説明

直接メタノール燃料電池用燃料カートリッジ内の燃料組成物

直接メタノール燃料電池用の燃料混合物を開示する。当該燃料は、メタノール、及び水と反応してメタノールや容易に電解酸化され得る他の化合物を生成するところの、ジメチルオキシメタン、オルトギ酸メチル、オルトカルボン酸テトラメチル、ホウ酸トリメチル、及びオルトケイ酸テトラメチルをはじめとする添加剤を含む。燃料電池の安全性及び効率を高める他の添加剤には、スルホン化された活性炭、並びにLiAlH、NaBH、LiBH、(CHNHBH、NaAlH、B、NaCNBH、CaH、LiH、NaH、KH及びビス(2−メトキシエトキシ)ジヒドリドアルミン酸ナトリウムなどの金属水素化物が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、直接メタノール燃料電池、当該燃料電池を用いた発電方法、並びに直接メタノール燃料電池(DMFC)用の燃料組成物、当該燃料への添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料分子及び酸素が関与する電気化学反応を利用して電気を生成する装置である。メタノールは、その高い比エネルギー並びにそれが酸化されて電気を生成する際の相対的に速い動電学的特性に起因して、幾つかの用途においては、魅力的な燃料の選択肢である。
【0003】
直接酸化燃料電池では、膜電極アセンブリ(MEA)の燃料極面に、炭素質の液体燃料(典型的にメタノール若しくはメタノール水溶液)が導入される。当業者であれば、メタノール若しくはメタノール/水燃料に、エタノール、他のアルコール及びアルコール前駆体、並びにそれらの水溶液などの他の化合物や混合物を添加して燃料として利用し得ることは理解されよう。
【0004】
DMFCの例としては、同一出願人による、2003年4月15日付けの第10/413,986号に開示されている、燃料の供給を調節可能な蒸気供給燃料電池システム(Vapor Feed Fuel Cell System with Controllable Fuel Delivery)、並びに2003年4月15日付けの第10/413,983号の、受動的な水管理下で濃縮燃料を直に供給して運転される直接酸化燃料電池(Direct Oxidation Fuel Cell Operating with Direct Feed of Concentrated Fuel under Passive Water Management)が挙げられ、それらの開示内容は、参照することでここに取り入れることとする。
【0005】
燃料電池や燃料電池から電力を供給される装置への燃料補給法は、同一出願人による、2003年4月15日付けの第10/607,699号の、燃料電池から電力供給される装置に燃料補給する方法(Methods of Providing Refueling for Fuel Cell Powered Devices)に開示されており、参照することでその開示内容をここに取り入れることとする。
【0006】
メタノール、CHOH(CAS No.67−56−1)は、吸飲したり、経皮吸収されたり、飲み込んだりすると、有毒であり死に至らしめるような、透明で、無色の、可燃性液体若しくは蒸気である。メタノールの引火点は11℃であり、464℃にて自己着火する。着火されれば、約6〜約36体積%の空気中濃度で燃焼する。メタノールは、可燃性液体分類3、国連番号1230であり、メタノールの輸送は、米国運輸省及び国際民間航空機関により規制される。現在では、メタノールの輸送は、飛行機の乗客区画及び機内持ち込み手荷物に関しては禁止されている。現在の運輸省の規則では、24%のメタノール水溶液はさほど危険ではないと提示しているが、国際民間航空機関の規則では、そのような但し書きは何ら設けられていない。
【0007】
小型電子機器におけるDMFCの使用が増えれば、メタノールをそれぞれ含む多数の燃料電池が広範な環境及び状況において公共にさらされるであろう。
【0008】
直接メタノール燃料電池の燃料極区画内に配置され且つ高濃度のメタノール溶液若しくは純メタノールを収容する燃料カートリッジ又は燃料タンクは、燃料電池の電極反応で生じた水を吸収したり、保持したりする。当該タンク若しくはカートリッジ内の高濃度メタノール溶液若しくは純メタノールを電池燃料極と分離する膜は、メタノール供給膜又はフィルムと呼ばれる。当該メタノール供給膜を横切っての水の吸収は、電池電極と高濃度メタノール溶液若しくは純メタノールとの間の水の濃度差や活性の差により起こる。燃料カートリッジや燃料タンク内に水が取り込まれた結果、燃料タンクやカートリッジ内部では、水によりメタノールが希釈される。これは、メタノール濃度を低下させ、そして膜中のメタノール輸送速度、それ故、電池燃料極へのメタノール供給速度の低下を引き起こす。その結果、カートリッジ寿命中に、燃料電池の電力出力は低下する。さらに、燃料電池への電力要求は一定ではなく、多くの用途において、回路を閉じて機器を始動する際には電力サージが要求される。水に対してメタノールの輸送に高度に選択性を示す膜を用いることによって、水の取込は或る程度まで低下させることができるものの、水の取り込みを完全に排除することは、現在市販されている材料を利用する場合は実現が困難である。之に関し、所与の条件下で燃料電池システムの有効性を改善するために、燃料に特定の化合物を添加することが効果的であり、望ましい場合があることを見出した。
【0009】
携帯型電子機器用の直接酸化燃料電池システムは、要求される電力出力において、できる限り小さくあるべきである。電力出力は、燃料電池の燃料極及び空気極において起こる反応の速度に左右される。より詳細には、ポリパーフルオロスルホン酸及び類似の高分子電解質をはじめとする酸性電解質を利用する直接メタノール燃料電池における燃料極プロセスは、メタノール1分子と水1分子との反応を伴う。このプロセスでは、水分子は、以下の電気化学反応式に従って、6電子プロセスにおいて、最終生成物であるCO2へとメタノールを酸化させるために消費される。
【0010】
(1) CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e-
燃料極プロセスでは、水は分子比1:1(水:メタノール)での反応物であるため、メタノールと共に、適切な重量(又は容積)比にて水を燃料極に供給することが、電池における当該プロセスを維持するために重要である。実際、DMFCの燃料極における水:メタノールのモル比は、プロセス(1)で示される量論比1:1よりも著しく高くなければならないことが知られている。この超過量は、以下の式(2)及び(3)に記載のギ酸やホルムアルデヒドへの部分酸化、それぞれ4e-及び2e-プロセス、ではなくて、CO2への完全な6電子燃料極酸化を保証するために必要となる。
【0011】
(2) CH3OH + H2O → HCOOH + 4H+ + 4e-
(3) CH3OH → H2CO + 2H+ + 2e-
式(2)及び(3)は、望ましくない副次的なプロセスを表し、それらは、電池の定常運転時の燃料極含水量が十分でない場合に起こり得る。特に、メタノールの部分酸化を伴うプロセス(3)では、当該燃料極プロセスには水は必要とされないため、燃料極における水レベルがあるポイントを下回ると当該プロセスが支配的となり得る。プロセス(3)が支配的となると、プロセス(1)によるメタノール消費と比較して、メタノールのエネルギー生成は、実に約66%も低下し、電池の低い電気エネルギー出力に帰着する。また、有害の燃料極生成物(ホルムアルデヒド)の生成にもつながる。
【0012】
米国特許第6,554,877号には、含水素無機化合物であるところの補助的燃料と共に希釈メタノール水溶液を含む、電気化学燃料電池用の液体燃料組成物が開示されている。
【0013】
米国特許第5,904,740号には、メタノール及びギ酸を含んで成る燃料電池用の燃料が開示されており、それは、実質的に鉱産を含んでいない。
【0014】
米国特許第5,599,638号には、任意に添加剤を含む、燃料電池用のメタノール水溶液が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の1つの目的は、上記問題を克服して、燃料電池システムの寿命の延長並びにエネルギー密度や電力出力の向上をもたらすところの、DMFC用の濃縮燃料(即ち、少なくとも1:1のメタノール:水比にて燃料を含有する燃料)及び燃料添加剤を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、水と反応することで、電池燃料に適したメタノールをはじめとする炭化水素を生成するところの有機化合物を含有する燃料を提供することである。本態様では、当該燃料混合物は、燃料電池の燃料極面から当該燃料混合物へと送られた水と反応することにより、燃料電池燃料極への確実な燃料供給を改善することができる。そうすることにより、より一定の燃料混合物が燃料電池システムへと供給されることになり、燃料が消費される際の電池の電力出力の一定性が改善される。さらに、燃料混合物内には、好ましくは、ほとんど又は全く水が無いため、これらの燃料混合物は、直接酸化燃料電池システム用の他の燃料の場合よりも、安定である。
【0017】
本発明の他の目的は、燃料供給の一定性を改善することで、燃料供給の有効寿命の終期近くでの、低電力出力期間を短くしたり無くしたりすることである。
【0018】
本発明のさらに他の利点は、たとえ安全に処分するには高すぎる濃度のメタノールがカートリッジに含まれていても、許容し得る電力を与える供給速度をもたらすにはメタノール濃度が低すぎるためにカートリッジが空であるとユーザが認識する際に、不適切に処分されたカートリッジからのメタノール燃料の放出の可能性が低下したり排除されることである。
【0019】
本発明の他の目的は、燃料カートリッジからのメタノール燃料の放出があったことを人に知らせるような指示剤を燃料中に含有させることによって、DMFCの安全性の向上をもたらすことである。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、燃料カートリッジから燃料電池システムへの燃料供給の改善を実現することによって、改善された燃料電池パワーパックのエネルギー容量を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記及び他の目的は、ここに記載する燃料添加剤組成物及び燃料調合物により達成される。
【0022】
本発明の一態様では、燃料は、高濃度の、好ましくは無水メタノール溶液である。燃料の他の構成成分には、水と迅速に反応して、燃料電池で迅速且つ容易に酸化されるメタノール及び他の化合物を生成するところの有機分子が含まれる。メタノールに添加することのできる分子の例として、ジメチルオキシメタン、オルトギ酸メチル、オルトカルボン酸テトラメチル、ホウ酸トリメチル、及びオルトケイ酸テトラメチルが挙げられる。
【0023】
本発明の他の態様では、LiAlH、NaBH、LiBH、(CHNHBH、NaAlH、B、NaCNBH、CaH、LiH、NaH、KH及びビス(2−メトキシエトキシ)ジヒドリドアルミン酸ナトリウムなどの金属水素化物のような、含水素無機化合物を添加する。
【0024】
本発明の他の態様では、燃料電池がメタノール燃料を放出したことについて、視認できる指示を与える指示剤を提供する。当該指示剤の例として、低濃度の活性炭ブラック、及び例えば有色の官能基をはじめとする官能基を有する高分子が挙げられる。また、限定はしないが、安息香酸デナトニウムなどの苦味のある化合物をはじめとする、燃料混合物の存在を指示する能力を向上させる他の特性を付与する添加剤を燃料混合物に添加することができる。
【0025】
本発明の他の態様では、添加剤並びに上記種類の添加剤の幾つかから成る添加剤混合物を、燃料電池において有利にメタノールと組み合わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次いで、本発明の例示的実施形態を記載する。
【0027】
純メタノールに添加剤を混合して、DMFC用の燃料を形成する。当該燃料は、燃料タンクあるいは燃料カートリッジ、又はカートリッジに燃料を補給するのに適したパッケージ内に貯蔵することができる。
【0028】
或る場合には、添加剤は、水と迅速に反応する1つ又は複数の化合物を含む。好ましくは、それらの化合物は、水と反応して、容易に電解酸化され得るメタノール若しくは他の低分子を生成する。これらの好ましい化合物を用いることによって、燃料混合物内の当該添加剤に起因して、燃料のエネルギー容量は低下しない。添加剤を純メタノールと混合する際には、当該燃料混合物は、燃料電池の運転中、燃料タンクに侵入する水と反応してさらに燃料を生成するため、燃料タンク内の水濃度を低く保つであろう。その結果、カートリッジの使用寿命期間の全体にわたって、電池燃料極への一定のメタノール供給速度を達成することができる。
【0029】
以下は、燃料前駆体を含む燃料組成物の例であり、前駆体を燃料分子へと分解する反応を示すものである。
1. MeOH及びジメチルオキシメタン燃料混合物
ジメチルオキシメタンと水との反応を以下に記載する。
【0030】
CH3OCH2OCH3 + H2O = 2CH3OH + H2CO
2. MeOH及びオルトギ酸メチル燃料混合物
オルトギ酸メチルと水との反応を以下に記載する。
【0031】
(CH3O)3CH + 2H2O = 3CH3OH + HCOOH
3. MeOH及びオルトカルボン酸テトラメチル燃料混合物
オルトカルボン酸テトラメチルと水との反応を以下に記載する。
【0032】
(CH3O)4C + 3H2O = 4CH3OH + CO2
4. MeOH及びホウ酸トリメチル燃料混合物
ホウ酸トリメチルと水との反応を以下に記載する。
【0033】
(CH3O)B + 3H2O =3CH3OH + B(OH)3
5. MeOH及びオルトケイ酸テトラメチル燃料混合物
オルトケイ酸テトラメチルと水との反応を以下に記載する。
【0034】
(CH3O)4Si + 4H2O = 4CH3OH + Si(OH)4
表1に、添加剤の物性及び燃料混合物のエネルギー密度を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
有用な燃料組成物は、純メタノール若しくは他の燃料と混合される1つ又は複数の添加剤を有利に含有する。加水分解反応を触媒するために酸が必要とされる場合、Pのような酸又はプロトン形態のNafion膜のような固体高分子酸を用いることができる。固体高分子酸の場合には、当該膜はまた、電池燃料極にメタノール燃料を供給するためのメタノール供給膜として機能させるために用いることもできる。
【0037】
燃料組成物は、直接メタノール燃料電池システムにおいて使用するにあたり、所望のメタノール供給膜の水の取り込み速度並びに燃料/燃料前駆体比に応じて調節することができ、その場合、燃料タンクからのメタノールの供給は、膜を介するメタノール輸送により達成される。
【0038】
例えば、メタノール供給膜にポリウレタン膜を用いる際には、典型的に、電池燃料極に供給されるメタノール1分子当たり、およそ0.4〜0.45分子の水がタンクに侵入する。メタノール供給膜にポリジメチルシラン(PDMS又は一般的なシリコン)膜を用いる際には、典型的に、水の取り込みは、0.2HO/MeOHである。従って、燃料カートリッジに侵入した水が燃料添加剤との加水分解反応によって消費されるように、より好ましくは実質的に又は完全に消費されるように、また、カートリッジ使用寿命の終期において、最小限の量の燃料と燃料前駆体とが残るように、燃料組成物を調合する。
【0039】
表2に、PDMS膜を用いる際の燃料組成物を示す。
【0040】
【表2】

【0041】
当然、これらの何れも、また、水と反応して電池用燃料を生成する他の化合物を用いることができる。2つ以上の前駆体の混合物を有利に用いることができる。燃料混合物は、0から30.41体積%より多くの量までのジメチルオキシメタン、即ち、約15体積%のジメチルオキシメタン及び約8体積%のオルトケイ酸テトラメチルを含有することができる。任意の組み合わせの燃料前駆体を利用することができる。通常、燃料に侵入した水が完全に消費されるのを保証するために、すこし過剰の前駆体を添加することが好ましい。
【0042】
電池への電力要求が高い場合に持続的な電力出力をもたらすために、LiAlH、NaBH、LiBH、(CHNHBH、NaAlH、B、NaCNBH、CaH、LiH、NaH、KH及びビス(2−メトキシエトキシ)ジヒドリドアルミン酸ナトリウムなどの金属水素化物もまた、メタノール燃料に添加することができる。ヒドラジン若しくはヒドラジン誘導体もまた適している。高い還元電位を有するこれらの含水素無機化合物は、燃料電池のための優れた燃料であるが、非常に反応性が高い。これらの化合物からの水素の放出は、特に燃料電池が高温で運転され且つ水が燃料混合物内に存在する場合に、燃料電池の運転により生じる熱により開始される。回路が閉じた際に要求される電力サージや混合物の安定性などの具体的な技術的事項によって、燃料中の含水素無機化合物の濃度を決定する。この計算は、当業者の技術の範囲内である。
【0043】
以下は、金属水素化物の使用例である。
【0044】
LiAlH燃料添加剤
水素化リチウムアルミニウムの加水分解反応は、以下の反応に従って起こる。
【0045】
LiAlH4 + 4H2O = 4H2 + LiOH + Al(OH)3
燃料供給膜にPDMS膜を用いる場合、供給されるメタノール1分子当たり、0.2分子の水が燃料カートリッジに侵入するであろう。この量の水を消費するためには、完全な反応を仮定すると、最小限0.05モルのLiAlHが必要となる。燃料組成物内のLiAlH/MeOHのモル/モル比は0.05であり、即ち、5.6wt%である。メタノール供給膜としてポリウレタン膜を用いる場合には、供給されるメタノール1分子当たり、0.45モルの水が燃料カートリッジに侵入し、当該水を消費するためには、最小限0.1125モルのLiAlHが必要となる。燃料組成物内のLiAlH/MeOHのモル/モル比は0.1125であり、即ち、11.8wt%である。
【0046】
NaBH燃料添加剤
テトラヒドリドホウ酸ナトリウムの加水分解反応は、以下の反応に従って起こる。
【0047】
NaBH4 + 2H2O = 4H2 + NaBO2
燃料供給膜にPDMS膜を用いる場合、供給されるメタノール1分子毎に、0.2モルの水が燃料カートリッジに侵入し、当該水を消費するためには、完全な反応を仮定すると、最小限0.1モルのNaBHが必要となる。燃料組成物内のNaBH/MeOHのモル/モル比は0.1であり、即ち、10.6wt%である。メタノール供給膜にポリウレタン膜を用いる場合には、供給されるメタノール1分子毎に、0.45モルの水が燃料カートリッジに侵入し、当該水を消費するためには、最小限0.225モルのNaBHが必要となる。燃料組成物内のNaBH/MeOHのモル/モル比は0.225であり、即ち、21.0wt%である。
【0048】
CaH燃料添加剤
水素化カルシウムの加水分解反応は、以下で表される。
【0049】
CaH2 + 2H2O = 2H2 + Ca(OH)2
燃料供給膜にPDMS膜を用いる場合、供給されるメタノール1分子毎に、0.2モルの水が燃料カートリッジに侵入し、当該水を消費するためには、最小限0.1モルのCaHが必要となる。燃料組成物内のCaH/MeOHのモル/モル比は0.1であり、即ち、11.6wt%である。メタノール供給膜にポリウレタン膜を用いる場合には、供給されるメタノール1分子毎に、0.45モルの水が燃料カートリッジに侵入し、当該水を消費するためには、最小限0.225モルのCaHが必要となる。燃料組成物内のCaH/MeOHのモル/モル比は0.225であり、即ち、22.8wt%である。
【0050】
NaH燃料添加剤
水素化ナトリウムの加水分解反応は、以下の反応に従って起こる。
【0051】
NaH + H2O = H2 + NaOH
燃料供給膜にPDMS膜を用いる場合、供給されるメタノール1分子毎に、0.2モルの水が燃料カートリッジに侵入し、当該水を消費するためには、最小限0.2モルのNaHが必要となる。燃料組成物内のNaH/MeOHのモル/モル比は0.2であり、即ち、13.0wt%である。メタノール供給膜にポリウレタン膜を用いる場合には、供給されるメタノール1分子毎に、0.45モルの水が燃料カートリッジに侵入し、当該水を消費するためには、最小限0.45モルのNaHが必要となる。燃料組成物内のNaH/MeOHのモル/モル比は0.45であり、即ち、25.2wt%である。
【0052】
当然、具体的用途に必要性に応じて、2つ以上の金属水素化物を混合物として用いることができる。さらに、金属水素化物を燃料前駆体と組み合わせることで、所望の用途において最適な特性を有する混合物を作ることができる。
【0053】
0.1wt%未満の範囲の少量の染料を燃料に添加して、無色の燃料に警告色を顕示させることができる。燃料電池システムの用途に応じて、任意の色を用いることができる。例として、ダークブラックやディープブルーなどの、燃料に際立った相違を与える特定の色が好ましい。こうして他と区別されるように着色された燃料混合物は、燃料カートリッジから放出した際には容易に識別することができる。濃い色の燃料は視認でき、それによって、より簡単に検出されるようになり、燃料が食品や飲料品と混合した場合の、故意でない摂取を防止する。また、色を選択することで、燃料及び燃料前駆体の存在を指示する物質識別子として機能させることができる。
【0054】
燃料電池用途では、カートリッジからの燃料の放出は、燃料カートリッジが燃料電池電力装置内に装填される際にのみ起こるように意図される。好ましくは、燃料混合物と燃料電池燃料極区画との間に選択膜を配置して、燃料電池の燃料極に実質的に全ての添加剤が導入されることを防止しつつ、その中を通して燃料を電池燃料極区画へと到達させることができる。この目的のためには、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリジメチルオキシシラン、酢酸セルロースあるいは種々のブレンドコポリマーのような利用し得る膜材料を用いて、染料分子に対する燃料の選択性が高くなるように、染料(又は他の添加剤)は比較的大きい分子から成ることが好ましい。
【0055】
分子量の大きい染料の一例は、高表面積のカーボンブラック粉末であり、Cabot CorporationのBlack Pearls 2000カーボンブラックを用いることができる。燃料液体中でのカーボンブラック粒子の分散を促進するために、カーボンブラック粒子の表面は、表面スルホン化などのように修飾することができる。カーボン表面のスルホン化反応は、200〜250℃にて濃硫酸と共にカーボンを加熱することによって、又は200℃にて2時間、発煙硫酸と共にカーボンを加熱することによって実施することができる。スルホン酸基によって、カーボンは、メタノール水混合物や純メタノール中において容易に拡散するようになる。修飾カーボンの量は、全燃料重量の0.1%未満というようにかなり小さく、スルホン酸基はまた、燃料液体中に存在するであろう移動性カチオンを捕捉するカチオン交換サイトとしても機能する。燃料からカチオンを除去することによって、燃料電池へのカチオンによるコンタミネーションの可能性が排除される。スルホン化された活性炭は、金属水素化物を含有する調合物において、有利に用いることができる。活性炭表面に結合しているスルホン酸基は、燃料中の金属イオンを捕捉することができる。
【0056】
着色剤は、添加剤が燃料電池の燃料極面に導入されないように、メタノール供給フィルムの組成並びに燃料カートリッジ及び/又は燃料電池システムの構成に基づいて選択することができる。
【0057】
同様に、当該混合物の摂取を防止するために、健康に害は及ぼさないが不快な味のする化合物を当該混合物に添加することができる。例えば、限定はしないが、約100ppmの安息香酸デナトニウムを添加することによって、燃料の摂取を防止することができる。当業者であれば、多数の添加剤を添加して、輝度、臭い、火炎減速及び燃料混合物に望まれる他の特性を付与又は向上させることによって、当該燃料混合物の操作性や安全性を高めるように特定の特性をもたらすことができることは理解されよう。
【0058】
これまでに記載した例示的実施形態によって、本方法の概要は明らかになった。当業者であれば、過度の試行錯誤なく、開示した方法を改良したり、適用したりし得ることは理解されよう。例示的な実施形態の説明は、例示であり、限定するものではない。例示のために、本方法をこれまで詳細に説明してきた。当業者であれば、本発明の範囲内において、この特定の詳細例に対し変更をなすことができる。
【0059】
当業者にはまた、本発明の範囲内において、取り替え可能なカートリッジ以外の容器にも本発明の組成物を収容できることは理解されよう。
【0060】
有用な種類や範囲に関する記載には、当該種類に含まれる各構成要素や数値に関する別個の記載、並びにその中に含まれる従属的な種類や範囲の記載も包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール、及び
水と反応して、容易に電解酸化されるところの低分子を生成する有効量の添加剤、
を含んで成る、直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項2】
前記添加剤が、ジメチルオキシメタンである、請求項1に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項3】
前記燃料が、約20モル%のジメチルオキシメタンを含む、請求項2に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項4】
約0.1重量%未満の指示染料をさらに含む、請求項3に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項5】
前記指示染料が、スルホン化された活性炭粒子を含む、請求項4に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項6】
前記添加剤が、オルトギ酸メチルである、請求項1に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項7】
前記燃料が、約10モル%オルトギ酸メチルを含む、請求項6に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項8】
約0.1重量%未満の指示染料をさらに含む、請求項7に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項9】
前記指示染料が、スルホン化された活性炭粒子を含む、請求項8に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項10】
前記添加剤が、オルトカルボン酸テトラメチルである、請求項1に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項11】
前記燃料が、約10モル%のオルトカルボン酸テトラメチルを含む、請求項10に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項12】
約0.1重量%未満の指示染料をさらに含む、請求項11に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項13】
前記指示染料が、スルホン化された活性炭粒子を含む、請求項12に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項14】
前記添加剤が、ホウ酸トリメチルである、請求項1に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項15】
前記燃料が、約7モル%のホウ酸トリメチルを含む、請求項14に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項16】
約0.1重量%未満の指示染料をさらに含む、請求項15に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項17】
前記指示染料が、スルホン化された活性炭粒子を含む、請求項16に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項18】
前記添加剤が、オルトケイ酸テトラメチルである、請求項1に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項19】
前記燃料が、約5モル%のオルトケイ酸テトラメチルを含む、請求項18に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項20】
約0.1重量%未満の指示染料をさらに含む、請求項19に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項21】
前記指示染料が、スルホン化された活性炭粒子を含む、請求項20に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項22】
メタノール;及び
水と反応して、容易に電解酸化される低分子を生成するところの、ジメチルオキシメタン、オルトギ酸メチル、オルトカルボン酸テトラメチル、ホウ酸トリメチル、及びオルトケイ酸テトラメチルから成る群から選択される少なくとも1つの添加剤、
を含む、直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項23】
約0.1重量%未満の指示染料をさらに含む、請求項22に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項24】
前記指示染料が、スルホン化された活性炭粒子を含む、請求項23に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項25】
水と迅速に反応して、容易に電解酸化される低分子を生成するところの、ジメチルオキシメタン、オルトギ酸メチル、オルトカルボン酸テトラメチル、ホウ酸トリメチル、及びオルトケイ酸テトラメチルから成る群から選択される少なくとも1つの添加剤と、有効量の指示染料とから本質的に成る、直接メタノール燃料電池用の燃料添加剤。
【請求項26】
メタノール、及び
有効量の金属水素化物、
を含んで成る、直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項27】
メタノール;
水と反応して、容易に電解酸化される低分子を生成するところの有効量の添加剤;及び
有効量の金属水素化物、
を含んで成る、直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項28】
メタノール;及び
水と反応して、容易に電解酸化される低分子を生成するところの、ジメチルオキシメタン、オルトギ酸メチル、オルトカルボン酸テトラメチル、ホウ酸トリメチル、及びオルトケイ酸テトラメチルから成る群から選択される少なくとも1つの有効量の添加剤;及び
有効量の金属水素化物、
を含んで成る、直接メタノール燃料電池用の燃料。
【請求項29】
前記燃料に染料を添加するステップを包含する、燃料電池からの燃料漏れの検知を可能とする方法。
【請求項30】
前記染料が、スルホン化された活性炭粒子を含む、請求項29に記載の燃料電池からの燃料漏れの検知を可能とする方法。
【請求項31】
a)濃縮メタノール源を設けるステップ;及び
b)水と反応して、容易に電解酸化される低分子を生成するところの、ジメチルオキシメタン、オルトギ酸メチル、オルトカルボン酸テトラメチル、ホウ酸トリメチル、及びオルトケイ酸テトラメチルから成る群から選択される少なくとも1つの有効量の添加剤を添加するステップ、
を包含する、直接メタノール燃料電池用の燃料混合物を調製する方法。
【請求項32】
c)濃縮メタノール源を設けるステップ;及び
LiAlH、NaBH、LiBH、(CHNHBH、NaAlH、B、NaCNBH、CaH、LiH、NaH、KH及びビス(2−メトキシエトキシ)ジヒドリドアルミン酸ナトリウムから成る群から選択される少なくとも1つの有効量の金属水素化物を添加するステップ、
をさらに包含する、請求項30に記載の直接メタノール燃料電池用の燃料混合物を調製する方法。

【公表番号】特表2007−508443(P2007−508443A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535523(P2006−535523)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/032021
【国際公開番号】WO2005/040314
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(500476989)ザ ジレット カンパニー (7)
【Fターム(参考)】