説明

相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法

【課題】比較的簡易な方法で、低コストで、光の照射方向に対してより簡便にブロック共重合体の相分離構造の配向制御が可能となり、基板に対してその相分離構造を平行方向に配向制御が可能となる相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】光異性化挙動を利用することで光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有したドメイン(A)と、ドメイン(A)の等方相転移温度以下に、ガラス転移点、もしくは融点をもつドメイン(B)からなり、かつシリンダー状に相分離構造を形成するブロック共重合体の薄膜薄膜2が基板1上に設けられ、光配向制御可能な波長の非偏光を薄膜2に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射し、光の入射方向に構造(a)を配向させた後、熱処理により相分離構造形成を行うことで、ブロック共重合体の形成するシリンダー状の相分離構造を基板1に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内に平面内配向制御した相分離構造の形成手法及び薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法に関し、特に、比較的簡易な方法で、低コストで、光の照射方向に対してより簡便にブロック共重合体の相分離構造の配向制御が可能となり、基板に対してその相分離構造を平行方向に配向制御が可能となる相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造は全体の構造が破壊されない温度で加熱することにより、ナノスケールにおける構造成長が実現できる。しかし、各ドメインのミクロ相分離構造がランダムに配向したマルチドメインになるのが通常である。また、バルク材料の相分離構造においては、個々のドメインが無秩序の配向したマルチドメイン構造を与えるため、ミクロ相分離構造が形成するパターンをリソグラフィにおけるマスクパターンへの応用や、光学的用途への応用は困難である。
これらの用途へ展開するためには、規則構造を形成するドメインの配向制御は不可欠である。現在、様々な加工処理によって相分離構造の配向制御が可能となりつつある。例えば、基板の表面自由エネルギーを制御する手法(非特許文献1)や、基板の表面に凹凸構造を形成した上で相分離構造を形成する手法(特許文献1)、相分離構造を形成する際に電圧をかける(非特許文献2)、シェアリングする(非特許文献3)、有機溶媒雰囲気下にて熱処理を行う(非特許文献4)など、様々な手法が確立されつつある。
【0003】
これらのように、基板への加工処理やポリマー膜への外的摂動を与えるといった手法は配向制御を可能にする一方で、前処理工程を複雑にしてしまうといった問題がある。特に、基板への加工に関して述べると、表面処理は類似のブロック共重合体を合成する必要があり、基板へのパターニングは電子線描写により形成するために非常に高コスト、かつ時間を要する。また、従来から行われていた光配向プロセスでは照射する波長を限定するためにレーザーを用いる必要があることで、装置が高価になることや、紫外光や可視光を組み合わせ露光量や照射時の熱処理条件が複雑であるといった問題があり、電圧印加や有機溶媒雰囲気下での熱処理は装置が複雑になり、かつ安全面に不安が残る。
こういった外場を利用した配向制御に対し、ブロック共重合体の構造を工夫する手法も最近では確立されてきた。例えば、液晶ドメインを含むブロック共重合体に相分離構造を形成させることで、液晶の配向力によりある程度の規則性を持ったミクロ相分離構造の形成を可能とする手法である(特許文献2、非特許文献5)。
【0004】
しかし、これらの手法でもシリンダー相分離構造を基板に対して平行に配向制御するのみであり、結局はマルチドメイン化することで360°どちらにでもパターンの方向が形成される可能性があり、面内の方向はランダムなパターンになってしまうといった問題があった。そこで、光異性化による配向制御が可能なアゾ基を含んだブロック共重合体を用い、偏光照射によるアゾ基を含んだ液晶配向を利用した相分離構造配向制御の報告がある(非特許文献6、7)。しかし、偏光照射によるアゾ基を含んだ液晶配向制御には平面内の配向(面内配向)だけでなく、光の入射方向に対しての配向(面外配向)も起こってしまうことが報告されている(非特許文献8)。このことから、アゾ基を含んだ偏光利用による配向制御では、ある温度領域において、ある一定量の光を照射する必要があり、工程が複雑になるだけでなく、温度範囲が低すぎたり高すぎたりした場合や照射量が少ない場合には配向制御が行われない、もしくは照射量が多すぎた場合は求めていた方向とは異なる方向へ配向してしまうという問題があった。また、選択的な波長に対して偏光を作製するために波長選択性の光学フィルターと偏光作製のための光学フィルターの二枚を使用するため、光の強度がかなり減少してしまい必要な露光量を得るためにはかなりの時間が必要であるといった問題があった。
【0005】
【特許文献1】特許第3926360号
【特許文献2】特開2004-124088
【非特許文献1】Ad.Mater.2007,19,4552-4557
【非特許文献2】Sciencevol.273,931-933,1996
【非特許文献3】Naturevol.225,538-539(1970)
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.2003,125,12211-12216
【非特許文献5】Macromolecules 2002,35,3739-3747
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc 2006,128,11010-11011
【非特許文献7】Chem. Mater. 2007,19,1540-1542
【非特許文献8】機能材料、2000年、9月号、Vol.20、No.9、50-57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、比較的簡易な方法で、低コストで、光の照射方向に対してより簡便にブロック共重合体の相分離構造の配向制御が可能となり、基板に対してその相分離構造を平行方向に配向制御が可能となる相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、光異性化を利用することで光配向制御可能な成分を含むブロック共重合体に対して、室温にてある一定の露光量を照射さえすれば、露光量が多すぎた場合でも、配向方向が一方向に定まる非偏光を照射する手法を用い、その照射方向を薄膜に対して入射角45°以上90°以下の範囲で照射することにより、光の入射方向に対してほぼ平行に光配向制御可能な成分を配向制御させ、その後熱処理により相分離構造を形成することで光配向制御の影響を利用しブロック共重合体のシリンダー相分離構造をより簡便に基板に対して一方向にそろった平行配向制御を可能としたものである。
すなわち、本発明は、光異性化挙動を利用することで光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有したドメイン(A)と、ドメイン(A)の等方相転移温度以下に、ガラス転移点、もしくは融点をもつドメイン(B)からなり、かつシリンダー状に相分離構造を形成するブロック共重合体の薄膜薄膜が基板上に設けられ、光配向制御可能な波長の非偏光を薄膜に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射し、光の入射方向に構造(a)を配向させた後、熱処理により相分離構造形成を行うことで、ブロック共重合体の形成するシリンダー状の相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内にとした平面内配向制御した相分離構造の形成手法を提供するものである。
また、本発明は、光異性化挙動を利用することで光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有したドメイン(A)と、ドメイン(A)の等方相転移温度以下に、ガラス転移点、もしくは融点をもつドメイン(B)からなるブロック共重合体の薄膜が基板上に設けられ、光配向制御可能な波長の非偏光を薄膜に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射し、光の入射方向に構造(a)を配向させた後、熱処理により相分離構造形成を行うことで、ブロック共重合体の形成するシリンダー状の相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内に平面内配向制御した相分離構造を形成する薄膜の製造方法を提供するものである。
本発明におけるシリンダーとは、円筒状の構造のことであり、ブロック共重合体の薄膜内にて重量分率の少ないほうのドメインが形成する円筒のことであり、円筒状であれば薄膜内である一方向に直線状に伸びていることもあれば、薄膜内で湾曲している状態でもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法によると、ある波長領域の非偏光による配向制御可能な成分を有するブロック共重合体に光配向制御可能な波長の非偏光照射による相分離構造配向制御を実施し、従来の相分離構造配向制御における基板表面加工プロセスに必要だった時間やコストに比べると、光を照射するプロセスのみであるために容易、かつ低コストにて、基板に対してその相分離構造を平行方向に配向制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法は、図1に示すように、光異性化挙動を利用することで光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有したドメイン(A)と、ドメイン(A)の等方相転移温度以下に、ガラス転移点、もしくは融点をもつドメイン(B)からなり、かつシリンダー状に相分離構造を形成するブロック共重合体の薄膜2に対し、光配向制御可能な波長の非偏光3を薄膜2に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射し、光の入射方向に構造(a)を配向させた後、熱処理により相分離構造形成を行うことで、光配向制御の影響を利用しブロック共重合体の形成するシリンダー状の相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内、好ましくは±15°以内で平面内配向制御する。
【0010】
本発明で用いる基板としては、平滑性のある基板、好ましくはブロック共重合体の主要成分に含まれない元素を含む基板かつ透明性を有する基板(例えば、石英板、ガラス板等の基板や、これらの基板表面をシリル化処理等の疎水化処理を施した基板、ポリエチレンテレフタラートやトリアセチルセルロースなどのフィルム)が用いられる。しかし、基板はこれらに限られるものではない。
【0011】
(製膜方法)
本発明において、ブロック共重合体の薄膜の製膜方法としては、特に限定されないが、ブロック共重合体が可溶の溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、四塩化炭素、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、二塩化エチレン、塩化メチル等があげられるが、可溶であれば特に制限はされない。)に製膜時に影響を受けない程度の濃度(好ましくは0.1〜5質量%)にて溶液を調製し、膜厚が数十nm〜数百nm程度になるように塗布することが望ましい。塗布方法としては、通常、ローラー塗布、ディップ塗布、スピンコート塗布、ブラシ塗布、スプレー塗布、カーテン塗布及びその他の方法が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0012】
(ブロック共重合体の組成)
次に、本発明で用いるブロック共重合体の組成について説明する。
ブロック共重合体は、ある波長領域の非偏光による光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有するドメイン(A)、ドメイン(A)の等方相転移温度以下のガラス転移点、もしくは融点を有するドメイン(B)からなるブロック共重合体であり、相分離構造の配向方向を制御可能なシリンダー状の相分離構造を形成するものが好ましい。
ある波長領域の非偏光により光配向制御可能な構造(a)には光照射によって光異性化反応が可逆的に起こり、分子骨格が繰り返し変化して動くもの、またその際の吸収が起こる遷移モーメントが異方性を有するものであれば良い。このような分子系は一般的に光幾何異性体を形成するものが多く、二色性分子とも呼ばれている。たとえば、アゾベンゼン、スチルベンやそれらの誘導体、カルコン類縁体などが知られている。また、非偏光照射により配向制御する際のメカニズムは、光照射によって異性化反応が繰り返し起こる過程を利用し、さらにそれらの異性化反応時に分子の構造が大きく変化することで、分子が徐々にその配向方向を変化させていくことを利用している。それらの分子運動が繰り返される過程で、分子内に光吸収する遷移モーメントが異方性を持っている場合、最終的には異性化反応が起こりにくい位置、つまり光の吸収がおこりにくい位置に移動し分子は安定化する。非偏光を照射した場合、分子の光吸収は光の入射方向に対して遷移モーメントが平行に配向している状態が最も安定となるため、可逆的な異性化を繰り返しながら光の入射方向に対して並ぶことが可能となる。このような光照射時の光異性化を伴う成分であれば上記物質に限られるものではなく、ドメイン(A)にはこのような光異性化挙動を示す構造(a)を側鎖に有したドメインであればよい。
【0013】
例えば、構造(a)として光異性化が容易に起こりやすいアゾ基を含み、非偏光照射によりアゾ基が配向制御し、相分離構造を配向制御すると好ましく、そのようなブロック共重合体として、下記一般式(I)で表される繰り返し構造を有する化合物が挙げられる。ここで示した構造はアゾベンゼン骨格であるが、一般的にアゾベンゼン骨格を有するものが光照射に対して光幾何異性化(トランス体とシス体の異性化)を可逆的に起こしやすく、それらの過程を経てある方向に再配列しやすいという報告があり(液晶の光配向、市村國宏著、2007、ISBN978-4-946553-27-1)、これらの構造が好ましい。しかし、原理的には光異性化が可逆的におこる現象を利用していることに変わりはないため、ここに示した構造式に制限されるものではなく、上記のスチルベン骨格などでも良い。以下アゾ基を含んだ光配向処理について述べる。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Xは水素原子又はメチル基、aは4〜18の整数であり、R’は炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜9のアルコキシ基、ニトロ基、又はシアノ基である。)
さらに、aの数は6〜12であることが好ましい。数が4以上であれば、構造が剛直にならず光配向制御が容易であり、18以下であれば、アゾ基を含んだ液晶成分の配向制御の影響がブロック共重合体の相分離構造の配向制御に対して弱まることが無い。
さらに、R’に含まれる置換基はニトロ基やシアノ基、または炭素数1〜4程度のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)、又はアルコキシ基(メトキシ基、トキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)であることが好ましい。R’がこの程度のかさ高さであれば、trans−cisとcis−trans光異性化の繰り返しによって配向制御を行う際に立体障害が大きくなりすぎることが無く、異性化し易く、制御が容易である。
【0016】
ドメイン(B)にはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシドまたはそれら誘導体などが挙げられる。
また、光配向制御を実施するために、光配向可能であるドメイン(A)成分の割合が65質量%以上95質量%以下、さらには80質量%以上90質量%以下であることが好ましい。シリンダー相分離構造の配向制御を行うためには、シリンダーの周りにあるマトリックス成分を光配向可能なアゾ基を含んだドメインとする必要があり、それらの割合が多いほどより効率よくシリンダー相分離構造の配向制御を可能とするためである。
また、ブロック共重合体の分子量は光配向による液晶成分の影響が及ぶ程度が好ましい。詳細には、重量平均分子量で10000〜500000程度、さらには10000〜100000程度であることがより安定な光配向制御による相分離構造配向制御が可能である。
【0017】
(光配向処理)
本発明の方法においては、基板上に形成した共重合体の膜に光配向制御可能な波長の非偏光を薄膜に対して斜め方向から照射する(図1参照)。詳細には入射角45°以上90°以下であればよく、60°以上80°以下であるとさらに好ましい。入射角が大きくなるほど、アゾ基はより基板に対して平行に近い方向に配向制御することが可能となるが、入射角が大きくなりすぎると非偏光の照射される面積が減少し露光量を大きくするために長時間の照射を行わなければならなくなる。
また、使用する非偏光の波長は405nm以下の波長が取り除かれていると好ましく、415〜550nmの範囲であることがさらに好ましい。一般的に、これらの波長範囲で光を照射した場合、アゾベンゼンのトランス体とシス体の割合が9:1程度の光定常状態になることが知られている。そこで、このような波長範囲の非偏光を用いることで、本発明で使用しているアゾ基を含んだ液晶のトランス体からシス体への変換が僅かに起こり、シス体からトランス体への変換が主に行われ、光異性化が繰り返し起きることにより、光の照射方向に対して平行にそろった液晶を形成できるためである。
【0018】
本発明で用いる非偏光の露光量は0.3Jcm-2以上が好ましく、より安定な光配向制御を可能とするためには、30Jcm-2以上であることが好ましい。露光量が少なすぎる場合、配向制御されたメソゲン基(側鎖)が少なくなることで、相分離構造の配向制御が不十分になる可能性があるためである。露光量が多すぎる分には配向制御自体に問題はなく、最低限の照度と照射時間を必要とするだけであり、基本的にその他の制限は受けない。あまりに露光量を大きくしすぎることは好ましくない。それは、光照射による共重合体自体の劣化が懸念されるためであり、通常2000Jcm-2以下程度を目安とできる。以上、アゾ基を含むブロック共重合体に関して述べたが、他のスチルベン骨格やカルコン類縁体などの場合はそれらに適した波長の光、露光量を用いればよい。
【0019】
(相分離構造の形成手段)
つぎに、相分離構造形成のためにはブロック共重合体膜を熱によるアニール処理を行うことが好ましい。基板を加熱する場合、通常は、ブロック共重合体を形成する両成分の融点以上、ブロックポリマーが分解する温度以下の温度によって熱処理することが好ましい。また、光配向制御可能な波長の非偏光照射を行った場合には、加熱温度は、ドメイン(A)成分が液晶相になる温度、かつドメイン(B)成分も融解、もしくはガラス転移点を超えた温度、によって熱処理することが好ましい。また、加熱温度はブロック共重合体のドメイン(A)成分が液晶相から等方相へと転移する温度を僅かに超えてもよいが、大きく超えてしまうと配向制御できなくなる可能性があるため、大幅にこの温度を超えないことが好ましい。加熱温度を上記範囲とすることにより、相分離構造を形成するのに十分な高分子の流動性を確保できるので、加熱温度は上記範囲内であることが好ましい。高分子の流動性を確保した状態において温度を保持することで相分離構造が形成される。
上記、光配向処理を室温下で行ったあと、加熱処理により相分離構造形成を促進させることでシリンダー相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内に平面内配向制御を実施することが可能である。
【実施例】
【0020】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。
非偏光による光配向制御が可能なドメインとして、主鎖がメタクリレートで、メソゲン基としてアゾベンゼンを側鎖に含み、このドメインの等方相転移温度よりもガラス転移点の低いポリスチレンをもう一方のドメインとしたブロック共重合体(PS−b−PMA(Az))の合成を行った。以下に合成手順を示す。
【0021】
合成例1[ブロック共重合体PS−b−PMA(Az)の合成]
(ポリスチレンマクロイニシエーターの合成)
シュレンク管にスチレン4.16g(40mmol)、2,2’−ビピリジル125mg(0.8mmol)、1−ブロモエチルベンゼン74mg(0.4mmol)を入れ、2回凍結脱気した後Ar置換した。そこへ臭化銅(I)57.4mg(0.4mmol)を入れ、密栓した後、凍結脱気を2回行った。減圧状態のまま室温で30分攪拌した後、110℃で23時間攪拌した。冷却後、クロロホルムを溶媒として中性アルミナカラムを通し、エバポレーターで濃縮した溶液をメタノールに2回再沈殿精製してポリスチレンマクロイニシエーターを得た。収量3.4g、GPC(溶媒テトラヒドロフラン:THF) Mn:8900,Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)=1.27であった。
【0022】
(ブロック共重合体PS−b−PMA(Az)の合成)
シュレンク管にポリスチレンマクロイニシエーター(PS−Br,Mw:8900)0.15g(0.0169mmol)、CuCl 5mg(0.0507mmol)、11−[4−(4−ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレート(11-[4-(4-Butylphenylazo)phenoxy]undecyl Methacrylate)0.5g(1.01mmol)を入れ減圧脱気した後Ar置換した。そこへアニソール5mL、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン(hexamethyltriethylenetetramine:HMTETA)13.8μL(0.0507mmol)を入れ、密栓した後、凍結脱気を4回行った。減圧状態のまま室温で30分攪拌した後、80℃で23時間攪拌した。冷却後、THFを溶媒として中性アルミナカラムを通し、エバポレーターで濃縮した溶液をメタノールに2回再沈殿精製してブロック共重合体PS−b−PMA(Az)を得た。収量0.4g、GPC(THF)によるMn:23900,Mw/Mn=1.47であった。
【0023】
実施例1[PS−b−PMA(Az)の光配向制御による相分離構造の平行配向制御]
合成例1で製造したブロック共重合体の2質量%トルエン溶液を調製し、ガラス基板上に1500rpm、20secの条件でスピンコート塗布した。その後、室温下にて非偏光可視光(波長415nm以上の光、DeepUVランプ(optical ModuleX;ウシオ電機))に405nm以下の波長をカットする光学フィルターを用いて取り出したもの)を入射角75°として、20分程度照射した(図1参照)。その後、大気雰囲気下、暗室下のオーブンにて140℃1時間の熱処理を行い、相分離構造を形成させた。
次いで、これらのサンプルを原子間力顕微鏡(AFM)にて観察したところ、ライン&スペース上に配列した相分離構造が確認された(図2参照)。この結果から、基板に対してPS−b−PMA(Az)のシリンダー相分離構造が平行に配向制御されたことが確認された。
【0024】
比較例1
合成例1で製造したブロック共重合体の2質量%トルエン溶液を調製し、ガラス基板上に1500rpm、20secの条件でスピンコート塗布した。その後、その後、光照射は行わずに大気雰囲気下、暗室下のオーブンにて140℃1hの熱処理を行い、相分離構造を形成させた。
次いでこれらのサンプルを原子間力顕微鏡(AFM)にて観察したところ、ヘキサゴナルドットパターンに配列した相分離構造が確認された(図3参照)。この結果から、光照射を行わない場合、ブロック共重合体本来の相分離構造形成は基板に対して垂直に配向したシリンダー相分離構造を形成することが確認され、同時に光配向処理を行うことでシリンダー相分離構造を基板に対して平行方向に制御可能であることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上詳細に説明したように、本発明の相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法によると、ある波長領域の非偏光による配向制御可能な成分を有するブロック共重合体に光配向制御可能な波長の非偏光照射による相分離構造配向制御を実施し、従来の相分離構造配向制御における基板表面加工プロセスに必要だった時間やコストに比べると、光を照射するプロセスのみであるために容易、かつ低コストにて、基板に対してその相分離構造を平行方向に配向制御が可能となる。
このため、マスクパターンや光学的用途へ応用できる、ナノレベルの精度が求められる相分離構造及び薄膜の製造方法の形成方法として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の相分離構造の形成方法を説明する図である。
【図2】実施例1で形成された相分離構造を示すAFM像である。
【図3】比較例1で形成された相分離構造を示すAFM像である。
【符号の説明】
【0027】
1:基板
2:ブロック共重合体薄膜
3:光配向制御可能な波長領域の非偏光
4:土台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光異性化挙動を利用することで光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有したドメイン(A)と、ドメイン(A)の等方相転移温度以下に、ガラス転移点、もしくは融点をもつドメイン(B)からなり、かつシリンダー状に相分離構造を形成するブロック共重合体の薄膜が基板上に設けられ、光配向制御可能な波長の非偏光を薄膜に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射し、光の入射方向に構造(a)を配向させた後、熱処理により相分離構造形成を行うことで、ブロック共重合体の形成するシリンダー状の相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内に平面内配向制御した相分離構造の形成手法。
【請求項2】
前記ブロック共重合体が、構造(a)としてアゾ基を含み、非偏光照射によりアゾ基が配向制御し、相分離構造を配向制御する請求項1に記載の相分離構造の形成手法。
【請求項3】
前記ブロック共重合体が、下記一般式(I)で表される繰り返し構造を有する化合物である請求項2に記載の相分離構造の形成手法。
【化1】

(式中、Xは水素原子又はメチル基、aは4〜18の整数であり、R’は炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜9のアルコキシ基、ニトロ基、又はシアノ基である。)
【請求項4】
光配向制御可能な波長の非偏光を基板に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射した後、ドメイン(A)成分が液晶相になる温度、かつドメイン(B)成分が融解、もしくはガラス転移点を超えた温度によって熱処理する請求項1〜3のいずれかに記載の相分離構造の形成手法。
【請求項5】
光異性化挙動を利用することで光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有したドメイン(A)と、ドメイン(A)の等方相転移温度以下に、ガラス転移点、もしくは融点をもつドメイン(B)からなるブロック共重合体の薄膜が基板上に設けられ、光配向制御可能な波長の非偏光を薄膜に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射し、光の入射方向に構造(a)を配向させた後、熱処理により相分離構造形成を行うことで、ブロック共重合体の形成するシリンダー状の相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内に平面内配向制御した相分離構造を形成する薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−143989(P2010−143989A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320705(P2008−320705)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】