説明

眼科用水性組成物

【課題】本発明の目的は、ケトチフェン及び/又はその塩と共に、アズレンスルホン酸及び/又はその塩を含んでいながら、沈殿を抑制して、各成分の溶解性が高められた眼科用水性組成物を提供することである。
【解決手段】(A) ケトチフェン及び/又はその塩と、(B)アズレンスルホン酸及び/又はその塩とを含有する眼科用水性組成物に、更に(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトチフェン及び/又はその塩とアズレンスルホン酸及び/又はその塩とを共存させた場合に生じる沈殿を抑制した眼科用水性組成物に関する。また、本発明は、ケトチフェン及び/又はその塩とアズレンスルホン酸及び/又はその塩とを共存させた場合に生じる沈殿を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケトチフェン及び/又はその塩は、抗ヒスタミン作用に加えて、ケミカルメディエーターの遊離抑制、好酸球の活性化抑制などの薬理作用を有しており、抗アレルギー剤として、点眼剤や点鼻剤、経口剤として広く利用されている(特許文献1−2参照)。そして、ケトチフェン及び/又はその塩は、それ自体は水溶性の薬物であり、単独で水に溶かした場合には、結晶や白濁を生じないことが分かっている。
【0003】
また、アズレンスルホン酸及び/又はその塩は、抗炎症作用を有することが周知であり、例えば、アズレンスルホン酸ナトリウムを含有する抗炎症点眼薬などが知られている(特許文献3参照)。そして、アズレンスルホン酸及び/又はその塩もまた、それ自体は水溶性の薬物であり、単独で水に溶かした場合には、結晶や白濁を生じないことが分かっている。
【0004】
そして、アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物は、薬物の滞留性を改善して生物学的利用能を高めたり、保水効果を高めたりする粘稠化剤等として、眼科用組成物に広く使用されている。しかしながら、従来、これらの成分については、ケトチフェン及び/又はその塩とアズレンスルホン酸及び/又はその塩とを含む水性組成物に配合された例はなく、よって、これらの成分の沈殿を抑制する作用の存否も一切報告されていない。
【0005】
一方、眼科用組成物において、難溶性薬物を溶解して溶液中の沈殿を抑制するための成分として、一般に、ポリソルベート80やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤、プロピレングリコール等のグリコール類、エタノール等が知られている。しかしながら、これらの成分は、目に対する刺激性や感作性などを稀に示す場合がある為、必ずしも好ましい成分とはいえず、他の有用な成分の開発が求められている。また、溶解補助剤(可溶化剤)として知られている成分であっても、溶解補助剤と難溶性薬物の間には一定の特異性があることが知られている。従って、ある難溶性薬物に対して溶解補助作用を発揮したとしても、他の難溶性薬物に対しても同様の溶解補助作用を発揮するか否かは必ずしも明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−175771号公報
【特許文献2】特開2004−315365号公報
【特許文献3】特開2007−99643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、ケトチフェン及び/又はその塩と、アズレンスルホン酸及び/又はその塩とを含有する水性組成物について種々の検討を行っていたところ、ケトチフェン及び/又はその塩とアズレンスルホン酸及び/又はその塩とを共存させた場合には、水溶液中に結晶が生じてしまうという全く新しい知見を得た。この結晶析出は、それぞれの成分の配合量が増加につれて増大する傾向があり、とりわけ各成分が特定量以上となった場合に顕著となる。そして、このように結晶が生じて薬物が沈殿してしまうと、溶液中に溶解した薬物量の低下を招き、そのような薬剤を治療に用いても所期の効果を発揮できなくなるおそれがある。従って、ケトチフェン及び/又はその塩と共に、アズレンスルホン酸及び/又はその塩を含んでいながら、沈殿を抑制して、各成分の溶解性が高められた眼科用水性組成物の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)ケトチフェン及び/又はその塩と、(B)アズレンスルホン酸及び/又はその塩とを含有する組成物に、更に(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を配合することによって、(A)成分と(B)成分を共存させることにより生じる結晶の析出を抑えて、両成分の溶解性を高めることができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の眼科用水性組成物を提供する。
項1-1. (A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、眼科用水性組成物。
項1-2. (C)成分として、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1に記載の組成物。
項1-3. (B)成分として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、項1-1又は1-2に記載の組成物。
項1-4. (A)成分として、フマル酸ケトチフェンを含む、項1-1乃至1-3のいずれかに記載の組成物。
項1-5. 点眼剤である、項1-1乃至1-4のいずれかに記載の組成物。
項1-6. (A)成分の配合割合が、組成物の総量に対して、0.05w/v%以上である、項1-1乃至1-5のいずれかに記載の組成物。
項1-7. (B)成分の配合割合が、組成物の総量に対して、0.01w/v%以上である、項1-1乃至1-6のいずれかに記載の組成物。
項1-8. (C)成分の配合割合が、組成物の総量に対して0.001〜10w/v%である、項1-1乃至1-7のいずれかに記載の組成物。
項1-9.更に(D)多価アルコールを含有する、項1-1乃至1-8のいずれかに記載の組成物。
項1-10. (D)成分として、グリセリンを含む、項1-9に記載の組成物。
【0010】
また、本発明は、下記に掲げる眼科用水性組成物における沈殿を抑制する方法を提供する。
項2-1. (A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する眼科用水性組成物に、(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、眼科用水性組成物における沈殿を抑制する方法。
項2-2. (C)成分として、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項2-1に記載の方法。
項2-3. (B)成分として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、項2-1又は2-2に記載の方法。
項2-4. (A)成分として、フマル酸ケトチフェンを含む、項2-1乃至2-3のいずれかに記載の方法。
項2-5. 眼科用水性組成物が点眼剤である、項2-1乃至2-4のいずれかに記載の方法。
項2-6. (A)成分の配合割合が、組成物の総量に対して、0.05w/v%以上である、項2-1乃至2-5のいずれかに記載の方法。
項2-7. (B)成分の配合割合が、組成物の総量に対して、0.01w/v%以上である、項2-1乃至2-6のいずれかに記載の方法。
項2-8. (C)成分を、組成物の総量に対して、0.001〜10w/v%となる割合で配合する、項2-1乃至2-7のいずれかに記載の方法。
項2-9. 更に、組成物に(D)多価アルコールを配合する、項2-1乃至2-8のいずれかに記載の方法。
項2-10. (D)成分として、グリセリンを含む、項2-9に記載の方法。
【0011】
更に、本発明は、下記に掲げる沈殿抑制剤を提供する。
項3-1. (A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを眼科用水性組成物で共存させる場合に用いられ、該眼科用水性組成物における沈殿を抑制するための剤であって、(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する沈殿抑制剤。
項3-2. (C)成分として、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項3-1に記載の沈殿抑制剤。
項3-3. (B)成分として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、項3-1又は3-2に記載の沈殿抑制剤。
項3-4. (A)成分として、フマル酸ケトチフェンを含む、項3-1乃至3-3のいずれかに記載の沈殿抑制剤。
項3-5. 眼科用水性組成物が点眼剤である、項3-1乃至3-4のいずれかに記載の沈殿抑制剤。
項3-6. (A)成分の配合割合が、組成物の総量に対して、0.05w/v%以上である、項3-1乃至3-5のいずれかに記載の沈殿抑制剤。
項3-7. (B)成分の配合割合が、組成物の総量に対して、0.01w/v%以上である、項3-1乃至3-6のいずれかに記載の沈殿抑制剤。
項3-8. (C)成分が、組成物の総量に対して、0.001〜10w/v%となる割合で使用される、項3-1乃至3-7のいずれかに記載の沈殿抑制剤。
項3-9. 更に(D)多価アルコールを含有する、項3-1乃至3-8のいずれかに記載の沈殿抑制剤。
項3-10.(D)成分として、グリセリンを含む、項3-9に記載の沈殿抑制剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ケトチフェン及び/又はその塩と共に、アズレンスルホン酸及び/又はその塩を含んでいながら、沈殿が抑制され、これらの両成分の溶解性が格段に高められた眼科用水性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】試験例1において、水性組成物(実施例1−5及び比較例1)について、調製直後に580nmにおける吸光度(アズレンスルホン酸ナトリウムの溶解性の指標)を測定した結果を示す図である。
【図2】試験例2において、水性組成物(実施例6−9及び比較例2)について、調製直後に580nmにおける吸光度(アズレンスルホン酸ナトリウムの溶解性の指標)を測定した結果を示す図である。
【図3】試験例3において、水性組成物(実施例10−13及び比較例3−4))について、調製直後に580nmにおける吸光度(アズレンスルホン酸ナトリウムの溶解性の指標)を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.眼科用水性組成物
本発明の眼科用水性組成物は、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。ケトチフェンは、4,9−ジヒドロ−4−(1−メチル−4−ピペリジリデン)−10H−ベンゾ[4,5]シクロヘプタ[1,2−b]チオフェン−10−オンとも称される化合物である。ケトチフェン及びその塩は、抗アレルギー剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0015】
本発明で使用されるケトチフェンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩及び/又は無機酸塩、より好ましくは有機酸塩、更に好ましくは多価カルボン酸塩、より更に好ましくはフマル酸塩及び/又はマレイン酸塩、特に好ましくはフマル酸塩が挙げられる。これらのケトチフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明の眼科用水性組成物には、(A)成分として、ケトチフェン及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。本発明に使用される上記(A)成分として、好ましくはケトチフェンの塩、より好ましくはケトチフェンの有機酸塩及び/又は無機酸塩、より好ましくはケトチフェンの有機酸塩、更に好ましくはケトチフェンの多価カルボン酸塩、より更に好ましくはケトチフェンのフマル酸塩及び/又はマレイン酸塩、特に好ましくはケトチフェンのフマル酸塩(フマル酸ケトチフェン)が挙げられる。
【0017】
本発明の眼科用水性組成物における上記(A)成分の配合割合は、該水性組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定されるが、通常、該眼科用水性組成物の総量に対して、上記(A)成分が総量で0.01w/v%以上、好ましくは0.03w/v%以上、特に好ましくは0.05w/v%以上が例示される。また、上記(A)成分の配合割合の上限値については、特に制限されないが、通常は1.0w/v%以下、好ましくは0.5w/v%以下、特に好ましくは0.1w/v%以下が例示される。
【0018】
本発明の眼科用水性組成物は、更に、アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。アズレンスルホン酸は、1,4−ジメチル−7−イソプロピルアズレン−3−スルホン酸とも称される化合物である。アズレンスルホン酸及びその塩は、抗炎症剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0019】
本発明で使用されるアズレンスルホン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機塩基との塩及び/又は無機塩基との塩、より好ましくは無機塩基との塩、更に好ましくはアルカリ金属塩、特に好ましくはナトリウム塩が挙げられる。これらのアズレンスルホン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の眼科用水性組成物には、(B)成分として、アズレンスルホン酸及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。(B)成分として、好ましくはアズレンスルホン酸の塩、より好ましくはアズレンスルホン酸の有機塩基との塩及び/又は無機塩基との塩、更に好ましくはアズレンスルホン酸の無機塩基との塩、より更に好ましくはアズレンスルホン酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはアズレンスルホン酸のナトリウム塩(アズレンスルホン酸ナトリウム)が挙げられる。
【0021】
本発明の眼科用水性組成物における上記(B)成分の配合割合は、該水性組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定されるが、通常、該眼科用水性組成物の総量に対して、上記(B)成分が総量で0.001w/v%以上、好ましくは0.002w/v%以上、より好ましくは0.004w/v%以上、特に好ましくは0.01w/v%以上が例示される。また、上記(B)成分の配合割合の上限値については、特に制限されないが、通常は0.1w/v%以下、好ましくは0.07w/v%以下、より好ましくは0.05w/v%以下、特に好ましくは0.03w/v%以下が例示される。
【0022】
本発明の眼科用水性組成物における上記(A)成分及び(B)成分の比率は、これら両成分の各配合割合に応じて適宜設定されるが、上記(A)成分の総量100重量部に対して、上記(B)成分が総量で1〜200重量部、好ましくは2〜100重量部、更に好ましくは4〜40重量部となる比率が例示される。
【0023】
更に、本発明の眼科用水性組成物は、アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有する。このように(C)成分を上記(A)及び(B)成分と共に配合することによって、上記(A)及び(B)成分の併用によって引き起こされる沈殿を抑制することができ、これら両成分の溶解性を格段に高めることが可能になる。
【0024】
アルギン酸は、β-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸が1,4-グリコシド結合した直線状のポリマーである。本発明において、アルギン酸は、天然物、合成品のいずれを使用してもよい。また、アルギン酸におけるマンヌロン酸/グルロン酸比(M/G比;モル比)は、特に制限されないが、一般的には4.0以下、好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下が例示される。該M/G比の下限値は、特に制限されないが、一般的には0.1以上、好ましくは0.4以上、更に好ましくは1.0以上が例示される。また、アルギン酸の分子量についても、特に限定されないが、通常、重量平均分子量で0.1万〜150万、好ましくは0.5万〜100万、更に好ましくは0.7万〜50万程度のものを使用できる。
【0025】
また、アルギン酸の塩としては、前述するアルギン酸が、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される塩の形態のものであれば、特に制限されない。アルギン酸の塩として、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が例示される。これらのアルギン酸の塩は、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
ヒアルロン酸は、グルクロン酸(GlcUA)とN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が結合したGlcUA-GlcNAcの基本構造(繰り返し単位)から構成されているポリマーである。本発明において、ヒアルロン酸は、天然物、合成品のいずれを使用してもよい。また、ヒアルロン酸の分子量については、特に限定されないが、重量平均分子量で、通常0.01万〜500万、好ましくは0.1万〜400万、更に好ましくは1万〜300万、より更に好ましくは10万〜250万、特に好ましくは50万〜200万程度のものを使用できる。
【0027】
また、ヒアルロン酸の塩としては、前述するヒアルロン酸が、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される塩の形態のものであれば、特に制限されない。ヒアルロン酸の塩として、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が例示される。これらのヒアルロン酸の塩は、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
セルロース系高分子化合物には、セルロース、セルロースのヒドロキシル基を他の官能基に置換したセルロース誘導体、及びこれらの塩が含まれる。セルロース誘導体において、ヒドロキシル基を置換する官能基としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されないが、具体的には、水酸基又カルボキシル基で置換(好ましくは、置換基の数は1つ)されていてもよい炭素数1〜5(好ましくは炭素数1〜3)のアルコキシル基等が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基、カルボキシメトキシ基、カルボキシエトキシ基等が例示される。セルロース誘導体の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。これらのセルロース系高分子化合物の中でも、(A)及び(B)成分の共存により生じる沈殿を抑制する作用を一層有効に発揮させるという観点から、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。セルロース系高分子化合物の分子量については、置換基の種類や置換度等によって異なるが、通常、重量平均分子量で0.1万〜150万、好ましくは0.5万〜130万、更に好ましくは1万〜100万程度のものを使用することができる。
【0029】
また、セルロース及びその誘導体の塩については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される塩の形態のものであれば、特に制限されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が例示される。これらのセルロース系高分子化合物は、市販品を使用することができる。また、これらのセルロース系高分子化合物は、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
ビニル系高分子化合物とは、ビニル基を有するモノマー化合物を重合し、必要に応じてケン化することにより得られるポリマー(ビニル系ポリマー)又はその塩である。ビニル系高分子化合物としては、具体的には、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン等が例示される。ビニル系高分子化合物の分子量については、構成モノマーの種類等によって異なるが、通常、重量平均分子量で0.1万〜250万、好ましくは0.5万〜200万、更に好ましくは1万〜150万程度のものを使用することができる。より具体的には、ビニル系高分子化合物がポリビニルアルコールの場合には、JIS K-6726に準拠して測定される平均重合度が通常700〜4500、好ましくは800〜4000、より好ましくは900〜3500程度のもの(例えば、900〜1100のものや2900〜3100のもの)を使用することができる。また、ビニル系高分子化合物がポリビニルピロリドンの場合には、フィケンチャー法によるK値が、通常15〜100、好ましくは20〜99、より好ましくは22〜98程度のもの(例えば、22〜28のものや87〜93のもの)を使用することができる。
【0031】
また、ビニル系ポリマーの塩については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される塩の形態のものであれば、特に制限されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等の無機塩基との塩、トリエタノールアミン塩等の有機塩基との塩等が例示される。
【0032】
これらのビニル系高分子化合物は、市販品を使用することができる。また、これらのビニル系高分子化合物は、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の眼科用水性組成物には、(C)成分として、アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。(A)及び(B)成分の共存により生じる沈殿を抑制する作用を一層有効に発揮させるという観点から、(C)成分として、好ましくは、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びこれらの塩;より好ましくは、アルギン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びこれらの塩;更に好ましくは、アルギン酸、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコール;特に好ましくは、アルギン酸が挙げられる。
【0034】
本発明の眼科用水性組成物における上記(C)成分の配合割合は、(C)成分の種類、該水性組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定されるが、該眼科用水性組成物の総量に対して、(C)成分の総量で、通常0.001〜10w/v%、好ましくは0.005〜5w/v%、更に好ましくは0.01〜5w/v%、特に好ましくは0.02〜3w/v%が例示される。上記(C)成分の配合割合が、このような範囲を充足することによって、(A)成分及び(B)成分を含有する眼科用水性組成物における沈殿を一層有効に抑制することが可能になる。
【0035】
本発明の眼科用水性組成物における上記(A)成分及び(C)成分の比率は、これら両成分の各配合割合に応じて適宜設定されるが、上記(A)成分の総量100重量部に対して、上記(C)成分が総量で1〜10000重量部、好ましくは10〜6000重量部、更に好ましくは20〜2000重量部となる比率が例示される。
【0036】
本発明の眼科用水性組成物における上記(B)成分及び(C)成分の比率は、これら両成分の各配合割合に応じて適宜設定されるが、上記(B)成分の総量100重量部に対して、上記(C)成分が総量で25〜50000重量部、好ましくは50〜30000重量部、更に好ましくは100〜20000重量部となる比率が例示される。
【0037】
また、本発明の眼科用水性組成物は、更に多価アルコールを含有することが好ましい。本発明で用いられる多価アルコールは、水酸基を2個以上有する化合物であって、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されない。多価アルコールの具体例として、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ショ糖、ブドウ糖、乳糖、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、ポリデキストロース及びデキストリン等を例示することができる。本発明の眼科用水性組成物において、これらの多価アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
上記の多価アルコールの中でも、眼科用水性組成物における沈殿を抑制する作用を一層向上せしめるという観点から、好ましくはプロピレングリコール及び/又はグリセリンが挙げられ、最も好ましくはグリセリンが挙げられる。
【0039】
本発明の眼科用水性組成物に多価アルコールを配合する場合、該多価アルコールの配合割合については、該多価アルコールの種類、他の配合成分の種類や量、該眼科用水性組成物の用途等に応じて適宜設定できる。多価アルコールの配合割合の一例として、眼科用水性組成物の総量に対して、該多価アルコールが総量で、0.05〜3.5w/v%、好ましくは0.1〜3w/v%、更に好ましくは0.5〜2.5w/v%が例示される。
【0040】
本発明の眼科用水性組成物は、更に緩衝剤を含有することが好ましい。本発明の眼科用水性組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0041】
上記緩衝剤の中でも、とりわけホウ酸緩衝剤及びリン酸緩衝剤は好適である。ホウ酸緩衝剤の好適な具体例として、ホウ酸とその塩の組み合わせ;好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の組み合わせ;更に好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩の組み合わせ;特に好ましくはホウ酸とホウ砂の組み合わせが例示される。リン酸緩衝剤の好適な具体例として、第一リン酸塩と第二リン酸塩の組合せ;好ましくは第一リン酸のアルカリ金属塩と第二リン酸のアルカリ金属塩の組合せ;更に好ましくはリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの組合せが例示される。このような組合せ態様のホウ酸緩衝剤及び/又はリン酸緩衝剤を使用することによって、(A)及び(B)成分の共存により生じる沈殿を抑制する作用を一段と向上させることが可能になる。
【0042】
本発明の眼科用水性組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該眼科用水性組成物の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該水性組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.2〜2w/v%となる割合が例示される。
【0043】
本発明の眼科用水性組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明の眼科用水性組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムは、好適である。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0044】
本発明の眼科用水性組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%となる割合が例示される。
【0045】
本発明の眼科用水性組成物は、更に界面活性剤を含有してもよい。本発明の眼科用水性組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0046】
本発明の眼科用水性組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類; POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明の眼科用水性組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明の眼科用水性組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の眼科用水性組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。本発明の眼科用水性組成物において、これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明の眼科用水性組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該眼科用水性組成物の用途等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、眼科用水性組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.3w/v%が例示される。
【0048】
本発明の眼科用水性組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の眼科用水性組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは4.5〜8.5、より好ましくは、5.0〜8.0、更に好ましくは5.5〜7.0となる範囲が挙げられる。
【0049】
本発明の眼科用水性組成物は、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は適用部位、剤型等により異なるが、通常0.7〜5.0、更に好ましくは0.9〜3.0、特に好ましくは1.0〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0050】
本発明の眼科用水性組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等。
充血除去剤:テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、プラノプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アラントイン、トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン、フェルビナク、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0051】
また、本発明の眼科用水性組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
香料又は清涼化剤:メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0052】
本明細書において水性組成物とは、水を含有する組成物を意味し、通常は、組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上含有するものを意味する。本発明の水性組成物に含有される水は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等を使用できる。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。また、本明細書において眼科用水性組成物とは、上記水性組成物であって眼科分野で使用されるものをいう。
【0053】
本発明の眼科用水性組成物は、所望量の上記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
【0054】
本発明の眼科用水性組成物は、目的に応じて種々の製剤形態をとることができる。例えば、本発明の眼科用水性組成物の形態として、液剤、半固形剤(軟膏等)等が挙げられる。好ましくは液剤である。
【0055】
また、本発明の眼科用水性組成物は、眼科分野において様々な用途で使用することができる。具体的には、本発明の眼科用水性組成物の具体例として、点眼剤、人工涙液、洗眼剤、眼軟膏、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤等が含まれる)等が例示される。これらの中でも、点眼剤は、1回の使用量が極微量であるため含有量低下の影響が大きく、配合成分を安定に維持させることが強く求められている製剤である。本発明の眼科用水性組成物によれば、このように配合成分の安定維持が高度に要求される点眼剤についても、沈殿を生じさせることなく、配合成分を安定に溶解した状態を維持することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明の眼科用水性組成物の好適な一例として、点眼剤が挙げられる。
【0056】
本発明の眼科用水性組成物は、上記(A)成分に基づいて抗アレルギー作用をも発揮できるので、アレルギー症状の予防乃至緩和剤としても有用である。また、本発明の眼科用水性組成物は、上記(B)成分に基づいて抗炎症作用等をも発揮できるので、炎症性疾患の治療乃至予防に有効であり、炎症性疾患の治療乃至予防剤としても有用である。ここで、対象となる炎症性疾患の一例として、炎症性眼疾患(例えば、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎、前眼部ブドウ膜炎、術後炎症等)が挙げられる。更に、本発明の眼科用水性組成物は、上記(C)成分に基づいて涙液保持作用、角膜乾燥防止作用等も発揮できるので、目の乾き又はドライアイの症状の予防乃至緩和剤としても有用である。
【0057】
2.眼科用水性組成物における沈殿を抑制する方法、及び沈殿抑制剤
前述するように、眼科用水性組成物において上記(A)及び(B)成分が共存することによって引き起こされる沈殿を、上記(C)成分を併用することによって抑制することが可能になる。
【0058】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(B)アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する眼科用水性組成物に、(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、眼科用水性組成物における沈殿を抑制する方法をも提供する。
【0059】
更に、本発明は、(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを眼科用水性組成物で共存させる場合に用いられ、該眼科用水性組成物における沈殿を抑制するための剤であって、(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する沈殿抑制剤をも提供する。
【0060】
なお、これらの方法及び剤において、使用する(A)〜(C)成分の種類や配合割合、その他に配合される成分の種類や配合割合、眼科用水性組成物の製剤形態や用途等については、前記「1.眼科用水性組成物」と同様である。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
試験例1:成分溶解性の評価(1)
下記の表1に示す水性組成物(実施例1−5及び比較例1)を用いて、以下に示す方法で、水性組成物の外観性状に基づいて成分溶解性を評価し、更に水性組成物におけるアズレンスルホン酸ナトリウムの溶解具合を580nmにおける吸光度を測定することにより評価した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に従い、各水性組成物を調製した。調製直後の各水性組成物の様子を目視にて観察したところ、比較例1の水性組成物では明らかな不溶性異物の存在が確認され、結晶が析出していることが認められた。一方、実施例1−5の水性組成物ではそのような析出は確認されなかった。
【0064】
また、調製直後の各水性組成物について、580nmにおける吸光度を測定した。各組成物の吸光値(580nm)を図1に示す。580nmにおける吸光度は、アズレンスルホン酸ナトリウムが溶液中に溶解した場合に呈する青色を測定するものであり、アズレンスルホン酸ナトリウムの溶解具合を示す指標となる。図1から明らかなように、比較例1では結晶析出により溶液中に溶解したアズレンスルホン酸ナトリウムの量が減少したため、青色が薄くなり、A580の吸光値は低かった。この比較例1の水性組成物を目視にて確認したところ、明らかに褪せた色合いを呈しており、消費者に十分な薬効を連想させる眼科用組成物というには程遠いものであった。一方、実施例1−5の水性組成物では比較例1と比べて濃い青色を示し、A580の吸光値が著しく上昇することが確認された。この実施例1−5の水性組成物は、消費者に薬効を連想させるに十分と考えられる濃い青色を呈するものであった。
【0065】
以上より、本発明によって、アルギン酸、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はヒドロキシエチルセルロースを使用することによって、ケトチフェン及び/又はその塩とアズレンスルホン酸及び/又はその塩とを同時に含有しながら、沈殿が抑制され、これら各成分の溶解性を向上でき、眼科用組成物として相応しい水性組成物が得られることが明らかとなった。
【0066】
試験例2:成分溶解性の評価(2)
下記の表2に示す水性組成物(実施例6−9及び比較例2)を用いて、上記試験例1と同様にして、水性組成物の外観性状に基づいて成分溶解性を評価し、更に水性組成物におけるアズレンスルホン酸ナトリウムの溶解具合を580nmにおける吸光度を測定することにより評価した。
【0067】
【表2】

【0068】
調製直後の各水性組成物の様子を目視にて観察したところ、比較例2の水性組成物では明らかな不溶性異物の存在が認められ、結晶が析出していることが確認されたが、実施例6−9の水性組成物ではそのような析出は確認されなかった。
【0069】
調製直後に測定した各組成物の吸光値(580nm)を図2に示す。図2から明らかなように、試験例1と同様、比較例2の水性組成物ではA580の吸光値は低かった。一方、実施例6−9の水性組成物では比較例2と比べて濃い青色を示し、A580の吸光値が著しく上昇することが確認された。
【0070】
以上の結果から、種々のポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールを用いた場合でも、ケトチフェン及び/又はその塩とアズレンスルホン酸及び/又はその塩とを同時に含有しながら、沈殿を抑制でき、これら各成分の溶解性を著しく向上できることが明らかとなった。
【0071】
試験例3:成分溶解性の評価(3)
下記の表3に示す水性組成物(実施例10−13及び比較例3−4)を用いて、上記試験例1と同様にして、水性組成物の外観性状に基づいて成分溶解性を評価し、更に水性組成物におけるアズレンスルホン酸ナトリウムの溶解具合を580nmにおける吸光度を測定することにより評価した。
【0072】
【表3】

【0073】
調製直後の各水性組成物の様子を目視にて観察したところ、比較例4の水性組成物では明らかな不溶性異物の存在が認められたが、実施例6−9及び比較例3の水性組成物では澄明な状態であり、不溶性異物は視認されなかった。
【0074】
また、調製直後の各組成物の吸光値(580nm)を測定した。結果を図3に示す。図3から明らかなように、フマル酸ケトチフェンを含まずアズレンスルホン酸ナトリウムを含む比較例3の水性組成物は、アズレンスルホン酸ナトリウム本来の青色を呈し、高いA580の吸光値を示した。これに対して、アズレンスルホン酸ナトリウムと共にフマル酸ケトチフェンを含む比較例4の水性組成物では、結晶析出により溶液中に溶解したアズレンスルホン酸ナトリウムの量が減少したため、青色が薄くなり、A580の吸光値は著しく低下した。一方、実施例10−13の水性組成物では、比較例4と比べて濃い青色を呈しており、A580の吸光値が著しく上昇することが確認された。
【0075】
以上の結果から、ポリビニルピロリドン等に代えてヒアルロン酸ナトリウムを用いた場合でも、ケトチフェン及び/又はその塩とアズレンスルホン酸及び/又はその塩とを同時に含有しながら、沈殿を抑制でき、これら各成分の溶解性を著しく向上できることが明らかとなった。
【0076】
製剤例
表4に記載の処方で、点眼剤(実施例14−25)が調製される。
【0077】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、眼科用水性組成物。
【請求項2】
(C)成分として、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(B)成分として、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(A)成分として、フマル酸ケトチフェンを含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
点眼剤である、請求項1乃至4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)アズレンスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合する眼科用水性組成物に、(C)アルギン酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース系高分子化合物、並びにビニル系高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、眼科用水性組成物における沈殿を抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−37737(P2011−37737A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185266(P2009−185266)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】