説明

眼組織修飾

本発明は、一般的には組織修飾の分野に関し、特には、但し排他的ではなく、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するように眼、特に角膜組織の細胞を修飾する方法に関する。本発明はまた、修飾眼細胞および組織、上記方法に利用される発現ベクター、修飾組織を用いた異種および同種移植の方法、および眼疾患および障害の治療方法に関する。本発明の好ましい態様によれば、対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するように眼組織の細胞を修飾する方法であって、トランスフェクションを行わせる上で十分な期間にわたり、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度に眼組織を曝し、眼組織の細胞が免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産することを含んでなる方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的には組織修飾の分野に関し、特には、但し排他的ではなく、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するように眼、特に角膜組織の細胞を修飾して方法に関する。本発明はまた、修飾眼細胞および組織、上記方法に利用される発現ベクター、修飾組織を用いた異種および同種移植の方法、および眼疾患および障害の治療方法に関する。
【0002】
背景技術
角膜および他の眼組織に影響をおよぼし、結果的に、視力に悪影響を与えるかまたは視力を奪うことがある疾患および障害は非常に多い。例えば、アレルギー、結膜炎、角膜感染、フックスジストロフィー(角膜内皮細胞の劣化)、水痘帯状疱疹ウイルス、虹彩角膜内皮症候群、円錐角膜、眼部ヘルペスおよび多くの他の症状、並びに先天性眼球異常は、眼、特に角膜の、視力に影響を与えうる損傷または異常に関与することがある。角膜異常の人々において視力を回復しまたは視力を改善しようとする試みに際し、異常角膜組織が摘出され、細い縫合糸を用いて、ドナーから得られた正常角膜組織に取り換えられるという角膜移植手術を行うことが特に一般的になっている。角膜移植手術は高い成功率をほこっているが、それにもかかわらず、代替角膜の拒絶および眼線維症または瘢痕のような一部の問題が生じうるのである。角膜移植成功の場合でも、免疫調節剤の投与が後に必要である。免疫調節剤の所定の投与計画を患者が遵守しないために組織拒絶を招くこともある。したがって、例えば、角膜または他の眼組織移植片の生存期間を延ばして組織拒絶を防ぐ改善手段、並びに眼部の感染、創傷および線維症の治療および他の眼障害の治療のための手法を提供することが必要とされている。
【0003】
角膜は細胞およびタンパク質の高度に組織化された集まりであって、ほとんどの組織とは異なり透明であり、栄養分を供給するまたは感染から防御する血管を含有していない。角膜は、涙液とその後方の前房で得られる房水とから栄養供給をうけている。角膜は5つの基本層、即ち防護外上皮、上皮基底膜の下に位置してコラーゲン線維から構成されるボーマン層、水およびコラーゲンから主になりボーマン層の真下に位置するストロマ、およびストロマの真下に位置するデスメ膜から構成されており、これは下部内皮に位置する内皮細胞により生産されるコラーゲン線維から構成されている。この内皮細胞は、ストロマから過剰液を除去して角膜の透明度を維持する上で必須である。
【0004】
目には免疫学的特権な性質があるにもかかわらず(2)、不可逆的免疫拒絶がヒト角膜移植失敗の主因である(1)。拒絶の組織学的相関としては、主要組織適合性複合体および接着分子の局所正調節、角膜および前房中への単核細胞の流入、および一部炎症性サイトカインの局所生産が挙げられる(3〜7)。角膜移植片拒絶の主要標的は角膜内皮である。ヒト(げっ歯類以外)角膜内皮は本質的に無糸分裂(8)であり、そのため移植片拒絶時の単層への損傷は修復されないのである。
【0005】
遺伝子療法には、移植ドナー組織内における免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの局所生産によって、同種移植応答に影響を与える可能性がある。眼内、特に角膜細胞内における免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの局所生産によって、眼の感染および創傷の治療法もまた提供しまたは向上させることができる。全組織の修飾を行えるその小さなサイズと、ドナー角膜がインビトロで取り扱え、移植前に相当期間にわたり(例えば28日間も)保管しうる簡便性とのおかげで、角膜は本発明による改良された同種移植法に特になじみやすい、と本発明者らは考察する。角膜の解剖学的位置および透明性から、術後期間に全移植片のインビボ評価を行うことができ、機能の喪失が見出しやすい。更に、角膜および前房は少くとも部分的には免疫学的特権部位であり、免疫原性または前炎症性ベクターを使用することができる(2)。
【0006】
眼細胞内において免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するという遺伝子療法的アプローチはまた、眼障害および創傷または損傷の治療、さらには眼創傷または損傷後の予防アプローチの可能性ももたらし、感染を防止しまたはその程度を最小に抑えうる。
【0007】
驚いたことに、本発明者らは、今般、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントが遺伝子療法的アプローチにより眼組織で生産されることを見出し、さらに適切な免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの選択を前提としてこれらのアプローチが治療効果を発揮しうることを見出した。
【発明の要旨】
【0008】
本発明の一態様によれば、対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するように眼組織の細胞を修飾する方法であって、トランスフェクションを行わせる上で十分な期間にわたり、上記免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度に眼組織を曝し、眼組織の細胞が免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産することを含んでなる方法が提供される。
【0009】
本発明の別な態様によれば、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを発現するように修飾された細胞を含んでなる眼組織が提供される。
【0010】
本発明による方法で利用されるヌクレオチド配列は、あらゆるタイプの核酸、例えばDNAまたはRNA、好ましくはgDNAのようなDNA、さらに好ましくはcDNAである。核酸は全長遺伝子でもまたは遺伝子の活性部分でもよい。それは2以上の別々な配列を含んでもよく、該配列は、それらが後に関与する細胞内で、別々に翻訳されるように設計されている。
【0011】
本発明の他の態様によれば、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを発現するように修飾された細胞を含んでなる、採取された眼組織が提供され、上記修飾は、トランスフェクションを行わせる上で十分な期間にわたり、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度に眼組織を曝すことによるものである。
【0012】
本発明の別な態様によれば、眼移植片治癒率を改善しおよび/または移植片生存期間を延ばす方法であって、眼組織の細胞が免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを発現するようにトランスフェクションを行わせる上で十分な期間にわたり、眼移植片治癒および/または拒絶に関与する物質に特異的な免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度に眼組織を曝し、該組織をドナーから採取し、レシピエントの目へ該眼組織を移植することをふくんでなる方法が提供される。
【0013】
本発明の更に別な態様によれば、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる、眼組織を修飾して免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを発現させるための発現ベクターが提供される。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、眼組織は哺乳動物、特に好ましくはヒトから採取される。好ましくは、移植眼組織のレシピエントは哺乳動物、特に好ましくはヒトである。本発明の特に好ましい態様によれば、眼組織はヒトから採取され、他のヒトレシピエントへ移植される。
【0015】
本発明の別な態様によれば、眼障害の治療および/または予防の方法であって、眼組織の細胞が免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するようにトランスフェクションを行わせる上で十分な期間にわたり、障害に関与する物質に特異的な免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクターの眼組織中へのトランスフェクションに有効な濃度を哺乳動物患者の目へ導入することを含んでなる方法が提供される。
【0016】
好ましくは、眼組織は、瞳孔、虹彩、硝子体、斑(macula)、網膜、強膜、水晶体、脈絡膜(choroid)、周縁組織(limbal tissue)、結膜または角膜組織である。好ましくは、眼組織は角膜組織または周縁組織である。周縁組織の使用は、例えばSwift et al.,1996;Williams et al.,1995;Henderson et al.,2001;およびMills et al.,2002に記載されている。
【0017】
本発明の別な態様によれば、眼組織細胞中へトランスフェクションされる発現ベクターまたは他の発現ベクターは、活性物質をコードするヌクレオチド配列を含んでなる。好ましくは、活性物質は、ペプチドホルモン、サイトカインまたはそれらのアナログである。本発明の好ましい態様によれば、サイトカインはインターロイキン、インターフェロンまたは成長因子、またはそれらのアナログである。本発明の好ましい態様によれば、サイトカインはIL‐10、IL‐4、IL‐12のP‐40成分などのインターロイキン、またはBc12、インターフェロンガンマ、インターフェロンアルファおよびTGFベータから選択される。
【0018】
好ましくは、眼組織中細胞の少くとも5%、好ましくは少くとも10%、更に好ましくは少くとも20%、特に好ましくは少くとも30%または少くとも50%、更に特に好ましくは少くとも70%が、本発明の方法により修飾される。本発明の好ましい態様において、修飾される眼組織細胞、好ましくは角膜組織細胞は、上皮細胞、ストロマ細胞および/または内皮細胞である。特に好ましくは、修飾細胞は内皮細胞である。本発明の好ましい態様によれば、角膜内皮細胞のサンプル中で角膜内皮細胞の5%、好ましくは少くとも10%、更に好ましくは少くとも20%、特に好ましくは少くとも30%または少くとも50%、更に特に好ましくは少くとも70%が、本発明による方法で修飾される。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、発現ベクターはウイルス、細菌またはプラスミドベクターである。本発明の特に好ましい態様において、発現ベクターはアデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクターまたはヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペス)ベクターである。本発明の別な態様によれば、発現ベクターはリポソームベクターのような非生存(non-live)ベクターである。
【0020】
好ましくは、トランスフェクションに有効な濃度は約1×10〜1×1010プラーク形成単位(pfu)/g組織(例えば、角膜)である。特に好ましくは、トランスフェクションに有効な濃度は約5×10〜5×10pfu/g組織、更に特に好ましくは約2×10〜1×10pfu/g組織である。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、トランスフェクションを行わせる上で十分な期間は約1分間〜約48時間、特に好ましくは約10分間〜24時間、更に特に好ましくは約30分間〜6時間、更に特に好ましくは約1〜約3時間である。
【0022】
本発明の別な好ましい態様によれば、発現ベクターは2種以上の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリンフラグメント(場合により、活性物質とともに)および/または2種以上の活性物質をコードするヌクレオチド配列を含んでなる。
【配列リスト】
【0023】
本明細書は、PatentIn Version 3.1プログラムを用いて作製されたDNA配列情報を含んでいる。各DNA配列は、数表記<201>、次いで配列ID(例えば<201>1、<201>2など)により、配列表で特定されている。各配列に関する長さ、配列タイプ(prtなど)および出所が、数表記欄<211>、<212>および<213>で各々記された情報により示されている。本明細書で言及されているDNA配列は、表記配列番号(SEQ ID NO:)それに続く配列ID(例えば、配列番号1、配列番号2など)で特定されている。本明細書で言及されている配列IDは、配列リストにおいて、数表記欄<400>、それに続く配列ID(例えば<400>1、<400>2など)で記された情報と相互に関連している。即ち、本明細書で記載されているような配列番号1は、配列表で<400>1として示された配列と相互に関連している。
【0024】
配列番号1は、IL‐10に関するPCRプライマーのcDNA配列を示している。
配列番号2は、IL‐10に関するPCRプライマーのcDNA配列を示している。
配列番号3は、アクチンに関するPCRプライマーのcDNA配列を示している。
配列番号4は、アクチンに関するPCRプライマーのcDNA配列を示している。
配列番号5は、GAPDHに関するPCRプライマーのcDNA配列を示している。
配列番号6は、GAPDHに関するPCRプライマーのcDNA配列を示している。
【発明の詳細な説明】
【0025】
本明細書およびそれに続く請求の範囲の全体を通して、文脈から別なことが要求されないかぎり、“含んでなる”およびそのバリエーションの用語は、言及された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループの包含を意味するもので、他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループの除外を意味するものではない、と理解される。
【0026】
本明細書で先行技術に関する言及は、その先行技術がオーストラリアの一般常識の一部を形成しているという承認または何らかの形の示唆ではなく、そのようにうけとるべきでもない。
【0027】
上記のように、本発明者らは眼障害を治療する手法を発明し、動物モデルでその効力を証明した。本発明の具体的に例示された態様によれば、免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列が投与されなかった場合に予想される生存期間と比較して、レシピエントへ移植された場合に角膜移植片の生存期間を延ばす効果を有した免疫グロブリンフラグメントを生産するように、採取角膜組織が修飾された。しかしながら、本発明は角膜同種または異種移植技術に関連して単にその使用することよりも著しく広い用途を有している。本発明による方法は、例えば、眼創傷、感染もしくは線維症、または他の眼疾患、例えば緑内障、円錐角膜、角膜ジストロフィー、角膜感染、目の腫瘍、増殖性病変、翼状片と、スティーブンス‐ジョンソン症候群および粘膜類天疱瘡などの目の炎症障害の治療のような、他の眼障害の治療に採用することができる。“治療”という用語に言及するときは、治療および予防双方の処置を含めた意味である。
【0028】
“採取”という用語は、特定の眼組織がドナー動物の目から摘出されたことを表わす意味である。それは次いで適切な組織培養条件下で維持されるか、または同じもしくは異なる種の他の動物の目へ移植される。採取組織の細胞の修飾は、例えば、組織がドナー動物から摘出される前に、それがドナー動物から摘出されているときに、それが組織培養されながら、または実際にそれが移植された後に行うことができる。移植の初期部位は、必ずしも組織の最終所定位置である必要はない。例えば、組織はドナー動物から摘出し、宿主動物の目で培養してから、摘出して、最終レシピエント動物へ移植してもよい。
【0029】
本発明の一つの態様によれば、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するように眼組織の細胞を修飾する方法に関する。免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントは、好ましくは原因物質に対する特異性を有した、モノクローナルの抗体または抗体フラグメントであって、それが用いられる意図した治療または予防方法と適するものである。治療または予防方法において意図する結果に応じて、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントは眼移植片治癒および/または拒絶と関連したまたは眼障害と関連した物質に特異的なものとすることができる。例えば、本発明に従って修飾眼細胞で生産される免疫グロブリンまたはそのフラグメントは、様々な炎症分子、炎症分子のレセプターまたは目に感染しうる微生物に対して特異性を有してもよい。免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントはこのような物質へ結合することによって該物質と相互作用し、移植片拒絶または関連眼障害に関するこの物質の有害作用を消失または少くとも実質的に減少させることができる。
【0030】
適切な標的抗原には、クラスIまたはクラスII限定のMHC分子などのMHC分子、補助刺激分子(例えば、CD80、CD86およびCD152)、接着分子(例えば、CD11b/e、CD18、CD54およびCD62L)、レセプター関連分子(receptor associated molecule; 例えば、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40、CD40L、ICOS、PD‐1、BTLAおよびCTLA4)、サイトカインレセプター(例えば、インターロイキン2レセプター(IL‐2R)またはそのサブユニット、例えばCD25)、インターフェロンγレセプター(IFN‐γR)およびウイルス表面抗原(例えば、単純ヘルペスウイルスのgD2およびgB2抗原またはヘルペス性角膜炎を引き起こすヘルペスウイルスの表面抗原)があるが、それらに限定されない。別の微生物ターゲットは Acanthamoebaの表面抗原の一種以上が挙げられる。適切な免疫グロブリンおよび免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列はパブリックアクセスデータベースで入手して、合成しても、またはそれ以外の一般的アプローチにより得てもよい。かかる例としては、Sambrook & Russell,Molecular Cloning: A laboratory manual,3rd Edition,2001,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New Yorkで更に説明されており、その全内容は引用することにより本明細書の一部とされる。適切な免疫グロブリンフラグメントの例として、一本鎖可変ドメイン抗体フラグメント(scFv)、Fabフラグメント、ダイアボディ(diabody)、ミニボディ(minibody)、トリボディ(tribody)およびダイマー、およびそれらの集合体がある。
【0031】
一種以上の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントに加えて一種以上の、活性物質を生産するように、眼組織の細胞を修飾することも可能である。これらの活性物質は遺伝子導入の結果として眼組織細胞で発現されるため、該活性物質はもちろんヌクレオチド、特にDNA配列によりコードされたペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質となる。包括的に、このような活性物質は、ペプチド配列にかかわらず、ここでは“ペプチド”と称される。本発明による活性物質としては、例えば、天然または合成ペプチドホルモン、サイトカインまたはそれらのアナログが挙げられる。“アナログ”という用語の使用は、単一または複数アミノ酸の追加、欠失または置換により改変された、修飾形の天然または合成ペプチドホルモンまたはサイトカイン(例えば、それらが基礎とする分子と比べて改変された生理活性を有している)を包含した意味である。
【0032】
本発明による方法およびベクターにより発現される活性物質の例には、例えば免疫調節、抗感染、組織再生、創傷治癒または線維症軽減活性を有するペプチドホルモンおよびサイトカインおよびそれらのアナログがある。本発明で採用しうるサイトカインには、インターロイキン、インターフェロンおよび成長因子並びにそれらのアナログから選択されるものがある。採用しうるサイトカインの具体例として、IL‐10、IL‐4、IL‐12のP‐40成分、Bc12、インターフェロンガンマ、インターフェロンアルファおよびTGFベータがある。しかしながら、これらの具体的サイトカインは例示のみの目的で活性物質として挙げられており、有用な活性を有した他のペプチド物質も等しく採択しうる、と理解するべきである。
【0033】
本発明に従い修飾される眼組織は、ドナー、通常ドナー哺乳動物から採取される。好ましくは、ドナーは、当業界でよく理解されているように、移植レシピエントと同種から、通常予定レシピエントと適合する組織および/または血液型を有したドナーから選択される。しかしながら、同種のメンバーからのドナー器官供給(同種移植)が不十分であれば、他種のドナーメンバーから眼組織が採取(異種移植)されるような状況があるかもしれない。異種移植の場合には、組織ドナーは種特異的免疫原性差の影響を除去するまたは減少させるように遺伝子修飾された動物である。眼組織が器官培養技術で生産され、次いでそれが本発明の方法による修飾用に同じく採取されることも、将来は可能であろう。眼組織が採取されるおよび/または眼組織が移植される哺乳動物には、ヒト、牧畜動物、例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマなど;捕獲野生動物、例えばライオン、トラ、シカ、チンパンジー、サル、ゴリラ、ヒヒなど;家畜、例えば、ネコおよびイヌなど;または実験動物、例えばウサギ、マウス、モルモット、ラットなどがあるが、それらに限定されない。好ましくは、眼組織はヒトレシピエントへの移植の場合ヒトドナーから採取される。ヒト眼組織ドナーの場合には、ドナーは通常、早死にした器官ドナーとして登録されたヒトであって、その対象の眼組織は良い状態にある。動物ドナーの場合には、動物は眼組織を採取するために犠牲にされるか、または眼組織が入手しうるような他の目的で実際上犠牲にされる。
【0034】
眼組織は好ましくは死後比較的短い期間内で、好ましくは3〜4時間以内で、特に好ましくは1時間以内で、ドナーから得られる。眼組織がドナーから摘出されて修飾前に維持される条件は型どおりの事項であって、当業者に十分理解されている。当然、修飾および移植前に健全な状態で組織を維持するために、適切な組織培地の使用が必要とされる。好ましくは、組織の修飾は組織の採取からほぼ数時間以内で行われるが、約28日間まで組織培養条件下で眼、特に角膜組織を維持することが可能である。
【0035】
本発明の他の態様によれば、以下で更に説明されるように、一般的キャリアおよび/または賦形剤と一緒に、通常目または投与経路に応じた特定眼組織への発現ベクターの局所投与によって、眼組織は患者におけるその位置のままで修飾してもよい。このようなアプローチは、眼障害を治療しようとする試みまたは例えば眼創傷もしくは損傷から生じうる合併症もしくは感染症を予防しようとする試みに採用してもよい。
【0036】
本発明に従い修飾される眼組織は、様々な眼組織タイプ、例えば瞳孔、虹彩、硝子体、斑、網膜、強膜、水晶体、脈絡膜、周縁組織、結膜または角膜組織から選択される。好ましくは、眼組織は角膜組織である。
【0037】
本発明による発現ベクターは、当業界でよく知られているような、様々な既知のまたは今なお分類されていないタイプの発現ベクター、例えばウイルス、細菌またはプラスミド発現ベクター系、または非生存発現ベクター、例えばリポソーム発現ベクターである。遺伝子はインビボまたは半ビボ(ex vivo)で眼組織へデリバリーされる。現在までのところ、インビボデリバリーは生存ウイルスキャリア、特にアデノウイルス、レンチウイルス(HIVなど)および単純ヘルペスウイルスの使用で最もうまく達成された(総説としてBorras;2003,Exp.Eye Res.76,643-52参照)。この総説は電気パルスの使用および裸DNAの直接注入についても意図している。インビボデリバリーに用いられてきた他の技術には、脂質ビヒクル(Mandava et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.2002,43,3338-48)、ペギル化イムノリポソーム(Zhang et al.,Mol.Vis.2003,9,465-72)、およびイオントホレシス(Berdugo et al.,Antisense nucleic acid drug.dev.2003,13,107-14)での直接注入がある。これらおよび追加の技術はKurz(Ophthalmol.Clin.North Am.2002,15,405-10)でも説明されている。
【0038】
半ビボデリバリーに用いられる技術には、粒子衝突(Shestopolov et al.,Exp.Eye Res.2002,74,639-49)を含めた生存動物での使用に現在適さない技術、およびカチオン性リポソームを含めた様々な化学的ベースの手法とともに、上記のすべての技術が挙げられる。これらはGrobhans Funct.Integr.Genomics,2000,1,142-5およびWolf and Jenkins,Int.J.Oncol.2002,21,461-68で説明されている。細胞および組織のトランスフェクション用の一般的実験技術は、Sambrook & Russell,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,3rd Edition,2001,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New Yorkでも記載されている。
【0039】
当然、採用される発現ベクターは、トランスフェクトして、望ましい眼組織細胞、特に角膜上皮、ストロマおよび/または内皮の細胞でタンパク質生産を行えるものでなければならない。好ましくは、活性物質の発現は、発現ベクターによる感染を介して、内皮細胞内におけるものであり、特に好ましくは選択発現ベクターによるこれら細胞の感染レベルは、活性成分発現が角膜内皮細胞のサンプル中少くとも5%、好ましくは少くとも10%、更に好ましくは少くとも20%、特に好ましくは少くとも30%または少くとも50%、更に特に好ましくは少くとも70%で証明されるような程度である。選択される発現ベクターはもちろん、哺乳動物細胞でタンパク質の生産に必要な特徴のすべてを含むことになる。例えば、好ましい発現ベクターは、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントおよび選択される任意の活性物質のコード配列と、哺乳動物遺伝子用に適したポリアデニル化シグナル(即ち、哺乳動物遺伝子で機能するポリアデニル化シグナル)と、適切なエンハンサーおよびプロモーター配列とを正しい向きで含有した分子状キメラを含んでなる。
【0040】
哺乳動物細胞では、哺乳動物細胞でメッセンジャーRNAをコードする遺伝子の完全で効率的な転写調節のために、通常2つのDNA配列:プロモーターおよびエンハンサーが必要とされる。プロモーターは転写の開始側からすぐ上流(5′)に位置する。プロモーター配列は転写の正確で効率的な開始に必要である。異なる遺伝子特異的プロモーターが共通のパターンまたは組織性を呈する。典型的プロモーターは、(転写開始部位の約30塩基対5′側に位置する)TATAボックスと称されるATリッチ領域と、1以上の上流プロモーター要素(UPE)を含有している。UPEは配列特異的核転写因子と相互作用する主要標的である。プロモーター配列の活性は、エンハンサーと称される他の配列により調節される。エンハンサー配列は、上流(5′)または下流(3′)位置で、プロモーターから離れた距離でもよい。そのため、エンハンサーは配向‐および位置‐非依存的に働く。しかしながら、交換可能な類似構造組織および機能に基づくと、プロモーターおよびエンハンサー間の絶対的区別はやや専断的である。エンハンサーはプロモーター配列からの転写速度を増す。ヌクレオチド配列の細胞発現に要する必須機構は、無論、一般的な分子生物学技術の使用により、発現ベクター中へ挿入されるヌクレオチド配列(好ましくはDNA)に対して適切な向きで位置しなければならない。上記分子生物学技術は、例えばAusubel et al.(1987)in:Current Protocols in Molecular Biology,Wyle Interscience(ISBN 047150338)で更に説明されており、その全文は引用することにより補運命最初の一部とされる。ステロイド誘導性プロモーター/エンハンサー組合せの挿入で、トランスジーン発現のステロイド誘導性コントロールを行うことができる。発現ベクターの製造に関しては、He et al.,”A simplified system for generating recombinant adenovirus”,Proc.Nat.Acad.Sci.(1998)95:2509-2514も参考として挙げられ、引用することにより本明細書の一部とされる。発現ベクターは適宜に適切な核局在化シグナルを含有でき、いかなる許容細胞系で増殖させてもよい。許容細胞系には、例示のみで挙げられているが、E1AおよびE1Bトランス相補293細胞がある。他の細胞系も、当業者には明らかに理解されるように、本発明による発現ベクターの増殖に等しく有用であろう。
【0041】
本発明による発現ベクターへの眼組織の暴露は、組織細胞の発現ベクターによるトランスフェクションを行えるような手法で行われる。発現ベクターへの組織の暴露は、単に、組織培地中へ発現ベクターを含有させることによるか、あるいは場合により一種以上の薬学上許容されるキャリアおよび/または賦形剤と一緒に目への直接(局所)または注入投与することによる(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pennsylvania,USAで開示されている;その全文は引用することにより本明細書の一部とされる)。目への投与の場合、発現ベクターは、例えばクリーム、ペーストまたはチンキ(tincture)として、滴剤(drops)として、または注射形態で処方しうる。
【0042】
眼組織への発現ベクターの直接注入または高速衝突によるような他の暴露手段も採用してよいが、組織へのダメージを避けるような注意が払われねばならない。発現ベクターによる眼細胞の適度なトランスフェクションレベルを保証するためには、利用される発現ベクターのトランスフェクションにとり有効な濃度であることが必要である。例えば、約1×10〜1×1010プラーク形成単位(pfu)/g組織(例えば、角膜)の濃度が用いられる。特に好ましくは、トランスフェクションに有効な濃度は約5×10〜5×10pfu/g組織、更に特に好ましくは約2×10〜約1×10pfu/g組織である。
【0043】
本発明は下記の非制限例に関して更に記載される。
例1
様々な発現ベクターを用いて免疫調節サイトカインIL‐10を生産させる遺伝子療法によって修飾された角膜組織の異系交配ヒツジにおける移植
本発明者らは、ヒト角膜移植片拒絶と臨床レベルで非常に類似するように、未修飾角膜同種移植片が術後3週間で拒絶をうける関連前臨床モデル、異系交配ヒツジにおける正常位角膜移植のモデルを選択した(9)。アデノウイルスベクターは様々な種の角膜内皮中へリポーター遺伝子を導入しうることが既に示されており(10〜13)、リポソーム剤の使用も以前に開拓されていた(14、15)。ヒツジ角膜内皮の有糸分裂ポテンシャルが未知であると仮定し、遺伝子療法用ベクターのインフォームドチョイスを行うために、この組織の複製能を最初に調べた。ある状況下で細胞性免疫応答を負調節する免疫調節サイトカインIL‐10(16、17)を、半ビボ遺伝子療法による同種移植片拒絶の調節用の遺伝子産物候補として選択した。
【0044】
物質および方法
ヒツジ角膜器官培養 地方屠殺場(Lobethal Abattoirs,Lobethal,SA,Australia)からドナー死の3時間以内に得られた新鮮ヒツジ目を10%w/vポビドン‐ヨウ素(Faulding Pharmaceuticals,Salisbury,SA,Australia)で3分間かけて汚染除去し、無菌0.9%w/v NaCl浸漬で2回洗浄した。メスで周縁切開を行い、角膜を2mm強膜縁付きのまま角膜鋏で摘出した。角膜を10%v/v熱不活化(56℃、30分間)牛胎児血清(FCS)、100IU/mlペニシリン、100g/mlストレプトマイシン、2.5g/mlアンホテリシンBおよび2mM L‐グルタミン(すべてGibco BRL,Gaithersburg,MD,USA)で補給された完全培地(HEPES緩衝RPMI培地;ICN,Costa Mesa,CA,USA)15ml中32℃で空気中28日間まで器官培養した。培地を週2回変えた。
【0045】
ヒツジ角膜内皮の有糸分裂ポテンシャルの評価 新鮮ヒツジ角膜の内皮単層に27ゲージ針で4mm長中央十字形状の傷をつけた。次いで内皮を上に向けて角膜を無菌浅型ウェルに入れた。25Ci 6‐Hチミジン(TRA61;Amersham,Little Chalfont,Buckinghamshire,UK)を含有した完全培地500μLを32℃で5時間角膜カップへ入れた。次いで溶液をアイソトープ無含有完全培地で全容量3ml、24時間後には全10mlに希釈した。3日後、角膜を採取し、3:1の無水エタノール:氷酢酸中室温で24時間固定し、70%エタノールへ更に24時間移した。角膜内皮をストロマのブラント切開により摘出し、ゼラチン被覆スライド上に載せ、2時間風乾した。フラットマウントをLM‐1写真オートラジオグラフィーエマルジョン(Amersham,Little Chalfont,Buckinghamshire,UK)で被覆し、4℃で4週間露出させ、製造業者のプロトコールに従い処理した。フラットマウントをギムザで染色し、Depex(BDH Chemicals,Kilsyth,VIC,Australia)に載せた。陰性コントロールとして、角膜を損傷させ、Hチミジン無培地中でインキュベートし、未損傷角膜をHチミジンと共におよびそれなしでインキュベートした。陽性コントロールとしては、上皮表面をトリチウム化チミジン含有培地と接触させて上記のようにインキュベートされた角膜から調製された角膜上皮フラットマウントを用いた。
【0046】
アデノウイルスベクターでのヒツジ角膜内皮のトランスフェクション CMVプロモーターの転写コントロール下で大腸菌lacZをコードするか(Ad‐lacZ)、またはエンプティ(empty)プラスミドを含有するか(Ad‐mock)、または全長ヒツジIL‐10(Ad‐IL‐10)もしくはIL‐12のP‐40サブユニット(Ad‐P40‐IL‐12)(Dr.S.Swinburn,Haematology Department,Flinders Medical Centre,South Australia発表のcDNA配列)をコードする、複製欠陥E1、E3欠失アデノウイルス5型ベクター。これらは、前記Hu et alで記載されたようなアプローチに従い作製される。これら種のcDNA配列はパブリックデータベースで入手しうる。Ad‐lacZ構築物は核局在化シグナルを含有していた。標準プロトコールに従いE1A、E1Bトランス相補293細胞でベクターを増殖させた(18〜20)。角膜内皮細胞の感染に最適なウイルス濃度を求めるために、完全培地中Ad‐lacZ 6.6×10〜6.6×10プラーク形成単位(pfu)/角膜の濃度で角膜を感染させた。コントロール角膜は感染させなかったか、またはAd‐mockで同様に感染させた。最適感染時間は、Ad‐lacZ 6.6×10〜6.6×10pfu/角膜で0.5、1、1.5および2時間にわたる角膜のインキュベーションにより求めた;次いでベクターを希釈し、角膜を完全培地15ml中で更に48時間再インキュベートした。リポーター遺伝子発現の期間を調べるために、室温で2時間かけて6.6×10pfu/角膜で感染された角膜を2日間(n=14)、3日間(n=6)、6日間(n=6)、7日間(n=1)、10日間(n=5)、13日間(n=5)、14日間(n=1)、16日間(n=3)、21日間(n=4)および28日間(n=3)器官培養した。インキュベーション後、すべての角膜をlacZリポーター遺伝子発現のために処理した。
【0047】
lacZリポーター遺伝子発現の検出 プロセッシング前に、角膜をダルベッコAリン酸緩衝液(PBS)中2.5%ホルムアルデヒドおよび0.25%グルタルアルデヒドで氷上15分間固定し、次いで氷上PBSで15分間洗浄を2回行って、ウイルスベクターを不活化し、内在性ガラクトシダーゼを阻害した(21)。大腸菌ガラクトシダーゼの発現は、pH7.0のPBS‐2(16mM NaHPO、4mM NaHPO・2HO、120mM NaCl)中1mg/ml 5‐ブロモ‐4‐クロロ‐3‐インドキシル‐D‐ガラクトシド(ICN,Costa Mesa,CA,USA)、N‐ジメチルホルムアミド(BDH Chemicals,Kilsyth,VIC,Australia)、2mM MgCl、5mM KFe(CN)、5mM KFe(CN)の溶液2.5ml/角膜を用いて、32℃で暗所下18時間用いて調べた。角膜当たり水20mlで10分間洗浄後、内皮細胞境界を染色する修正銀染色を、1分間にわたる1%w/v AgNOの適用、次いで露光により行った(22)。23ゲージ針および歯状鉗子を用いて内皮を外科的に摘出し、カイザーのグリセロールゼリー(12.5%w/vゼラチン、87.5%v/vグリセリン)中でクロム‐ミョウバン サブド(subbed)スライド上に載せた。293細胞で大腸菌ガラクトシダーゼを検出するために、細胞をPBSで2回洗浄し、PBS中0.25%グルタルアルデヒドで5分間かけて氷上固定し、氷冷PBSで2回洗浄した。次いで染色を上記のように行った。
【0048】
lacZ発現の定量 リポーター遺伝子を発現する細胞数を定量するために、角膜内皮フラットマウントを光学顕微鏡で調べ、標準倍率で35mmスライドフィルムに撮影した。スライドを標準距離および倍率で映し出した。内皮細胞およびlacZ陽性細胞の総数を既知寸法のフレーム内でカウントした。各角膜において、フラットマウントの代表的箇所から撮られた2枚の異なるスライドの各々で3エリアについてカウントし、平均および標準偏差(SD)を計算した。
【0049】
トランスフェクトされたヒツジ角膜におけるIL‐10 mRNAの検出 上記のように調製された新鮮角膜を4.5×10pfu Ad‐mockまたはAd‐IL‐10で2時間にわたり感染させ、またはウイルスベクターなしに培地中でインキュベートした。次いでそれらを完全培地3ml中32℃で空気中24時間インキュベートし、その後で更に2mlの完全培地を加えて、器官培養を続けた。その後様々な時点で、角膜の中央8mm径全厚ディスクを穿孔し、液体窒素でスナップ凍結させた。各ディスクを前冷却ステンレス鋼製乳鉢および乳棒で粉砕した。全RNAを全RNA抽出試薬(Advanced Biotechnologies Ltd.,Surrey,UK)で抽出し、DNAse(GlassMax MicroIsolation Kit,Life Technologies,Melbourne,VIC,Australia)で処理し、市販第一鎖cDNA合成キット(Amersham Pharmacia Biotech UK Limited,Buckinghamshire,England)を用いて製造業者の指示に従い逆転写した。残留ヒツジゲノムまたはウイルスDNA汚染についてコントロールするために、サンプルを95℃で60分間にわたる逆転写酵素の不活化後に同様の逆転写ステップへ付した。cDNAの希釈物をPCRにより25μL全容量中で増幅させた。IL‐10および‐アクチン用の反応混合液は10mM Tris‐HCl(pH8.3)、0.15M KCl(Perkin Elmer Roche Molecular Systems,Branchburg,New Jersey,USA)、0.2mMの各dNTP(Amersham Pharmacia Biotech UK Limited,Buckinghamshire,England)、1.5mM MgCl、1mMの各プライマー、1単位AmpliTaq-Gold(すべてPerkin Elmer Roche Molecular Systems,Branchburg,New Jersey,USA)およびサンプル5 Lであった。グリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)用の反応緩衝液は2mM MgClを含有していたが、他は同一であった。プライマー配列は、IL‐10(配列番号
1 5′‐GCAGCTGTACCCACTTCCCA‐3′、配列番号2 5′‐AGAAAACGATGACAGCG‐3′)で307塩基対領域、アクチン(配列番号3 5′‐ATCATGTTTGAGACCTTCAA‐3′、配列番号4 5′‐CATCTCTTGCTCGAAGTCCA‐3′)で317塩基対領域、およびGAPDH(配列番号5 5′‐ACCACCATGGAGAAGGCTGG‐3′、配列番号6 5′‐CTCAGTGTAGCCCAGGATGC‐3′)で527塩基対領域を増幅させた。94℃で15分間の1サイクル後、40サイクルの増幅を行い、各々は55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間および94℃で1分間の伸長、55℃で30秒間、72℃で20秒間および35℃で10秒間の最終伸長からなっていた。増幅産物を1.5%w/vアガロースゲルで電気泳動に付した。
【0050】
ヒツジの正常位角膜移植 成体雌性メリノ交配ヒツジを屋内囲い中少くとも1週間にわたり少くとも動物2匹の群で順応させ、水を自由に、およびルーサーン(lucerne)干草で補給されたもみ殻を与えた。12mm径挿入角膜移植を右目のみで既に記載されたように行った(9)。術後ケアおよび検査は前記の通りであり、どの移植片も毎日スリットランプで調べた。各群のヒツジに、未修飾角膜移植片、Ad‐mockで感染された角膜、または最適な操作に従いAd‐IL‐10もしくはAd‐P40‐IL‐12で感染された角膜を入れた。ヒツジが移植される順序は、すべての群でランダムであった。拒絶は前記のように規定した(9)。長期生存角膜移植片を有する何匹かのヒツジでは、炎症刺激として、一般麻酔下で移植片中への8‐0編絹縫合糸の据置により拒絶を誘導させる試みを行った。全実験の承認は動物福祉協会から得た。
【0051】
膜同種移植片の終点組織検査 角膜組織をホルマリン緩衝液で固定し、パラフィンロウに包埋し、8mmで切り、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0052】
角膜同種移植片のイムノペルオキシダーゼ染色 ヒツジ細胞表面決定基に対するマウスmAbを含有したハイブリドーマ培養上澄をDepartment of Veterinary Science,University of Melbourne,Parkville,VIC,Australiaから入手したが、これはSBU41.19、抗MHCクラスI単形態エピトープ(23);SBU28.1、抗MHCクラスII単形態エピトープ(24);SBU1‐11‐32、抗CD45/白血球共通(非制限)抗原(25);SBU44.38、抗CD4およびSBU38.65、抗CD8(26、27);SBU20.27、抗CD1(28);およびSBU72.87、抗CD11a/LFA‐1(29)を含有していた。ハイブリドーマP3X63Ag8(IgG1イソタイプ;European Collection of Animal Cell Cultures,Porton Down,Wiltshire,UK)およびSAL5(IgG2aイソタイプ;Dr.L.Ashman,IMVS,Adelaide,SA,Australiaの贈呈品)の培養上澄を陰性コントロールとして用いた。移植された目を死後直ちに採取し、角膜を前記のように摘出、固定、染色および計数した(9)。
【0053】
角膜同種移植片を有するヒツジの液中のアデノウイルス抗体力価 死後直ちに、前房液を集め、−80℃でスナップ凍結した。静脈末梢血も集め、血清を分離し、同様にスナップ凍結した。アデノウイルスに対する抗体力価は、Biowhittaker Northfield Laboratories,Adelaide,SA,Australiaの試薬を用いて、地方委託研究所で標準補体固定試験により求めた。
【0054】
データの統計分析 角膜移植片生存データをマン‐ホイットニーU検定で分析し、タイの場合には補正した。
【0055】
結果
ヒツジ角膜内皮の複製能 ヒツジ角膜内皮を意図的に損傷させ、角膜をHチミジンの存在下で器官培養した。損傷部位は、器官培養3日後に採取された角膜内皮フラットマウント上において、光学顕微鏡でなお明瞭に視認できた。損傷部位に近い任意内皮細胞の核中へのHチミジンの取込みを観察し(図1A)、非常に珍しい有糸分裂像を確認した(図1B)。Hチミジンの取込みは損傷部の近辺に限られていた;取込みは角膜周縁部でなかった。未損傷角膜(陰性コントロール)はHチミジンの取込みを示さず、上皮表面をアイソトープ含有溶液と接触させた状態でインキュベートされた角膜(陽性コントロール)は実質的取込みを示した(示さず)。ヒツジ角膜内皮の複製能が非常に限定されており、例えば、複製欠陥アデノウイルス(エピソーム残存)がヒツジ内皮への遺伝子導入用に適したベクターであろう、とデータは示唆している。
【0056】
ヒツジ角膜内皮へのアデノウイルス媒介リポーター遺伝子導入 ヒツジ角膜をインビトロでAd‐lacZでトランスフェクトした。6.6×10〜6.6×10pfu/角膜で内皮単層に分散させて、単ガラクトシダーゼ陽性細胞を観察した。ウイルス濃度の増加でガラクトシダーゼ陽性細胞の数を最大約50%に増加させたが(図2A)、発現の降下が6.6×10pfu/角膜で観察された。6.6×106‐7pfu/角膜の濃度が最良発現をもたらすと判断された。陰性コントロール(ウイルス非適用、Ad‐mock適用)はいつでもガラクトシダーゼの発現を示さなかった。リポーター遺伝子発現は、ストロマケラトサイトではなく、角膜内皮のみで観察された。角膜で視認しうる毒性作用はいかなるウイルス濃度でも観察されなかった。ベクターが角膜内皮と接触している時間を変えた影響を、6.6×10および6.6×10pfu/角膜で調べた(図2B):細胞の約30%は最初の1時間以内で感染し、陽性細胞の数は2時間で約50%に増加した。リポーター遺伝子発現の期間は、6.6×10pfu/角膜で1.5hrの感染時間を用いて、時間経過実験で調べた:30%の細胞が24時間後にガラクトシダーゼを発現し、6日目に約70%に上昇し、発現は28日の観察期間にわたりこのレベルのままであった(図2C)。
【0057】
IL‐10遺伝子修飾器官培養ヒツジ角膜におけるIL‐10 mRNAの検出 リポーター遺伝子発現に最適な条件を用いてヒツジIL‐10をコードする遺伝子をヒツジ角膜内皮中へ導入するためにAd‐IL‐10を用い、角膜をインビトロで21日間まで培養した。IL‐10のmRNAの存在を検出するために逆転写PCRを用いた;‐アクチンおよびGAPDHはハウスキーピングコントロールとして働いた。ゲノムまたはアデノウイルスIL‐10の増幅は、逆転写酵素が単離RNA調製物のDNAse‐I処理後に不活化されたコントロールで観察されなかった。ヒツジIL‐10の特異的mRNAはアデノウイルス感染後24時間目とその後の様々な時点で観察され(表1)、角膜が21日間器官培養された後でもなお検出された(図3)。
【0058】
異系交配ヒツジにおける遺伝子修飾ドナー角膜の正常位移植 異系交配ヒツジで正常位角膜移植の直前にドナー角膜の角膜内皮を感染させるために、Ad‐IL‐10およびAd‐P40‐IL‐12ベクターを用いた(図4)。コントロールは、未修飾ドナー角膜およびAd‐mockで感染させた角膜を含有していた。角膜移植片生存データが表2で示されている;ドナー内皮中へのIL‐10をコードする遺伝子の挿入により修飾された角膜移植片は、未修飾コントロール(p=0.019)または未修飾で偽のウイルス感染コントロール群(p=0.011)より有意に長く生存した。宿主血管が移植片‐宿主の結合を行う時間に、各群間で差異はなかった(p>0.05)。IL‐12のP‐40サブユニットをコードする遺伝子のc‐セクションにより修飾された角膜でも、長い生存期間が証明された(中央値45日間)。コントロールと比較して、アデノウイルス処理角膜を入れた群では、術後炎症が重篤でなく、長く続かなかった。移植片の臨床拒絶を示したヒツジの終点組織検査では、すべての例で類似した像を示した:実験群間で差異はなかった。同様に、イムノペルオキシダーゼ染色では、拒絶遺伝子修飾角膜が拒絶未修飾または偽ウイルス感染移植片でみられる場合と似た細胞浸潤物を含有していることを示し、CD4陽性およびCD8陽性細胞の双方で実質的浸潤があった。アデノウイルスに対する抗体は、死後にヒツジ2匹の前房液または血清で検出できなかった。
【0059】
各々移植後196および303日目に移植片中への絹縫合糸の据置により、遺伝子修飾長期生存(>150日)の角膜移植片を入れたIL‐10群のヒツジ2匹で拒絶を誘導させる試みを行った。双方の場合で、移植片の炎症が生じて、拒絶が2週間以内に起き、レシピエントが移植片にもはや寛容でないことを示した。免疫組織化学検査では、これら拒絶移植片の浸潤が未修飾移植片でみられる場合と類似していることを示した。
【0060】
考察
Hチミジンは増殖細胞によりDNA中へ取り込まれ、オートラジオグラフィーで視覚化しうる。この方法は、多くの種で角膜内皮の有糸分裂活性を調べるために、以前用いられていた(30〜33)。ヒツジ角膜では、Hチミジンとインキュベートされた未損傷内皮がアイソトープを取り込まなかった。単一内皮細胞中への局在的取込みが意図的な損傷後に観察されたが、増殖は3日間で欠陥を覆えるほど十分でなかった。ヒツジ角膜内皮が非常に限られた有糸分裂ポテンシャルを有することを我々のデータは示唆している:増殖の一部は誘引現象により誘導されうるが、それ以外は生じない。実際上、ヒツジ角膜内皮は本質的に無糸分裂とみなせる。これはヒトおよびネコの状況と似ており、そこでは有糸分裂がほとんど起きず、欠損は存在細胞の徐々のスライディングと拡大で主に覆われる(30〜33)。
【0061】
エピソームを残存させて宿主ゲノム中へ入り込まない複製欠陥アデノウイルスが、無糸分裂細胞の遺伝子療法に適したベクターである。複製欠陥アデノウイルスが、ヒツジ角膜内皮細胞の70〜80%におよぶ遺伝子導入用の効率的ベクターであることがわかった。インビトロにおけるリポーター遺伝子の最良発現は6.6×10pfu/角膜で得た。ヒツジ角膜が約8×10内皮細胞を含有しているとすれば、6.6×10pfuは>10ビリオン/細胞の感染多重度を表わしている。感染はそれより高濃度のベクターのときさほど効率的でなかったが、明白な毒性作用はいかなるウイルス濃度でもみられなかった。最適濃度は、アデノウイルスベクターによるウサギ角膜内皮の感染について他の著者らによりみられた場合と類似していた(13〜15)。他の著者らは、リポフェクタミンを用いてウサギ角膜内皮細胞の7%で(14)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンを用いてウシ内皮細胞の比較的少ない割合で(34)、リポーター遺伝子発現を観察した。更に最近、Georgeと彼の仲間は、新規クラスの非ウイルス体、活性化ポリアミドアミンデンドリマーがウサギおよびヒト角膜内皮細胞の6〜10%へ遺伝子を導入するためにうまく用いうることを証明した(35)。しかしながら、アデノウイルスは遺伝子導入を行う上で非ウイルス体の場合より有意に効率的であるらしい。
【0062】
アデノウイルスは表面レセプターと結合して、素早いプロセス、クラスリン被覆小胞によるエンドサイトーシスで細胞へ入る(36、37)。複製アデノウイルスにおけるDNA複製は感染後約8時間で始まる(38)。ヒツジ角膜では、ほとんどのアデノウイルス感染が1時間以内に生じたが、リポーター遺伝子発現が最大になるまで5〜6日の遅れが観察された。CMVまたはRSVプロモーターにより促進されるlacZ発現について3〜7日のタイムラグが、ヒト角膜内皮へのアデノウイルス導入後に観察された(12、14、15)。我々はヒツジ角膜内皮中のlacZ発現がインビトロで4週間にわたり安定であることを観察した。ウサギで作業する研究者らはインビトロ実験で3〜4週間にわたるlacZの発現を見い出したが(38)、正常位角膜移植後はわずか1〜2週間であった(10)。タンパク質‐ガラクトシダーゼはニューロンで2週間の半減期を有するが(39)、おそらくプロモーター消失による遺伝子サイレンシングのせいで(41)、気道上皮のような他の組織ではそれより短い発現が観察された(40)。ヒツジIL‐10に特異的なモノクローナル抗体の不在下で、ヒツジ角膜内皮細胞におけるIL‐10産物の発現を、トランスフェクトされた器官培養角膜でIL‐10のmRNAの検出により間接的に評価した。我々は、インビトロで少くとも3週間にわたり、ヒツジ角膜内皮でIL‐10 mRNAを検出することができた。
【0063】
免疫抑制の不在下で、ヒツジにおける角膜移植片拒絶は術後約3週間で生じる(9)。したがって、免疫調節サイトカインをコードする導入遺伝子の発現がインビボで3〜4週間続けば、移植片拒絶を調節する上で十分であろう、と我々は判断した。リポーター遺伝子導入後における目の炎症応答が以前に報告されており(13)、類似の発見が脳のような他の免疫特権組織で観察されていた(42)。しかしながら、目のような特権部位で免疫調節サイトカインの発現があれば、同種移植片のみならず、ウイルスベクターに対しても局所免疫応答を改善する上で十分であろう、と我々は考えた。面白いことに、Qinとその同僚は、ウイルスIL‐10でアデノウイルス媒介遺伝子療法後に、ネズミ心臓同種移植片モデルにおいて同種抗原およびアデノウイルス抗原双方に対する免疫応答の調節を以前に報告していた(43)。
【0064】
アデノウイルスベクターの使用に起因する明白な毒性はなかった。ドナー角膜内皮へ標的遺伝子をデリバリーするために用いられたアデノウイルス構築物は、角膜移植後にヒツジで検知しうる抗体応答を誘起せず、実験の時間経過に際してそれとわかる眼炎症を誘導しなかった。実験群にかかわりなく、宿主血管は周縁部から全角膜移植片方向へ同速で伸びた。遺伝子修飾ドナー角膜を入れたほとんどの動物で、新生血管形成は角膜移植片拒絶を伴わず、これらヒツジの角膜血管は開通性を留めなかった。
【0065】
我々の実験では、移植直前におけるドナー角膜へのIL‐10の遺伝子導入が、全体としてコホート(cohort)で角膜同種移植片生存期間を有意な程度に延ばした。2例で、移植片生存期間が無期限に延びた(>150日)。同種移植片生存期間は、角膜組織をIL‐12のP‐40で修飾した群でも延びた。他の免疫抑制療法を全く使用せず、特に局所グルココルチコステロイドを使用せずに、これらの結果が得られたことは注目に値する。しかしながら、IL‐10修飾ドナー角膜を入れた一部のヒツジは、コントロール動物と同様の時間枠内で移植片を拒絶した。これらの動物では、移植拒絶がコントロールで観察された場合と巨視的または微視的レベルで区別しえなかった。特に、白血球浸潤の程度および組成は全例で類似しており、移植片内でMHCクラスIまたはII分子の発現に明白な差異はなかった。寛容が長期生存体で誘導されなかったことは、移植片への炎症刺激の意図的な適用後にこれらの動物が移植片を拒絶したという観察により証明される。角膜内皮によるIL‐10の発現が大多数の動物で拒絶を調節または有意に遅延させる上で十分であったが、拒絶が少数のレシピエントで免疫調節に勝った、と我々は推測している。
【0066】
細胞(44〜46)およびウイルスIL‐10(43、47〜49)双方が、様々な小動物モデルで同種移植片生存期間を延ばして慢性拒絶を調節すると報告されており、IL‐10遺伝子ノックアウトマウスは心臓同種移植片生存期間の減少と慢性拒絶の徴候増加を示す(50、51)。しかしながら、少くとも1つのレポートでは、ネズミIL‐10の全身投与でネズミ心臓同種移植片拒絶を増悪化させることが示され(52)、更に、様々な用量のネズミIL‐10の結膜下および全身投与でもラットで角膜移植片生存期間を延ばすには無効であることが示された(53)。同種移植片生存期間におよぼすIL‐10の効果は、投与のタイミング(45)および用量(46)の双方に依存しているようである。マウスおよびヒトIL‐10は機能に関して完全には相同的でない:特に、前者はネズミT細胞に免疫刺激性であり(16)、これはヒトIL‐10またはウイルスIL‐10に共有されない特性であるが、様々なサイトカイン製造に際する内毒素レベルが一部の結果に影響を与えたかもしれないと、非公式に示唆された。ヒツジIL‐10はヒツジマクロファージによる炎症性サイトカイン生産を阻害することが示され(54)、我々はそれがヒトIL‐10と似た機能性を有しているらしいと考えている。
【0067】
要約すると、内皮が本質的に非複製性であり、拒絶が臨床および組織学的双方のレベルでヒト角膜移植片拒絶と非常に類似している異系交配モデルにおいて、移植前にドナー角膜内皮への、免疫調節サイトカイン、哺乳動物IL‐10およびIL‐12のP‐40サブユニットをコードする遺伝子のデリバリーが、角膜同種移植片生存期間の有意な延長をもたらしている、と我々は報告するものである。
【0068】
免疫調節サイトカインをコードする遺伝子を角膜組織へデリバリーする上で採用されたものと類似した技術が、下記のように、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードする遺伝子の眼組織へのデリバリーに採用しうる。
【0069】
例2
抗CD28の遺伝子導入媒介眼内発現によるラット角膜同種移植片生存期間の延長
角膜移植は視力脅威的角膜混濁化によく用いられる処置であるが、一部の移植は失敗している。角膜移植失敗の主因は不可逆的拒絶、T細胞依存性プロセスである。
【0070】
目的
T細胞補助刺激分子と反応性の工学処理抗体フラグメントをコードするcDNAのドナー角膜への遺伝子導入がラット角膜同種移植片生存期間を延ばすかどうかを調べること
【0071】
方法
緑色蛍光タンパク質(eGFP)リポーター遺伝子とラットCD4(Ad‐CD4)またはラットCD28(Ad‐CD28)に対する分泌一本鎖可変ドメイン抗体フラグメント(scFv)とをコードする複製欠陥アデノウイルスを構築および特徴化した。特異的mRNAの発現を検出するために逆転写PCRにより、およびeGFPの発現を検出するために蛍光顕微鏡により、アデノウイルス感染角膜を調べた。機能性scFvタンパク質をラット胸腺細胞およびCD4+トランスフェクタントでフローサイトメトリーにより検出した(図5)。同種刺激を阻止するscFvの能力を一方向混合白血球反応(MLR)で測定した(図6、7)。Fischer 344レシピエントへの正常位移植直前に、ドナーWistar-Furthラット角膜を下記のように半ビボでアデノウイルスで感染させ、移植片生存を毎日の顕微鏡検査および終点組織検査で調べた。
【0072】
複製欠陥アデノウイルスベクターによるラット角膜のインビトロ形質導入
ドナーラットを過量の吸入麻酔剤(ハロタン)で殺した。目を摘出し、10%w/vポビドン‐ヨウ素(Faulding Pharmaceuticals,Salisbury,Australia)で2分間汚染除去し、平衡塩類溶液(BSS;Cytosol Ophthalmics,Lenoir,NC)で2回すすいだ。無菌条件下で、角膜を1〜2mm強膜縁付きのまま切開した。虹彩を摘出し、角膜を2%容量/容量(v/v)熱不活化(56℃、30分間)FCS、100IU/mlペニシリン、100μg/ml硫酸ストレプトマイシンおよび2mM L‐グルタミン(すべてGibco BRL,Gaithersburg,MD)で補給されたHEPES緩衝RPMI1640培地(ICN Pharmaceuticals,Costa Mesa,CA)に入れた。内皮を上に向けて角膜を無菌96ウェル丸底プレート(Nalge,Nunc International,Rochester,NY)へ移し、2%FCSで補給されたHEPES緩衝RPMI1640培地で希釈されたアデノウイルスベクターにより、100μLの全容量で空気中5%CO中37℃で2時間かけて形質導入した。角膜を移植片として用いたか、または10%FCS+2.5μg/mlアンホテリシンB(Gibco BRL,Gaithersburg,MD)で補給されたHEPES緩衝RPMI1640培地2mlへ空気中5%CO中37℃で7日まで入れた。
【0073】
結果
5×10pfu/角膜のウイルス量のときは、4日間の角膜器官培養後に角膜内皮細胞の95%までがeGFP発現を生じた。特異的scFv mRNAが角膜組織で検出でき(図8)、分泌抗CD4 scFv(図9)および抗CD28 scFvが感染後2日目から培養上澄で定量できた。抗ラットCD4 scFvはMLRで増殖を阻止した。偽処理角膜同種移植片(n=12)は、Ad‐CD4処理同種移植片の11日目(n=10;p=0.46 cf.コントロール)およびAd‐CD28処理同種移植片の16日目(n=10;p=0.026 cf.コントロール)と比較し、中央値で移植後12日目に拒絶された;Ad‐CD28処理群の2レシピエントは>60日の長期移植片生存を示した。
【0074】
結論
ドナー角膜による抗CD28抗体フラグメントの発現は、角膜移植片生存期間を有意に延ばせる。
【0075】
これら発明は例示のためのみで記載されており、本開示に基づき当業者に明らかになる本発明の特定面への修正および/または変更も本発明の精神および範囲内に属すると考えられる、と認識されるべきである。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
引用文献
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】


【図面の簡単な説明】
【0079】
本発明は、図面を参照しながら、例示のみの目的として、更に以下の通り記載される:
【図1】意図的な損傷後3日目における器官培養されたヒツジ角膜内皮のHチミジンの取込みを示したオートラジオグラフ。図1(A)は意図的に損傷された周辺部における(矢印で示された)内皮細胞での取込みを示している;倍率×32;図1(B)は(矢印で示された)有糸分裂像を表わす高倍率図を示している;倍率×128
【図2】ヒツジ角膜内皮へのアデノウイルスベクターAd‐lacZのトランスフェクション効率に対する、ウイルス濃度およびウイルスとのインキュベーション時間の効果、並びに器官培養ヒツジ角膜の内皮細胞におけるガラクトシダーゼの発現の安定性。各場合において、リポーター遺伝子発現は、角膜当たり3箇所においてガラクトシダーゼ陽性細胞をカウントすることにより定量した。図2(A)は、Ad‐lacZ 6.6×10〜6.6×10pfu/角膜の濃度で用い、その他は同一条件下でインビトロでヒツジ角膜をトランスフェクトしたことを示している。角膜は48時間後に採取した。各バーは3〜6角膜のカウントについての平均陽性細胞率±SDを表わしている。図2(B)は、ヒツジ角膜が6.6×10〜6.6×10pfu/角膜のAd‐lacZと、0.5〜2.0時間インキュベートされたことを示している。角膜は48時間後に採取した。各バーは3つの器官培養角膜における陽性細胞の平均率±SDを表わしている。図2(C)は、6.6×10Ad‐lacZ pfu/角膜で2時間のトランスフェクション後の器官培養されたヒツジ角膜におけるガラクトシダーゼの発現期間を示している。角膜は表記の時点で採取した。各ポイントは、3〜14角膜の平均陽性細胞率±SDを表わしている。
【図3】最適条件下Ad‐IL‐10でトランスフェクトされ、さらにRNA抽出およびRT‐PCRの前に21日間器官培養されたヒツジ角膜における、IL‐10およびGAPDHの産物を示したアガロース1.5%ゲル。cDNAの希釈は1/1、1/10および1/100希釈で二重列で行った。無DNAと記された列は、cDNAの代わりに水が用いられたコントロールを表わしている。
【図4】ヒツジにおける遺伝子修飾挿入角膜同種移植片の結果:図4(A)は移植後29日目の拒絶未修飾同種移植片を示している;図4(B)は移植後190日目の生存IL‐10修飾同種移植片を示している。
【図5】感染ラット角膜上澄(感染後4日目)のラット胸腺細胞結合活性。活性は、増強緑色蛍光タンパク質コードアデノウイルス(AdGFP;灰色ヒストグラム)で感染された角膜ではなく、抗CD4一本鎖抗体フラグメントコードアデノウイルス(AdCD4;黒色ヒストグラム)で感染された角膜の上澄で検出された。
【図6】混合リンパ球反応における抗CD4モノマー一本鎖抗体フラグメントの効果。抗CD4一本鎖抗体フラグメント(20merモノマー)またはビヒクル(モノマービヒクル)が、2×10F344レスポンダーおよび4×10WFスティミュレーターを含有したウェルへ加えられた。バーはトリプリケートウェルの平均を表わしている。エラーバーは±1SDを表わしている。データは(log10)変換し、2方向ANOVA、次いで単純主効果の多重比較試験により分析した。P<0.05は有意とみなした(ボンフェローニ調整)。
【図7】混合リンパ球反応における抗CD4ダイマー二本鎖抗体フラグメントの効果。抗CD4一本鎖抗体フラグメント(20merダイマーまたは11merダイマー)またはビヒクル(ダイマービヒクル)が、2×10F344レスポンダーおよび4×10WFスティミュレーターを含有したウェルへ加えられた。バーはトリプリケートウェルの平均を表わしている。エラーバーは±1SDを表わしている。データは(log10)変換し、2方向ANOVA、次いで単純主効果の多重比較試験により分析した。P<0.05は有意とみなした(ボンフェローニ調整)。
【図8】形質導入ラット角膜中のトランスジーンmRNAのRT‐PCRによる検出。抗CD4 scFvコードアデノウイルス(Ad‐CD4)で形質導入された角膜において、リポーター遺伝子(GFP;300bp)または一本鎖抗体フラグメント(scFv;1kb)をコードするcDNAが得られた。リポーター遺伝子をコードするcDNAのみが、コントロールウイルス(AdGFP)で形質導入された角膜において得られた。
【図9】SDS‐PAGEおよびウエスタンブロットによる一本鎖抗体フラグメントタンパク質の検出。抗CD4一本鎖抗体フラグメントコードアデノウイルスで形質導入されたHEK‐293細胞からアフィニティ精製された上澄において、正しいサイズのHis標識タンパク質(矢印;26kDa)が抗ヒスチジン抗体により検出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するように眼組織の細胞を修飾する方法であって、
トランスフェクションを行わせる上で十分な期間にわたり、前記免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度に前記眼組織を曝し、前記該眼組織の細胞が免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産すること
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記眼組織が、瞳孔、虹彩、硝子体、斑、網膜、強膜、水晶体、脈絡膜、周縁組織、結膜および角膜組織のうち一種以上から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記眼組織が角膜組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントが、MHC分子、補助刺激分子、接着分子、レセプター関連分子、サイトカインレセプター、インターフェロンγレセプター、ウイルス表面抗原およびAcanthamoebaの表面抗原のうち一種以上に特異性を有している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントが、CD80、CD86、CD152、CD11b/e、CD18、CD54、CD62L、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40、CD40L、ICOS、PD‐1、BTLA、CTLA4、IL‐2R、CD25、単純ヘルペスウイルスのgD2およびgB2抗原、およびヘルペス性角膜炎を引き起こすヘルペスウイルスの表面抗原のうち一種以上に特異性を有している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記眼組織が哺乳動物のものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記哺乳動物がヒトである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記発現ベクターが、ウイルス、細菌またはプラスミド発現ベクターである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記発現ベクターが、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルス、レンチウイルスまたは単純ヘルペスウイルス発現ベクターである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記発現ベクターが非生存発現ベクターである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記発現ベクターがリポソーム発現ベクターである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度が約1×10〜約1×1010pfu/g組織である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度への眼組織の暴露が半ビボで行われる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度への眼組織の暴露がインビボで行われる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記眼組織中へトランスフェクトされる発現ベクターまたは他の発現ベクターが、活性物質をコードするヌクレオチド配列を含んでなり、前記眼組織の細胞が活性物質を生産する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記活性物質がペプチドホルモン、サイトカインまたはそれらのアナログである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記サイトカインが、IL‐10、IL‐4、IL‐12のP‐40成分、Bc12、インターフェロンガンマ、インターフェロンアルファおよびTGFベータのうち一種以上から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記眼組織の細胞の少くとも10%が修飾される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記眼組織の細胞の少くとも20%が修飾される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記眼組織の細胞の少くとも50%が修飾される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記眼組織の細胞の少くとも70%が修飾される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記修飾細胞が角膜内皮細胞である、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ヌクレオチド配列がcDNAである、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記修飾組織がドナーから採取され、レシピエント動物の目へ移植される、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するように修飾された細胞を含んでなる、採取された眼組織。
【請求項26】
請求項1〜23のいずれか一項に記載された方法により修飾された細胞を含んでなる、採取された眼組織。
【請求項27】
眼移植片による治癒を改善しおよび/または移植片生存期間を延ばす方法であって、
眼組織の細胞が免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを発現するようにトランスフェクションを行わせる上で十分な期間にわたり、眼の移植片による治癒および/または拒絶に関与する物質に特異的な免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度に眼組織を曝し、該組織をドナーから採取し、レシピエントの目へ前記眼組織を移植することを含んでなる、方法。
【請求項28】
前記眼組織が、瞳孔、虹彩、硝子体、斑、網膜、強膜、水晶体、脈絡膜、周縁組織、結膜および角膜組織のうち一種以上から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記眼組織が角膜組織である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントが、MHC分子、補助刺激分子、接着分子、レセプター関連分子、サイトカインレセプター、インターフェロンγレセプター、ウイルス表面抗原およびAcanthamoebaの表面抗原のうち一種以上に特異性を有している、請求項27〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントが、CD80、CD86、CD152、CD11b/e、CD18、CD54、CD62L、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40、CD40L、ICOS、PD‐1、BTLA、CTLA4、IL‐2R、CD25、単純ヘルペスウイルスのgD2およびgB2抗原、およびヘルペス性角膜炎を引き起こすヘルペスウイルスの表面抗原のうち一種以上に特異性を有している、請求項27〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記眼組織が哺乳動物から採取される、請求項27〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記哺乳動物がヒトである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記発現ベクターが、ウイルス、細菌またはプラスミド発現ベクターである、請求項27〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記発現ベクターが、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルス、レンチウイルスまたは単純ヘルペスウイルス発現ベクターである、請求項27〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記発現ベクターが非生存発現ベクターである、請求項27〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記発現ベクターがリポソーム発現ベクターである、請求項27〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度が約1×10〜約1×1010pfu/g組織である、請求項27〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度への採取眼組織の暴露が半ビボで行われる、請求項27〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度への眼組織の暴露がインビボで行われる、請求項27〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
眼組織中へトランスフェクトされる発現ベクターまたは他の発現ベクターが、活性物質をコードするヌクレオチド配列を含んでなり、前記眼組織の細胞が活性物質を生産する、請求項27〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記活性物質がペプチドホルモン、サイトカインまたはそれらのアナログである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記サイトカインが、IL‐10、IL‐4、IL‐12のP‐40成分、Bc12、インターフェロンガンマ、インターフェロンアルファおよびTGFベータのうち一種以上から選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記眼組織の細胞の少くとも10%が修飾される、請求項27〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記眼組織の細胞の少くとも20%が修飾される、請求項27〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記眼組織の細胞の少くとも50%が修飾される、請求項27〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記眼組織の細胞の少くとも70%が修飾される、請求項27〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記修飾細胞が角膜内皮細胞である、請求項27〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記ヌクレオチド配列がcDNAである、請求項27または28に記載の方法。
【請求項50】
前記修飾組織がドナーと同種のレシピエント動物の目へ移植される、請求項27〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
眼障害の治療および/または予防の方法であって、
障害に関与する物質に特異的な免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクターの眼組織中へのトランスフェクションに有効な濃度を、該眼組織の細胞が免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するようにトランスフェクションを行わせる上で十分な期間にわたり、哺乳動物患者の目へ導入すること
を含んでなる、方法。
【請求項52】
前記眼組織が、瞳孔、虹彩、硝子体、斑、網膜、強膜、水晶体、脈絡膜、周縁組織、結膜および角膜組織のうち一種以上から選択される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記眼組織が角膜組織である、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントが、MHC分子、補助刺激分子、接着分子、レセプター関連分子、サイトカインレセプター、インターフェロンγレセプター、ウイルス表面抗原およびAcanthamoebaの表面抗原のうち一種以上に特異性を有している、請求項51〜53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記対象の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントが、CD80、CD86、CD152、CD11b/e、CD18、CD54、CD62L、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40、CD40L、ICOS、PD‐1、BTLA、CTLA4、IL‐2R、CD25、単純ヘルペスウイルスのgD2およびgB2抗原、およびヘルペス性角膜炎を引き起こすヘルペスウイルスの表面抗原のうち一種以上に特異性を有している、請求項51〜53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記哺乳動物患者がヒトである、請求項51〜55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記発現ベクターがウイルス、細菌またはプラスミド発現ベクターである、請求項51〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記発現ベクターが、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルス、レンチウイルスまたは単純ヘルペスウイルス発現ベクターである、請求項51〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記発現ベクターが非生存発現ベクターである、請求項51〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記発現ベクターがリポソーム発現ベクターである、請求項51〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記発現ベクターのトランスフェクションに有効な濃度が約1×10〜約1×1010pfu/g組織である、請求項51〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記眼組織中へトランスフェクトされる発現ベクターまたは他の発現ベクターが、活性物質をコードするヌクレオチド配列を含んでなり、前記眼組織の細胞が活性物質を生産する、請求項51〜61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記活性物質がペプチドホルモン、サイトカインまたはそれらのアナログである、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記サイトカインが、IL‐10、IL‐4、IL‐12のP‐40成分、Bc12、インターフェロンガンマ、インターフェロンアルファおよびTGFベータのうち一種以上から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記眼組織の細胞の少くとも10%が、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する、請求項51〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記眼組織の細胞の少くとも20%が、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する、請求項51〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記眼組織の細胞の少くとも50%が、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する、請求項51〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記眼組織の細胞の少くとも70%が、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する、請求項51〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記細胞が角膜内皮細胞である、請求項51〜68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記ヌクレオチド配列がcDNAである、請求項51〜69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記目への発現ベクターの導入が、一種以上の薬学上許容されるキャリアおよび/または賦形剤を含んでなるクリーム、ペーストもしくはチンキまたは滴剤の局所投与による、請求項51〜70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
目への発現ベクターの導入が、一種以上の薬学上許容されるキャリアおよび/または賦形剤を含んでなる注射製剤の眼組織への直接注入による、請求項51〜70のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−515398(P2007−515398A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540080(P2006−540080)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/AU2004/001606
【国際公開番号】WO2005/049092
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(506172931)ザ、フリンダース、ユニバーシティー、オブ、サウス、オーストラリア (1)
【氏名又は名称原語表記】THE FLINDERS UNIVERSITY OF SOUTH AUSTRALIA
【Fターム(参考)】