説明

直接光学変換を有するアルデヒドのためのナノ多孔性物質

本発明は、少なくとも1つのアルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドの検出及び/または分析及び/または捕捉の方法であって、ガス流をナノ多孔性金属酸化物ゾル−ゲルマトリックスを含む物質と接触させる工程を含み、前記マトリックスがアルデヒド官能基と反応しうる少なくとも1つの反応性官能基を担持する少なくとも1つのプローブ分子を含むことを特徴とする方法に関する。本発明はまた、前記方法を実施するための物質、これを調製する方法、並びにこうした物質を組み込んだセンサーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば汚染された環境内でのアルデヒドの計測の分野、及び更に前記環境の汚染防止に関する。環境とは、少なくとも一つのアルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドによって汚染されたまたは未汚染の、屋外または屋内(例えば家庭内)の大気であってよい。
【0002】
とりわけ、本発明は少なくとも一つの気体アルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドと反応しうる新規な物質、及びゾル−ゲル調製方法に関する。
【0003】
本発明は更に、少なくとも1つの気体アルデヒド、特にホルムアルデヒドの、この物質の少なくとも一つの物理化学的特性の変化の測定に基づいて検出及び/または分析及び/または捕捉する方法に関する。
【0004】
本発明は、最後に、環境中のアルデヒドの計測のために利用可能な光学変換センサー中におけるこれらの新規な物質の使用、及び更に汚染防止を可能にする装置に関する。
【0005】
「アルデヒド」なる語は、好ましくはホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン、ペンタナール、ヘキサナール、及びベンズアルデヒドから選択される、末端カルボニル官能基を有するあらゆる有機分子を示す。
【背景技術】
【0006】
公害の概念が提起される場合、外気の公害を意味することが通常である。さらにまた、疫学的調査のほとんどが、公害と住居外で測定される汚染物質に関するのみである呼吸器系疾患の発現との相関関係を確立するために実施された。しかしながら、ほとんどの人が長時間を屋内で過ごす。したがって、内部の空気は、明らかに健康及び幸福の観点から特に重要と思われる。
【0007】
呼吸器系疾患の患者数の増加における、屋内環境の化学汚染物質の役割の可能性が研究によって言及されたのはつい最近のことである。
【0008】
アルデヒドは、最も多くある家庭内化学汚染物質の一つである。その発生源は非常に多数である。これらの発生源は、特に、メタンの光酸化等の戸外での生成に関連しうる。しかしながら、アルデヒドの放出にとっての主たる発生源は屋内に見られ、且つ非常に多岐に亘っている。
・チップボード、パーティクルボード、及び合板の製造に使用される樹脂及び接着剤;
・壁及び間仕切りへの注入により断熱材として使用される、尿素/ホルムアルデヒド断熱フォーム;及び
・布製カバー、壁紙、塗料、皮革等。
【0009】
ホルムアルデヒドは、消毒剤、及び乾燥剤でもある。こうした理由により、これは手術器具の滅菌のために病院環境において、及び更に防腐処理が行われる葬儀業界において、広く溶媒として使用される。
【0010】
ホルムアルデヒドは、非常に数多くの建造品及び様々な装置の製造に広く使用されているため、最も研究されているアルデヒドである。ホルムアルデヒドの放出は、温度及び湿度の条件により異なる。その刺激性の臭気には、人は低濃度(0.048乃至0.176ppmもしくは0.06ないし0.22mg/m3)でも気づく。
【0011】
ホルムアルデヒドへの暴露は、1乃至3ppmの濃度ではほとんどの人が経験する刺激を引き起こし、この刺激は濃度が上昇すると迅速に悪化するものである。ほとんどの個人が、4-5ppmでの長期の暴露には、実質的に耐えられない。10-20ppmでは、眼の粘膜及び気道の重篤な炎症の兆候が、暴露の開始時から見られる。僅かの間でも、ホルムアルデヒド濃度が50ppm超である環境にいると、呼吸器系の重篤な障害(急性肺水腫、気管及び気管支の潰瘍等)を引き起こしうる。長期的危険性のため、ホルムアルデヒドは国際癌研究機関によって発癌性と分類されている。
【0012】
こうしてフランス国法が制定され、現在では尿素/ホルムアルデヒドフォームを使用して断熱された住居におけるホルムアルデヒド含量が、0.2ppmもしくは0.25mg/m3を超えないことが推奨されている。更にまた、世界保健機関(WHO)は、30分間の暴露についてホルムアルデヒド濃度が0.080ppmもしくは0.1mg/m3を超えないことを推奨しており、この値はそれ未満でも害を生じる危険性のある指標に相当する。
【0013】
こうした化学汚染物質の人々の健康に対する有害な作用に鑑みると、特にホルムアルデヒドを含むアルデヒドの含量を、これらが屋外にあるか屋内にあるかによらず、測定及び制御すること、及び新規な汚染防止装置を提供することが必要であると思われる。
【0014】
既に市販されている検出方法は、適当な分子との反応によってアルデヒドを捕捉し、これを気体クロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーによって分析することに基づく。
【0015】
所定の方法では、特にホルムアルデヒドを含むアルデヒドが、これらアルデヒドと反応して生成物、ヒドラゾンまたはオキサゾリジンを生成しうる反応剤、例えば2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)または2-ヒドロキシメチルピペリジンを含浸させた吸収材もしくは固体支持体(シリカもしくはオクタデシル-グラフト化シリカ)上で捕捉される。例えば、NIOSH 2451法は、2-ヒドロキシメチルピペリジンを含浸させた固体吸収材にホルムアルデヒドを吸収し、次いで気体クロマトグラフィー分析を行うことからなる。この方法の検出限界は0.01乃至38ppmvである。
【0016】
ホルムアルデヒドのためのこれら反応物の非特異性のため、上述の方法は、捕捉工程を、様々な反応生成物を識別することが可能な気体もしくは液体クロマトグラフィー分析と組み合わされた場合にのみホルムアルデヒドの検出を可能にする。
【0017】
Nashは、溶液中でホルムアルデヒドと反応しうる反応物の混合物を初めて特定した。これらの反応物は、β-ジケトン、例えばアセチルアセトン及び酢酸アンモニウムである。これらは高度に蛍光性の誘導体である3,5-ジアセチル-2,6-ジヒドロルチジン(DDL)の生成をもたらす[Nash T., Biochem. J., 55, 416, (1953)]。Sawickiらはこの反応を別のケトン、例えばジメドンに拡張した[Sawicki E. et al., Mikrochim. Acte, 148, (1968); Sawicki E. et al., Mikrochim. Acta, 602, (1968)]。この場合は、最終生成物は3,3,6,6-テトラメチル-1,2,3,4,5,6,7,8,9,10-デカヒドロ-l,8-アクリジンジオンであり、その蛍光性はDDLのものよりも格段に高い。
【0018】
3,5-ジアセチル-2,6-ジヒドロルチジンの生成の機構を研究することにより、反応中間体である4-アミノ-3-ペンテン-2-オンもしくはFluoral-Pが、迅速且つ定量的にホルムアルデヒドと反応しうることが判明した[Compton B. J. ;Purdy W. C, Can. J. chem., 58 (1980) 2207-2211]。しかしながら、ホルムアルデヒドに対するFluoral-Pの溶液中での特異性は、小サイズ(上限約10の炭素数)のアルデヒドもまたFluoral-Pと迅速に反応しうることから、疑わしいと思われる [Compton, B. R. ; Purdy, W.C., Anal. Chem. Acta, 119 (1980) 349-357]。
【0019】
固体/液体混合捕捉システムに基づき、Fluoral-Pを使用する検出方法が開発されている。これらのシステムの一つは、Fluoral-Pとホルムアルデヒドとを液流に注入し、次いで溶出溶媒を含浸させたC18タイプのグラフト化シリカ支持体上に生ずる生成物を保持する方法を利用する。この方法によれば、分析は吸収または蛍光によって行われる[Teixera, L. S. G. ; et al., Talanta, 64 (2004) 711-715.]。
【0020】
これらの検出方法によれば優れた感度が得られうる。しかしながら、これらは気体形態のアルデヒドの直接検出ができないという欠点を有する。
【0021】
近年、4-アミノ-4-フェニルブト-3-エン-2-オンが、ホルムアルデヒドに対して特異的な反応物として溶液中で使用されるとルチジン誘導体を生成させうることが判明した[Suzuki Y., Nakano N, Suzuki K., Environ. Sci. Technol., (2003), 37, 5695-5700]。著者らは、シリカ粒子で覆われ、且つ4-アミノ-4-フェニルブト-3-エン-2-オンを含浸させたセルロース濾紙を含む装置を使用した。ルチジン誘導体の比色分析は、濾紙が透明ではないことから反射率によって行われた。得られた感度は、15分間の反応時間をもって5ppbであった。この方法は、周囲の湿度及び温度の程度に、比較的に感受性であるという欠点を有する。特に、湿度の程度が30-70%の範囲外である場合及び/又は温度が35℃を超える場合には、測定精度が低下する。更にまた、6か月より長くおいたには、含浸紙の感度に低下が観察される。毛管現象により湿分を引き付け、
かつ保持するという特殊性を有するシリカ粒子の存在により、少なくとも部分的には、周囲の湿分の程度がこの方法に影響するという事実を説明することができる。
【0022】
WO 2004/104573は、例えばキサンタンガムまたはアラビアゴム、ペクチン、デンプン、寒天、またはアルギン酸に基づく、一般的に多糖類のゲルからなり、前記ゲルがシッフ塩基、例えばパラローザニリン、硫酸もしくはその塩の一つ、pHを3に調節するための別の酸、及び水を含む、環境中のホルムアルデヒドを検出できるセンサーが記載されている。
【0023】
US-A-6 235 532には、酢酸アニリンを使用してオイル中の2-フルアルデヒドを検出する方法が記載されている。検出は、ナノ多孔性ゾル−ゲル、特にメチルトリメトキシシランである、酢酸アニリンを含むマトリックスを使用して行われる。
【特許文献1】WO 2004/104573
【特許文献2】US-A-6 235 532
【非特許文献1】Nash T., Biochem. J., 55, 416, (1953)
【非特許文献2】Sawicki E. et al., Mikrochim. Acte, 148, (1968)
【非特許文献3】Sawicki E. et al., Mikrochim. Acta, 602, (1968)
【非特許文献4】Compton B. J. ;Purdy W. C, Can. J. chem., 58 (1980) 2207-2211
【非特許文献5】Compton, B. R. ; Purdy, W.C., Anal. Chem. Acta, 119 (1980) 349-357
【非特許文献6】Teixera, L. S. G. ; et al., Talanta, 64 (2004) 711-715
【非特許文献7】Suzuki Y., Nakano N, Suzuki K., Environ. Sci. Technol., (2003), 37, 5695-5700
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従来技術の方法の主たる問題の一つは、これらによっても、環境の条件にかかわりなく、気体形態のホルムアルデヒドまたは別のアルデヒドの直接且つ原位置で検出及び/又は定量化することができないということである。従来技術の所定の方法は、定性的及び/又は定量的な分析を可能にするために試料の回収並びに気体/液体相中のガスの捕捉を必要とする。従来技術の別の方法は、周囲の湿度もしくは温度の程度に非常に感受性である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
したがって、本発明の一つの主題は、少なくとも1つのアルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドの検出及び/または分析及び/または捕捉の方法であって、ガス流をナノ多孔性金属酸化物ゾル−ゲルマトリックスを含む物質と接触させる工程を含み、前記マトリックスがアルデヒド官能基と反応しうる少なくとも1つの反応性官能基を担持する少なくとも1つのプローブ分子を含むことを特徴とする方法である。
【0026】
有利には、アルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン、ペンタナール、ヘキサナール、及びベンズアルデヒドから選択される。
【0027】
「ガス流」なる表現は、気体雰囲気またはガス混合物のいずれをも意味すると理解される。
【0028】
「ナノ多孔性」なる語は、100nm未満の孔直径を有するナノ多孔性システムを意味すると理解される。
【0029】
「捕捉方法」なる表現は、アルデヒドを捕捉して汚染された環境の清浄化を可能にする汚染防止または汚染除去の方法を意味すると解される。
【0030】
「プローブ分子」なる表現は、その反応性官能基と反応して、適当な分析技術によって検出可能な物理化学的特性の少なくとも一つの変化、好ましくは分光分析によって検出可能な分光特性の変化をもたらす、反応性官能基を担持するあらゆる有機分子を示す。
【0031】
好ましくは、アルデヒドとの反応の前及び/又は後のプローブ分子は、分光特性、特に吸収及び/又は蛍光スペクトルによって特徴づけられ、その変化は当業者には基地である適当な分光光度分析方法によって検出される。例えば、プローブ分子は、その吸収及び/又は蛍光スペクトルがアルデヒドとの反応によって変更される発色団であってよい。「吸収及び/又は蛍光スペクトルの変化」なる表現が吸収及び/又は蛍光極大の波長におけるシフト、あるいは所与の波長での吸収もしくは蛍光強度における減少または増大を意味すると解される。
【0032】
本発明の好ましい一実施態様によれば、本方法は、物質の少なくとも一つのプローブ分子の分光特性の変化を、例えば少なくとも1つの分光分析技術によって分析する工程を更に含む。したがって、本発明による方法は、少なくとも一つのアルデヒドと反応したプローブ分子の分光特性を利用する。このため、物質は試験しようとする環境に暴露され、前記物質が有利には適切な基体表面に付着されていることが望ましい。アルデヒドとの起こりうる反応前後のプローブ分子の吸収及び/又は蛍光スペクトルは、有利には、試験された環境中のアルデヒドの存在または非存在、及び/又は存在するアルデヒドの量を決定するために比較される。
【0033】
さらにまた、本方法によれば、プローブ分子と少なくとも一つのアルデヒドとの反応の間の物質中の全スペクトル変化を分析することも可能になる。有利には、当業者は、検出及び/又は定量化しようとするアルデヒドの関数として、蛍光の変化または吸収の変化を測定することを選択するであろう。
【0034】
特段の一実施態様によれば、プローブ分子の光学特性における変化を増幅させるために、表面プラズモンを使用することができる。とりわけ、光照射によって励起された、金属の薄膜に類似するプローブ分子は、表面プラズモンとカップリングさせて検出下限に導いてよく、これによってより少量のアルデヒドを検出または分析が可能になる。
【0035】
別の実施態様によれば、アルデヒドとの反応の前及び/又は後の物質は、そのラブタイプ波との相互作用によって特徴づけられる。プローブ分子とアルデヒドとの反応に関連した構造変化は、特に質量、粘弾性あるいはラブ波に影響を与える誘電率に変化をもたらす。この実施態様は、一般的に、圧電性物質またはラブ波を検出及び生成することのできる物質の存在下で、典型的には遅延線または共振器配置の互いに噛み合った櫛形の電極を用いて実施される。
【0036】
好ましい実施態様によれば、アルデヒド官能基と反応しうる官能基を担持するプローブ分子は、エナミノン及びその対応するβ-ジケトン/アミンの対、イミン及びヒドラジン、あるいはこれらの化合物から誘導される塩から選択される。
【0037】
一実施態様によれば、本発明による方法の物質に導入されるプローブ分子はエナミノンである。「エナミノン」なる語は、下式(I):
【化1】

[式中、
R1は、水素、アルキルもしくはアリール基に相当し;
R2は、水素に相当し;
R3は、水素、アルキルもしくはアリール基に相当し;
R4は、水素、アルキルもしくはアリール基に相当し;更に
R5は、水素に相当する]
に相当するあらゆる分子を意味すると解される。
【0038】
アルキル基は、任意に一置換もしくは多置換の、直鎖状、分枝状、もしくは環状の、飽和もしくは不飽和のC1-C20、好ましくはC1-C10のアルキル基であってよく、置換基は一つ以上のヘテロ原子、例えばN、O、F、Cl、P、Si、またはSを含みうる。こうしたアルキル基の中では、特にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、及びペンチル基を挙げてよい。不飽和アルキル基の中では、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、tert-ブテニル、ペンテニル、及びアセチレニル基もまた挙げてよい。
【0039】
アリール基は、芳香族もしくは複素環芳香族の、一置換もしくは多置換の、それぞれ3乃至8の原子を含む一つ以上の芳香族もしくは複素芳香族の環を含む炭素ベースの構造であってよく、ヘテロ原子はN、O、P、またはSであってよい。
【0040】
任意に、アルキルもしくはアリール基が多置換のものである場合、置換基は互いに相違してよい。アルキル及びアリール基の置換基の中では、特にハロゲン原子、アルキル、ハロアルキル、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、アミノ、シアノ、アジド、ヒドロキシ、メルカプト、ケト、カルボキシ、エーテルオキシ、及びアルコキシ、例えばメトキシ基を挙げてよい。
【0041】
有利には、R1およびR3は、個別にメチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、またはフェニル基であり、R4は水素である。有利には、R1はメチル基であり、R2は水素であり、R3はメチルまたはフェニル基であり、且つR4は水素である。
【0042】
特に好ましい実施態様によれば、プローブ分子として選択されるエナミノンは、ホルムアルデヒドに対するその高い特異性のために4-アミノ-3-ペンテン-2-オン(Fluoral-P)である。Fluoral-Pは、反応生成物であるDDLのもの(λmax1=206nm、及びλmax2=415nm)とは異なる吸収スペクトルを有する(λmax=302nm)。この場合は、DDLのみが吸収する415nmの波長での吸収の変化を測定することにより、検出は有利に行われうる。更にまた、DDLは蛍光特性を有し、その検出及びその分析は、これを特に415nmにて励起させることによって、または所定の波長での蛍光強度(502nmでの蛍光のλmax)もしくは時間の関数としての全蛍光(スペクトル全体に亘る集積)を測定することによって行って良い。
【0043】
前述のエナミンに相当するβ-ジケトン/アミン対は、それ自体でプローブ分子と見なしてもよい。β-ジケトンのエノール形態は等価形態と見なされ、実際にこれら二つの形態の間には熱力学的等式が見られることが通常である。反応機構は正確には解明されていないが、前述のエナミンに相当するβ-ケトン/アミン対はアルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドと反応すると思われる。「β-ジケトン/アミン対」なる表現は、下式(II):
【化2】

[式中、
R1、R2、R3、R4、及びR5は、以上に既述した意味を有し、アミンはその対応するアンモニウム塩によって置き換えられていてよい]
に相当する分子のあらゆる対を意味すると解される。
【0044】
アミンは四級化されていてよく、更にカウンターイオンは当業者に既知のカウンターイオンであって、且つ反応物に最も適当なものから選択されうる。好ましいアンモニウム塩の中では、特に酢酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、特に塩化物、及びテトラフルオロホウ酸塩を挙げてよい。
【0045】
別の好ましい実施態様によれば、少なくとも1つのイミンが、本発明による方法の物質中にプローブ分子として導入される。選択されるイミンは、例えば、フクシンまたはパラローザニリンであって良く、イミンは有利にはシッフ塩基から、とりわけアクリジンイエロー、メチルイエロー、又はジメチルイエローから選択される。
【0046】
別の好ましい実施態様によれば、少なくとも1つのヒドラジンが本発明による方法の物質に導入される。「ヒドラジン」なる語は、下式(III):
【化3】

[式中、
R6が、水素、C1-C20、好ましくはC1-C10のアルキル基、更に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、及びペンチル基、C3-C16アリール基、特にフェニルもしくはアリールスルホニル基に相当し;且つ
R7が、C3-C16アリール基、特にフェニルもしくはアリールスルホニル基に相当する]
に相当するあらゆる分子を意味すると解される。
【0047】
有利には、本発明による物質のヒドラジンは、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)、2-ヒドラジノベンゾチアゾール、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノン、5-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-スルホニルヒドラジン、1-メチル-1-(2,4-ジニトロフェニル)ヒドラジン、N-メチル-4-ヒドラジノ-7-ニトロベンゾフラザン、及びヒドララジンから選択される。
【0048】
少なくとも1つのアルデヒドと反応しうる反応性官能基を担持するプローブ分子は、ナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックス中に導入される。「ナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックス」なる表現は、下式(IV)の少なくとも1つの金属酸化物から製造されるナノ多孔性ポリマーネットワークを意味すると解される。
M(X)m(OR8)n(R9)p
【0049】
式中、
Mは、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、バナジウム、イットリウム、及びセリウムから選択される金属に相当し;
R8及びR9は、個別にアルキルもしくはアリール基に相当し;
n、m、及びpは整数であり、これらの合計はMの価数に等しく、且つnは2以上であり;更に
Xがハロゲン、好ましくは塩素である。
【0050】
一実施態様によれば、ゾル−ゲルマトリックスの前駆体である酸化物の金属Mは、ケイ素またはジルコニウムである。
【0051】
特に好ましい一実施態様によれば、金属酸化物はSi(OMe)4である。
【0052】
更にまた、本発明者は、ナノ多孔性マトリックスを形成する金属酸化物の選択が、孔のサイズ及びプローブ分子へのアルデヒドのアクセスを条件付けることを示している。然るに、特にホルムアルデヒドを検出及び/または分析するためには、一般式(III)[式中、R8及びR9はアルキル類であり、好ましくはメチルまたはエチル基である]の金属酸化物から製造されるマトリックスを使用することが好ましい。他方で、汚染された環境中のアルデヒドを捕捉する方法のためには、孔のサイズは、マトリックス内での気体媒質の分散を促進するためにより大きいことが有利である。
【0053】
特段の一実施態様によれば、ナノ多孔性ネットワークをより疎水性にするためには、pが少なくとも1に等しいことが好ましい。
【0054】
上記方法の実施のため、本発明者は、少なくとも1つのアルデヒドと反応しうる新規な物質を開発した。これが、本発明の別の主題が、アルデヒド官能基と反応性である官能基を担持する少なくとも1つのプローブ分子を含むナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックスを含む少なくとも1つの気体アルデヒドと反応しうる物質である所以である。
【0055】
本発明の好ましい条件下では、この物質は上記の通り特徴付けられる。
【0056】
好ましくは、ナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックスの前駆体である金属酸化物のR8及びR9基は個別にメチルまたはエチル基であり、プローブ分子はエナミノンである。
【0057】
更に好ましくは、本発明による物質は、金属酸化物としてはSi(OMe)4から有利に調製されるSiO2のポリマーを含み、更にプローブ分子としてはFluoral-Pを含む。こうした物質は、気体ホルムアルデヒドの特定の検出及び/又は分析のために特に有利である。
【0058】
本発明はまた、
(a)以上に定義されるものなどの少なくとも1つの金属酸化物の重合化によりナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックスを製造する工程;及び
(b)前記ナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックス中または前記少なくとも1つの金属酸化物中に、以上に定義されるものなどの少なくとも1つのプローブ分子を導入する工程;
を含む、上記物質の調製方法にも関する。
【0059】
本発明によるゾル−ゲルマトリックスは、ゾル−ゲル法によって製造してよい。「ゾル−ゲル法」の一般名で分類される技術は、特に金属酸化物を含む分子前駆体の単純重合によって、周囲温度近傍の温度(20乃至35℃)にてポリマーマトリックスを得ることを可能にするものである。ゾル−ゲル法の基本である化学反応、すなわち加水分解及び縮合は、分子前駆体が水の存在下に持ち込まれた時点で開始され、最初に酸化物の加水分解が起こり、次いで加水分解生成物の縮合がマトリックスのゲル化をもたらす。
【0060】
本発明による方法の好ましい一実施態様によれば、ナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックスの製造工程(a)は、少なくとも1つの金属酸化物を加水分解する工程を含み、前記加水分解工程は、好ましくは有機溶媒、例えばメタノールまたはエタノールの存在下で行われる。有利には、加水分解工程は、無機酸、例えばHClまたはH2SO4を使用して7未満のpHにて行われる。
【0061】
縮合の間、加水分解生成物は互いに反応して、三次元ポリマーネットワークが得られるまで成長を止めないポリマーを形成する。第一に、金属酸化物クラスターは沈降することなく懸濁物中に留まるが、これがゾルである。これらクラスターは徐々に増大する大きな体積画分を占める。その後は粘度が高くなり、液体はゲル化によって全てマトリックスとなる。従って、こうして得られるマトリックスは、可変の多孔性を有するポリマーネットワークを含む。
【0062】
有利には、ゾル−ゲルマトリックスの孔の直径もまた、特定の金属酸化物を選択することによって調節しうる。本発明者は、特に、式(IV))[式中、R8及びR9はアルキル類であり、好ましくはメチルまたはエチル基である]の金属酸化物によれば、その孔がより小さな直径を有するマトリックスが造成可能であると考える。小サイズのアルデヒド、特にホルムアルデヒドを検出することが望まれる場合には、小サイズのアルデヒド、とりわけホルムアルデヒドを特に捕捉する小径の孔を有するマトリックスを製造することが特に有利になる。
【0063】
有利には、ゾル−ゲルマトリックスを製造する工程(a)及び少なくとも1つのプローブ分子を導入する工程(b)は同時に行われる。これは、調製条件が十分に穏やかであって、プローブ分子が変性されることなくゾル−ゲルマトリックスに導入されるためである。
【0064】
好ましい一実施態様によれば、本発明による方法は、均質化及び/または乾燥の工程を更に含む。とりわけ乾燥工程により、マトリックスの水及びアルコールの蒸発が可能になる。有利には、少なくとも1つのプローブ分子の導入が、均質化工程の前に、更に好ましくは加水分解工程中に規定される。
【0065】
別の好ましい実施態様によれば、少なくとも1つのプローブ分子の導入は、溶液の含浸によって、あるいは当業者には既知である、特に昇華を含む技術に従って気相中で、ナノ多孔性マトリックスに行われる。
【0066】
少なくとも1つのアルデヒドの検出及び/または分析及び/または捕捉の方法の実施のための、本発明による物質は、装置またはセンサーに組み込んで良い。従って、本発明は、更に、本発明に準拠するかまたは本発明に準拠する調製方法に従って得られる少なくとも1つの物質を含むことを特徴とする、気体アルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドに特異的なあらゆる装置またはセンサーに関する。
【0067】
好ましい一実施態様によれば、センサーは、適切な基板上に、好ましくは透明な基板上に薄膜の形態で付着されている、本発明に準拠した少なくとも1つの物質を含む。基板は、特にガラス、水晶、マイカ、またはホタル石製のスライドまたはプレートを含む分光光度分析の分野で通常使用されるものから選択して良い。典型的には、付着は、特に浸漬被覆、スピンコーティング、または(液体もしくは気体)スプレーを含む当業者には周知の技術に従って実行される。有利には、本発明による物質の付着は浸漬被覆によって行われる。当業者であれば付着させた物質の付着物からの基板の除去の速度を、好ましくは25mm/分近傍の速度に調節するであろう。浸漬被覆は周囲温度(22乃至25℃)及び15乃至50%の大気の相対湿度にて行って良い。
【0068】
別の好ましい実施態様によれば、本発明による装置またはセンサー(図8乃至11)には、少なくとも1つの励起光源(10)及びコレクター(11)が組み込まれている。これらは第一区画(4)及び第二区画(5)及びスクリーン(7)を構成する。気体は、特定の入口(1)から、温度の制御を可能にするサーモスタットを通り、更に粒子フィルター(3)を通ってセンサー内に導入される。デリバリーポンプシステム(8)により、本発明による物質(9)への気体の放散を促進することができる。あるいはまた、ポンプは、入口近くよりもむしろ気体出口(2)の近くに設置されても良く、この場合はマイクロポンプが有利に使用される。本発明による物質(9)が、O環(12)による漏れのない方式で保護エンベロープ(13)によって外界から保護されることを特に規定するべきである。問題のアルデヒドである場合には、これはプローブ分子と反応する。アルデヒドとプローブ分子との反応は、光励起(10)の後にコレクター(11)によって検出され、スクリーン(7)上で読み取られる。有利には、光源はハロゲンランプまたは発光ダイオードから構成され、コレクターはダイオードストリップまたは低電圧光電子増倍管から構成される。検出方法がドープ薄膜の吸収における変化に基づく場合には、物質による光源の吸収を最適化するために、反射性基板上にそれぞれ付着された二枚のドープ薄膜から構成されるシステムを使用することが好ましい。光子は、薄膜で覆われた壁面と多数回再結合することにより、物質に強く吸収される(図11)。気体出口(2)はこのセンサーの枠内に設けられている。小型の装置またはセンサーが好ましい。装置またはセンサーは、更に、本発明による物質の支持体、特に検出方法の関数として選択される基板に対応する支持体を含むことが望ましい。有利には、装置またはセンサーは、分析しようとする媒質、特に気体媒質の放散を促進するためのシステムを更に含む。好ましくは、気体の放散を促進するためのシステムは、ピストン、デリバリーポンプ、またはマイクロポンプ等の気圧式システムである。こうしたシステムは、汚染防止装置の場合には特に有用である。従って、本発明は、特に直接光学変換によるアルデヒドセンサーに関する。
【0069】
特段の一実施態様によれば、表面プラズモンを生成することのできる特定の基板を使用することができる。表面プラズモンの恩恵を受けられる装置は、例えば特にガラス、水晶、マイカ、またはホタル石製のスライドまたはプレートを含む分光分析の分野で通常使用される基板から選択されるシートを含む。前記基板は金属の層で覆われ、その上には本発明による物質が付着している。
【0070】
使用可能な金属の中では、金、銀、あるいは好ましくはアルミニウムを挙げてよい。金属の選択は、一般的にプローブ分子の選択に関連し、然るに例えば紫外吸収性プローブ分子としては、プラズモンに関連する紫外発光を有するアルミニウムを使用することが好ましい[J. Phys. Chem. B, 2004, 108, 19114-19118]。金属層の厚さは、10乃至90nm、好ましくはおよそ60nmであってよい。プローブ分子が金属化表面と直接接触することを回避するために、金属の層と物質の層との間にはプローブ分子を含まない物質の層を付着させることが有利である。典型的には、物質の層は、5乃至40nm、好ましくはおよそ25nmの厚さを有し、プローブ分子を含まない物質の層は、5乃至20nm、好ましくはおよそ10nmの厚さを有する。照射波長は金属の性質及び蛍光性プローブ分子によって異なる。典型的には、紫外光源(Al薄膜については260-300nm、Ag薄膜については350-400nm)が、プラズモンを生成させるために使用される。
【0071】
別の特段の実施態様によれば、物質の質量、粘弾性、誘電率の変化は、ラブ波を使用して、特に位相速度もしくは伝搬速度の変化によって研究される。
【0072】
圧電性基板を使用することが推奨され、この上には互いに噛み合った櫛形の電極(もしくは変換器)が付着される。これらの電極は基板表面の二つの末端に位置してよく、ナノ多孔性物質は「遅延線」配置により二つの電極の間の空き領域に位置する。ラブ波は変換器によって生成されてよく、その伝搬速度の変化を、例えば変換器によって観察してよい。
【0073】
典型的には、変換器を備えた圧電性基板は、例えばSO2製のガイドコートによって覆われていてよく、ナノ多孔性物質はこのガイドコートの表面に付着されてよい。
【0074】
本発明による物質は、これを気体アルデヒド、特に気体ホルムアルデヒドの測定並びに汚染防止に使用することを可能にする多数の利点を有する。その調製方法のため本発明による物質はナノ多孔性であり、従って吸着のために非常に大きな比表面積を提供する。この構造的特徴は、汚染防止装置を検討する上でさらにいっそう重要である。更にまた、本発明による物質の性質及び孔のサイズは、特にホルムアルデヒドを含む所定のアルデヒドを選択的に検出及び/又は分析するために、容易に適合させうる。本発明による物質は、特に周囲湿度の程度を含む条件を問わずに気体アルデヒドを検出及び/または分析及び/または捕捉する方法に使用してよい。本発明は酸の存在も、特段のpHでの利用も必要としない。例えば、本発明は、4乃至10のpH、特に4乃至7のpHで実施してよい。
【0075】
最後に、本発明による物質は、気体アルデヒドの原位置での、直接的且つ簡便な検出を可能にするセンサーまたは装置に、容易に組み込むことができる。有利には、ネットワーク中で、またアルデヒドによる汚染の危険性の高い環境の永久的な品質コントロールを確実にするために、センサーを使用してよい。装置またはセンサーは、試験しようとする環境中のアルデヒド含量が所定の臨海閾値に達した場合に活性化される、視覚警報もしくは可聴警報と組み合わせてもよい。
【0076】
本発明は、添付の図面及び以下の例示的実施態様を通してより正確に理解されるであろう。
【実施例】
【0077】
UNICAM 500分光光度計及びSPEX-FLUOROLOG 3蛍光光度計で分光光度測定を行った。
【0078】
実施例1:ナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックスを含む物質の調製
【0079】
Fluoral-Pは、Lacyによって開発された方法によって合成されうる[Lacy, Aust. J. Chem., 23(1970) 841-842]。ホルムアルデヒド暴露実験のセットのために、ガス流の速度は特記のない限り200ml/分に維持された。
【0080】
金属酸化物に基づく多孔性マトリックス中へのFluoral-Pの導入は、ゾル-ゲル法の「ワンポット」方法に従って実行された。本発明によるマトリックスはエタノール/水溶液中のテトラメトキシシラン(TMOS)から製造された。TMOS/エタノール/水のモル比は、1/4/4であった。0.5mol/lのFluoral-Pのエタノール溶液にTMOS及び酸の水溶液(pH=1となるようなHCl)を加えた。Fluoral-Pの添加後に、得られた溶液を超音波手段によって10分間に亘り均質化させた。
【0081】
実施例2:適当な支持体への物質の付着
実施例1で調製された物質の薄く均一な薄膜を、水晶基板(0.8×0.1×15mm)上におよそ25mm/分の薄膜除去速度での浸漬被覆法によって付着させた。付着は、15乃至50%の相対湿度での周囲温度(22-25℃)にて行われた。
【0082】
付着(30nm)はまた、銀またはアルミニウムの層(60nm)で予めコーティングされた水晶基板上に同様の方式で得ることができ、本発明によるマトリックスの層はプラズモンを使用する研究を行うためにテトラメトキシシラン(TMOS)(10nm)から製造された。
【0083】
圧電性基板上にナノ多孔性物質の付着を行うことが可能であるが、ラブ波を使用する研究を実行するために、前記基板には、二つの端部に変換器として作用する互いに噛み合った櫛形の電極が付着されており、且つ予めSO2ガイドコートで被覆が施されている。
【0084】
実施例3:ホルムアルデヒドの選択的検出のための物質の使用
試料を、4mm直径のチューブ上入口及び出口を備えた4つの光学面を有するフローキュベット(10×10×40mm)に入れた。90℃に加熱されてホルムアルデヒド蒸気を生成し、これが窒素によって担持される、パラホルムアルデヒド(ホルムアルデヒドの固体三量体)が充填された透過管が入った透過オーブンから気体混合物が発生された。125ml/分のガス流中のホルムアルデヒドの初期含量は4ppmであった。最終混合物の濃度及びフローは、希釈システムによって制御及び調節した。同様に、混合物の相対湿度は、流量計そ使用して調節される水蒸気の注入によって変更可能であった。
【0085】
Fluoral-P及びホルムアルデヒドの二つの分子の反応により、DDLが生成した。吸収測定(図1)及び蛍光測定(図2)を、こうして調製した試料に行った。Fluoral-PはDDLの吸収スペクトル(λmax1=206nm、及びλmax2=415nm)とは異なる吸収スペクトルを有する(λmax=302nm)。この場合は、DDLのみが吸収する415nmの波長での吸収の変化を測定することにより、検出は有利に実行可能であった。更にまた、DDLは蛍光特性を有し、その検出及びこれによるホルムアルデヒドの分析は、特に415nmにて薄膜に照射してDDLを励起させること、及び所定の波長での蛍光強度(502nmでの蛍光のλmax)もしくは時間の関数としての全蛍光(スペクトル全体に亘る集積)を集光することによって行うことが可能であった。図2の蛍光スペクトルは、全Fluoral-Pが反応した場合の暴露完了時に相当する。
【0086】
多孔性マトリックス中のホルムアルデヒドの捕捉有効性及びそのFluoral-Pとの反応性は、気体混合物中のその濃度の関数として変化する。図3から、媒質中のホルムアルデヒド濃度の関数としての吸収における変化が見て取れるが、各点は所定のホルムアルデヒド含量で行われた1つの実験を表す。
【0087】
3,5-ジアセチル-2,6-ジヒドロルチジンの510nmで測定される蛍光強度は、溶液の場合と同様に415nmの励起波長でのその吸収と比例することが確認されており(図4)、これはDDLのみが415nmで吸収し、且つ510nmで蛍光することを明白に示している。
【0088】
本発明による物質を使用することにより、蛍光分析法で、100分間で2ppmのホルムアルデヒドを検出することが可能になる。これが達成されたプラトーである。2ppbのホルムアルデヒドを含む窒素混合物の200ml/分の流れ、すなわち総体積20リットルの窒素を用いた第一測定から、検出が見られる。ホルムアルデヒド含量が50ppbである場合は、総体積1リットルについて必要とされる時間は5分間のみである。
【0089】
分析の応答時間は、ここでは流速が200ml/分を超えることを許容しない実験用希釈装置によって制限される。流速の1または2リットル/分の増大は、この場合は5乃至10倍低減すべきである。
【0090】
更にまた、360乃至470nmのその吸収帯全体で3,5-ジアセチル-2,6-ジヒドロルチジンを励起させること及び全蛍光スペクトルに亘って集積された蛍光を集光することによって、蛍光測定では感度が大幅に増大しうる。励起波長範囲及び発光集光範囲を画定するための光学干渉フィルターの使用により、分光光度計の使用を回避することができ、よって検出装置の費用を削減することができる。
【0091】
同様の実験を、実験室の周囲大気をキャリアー気体として使用して行った。存在する汚染物質、特に微量の有機溶媒、例えばエタノール(約500ppb)またはアセトン(約500ppb)及びNO2等の汚染物質は、測定に何らの影響も及ぼさなかった。
【0092】
表面プラズモンの使用により、ピークの増幅または強度の増大を観察することが可能なスペクトルが得られた。従って、SiO2の10nm層を付着させた20nmのAl膜の295nmでの励起は、およそ300-450nmのプラズモンを発生させた。20nmのAl2O3膜を付着させ、且つ350-400nmで励起させた60nmのAg膜については、プラズモンはおよそ450-650nmで発生した。
【0093】
更に、圧電性基板を使用して発生されるラブ波の伝搬速度における変化は、物質と反応したアルデヒドの量の関数である。
【0094】
反応の有効性に鑑みて、こうした装置はホルムアルデヒドによって汚染された環境の汚染防止のために使用可能であると思われる。
【0095】
実施例4:2,4-ジニトロフェニルヒドラジンを含む物質の調製
2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(供給元:FLUKA)の無機ポリマーに基づく多孔性膜中への導入を、ゾル−ゲル法の「ワンポット」方法に従って実行した。2,4-ジニトロフェニルヒドラジンで飽和させた、エタノール性原液及び酸水性原液(pH=1)の二つの溶液をまず調製した。ゾルは、モル比が1/4/4である、テトラメトキシシラン(TMOS)/エタノール原液/酸水性原液混合物から構成された。
【0096】
実施例5:浸漬被覆法による支持体への物質の付着
実施例4で調製された物質の均質な薄膜を、およそ25mm/分の薄膜除去速度での浸漬法によって、水晶基板(0.8×0.1×15mm)に付着させた。付着は周囲温度(22-25℃)及び15乃至50%の相対湿度で行われた。
【0097】
実施例6:ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドの非選択的検出のための物質の使用
測定は、例えば実施例3に記載したもの等のFluoral-Pのための条件と同様の条件下で行われた。試験されたアルデヒドは、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドであった。図5及び6に表される曲線は、DNPHとホルムアルデヒドとの反応の間の吸収における変化を示す。DNPHが迅速に消滅してそのスペクトルがヒドラジンのものに類似したヒドラゾンを生成することが観察される。反応の有効性を示すために、示差吸収(図6)を測定することが必要であった。
【0098】
2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)は、対応するヒドラゾン誘導体を形成することによりほとんどのアルデヒドと反応する。DNPHを含む物質は非選択的であり、従って大気中に存在する全てのアルデヒドの測定のために使用可能である。ナノ多孔性物質の孔サイズを変化させる可能性を前提として、アルデヒドをそのサイズによって選別して小サイズのアルデヒド(ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド)のみを検出することが可能である。小サイズのケトン(アセトン)がこの測定を妨げうることに留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1a】図1(a)は、気体混合物の相対湿度が58%である、8ppbのホルムアルデヒドを含む窒素流へのFluoral-Pを含む多孔性薄膜の暴露の間に経時的に観察される、波長(nm)の関数としての吸収スペクトル(任意単位(a.u.))を表す。
【図1b】図1(b)は、暴露時間(分)の関数としてのFluoral-Pの吸収(300nm)及びDDLの吸収(415nm)の変化を示す曲線を表す。
【図2】図2は、415nmでの吸収がプラトーに達した時点で実験の終了時に測定される、3,5-ジアセチル-2,6-ジヒドロルチジン(Fluoral-Pとホルムアルデヒドとの反応生成物)の波長(nm)の関数としての蛍光スペクトルを表す。蛍光強度は、秒当たりカウント(cps)の数として測定される。
【図3】図3は、Fluoral-Pの完全な消費の後に測定される3,5-ジアセチル-2,6-ジヒドロルチジンの濃度(10億分の一、ppb)の関数としての415nmでの吸収の変化(a.u.)を示す曲線を表す。ガス流の速度は200ml/分であり、相対湿度は58%である。
【図4】図4は、415nmでのその吸収(a.u.)の関数としての、510nmでの3,5-ジアセチル-2,6-ジヒドロルチジンの蛍光強度(cps)の変化を表す。値は、全ての実験について相対湿度を58%に、またガス流を200ml/分に維持しつつ、窒素中の様々なホルムアルデヒド含量についてFluoral-Pを含む様々な薄膜をガス流に暴露することから得た。
【図5】図5は、2,4-ジニトロフェニルヒドラジンを含む多孔性薄膜の、800ppbのホルムアルデヒドを含む窒素の混合物への暴露の間の波長(nm)の関数としての吸収(a.u.)における変化を表す。相対湿度は58%に、またガス流は200ml/分に維持されており、様々な曲線はt=0、1、及び61(分)の場合に相当する。
【図6】図6は、2,4-ジニトロフェニルヒドラジンを含む多孔性薄膜の、800ppbのホルムアルデヒドを含む窒素の混合物への暴露の間の波長(nm)の関数としての示差吸収(a.u.)における変化を表す。相対湿度は58%に、またガス流は200ml/分に維持されている。
【図7】図7は、本発明の内容に沿って使用可能なプローブ分子の列挙に相当する。
【図8】図8は、本発明によるセンサーの略図に相当する。
【図9】図9は、本発明によるセンサーの区画(4)の上面図を表す。
【図10】図10は、本発明による物質を含む区画(4)の横断面図に相当する。
【図11】図11は、前記物質から成る二つの薄膜を含むセンサーに組み込まれた検出システムを表す。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアルデヒドの検出及び/または分析及び/または捕捉の方法であって、ガス流をナノ多孔性金属酸化物ゾル−ゲルマトリックスを含む物質と接触させる工程を含み、前記マトリックスがアルデヒド官能基と反応しうる少なくとも1つの反応性官能基を担持する少なくとも1つのプローブ分子を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
アルデヒドが、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン、ペンタナール、ヘキサナール、及びベンズアルデヒドから選択され、好ましくはホルムアルデヒドであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つのプローブ分子の分光特性の変化を、少なくとも1つの分光分析技術によって分析する工程を更に含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルデヒド官能基と反応しうる反応性官能基を担持するプローブ分子が、エナミノン及びその対応するβ-ジケトン/アミンの対、イミン及びヒドラジン、あるいはこれらの化合物から誘導される塩から選択されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
エナミノンが、下式(I):
【化1】

[式中、
R1は、水素、アルキルもしくはアリール基に相当し;
R2は、水素に相当し;
R3は、水素、アルキルもしくはアリール基に相当し;
R4は、水素、アルキルもしくはアリール基に相当し;更に
R5は、水素に相当する]
に相当することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
β-ジケトン/アミンの対が下式(II):
【化2】

[式中、
R1は、水素、アルキルもしくはアリール基に相当し;
R2は、水素に相当し;
R3は、水素、アルキルもしくはアリール基に相当し;
R4は、水素、アルキル基に相当し;更に
R5は、水素、または対応する塩に相当する]
に相当することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
R1及びR3が、個別にメチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、またはフェニル基であり、且つR4が水素である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
R1がメチル基であり、R3がメチルもしくはフェニル基である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
イミンが、フクシン、パラローザニリン、及びシッフ塩基から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
イミンが、アクリジンイエロー、メチルイエロー、またはジメチルイエローから選択されるシッフ塩基である、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
ヒドラジンが、下式(III):
【化3】

[式中、
R6が、水素、C1-C20、好ましくはC1-C10のアルキル基、更に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、及びペンチル基、C3-C16アリール基、特にフェニルもしくはアリールスルホニル基に相当し;且つ
R7が、C3-C16アリール基、特にフェニルもしくはアリールスルホニル基に相当する]
に相当する、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
ヒドラジンが、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン、2-ヒドラジノベンゾチアゾール、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノン、5-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-スルホニルヒドラジン、1-メチル-1-(2,4-ジニトロフェニル)ヒドラジン、N-メチル-4-ヒドラジノ-7-ニトロベンゾフラザン、及びヒドララジンから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ナノ多孔性金属酸化物ゾル−ゲルマトリックスが、下式(IV):
M(X)m(OR8)n(R9)p
[式中、
Mは、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、バナジウム、イットリウム、及びセリウムから選択される金属に相当し;
R8及びR9は、個別にアルキルもしくはアリール基に相当し;
n、m、及びpは整数であり、これらの合計はMの価数に等しく、且つnは2以上であり;更に
Xがハロゲンである]
の少なくとも1つの金属酸化物から製造される、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
Mがケイ素またはジルコニウムであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
R8及びR9が、個別にメチルもしくはエチル基である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
Xが塩素である、請求項13乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
金属酸化物がSi(OMe)4である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの気体アルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドと反応しうる物質であって、これは請求項13乃至17のいずれか一項に規定されるナノ多孔性金属酸化物ゾル−ゲルマトリックスを含み、前記マトリックスは、アルデヒド官能基と反応しうる少なくとも1つの官能基を担持する、請求項4乃至12のいずれか一項に規定される少なくとも1つのプローブ分子を含む物質。
【請求項19】
金属酸化物のR8及びR9基が、個別にメチルもしくはエチル基であり、且つプローブ分子がエナミノンである、請求項18に記載の物質。
【請求項20】
金属酸化物がSi(OMe)4であり、プローブ分子がFluoral-Pである、請求項19に記載の物質。
【請求項21】
(a)請求項13乃至17のいずれか一項に規定される少なくとも1つの金属酸化物の重合化によりナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックスを製造する工程;及び
(b)前記ナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックス中または前記少なくとも1つの金属酸化物中に、請求項4乃至12のいずれか一項に規定される少なくとも1つのプローブ分子を導入する工程;
を含む、少なくとも1つのアルデヒドと反応しうる物質の調製方法。
【請求項22】
ナノ多孔性ゾル−ゲルマトリックスの製造工程(a)が、少なくとも1つの金属酸化物を加水分解する工程を含み、前記加水分解工程が、好ましくは特にメタノールまたはエタノールを含む有機溶媒の存在下で行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
加水分解工程が、7未満のpHにて行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
工程(a)及び(b)が同時に行われる、請求項21乃至23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
均質化及び/または乾燥の工程を更に含む、請求項21乃至24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
請求項18乃至20のいずれか一項に記載されるかまたは請求項21乃至25のいずれか一項に記載される方法により得られる物質の少なくとも1つを含むか、あるいはまた請求項1乃至17のいずれか一項に記載される検出及び/または分析及び/または捕捉の方法を実施する、アルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドのためのセンサーもしくは特定装置。
【請求項27】
物質が、適切な基板上に、好ましくは透明な基板上に薄膜の形態で付着されている、請求項26に記載のセンサーもしくは装置。
【請求項28】
少なくとも1つの励起光源及びコレクターが組み込まれた、請求項26または27に記載のセンサーもしくは装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−508134(P2009−508134A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530570(P2008−530570)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002124
【国際公開番号】WO2007/031657
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【出願人】(500174661)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・レシェルシュ・サイエンティフィーク−セ・エン・エール・エス− (54)
【Fターム(参考)】