説明

真空処理装置

【課題】真空処理装置が大型化すると上蓋開閉に必要な動作範囲が広がり、真空処理装置が設置される空間の天井高さなどに制約を与えることになっていた。また、交換作業時において上蓋等開けた状態に対応できる空間(作業範囲)の確保が必要であり、真空処理装置の周辺には、作業スペースを広げる必要があった。
【解決手段】被処理基板を真空処理する真空容器と、真空容器の開口部を開閉する蓋部材と、蓋部材を真空容器に対して着脱自在に並進移動させる昇降機構と、蓋部材に配置された処理部材を、蓋部材の上方で処理部材のみを表裏反転させる昇降回転機構とを備えて、
処理部材には、被処理基板に対向することにより真空処理を行う構造物が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板などの基材表面に薄膜を形成する等の処理を行う真空処理装置、特に、インライン式真空処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に、FPD(Flat Panel Display)等の生産に使用される、従来のインライン式真空処理装置の概要図を示す。
【0003】
インライン式の真空処理装置10は、例えば、スパッタリングを利用した成膜装置である場合、複数の真空成膜室53と、その前後にある基板55を投入するロード室52、取り出しをするアンロード室54で構成される。真空成膜室53の台数などの構成については、製造するデバイスの構造等の内容によって決定される。真空成膜室53の上部には、例えば、スパッタリング装置であれば、成膜するためのカソードや成膜材料等の基板55に対向する処理部材3が構造物として取り付けられている。
【0004】
基板55は、例えば、水平にロード室52に搬入され、真空成膜室53、アンロード室54
を搬送方向56の方向に順次搬送され、真空成膜室53を通過するときに上部に配置されている処理部材3により、スパッタリングで成膜処理がなされアンロード室54より搬出される。
【0005】
このとき、基板55の搬送方向56に対する垂直方向を幅方向5とする。
真空処理装置10では、例えば、スパッタリングを利用した真空成膜装置の場合、膜の防着シールドの交換、ターゲットの交換等の真空容器内での作業があるため、真空容器の上記作業を可能にする開口部の開閉機構が必要である。
【0006】
図6に、従来の真空処理装置を構成する真空容器1の開閉機構の一例を示す。
真空容器1と真空容器1の開口部を塞ぐ上蓋2で構成され、上蓋2には、さらに上記ターゲット等の成膜材料や成膜するための処理部材3が取り付けられている。
この処理部材3は、通常、上蓋2を開けて作業を行う。真空容器1と上蓋2は、真空容器1の一辺がヒンジ61で接続されており、ヒンジ61を軸として回転することによって上蓋2の開閉が行われる。
【0007】
このとき、上蓋2の開閉は、モーターによる回転、またはシリンダー機構による回転等、採用することができる。図6に表された開閉機構では、上蓋2が180度回転させることによって、真空容器1内部のメンテナンス等の作業と上蓋2の成膜材料や成膜するための処理部材3のメンテナンス等の作業が同時に行われる。
【0008】
また、この開閉機構に上蓋を水平方向にスライドさせるスライド機構を合わせ持った真空処理装置も知られている(特許文献1参照)。
【0009】
さらに、上蓋2の表裏対象に処理部材3を設置して、上蓋2を反転させてメンテナンスなど作業と真空処理を並行して実施する方法も開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3527450号
【特許文献2】特開2006−122825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
FPD等の被処理基板の大型化に伴い、その被処理基板に対して成膜等の処理を行う真空処理装置も大型化している。
真空処理装置を構成する個々の真空容器の大型化のほかに、これらに取り付けられている成膜するための機構、一例としてスパッタリング装置ではターゲットやマグネットなども大型化し、これらを交換する等の作業に必要な開口部に設けられる上蓋等の開閉機構も大きくなる。
【0012】
このことは、真空処理装置が大型化すると上蓋開閉に必要な動作範囲が広がり、真空処理装置が設置される空間の天井高さなどに制約を与えることになる。また、交換作業時において上蓋等開けた状態に対応できる空間(作業範囲)の確保が必要であり、真空処理装置の周辺には、作業スペースを広げる必要がある。
【0013】
図7は、図5においてメンテナンスなど装置内部の作業をするために上蓋2を開いたものである。各真空容器1は、同じ幅方向5に上蓋2を開閉方向62の方向に開く。通常、上蓋2の開閉は、図7のように全ての真空容器1の上蓋2を開ける、もしくは必要なところの真空容器1だけを開ける。
【0014】
しかし、図7のようにすべての上蓋2を開けるのは、基板55の搬送調整など真空処理装置10として内部全体の点検が必要である時、全ての真空容器1内の作業があるために作業効率を考え初めからすべての上蓋を開ける時などであり、真空処理装置の運転上、必然的に生じる作業である。
【0015】
ある真空容器1の内部に対する作業を行う場合、上蓋2が開いた状態にあるため、作業は基本的に作業方向63からの一方向に制限されてしまう。反対側から、もしくは両側からの作業が必要な場合、上蓋2があるために作業方向71の方向からの作業が困難である。
上蓋2に対する作業についても、同様に作業方向64からの一方向からの作業となる。ただし、上蓋2に対する作業の場合は、一つの真空容器1だけを開けることによって、作業方向71を含めた二方向からの作業が可能となるが、この場合、他の真空容器1を開けることができない。
【0016】
本発明では、真空処理装置に対して行う作業に必要なスペースを削減することができ、設置環境の制約を受け難い真空処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の真空処理装置は、 被処理基板を真空処理する真空容器と、真空容器の開口部を開閉する蓋部材と、蓋部材を真空容器に対して着脱自在に並進移動させる昇降機構と、蓋部材に配置された処理部材を、蓋部材の上方で処理部材のみを表裏反転させる昇降回転機構とを備え、
処理部材には、被処理基板に対向することにより真空処理を行う構造体が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
真空処理装置を構成する真空容器の上蓋に取り付けられている処理部材は、上蓋の上方で処理部材のみを反転することができることにより、処理部材に対してだけに必要な作業を行うことができる。このとき、処理部材から引き出される配管、配線等は、処理部材の昇降及び反転等の動きに対しても柔軟に追従できる構成を採っているため、取り外しまた、本発明の開閉機構を用いることによって真空処理装置の幅方向の両側から作業を行うことができる。
【0019】
また、処理部材を配置した上蓋は、真空容器の開口部に対する昇降方向にそって開閉が行われるため、作業に必要な空間を小さくすることができる。そして、上蓋を上昇させる高さについては真空容器内の作業を考慮した高さにすることができるため、高さよる設置場所の制約を受け難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明の真空処理装置の説明に供する概略図であって、処理部材の反転手順を示す図である。
【図2】本願発明の真空処理装置の説明に供する概略図であって、上蓋を開けた状態を示す図である。
【図3】本願発明の真空処理装置の説明に供する概略図であって、(a)上蓋を閉めた状態、(b)上蓋を開けた状態、を示す図である。
【図4】本願発明の真空処理装置を構成する真空容器の説明に供する側面図である。
【図5】従来の真空処理装置の構成例の説明を示す、上蓋を閉めた状態の概略図である。
【図6】従来の真空処理装置を構成する真空容器の概略図であって、(a)上蓋を閉めた状態、(b)上蓋を開けた状態、を示す図である。
【図7】従来の真空処理装置の構成例の説明を示す、上蓋を開けた状態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本願発明の真空処理装置を構成する真空容器の概略図であって、処理部材の反転手順を示す図であり、図2は、本願発明の真空処理装置を構成する真空容器の概略図であって、上蓋を開けた状態を示す図であり、図3は、本願発明の真空処理装置の概略図であって、(a)上蓋を閉めた状態、(b)上蓋を開けた状態、を示す図である。なお、図1及び図3の(a)では、説明上、支柱21を省いている。
【0022】
以下、図1乃至図3を参照して、本願の発明の真空処理装置に関する実施の形態について説明するが、これら図において、各構成要件の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、この発明は何らこの発明の好適例に限定されることなく、この発明の要旨を逸脱することなく多くの変形及び変更が可能である。
【0023】
図1は、この発明における真空処理装置は、真空容器1、上蓋2、例えば、スパッタリング装置ではターゲットなど成膜を行う処理部材3で構成されている。処理部材3は、上蓋2に両端二箇所で支持されて昇降及び反転できる昇降反転機構4となっている。すなわち、昇降反転機構4は、その外観寸法の半分を回転半径分程度として上昇してから反転する。
【0024】
図1に示されているように、処理部材3のみを上昇方向6の方向に持ち上げて(b)の状態にし、反転方向7の方向に真空容器1の内面に向かっていた面(灰色に塗った面)が表に向くように反転させて(c)の状態にし、最後に、再び処理部材3が上蓋2の上に安定して配置されるように降ろして(d)の状態にする。
【0025】
このようにして、上蓋2に着脱可能な状態で配置されている処理部材3に対する交換、メンテナンス等の作業は、上蓋2の上方で反転させることによって、上蓋2を開けることなく真空容器1の両側から(作業方向8)行うことができる。また、処理部材3だけを反転させるために、図6に示した上蓋2全部を開閉させるような開閉機構に比べてその動作範囲を小さくすることができる。
【0026】
すなわち、真空容器1の開口部の一辺を回転軸にして反転方向7の方向に回転するために、上蓋2全部を開閉させていた従来の方法に比べて開閉における動作範囲を小さくすることができる。
【0027】
図2は、図1の真空容器1の四隅に支柱21が設けられ、上蓋2が支柱21にそって不図示の昇降機構により、昇降方向22の方向に昇降できる構造になっている。
【0028】
図3は、本願発明の真空処理装置の(a)上蓋を閉めた状態、(b)上蓋を開けた状態、を示す図であり、真空処理装置10に対する作業についてさらに説明する。
処理部材3に対する作業は、図3(a)の状態、すなわち、上蓋2は下ろした状態で処理部材3を反転させて作業を行う。作業は、作業方向31、32の方向から行うことができる。
また、処理部材3を除く真空容器1の内の作業は、上蓋2を上昇させて作業方向33、34の方向から行うことができる。
【0029】
図4は、本願の発明の真空処理装置を構成する真空容器1の上蓋2を開けた状態及び閉めた状態の両方を示した側面図である。
開けた状態の上蓋、処理部材、昇降反転機構をそれぞれ符号2、3、4とし、閉じた状態では、これらをそれぞれ符号2a、3a、4aとしている。
【0030】
処理部材3、3aへの不図示の配管、及び配線等は、昇降や回転に対応できる屈曲性のあるケース41に収納されている。このケース41は、支柱21に沿うように取り付けられ、上蓋2、2aが閉まるときにはケース41aのように屈曲しながら上蓋2aに追従する。このように、一連の上蓋2、2aの動作中に昇降反転機構4、4a等に干渉しないように施工されている。
【0031】
このため、上蓋2、2aや処理部材3、3aを取り外す必要がない限り、不図示の配管、及び配線等を接続したまま作業を行うことができる。処理部材3、3aの反転動作に対しても、同様の屈曲性のあるケース41、41aを用いることによって昇降反転機構4、4a等への干渉を防いでいる。
【0032】
処理部材3への不図示の配管、及び配線は、例えば、真空容器1がスパッタリング装置であればカソードに接続する電力ケーブル、及びターゲット等の冷却のための水冷配管などがある。電力ケーブルに関しては切り離しや接続作業中の感電の恐れ、水冷配管に関しては接続不十分による漏水や漏電のほか冷却不十分による装置故障の恐れがある。
【0033】
これらのことから配管、配線を接続したまま処理部材又は上蓋の開閉操作が行える構造は、メンテナンスなど作業後の安全な装置復旧に有効である。また、配管、配線の取り外しや接続作業がないことから、メンテナンスなど作業時間の短縮にも有効である。
【符号の説明】
【0034】
1. 真空容器
2. 2a. 上蓋
3. 3a. 処理部材
4. 4a. 昇降反転機構
5. 幅方向
6. 上昇方向
7. 反転方向
8. 作業方向
10. 真空処理装置
21. 支柱
22. 昇降方向
23. 作業方向
31.32. 作業方向
33.34. 作業方向
41.41a. ケース
52. ロード室
53. 真空成膜室
54. アンロード室
55. 基板
56. 搬送方向
61. ヒンジ
62. 開閉方向
63.64. 作業方向
71. 作業方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を真空処理する真空容器と、
前記真空容器の開口部を開閉する蓋部材と、
前記蓋部材を前記真空容器に対して着脱自在に並進移動させる昇降機構と、
前記蓋部材に配置された処理部材を、前記蓋部材の上方で前記処理部材のみを表裏反転させる昇降回転機構とを備え、
前記処理部材には、前記被処理基板に対向することにより前記真空処理を行う構造物が配置されていることを特徴とする真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−98251(P2011−98251A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252621(P2009−252621)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】