説明

真空吸着装置

【課題】高平坦なウエハの研削を実現できる真空吸着装置を提供する。
【解決手段】被吸着体Wを真空吸着する載置面11aを有するセラミックス/ガラス複合多孔体からなる載置部11と、当該載置部の外周を取り囲む環状のガラス/セラミックス複合多孔体からなる周縁部12と、前記載置部の気孔に連通する吸気孔14を備え、前記載置部および前記周縁部を支持する支持部13とを具備し、被吸着体を前記載置面11aおよび前記周縁部表面12aの略同一平面上に吸着固定して平面研削加工に供される真空吸着装置であって、前記周縁部12は閉気孔が略均一に分散された構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体ウエハやガラス基板等を吸着保持する真空吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体装置の製造工程において、半導体ウエハを搬送、加工、検査する場合には、真空圧を利用した真空吸着装置が使用され、均一な吸着を行うために、ウエハを吸着載置する面を多孔質体で形成した真空吸着装置が用いられている。例えば、多孔質体からなる載置部を樹脂またはガラスなどの接着剤により支持部に接合してなり、下方の吸気孔より真空吸引することにより、上記載置部の載置面に半導体ウエハを吸着するものが提案されている。このような真空吸着装置を用いて、例えば半導体ウエハを研削加工する場合には、ウエハの外周端部を支持部に載せて、あるいは、ウエハ外周端部を支持部に載せずに載置部径をウエハ外径よりも大きくしてウエハ全面を載置部に載せて研削していた。
【0003】
しかし、ウエハの外周端部を支持部に載せる方法では、支持部の剛性が載置部と異なることからウエハの外周端部が削れ過ぎるためウエハの平坦度が良くなかった。また、載置部の外径をウエハ外径よりも大きくし、ウエハ全面を載置部に載せる方法では、ウエハが載置されていない載置部の表面から研削液が侵入し、載置部を汚染、目詰まりを起こし吸着力を低下させる問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、載置部の外周に緻密質快削性セラミックスからなる被吸着体の外周端部を支持する周縁部を設けた真空吸着装置を提案した(例えば特許文献1参照)。これによれば、載置部と周縁部との研削性が近似しているため、載置面を研削したときに、載置部と周縁部との間に段差が小さくなり、ウエハを載置する面の平坦度が高まるので、ウエハの外周端部を周縁部に載せて研削を行えば、ウエハの平坦度が向上する。また、周縁部は緻密質なので、載置部の汚染の問題も解消できる。
【特許文献1】特開2004−283936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス粉末とセラミックス粉末を加熱溶融固化させた緻密質体を周縁部に形成する場合、熱膨張を完全に一致させることは困難であるため、冷却後の周縁部材に亀裂が生じることが多かった。
【0006】
また、載置部は気孔があるため、ウエハ真空吸着の際の大気圧やウエハ研削時の研削砥石の押圧によって圧縮変形するが、周縁部は気孔がなく緻密なため変形を起こし難く、載置部と周縁部間で段差が生じることがあった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みて見出されたものであり、周縁部材の亀裂発生を解消するとともに、ウエハ真空吸着の際の大気圧やウエハ研削時の研削砥石の押圧によって生じる段差をなくし、より高平坦なウエハの研削を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために被吸着体を真空吸着する載置面を有するセラミックス/ガラス複合多孔体からなる載置部と、当該載置部の外周を取り囲む環状のガラス/セラミックス複合多孔体からなる周縁部と、前記載置部の気孔に連通する吸気孔を備え、前記載置部および前記周縁部を支持する支持部とを具備し、被吸着体を略同一平面上の前記載置面および前記周縁部表面に吸着固定して平面研削加工に供される真空吸着装置であって、前記周縁部は閉気孔が略均一に分散された構造を有することを特徴とする真空吸着装置を提供するものである。
【0009】
また、前記周縁部の閉気孔の最大気孔径は1.0mm以下、開気孔率は3%以下であり、閉気孔を含む気孔率は、10%以上、50%以下であることを特徴とする。
【0010】
さらに、前記周縁部に含まれるセラミックス粉末の平均粒径は、50μm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、周縁部に閉気孔を略均一に分散させることで、真空吸着時や砥石押圧時に、適度な変形性を有するため、載置部と周縁部と間の段差を低減できる。また、周縁部に形成される気孔は閉気孔であるため載置部との通気を遮断し研削液の載置部への侵入を防ぐことができる。
【0012】
本発明の周縁部の最大気孔径は1.0mm以下である。最大気孔径が、1.0mmよりも大きいと、周縁部の表面に1.0mmよりも大きい開気孔が生じる場合があり、ウエハを研削したときに、砥石の押圧により気孔部分でウエハが撓み、局部的にウエハ厚みが不均一になる研削不良が発生する。このような研削不良は気孔が表面にある場合だけでなく、1.0mmよりも大きな閉気孔が周縁部の表面近傍に存在する場合にも起こり得る。したがって、気孔径はできるだけ小さくすることが好ましく、0.5mm以下がより望ましい。
【0013】
また、本発明の周縁部の開気孔率は3%以下である。開気孔率が3%より大きい場合、通気による吸着力の低下および研削液の侵入による汚染が顕著になる。なお、研削加工により載置面および周縁部表面を形成するため、閉気孔が周縁部の表面に現れて開気孔が形成される。このため周縁部の開気孔を完全に無くすことはできないが、極力小さくすることが好ましい。
【0014】
周縁部の閉気孔を含む気孔率は、10%以上、50%以下であることが望ましい。気孔率が10%より小さいと載置部に比べて周縁部の強度が大きくなりすぎるため段差が顕著になる。また、気孔率が小さくなって緻密化するほど、周縁部に亀裂が生じやすくなる。逆に50%より大きくなっても載置部に比べて強度が低下しすぎるため段差が大きくなる。なお、ここで言う気孔率とは、閉気孔および開気孔の全ての気孔率である。
【0015】
また、ガラス/セラミックス複合多孔体からなる周縁部の構成材料であるセラミックス粉末の平均粒径は、50μm以下が望ましい。セラミックス粉末を微粒とすることで、ガラス/セラミックス複合多孔体が気孔を内包しやすくなり、また、生じる気孔径を小さくすることができる。したがって、50μmよりも大きいと気孔径が大きくなりやすくなるため、好ましくなく、20μm以下がより望ましい。
【発明の効果】
【0016】
上述のように本発明の真空吸着装置によれば、周縁部材に閉気孔を略均一に分散させることで、載置部との段差が低減されているため、ウエハを高平坦に研削加工することが可能となる。また、周縁部に形成される気孔は閉気孔であるため載置部との通気を遮断し研削液の載置部への侵入を防ぐことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。ここでは、被吸着体として半導体ウエハを取り上げ、この半導体ウエハを吸着保持する真空吸着装置について説明することとする。
【0018】
図1は円板形状の真空吸着装置10の垂直断面図である。真空吸着装置10は、円板状の載置部11と、載置部11の外周を囲うように設けられた周縁部12と、載置部11および周縁部12を支持する器状の支持部13とを備えている。図1に示すように、半導体ウエハWは、載置面11aと環状の周縁部表面12aの内側を覆うようにして、真空吸着装置10に吸着保持される。
【0019】
載置部11の開気孔率は20%以上50%以下であることが好ましく、かつ、その平均気孔径は10μm以上150μm以下であることが好ましい。載置部11の開気孔率をこのような範囲とする理由は、前記範囲内であれば、圧損が大きくなって、十分な吸着力を得ることが困難となったり、十分な機械的強度を得ることができなかったり、載置面11aの平坦性が低下したりすることがないためである。また、平均気孔径を前記範囲とするのは、平均気孔径が10μm未満では圧損が大きくなって吸着力が弱くなるおそれがあり、逆に150μm超では載置面11aの面精度が悪化するおそれがあるからである。
【0020】
載置部11はセラミックス/ガラス複合多孔体からなる。つまり、載置部11は、所定のセラミックス粉末とガラスから構成され、連通する開気孔を有する多孔質組織を有している。セラミックス粉末には、例えば、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素等を用いることができる。
【0021】
載置部11に用いられるガラスの軟化点は、周縁部12に用いられるガラスの軟化点よりも高い。これは、載置部11、周縁部12の順番で逐次焼成を行うために、先に形成された載置部11に含まれるガラスが、後の周縁部12を形成するための焼成時に軟化、溶融することがないようにするためである。例えば、載置部のガラスとしては軟化点が1000℃近傍のアルミノ珪酸塩系ガラスを、周縁部のガラスとしては軟化点が900℃以下のホウ珪酸系ガラスを、それぞれ選定することができる。また、周縁部12のセラミックス粉末には載置部11と同じものを用いることができる。
【0022】
周縁部12は、その内径が半導体ウエハWの外径よりも小さくなるように構成されているので、ウエハWの外周端部は周縁部表面12a上に位置することになる。ここで、周縁部12の幅は3mm以上であることが好ましい。周縁部12の幅が3mm以上であれば、研削液を使用してウエハを加工した場合に、周縁部で研削液が確実に遮断されることから、載置部に加工液が侵入し汚染されることはない。また、周縁部12は、その外径が被吸着体である半導体ウエハWの外径よりも2mm以上大きくなるように構成されている。2mm以上大きければ、真空吸着装置の上面を研磨した時に支持部13と周縁部12の境界部に段差が形成されても、段差が被吸着体である半導体ウエハWの外側に位置することになり、半導体ウエハWの外周端部の平坦性には影響を及ぼさない。
【0023】
支持部13の材質も特に限定せず、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素等のセラミックスが用いられる。ただし熱膨張の観点から、載置部のセラミックス粉末と同じものを使用することが好ましい。
【0024】
次に、本発明の真空吸着装置10の製造方法について説明する。
はじめに載置部11を形成するセラミックス/ガラス複合多孔体の原料であるセラミックス粉末およびガラス粉末に、水またはアルコールを加えて混合してスラリーを調整する。原料の混合は、ボールミル、ミキサー等、公知の方法が適用できる。ここで、水またはアルコール量は特に限定しないが、セラミックス粉末の粒度、ガラス粉末の添加量を考慮し所望の流動性が得られるように、水またはアルコールの添加量を調整する。セラミックス粉末とガラス粉末の量は、目標とする開気孔率、セラミックス粉末の粒度、焼成温度およびガラス粘性等を考慮して調整されるが、概ねセラミックス粉末100質量部に対してガラス粉末を5〜30質量部の範囲で添加することが望ましい。
【0025】
次に、CIP成形や鋳込み成形等の公知の成形方法、電気炉焼成やホットプレス等の公知の焼成方法、およびダイヤモンド砥石等による公知の研削加工方法により作製したセラミックスの支持部13の載置部が形成される凹部(図示せず)に前記スラリーを充填する。この際、必要に応じて、スラリー中の粗大気泡を除去するための真空脱泡や、充填を高めるための振動を加えると良い。また、吸気孔14および吸気溝15には、載置部となる混合物を注ぐ前に、ろう、樹脂等の焼失部材により閉塞しておく。なお、吸気孔は真空吸着するために必須であるが、吸気溝は必要に応じて無くすことも可能である。すなわち、十分かつ均一な真空吸着力が得られるのであれば、吸気孔のみでも良い。吸気孔の配置は十分かつ均一な真空吸着力が得られるものであれば良く、特に限定しない。吸気溝形状についても同様であり、同心円を所定間隔で配置したもの、格子状に配置したもの、円と十字を組み合わせたもの等、種々の形状を採用できる。
【0026】
該凹部にスラリーを充填し十分に乾燥させた後、ガラスの軟化点以上の温度で焼成する。この際、焼成温度がガラスの軟化点より低いとガラスが溶けずにセラミックス粉末を結合することができず、反対に焼成温度が高すぎると変形や収縮を起こすため、セラミックス粉末を結合し得る範囲で、できるだけ低温で焼成することが望ましい。
【0027】
次に、周縁部12を形成するための環状溝加工を行う。溝加工前は、載置部11と支持部13の内周部が密着した状態なので載置部11の外周部および/または支持部13の内周部を研削加工することにより環状溝を形成できる。
【0028】
周縁部12は、載置部11と同様にセラミックス粉末とガラス粉末を出発原料とする。必要に応じて水またはアルコールを加えても良く、原料の混合も公知の方法を採用できる。ここで載置部11と周縁部12とは、原料であるセラミックス粉末とガラス粉末の配合比において相違する。すなわち周縁部12に外部と連通しない独立気孔を形成するためには、気孔が連通孔である載置部11の場合よりもガラス粉末の割合を比較的多くする必要がある。セラミックス粉末とガラス粉末の混合比は、10:90〜50:50の範囲で調整する。
【0029】
また、周縁部12に用いられるガラス粉末の粒径は、セラミックス粉末と同等か、小さい粒径であることが望ましい。ガラス粒径が大きすぎると、セラミックス粉末の充填にムラが生じるため、閉気孔が均一に分散された構造とならないためである。
【0030】
次にセラミックス粉末とガラス粉末の混合物を周縁部12が形成される環状溝に充填する。充填方法としては、スラリーもしくはペースト状のものを流し込んでも良いし、粉状のものを詰めた後、加圧成形しても良い。
【0031】
上述のように周縁部の焼成を載置部の焼成温度以下の温度で行った後、載置面11a、周縁部表面12aおよび支持部表面13aが略同一平面になるように研削加工を行う。研削加工はダイヤモンド砥石等の通常用いる研削方法により行うことができる。
【実施例】
【0032】
上述した製法により、真空吸着装置を作製した。なお、作製した真空吸着装置は、載置部の直径298mm、周縁部幅6mm、載置部および周縁部の厚さ10mm、全体の直径350mm、厚さ25mmである。支持部としてアルミナ焼結体を使用し、アルミナ粉末(平均粒径125μm)、ガラス粉末(アルミノケイ酸塩ガラス、平均粒径:20μm、軟化点950℃)の複合多孔体(開気孔率30%)からなる載置部を形成した。周縁部も同様にアルミナ粉末とガラス粉末(ホウ珪酸ガラス、平均粒径:10μm、軟化点650℃)を使用した。
【0033】
表1に、作製した各真空吸着装置について、それぞれの周縁部のセラミックス粉末/ガラス粉末の重量比、セラミックス粉末の平均粒径、焼成温度、最大気孔径、開気孔率、閉気孔を含む気孔率(表1;気孔率と記載)および、ウエハを真空吸着し研削を行って評価した結果を記した。セラミックス粉末の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した。開気孔率および閉気孔を含む気孔率については周縁部より約5×5×5mmの試料を5個切り出して原料粉末の比重とアルキメデス法による測定から平均値を算出した。最大気孔径は切断面観察を行って実測した。
【0034】
評価は、−50kPaの真空度(ゲージ圧)で真空吸着した半導体ウエハ(直径300mm、厚さ800μm)を800番のダイヤモンド砥石を使用して100μm研削加工した後、ウエハの外周端部と中央部の厚みの差が1μm以下のものを良好とし、1μmよりも大きいもの、載置部に研削液が侵入したもの、あるいは真空吸着装置の周縁部に亀裂が生じたものを不良とした。ウエハの厚み測定は外周端部と中央部の厚みをそれぞれ5点測定し、厚みの差の最大値により評価した。ウエハ外周から内側に1mmまでの部分を外周端部として測定し、外周から10mm以上内側の部分を中央部として測定した。
【0035】
【表1】

【0036】
本発明の範囲内である実施例1〜6については、全て良好な結果が得られた。一方、本発明の範囲外である比較例1〜4は、ウエハ端部と中央部の厚み差が1μmよりも大きくなり、いずれも不良の結果となった。比較例2では、載置部に研削液の侵入によるシミがみられた。比較例4では、周縁部に亀裂が生じていた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の真空吸着装置の概略構成を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10:真空吸着装置
11:載置部
11a:載置面
12:周縁部
12a:周縁部表面
13:支持部
13a:支持部表面
14:吸気孔
15:吸気溝
W:半導体ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を真空吸着する載置面を有するセラミックス/ガラス複合多孔体からなる載置部と、当該載置部の外周を取り囲む環状のガラス/セラミックス複合多孔体からなる周縁部と、前記載置部の気孔に連通する吸気孔を備え、前記載置部および前記周縁部を支持する支持部とを具備し、被吸着体を略同一平面上の前記載置面および前記周縁部表面に吸着固定して平面研削加工に供される真空吸着装置であって、前記周縁部は閉気孔が略均一に分散された構造を有することを特徴とする真空吸着装置。
【請求項2】
前記周縁部の最大気孔径は1.0mm以下、開気孔率は3%以下であり、閉気孔を含む気孔率は10%以上、50%以下であることを特徴とする請求項1記載の真空吸着装置。
【請求項3】
前記周縁部に含まれるセラミックス粉末の平均粒径は、50μm以下であることを特徴とする請求項1、2記載の真空吸着装置。

【図1】
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