眼薬噴霧供給装置
【課題】極微量の眼薬を高い投与効率で投与することが可能な新規の眼薬噴霧供給装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る眼薬噴霧供給装置は、超音波メッシュ式霧化機構からなる霧化部にて眼薬を霧化して霧状の薬液粒子とし、これを患者の眼球表面に向けて噴霧供給するものであって、薬液粒子が噴霧供給される眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが、薬液粒子の密度をρ、薬液粒子の上記位置での平均半径をr、薬液粒子の上記位置での平均速度をu、空気の粘性定数をμ、メッシュ部材の上記他方の主面から上記位置までの距離をLとした場合に、Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L)≧0.09の条件を満たしている。
【解決手段】本発明に係る眼薬噴霧供給装置は、超音波メッシュ式霧化機構からなる霧化部にて眼薬を霧化して霧状の薬液粒子とし、これを患者の眼球表面に向けて噴霧供給するものであって、薬液粒子が噴霧供給される眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが、薬液粒子の密度をρ、薬液粒子の上記位置での平均半径をr、薬液粒子の上記位置での平均速度をu、空気の粘性定数をμ、メッシュ部材の上記他方の主面から上記位置までの距離をLとした場合に、Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L)≧0.09の条件を満たしている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼薬を霧化することよって霧状の薬液粒子とし、生成した薬液粒子を患者の眼球表面に噴霧供給する眼薬噴霧供給装置に関し、より特定的には、一般に超音波メッシュ式霧化機構と呼ばれる霧化機構を用いて眼薬を患者の眼球表面に噴霧供給するように構成された眼薬噴霧供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野において処方される眼薬は、眼病の治療やその予防に供されている。通常、この眼薬は液状である。そのため、眼薬の患者への投与には、一般に点眼法が利用されている。点眼法は、ボトルに収容された液状の眼薬をボトルの先端に設けられたノズルから眼球表面に向けて滴下する眼薬投与方法である。
【0003】
上記点眼法は、液状の眼薬を液滴化して眼球表面に滴下供給するものであるため、従来の点眼器においては、実際に必要な眼薬の量(一般に1[μl]〜数[μl]程度)よりも過剰な量(概ね30[μl]〜50[μl]程度)の眼薬が眼球表面に向けて滴下されることになる。そのため、過剰供給された眼薬が眼球表面に保持されることなく目から溢れ出してしまったり、涙管を経て体内に吸収されてしまったりするという問題が生じていた。この問題は、比較的高価である眼薬を効率的に投与できないという経済面の損失を生じさせるばかりでなく、ある特定の種類の眼薬においては、眼薬が目から溢れ出して皮膚等に付着することによって皮膚に炎症を生じさせたり、あるいは必要量以上の眼薬が投与されることによって意図しない副作用を招来したりするといった好まざる結果をもたらす原因となっていた。さらには、点眼法を用いた場合には、上述したように眼薬が目から溢れ出したり、点眼に際して患者が顔面を鉛直上方に向ける必要があったりと煩わしさを伴うものでもあった。
【0004】
上記問題を解決すべく、眼薬を霧状の薬液粒子とし、これを眼球表面に向けて噴霧供給する眼薬投与方法(以下、噴霧供給法と称する。)が検討されている。この噴霧供給法が確立されれば、過剰な薬液の供給が防止できるだけでなく、上述した煩わしさも生じないため、高効率でかつ容易な眼薬の投与が実現できることになる。
【0005】
上記噴霧供給法を実現する具体的な眼薬噴霧供給装置が検討されている文献として、たとえば特開昭62−142110号公報(特許文献1)や特表平8−502689号公報(特許文献2)等がある。
【0006】
上記特許文献1に開示される眼薬噴霧供給装置においては、先細のスプレーノズルから吐出された眼薬に高電圧発生器にて生じさせた電界を作用させることにより、帯電した霧状の薬液粒子を生成し、静電作用によってこの帯電した薬液粒子を眼球表面に沈着(眼球表面に霧状の薬液粒子が付着すること)させることとしている。
【0007】
一方、上記特許文献2に開示される眼薬噴霧供給装置においては、多数の微小孔を有するメッシュ部材に上方から薬液を滴下し、上記メッシュ部材を振動させることによってこれを漉して霧状の薬液粒子を生成し、生成された薬液粒子を送風ファンによって生じさせた気流に乗せて眼球表面に向けて吹き付け、これにより薬液粒子を眼球表面に沈着させることとしている。
【0008】
また、上記眼薬噴霧供給装置とは異なるものではあるが、薬液を霧化して霧状の薬液粒子とし、これを患者に投与する噴霧供給装置として吸入器が知られている。吸入器は、呼吸器系の疾患の治療やその予防に利用されるものであり、吸入器から噴霧された薬液粒子は、患者の口腔または鼻腔を経て体内へと取り込まれる。この吸入器において採用されている霧化機構として、一般に超音波メッシュ式と呼ばれる霧化機構が存在する。当該霧化機構は、ホーン部および当該ホーン部を振動させる駆動源としての振動部を具備した超音波振動子と、この超音波振動子のホーン部の先端に対向配置されたメッシュ部材とを備えており、メッシュ部材とホーン部との間に供給された薬液を超音波振動を利用してメッシュ部材に設けられた微小孔から押し出して霧状の薬液粒子とするものである。なお、この超音波メッシュ式霧化機構を備えた吸入器が開示された文献として、たとえば特開2001−149473号公報(特許文献3)がある。
【特許文献1】特開昭62−142110号公報
【特許文献2】特表平8−502689号公報
【特許文献3】特開2001−149473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1および2においては、噴霧供給される眼薬の投与効率について十分な検討がなされていない。たとえば、特許文献1においては、生成した薬液粒子を帯電させることによって静電力を利用して眼球への沈着率を高める工夫がなされているが、実際にどの程度の沈着率が実現できるかについては開示がなされていない。また、特許文献2にあっては、薬液粒子を気流に乗せて眼球に沈着させることが開示されているのみであり、どのようにして高い沈着率を実現するのかについては何ら開示がなされていない。特に、特許文献2に開示の眼薬噴霧供給装置とした場合には、薬液粒子が気流に乗って広範囲に飛散することが容易に想像され、投与効率を高くすることがそもそも非常に困難であると考えられる。
【0010】
本発明は、上述した現状を踏まえて考案されたものであり、極微量の眼薬を高い投与効率で投与することが可能な新規の眼薬噴霧供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、眼薬噴霧供給装置に適用すべき霧化機構として、超音波メッシュ式霧化機構が好適であるとの知見を得た。これは、極微量の眼薬を高い投与効率で眼球表面に沈着させるためには、霧化部から噴霧される薬液粒子に指向性をもたせることが重要であり、その指向性の制御が超音波メッシュ式霧化機構を採用すれば比較的容易に実現できることに着目して得られた知見である。
【0012】
超音波メッシュ式霧化機構においては、超音波振動子の振動とメッシュによって薬液に微粒子慣性力が付与され、この慣性力が推力となって薬液粒子が噴霧される。そのため、気流を発生させなくとも、薬液粒子が噴霧可能となる。また、生成される個々の薬液粒子には、超音波振動子の軸方向(すなわちメッシュ部材の法線方向)に慣性力が一律に付与されるため、その指向性は高い確度で制御可能である。したがって、霧化機構として超音波メッシュ式霧化機構を利用すれば、極微量の薬液粒子を眼球表面に向けて効率よく噴霧することが可能になり、その沈着率は他の霧化機構を採用した場合に比べて飛躍的に向上することになる。
【0013】
本発明者らは、超音波メッシュ式霧化機構を利用した噴霧供給法を確立するに当たり、種々の実験を行なうこと等によって眼球表面への薬液粒子の沈着率に影響を与える各種パラメータを抽出するとともに、それらパラメータが沈着率にどの程度影響を与えるかについて検討を行なった。その結果、本発明者らは、眼球表面への薬液粒子の沈着率が慣性パラメータに依存し、特に慣性パラメータの一つであるストークス数に大きく依存するとの知見を得た。本発明者らは、当該知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明に基づく眼薬噴霧供給装置は、眼薬を霧化部にて霧化して霧状の薬液粒子とし、これを患者の眼球表面に向けて噴霧供給するものであって、上記霧化部は、一方の主面から他方の主面に達する多数の微小孔を含む板状のメッシュ部材と、上記メッシュ部材の一方の主面に対向配置されたホーン部およびこのホーン部を振動させる振動源としての振動部を含む超音波振動子とを備える。そして、本発明に基づく眼薬噴霧供給装置は、薬液粒子が噴霧供給される眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが、薬液粒子の密度をρ、薬液粒子の上記位置での平均半径をr、薬液粒子の上記位置での平均速度をu、空気の粘性定数をμ、上記メッシュ部材の上記他方の主面から上記位置までの距離をLとした場合に、Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L)≧0.09の条件を満たしているものである。ここで、ストークス数は、粒子の有する慣性力の程度を表すパラメータであり、いわゆる無次元数である。また、眼球表面が配置される位置とは、当該眼薬噴霧供給装置において眼球表面がその位置に配置されることが企図された位置のことである。
【0015】
超音波メッシュ式霧化機構を霧化機構として採用した場合には、メッシュ部材に設ける微小孔の大きさを調節することにより、生成される薬液粒子の大きさを容易に制御することが可能であるとともに、超音波振動子への印加電圧を調節することにより、生成される薬液粒子の速度を容易に制御することが可能である。したがって、上記条件を満たすようにストークス数の調節を行なうに当たっては、眼薬噴霧供給装置の霧化機構として超音波メッシュ式霧化機構を採用することが、他の霧化機構を採用するよりもその調節が容易であり、眼薬噴霧供給装置の霧化機構として超音波メッシュ式霧化機構が好適であることがこの点からも理解できる。
【0016】
上記本発明に基づく眼薬噴霧供給装置にあっては、上記メッシュ部材に設けられた上記微小孔の直径が、3[μm]以上20[μm]以下であることが好ましい。
【0017】
また、上記本発明に基づく眼薬噴霧供給装置においては、当該眼薬噴霧供給装置が、上記霧化部から噴霧される薬液粒子を案内する導出路を規定する筒状のガイド部をさらに備えていることが好ましく、その場合に、上記ガイド部には患者の顔面が押し当てられる開口端が設けられていることが好ましい。その場合、上記霧化部から上記開口端までの長さが、3[mm]以上30[mm]以下であることが好ましい。
【0018】
また、上記本発明に基づく眼薬噴霧供給装置にあっては、上記メッシュ部材が上記ホーン部側に向けて凸となる湾曲形状または屈曲形状を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明に基づく眼薬噴霧供給装置を利用することより、極微量の眼薬を高い投与効率で非常に容易に投与することが可能になる。したがって、患者に煩わしさを与えることなく低コストで眼薬の投与を行なうことが可能になり、眼科分野における眼病の治療およびその予防に資する有用な噴霧点眼法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するに先立ち、本発明者らが行なった実験の内容およびその結果について説明する。
【0021】
<薬液の物性値の測定>
まず、本発明者らは、眼薬として使用されている薬液の物性値の測定を行なった。測定を行なう薬液の物性値としては、密度、粘度および表面張力を選択し、複数回の測定を行なってその平均値を求めることとした。測定を行なった薬液は、100μg/mlNGF溶液、リンデロン(登録商標)−A点眼剤[塩野義製薬株式会社製]、シクロスポリンA点眼剤、BSS点眼剤(オキシグルタチオン眼灌流・洗浄液)[京都府立医科大学提供]、生理食塩水[大塚製薬株式会社製]、Soft Santear(人工涙液型点眼剤)[参天製薬株式会社製]の6種類である。NGF溶液は、角膜再生医療で用いられ、リンデロン(登録商標)−A点眼剤は、眼科治療の術後管理の抗炎症剤であり、シクロスポリンA点眼剤は、ドライアイ・アレルギー合併症の治療で用いられる免疫抑制剤である。また、BSS点眼剤は、NGF溶液の分散剤または術後の眼灌液として用いられる。その結果を、以下の表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1から理解されるように、上記6種類の薬液においては、密度以外の物性値において優位な差が生じていることが確認された。
【0024】
<粘度および表面張力の差が微粒化に与える影響の検討>
次に、薬液を超音波メッシュ式霧化機構を用いて霧状の薬液粒子とする際に、上記の薬液の粘度および表面張力の差が薬液の微粒化に与える影響の程度について検討を行なった。ウェーバーの微粒化理論に基づけば、薬液物性(密度ρ1、粘度μ1および表面張力σ)、微粒化に際して形成される液柱の径D0、および、生成された薬液粒子の径Daeとの関係は、以下の式(1)で示される。
【0025】
Dae/D0=1.88×(1+(3μ1/(D0×ρ1×σ)1/2)) ・・・(1)
【0026】
上記式(1)から理解されるように、微粒化において薬液に液柱分裂が起こって薬液粒子が形成される場合、生成される薬液粒子の粒子径は物性値に影響される。しかしながら、薬液濃度が低い薬液では物性値に大きな差が生じないため、上記した6種類の薬液の間においては、薬液の物性値に基づいて生成される薬液粒子の径に大きな差が生じることはないものと考えられる。よって、一般的な眼薬においては、物性値に有意な差は生じるものの、この物性値の差が微粒化特性に与える影響は低いと言える。以上の知見に基づき、以降に行なった検証試験においては、主として薬液として生理食塩水を利用した。
【0027】
<検証試験に用いた超音波メッシュ式霧化機構の構成>
以下に説明する検証試験においては、薬液を霧化して霧状の薬液粒子とする霧化機構として、図1に示す如くの超音波メッシュ式霧化機構を採用した。図1は、検証試験に用いた超音波メッシュ式霧化機構の構成を示す模式図であり、図2は、図1に示すメッシュ部材の一部を切り出して拡大した拡大斜視図である。まず、図1および図2を参照して、本検証試験において使用した超音波メッシュ式霧化機構について詳説する。
【0028】
図1に示すように、超音波メッシュ式霧化機構2は、超音波振動子10とメッシュ部材20とを主として備えている。超音波振動子10は、振動源としての振動部11と、振動部11に接続されたホーン部12とを含んでいる。ホーン部12は、霧化面12aを有しており、メッシュ部材20は、この霧化面12aに対向配置されている。メッシュ部材20は、図2に示すように、一方の主面20aから他方の主面20bに達する多数の微小孔21を有する板状の部材からなる。超音波振動子10には、交流電源14が電気的に接続されている。なお、霧化部は、超音波振動子10のホーン部12の先端に設けられた霧化面12aとこの霧化面12aに対向配置されたメッシュ部材20とによって構成される。
【0029】
図3は、図1に示す超音波メッシュ式霧化機構において、霧化部にて薬液が霧化される原理について説明するための模式断面図である。次に、この図3を参照して、図1に示す超音波メッシュ式霧化機構において、霧化部にて薬液が霧化される原理について説明する。
【0030】
図1に示す超音波メッシュ式霧化機構においては、交流電源14によって振動部11が駆動されることにより、振動部11およびホーン部12が超音波振動子10の軸方向(図中矢印A方向)に振動を開始する。この超音波振動子10の振動は、ホーン部12に対向配置されたメッシュ部材20にも伝播し、これらホーン部12の霧化面12aとメッシュ部材20の主面20aとの間に空隙が形成されるようになる。
【0031】
図3に示すように、ホーン部12の霧化面12aとメッシュ部材20の主面20aとの間に形成された空隙に進入した薬液50は、メッシュ部材20とホーン部12との間の距離が縮まることによってメッシュ部材20の微小孔21から押し出される。その際、押し出された薬液50には、上述した液柱分裂が起こり、霧状の薬液粒子51が生成される。生成された薬液粒子51には、微粒子慣性力が付与されるため、その慣性力を推力としてメッシュ部材20の他方の主面20bから空間に向けて薬液粒子が噴霧されることになる。
【0032】
<検証試験の試験内容>
本検証試験は、眼薬の噴霧供給を超音波メッシュ式霧化機構を利用して行なった場合に、眼球表面への薬液粒子の沈着率がどのようなパラメータに影響を受けるかについて検証するものである。図4は、本検証試験に用いた試験装置のモデル図である。また、図5は、生成された薬液粒子の径を測定するための試験装置のモデル図であり、図6は、生成された薬液粒子の速度を測定するための試験装置のモデル図である。次に、これら図4ないし図6を参照して、本検証試験の内容について詳説する。
【0033】
図4に示すように、沈着率の測定に際しては、超音波メッシュ式霧化機構2を用いて薬液50としての生理食塩水を霧状の薬液粒子51とし、これを眼球モデル110に向けて噴霧供給することとした。ここで、眼球モデル110としては、平板状のスライドガラス111の表面にゴム製の擬似角膜モデル112を貼り付け、その表面にシリコンオイル113を塗布したものを使用した。
【0034】
沈着率の算出は、超音波メッシュ式霧化機構2に供給した薬液の濃度と、超音波メッシュ式霧化機構2にて霧化されて噴霧供給されて眼球モデル110に付着した薬液の濃度とを測定することによって行なった。試料としての生理食塩水には、インクを用いて着色を行い、分光光度計を用いて濃度の測定が可能となるようにした。濃度の算出にあたっては、予め作成した濃度と吸光度との関係を示す検量線を用いた。
【0035】
超音波メッシュ式霧化機構2のメッシュ部材20としては、微小孔21の径が3.5[μm]であるもの、4.8[μm]であるものの2種類を使用した。また、メッシュ部材20に設けられた微小孔21の総数は、概ね7000個であった。超音波振動子10の駆動電圧は、DC6[V]、DC8[V]の2段階に設定した。なお、超音波振動子10は、AC電圧を印加されることによって駆動されるため、実際には、上記DC電圧を昇圧回路で昇圧させ電力変換し、AC電圧として超音波振動子10に印加することとした。また、超音波メッシュ式霧化機構2と眼球モデル110との間の距離Lは、10[mm]、20[mm]、30[mm]の3段階に設定した。また、超音波メッシュ式霧化機構2に供給した試料の量は、眼薬の噴霧で必要とされる極微量の薬液の量に対応した1[μl]とした。なお、検証試験の結果、1[μl]の試料を霧化させるために必要な時間は、〜0.4[s]程度であった。
【0036】
また、図5に示すように、薬液粒子の径の測定は、超音波メッシュ式霧化機構2から噴霧された薬液粒子51に対してレーザー照射装置201を用いてパルスレーザー光を照射し、これを撮像装置(デジタルカメラ)211を用いて撮影することによって行なった。より具体的には、レーザー照射装置201を制御部207を介してPC(パーソナルコンピュータ)200と接続するとともに、撮像装置211をPC200と接続し、これらレーザー照射装置201と撮像装置211とを同期させることによって薬液粒子の撮影を行い、撮影された画像から焦点の合った薬液粒子の画像だけを解析することにより、薬液粒子の径の測定を行なった。なお、撮影のための条件を最適化するために、レーザー照射装置201には、光学系としてのフィルタ202、集光レンズ203,205、光ファイバ204を取付け、撮像装置211には、光学系としての対物レンズ212を取付けた。
【0037】
また、図6に示すように、薬液粒子の速度の測定は、超音波メッシュ式霧化機構2から噴霧された薬液粒子51に対してレーザー照射装置221を用いて一定の時間間隔をもつ2本のパルスレーザー光を照射し、これを撮像装置(デジタルカメラ)211を用いて撮影することによって行なった。より具体的には、レーザー照射装置221をPC(パーソナルコンピュータ)200と接続するとともに、撮像装置211をPC200と接続し、これらレーザー照射装置221と撮像装置211とを同期させることによって薬液粒子の撮影を行い、2本のパルスレーザー光を用いて一定間隔を置いて撮影された画像から薬液粒子の移動距離を算出し、これに基づいて薬液粒子の速度の測定を行なった。なお、撮影のための条件を最適化するために、レーザー照射装置201には、光学系としての拡散プレート222を取付け、撮像装置211には、光学系としての対物レンズ212を取付けた。
【0038】
<検証試験の試験結果およびその評価>
一般に、微粒子の沈着現象には、電気的な要因によるものや粒子のブラウン運動によるものなどがある。しかしながら、粒子の半径が1μmを超える大きさである場合には、その沈着現象に対しては慣性力が支配的になる。上記検証試験により、上述の如くの超音波メッシュ式霧化機構を利用した場合に生成される薬液粒子の径は、数[μm]〜十数[μm]であることが確認されており、この結果から眼薬を噴霧供給する場合の沈着現象に対しては慣性力が支配的になると言える。そこで、本発明者らは、沈着パラメータとして、慣性パラメータの一つであるストークス数Stkに基づいて沈着現象の評価を行なった。
【0039】
ストークス数Stkは、粒子の慣性力の程度を示す無次元数であり、粒子の密度ρ、粒子の半径r、粒子の速度u、空気の粘性定数μ、慣性力が付与された位置からの距離Lを用いて以下の式(2)で表される。
【0040】
Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L) ・・・(2)
【0041】
本検証試験の結果に基づき、密度ρを薬液粒子の密度とし、粒子の半径rを薬液粒子の幾何平均空気力学径とし、粒子の速度uを沈着面(すなわち眼球モデルの表面)における薬液粒子の法線方向の速度成分とし、距離Lを霧化部から沈着面までの距離として、ストークス数Stkを算出した。そして、こうして得られたストークス数の値と薬液粒子の沈着率との相関を評価した。図7は、本検証試験の試験結果に基づき、ストークス数の平方根の値と薬液粒子の沈着率との関係を座標上にプロットした相関図である。図7から理解されるように、ストークス数の値と薬液粒子の沈着率との間には、一定の相関関係があると言える。
【0042】
また、本発明者らは、動力学的解析を行なうことにより、沈着率とストークス数との相関関係のシミュレーションを別途行なった。上記検証試験の試験結果を示す図7の相関図に、当該シミュレーション結果をあわせて示す。図7から理解されるように、上記試験結果とシミュレーション結果とは良好に整合していると言え、このことから上記試験結果およびシミュレーション結果はその一般性が担保されているものであると言える。
【0043】
以上の試験結果およびシミュレーション結果から、沈着率ηとストークス数Stkとの間に、以下の近似式(3)が成立することを導き出した。
【0044】
η=1−exp(34.1×Stk−52.5×Stk1/2+12.1) ・・・(3)
【0045】
上記近似式(3)より、50%以上の沈着率を得るためには、ストークス数が約0.092(小数点第3位で切り捨てた場合に約0.09)以上であればよく、80%以上の沈着率を得るためには、ストークス数が約0.112(小数点第3位で切り捨てた場合に約0.11)以上であればよく、90%以上の沈着率を得るためには、ストークス数が約0.128(小数点第3位で切り捨てた場合に約0.12)以上であればよく、98%以上の沈着率を得るためには、ストークス数が約0.176(小数点第3位で切り捨てた場合に約0.17)以上であればよいことが分かった。
【0046】
なお、上述したように、本発明者らは、慣性パラメータの一つとしてストークス数に着目したが、ストークス数以外の慣性パラメータについても検討を行なった。その慣性パラメータとして、薬液粒子の密度をρ[kg/m3]、薬液粒子の半径をr[m]、薬液粒子の初速度u0[m/s]とした場合に、次式(4)で表されるパラメータP[kg/s]が挙げられる。
【0047】
P=ρ×r2×u0 ・・・(4)
【0048】
当該パラメータPは、霧化部からの距離を考慮に入れないパラメータではあるが、薬液粒子の初速度u0が考慮されていることに鑑み、ストークス数と同様に薬液粒子の慣性力の程度を示す指標とすることができる。本発明者らは、当該パラメータPが、1.3×10-7[kg/s]以上の値をとる場合に、沈着率が98%を超えることを確認している。
【0049】
<実施の形態>
以上において説明した検証試験から導き出された結果をもとに、超音波メッシュ式霧化機構を具備した眼薬噴霧供給装置において高効率の眼薬投与を実現した具体例を、以下に実施の形態として記載する。
【0050】
図8は、本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置の構成を示す模式断面図である。図8に示すように、本実施の形態における眼薬噴霧供給装置1は、筐体31と、超音波メッシュ式霧化機構2と、ガイド部材34と、付勢バネ36とを主として備えている。
【0051】
筐体31の所定位置には、超音波メッシュ式霧化機構2が配置されている。超音波メッシュ式霧化機構2は、図1に示した構成と同様の構成のものであり、超音波振動子10とメッシュ部材20と交流電源14とを主として備えている。筐体31は、その側面に外側に向けて突設された筒状の接続部32を有している。接続部32の底壁に相当する部分の筐体31の側壁には、開口部が設けられており、当該開口部を介して超音波振動子10のホーン部12の先端が筐体31の外部でかつ接続部32の内側に露出するように配置されている。接続部32の内側には、メッシュ部材20が配置されている。メッシュ部材20は、その一方の主面がホーン部12の霧化面12aに対向するように配置されている。なお、図示は省略しているが、筐体31の開口部とホーン部12との間には、水密性を確保するためのシール処理が施されている。
【0052】
超音波振動子10の振動部11としては、たとえばPZTやニオブ酸リチウム等からなる圧電素子が利用可能である。また、超音波振動子10のホーン部12としては、たとえばセラミックス製のものやステンレス製のもの、チタン製のもの等が利用可能である。一方、ホーン部12の形状としては、いわゆるコニカル型のものやステップ型のもの、エクスポネンシャル型のもの等が利用可能である。図8に示すホーン部12は、いわゆるステップ型のものに相当する。
【0053】
メッシュ部材20は、ニッケル等の金属を基材として電鋳(いわゆるエレクトロフォーミング)により製作したもの、セラミックスの成形により製作したもの、シリコンをエッチング加工することによって製作したもの等が利用可能である。
【0054】
筐体31の接続部32には、筒状のガイド部材34が取付けられている。ガイド部材34は、その内周面の所定位置に段差部を有している。付勢バネ36は、接続部32の内側に配置されており、上述した段差部にその一端が嵌め込まれ、他端がメッシュ部材20に当接している。これにより、メッシュ部材20は、付勢バネ36の付勢力によってホーン部12の霧化面12aに対して押圧固定されている。
【0055】
接続部32およびガイド部材34によって構成される筒状のガイド部の内部の空間は、霧化部から噴霧される薬液粒子の導出路となる。そして、ガイド部材34の接続部32に接続された側の端部とは反対側の端部が患者の顔面が押し当てられる開口端34bとなり、この開口端に目の周囲を押し当てることにより、患者の目が当該ガイド部材34の開口面34aに配置されることになる。
【0056】
図9は、本実施の形態における眼薬噴霧供給装置を用いて眼薬を眼球表面に向けて噴霧している状態を模式的に示した図である。なお、図9においては、眼薬噴霧供給装置1の具体的な構成は省略し、超音波メッシュ式霧化機構2と眼球100とのみを図示している。
【0057】
眼薬噴霧供給装置1を使用するに際しては、まず筐体31に取付けられたガイド部材34の開口面34aが上方を向くように筐体31を傾け、当該ガイド部材34の開口面34aを介して極微量(たとえば1[μl]〜数[μl]程度)の薬液を霧化部に向けて滴下する。滴下された薬液は、その表面張力により霧化部によって保持される。その後、傾けた筐体31を図8に示す状態に戻し、開口端34bに向けて患者の顔面を押し付ける。そして、超音波振動子10を駆動する。なお、そのときの患者の姿勢は、座位であってもよいし起立姿勢であってもよい。いずれにせよ、顔面を概ね水平方向に向けた姿勢である。
【0058】
既に説明したように、超音波振動子10を駆動することにより、ホーン部12の振動とメッシュ部材20とによってメッシュ部材20の微小孔21から薬液が押し出され、押し出された薬液に液柱分裂が起こり、霧状の薬液粒子51が生成される。生成された薬液粒子51には、微粒子慣性力が付与されるため、図9に示すように、その慣性力を推力としてメッシュ部材20の他方の主面20bから空間に向けて薬液粒子51が噴霧され、噴霧された薬液粒子51は眼球表面に向けて供給されることになる。
【0059】
なお、本実施の形態における眼薬噴霧供給装置1においては、超音波メッシュ式霧化機構2を採用することによって薬液粒子に微粒子慣性力を付与し、この慣性力に基づいて薬液粒子が眼球表面に向けて噴霧されるように構成しているため、特に導出路に気流を生成させる必要はない。しかしながら、患者が顔面をガイド部材34の開口端34bに押し当てることによって導出路が完全な密閉空間となった場合、噴霧条件によっては薬液粒子の流れがスムーズにならないおそれもある。したがって、このような場合には、接続部32やガイド部材34の周壁に必要に応じて連通孔を設け、この連通孔によって導出路が完全に密閉されない状態を維持することとしてもよい。
【0060】
本実施の形態における眼薬噴霧供給装置1は、薬液粒子が噴霧供給される眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが、薬液粒子の密度をρ、薬液粒子の上記位置での平均半径をr、薬液粒子の上記位置での平均速度をu、空気の粘性定数をμ、上記メッシュ部材の上記他方の主面から上記位置までの距離をLとした場合に、Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L)≧0.09の条件を満たすように構成されたものである。具体的には、メッシュ部材20に設けられた微小孔21の開口径の大きさと、超音波振動子10を駆動するための印加電圧とを調整することにより、上記条件が充足されるように構成されている。これは、ストークス数Stkが、薬液粒子の半径rと速度uに依存しているためであり、薬液粒子の半径rの調節が、メッシュ部材20に設けられた微小孔21の開口径の大きさを調節することによって行なえること、および、薬液粒子の速度uの調節が、超音波振動子10を駆動するための印加電圧を調節することによって行なえるためである。
【0061】
好適には、メッシュ部材20に設けられる微小孔21の開口径は、その直径が3[μm]〜20[μm]とされる。また、超音波振動子10を駆動するための印加電圧は、振動部11およびホーン部12の具体的な構成によって異なるが、概ねAC20[V]〜AC30[V]程度が好適であると考えられる。これら範囲に微小孔21の開口径および超音波振動子10への印加電圧を調節することにより、上述した眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが0.09以上という条件が充足されることになる。なお、霧化部から眼球表面までの距離Lについては、3[mm]以上30[mm]以下(より好適には10[mm]程度)に調節することが好ましい。距離Lを上記範囲に設定することにより、より確実に上述した条件が実現されることになる。本実施の形態における眼薬噴霧供給装置1においては、当該距離Lが導出路の長さLA(メッシュ部材20の主面20bからガイド部材34の開口端34bまでの距離)によって概ね決定される構成であるため、導出路の長さLAを3[mm]以上30[mm]以下(より好適には10[mm]〜20[mm]程度)に調節すればよい。なお、距離Lが3[mm]以上30[mm]以下のいずれかの地点でのストークス数Stkが0.09以上となるような噴霧条件を実現し、当該地点に眼球表面が配置されるように眼薬噴霧供給装置を構成すれば、少なくとも沈着率が50%以上に保たれた眼薬噴霧供給装置とすることができる。また、上記地点でのストークス数Stkが0.11、0.12、0.17となるように調節すれば、沈着率がそれぞれ80%以上、90%以上、98%以上に保たれた眼薬噴霧供給装置とすることができる。
【0062】
以上の如くの眼薬噴霧供給装置とすることにより、極微量の眼薬を高い投与効率で投与することが可能になる。上述の検証試験の結果に基づけば、霧化部に供給した薬液のほぼ全量を眼球表面に沈着させることが可能になり、ほぼロスなく眼薬を眼球表面に噴霧供給することが可能になる。また、非常に短時間で眼薬を投与することが可能であり、従来の点眼法の課題であった目からの薬液の溢れ出しや、過剰投与による副作用の危険性、顔面を鉛直上方に向ける必要がある等の煩雑さ、経済面での損失の発生などの問題が一切生じ得ず、簡便にかつ効率よく眼薬を患者に投与することが可能になる。したがって、従来の点眼法に代わる新規で有用な眼薬投与方法を実現することができる。
【0063】
ところで、仮に、霧化部にて霧化された薬液粒子に眼球表面に向かう方向に慣性力が付与されなかった場合には、沈着率の大幅な低下を招くことになる。その反面、眼球表面は涙液によって覆われているため、眼球表面に沈着した薬液粒子は直ちに眼球表面の全体にわたって拡散する。したがって、眼薬を噴霧供給する場合には、噴霧される薬液粒子を眼球表面に向けて指向性を持たせて噴霧することが重要である。より特定的には、霧化部から噴霧された薬液粒子が眼球表面の中央位置に集中して噴霧されるように、生成される薬液粒子のそれぞれに指向性を持たせることが好ましい。このような観点から、上述した本実施の形態における眼薬噴霧供給装置に変形を加えた変形例について、以下において詳細に説明する。
【0064】
図10および図11は、上述した本実施の形態における眼薬噴霧供給装置の変形例を示す模式断面図である。なお、図10および図11においては、眼薬噴霧供給装置の具体的な構成は省略し、超音波メッシュ式霧化機構2と眼球100とのみを図示している。
【0065】
図10に示す眼薬噴霧供給装置においては、超音波振動子10のホーン部12の霧化面12aを湾曲した凹面形状とするとともに、メッシュ部材20を当該ホーン部12の霧化面12a側に向けて凸となる湾曲形状としている。湾曲したメッシュ部材20としては、たとえば上述した電鋳(エレクトロフォーミング)によって板状に形成したメッシュ部材をその圧延性を利用して曲げ加工することによって製作可能である。
【0066】
このような方法にて形成した湾曲形状のメッシュ部材20においては、多数の微小孔21の延伸方向を非平行に(より特定的には内側に向けて集中するように)構成することが可能になる。したがって、上述の如くの構成を採用することにより、生成される薬液粒子51が眼球表面の中央位置に向けて集中して噴霧されるようになるため、高い投与効率が実現可能な眼薬噴霧供給装置とすることができる。
【0067】
図11に示す眼薬噴霧供給装置においては、メッシュ部材20を当該ホーン部12の霧化面12a側に向けて凸となる屈曲形状としている。屈曲したメッシュ部材20としては、たとえば上述した電鋳(エレクトロフォーミング)によって板状に形成したメッシュ部材をその圧延性を利用して曲げ加工することによって製作可能である。
【0068】
このような方法にて形成した屈曲形状のメッシュ部材20においては、多数の微小孔21の延伸方向を非平行に(より特定的には内側に向けて集中するように)構成することが可能になる。したがって、上述の如くの構成を採用することにより、生成される薬液粒子51が眼球表面の中央位置に向けて集中して噴霧されるようになるため、高い投与効率が実現可能な眼薬噴霧供給装置とすることができる。
【0069】
なお、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】検証試験に用いた超音波メッシュ式霧化機構の構成を示す模式図である。
【図2】図1に示すメッシュ部材の一部を切り出して拡大した拡大斜視図である。
【図3】図1に示す超音波メッシュ式霧化機構において、霧化部にて薬液が霧化される原理について説明するための模式断面図である。
【図4】検証試験に用いた試験装置のモデル図である。
【図5】薬液粒子の粒子径を測定するための試験装置のモデル図である。
【図6】薬液粒子の速度を測定するための試験装置のモデル図である。
【図7】検証試験の試験結果に基づいて、薬液粒子の沈着率と慣性パラメータとしてのストークス数の平方根の値との関係を座標上にプロットした相関図である。
【図8】本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置の構成を示す模式断面図である。
【図9】本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置を用いて眼薬を眼球表面に向けて噴霧している状態を模式的に示した図である。
【図10】本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置の変形例を示す模式断面図である。
【図11】本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置の変形例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 眼薬噴霧供給装置、2 超音波メッシュ式霧化機構、10 超音波振動子、11 振動部、12 ホーン部、12a 霧化面、14 交流電源、20 メッシュ部材、20a,20b 主面、21 微小孔、31 筐体、32 接続部、34 ガイド部材、34a 開口面、34b 開口端、36 付勢バネ、50 薬液、51 薬液粒子、100 眼球、110 眼球モデル、111 スライドガラス、112 擬似角膜モデル、113 シリコンオイル、201,221 レーザー照射装置、202 フィルタ、203,205 集光レンズ、204 光ファイバ、207 制御部、211 撮像装置、212 対物レンズ、222 拡散プレート。
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼薬を霧化することよって霧状の薬液粒子とし、生成した薬液粒子を患者の眼球表面に噴霧供給する眼薬噴霧供給装置に関し、より特定的には、一般に超音波メッシュ式霧化機構と呼ばれる霧化機構を用いて眼薬を患者の眼球表面に噴霧供給するように構成された眼薬噴霧供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野において処方される眼薬は、眼病の治療やその予防に供されている。通常、この眼薬は液状である。そのため、眼薬の患者への投与には、一般に点眼法が利用されている。点眼法は、ボトルに収容された液状の眼薬をボトルの先端に設けられたノズルから眼球表面に向けて滴下する眼薬投与方法である。
【0003】
上記点眼法は、液状の眼薬を液滴化して眼球表面に滴下供給するものであるため、従来の点眼器においては、実際に必要な眼薬の量(一般に1[μl]〜数[μl]程度)よりも過剰な量(概ね30[μl]〜50[μl]程度)の眼薬が眼球表面に向けて滴下されることになる。そのため、過剰供給された眼薬が眼球表面に保持されることなく目から溢れ出してしまったり、涙管を経て体内に吸収されてしまったりするという問題が生じていた。この問題は、比較的高価である眼薬を効率的に投与できないという経済面の損失を生じさせるばかりでなく、ある特定の種類の眼薬においては、眼薬が目から溢れ出して皮膚等に付着することによって皮膚に炎症を生じさせたり、あるいは必要量以上の眼薬が投与されることによって意図しない副作用を招来したりするといった好まざる結果をもたらす原因となっていた。さらには、点眼法を用いた場合には、上述したように眼薬が目から溢れ出したり、点眼に際して患者が顔面を鉛直上方に向ける必要があったりと煩わしさを伴うものでもあった。
【0004】
上記問題を解決すべく、眼薬を霧状の薬液粒子とし、これを眼球表面に向けて噴霧供給する眼薬投与方法(以下、噴霧供給法と称する。)が検討されている。この噴霧供給法が確立されれば、過剰な薬液の供給が防止できるだけでなく、上述した煩わしさも生じないため、高効率でかつ容易な眼薬の投与が実現できることになる。
【0005】
上記噴霧供給法を実現する具体的な眼薬噴霧供給装置が検討されている文献として、たとえば特開昭62−142110号公報(特許文献1)や特表平8−502689号公報(特許文献2)等がある。
【0006】
上記特許文献1に開示される眼薬噴霧供給装置においては、先細のスプレーノズルから吐出された眼薬に高電圧発生器にて生じさせた電界を作用させることにより、帯電した霧状の薬液粒子を生成し、静電作用によってこの帯電した薬液粒子を眼球表面に沈着(眼球表面に霧状の薬液粒子が付着すること)させることとしている。
【0007】
一方、上記特許文献2に開示される眼薬噴霧供給装置においては、多数の微小孔を有するメッシュ部材に上方から薬液を滴下し、上記メッシュ部材を振動させることによってこれを漉して霧状の薬液粒子を生成し、生成された薬液粒子を送風ファンによって生じさせた気流に乗せて眼球表面に向けて吹き付け、これにより薬液粒子を眼球表面に沈着させることとしている。
【0008】
また、上記眼薬噴霧供給装置とは異なるものではあるが、薬液を霧化して霧状の薬液粒子とし、これを患者に投与する噴霧供給装置として吸入器が知られている。吸入器は、呼吸器系の疾患の治療やその予防に利用されるものであり、吸入器から噴霧された薬液粒子は、患者の口腔または鼻腔を経て体内へと取り込まれる。この吸入器において採用されている霧化機構として、一般に超音波メッシュ式と呼ばれる霧化機構が存在する。当該霧化機構は、ホーン部および当該ホーン部を振動させる駆動源としての振動部を具備した超音波振動子と、この超音波振動子のホーン部の先端に対向配置されたメッシュ部材とを備えており、メッシュ部材とホーン部との間に供給された薬液を超音波振動を利用してメッシュ部材に設けられた微小孔から押し出して霧状の薬液粒子とするものである。なお、この超音波メッシュ式霧化機構を備えた吸入器が開示された文献として、たとえば特開2001−149473号公報(特許文献3)がある。
【特許文献1】特開昭62−142110号公報
【特許文献2】特表平8−502689号公報
【特許文献3】特開2001−149473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1および2においては、噴霧供給される眼薬の投与効率について十分な検討がなされていない。たとえば、特許文献1においては、生成した薬液粒子を帯電させることによって静電力を利用して眼球への沈着率を高める工夫がなされているが、実際にどの程度の沈着率が実現できるかについては開示がなされていない。また、特許文献2にあっては、薬液粒子を気流に乗せて眼球に沈着させることが開示されているのみであり、どのようにして高い沈着率を実現するのかについては何ら開示がなされていない。特に、特許文献2に開示の眼薬噴霧供給装置とした場合には、薬液粒子が気流に乗って広範囲に飛散することが容易に想像され、投与効率を高くすることがそもそも非常に困難であると考えられる。
【0010】
本発明は、上述した現状を踏まえて考案されたものであり、極微量の眼薬を高い投与効率で投与することが可能な新規の眼薬噴霧供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、眼薬噴霧供給装置に適用すべき霧化機構として、超音波メッシュ式霧化機構が好適であるとの知見を得た。これは、極微量の眼薬を高い投与効率で眼球表面に沈着させるためには、霧化部から噴霧される薬液粒子に指向性をもたせることが重要であり、その指向性の制御が超音波メッシュ式霧化機構を採用すれば比較的容易に実現できることに着目して得られた知見である。
【0012】
超音波メッシュ式霧化機構においては、超音波振動子の振動とメッシュによって薬液に微粒子慣性力が付与され、この慣性力が推力となって薬液粒子が噴霧される。そのため、気流を発生させなくとも、薬液粒子が噴霧可能となる。また、生成される個々の薬液粒子には、超音波振動子の軸方向(すなわちメッシュ部材の法線方向)に慣性力が一律に付与されるため、その指向性は高い確度で制御可能である。したがって、霧化機構として超音波メッシュ式霧化機構を利用すれば、極微量の薬液粒子を眼球表面に向けて効率よく噴霧することが可能になり、その沈着率は他の霧化機構を採用した場合に比べて飛躍的に向上することになる。
【0013】
本発明者らは、超音波メッシュ式霧化機構を利用した噴霧供給法を確立するに当たり、種々の実験を行なうこと等によって眼球表面への薬液粒子の沈着率に影響を与える各種パラメータを抽出するとともに、それらパラメータが沈着率にどの程度影響を与えるかについて検討を行なった。その結果、本発明者らは、眼球表面への薬液粒子の沈着率が慣性パラメータに依存し、特に慣性パラメータの一つであるストークス数に大きく依存するとの知見を得た。本発明者らは、当該知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明に基づく眼薬噴霧供給装置は、眼薬を霧化部にて霧化して霧状の薬液粒子とし、これを患者の眼球表面に向けて噴霧供給するものであって、上記霧化部は、一方の主面から他方の主面に達する多数の微小孔を含む板状のメッシュ部材と、上記メッシュ部材の一方の主面に対向配置されたホーン部およびこのホーン部を振動させる振動源としての振動部を含む超音波振動子とを備える。そして、本発明に基づく眼薬噴霧供給装置は、薬液粒子が噴霧供給される眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが、薬液粒子の密度をρ、薬液粒子の上記位置での平均半径をr、薬液粒子の上記位置での平均速度をu、空気の粘性定数をμ、上記メッシュ部材の上記他方の主面から上記位置までの距離をLとした場合に、Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L)≧0.09の条件を満たしているものである。ここで、ストークス数は、粒子の有する慣性力の程度を表すパラメータであり、いわゆる無次元数である。また、眼球表面が配置される位置とは、当該眼薬噴霧供給装置において眼球表面がその位置に配置されることが企図された位置のことである。
【0015】
超音波メッシュ式霧化機構を霧化機構として採用した場合には、メッシュ部材に設ける微小孔の大きさを調節することにより、生成される薬液粒子の大きさを容易に制御することが可能であるとともに、超音波振動子への印加電圧を調節することにより、生成される薬液粒子の速度を容易に制御することが可能である。したがって、上記条件を満たすようにストークス数の調節を行なうに当たっては、眼薬噴霧供給装置の霧化機構として超音波メッシュ式霧化機構を採用することが、他の霧化機構を採用するよりもその調節が容易であり、眼薬噴霧供給装置の霧化機構として超音波メッシュ式霧化機構が好適であることがこの点からも理解できる。
【0016】
上記本発明に基づく眼薬噴霧供給装置にあっては、上記メッシュ部材に設けられた上記微小孔の直径が、3[μm]以上20[μm]以下であることが好ましい。
【0017】
また、上記本発明に基づく眼薬噴霧供給装置においては、当該眼薬噴霧供給装置が、上記霧化部から噴霧される薬液粒子を案内する導出路を規定する筒状のガイド部をさらに備えていることが好ましく、その場合に、上記ガイド部には患者の顔面が押し当てられる開口端が設けられていることが好ましい。その場合、上記霧化部から上記開口端までの長さが、3[mm]以上30[mm]以下であることが好ましい。
【0018】
また、上記本発明に基づく眼薬噴霧供給装置にあっては、上記メッシュ部材が上記ホーン部側に向けて凸となる湾曲形状または屈曲形状を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明に基づく眼薬噴霧供給装置を利用することより、極微量の眼薬を高い投与効率で非常に容易に投与することが可能になる。したがって、患者に煩わしさを与えることなく低コストで眼薬の投与を行なうことが可能になり、眼科分野における眼病の治療およびその予防に資する有用な噴霧点眼法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するに先立ち、本発明者らが行なった実験の内容およびその結果について説明する。
【0021】
<薬液の物性値の測定>
まず、本発明者らは、眼薬として使用されている薬液の物性値の測定を行なった。測定を行なう薬液の物性値としては、密度、粘度および表面張力を選択し、複数回の測定を行なってその平均値を求めることとした。測定を行なった薬液は、100μg/mlNGF溶液、リンデロン(登録商標)−A点眼剤[塩野義製薬株式会社製]、シクロスポリンA点眼剤、BSS点眼剤(オキシグルタチオン眼灌流・洗浄液)[京都府立医科大学提供]、生理食塩水[大塚製薬株式会社製]、Soft Santear(人工涙液型点眼剤)[参天製薬株式会社製]の6種類である。NGF溶液は、角膜再生医療で用いられ、リンデロン(登録商標)−A点眼剤は、眼科治療の術後管理の抗炎症剤であり、シクロスポリンA点眼剤は、ドライアイ・アレルギー合併症の治療で用いられる免疫抑制剤である。また、BSS点眼剤は、NGF溶液の分散剤または術後の眼灌液として用いられる。その結果を、以下の表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1から理解されるように、上記6種類の薬液においては、密度以外の物性値において優位な差が生じていることが確認された。
【0024】
<粘度および表面張力の差が微粒化に与える影響の検討>
次に、薬液を超音波メッシュ式霧化機構を用いて霧状の薬液粒子とする際に、上記の薬液の粘度および表面張力の差が薬液の微粒化に与える影響の程度について検討を行なった。ウェーバーの微粒化理論に基づけば、薬液物性(密度ρ1、粘度μ1および表面張力σ)、微粒化に際して形成される液柱の径D0、および、生成された薬液粒子の径Daeとの関係は、以下の式(1)で示される。
【0025】
Dae/D0=1.88×(1+(3μ1/(D0×ρ1×σ)1/2)) ・・・(1)
【0026】
上記式(1)から理解されるように、微粒化において薬液に液柱分裂が起こって薬液粒子が形成される場合、生成される薬液粒子の粒子径は物性値に影響される。しかしながら、薬液濃度が低い薬液では物性値に大きな差が生じないため、上記した6種類の薬液の間においては、薬液の物性値に基づいて生成される薬液粒子の径に大きな差が生じることはないものと考えられる。よって、一般的な眼薬においては、物性値に有意な差は生じるものの、この物性値の差が微粒化特性に与える影響は低いと言える。以上の知見に基づき、以降に行なった検証試験においては、主として薬液として生理食塩水を利用した。
【0027】
<検証試験に用いた超音波メッシュ式霧化機構の構成>
以下に説明する検証試験においては、薬液を霧化して霧状の薬液粒子とする霧化機構として、図1に示す如くの超音波メッシュ式霧化機構を採用した。図1は、検証試験に用いた超音波メッシュ式霧化機構の構成を示す模式図であり、図2は、図1に示すメッシュ部材の一部を切り出して拡大した拡大斜視図である。まず、図1および図2を参照して、本検証試験において使用した超音波メッシュ式霧化機構について詳説する。
【0028】
図1に示すように、超音波メッシュ式霧化機構2は、超音波振動子10とメッシュ部材20とを主として備えている。超音波振動子10は、振動源としての振動部11と、振動部11に接続されたホーン部12とを含んでいる。ホーン部12は、霧化面12aを有しており、メッシュ部材20は、この霧化面12aに対向配置されている。メッシュ部材20は、図2に示すように、一方の主面20aから他方の主面20bに達する多数の微小孔21を有する板状の部材からなる。超音波振動子10には、交流電源14が電気的に接続されている。なお、霧化部は、超音波振動子10のホーン部12の先端に設けられた霧化面12aとこの霧化面12aに対向配置されたメッシュ部材20とによって構成される。
【0029】
図3は、図1に示す超音波メッシュ式霧化機構において、霧化部にて薬液が霧化される原理について説明するための模式断面図である。次に、この図3を参照して、図1に示す超音波メッシュ式霧化機構において、霧化部にて薬液が霧化される原理について説明する。
【0030】
図1に示す超音波メッシュ式霧化機構においては、交流電源14によって振動部11が駆動されることにより、振動部11およびホーン部12が超音波振動子10の軸方向(図中矢印A方向)に振動を開始する。この超音波振動子10の振動は、ホーン部12に対向配置されたメッシュ部材20にも伝播し、これらホーン部12の霧化面12aとメッシュ部材20の主面20aとの間に空隙が形成されるようになる。
【0031】
図3に示すように、ホーン部12の霧化面12aとメッシュ部材20の主面20aとの間に形成された空隙に進入した薬液50は、メッシュ部材20とホーン部12との間の距離が縮まることによってメッシュ部材20の微小孔21から押し出される。その際、押し出された薬液50には、上述した液柱分裂が起こり、霧状の薬液粒子51が生成される。生成された薬液粒子51には、微粒子慣性力が付与されるため、その慣性力を推力としてメッシュ部材20の他方の主面20bから空間に向けて薬液粒子が噴霧されることになる。
【0032】
<検証試験の試験内容>
本検証試験は、眼薬の噴霧供給を超音波メッシュ式霧化機構を利用して行なった場合に、眼球表面への薬液粒子の沈着率がどのようなパラメータに影響を受けるかについて検証するものである。図4は、本検証試験に用いた試験装置のモデル図である。また、図5は、生成された薬液粒子の径を測定するための試験装置のモデル図であり、図6は、生成された薬液粒子の速度を測定するための試験装置のモデル図である。次に、これら図4ないし図6を参照して、本検証試験の内容について詳説する。
【0033】
図4に示すように、沈着率の測定に際しては、超音波メッシュ式霧化機構2を用いて薬液50としての生理食塩水を霧状の薬液粒子51とし、これを眼球モデル110に向けて噴霧供給することとした。ここで、眼球モデル110としては、平板状のスライドガラス111の表面にゴム製の擬似角膜モデル112を貼り付け、その表面にシリコンオイル113を塗布したものを使用した。
【0034】
沈着率の算出は、超音波メッシュ式霧化機構2に供給した薬液の濃度と、超音波メッシュ式霧化機構2にて霧化されて噴霧供給されて眼球モデル110に付着した薬液の濃度とを測定することによって行なった。試料としての生理食塩水には、インクを用いて着色を行い、分光光度計を用いて濃度の測定が可能となるようにした。濃度の算出にあたっては、予め作成した濃度と吸光度との関係を示す検量線を用いた。
【0035】
超音波メッシュ式霧化機構2のメッシュ部材20としては、微小孔21の径が3.5[μm]であるもの、4.8[μm]であるものの2種類を使用した。また、メッシュ部材20に設けられた微小孔21の総数は、概ね7000個であった。超音波振動子10の駆動電圧は、DC6[V]、DC8[V]の2段階に設定した。なお、超音波振動子10は、AC電圧を印加されることによって駆動されるため、実際には、上記DC電圧を昇圧回路で昇圧させ電力変換し、AC電圧として超音波振動子10に印加することとした。また、超音波メッシュ式霧化機構2と眼球モデル110との間の距離Lは、10[mm]、20[mm]、30[mm]の3段階に設定した。また、超音波メッシュ式霧化機構2に供給した試料の量は、眼薬の噴霧で必要とされる極微量の薬液の量に対応した1[μl]とした。なお、検証試験の結果、1[μl]の試料を霧化させるために必要な時間は、〜0.4[s]程度であった。
【0036】
また、図5に示すように、薬液粒子の径の測定は、超音波メッシュ式霧化機構2から噴霧された薬液粒子51に対してレーザー照射装置201を用いてパルスレーザー光を照射し、これを撮像装置(デジタルカメラ)211を用いて撮影することによって行なった。より具体的には、レーザー照射装置201を制御部207を介してPC(パーソナルコンピュータ)200と接続するとともに、撮像装置211をPC200と接続し、これらレーザー照射装置201と撮像装置211とを同期させることによって薬液粒子の撮影を行い、撮影された画像から焦点の合った薬液粒子の画像だけを解析することにより、薬液粒子の径の測定を行なった。なお、撮影のための条件を最適化するために、レーザー照射装置201には、光学系としてのフィルタ202、集光レンズ203,205、光ファイバ204を取付け、撮像装置211には、光学系としての対物レンズ212を取付けた。
【0037】
また、図6に示すように、薬液粒子の速度の測定は、超音波メッシュ式霧化機構2から噴霧された薬液粒子51に対してレーザー照射装置221を用いて一定の時間間隔をもつ2本のパルスレーザー光を照射し、これを撮像装置(デジタルカメラ)211を用いて撮影することによって行なった。より具体的には、レーザー照射装置221をPC(パーソナルコンピュータ)200と接続するとともに、撮像装置211をPC200と接続し、これらレーザー照射装置221と撮像装置211とを同期させることによって薬液粒子の撮影を行い、2本のパルスレーザー光を用いて一定間隔を置いて撮影された画像から薬液粒子の移動距離を算出し、これに基づいて薬液粒子の速度の測定を行なった。なお、撮影のための条件を最適化するために、レーザー照射装置201には、光学系としての拡散プレート222を取付け、撮像装置211には、光学系としての対物レンズ212を取付けた。
【0038】
<検証試験の試験結果およびその評価>
一般に、微粒子の沈着現象には、電気的な要因によるものや粒子のブラウン運動によるものなどがある。しかしながら、粒子の半径が1μmを超える大きさである場合には、その沈着現象に対しては慣性力が支配的になる。上記検証試験により、上述の如くの超音波メッシュ式霧化機構を利用した場合に生成される薬液粒子の径は、数[μm]〜十数[μm]であることが確認されており、この結果から眼薬を噴霧供給する場合の沈着現象に対しては慣性力が支配的になると言える。そこで、本発明者らは、沈着パラメータとして、慣性パラメータの一つであるストークス数Stkに基づいて沈着現象の評価を行なった。
【0039】
ストークス数Stkは、粒子の慣性力の程度を示す無次元数であり、粒子の密度ρ、粒子の半径r、粒子の速度u、空気の粘性定数μ、慣性力が付与された位置からの距離Lを用いて以下の式(2)で表される。
【0040】
Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L) ・・・(2)
【0041】
本検証試験の結果に基づき、密度ρを薬液粒子の密度とし、粒子の半径rを薬液粒子の幾何平均空気力学径とし、粒子の速度uを沈着面(すなわち眼球モデルの表面)における薬液粒子の法線方向の速度成分とし、距離Lを霧化部から沈着面までの距離として、ストークス数Stkを算出した。そして、こうして得られたストークス数の値と薬液粒子の沈着率との相関を評価した。図7は、本検証試験の試験結果に基づき、ストークス数の平方根の値と薬液粒子の沈着率との関係を座標上にプロットした相関図である。図7から理解されるように、ストークス数の値と薬液粒子の沈着率との間には、一定の相関関係があると言える。
【0042】
また、本発明者らは、動力学的解析を行なうことにより、沈着率とストークス数との相関関係のシミュレーションを別途行なった。上記検証試験の試験結果を示す図7の相関図に、当該シミュレーション結果をあわせて示す。図7から理解されるように、上記試験結果とシミュレーション結果とは良好に整合していると言え、このことから上記試験結果およびシミュレーション結果はその一般性が担保されているものであると言える。
【0043】
以上の試験結果およびシミュレーション結果から、沈着率ηとストークス数Stkとの間に、以下の近似式(3)が成立することを導き出した。
【0044】
η=1−exp(34.1×Stk−52.5×Stk1/2+12.1) ・・・(3)
【0045】
上記近似式(3)より、50%以上の沈着率を得るためには、ストークス数が約0.092(小数点第3位で切り捨てた場合に約0.09)以上であればよく、80%以上の沈着率を得るためには、ストークス数が約0.112(小数点第3位で切り捨てた場合に約0.11)以上であればよく、90%以上の沈着率を得るためには、ストークス数が約0.128(小数点第3位で切り捨てた場合に約0.12)以上であればよく、98%以上の沈着率を得るためには、ストークス数が約0.176(小数点第3位で切り捨てた場合に約0.17)以上であればよいことが分かった。
【0046】
なお、上述したように、本発明者らは、慣性パラメータの一つとしてストークス数に着目したが、ストークス数以外の慣性パラメータについても検討を行なった。その慣性パラメータとして、薬液粒子の密度をρ[kg/m3]、薬液粒子の半径をr[m]、薬液粒子の初速度u0[m/s]とした場合に、次式(4)で表されるパラメータP[kg/s]が挙げられる。
【0047】
P=ρ×r2×u0 ・・・(4)
【0048】
当該パラメータPは、霧化部からの距離を考慮に入れないパラメータではあるが、薬液粒子の初速度u0が考慮されていることに鑑み、ストークス数と同様に薬液粒子の慣性力の程度を示す指標とすることができる。本発明者らは、当該パラメータPが、1.3×10-7[kg/s]以上の値をとる場合に、沈着率が98%を超えることを確認している。
【0049】
<実施の形態>
以上において説明した検証試験から導き出された結果をもとに、超音波メッシュ式霧化機構を具備した眼薬噴霧供給装置において高効率の眼薬投与を実現した具体例を、以下に実施の形態として記載する。
【0050】
図8は、本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置の構成を示す模式断面図である。図8に示すように、本実施の形態における眼薬噴霧供給装置1は、筐体31と、超音波メッシュ式霧化機構2と、ガイド部材34と、付勢バネ36とを主として備えている。
【0051】
筐体31の所定位置には、超音波メッシュ式霧化機構2が配置されている。超音波メッシュ式霧化機構2は、図1に示した構成と同様の構成のものであり、超音波振動子10とメッシュ部材20と交流電源14とを主として備えている。筐体31は、その側面に外側に向けて突設された筒状の接続部32を有している。接続部32の底壁に相当する部分の筐体31の側壁には、開口部が設けられており、当該開口部を介して超音波振動子10のホーン部12の先端が筐体31の外部でかつ接続部32の内側に露出するように配置されている。接続部32の内側には、メッシュ部材20が配置されている。メッシュ部材20は、その一方の主面がホーン部12の霧化面12aに対向するように配置されている。なお、図示は省略しているが、筐体31の開口部とホーン部12との間には、水密性を確保するためのシール処理が施されている。
【0052】
超音波振動子10の振動部11としては、たとえばPZTやニオブ酸リチウム等からなる圧電素子が利用可能である。また、超音波振動子10のホーン部12としては、たとえばセラミックス製のものやステンレス製のもの、チタン製のもの等が利用可能である。一方、ホーン部12の形状としては、いわゆるコニカル型のものやステップ型のもの、エクスポネンシャル型のもの等が利用可能である。図8に示すホーン部12は、いわゆるステップ型のものに相当する。
【0053】
メッシュ部材20は、ニッケル等の金属を基材として電鋳(いわゆるエレクトロフォーミング)により製作したもの、セラミックスの成形により製作したもの、シリコンをエッチング加工することによって製作したもの等が利用可能である。
【0054】
筐体31の接続部32には、筒状のガイド部材34が取付けられている。ガイド部材34は、その内周面の所定位置に段差部を有している。付勢バネ36は、接続部32の内側に配置されており、上述した段差部にその一端が嵌め込まれ、他端がメッシュ部材20に当接している。これにより、メッシュ部材20は、付勢バネ36の付勢力によってホーン部12の霧化面12aに対して押圧固定されている。
【0055】
接続部32およびガイド部材34によって構成される筒状のガイド部の内部の空間は、霧化部から噴霧される薬液粒子の導出路となる。そして、ガイド部材34の接続部32に接続された側の端部とは反対側の端部が患者の顔面が押し当てられる開口端34bとなり、この開口端に目の周囲を押し当てることにより、患者の目が当該ガイド部材34の開口面34aに配置されることになる。
【0056】
図9は、本実施の形態における眼薬噴霧供給装置を用いて眼薬を眼球表面に向けて噴霧している状態を模式的に示した図である。なお、図9においては、眼薬噴霧供給装置1の具体的な構成は省略し、超音波メッシュ式霧化機構2と眼球100とのみを図示している。
【0057】
眼薬噴霧供給装置1を使用するに際しては、まず筐体31に取付けられたガイド部材34の開口面34aが上方を向くように筐体31を傾け、当該ガイド部材34の開口面34aを介して極微量(たとえば1[μl]〜数[μl]程度)の薬液を霧化部に向けて滴下する。滴下された薬液は、その表面張力により霧化部によって保持される。その後、傾けた筐体31を図8に示す状態に戻し、開口端34bに向けて患者の顔面を押し付ける。そして、超音波振動子10を駆動する。なお、そのときの患者の姿勢は、座位であってもよいし起立姿勢であってもよい。いずれにせよ、顔面を概ね水平方向に向けた姿勢である。
【0058】
既に説明したように、超音波振動子10を駆動することにより、ホーン部12の振動とメッシュ部材20とによってメッシュ部材20の微小孔21から薬液が押し出され、押し出された薬液に液柱分裂が起こり、霧状の薬液粒子51が生成される。生成された薬液粒子51には、微粒子慣性力が付与されるため、図9に示すように、その慣性力を推力としてメッシュ部材20の他方の主面20bから空間に向けて薬液粒子51が噴霧され、噴霧された薬液粒子51は眼球表面に向けて供給されることになる。
【0059】
なお、本実施の形態における眼薬噴霧供給装置1においては、超音波メッシュ式霧化機構2を採用することによって薬液粒子に微粒子慣性力を付与し、この慣性力に基づいて薬液粒子が眼球表面に向けて噴霧されるように構成しているため、特に導出路に気流を生成させる必要はない。しかしながら、患者が顔面をガイド部材34の開口端34bに押し当てることによって導出路が完全な密閉空間となった場合、噴霧条件によっては薬液粒子の流れがスムーズにならないおそれもある。したがって、このような場合には、接続部32やガイド部材34の周壁に必要に応じて連通孔を設け、この連通孔によって導出路が完全に密閉されない状態を維持することとしてもよい。
【0060】
本実施の形態における眼薬噴霧供給装置1は、薬液粒子が噴霧供給される眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが、薬液粒子の密度をρ、薬液粒子の上記位置での平均半径をr、薬液粒子の上記位置での平均速度をu、空気の粘性定数をμ、上記メッシュ部材の上記他方の主面から上記位置までの距離をLとした場合に、Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L)≧0.09の条件を満たすように構成されたものである。具体的には、メッシュ部材20に設けられた微小孔21の開口径の大きさと、超音波振動子10を駆動するための印加電圧とを調整することにより、上記条件が充足されるように構成されている。これは、ストークス数Stkが、薬液粒子の半径rと速度uに依存しているためであり、薬液粒子の半径rの調節が、メッシュ部材20に設けられた微小孔21の開口径の大きさを調節することによって行なえること、および、薬液粒子の速度uの調節が、超音波振動子10を駆動するための印加電圧を調節することによって行なえるためである。
【0061】
好適には、メッシュ部材20に設けられる微小孔21の開口径は、その直径が3[μm]〜20[μm]とされる。また、超音波振動子10を駆動するための印加電圧は、振動部11およびホーン部12の具体的な構成によって異なるが、概ねAC20[V]〜AC30[V]程度が好適であると考えられる。これら範囲に微小孔21の開口径および超音波振動子10への印加電圧を調節することにより、上述した眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが0.09以上という条件が充足されることになる。なお、霧化部から眼球表面までの距離Lについては、3[mm]以上30[mm]以下(より好適には10[mm]程度)に調節することが好ましい。距離Lを上記範囲に設定することにより、より確実に上述した条件が実現されることになる。本実施の形態における眼薬噴霧供給装置1においては、当該距離Lが導出路の長さLA(メッシュ部材20の主面20bからガイド部材34の開口端34bまでの距離)によって概ね決定される構成であるため、導出路の長さLAを3[mm]以上30[mm]以下(より好適には10[mm]〜20[mm]程度)に調節すればよい。なお、距離Lが3[mm]以上30[mm]以下のいずれかの地点でのストークス数Stkが0.09以上となるような噴霧条件を実現し、当該地点に眼球表面が配置されるように眼薬噴霧供給装置を構成すれば、少なくとも沈着率が50%以上に保たれた眼薬噴霧供給装置とすることができる。また、上記地点でのストークス数Stkが0.11、0.12、0.17となるように調節すれば、沈着率がそれぞれ80%以上、90%以上、98%以上に保たれた眼薬噴霧供給装置とすることができる。
【0062】
以上の如くの眼薬噴霧供給装置とすることにより、極微量の眼薬を高い投与効率で投与することが可能になる。上述の検証試験の結果に基づけば、霧化部に供給した薬液のほぼ全量を眼球表面に沈着させることが可能になり、ほぼロスなく眼薬を眼球表面に噴霧供給することが可能になる。また、非常に短時間で眼薬を投与することが可能であり、従来の点眼法の課題であった目からの薬液の溢れ出しや、過剰投与による副作用の危険性、顔面を鉛直上方に向ける必要がある等の煩雑さ、経済面での損失の発生などの問題が一切生じ得ず、簡便にかつ効率よく眼薬を患者に投与することが可能になる。したがって、従来の点眼法に代わる新規で有用な眼薬投与方法を実現することができる。
【0063】
ところで、仮に、霧化部にて霧化された薬液粒子に眼球表面に向かう方向に慣性力が付与されなかった場合には、沈着率の大幅な低下を招くことになる。その反面、眼球表面は涙液によって覆われているため、眼球表面に沈着した薬液粒子は直ちに眼球表面の全体にわたって拡散する。したがって、眼薬を噴霧供給する場合には、噴霧される薬液粒子を眼球表面に向けて指向性を持たせて噴霧することが重要である。より特定的には、霧化部から噴霧された薬液粒子が眼球表面の中央位置に集中して噴霧されるように、生成される薬液粒子のそれぞれに指向性を持たせることが好ましい。このような観点から、上述した本実施の形態における眼薬噴霧供給装置に変形を加えた変形例について、以下において詳細に説明する。
【0064】
図10および図11は、上述した本実施の形態における眼薬噴霧供給装置の変形例を示す模式断面図である。なお、図10および図11においては、眼薬噴霧供給装置の具体的な構成は省略し、超音波メッシュ式霧化機構2と眼球100とのみを図示している。
【0065】
図10に示す眼薬噴霧供給装置においては、超音波振動子10のホーン部12の霧化面12aを湾曲した凹面形状とするとともに、メッシュ部材20を当該ホーン部12の霧化面12a側に向けて凸となる湾曲形状としている。湾曲したメッシュ部材20としては、たとえば上述した電鋳(エレクトロフォーミング)によって板状に形成したメッシュ部材をその圧延性を利用して曲げ加工することによって製作可能である。
【0066】
このような方法にて形成した湾曲形状のメッシュ部材20においては、多数の微小孔21の延伸方向を非平行に(より特定的には内側に向けて集中するように)構成することが可能になる。したがって、上述の如くの構成を採用することにより、生成される薬液粒子51が眼球表面の中央位置に向けて集中して噴霧されるようになるため、高い投与効率が実現可能な眼薬噴霧供給装置とすることができる。
【0067】
図11に示す眼薬噴霧供給装置においては、メッシュ部材20を当該ホーン部12の霧化面12a側に向けて凸となる屈曲形状としている。屈曲したメッシュ部材20としては、たとえば上述した電鋳(エレクトロフォーミング)によって板状に形成したメッシュ部材をその圧延性を利用して曲げ加工することによって製作可能である。
【0068】
このような方法にて形成した屈曲形状のメッシュ部材20においては、多数の微小孔21の延伸方向を非平行に(より特定的には内側に向けて集中するように)構成することが可能になる。したがって、上述の如くの構成を採用することにより、生成される薬液粒子51が眼球表面の中央位置に向けて集中して噴霧されるようになるため、高い投与効率が実現可能な眼薬噴霧供給装置とすることができる。
【0069】
なお、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】検証試験に用いた超音波メッシュ式霧化機構の構成を示す模式図である。
【図2】図1に示すメッシュ部材の一部を切り出して拡大した拡大斜視図である。
【図3】図1に示す超音波メッシュ式霧化機構において、霧化部にて薬液が霧化される原理について説明するための模式断面図である。
【図4】検証試験に用いた試験装置のモデル図である。
【図5】薬液粒子の粒子径を測定するための試験装置のモデル図である。
【図6】薬液粒子の速度を測定するための試験装置のモデル図である。
【図7】検証試験の試験結果に基づいて、薬液粒子の沈着率と慣性パラメータとしてのストークス数の平方根の値との関係を座標上にプロットした相関図である。
【図8】本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置の構成を示す模式断面図である。
【図9】本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置を用いて眼薬を眼球表面に向けて噴霧している状態を模式的に示した図である。
【図10】本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置の変形例を示す模式断面図である。
【図11】本発明の実施の形態における眼薬噴霧供給装置の変形例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 眼薬噴霧供給装置、2 超音波メッシュ式霧化機構、10 超音波振動子、11 振動部、12 ホーン部、12a 霧化面、14 交流電源、20 メッシュ部材、20a,20b 主面、21 微小孔、31 筐体、32 接続部、34 ガイド部材、34a 開口面、34b 開口端、36 付勢バネ、50 薬液、51 薬液粒子、100 眼球、110 眼球モデル、111 スライドガラス、112 擬似角膜モデル、113 シリコンオイル、201,221 レーザー照射装置、202 フィルタ、203,205 集光レンズ、204 光ファイバ、207 制御部、211 撮像装置、212 対物レンズ、222 拡散プレート。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼薬を霧化部にて霧化して霧状の薬液粒子とし、これを患者の眼球表面に向けて噴霧供給する眼薬噴霧供給装置であって、
前記霧化部は、一方の主面から他方の主面に達する多数の微小孔を含む板状のメッシュ部材と、前記メッシュ部材の一方の主面に対向配置されたホーン部および当該ホーン部を振動させる振動源としての振動部を含む超音波振動子とを備え、
薬液粒子が噴霧供給される眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが、薬液粒子の密度をρ、薬液粒子の前記位置での平均半径をr、薬液粒子の前記位置での平均速度をu、空気の粘性定数をμ、前記メッシュ部材の前記他方の主面から前記位置までの距離をLとした場合に、Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L)≧0.09の条件を満たす、眼薬噴霧供給装置。
【請求項2】
前記メッシュ部材に設けられた前記微小孔の直径が、3[μm]以上20[μm]以下である、請求項1に記載の眼薬噴霧供給装置。
【請求項3】
前記霧化部から噴霧される薬液粒子を案内する導出路を規定する筒状のガイド部をさらに備え、
前記ガイド部は、患者の顔面が押し当てられる開口端を有し、
前記霧化部から前記開口端までの長さが、3[mm]以上30[mm]以下である、請求項1または2に記載の眼薬噴霧供給装置。
【請求項4】
前記メッシュ部材が、前記ホーン部側に向けて凸となる湾曲形状または屈曲形状を有している、請求項1から3のいずれかに記載の眼薬噴霧供給装置。
【請求項1】
眼薬を霧化部にて霧化して霧状の薬液粒子とし、これを患者の眼球表面に向けて噴霧供給する眼薬噴霧供給装置であって、
前記霧化部は、一方の主面から他方の主面に達する多数の微小孔を含む板状のメッシュ部材と、前記メッシュ部材の一方の主面に対向配置されたホーン部および当該ホーン部を振動させる振動源としての振動部を含む超音波振動子とを備え、
薬液粒子が噴霧供給される眼球表面が配置される位置でのストークス数Stkが、薬液粒子の密度をρ、薬液粒子の前記位置での平均半径をr、薬液粒子の前記位置での平均速度をu、空気の粘性定数をμ、前記メッシュ部材の前記他方の主面から前記位置までの距離をLとした場合に、Stk=(ρ×r2×u)/(μ×L)≧0.09の条件を満たす、眼薬噴霧供給装置。
【請求項2】
前記メッシュ部材に設けられた前記微小孔の直径が、3[μm]以上20[μm]以下である、請求項1に記載の眼薬噴霧供給装置。
【請求項3】
前記霧化部から噴霧される薬液粒子を案内する導出路を規定する筒状のガイド部をさらに備え、
前記ガイド部は、患者の顔面が押し当てられる開口端を有し、
前記霧化部から前記開口端までの長さが、3[mm]以上30[mm]以下である、請求項1または2に記載の眼薬噴霧供給装置。
【請求項4】
前記メッシュ部材が、前記ホーン部側に向けて凸となる湾曲形状または屈曲形状を有している、請求項1から3のいずれかに記載の眼薬噴霧供給装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−72313(P2009−72313A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242914(P2007−242914)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
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