説明

直方体形状のワークをクランプするワーククランプ方法及び装置

【課題】 1回のクランプ操作で直方体形状のワークをクランプして固定したままワークの6面をすべて加工できるようにする。
【解決手段】 直方体形状のワーク(M)の対向する2つの稜部を1対のクランプ手段のクランプ爪で挟んでクランプする。そうすることによりワークを固定する。そして、その固定状態のまま、まず直方体形状のワーク(M)の少なくとも1面を加工し、しかるのち、クランプ手段と直方体形状のワーク(M)を一緒に回転軸心のまわりに回転させて、それらの位置を変えてから、直方体形状のワーク(M)の他の面を加工する。このようなワークの位置の変更と面の加工を繰り返すことにより、クランプ手段により直方体形状のワーク(M)を固定したまま、直方体形状のワーク(M)の6面全体を加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直方体形状のワークをクランプするワーククランプ方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来の直方体形状のワークの加工例を示す。
【0003】
図7において、ワークMは、上面S1、下面S2、左側面S3、背面S4、右側面S5、正面S6を有する直方体形状のワークMである。
【0004】
先ずワークMの下面S2を図示しない加工装置のテーブルに取り付けて、左側面S3と右側面S5をテーブルにクランプ式に固定する。
【0005】
その後、図示しない立型のフライス盤又は立型マシニングセンタによりフライス加工を行い、上面S1の加工を行う(基準面の作成)。
【0006】
加工後、上面S1を基準面としてワークMを反転させて、上面S1をテーブルに取り付けて、左側面S3と右側面S5をクランプ式に固定し、下面S2のフライス加工を行う。
【0007】
図示しない横型ミーリング機又は横型マシニングセンタのテーブルに上面S1を取り付けて、左側面S3の加工を行う。
【0008】
加工後、ワークMを90度回転させて、左側面S3を基準面として右側面S5の加工を行う。
【0009】
加工後、ワークMを90度回転させて、背面S4と正面S6に対しても、随時同様の加工をして、6面の全てを加工する。
【0010】
本願出願人は、このような加工を行う工作機械として、特許文献1に示されるような工作機械を提案している。
【0011】
このように、直方体形状のワークを加工するには、各面を加工する毎に、作業者がワークの取り付け及び取り外しを行っている。
【特許文献1】特開平8−155768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、加工する面毎に作業者がワークの取り付け及び取り外しを行う従来の方法では、加工に手間と時間を要し、加工精度にバラツキが生じる。
【0013】
そこで、本発明は、直方体形状のワークをクランプして固定したら、その固定状態のまま、ワークの6面を加工することができる加工方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解決手段を例示すると、以下のとおりである。
【0015】
(1)直方体形状のワーク(M)を加工するときに、直方体形状のワーク(M)をクランプするワーククランプ方法であって、直方体形状のワーク(M)の対向する2つの稜部を1対のクランプ手段のクランプ爪で挟むことにより直方体形状のワーク(M)をクランプして固定し、その固定状態のまま、まず直方体形状のワーク(M)の少なくとも1面を加工し、しかるのち、直方体形状のワーク(M)の位置を変更してから、直方体形状のワーク(M)の他の面を加工し、このような位置の変更と面の加工を繰り返すことにより、クランプ手段により直方体形状のワーク(M)をクランプしたまま直方体形状のワーク(M)の全体を加工することを特徴とするワーククランプ方法。
【0016】
(2)1対のクランプ爪の各々と協働するように1対のスイングアームを各クランプ手段に設け、両クランプ手段にスイングアームを合計4個設けて、直方体形状のワークの対向する2つの稜部を1対のクランプ爪で押しつけた後、4個のスイングアームの任意のもので直方体形状のワークを押圧して固定を確実にすることを特徴とする前述のワーククランプ方法。
【0017】
(3)4個のスイングアームが、押圧位置と待避位置との間で各々独立して移動することを特徴とする前述の方法。
【0018】
(4)直方体形状のワーク(M)を加工するときに、直方体形状のワーク(M)をクランプするワーククランプ装置であって、
2つの支持部を有し、各支持部が、回転方向に割出し可能なクランプ手段を有し、各クランプ手段が直方体形状のワークの対向する2つの稜部をクランプ・アンクランプするクランプ爪を有することを特徴とするワーククランプ装置。
【0019】
(5)1対のクランプ爪の各々と協働するように1対のスイングアームを各クランプ手段に設け、両クランプ手段にスイングアームを合計4個設けて、直方体形状のワークの対向する稜部を1対のクランプ爪で押しつけた後、4個のスイングアームの任意のもので直方体形状のアームを押圧して固定する構成にしたことを特徴とする前述のワーククランプ装置。
【0020】
(6)4個のスイングアームが、押圧位置と待避位置との間で各々独立して移動することを特徴とする前述のワーククランプ装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、1回のクランプ操作で直方体形状のワークの6面を加工することができる。例えば、本発明によれば、ワークの6面について粗加工から仕上げ加工までの、総ての加工を1回のクランプ操作でワークを固定したまま行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明においては、直方体形状のワークの対向する2つの稜部を1対のクランプ手段でクランプして固定する。そして、その固定状態のまま、まず、6面のうち少なくとも1面を加工し、しかるのち、ワークを固定状態のまま、その位置を変えて、他の面を同一又は別の加工装置で加工する。
【0023】
このようにクランプ手段およびワークを一緒に固定状態にしたまま、それらの位置を回転によって変更して、直方体形状のワークの各面を加工する工程を繰り返す。それにより、1回のクランプ操作でワークを固定したまま直方体形状のワークの6面を加工することができる。
【0024】
本発明の最良の実施形態においては、直方体形状のワークの対向する2つの稜部を1対のクランプ手段のクランプ爪で挟んでクランプして固定する。そして、固定状態のまま、まず直方体形状のワークの1面を加工し、しかるのち、直方体形状のワークを回転させてその位置を変更してから、直方体形状のワークの他の面を加工する。このような位置の変更と各位置での面の加工を繰り返す。そうすることにより、クランプ手段により直方体形状のワークをクランプしたまま(アンクランプすることなく)直方体形状のワークの全体を加工する。
【0025】
1対のクランプ爪の各々と協働するように1対のスイングアームを各クランプ手段に設ける。つまり、両クランプ手段の全体に対しスイングアームを合計4個設ける。そして、直方体形状のワークの対向する2つの稜部を1対のクランプ爪で押しつけた後、4個のスイングアームの任意のもので直方体形状のワークを押えて固定を確実にする。
【0026】
4個のスイングアームが、押え位置(押圧位置)と待避位置との間で各々独立して移動する。そのため、必要に応じて、加工工具と干渉するスイングアームは、待避位置に待避させることができる。
【実施例】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施例を説明する。
【0028】
図1において、ワーク10は、直方体形状の素材であり、8つの稜部を有する。
【0029】
クランプ装置12は、対をなす形で上下斜め方向に2つの支持部14,16を有する。これらの支持部14,16の各々には、クランプ爪18a,20aを有するクランプ手段18,20が上下斜め方向に延びた軸心のまわりに回転可能に設けられている。
【0030】
これらのクランプ手段18,20の各々には、1対のクランプ爪18a,20aの各々と協働するようにクランプ爪18a,20aの両側に1対のスイングアーム18b,18c,20b,20cが設けられている。両方のクランプ手段18,20に対し、合計4個のスイングアームが設けられている。
【0031】
図2に拡大して示されているように、ワーク10を1対のクランプ手段18,20によってクランプして固定するとき、ワーク10の対角上で対向する2つの稜部(図2では最も下方の稜部と最も上方の稜部)の全体を1対のクランプ爪18a,20aで挟み込んでクランプする。好ましくは、各クランプ爪18a,20aの係止部はワーク10の稜部の形状に合った形状になっている。例えば、クランプ爪18a,20aの係止部には、その全長にわたってV字形の溝が形成されている。ワーク10の上下の対向する2つの稜部がそれらのV字形の溝に入った状態で係止され、ワーク10が1対のクランプ手段18,20によってクランプされる。
【0032】
クランプ爪18a,20aは、好ましくは、クランプ手段18,20の所定位置にボルトで固定する。
【0033】
図3は、ワーク10をクランプして固定しつつ上下斜め方向の軸心のまわりに回転させる状態を示している。
【0034】
図3において、上下の支持部14,16に対して、対応する上下の1対のクランプ手段18,20が同じ回転軸心のまわりに90°回転する。それに伴って、それらのクランプ手段18,20にクランプされているワーク10も、図1〜2の状態から90°回転される。
【0035】
実際の加工作業においては、ワーク10と1対のクランプ手段18,20は、一緒になって、必要に応じて、モータ24(図4)の駆動によって任意の角度に割出しを行うように回転制御ができるようになっている。
【0036】
図4は、1対のクランプ手段18,20の内部構造の概略を示している。
【0037】
図4において、各クランプ爪18a,20aは、所定の範囲内で往復移動可能に配置された作動部材18d,20dを有する。これらの作動部材18d,20dは、油圧によって図4のクランプ位置と図示しないアンクランプ位置の間を矢印の方向に移動可能になっている。
【0038】
必要に応じて、1対のクランプ爪18a,20aを図4のクランプ位置と図示しないアンクランプ位置の間を回転軸心に沿った矢印の方向に移動させ、その間に、ワーク10を手動で取りつけたり、取り外したりする。
【0039】
上側の支持部14の内部には、モータ24が内蔵されている。このモータ24は、支持部14内に割り出しのために回転可能に配置されたクランプ手段18を支持部14に対して所望の角度だけ回転駆動するためのものである。
【0040】
下側の支持部16には、クランプ手段20が回転自在に設けられている。
【0041】
図4のクランプ状態において、1対のクランプ手段18,20とそれらによって挟持されたワーク10が一緒に上下斜め方向の回転軸心のまわりに回転できるようになっている。
【0042】
図5は、クランプ爪18a,20aのみでワーク10をクランプしている状態を示している。このとき、スイングアーム18b,18c,20b,20cは、全てが待避位置(図1〜3に示す押圧位置から90°スイングした位置)に待避している。
【0043】
図6の(A)は、スイングアーム18b,20bの待避状態(図5の状態)を示し、図6の(B)は、スイングアーム18b,20bの押圧状態(図1〜3の状態)を示している。
【0044】
4個のスイングアーム18b,18c,20b,20cは、押圧(押え)位置と待避位置との間で各々独立して移動できるようになっている。つまり、これらは、互いに独立して油圧でスイング運動をすることができるようになっている。そのため、ワーク10を加工しようとするとき、どれか1つのスイングアームが加工工具(図示せず)と干渉する可能性がある場合、そのスイングアームのみを図6(A)に示す待避位置に待避させておくと、当該スイングアームと加工工具との干渉を回避して加工を実行することができる。
【0045】
クランプ手段18,20のスイングアーム18b,18c,20b,20cと、作動部材18d,20dを作動させる油圧は、図示しない油圧源に接続されている。その油圧源は、制御装置(図示せず)に接続されている。モータ24も、その制御装置に接続されている。
【0046】
複数の操作ボタン(図示せず)を設けた操作盤(図示せず)が制御装置に接続されている。そして、それらの操作ボタンをオペレータが手動で操作することによって、スイングアーム18b,18c,20b,20cと、作動部材18d,20dを必要に応じて作動させて、1対のクランプ手段18,20を所望のクランプ状態にしたり、アンクランプ状態にしたり、さらに、スイングアーム18b,18c,20b,20cを押圧状態にしたり、待避状態にしたりする。
【0047】
前述の実施例によれば、ワーク10の対向する2つの稜部を1対のクランプ爪18a,20aで押し付けた後、4個のスイングアーム18b,18c,20b,20cでワーク10の対向する両面を押さえて、ワーク10の全体を固定することができる。この場合、スイングアームによってワークのずれを確実に防止できるとともに、より強固にワークをクランプして固定することができる。
【0048】
1対のクランプ手段をどのように配置しても、1回のクランプ操作でワークをクランプして固定したまま、ワークの6面に種々の加工を行うことができる。
【0049】
本発明は、前述の実施例に限定されない。例えば、前述の図示例においては、1対のクランプ手段18,20が上下斜めに配置されているが、垂直方向や、左右(水平)方向に1対のクランプ手段を設けて、垂直方向の回転軸心のまわりに回転させたり、水平方向の回転軸心のまわりに回転させたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明によるクランプ装置の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1のクランプ装置を拡大して示す概略斜視図である。
【図3】図1のクランプ装置の別の実施態様(ワークが図1の状態から90°回転された態様)を示す。
【図4】図1のクランプ装置の内部構造を概略的に示す。
【図5】図1のクランプ装置の更に別の実施態様(4個のスイングアームがすべて待避位置に待避している態様)を示している。
【図6】図6の(A)は、スイングアーム18b,20bの待避状態(図5の状態)を示し、図6の(B)は、スイングアーム18b,20bの押圧状態(図1〜3の状態)を示している。
【図7】図7は、従来の直方体形状のワークの加工例を示す。
【符号の説明】
【0051】
10 ワーク
12 クランプ装置
14 支持部
16 支持部
18 クランプ手段
18a クランプ爪
18b,18c スイングアーム
18d 作動部材
20 クランプ手段
20a クランプ爪
20b,20c スイングアーム
20d 作動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体形状のワーク(M)を加工するときに、直方体形状のワーク(M)をクランプするワーククランプ方法であって、直方体形状のワーク(M)の対向する2つの稜部を1対のクランプ手段のクランプ爪で挟むことにより直方体形状のワーク(M)をクランプして固定し、その固定状態のまま、まず直方体形状のワーク(M)の少なくとも1面を加工し、しかるのち、直方体形状のワーク(M)の位置を変更してから、直方体形状のワーク(M)の他の面を加工し、このような位置の変更と面の加工を繰り返すことにより、クランプ手段により直方体形状のワーク(M)をクランプしたまま直方体形状のワーク(M)の全体を加工することを特徴とするワーククランプ方法。
【請求項2】
1対のクランプ爪の各々と協働するように1対のスイングアームを各クランプ手段に設け、両クランプ手段にスイングアームを合計4個設けて、直方体形状のワークの対向する2つの稜部を1対のクランプ爪で押しつけた後、4個のスイングアームの任意のもので直方体形状のワークを押圧して固定を確実にすることを特徴とする請求項1に記載のワーククランプ方法。
【請求項3】
4個のスイングアームが、押圧位置と待避位置との間で各々独立して移動することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
直方体形状のワーク(M)を加工するときに、直方体形状のワーク(M)をクランプするワーククランプ装置であって、
2つの支持部を有し、各支持部が、回転方向に割出し可能なクランプ手段を有し、各クランプ手段が直方体形状のワークの対向する2つの稜部をクランプ・アンクランプするクランプ爪を有することを特徴とするワーククランプ装置。
【請求項5】
1対のクランプ爪の各々と協働するように1対のスイングアームを各クランプ手段に設け、両クランプ手段にスイングアームを合計4個設けて、直方体形状のワークの対向する稜部を1対のクランプ爪で押しつけた後、4個のスイングアームの任意のもので直方体形状のアームを押圧して固定する構成にしたことを特徴とする請求項4に記載のワーククランプ装置。
【請求項6】
4個のスイングアームが、押圧位置と待避位置との間で各々独立して移動することを特徴とする請求項5に記載のワーククランプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−279714(P2009−279714A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135365(P2008−135365)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000104537)キタムラ機械株式会社 (19)
【Fターム(参考)】