説明

直接アルコール型燃料電池システム

【課題】直接アルコール型燃料電池の安定動作および燃料利用効率の向上の双方を実現できる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】アノード極、電解質膜およびカソード極をこの順で備える直接アルコール型燃料電池を含む燃料電池部101と、アノード極にアルコール燃料を供給するための燃料供給部102と、直接アルコール型燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値Iもしくは直接アルコール型燃料電池の出力電圧値V、ならびに、直接アルコール型燃料電池の温度Tを検出するための検出部104と、電流値Iもしくは出力電圧値V、ならびに、温度Tの検出結果に基づいてアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御するための制御部105とを備える直接アルコール型燃料電池システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールまたはアルコール水溶液を燃料とする直接アルコール型燃料電池を備えた直接アルコール型燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、携帯用電子機器の新規電源として実用化の期待が高まっている。とりわけ、燃料としてアルコールまたはアルコール水溶液を使用する直接アルコール型燃料電池は、燃料がガスである場合と比較して、燃料貯蔵室を比較的簡易に設計できるなどの理由から、燃料電池の構造の簡略化、省スペース化を実現しやすく、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての期待が特に高い。
【0003】
電解質膜としてカチオン交換膜を使用する直接アルコール型燃料電池においては、次のような電気化学反応(以下、電池反応ともいう。)により電力が取り出される。すなわち、アノード極に燃料(アルコールまたはアルコール水溶液)を供給すると、たとえば、アルコールとしてメタノールを用いた場合では、下記式(a):
アノード極:CH3OH+H2O → CO2↑+6H++6e- (a)
の触媒反応により燃料が酸化されて、二酸化炭素ガスおよびプロトンが生じる。アノード極側で発生したプロトンは、電解質膜を介してカソード極側に伝達される。
【0004】
一方、カソード極では、アノード極から伝達されたプロトンと、カソード極に供給される空気中の酸素とが、下記式(b):
カソード極:3/2O2+6H++6e- → 3H2O (b)
の還元反応を起こし、水が生成する。
【0005】
ここで、燃料電池の運転に関し、燃料の利用効率(アノード極に供給した燃料量に対する電池反応に寄与する燃料量の割合)を高めるために、電池反応の量(換言すれば、燃料電池から取り出す電流量)に応じて、アノード極に供給する燃料の量(燃料供給量)を調節することが従来行なわれている。たとえば特許文献1には、直接メタノール型燃料電池から取り出す電流値に応じて燃料であるメタノール水溶液の供給量を制御する燃料電池の運転方法が記載されている。
【0006】
なお、特許文献2には、電流値に応じて燃料供給量を調節するのではなく、直接メタノール型燃料電池の温度を検出し、検出温度に基づいて燃料および空気の供給量を調節して発電量の最適化を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−25959号公報
【特許文献2】特許第4407879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
直接アルコール型燃料電池においては、燃料電池の安定動作および燃料利用効率の向上を実現するために、燃料電池に接続される電子機器が要求する電力量に対応する電流量を取り出すのに必要な量(電池反応に必要な量)のアルコール燃料を過不足なく供給できることが重要である。電池反応に必要な量に満たない燃料しか供給されない場合には、燃料不足により燃料電池の安定動作が妨げられる(たとえば、動作中の燃料電池温度や出力電圧が大幅に低下したりする)。一方、電池反応に必要な量を超える過剰な燃料が供給されると、燃料が電解質膜を介してカソード極側に透過し酸化される、いわゆる「クロスオーバー」の量が増加する結果、燃料電池温度が上昇し、さらにクロスオーバー量が増加するというポジティブフィードバックにより熱暴走が起こり、燃料電池の安定動作が妨げられる。また、クロスオーバー量の増加により燃料利用効率も低下する。
【0009】
上記特許文献1の方法は、発電初期における燃料利用効率の向上という面では有利となり得るが、燃料電池から取り出す電流値に応じて燃料供給量を最適に制御しても、燃料電池反応や微少量のクロスオーバーにより燃料電池温度が上昇する結果、クロスオーバー量が徐々に増加し、電池反応に必要な燃料が徐々に不足して、燃料電池の安定動作が妨げられるとともに、クロスオーバー量の増加によって燃料利用効率が徐々に低下するという課題を有している。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、直接アルコール型燃料電池の安定動作および燃料利用効率の向上の双方を実現できる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、直接アルコール型燃料電池においては必ず燃料のクロスオーバーが生じ、しかもクロスオーバー量が燃料電池温度に依存するという事実を踏まえてアノード極への燃料供給量を制御することにより上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は次のとおりである。
【0012】
本発明は、アノード極、電解質膜およびカソード極をこの順で備える直接アルコール型燃料電池を含む燃料電池部と、アノード極にアルコール燃料を供給するための燃料供給部と、直接アルコール型燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値Iもしくは直接アルコール型燃料電池の出力電圧値V、ならびに、直接アルコール型燃料電池の温度Tを検出するための検出部と、電流値Iもしくは出力電圧値V、ならびに、温度Tの検出結果に基づいてアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部を制御するための制御部とを備える直接アルコール型燃料電池システムを提供する。
【0013】
燃料電池部は、直列または並列に電気的に接続された2以上の直接アルコール型燃料電池を含むことができる。
【0014】
本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムの1つの好ましい実施形態において、検出部は、単位時間当たりの上記温度Tの変化量ΔTをさらに検出できるものであり、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部が制御された後に検出される温度Tまたは変化量ΔTの少なくともいずれかが所定の範囲内にない場合には、温度Tおよび変化量ΔTが当該所定の範囲内となるように、制御部は、燃料供給部がアルコール燃料の供給量を供給量Qから変更するように制御する。
【0015】
また、本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムの他の好ましい実施形態において、該システムはカソード極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤供給部をさらに備え、検出部は、単位時間当たりの上記温度Tの変化量ΔTをさらに検出できるものであり、制御部は、酸化剤供給部によるカソード極への酸化剤ガスの供給量の調整をさらに制御できるものであり、アルコール燃料の供給量が前記供給量Qとなるように燃料供給部が制御された後に検出される温度Tまたは変化量ΔTの少なくともいずれかが所定の範囲内にない場合には、温度Tおよび変化量ΔTが当該所定の範囲内となるように、制御部は、燃料供給部がアルコール燃料の供給量を供給量Qから変更するように制御するか、および/または、酸化剤供給部が酸化剤ガスの供給量を変更するように制御する。
【0016】
本発明の直接アルコール型燃料電池システムにおいて制御部は、好ましくは下記式[1]〜[4]のいずれかに従ってアルコール燃料の供給量Qの決定を行なう。
【0017】
Q=a1×I+F(T) [1]
(式中、a1は正数であり、F(T)はdF(T)/dT>0を満足する温度Tの関数である。)
Q=F’(V)+F(T) [2]
(式中、F’(V)はdF’(V)/dV<0を満足する出力電圧値Vの関数であり、F(T)はdF(T)/dT>0を満足する温度Tの関数である。)
Q=a2×I+F(T,I) [3]
(式中、a2は正数であり、F(T,I)はdF(T,I)/dT>0およびdF(T,I)/dI<0を満足する温度Tおよび電流値Iの関数である。)
Q=F’(V)+F(T,V) [4]
(式中、F’(V)はdF’(V)/dV<0を満足する出力電圧値Vの関数であり、F(T,V)はdF(T,V)/dT>0およびdF(T,V)/dV>0を満足する温度Tおよび出力電圧値Vの関数である。)
本発明のアルカリ形燃料電池システムに用いられるアルコール燃料は好ましくはメタノールまたはその水溶液であり、酸化剤ガスは好ましくは空気である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、直接アルコール型燃料電池の安定動作および燃料利用効率の向上の双方を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムの構成の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムに用いる直接アルコール型燃料電池の好ましい例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の別の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の別の一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムの構成の別の一例を示す概略図である。
【図7】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の別の一例を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の別の一例を示すフローチャートである。
【図9】本発明に係る直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の別の一例を示すフローチャートである。
【図10】実施例1で用いた介在層の第2層を示す概略上面図である。
【図11】実施例1で用いた介在層の第1層を示す概略上面図である。
【図12】実施例1で用いたアノードセパレータを示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態を示して本発明を詳細に説明する。
<第1の実施形態>
[a]直接アルコール型燃料電池システムの構成
図1は、本実施形態に係る直接アルコール型燃料電池システムの構成を示す概略図である。図1に示される燃料電池システム100は、直接アルコール型燃料電池を含む燃料電池部101;燃料電池部101に接続され、直接アルコール型燃料電池のアノード極にアルコール燃料を供給するための燃料供給部102;燃料電池部101に接続され、直接アルコール型燃料電池のカソード極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤供給部103;燃料電池部101に接続され、直接アルコール型燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値Iもしくは直接アルコール型燃料電池の出力電圧値V、ならびに、直接アルコール型燃料電池の温度Tを検出するための検出部104;燃料供給部102および検出部104に接続され、電流値Iもしくは出力電圧値V、ならびに、温度Tの検出結果に基づいてアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定するとともに、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御するための制御部105を含む。
【0021】
後で詳述するように、本実施形態の直接アルコール型燃料電池システムは、式[1]〜[4]のいずれかに従ってアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように制御を行なうものである。式[1]〜[4]はいずれも、燃料のクロスオーバーが生じることおよびクロスオーバー量が温度上昇により増加することを考慮した上での電池反応に必要な最小限のアルコール燃料量を供給量Qとして導出する式であるので、当該式に基づくアルコール燃料供給量の制御により、電池反応に必要な量のアルコール燃料を過不足なく供給することが可能になる。これにより、燃料電池の安定動作が可能になるとともに、燃料利用効率を向上させることができる。燃料利用効率の向上は、燃料電池の小型化にも有利である。
【0022】
(燃料電池部)
燃料電池部101は直接アルコール型燃料電池から構成される。直接アルコール型燃料電池は、アノード極、電解質膜およびカソード極をこの順で有する膜電極複合体(MEA)を発電主要部として備える。
【0023】
図2(a)は、本発明の燃料電池システムに用いる直接アルコール型燃料電池の好ましい一例を示す概略断面図であり、直接アルコール型燃料電池の単セル構造を示したものである。図2(a)に示される直接アルコール型燃料電池200は、アノード極202、電解質膜201およびカソード極203をこの順で有する膜電極複合体(MEA)210;アノード極202の外面に積層されるアノード集電層204;カソード極203の外面に積層されるカソード集電層205;アノード集電層204の外面に積層されるアノードセパレータ206;カソード集電層205の外面に積層されるカソードセパレータ207を備える。アノードセパレータ206およびカソードセパレータ207の集電層側表面には、それぞれアルコール燃料、酸化剤ガスをアノード極202、カソード極203に供給するための燃料流路208、酸化剤ガス流路209が設けられている。
【0024】
(1)電解質膜
電解質膜201は、アノード極202からカソード極203へプロトンを伝達する機能と、アノード極202とカソード極203との電気的絶縁性を保ち、短絡を防止する機能を有する。電解質膜201の材質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜またはコンポジット膜を用いることができる。高分子膜としては、たとえば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子社製)などが挙げられる。また、スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系電解質膜などを用いることもできる。
【0025】
無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウムなどからなる膜が挙げられる。コンポジット膜としては、タングステン酸、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸等の無機物とポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、パーフルオロスルホン酸等の有機物とのコンポジット膜などが挙げられる。電解質膜201の厚みはたとえば1〜200μmである。
【0026】
(2)アノード極およびカソード極
電解質膜201の一方の面に形成されるアノード極202および他方の面に形成されるカソード極203には、触媒(それぞれアノード触媒、カソード触媒)と電解質(それぞれアノード電解質、カソード電解質)とを含有する多孔質層からなる触媒層(それぞれアノード触媒層、カソード触媒層)が少なくとも設けられる。これらの触媒層は、電解質膜201の表面に接して積層される。
【0027】
アノード触媒は、アルコール燃料からプロトンと電子とを生成する反応を触媒し、アノード電解質は、生成したプロトンを電解質膜201へ伝導する機能を有する。カソード触媒は、カソード電解質を伝導してきたプロトンと酸化剤ガス(空気等)から水を生成する反応を触媒する。アノード触媒およびカソード触媒は、カーボンやチタン等の導電体の表面に担持されたものでもよく、なかでも、水酸基やカルボキシル基等の親水性の官能基を有するカーボンやチタン等の導電体の表面に担持されていることが好ましい。
【0028】
アノード極202およびカソード極203はそれぞれ、アノード、カソード触媒層上に積層されるアノードガス拡散層、カソードガス拡散層を備えていてもよい。これらのガス拡散層は、アノード極202、カソード極203に供給されるアルコール燃料または酸化剤ガスを面内において拡散させる機能を有するとともに、アノード触媒層、カソード触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。
【0029】
アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層は、導電性を有する多孔質層であることができ、具体的には、比抵抗が小さく、電圧の低下が抑制されることから、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;これらの金属の窒化物または炭化物等;ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などからなる多孔質材料からなることが好ましい。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。より具体的には、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層として、たとえば、上記貴金属、遷移金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜などを好適に用いることができる。
【0030】
(3)アノード集電層およびカソード集電層
アノード集電層204、カソード集電層205はそれぞれ、アノード極202上、カソード極203上に積層される部材であり、集電機能、すなわち隣接する電極における電子を集電する機能を有し、通常は電気的配線を行なうための取り出し電極としての機能も有する。アノード集電層204およびカソード集電層205の材質は、比抵抗が小さく、面方向に電流を取り出しても電圧の低下が抑制されることから、金属であることが好ましく、なかでも、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する金属であることがより好ましい。このような金属としては、Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;およびこれらの金属の窒化物または炭化物等;ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などが挙げられる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。アノード集電層204とカソード集電層205とを電気的に接続することにより、アノード極202とカソード極203との電気的接続を行なうことができる。
【0031】
より具体的には、アノード集電層204は、燃料流路208を流通するアルコール燃料をアノード極202へ誘導するための厚み方向に貫通する貫通孔(開口)を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。同様に、カソード集電層205は、酸化剤ガス(空気等)をカソード極203に供給するための厚み方向に貫通する貫通孔(開口)を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。
【0032】
なお、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層が金属等からなり、導電性が比較的高い場合や、後述するアノードセパレータおよびカソードセパレータに集電機能を付与する場合には、アノード集電層およびカソード集電層は省略されてもよい。
【0033】
(4)アノードセパレータおよびカソードセパレータ
図2(a)に示されるように、直接アルコール型燃料電池200は、アノード集電層204上に配置される、アルコール燃料をアノード極202へ導入するためのアノードセパレータ206およびカソード集電層205上に配置される、酸化剤ガスをカソード極203に導入するためのカソードセパレータ207を備える。
【0034】
アノードセパレータ206およびカソードセパレータ207はそれぞれ、集電層側の面にアルコール燃料または酸化剤ガスを流通させるための溝からなる流路(それぞれ燃料流路208、酸化剤ガス流路209)を備えるものであることができる。当該流路は、1または2以上の溝から構成することができ、その形状は特に制限されず、ライン状、サーペンタイン状等であることができる。
【0035】
アノードセパレータ206およびカソードセパレータ207の材質は特に制限されず、たとえば、カーボン材料、導電性高分子、各種金属、ステンレスに代表される合金などの導電性材料のほか、各種プラスチック材料などの非導電性材料が挙げられる。集電機能を付与する場合には導電性材料が用いられる。この場合、アノードセパレータ206とカソードセパレータ207とを電気的に接続することにより、アノード極202とカソード極203との電気的接続を行なうことができる。なお、酸化剤ガスとして大気中の空気を用いる場合などにあっては、ブロアなどを用いてカソード極側から直接空気を取り込むか、または、ブロアなどの補機を用いることなく空気の自然拡散を利用してパッシブ方式で空気を取り込むことができ、このような場合には酸化剤ガス流路を提供するカソードセパレータを省略することができる。
【0036】
(5)介在層
図2(b)に示される直接アルコール型燃料電池200’のように、アノード集電層204とアノードセパレータ206との間に介在層220を配置してもよい。介在層220は、気液分離能を有する第1層221のみからなることもできるし、これと第2層222とを組み合わせた2層構造であることもできる。
【0037】
第1層221は、気化燃料透過性(液体燃料の気化成分を透過できる性質)かつ液体燃料不透過性の疎水性を有する多孔質層であり、アノード極202への燃料の気化供給を可能とする気液分離能を有する層である。介在層220が第1層221のみからなる場合、第1層221はアノードセパレータ206のアノード極側表面(したがって燃料流路208を形成する溝(凹部))を覆うように配置される。第1層221は、アノード極202へ供給される気化燃料の量または濃度を適切量に制御(制限)するとともに、均一化する機能をも有する。第1層221を設けることにより、燃料のクロスオーバーを効果的に抑制でき、発電部に温度ムラが生じにくく、安定した発電状態を維持することができる。
【0038】
第1層221としては、使用する燃料に関して気液分離能を有するものであれば特に制限されないが、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔質膜または多孔質シートを挙げることができ、具体的には、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムである日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」や「NTF2122A−S06」が例示できる。
【0039】
気化燃料透過性および液体燃料不透過性を付与する観点から、第1層221が有する細孔の最大細孔径は、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。最大細孔径は、後述する第2層222と同様、メタノール等を用いてバブルポイントを測定することにより求めることができる。
【0040】
第1層221の厚みは特に制限されないが、上記機能を十分に発現させるために、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、燃料電池の薄型化の観点からは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0041】
介在層220が第1層221および第2層222からなる場合、アノードセパレータ206のアノード極側表面を覆うように第2層222が配置され、そのアノード極側表面上に第1層221が積層される〔図2(b)参照〕。
【0042】
第2層222は、測定媒体をメタノールとしたときのバブルポイントが30kPa以上の層である。このような層を、燃料流路208を覆うように配置することの利点は、たとえば次のとおりである。
【0043】
(i)第2層222の細孔内に液体燃料が毛細管力により保持されるため、アノード極202で発生した副生ガス(CO2ガスなど)が燃料流路208内に侵入することを防止できる。これにより、アノード極202への気化燃料の供給量が低下したり、気化燃料の安定的供給が阻害されたりすることを防止できるため、燃料電池の出力安定性を良好に維持することができる。また、副生ガスが浸入し燃料流路208の内圧が上昇することによる構成部材間の界面での剥離や、構成部材の破壊を抑制できることから、燃料電池の信頼性を向上させることができる。
【0044】
(ii)燃料流路208内への液体燃料の輸送を、第2層222の毛細管力を利用して行なうことができるため、液体燃料のパッシブ供給が可能となる。これにより、液体燃料を送液するためのポンプ等の補機を省略することができる。
【0045】
バブルポイントとは、液媒体で濡らした層(膜)の裏側から空気圧をかけたときに、層(膜)の表面に気泡の発生が認められる最小圧力である。バブルポイントが高いほど気体の透過性は低い。バブルポイントΔPは、下記式(I):
ΔP[Pa]=4γcosθ/d (I)
(γは測定媒体の表面張力[N/m]、θは層(膜)の素材と測定媒体との接触角、dは層(膜)が有する最大細孔径である。)
によって定義される。本発明においてバブルポイントは、測定媒体をメタノールとし、JIS K 3832に準拠して測定される。
【0046】
副生ガスの燃料流路208内への侵入をより効果的に防止する観点から、第2層222のバブルポイントは、好ましくは50kPa以上であり、より好ましくは100kPa以上である。上記式(I)から理解されるように、バブルポイントは第2層222に用いる材料の細孔径や接触角の調整により制御可能である。
【0047】
30kPa以上のバブルポイントを達成するために、第2層222が有する細孔の最大細孔径は、1μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがより好ましい。最大細孔径は、上記バブルポイントを測定することで得られるが、それ以外の手法としては水銀圧入法によって測定することができる。ただし、水銀圧入法では0.005μm〜500μmの細孔分布しか測定できないため、この範囲外の細孔は存在しない、もしくは無視できる場合に有効な測定手段である。
【0048】
第2層222としては、たとえば、高分子材料、金属材料または無機材料などからなる多孔質層や、高分子膜を挙げることができ、具体例を示せば以下のとおりである。
【0049】
1)次の材料からなる多孔質層。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;アクリル系樹脂;ABS樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂;セルロースアセテート、ニトロセルロース、イオン交換セルロース等のセルロース系樹脂;ナイロン;ポリカーボネート系樹脂;ポリ塩化ビニル等の塩素系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルホン;ガラス;セラミックス;ステンレス、チタン、タングステン、ニッケル、アルミニウム、スチール等の金属材料。多孔質層は、これらの材料からなる発泡体、焼結体、不織布または繊維(ガラス繊維等)などであることができる。
【0050】
2)次の材料からなる高分子膜。パーフルオロスルホン酸系重合体;スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系重合体などの電解質膜材料として用いることができるもの。これらの高分子膜は、3次元的に絡み合う高分子間の隙間として、ナノオーダーの細孔を有している。
【0051】
第2層222を構成する材料として高分子材料を用いる場合には、親水性官能基を導入するなどの方法により親水化処理を施し、細孔表面の水(したがってメタノールもしくはメタノール水溶液等の燃料)に対する濡れ性を高めることにより、第2層222のバブルポイントを高めることもできる。
【0052】
第2層222の厚みは特に制限されないが、燃料電池の薄型化の観点から、好ましくは20〜500μmであり、より好ましくは50〜200μmである。
【0053】
直接アルコール型燃料電池に供給されるアルコール燃料としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類およびこれらの水溶液を挙げることができる。アルコール燃料は1種に限定されず、2種以上の混合物であってもよい。コストの低さや体積あたりのエネルギー密度の高さ、発電効率の高さなどの点から、メタノール水溶液または純メタノールが好ましく用いられる。酸化剤ガスとしては、たとえば、O2ガスや、空気等のO2を含むガスなどを用いることができる。なかでも、空気が好ましく用いられる。
【0054】
燃料電池部101は、直接アルコール型燃料電池を2以上備えることができる。2以上の直接アルコール型燃料電池は、互いに直列に電気的接続されていてもよいし、並列に電気的接続されていてもよく、あるいはこれらの両者の電気的接続を含んでいてもよい。たとえば、図2に示されるような単セルの複数を直列に積層した燃料電池スタックや、図2に示されるような単セルの複数を同一平面上に配置し、これらを並列に電気的接続した平面状集積電池、および該平面状集積電池の複数を直列に積層した燃料電池スタックなどを挙げることができる。
【0055】
(燃料供給部および酸化剤供給部)
燃料供給部102は、直接アルコール型燃料電池のアノード極にアルコール燃料を供給するための部位であり、アノード極へのアルコール燃料供給量を調整するための流量調整手段を少なくとも有し、通常は、たとえば、アルコール燃料源(アルコール燃料収容タンクなど)と燃料電池のアノード側(より具体的にはアノードセパレータの燃料流路)とを接続する配管をさらに含む。流量調整手段としては送液ポンプが代表的であるが、これに加えて、あるいはこの代わりに、上記配管中に設置された流量調整弁などが用いられてもよい。
【0056】
酸化剤供給部103は、直接アルコール型燃料電池のカソード極に酸化剤ガスを供給するための部位であり、たとえば、カソード極への酸化剤ガス(大気中の空気等)の導入を促進するブロアまたは送気ポンプなどであることができる。必要に応じてカソードセパレータの酸化剤ガス流路の入口に接続される配管などを含んでいてもよい。酸化剤供給部103は、空気の自然拡散を利用してパッシブ方式でカソード極側から空気を取り込む場合には不要である。
【0057】
(検出部)
検出部104は、燃料電池部101に接続される、直接アルコール型燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値Iもしくは直接アルコール型燃料電池の出力電圧値V、ならびに、直接アルコール型燃料電池の温度Tを検出するための部位である。電流値Iは、通常用いられている電流計やテスター等を用いて測定することができる。好ましくは、回路内に直接組み込んで電流量を常時測定することができる電流計が用いられる。出力電圧値Vは、通常用いられている電圧計やテスター等を用いて測定することができる。好ましくは、回路内に直接、並列に組み込んで電圧量を常時測定することができる電圧計が用いられる。温度Tを検出するための温度計は従来公知のものであってよい。
【0058】
なお上述のように、燃料電池部101は、直接アルコール型燃料電池を2以上備えることができる。この場合、電流値Iや出力電圧値Vは、それぞれの直接アルコール型燃料電池ごとに測定されてもよいが、接続関係や制御の容易性の観点から、2以上の直接アルコール型燃料電池を1つの燃料電池とみなして、全体としての電流値Iや出力電圧値Vを測定することが好ましい。
【0059】
(制御部)
制御部105は、検出部104から出力される検出結果信号(電流値Iもしくは出力電圧値V、ならびに、温度T)に基づいて、電池反応に必要な最小限の燃料供給量である供給量Qを決定するとともに、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御するための部位であり、燃料供給部102および検出部104に接続される。制御部105としては特に制限されず、たとえばパーソナルコンピュータなどを用いることができる。
【0060】
(その他の構成部位)
本実施形態の直接アルコール型燃料電池システム(後述する他の実施形態についても同様である。)は、上記で述べたもの以外の他の構成部位を含むことができる。他の構成部位としては、燃料電池のアノードセパレータを通過した燃料を燃料電池外部に排出するための燃料排出部、カソードセパレータを通過した酸化剤ガスを外部に排出するための酸化剤排出部、燃料電池部から排出された燃料を燃料供給部に戻すためのリサイクル用配管などが挙げられる。
【0061】
[b]アルコール燃料供給量の制御
次に、本実施形態の直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御について説明する。図3は、本実施形態の直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の一例を示すフローチャートである。図3に示される制御フローにおいては、制御部105は、検出部104による直接アルコール型燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値I〔単位:A〕および直接アルコール型燃料電池の温度T〔単位:℃〕の検出結果から、下記式[1]:
Q〔μmol/s〕=a1×I+F(T) [1]
(式中、a1は正数であり、F(T)はdF(T)/dT>0を満足する温度Tの関数である。)
に従ってアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御する(ステップS301)。具体的には、燃料供給部102が有する流量調整手段が送液ポンプである場合には、当該ポンプの駆動量を増加または減少させる。
【0062】
検出部104が電流値Iの代わりに、直接アルコール型燃料電池の出力電圧値V〔単位:V〕を検出する場合には、下記式[2]:
Q〔μmol/s〕=F’(V)+F(T) [2]
(式中、F’(V)はdF’(V)/dV<0を満足する出力電圧値Vの関数であり、F(T)はdF(T)/dT>0を満足する温度Tの関数である。)
に従ってアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御する。
【0063】
上記式[1]および[2]は、アルコール燃料のクロスオーバーが生じることおよびクロスオーバー量が温度上昇により増加することを考慮した上での電池反応に必要な最小限のアルコール燃料量を供給量Qとして導出するものである。すなわち、上記式[1]におけるa1×Iは、燃料電池の発電によるアルコール燃料の消費量を意味しており、該消費量が電流値Iに正比例することを示している。また、燃料電池の電流−出力電圧の関係I=g(V)を利用すると、上記式[1]におけるa1×Iは、a1×g(V)とすることができ、さらに、上記式[2]と関連づけてF’(V)=a1×g(V)とすることができる。一般に、燃料電池の電流−出力電圧の関係I=g(V)においては、電流が増加するにつれ、出力電圧が低下する関係があることを踏まえると、上記式[2]におけるF’(V)は、燃料電池の発電によるアルコール燃料の消費量を意味しており、出力電圧値Vの上昇により該消費量が減少することを示している。
【0064】
そして、F(T)は、アルコール燃料のクロスオーバー量を意味しており、温度Tの上昇によりクロスオーバー量が増加することを示している。F(T)はその温度におけるクロスオーバー量の分だけ燃料供給量を増加させることを意味している。
【0065】
このように、温度依存性を有するクロスオーバー量を考慮することによって、供給量Qに電流値Iまたは出力電圧値V依存性だけでなく温度依存性を持たせることで、燃料不足を防止することができる。また、算出される供給量Qは、電池反応に必要な最小限のアルコール燃料量であるから、供給量Qとなるように燃料供給量を調整することによって燃料の過剰供給をも防止することができる。さらに、過不足なく燃料を供給することができるため、燃料電池の安定動作が可能になる。
【0066】
上記式[1]における比例定数a1は、アルコール燃料の種類によって決まり、たとえば、アルコール燃料がメタノールである場合、1molのメタノールの電気化学反応から6molの電子が生じるため、a1は1.73〔μmol/A・s〕と決定することができる。アルコール燃料の供給体積流量を算出する場合、この比例定数と、アルコール燃料に含まれるアルコールのモル濃度を元に、供給体積流量を決定する必要がある。
【0067】
上記[2]におけるF’(V)は、あらかじめ計測した燃料電池の電流−出力電圧曲線I=g(V)を元に決定することができる。燃料電池の発電によるアルコール燃料の消費量は、a1×Iにより決定されるため、F’(V)=a1×g(V)となる。電流―出力電圧曲線I=g(V)は、温度に応じて変化する場合があるため、温度依存性も考慮した電流―出力電圧曲線I=g(V,T)を用いてもよい。
【0068】
クロスオーバー量を表すF(T)は、dF(T)/dT>0を満たす限り特に制限されず、たとえばcT+dのようなTの一次関数、eT2+fのような二次関数などであることができる〔一例:F(T)=0.01T+0.2〕。c、d、e、fのような定数は、あらかじめ経験的に求めることができる。一般にクロスオーバー量は、温度上昇に伴い急激に(たとえば指数関数的)増加するが、F(T)をTの高次関数とすることにより、クロスオーバー量が温度上昇に伴い急激に増加するような場合においても、上記のような燃料供給量の適切な制御が可能となる。
【0069】
図4は、本実施形態の直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の別の一例を示すフローチャートである。図4に示される制御フローにおいては、制御部105は、検出部104による直接アルコール型燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値I〔単位:A〕および直接アルコール型燃料電池の温度T〔単位:℃〕の検出結果から、下記式[3]:
Q=a2×I+F(T,I) [3]
(式中、a2は正数であり、F(T,I)はdF(T,I)/dT>0およびdF(T,I)/dI<0を満足する温度Tおよび電流値Iの関数である。)
に従ってアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御する(ステップS401)。具体的には、燃料供給部102が有する流量調整手段が送液ポンプである場合には、当該ポンプの駆動量を増加または減少させる。
【0070】
検出部104が電流値Iの代わりに、直接アルコール型燃料電池の出力電圧値V〔単位:V〕を検出する場合には、下記式[4]:
Q=F’(V)+F(T,V) [4]
(式中、F’(V)はdF’(V)/dV<0を満足する出力電圧値Vの関数であり、F(T,V)はdF(T,V)/dT>0およびdF(T,V)/dV>0を満足する温度Tおよび出力電圧値Vの関数である。)
に従ってアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御する。
【0071】
図4に示される制御フローは、式[1]または[2]の代わりに式[3]または[4]を用いること以外は図3に示される制御フローと同じである。式[3]、[4]と式[1]、[2]との相違点は、燃料のクロスオーバー量を表すFに温度依存性だけでなく、電流値Iまたは出力電圧値V依存性を持たせたことである。これは、電流値Iが大きくなる、または、出力電圧値Vが小さくなり、電池反応による燃料消費量が増加すると、クロスオーバー量が低下する(したがって、dF(T,I)/dIは負の値となり、dF(T,V)/dVは正の値となる)現象を考慮したものである。このような現象をさらに考慮し、クロスオーバー量にさらに電流値Iまたは出力電圧値V依存性を持たせることにより、より厳密に燃料供給量を制御できるようになるため、燃料電池の安定動作および燃料利用効率の向上により有利となる。
【0072】
上記式[3]における比例定数a2は、アルコール燃料の種類によって決まり、たとえば、アルコール燃料がメタノールである場合、1molのメタノールの電気化学反応から6molの電子が生じるため、a2は1.73〔μmol/A・s〕と決定することができる。アルコール燃料の供給体積流量を算出する場合、この比例定数と、アルコール燃料に含まれるアルコールのモル濃度を元に、供給体積流量を決定する必要がある。
【0073】
上記[4]におけるF’(V)は、あらかじめ計測した燃料電池の電流−出力電圧曲線I=g(V)を元に決定することができる。燃料電池の発電によるアルコール燃料の消費量は、a2×Iにより決定されるため、F’(V)=a2×g(V)となる。電流―出力電圧曲線I=g(V)は、温度に応じて変化する場合があるため、温度依存性も考慮した電流―出力電圧曲線I=g(V,T)を用いてもよい。
【0074】
F(T,I)、F(T,V)は、それぞれdF(T,I)/dT>0およびdF(T,I)/dI<0、dF(T,V)/dT>0およびdF(T,V)/dV>0を満たす限り特に制限されず、IまたはVに関し一次または二次以上の関数、Tに関し一次または二次以上の関数であることができる〔一例:F(T,I)=(2−I)×0.01T〕。上記と同様、F(T,I)、F(T,V)をTの高次関数とすることにより、クロスオーバー量が温度上昇に伴い急激に増加するような場合においても、上記のような燃料供給量の適切な制御が可能となる。
【0075】
なお、上記した本実施形態の制御フローは、一定時間おきに繰り返し行なわれることが好ましい。後述する他の実施形態においても同様である。
【0076】
<第2の実施形態>
図5は、本実施形態の直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る制御フローは、上記第1の実施形態と同様にしてアルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御した後、直接アルコール型燃料電池の温度Tおよび単位時間当たりの温度Tの変化量ΔTを検出し、この検出結果に基づき、アルコール燃料の供給量を調整して(必要に応じてアルコール燃料の供給量を供給量Qから変更して)温度Tおよび変化量ΔTが所定の範囲内となるように制御することを特徴とする。
【0077】
高い発電効率を発揮させるとともに、より高い安定動作および燃料利用効率を得るためには、直接アルコール型燃料電池を所定の温度範囲内で動作させることが望ましい。温度が過度に低いと発電効率が低下し、一方、温度が過度に高いと燃料電池の安定動作が妨げられるとともに、クロスオーバー量の増加により燃料利用効率が低下する。本実施形態に係る制御フローはこの点を考慮したものであり、供給量Qとなるようにアルコール燃料の供給量を制御した後、温度Tまたは変化量ΔTの少なくともいずれかが所定の範囲内にない場合に、アルコール燃料の供給量を供給量Qから変更して、温度Tおよび変化量ΔTが当該所定の範囲内となるように調整を行なう。温度Tとともに変化量ΔTを考慮するのは、直接アルコール型燃料電池では、クロスオーバーにより燃料電池温度が上昇すると、さらにクロスオーバー量が増加するというポジティブフィードバックにより熱暴走が起こる場合があるなど、アルコール燃料の供給量が適正値からずれた場合、短時間で加速度的に温度変動が生じる場合があるため、変化量ΔTを所定の範囲内となるように調整を行なうことで、迅速かつ高精度で制御を行なうことができ、燃料電池の安定性を向上することができるためである。
【0078】
本実施形態に係る直接アルコール型燃料電池システムの構成は上記第1の実施形態と同様であってよい。ただし、検出部104は、単位時間当たりの温度Tの変化量ΔTを検出可能なものである。
【0079】
図5に示される本実施形態に係る制御フローは、具体的に説明すると次のとおりである。まず、検出部104による電流値Iもしくは出力電圧値V、ならびに温度Tの検出結果から、上記式[1]〜[4]のいずれかに従ってアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し(図5では式[1]を用いる場合を示している)、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御する(ステップS501)。このステップは上記第1の実施形態におけるステップS301またはS401と同じである。
【0080】
次に、温度Tおよび変化量ΔTが検出される(ステップS502)。そして、検出されたTおよびΔTがそれぞれ所定の範囲内x<T<y、x’<ΔT<y’であるかが判定され、この判定結果に基づき、制御部105は、燃料供給部102を次のように制御する。
【0081】
〔1〕T≦xまたはΔT≦x’である場合には、制御部105は、ある一定時間、アルコール燃料の供給量が供給量Qより大きくなるように燃料供給部102を制御する(ステップS503)。たとえば、燃料供給部102が有する流量調整手段が送液ポンプである場合には、当該ポンプの駆動量を増加させる。これにより燃料のクロスオーバー量が増加するので、燃料電池の温度Tを上昇させることができる。
【0082】
〔2〕T≧yまたはΔT≧y’である場合には、制御部105は、ある一定時間、アルコール燃料の供給量が供給量Qより小さくなるように燃料供給部102を制御する(ステップS504)。たとえば、燃料供給部102が有する流量調整手段が送液ポンプである場合には、当該ポンプの駆動量を減少させる。これにより燃料のクロスオーバー量が減少するので、燃料電池の温度Tを低下させることができる。
【0083】
xとしては、20℃以上50℃未満の値を設定することが望ましく、好ましくは、30℃以上40℃未満の値を設定することが望ましい。yとしては、40℃以上でかつアルコール燃料の沸点未満の値を設定することが望ましく、好ましくは45℃以上でかつアルコール燃料の沸点より10度低い値未満の値を設定することが望ましい。特に、yについて、アルコール燃料の沸点未満の値を設定するのは、アルコール燃料の沸点以上の温度に燃料電池の温度が達すると、アルコール燃料の蒸発が起こり、供給量の調整が困難になり、ひいては安定動作を実現することが困難になるためである。
【0084】
x’としては、−4℃/min以上、−1℃/min℃未満の値を設定することが望ましく、好ましくは、−3℃/min以上、−1℃/min未満℃の値を設定することが望ましい。y’としては、+0.5℃/min以上、+3℃/min未満の値を設定することが望ましく、好ましくは、1℃/min以上、2℃/min未満の値を設定することが望ましい。
【0085】
上記〔1〕および〔2〕における燃料供給量の変更に関し、燃料供給量の上げ幅または下げ幅は適宜の設定とすることができる。また、変更後の燃料供給量の値は、ステップS502で検出された温度Tの値に関わらず一定の値としてもよいし、あるいは、ステップS502で検出された温度Tの値に依存させてもよい。
【0086】
本実施形態の制御フローは、燃料電池の温度制御を燃料供給量の調整のみで行なうものであり、温度調整のためにブロアなどの特段の補機を要しないため、燃料電池システムの小型化の面でも有利である。
【0087】
<第3の実施形態>
[a]直接アルコール型燃料電池システムの構成
図6は、本実施形態に係る直接アルコール型燃料電池システムの構成を示す概略図である。図6に示される燃料電池システム600は、酸化剤供給部103と制御部105とがさらに接続されており、制御部105が酸化剤供給部103によるカソード極への酸化剤ガスの供給量の調整をさらに制御できること、および、検出部104が単位時間当たりの温度Tの変化量ΔTを検出可能であること以外は第1の実施形態に係る燃料電池システムと同様である。酸化剤供給部103は、上記のように、カソード極への酸化剤ガス(大気中の空気等)の導入を促進するブロアまたは送気ポンプなどであることができる。
【0088】
[b]アルコール燃料供給量の制御
図7は、本実施形態の直接アルコール型燃料電池システムによるアルコール燃料供給量の制御の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る制御フローは、温度Tおよび変化量ΔTを所定の範囲内にするために、酸化剤ガスの供給量を調整する点において、燃料供給量の調整により温度制御を行なう第2の実施形態と相違する。具体的には次のとおりである。
【0089】
まず、検出部104による電流値Iもしくは出力電圧値V、ならびに温度Tの検出結果から、上記式[1]〜[4]のいずれかに従ってアノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し(図7では式[1]を用いる場合を示している)、アルコール燃料の供給量が供給量Qとなるように燃料供給部102を制御する(ステップS701)。このステップは上記第1の実施形態におけるステップS301またはS401と同じである。
【0090】
次に、温度Tおよび変化量ΔTが検出される(ステップS702)。そして、検出されたTおよびΔTがそれぞれ所定の範囲内x<T<y、x’<ΔT<y’であるかが判定され、この判定結果に基づき、制御部105は、酸化剤供給部103を次のように制御する。
【0091】
〔1〕T≦xまたはΔT≦x’である場合には、制御部105は、ある一定時間、酸化剤ガスの供給量が低下するように(あらかじめ設定した所定の酸化剤ガス供給量より小さくなるように)酸化剤供給部103を制御する(ステップS703)。たとえば、酸化剤供給部103がブロアである場合、当該ブロアの駆動量を低下させる。これにより酸化剤ガスの流れによる冷却効果が低下するので、燃料電池の温度Tを上昇させることができる。
【0092】
〔2〕T≧yまたはΔT≧y’である場合には、制御部105は、ある一定時間、酸化剤ガスの供給量が増加するように(あらかじめ設定した所定の酸化剤ガス供給量より大きくなるように)酸化剤供給部103を制御する(ステップS704)。たとえば、酸化剤供給部103がブロアである場合、当該ブロアの駆動量を増加させる。上記冷却効果が増大するので、燃料電池の温度Tを低下させることができる。
【0093】
本実施形態の制御フローは、燃料電池の温度制御を酸化剤ガス供給量の調整のみで行なうものである。酸化剤ガス供給量の調整によれば、燃料供給に影響を与えないため、より安定的な燃料電池動作が可能になる。また、クロスオーバー量を増加させることにより温度を上昇させる制御と比べて燃料利用効率により優れる。
【0094】
次に、図8および図9に示される本実施形態の制御フローの変形例について説明する。図8および図9の変形例はいずれも、温度Tおよび変化量ΔTを所定の範囲内にするための手段として、制御フローに燃料供給量の調整および酸化剤ガス供給量の調整の双方を含むことを特徴とする。
【0095】
図8の変形例は、T≦xまたはΔT≦x’である場合には、ある一定時間、アルコール燃料の供給量が供給量Qより大きくなるように燃料供給部102を制御する(ステップS803)一方、T≧yまたはΔT≧y’である場合には、ある一定時間、酸化剤ガスの供給量が増加するように(あらかじめ設定した所定の酸化剤ガス供給量より大きくなるように)酸化剤供給部103を制御する(ステップS804)ことを特徴とする。このような制御フローによれば、燃料供給量や酸化剤ガス供給量を低下させるステップがなくなるので、温度制御時における燃料や酸化剤ガスの供給不足の可能性を完全になくすことができる。
【0096】
図9の変形例は、T≦xまたはΔT≦x’である場合には、ある一定時間、酸化剤ガスの供給量が低下するように(あらかじめ設定した所定の酸化剤ガス供給量より小さくなるように)酸化剤供給部103を制御する(ステップS903)一方、T≧yまたはΔT≧y’である場合には、ある一定時間、アルコール燃料の供給量が供給量Qより小さくなるように燃料供給部102を制御する(ステップS904)ことを特徴とする。このような制御フローによれば、燃料供給量や酸化剤ガス供給量を増加させるステップがなくなるので、ポンプ、ブロアの消費電力増の抑制の面で有利である。また、図7に示される制御フローと同様、クロスオーバー量を増加させることにより温度を上昇させる制御と比べて燃料利用効率により優れている。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
〔直接アルコール型燃料電池システムの作製〕
<実施例1>
以下の手順で、図2(b)と類似の構成を有する直接アルコール型燃料電池を作製し、これを用いて直接アルコール型燃料電池システムを作製した。
【0099】
(1)膜電極複合体の作製
Pt担持量32.5重量%、Ru担持量16.9重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC66E50、田中貴金属社製)と、電解質である20重量%のナフィオン(登録商標)のアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、n−プロパノールと、イソプロパノールと、ジルコニアボールとを、所定の割合でフッ素系樹脂製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間の混合を行なうことにより、アノード極202用の触媒ペーストを作製した。また、Pt担持量46.8重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC10E50E、田中貴金属社製)を用いること以外はアノード極用の触媒ペーストと同様にして、カソード極203用の触媒ペーストを作製した。
【0100】
ついで、片面に撥水性を有する多孔質層が形成されたカーボンペーパー(25BC、SGL社製)を縦23mm、横28mmに切断した後、その多孔質層上に、上記のアノード極用の触媒ペーストを触媒担持量が約3mg/cm2となるように、縦22mm、横27mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、アノードガス拡散層であるカーボンペーパー上の中央にアノード触媒層が形成された、厚み約100μmのアノード極202を作製した。また、同じサイズのカーボンペーパーの多孔質層上に、上記のカソード極用の触媒ペーストを触媒担持量が約1mg/cm2となるように、縦22mm、横27mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、カソードガス拡散層であるカーボンペーパー上の中央にカソード触媒層が形成された、厚み約50μmのカソード極203を作製した。
【0101】
次に、厚み約175μmのパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜(ナフィオン(登録商標)117、デュポン社製)を縦23mm、横28mmに切断して電解質膜201とし、上記アノード極202と電解質膜201と上記カソード極203をこの順で、それぞれの触媒層が電解質膜に対向するように重ね合わせた後、130℃、2分間の熱圧着を行ない接合した。上記重ね合わせは、アノード極202とカソード極203の電解質膜面内における位置が一致するように、かつアノード極202と電解質膜201とカソード極203の中心が一致するように行なった。ついで、得られた積層体の外周部を切断することにより、縦22mm、横27mmの膜電極複合体210を得た。
【0102】
(2)集電層の接合
縦22mm、横27mm、厚み100μmのステンレス板(NSS445M2、日新製鋼社製)を用意し、この中央領域に、開孔径φ0.6mmである複数の開孔(開孔パターン:千鳥60°ピッチ0.8mm)を、フォトレジストマスクを用いたウェットエッチングにて両面から加工することにより、厚み方向に貫通する貫通孔を複数備えるステンレス板を2枚作製し、これらをアノード集電層204およびカソード集電層205とした。
【0103】
次に、上記アノード集電層204をアノード極202上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着剤層を介して積層するとともに、カソード集電層205をカソード極203上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着剤層を介して積層し、これらを熱圧着により接合した。アノード集電層204およびカソード集電層205は、それらの開孔が形成された領域がそれぞれアノード極202、カソード極203の直上に配置されるように積層した。
【0104】
(3)介在層の作製
介在層220の第2層222として、図10に示したような縦25mm、横27mm、厚み0.1mmのポリフッ化ビニリデンからなる多孔質フィルム(MILLIPORE製のデュラポアメンブレンフィルター)を用いた。この多孔質フィルムが有する細孔の最大細孔径は0.1μmであり、またJIS K 3832に準拠したバブルポイントは、測定媒体をメタノールとしたとき、115kPaであった。
【0105】
図10に示されるように、第2層222は、「穴群A」(点線枠で囲まれた領域に含まれる5個)と記した厚み方向に貫通する貫通穴222a(内径1.0mm)と、「穴群B」(他の点線枠で囲まれた領域に含まれる12個)と記した厚み方向に貫通する貫通穴222b(内径1.0mm)とを有している。貫通穴222aは、第2層222の下に配置されるアノードセパレータ206の燃料流路208内に液体燃料が入る際、燃料流路208内に存在する空気を抜くための穴である(空気を抜くことにより液体燃料が入る)。貫通穴222aを設けると、第2層222が完全に燃料で濡れた後も燃料流路208内の空気を抜くことが可能であるため、燃料流路208に空気が滞留することはなく、燃料流路208内は常に液体燃料で満たされることになる。なお、膜電極複合体210は、この貫通穴222a上には配置されないため、アノード極202で生じた副生ガスが貫通穴222aを通って燃料流路208内に侵入することはない。一方、貫通穴222bは、副生ガスを燃料電池外に排出するための貫通穴であり、後述するアノードセパレータ206が有する貫通穴206aの直上に配置される。すなわち、貫通穴222bとこれに接続される貫通穴206aとにより副生ガス排出経路が構成される。
【0106】
また、介在層220の第1層221(気液分離層)として、図11に示したような縦25mm、横27mm、厚み0.2mmのポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルム(日東電工(株)製の「テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕NTF2122A−S06」)を用いた。この多孔質フィルムのJIS K 3832に準拠したバブルポイントは、測定媒体をメタノールとしたとき、18kPaであった。
【0107】
上記第2層222上に第1層221を積層し(図10、11のA−A’面が一致するように積層)、すべての側面の層境界部を接着剤で接合して介在層220を作製した。
【0108】
(4)アノードセパレータと介在層との接合
図12に示したような、一方の面に幅1.0mm、深さ0.4mmの流路溝(燃料流路208)が5本形成され、さらに内径1.0mmの貫通穴206aが図示される位置に合計12個形成された縦30mm、横27mm、厚み0.6mmのアノードセパレータ206を用意した。このアノードセパレータ206は、燃料流路208の側方に、流路の一部として燃料マニホールド230(5本の分岐流路を接続する幹流路)を構成する凹部を備えたものである。介在層220の第2層222側がアノードセパレータ側になるよう、ポリオレフィン系接着剤を介してアノードセパレータ206の流路形成面上に介在層220を積層させた後(図10〜12のA−A’面が一致するように積層)、熱圧着を行なうことにより、介在層220とアノードセパレータ206とを接合した。第2層222の貫通穴222b(穴群B)は、アノードセパレータ206の貫通穴206aの直上に配置されている。
【0109】
(5)直接アルコール型燃料電池の作製
集電層付き膜電極複合体の長辺側端面が、アノードセパレータ−介在層接合体のA−A’面と重なるように集電層付き膜電極複合体を介在層220上に積層した。次に、集電層付き膜電極複合体、介在層220およびアノードセパレータ206の両側面(燃料流路208に平行な側面)に、マスクを用いて、エポキシ樹脂を含有する塗布液を塗布し硬化させることにより、エポキシ樹脂からなる封止層で被覆した。これにより、燃料電池外部から燃料極に空気が入ったり、燃料が燃料電池外部へ漏れたりすることを防ぐことができる。また、集電層付き膜電極複合体および介在層220の燃料マニホールド側端面に、エポキシ樹脂を塗布して硬化させることにより、封止層(燃料侵入防止層)を形成した。最後に、厚み方向に貫通する開口(燃料タンクからの配管接続用)を備えた蓋筐体を燃料マニホールド230上に配置することにより、直接アルコール型燃料電池を得た。
【0110】
(6)直接アルコール型燃料電池システムの作製
作製した直接アルコール型燃料電池を燃料電池部101として用い、図1と同様の構成の燃料電池システムを作製した。具体的には次のとおりである。
【0111】
燃料供給部102としての送液ポンプ(燃料タンクに接続されている)およびシリコーンゴム製の配管を燃料電池部101のアノードセパレータ206にアルコール燃料を供給できるように接続するとともに、酸化剤供給部103としてのブロアを、燃料電池部101のカソード極203に空気を供給できるようにカソード集電層205に対向して配置した。検出部104として、直接アルコール型燃料電池の膜電極複合体210近傍に温度センサを設置するとともに、電流計および電圧計を、アノード集電層204およびカソード集電層205に接続した(電流計は燃料電池に対して直列、電圧計は燃料電池に対して並列に接続)。また、制御部105としてのパーソナルコンピュータを検出部104に接続して検出部104からの電気信号を受信可能にするとともに、燃料供給部102に接続して、検出部104からの情報に基づき燃料供給部102に制御情報を送信可能とした。単位時間当たりの温度変化量ΔTは、検出部104で計測した温度を、制御部105にて演算処理することで、算出した。
【0112】
アノードセパレータ206に送液ポンプにて燃料としてのメタノール水溶液(濃度15mol/L)を、カソード極203にブロアにて空気を供給して、得られた燃料電池システムを図5に示される制御フローに従って稼動させた。この際、ステップS501では、下記式:
Q〔μmol/s〕=1.73×I〔A〕+0.02×T(℃)
に従って燃料の供給量Qを決定し、メタノール水溶液の供給量が供給量Qとなるように送液ポンプの駆動量を制御した。また、ステップS503〜504における温度T、温度Tの変化量ΔTの所定値x、y、x’、y’はそれぞれ、x=35℃、y=45℃、x’=−1℃/min、y’=+1℃/minに設定した。
【0113】
図5に示される制御フローを繰り返し行ないながら、取り出し電流0.5A(100mA/cm2)にて1時間30分発電を続けたところ、発電開始30分後から1時間30分後までの1時間における直接アルコール型燃料電池の温度の変化範囲は38〜42℃であり、出力電圧値の変化範囲は0.3〜0.35Vであった。
【0114】
<実施例2>
図3に示される制御フローに従って実施例1で作製した直接アルコール型燃料電池システムを稼動させた。この際、ステップS301では、下記式:
Q〔μmol/s〕=1.73×I〔A〕+0.02×T(℃)
に従って燃料の供給量Qを決定し、メタノール水溶液の供給量が供給量Qとなるように送液ポンプの駆動量を制御した。
【0115】
図3に示される制御フローを繰り返し行ないながら、取り出し電流0.5A(100mA/cm2)にて1時間30分発電を続けたところ、発電開始30分後から1時間30分後までの1時間における直接アルコール型燃料電池の温度の変化範囲は38〜46℃であり、出力電圧値の変化範囲は0.27〜0.33Vであった。
【0116】
<実施例3>
図4に示される制御フローに従って実施例1で作製した直接アルコール型燃料電池システムを稼動させた。この際、ステップS401では、下記式:
Q〔μmol/s〕=1.73×I〔A〕+{2−I[A]}×0.01×T(℃)
に従って燃料の供給量Qを決定し、メタノール水溶液の供給量が供給量Qとなるように送液ポンプの駆動量を制御した。
【0117】
図4に示される制御フローを繰り返し行ないながら、取り出し電流0.5A(100mA/cm2)にて1時間30分発電を続けたところ、発電開始30分後から1時間30分後までの1時間における直接アルコール型燃料電池の温度の変化範囲は38〜44℃であり、出力電圧値の変化範囲は0.29〜0.34Vであった。
【0118】
<比較例1>
制御部105を、電流値Iのみに基づいて供給量Qを決定し、メタノール水溶液の供給量がこの供給量Qとなるように燃料供給部102を制御できる構成とした(すなわち、温度センサと制御部105とを接続しなかった)こと以外は実施例1と同様にして直接アルコール型燃料電池システムを作製した。
【0119】
アノードセパレータ206に送液ポンプにて燃料としてのメタノール水溶液(濃度15mol/L)を、カソード極203にブロアにて空気を供給して、得られた燃料電池システムを実施例1と同様にして稼動させた。ただし、ステップS501では、下記式:
Q〔μmol/s〕=1.73×I〔A〕
に従い、電流値Iのみに基づいて燃料の供給量Qを決定し、メタノール水溶液の供給量が供給量Qとなるように送液ポンプの駆動量を制御した。また、ステップS502〜504は実施しなかった。
【0120】
このような制御フローを繰り返し行ないながら、取り出し電流0.5A(100mA/cm2)にて1時間30分発電を続けたところ、発電開始30分後から1時間30分後までの1時間における直接アルコール型燃料電池の温度の変化範囲は33〜42℃であり、出力電圧値の変化範囲は0.20〜0.33Vであった。
【符号の説明】
【0121】
100,600 燃料電池システム、101 燃料電池部、102 燃料供給部、103 酸化剤供給部、104 検出部、105 制御部、200,200’ 直接アルコール型燃料電池、201 電解質膜、202 アノード極、203 カソード極、204 アノード集電層、205 カソード集電層、206 アノードセパレータ、206a 貫通穴、207 カソードセパレータ、208 燃料流路、209 酸化剤ガス流路、210 膜電極複合体、220 介在層、221 第1層、222 第2層、222a,222b 貫通穴、230 燃料マニホールド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極、電解質膜およびカソード極をこの順で備える直接アルコール型燃料電池を含む燃料電池部と、
前記アノード極にアルコール燃料を供給するための燃料供給部と、
前記直接アルコール型燃料電池のアノード極とカソード極との間を流れる電流値Iもしくは前記直接アルコール型燃料電池の出力電圧値V、ならびに、前記直接アルコール型燃料電池の温度Tを検出するための検出部と、
前記電流値Iもしくは前記出力電圧値V、ならびに、前記温度Tの検出結果に基づいて前記アノード極へのアルコール燃料の供給量Qを決定し、アルコール燃料の供給量が前記供給量Qとなるように前記燃料供給部を制御するための制御部と、
を備える直接アルコール型燃料電池システム。
【請求項2】
前記検出部は、単位時間当たりの前記温度Tの変化量ΔTをさらに検出できるものであり、
アルコール燃料の供給量が前記供給量Qとなるように前記燃料供給部が制御された後に検出される前記温度Tまたは前記変化量ΔTの少なくともいずれかが所定の範囲内にない場合には、前記温度Tおよび前記変化量ΔTが前記所定の範囲内となるように、前記制御部は、前記燃料供給部がアルコール燃料の供給量を前記供給量Qから変更するように制御する請求項1に記載の直接アルコール型燃料電池システム。
【請求項3】
前記カソード極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤供給部をさらに備え、
前記検出部は、単位時間当たりの前記温度Tの変化量ΔTをさらに検出できるものであり、
前記制御部は、前記酸化剤供給部によるカソード極への酸化剤ガスの供給量の調整をさらに制御できるものであり、
アルコール燃料の供給量が前記供給量Qとなるように前記燃料供給部が制御された後に検出される前記温度Tまたは前記変化量ΔTの少なくともいずれかが所定の範囲内にない場合には、前記温度Tおよび前記変化量ΔTが前記所定の範囲内となるように、前記制御部は、前記燃料供給部がアルコール燃料の供給量を前記供給量Qから変更するように制御するか、および/または、前記酸化剤供給部が酸化剤ガスの供給量を変更するように制御する請求項1に記載の直接アルコール型燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、下記式[1]:
Q=a1×I+F(T) [1]
(式中、a1は正数であり、F(T)はdF(T)/dT>0を満足する温度Tの関数である。)、または、下記式[2]:
Q=F’(V)+F(T) [2]
(式中、F’(V)はdF’(V)/dV<0を満足する出力電圧値Vの関数であり、F(T)はdF(T)/dT>0を満足する温度Tの関数である。)
に従ってアルコール燃料の供給量Qの決定を行なう請求項1〜3のいずれかに記載の直接アルコール型燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御部は、下記式[3]:
Q=a2×I+F(T,I) [3]
(式中、a2は正数であり、F(T,I)はdF(T,I)/dT>0およびdF(T,I)/dI<0を満足する温度Tおよび電流値Iの関数である。)、または、下記式[4]:
Q=F’(V)+F(T,V) [4]
(式中、F’(V)はdF’(V)/dV<0を満足する出力電圧値Vの関数であり、F(T,V)はdF(T,V)/dT>0およびdF(T,V)/dV>0を満足する温度Tおよび出力電圧値Vの関数である。)
に従ってアルコール燃料の供給量Qの決定を行なう請求項1〜3のいずれかに記載の直接アルコール型燃料電池システム。
【請求項6】
前記アルコール燃料がメタノールまたはその水溶液であり、前記酸化剤ガスが空気である請求項1〜5のいずれかに記載の直接アルコール型燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−8498(P2013−8498A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139256(P2011−139256)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】