説明

直流電源装置、および、これを備えたLED照明器具

【課題】入力電源電圧の変動が発生しても、負荷電流の変動を抑えてLEDの光束の変動を最小限にできる直流電源装置およびLED照明器具を提供する
【解決手段】交流電圧を全波整流し、LEDに対して並列接続された平滑コンデンサCを介してLEDに負荷電流を供給する直流電源装置は、平滑コンデンサの充電手段2と、その制御手段4を備える。充電手段2は、全波整流電圧を一次電圧として二次電圧を平滑コンデンサに印加するトランスT、この一次巻線に直列接続されたスイッチング素子Q、二次巻線に直列接続されて平滑コンデンサの正極に電流を流すダイオードDを有する。制御手段4は、一次電圧に基づき1サイクル分の基準波形を作成する基準波形作成手段と、一次電圧と基準波形とを比較する比較手段と、振幅値と瞬時値の比をn条した値でPWM信号のオン幅Pを補正するオン幅補正手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAC−DC変換方式の回路構成を有する直流電源装置、および、これを用いたLED照明器具に関し、特に、入力電源電圧の変動が発生した場合のLEDの光束変動の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LEDの性能が高くなってきており、寿命が長い等の理由で従来の照明器具がLEDを用いた照明器具に置き換えられる状態にある。今後LEDの性能がますます向上していけば、汎用の照明器具分野でLED照明器具がさらに採用されると期待される。
LED照明器具の電源装置として、回路効率を改善するためにフライバック方式を用いたAD−DC変換回路が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のLED照明用のAD−DC変換回路装置は、商用交流電源(AC電源)をダイオードブリッジにより全波整流して直流電圧(DC)にする。そして、直流電圧を所定電圧の直流電力に電力変換してLED負荷に供給するようになっている。特許文献1では、変換回路に設けられたスイッチング素子をオンオフ駆動して、LED負荷側の電圧降下が所定値となるようにオンデューティー(オン幅)をフィードバック制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−130438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のLED照明用の直流電源装置において、入力電源電圧が変動した場合に、LED照明の光束が変動してしまうことを抑制するための制御方法に関しては、詳細な検討がなされていなかった。
【0006】
フライバック方式を用いた一段構成のAD−DC変換回路では、定電流制御などのフィードバック制御を行っており、LED負荷が変動した場合の光束の変動を抑制することができる。しかし、交流電源からの入力電圧が変動した場合には、時間遅れが大きくどうしても図7のカーブBに示すように、落ち込みとオーバーシュートが発生してしまうという課題があった。時間遅れは、LED負荷に並列接続された平滑コンデンサが原因と考えられる。平滑コンデンサは、定電流制御などのフィードバック制御により常に充電と放出を繰り返し、LEDへ負荷電流を供給する。入力電源電圧が一時的に低下すると、入力電流も追従して低下するため、平滑コンデンサへの充電が不十分となる。その結果、平滑コンデンサの回復のために時間遅れが発生するのである。理論的にはコンデンサ容量を小さくすればよいが、実際には出力電圧に含まれるリプル電圧を除去するため、比較的大きな容量のコンデンサが必要となり、コンデンサ容量を小さくすることも難しい。
【0007】
本発明は上述のような点に鑑みてなされたものであり、入力電源電圧の変動が発生した場合においても、LEDへの負荷電流の変動を最小限にして、LEDの光束の変動を最小限にできる直流電源装置およびLED照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために本発明者は、入力される交流電圧の変動を瞬時に検出して、変動に応じてPWM信号のオン幅(パルス幅)を増減させることにより、LEDの光束変動を抑制するという点に着目した。本発明者が鋭意検討を進めた結果、トランスに印加される一次電圧に基づく基準波形を作成して、具体的には全波整流後の整流電圧に相似の基準波形を作成することにより、LEDの点灯中、常に基準波形と一次電圧(整流電圧の分圧)の瞬時値との比較を行えば、交流電源の電圧変動が起きた場合に変動を瞬時に検出できる。さらに、基準波形と一次電圧との比に基づく補正値を用いて、PWM信号のオン幅を補正すれば、LEDの光束の変動を最小限に抑えられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る直流電源装置は、交流電圧を全波整流し、照明負荷に対して並列接続されたコンデンサを介して、該照明負荷に負荷電流を供給する直流電源装置であって、以下の充電手段と、入力電圧検出手段と、制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
前記充電手段は、前記全波整流後の整流電圧を一次巻線に対する一次電圧として受け、二次巻線の二次電圧を前記コンデンサに印加するトランス、前記一次巻線に直列接続されたスイッチング素子、および、前記二次巻線に直列接続されて整流した電流を前記コンデンサの正極に供給するダイオードを有し、前記コンデンサを充電する。また、前記入力電圧検出手段は、前記トランスの一次電圧の瞬時値を検出する。
【0011】
前記制御手段は、オン幅を可変とするスイッチング制御信号で前記スイッチング素子を制御し、前記充電手段は、前記スイッチング素子がオン状態の時に、一次電圧により前記トランスのコアにエネルギーを蓄積し、オフ状態で該エネルギーを放出して二次電圧を誘起し、前記ダイオードを介して前記コンデンサを充電する。
【0012】
前記制御手段は、具体的には以下の基準波形作成手段と、比較手段と、オン幅補正手段とを有する。前記基準波形作成手段は、検出される一次電圧の瞬時値に基づいて、交流電圧の1周期に相当する前記一次電圧の1サイクル分の基準波形を作成する。前記比較手段は、前記一次電圧の瞬時値を取得し、該瞬時値と、該瞬時値の検出タイミングに対応する前記基準波形の振幅値とを比較する。前記オン幅補正手段は、前記振幅値の前記瞬時値に対する比に基づく補正値で、前記スイッチング制御信号のオン幅を補正する。そして、前記制御手段は、前記一次電圧の前記1サイクル中に複数回の瞬時値を取得して、該瞬時値の検出タイミング毎に前記オン幅を補正することにより、前記基準波形で交流電流の波形を整形するのである。
【0013】
また、本発明のLED照明器具は、前記直流電源装置と、照明負荷としてのLED負荷とを備えることを特徴とする。
なお、本発明では、トランスの一次電圧を検出する入力電圧検出手段を備えるが、例えば、全波整流後の整流電圧を適切な大きさに分圧した値を検出して、これを一次電圧の瞬時値とみなすことができるし、交流電源の交流電圧を検出して、これを一次電圧の瞬時値とみなすこともできる。
【0014】
ここで、前記振幅値の前記瞬時値に対する比に基づく補正値とは、前記振幅値の前記瞬時値に対する比をn条(nは正の数値)した値であることが好ましい。また、前記nの数値は、1.5以上、2.5以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記基準波形作成手段は、該一次電圧の1サイクル中に複数回検出される瞬時値を繰り返し取得して、1サイクル中で同じ位相の複数の瞬時値について平均を取って、その平均値を基準波形の各位相における振幅値として保持することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の直流電源装置およびLED照明器具による効果を図1に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る制御手段の構成を具体的に示したブロック図である。制御手段は、スイッチング制御信号(PWM信号)を作成するマイクロコンピュータ(CPU)と、このPWM信号のオン幅を補正する光束変動抑制回路70と、補正されたPWM信号をゲートドライブ信号として入力されるFET駆動回路とを有する。
【0017】
図1に基づく説明では、本発明の制御手段を構成する基準波形作成手段、比較手段および幅補正手段が、それぞれ特定の論理回路として構成されている。すなわち、同期信号生成回路72と正弦波発生回路74が本発明の基準波形作成手段に相当し、比較器76が比較手段に相当し、掛け算器78がオン幅補正手段に相当する。この制御手段は、交流電源の電圧を検出して、これをトランスの一次電圧の瞬時値とみなして光束の抑制を行う。
【0018】
同期信号生成回路72は、交流電圧Vの周期的変化から、これに同期する同期信号を生成する。例えば交流電圧Vの瞬時値が零になるタイミングでパルス波を生じて、同期信号を生成する。次に正弦波発生回路74は、同期信号に基づき、交流電圧Vと同じ最大振幅の正弦波を発生し、これを基準波形Vにする。なお、基準波形Vは、LEDの点灯中、常に発生させてもよいし、定期的に正弦波発生回路74を動作して得られた基準波形Vを保持して、この基準波形を一定期間繰り返して使用してもよい。
【0019】
比較器76は、LEDの点灯中、常に交流電圧Vの瞬時値と、これに対応する基準波形Vの振幅値とを比較する。なお、少なくとも交流電圧Vの1周期で複数箇所の比較を実行する。掛け算器78では、比較器76で比較された2値の比に基づく補正値を用いて、PWM信号のオン幅Pを補正する。例えば、基準波形Vの振幅値の交流電圧Vの瞬時値に対する比をn条(nは正の数値)した値、すなわち(V/Vを補正値として、CPUからのオン幅Pにこの補正値を掛けて得られる値を、補正後のオン幅Pとしてもよい。これによって、掛け算器78からオン幅Pを増減されたPWM信号が発せられる。
【0020】
なお、本発明の制御手段は、図1のような論理回路からなるものに限られず、例えば、マイクロコンピュータ(CPU)にて基準波形を作成し、一次電圧の瞬時値との比較を行って、オン幅の補正を実行するようにしてもよい。
【0021】
このように、本発明の直流電源装置を使って、一次電圧の瞬時値と基準波形との比較を常に行えば、交流電源の電圧変動が発生した場合に、その変動を瞬時に検出することができる。さらに、基準波形の振幅値と一次電圧の瞬時値との比に基づく補正値を使って、即座にスイッチングのオン幅を補正するので、負荷電流を供給するコンデンサに蓄積された電荷量は従来のように大きく変化しないで済む。そのため、コンデンサからLEDへの負荷電流の変動を抑えることができ、LEDの光束の変動を最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る制御手段の主要構成を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明の第一実施形態にかかるLED照明器具の全体回路図である。
【図3】前記LED照明器具の制御回路のブロック図である。
【図4】前記制御回路が実行する相似波形作成処理のフローチャートである。
【図5】前記制御回路が実行するオン幅の補正処理のフローチャートである。
【図6】前記制御回路によるPWM信号のオン幅の補正方法を説明するための図。
【図7】前記LED照明器具の光束の時間変化を示すグラフである。
【図8】本発明の第二実施形態にかかるLED照明器具の全体回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第一実施形態>
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。図2に第一実施形態に係るLED照明器具の全体構成を示す。LED照明器具は、交流電流を用いて直流電流を生成する直流電源装置10、および、直流電源装置10から負荷電流を供給されて点灯するLED負荷(以降LEDと示す)を有して構成されている。
【0024】
本発明のポイントとなる直流電源装置10の制御システムに関して詳しく説明する。直流電源装置10は、ダイオードブリッジなどで構成される全波整流回路DBと、LEDに対して並列接続された平滑コンデンサC(電解コンデンサ)と、全波整流回路DBの後段に接続され整流電流を電力変換して平滑コンデンサCを充電する充電回路2と、この充電回路2を制御する制御回路(制御手段)4とを有する。
【0025】
充電回路2は、フライバック・コンバータと呼ばれ、平滑コンデンサCを介して一定電流をLEDに供給することができる。また、充電回路2は、力率改善回路としても機能し、全波整流回路DBに入力される交流電流を歪みのない正弦波に整形することができる。本実施形態では、整流電圧の抵抗Rによる分圧の瞬時値に基づいて、電流波形を整形することで力率を改善する。
【0026】
充電回路2は、具体的にバイパスコンデンサC、フライバック・トランスT、スイッチング素子QおよびダイオードDを有する。バイパスコンデンサCは、全波整流回路DBの出力端同士を結ぶもので、全波整流回路DBからの整流電流を部分平滑するため、および、スイッチング素子Qのオンオフ駆動により断続された電流の影響がAC電源側に及ぶことを防止するために設けられている。トランスTは、全波整流後の整流電圧を一次電圧として二次電圧を平滑コンデンサCに印加するように設けられている。
【0027】
スイッチング素子Qは、トランスTの一次巻線T1a に直列接続されていて、オンオフ駆動により二次巻線T1b に二次電圧を誘起させる。スイッチング素子Qのドレイン側端子は、一次巻線T1a に接続され、Qのソース側端子は全波整流回路DBの負極端子側であるグランドラインに接続されている。スイッチング素子QにはNチャネルのエンハンスメント形のMOSFETを使用する。制御回路4に設けられている駆動回路14からスイッチング素子Qのゲートに駆動電流が供給されてゲート電圧が生じると、ドレイン−ソース間に電流が流れる。この状態をスイッチング素子Qのオン状態という。一方、ゲートに駆動電流が供給されず、ドレイン電流が流れない状態をオフ状態という。
【0028】
ダイオードDは、二次巻線T1b に直列接続されて二次電流を整流し、整流後の二次電流を平滑コンデンサCの正極に供給する。
【0029】
また、全波整流回路DBからの整流電圧の分圧を検出するための抵抗R、Rの直列回路が、充電回路2のバイパスコンデンサCの端子間を結んでいる。このように本実施形態では、抵抗の端子間電圧Rを入力交流電圧Vとして検出する。
【0030】
充電回路2にはノイズ除去回路3が設けられている。ノイズ除去回路3は、ダイオードDおよびノイズ除去コンデンサCの直列回路と、抵抗Rとを有して構成されている。直列回路(DおよびC)は、トランスTの一次巻線の両端子を結ぶように接続されている。ここで、ダイオードDのアノード側端子は、一次巻線T1a とスイッチング素子Qの接続点につながれ、カソード側端子はノイズ除去コンデンサCに接続される。ノイズ除去コンデンサCおよび抵抗Rは並列回路を形成している。
【0031】
充電回路2は以上のように構成され、平滑コンデンサCに整流電流に基づくエネルギーを蓄積する。そして平滑コンデンサCに蓄積されたエネルギーによってLEDに負荷電流Iが供給されるようになっている。この充電回路2は本発明の充電手段に相当する。
【0032】
平滑コンデンサCの負極側とLEDとの結線上には、LEDに流れる負荷電流Iを検出するための抵抗Rが配設されている。
【0033】
制御回路4は、図3のブロック図のように、マイクロコンピュータ(CPU)6と、入力交流電圧Vの検出用のADコンバータ8と、負荷電流Iの検出用のADコンバータ12と、スイッチング素子Qに駆動電流を供給するFET駆動回路14と、図示しないROMおよびRAMを有し、スイッチング素子Qの駆動制御システムを構築している。
【0034】
ADコンバータ8は、入力交流電圧Vの瞬時値の絶対値を検出する。本実施形態では、バイパスコンデンサCの端子電圧である整流電圧が抵抗R、Rによって分圧されて、ADコンバータ8が認識可能な電圧レベルに落とされる。ADコンバータ8は、分圧された電圧をアナログデータとして検出して、これをCPU6で認識可能なデジタルデータ(数値)に変換し、これをCPU6に向けて出力する。同様に、抵抗Rを介して検出されたLEDの負荷電流Iは、ADコンバータ12でデジタルデータに変換されてCPU6に入力される。なお、本発明で全波整流後の直流電圧の分圧を入力交流電圧Vと呼んでいるのは、全波整流後の電圧が周期的な変化をするからである。
【0035】
CPU6では、まず、負荷電流値Iの検出値に基づいてオン幅設定手段62がPWM信号のオン幅P(オン状態の時間)を決定する。このオン幅設定手段62では、負荷電流値Iと基準電流値Iとを比較し、この差分に応じたオン幅Pを決定する。基準電流値Iとして、LED照明の種類毎の最適な負荷電流値データをROMより読み出して比較に用いてもよい。また、LED照明の累積使用期間に応じて徐々に基準電流値Iが変化するようなプログラムを実行してもよい。
【0036】
また、CPU6では、検出された入力交流電圧Vに基づいてスイッチング周波数設定手段64がPWM信号のスイッチング周波数fを決定する。そして、決定されたオン幅Pとスイッチング周波数fを有するPWM信号(本発明のスイッチング制御信号に相当する。)がPWM信号生成手段66で生成される。PWM信号は、オン幅補正手段88に送られて、交流電源の電圧変動が起きた場合にLEDの光束の変化を抑制するように、オン幅Pの補正を受ける。光束変化の抑制手段の具体的な構成については後述する。CPU6は、決定されたスイッチング周波数fおよび補正されたオン幅Pを有するPWM信号(ゲート・ドライブ信号)をMOSFET駆動回路14に送る。
【0037】
FET駆動回路14は、PWM信号に基づいてスイッチング素子(MOSFET)Qを駆動する駆動電流を素子Qに供給する。
【0038】
制御回路4は、以上のように構成され、LEDに流れる電流の定電流制御を行ないつつ力率改善制御も同時に実行するようにスイッチング素子Qのスイッチングを高周波数制御する。例えば、CPU6のオン幅設定手段62は、検出された負荷電流値Iが予め設定されている基準電流値Iに近づくようにPWM信号のオン幅Pを設定する。スイッチング素子Qのオン状態では、全波整流電流が一次巻線を介してトランスTの磁性体(トランス・コア)に磁場のエネルギーとして蓄積される。オフ状態では蓄積されたエネルギーが二次巻線を介して放出されて二次側に二次電圧を誘起する。その電流によって平滑コンデンサCが充電される。このようにしてオン幅設定手段62によるオン幅Pの調整により、負荷電流Iの定電流制御が実行され、LEDの電流値を安定させている。
【0039】
また、CPU6のスイッチング周波数設定手段64は、交流電源ACから流れ込む入力電流の電流波形を正弦波に近似させるために、スイッチング素子Qのスイッチングの周期(スイッチングのオン幅+スイッチングのオフ幅)を例えば入力交流電圧Vの瞬時値に比例するように制御することで、入力電流の波形を整形し力率改善を行なっている。
【0040】
本発明において特徴的なことは、LEDの点灯中に、交流電源ACからの入力交流電圧Vの瞬時値を常に監視して、入力交流電圧Vが変動したことを瞬時に検出し、即座にPWM信号のオン幅(パルス幅)を補正することによって、LEDの光束の変化を抑制することができることであり、このために本実施形態においては、CPU6が、さらに、相似波形作成手段82、比較手段86およびオン幅補正手段88を有する。
【0041】
<相似波形作成フロー>
図4のフローチャートに基づいて、相似波形作成手段82の動作を説明する。本実施形態では、相似波形作成フローに基づく処理がLEDの点灯中、常に実行される。相似波形作成フローは、PWM信号生成手段66がPWM信号を生成するのと同時にスタートする(S0)。
【0042】
まず、ADコンバータ8を介して入力交流電圧Vの瞬時値の読み込みを行う(S1)。次に、同期信号の抽出を行う(S2)。例えば、入力交流電圧Vの瞬時値が零になるゼロクロスのタイミングを2回検出する毎に、同期信号を発生して、この同期信号の有無を判別する(S3)。これで交流電源の交流電圧の1周期に相当する同期信号が生じる。同期信号が有る場合は、ウェーブ・メモリーWM[i]のインデックスiを初期化(iを零にすること)する(S4)。初期化されたウェーブ・メモリーWM[0]に入力交流電圧Vの瞬時値を保存する(S5)。ここで、WM[i]は、プログラミングで用いるデータの集合体である配列を示す。
【0043】
S5の処理でWM[0]に1つ目の瞬時値が保存された後、S1の処理に戻り、S1〜S5の処理を再び実行する。S1の処理で2つ目の瞬時値を読み込んだ後、未だ同期信号が抽出されなければ(S2)、同期信号は無しと判別され(S3)、インデックスiを初期化せずに、次のインデックスi(=1)のウェーブ・メモリーWM[1]に、2つ目の瞬時値を保存する(S5)。例えば、S1〜S5の処理がm回繰り返されて、WM[m]にm番目の瞬時値が保存された後、S2の処理で次の同期信号が抽出された場合、S4の処理でWM[i]のインデックスiが初期化され、再びWM[0]に新しい瞬時値が保存されることになる。このような繰り返し処理を実行すれば、WM[i]には常にm個の瞬時値が保存されることになる。
【0044】
S5の処理では、WM[i]に過去に保存された瞬時値と、新たに保存される瞬時値との平均値を算出し、その平均値を保存する。例えばWM[0]に対して過去にS5の処理を99回行っている場合、100回目の処理では100個分の瞬時値の平均値を算出し、その平均値をWM[0]に保存する。
【0045】
本実施形態では、同期信号が抽出されてから、次の同期信号が抽出されるまでに、入力交流電圧Vの読み込み処理(S1)を、少なくとも複数回、好ましくは50回〜100回程度、実行できるように、高速で繰り返し処理を実行する。このため入力交流電圧Vの半周期内に存在する複数個の瞬時値がWM[i]にまとめて保存される。このWM[i]はRAM等に記憶される。
【0046】
このWM[i]の各データは、AC電源の交流電圧の1周期に相当する入力交流電圧Vの1サイクル分の波形を構築することができる。入力交流電圧Vの波形は、AC電源電圧の波形に相似しており、相似波形データVとして、以降の補正ループ処理で使用される。本発明で波形が相似しているとは、全波整流後電圧の波形とこれを分圧した入力交流電圧Vの波形との関係を示す。この相似波形データVは本発明の基準波形に相当する。
【0047】
なお、相似波形作成処理は、常時実行されるため、AC電源が一時的に変動して入力交流電圧Vの検出値が大きく外れたとしても、上記のS5での平均化処理によって作成される相似波形データVへの影響はない。本実施形態のように、LED点灯中、常に実行しなければならないものではなく、定期的に相似波形作成処理を一定時間行って、相似波形データVを更新するという処理でもよい。
【0048】
<オン幅補正フロー>
図5のフローチャートに基づいて、比較手段86およびオン幅補正手段88の動作を説明する。まず、比較手段86により、ADコンバータ8を介して入力交流電圧Vの瞬時値が読み込まれる(S11)。また、この瞬時値を読み込んだタイミングに最も近い位相の相似波形データVをウェーブ・メモリーWM[i]の中から取り出す(S12)。好ましくは、瞬時値の読み込みタイミングに完全に一致する位相の相似波形データVをWM[i]の中から取り出すとよい。例えば、相似波形作成手段82で抽出される同期信号を利用して、同期信号のタイミングから瞬時値の読み込みタイミングまでの時間をカウントすることで、対応する位相の相似波形データVをWM[i]から取り出してもよい。
【0049】
次に、比較手段86により、入力交流電圧Vの瞬時値と相似波形データVとの一致・不一致が判別される(S13)。不一致の場合、オン幅補正手段88により、PWM信号のオン幅Pに、(V/Vで表される補正値が掛けられ、補正されたオン幅Pが得られる。この補正されたオン幅Pを有するPWM信号をFET駆動回路14に出力する。FET駆動回路14は、PWM信号に基づいてスイッチング素子Q1のゲートを駆動する(S14)。このS14の処理でオン幅Pが補正された後、S11の処理に戻り、S11〜S13の処理を再度実行する。
【0050】
なお、S13の処理で、入力交流電圧Vの瞬時値と相似波形データVとが一致する場合は、オン幅Pを補正せず、オン幅設定回路62で設定されたオン幅Pを有するPWM信号が、そのままFET駆動回路14に出力される(S15)。このS15の処理後も、S11の処理に戻り、S11〜S13の処理が実行される。このような繰り返し処理がLEDの点灯中、常に実行される。
【0051】
相似波形作成処理およびオン幅補正処理を実行した場合に、全波整流電流の波形がどのように変化するかを、図6に基づいて説明する。同図(A)に、相似波形データVおよび検出される入力交流電圧Vの時間変化を模式的に示した。相似波形データVのカーブ上の黒丸は、ウェーブ・メモリーWM[i]の各データを示す。また、入力交流電圧Vの瞬時値を X 印で示す。
【0052】
例えば、インデックスiが2の時点でのWM[2]に対応するVの瞬時値が、AC電源の電圧変動によって突然低下した場合の、オン幅Pの補正および全波整流電流の波形の変化を、同図(B)に拡大して模式的に示す。
【0053】
比較手段86の処理によりウェーブ・メモリーWM[2]の値に対して入力交流電圧Vの瞬時値が小さくなったことが、瞬時に検出される。そして、相似波形データV(WM[2]の値)の入力交流電圧Vに対する比をn条した値(V/Vにより、PWM信号のオン幅Pが即座に補正される。ここでは補正によりオン幅Pが広がる。同図(B)にて全波整流電流の波形を鋸刃状の線で示すことができるが、従来の場合、図中の丸数字の2の鋸刃線のように、全波整流電流が入力交流電圧Vの低下に追従してしまう。これに対して本発明の光束変動の抑制処理を実行した場合には、オン幅Pが即座に補正されるから、同図の太線の鋸刃線のように、全波整流電流が入力交流電圧Vに追従しないで、基準波形である相似波形データVを追従するように電流波形が整形されるのである。
【0054】
本実施形態の直流電源装置10によれば、図7の光束の時間変化のグラフのように、LEDの光束変動を抑制できる。同図には、本発明の抑制処理を実行した場合および実行しない場合での光束の時間変化を合わせて示す。光束変動を抑制しない場合に、入力電圧が一時的に低下すると、その直後にLEDの光束が落ち込み、続いて大幅に高くなる(オーバーシュート)という変動が生じてしまう。
【0055】
フライバック・トランス型の電力変換回路のようにスイッチング素子を用いてトランスやインダクタに磁場のエネルギーを蓄積、放出させて電力変換を行う回路では、比較的大きめの平滑コンデンサCに蓄えられた十分な電荷によって、LED負荷などへの供給電流を安定化させている。そのため、AC電源などからの入力交流電圧の一時的な低下により、平滑コンデンサCへの電荷の蓄積が低下すると、その回復には時間が掛かり、LEDへの負荷電流が落ち込んでしまう。その後、平滑コンデンサCの蓄積が回復するが、逆に、負荷電流のオーバーシュートを引き起こしてしまう。
【0056】
これに対して、本発明の光束変動の抑制処理を実行する場合、入力交流電圧の低下を瞬時に検知して、即座にPWM信号のオン幅を補正するため、平滑コンデンサCの電荷量の低下を抑え、LEDへの負荷電流の落ち込みが小さくて済み、オーバーシュートも生じない。従って、LEDの光束も、一時的に小さく落ち込むが、従来のような大きな落ち込みやその後のオーバーシュートは生じないで済む。
【0057】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態に係るLED照明器具について図8に基づいて説明する。LED照明器具は、前述の第一実施形態の照明器具に対して、充電回路2と平滑コンデンサCとの間に、チョークコイルLおよび電解コンデンサCのローパスフィルター回路を設けたことが相違するもので、その他の構成は略同様である。
【0058】
スイッチング素子Qがオン状態では、フライバック・トランスTの一次側電流(全波整流後の電流)が増加してトランスTに磁場のエネルギーが蓄積されるが(蓄積モード)、二次側電圧がダイオードDで逆バイアスされているため、二次側の電流は流れない。スイッチング素子Qがオフ状態では、トランス・コアの磁場が電流を維持しようとするため、トランス電圧の極性が反転する。このため、二次側にも電流が流れ(放出モード)、ダイオードD2を介して平滑コンデンサCが充電される。
【0059】
本実施形態では、フライバック・トランスTと平滑コンデンサCとの間に、ローパスフィルター回路を設けることで、スイッチング素子Qがオフターンした時に、平滑コンデンサCへ二次側の電流が急激に流れないようにすることができる。すなわち、ダイオードDのカソード側端子と平滑コンデンサCの正極側端子間に、チョークコイルLを直列接続し、また、Dのカソード側端子とチョークコイルLとの接続部と、平滑コンデンサCの負極側端子とを電解コンデンサCで結んでいる。スイッチング周波数によるリップルは人の目では認識されないが、例えば、AC電源が50Hzの場合には、LEDを流れる負荷電流に僅かに含まれる全波整流後の100Hzのリップル成分が、人によっては認識されることが有り得る。このような場合には、リップルによるLEDのチラツキ発生防止の効果がある。
【0060】
各実施形態の照明器具の直流電源装置10、110は、全波整流回路DBの後段にフライバック・トランス型電力変換回路(充電回路2)を設けて、平滑コンデンサCを充電する、いわゆる一段構成の装置である。これに対して、従来、二段構成の電源装置があった。すなわち、全波整流回路DBの後段にチョッパ型変換回路(昇圧チョッパ型高力率コンバータ)が一段目として設けられ、二段目にフライバック・トランス型電力変換回路(充電回路)が設けられている。チョッパ型変換回路は、AC電源からの交流電圧から定電圧を作り出し、後段の充電回路に供給する。二段構成の電源装置では、前段と後段の間に設けられる電解コンデンサがエネルギーを蓄えるタンクの役目をするので、LEDの光束の変動に関しては、AC電源の電圧変動の影響を受けずに済むが、回路効率の低下および高コストという問題がある。
【0061】
このような二段構成の電源装置に対して、本実施形態の電源装置は、一段構成特有の高い回路効率を維持しつつ、かつ、AC電源の交流電圧の変動に対しては、二段構成の電源装置に相当する光束の変動防止機能を実現でき、さらに少ないコストで製造できるという優位性がある。
【実施例1】
【0062】
以下、実施例に基づき本発明に係るn値の最適値について説明する。発明者は、第一実施形態で示す直流電源回路10の構成をベースにして、本発明の光束変動の抑制処理を実行した。そして、正常波形の入力交流電圧Vを1波形分だけ20%減少および20%増加させるという条件で、その直後の光束の変化量を算出した。なお、オン幅の補正に使用するn値の設定を0.5〜3.5の範囲で変化させて、それぞれの設定値での光束の変化量をシミュレーションした。
【0063】
光束の変化量については、入力交流電圧を1波形分だけ変動させてVとした直後に、一時的に落ち込んだ光束の最大変化量を算出している。なお、20%増加させた場合は、一時的に立ち上がった光束の最大変化量となる。その結果を表1および表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
シミュレーションの結果、n値を2.0として光束変動の抑制処理を実行した場合、入力交流電圧を増加させた場合も、減少させた場合も、その変動に対して光束はほとんど変化しなかった。つまり、正常波形の入力交流電圧V時の光束を基準とすると、n=2.0の場合の光束比は100%となった。
【0067】
n=1.5の場合、入力交流電圧の減少時の光束比は89%で、入力交流電圧の増加時の光束比は109%となり、入力交流電圧が−20%〜+20%で変動した場合にも、光束比の変動を89%〜109%に抑えることができる。正常波形の入力交流電圧V時の光束を基準とすると、n=1.5の場合の光束の変化量は−11%〜+9%となり、ほぼ±10%以内の変化量と言える。
【0068】
また、n=2.5の場合、入力交流電圧の減少時の光束比は112%で、入力交流電圧の増加時の光束比は91%となり、入力交流電圧が−20%〜+20%で変動した場合にも、光束比の変動を91%〜112%に抑えることができる。正常波形の入力交流電圧V時の光束を基準とすると、n=2.5の場合の光束の変化量は−9%〜+12%となり、ほぼ±10%以内の変化量と言える。
【0069】
一方、n値を1.0より小さく設定した場合には、光束比の変動が80%〜120%となり、光束の変化量が±10%以上となってしまう。また、n値を3.0より大きく設定した場合にも、光束の変化割合が83%〜125%となり、光束の変化量が±10%以上となってしまう。
【0070】
そこで、発明者は、入力交流電圧が±20%で変動した場合でも、光束の変化量を±10%以内に抑えることができる場合を、光束の変動抑制が良好であると評価して、最適なn値の設定範囲を1.5〜2.5とした。特に、n値を2に設定する場合に、最も良好な結果が得られることが判った。
【符号の説明】
【0071】
2 充電回路(充電手段)
4 制御回路(制御手段)
6 マイクロコンピュータ(CPU)
10、110 直流電源装置
14 FET駆動回路
70 光束変動抑制回路
72 同期信号生成回路(基準波形作成手段)
74 正弦波発生回路(基準波形作成手段)
76 比較器(比較手段)
78 掛け算器(オン幅補正手段)
82 相似波形作成手段
86 比較手段
88 オン幅補正手段
AC 交流電源
バイパスコンデンサ
ノイズ除去コンデンサ
平滑コンデンサ(コンデンサ)
DB 全波整流回路(ダイオードブリッジ)
ダイオード
LED LED負荷(照明負荷)
フライバック・トランス
スイッチング素子
抵抗(入力電圧検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を全波整流し、照明負荷に対して並列接続されたコンデンサを介して、該照明負荷に負荷電流を供給する直流電源装置であって、
前記全波整流後の整流電圧を一次巻線に対する一次電圧として受け、二次巻線の二次電圧を前記コンデンサに印加するトランス、前記一次巻線に直列接続されたスイッチング素子、および、前記二次巻線に直列接続されて整流した電流を前記コンデンサの正極に供給するダイオードを有し、前記コンデンサを充電する充電手段と、
前記トランスの一次電圧の瞬時値を検出する入力電圧検出手段と、
オン幅を可変とするスイッチング制御信号で前記スイッチング素子を制御する制御手段と、を備え、
前記充電手段は、前記スイッチング素子がオン状態の時に、一次電圧により前記トランスのコアにエネルギーを蓄積し、オフ状態で該エネルギーを放出して二次電圧を誘起し、前記ダイオードを介して前記コンデンサを充電し、
前記制御手段は、
検出される一次電圧の瞬時値に基づいて、交流電圧の1周期に相当する前記一次電圧の1サイクル分の基準波形を作成する基準波形作成手段と、
前記一次電圧の瞬時値を取得し、該瞬時値と、該瞬時値の検出タイミングに対応する前記基準波形の振幅値とを比較する比較手段と、
前記振幅値の前記瞬時値に対する比に基づく補正値で、前記スイッチング制御信号のオン幅を補正するオン幅補正手段と、
を有し、前記一次電圧の1サイクル中に複数回の瞬時値を取得して、該瞬時値の検出タイミング毎に前記オン幅を補正することにより、前記基準波形で交流電流の波形を整形することを特徴とする直流電源装置。
【請求項2】
請求項1記載の直流電源装置において、
前記振幅値の前記瞬時値に対する比に基づく補正値とは、前記振幅値の前記瞬時値に対する比をn条(nは正の数値)した値であることを特徴とする直流電源装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の直流電源装置において、
前記nの数値は、1.5以上、2.5以下であることを特徴とする直流電源装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の直流電源装置において、
前記基準波形作成手段は、該一次電圧の1サイクル中に複数回検出される瞬時値を繰り返し取得して、前記1サイクル中で同じ位相の複数の瞬時値について平均を取って、その平均値を基準波形の各位相における振幅値として保持することを特徴とする直流電源装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の直流電源装置と、照明負荷としてのLED負荷と、を備えることを特徴とするLED照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−191775(P2012−191775A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53875(P2011−53875)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000126274)株式会社アイ・ライティング・システム (56)
【Fターム(参考)】