の何れでもよく、図では上側としている)、第2の仮想ラインL2の内、隣り合う気筒間に位置する一対の第2の仮想ラインをL2aとし、これらの仮想ラインL1a,L2aに対して各燃料噴射ノズル3から噴射される燃料噴霧4の条数を検証する。
一対の第1の仮想ラインL1aに対しては、奇数気筒の燃料噴射ノズル3から1条の燃料噴霧4が衝突し、偶数気筒の燃料噴射ノズル3から2条の燃料噴霧4が衝突することから、計3条の燃料噴霧4が衝突することになる。また、一対の第2の仮想ラインL2aに対しては、奇数気筒の燃料噴射ノズル3から2条の燃料噴霧4が衝突し、偶数気筒の燃料噴射ノズル3から1条の燃料噴霧4が衝突することから、計3条の燃料噴霧4が衝突することになる。
【0018】
シリンダボア2周縁の隣り合う気筒間の領域は第2の仮想ラインL2aに相当し、両気筒の一側(両側の内の一方)の領域は第1の仮想ラインL1aに相当するが、第1の仮想ラインL1aと第2の仮想ラインL2aとで燃料噴霧4の衝突条数が等しいことになる。
即ち、図6の先行技術に比較して、第2の仮想ラインL2aへの燃料噴霧4の衝突条数が4条から3条に減少し、隣り合う気筒間の領域の温度負荷が大きく軽減されることが判る。なお、両気筒の一側の領域の温度負荷は先行技術よりも若干増加するが、この領域は元々熱的に余裕があることから何ら問題は生じない。
結果として、熱が溜まり易く熱的に余裕が少ない隣り合う気筒間の領域の温度負荷を低減して気筒両側の領域との間の温度勾配(温度格差)を縮小でき、シリンダヘッド1内やシリンダブロック内を流れる冷却水による冷却効率を向上できると共に、シリンダヘッド1の熱変形や破損を未然に防止することができる。
【0019】
加えて、冷却効率の向上は冷却水量の低減を可能とすることから、ウォータポンプの駆動負荷が軽減されて燃費向上を達成できる。また、冷却効率の向上分だけシリンダヘッド1の下面壁の厚みを増加することも可能となり、この場合には機関の耐久性を向上することができる。
しかも、奇数気筒と偶数気筒とで燃料噴射ノズル3の噴射方向を相違させるだけのため、上記したように2種の燃料噴射ノズル3を用意したり、或いは燃料噴射ノズル3の取付位相及びデリバリパイプの形状を変更したりすることで容易に対処可能であり、結果として低コスト且つ容易に実施することができる。
【0020】
[第2実施形態]
次に、本発明を具体化した直列6気筒の直噴式ディーゼル機関の第2実施形態を説明する。
本実施形態のディーゼル機関は第1実施形態のものと比較して燃料噴射ノズル3からの燃料噴霧4の噴射方向を変更したものであり、その他の構成は第1実施形態と同様である。そこで、共通する構成の箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
図3は本実施形態の直噴式ディーゼル機関のシリンダヘッド1を下方より見た平面視を示す図である。
【0021】
第1実施形態と同じく本実施形態の燃料噴射ノズル3も噴孔部が6噴孔として設定され、且つ、その燃料噴霧4の噴射方向が奇数気筒と偶数気筒とで30°だけずれている。相違点は第1実施形態に対して全ての気筒の燃料噴射ノズル3の噴射方向が時計回りに10°分ずれている点にある。
換言すると、奇数気筒の燃料噴射ノズル3の噴射方向は、図中に一点鎖線で示す第1実施形態のものに比較して時計周りに10°ずれており、この奇数気筒の燃料噴射ノズル3の噴射方向に対して偶数気筒の噴射ノズル3の噴射方向が30°ずれて(結果として第1実施形態の偶数気筒の噴射方向に対しては10°ずれて)いる。このため、奇数気筒の燃料噴射ノズル3から噴射される6条の燃料噴霧4のそれぞれの中間角度で偶数気筒の燃料噴射ノズル3から6条の燃料噴霧4が噴射されることになる。
【0022】
図4は第2実施形態の直噴式ディーゼル機関における隣り合う気筒の燃料噴射ノズル3の噴射方向を模式的に示す説明図である。
第1実施形態と同じく、各気筒の両側で気筒列設方向(図中の左右方向)に延びてシリンダボア2周縁にそれぞれ接する第1の仮想ラインL1、及び隣り合う気筒間で第1の仮想ラインL1と直交する方向(図中の上下方向)に延びてシリンダボア2周縁にそれぞれ接する第2の仮想ラインL2により、各気筒のシリンダボア2周縁をそれぞれ取り囲んだ場合を想定する。
【0023】
第1の仮想ラインL1の内、両気筒の一側(既述したように両側の何れでもよい)に位置する一対の第1の仮想ラインL1aに対しては、奇数気筒の燃料噴射ノズル3から2条の燃料噴霧4が衝突し、偶数気筒の燃料噴射ノズル3から2条の燃料噴霧4が衝突することから、計4条の燃料噴霧4が衝突することになる。また、第2の仮想ラインL2の内、隣り合う気筒間に位置する一対の第2の仮想ラインをL2aに対しては、奇数気筒の燃料噴射ノズル3から1条の燃料噴霧4が衝突し、偶数気筒の燃料噴射ノズル3から1条の燃料噴霧4が衝突することから、計2条の燃料噴霧4が衝突することになる。
【0024】
第1実施形態の場合に比較して、第2の仮想ラインL2aへの燃料噴霧4の衝突条数が3条から2条にさらに減少し、隣り合う気筒間の領域の温度負荷がより軽減されることが判る。よって、冷却効率の向上、及びシリンダヘッド1の熱変形や破損防止に関して、第1実施形態よりもさらに優れた効果を得ることができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記各実施形態では直列6気筒の直噴式ディーゼル機関に具体化し、燃料噴射ノズル3を6噴孔としたが、内燃機関や燃料噴射ノズル3の仕様はこれに限定されることはなく、任意に変更可能である。例えば、7噴孔の燃料噴射ノズル3を用いてもよく、この場合には噴孔割付位相=360°/7=51.4°のため、奇数気筒と偶数気筒との噴射方向を25.7°相違させればよい。
【0025】
また、第1実施形態では一対の第1の仮想ラインL1aに対する燃料噴霧4の衝突条数を3、一対の第2の仮想ラインL2aに対する衝突条数を3とし、第2実施形態では一対の第1の仮想ラインL1aに対する燃料噴霧4の衝突条数を4、一対の第1の仮想ラインL1aに対する衝突条数を1としたが、これに限ることはない。
図6に示す先行技術では、一対の第1の仮想ラインL1aに対する燃料噴霧4の衝突条数が2、一対の第2の仮想ラインL2aに対する衝突条数が4であったため、少なくとも一対の第1の仮想ラインL1aに対する燃料噴霧4の衝突条数を一対の第2の仮想ラインL2aに対する衝突条数以下(第1実施形態に相当)とすればよく、このように構成すれば先行技術に比較して特有の作用効果を得ることができる。
【0026】
また、各実施形態では奇数気筒と偶数気筒とで燃料噴射ノズル3の噴射方向を相違させたが、これに限ることはなく、上記のように一対の第1の仮想ラインL1aに対する燃料噴霧4の衝突条数を一対の第2の仮想ラインL2aに対する衝突条数以下にできれば、これに限ることはない。例えば奇数気筒と偶数気筒とで区別することなく、各気筒の燃料噴射ノズル3の噴射方向をランダムに相違させてもよい。この場合、シリンダヘッド1の冷却水路内での冷却水の流通経路を考慮して、特に熱的な余裕が少ない領域に対する燃料噴霧4の衝突条数が少なくなるように、各燃料噴射ノズル3の噴射方向を設定してもよい。
【符号の説明】
【0027】
2 シリンダボア
3 燃料噴射ノズル
4 燃料噴霧
L1,L1a 第1の仮想ライン
L2,L2a 第2の仮想ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各気筒のシリンダボアの略中心位置に燃料噴射ノズルの噴孔部をそれぞれ配設し、各燃料噴射ノズルの噴孔部からシリンダボア周縁に向けて等間隔で放射状に複数条の燃料噴霧を噴射して着火・燃焼させる直噴式ディーゼル機関において、
各気筒の両側で気筒列設方向に延びてシリンダボア周縁にそれぞれ接する第1の仮想ライン、及び隣り合う気筒間で上記第1の仮想ラインと直交する方向に延びて上記シリンダボア周縁にそれぞれ接する第2の仮想ラインにより、上記各気筒のシリンダボア周縁をそれぞれ取り囲んだとき、隣り合う気筒間で両気筒のシリンダボア周縁にそれぞれ接する一対の第2の仮想ラインに対して上記燃料噴射ノズルの燃料噴霧が衝突する条数が、同じく両気筒の一側でシリンダボア周縁にそれぞれ接する一対の第1の仮想ラインに対して上記燃料噴射ノズルの燃料噴霧が衝突する条数以下となるように、上記各気筒の燃料噴射ノズルの平面視における噴射方向を相違させたことを特徴とする直噴式ディーゼル機関。
【請求項2】
上記各気筒の燃料噴射ノズルの平面視における噴射方向を奇数気筒と偶数気筒とで相違させることにより、上記第2の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数を上記第1の仮想ラインへの燃料噴霧の衝突条数以下としたことを特徴とする請求項1記載の直噴式ディーゼル機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82768(P2012−82768A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230472(P2010−230472)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】