説明

眼新生血管形成症状の治療のためのソラフェニブを含む眼科用医薬組成物

本発明は、眼新生血管形成症状の治療及び予防のためのソラフェニブ、その誘導体又は活性代謝物を含む眼科用医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、未熟児網膜症(ROP)、脈絡膜血管新生(CNV)、加齢性黄斑変性(AMD)、黄斑浮腫、新生血管緑内障及び糖尿病性網膜症(DR)等の、新生血管が形成される、特に後眼房及び網膜の眼新生血管形成症状の治療又は予防に適する、ソラフェニブ又はその誘導体若しくは活性代謝物に基づく眼科用医薬組成物、関連物(association)又は治療的併用物(therapeutic combination)に関する。
【0002】
技術の現状
既存血管からの新たな血管の増殖(血管形成又は新生血管形成)は、生理的な組織成長に必要なプロセスである。しかし成人の場合には、この増殖は、女性の生殖器系での排卵と妊娠の過程、又は(例えば、創傷修復における)組織修復の過程のような特定条件下でのみ起こる。このような場合には、通常その現象の時期と程度が制御される(Klagsbrun et al., Ann. Rev. Physiol., 1991, 53:217−239; Dorrell M et al., Survey of Ophthalmology, 2007, Vol.52, S1, s3−s19)。
【0003】
その一方、未制御の新生血管形成は、固形腫瘍、関節リウマチ、乾癬、並びに眼球においては、角膜血管新生、加齢性黄斑変性(AMD)、黄斑浮腫、未熟児網膜症(ROP)、脈絡膜血管新生(CNV)、糖尿病性網膜症(DR)(Folkman et al., J. Biol. Chem. 267:10931−10934 (1992); Klagsbrun et al., Ann. Rev. Physiol. 53:217−239 (1991); Dorrell M. et al., Survey of Ophthalmology, 2007, Vol.52, S1, s3−s19)及び新生血管緑内障のような種々の症状の原因に関与する。
【0004】
Ferraraは、生理的及び病理学的な血管形成を制御する際のVEGF(血管内皮増殖因子)の役割を実証した(Ferrara N. et al., Endocr. Rev., 18:4−25, 1997)。
【0005】
眼組織中の高濃度のVEGFは、糖尿病患者又は他の虚血性症状を患う患者における新生血管の増殖と相関すること(Aiello L.P. et al., N. Engl. J. Med., 331:1480−1487, 1994)、また、VEGFはAMDを患う患者の脈絡膜新生血管膜に局在すること(Lopez et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 37:855−868, 1996)が同様に観察された。
【0006】
VEGFは、チロシンキナーゼ(TK)と結合したVEGFRファミリーの受容体と相互作用することにより特定の方法で作用する血管形成促進因子であり、その異なるアイソフォームが存在する。その主要な効果は、新生血管の成長のための基質である血管外フィブリンゲルの形成に至る血漿タンパク質の血管外遊出を誘発することである。VEGFは、内皮細胞の開窓(fenestration)も誘発する(Ferrara N. et al., Endocr. Rev., 18:4−25, 1997)。
【0007】
血管内皮に対するVEGFアイソフォームの効果を、Yla−Herttuala et al., JACC, 2007 (49):1015−1026より修正した以下の表1と、図1及び図2に模式的に示す。
【0008】
【表1】

【0009】
VEGFの効果(表):AMD、未熟児網膜症(ROP)、糖尿病性網膜症、CNV及び新生血管緑内障のような網膜虚血に関連する変性眼疾患を患う患者の眼組織においては、高濃度のVEGFが確認された。この点において、虚血はVEGFの上方制御を誘発する要因の1つであると考えられる(Ferrara N. et al., Endocr. Rev., 18:4−25, 1997; Aiello L.P. et al., N. Engl. J. Med., 331:1480−1487, 1994)。
【0010】
AMDは、深刻で不可逆的な視力の低下をもたらす加齢に伴う網膜変性症状である。AMDの開始に至る原因は未だ良く分かっていないが、以下のもの:家族歴、喫煙、糖尿病、アルコール消費及び過剰な日光被爆を含むと考えられている(D’Amico, N. Engl. J. Med., 331:95−106, 1994; Christensen et al., JAMA, 276:1147−1151, 1996)。
【0011】
AMDは、網膜浮腫、硝子体網膜出血又は網膜剥離とこれに続く視力低下(VA)に関連する可能性のある網膜、虹彩及び脈絡膜(CNV)の異常な新血管新生−その結果として漏出又は出血に関連する可能性のある機能不全新生血管が形成する−により特徴付けられる。
【0012】
CNVは、種々の要素、即ち、既存の新血管新生、更なる新血管新生及び炎症により特徴付けられる。従って、理想的な治療法はこれら全ての要素に調和的に作用する必要がある。残念ながら現在利用可能な治療法は、その代わりにCNVの個々の要素に作用するものであるため、更に明確にするために示した添付の図3から分かるように、症状の解決にはそれ自体では十分でない。
【0013】
実際CNVは、PDT療法(ノバルティスファーマ株式会社製、ベルテポルフィン、Visudyne(登録商標)を用いた光線力学的治療)と、抗VEGF又はPDTと、ステロイド又は血管新生抑制コルチセン(cortisene)との併用により現在治療されている。PDTは治療開始時に既に存在する新生血管にのみ作用することから、この治療的併用は、新生血管の損傷を安定化し、CNVを患う患者の視力低下を遅める−しかし停止することなく−ことにより実施される(Kaiser, Retina Today, May/June 2007)。
【0014】
CNVに関する原因病理学的(etiopathological)な研究により、網膜症状に付随する血管形成に関与し、アンジオポエチン、TGF−α、TGF−β及び他の増殖因子と共に腫瘍の発生にも関与する主要因子の1つとしてのVEGFが同定可能となった(Ferrara, Laboratory Investigation, 2007, 87, 227−230)。この点に関し、VEGFは血管拡張、血管透過性及びタンパク質分解酵素の放出の増加のような血管形成促進効果を有し、結果として組織の再構築を伴う。CNV治療用の抗VEGF(当初は腫瘍学的治療法のために開発された)について実施した研究は、CNVの臨床治療においてペガプタニブ(ファイザー株式会社製、Macugen(登録商標))及びラニビズマブ(ジェネンテック社製、Lucentis(登録商標))の使用をもたらした(図5)。更に、乳癌、肺癌及び直腸結腸癌の治療用に承認された抗VEGFであるベバシズマブ(ジェネンテック社製、Avastin(登録商標))が、AMD治療において「適応外」で現在使用されている。
【0015】
抗VEGFは、新血管新生の進行を阻害するのでPDTに対し補完的に作用するが、既存のCNVに対しては作用しない。この理由のため、抗VEGFは臨床治療において通常PDTと併用される。
【0016】
PDTとは対照的に、抗VEGF療法は患者の視力(VA)を実際に改善するが、この効果は長期間にわたる頻回投与(通常は毎月)の場合にのみ達成される(Lee, American Academy of Ophthalmology 2007 Annual Meeting, Scientific Paper PA 060 presented Nov. 12, 2007)。
【0017】
ステロイド及び血管新生抑制コルチセンは、症状の炎症要素と新生血管形成に作用する際にPDTに関与する。
【0018】
糖尿病性網膜症は、約20年の期間にわたり多くの糖尿病患者が発症する糖尿病の合併症である。この症状においては、複数の段階が認識され得る:1)早熟段階、即ち、疾患の第1段階であり、ここでは網膜動脈が弱まることから漏出、微量出血及び網膜浮腫が生じ、そのため視力が低下する、2)増殖段階であり、ここでは網膜が虚血に陥り、組織の酸素付加を適切に維持するために新生血管が形成される、3)最終段階であり、緑内障又は網膜剥離のような他の合併症の発症をもたらし得る更なる新生血管の形成により特徴付けられる。
【0019】
糖尿病性網膜症の治療は、患者の疾患の進行段階に依存する。新生血管形成は通常はPRP(広範囲網膜光凝固)で治療され、これにより外科医は、症状の進行を停止するために虚血に陥った網膜部分をレーザーで破壊する。しかし、この技術は斑の外側で実施できず、患者の視野の周辺部にいくつかの盲目領域が生じる結果となる。
【0020】
硝子体又は網膜の剥離という出血性型合併症の場合でさえ、手術は、硝子体切除による第1のケースと、網膜をその本来の位置に外科的に再付着させることによる第2のケースにおいて実施される。
【0021】
糖尿病性網膜症の治療のための具体的な薬理学的療法はこれまで存在しない。
【0022】
黄斑浮腫は、AMD、糖尿病性網膜症、重症ブドウ膜炎及び網膜色素変性症のようないくつか眼症状の合併症となり得るか、又は眼に対する外科的処置により生じ得る(例えば硝子体切除又は白内障手術により生じるCMO、即ち、類嚢胞黄斑浮腫)ものであり、先進工業国における最も深刻な失明原因の1つである(Campochiaro P.A. et al., BJO 2000, 84:542−545)。
【0023】
黄斑浮腫は黄斑の血管から体液が血管外漏出することに起因し、窩が関連する場合には、網膜神経の機能不全により視力の低下を引き起こす(Campochiaro P.A. et al., BJO 2000, 84:542−545)。生理的条件下では、この血管外漏出は血液網膜関門(BRB)の機能性により抑制されるが、BRBの機能不全は黄斑漏出をもたらし、結果として浮腫が形成される。
【0024】
黄斑浮腫の明確な疾病原因機構は知られていないため、この症状の明確な治療法は現在存在していない。黄斑浮腫が糖尿病性網膜症に関与する場合には、多くの場合、抗炎症剤が使用され、黄斑浮腫に白内障手術を施す場合には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を用いた治療が黄斑浮腫の抑制に役立ち、6ケ月を超えて黄斑浮腫を患う個人の視力を改善できることが観察された。
【0025】
コルチコステロイドは、1臨床試験においてプラシーボに対し有効ではないことが証明されたが、それでもなおコルチコステロイドは黄斑浮腫の治療で使用されることが多く、一方黄斑浮腫のある種類では、緑内障治療で通常使用されるある種のカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤(CAI)が有効であることが証明された(Cox S.N. et al., Arch. Ophthalmol., 1988, 106:1190−1195; Fishman et al., BJO, 2007, 91:345−348)。しかし、黄斑浮腫を患う多くの患者は現在利用可能な治療法の恩恵を受けていないため、この症状の新たな治療法を見出す必要がある(Campochiaro, P.A. et al., BJO 2000, 84:542−545)。
【0026】
新生血管緑内障は、糖尿病性網膜症、網膜剥離又は眼虚血症候群の結果生じる網膜虚血に由来し得る。糖尿病性網膜症の場合のように、新生血管緑内障は眼内圧を低下させる手術又は薬剤と併用したPRP(広範囲網膜光凝固)により治療される。
【0027】
しかし、上記した症状を治療する際の制限因子は、副作用の発生のため常に不十分で不満足ではあるが有効と確認された薬剤のコストでもある。
【0028】
コストの概念は表2から推定することができ、表2はある種の薬剤の臨床プロトコルのスキームとAMD治療法の相対年間コストを示す(source:www.pharmamarketing.it)。
【0029】
【表2】

【0030】
発明の要約
本発明の根幹をなす技術的課題は、簡単に要約した技術の現状に示したように、眼球、特に後眼房及び網膜の血管新生症状の予防及び治療のための新しい薬物を提供することであり、この薬物は現在利用可能な抗VEGF療法(Macugen(登録商標)、Lucentis(登録商標))と同程度に有効であるが、これと比べ経済的に有利であり、コルチコステロイドにより生じる副作用(緑内障、白内障)のような、同じ症状に対し「適用外」で現在使用されている、より経済的な他の治療法が有する副作用を有しない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、血管内皮に対するVEGFの効果についての概略図である(Ferrara et al. Endocr. Rev., 18:4−25, 1997より)。
【図2】図2は、血管内皮に対するVEGFの効果を示す(Yla−Herttuala JACC 2007, 49, 1015−1026より)。
【図3】図3は血管形成経路を表す(Current Pharmaceutical Design, 2006, Vol. 12, 2645−2660より)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
今般本出願人は、驚くべきことに下記式を有するソラフェニブ(4−[4−[[4−クロロ−3−(トリフルオロメチル)−フェニル]−カルバモイルアミノ]−フェノキシ]−N−メチル−ピリジン−2−カルボキサミド、(BAY 43−9006))を含む眼科用組成物、及びその誘導体又は活性代謝物が網膜血管新生の発生率を著しく低下できることを見出した。
【0033】
【化1】

【0034】
ソラフェニブは、驚くべき血管形成抑制活性に加え、ペプチド、ヌクレオチド及び抗体型薬剤と比較して優れた化学安定性及び予期しなかった治療上の多用途性を示した。
【0035】
同時に本発明は、CNV、AMD、ROP、黄斑浮腫、新生血管緑内障、及び糖尿病性網膜症のような症状の治療のための、所望により他の有効成分又は有用可能性のある他の治療法と治療上関連させ又は併用してもよいソラフェニブ、その誘導体又は活性代謝物の使用にも関する。ソラフェニブ、その誘導体又は活性代謝物と治療上関連させ又は併用して使用可能な薬剤は、例えば新生血管形成経路を阻害可能なモノクロナール抗体(例えばラニビズマブ)、新生血管形成経路を阻害可能なアプタマー(例えばペガプタニブ)、siRNA、VDA(血管破壊剤)、血管新生抑制コルチセン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、コルチコステロイド、アルベンダゾール、メベンダゾール、CAI(カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤)、カンナビノイド、COX−2選択的阻害剤、iNOS阻害剤、及びこれらの分類の中には入らないが、以下の作用機序のうちの1つと共に作用する分子である、1)ヒスタミン、エイコサノイド(プロスタノイド、ロイコトリエン)、PAF(血小板活性化因子)、ブラジキニン、一酸化窒素、神経ペプチド(ニューロキニンA、サブスタンスP、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin generated peptide)−CGRP)及びサイトカイン(インターロイキン、ケモカイン、インターフェロン、成長因子−GF、腫瘍壊死因子−TNF、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)又は顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)のような炎症伝達物質を阻害する抗炎症剤、2)免疫抑制剤、即ち、メトトレキサート、メサラジン及び誘導体(スルファサラジン、バルサラジン、・・・)、シクロスポリン、アザチオプリン、レフルノミド、タクロリムス等(ピメクロリムス、シロリムス、グスペリムス、エベロリムス)、ミコフェノール酸モフェチル、サリドマイド、レナリドミド。
【0036】
本発明は、ソラフェニブ、その誘導体又は活性代謝物の、β−ラクタミン(beta−lactamine)(ペニシリン、セファロスポリン)、マクロライド、テトラサイクリン、フルオロキノロン、並びに抗菌作用を有する天然ポリペプチド及びその断片のような抗菌剤との、治療的な関連物又は併用物も含む。これら後者には、例えばリゾチーム、ラクトフェリン、メラノコルチン、トロンボシジン(thrombocidin)、及び他の抗菌ペプチドが含まれ、組成物と二次構造により3つの主要グループに分けることができる:1)システインを含むペプチドである、a)逆平行bシート構造を採用する数個のジスルフィド架橋を含むペプチド(デフェンシン、タチプレシン)、b)1つのジスルフィド架橋を含むループ構造を有するペプチド(バクテネシン、ブレビニン、エスクレンチン(esculentin))、2)特定のアミノ酸(PR−39、プロリンとアルギニンBac5及びBac7に富むアピダエシンペプチド及びウシペプチド)を高率で含むペプチド、3)疎水性環境下ではα−へリックス形状を構築するが、溶液中ではランダムな立体構造をとる直鎖ペプチドであり、これは最も数が多く、良く研究されたグループであり、古典的な抗菌ペプチドの殆どがこれに属し、このグループの中の非常に多くの例が知られている(セクロピン、メリチン、マガイニン、デルマセプチン(dermaseptin)、テンポリン(temporin)、ボンビニン(bombinin))。
【0037】
また、本発明の更なる態様は、ソラフェニブと、PDT又は外科的手法のような診療で使用される他の治療法との治療的併用物である。
【0038】
ソラフェニブ(BAY 43−9006、バイエル社)は、複数の標的(VEGF、PDGF、EGF;この点においては、マルチキナーゼ阻害剤と定義されている)に作用し、一般的な抗VEGF活性を有し、腫瘍環境下で実証された血管新生抑制作用(欧州特許公報第1140840号(B1)、バイエル社)を有するジアリールウレアであり、肝細胞癌の治療用に欧州で承認された最初の抗腫瘍剤(Nexavar(登録商標)錠剤)である。
【0039】
ソラフェニブは、網膜新生血管疾患療法で現在使用されているペガプタニブ及びラニビズマブのような抗VEGFの製造に必要なプロセスよりも安価な工業プロセスで化学合成により製造される。
【0040】
ソラフェニブは、VEGF内皮受容体チロシンキナーゼを阻害する(これは、TKI、即ち、チロシンキナーゼ阻害剤である)。
【0041】
バイエルの特許出願(PCT/EP2006/001191)は、皮膚、眼及び耳の炎症型疾患の治療において、場合により他の有効成分との併用によるソラフェニブの治療的作用も確認した。前記特許出願は、特に血管形成要素(網膜炎、ブドウ膜炎及び角膜炎)のない炎症性眼疾患を考察している。
【0042】
血管形成と炎症の2つの要素が同時に存在するとより深刻な症状が生じるが、前記2つの要素は両方共互いに独立して出現し得ることに留意すべきである。この点において、Castro M. R. et al.(Experimental Eye Research, 2004, 79: 275−285)により記載され、本特許出願の序論においても記載したように、抗炎症剤の単なる使用では血管形成もこれに関連する眼症状も解決することができない。
【0043】
眼球表面ではそれぞれが有効であり十分な耐容性を示す有効成分と賦形剤は、後眼房と網膜に対しては効果がないか又は毒性を示す結果となり得ることから、後眼房と網膜の構成要素(硝子体、RPE−網膜色素上皮−及び光受容体のような)の構造上の複雑さを考慮すると、眼球表面疾患の治療用に使用してもよい有効成分の使用可能性は、当業者にとって自明ではない。
【0044】
脈絡膜新生血管をも患い、同時に他の硝子体内抗VEGF薬剤(Kernt. M et al, Acta Ophthalmologica 2008,86:456−458)を用いて治療された患者の腫瘍学的治療のために投与されるソラフェニブを全身的(経口的)に使用する場合、又は網膜新生血管のために他の抗VEGFを硝子体内投与する時間間隔を大きくしようとしてソラフェニブを投与した場合(Diago T. et al, Mayo Clin Proc,2008,83(2):231−234)には、結果としてVAが改善されたという少数の症例を何人かの著者が報告している。
【0045】
数種類の薬剤の同時投与を鑑みると、上記結果を解釈することは困難である。更に、ソラフェニブの複雑な作用機序を考慮すると、前記有効成分は様々な生理的経路を阻害し、そのため眼症状では腫瘍学的療法におけるよりも更に深刻であると考えられる副作用(最も一般的には、吐気、脱力感又は疲労、口と腹部の痛み、頭痛、骨の痛み、脱毛、発赤、手掌の発赤若しくは痛み又は足の痛み−手足症候群−そう痒又は皮膚斑点、嘔吐、腸壁と気道の出血、大脳出血、高血圧)が生じることから、眼症状の治療には全身経路を避けることが好ましい。
【0046】
更に、ソラフェニブとそれらの全身投与に関連するであろう他の薬剤との多くの相互作用が存在する(EPAR Nexavar(登録商標))。
【0047】
本発明の疾患治療のためのソラフェニブの治療係数は、眼球への局所投与を使用することにより増加させることができる。そのため、体内吸収の低下による望ましくない効果の発生を制限しつつ薬理学的効果を得ることができる。更に、局所投与により全身投与と同じ効果を与えるのに必要とされるよりも少ない投与量の使用が可能となる。
【0048】
ソラフェニブ、その誘導体及びその活性代謝物は新油性分子であり、実際には水不溶性であるため、適切に処方する必要がある。この種類の有効成分を投与するためには、以下の限定されない例のような様々な種類の組成物を考慮することができる:懸濁液、軟膏、固体挿入物、ゲル、乳濁液、油性溶液又はシクロデキストリン、リポソーム、ナノシステム若しくはデポーを用いて得られた溶液。
【0049】
また本発明は、ソラフェニブの可溶性誘導体及びその活性代謝物並びにその眼科用組成物、関連物又は治療的併用物を含む。
【0050】
本発明の更なる態様は、後眼房及び網膜の症状の治療又は予防のために、上述した組成物を眼科用に使用することである。前記組成物は、局所投与、結膜下投与、硝子体内投与、網膜下投与、眼周囲投与、眼球後投与、又は強膜近傍眼投与に対応可能である。本発明は、後眼房及び網膜の症状の治療及び予防のための上記組成物の使用をも含み、それを要する患者に対し上述した組成物中の治療上有効量のソラフェニブを投与することを含む。
【0051】
本発明の目的のために効果的に治療される後眼房及び網膜の症状としては、以下を列挙できる:加齢性黄斑変性(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、増殖性硝子体網膜症、未熟児網膜症(ROP)、網膜血管疾患、黄斑浮腫、糖尿病性網膜症、新生血管緑内障及び網膜関連全身症状。ソラフェニブを用いる治療は、所望により前述したように同じ症状を治療するための他の治療法と治療的に関連させて又は併用して実施することができる。前記組成物は本発明の主題を形成する。
【実施例】
【0052】
実験の部
ラット脈絡膜新生血管(CNV)モデルでのソラフェニブ有効性試験
平均重量180〜220gのBrown Norway ラットについて実験を行い、これらのラットを無作為化して投与群に分け、ケタミンとキシラジンを腹腔内注射して麻酔した。
【0053】
麻酔後、トロピカミドを投与して瞳孔を散大させた。各眼球内には、アルゴンレーザー光凝固(波長:485〜514nm、出力:90mW、持続時間:0.1秒、損傷範囲:100μm)を用いて、大口径網膜血管の間の空間に少数のレーザー損傷をつけた。
【0054】
光凝固を施した眼球の硝子体内に−ラットが属する群に応じて−30ゲージの針を備えたハミルトンシリンジを用いて5μlのそれぞれの処置剤を注射して眼球を治療した。
【0055】
ソラフェニブを含む組成物の有効性を測定し、溶媒で処置した対照群と比較した。
【0056】
処置の2週間後、血管造影を行うために各動物の尾静脈にフルオレセインナトリウム溶液100μlを注射した。脈絡膜新生血管(CNV)の発生率を血管造影に基づいて測定し、レーザーにより生じた損傷を、損傷自体の過蛍光の存在又は不存在に基づいてポジティブ又はネガティブとして分類した。
【0057】
結果
ソラフェニブを用いた治療により、対照と比較してCNVの発生率が著しく低下する結果となった。
【0058】
結論
実験データは、網膜新生血管疾患の治療法における薬剤の有効性を確立するために使用したCNVの実験モデルにおいて、ソラフェニブが有効であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソラフェニブ、その誘導体又は活性代謝物の、眼新生血管形成症状を治療するための眼科用医薬組成物の製造のための使用。
【請求項2】
前記組成物が、後眼房の眼新生血管形成症状の治療用である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記組成物が、網膜の眼新生血管形成症状の治療用である、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記組成物が、増殖性硝子体網膜症、ROP、網膜血管症状、網膜関連全身症状、AMD、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、新生血管緑内障、CNVの治療用である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物が、PDTとの併用治療用である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記組成物が、VDA、コルチコステロイド、血管新生抑制コルチセン(cortisene)、アルベンダゾール、メベンダゾール、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤(CAI)、カンナビノイド、非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)、COX‐2選択的阻害剤、iNOS阻害剤、炎症伝達物質阻害分子、免疫抑制作用を有する分子、β−ラクタミン(beta−lactamine)(ペニシリン、セファロスポリン)、マクロライド、テトラサイクリン、フルオロキノロン、抗菌作用を有する天然ポリペプチド及びその断片、新生血管形成経路を阻害可能なアプタマー、新生血管形成経路を阻害可能なモノクロナール抗体、siRNAを更に含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記組成物が、乳濁液、軟膏、固体挿入物、懸濁液、ゲル、油性溶液、粘性溶液又はシクロデキストリン、リポソーム、ナノ粒子、ミセル若しくはデポーを用いて得られた溶液の形態である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物が、局所投与、硝子体内投与、結膜下投与、網膜下投与若しくは眼周囲投与、強膜近傍注射による投与、又は眼球後注射による投与に適する、請求項7記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−530496(P2011−530496A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521578(P2011−521578)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060197
【国際公開番号】WO2010/015672
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(511033302)エス.アイ.エフ.アイ. ソシエタ’インダストリア ファーマシューティカ イタリアーナ エス.ピー.エー. (1)
【Fターム(参考)】