眼薬物送達用の新規生体材料ならびにその製造および使用方法
眼薬物送達に有用な独特の性質を有する新規生体材料を開示する。ここで、薬物は、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびコルチコステロイドならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理キトサン組成物、修飾キトサン組成物、修飾処理キトサン組成物、またはその混合物もしくは組合せを含む新規生体材料、ならびにその製造方法および使用方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含む新規生体材料であって、少なくとも一つのキトサンが、その処理キトサン、修飾キトサン、または修飾処理キトサンを、対応する無処理キトサンを含む類似の組成物から区別する一つ以上の物理的、化学的、および/または性能的特性または特徴を持つものに関する。本発明は、本発明のキトサン組成物を含む接着剤組成物または接着剤系、本発明のキトサン組成物を含む薬物送達組成物または薬物送達系、本発明のキトサン組成物を含む充填剤もしくは増量組成物または充填剤もしくは増量系、ならびにその製造方法および使用方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
競合する接着剤技術
有効な組織接着剤の探索は多くの製品をもたらしたが、それらは全て欠点を持っている。
【0004】
現在市販されている最も一般的な組織接着剤はフィブリンシーラントベースの製品である。この系では、天然凝固因子の構成要素であるフィブリノゲンおよびトロンビンが反応して、身体の天然凝固機構の最終段階を模倣する。その結果生じるフィブリンクロットまたはフィブリンフィルムは組織に接着して出血を止め、創傷治癒を改善する。これらの製品の接着強さは、とじ金や縫合糸などの機械的閉じ具を使用せずに組織を接近させておくには不十分である。
【0005】
米国ではシアノアクリレート製品が皮膚破損部を閉じるために使用されている。シアノアクリレートモノマーは、組織に適用すると、接着剤の重合をもたらす発熱性ヒドロキシル化反応を起こす。生理学的応答を調節するために生物学的アルキル鎖を修飾することができる。短鎖誘導体(メチルおよびエチル)は長鎖誘導体(2-オクチル)よりも高度な組織毒性を持つ傾向がある。シアノアクリレートを皮下に植え込むと、炎症、組織壊死、肉芽形成、創傷破壊が起こりうる。組織学的毒性を引き起こすプロセスは、分解副生成物であるシアノアセテートとホルムアルデヒドに関連づけられると考えられる。硬化したポリマーは脆く、組織再成長に対する障壁になる。可塑剤を添加すると、よりフレキシブルな結合基体が得られる。
【0006】
コラーゲンやアルブミンなどの天然タンパク質をアルデヒド架橋剤で架橋して、生物学に基づく接着剤を生成させることができる。アルデヒド構成要素に付随する毒性、使用の複雑さおよび再現性のない結果などといった懸念が、医師による受け入れを制限している。このタイプの接着剤は、最初は人道的免除措置(humanitarian device exemption:HDE)によって承認されたが、適応内でも適応外でも用途の拡大がいくらか見られる。この製品はグルタルアルデヒド架橋ウシ血清アルブミン(BSA)である。グルタルアルデヒドは急性神経傷害を引き起こしうるので、グルタルアルデヒドの存在により、その神経組織との接触は禁止される。このクラスの接着剤は大動脈成長を損ない、吻合部狭窄を引き起こすので、小児における使用が不可能であることも示されている。また、この接着剤は硬化時間が極めて速く、それがしばしば二室式送達シリンジ内を詰まらせ、一貫性のない結合効力をもたらす。これらの付随する難点または複雑な問題がその有効性を制限している。
【0007】
イガイ類などの生物が分泌する天然タンパク質または合成類似体が、組織接着剤として使用されている。これらの技術は下塗剤および重合剤の使用を必要とし、それらは通例、毒性であって、それらの潜在的生体適合性および安全性を著しく損なう。コラーゲンおよびエラスチンに似た工学的に作製されたタンパク質を中心とする合成ポリマーが開発されている。生体適合性であると思われる材料を使って優れた接着強さが実現されている(例えば米国特許第6,875,796号を参照されたい)。これらの接着強さを達成するために、組織には、組織と適合しないであろうクロロホルムなどの材料による下塗りが行われる。また、不適合性の架橋剤、ドープ、および下塗剤、例えばグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、1,6-ジイソシアナトヘキサン、4-イソシアナトメチルフェニル-3-イソシアナトプロパナート、レゾルシノール、エオシンYおよびエオシンBなどの添加によって、マトリックスが増強される。同様に、提案された樹状材料のクラスも、生物学的に適合しない下塗剤の使用に関わる余計な複雑さおよび潜在的毒性を避けられない。
【0008】
ポリエチレングリコール(PEG)製品は市販されているが、それらの強度は光重合でさえかなり低く、大半の製品は使用前の混合を必要とする。これらの製品の相対的な生物学的安全性をもってしても、外科医による受け入れには時間がかかっているようである。
【0009】
競合する局所薬物送達技術
局所薬物送達技術は機能によって分類することができる。徐放技術は活性医薬を長時間にわたって送達しようとするものである。薬物を物理的に捕捉するポリマー材料は、ある期間にわたって受動的送達をもたらすための手段になりうる。また、ポリマー材料は、安定性または溶解度の改善など、改善された特徴を与えることができる。多くの植え込み型装置の場合、薬物送達サイクルの終了時点において、ポリマーマトリックスは分解されるか、回収されるか、またはその場に残されうる。
【0010】
局所薬物送達の特異性を増加させるために、標的送達技術では、集束RFまたは超音波を利用して、医薬剤の移動および/または放出を改善しようとする。
【0011】
改善された吸収/輸送技術では、ターゲット組織による取込みを増加させることによって薬物の吸収を増加させようとする。これは、粘膜環境で使用する場合には、とりわけ有効であることが見出されている。
【0012】
上記の技術では、薬物が、代謝状態や、組織を構成する細胞による代謝産物の排泄に対する応答としてではなく、受動的に放出されるか、外部トリガーを受けて放出される。
【0013】
競合する充填剤または増量技術
皮膚充填剤は通例、ウシコラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、またはカルシウムヒドロキシルアパタイトから生産される。皮膚充填剤は、しわを減少させもしくは排除し、瘢痕陥凹を盛り上がらせ、唇を増大させ、または軟組織体積減少を補うために使用される。充填剤の注入は、通常、小さな針を使って遂行され、皮膚充填剤は処置を必要とする各しわまたは瘢痕中に注入される。多少の初期不快感および挫傷が体験されるが、そのような副作用は一般に極めて迅速に治まる。副作用は稀であるが、アレルギー反応、潰瘍形成、ヘルペス感染症の再活性化、細菌感染、限局性挫傷、および肉芽腫形成などを挙げることができる。時には材料の移動または「ビーズ化(beading)」が見られて、美容上満足できない結果をもたらす。体積の増加がもたらす利益は一般に、生物学的起源を持つ充填剤の場合で3〜6ヶ月間持続し、合成材料ではそれよりも多少長く持続する。産業界では、現在、充填剤材料の寿命および性能の改善ならびに有害副作用の減少が求められている。
【0014】
キトサンの歴史
キトサンは、エビ、ロブスター、およびカニを含む甲殻類の外骨格に由来するキチンの部分的脱アセチル化によって誘導されるカチオン性多糖である。その化学的性質は脱アシル化-(1,4)-N-アセチル-D-グルコサミンポリマーと記載するのが最も適切である。キトサンの接着性はかなり前から知られている。しかし、今までのところ、キトサンに基づく接着剤製品は生産されていない。これは、キトサンの取扱いが困難であり、高い酸濃度に起因する問題を伴うことなく組織に迅速に結合する形でそれを送達することは困難であることが、大きな理由である。USPTOデータベースでの検索によれば、「キトサン(chitosan)」および「接着剤(adhesive)」を含む要約または請求項を持つ特許は14件しかファイルされていなかった。これらの特許の大半は製紙業向けである。米国特許第5,773,033号にはフィブリノゲン/キトサン止血剤が開示されたが、これは組織結合用ではない。「生物学的組織用接着剤(Adhesive for Biological Tissue)」と題する米国特許第6,329,337号には、組換えヒト血漿タンパク質と二官能性または多官能性アルデヒドとから生産されるグルー剤が開示された。その薬剤では、溶液の粘度を高めるために、または二官能性もしくは多官能性アルデヒドと共に架橋試薬として、キトサンが使用された。米国特許第5,496,872号には、かなり網羅的な潜在的試薬の一覧中にキトサンが開示されたが、この特許は、結合をチオール、カルボン酸およびラジカルに頼っている。米国特許第6,200,595号には、潜在的医用接着剤として使用される、キトサンを含むポリカチオン性基体とポリアニオン性基体との組合せが開示された。この特許で報告された接着強さは70g-f/cm2を越えなかった。さらにこの発明では使用直前に2つの構成要素を混合する必要がある。米国特許第6,991,652号には、細胞成長用のマトリックスとして使用される数多くの潜在的材料の一覧中の一つとして、キトサンの使用が開示された。
【0015】
文献調査により、キトサンの透析は、精製ステップとして、また補助添加剤を導入するための手段として、使用されていることが明らかになった。例えば米国特許第6,310,188号では、低分子量化合物を除去するために、キトサンの透析が利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
いくつかの系は組織接着剤の領域での使用が考慮されているが、現在利用できる系は、毒性、不十分な強度、または使用の難しさを含む欠点を持っている。したがって当技術分野では、滅菌された使いやすい形態で提供されうる安全かつ有効な組織接着剤であるさらなる組成物が求められている。高い接着性を持つそのような組成物は薬物送達にも著しい利益を与えるだろう。当技術分野では、美容外科手術および再建外科手術で使用される新規充填剤、増量組成物、または再建組成物になる、高度に水和された状態を保つ組成物も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の定義
「約」という用語は、そのパラメータが望ましい値の±10%以内であることを意味する。
【0018】
「実質的に均一」という用語は、ある組成物が、その組成物の全体にわたって、特性に10%未満の差を示すことを意味する。
【0019】
生物学的薬剤は、微生物ならびに高次生物(ヒトなどの哺乳動物および高等植物までを含む)を含む動物界または植物界の構成員に望ましい特性を付与する、または微生物ならびに高次生物(ヒトなどの哺乳動物および高等植物に至る高次生物までを含む)を含む動物界または植物界の構成員に対して望ましい作用を引き起こす、化合物またはそのような化合物の集合体である。生物学的薬剤は、望ましい作用に関して最初から活性であるか、または代謝作用もしくは活性化剤による外部からの活性化によって活性にすることができる。「適切な試薬」の項で、生物学的薬剤を一覧または明示する。これらの薬剤には、全ての殺生物剤、医薬、栄養剤、または望ましい生物学的作用を、それが例えば死(殺生物剤)であれ、処置(医薬)であれ、予防(栄養剤、ビタミンなど)であれ、直接的もしくは間接的に生じさせることのできる他のあらゆる化合物が含まれる。
【0020】
医薬組成物は、少なくとも一つの活性成分(例えば局所適用される治療剤)を含有する製剤である。ある実施形態において、組成物は一つ以上の賦形剤、緩衝剤、担体、安定剤、保存剤および/または増量剤も含有することができ、望ましい作用または結果を達成するための患者への投与に適している。本明細書に開示する医薬組成物は、さまざまな種、例えばヒト患者または対象者などにおいて、診断的、治療的、美容的および/または研究的有用性を持つことができる。
【0021】
眼異常は、眼または眼の部分もしくは領域の一つを冒す、またはそれらが関わる、疾患、不調または異常を包含しうる。大まかに言って、眼は、眼球と眼球を構成する組織および流動体、眼周囲筋(斜筋および直筋など)ならびに視神経のうち眼球内にあるか眼球に隣接している部分を含む。ヒト眼の前部は、虹彩、角膜、毛様体および水晶体を含む眼の前三分の一(眼のうち、硝子体液の前にある部分)である。また、眼の後部は、硝子体液、網膜、脈絡膜および視神経を含有する。
【0022】
前眼部異常は、前眼(すなわち眼の正面)領域または前眼部位、例えば眼周囲筋、眼瞼、また水晶体嚢の後壁もしくは毛様体筋より前方に位置する眼球組織または流動体を冒す、またはそれらが関わる、疾患、不調または異常である。したがって前眼部異常は主として、結膜、角膜、前房、虹彩、後房(網膜の後ろかつ水晶体嚢の後壁の前)、水晶体または水晶体嚢、ならびに前眼領域または前眼部位を血管化または神経支配する血管および神経を冒すか、それらが関わる。
【0023】
後眼部(同義語として本明細書では「後部」ともいう)異常は、主として、後眼領域または後眼部位、例えば脈絡膜または強膜(水晶体嚢の後壁を通る平面より後ろの位置にあるもの)、硝子体、硝子体腔、網膜、視神経(すなわち視神経円板)、ならびに後眼部(または後部)領域または部位を血管化または神経支配する血管および神経を冒す、またはそれらが関わる、疾患、不調または異常である。
【0024】
したがって後眼部異常は、例えば黄斑変性症(例えば非滲出型加齢黄斑変性症および滲出型加齢黄斑変性症);脈絡膜血管新生;急性黄斑視神経網膜症;黄斑浮腫(例えば類嚢胞黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫);ベーチェット病、網膜障害、糖尿病性網膜症(増殖性糖尿病性網膜症を含む);網膜動脈閉塞性疾患;網膜中心静脈閉塞症;ぶどう膜炎(中間部および前部ぶどう膜炎を含む);網膜剥離;後眼部位または後眼位置を冒す眼外傷;眼レーザー処置によって引き起こされた、または眼レーザー処置による影響を受けた、後眼部異常;光線力学的治療によって引き起こされた、または光線力学的治療による影響を受けた、後眼部異常;光凝固;放射線網膜症;網膜上膜障害;網膜静脈分枝閉塞症;前部虚血性視神経症;非網膜症糖尿病性網膜機能障害、色素性網膜炎および緑内障などの疾患、不調または異常を包含しうる。緑内障は後眼部異常とみなすことができる。なぜなら、治療目標が、網膜細胞もしくは視神経細胞への損傷またはそれら細胞の喪失による視力喪失を防止すること、またはそのような視力喪失の発生率を低下させること(すなわち神経保護)でありうるからである。
【0025】
前眼部異常は、例えば無水晶体;偽水晶体;乱視;眼瞼痙攣;白内障;結膜疾患;結膜炎;角膜疾患;角膜潰瘍;ドライアイ症候群;眼瞼疾患;涙器疾患;涙管閉塞;近視;老視;瞳孔障害;屈折障害および斜視などの疾患、不調または異常を包含しうる。緑内障は前眼部異常であるとみなすこともできる。なぜなら、緑内障処置の臨床目標は、眼の前房における高い房水圧を低下させる(すなわち眼内圧を低下させる)ことでありうるからである。
【0026】
発明の概要
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む生体材料を提供する。処理キトサンは、キトサンを水ならびにさまざまな塩類および/またはアニオン溶液に対して透析することによって調製される。これらの実施形態では、処理キトサンが、無処理キトサンから同定可能かつ再現可能に変化した構造コンフォメーションを持つ。結果として生じる処理キトサンは、無処理キトサンと比較して、化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。修飾キトサンには、キトサン分子に一つ以上の官能基を共有結合で付着させることによる化学修飾を受けたキトサンが包含される。修飾キトサンには、一つ以上の別個の化学修飾因子(原子構造物または分子構造物)と非共有結合的に会合しているキトサンも包含される。修飾キトサンは、いくつかの別個の化学修飾因子(原子構造物または分子構造物)が同時添加されたキトサンも包含しうる。修飾キトサンは、上記3クラスの修飾キトサンの組合せまたは混合物も包含しうる。化学修飾因子は一般に、与えられた適用にとって望ましい挙動、特性または特徴をキトサンに付与するように選択される。本発明の組成物は、液体、ヒドロゲル、固体、薄膜、粒子、造形構造物、およびナノ粒子を含む(ただしこれらに限るわけではない)いくつかの物理的形態に製剤化することができる。
【0027】
本発明のユニークな生体材料は、新規接着剤組成物または接着剤系としての使用、局所薬物送達の新規手段としての使用、および新規充填または増量材としての使用について、証明された実現可能性を持つ。本発明の製剤は競合技術に対して著しい利点を持つ。これらの利点には、例えば安全性および効力、すぐに使える滅菌製剤、調整可能な粘度を持つ製剤、生理学的適用に馴染みやすい迅速に調整できるpHおよび準備酸性度(reserve acidity)を持つ製剤、安価な基礎材料から容易にかつ迅速に生産される製剤などが含まれる。
【0028】
本発明は新規薬物送達系も提供する。
本発明は新規充填または増量材も提供する。
【0029】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物と生物学的薬剤とを含む組成物であって、生物学的薬剤は医薬活性剤などの生物活性剤であることができ、組成物が植物界または動物界の生物(ヒトを含む)に投与されると、その生物の一部位中に、生物学的薬剤が放出されるような組成物も提供する。
【0030】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物であって、少なくとも一つのキトサンが、それらキトサンの少なくとも一つに直接的にまたはリンカー部分を介して共有結合された医薬活性剤などの生物活性剤を含み、組成物が植物界または動物界の生物(ヒトを含む)に投与されると、その生物の一部位中または一部位上に、薬剤の加水分解的切断、酵素的切断または加水分解的切断と酵素的切断との組合せに依存して、時間をかけて、薬剤が放出されるような組成物を提供する。
【0031】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む接着剤組成物であって、非生体系用または生体系用に調整される組成物を提供する。場合により、本接着剤組成物は、添加剤、例えば充填剤、酸化防止剤、接着増強剤、または接着剤を特定の目的に適するように変性もしくは変化させるために接着剤に添加される他の薬剤を含むことができる。
【0032】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を、添加剤パッケージと、実質的に均一な接着剤組成物を形成させるのに十分な時間、温度および圧力で混合することを含み、接着剤組成物がその使用目的に適したものになるように添加剤パッケージを適合させる、本発明の接着剤組成物を製造するためのプロセスを提供する。本明細書に記載する手法のほとんどでは、圧力を独立して測定または制御することはしなかったので、圧力は温度および体積によって決まるか、単に大気圧であったが、本プロセスは、大気圧未満の圧力でも、大気圧を上回る圧力でも、容易に行うことができる。
【0033】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を、有効量の単一生物学的薬剤または複数生物学的薬剤と、実質的に均一な送達組成物が調製されるような条件下で混合することを含み、生物学的薬剤が殺生物剤、医薬、栄養剤などである、生物学的薬剤送達組成物を製造するためのプロセスを提供する。
【0034】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含むキトサン組成物を、医薬有効量の単一医薬剤または複数医薬剤と、キトサン組成物と単一または複数の医薬剤との間に共有結合的連結が形成されて持続放出性薬物送達組成物が形成されるような条件下で接触させることを含む、薬物送達組成物を製造するためのプロセスを提供する。ある実施形態では組成物が実質的に均一であるが、別の実施形態では、適用および所望する作用に依存して、組成物が不均一な場合もありうる。単一または複数の医薬剤は、単一または複数の医薬剤とキトサンとの間に共有結合連結を形成させるために、キトサン上の部分に直接付着させるか、キトサン上の部分にリンカーまたは連結基を介して付着させることができる。ある実施形態では、共有結合連結が、加水分解による切断、酵素活性による切断、光分解による切断、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによる切断を受けうる。別の実施形態では、共有結合連結が、加水分解による切断、酵素活性による切断、光分解による切断、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによる切断を受けない。
【0035】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含むキトサン組成物を、医薬有効量の単一医薬剤または複数医薬剤と、実質的に均一な薬物送達組成物が調製されるような条件下で接触させることを含む、薬物送達組成物を製造するためのプロセスを提供する。各修飾キトサンは、キトサン上の部位または部分に共有結合された、医薬剤上の部分と反応して共有結合連結を形成する能力を持つ基を含み、その共有結合連結は加水分解による切断、光分解による切断、酵素活性による切断、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによる切断を受けうる。
【0036】
本発明は、組織接着特性、キトサン組成物保持特性、および生物活性剤(医薬剤を含む)放出特性を研究するためのインビトロ組織構築物も提供する。1つの実施形態では、構築物が組織培養物を含み、その表面には、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物がコーティングされている。別の実施形態では、構築物が第1組織培養物と第2組織培養物とを含み、それらの間に、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含む組成物が差し挟まれている。別の実施形態では、構築物が組織培養物とパッチ材料とを含み、それらの間に、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含む組成物が差し挟まれている。これら全ての構築物において、キトサン組成物およびそれに基づく薬物送達系は、所望の作用または結果を達成するための患者への投与に適した(すなわち眼に適合する)医薬剤、賦形剤、緩衝剤、アジュバント、担体、安定剤、保存剤および/または増量剤を含むことができる。
【0037】
本発明は、以下の詳細な説明を、添付の例示的図面と一緒に参照すれば、より良く理解することができ、それらの図面では類似する要素に同じ番号を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、三角形の上頂点にコンパクトな球、左側頂点にランダムコイル、右側頂点に剛直ロッドを示す、高分子コンフォメーションのハウクトライアングル(Haug triangle)を示す。
【図2】図2AおよびBは、本発明のキトサン処理および/または修飾方法の二つの模式的実施形態を表す。
【図3】図3は、処理キトサン、実施例1の材料の数個の複製、および無処理キトサンから得た円偏光二色性(CD)スペクトルを表す。
【図4】図4は、処理キトサン、実施例1の材料の数個の複製、および無処理キトサンから得たGPCクロマトグラムを表す。
【図5】図5A〜Eは、分子量および脱アセチル化度などの特徴が異なる実施例1の材料が示すさまざまな粘度挙動を表す。
【図6】図6は、生細胞に対する本発明の材料の安全性を示す。初代培養物を実施例1の材料に20〜24時間曝露したとき、角膜内皮細胞の死は観察されなかった(中段のパネル)。真菌感染によって細胞の死が誘発され、この染色技法を使って死を検出することができた(下段のパネル)。
【0039】
【図7】図7は、実施例1の材料の用量を変化させて行った一連の角膜内皮細胞培養物毒性研究を表す。細胞毒性は観察されなかった。
【図8】図8は、角膜の実質内での本発明の材料の安全性を図示する。実施例1の材料は、慢性投与した場合でさえ、免疫原性または炎症性応答を事実上誘発しない。残留材料は、60日の時点でさえ、角膜に対する有害作用を伴わずに観察することができた。(インビボ研究)
【図9】図9は、ウサギの角膜上での実施例1の材料の保持を表す。適用後8時間および16時間の時点でさえ著しい残留がある。(インビトロ研究)
【図10】図10は、さまざまな時点後に角膜上に保持された実施例1の材料の量をグラフで表す。(インビトロ研究)
【図11】図11は、実施例1の材料による処置後の、擦過創傷におけるウサギ角膜再上皮化を示す一連の写真を表す。(インビボ研究)
【図12】図12は、損傷のない上皮、および残留した実施例1の材料を下層にして創傷を覆う新たに再生した上皮を示す、角膜の断面を表す。(インビボ研究)
【0040】
【図13】図13は、コラーゲンベースのモデルのいくつかの複製物からのエラスターゼによる偽薬の酵素的放出をグラフで表すもので、切断可能な薬物テザーの前提を実証する。
【図14】図14は、カルコフロール染色を使って、キトサンベースの組成物(A)を対照(B)との比較で陽性に同定した、適用2時間後のウサギ眼の角膜表面上での実施例1の材料の保持を示す証拠を表す。(インビボ研究)
【図15】図15は、市販の調製物(0.4%KT)と比較して、上回らないまでも同等な、実施例19の材料(0.2%KT)からのケトロラクトロメタミン(KT)の送達を表す。
【図16】図16は、市販の調製物(1%PA)と比較して、上回らないまでも同等な、実施例21の材料(0.05%PA)からの酢酸プレドニゾロン(PA)の送達を表す。
【図17】図17は、キトサン骨格にビマトプロストを共有結合で付着させるための合成法を表す。ビマトプロストをまず無水コハク酸と反応させる。これは、ビマトプロスト上のアルコール官能基に付着するリンカーをもたらす。次のステップでは、そのリンカーの遊離酸末端を、EDCカップリングを利用して、キトサン骨格に付着させる。
【0041】
【図18】図18は、実施例1の材料、ビマトプロストのみ、および実施例25の材料(ビマトプロストが共有結合で付着している実施例1の材料)のFT-IRスペクトルを表す。実施例25の材料のスペクトルでは1550cm-1および1620cm-1にビマトプロストに特有のバンドを見ることができ、これは、実施例1の材料にビマトプロストがうまく付着していることを示している。
【図19】図19は、注射29日後の眼周囲空間における本発明の2つの組成物の残存を表す。化合物A:濃度10mg/mLの実施例1の材料;化合物B:濃度70mg/mLの代替製剤。キトサンベースの組成物を陽性に同定するためにカルコフロール染色を使用した。(インビボ研究)
【図20】図20は、カルコフロール染色を使って、キトサンベースの組成物を陽性に同定した、注射29日後の眼周囲空間における実施例25の材料(これは共有結合されたビマトプロストを含む)の残存を表す。(インビボ研究)
【図21】図21は、酵素の存在下および非存在下における、共有結合で付着されたビマトプロストの、実施例25の材料からの相対的放出速度を表す。酵素が存在しない場合、放出されたビマトプロストは検出することができず、ブタ肝臓エステラーゼおよびリゾチームが存在する場合は、かなりの量のビマトプロストが放出される。(インビトロ研究)
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明者らは、変化した物理的、化学的、および/または性能的特性または特徴を持つキトサン材料を生産することができるある一定の処理および/または修飾に、キトサンを供しうることを見出した。本発明者らは、これらの処理キトサン、修飾キトサン、または修飾処理キトサンを含む製剤では、対応する無処理キトサン製剤の特性および/または特徴が変化、調整、および改善されていることも見出した。本発明者らは、これらの処理キトサン、修飾キトサン、または修飾処理キトサンが、生体接着剤組成物、および/または薬物送達組成物もしくは薬物送達系、および/または汎用接着剤組成物もしくは接着剤系、および/または充填剤もしくは増量組成物または充填剤もしくは増量系などとしての使用に、理想的によく適していることも見出した。本発明者らは、本発明の組成物が、競合技術と比較して異なるまたは改善された特性を示すことを見出した。本発明者らは、本発明の組成物の接着特性により、それらの材料が、ターゲット組織またはターゲット臓器の上または中に、長期間にわたって、その組織または臓器に有害な結果をもたらすことなく、存在しうることを見出した。本発明者らは、本発明の組成物に付着された切断可能リンカーまたは非切断可能リンカーの使用が、生物学的薬剤を送達するための手段になることも見出した。切断可能リンカーは、in situでの生物学的薬剤の放出をもたらすことができ、その放出は、加水分解、光分解、酵素活性、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによって引き起こされる。生物学的薬剤は殺生物剤、医薬、栄養剤などであることができ、加水分解、光分解、酵素活性、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによって放出されうる。酵素的放出の場合、酵素は構成的または誘導可能であるか、放出酵素を組成物自体に組み込むことができる。
【0043】
処理キトサン
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含むキトサン組成物を含む新規生体材料に関係する。処理には、少なくとも、キトサンのコンフォメーションおよび/または機能変化を引き起こすように設計された透析が含まれる。修飾には、少なくとも、(i)単一または複数の化学修飾因子または化学物質によるキトサンの共有結合的修飾、(ii)キトサンと単一または複数の化学物質との非共有結合的会合、(iii)単一または複数の化学物質のキトサンへの同時添加、あるいは(iv)その混合物または組合せが含まれる。化学物質または化学修飾因子は、原子構造物、例えば原子クラスター、量子ドット、もしくは他のナノ原子構造であるか、分子、分子構造物、または分子の集合体であることができる。
【0044】
本発明は、概して、有効量の処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む新規接着剤組成物または接着剤系であって、等価な量の対応する無処理キトサンを含む接着剤組成物と比較して、異なるまたは改善された接着特性を持つものにも関係する。本明細書において混合物という用語は、構成要素が一つに混合されていることを意味し、一方、組合せという用語は、構成要素を組み合せて、組成物内の別個の区画(例えば層、細片など)にすることを意味する。
【0045】
本発明は、概して、有効量の処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む新規薬物送達組成物または薬物送達系であって、等価な量の対応する無処理キトサンを含む薬物送達組成物と比較して、異なるまたは改善された薬物送達特性を持つものにも関係する。
【0046】
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含むキトサン組成物と、有効量の単一生物学的薬剤(例えば医薬剤)または複数生物学的薬剤とを含む新規薬物送達組成物または薬物送達系であって、有効量が所望の処置効果を惹起するのに十分な量であり、系が、等価な量の対応する無処理キトサンを含む薬物送達組成物または薬物送達系と比較して、異なるまたは改善された薬物送達特性を持つものにも関係する。キトサンマトリックスを含む本発明の組成物は、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して、組成物中の薬物濃度が等価であっても、組織薬物濃度を増加させることができる。したがって本発明の組成物では、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して低い、薬物の医薬有効量をもたらす。ある実施形態において、本発明の薬物送達組成物は、キトサン組成物が存在しない場合の同等な組成物よりも低い医薬有効量を実現する。
【0047】
ある実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも10%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも20%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも30%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも40%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも50%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも60%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも70%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも80%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも90%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも95%少ない。
【0048】
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む新規薬物送達組成物または薬物送達系であって、少なくとも一つのキトサンが、キトサンの部位または部分に共有結合された不安定な連結を介して、有効量の単一生物学的薬剤(例えば医薬剤)または複数生物学的薬剤を含み、有効量が所望の処置効果を惹起するのに十分な量であり、連結が加水分解的および/または酵素的に不安定であって、設計された期間にわたって、設計された速度で、生物学的薬剤を放出し、組成物が等価な量の対応する無処理キトサンを含む薬物送達系と比較して、異なるまたは改善された薬物送達特性を持つものにも関係する。
【0049】
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含む、有効量の接着剤組成物を、第1の基体のある部位に適用するステップを含む方法にも関係する。適用後に、その部位を第2の基体のある部位と接触させるが、その接触は、その接着剤組成物をして、対応する無処理キトサンを使って調製された接着剤系よりも強い力で、基体部位どうしを一つに結合させるのに十分な時間、温度、圧力および湿度で行われる。基体は、生体組織および/または非生体基体であることができる。
【0050】
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含む、有効量の接着剤組成物を、基体のある部位に適用するステップを含む方法であって、その接触が、その接着剤組成物をして、対応する無処理キトサンを使って調製された接着剤系よりも強い力で、基体を結合させるのに十分であるような方法にも関係する。基体は生体組織および/または非生体基体であることができる。
【0051】
本発明は、概して、キトサンを処理するための方法であって、原料キトサン(無処理キトサン)を、完全なキトサン溶解を促進するのに十分な時間および温度で、水性酸溶液に溶解させることを含む方法にも関係する。次に、溶解したキトサンを塩基で沈殿させる。酸溶解および塩基沈殿は2回以上行うことができる。次に、沈殿したキトサンを、遠心分離または固体構成要素と液体構成要素とを分離するための他の類似するプロセスによって、上清から分離する。次に、キトサンを透析チューブに入れ、酸溶液を使って溶解する。透析チューブ中での溶解後に、対応する無処理キトサンと比較してある一定の物理的、化学的および性能的特性または特徴の変化によって証明されるキトサンへの実質上可逆的な変化を引き起こす溶液に対して、キトサンを透析する。キトサンは、透析ステップの前または後に化学修飾することができる。
【0052】
本発明は、概して、キトサンを処理するための方法であって、原料キトサンを、完全なキトサン溶解を促進するのに十分な時間および温度で、水性酸溶液に溶解することを含む方法にも関係する。キトサンが溶解した後、溶解したキトサンに塩基をゆっくり加えてキトサンを沈殿させる。この際、塩基添加は溶液のpHを約pH9〜pH10の値にまで上昇させる。塩基処理後に、キトサンを水性酸溶液中で再び可溶化してから、塩基の添加によって再沈殿させる。次に、再沈殿したキトサンを遠心分離によって溶液から分離する。次に、沈殿したキトサンを、キトサンを溶解するのに十分な時間および温度で、酸溶液中で透析してから、キトサンのある一定の物理的および/または化学的特性を変化させる緩衝塩溶液に対して透析する。次いで、得られる処理キトサンを凍結乾燥することができる。典型的には、最初の塩基添加の前に、キトサンを化学修飾することができる。しかし化学修飾は、塩基添加後にも、さらには凍結乾燥材料からの再構成後でさえ、行うことができる。さらに、他の材料または構成要素の同時添加または組み込みを、本処理方法のさまざまなステップで行うことができる。
【0053】
全ての本発明組成物において、組成物は、所望する最終用途にとって望ましい特徴を持つ本発明の組成物の製剤が得られるように、賦形剤、アジュバント、保存剤、緩衝剤、ビヒクル、および/または他の任意の構成要素も含むことができる。
【0054】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む組成物であって、各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す組成物にも関係する。ある実施形態では、組成物が溶媒も含み、そこに処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物が約0.1mg/mL〜約100mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約90〜約99.99v/v%の量で存在する。別の実施形態では、溶媒が水であり、各キトサンがヒドロゲルの形態をとる。別の実施形態では、組成物が有効量の生物学的薬剤も含む。別の実施形態では、組成物が有効量の生物学的薬剤も含み、溶媒が水であり、各キトサンがヒドロゲルの形態をとる。ある実施形態では、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物の濃度が約1mg/mL〜約50mg/mLであり、溶媒が約95〜約99.9v/v%の量で存在する。別の実施形態では、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物の濃度が約3mg/mL〜約30mg/mLであり、溶媒が約97〜約99.7v/v%の量で存在する。別の実施形態では、各修飾キトサンが、キトサンのアミンまたはアルコール部分に共有結合された官能化有効量の単一官能基または複数官能基を含み、官能化有効量はキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.01%〜約100%であり、単一または複数の官能基は各修飾キトサン中で同じであるか、または異なる。別の実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.1%〜約10%である。別の実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.5%〜約2%である。
【0055】
別の実施形態では、官能基が疎水性官能基、親水性官能基、イオン性官能基およびその混合物からなる群より選択される。一定の実施形態において、疎水性官能基は、1〜100個の炭素原子を持つアルキル基、アルケニル基、アラルキル(araalkyl)基、アルカリール基、およびその混合物からなる群より選択され、その基の炭素原子の一つ以上は、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ゲルマニウム、エステル部分、アミド部分、尿素部分、ウレタン部分、およびその混合物または組合せからなる群より選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子部分で置き換えられ、水素原子の一つ以上は、ハロゲン原子、アルコキシド基、アミド基、およびその混合物または組合せからなる群より選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子部分で置き換えられる。別の実施形態では、疎水性官能基が、カルボン酸、有機スルホン酸、ポリエーテル、ポリエーテルアミン、ステロール類、ポルフィリン類、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。ある実施形態では、親水性官能基が、ジアミン、ポリアミン、ジオール、ポリオール、二酸、ポリ酸、クラウンエーテル、グライム類、ポリアルケニルエーテル、ポリアルケニルアミン、ポリアルケニルエーテルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、またはその混合物もしくは組合せからなる群より選択される。
【0056】
ある実施形態では、イオン性官能基が、金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、ジカルボン酸、ポリカルボン酸(この場合、一つのカルボン酸はキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他の酸基は電荷を帯びることができる)、ジアミン、ポリアミン(この場合、一つのアミンはキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他のアミノ基は電荷を帯びることができる)、金属イオン、イオン性原子クラスター、イオン性分子構造、単アニオン、多原子アニオン、脱プロトン化オキソ酸、置換脱プロトン化オキソ酸または脱プロトン化有機酸(この場合、これらの基は静電相互作用によってキトサンと相互作用する)、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。別の実施形態において、組成物は、緩衝剤、ビヒクル、添加剤、保存剤、賦形剤、アジュバント、またはその組成物を特定の目的に適したものにするであろう他の任意の構成要素も含むことができる。上記組成物のいずれにおいても、任意の量の他の構成要素を組成物に加えることができる。
【0057】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物にも関係する。これらのキトサンのそれぞれは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的および/または物理的特性ならびに性能的特性および特徴に変化を示す。各処理キトサンは、可溶化したキトサンを水、塩溶液および/またはアニオン溶液に対して透析することによって調製される。各修飾キトサンは、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加でキトサンを変化させることによって調製される。原子および/または分子剤は、与えられた適用にとって望ましい挙動、特性または特徴をキトサンに付与するように選択される。ある実施形態では、組成物が液体、固体、分散系、懸濁液、ヒドロゲル、粒子、ナノ粒子、薄膜、または造形構造物の形態をとる。別の実施形態では、組成物が生物学的薬剤を含み、その組成物は、有効量の薬剤を、生物のある部位中に、所望の期間にわたって放出することができる。別の実施形態では、薬剤が、組成物中のキトサンの少なくとも一つに、直接的に、またはリンカー部分を介して、共有結合され、その組成物は、有効量の薬剤を、生物のある部位中に、ある期間にわたって放出することができ、その期間は、前記少なくとも一つのキトサンからの薬剤の加水分解的切断、酵素的切断、または加水分解的切断と酵素的切断の組合せの速度のいずれかに依存する。
【0058】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む接着剤組成物であって、各修飾キトサンが対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示すものにも関係する。ある実施形態において、組成物は、その組成物が所望の接着目的に適したものになるように適合させた添加剤パッケージも含む。別の実施形態では、添加剤パッケージが生体適合性充填剤、接着増強剤、またはその混合物を含む。
【0059】
本発明は、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む充填剤組成物であって、各キトサンが対応する無処理キトサンよりも高度に水を吸収し保持するものにも関係する。ある実施形態において、組成物は、充填剤組成物の充填剤特性が強化されるように適合させた添加剤パッケージも含む。別の実施形態では、添加剤パッケージが生体適合性充填剤、保水添加剤、またはその混合物を含む。
【0060】
本発明は、ある組織部位の表面に、キトサン組成物を含む有効量の水性処理溶液を適用して、被覆表面を形成させるステップを含む、組織を結合する方法にも関係する。キトサン組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含み、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。キトサン組成物は、所望の期間にわたってその表面上に存続するのに十分な接着強さおよび十分な表面への保持性で表面に接着する。ある実施形態では、本方法が、被覆表面を基体の表面と接触させるステップも含み、その接触は、そのキトサン組成物をして、対応する無処理キトサンを含むキトサン組成物よりも強い力で、組織部位表面を基体表面に結合させるのに十分な時間、温度、圧力および湿度で行われる。ある実施形態では、基体が第2の組織部位である。別の実施形態では、基体が合成材料、生物学的材料またはその混合物である。ある実施形態では、各修飾キトサンが、キトサンのアミンまたはアルコール部分に共有結合された官能化有効量の単一官能基または複数官能基を含み、有効量がキトサンの一つ以上の特性を変化させるのに十分の量であり、単一または複数の官能基が各修飾キトサン中で同じであるか、または異なる。ある実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.01%〜約100%である。別の実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.1%〜約10%である。別の実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.5%〜約2%である。
【0061】
別の実施形態では、官能基が、疎水性官能基、親水性官能基、イオン性官能基、量子ドット、原子クラスター、NMR活性基、蛍光基、色素、およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、疎水性官能基が、1〜100個の炭素原子を持つアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルカリール基、およびその混合物からなる群より選択され、その基の炭素原子の一つ以上は、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ゲルマニウム、エステル部分、アミド部分、尿素部分、ウレタン部分、およびその混合物または組合せからなる群より選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子部分で置き換えられ、水素原子の一つ以上は、ハロゲン原子、アルコキシド基、アミド基、およびその混合物または組合せからなる群より選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子部分で置き換えられる。別の実施形態では、疎水性官能基が、カルボン酸、有機スルホン酸、ポリエーテル、ポリエーテルアミン、ステロール類、ポルフィリン類およびその混合物または組合せからなる群より選択される。ある実施形態では、親水性官能基が、ジアミン、ポリアミン、ジオール、ポリオール、二酸、ポリ酸、クラウンエーテル、グライム類、ポリオール、ポリアミン、ポリアルケニルエーテル、ポリアルケニルアミン、ポリアルケニルエーテルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、またはその混合物もしくは組合せからなる群より選択される。ある実施形態では、イオン性官能基が、金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、ジカルボン酸またはポリカルボン酸(この場合、一つのカルボン酸はキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他の酸基は電荷を帯びることができる)、ジアミンまたはポリアミン(この場合、一つのアミンはキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他のアミノ基は電荷を帯びることができる)、金属イオン、イオン性原子クラスター、イオン性分子構造、単アニオン、多原子アニオン、脱プロトン化オキソ酸、置換脱プロトン化オキソ酸または脱プロトン化有機酸(この場合、これらの基は静電相互作用によってキトサンと相互作用する)、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。
【0062】
別の実施形態では、キトサン組成物中の各キトサンがヒドロゲルの形態をとり、キトサン組成物は約0.1mg/mL〜約100mg/mLの濃度で存在し、水は約90〜約99.99v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物が約1mg/mL〜約50mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約95〜約99.9v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物が約3mg/mL〜約30mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約97〜約99.7v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物がさらに、有効量の生物学的薬剤を含む。ある実施形態では、キトサン組成物中の各キトサンがヒドロゲルの形態をとり、キトサン組成物が約0.1mg/mL〜約100mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約90〜約99.99v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物が約1mg/mL〜約50mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約95〜約99.9v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物が約3mg/mL〜約30mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約97〜約99.7v/v%の量で存在する。
【0063】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物を、有効量の単一生物学的薬剤または複数生物学的薬剤と、実質的に均一な送達組成物を形成させるのに十分な条件下で混合することを含む、送達組成物を製造するためのプロセスにも関係する。各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。
【0064】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物を、有効量の単一生物学的薬剤または複数生物学的薬剤と接触させることを含む、生物学的薬剤送達組成物を製造するためのプロセスにも関係する。各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。各薬剤は、キトサンと各生物学的薬剤との間に共有結合連結が形成されて、その結果、持続放出性の生物学的送達組成物が形成されるような条件下で処理キトサン上の部位と反応して共有結合連結を形成するように適合させた官能基を含む。その連結は加水分解による切断、酵素活性による切断または加水分解と酵素活性との組合せによる切断を受けうる。
【0065】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物を、有効量の単一生物学的薬剤または複数生物学的薬剤と、実質的に均一な薬物送達組成物が調製されるような条件下で接触させることを含む、生物学的薬剤送達組成物を製造するためのプロセスにも関係する。各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。生物学的薬剤は、キトサン上の反応性基の一部または実質上全てに、共有結合される。薬物送達組成物は、加水分解、酵素活性または加水分解と酵素活性との組合せにより、有効量の生物学的薬剤を、ある期間にわたって放出することができる。
【0066】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物にも関係する。処理には、少なくとも、対応する無処理キトサンと比較して各キトサンの一つ以上の化学的、物理的および/または性能的性質または特徴を変化させるのに十分な条件下で、無処理キトサンまたは修飾無処理キトサンを透析することが含まれる。修飾には、(i)キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させること、(ii)キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させること、(iii)キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させること、または(iv)これら三つの修飾タイプの混合物または組合せが含まれる。
【0067】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む薬物送達系であって、各処理キトサンおよび各修飾キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示すものにも関係する。キトサンは、不安定な連結を介してキトサン中の部位に共有結合された、医薬有効量の単一医薬剤または複数医薬剤を持つ。医薬有効量は、所望の処置効果を惹起するのに十分な量である。連結は、加水分解的に不安定、酵素的に不安定、または加水分解的かつ酵素的に不安定であり、医薬剤を、設計された期間にわたって、設計された速度で放出する。この系は、等価な量の対応する無処理キトサンを含む薬物送達系と比較して異なるまたは改善された薬物送達特性を持つ。
【0068】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む有効量の接着剤系を、第1基体のある部位に適用するステップを含む方法にも関係する。各処理キトサンおよび各修飾キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。この方法は、その部位を第2基体の対応する部位と接触させるステップも含み、その接触は、接着剤系をして、対応する無処理キトサンを使って調製された等価な接着剤系よりも強い力で、基体部位どうしを一つに結合させるのに十分な時間、温度、圧力および湿度で行われる。ある実施形態では、基体が生体組織であるか、または生体組織とパッチ材料である。
【0069】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む有効量の接着剤系を、基体のある部位に適用するステップを含む方法にも関係する。各処理キトサンおよび各修飾キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。接触は、接着剤系をして、対応する無処理キトサンを使って調製された等価な接着剤系よりも強い力で、基体を結合させるのに十分なものである。ある実施形態では、基体が生体組織であるか、または生体組織とパッチ材料である。
【0070】
本発明は、原料キトサンを、完全なキトサン溶解を促進するのに十分な時間および温度で、第1水性酸溶液中に溶解させるステップを含む、キトサンを処理するための方法にも関係する。溶解したキトサン溶液に塩基を加えてキトサンを沈殿させる。この際、塩基の添加は、溶解したキトサン溶液のpHを、約pH9〜約pH10の値に上昇させる。沈殿したキトサンを、第2の水性酸溶液に再溶解させる。次に、再溶解したキトサン溶液に塩基を加えてキトサンを沈殿させる。再沈殿したキトサン溶液を遠心分離にかけて、キトサンを溶液から分離する。再沈殿したキトサンを、酸溶液内で、透析チューブ中のキトサンを溶解させるのに十分な時間および温度で透析する。次に、対応する無処理キトサンまたは無処理修飾キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴を変化させる緩衝塩溶液に対して、酸透析キトサンを透析する。ある実施形態において、本方法は、透析したキトサンを凍結乾燥して、対応する無処理キトサンよりも低い見掛けの分子量および高い組織接着強さを持つキトサンを形成させることも含みうる。
【0071】
別の実施形態において、本方法は、第1塩基添加ステップの前に、キトサンを化学修飾することも含みうる。別の実施形態では、化学修飾を、プロセスの任意の段階で、例えば原料キトサンに対して、水透析キトサンに対して、酸透析キトサンに対して、凍結乾燥キトサンに対して、または再構成キトサンに対して行うことができる。別の実施形態において、本方法は、凍結乾燥前に、透析したキトサンに添加剤パッケージを添加することも含みうる。別の実施形態では、添加剤パッケージを、プロセスの任意の段階で、例えば原料キトサンに、水透析キトサンに、酸透析キトサンに、凍結乾燥キトサンに、または再構成キトサンに添加することができる。もちろん、どこで添加剤パッケージを添加するかは、その添加剤と、どこであればそれがプロセスステップに耐えうるかに依存するだろう。したがって、添加剤パッケージが透析中に失われる場合、その添加剤パッケージは透析後に添加する必要がある。同様に、添加剤パッケージが化学修飾中に変化または喪失する場合、その添加剤パッケージは修飾後に添加する必要があるだろう。プロセスステップの順序が、要求される手順よりも、所望する材料に大きく依存することは、当業者には理解されるはずである。したがって、キトサンの見掛けの分子量を変化させる透析ステップによってもたらされるキトサンの変化を、組成物が必要としている場合、プロセスステップは、その目的が遂行されるように整えられるだろう。あるいは、プロセスステップは、一連の望ましい特性または特徴が組成物に付与されるように整えられるだろう。
【0072】
本発明は、タンパク質と生物学的薬剤との間にナフタルイミド基の光活性化によって作られた連結を含む組成物にも関係する。組成物は、生物学的薬剤が、ナフタルイミド連結の加水分解、光分解および/または酵素的切断によって、ある期間にわたって放出されるように設計される。本発明は、生物学的薬剤をタンパク質に結合する方法であって、ナフタルイミド基の光活性化によってタンパク質と生物学的薬剤の間に連結を形成させるステップを含み、その連結が、生物学的薬剤を、加水分解、光分解および/または酵素活性により、ある期間にわたって放出する方法にも関係する。
【0073】
本発明は、テザー生物学的薬剤の製造方法であって、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含むキトサン組成物を、生物学的薬剤と、単一キトサンまたは複数キトサン上の部分と生物学的薬剤上の部分との間に連結が形成されるように適合させた条件下で接触させるステップを含み、連結が加水分解的切断、光分解的切断または酵素的切断に対して非感受性である方法にも関係する。ある実施形態において、連結は2つの部分間の直接的連結であるか、連結が2つの部分間に差し挟まれたリンカーを含む。
【0074】
発明の経緯
本発明者らが行った修飾キトサンの最初の試みは、ナフタルイミドで修飾されたキトサンを調製して、キトサン単独よりも大きな接着強さを示す光活性化材料をもたらすことだった。参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第10/982,197号を参照されたい。
【0075】
本発明者らがナフタルイミド修飾キトサンの最適化を始めたところ、リン酸緩衝食塩水に対する透析が、ナフタルイミド修飾キトサンならびに天然のキトサンから誘導される生体接着剤の接着強さを著しく増大させることが見出された。
【0076】
ナフタルイミド修飾キトサンが光の非存在下で結合を示すことがわかった。そこで本発明者らは、キトサンのある特徴または品質を向上するためにキトサンを有機分子で修飾することの可能性を探究し始めた。同じ反復プロセスにより、天然のキトサンと修飾キトサンの結合能はどちらも著しく向上されることが見出された。場合によっては、ある修飾が、結果として得られる修飾キトサン製剤に、さらなる生体適合性、望ましい分解プロファイル、または他の望ましい特性を付与しうる。
【0077】
本発明者らは、本発明の方法がユニークなキトサン材料をもたらすことを見出した。天然のキトサンは、典型的には、図1に示す高分子コンフォメーションのハウクトライアングルのランダムコイル/剛直ロッド領域付近に置かれるような分子形態をとることが見出される。以下に示す実験データは、本発明の方法に従って調製された処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せが、無処理キトサンとの比較で、測定される分子量の減少を明白に示すことを実証している。特定の理論または理論的説明に束縛されるわけではないが、図1のハウクトライアングルに示すように、この、実質的に可逆的な、より低い見掛け分子量へのシフトは、キトサン分子のコンフォメーションがランダムコイルからよりコンパクトな球状コンフォメーションへと変化したためであると、本発明者らは考えている。したがって本発明者らは、キトサン分子コンフォメーションがハウクトライアングルの左頂点からハウクトライアングルの上頂点に移動すると考えている。
【0078】
解析評価により、よりコンパクトな3Dコンフォメーションおよび/または構造を与える、分子の3Dキトサン化学構造の収縮の前提が裏付けられる。どんな理論にも束縛されるつもりはないが、この観察可能なキトサン分子形態の変化が、本発明の処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを使って得られる、対応する無処理キトサンと比較して改善された生体接着特性の原因であるだろうと、本発明者らは考えている。
【0079】
本発明は、多目的な適用のための接着剤として使用するための、および医学的適用(特に組織結合を伴う医学的適用)のための接着剤系として使用するための、キトサンの処理または修飾および処理に関係する。処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含む本発明の組成物は、局所薬物送達のための手段としてもよく適している。本発明の処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、または混合物もしくは組合せは、充填、増量または再建手法にもよく適している。
【0080】
キトサンは、多数のヒドロキシ官能基およびアミノ官能基を含有し、それらがキトサンを化学修飾の理想的な候補にしている。本発明では、そのアミノ官能基の固有の求核性を、スルホンアミド連結およびアミド連結または他の類似する窒素含有化学連結(例えばウレタン連結、尿素連結、チオ尿素連結など)の形成によって広範囲にわたる化学部分をカップリングし、または付着するための部位として利用する。本発明は、有機酸クロリド、スルホン酸クロリドおよびジイミドカップリング試薬を使った所望の化学修飾体の生産を詳述する。基質上のアミノ官能基を利用する、当業者に知られる任意の適当な反応方法論を使って、そのような修飾を実行することができるだろう。
【0081】
本発明の開発中に、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せ(この場合、修飾には、キトサン構造中への化学物質の共有結合による付着または同時添加を伴う)が、いくつかの潜在的用途のための、さまざまな、多くの場合好ましい機能的特徴を持つ、ユニークな生体材料を与えることが見出された。これらの用途には、新規接着剤系、局所薬物送達系のための新規手段、および新規充填または増量系が含まれる。現在のところ発明の焦点は生物医学的適用にあるが、本接着剤系は、より広い適用を(とりわけ非生体基体と生体基体または別の非生体基体との結合に、または向上された生体適合性もしくは他の望ましい特性を付与するための非生体基体のコーティングとして)見出しうる。
【0082】
本発明者らは、天然のキトサンまたは無処理キトサンと比較してはるかに優れた組織結合特性を持つ新規なキトサンベースの接着剤組成物または接着剤系を製剤化できることを見出した。本発明者らは、本発明の新規キトサンベース接着剤組成物または接着剤系の製剤に使用されるキトサンが、それらを標準的、天然、無処理または未加工キトサンから区別して、本発明のキトサンおよびそこから製剤化される接着剤の明確な示差的解析評価を可能にする特性を持つことも見出した。本発明者らは、キトサンのある一定の変化した物理的および/または化学的特徴が可逆的であることも明らかにした。したがってこれらの転換は、キトサンの基本的な化学的性質を破壊したり根本的に変化させたりはせず、処理キトサンの特性を無処理キトサンと比較して実質的に変化させるに過ぎないようである。本発明者らは、製剤のより優れた保持および所望の医薬剤の改善されたバイオアベイラビリティーをもたらす新規薬物送達マトリックスを製剤化できること、つまり本発明の組成物は、市販の送達組成物と比較して、少ない薬物濃度で、類似する治療効果および/または類似するバイオアベイラビリティーをもたらすことも見出した。さらにまた、本発明者らは、本発明の組成物が、再建外科手術または美容外科手術などの分野において充填剤または増量剤として使用するのに望ましい特徴を示すことも見出した。本発明の組成物は、再建手術および美容手術において一般に増大される組織内で、極めて好都合な生体適合性を示す。したがって本発明の組成物は、その組成物が所望の特性および特徴を持つように調整することが可能である。
【0083】
本発明の多くの実施形態において、処理キトサン、修飾キトサンおよび/または修飾処理キトサンを含む本発明の組成物は、凍結乾燥状態から水性溶液中に再構成されてヒドロゲル、水性分散系、水性懸濁液、水性ペーストなどを形成するが、本組成物は、凍結乾燥状態で直接利用することもできる。そのような実施形態では、凍結乾燥材料を、生物学的薬剤または充填剤などの他の材料と、乾式混合することができる。本組成物を水または水性溶液を使って膨潤(不完全溶解)させて、他の構成要素と混合することもできる。次にこれらの材料を完全に水和または再構成させることができる。乾燥または膨潤した本発明の組成物を直接使用することもでき、その場合、処理キトサン、修飾キトサンおよび/または修飾処理キトサンは、その組成物を含有する材料が植え込まれまたは組織と接触し配置された後に、in situでヒドロゲルを形成する。
【0084】
適切な試薬類
本発明における使用に適したアミノ酸としては、α位に配置されたカルボキシル基とアミノ基とを含む任意の天然もしくは合成化合物、またはカルボキシル基とアミノ基とを含みポリペプチド鎖中に組み込まれうる任意の化合物、またはカルボン酸類似体もしくはアミノ基類似体を含む化合物であってポリペプチド鎖中に組み込まれうるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
本発明における使用に適したポリペプチドとしては、アミノ酸の鎖を含む任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本発明における使用に適した酵素としては、アミノ酸から構成され、化学反応を触媒する能力を持つ、任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
本発明における使用に適したリボザイムとしては、ヌクレオチドから構成され、化学反応を触媒する能力を持つ、任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
本発明における使用に適したヌクレオチドとしては、ヌクレオチド鎖に組み込まれうる任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
本発明における使用に適したオリゴヌクレオチドとしては、比較的少数のヌクレオチド(一般的には約2〜約20個)を含む、任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明における使用に適したポリヌクレオチドとしては、多数のヌクレオチド(一般的には約20個より多く、数千個まで)を含む任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
本発明における使用に適した核酸としては、2個〜数百万個またはそれ以上のヌクレオチドを含む任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
本発明のキトサンを修飾する際に使用するのに適した疎水性基としては、1個〜約100個の炭素原子を持つアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、およびアルカリール基が挙げられるが、これらに限定されない。これらの基では、一つ以上の炭素原子をヘテロ原子またはヘテロ原子含有基で置き換えることができ、その場合、ヘテロ原子は酸素、窒素、硫黄、ケイ素、ゲルマニウム、ガリウム、およびその混合物からなる群より選択され、ヘテロ原子含有基はアルコキシド基、スルフィド基、アミド基、ケイ素含有基、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。これらの基では、水素原子の一つ以上をヘテロ原子またはヘテロ原子含有基で置き換えることができ、その場合、ヘテロ原子はハロゲン原子およびその混合物からなる群より選択され、ヘテロ原子含有基はアルコキシド基、スルフィド基、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。
【0093】
本発明のキトサンを修飾する際に使用するのに適した親水性基としては、キトサンの親水性または吸湿特性を強化しまたは変化させる任意の単一基または複数基が挙げられるが、これらに限定されない。そのような親水性または吸湿性基の典型例として、ジアミン、ポリアミン、ジオール、ポリオール、二酸、ポリ酸、クラウンエーテル、グライム類、ポリアルケニルエーテル、ポリアルケニルアミン、ポリアルケニルエーテルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、またはキトサンの親水性もしくは吸湿特性を強化しもしくは変化させることができる他の任意の基、またはその混合物もしくは組合せが挙げられる。
【0094】
本発明のキトサンを修飾する際に使用するのに適したイオン性基としては、キトサンのイオン特性を強化しまたは変化させる任意の単一基または複数基が挙げられるが、これらに限定されない。典型的な基として、ジカルボン酸またはポリカルボン酸(この場合、一つのカルボン酸はキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他の酸基は電荷を帯びることができる)、ジアミンまたはポリアミン(この場合、一つのアミンはキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他のアミノ基は電荷を帯びることができる)、金属イオン、イオン性原子クラスター、イオン性分子構造、単アニオン、多原子アニオン、脱プロトン化オキソ酸、置換脱プロトン化オキソ酸または脱プロトン化有機酸(この場合、これらの基は静電相互作用によってキトサンと相互作用する)、他の任意の荷電基またはその混合物もしくは組合せが挙げられる。
【0095】
本発明の組成物における使用に適した生物学的薬剤としては、所望する生物学的作用を直接的または間接的に引き起こす任意の生物活性剤、または所望する生物学的、生理学的、もしくは他の作用、例えば保護コーティングなどを引き起こす任意の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。典型的な生物学的薬剤としては、殺生物剤、医薬、栄養剤、またはその混合物もしくは組合せが挙げられるが、これらに限定されない。殺生物剤としては、農薬、抗微生物剤、殺精子剤またはその混合物もしくは組合せが挙げられるが、これらに限定されない。農薬としては、殺真菌剤、除草剤、殺虫剤、殺藻剤、軟体動物駆除剤、殺ダニ剤および殺鼠剤が挙げられるが、これらに限定されない。抗微生物剤としては、殺菌剤、抗生物質、抗細菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤、および抗寄生虫剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
医薬としては、疾患、機能障害、疾病などを予防または処置するために、またはそのような疾患、機能障害、疾病などの症状を軽減または改善するために、ヒトを含む動物に与えられる任意の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。医薬の典型例としては、心臓薬;心血管薬;利尿剤;精神療法薬;胃腸薬;抗がん薬;避妊薬;眼薬;抗炎症薬;消化管用医薬剤、例えば限定するわけではないが、制酸薬、制吐薬、H2アンタゴニスト、プロトンポンプ阻害剤、緩下剤、止痢剤など、またはその混合物もしくは組合せ;血液および造血器用医薬剤、例えば限定するわけではないが、抗凝固剤、抗血小板剤、血栓溶解剤など、またはその混合物もしくは組合せ;心血管系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、抗不整脈剤、抗高血圧剤、利尿剤、血管拡張剤、抗狭心症剤、β遮断剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗高脂血症剤など、またはその混合物もしくは組合せ;皮膚用医薬剤、例えば限定するわけではないが、皮膚軟化剤−かゆみ止めなど、またはその混合物もしくは組合せ;生殖系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、ホルモン避妊薬、妊娠促進剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、性ホルモンなど、またはその混合物もしくは組合せ;内分泌系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、抗糖尿病薬、コルチコステロイド、性ホルモン、甲状腺ホルモン;感染および寄生のための医薬剤、例えば限定するわけではないが、抗生物質、抗ウイルス剤、ワクチン、抗真菌剤、抗原虫剤、駆虫剤など、またはその混合物もしくは組合せ;悪性疾患および免疫疾患用医薬剤、例えば限定するわけはないが、抗がん剤、免疫賦活剤、免疫抑制薬など、またはその混合物もしくは組合せ;筋、骨、および関節用医薬剤、例えば限定するわけではないが、タンパク質同化ステロイド、抗炎症剤、抗リウマチ剤、コルチコステロイド、筋弛緩薬など、またはその混合物もしくは組合せ;眼用医薬;脳および神経系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、麻酔薬、鎮痛薬、抗痙攣薬、気分安定剤、抗不安剤、抗精神病薬、抗うつ薬、神経系刺激剤、鎮静薬;呼吸器系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、気管支拡張剤、充血除去剤、H1アンタゴニストなど、またはその混合物もしくは組合せが挙げられる。
【0097】
本発明の合成法
キトサン溶解のための一般手法
キトサンを10%有機酸または非酸化性鉱酸溶液で可溶化した。使用した有機酸または非酸化性鉱酸は、本発明を製造するために使用したそれ以降のステップと、本発明の最終的適用とに依存した。限定するわけではないが、鉱酸には、HCl、硫酸、リン酸または他の任意の非酸化性鉱酸が含まれる。表1に、このプロセスに適した有機酸の選択肢の非限定的なリストを記載する。
【0098】
【表1】
【0099】
キトサンは混合せずに一晩可溶化させた。キトサンを完全に溶解させた後、サンプルを機械式混合機に乗せ、約30分間撹拌してから、次のステップに進んだ。サンプルは、キトサン精製プロセスの最後に行われる最後の塩基沈殿まで撹拌し続けた。
【0100】
キトサン修飾(随意)
処理済であるが無修飾のキトサンが望まれる場合には、合成プロトコールにおけるこのステップを省いた。修飾キトサンまたは修飾処理キトサンが望まれる場合は、表2の非限定的リストに示すいくつかの広範なカテゴリーに含まれるさまざまな化学物質を使って、処理キトサンを修飾することができる。これらの修飾は合成法中のさまざまな時点で行うことができる。これらの部分は、例えば限定するわけではないが、表2または実施例1〜4および6に記載の連結ケミストリーを使って、キトサン基質に共有結合付着させることができる。得られる修飾度は修飾ステップで添加される修飾因子の量によって決定された。修飾因子が液体でない場合は、それを適当な溶媒に溶解した。次に、撹拌したキトサンに修飾因子を滴下によってゆっくり加えた。選択した修飾因子に応じて、適当な期間にわたって、修飾因子をキトサンと混合させた。
【0101】
【表2−1】
【0102】
【表2−2】
【0103】
キトサンは単一の原子状および/もしくは分子状官能基または複数の原子状および/または分子状官能基による多種多様な修飾に馴染みやすいが、キトサンの物理的、化学的または機能的特性または特徴を変化させる目的でキトサンを修飾するために本発明者らが使用した官能基のリストを表3に示す。原子状官能基という用語は、単一原子、例えば金属原子またはイオンなどの付着、ホモ原子クラスターもしくは混合原子クラスターを含む原子クラスター、量子ドット、または通常の分子結合を示さないであろう他の任意の小さな原子集合体の付着を包含するものとする。
【0104】
【表3】
【0105】
塩基処理
塩基をキトサンサンプルにpHが9〜10になるまでゆっくり加えた(9と10の間で識別可能な変色を起こすpH試験紙を使用した)。キトサン溶液は極めて粘稠になったので、このステップ中の混合プロセスを助けるために、機械的混合に加えて、テフロン撹拌子も使用した。
【0106】
キトサン精製
10%(v/v)有機酸溶液の添加により、キトサンを酸に再可溶化した。再可溶化は一晩進行させた。全てのキトサンが溶解状態に戻ってから、塩基をゆっくり加えることにより、キトサンを再沈殿させた。完全な沈殿が、塩基性pH(9〜10)の達成とサンプル上清における顕著な粘性の欠如の両方によって示された。共有結合で修飾されたキトサンを含むキトサンをこのステップで沈殿させて、未反応の修飾試薬類を含む小分子を溶液中に残した。混合機をサンプルから取り除き、サンプルを遠心分離し(例えば385O×Gまたはキトサンを沈降させるのに十分なG力)、上清を捨てた。
【0107】
透析
遠心分離ステップで得た固形キトサンを透析チューブ(フラット径10mm、MWカットオフ12,000〜14,000)に移した。キトサンを10%(v/v)有機酸溶液に対して、固形物が再溶解するまで透析した。このステップでは最初のキトサン希釈に選択したものと同じ酸を使用した。しかし、最終生成物が使用される用途に応じて、酸は最初の溶解ステップで使用した酸とは異なる酸であってもよく、その選択は、以降の合成ステップに左右されるだろう。表1に考えうる酸選択肢の非限定的リストを示す。次に酸透析液を取り除き、水で置き換え、3時間以上透析する。次に、水をさらに2回取り替えて、水での洗浄を合計3回行った。少量のキトサンを透析チューブから取り出し、pH計を使ってpHを測定した。次に、透析液を緩衝塩溶液に変え、キトサンのpHが一般にpH5.7〜6.0の範囲になるまで、透析を監視した。透析に使用する緩衝塩溶液は、最終生成物の適用に基づいて選択した。考えうる緩衝塩溶液の非限定的リストを表4に記載する。所望のpH範囲が3時間で達成されない場合は、新たな緩衝塩溶液を使用した。次にキトサンを水に対して3回透析した(各洗浄を3時間以上続けた)。キトサンを透析チューブから取り出し、凍結乾燥フラスコ中で合わせた。上述の洗浄ステップはいずれも、1回の洗浄ステップまたは追加洗浄ステップを含むことができ、洗浄ステップあたりの洗浄回数は、必要性の問題というよりも、任意である。
【0108】
【表4】
【0109】
キトサン凍結乾燥
透析したキトサンを含有するフラスコを-80℃のフリーザーに一晩入れた。次に試料を凍結乾燥し、使用するまで貯蔵した。
【0110】
キトサン再構成
ある量の本発明の凍結乾燥キトサンを、所望の製剤濃度(PBSまたは他の適当な希釈剤1ミリリットルあたりのキトサンのミリグラム数で表す)を与えるであろう体積の滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS;pH=7.4)または他の適当な希釈剤と混和することによって、最終製剤を調製した。サンプルを、滅菌前に、少なくとも4時間、またはその具体的最終製剤にとって適当な時間、可溶化させた。
【0111】
滅菌
キトサン製剤をオートクレーブ中で蒸気滅菌した。これは、サンプルバイアルをアルミニウム箔で覆い、オートクレーブ内部の水槽に入れることによって行った。滅菌後にサンプルを室温まで冷却させ、最終pHを測定した。望ましい製剤pHは約5〜約7である。ある実施形態では、pH範囲が約6〜約7である。別の実施形態では、pH範囲が約6.2〜約6.4である。
【0112】
非共有結合的化学修飾因子の添加(随意)
本発明の組成物の全てにおいて、単一修飾試薬または複数修飾試薬の添加によってキトサン特性のさらなる操作を達成することができ、その場合、それらの試薬は、意図する目的に合わせて調整された組成物が製造されるような性質を組成物に付与するように設計される。これらの添加は、合成法の全体にわたって、さまざまな時点で行うことができる。例えば組織接着剤の場合、添加剤は、抗微生物剤、抗ウイルス剤、成長促進剤、治癒を強化するための薬剤、または組織接着目的に合わせて組成物を調整することができる他の任意の薬剤であることができる。他のタイプの接着剤の場合、添加剤としては、その適用に応じて他の添加剤を挙げることができる。薬物送達適用の場合、添加剤は、活性医薬剤(該医薬剤がキトサンマトリックスに共有結合されない場合)、または賦形剤、アジュバント、促進剤、放出促進剤、または意図する薬物送達適用に合わせて組成物を調整することができる他の任意の薬剤であることができる。これらの非共有結合的修飾は、鎖内および鎖間相互作用を調節または修飾することにより、キトサンの挙動に影響を及ぼすことができる。これは、適当な体積の滅菌再構成キトサンと滅菌修飾剤とを混ぜ合わせて所望の製剤を得ることによって行われる。適切な非共有結合的修飾因子としては、架橋剤、医薬組成物、疎水性分子、親水性分子、色素、ステロイド類、脂質、タンパク質、核酸、生体適合性ポリマー、または本発明のキトサンに加えることができる他の任意の材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
本発明の方法の図式的説明
処理キトサンまたは修飾処理キトサンを調製するための本発明の方法のある実施形態を、図2Aおよび図2Bにブロック図の形式で示す。
実施例
【実施例1】
【0114】
クラスA修飾因子およびスルホニルクロリドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、スルホン酸クロリドを使ったアルキルスルホン酸によるクラスAタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。この合成は、約1%のキトサン修飾比(100グルコースサブユニットあたり1オクタンスルホンアミド連結)を目標とするように設計された。
【0115】
手法
ビーカーで、2グラムのキトサンを40mLの10%(v/v)乳酸と混ぜ合わせた。キトサンを一晩可溶化させた。キトサンが完全に溶解したら、サンプルを機械式撹拌機に乗せ、80〜12rpmの速度で撹拌し、30分間混合させた。混合を継続しながら、100μLのオクタンスルホニルクロリドをキトサンに滴下した。サンプルを1時間混合させてから、6M NaOHをサンプルのpHが9〜10になるまでゆっくり加えた。混合を続けながらこのpHを2時間維持した。次に、100mLの10%(v/v)乳酸を加えることによって、キトサンを再溶解した。修飾キトサンの全てが溶解したら、6M NaOHをゆっくり加えることによって、サンプルを再沈殿させた。混合を停止し、サンプルを4本の遠心管(50mL)に等分し、キトサンを沈降させるのに十分な時間および速度で遠心分離した。一般に沈降は約3850×Gで行われる。上清を捨て、修飾キトサンを透析チューブに入れた。次に、キトサンの全てが溶解するまで、キトサンを10%(v/v)乳酸で透析した。次に、酸透析液を取り除き、超純水(USP滅菌注射用水)で置き換え、3時間以上透析した。次に超純水をさらに2回交換し、合計3回の水洗浄を行った。少量のキトサンを透析チューブから取り出し、pH測定をおこなった。次に、透析液をPBS(pH7.4)に変え、キトサンのpHが5.7〜6.0の範囲になるまで、透析を監視した。次にキトサンを超純水に対して3回透析した(各洗浄は3時間以上継続した)。次にキトサンを、上に概説した凍結乾燥ステップ、再構成ステップおよび滅菌ステップに供した。製剤の望ましい最終pHは6.2〜6.4である。
【実施例2】
【0116】
クラスC修飾因子およびジイミドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、ジイミドカップリングを使ったN-(2-ジエチルアミノ-エチル)-スクシンアミド酸によるクラスCタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。
【0117】
手法
ビーカーで、1.00g(5.7ミリモルのキトサンモノマー単位)のキトサンを0.1N HClに溶解した。次に、そのキトサン溶液に、0.40g(1.8ミリモル)のN-(2-ジエチルアミノ-エチル)-スクシンアミド酸を加えた。次に、0.52g(2.7ミリモル)の1-エチレン-3-(3-ジメチルアミノ-プロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩および0.78g(0.68ミリモル)のN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)または1-ヒドロキシ-2,5-ピロリジンジオンを加えた。得られた溶液のpHを1N NaOHで5に調整し、その混合物を室温で24時間撹拌した。得られた修飾キトサンを、1N NaOHでpHを約9に調整して沈殿させ、その沈殿物を遠心分離で集めることによって精製した。このタイプの修飾反応のさらなる詳細は、Park, J.H.;Cho, Y.W.;Chung, H.;Kwon, I.C.;Jeong, S.Y.「Synthesis and Characterization of Sugar-Bearing Chitosan Derivatives: Aqueous Solubility and Biodegradability」Biomacromolecules 2003, 4, 1087-1091に見出すことができる。
【実施例3】
【0118】
クラスC修飾因子および酸クロリドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、酸クロリドカップリングを使ったN-(2-ジエチルアミノ-エチル)-スクシンアミド酸によるクラスCタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。
【0119】
手法
ビーカーで、0.40g(1.8ミリモル)のN-(2-ジエチルアミノエチル)スクシンアミド酸を約10mLの乾燥THFに溶解した。次に、その溶液に0.26g(2.2ミリモル)の塩化チオニルを加え、乾燥カラムを取付けて、1時間還流した。還流後に、その溶液を室温まで冷却した。1.00g(5.7ミリモルのキトサンモノマー単位)のキトサンを10%(w/w)酢酸溶液に溶解した。次にN-(2-ジエチルアミノエチル)スクシンアミド酸クロリド溶液をキトサン溶液に撹拌しながら滴下した。キトサンをスクシンアミド酸クロリドと反応させた後、pHを1N NaOHで7〜8の値に調整し、反応を2〜4時間継続させた。1N NaOHを添加してpHを9まで上昇させることにより、修飾キトサンを精製した。次に沈殿物を遠心分離によって集めた。
【実施例4】
【0120】
クラスD修飾因子および酸クロリドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、酸クロリドカップリングを使ったコール酸によるクラスDタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。
【0121】
手法
1グラムのキトサンを20mLの10%乳酸に溶解した。0.581グラムのコール酸(ナトリウム塩)を10mLのDMSOまたは酢酸エチルに溶解した。そのコール酸溶液に120μLの塩化チオニルを注意深く加えた。そのコール酸-塩化チオニル反応混合物を乾燥管下で1時間還流した後、その混合物を室温まで冷却した。そのコール酸-塩化チオニル反応混合物を、溶解したキトサンに、オーバーヘッド混合機を使って一定に撹拌しながら加えた。反応溶液のpHを6M NaOHを使って9〜10に調整した。この反応混合物を2時間撹拌した。その混合物を3850×Gで10分間遠心分離することにより、沈殿した修飾キトサンを集めた。修飾キトサンを50mLの10%乳酸に再溶解した後、6M NaOHを使ってpH9〜10に調整することにより、それを再沈殿させた。その混合物を3850×Gで10分間遠心分離することによって、再沈殿した修飾キトサンを集めた。集めた修飾キトサンを透析チューブに移し、10%乳酸に対して、キトサンが溶解するまで透析した。修飾キトサンを溶解した後、透析液を脱イオン(DI)水で置き換え、透析をさらに3時間続けた。DI水を合計3回取り替えて使用した。3回の水洗浄後に、キトサンのpHがpH5.7〜6.0に達するまで、修飾キトサンをPBS(pH7.4)に対して透析した。あるいは、PBS透析を他の塩類、例えばトリス緩衝液中の硫酸マグネシウムに対する透析で置き換えてもよい。所望のpH範囲が得られたら、2回の3時間透析ステップを終了した。修飾キトサンを凍結乾燥器フラスコに入れ、-80℃で少なくとも1時間は凍結させた。フラスコを凍結乾燥器に入れ、完全に乾燥するまで乾燥させた。乾燥した修飾キトサンをデシケーター中、-20℃で必要になるまで保存した。上記の手法における修飾ステップを繰り返して、より高度に修飾された生体材料を得ることができる。
【実施例5】
【0122】
キトサンとクラスF修飾因子との混合物
この実施例では、処理キトサンとパーフルオロンとの混合物から構成されるクラスFタイプの非共有結合修飾体の調製を例示する。
【0123】
手法
1グラムのキトサンを40mLの10%酢酸に溶解して、25mg/mLキトサン溶液を作製した。1mLのパーフルオロンを1mLの25mg/mLキトサン溶液に加えて最終キトサン濃度を12.5mg/mLとし、一晩撹拌した。最初の添加時に溶液は二相性だったが、長時間の撹拌後は、パーフルオロン相が明白でなくなった。得られた溶液は乳光性を示した。そのキトサン/パーフルオロン混合物を透析チューブに入れ、水に対して3回透析した後、PBSに対して一晩透析した。
【実施例6】
【0124】
クラスC修飾因子およびジイミドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、ジイミドカップリングを使ったポリエーテルによるクラスCタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。この実施例では、ポリエーテルアミンを無水コハク酸で修飾して、キトサンへのジイミドカップリングを容易にするスクシンアミド酸リンカーを作製した。
【0125】
手法
ポリエーテルアミン酸リンカーの調製
250mL丸底フラスコで、2.49g(4.2ミリモル)のJeffamine 600、150mLの乾燥テトラヒドロフラン、0.42g(4.2ミリモル)の無水コハク酸および1.2mL(8.4ミリモル)のトリエチルアミンを混ぜ合わせる。この混合物を合計4時間にわたって撹拌、還流する。その溶液の冷却後に、約10mLの溶液が残るまで、ロータリーエバポレーターにかける。次に、サンプルを窒素パージ下でTHFの蒸発が完了して混合物がシロップ状の粘稠度になるまでさらに乾燥する。このプロセスにより、約1.8mLのリンカーが得られるはずである。
【0126】
ジイミドカップリングを使ったキトサンの修飾
ビーカーで、2.00g(11.4ミリモルのキトサンモノマー単位)のキトサンを0.1N HClに溶解した。次に1.00g(1.4ミリモル)のJ600-スクシンアミド酸をキトサン溶液に加えた。次に、0.287g(2.5ミリモル)の1-エチレン-3-(3-ジメチルアミノ-プロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩および0.478g(2.5ミリモル)のN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)または1-ヒドロキシ-2,5-ピロリジンジオンを加えた。得られた溶液のpHを6M NaOHでpH5〜6に維持し、その混合物を室温で72時間撹拌(ガラス撹拌子またはテフロン撹拌子)した。得られた修飾キトサンを、6M NaOHでpHを約9に調整することによって沈殿させ、その沈殿物を遠心分離で集めることによって精製した。次に修飾キトサンを透析チューブに移し、PBS中の10%(v/v)乳酸に対して、溶解するまで36時間透析した。次にその酸透析液を取り除き、超純水(USP滅菌注射用水)で置き換え、3時間以上透析した。次に透析液をPBS(pH6.0)に変え、キトサンを約36時間透析した。次にPBS透析液を取り除き、超純水(USP滅菌注射用水)で置き換え、3時間以上透析した。本明細書で先に概説した通常の方法に従って、最終生成物を凍結乾燥し、再構成させた。
【0127】
理論的には、上述の手法によって、ポリエーテルアミンによるキトサンの10%修飾が得られると予想される。追加実験により、試薬量およびカップリング時間を変化させることによって、ポリエーテルアミン修飾レベルを10%より高くすることも低くすることも可能であることが示された。記載した他の処理ステップは全て同じままである。これらの修飾比のわずかな変化でさえ、大きく異なる特性を持つ生体材料、特に粘度の相違および保水力の相違をもたらすことが観察された。
【0128】
ユニークな物理的特徴の証明
処理および修飾の効果を特徴づけるために、代表的な組成物を、円偏光二色性(CD)、元素分析、核磁気共鳴(NMR)、光散乱検出を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、および粘度測定を含むさまざまな解析手法によって解析した。これらの解析手法を、処理キトサン、および修飾キトサンまたは修飾処理キトサンに対して行った。次にこのデータを天然のキトサンサンプルに関するデータと比較して、本発明の組成物と天然のキトサンとの間の物理的および/または化学的相違を記録した。これらの初期研究を本明細書では研究1という。その後、キトサン分子量(MW)ならびに脱アセチル化のタイプ(ランダム(R)かブロック(B)か)および脱アセチル化度(DDA)の影響を調べるために、本明細書において研究2と呼ぶ追加研究を、同じ解析技法(NMRを除く)を使って行った。全ての特徴づけは実施例1に記載の実施形態に対して行った。
【0129】
円偏光二色性(CD)
Domard(Int. J. Biol. Macromol. 1987, VoI 9, 98-104)はキトサンのCDスペクトルを報告した。この著者は、185nmに、脱プロトン化(-NH2)型のキトサン(より結晶性の高い材料として存在する形態)に対応する負の二色性バンドを報告している。プロトン化型のキトサン(-NH3+)はこの負のバンドを示さない。プロトン化されたアミンの静電反発は、この材料が結晶性コンフォメーションを取ることを妨げる。本発明の生成物で得られたCDスペクトルを図3に示す。本発明のキトサン(修飾体または非修飾体)処理が、無処理キトサンよりも事実上結晶性の低い、ユニークなキトサンをもたらすことは明白である。これらの結果は、複数のサンプルを使って複数の装置で立証された。
【0130】
元素分析
元素分析(燃焼)を使って、オクタンスルホネートによる修飾度を測定した。3つの修飾処理材料バッチと、1つの無修飾処理材料バッチに対して、硫黄および窒素分析を行った。各キトサンサブユニットは、酸クロリドカップリングを使ってオクタンスルホネートに連結することができる窒素を一つ有する。窒素の総モル数を、キトサンに対するオクタンスルホネート修飾因子のスルホンアミド連結に起因する硫黄のモル数と比較することにより、3つの修飾処理試料のそれぞれについて、修飾比を測定することができた。無修飾処理試料には硫黄が存在しないことから、修飾因子の非存在下では硫黄は存在しないことが確認された。3つの修飾処理バッチについて測定された修飾比は、グルコースサブユニットの1.5±0.3%の修飾だった。この初期研究での硫黄レベルは、定量に使用した燃焼分析機の検出限界に近かったので、研究2での硫黄分析は、感度の改善をもたらす誘導結合プラズマ(ICP)法を使って行った。各実験セットで測定された修飾比を表5に示す。
【0131】
【表5】
*N値は修飾処理材料の異なるバッチを表す。
【0132】
全ての研究群に関する修飾比データは、合成プロセス中に目標とした1%修飾比と良好な一致を示す。上述のように、燃焼による硫黄定量はこの分析技法の定量限界に近い。このことは、分析した3つのバッチに関する結果のばらつきの増加に反映される。ICP分析を使用したところ、ばらつきは減少し、これらの値の方が修飾比をより正確に反映していると考えられる。
【0133】
さらに元素分析を使って、試料の処理および再構成に使用したPBSに起因するイオン濃度を決定した。以下の元素を定量した:カリウム、ナトリウム、塩素、およびリン。これらの元素は処理キトサン中の以下のイオンを表す:K+、Na+、Cl-およびH2PO4-/HPO42-。修飾処理キトサン中の各イオンの濃度を下記の表6に示すが、これはキトサンの浸透圧バランスを表す。バルクPBSと比較して多価リン酸イオンが濃縮され(これは、この多価荷電アニオンに対する正に帯電したキトサンの親和性を示す)、一方、ナトリウムはバルク材料から排除される。
【0134】
【表6】
*N値は修飾処理材料の異なるバッチを表す。
R=ランダム脱アセチル化、B=ブロック脱アセチル化
【0135】
核磁気共鳴(NMR)
プロトンNMRで、キトサンの炭化水素修飾に起因する共鳴を検出することができた。この共鳴ピークは、解析した3つの修飾処理バッチには存在したが、無修飾処理バッチには存在しなかったことから、そのピークの起源は修飾因子であることが立証された。この特定の共鳴に関するピーク積分値をキトサン骨格(C2)に帰属することができる明確に定義された共鳴と比較したところ、約0.5%という修飾比が得られた。この値は、ICP元素硫黄分析によって測定された表5に示す修飾比と、良好な一致を示す。
【0136】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
13個のキトサンサンプルを、光散乱検出を用いたGPCを使って下記の標準化された条件下で解析した。0.3M酢酸/0.3M酢酸ナトリウムを移動相として30℃、流速1.0mL/分で使用するUltrahydrogels(Two Linear)カラム。150μLの注入体積を使用し、Viscotek Y-501検出器およびDAWN光散乱検出器を使って溶出プロファイルを測定した。データを表7にまとめて示し、クロマトグラムを図4に示す。重量平均分子量(Mw)データの比較は、実施例1の処理を受けた全てのキトサンサンプル間の明確な相違を示す。無処理材料は、本発明の処理を受けた材料よりも低い保持容量(高いMw)を示した。Mwの同様の変化が、実施例1に従って調製され調べられた全てのキトサンサンプルに見られた。これらの実験において、修飾は実施例1の修飾である。これらの結果を確認するためにサンプルは2つの異なる試験室で解析された。Mwのこの変化は、分子量(MW)、脱アセチル化度(DDA)および脱アセチル化のタイプ(ブロックかランダムか)などのキトサン特性に依存しない。処理すると、サンプルGPC-2、3、4および5は、Mwに、263,000から219,000への観察可能で再現性のあるシフト(84%まで減少)を示す。観察される分子量のこの変化は単純な鎖切断とは合致しない。というのも、そのような鎖切断は、これらの実験条件下では予想されないからである。もう一つの説明として分子コンフォメーションの変化が挙げられる。多価リン酸イオンはキトサン骨格の全く異なる部分を引きつけて、よりコンパクトな構造を形成しうる。細長い(楕円体)粒子は通例、GPCカラムではより迅速に溶出するので、高い保持容量は見掛けの分子収縮を示すだろう。これは、本発明の材料が、より大きな被内包体積(included volume)へのアクセスを持つことと合致する。
【0137】
この代替的説明はさらに、本発明の処置を逆転させることでユニークなコンフォメーション構造を排除した後に得られたデータによって裏付けられる。修飾処理試料の一つを加工してリン酸を除去し、それを、分子収縮を助長するとは予想されない一価の塩素アニオンで置き換えた。次にこの試料でGPC分析を行った。この「逆転処理」に関するデータは、平均分子量Mwに219,000から約253,000への観察可能なシフトが起こることを明確に示し、したがって測定されるMwの変化が可逆的であることを立証する。本発明の処理によって得られる、コンフォメーションが変化したキトサン組成物は、無処理キトサンに基づく接着剤より予想外に優れ、競合する多くの接着剤系より優れた、生体適合性接着剤系を与える。
【0138】
この挙動は、分子量、脱アセチル化度または脱アセチル化のタイプ(ブロックかランダムか)が異なるキトサン、サンプルGPC-8〜GPC-13を使った場合にも見られる。
【0139】
【表7】
*第2試験室
R=ランダム脱アセチル化;B=ブロック脱アセチル化
【0140】
表7から、処理キトサンは1より小さいMw対MWの比を示すことがわかる。Mw対MW比は一般に約0.50〜約0.90である。ある実施形態では、Mw対MW比が約0.50〜約0.85である。別の実施形態では、Mw対MW比が約0.60〜約0.85である。
【0141】
粘度測定
表7に示す全ての材料の代表的サンプルについてブルックフィールド粘度計を使って相対粘度測定を行った。サンプルは全て同一濃度(10mg/mL)とした。データを表8にまとめて示す。本発明の処理を受けたキトサンは、修飾体であれ無修飾体であれ、無加工製剤と比較して、やはりユニークで再現性のある物理的特性を示した。同じ出発材料(同じMW)、サンプルpHおよび濃度を使ってこのタイプの測定を行うと、類似する比率の相対粘度測定値が得られると予想されるだろう。しかしむしろ、粘度は本発明の処理により、一貫して再現性よく、約50%減少した。これは、リン酸イオンとキトサンの間の引力が、より堅固な分子コンフォメーションをもたらすことに合致する。これらの例で調べた修飾は実施例1の修飾である。
【0142】
【表8】
R=ランダム脱アセチル化およびB=ブロック脱アセチル化
【0143】
予想どおり、材料の分子量の増加は材料の相対粘度の増加に対応し、サンプルV-7およびV-8は高い分子量を持っていて、相応に高い粘度を示す。
【0144】
より詳しい粘度測定試験をサンプルV-6、V-7およびV-8に対して行った。サンプルV-6(図5A)がニュートン流動挙動を示したのに対して、サンプルV-7(図5B)およびV-8(図5C)は、分子量が増加するほどニュートン挙動からより大きく逸脱して、擬塑性挙動を示す。
【0145】
しかし他の修飾は劇的に異なる粘度挙動をもたらす。実施例6の材料を調べて、それを皮膚充填剤として有用なものにするそのユニークな特性を理解した。実施例6の材料は、広範なpHにわたるその保水能力が、研究した他のあらゆる形態のキトサンよりも、著しく強化されている点でユニークである。この挙動は共有結合的化学修飾の性質に起因すると考えられる。また、実施例6の材料は劇的に異なる粘度挙動を示す。例えば、実施例6で使用した修飾は、非ニュートン(擬塑性)挙動(図5D)およびレオペクシー挙動(図5E)を示す極めて粘稠な材料をもたらす。レオペクシー挙動は、実施例1の材料では観察されなかった。
【0146】
修飾剤の適切な選択により、材料の意図する用途に合わせて保水性、粘度プロファイル、および他の有益な特性を調整することができるだろうことは明らかである。
【0147】
適用および適用特性の証明
【実施例7】
【0148】
エクスビボ引張接着強さ試験
この実施例は、さまざまな本発明の製剤の、エクスビボで組織を結合する能力を評価するために設計した。
【0149】
手法
いくつかの組織をいくつかの供給源から入手した。次にターゲット組織を約4×8mmの細片に切断した。試験材料を一つの組織細片の端に適用した。次にもう一つの組織細片を処理細片に、重なり部分に約4×4平方ミリメートルの重なり(その両端には一枚分の厚さの部分が延びている)を形成するように配置した。次にその組織調製物を薄いプラスチックシートで包み、顕微鏡スライドグラスの間に挟み、軽い圧力(約125g)で圧迫した。結合後は、部分的な脱水に起因する余計な「粘着性」が、測定される引張強さに影響を及ぼさないことを保証するために、組織を注意深くPBS中に少なくとも1時間、ただし24時間を越えないように入れてから、引張強さ試験を行った。引張接着強さの試験はテンシオメーターを使って行い、力を接着破壊点まで徐々に増加させた。ピーク負荷を記録し、接着強さをg-f/cm2として算出した。
【0150】
結果
いくつかの競合技術および対照に関する比較データを表9に示す。修飾キトサン材料のいくつかの一般クラスのそれぞれについて、代表的接着強さを表10に示す。次に、最も有望な製剤を追加の安全性および効力試験に供した。そのデータは以降の実施例に示す。
【0151】
結論
このモデルは、潜在的製剤をスクリーニングし、異なる組織における異なる製剤の相対的接着特性を比較するための、有用なツールになる。このモデルを使って、本発明の製剤は並外れた接着特性を与えることが確認され、それは競合技術または天然のキトサンのみよりも優れていることが判明した。
【0152】
【表9】
1Protein Polymer Technologiesに譲渡された米国特許第5,817,303号、皮膚-皮膚値
2PhotoBioMedデータ
Veritas(商標)はSynovis Life Sicencesが製造する調製済心膜製品である。
【0153】
【表10】
Duraguard(商標)はSynovis Life Sciencesが製造する調製済心膜製品である。
Veritas(商標)はSynovis Life Sciencesが製造する調製済心膜製品である。
角膜および動脈は屠殺場から死後に取得した。
【実施例8】
【0154】
インビボでの組織結合の証明
この実施例は、本発明の組成物の、インビボで組織を結合する能力、具体的にはウサギモデルで角膜切開を封鎖する能力を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0155】
手法
体重7〜8ポンドのニュージーランドホワイトウサギを使用した。ウサギを筋肉内キシラジン(5mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)で麻酔した。プロパラカイン塩酸塩溶液0.5%(アルカイン、Alcon)の局所麻酔をウサギ眼に適用した。Transpore Tape(3M)を使って、眼をテープで開いておき、Steri-Drape(3M)で覆って、滅菌手術野を設けた。3.2mm Clear Cutスリットナイフ(Alcon)で角膜切開を施した。切開が明確に定められるように、スリットナイフには、滅菌外科用マーカー(Viscot)で印を付けた。角膜縁に対して約1mm前方、虹彩面から45°の角度で、角膜の全層を貫通する、非自閉性の3.2mm切開を各角膜に作製した。切開が漏出性であることを保証するために、滅菌平衡塩類溶液(BSS)(Alcon)を23ゲージ針(Techcon)で前房に注入した。実験群では、約10〜20μLの実施例1の材料を角膜切開中に30ゲージ鈍針(Techcon)で適用し、組織を確実に相対させかつ切開面を乾燥させるために、外科用眼スピア(spear)(Murocel)で軽く加圧した。約5〜10μLの実施例1の材料を局所適用し、5分間の結合時間、硬化させた。対照群では、10-0非吸収性ナイロンブラックモノフィラメント外科用縫合糸(Alcon)を強膜から角膜へと配置することにより切開を封鎖した。処置後に全ての眼をBSSで洗浄し、抗生物質モキシフロキサシン塩酸塩0.5%(ベガモックス、Alcon)で処理し、眼の乾燥を防ぐためにテープで閉じておいた。術後、ウサギには、トブラマイシンおよびデキサメタゾンのステロイド抗生物質(トブラデックス、Alcon)ならびにケトロラクトロメタミン0.5%(アキュラー、Allergan)を、死亡させるまで1日4回投与した。動物を監視して、潜在的漏出および刺激の何らかの徴候について評価した。動物を1〜2時間、1日、および7日の3時点(1時点あたりn=6)で死亡させた。安楽死の直後に、BSSを23ゲージ針(Techcon)を使って前房に注入して、眼房を加圧した。フィジオグラフ(physiograph)を使って、各眼の漏出/破裂圧を評価した。前房圧は典型的には12〜20mmHgである。漏出/破裂圧が50mmHgを越えた場合に、眼はうまく封鎖されたとみなした。
【0156】
結果
1〜2時間時点で、6匹のウサギを観察し、死亡させた。対照(縫合)眼または実験(実施例1の材料で処置)眼のいずれにも、刺激は見られなかった。全ての眼は50mmHgを越える圧力を保った。1日目に、6匹のウサギを観察し、死亡させた。実験眼に刺激は見られなかった。縫合眼にはわずかな刺激が認められた。全ての眼は50mmHgを越える圧力を保った。7日目に、6匹のウサギを観察し、死亡させた。対照眼または実験眼のいずれにも、刺激は見られなかった。全て眼は50mmHgを超える圧力を保った。
【0157】
結論
実施例1の材料は、ウサギ眼における角膜切開をうまく封鎖できる封鎖剤であることがわかった。この材料は優れた生体適合性を示し、標準的な縫合糸処置は炎症応答を誘発したが、本発明の組成物は炎症応答を誘発しなかった。
【実施例9】
【0158】
細胞毒性アッセイ
この実施例は、培養角膜内皮細胞に対する本発明の製剤の細胞毒性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0159】
手法
10%ウシ胎仔血清(FCS)を含有する標準的組織培養培地(ダルベッコ改変イーグル培地-DMEM)で、ウサギ角膜内皮細胞を、それらがコンフルエントになるまで(約7〜10日間)成長させた。細胞は12ウェル組織培養プレートで成長させた。コンフルエント培養物を使って、これらの細胞に対する本発明の接着剤製剤の毒性を試験した。使用直前に、0.2%FCSを含有するDMEMにストック化合物(10mg/mL)を希釈して、最終濃度を1、2、または3mg/mLにした。細胞を、総液量0.5mLのDMEM+0.2%FCS/ウェル中、異なる濃度の接着剤(上述のとおり)の存在下、37℃で24時間インキュベートした。実験の終了時に、細胞をPBSで洗浄し、哺乳動物細胞用のMolecular Probes(商標)Live/Dead(登録商標)生存性/細胞毒性キットを製造者の仕様書に従って使用することにより、各実験条件下での生細胞および死細胞の存在について解析した。細胞培養実験は三重に行った。これらの手法は初代細胞を使って行い、二次細胞株を使って繰り返した。
【0160】
ここで図6を参照して説明すると、この図には、本発明の角膜切開封鎖剤が有毒でないことを示すデータが示されている。初代培養物を20〜24時間にわたって化合物に曝露しても、角膜内皮細胞の死は観察されなかった(上段および中段のパネル)。真菌感染によって細胞の死が誘発された(下段のパネル)。
【0161】
ここで図7を参照して説明すると、この図には、本発明の化合物を使った一連の毒性研究が示されている。
【0162】
結果
どの試験条件下でもこれらの培養細胞では細胞毒性が観察されなかった。
【0163】
結論
この実施例の接着剤化合物は角膜内皮に対して毒性でない。本質的に培地の3分の1が本発明の接着剤からなる3mg/mLでさえ、細胞毒性作用は観察されなかった。
【実施例10】
【0164】
角膜ポケットモデル
この実施例では、ウサギ眼の角膜実質内に置いた場合の本発明の製剤の生体適合性を、実施例1の材料を利用して例示する。
【0165】
手法
体重7〜8kgのニュージーランドホワイトウサギを使用した。ウサギを筋肉内キシラジン(5mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)で麻酔した。プロパラカイン塩酸塩溶液(0.5%)(アルカイン、Alcon)の局所麻酔をウサギ眼に適用した。睫毛からの汚染を防ぐために、Transpore Tape(3M)を使って、眼をテープで開いておいた。最初の角膜切開を、300ミクロン精密深さナイフ(Sharpoint)で作製した。角膜縁に対して約1.5mm前方で約2.5mmの切開を各角膜に施した。直径3.5mmのラメラ実質ポケットを、Bevel Up Angled Cresent Knife(Sharpoint)を使って、角膜中、300ミクロンの深さに作製した。実験群では、約20μLの接着剤製剤(10mg/mL)を23ゲージ鈍針(Techcon)で角膜ポケットに入れ、ポケット内に残った空気が確実になくなるように、外科用眼スピア(Murocel)を使って、ポケットを軽い圧力でさすった。接着剤を、5分間の結合時間、硬化させた。対照群では、実験群と同じ手法に従って約20μLのBSSを角膜ポケットに入れた。処置後に全ての眼をBSSで洗浄し、抗生物質モキシフロキサシン塩酸塩0.5%(ベガモックス、Alcon)で処理し、麻酔から回復する間の眼の乾燥を防ぐためにテープで閉じておいた。術後、ウサギには、トブラマイシンおよびデキサメタゾンのステロイド抗生物質(トブラデックス、Alcon)を、7日間にわたって1日4回投与した。
【0166】
結果
1日目、14日目、30日目、60日目、および90日目のそれぞれに、3匹のウサギを観察し、死亡させた。120日の時点で、2匹のウサギを観察し、死亡させた。巨視的観察では、試験標本のいずれにも、刺激は見つからなかった。組織学的観察により、数多くの試験において材料が実質的に良性のままであることが確認された。残留キトサンは120日まで実質ポケット内で明白なままだった。
【0167】
ここで図8を参照して説明すると、この図は、角膜の実質内でのこれらの材料の安全性を示している。これらの材料は、慢性投与した場合でさえ、免疫原性応答または炎症性応答を、事実上、誘発しない。残留材料は120日時点でさえ、角膜への有害作用を何も伴わずに、観察することができる。これらの標本に観察される明白な傷は、角膜ポケットの作製中に加えられた機械的損傷によるものである。ポケットは実際には、実質内で約300μmの深さで、約3.5mmの長さにわたっている傷つけた領域よりも大きい。試験材料はこのポケット内に注入され、不活性であるか(上側の3標本)または重度の炎症応答(4番目の標本−陽性対照)を引き起こした。
【0168】
結論
この化合物は、ウサギ眼の角膜実質において炎症応答または免疫応答を誘発しなかった。炎症性薬剤を使った以前の結果は、著しい刺激、羞明、炎症、角膜浮腫、および新血管形成を誘発した。
【実施例11】
【0169】
皮内注射:基材の生体適合性および寿命
この実施例は、皮内注射した場合の本発明の製剤の生体適合性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0170】
手法
スプレイグ・ドーリーラットをキシラジン(7mg/kg)、ケタミン(70mg/kg)、およびブプレノルフィン(0.05mg/kg)の筋肉内注射で麻酔した。ラットの背皮膚表面を剃毛し、アルコールで清拭した。実施例1の材料0.2mLを識別された格子区画に皮下注射した。さらに、0.2mLの陽性対照材料と陰性対照材料の両方を皮下注射した。7日時点または28日時点で行われる安楽死の時点で、適当な領域の回収が保証されるように、注射部位には小さな刺青の点で印を付けた。適当な時点で動物を安楽死させ、付随する筋を伴う皮膚サンプルを回収し、標本をOCTに包埋し、凍結してから、凍結切片作製および組織学的評価を行った。
【0171】
結果
陰性対照標本は7日目までに完全に再吸収され、どの時点でも注射部位に免疫応答は事実上なかった。陽性対照は7日目までに再吸収または生分解により著しい減少を示し、28日目までに事実上存在しなくなった。しかし、陽性対照の注射部位には、材料がもはや明白でなくなった28日目でさえ、著しい炎症応答が観察された。実施例1の材料は、28日目まで存在したままであり、7日時点でも28日時点でも、陽性対照よりも少ない炎症応答を示した。極めてわずかで限局的な免疫応答が観察されたが、下部隣接組織は典型的形態を示した。
【0172】
結論
本発明の実施例1の材料は、試験した組織において、良好な生体適合性と優れた寿命を示す。これらの材料は、皮膚充填剤として、または持続的薬物送達用のデポー剤として、潜在的に有用でありうる。
【実施例12】
【0173】
眼周囲注射:充填剤/増量材の生体適合性および寿命
この実施例は、本発明の材料(具体的には充填剤または増量剤として機能するように設計されたもの)の生体適合性および保持を評価するために設計されたものであり、実施例6の材料を利用した。
【0174】
手法
この研究にはニュージーランドホワイトウサギを使用した(n=3)。眼の処置はランダム化した。各動物において、一眼を10mg/mLの実施例6の材料60〜80μLで処置し、他眼を20mg/mLの実施例6の材料60〜80μLで処置した。40%/60%酸素/空気混合物中、2.0〜3.5%のイソフルランで、ウサギを麻酔した。2滴の局所麻酔薬(テトラカイン-0.5%滴剤またはアルカイン)をウサギ眼に適用した。鉗子を使って、結膜を眼球の表面から静かに持ち上げて、結膜の「テンティング」を起こした。眼球の表面から十分に離して注射を行った。(この手技により眼球穿孔のリスクが著しく低減する)。針を眼球に対して接線方向に置いて、針先をテント中に挿入し、適当な製剤を送達した。23ゲージ針を使って注射を行った。10mg/mLの実施例6の材料100μLを一眼の結膜中に注射した。20mg/mLの実施例6の材料100μLを対側眼の結膜中に注射した。注射後に、抗生物質滴剤(ベガモックス(登録商標))を点眼した。1週間、毎日観察を行った後、研究が終了するまで週に1回観察した。24時間時点で結膜の写真を撮影した。29日目に、ウサギを安楽死させ、結膜を回収し、組織学的検査用に加工した。
【0175】
結果
眼瞼を下げる前にウサギを見ると、全てのウサギ眼は全ての観察点で明るく湿った外観を保っていた。最初の24〜48時間以内に見かけの体積にわずかな減少が起こったが、全ての注射部位は結膜組織の少なからぬ膨張を維持した。これらの製剤は、充填剤または増量剤として役立つように、それらが体積占有性を保つべく、保水性が最適化されるように設計される。最初の2、3日間はわずかな発赤が結膜に認められた。これは、おそらく、組織の過膨張に原因があったと考えることができるだろう。29日目に、全ての眼は良好に見えた。結膜組織の残留膨張(48時間後に観察されたものと同等なもの)が続いていた。カルコフロール染色を使った組織学的評価により、注射29日後の処置眼の結膜における実施例6の材料の存在が確認された。
【0176】
結論
実施例6の材料は充填剤または増量剤として有望である。眼周囲注射後に、実施例6の材料は結膜空間内に、優れた適合性で少なくとも29日間は存在し続けた。この研究では定量しなかったが、これらの材料は、その初期体積のかなりの部分を保ったので、望ましい品質を示した。
【実施例13】
【0177】
インビトロ角膜保持モデル
この実施例は、インビトロウサギ眼モデルの角膜表面における製剤保持の動態を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。この実施例は、最終的に、調製されたキトサン材料内への遊離薬物の混合と、その後の、拡散による組織への薬物の溶出を伴うターゲット組織基体への接着とによって、薬物送達マトリックスとして作用する、修飾処理キトサン材料の能力を評価するために設計された。
【0178】
存続能力のある切除されたウサギ眼を商業的供給源から入手した。本発明の製剤をフルオレセインイソチオシアネート(FITC)とコンジュゲートし、20mg/mLの濃度で調製した。眼球をPBSですすいでから排液し、室温で1分間静置した。過剰なPBSを取り除くために角膜上皮表面をキムワイプで軽くはたいた。その上皮を、完全に覆うように、この製剤200μLで処理した。1分後に、眼球をPBSが入った容器に移し、1分間すすいだ。角膜ボタンを切り出し、DMEM/F12臓器培養培地に移し、再びすすいだ。次に眼球を、4mLのDMEM/F12を含有するウェル(12ウェル組織培養プレート)中、37℃で、穏やかに撹拌しながら、異なる期間(0、4、8、16、24時間;n=5)インキュベートした。使用する洗液量と撹拌速度が一定になるように注意した。所望の時点で、角膜を取り出し、新鮮PBS中で穏やかに撹拌しながら1分間すすいだ。角膜をOCTに包埋し、液体窒素中で瞬間凍結した。包埋した角膜の4つのレベルのそれぞれから、二つ一組の切片を得た。これらの切片を、この製剤の保持について、蛍光顕微鏡で解析した。画像解析ソフトウェアを利用して、複数切片の複数部位を不偏的に平均する体系的アプローチを使って角膜蛍光を定量した。対照角膜(無処理)を使って天然の自己蛍光を定量し、次にそれを総蛍光測定値から差し引いた。残りの蛍光は、残留FITC標識製剤に起因すると考えることができるだろう。
【0179】
結果
残留蛍光の定量的解析により、適用4時間後に85%が残り、8時間および16時間のどちらでも20%以上が残っていたが、24時間までに事実上全ての残留蛍光が消失した(表11参照)。残留蛍光を示す代表的角膜横断面を見るには図9を参照し、発光定量については図10を参照されたい。
【0180】
結論
本発明の製剤は適用が容易であり、16時間までは接着性を保つ。24時間までに残留蛍光がなくなる。このデータは、これらの製剤が、そこからの持続的薬物送達を施すための、またはドライアイに対処するための、1日1回の適用しか必要としない、有用なマトリックスになりうることを示唆している。24時間時点で残留がないことは、翌日に再適用するための新鮮な表面を示唆する。
【0181】
【表11】
【実施例14】
【0182】
上皮創傷治癒モデル
この実施例は、実施例1の材料を利用した処置後の、擦過創傷における角膜再上皮化の速度およびパターンを評価するために設計された。
【0183】
手法
体重7〜8kgのニュージーランドホワイトウサギを使用した(n=4)。動物をキシラジン(5mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)の筋肉内(i.m.)注射で麻酔した。プロパラカイン塩酸塩溶液0.5%(アルカイン、Alcon)の局所麻酔をウサギ眼に適用した。睫毛からの汚染を防ぐために、Transpore Tape(3M)を使って、眼をテープで開いておいた。メスの背(鈍端)を使って下眼瞼の底を軽く押して、眼球を眼窩から持ち上げた。眼球を親指と人差し指の間に傷つけないように保持し、滅菌6mmトレフィンでそのトレフィンを軽く押すことによって角膜の中心に印を付けた。印を付けた角膜上の6mm円内の上皮全体を、メスに取付けた15番バードパーカー刃を使って、静かに掻爬した。印を付けた領域内の上皮全体を掻爬するように注意した。掻爬後に、付着している固定されていない上皮を取り除くために、眼を滅菌BSSですすいだ。一眼をランダムに選択して、化合物(濃度10mg/mL)で処置した。100μLを局所適用し、1分間硬化させた。対側眼は対照として役立つように100μLのBSSで処置した。各眼をフルオレセインで処理し、UV曝露下で画像を捕らえ、0時間での創傷サイズを記録した。画像解析時の較正用に角膜の隣に定規を置いた。眼を写真撮影した後、フルオレセインをBSSで洗い流した。処置後に全ての眼をBSSで洗浄し、抗生物質モキシフロキサシン塩酸塩0.5%(ベガモックス、Alcon)で処置し、麻酔から回復する間の眼の乾燥を防ぐためにテープで閉じておいた。動物がその眼に触れるのを防ぐために、動物にはエリザベスカラーを付けた。手術後1、2、4、および8日目に、上述のように写真を撮影することにより、全ての眼で創傷サイズを評価した。全体的健康状態および眼の状態を、1日に1回監視し、観察結果を記録した。8日目の写真を撮影した後に、角膜を回収した。角膜を切開し、瞬間凍結し、組織学的観察用に調製した。
【0184】
結果
写真を撮影し、定量的画像解析を行った。創傷治癒プロセスの目視観察と予備解析により、接着性フィルムの存在は、図11に示すように再上皮化の減速を引き起こすが、最終的には再上皮化が起こることが示唆された。キトサンと結合する染料を使った組織学的観察により、上皮細胞は、図12に示すように、本発明の接着性フィルム上に前進することがわかった。剥がれたフィルムの残片による涙点閉鎖は見られなかった。
【0185】
結論
局所フィルムは毒性作用または炎症作用を何も持たないようであるが、再上皮化プロセスを減速させるようである。この保護被覆が再上皮化プロセス中に鎮痛効果をもたらすのであれば、再上皮化が遅延したとしても、臨床的利益が得られるだろう。あるいは、これは、鎮痛剤および/または上皮/実質成長プロモーターを送達する手段にもなりうる。残留フィルムが8日まで実質に接着することを示す証拠があり、これらは持続的薬物送達の新規手段になるだろう。
【実施例15】
【0186】
薬物放出モデル
この実施例は、キトサン分子そのものへの医薬剤の共有結合付着と、その後のターゲット組織基体への接着とによって、薬物送達マトリックスとして作用する、修飾処理キトサン材料の能力を評価するために設計された。医薬剤は付着されたままであるか、加水分解または酵素活性によって切断されうる。
【0187】
手法
酵素的に切断可能なリンクによって骨格に付着されたダンシル基を使って、偽薬の酵素的切断を証明した。下記の図式では、単純アミドがエラスターゼによる切断の適当なターゲットである。骨格としてコラーゲンを使用してこの実施例を完成させた。連結は、ナフタルイミド光化学を利用してコラーゲンに共有結合で付着させた。
【0188】
そのコラーゲンをPBS(pH7.4)に懸濁し、10U/mLエラスターゼの存在下でインキュベートした。4時間後に、コラーゲンを遠心分離によって除去し、放出された偽薬を、上清中の蛍光によって測定した。
【0189】
【化1】
【0190】
結果
これらの実験の結果を図13に示す。酵素の非存在下で蛍光は373±225、酵素の存在下で蛍光は1767±305であったことから、偽薬の酵素的放出が示された。
【0191】
結論
この実施例は、生物学的高分子からの医薬剤の持続的放出を達成するために切断可能なリンカーを使用するという思想を明確に証明している。この証明はコラーゲンモデルからの偽薬の酵素依存的放出を例示するものであるが、同様の化学を使って、本発明の材料から医薬剤を送達することができる。
【実施例16】
【0192】
抗微生物特性の証明
この実施例は修飾処理キトサン製剤の抗微生物特性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0193】
手法
微生物の0.5マックファーランド標準接種物を使って、Remelヒツジ血寒天プレートまたはRemelチョコレート寒天プレート(微生物依存)での成長叢を調製した。1滴(50μL)の化合物をプレートの中心に置いた。そのプレートを36.5℃、6.5%CO2でインキュベートし、24時間および48時間時点で成長の阻害について観察した。1滴(50μL)をRemelヒツジ血液寒天プレートおよびRemelチョコレート寒天プレートに接種することにより、化合物を無菌性について調べた。各プレート上に1滴の食塩水を置くことで、この試験手法の陰性対照とした。
【0194】
結果
以下の微生物の場合、化合物の液滴のすぐ下には明白な阻害があったが、隣接する領域では明白な阻害はなかった:
表皮ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌
インフルエンザ菌
緑膿菌
大腸菌。
【0195】
2つの微生物では明らかな阻害はないようだった。阻害は存在するが、この方法では観察することができなかった可能性がある:
大便レンサ球菌
肺炎レンサ球菌。
【0196】
化合物の無菌性を調べるために使用したプレートには明白な成長はなく、プレートの陰性対照領域は、予想どおりの反応を示した。
【0197】
結論
文献には、天然のキトサンがさまざまな微生物に対して抗微生物特性を示すと報告されている。これらの実験により、本発明の修飾処理キトサンは、少なくともある微生物に対して、抗微生物特性を保っていることが確認される。
【実施例17】
【0198】
抗真菌特性の証明
この実施例は、修飾処理キトサン製剤の抗真菌特性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0199】
手法
Sab Dex寒天上に0.5マックファーランド標準濁度の微生物叢を作製することによって、10mg/mLでの実施例1の材料の抗真菌特性を試験した。1滴の化合物をこの微生物叢の中心に置き、潜在的抗真菌活性について観察した。カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラタ、カンジダ・パラプシローシス、カンジダ・クルセイ、およびアスペルギルス属を含む5種類の酵母および真菌生物を試験した。
【0200】
結果
処置に先だって、酵母および真菌生物の全てをSab Dex寒天培地上で密生させた。以下の微生物の場合、化合物の液滴のすぐ下には明白な阻害があったが、隣接する領域では明白な阻害はなかった:
カンジダ・クルセイ
カンジダ・パラプシローシス。
【0201】
試験化合物の液滴の中心部分の直ぐ下における部分的な成長の阻害が、
カンジダ・アルビカンス
カンジダ・グラブラタ
アスペルギルス属
で観察された。
【0202】
結論
実施例1の材料は、試験した全ての真菌生物で、ある程度の接触依存性抗真菌特性を示す。真菌成長の促進がいずれの場合も観察されなかったことは、おそらく最も重要だろう。この知見は、真菌増殖を助長するのではなく抑制することが重要になるであろう医学用途に照らして望ましい。
【0203】
具体的薬物のための眼送達組成物および眼送達方法
本発明は、キトサンマトリックスおよび医薬有効量の眼薬を含む、眼薬物送達組成物にも関係する。眼薬は、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物、または非ステロイド抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択され、治療有効量の眼薬がある期間にわたって放出されるように、組成物を適合させる。キトサンマトリックスは、処理キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物を含み、それらの処理キトサンは、無処理キトサンよりも低い見掛けの分子量および高い組織接着強さを持つ。プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間は1日〜約1年である。ある実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約6ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約4ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも3ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも1ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも2ヶ月である。
【0204】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間は、約0.5時間〜約36時間である。ある実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約1時間〜約36時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも4時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも8時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも16時間である。
【0205】
本発明は、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む本発明の眼薬物送達組成物を、ヒトを含む動物の眼に投与するための方法であって、その投与が注射によるものにも関係する。本発明は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む本発明の眼薬物送達組成物を投与するための方法であって、その投与が局所投与によるものにも関係する。
【0206】
本発明は、眼疾患または眼異常を処置するための医薬組成物も提供する。組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物を含み、それらの処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。組成物は、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される治療剤、またはこれらの治療剤の一つ以上の混合物もしくは組合せも含む。治療有効量の治療剤がある期間にわたって放出されるようにキトサン組成物を適合させる。ある実施形態では、組成物が保存剤も含みうる。保存剤は一般に、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される。別の実施形態では、組成物が賦形剤も含みうる。賦形剤は一般に眼科適合性賦形剤である。別の実施形態では、組成物が緩衝剤も含みうる。緩衝剤は一般に、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される。別の実施形態では、組成物がビヒクルも含みうる。ビヒクルは一般に眼科適合性ビヒクルである。あるの実施形態では、治療剤がキトサン上の部位に共有結合される。別の実施形態では、治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される。
【0207】
本発明は、眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスも提供する。このプロセスは、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と治療有効量の医薬剤とを接触させて、医薬組成物を形成させることを含む。医薬組成物はその具体的適用に依存して実質的に均一であるか、または不均一であることができる。各処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示すように設計されている。医薬剤は、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物が保存剤も含みうる。保存剤は一般に、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物が賦形剤も含みうる。賦形剤は一般に眼科適合性賦形剤である。ある実施形態では、医薬組成物が緩衝剤も含みうる。ある実施形態では、緩衝剤が一般に、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物がビヒクルも含みうる。ビヒクルは一般に眼科適合性ビヒクルである。ある実施形態では、治療剤がキトサン上の部位に共有結合される。別の実施形態では、治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される。本発明はこの段落で説明したプロセスによって製造される医薬組成物も提供する。
【0208】
本発明は、眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスも提供する。このプロセスは、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、治療有効量の医薬剤とを、薬剤がキトサン上の部位に共有結合されるような条件下で接触させることを含む。各処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。医薬剤は、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物が保存剤を含みうる。保存剤は一般に、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物が賦形剤も含みうる。賦形剤は一般に眼科適合性賦形剤である。ある実施形態では、医薬組成物が緩衝剤も含みうる。緩衝剤は一般に、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物がビヒクルも含みうる。ビヒクルは一般に眼科適合性ビヒクルである。ある実施形態では、治療剤がキトサン上の部位に共有結合される。別の実施形態では、治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される。本発明はこの段落のプロセスによって製造される医薬組成物も提供する。
【0209】
本発明は、眼疾患または眼異常を処置するための方法も提供する。この方法は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、医薬剤、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物とを含む医薬組成物を患者に投与するステップを含む。各処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。治療有効量の医薬剤がある期間にわたって放出されるように、医薬組成物を適合させ、眼疾患または眼異常が処置または治療されるか、眼疾患または眼異常の症状が改善されるように、治療有効量を適合させる。
【0210】
本発明は、キトサンマトリックスと医薬有効量の眼薬とを含む眼薬物送達組成物も提供する。眼薬は、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物、または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される。キトサンマトリックスは、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物を含み、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。治療有効量の眼薬がある期間にわたって放出されるように眼薬物送達組成物を適合させる。ある実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が1日〜約1年である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約6ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約4ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも3ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも2ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも1ヶ月である。
【0211】
別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約0.5時間〜約36時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約1時間〜約36時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも16時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも8時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも4時間である。
【0212】
本発明は、眼薬物送達組成物を投与するための方法も提供する。この方法は、有効量の組成物を、ヒトを含む動物の眼、または眼を取り囲む組織への注射によって投与することを含む。組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物とを含む。
【0213】
本発明は、眼薬物送達組成物を投与するための方法も提供する。この方法は、ヒトを含む動物の眼に有効量の組成物を局所的に投与することを含む。組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物とを含む。
【0214】
本発明は、眼疾患または眼異常を処置するための医薬組成物も提供する。組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される治療剤とを含む。
【0215】
本発明は、眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスも提供する。このプロセスは、修飾キトサンと治療剤とを接触させるステップを含み、治療剤は、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される。
【0216】
本発明は、眼疾患または眼異常を処置するための方法を提供する。この方法は、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物と、治療剤とを含む医薬組成物を患者の眼に投与するステップを含む。治療剤は、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択され、それにより、眼疾患または眼異常が処置される。各処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示すように設計される。
【0217】
本発明は、キトサンマトリックスと医薬有効量の眼薬とを含む眼薬物送達組成物を提供する。眼薬は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される。キトサンマトリックスは、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含み、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。この組成物は、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して、低い医薬有効量で、等価な治療活性を与える。キトサンマトリックスを含む本発明の組成物は、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して、等価な組成物内薬物濃度で、組織薬物濃度を増加させる能力を持つ。したがって本発明の組成物は、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して低い、薬物の医薬有効量をもたらす。
【0218】
ある実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも10%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも20%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも30%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも40%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも50%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも60%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも70%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも80%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも90%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも95%少ない。
【0219】
医薬組成物は眼科的に許容できるものが有利であり、眼科用組成物に使用される一つ以上の通常の賦形剤を含みうる。本組成物は、好ましくは、多量の液状の水を含む。本組成物は、例えば眼に使用する前に、滅菌状態であることができ、そうであることが好ましい。
【0220】
本組成物は、好ましくは、組成物のpHを制御および/または維持するのに有効な量の少なくとも一つの緩衝剤成分、および/または組成物の張性またはオスモル濃度を制御するのに有効な量の少なくとも一つの張性成分を含み、好ましくは、その張性および/またはオスモル濃度は、硝子体液と実質的に等張であるだろう。より好ましくは、本組成物は、緩衝剤成分と張性成分をどちらも含む。
【0221】
緩衝剤成分および張性成分は、従来からあって眼科分野でよく知られているものから選択することができる。そのような緩衝剤成分の例としては、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤など、およびその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸緩衝剤はとりわけ有用である。有用な張性成分としては、塩類、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールおよび他の糖アルコール、ならびに他の適切な眼科的に許容できる張性成分、ならびにその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0222】
使用される緩衝剤成分の量は、好ましくは、その組成物のpHを約6〜約8の範囲、より好ましくは約7〜約7.5の範囲に維持するのに十分な量である。使用される張性成分の量は、好ましくは、本組成物に、約200〜約400mOsmol/kgの範囲、より好ましくは約250〜約350mOsmol/kgの範囲のオスモル濃度をそれぞれ与えるのに十分な量である。本組成物は実質的に等張性であることが有利である。
【0223】
本組成物は一つ以上の他の構成要素を、本組成物に一つ以上の有用な特性および/または恩恵を与えるのに有効な量で含みうる。例えば本組成物は添加された保存剤成分を実質的に含まなくてもよいが、別の実施形態では、本組成物が有効量の保存剤成分(好ましくは、その組成物が入れられる眼の後部にある組織と、ベンジルアルコールよりも良く適合するような成分)を含む。そのような保存剤成分の例としては、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容できる保存剤など、およびその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。本組成物中に保存剤成分が存在する場合、その濃度は、組成物を保存するのに有効な濃度であり、多くの場合、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の範囲にある。
【0224】
具体的薬物の眼送達に関係する実験
【実施例18】
【0225】
インビボ角膜保持モデル
この実施例は、インビボウサギ眼モデルの角膜表面での保持の動態を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。さらにまた、この実施例は、最終的に、調製されたキトサン材料内への遊離薬物の混合と、その後の、拡散による組織への薬物の溶出を伴うターゲット組織基体への接着とによって、薬物送達マトリックスとして作用する、修飾処理キトサン材料の能力を評価するために設計された。
【0226】
手法
この研究には体重5〜6ポンドのニュージーランドホワイトウサギを4匹使用した。ウサギの眼をランダム化した。1滴の滅菌BSSを対照眼に入れ、5〜50μLピペッターを使って20μLの実施例1の材料を実験眼に適用した。2時間時点で角膜を回収した。回収時には、40%/60%酸素/空気混合物中の2.0〜3.5%のイソフルオラン(isofluorane)で、ウサギを麻酔してから、安楽死させた。回収後直ちに解析する時間を見込んで、実験には1時間間隔の時間差を設けた。修飾キトサン材料の保持を評価するために、角膜をカルコフロールで染色し、蛍光顕微鏡法を使ってトポグラフ的に評価した。各角膜について、代表的画像を捕らえ、保存した。
【0227】
結果
蛍光顕微鏡法を使った角膜表面のトポグラフ的評価により、実施例1の材料は、適用2時間後に、引き続き存在することが確認された。図14を参照して、実験眼には陽性カルコフロール染色が観察されるのに対して、対照眼では非特異的染色が観察されることに注目されたい。
【0228】
結論
実施例1の材料は適用が容易であり、インビボ条件下で2時間までは依然として接着性である。このデータは、これらの製剤が、そこから持続的なまたは改善された薬物送達を与えるための、またはドライアイに対処するための、有用なマトリックスになりうることを示唆する。約10分〜約30日の期間にわたって角膜に接着するキトサン製剤を調製することができる。
【0229】
修飾キトサン/ケトロラクトロメタミン(KT)実験
【実施例19】
【0230】
修飾キトサン/KT製品の調製
この実施例では、ケトロラクトロメタミン(KT)送達系として使用するための、本発明のキトサン組成物へのKTの組み込みを例示する。
【0231】
まず、実施例1の凍結乾燥材料から、その固形材料をPBSで希釈することにより、10mg/mL溶液を調製した。その結果得られた溶液を蒸気滅菌した。次に、濃度が0.285%(w/v)のKT溶液を滅菌食塩水中に調製し、シリンジ式フィルター滅菌カートリッジ(Millex-GC)を使って滅菌した。最後に、修飾キトサン溶液とKT溶液を、3mg/mLの最終修飾キトサン濃度および0.2%の最終KT濃度が得られるように、滅菌バイアル中で合わせた。次に、合わせた材料を、リストアクション振とう器に1時間置くことによって、よく混合した。次に、最終製剤のpHを測定した。
【実施例20】
【0232】
修飾キトサン/KT製品からのKT薬物送達
この実施例は、現在市販されているKT製剤(AllerganのAcular LS(登録商標))の眼送達性能を、本発明の送達マトリックスと、インビボウサギモデルで比較するために設計された。この研究では実施例19の材料を使用した。
【0233】
手法
この研究には体重5〜7ポンドのニュージーランドホワイトウサギを9匹使用した。ウサギとその眼をさまざまな処置群にランダムに割り当てた(下記参照)。適当な化合物を実験眼に滴下し、他眼は無処置のままにしておいた。液剤の滴下後に、ウサギを最初の15〜20分間は絶えず監視し、その後は収集時まで15分ごとに監視した。眼房水の収集に先だって、40%/60%酸素/空気混合物中の2.0〜3.5%のイソフルオランで、ウサギを麻酔した。このタイプの薬物送達適用に関して文献調査すれば、眼に局所適用し、次に適用後さまざまな時点で角膜眼房水中の薬物レベルを定量することによって製剤を評価するのが、一般的慣行であることがわかるだろう。したがって、100μLの眼房水を適当な時点でそれぞれの眼から収集し、解析するまで-80℃で保存しておいた。
【0234】
第1群は3匹のウサギからなった。各ウサギの実験眼を3mg/mLの実施例19の材料50μLで処置した。他眼は無処置のままにしておいた。以下の時点に処置眼から眼房水を収集した:1時間および4時間。1時間時点でウサギの一匹の無処置眼から眼房水を収集して、必要ならば、解析のバックグラウンド対照とした。
【0235】
第2群は2匹のウサギからなった。各ウサギの実験眼を50μLのAcular LS(登録商標)(推奨用量)で処置した。他眼は無処置のままにしておいた。以下の時点に処置眼から眼房水を収集した:1時間および4時間。
【0236】
眼房水サンプルを逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で解析した。解析に先だって、サンプルをメタノールで1:1に希釈し、冷蔵庫で1時間冷却し、生物学的干渉を排除するために遠心分離した。全てのサンプルおよび標準をこのサンプル調製ステップに従って処理した。分析物の回収率を評価したところ、この解析にとっては許容できるようだった。HPLC分離は、標準的C18分析用カラム、メタノール/水/酢酸(55/44/1)からなる移動相および1.0mL/分の流速を使って行った。検出および定量は254nmでUV可視検出器を使って行った。
【0237】
結果
この研究で得られたデータを図15に示す。現在市販されているAcular-LS(登録商標)は、活性薬を0.4%の濃度で含有し、本発明の製剤では0.2%である。活性薬が50%少ないにもかかわらず、本発明の製剤からの送達は、適用後1時間および4時間の時点で、現在市販されている製品より多い。本発明の製剤によって送達されるKT濃度は、1時間時点および4時間時点で、それぞれAcular-LS(登録商標)の136%および157%だった。
【0238】
結論
実施例19の材料は、眼へのKTの送達を改善するための手段として極めて有望であり、活性医薬成分(API)をかなり減らしても、上回らないまでも同等な送達を得ることができる。
【0239】
本明細書に記載の修飾キトサン、KT組成物は、炎症および感染などの眼異常をうまく処置するために使用することができる。治療的に有効な修飾キトサン製剤は、他のNSAID、例えば(限定するわけではないが):(1)サリチレート、例えばアセチルサリチル酸、アモキシプリン(Amoxiprin)、ベノリラート、コリンマグネシウムサリチレート、ジフルニサル、ファイスラミン(Faislamine)、メチルサリチレート、マグネシウムサリチレート、サリチルサリチレート(サルサレート(salsalatee));(2)アリールアルカン酸、例えばジクロフェナク、アセクロフェナク、アセメタシン、ブロムフェナク、エトドラク、インドメタシン、ナブメトン、スリンダク、トルメチン;(3)2-アリールプロピオン酸(プロフェン類)、例えばイブプロフェン、カルプロフェン、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、チアプロフェン酸、スプロフェン;(4)N-アリールアントラニル酸(フェナム酸類)、例えばメフェナム酸、メクロフェナム酸;(5)ピラゾリジン誘導体、例えばフェニルブタゾン、アザプロパザン、メタミゾール、オキシフェンブタゾン、スルフィンピラゾン;(6)オキシム類、例えばピロキシカム、ロルノキシカム、メロキシカムおよびテノキシカム;(7)COX-2阻害剤、例えばセレコキシブ、エトリコキシブ、ルミラコキシブ、パレコキシブ、ロフェコキシブ、およびバルデコキシブ;(8)スルホンアニリド類、例えばニメスリド、ならびに他のNSAID、例えばリコフェロンおよびω-3脂肪酸などを使って調製することもできる。
【0240】
修飾キトサン/酢酸プレドニシロン(Prednisilone)実験
【実施例21】
【0241】
修飾キトサン/PA製品の調製
この実施例では、PA送達系として使用するための、本発明の修飾キトサン組成物への酢酸プレドニシロン(PA)の組み込みを例示する。
【0242】
手法
この特定の適用の場合、薬物は上述の再構成ステップ中に製剤に組み込まれる。これにより、本発明の製剤と並行して薬物製品の滅菌が行い易い。実施例4の凍結乾燥材料を量り取り、滅菌食塩水で希釈して、3mg/mLという所望の最終修飾キトサン濃度を得る。PAを添加する前に修飾キトサンを一晩可溶化させた。薬物をオートクレーブ処理する前に、薬物を量り取って、修飾キトサン/食塩水混合物に加えた時に所望の最終薬物濃度(0.05%)が得られるようにした。活性薬物の溶解を促進するために、オートクレーブ処理に先だって、その混合物を加熱してもよい。次に、その製剤をオートクレーブ処理した後、終夜撹拌した。滅菌された材料は、温かい間に、または冷却後に、適当な希釈剤で希釈することができる。そのような希釈剤としては、薬物送達に使用される任意の担体が挙げられる。
【実施例22】
【0243】
修飾キトサン/PA製品の代替的調製方法
この実施例では、PA送達系として使用するために、DMSOを補助溶媒として使用して、酢酸プレドニシロン(PA)を本発明の修飾キトサン組成物に組み込むための代替的手法を例示する。
【0244】
手法
10mg/mLの実施例4の材料の修飾キトサン溶液2.7mLを20mLバイアルに入れた。2%PA/DMSO溶液225μLをそのバイアルに滴下した。次に1mLのDI水をバイアルに加えた。次に500μLのメタノールをバイアルに滴下した。得られた溶液を丸底フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにかけて、ヒドロゲルを生成させた。次にそのヒドロゲルをフラスコから掻きだして、メスシリンダーに入れ、所望の体積(この実施例では9mL)に再構成させた。再構成した材料をオートクレーブで滅菌した。
【実施例23】
【0245】
修飾キトサン/PA製品の代替的調製方法
この実施例では、PA送達系として使用するために、酢酸エチルを補助溶媒として使用して、酢酸プレドニシロン(PA)を本発明の修飾キトサン組成物に組み込むための代替的手法を例示する。
【0246】
PAを酢酸エチルに溶解して、所望のPA濃度を持つPA酢酸エチル溶液を形成させた。所望する量の10mg/mLの実施例4の材料の修飾キトサン溶液を20mLバイアルに入れた。PA酢酸エチル溶液をそのバイアルに加えてPA濃度を0.05%にした。得られた溶液を約45℃の温度まで穏やかに加熱して、酢酸エチルを蒸発させた。場合によっては、酢酸エチルの除去を促進するために、または溶解した酢酸エチルの除去を容易にするために、穏やかなN2流を溶液の表面に向けることができる。
【実施例24】
【0247】
修飾キトサン/PA製品によるPA薬物送達
この実施例は、現在市販されている酢酸プレドニゾロン(PA)製剤(AllerganのPred Forte(登録商標))の眼送達性能を、本発明の送達マトリックスと、インビボウサギモデルで比較するために設計された。この研究では実施例21の材料を使用した。
【0248】
手法
体重5〜8ポンドのニュージーランドホワイトウサギ12匹をさまざまな処置群にランダムに割り当てた(下記参照)。適当な化合物を左眼に滴下し、右眼は無処置のままにしておいた。液剤の滴下後に、ウサギを最初の15〜20分間は絶えず監視し、その後は収集時まで15分ごとに監視した。眼房水の収集に先だって、40%/60%酸素/空気混合物中の2.0〜3.5%のイソフルランで、ウサギを麻酔した。このタイプの薬物送達適用に関して文献調査すれば、眼に局所適用し、次に適用後さまざまな時点で角膜眼房水中の薬物レベルを定量することによって製剤を評価するのが、一般的慣行であることがわかるだろう。したがって、100μLの眼房水を適当な時点でそれぞれの眼から収集し、解析するまで-80℃で保存しておいた。
【0249】
第1群は3匹のウサギからなった。各ウサギの左眼を35μLのPred Forte(登録商標)(推奨用量)で処置した。右眼は無処置のままにしておいた。4時間時点で両眼から眼房水を収集した。
【0250】
第2群は3匹のウサギからなった。各ウサギの左眼を7.2mg/mLの実施例21の材料35μLで処置した。右眼は無処置のままにしておいた。4時間時点で両眼から眼房水を収集した。
【0251】
第3群は3匹のウサギからなった。各ウサギの左眼を35μLのPred Forte(登録商標)(推奨投薬量)で処置した。右眼は無処置のままにしておいた。1時間時点で両眼から眼房水を収集した。
【0252】
第4群は3匹のウサギからなった。各ウサギの左眼を7.2mg/mLの実施例21の材料35μLで処置した。右眼は無処置のままにしておいた。1時間時点で両眼から眼房水を収集した。
【0253】
眼房水サンプルを逆相高速液体クロマトグラフィーで解析した。解析に先だって、サンプルをメタノールで1:1に希釈し、冷蔵庫で1時間冷却し、生物学的干渉を排除するために遠心分離した。全てのサンプルおよび標準をこのサンプル調製ステップに従って処理した。分析物の回収率を評価したところ、この解析にとっては許容できるようだった。HPLC分離は、標準的C18分析用カラム、IPA/水/H3PO4(25/74.8/0.2)からなる移動相および1.0mL/分の流速を使って行った。検出および定量は245nmでUV可視検出器を使って行った。
【0254】
結果
図16には、この研究で得られたデータを要約した棒グラフが含まれる。現在市販されているPred Forte(登録商標)は活性薬物を1.0%の濃度で含有し、本発明の製剤は0.05%である。活性薬物が20分の1であるにもかかわらず、本発明の製剤からの送達は、1時間時点で現在市販されている製品を越え(Pred Forte(登録商標)の138%)、適用後4時間でもわずかに少ないだけだった(Pred Forte(登録商標)の71%)。
【0255】
結論
実施例21の材料は、眼へのPAの送達を改善するための手段として極めて有望であり、活性医薬成分(API)をかなり減らしても、上回らないまでも同等な送達を得ることができる。
【0256】
本明細書に記載の修飾キトサン、酢酸プレドニシロン組成物は、炎症および感染などの前眼部異常をうまく処置するために使用することができる。治療的に有効な修飾キトサン製剤は、他のステロイド、例えば(限定するわけではないが)、21-アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾン、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、クロロプレドニゾン、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチコステロン、コルチゾン、コルチバゾール、デフラザコート、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドネート、エノキソロン、フルアザコート(fluazacort)、フルクロロニド(flucloronide)、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオコルチンブチル、フルオコルトロン、フルオロメトロン、酢酸フルペロロン、酢酸フルプレドニデン、フルプレドニゾロン、フルランドレノリド、プロピオン酸フルチカゾン、ホルモコータル、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、ハロメタゾン、酢酸ハロプレドン、ヒドロコルタメート、ヒドロコルチゾン、エタボン酸ロテプレドノール、マジプレドン(mazipredone)、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、フロ酸モメタゾン、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾロン、プレドニゾロン25-ジエチルアミノ-アセテート、リン酸プレドニゾロンナトリウム、プレドニゾン、プレドニバール(prednival)、プレドニリデン、リメキソロン、チキソコルトール、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンベネトニド、トリアムシノロンヘキサアセトニド、およびそれらの誘導体のいずれかなどを使って調製することもできる。
【0257】
1つの実施形態では、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、およびトリアムシノロン、ならびにそれらの誘導体が、好ましいステロイドである。
【0258】
修飾キトサン/ビマトプロスト実験
【実施例25】
【0259】
修飾キトサン/ビマトプロスト製品の調製
この実施例では、酵素放出型ビマトプロスト送達系として使用するための、本発明の修飾キトサン組成物へのビマトプロストの共有結合による付着を例示する。
【0260】
手法
ビマトプロストの共有結合による付着は2段階で行った。第1ステップ(図17参照)では、ビマトプロスト分子にテザーを付加して、キトサン骨格への付着に適した適切な分子構造にした。テザーへのビマトプロストの付着により、酵素的加水分解時に無修飾ビマトプロストの限局的放出をもたらすであろう酵素的に切断可能なリンクが形成された。第2ステップ(図17参照)では、リンカー修飾ビマトプロストを実施例1の修飾キトサン材料のキトサン骨格に付着させた。共有結合的に修飾され薬剤が負荷されたキトサン材料は、続いて、持続的送達相におけるビマトプロストの限局的送達に使用することができる。
【0261】
ステップ1:ビマトプロストへのリンカーの付着
200mgのビマトプロスト、48mgの無水コハク酸、147mgの4-ジメチルアミノピリジン、74μLのトリエチルアミンおよび4mLのジクロロメタンを混合し、室温で20分間、振とう機に乗せる。その溶液に4mLのヘキサンを加えて、リンカー修飾ビマトプロストを沈殿させた。沈殿後に、濃厚な油状の層だけが残るまで、溶媒を減圧下で蒸発させた。10mLの0.1M塩化カルシウム(pH=8)を加え、溶液の体積を、ほぼ乾固するまで減圧下で減少させた。10mLの脱イオン(DI)水を加えて全ての材料を再溶解した。次に、再溶解したサンプルを50mLの遠心分離バイアルに入れ、1M HClでpH4に酸性化した。生成物が沈殿するにつれて、溶液は乳白色に変化した。3850×Gで10分間の遠心分離によって生成物を集めた。
【0262】
ステップ2:修飾キトサンへの付着
実施例1の材料を滅菌食塩水に再構成して、総体積10mLの10mg/mL溶液にした。その溶液に0.11gのEDCおよび0.165gのNHSを、磁気撹拌子で撹拌しながら加えた。ステップ1で得たリンカー修飾ビマトプロストを、10mg/mL修飾キトサン溶液に加えた。溶液のpHを6M NaOHおよび/またはHClを使って6.5〜7に調整し、そのpH調整溶液を72時間撹拌した。次に、得られた溶液を、6M NaOHの添加によってpH9にし、反応をクエンチして修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を沈殿させた。沈殿した修飾キトサン/ビマトプロスト生成物と上清とを50mLビーカーに移し、30mLの10%乳酸を加え、沈殿物を再溶解させた。6M NaOHの添加によって修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を再沈殿させた。このステップは、上清の一部として捨てられる溶解した残留物を除去するために設計された。材料を遠心管に移し、3850×Gで10分間遠心分離した。沈殿物を収集し、固形の修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を透析チューブに移し、10%酸に対して、修飾キトサンが溶解するまで透析した。溶解した修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を水に対して最低3時間は透析した。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を水に対してさらに2回透析した。この透析ステップは過剰な酸および未付着のビマトプロスト/リンカーを修飾キトサン/プロトプラスト生成物から除去する。透析液のpHをpH試験紙で測定し、pHを記録した。次に、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を、滅菌PBSに対して、透析液が5.7〜6.0のpHを持つようになるまで透析した。次に、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を水に対して3時間透析し、それを合計2回繰り返した。次に、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を凍結乾燥フラスコに移し、-80℃で終夜冷蔵した。その修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を凍結乾燥した。凍結乾燥材料は貯蔵に有利であり、所望の濃度での再構成を簡単にする。次に、凍結乾燥製品を滅菌PBSを使って所望の濃度で再構成し、オートクレーブにかけて、滅菌製品を得ることができる。
【0263】
修飾キトサン/ビマトプロスト生成物のIR解析
実施例1の修飾キトサン材料へのビマトプロストの共有結合的付着を、以下の手法に従って、FTIRで調べた。
【0264】
100mgの乾燥臭化カリウム(KBr)を量り取った。1mgの凍結乾燥修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を量り取った。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物およびKBrを乳鉢と乳棒を使って微粉末に粉砕し、その混合物を底から掻き取り、完全な混合を保証するために粉砕を繰り返した。その混合物を80℃のオーブンに最低でも24時間は入れた。液圧プレスを使って、その混合物を減圧下に合計15,000ポンドの圧力で5分間プレスすることにより、半透明のペレットを得た。そのペレットをThermo-Nicolet FT-IR装置を使って解析し、各サンプルで16回のスキャンを行った。
【0265】
ここで図18を参照して説明すると、この図には、本発明の修飾キトサン組成物、純粋なビマトプロストおよび上で調製した修飾キトサン/ビマトプロスト生成物についての複合IRスペクトルが示されている。この図は、純粋なビマトプロスト、修飾キトサンマトリックス、および修飾キトサン/ビマトプロスト生成物について、アミド吸光度が現われるIRスペクトル領域を示している。修飾キトサンマトリックスIRスペクトルにおいて1540cm-1および1610cm-1に新しいIRバンドが現れることにより、修飾キトサンマトリックスへのビマトプロストの付着が確認される。
【実施例26】
【0266】
修飾キトサン/ビマトプロスト生成物の調製方法
この実施例では、酵素放出型ビマトプロスト送達系として使用するための実施例1の修飾キトサン材料にビマトプロストを付着させるもう一つの手法を例示する。この代替的手法では、実施例25に記載の手法よりも純粋なリンカー-ビマトプロストコンジュゲートが生成する。
【0267】
ステップ1:ビマトプロストへのリンカーの付着
200mgのビマトプロスト(0.48mmol)、48mgの無水コハク酸(0.48mmol)、147mgの4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(1.2mmol)、74μLのトリエチルアミン(TEA)(0.53mmol)、1gのDEAEセファデックス(粒径40〜125μm)を量り取った。次に、4mLのジクロロメタンをバイアルに入れた。そのバイアルに無水コハク酸を加え、ボルテックスにかけてジクロロメタンに溶解させた。次にDMAPを加え、ボルテックスにかけて溶解させた。次にビマトプロストを加え、ボルテックスにかけて溶解させた。次にTEAを加え、ボルテックスにかけて溶解させた。最後にDEAEを加え、ボルテックスにかけて混合し、そのバイアルにしっかりと蓋をした。次に、蓋をしたバイアルをリストアクション振とう器にのせ、室温で1時間振とうした。反応が進行している間に、10mLシリンジからプランジャを取り除いた。濾紙を小さな円形に切り取り、湿らせた。その円形の湿った濾紙を使って、シリンジの開口部に栓をした。濾紙はDEAEゲルの流れを遅らせるように設計された。シリンジに乾燥DEAEビーズを1mLラインまで充填した。ビーズを水で湿らせ、次にメタノールで湿らせた。反応混合物をピペットでシリンジに入れた。ゲルを40mLの75%メタノールと40mLの水で洗浄して、あらゆる不純物または未反応材料を除去した。次に、ゲルを40mLの1M NaClで洗浄して、生成物を溶出させた。
【0268】
ステップ2:修飾キトサンへの付着
修飾キトサンの可溶化
適当な量の実施例1の修飾キトサン材料を量り取り、1M NaClで洗浄したステップ1の生成物に加えた。その混合物を24時間撹拌した。修飾キトサンが溶解しない場合は、その混合物を穏やかに加熱して、60℃を越えないように注意しながら、修飾キトサンを溶解させた。
【0269】
修飾キトサンとビマトプロストスクシネート生成物のEDCカップリング
0.11gのEDC(修飾キトサン100mgあたり)および0.165gのNHS(修飾キトサン100mgあたり)を量り取り、先のステップで得た溶液に、磁気撹拌子を使って撹拌しながら加えた。溶液のpHを調べて、pH5〜6に維持した。反応溶液を室温で72時間撹拌した。
【0270】
精製および透析
72時間後に、溶液のpHを6M NaOHでpH9に調整して、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を沈殿させた。沈殿した修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を150mLビーカーに入れ、50mLの10%乳酸を加えた。沈殿した修飾キトサン/ビマトプロストを、全ての修飾キトサン/ビマトプロスト生成物が溶解するまで撹拌した。6M NaOHを使ってpHをpH9に調整することにより、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を沈殿させた。次にその混合物を50mL遠心管に移し、3850×Gで15分間遠心分離した。次に上清を取り出して、捨てた。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を透析チューブに移し、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物が溶解するまで、10%乳酸に対して透析した。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物が溶解した後、透析液をDI水に変え、生成物を最低3時間、最低3回の独立したDI水透析ステップで透析した。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物のpHを調べた後、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物をPBS(pH7.4)に対して、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物が約6のpHに達するまで透析した。このPBS透析では、生成物が約6のpHに達するのに、通例、30分を要した。次に生成物をDI水に対して最低3時間、最低2回の独立したDI水透析ステップで透析した。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を透析チューブから取り出し、凍結乾燥器フラスコに入れた。そのフラスコを少なくとも1時間または一晩、-80℃のフリーザーに入れておいた。フラスコを-80℃のフリーザーから取り出し、生成物が完全に乾燥するまで凍結乾燥器に置いた。
【実施例27】
【0271】
眼周囲注射:基材の生体適合性および寿命
この実施例は、ウサギ眼を取り囲む結膜組織内に配置した場合の本発明の材料の生体適合性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を使用した。
【0272】
手法
この研究には2匹のニュージーランドホワイトウサギを使用した。ウサギおよび処置はランダム化した。実験眼は10mg/mLの実施例1の材料100μLで処置し、対照眼はBSS 100μLで処置した。40%/60%酸素/空気混合物中、2.0〜3.5%のイソフルランで、ウサギを麻酔した。2滴の局所麻酔薬(テトラカイン-0.5%滴剤またはアルカイン)をウサギ眼に適用した。鉗子を使って、結膜を眼球の表面から静かに持ち上げて、結膜の「テンティング」を起こした。眼球の表面から十分に離して注射を行った。(この手技により眼球穿孔のリスクが著しく低減する)。針を眼球に対して接線方向に置いて、針先をテント中に挿入し、適当な製剤を送達した。23ゲージ針を使って注射を行った。実験眼の結膜には実施例1の材料100μLを注射した。対照眼の結膜にはBSS 100μLを注射した。注射後に、抗生物質滴剤(べガモックス(登録商標))を点眼した。1週間、毎日観察を行った後、研究が終了するまで週に1回観察した。24時間時点で結膜の写真を撮影した。29日目に、ウサギを安楽死させ、結膜を回収し、組織学的検査用に加工した。
【0273】
結果
眼瞼を下げる前にウサギを見ると、研究全体にわたって、対照眼と処置眼とを弁別することはできなかった。全てのウサギ眼は全ての観察点で明るく湿った外観を保っていた。24時間時点で、全ての結膜が(実験結膜も対照結膜も)正常に見えたことから、BSSも実施例1の材料の流動体構成要素も組織に吸収されたことが示された。どの結膜にも発赤は認めなかった。29日時点で、全ての眼が正常なようだった。どの眼にも隆起(bump)は存在しなかった。カルコフロール染色を使った組織学的評価により、注射29日後の実験眼の結膜における実施例1の材料の存在が確認された。ここで図19を参照して説明すると、顕微鏡像が、29日時点における材料の継続的存在を裏付けている。
【0274】
結論
実施例1の材料は、眼に持続的薬物送達を提供するための手段として有望である。眼周囲注射後に、本発明の材料は結膜空間内に、優れた生体適合性で少なくとも29日間は存在し続けた。
【実施例28】
【0275】
眼周囲注射:薬物を負荷した材料の生体適合性および寿命
この実施例は、ウサギ眼を取り囲む結膜組織内に配置した場合の、ビマトプロストの付加によって共有結合的に修飾されている本発明の材料の生体適合性を評価するために設計されたものであり、実施例25の材料を利用した。
【0276】
手法
この研究には4匹のニュージーランドホワイトウサギを使用した。この研究ではウサギおよび処置をランダム化した。実験眼は10mg/mLの実施例25の材料100μLで処置し、対照眼はBSS 100μLで処置した。40%/60%酸素/空気混合物中、2.0〜3.5%のイソフルランで、ウサギを麻酔した。2滴の局所麻酔薬(テトラカイン-0.5%滴剤またはアルカイン)をウサギ眼に適用した。鉗子を使って、結膜を眼球の表面から静かに持ち上げて、結膜の「テンティング」を起こした。眼球の表面から十分に離して注射を行った。(この手技により眼球穿孔のリスクが著しく低減する)。針を眼球に対して接線方向に置いて、針先をテント中に挿入し、適当な製剤を送達した。23ゲージ針を使って注射を行った。実験眼の結膜には実施例25の材料100μLを注射した。対照眼の結膜にはBSS 100μLを注射した。注射後に、抗生物質滴剤(ベガモックス(登録商標))を点眼した。1週間、毎日観察を行った後、研究が終了するまで週に1回観察した。注射時、1日目および7日目に、結膜の写真を撮影した。研究の終了時に、ウサギを安楽死させ、結膜を回収し、組織学的検査用に加工した。
【0277】
結果
眼瞼を下げる前にウサギを見ると、研究全体にわたって、対照眼と処置眼とを弁別することはできなかった。全てのウサギ眼は全ての観察点で明るく湿った外観を保っていた。24時間時点で、全ての対照結膜が正常に見えたことから、BSSは組織に吸収されたことが示された。全ての実験結膜には、わずかないし顕著なピロー(pillow)または隆起が、結膜組織のわずかな発赤と共に存在した。発赤は研究の進行と共にゆっくり減少した。(眼そのものおよび周囲組織は、研究全体にわたって、完全に正常なままだった)。最初の24時間以内に、相対的隆起サイズが減少し、その後は極めて小さくなった。29日時点で、全ての眼が正常なようだった。全ての実験眼に依然として隆起が存在した。切開時点で、どの結膜が実施例25の材料を含むかは、極めて明白だった。カルコフロール染色を使った組織学的評価により、注射29日後の実験眼の結膜における本発明のキトサン化合物の存在が確認された。ここで図20を参照して説明すると、この図には、29日時点におけるこの材料の継続的存在を裏付ける肉眼的および顕微鏡的証拠が示されている。
【0278】
結論
ビマトプロストにより共有結合的に修飾されている本発明の修飾キトサン材料は、眼に持続的薬物送達を提供するための手段として有望である。眼周囲注射後に、これらの材料は結膜空間内に、優れた生体適合性で少なくとも29日間は存在し続ける。実施例27での結果が基材のみからの刺激の徴候を示さなかったことを考えると、注射後にこれらの実験眼の結膜で観察されたわずかな発赤は、おそらくビマトプロスト修飾に起因するのだろう。
【実施例29】
【0279】
本発明のキトサン材料からのビマトプロストのインビトロ加水分解アッセイ
この実施例は、結合されたビマトプロストを酵素的に放出する能力を評価するために設計されたものである。これは、ブタエステラーゼおよびリゾチームを使用するインビトロ加水分解アッセイにより、以下の手法に従って証明された。
【0280】
手法
0.309gのホウ酸を50mLのDI水に加え、1M NaOHでpHを6.5に調整することにより、0.1Mホウ酸緩衝剤の溶液を調製した。実施例25の材料の5mg/mL溶液を滅菌食塩水中に無菌的に調製した。1ミリリットルあたり1000単位のブタエステラーゼおよび20単位の卵白リゾチームを0.1Mホウ酸緩衝液に溶解した。標準を以下のように調製した:1mLのホウ酸緩衝液(pH6.5)および1mLの5mg/mL実施例25の修飾キトサン材料を各バイアルに入れ、10秒間ボルテックスして、完全な混合を保証する。サンプルをリストアクション振とう器にのせて、72時間振とうする。エステラーゼサンプルを以下のように調製した:1mLのブタエステラーゼおよび卵白リゾチーム溶液(1mLあたり1000単位のブタエステラーゼおよび20単位の卵白リゾチーム)ならびに1mLの5mg/mL実施例25の修飾キトサン材料を各バイアルに入れ、10秒間ボルテックスして、完全な混合を保証する。サンプルをリストアクション振とう器にのせて、72時間振とうする。
【0281】
インキュベーション後に、サンプルを、放出されたビマトプロストについて、HPLCによって分析した。
【0282】
振とう器からサンプルを取り出し、10秒間ボルテックスし、50μlの1M NaOHを加えることによってその溶液をpH8〜9に調整し、サンプルを10秒間ボルテックスする。1mLのメタノールを加え、10秒間ボルテックスする。1mLのサンプルをピペットで微量遠心管に移し、各サンプルを10000rpmで15分間遠心分離する。HPLC分析用に200mLの各サンプルを取り出し、1mL/分の定組成メタノール/水/酢酸(70:30:0.1)を流した250mm×4.8mm C18エンドキャップカラム(VWR)にサンプルを流し、210nmで検出する。ビマトプロストピークは約5.6分に溶出し、そのピーク下の面積を積分して、標準曲線と比較することにより、濃度を決定する。
【0283】
結果
図21は、酵素の存在下および非存在下でのビマトプロストの放出プロファイルを示す。酵素が存在しない場合、検出可能なビマトプロストは観察されなかった。酵素が存在する場合は、かなりの量のビマトプロストが放出された。
【0284】
結論
この実施例は、共有結合されたビマトプロストを切断するエステラーゼおよびリゾチームの作用下で、ビマトプロストが本発明の修飾キトサン材料から効率よく放出されることを明確に示している。
【0285】
本明細書に記載の修飾キトサン、ビマトプロスト組成物は、緑内障などの眼異常をうまく処置するために、そして網膜細胞に神経保護を提供するために、使用することができる。治療的に有効な修飾キトサン製剤は、他のプロスタグランジンおよびプラスタミド、例えば(限定するわけではないが)PGD2、PGE2、PGF2、ラタノプロストおよびトラボプロストおよびイソプロピルウノプロストンなどを使って調製することもできる。
【0286】
本明細書で言及した全ての参考文献は参照により本明細書に組み込まれる。本発明をその好ましい実施形態に関して開示したが、この記載を参照することにより、上述し、特許請求の範囲にも記載する本発明の範囲および精神から逸脱せずに加えることができる改変および変更が、当業者にはわかるだろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理キトサン組成物、修飾キトサン組成物、修飾処理キトサン組成物、またはその混合物もしくは組合せを含む新規生体材料、ならびにその製造方法および使用方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含む新規生体材料であって、少なくとも一つのキトサンが、その処理キトサン、修飾キトサン、または修飾処理キトサンを、対応する無処理キトサンを含む類似の組成物から区別する一つ以上の物理的、化学的、および/または性能的特性または特徴を持つものに関する。本発明は、本発明のキトサン組成物を含む接着剤組成物または接着剤系、本発明のキトサン組成物を含む薬物送達組成物または薬物送達系、本発明のキトサン組成物を含む充填剤もしくは増量組成物または充填剤もしくは増量系、ならびにその製造方法および使用方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
競合する接着剤技術
有効な組織接着剤の探索は多くの製品をもたらしたが、それらは全て欠点を持っている。
【0004】
現在市販されている最も一般的な組織接着剤はフィブリンシーラントベースの製品である。この系では、天然凝固因子の構成要素であるフィブリノゲンおよびトロンビンが反応して、身体の天然凝固機構の最終段階を模倣する。その結果生じるフィブリンクロットまたはフィブリンフィルムは組織に接着して出血を止め、創傷治癒を改善する。これらの製品の接着強さは、とじ金や縫合糸などの機械的閉じ具を使用せずに組織を接近させておくには不十分である。
【0005】
米国ではシアノアクリレート製品が皮膚破損部を閉じるために使用されている。シアノアクリレートモノマーは、組織に適用すると、接着剤の重合をもたらす発熱性ヒドロキシル化反応を起こす。生理学的応答を調節するために生物学的アルキル鎖を修飾することができる。短鎖誘導体(メチルおよびエチル)は長鎖誘導体(2-オクチル)よりも高度な組織毒性を持つ傾向がある。シアノアクリレートを皮下に植え込むと、炎症、組織壊死、肉芽形成、創傷破壊が起こりうる。組織学的毒性を引き起こすプロセスは、分解副生成物であるシアノアセテートとホルムアルデヒドに関連づけられると考えられる。硬化したポリマーは脆く、組織再成長に対する障壁になる。可塑剤を添加すると、よりフレキシブルな結合基体が得られる。
【0006】
コラーゲンやアルブミンなどの天然タンパク質をアルデヒド架橋剤で架橋して、生物学に基づく接着剤を生成させることができる。アルデヒド構成要素に付随する毒性、使用の複雑さおよび再現性のない結果などといった懸念が、医師による受け入れを制限している。このタイプの接着剤は、最初は人道的免除措置(humanitarian device exemption:HDE)によって承認されたが、適応内でも適応外でも用途の拡大がいくらか見られる。この製品はグルタルアルデヒド架橋ウシ血清アルブミン(BSA)である。グルタルアルデヒドは急性神経傷害を引き起こしうるので、グルタルアルデヒドの存在により、その神経組織との接触は禁止される。このクラスの接着剤は大動脈成長を損ない、吻合部狭窄を引き起こすので、小児における使用が不可能であることも示されている。また、この接着剤は硬化時間が極めて速く、それがしばしば二室式送達シリンジ内を詰まらせ、一貫性のない結合効力をもたらす。これらの付随する難点または複雑な問題がその有効性を制限している。
【0007】
イガイ類などの生物が分泌する天然タンパク質または合成類似体が、組織接着剤として使用されている。これらの技術は下塗剤および重合剤の使用を必要とし、それらは通例、毒性であって、それらの潜在的生体適合性および安全性を著しく損なう。コラーゲンおよびエラスチンに似た工学的に作製されたタンパク質を中心とする合成ポリマーが開発されている。生体適合性であると思われる材料を使って優れた接着強さが実現されている(例えば米国特許第6,875,796号を参照されたい)。これらの接着強さを達成するために、組織には、組織と適合しないであろうクロロホルムなどの材料による下塗りが行われる。また、不適合性の架橋剤、ドープ、および下塗剤、例えばグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、1,6-ジイソシアナトヘキサン、4-イソシアナトメチルフェニル-3-イソシアナトプロパナート、レゾルシノール、エオシンYおよびエオシンBなどの添加によって、マトリックスが増強される。同様に、提案された樹状材料のクラスも、生物学的に適合しない下塗剤の使用に関わる余計な複雑さおよび潜在的毒性を避けられない。
【0008】
ポリエチレングリコール(PEG)製品は市販されているが、それらの強度は光重合でさえかなり低く、大半の製品は使用前の混合を必要とする。これらの製品の相対的な生物学的安全性をもってしても、外科医による受け入れには時間がかかっているようである。
【0009】
競合する局所薬物送達技術
局所薬物送達技術は機能によって分類することができる。徐放技術は活性医薬を長時間にわたって送達しようとするものである。薬物を物理的に捕捉するポリマー材料は、ある期間にわたって受動的送達をもたらすための手段になりうる。また、ポリマー材料は、安定性または溶解度の改善など、改善された特徴を与えることができる。多くの植え込み型装置の場合、薬物送達サイクルの終了時点において、ポリマーマトリックスは分解されるか、回収されるか、またはその場に残されうる。
【0010】
局所薬物送達の特異性を増加させるために、標的送達技術では、集束RFまたは超音波を利用して、医薬剤の移動および/または放出を改善しようとする。
【0011】
改善された吸収/輸送技術では、ターゲット組織による取込みを増加させることによって薬物の吸収を増加させようとする。これは、粘膜環境で使用する場合には、とりわけ有効であることが見出されている。
【0012】
上記の技術では、薬物が、代謝状態や、組織を構成する細胞による代謝産物の排泄に対する応答としてではなく、受動的に放出されるか、外部トリガーを受けて放出される。
【0013】
競合する充填剤または増量技術
皮膚充填剤は通例、ウシコラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、またはカルシウムヒドロキシルアパタイトから生産される。皮膚充填剤は、しわを減少させもしくは排除し、瘢痕陥凹を盛り上がらせ、唇を増大させ、または軟組織体積減少を補うために使用される。充填剤の注入は、通常、小さな針を使って遂行され、皮膚充填剤は処置を必要とする各しわまたは瘢痕中に注入される。多少の初期不快感および挫傷が体験されるが、そのような副作用は一般に極めて迅速に治まる。副作用は稀であるが、アレルギー反応、潰瘍形成、ヘルペス感染症の再活性化、細菌感染、限局性挫傷、および肉芽腫形成などを挙げることができる。時には材料の移動または「ビーズ化(beading)」が見られて、美容上満足できない結果をもたらす。体積の増加がもたらす利益は一般に、生物学的起源を持つ充填剤の場合で3〜6ヶ月間持続し、合成材料ではそれよりも多少長く持続する。産業界では、現在、充填剤材料の寿命および性能の改善ならびに有害副作用の減少が求められている。
【0014】
キトサンの歴史
キトサンは、エビ、ロブスター、およびカニを含む甲殻類の外骨格に由来するキチンの部分的脱アセチル化によって誘導されるカチオン性多糖である。その化学的性質は脱アシル化-(1,4)-N-アセチル-D-グルコサミンポリマーと記載するのが最も適切である。キトサンの接着性はかなり前から知られている。しかし、今までのところ、キトサンに基づく接着剤製品は生産されていない。これは、キトサンの取扱いが困難であり、高い酸濃度に起因する問題を伴うことなく組織に迅速に結合する形でそれを送達することは困難であることが、大きな理由である。USPTOデータベースでの検索によれば、「キトサン(chitosan)」および「接着剤(adhesive)」を含む要約または請求項を持つ特許は14件しかファイルされていなかった。これらの特許の大半は製紙業向けである。米国特許第5,773,033号にはフィブリノゲン/キトサン止血剤が開示されたが、これは組織結合用ではない。「生物学的組織用接着剤(Adhesive for Biological Tissue)」と題する米国特許第6,329,337号には、組換えヒト血漿タンパク質と二官能性または多官能性アルデヒドとから生産されるグルー剤が開示された。その薬剤では、溶液の粘度を高めるために、または二官能性もしくは多官能性アルデヒドと共に架橋試薬として、キトサンが使用された。米国特許第5,496,872号には、かなり網羅的な潜在的試薬の一覧中にキトサンが開示されたが、この特許は、結合をチオール、カルボン酸およびラジカルに頼っている。米国特許第6,200,595号には、潜在的医用接着剤として使用される、キトサンを含むポリカチオン性基体とポリアニオン性基体との組合せが開示された。この特許で報告された接着強さは70g-f/cm2を越えなかった。さらにこの発明では使用直前に2つの構成要素を混合する必要がある。米国特許第6,991,652号には、細胞成長用のマトリックスとして使用される数多くの潜在的材料の一覧中の一つとして、キトサンの使用が開示された。
【0015】
文献調査により、キトサンの透析は、精製ステップとして、また補助添加剤を導入するための手段として、使用されていることが明らかになった。例えば米国特許第6,310,188号では、低分子量化合物を除去するために、キトサンの透析が利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
いくつかの系は組織接着剤の領域での使用が考慮されているが、現在利用できる系は、毒性、不十分な強度、または使用の難しさを含む欠点を持っている。したがって当技術分野では、滅菌された使いやすい形態で提供されうる安全かつ有効な組織接着剤であるさらなる組成物が求められている。高い接着性を持つそのような組成物は薬物送達にも著しい利益を与えるだろう。当技術分野では、美容外科手術および再建外科手術で使用される新規充填剤、増量組成物、または再建組成物になる、高度に水和された状態を保つ組成物も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の定義
「約」という用語は、そのパラメータが望ましい値の±10%以内であることを意味する。
【0018】
「実質的に均一」という用語は、ある組成物が、その組成物の全体にわたって、特性に10%未満の差を示すことを意味する。
【0019】
生物学的薬剤は、微生物ならびに高次生物(ヒトなどの哺乳動物および高等植物までを含む)を含む動物界または植物界の構成員に望ましい特性を付与する、または微生物ならびに高次生物(ヒトなどの哺乳動物および高等植物に至る高次生物までを含む)を含む動物界または植物界の構成員に対して望ましい作用を引き起こす、化合物またはそのような化合物の集合体である。生物学的薬剤は、望ましい作用に関して最初から活性であるか、または代謝作用もしくは活性化剤による外部からの活性化によって活性にすることができる。「適切な試薬」の項で、生物学的薬剤を一覧または明示する。これらの薬剤には、全ての殺生物剤、医薬、栄養剤、または望ましい生物学的作用を、それが例えば死(殺生物剤)であれ、処置(医薬)であれ、予防(栄養剤、ビタミンなど)であれ、直接的もしくは間接的に生じさせることのできる他のあらゆる化合物が含まれる。
【0020】
医薬組成物は、少なくとも一つの活性成分(例えば局所適用される治療剤)を含有する製剤である。ある実施形態において、組成物は一つ以上の賦形剤、緩衝剤、担体、安定剤、保存剤および/または増量剤も含有することができ、望ましい作用または結果を達成するための患者への投与に適している。本明細書に開示する医薬組成物は、さまざまな種、例えばヒト患者または対象者などにおいて、診断的、治療的、美容的および/または研究的有用性を持つことができる。
【0021】
眼異常は、眼または眼の部分もしくは領域の一つを冒す、またはそれらが関わる、疾患、不調または異常を包含しうる。大まかに言って、眼は、眼球と眼球を構成する組織および流動体、眼周囲筋(斜筋および直筋など)ならびに視神経のうち眼球内にあるか眼球に隣接している部分を含む。ヒト眼の前部は、虹彩、角膜、毛様体および水晶体を含む眼の前三分の一(眼のうち、硝子体液の前にある部分)である。また、眼の後部は、硝子体液、網膜、脈絡膜および視神経を含有する。
【0022】
前眼部異常は、前眼(すなわち眼の正面)領域または前眼部位、例えば眼周囲筋、眼瞼、また水晶体嚢の後壁もしくは毛様体筋より前方に位置する眼球組織または流動体を冒す、またはそれらが関わる、疾患、不調または異常である。したがって前眼部異常は主として、結膜、角膜、前房、虹彩、後房(網膜の後ろかつ水晶体嚢の後壁の前)、水晶体または水晶体嚢、ならびに前眼領域または前眼部位を血管化または神経支配する血管および神経を冒すか、それらが関わる。
【0023】
後眼部(同義語として本明細書では「後部」ともいう)異常は、主として、後眼領域または後眼部位、例えば脈絡膜または強膜(水晶体嚢の後壁を通る平面より後ろの位置にあるもの)、硝子体、硝子体腔、網膜、視神経(すなわち視神経円板)、ならびに後眼部(または後部)領域または部位を血管化または神経支配する血管および神経を冒す、またはそれらが関わる、疾患、不調または異常である。
【0024】
したがって後眼部異常は、例えば黄斑変性症(例えば非滲出型加齢黄斑変性症および滲出型加齢黄斑変性症);脈絡膜血管新生;急性黄斑視神経網膜症;黄斑浮腫(例えば類嚢胞黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫);ベーチェット病、網膜障害、糖尿病性網膜症(増殖性糖尿病性網膜症を含む);網膜動脈閉塞性疾患;網膜中心静脈閉塞症;ぶどう膜炎(中間部および前部ぶどう膜炎を含む);網膜剥離;後眼部位または後眼位置を冒す眼外傷;眼レーザー処置によって引き起こされた、または眼レーザー処置による影響を受けた、後眼部異常;光線力学的治療によって引き起こされた、または光線力学的治療による影響を受けた、後眼部異常;光凝固;放射線網膜症;網膜上膜障害;網膜静脈分枝閉塞症;前部虚血性視神経症;非網膜症糖尿病性網膜機能障害、色素性網膜炎および緑内障などの疾患、不調または異常を包含しうる。緑内障は後眼部異常とみなすことができる。なぜなら、治療目標が、網膜細胞もしくは視神経細胞への損傷またはそれら細胞の喪失による視力喪失を防止すること、またはそのような視力喪失の発生率を低下させること(すなわち神経保護)でありうるからである。
【0025】
前眼部異常は、例えば無水晶体;偽水晶体;乱視;眼瞼痙攣;白内障;結膜疾患;結膜炎;角膜疾患;角膜潰瘍;ドライアイ症候群;眼瞼疾患;涙器疾患;涙管閉塞;近視;老視;瞳孔障害;屈折障害および斜視などの疾患、不調または異常を包含しうる。緑内障は前眼部異常であるとみなすこともできる。なぜなら、緑内障処置の臨床目標は、眼の前房における高い房水圧を低下させる(すなわち眼内圧を低下させる)ことでありうるからである。
【0026】
発明の概要
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む生体材料を提供する。処理キトサンは、キトサンを水ならびにさまざまな塩類および/またはアニオン溶液に対して透析することによって調製される。これらの実施形態では、処理キトサンが、無処理キトサンから同定可能かつ再現可能に変化した構造コンフォメーションを持つ。結果として生じる処理キトサンは、無処理キトサンと比較して、化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。修飾キトサンには、キトサン分子に一つ以上の官能基を共有結合で付着させることによる化学修飾を受けたキトサンが包含される。修飾キトサンには、一つ以上の別個の化学修飾因子(原子構造物または分子構造物)と非共有結合的に会合しているキトサンも包含される。修飾キトサンは、いくつかの別個の化学修飾因子(原子構造物または分子構造物)が同時添加されたキトサンも包含しうる。修飾キトサンは、上記3クラスの修飾キトサンの組合せまたは混合物も包含しうる。化学修飾因子は一般に、与えられた適用にとって望ましい挙動、特性または特徴をキトサンに付与するように選択される。本発明の組成物は、液体、ヒドロゲル、固体、薄膜、粒子、造形構造物、およびナノ粒子を含む(ただしこれらに限るわけではない)いくつかの物理的形態に製剤化することができる。
【0027】
本発明のユニークな生体材料は、新規接着剤組成物または接着剤系としての使用、局所薬物送達の新規手段としての使用、および新規充填または増量材としての使用について、証明された実現可能性を持つ。本発明の製剤は競合技術に対して著しい利点を持つ。これらの利点には、例えば安全性および効力、すぐに使える滅菌製剤、調整可能な粘度を持つ製剤、生理学的適用に馴染みやすい迅速に調整できるpHおよび準備酸性度(reserve acidity)を持つ製剤、安価な基礎材料から容易にかつ迅速に生産される製剤などが含まれる。
【0028】
本発明は新規薬物送達系も提供する。
本発明は新規充填または増量材も提供する。
【0029】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物と生物学的薬剤とを含む組成物であって、生物学的薬剤は医薬活性剤などの生物活性剤であることができ、組成物が植物界または動物界の生物(ヒトを含む)に投与されると、その生物の一部位中に、生物学的薬剤が放出されるような組成物も提供する。
【0030】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物であって、少なくとも一つのキトサンが、それらキトサンの少なくとも一つに直接的にまたはリンカー部分を介して共有結合された医薬活性剤などの生物活性剤を含み、組成物が植物界または動物界の生物(ヒトを含む)に投与されると、その生物の一部位中または一部位上に、薬剤の加水分解的切断、酵素的切断または加水分解的切断と酵素的切断との組合せに依存して、時間をかけて、薬剤が放出されるような組成物を提供する。
【0031】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む接着剤組成物であって、非生体系用または生体系用に調整される組成物を提供する。場合により、本接着剤組成物は、添加剤、例えば充填剤、酸化防止剤、接着増強剤、または接着剤を特定の目的に適するように変性もしくは変化させるために接着剤に添加される他の薬剤を含むことができる。
【0032】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を、添加剤パッケージと、実質的に均一な接着剤組成物を形成させるのに十分な時間、温度および圧力で混合することを含み、接着剤組成物がその使用目的に適したものになるように添加剤パッケージを適合させる、本発明の接着剤組成物を製造するためのプロセスを提供する。本明細書に記載する手法のほとんどでは、圧力を独立して測定または制御することはしなかったので、圧力は温度および体積によって決まるか、単に大気圧であったが、本プロセスは、大気圧未満の圧力でも、大気圧を上回る圧力でも、容易に行うことができる。
【0033】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を、有効量の単一生物学的薬剤または複数生物学的薬剤と、実質的に均一な送達組成物が調製されるような条件下で混合することを含み、生物学的薬剤が殺生物剤、医薬、栄養剤などである、生物学的薬剤送達組成物を製造するためのプロセスを提供する。
【0034】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含むキトサン組成物を、医薬有効量の単一医薬剤または複数医薬剤と、キトサン組成物と単一または複数の医薬剤との間に共有結合的連結が形成されて持続放出性薬物送達組成物が形成されるような条件下で接触させることを含む、薬物送達組成物を製造するためのプロセスを提供する。ある実施形態では組成物が実質的に均一であるが、別の実施形態では、適用および所望する作用に依存して、組成物が不均一な場合もありうる。単一または複数の医薬剤は、単一または複数の医薬剤とキトサンとの間に共有結合連結を形成させるために、キトサン上の部分に直接付着させるか、キトサン上の部分にリンカーまたは連結基を介して付着させることができる。ある実施形態では、共有結合連結が、加水分解による切断、酵素活性による切断、光分解による切断、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによる切断を受けうる。別の実施形態では、共有結合連結が、加水分解による切断、酵素活性による切断、光分解による切断、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによる切断を受けない。
【0035】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含むキトサン組成物を、医薬有効量の単一医薬剤または複数医薬剤と、実質的に均一な薬物送達組成物が調製されるような条件下で接触させることを含む、薬物送達組成物を製造するためのプロセスを提供する。各修飾キトサンは、キトサン上の部位または部分に共有結合された、医薬剤上の部分と反応して共有結合連結を形成する能力を持つ基を含み、その共有結合連結は加水分解による切断、光分解による切断、酵素活性による切断、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによる切断を受けうる。
【0036】
本発明は、組織接着特性、キトサン組成物保持特性、および生物活性剤(医薬剤を含む)放出特性を研究するためのインビトロ組織構築物も提供する。1つの実施形態では、構築物が組織培養物を含み、その表面には、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物がコーティングされている。別の実施形態では、構築物が第1組織培養物と第2組織培養物とを含み、それらの間に、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含む組成物が差し挟まれている。別の実施形態では、構築物が組織培養物とパッチ材料とを含み、それらの間に、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含む組成物が差し挟まれている。これら全ての構築物において、キトサン組成物およびそれに基づく薬物送達系は、所望の作用または結果を達成するための患者への投与に適した(すなわち眼に適合する)医薬剤、賦形剤、緩衝剤、アジュバント、担体、安定剤、保存剤および/または増量剤を含むことができる。
【0037】
本発明は、以下の詳細な説明を、添付の例示的図面と一緒に参照すれば、より良く理解することができ、それらの図面では類似する要素に同じ番号を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、三角形の上頂点にコンパクトな球、左側頂点にランダムコイル、右側頂点に剛直ロッドを示す、高分子コンフォメーションのハウクトライアングル(Haug triangle)を示す。
【図2】図2AおよびBは、本発明のキトサン処理および/または修飾方法の二つの模式的実施形態を表す。
【図3】図3は、処理キトサン、実施例1の材料の数個の複製、および無処理キトサンから得た円偏光二色性(CD)スペクトルを表す。
【図4】図4は、処理キトサン、実施例1の材料の数個の複製、および無処理キトサンから得たGPCクロマトグラムを表す。
【図5】図5A〜Eは、分子量および脱アセチル化度などの特徴が異なる実施例1の材料が示すさまざまな粘度挙動を表す。
【図6】図6は、生細胞に対する本発明の材料の安全性を示す。初代培養物を実施例1の材料に20〜24時間曝露したとき、角膜内皮細胞の死は観察されなかった(中段のパネル)。真菌感染によって細胞の死が誘発され、この染色技法を使って死を検出することができた(下段のパネル)。
【0039】
【図7】図7は、実施例1の材料の用量を変化させて行った一連の角膜内皮細胞培養物毒性研究を表す。細胞毒性は観察されなかった。
【図8】図8は、角膜の実質内での本発明の材料の安全性を図示する。実施例1の材料は、慢性投与した場合でさえ、免疫原性または炎症性応答を事実上誘発しない。残留材料は、60日の時点でさえ、角膜に対する有害作用を伴わずに観察することができた。(インビボ研究)
【図9】図9は、ウサギの角膜上での実施例1の材料の保持を表す。適用後8時間および16時間の時点でさえ著しい残留がある。(インビトロ研究)
【図10】図10は、さまざまな時点後に角膜上に保持された実施例1の材料の量をグラフで表す。(インビトロ研究)
【図11】図11は、実施例1の材料による処置後の、擦過創傷におけるウサギ角膜再上皮化を示す一連の写真を表す。(インビボ研究)
【図12】図12は、損傷のない上皮、および残留した実施例1の材料を下層にして創傷を覆う新たに再生した上皮を示す、角膜の断面を表す。(インビボ研究)
【0040】
【図13】図13は、コラーゲンベースのモデルのいくつかの複製物からのエラスターゼによる偽薬の酵素的放出をグラフで表すもので、切断可能な薬物テザーの前提を実証する。
【図14】図14は、カルコフロール染色を使って、キトサンベースの組成物(A)を対照(B)との比較で陽性に同定した、適用2時間後のウサギ眼の角膜表面上での実施例1の材料の保持を示す証拠を表す。(インビボ研究)
【図15】図15は、市販の調製物(0.4%KT)と比較して、上回らないまでも同等な、実施例19の材料(0.2%KT)からのケトロラクトロメタミン(KT)の送達を表す。
【図16】図16は、市販の調製物(1%PA)と比較して、上回らないまでも同等な、実施例21の材料(0.05%PA)からの酢酸プレドニゾロン(PA)の送達を表す。
【図17】図17は、キトサン骨格にビマトプロストを共有結合で付着させるための合成法を表す。ビマトプロストをまず無水コハク酸と反応させる。これは、ビマトプロスト上のアルコール官能基に付着するリンカーをもたらす。次のステップでは、そのリンカーの遊離酸末端を、EDCカップリングを利用して、キトサン骨格に付着させる。
【0041】
【図18】図18は、実施例1の材料、ビマトプロストのみ、および実施例25の材料(ビマトプロストが共有結合で付着している実施例1の材料)のFT-IRスペクトルを表す。実施例25の材料のスペクトルでは1550cm-1および1620cm-1にビマトプロストに特有のバンドを見ることができ、これは、実施例1の材料にビマトプロストがうまく付着していることを示している。
【図19】図19は、注射29日後の眼周囲空間における本発明の2つの組成物の残存を表す。化合物A:濃度10mg/mLの実施例1の材料;化合物B:濃度70mg/mLの代替製剤。キトサンベースの組成物を陽性に同定するためにカルコフロール染色を使用した。(インビボ研究)
【図20】図20は、カルコフロール染色を使って、キトサンベースの組成物を陽性に同定した、注射29日後の眼周囲空間における実施例25の材料(これは共有結合されたビマトプロストを含む)の残存を表す。(インビボ研究)
【図21】図21は、酵素の存在下および非存在下における、共有結合で付着されたビマトプロストの、実施例25の材料からの相対的放出速度を表す。酵素が存在しない場合、放出されたビマトプロストは検出することができず、ブタ肝臓エステラーゼおよびリゾチームが存在する場合は、かなりの量のビマトプロストが放出される。(インビトロ研究)
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明者らは、変化した物理的、化学的、および/または性能的特性または特徴を持つキトサン材料を生産することができるある一定の処理および/または修飾に、キトサンを供しうることを見出した。本発明者らは、これらの処理キトサン、修飾キトサン、または修飾処理キトサンを含む製剤では、対応する無処理キトサン製剤の特性および/または特徴が変化、調整、および改善されていることも見出した。本発明者らは、これらの処理キトサン、修飾キトサン、または修飾処理キトサンが、生体接着剤組成物、および/または薬物送達組成物もしくは薬物送達系、および/または汎用接着剤組成物もしくは接着剤系、および/または充填剤もしくは増量組成物または充填剤もしくは増量系などとしての使用に、理想的によく適していることも見出した。本発明者らは、本発明の組成物が、競合技術と比較して異なるまたは改善された特性を示すことを見出した。本発明者らは、本発明の組成物の接着特性により、それらの材料が、ターゲット組織またはターゲット臓器の上または中に、長期間にわたって、その組織または臓器に有害な結果をもたらすことなく、存在しうることを見出した。本発明者らは、本発明の組成物に付着された切断可能リンカーまたは非切断可能リンカーの使用が、生物学的薬剤を送達するための手段になることも見出した。切断可能リンカーは、in situでの生物学的薬剤の放出をもたらすことができ、その放出は、加水分解、光分解、酵素活性、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによって引き起こされる。生物学的薬剤は殺生物剤、医薬、栄養剤などであることができ、加水分解、光分解、酵素活性、または加水分解、光分解および酵素活性の組合せによって放出されうる。酵素的放出の場合、酵素は構成的または誘導可能であるか、放出酵素を組成物自体に組み込むことができる。
【0043】
処理キトサン
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含むキトサン組成物を含む新規生体材料に関係する。処理には、少なくとも、キトサンのコンフォメーションおよび/または機能変化を引き起こすように設計された透析が含まれる。修飾には、少なくとも、(i)単一または複数の化学修飾因子または化学物質によるキトサンの共有結合的修飾、(ii)キトサンと単一または複数の化学物質との非共有結合的会合、(iii)単一または複数の化学物質のキトサンへの同時添加、あるいは(iv)その混合物または組合せが含まれる。化学物質または化学修飾因子は、原子構造物、例えば原子クラスター、量子ドット、もしくは他のナノ原子構造であるか、分子、分子構造物、または分子の集合体であることができる。
【0044】
本発明は、概して、有効量の処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む新規接着剤組成物または接着剤系であって、等価な量の対応する無処理キトサンを含む接着剤組成物と比較して、異なるまたは改善された接着特性を持つものにも関係する。本明細書において混合物という用語は、構成要素が一つに混合されていることを意味し、一方、組合せという用語は、構成要素を組み合せて、組成物内の別個の区画(例えば層、細片など)にすることを意味する。
【0045】
本発明は、概して、有効量の処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む新規薬物送達組成物または薬物送達系であって、等価な量の対応する無処理キトサンを含む薬物送達組成物と比較して、異なるまたは改善された薬物送達特性を持つものにも関係する。
【0046】
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含むキトサン組成物と、有効量の単一生物学的薬剤(例えば医薬剤)または複数生物学的薬剤とを含む新規薬物送達組成物または薬物送達系であって、有効量が所望の処置効果を惹起するのに十分な量であり、系が、等価な量の対応する無処理キトサンを含む薬物送達組成物または薬物送達系と比較して、異なるまたは改善された薬物送達特性を持つものにも関係する。キトサンマトリックスを含む本発明の組成物は、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して、組成物中の薬物濃度が等価であっても、組織薬物濃度を増加させることができる。したがって本発明の組成物では、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して低い、薬物の医薬有効量をもたらす。ある実施形態において、本発明の薬物送達組成物は、キトサン組成物が存在しない場合の同等な組成物よりも低い医薬有効量を実現する。
【0047】
ある実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも10%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも20%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも30%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも40%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも50%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも60%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも70%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも80%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも90%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも95%少ない。
【0048】
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む新規薬物送達組成物または薬物送達系であって、少なくとも一つのキトサンが、キトサンの部位または部分に共有結合された不安定な連結を介して、有効量の単一生物学的薬剤(例えば医薬剤)または複数生物学的薬剤を含み、有効量が所望の処置効果を惹起するのに十分な量であり、連結が加水分解的および/または酵素的に不安定であって、設計された期間にわたって、設計された速度で、生物学的薬剤を放出し、組成物が等価な量の対応する無処理キトサンを含む薬物送達系と比較して、異なるまたは改善された薬物送達特性を持つものにも関係する。
【0049】
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含む、有効量の接着剤組成物を、第1の基体のある部位に適用するステップを含む方法にも関係する。適用後に、その部位を第2の基体のある部位と接触させるが、その接触は、その接着剤組成物をして、対応する無処理キトサンを使って調製された接着剤系よりも強い力で、基体部位どうしを一つに結合させるのに十分な時間、温度、圧力および湿度で行われる。基体は、生体組織および/または非生体基体であることができる。
【0050】
本発明は、概して、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含む、有効量の接着剤組成物を、基体のある部位に適用するステップを含む方法であって、その接触が、その接着剤組成物をして、対応する無処理キトサンを使って調製された接着剤系よりも強い力で、基体を結合させるのに十分であるような方法にも関係する。基体は生体組織および/または非生体基体であることができる。
【0051】
本発明は、概して、キトサンを処理するための方法であって、原料キトサン(無処理キトサン)を、完全なキトサン溶解を促進するのに十分な時間および温度で、水性酸溶液に溶解させることを含む方法にも関係する。次に、溶解したキトサンを塩基で沈殿させる。酸溶解および塩基沈殿は2回以上行うことができる。次に、沈殿したキトサンを、遠心分離または固体構成要素と液体構成要素とを分離するための他の類似するプロセスによって、上清から分離する。次に、キトサンを透析チューブに入れ、酸溶液を使って溶解する。透析チューブ中での溶解後に、対応する無処理キトサンと比較してある一定の物理的、化学的および性能的特性または特徴の変化によって証明されるキトサンへの実質上可逆的な変化を引き起こす溶液に対して、キトサンを透析する。キトサンは、透析ステップの前または後に化学修飾することができる。
【0052】
本発明は、概して、キトサンを処理するための方法であって、原料キトサンを、完全なキトサン溶解を促進するのに十分な時間および温度で、水性酸溶液に溶解することを含む方法にも関係する。キトサンが溶解した後、溶解したキトサンに塩基をゆっくり加えてキトサンを沈殿させる。この際、塩基添加は溶液のpHを約pH9〜pH10の値にまで上昇させる。塩基処理後に、キトサンを水性酸溶液中で再び可溶化してから、塩基の添加によって再沈殿させる。次に、再沈殿したキトサンを遠心分離によって溶液から分離する。次に、沈殿したキトサンを、キトサンを溶解するのに十分な時間および温度で、酸溶液中で透析してから、キトサンのある一定の物理的および/または化学的特性を変化させる緩衝塩溶液に対して透析する。次いで、得られる処理キトサンを凍結乾燥することができる。典型的には、最初の塩基添加の前に、キトサンを化学修飾することができる。しかし化学修飾は、塩基添加後にも、さらには凍結乾燥材料からの再構成後でさえ、行うことができる。さらに、他の材料または構成要素の同時添加または組み込みを、本処理方法のさまざまなステップで行うことができる。
【0053】
全ての本発明組成物において、組成物は、所望する最終用途にとって望ましい特徴を持つ本発明の組成物の製剤が得られるように、賦形剤、アジュバント、保存剤、緩衝剤、ビヒクル、および/または他の任意の構成要素も含むことができる。
【0054】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含む組成物であって、各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す組成物にも関係する。ある実施形態では、組成物が溶媒も含み、そこに処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物が約0.1mg/mL〜約100mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約90〜約99.99v/v%の量で存在する。別の実施形態では、溶媒が水であり、各キトサンがヒドロゲルの形態をとる。別の実施形態では、組成物が有効量の生物学的薬剤も含む。別の実施形態では、組成物が有効量の生物学的薬剤も含み、溶媒が水であり、各キトサンがヒドロゲルの形態をとる。ある実施形態では、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物の濃度が約1mg/mL〜約50mg/mLであり、溶媒が約95〜約99.9v/v%の量で存在する。別の実施形態では、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物の濃度が約3mg/mL〜約30mg/mLであり、溶媒が約97〜約99.7v/v%の量で存在する。別の実施形態では、各修飾キトサンが、キトサンのアミンまたはアルコール部分に共有結合された官能化有効量の単一官能基または複数官能基を含み、官能化有効量はキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.01%〜約100%であり、単一または複数の官能基は各修飾キトサン中で同じであるか、または異なる。別の実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.1%〜約10%である。別の実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.5%〜約2%である。
【0055】
別の実施形態では、官能基が疎水性官能基、親水性官能基、イオン性官能基およびその混合物からなる群より選択される。一定の実施形態において、疎水性官能基は、1〜100個の炭素原子を持つアルキル基、アルケニル基、アラルキル(araalkyl)基、アルカリール基、およびその混合物からなる群より選択され、その基の炭素原子の一つ以上は、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ゲルマニウム、エステル部分、アミド部分、尿素部分、ウレタン部分、およびその混合物または組合せからなる群より選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子部分で置き換えられ、水素原子の一つ以上は、ハロゲン原子、アルコキシド基、アミド基、およびその混合物または組合せからなる群より選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子部分で置き換えられる。別の実施形態では、疎水性官能基が、カルボン酸、有機スルホン酸、ポリエーテル、ポリエーテルアミン、ステロール類、ポルフィリン類、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。ある実施形態では、親水性官能基が、ジアミン、ポリアミン、ジオール、ポリオール、二酸、ポリ酸、クラウンエーテル、グライム類、ポリアルケニルエーテル、ポリアルケニルアミン、ポリアルケニルエーテルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、またはその混合物もしくは組合せからなる群より選択される。
【0056】
ある実施形態では、イオン性官能基が、金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、ジカルボン酸、ポリカルボン酸(この場合、一つのカルボン酸はキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他の酸基は電荷を帯びることができる)、ジアミン、ポリアミン(この場合、一つのアミンはキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他のアミノ基は電荷を帯びることができる)、金属イオン、イオン性原子クラスター、イオン性分子構造、単アニオン、多原子アニオン、脱プロトン化オキソ酸、置換脱プロトン化オキソ酸または脱プロトン化有機酸(この場合、これらの基は静電相互作用によってキトサンと相互作用する)、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。別の実施形態において、組成物は、緩衝剤、ビヒクル、添加剤、保存剤、賦形剤、アジュバント、またはその組成物を特定の目的に適したものにするであろう他の任意の構成要素も含むことができる。上記組成物のいずれにおいても、任意の量の他の構成要素を組成物に加えることができる。
【0057】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物にも関係する。これらのキトサンのそれぞれは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的および/または物理的特性ならびに性能的特性および特徴に変化を示す。各処理キトサンは、可溶化したキトサンを水、塩溶液および/またはアニオン溶液に対して透析することによって調製される。各修飾キトサンは、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加でキトサンを変化させることによって調製される。原子および/または分子剤は、与えられた適用にとって望ましい挙動、特性または特徴をキトサンに付与するように選択される。ある実施形態では、組成物が液体、固体、分散系、懸濁液、ヒドロゲル、粒子、ナノ粒子、薄膜、または造形構造物の形態をとる。別の実施形態では、組成物が生物学的薬剤を含み、その組成物は、有効量の薬剤を、生物のある部位中に、所望の期間にわたって放出することができる。別の実施形態では、薬剤が、組成物中のキトサンの少なくとも一つに、直接的に、またはリンカー部分を介して、共有結合され、その組成物は、有効量の薬剤を、生物のある部位中に、ある期間にわたって放出することができ、その期間は、前記少なくとも一つのキトサンからの薬剤の加水分解的切断、酵素的切断、または加水分解的切断と酵素的切断の組合せの速度のいずれかに依存する。
【0058】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む接着剤組成物であって、各修飾キトサンが対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示すものにも関係する。ある実施形態において、組成物は、その組成物が所望の接着目的に適したものになるように適合させた添加剤パッケージも含む。別の実施形態では、添加剤パッケージが生体適合性充填剤、接着増強剤、またはその混合物を含む。
【0059】
本発明は、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む充填剤組成物であって、各キトサンが対応する無処理キトサンよりも高度に水を吸収し保持するものにも関係する。ある実施形態において、組成物は、充填剤組成物の充填剤特性が強化されるように適合させた添加剤パッケージも含む。別の実施形態では、添加剤パッケージが生体適合性充填剤、保水添加剤、またはその混合物を含む。
【0060】
本発明は、ある組織部位の表面に、キトサン組成物を含む有効量の水性処理溶液を適用して、被覆表面を形成させるステップを含む、組織を結合する方法にも関係する。キトサン組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含み、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。キトサン組成物は、所望の期間にわたってその表面上に存続するのに十分な接着強さおよび十分な表面への保持性で表面に接着する。ある実施形態では、本方法が、被覆表面を基体の表面と接触させるステップも含み、その接触は、そのキトサン組成物をして、対応する無処理キトサンを含むキトサン組成物よりも強い力で、組織部位表面を基体表面に結合させるのに十分な時間、温度、圧力および湿度で行われる。ある実施形態では、基体が第2の組織部位である。別の実施形態では、基体が合成材料、生物学的材料またはその混合物である。ある実施形態では、各修飾キトサンが、キトサンのアミンまたはアルコール部分に共有結合された官能化有効量の単一官能基または複数官能基を含み、有効量がキトサンの一つ以上の特性を変化させるのに十分の量であり、単一または複数の官能基が各修飾キトサン中で同じであるか、または異なる。ある実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.01%〜約100%である。別の実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.1%〜約10%である。別の実施形態では、官能化有効量がキトサンのアミンまたはアルコール部分の約0.5%〜約2%である。
【0061】
別の実施形態では、官能基が、疎水性官能基、親水性官能基、イオン性官能基、量子ドット、原子クラスター、NMR活性基、蛍光基、色素、およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、疎水性官能基が、1〜100個の炭素原子を持つアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルカリール基、およびその混合物からなる群より選択され、その基の炭素原子の一つ以上は、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ゲルマニウム、エステル部分、アミド部分、尿素部分、ウレタン部分、およびその混合物または組合せからなる群より選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子部分で置き換えられ、水素原子の一つ以上は、ハロゲン原子、アルコキシド基、アミド基、およびその混合物または組合せからなる群より選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子部分で置き換えられる。別の実施形態では、疎水性官能基が、カルボン酸、有機スルホン酸、ポリエーテル、ポリエーテルアミン、ステロール類、ポルフィリン類およびその混合物または組合せからなる群より選択される。ある実施形態では、親水性官能基が、ジアミン、ポリアミン、ジオール、ポリオール、二酸、ポリ酸、クラウンエーテル、グライム類、ポリオール、ポリアミン、ポリアルケニルエーテル、ポリアルケニルアミン、ポリアルケニルエーテルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、またはその混合物もしくは組合せからなる群より選択される。ある実施形態では、イオン性官能基が、金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、ジカルボン酸またはポリカルボン酸(この場合、一つのカルボン酸はキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他の酸基は電荷を帯びることができる)、ジアミンまたはポリアミン(この場合、一つのアミンはキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他のアミノ基は電荷を帯びることができる)、金属イオン、イオン性原子クラスター、イオン性分子構造、単アニオン、多原子アニオン、脱プロトン化オキソ酸、置換脱プロトン化オキソ酸または脱プロトン化有機酸(この場合、これらの基は静電相互作用によってキトサンと相互作用する)、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。
【0062】
別の実施形態では、キトサン組成物中の各キトサンがヒドロゲルの形態をとり、キトサン組成物は約0.1mg/mL〜約100mg/mLの濃度で存在し、水は約90〜約99.99v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物が約1mg/mL〜約50mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約95〜約99.9v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物が約3mg/mL〜約30mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約97〜約99.7v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物がさらに、有効量の生物学的薬剤を含む。ある実施形態では、キトサン組成物中の各キトサンがヒドロゲルの形態をとり、キトサン組成物が約0.1mg/mL〜約100mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約90〜約99.99v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物が約1mg/mL〜約50mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約95〜約99.9v/v%の量で存在する。別の実施形態では、キトサン組成物が約3mg/mL〜約30mg/mLの濃度で存在し、溶媒が約97〜約99.7v/v%の量で存在する。
【0063】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物を、有効量の単一生物学的薬剤または複数生物学的薬剤と、実質的に均一な送達組成物を形成させるのに十分な条件下で混合することを含む、送達組成物を製造するためのプロセスにも関係する。各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。
【0064】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物を、有効量の単一生物学的薬剤または複数生物学的薬剤と接触させることを含む、生物学的薬剤送達組成物を製造するためのプロセスにも関係する。各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。各薬剤は、キトサンと各生物学的薬剤との間に共有結合連結が形成されて、その結果、持続放出性の生物学的送達組成物が形成されるような条件下で処理キトサン上の部位と反応して共有結合連結を形成するように適合させた官能基を含む。その連結は加水分解による切断、酵素活性による切断または加水分解と酵素活性との組合せによる切断を受けうる。
【0065】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物を、有効量の単一生物学的薬剤または複数生物学的薬剤と、実質的に均一な薬物送達組成物が調製されるような条件下で接触させることを含む、生物学的薬剤送達組成物を製造するためのプロセスにも関係する。各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。生物学的薬剤は、キトサン上の反応性基の一部または実質上全てに、共有結合される。薬物送達組成物は、加水分解、酵素活性または加水分解と酵素活性との組合せにより、有効量の生物学的薬剤を、ある期間にわたって放出することができる。
【0066】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む組成物にも関係する。処理には、少なくとも、対応する無処理キトサンと比較して各キトサンの一つ以上の化学的、物理的および/または性能的性質または特徴を変化させるのに十分な条件下で、無処理キトサンまたは修飾無処理キトサンを透析することが含まれる。修飾には、(i)キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させること、(ii)キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させること、(iii)キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させること、または(iv)これら三つの修飾タイプの混合物または組合せが含まれる。
【0067】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む薬物送達系であって、各処理キトサンおよび各修飾キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示すものにも関係する。キトサンは、不安定な連結を介してキトサン中の部位に共有結合された、医薬有効量の単一医薬剤または複数医薬剤を持つ。医薬有効量は、所望の処置効果を惹起するのに十分な量である。連結は、加水分解的に不安定、酵素的に不安定、または加水分解的かつ酵素的に不安定であり、医薬剤を、設計された期間にわたって、設計された速度で放出する。この系は、等価な量の対応する無処理キトサンを含む薬物送達系と比較して異なるまたは改善された薬物送達特性を持つ。
【0068】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む有効量の接着剤系を、第1基体のある部位に適用するステップを含む方法にも関係する。各処理キトサンおよび各修飾キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。この方法は、その部位を第2基体の対応する部位と接触させるステップも含み、その接触は、接着剤系をして、対応する無処理キトサンを使って調製された等価な接着剤系よりも強い力で、基体部位どうしを一つに結合させるのに十分な時間、温度、圧力および湿度で行われる。ある実施形態では、基体が生体組織であるか、または生体組織とパッチ材料である。
【0069】
本発明は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物を含む有効量の接着剤系を、基体のある部位に適用するステップを含む方法にも関係する。各処理キトサンおよび各修飾キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。接触は、接着剤系をして、対応する無処理キトサンを使って調製された等価な接着剤系よりも強い力で、基体を結合させるのに十分なものである。ある実施形態では、基体が生体組織であるか、または生体組織とパッチ材料である。
【0070】
本発明は、原料キトサンを、完全なキトサン溶解を促進するのに十分な時間および温度で、第1水性酸溶液中に溶解させるステップを含む、キトサンを処理するための方法にも関係する。溶解したキトサン溶液に塩基を加えてキトサンを沈殿させる。この際、塩基の添加は、溶解したキトサン溶液のpHを、約pH9〜約pH10の値に上昇させる。沈殿したキトサンを、第2の水性酸溶液に再溶解させる。次に、再溶解したキトサン溶液に塩基を加えてキトサンを沈殿させる。再沈殿したキトサン溶液を遠心分離にかけて、キトサンを溶液から分離する。再沈殿したキトサンを、酸溶液内で、透析チューブ中のキトサンを溶解させるのに十分な時間および温度で透析する。次に、対応する無処理キトサンまたは無処理修飾キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴を変化させる緩衝塩溶液に対して、酸透析キトサンを透析する。ある実施形態において、本方法は、透析したキトサンを凍結乾燥して、対応する無処理キトサンよりも低い見掛けの分子量および高い組織接着強さを持つキトサンを形成させることも含みうる。
【0071】
別の実施形態において、本方法は、第1塩基添加ステップの前に、キトサンを化学修飾することも含みうる。別の実施形態では、化学修飾を、プロセスの任意の段階で、例えば原料キトサンに対して、水透析キトサンに対して、酸透析キトサンに対して、凍結乾燥キトサンに対して、または再構成キトサンに対して行うことができる。別の実施形態において、本方法は、凍結乾燥前に、透析したキトサンに添加剤パッケージを添加することも含みうる。別の実施形態では、添加剤パッケージを、プロセスの任意の段階で、例えば原料キトサンに、水透析キトサンに、酸透析キトサンに、凍結乾燥キトサンに、または再構成キトサンに添加することができる。もちろん、どこで添加剤パッケージを添加するかは、その添加剤と、どこであればそれがプロセスステップに耐えうるかに依存するだろう。したがって、添加剤パッケージが透析中に失われる場合、その添加剤パッケージは透析後に添加する必要がある。同様に、添加剤パッケージが化学修飾中に変化または喪失する場合、その添加剤パッケージは修飾後に添加する必要があるだろう。プロセスステップの順序が、要求される手順よりも、所望する材料に大きく依存することは、当業者には理解されるはずである。したがって、キトサンの見掛けの分子量を変化させる透析ステップによってもたらされるキトサンの変化を、組成物が必要としている場合、プロセスステップは、その目的が遂行されるように整えられるだろう。あるいは、プロセスステップは、一連の望ましい特性または特徴が組成物に付与されるように整えられるだろう。
【0072】
本発明は、タンパク質と生物学的薬剤との間にナフタルイミド基の光活性化によって作られた連結を含む組成物にも関係する。組成物は、生物学的薬剤が、ナフタルイミド連結の加水分解、光分解および/または酵素的切断によって、ある期間にわたって放出されるように設計される。本発明は、生物学的薬剤をタンパク質に結合する方法であって、ナフタルイミド基の光活性化によってタンパク質と生物学的薬剤の間に連結を形成させるステップを含み、その連結が、生物学的薬剤を、加水分解、光分解および/または酵素活性により、ある期間にわたって放出する方法にも関係する。
【0073】
本発明は、テザー生物学的薬剤の製造方法であって、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せを含むキトサン組成物を、生物学的薬剤と、単一キトサンまたは複数キトサン上の部分と生物学的薬剤上の部分との間に連結が形成されるように適合させた条件下で接触させるステップを含み、連結が加水分解的切断、光分解的切断または酵素的切断に対して非感受性である方法にも関係する。ある実施形態において、連結は2つの部分間の直接的連結であるか、連結が2つの部分間に差し挟まれたリンカーを含む。
【0074】
発明の経緯
本発明者らが行った修飾キトサンの最初の試みは、ナフタルイミドで修飾されたキトサンを調製して、キトサン単独よりも大きな接着強さを示す光活性化材料をもたらすことだった。参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第10/982,197号を参照されたい。
【0075】
本発明者らがナフタルイミド修飾キトサンの最適化を始めたところ、リン酸緩衝食塩水に対する透析が、ナフタルイミド修飾キトサンならびに天然のキトサンから誘導される生体接着剤の接着強さを著しく増大させることが見出された。
【0076】
ナフタルイミド修飾キトサンが光の非存在下で結合を示すことがわかった。そこで本発明者らは、キトサンのある特徴または品質を向上するためにキトサンを有機分子で修飾することの可能性を探究し始めた。同じ反復プロセスにより、天然のキトサンと修飾キトサンの結合能はどちらも著しく向上されることが見出された。場合によっては、ある修飾が、結果として得られる修飾キトサン製剤に、さらなる生体適合性、望ましい分解プロファイル、または他の望ましい特性を付与しうる。
【0077】
本発明者らは、本発明の方法がユニークなキトサン材料をもたらすことを見出した。天然のキトサンは、典型的には、図1に示す高分子コンフォメーションのハウクトライアングルのランダムコイル/剛直ロッド領域付近に置かれるような分子形態をとることが見出される。以下に示す実験データは、本発明の方法に従って調製された処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せが、無処理キトサンとの比較で、測定される分子量の減少を明白に示すことを実証している。特定の理論または理論的説明に束縛されるわけではないが、図1のハウクトライアングルに示すように、この、実質的に可逆的な、より低い見掛け分子量へのシフトは、キトサン分子のコンフォメーションがランダムコイルからよりコンパクトな球状コンフォメーションへと変化したためであると、本発明者らは考えている。したがって本発明者らは、キトサン分子コンフォメーションがハウクトライアングルの左頂点からハウクトライアングルの上頂点に移動すると考えている。
【0078】
解析評価により、よりコンパクトな3Dコンフォメーションおよび/または構造を与える、分子の3Dキトサン化学構造の収縮の前提が裏付けられる。どんな理論にも束縛されるつもりはないが、この観察可能なキトサン分子形態の変化が、本発明の処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを使って得られる、対応する無処理キトサンと比較して改善された生体接着特性の原因であるだろうと、本発明者らは考えている。
【0079】
本発明は、多目的な適用のための接着剤として使用するための、および医学的適用(特に組織結合を伴う医学的適用)のための接着剤系として使用するための、キトサンの処理または修飾および処理に関係する。処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサンまたはその混合物もしくは組合せを含む本発明の組成物は、局所薬物送達のための手段としてもよく適している。本発明の処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、または混合物もしくは組合せは、充填、増量または再建手法にもよく適している。
【0080】
キトサンは、多数のヒドロキシ官能基およびアミノ官能基を含有し、それらがキトサンを化学修飾の理想的な候補にしている。本発明では、そのアミノ官能基の固有の求核性を、スルホンアミド連結およびアミド連結または他の類似する窒素含有化学連結(例えばウレタン連結、尿素連結、チオ尿素連結など)の形成によって広範囲にわたる化学部分をカップリングし、または付着するための部位として利用する。本発明は、有機酸クロリド、スルホン酸クロリドおよびジイミドカップリング試薬を使った所望の化学修飾体の生産を詳述する。基質上のアミノ官能基を利用する、当業者に知られる任意の適当な反応方法論を使って、そのような修飾を実行することができるだろう。
【0081】
本発明の開発中に、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物もしくは組合せ(この場合、修飾には、キトサン構造中への化学物質の共有結合による付着または同時添加を伴う)が、いくつかの潜在的用途のための、さまざまな、多くの場合好ましい機能的特徴を持つ、ユニークな生体材料を与えることが見出された。これらの用途には、新規接着剤系、局所薬物送達系のための新規手段、および新規充填または増量系が含まれる。現在のところ発明の焦点は生物医学的適用にあるが、本接着剤系は、より広い適用を(とりわけ非生体基体と生体基体または別の非生体基体との結合に、または向上された生体適合性もしくは他の望ましい特性を付与するための非生体基体のコーティングとして)見出しうる。
【0082】
本発明者らは、天然のキトサンまたは無処理キトサンと比較してはるかに優れた組織結合特性を持つ新規なキトサンベースの接着剤組成物または接着剤系を製剤化できることを見出した。本発明者らは、本発明の新規キトサンベース接着剤組成物または接着剤系の製剤に使用されるキトサンが、それらを標準的、天然、無処理または未加工キトサンから区別して、本発明のキトサンおよびそこから製剤化される接着剤の明確な示差的解析評価を可能にする特性を持つことも見出した。本発明者らは、キトサンのある一定の変化した物理的および/または化学的特徴が可逆的であることも明らかにした。したがってこれらの転換は、キトサンの基本的な化学的性質を破壊したり根本的に変化させたりはせず、処理キトサンの特性を無処理キトサンと比較して実質的に変化させるに過ぎないようである。本発明者らは、製剤のより優れた保持および所望の医薬剤の改善されたバイオアベイラビリティーをもたらす新規薬物送達マトリックスを製剤化できること、つまり本発明の組成物は、市販の送達組成物と比較して、少ない薬物濃度で、類似する治療効果および/または類似するバイオアベイラビリティーをもたらすことも見出した。さらにまた、本発明者らは、本発明の組成物が、再建外科手術または美容外科手術などの分野において充填剤または増量剤として使用するのに望ましい特徴を示すことも見出した。本発明の組成物は、再建手術および美容手術において一般に増大される組織内で、極めて好都合な生体適合性を示す。したがって本発明の組成物は、その組成物が所望の特性および特徴を持つように調整することが可能である。
【0083】
本発明の多くの実施形態において、処理キトサン、修飾キトサンおよび/または修飾処理キトサンを含む本発明の組成物は、凍結乾燥状態から水性溶液中に再構成されてヒドロゲル、水性分散系、水性懸濁液、水性ペーストなどを形成するが、本組成物は、凍結乾燥状態で直接利用することもできる。そのような実施形態では、凍結乾燥材料を、生物学的薬剤または充填剤などの他の材料と、乾式混合することができる。本組成物を水または水性溶液を使って膨潤(不完全溶解)させて、他の構成要素と混合することもできる。次にこれらの材料を完全に水和または再構成させることができる。乾燥または膨潤した本発明の組成物を直接使用することもでき、その場合、処理キトサン、修飾キトサンおよび/または修飾処理キトサンは、その組成物を含有する材料が植え込まれまたは組織と接触し配置された後に、in situでヒドロゲルを形成する。
【0084】
適切な試薬類
本発明における使用に適したアミノ酸としては、α位に配置されたカルボキシル基とアミノ基とを含む任意の天然もしくは合成化合物、またはカルボキシル基とアミノ基とを含みポリペプチド鎖中に組み込まれうる任意の化合物、またはカルボン酸類似体もしくはアミノ基類似体を含む化合物であってポリペプチド鎖中に組み込まれうるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
本発明における使用に適したポリペプチドとしては、アミノ酸の鎖を含む任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本発明における使用に適した酵素としては、アミノ酸から構成され、化学反応を触媒する能力を持つ、任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
本発明における使用に適したリボザイムとしては、ヌクレオチドから構成され、化学反応を触媒する能力を持つ、任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
本発明における使用に適したヌクレオチドとしては、ヌクレオチド鎖に組み込まれうる任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
本発明における使用に適したオリゴヌクレオチドとしては、比較的少数のヌクレオチド(一般的には約2〜約20個)を含む、任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明における使用に適したポリヌクレオチドとしては、多数のヌクレオチド(一般的には約20個より多く、数千個まで)を含む任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
本発明における使用に適した核酸としては、2個〜数百万個またはそれ以上のヌクレオチドを含む任意の天然または合成化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
本発明のキトサンを修飾する際に使用するのに適した疎水性基としては、1個〜約100個の炭素原子を持つアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、およびアルカリール基が挙げられるが、これらに限定されない。これらの基では、一つ以上の炭素原子をヘテロ原子またはヘテロ原子含有基で置き換えることができ、その場合、ヘテロ原子は酸素、窒素、硫黄、ケイ素、ゲルマニウム、ガリウム、およびその混合物からなる群より選択され、ヘテロ原子含有基はアルコキシド基、スルフィド基、アミド基、ケイ素含有基、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。これらの基では、水素原子の一つ以上をヘテロ原子またはヘテロ原子含有基で置き換えることができ、その場合、ヘテロ原子はハロゲン原子およびその混合物からなる群より選択され、ヘテロ原子含有基はアルコキシド基、スルフィド基、およびその混合物または組合せからなる群より選択される。
【0093】
本発明のキトサンを修飾する際に使用するのに適した親水性基としては、キトサンの親水性または吸湿特性を強化しまたは変化させる任意の単一基または複数基が挙げられるが、これらに限定されない。そのような親水性または吸湿性基の典型例として、ジアミン、ポリアミン、ジオール、ポリオール、二酸、ポリ酸、クラウンエーテル、グライム類、ポリアルケニルエーテル、ポリアルケニルアミン、ポリアルケニルエーテルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、またはキトサンの親水性もしくは吸湿特性を強化しもしくは変化させることができる他の任意の基、またはその混合物もしくは組合せが挙げられる。
【0094】
本発明のキトサンを修飾する際に使用するのに適したイオン性基としては、キトサンのイオン特性を強化しまたは変化させる任意の単一基または複数基が挙げられるが、これらに限定されない。典型的な基として、ジカルボン酸またはポリカルボン酸(この場合、一つのカルボン酸はキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他の酸基は電荷を帯びることができる)、ジアミンまたはポリアミン(この場合、一つのアミンはキトサンとの共有結合連結を形成するために使用され、他のアミノ基は電荷を帯びることができる)、金属イオン、イオン性原子クラスター、イオン性分子構造、単アニオン、多原子アニオン、脱プロトン化オキソ酸、置換脱プロトン化オキソ酸または脱プロトン化有機酸(この場合、これらの基は静電相互作用によってキトサンと相互作用する)、他の任意の荷電基またはその混合物もしくは組合せが挙げられる。
【0095】
本発明の組成物における使用に適した生物学的薬剤としては、所望する生物学的作用を直接的または間接的に引き起こす任意の生物活性剤、または所望する生物学的、生理学的、もしくは他の作用、例えば保護コーティングなどを引き起こす任意の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。典型的な生物学的薬剤としては、殺生物剤、医薬、栄養剤、またはその混合物もしくは組合せが挙げられるが、これらに限定されない。殺生物剤としては、農薬、抗微生物剤、殺精子剤またはその混合物もしくは組合せが挙げられるが、これらに限定されない。農薬としては、殺真菌剤、除草剤、殺虫剤、殺藻剤、軟体動物駆除剤、殺ダニ剤および殺鼠剤が挙げられるが、これらに限定されない。抗微生物剤としては、殺菌剤、抗生物質、抗細菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤、および抗寄生虫剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
医薬としては、疾患、機能障害、疾病などを予防または処置するために、またはそのような疾患、機能障害、疾病などの症状を軽減または改善するために、ヒトを含む動物に与えられる任意の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。医薬の典型例としては、心臓薬;心血管薬;利尿剤;精神療法薬;胃腸薬;抗がん薬;避妊薬;眼薬;抗炎症薬;消化管用医薬剤、例えば限定するわけではないが、制酸薬、制吐薬、H2アンタゴニスト、プロトンポンプ阻害剤、緩下剤、止痢剤など、またはその混合物もしくは組合せ;血液および造血器用医薬剤、例えば限定するわけではないが、抗凝固剤、抗血小板剤、血栓溶解剤など、またはその混合物もしくは組合せ;心血管系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、抗不整脈剤、抗高血圧剤、利尿剤、血管拡張剤、抗狭心症剤、β遮断剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗高脂血症剤など、またはその混合物もしくは組合せ;皮膚用医薬剤、例えば限定するわけではないが、皮膚軟化剤−かゆみ止めなど、またはその混合物もしくは組合せ;生殖系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、ホルモン避妊薬、妊娠促進剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、性ホルモンなど、またはその混合物もしくは組合せ;内分泌系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、抗糖尿病薬、コルチコステロイド、性ホルモン、甲状腺ホルモン;感染および寄生のための医薬剤、例えば限定するわけではないが、抗生物質、抗ウイルス剤、ワクチン、抗真菌剤、抗原虫剤、駆虫剤など、またはその混合物もしくは組合せ;悪性疾患および免疫疾患用医薬剤、例えば限定するわけはないが、抗がん剤、免疫賦活剤、免疫抑制薬など、またはその混合物もしくは組合せ;筋、骨、および関節用医薬剤、例えば限定するわけではないが、タンパク質同化ステロイド、抗炎症剤、抗リウマチ剤、コルチコステロイド、筋弛緩薬など、またはその混合物もしくは組合せ;眼用医薬;脳および神経系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、麻酔薬、鎮痛薬、抗痙攣薬、気分安定剤、抗不安剤、抗精神病薬、抗うつ薬、神経系刺激剤、鎮静薬;呼吸器系用医薬剤、例えば限定するわけではないが、気管支拡張剤、充血除去剤、H1アンタゴニストなど、またはその混合物もしくは組合せが挙げられる。
【0097】
本発明の合成法
キトサン溶解のための一般手法
キトサンを10%有機酸または非酸化性鉱酸溶液で可溶化した。使用した有機酸または非酸化性鉱酸は、本発明を製造するために使用したそれ以降のステップと、本発明の最終的適用とに依存した。限定するわけではないが、鉱酸には、HCl、硫酸、リン酸または他の任意の非酸化性鉱酸が含まれる。表1に、このプロセスに適した有機酸の選択肢の非限定的なリストを記載する。
【0098】
【表1】
【0099】
キトサンは混合せずに一晩可溶化させた。キトサンを完全に溶解させた後、サンプルを機械式混合機に乗せ、約30分間撹拌してから、次のステップに進んだ。サンプルは、キトサン精製プロセスの最後に行われる最後の塩基沈殿まで撹拌し続けた。
【0100】
キトサン修飾(随意)
処理済であるが無修飾のキトサンが望まれる場合には、合成プロトコールにおけるこのステップを省いた。修飾キトサンまたは修飾処理キトサンが望まれる場合は、表2の非限定的リストに示すいくつかの広範なカテゴリーに含まれるさまざまな化学物質を使って、処理キトサンを修飾することができる。これらの修飾は合成法中のさまざまな時点で行うことができる。これらの部分は、例えば限定するわけではないが、表2または実施例1〜4および6に記載の連結ケミストリーを使って、キトサン基質に共有結合付着させることができる。得られる修飾度は修飾ステップで添加される修飾因子の量によって決定された。修飾因子が液体でない場合は、それを適当な溶媒に溶解した。次に、撹拌したキトサンに修飾因子を滴下によってゆっくり加えた。選択した修飾因子に応じて、適当な期間にわたって、修飾因子をキトサンと混合させた。
【0101】
【表2−1】
【0102】
【表2−2】
【0103】
キトサンは単一の原子状および/もしくは分子状官能基または複数の原子状および/または分子状官能基による多種多様な修飾に馴染みやすいが、キトサンの物理的、化学的または機能的特性または特徴を変化させる目的でキトサンを修飾するために本発明者らが使用した官能基のリストを表3に示す。原子状官能基という用語は、単一原子、例えば金属原子またはイオンなどの付着、ホモ原子クラスターもしくは混合原子クラスターを含む原子クラスター、量子ドット、または通常の分子結合を示さないであろう他の任意の小さな原子集合体の付着を包含するものとする。
【0104】
【表3】
【0105】
塩基処理
塩基をキトサンサンプルにpHが9〜10になるまでゆっくり加えた(9と10の間で識別可能な変色を起こすpH試験紙を使用した)。キトサン溶液は極めて粘稠になったので、このステップ中の混合プロセスを助けるために、機械的混合に加えて、テフロン撹拌子も使用した。
【0106】
キトサン精製
10%(v/v)有機酸溶液の添加により、キトサンを酸に再可溶化した。再可溶化は一晩進行させた。全てのキトサンが溶解状態に戻ってから、塩基をゆっくり加えることにより、キトサンを再沈殿させた。完全な沈殿が、塩基性pH(9〜10)の達成とサンプル上清における顕著な粘性の欠如の両方によって示された。共有結合で修飾されたキトサンを含むキトサンをこのステップで沈殿させて、未反応の修飾試薬類を含む小分子を溶液中に残した。混合機をサンプルから取り除き、サンプルを遠心分離し(例えば385O×Gまたはキトサンを沈降させるのに十分なG力)、上清を捨てた。
【0107】
透析
遠心分離ステップで得た固形キトサンを透析チューブ(フラット径10mm、MWカットオフ12,000〜14,000)に移した。キトサンを10%(v/v)有機酸溶液に対して、固形物が再溶解するまで透析した。このステップでは最初のキトサン希釈に選択したものと同じ酸を使用した。しかし、最終生成物が使用される用途に応じて、酸は最初の溶解ステップで使用した酸とは異なる酸であってもよく、その選択は、以降の合成ステップに左右されるだろう。表1に考えうる酸選択肢の非限定的リストを示す。次に酸透析液を取り除き、水で置き換え、3時間以上透析する。次に、水をさらに2回取り替えて、水での洗浄を合計3回行った。少量のキトサンを透析チューブから取り出し、pH計を使ってpHを測定した。次に、透析液を緩衝塩溶液に変え、キトサンのpHが一般にpH5.7〜6.0の範囲になるまで、透析を監視した。透析に使用する緩衝塩溶液は、最終生成物の適用に基づいて選択した。考えうる緩衝塩溶液の非限定的リストを表4に記載する。所望のpH範囲が3時間で達成されない場合は、新たな緩衝塩溶液を使用した。次にキトサンを水に対して3回透析した(各洗浄を3時間以上続けた)。キトサンを透析チューブから取り出し、凍結乾燥フラスコ中で合わせた。上述の洗浄ステップはいずれも、1回の洗浄ステップまたは追加洗浄ステップを含むことができ、洗浄ステップあたりの洗浄回数は、必要性の問題というよりも、任意である。
【0108】
【表4】
【0109】
キトサン凍結乾燥
透析したキトサンを含有するフラスコを-80℃のフリーザーに一晩入れた。次に試料を凍結乾燥し、使用するまで貯蔵した。
【0110】
キトサン再構成
ある量の本発明の凍結乾燥キトサンを、所望の製剤濃度(PBSまたは他の適当な希釈剤1ミリリットルあたりのキトサンのミリグラム数で表す)を与えるであろう体積の滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS;pH=7.4)または他の適当な希釈剤と混和することによって、最終製剤を調製した。サンプルを、滅菌前に、少なくとも4時間、またはその具体的最終製剤にとって適当な時間、可溶化させた。
【0111】
滅菌
キトサン製剤をオートクレーブ中で蒸気滅菌した。これは、サンプルバイアルをアルミニウム箔で覆い、オートクレーブ内部の水槽に入れることによって行った。滅菌後にサンプルを室温まで冷却させ、最終pHを測定した。望ましい製剤pHは約5〜約7である。ある実施形態では、pH範囲が約6〜約7である。別の実施形態では、pH範囲が約6.2〜約6.4である。
【0112】
非共有結合的化学修飾因子の添加(随意)
本発明の組成物の全てにおいて、単一修飾試薬または複数修飾試薬の添加によってキトサン特性のさらなる操作を達成することができ、その場合、それらの試薬は、意図する目的に合わせて調整された組成物が製造されるような性質を組成物に付与するように設計される。これらの添加は、合成法の全体にわたって、さまざまな時点で行うことができる。例えば組織接着剤の場合、添加剤は、抗微生物剤、抗ウイルス剤、成長促進剤、治癒を強化するための薬剤、または組織接着目的に合わせて組成物を調整することができる他の任意の薬剤であることができる。他のタイプの接着剤の場合、添加剤としては、その適用に応じて他の添加剤を挙げることができる。薬物送達適用の場合、添加剤は、活性医薬剤(該医薬剤がキトサンマトリックスに共有結合されない場合)、または賦形剤、アジュバント、促進剤、放出促進剤、または意図する薬物送達適用に合わせて組成物を調整することができる他の任意の薬剤であることができる。これらの非共有結合的修飾は、鎖内および鎖間相互作用を調節または修飾することにより、キトサンの挙動に影響を及ぼすことができる。これは、適当な体積の滅菌再構成キトサンと滅菌修飾剤とを混ぜ合わせて所望の製剤を得ることによって行われる。適切な非共有結合的修飾因子としては、架橋剤、医薬組成物、疎水性分子、親水性分子、色素、ステロイド類、脂質、タンパク質、核酸、生体適合性ポリマー、または本発明のキトサンに加えることができる他の任意の材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
本発明の方法の図式的説明
処理キトサンまたは修飾処理キトサンを調製するための本発明の方法のある実施形態を、図2Aおよび図2Bにブロック図の形式で示す。
実施例
【実施例1】
【0114】
クラスA修飾因子およびスルホニルクロリドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、スルホン酸クロリドを使ったアルキルスルホン酸によるクラスAタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。この合成は、約1%のキトサン修飾比(100グルコースサブユニットあたり1オクタンスルホンアミド連結)を目標とするように設計された。
【0115】
手法
ビーカーで、2グラムのキトサンを40mLの10%(v/v)乳酸と混ぜ合わせた。キトサンを一晩可溶化させた。キトサンが完全に溶解したら、サンプルを機械式撹拌機に乗せ、80〜12rpmの速度で撹拌し、30分間混合させた。混合を継続しながら、100μLのオクタンスルホニルクロリドをキトサンに滴下した。サンプルを1時間混合させてから、6M NaOHをサンプルのpHが9〜10になるまでゆっくり加えた。混合を続けながらこのpHを2時間維持した。次に、100mLの10%(v/v)乳酸を加えることによって、キトサンを再溶解した。修飾キトサンの全てが溶解したら、6M NaOHをゆっくり加えることによって、サンプルを再沈殿させた。混合を停止し、サンプルを4本の遠心管(50mL)に等分し、キトサンを沈降させるのに十分な時間および速度で遠心分離した。一般に沈降は約3850×Gで行われる。上清を捨て、修飾キトサンを透析チューブに入れた。次に、キトサンの全てが溶解するまで、キトサンを10%(v/v)乳酸で透析した。次に、酸透析液を取り除き、超純水(USP滅菌注射用水)で置き換え、3時間以上透析した。次に超純水をさらに2回交換し、合計3回の水洗浄を行った。少量のキトサンを透析チューブから取り出し、pH測定をおこなった。次に、透析液をPBS(pH7.4)に変え、キトサンのpHが5.7〜6.0の範囲になるまで、透析を監視した。次にキトサンを超純水に対して3回透析した(各洗浄は3時間以上継続した)。次にキトサンを、上に概説した凍結乾燥ステップ、再構成ステップおよび滅菌ステップに供した。製剤の望ましい最終pHは6.2〜6.4である。
【実施例2】
【0116】
クラスC修飾因子およびジイミドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、ジイミドカップリングを使ったN-(2-ジエチルアミノ-エチル)-スクシンアミド酸によるクラスCタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。
【0117】
手法
ビーカーで、1.00g(5.7ミリモルのキトサンモノマー単位)のキトサンを0.1N HClに溶解した。次に、そのキトサン溶液に、0.40g(1.8ミリモル)のN-(2-ジエチルアミノ-エチル)-スクシンアミド酸を加えた。次に、0.52g(2.7ミリモル)の1-エチレン-3-(3-ジメチルアミノ-プロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩および0.78g(0.68ミリモル)のN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)または1-ヒドロキシ-2,5-ピロリジンジオンを加えた。得られた溶液のpHを1N NaOHで5に調整し、その混合物を室温で24時間撹拌した。得られた修飾キトサンを、1N NaOHでpHを約9に調整して沈殿させ、その沈殿物を遠心分離で集めることによって精製した。このタイプの修飾反応のさらなる詳細は、Park, J.H.;Cho, Y.W.;Chung, H.;Kwon, I.C.;Jeong, S.Y.「Synthesis and Characterization of Sugar-Bearing Chitosan Derivatives: Aqueous Solubility and Biodegradability」Biomacromolecules 2003, 4, 1087-1091に見出すことができる。
【実施例3】
【0118】
クラスC修飾因子および酸クロリドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、酸クロリドカップリングを使ったN-(2-ジエチルアミノ-エチル)-スクシンアミド酸によるクラスCタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。
【0119】
手法
ビーカーで、0.40g(1.8ミリモル)のN-(2-ジエチルアミノエチル)スクシンアミド酸を約10mLの乾燥THFに溶解した。次に、その溶液に0.26g(2.2ミリモル)の塩化チオニルを加え、乾燥カラムを取付けて、1時間還流した。還流後に、その溶液を室温まで冷却した。1.00g(5.7ミリモルのキトサンモノマー単位)のキトサンを10%(w/w)酢酸溶液に溶解した。次にN-(2-ジエチルアミノエチル)スクシンアミド酸クロリド溶液をキトサン溶液に撹拌しながら滴下した。キトサンをスクシンアミド酸クロリドと反応させた後、pHを1N NaOHで7〜8の値に調整し、反応を2〜4時間継続させた。1N NaOHを添加してpHを9まで上昇させることにより、修飾キトサンを精製した。次に沈殿物を遠心分離によって集めた。
【実施例4】
【0120】
クラスD修飾因子および酸クロリドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、酸クロリドカップリングを使ったコール酸によるクラスDタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。
【0121】
手法
1グラムのキトサンを20mLの10%乳酸に溶解した。0.581グラムのコール酸(ナトリウム塩)を10mLのDMSOまたは酢酸エチルに溶解した。そのコール酸溶液に120μLの塩化チオニルを注意深く加えた。そのコール酸-塩化チオニル反応混合物を乾燥管下で1時間還流した後、その混合物を室温まで冷却した。そのコール酸-塩化チオニル反応混合物を、溶解したキトサンに、オーバーヘッド混合機を使って一定に撹拌しながら加えた。反応溶液のpHを6M NaOHを使って9〜10に調整した。この反応混合物を2時間撹拌した。その混合物を3850×Gで10分間遠心分離することにより、沈殿した修飾キトサンを集めた。修飾キトサンを50mLの10%乳酸に再溶解した後、6M NaOHを使ってpH9〜10に調整することにより、それを再沈殿させた。その混合物を3850×Gで10分間遠心分離することによって、再沈殿した修飾キトサンを集めた。集めた修飾キトサンを透析チューブに移し、10%乳酸に対して、キトサンが溶解するまで透析した。修飾キトサンを溶解した後、透析液を脱イオン(DI)水で置き換え、透析をさらに3時間続けた。DI水を合計3回取り替えて使用した。3回の水洗浄後に、キトサンのpHがpH5.7〜6.0に達するまで、修飾キトサンをPBS(pH7.4)に対して透析した。あるいは、PBS透析を他の塩類、例えばトリス緩衝液中の硫酸マグネシウムに対する透析で置き換えてもよい。所望のpH範囲が得られたら、2回の3時間透析ステップを終了した。修飾キトサンを凍結乾燥器フラスコに入れ、-80℃で少なくとも1時間は凍結させた。フラスコを凍結乾燥器に入れ、完全に乾燥するまで乾燥させた。乾燥した修飾キトサンをデシケーター中、-20℃で必要になるまで保存した。上記の手法における修飾ステップを繰り返して、より高度に修飾された生体材料を得ることができる。
【実施例5】
【0122】
キトサンとクラスF修飾因子との混合物
この実施例では、処理キトサンとパーフルオロンとの混合物から構成されるクラスFタイプの非共有結合修飾体の調製を例示する。
【0123】
手法
1グラムのキトサンを40mLの10%酢酸に溶解して、25mg/mLキトサン溶液を作製した。1mLのパーフルオロンを1mLの25mg/mLキトサン溶液に加えて最終キトサン濃度を12.5mg/mLとし、一晩撹拌した。最初の添加時に溶液は二相性だったが、長時間の撹拌後は、パーフルオロン相が明白でなくなった。得られた溶液は乳光性を示した。そのキトサン/パーフルオロン混合物を透析チューブに入れ、水に対して3回透析した後、PBSに対して一晩透析した。
【実施例6】
【0124】
クラスC修飾因子およびジイミドカップリングによるキトサンの修飾
この実施例では、ジイミドカップリングを使ったポリエーテルによるクラスCタイプの共有結合修飾キトサンの調製を例示する。この実施例では、ポリエーテルアミンを無水コハク酸で修飾して、キトサンへのジイミドカップリングを容易にするスクシンアミド酸リンカーを作製した。
【0125】
手法
ポリエーテルアミン酸リンカーの調製
250mL丸底フラスコで、2.49g(4.2ミリモル)のJeffamine 600、150mLの乾燥テトラヒドロフラン、0.42g(4.2ミリモル)の無水コハク酸および1.2mL(8.4ミリモル)のトリエチルアミンを混ぜ合わせる。この混合物を合計4時間にわたって撹拌、還流する。その溶液の冷却後に、約10mLの溶液が残るまで、ロータリーエバポレーターにかける。次に、サンプルを窒素パージ下でTHFの蒸発が完了して混合物がシロップ状の粘稠度になるまでさらに乾燥する。このプロセスにより、約1.8mLのリンカーが得られるはずである。
【0126】
ジイミドカップリングを使ったキトサンの修飾
ビーカーで、2.00g(11.4ミリモルのキトサンモノマー単位)のキトサンを0.1N HClに溶解した。次に1.00g(1.4ミリモル)のJ600-スクシンアミド酸をキトサン溶液に加えた。次に、0.287g(2.5ミリモル)の1-エチレン-3-(3-ジメチルアミノ-プロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩および0.478g(2.5ミリモル)のN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)または1-ヒドロキシ-2,5-ピロリジンジオンを加えた。得られた溶液のpHを6M NaOHでpH5〜6に維持し、その混合物を室温で72時間撹拌(ガラス撹拌子またはテフロン撹拌子)した。得られた修飾キトサンを、6M NaOHでpHを約9に調整することによって沈殿させ、その沈殿物を遠心分離で集めることによって精製した。次に修飾キトサンを透析チューブに移し、PBS中の10%(v/v)乳酸に対して、溶解するまで36時間透析した。次にその酸透析液を取り除き、超純水(USP滅菌注射用水)で置き換え、3時間以上透析した。次に透析液をPBS(pH6.0)に変え、キトサンを約36時間透析した。次にPBS透析液を取り除き、超純水(USP滅菌注射用水)で置き換え、3時間以上透析した。本明細書で先に概説した通常の方法に従って、最終生成物を凍結乾燥し、再構成させた。
【0127】
理論的には、上述の手法によって、ポリエーテルアミンによるキトサンの10%修飾が得られると予想される。追加実験により、試薬量およびカップリング時間を変化させることによって、ポリエーテルアミン修飾レベルを10%より高くすることも低くすることも可能であることが示された。記載した他の処理ステップは全て同じままである。これらの修飾比のわずかな変化でさえ、大きく異なる特性を持つ生体材料、特に粘度の相違および保水力の相違をもたらすことが観察された。
【0128】
ユニークな物理的特徴の証明
処理および修飾の効果を特徴づけるために、代表的な組成物を、円偏光二色性(CD)、元素分析、核磁気共鳴(NMR)、光散乱検出を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、および粘度測定を含むさまざまな解析手法によって解析した。これらの解析手法を、処理キトサン、および修飾キトサンまたは修飾処理キトサンに対して行った。次にこのデータを天然のキトサンサンプルに関するデータと比較して、本発明の組成物と天然のキトサンとの間の物理的および/または化学的相違を記録した。これらの初期研究を本明細書では研究1という。その後、キトサン分子量(MW)ならびに脱アセチル化のタイプ(ランダム(R)かブロック(B)か)および脱アセチル化度(DDA)の影響を調べるために、本明細書において研究2と呼ぶ追加研究を、同じ解析技法(NMRを除く)を使って行った。全ての特徴づけは実施例1に記載の実施形態に対して行った。
【0129】
円偏光二色性(CD)
Domard(Int. J. Biol. Macromol. 1987, VoI 9, 98-104)はキトサンのCDスペクトルを報告した。この著者は、185nmに、脱プロトン化(-NH2)型のキトサン(より結晶性の高い材料として存在する形態)に対応する負の二色性バンドを報告している。プロトン化型のキトサン(-NH3+)はこの負のバンドを示さない。プロトン化されたアミンの静電反発は、この材料が結晶性コンフォメーションを取ることを妨げる。本発明の生成物で得られたCDスペクトルを図3に示す。本発明のキトサン(修飾体または非修飾体)処理が、無処理キトサンよりも事実上結晶性の低い、ユニークなキトサンをもたらすことは明白である。これらの結果は、複数のサンプルを使って複数の装置で立証された。
【0130】
元素分析
元素分析(燃焼)を使って、オクタンスルホネートによる修飾度を測定した。3つの修飾処理材料バッチと、1つの無修飾処理材料バッチに対して、硫黄および窒素分析を行った。各キトサンサブユニットは、酸クロリドカップリングを使ってオクタンスルホネートに連結することができる窒素を一つ有する。窒素の総モル数を、キトサンに対するオクタンスルホネート修飾因子のスルホンアミド連結に起因する硫黄のモル数と比較することにより、3つの修飾処理試料のそれぞれについて、修飾比を測定することができた。無修飾処理試料には硫黄が存在しないことから、修飾因子の非存在下では硫黄は存在しないことが確認された。3つの修飾処理バッチについて測定された修飾比は、グルコースサブユニットの1.5±0.3%の修飾だった。この初期研究での硫黄レベルは、定量に使用した燃焼分析機の検出限界に近かったので、研究2での硫黄分析は、感度の改善をもたらす誘導結合プラズマ(ICP)法を使って行った。各実験セットで測定された修飾比を表5に示す。
【0131】
【表5】
*N値は修飾処理材料の異なるバッチを表す。
【0132】
全ての研究群に関する修飾比データは、合成プロセス中に目標とした1%修飾比と良好な一致を示す。上述のように、燃焼による硫黄定量はこの分析技法の定量限界に近い。このことは、分析した3つのバッチに関する結果のばらつきの増加に反映される。ICP分析を使用したところ、ばらつきは減少し、これらの値の方が修飾比をより正確に反映していると考えられる。
【0133】
さらに元素分析を使って、試料の処理および再構成に使用したPBSに起因するイオン濃度を決定した。以下の元素を定量した:カリウム、ナトリウム、塩素、およびリン。これらの元素は処理キトサン中の以下のイオンを表す:K+、Na+、Cl-およびH2PO4-/HPO42-。修飾処理キトサン中の各イオンの濃度を下記の表6に示すが、これはキトサンの浸透圧バランスを表す。バルクPBSと比較して多価リン酸イオンが濃縮され(これは、この多価荷電アニオンに対する正に帯電したキトサンの親和性を示す)、一方、ナトリウムはバルク材料から排除される。
【0134】
【表6】
*N値は修飾処理材料の異なるバッチを表す。
R=ランダム脱アセチル化、B=ブロック脱アセチル化
【0135】
核磁気共鳴(NMR)
プロトンNMRで、キトサンの炭化水素修飾に起因する共鳴を検出することができた。この共鳴ピークは、解析した3つの修飾処理バッチには存在したが、無修飾処理バッチには存在しなかったことから、そのピークの起源は修飾因子であることが立証された。この特定の共鳴に関するピーク積分値をキトサン骨格(C2)に帰属することができる明確に定義された共鳴と比較したところ、約0.5%という修飾比が得られた。この値は、ICP元素硫黄分析によって測定された表5に示す修飾比と、良好な一致を示す。
【0136】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
13個のキトサンサンプルを、光散乱検出を用いたGPCを使って下記の標準化された条件下で解析した。0.3M酢酸/0.3M酢酸ナトリウムを移動相として30℃、流速1.0mL/分で使用するUltrahydrogels(Two Linear)カラム。150μLの注入体積を使用し、Viscotek Y-501検出器およびDAWN光散乱検出器を使って溶出プロファイルを測定した。データを表7にまとめて示し、クロマトグラムを図4に示す。重量平均分子量(Mw)データの比較は、実施例1の処理を受けた全てのキトサンサンプル間の明確な相違を示す。無処理材料は、本発明の処理を受けた材料よりも低い保持容量(高いMw)を示した。Mwの同様の変化が、実施例1に従って調製され調べられた全てのキトサンサンプルに見られた。これらの実験において、修飾は実施例1の修飾である。これらの結果を確認するためにサンプルは2つの異なる試験室で解析された。Mwのこの変化は、分子量(MW)、脱アセチル化度(DDA)および脱アセチル化のタイプ(ブロックかランダムか)などのキトサン特性に依存しない。処理すると、サンプルGPC-2、3、4および5は、Mwに、263,000から219,000への観察可能で再現性のあるシフト(84%まで減少)を示す。観察される分子量のこの変化は単純な鎖切断とは合致しない。というのも、そのような鎖切断は、これらの実験条件下では予想されないからである。もう一つの説明として分子コンフォメーションの変化が挙げられる。多価リン酸イオンはキトサン骨格の全く異なる部分を引きつけて、よりコンパクトな構造を形成しうる。細長い(楕円体)粒子は通例、GPCカラムではより迅速に溶出するので、高い保持容量は見掛けの分子収縮を示すだろう。これは、本発明の材料が、より大きな被内包体積(included volume)へのアクセスを持つことと合致する。
【0137】
この代替的説明はさらに、本発明の処置を逆転させることでユニークなコンフォメーション構造を排除した後に得られたデータによって裏付けられる。修飾処理試料の一つを加工してリン酸を除去し、それを、分子収縮を助長するとは予想されない一価の塩素アニオンで置き換えた。次にこの試料でGPC分析を行った。この「逆転処理」に関するデータは、平均分子量Mwに219,000から約253,000への観察可能なシフトが起こることを明確に示し、したがって測定されるMwの変化が可逆的であることを立証する。本発明の処理によって得られる、コンフォメーションが変化したキトサン組成物は、無処理キトサンに基づく接着剤より予想外に優れ、競合する多くの接着剤系より優れた、生体適合性接着剤系を与える。
【0138】
この挙動は、分子量、脱アセチル化度または脱アセチル化のタイプ(ブロックかランダムか)が異なるキトサン、サンプルGPC-8〜GPC-13を使った場合にも見られる。
【0139】
【表7】
*第2試験室
R=ランダム脱アセチル化;B=ブロック脱アセチル化
【0140】
表7から、処理キトサンは1より小さいMw対MWの比を示すことがわかる。Mw対MW比は一般に約0.50〜約0.90である。ある実施形態では、Mw対MW比が約0.50〜約0.85である。別の実施形態では、Mw対MW比が約0.60〜約0.85である。
【0141】
粘度測定
表7に示す全ての材料の代表的サンプルについてブルックフィールド粘度計を使って相対粘度測定を行った。サンプルは全て同一濃度(10mg/mL)とした。データを表8にまとめて示す。本発明の処理を受けたキトサンは、修飾体であれ無修飾体であれ、無加工製剤と比較して、やはりユニークで再現性のある物理的特性を示した。同じ出発材料(同じMW)、サンプルpHおよび濃度を使ってこのタイプの測定を行うと、類似する比率の相対粘度測定値が得られると予想されるだろう。しかしむしろ、粘度は本発明の処理により、一貫して再現性よく、約50%減少した。これは、リン酸イオンとキトサンの間の引力が、より堅固な分子コンフォメーションをもたらすことに合致する。これらの例で調べた修飾は実施例1の修飾である。
【0142】
【表8】
R=ランダム脱アセチル化およびB=ブロック脱アセチル化
【0143】
予想どおり、材料の分子量の増加は材料の相対粘度の増加に対応し、サンプルV-7およびV-8は高い分子量を持っていて、相応に高い粘度を示す。
【0144】
より詳しい粘度測定試験をサンプルV-6、V-7およびV-8に対して行った。サンプルV-6(図5A)がニュートン流動挙動を示したのに対して、サンプルV-7(図5B)およびV-8(図5C)は、分子量が増加するほどニュートン挙動からより大きく逸脱して、擬塑性挙動を示す。
【0145】
しかし他の修飾は劇的に異なる粘度挙動をもたらす。実施例6の材料を調べて、それを皮膚充填剤として有用なものにするそのユニークな特性を理解した。実施例6の材料は、広範なpHにわたるその保水能力が、研究した他のあらゆる形態のキトサンよりも、著しく強化されている点でユニークである。この挙動は共有結合的化学修飾の性質に起因すると考えられる。また、実施例6の材料は劇的に異なる粘度挙動を示す。例えば、実施例6で使用した修飾は、非ニュートン(擬塑性)挙動(図5D)およびレオペクシー挙動(図5E)を示す極めて粘稠な材料をもたらす。レオペクシー挙動は、実施例1の材料では観察されなかった。
【0146】
修飾剤の適切な選択により、材料の意図する用途に合わせて保水性、粘度プロファイル、および他の有益な特性を調整することができるだろうことは明らかである。
【0147】
適用および適用特性の証明
【実施例7】
【0148】
エクスビボ引張接着強さ試験
この実施例は、さまざまな本発明の製剤の、エクスビボで組織を結合する能力を評価するために設計した。
【0149】
手法
いくつかの組織をいくつかの供給源から入手した。次にターゲット組織を約4×8mmの細片に切断した。試験材料を一つの組織細片の端に適用した。次にもう一つの組織細片を処理細片に、重なり部分に約4×4平方ミリメートルの重なり(その両端には一枚分の厚さの部分が延びている)を形成するように配置した。次にその組織調製物を薄いプラスチックシートで包み、顕微鏡スライドグラスの間に挟み、軽い圧力(約125g)で圧迫した。結合後は、部分的な脱水に起因する余計な「粘着性」が、測定される引張強さに影響を及ぼさないことを保証するために、組織を注意深くPBS中に少なくとも1時間、ただし24時間を越えないように入れてから、引張強さ試験を行った。引張接着強さの試験はテンシオメーターを使って行い、力を接着破壊点まで徐々に増加させた。ピーク負荷を記録し、接着強さをg-f/cm2として算出した。
【0150】
結果
いくつかの競合技術および対照に関する比較データを表9に示す。修飾キトサン材料のいくつかの一般クラスのそれぞれについて、代表的接着強さを表10に示す。次に、最も有望な製剤を追加の安全性および効力試験に供した。そのデータは以降の実施例に示す。
【0151】
結論
このモデルは、潜在的製剤をスクリーニングし、異なる組織における異なる製剤の相対的接着特性を比較するための、有用なツールになる。このモデルを使って、本発明の製剤は並外れた接着特性を与えることが確認され、それは競合技術または天然のキトサンのみよりも優れていることが判明した。
【0152】
【表9】
1Protein Polymer Technologiesに譲渡された米国特許第5,817,303号、皮膚-皮膚値
2PhotoBioMedデータ
Veritas(商標)はSynovis Life Sicencesが製造する調製済心膜製品である。
【0153】
【表10】
Duraguard(商標)はSynovis Life Sciencesが製造する調製済心膜製品である。
Veritas(商標)はSynovis Life Sciencesが製造する調製済心膜製品である。
角膜および動脈は屠殺場から死後に取得した。
【実施例8】
【0154】
インビボでの組織結合の証明
この実施例は、本発明の組成物の、インビボで組織を結合する能力、具体的にはウサギモデルで角膜切開を封鎖する能力を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0155】
手法
体重7〜8ポンドのニュージーランドホワイトウサギを使用した。ウサギを筋肉内キシラジン(5mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)で麻酔した。プロパラカイン塩酸塩溶液0.5%(アルカイン、Alcon)の局所麻酔をウサギ眼に適用した。Transpore Tape(3M)を使って、眼をテープで開いておき、Steri-Drape(3M)で覆って、滅菌手術野を設けた。3.2mm Clear Cutスリットナイフ(Alcon)で角膜切開を施した。切開が明確に定められるように、スリットナイフには、滅菌外科用マーカー(Viscot)で印を付けた。角膜縁に対して約1mm前方、虹彩面から45°の角度で、角膜の全層を貫通する、非自閉性の3.2mm切開を各角膜に作製した。切開が漏出性であることを保証するために、滅菌平衡塩類溶液(BSS)(Alcon)を23ゲージ針(Techcon)で前房に注入した。実験群では、約10〜20μLの実施例1の材料を角膜切開中に30ゲージ鈍針(Techcon)で適用し、組織を確実に相対させかつ切開面を乾燥させるために、外科用眼スピア(spear)(Murocel)で軽く加圧した。約5〜10μLの実施例1の材料を局所適用し、5分間の結合時間、硬化させた。対照群では、10-0非吸収性ナイロンブラックモノフィラメント外科用縫合糸(Alcon)を強膜から角膜へと配置することにより切開を封鎖した。処置後に全ての眼をBSSで洗浄し、抗生物質モキシフロキサシン塩酸塩0.5%(ベガモックス、Alcon)で処理し、眼の乾燥を防ぐためにテープで閉じておいた。術後、ウサギには、トブラマイシンおよびデキサメタゾンのステロイド抗生物質(トブラデックス、Alcon)ならびにケトロラクトロメタミン0.5%(アキュラー、Allergan)を、死亡させるまで1日4回投与した。動物を監視して、潜在的漏出および刺激の何らかの徴候について評価した。動物を1〜2時間、1日、および7日の3時点(1時点あたりn=6)で死亡させた。安楽死の直後に、BSSを23ゲージ針(Techcon)を使って前房に注入して、眼房を加圧した。フィジオグラフ(physiograph)を使って、各眼の漏出/破裂圧を評価した。前房圧は典型的には12〜20mmHgである。漏出/破裂圧が50mmHgを越えた場合に、眼はうまく封鎖されたとみなした。
【0156】
結果
1〜2時間時点で、6匹のウサギを観察し、死亡させた。対照(縫合)眼または実験(実施例1の材料で処置)眼のいずれにも、刺激は見られなかった。全ての眼は50mmHgを越える圧力を保った。1日目に、6匹のウサギを観察し、死亡させた。実験眼に刺激は見られなかった。縫合眼にはわずかな刺激が認められた。全ての眼は50mmHgを越える圧力を保った。7日目に、6匹のウサギを観察し、死亡させた。対照眼または実験眼のいずれにも、刺激は見られなかった。全て眼は50mmHgを超える圧力を保った。
【0157】
結論
実施例1の材料は、ウサギ眼における角膜切開をうまく封鎖できる封鎖剤であることがわかった。この材料は優れた生体適合性を示し、標準的な縫合糸処置は炎症応答を誘発したが、本発明の組成物は炎症応答を誘発しなかった。
【実施例9】
【0158】
細胞毒性アッセイ
この実施例は、培養角膜内皮細胞に対する本発明の製剤の細胞毒性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0159】
手法
10%ウシ胎仔血清(FCS)を含有する標準的組織培養培地(ダルベッコ改変イーグル培地-DMEM)で、ウサギ角膜内皮細胞を、それらがコンフルエントになるまで(約7〜10日間)成長させた。細胞は12ウェル組織培養プレートで成長させた。コンフルエント培養物を使って、これらの細胞に対する本発明の接着剤製剤の毒性を試験した。使用直前に、0.2%FCSを含有するDMEMにストック化合物(10mg/mL)を希釈して、最終濃度を1、2、または3mg/mLにした。細胞を、総液量0.5mLのDMEM+0.2%FCS/ウェル中、異なる濃度の接着剤(上述のとおり)の存在下、37℃で24時間インキュベートした。実験の終了時に、細胞をPBSで洗浄し、哺乳動物細胞用のMolecular Probes(商標)Live/Dead(登録商標)生存性/細胞毒性キットを製造者の仕様書に従って使用することにより、各実験条件下での生細胞および死細胞の存在について解析した。細胞培養実験は三重に行った。これらの手法は初代細胞を使って行い、二次細胞株を使って繰り返した。
【0160】
ここで図6を参照して説明すると、この図には、本発明の角膜切開封鎖剤が有毒でないことを示すデータが示されている。初代培養物を20〜24時間にわたって化合物に曝露しても、角膜内皮細胞の死は観察されなかった(上段および中段のパネル)。真菌感染によって細胞の死が誘発された(下段のパネル)。
【0161】
ここで図7を参照して説明すると、この図には、本発明の化合物を使った一連の毒性研究が示されている。
【0162】
結果
どの試験条件下でもこれらの培養細胞では細胞毒性が観察されなかった。
【0163】
結論
この実施例の接着剤化合物は角膜内皮に対して毒性でない。本質的に培地の3分の1が本発明の接着剤からなる3mg/mLでさえ、細胞毒性作用は観察されなかった。
【実施例10】
【0164】
角膜ポケットモデル
この実施例では、ウサギ眼の角膜実質内に置いた場合の本発明の製剤の生体適合性を、実施例1の材料を利用して例示する。
【0165】
手法
体重7〜8kgのニュージーランドホワイトウサギを使用した。ウサギを筋肉内キシラジン(5mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)で麻酔した。プロパラカイン塩酸塩溶液(0.5%)(アルカイン、Alcon)の局所麻酔をウサギ眼に適用した。睫毛からの汚染を防ぐために、Transpore Tape(3M)を使って、眼をテープで開いておいた。最初の角膜切開を、300ミクロン精密深さナイフ(Sharpoint)で作製した。角膜縁に対して約1.5mm前方で約2.5mmの切開を各角膜に施した。直径3.5mmのラメラ実質ポケットを、Bevel Up Angled Cresent Knife(Sharpoint)を使って、角膜中、300ミクロンの深さに作製した。実験群では、約20μLの接着剤製剤(10mg/mL)を23ゲージ鈍針(Techcon)で角膜ポケットに入れ、ポケット内に残った空気が確実になくなるように、外科用眼スピア(Murocel)を使って、ポケットを軽い圧力でさすった。接着剤を、5分間の結合時間、硬化させた。対照群では、実験群と同じ手法に従って約20μLのBSSを角膜ポケットに入れた。処置後に全ての眼をBSSで洗浄し、抗生物質モキシフロキサシン塩酸塩0.5%(ベガモックス、Alcon)で処理し、麻酔から回復する間の眼の乾燥を防ぐためにテープで閉じておいた。術後、ウサギには、トブラマイシンおよびデキサメタゾンのステロイド抗生物質(トブラデックス、Alcon)を、7日間にわたって1日4回投与した。
【0166】
結果
1日目、14日目、30日目、60日目、および90日目のそれぞれに、3匹のウサギを観察し、死亡させた。120日の時点で、2匹のウサギを観察し、死亡させた。巨視的観察では、試験標本のいずれにも、刺激は見つからなかった。組織学的観察により、数多くの試験において材料が実質的に良性のままであることが確認された。残留キトサンは120日まで実質ポケット内で明白なままだった。
【0167】
ここで図8を参照して説明すると、この図は、角膜の実質内でのこれらの材料の安全性を示している。これらの材料は、慢性投与した場合でさえ、免疫原性応答または炎症性応答を、事実上、誘発しない。残留材料は120日時点でさえ、角膜への有害作用を何も伴わずに、観察することができる。これらの標本に観察される明白な傷は、角膜ポケットの作製中に加えられた機械的損傷によるものである。ポケットは実際には、実質内で約300μmの深さで、約3.5mmの長さにわたっている傷つけた領域よりも大きい。試験材料はこのポケット内に注入され、不活性であるか(上側の3標本)または重度の炎症応答(4番目の標本−陽性対照)を引き起こした。
【0168】
結論
この化合物は、ウサギ眼の角膜実質において炎症応答または免疫応答を誘発しなかった。炎症性薬剤を使った以前の結果は、著しい刺激、羞明、炎症、角膜浮腫、および新血管形成を誘発した。
【実施例11】
【0169】
皮内注射:基材の生体適合性および寿命
この実施例は、皮内注射した場合の本発明の製剤の生体適合性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0170】
手法
スプレイグ・ドーリーラットをキシラジン(7mg/kg)、ケタミン(70mg/kg)、およびブプレノルフィン(0.05mg/kg)の筋肉内注射で麻酔した。ラットの背皮膚表面を剃毛し、アルコールで清拭した。実施例1の材料0.2mLを識別された格子区画に皮下注射した。さらに、0.2mLの陽性対照材料と陰性対照材料の両方を皮下注射した。7日時点または28日時点で行われる安楽死の時点で、適当な領域の回収が保証されるように、注射部位には小さな刺青の点で印を付けた。適当な時点で動物を安楽死させ、付随する筋を伴う皮膚サンプルを回収し、標本をOCTに包埋し、凍結してから、凍結切片作製および組織学的評価を行った。
【0171】
結果
陰性対照標本は7日目までに完全に再吸収され、どの時点でも注射部位に免疫応答は事実上なかった。陽性対照は7日目までに再吸収または生分解により著しい減少を示し、28日目までに事実上存在しなくなった。しかし、陽性対照の注射部位には、材料がもはや明白でなくなった28日目でさえ、著しい炎症応答が観察された。実施例1の材料は、28日目まで存在したままであり、7日時点でも28日時点でも、陽性対照よりも少ない炎症応答を示した。極めてわずかで限局的な免疫応答が観察されたが、下部隣接組織は典型的形態を示した。
【0172】
結論
本発明の実施例1の材料は、試験した組織において、良好な生体適合性と優れた寿命を示す。これらの材料は、皮膚充填剤として、または持続的薬物送達用のデポー剤として、潜在的に有用でありうる。
【実施例12】
【0173】
眼周囲注射:充填剤/増量材の生体適合性および寿命
この実施例は、本発明の材料(具体的には充填剤または増量剤として機能するように設計されたもの)の生体適合性および保持を評価するために設計されたものであり、実施例6の材料を利用した。
【0174】
手法
この研究にはニュージーランドホワイトウサギを使用した(n=3)。眼の処置はランダム化した。各動物において、一眼を10mg/mLの実施例6の材料60〜80μLで処置し、他眼を20mg/mLの実施例6の材料60〜80μLで処置した。40%/60%酸素/空気混合物中、2.0〜3.5%のイソフルランで、ウサギを麻酔した。2滴の局所麻酔薬(テトラカイン-0.5%滴剤またはアルカイン)をウサギ眼に適用した。鉗子を使って、結膜を眼球の表面から静かに持ち上げて、結膜の「テンティング」を起こした。眼球の表面から十分に離して注射を行った。(この手技により眼球穿孔のリスクが著しく低減する)。針を眼球に対して接線方向に置いて、針先をテント中に挿入し、適当な製剤を送達した。23ゲージ針を使って注射を行った。10mg/mLの実施例6の材料100μLを一眼の結膜中に注射した。20mg/mLの実施例6の材料100μLを対側眼の結膜中に注射した。注射後に、抗生物質滴剤(ベガモックス(登録商標))を点眼した。1週間、毎日観察を行った後、研究が終了するまで週に1回観察した。24時間時点で結膜の写真を撮影した。29日目に、ウサギを安楽死させ、結膜を回収し、組織学的検査用に加工した。
【0175】
結果
眼瞼を下げる前にウサギを見ると、全てのウサギ眼は全ての観察点で明るく湿った外観を保っていた。最初の24〜48時間以内に見かけの体積にわずかな減少が起こったが、全ての注射部位は結膜組織の少なからぬ膨張を維持した。これらの製剤は、充填剤または増量剤として役立つように、それらが体積占有性を保つべく、保水性が最適化されるように設計される。最初の2、3日間はわずかな発赤が結膜に認められた。これは、おそらく、組織の過膨張に原因があったと考えることができるだろう。29日目に、全ての眼は良好に見えた。結膜組織の残留膨張(48時間後に観察されたものと同等なもの)が続いていた。カルコフロール染色を使った組織学的評価により、注射29日後の処置眼の結膜における実施例6の材料の存在が確認された。
【0176】
結論
実施例6の材料は充填剤または増量剤として有望である。眼周囲注射後に、実施例6の材料は結膜空間内に、優れた適合性で少なくとも29日間は存在し続けた。この研究では定量しなかったが、これらの材料は、その初期体積のかなりの部分を保ったので、望ましい品質を示した。
【実施例13】
【0177】
インビトロ角膜保持モデル
この実施例は、インビトロウサギ眼モデルの角膜表面における製剤保持の動態を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。この実施例は、最終的に、調製されたキトサン材料内への遊離薬物の混合と、その後の、拡散による組織への薬物の溶出を伴うターゲット組織基体への接着とによって、薬物送達マトリックスとして作用する、修飾処理キトサン材料の能力を評価するために設計された。
【0178】
存続能力のある切除されたウサギ眼を商業的供給源から入手した。本発明の製剤をフルオレセインイソチオシアネート(FITC)とコンジュゲートし、20mg/mLの濃度で調製した。眼球をPBSですすいでから排液し、室温で1分間静置した。過剰なPBSを取り除くために角膜上皮表面をキムワイプで軽くはたいた。その上皮を、完全に覆うように、この製剤200μLで処理した。1分後に、眼球をPBSが入った容器に移し、1分間すすいだ。角膜ボタンを切り出し、DMEM/F12臓器培養培地に移し、再びすすいだ。次に眼球を、4mLのDMEM/F12を含有するウェル(12ウェル組織培養プレート)中、37℃で、穏やかに撹拌しながら、異なる期間(0、4、8、16、24時間;n=5)インキュベートした。使用する洗液量と撹拌速度が一定になるように注意した。所望の時点で、角膜を取り出し、新鮮PBS中で穏やかに撹拌しながら1分間すすいだ。角膜をOCTに包埋し、液体窒素中で瞬間凍結した。包埋した角膜の4つのレベルのそれぞれから、二つ一組の切片を得た。これらの切片を、この製剤の保持について、蛍光顕微鏡で解析した。画像解析ソフトウェアを利用して、複数切片の複数部位を不偏的に平均する体系的アプローチを使って角膜蛍光を定量した。対照角膜(無処理)を使って天然の自己蛍光を定量し、次にそれを総蛍光測定値から差し引いた。残りの蛍光は、残留FITC標識製剤に起因すると考えることができるだろう。
【0179】
結果
残留蛍光の定量的解析により、適用4時間後に85%が残り、8時間および16時間のどちらでも20%以上が残っていたが、24時間までに事実上全ての残留蛍光が消失した(表11参照)。残留蛍光を示す代表的角膜横断面を見るには図9を参照し、発光定量については図10を参照されたい。
【0180】
結論
本発明の製剤は適用が容易であり、16時間までは接着性を保つ。24時間までに残留蛍光がなくなる。このデータは、これらの製剤が、そこからの持続的薬物送達を施すための、またはドライアイに対処するための、1日1回の適用しか必要としない、有用なマトリックスになりうることを示唆している。24時間時点で残留がないことは、翌日に再適用するための新鮮な表面を示唆する。
【0181】
【表11】
【実施例14】
【0182】
上皮創傷治癒モデル
この実施例は、実施例1の材料を利用した処置後の、擦過創傷における角膜再上皮化の速度およびパターンを評価するために設計された。
【0183】
手法
体重7〜8kgのニュージーランドホワイトウサギを使用した(n=4)。動物をキシラジン(5mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)の筋肉内(i.m.)注射で麻酔した。プロパラカイン塩酸塩溶液0.5%(アルカイン、Alcon)の局所麻酔をウサギ眼に適用した。睫毛からの汚染を防ぐために、Transpore Tape(3M)を使って、眼をテープで開いておいた。メスの背(鈍端)を使って下眼瞼の底を軽く押して、眼球を眼窩から持ち上げた。眼球を親指と人差し指の間に傷つけないように保持し、滅菌6mmトレフィンでそのトレフィンを軽く押すことによって角膜の中心に印を付けた。印を付けた角膜上の6mm円内の上皮全体を、メスに取付けた15番バードパーカー刃を使って、静かに掻爬した。印を付けた領域内の上皮全体を掻爬するように注意した。掻爬後に、付着している固定されていない上皮を取り除くために、眼を滅菌BSSですすいだ。一眼をランダムに選択して、化合物(濃度10mg/mL)で処置した。100μLを局所適用し、1分間硬化させた。対側眼は対照として役立つように100μLのBSSで処置した。各眼をフルオレセインで処理し、UV曝露下で画像を捕らえ、0時間での創傷サイズを記録した。画像解析時の較正用に角膜の隣に定規を置いた。眼を写真撮影した後、フルオレセインをBSSで洗い流した。処置後に全ての眼をBSSで洗浄し、抗生物質モキシフロキサシン塩酸塩0.5%(ベガモックス、Alcon)で処置し、麻酔から回復する間の眼の乾燥を防ぐためにテープで閉じておいた。動物がその眼に触れるのを防ぐために、動物にはエリザベスカラーを付けた。手術後1、2、4、および8日目に、上述のように写真を撮影することにより、全ての眼で創傷サイズを評価した。全体的健康状態および眼の状態を、1日に1回監視し、観察結果を記録した。8日目の写真を撮影した後に、角膜を回収した。角膜を切開し、瞬間凍結し、組織学的観察用に調製した。
【0184】
結果
写真を撮影し、定量的画像解析を行った。創傷治癒プロセスの目視観察と予備解析により、接着性フィルムの存在は、図11に示すように再上皮化の減速を引き起こすが、最終的には再上皮化が起こることが示唆された。キトサンと結合する染料を使った組織学的観察により、上皮細胞は、図12に示すように、本発明の接着性フィルム上に前進することがわかった。剥がれたフィルムの残片による涙点閉鎖は見られなかった。
【0185】
結論
局所フィルムは毒性作用または炎症作用を何も持たないようであるが、再上皮化プロセスを減速させるようである。この保護被覆が再上皮化プロセス中に鎮痛効果をもたらすのであれば、再上皮化が遅延したとしても、臨床的利益が得られるだろう。あるいは、これは、鎮痛剤および/または上皮/実質成長プロモーターを送達する手段にもなりうる。残留フィルムが8日まで実質に接着することを示す証拠があり、これらは持続的薬物送達の新規手段になるだろう。
【実施例15】
【0186】
薬物放出モデル
この実施例は、キトサン分子そのものへの医薬剤の共有結合付着と、その後のターゲット組織基体への接着とによって、薬物送達マトリックスとして作用する、修飾処理キトサン材料の能力を評価するために設計された。医薬剤は付着されたままであるか、加水分解または酵素活性によって切断されうる。
【0187】
手法
酵素的に切断可能なリンクによって骨格に付着されたダンシル基を使って、偽薬の酵素的切断を証明した。下記の図式では、単純アミドがエラスターゼによる切断の適当なターゲットである。骨格としてコラーゲンを使用してこの実施例を完成させた。連結は、ナフタルイミド光化学を利用してコラーゲンに共有結合で付着させた。
【0188】
そのコラーゲンをPBS(pH7.4)に懸濁し、10U/mLエラスターゼの存在下でインキュベートした。4時間後に、コラーゲンを遠心分離によって除去し、放出された偽薬を、上清中の蛍光によって測定した。
【0189】
【化1】
【0190】
結果
これらの実験の結果を図13に示す。酵素の非存在下で蛍光は373±225、酵素の存在下で蛍光は1767±305であったことから、偽薬の酵素的放出が示された。
【0191】
結論
この実施例は、生物学的高分子からの医薬剤の持続的放出を達成するために切断可能なリンカーを使用するという思想を明確に証明している。この証明はコラーゲンモデルからの偽薬の酵素依存的放出を例示するものであるが、同様の化学を使って、本発明の材料から医薬剤を送達することができる。
【実施例16】
【0192】
抗微生物特性の証明
この実施例は修飾処理キトサン製剤の抗微生物特性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0193】
手法
微生物の0.5マックファーランド標準接種物を使って、Remelヒツジ血寒天プレートまたはRemelチョコレート寒天プレート(微生物依存)での成長叢を調製した。1滴(50μL)の化合物をプレートの中心に置いた。そのプレートを36.5℃、6.5%CO2でインキュベートし、24時間および48時間時点で成長の阻害について観察した。1滴(50μL)をRemelヒツジ血液寒天プレートおよびRemelチョコレート寒天プレートに接種することにより、化合物を無菌性について調べた。各プレート上に1滴の食塩水を置くことで、この試験手法の陰性対照とした。
【0194】
結果
以下の微生物の場合、化合物の液滴のすぐ下には明白な阻害があったが、隣接する領域では明白な阻害はなかった:
表皮ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌
インフルエンザ菌
緑膿菌
大腸菌。
【0195】
2つの微生物では明らかな阻害はないようだった。阻害は存在するが、この方法では観察することができなかった可能性がある:
大便レンサ球菌
肺炎レンサ球菌。
【0196】
化合物の無菌性を調べるために使用したプレートには明白な成長はなく、プレートの陰性対照領域は、予想どおりの反応を示した。
【0197】
結論
文献には、天然のキトサンがさまざまな微生物に対して抗微生物特性を示すと報告されている。これらの実験により、本発明の修飾処理キトサンは、少なくともある微生物に対して、抗微生物特性を保っていることが確認される。
【実施例17】
【0198】
抗真菌特性の証明
この実施例は、修飾処理キトサン製剤の抗真菌特性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。
【0199】
手法
Sab Dex寒天上に0.5マックファーランド標準濁度の微生物叢を作製することによって、10mg/mLでの実施例1の材料の抗真菌特性を試験した。1滴の化合物をこの微生物叢の中心に置き、潜在的抗真菌活性について観察した。カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラタ、カンジダ・パラプシローシス、カンジダ・クルセイ、およびアスペルギルス属を含む5種類の酵母および真菌生物を試験した。
【0200】
結果
処置に先だって、酵母および真菌生物の全てをSab Dex寒天培地上で密生させた。以下の微生物の場合、化合物の液滴のすぐ下には明白な阻害があったが、隣接する領域では明白な阻害はなかった:
カンジダ・クルセイ
カンジダ・パラプシローシス。
【0201】
試験化合物の液滴の中心部分の直ぐ下における部分的な成長の阻害が、
カンジダ・アルビカンス
カンジダ・グラブラタ
アスペルギルス属
で観察された。
【0202】
結論
実施例1の材料は、試験した全ての真菌生物で、ある程度の接触依存性抗真菌特性を示す。真菌成長の促進がいずれの場合も観察されなかったことは、おそらく最も重要だろう。この知見は、真菌増殖を助長するのではなく抑制することが重要になるであろう医学用途に照らして望ましい。
【0203】
具体的薬物のための眼送達組成物および眼送達方法
本発明は、キトサンマトリックスおよび医薬有効量の眼薬を含む、眼薬物送達組成物にも関係する。眼薬は、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物、または非ステロイド抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択され、治療有効量の眼薬がある期間にわたって放出されるように、組成物を適合させる。キトサンマトリックスは、処理キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物を含み、それらの処理キトサンは、無処理キトサンよりも低い見掛けの分子量および高い組織接着強さを持つ。プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間は1日〜約1年である。ある実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約6ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約4ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも3ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも1ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも2ヶ月である。
【0204】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間は、約0.5時間〜約36時間である。ある実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約1時間〜約36時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも4時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも8時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも16時間である。
【0205】
本発明は、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む本発明の眼薬物送達組成物を、ヒトを含む動物の眼に投与するための方法であって、その投与が注射によるものにも関係する。本発明は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む本発明の眼薬物送達組成物を投与するための方法であって、その投与が局所投与によるものにも関係する。
【0206】
本発明は、眼疾患または眼異常を処置するための医薬組成物も提供する。組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物を含み、それらの処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。組成物は、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される治療剤、またはこれらの治療剤の一つ以上の混合物もしくは組合せも含む。治療有効量の治療剤がある期間にわたって放出されるようにキトサン組成物を適合させる。ある実施形態では、組成物が保存剤も含みうる。保存剤は一般に、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される。別の実施形態では、組成物が賦形剤も含みうる。賦形剤は一般に眼科適合性賦形剤である。別の実施形態では、組成物が緩衝剤も含みうる。緩衝剤は一般に、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される。別の実施形態では、組成物がビヒクルも含みうる。ビヒクルは一般に眼科適合性ビヒクルである。あるの実施形態では、治療剤がキトサン上の部位に共有結合される。別の実施形態では、治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される。
【0207】
本発明は、眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスも提供する。このプロセスは、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と治療有効量の医薬剤とを接触させて、医薬組成物を形成させることを含む。医薬組成物はその具体的適用に依存して実質的に均一であるか、または不均一であることができる。各処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示すように設計されている。医薬剤は、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物が保存剤も含みうる。保存剤は一般に、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物が賦形剤も含みうる。賦形剤は一般に眼科適合性賦形剤である。ある実施形態では、医薬組成物が緩衝剤も含みうる。ある実施形態では、緩衝剤が一般に、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物がビヒクルも含みうる。ビヒクルは一般に眼科適合性ビヒクルである。ある実施形態では、治療剤がキトサン上の部位に共有結合される。別の実施形態では、治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される。本発明はこの段落で説明したプロセスによって製造される医薬組成物も提供する。
【0208】
本発明は、眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスも提供する。このプロセスは、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、治療有効量の医薬剤とを、薬剤がキトサン上の部位に共有結合されるような条件下で接触させることを含む。各処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。医薬剤は、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物が保存剤を含みうる。保存剤は一般に、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物が賦形剤も含みうる。賦形剤は一般に眼科適合性賦形剤である。ある実施形態では、医薬組成物が緩衝剤も含みうる。緩衝剤は一般に、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、医薬組成物がビヒクルも含みうる。ビヒクルは一般に眼科適合性ビヒクルである。ある実施形態では、治療剤がキトサン上の部位に共有結合される。別の実施形態では、治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される。本発明はこの段落のプロセスによって製造される医薬組成物も提供する。
【0209】
本発明は、眼疾患または眼異常を処置するための方法も提供する。この方法は、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、医薬剤、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物とを含む医薬組成物を患者に投与するステップを含む。各処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。治療有効量の医薬剤がある期間にわたって放出されるように、医薬組成物を適合させ、眼疾患または眼異常が処置または治療されるか、眼疾患または眼異常の症状が改善されるように、治療有効量を適合させる。
【0210】
本発明は、キトサンマトリックスと医薬有効量の眼薬とを含む眼薬物送達組成物も提供する。眼薬は、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物、または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される。キトサンマトリックスは、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物を含み、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。治療有効量の眼薬がある期間にわたって放出されるように眼薬物送達組成物を適合させる。ある実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が1日〜約1年である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約6ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約4ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも3ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも2ヶ月である。別の実施形態では、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも1ヶ月である。
【0211】
別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約0.5時間〜約36時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約1時間〜約36時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも16時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも8時間である。別の実施形態では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも4時間である。
【0212】
本発明は、眼薬物送達組成物を投与するための方法も提供する。この方法は、有効量の組成物を、ヒトを含む動物の眼、または眼を取り囲む組織への注射によって投与することを含む。組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物とを含む。
【0213】
本発明は、眼薬物送達組成物を投与するための方法も提供する。この方法は、ヒトを含む動物の眼に有効量の組成物を局所的に投与することを含む。組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物とを含む。
【0214】
本発明は、眼疾患または眼異常を処置するための医薬組成物も提供する。組成物は、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される治療剤とを含む。
【0215】
本発明は、眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスも提供する。このプロセスは、修飾キトサンと治療剤とを接触させるステップを含み、治療剤は、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される。
【0216】
本発明は、眼疾患または眼異常を処置するための方法を提供する。この方法は、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物と、治療剤とを含む医薬組成物を患者の眼に投与するステップを含む。治療剤は、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択され、それにより、眼疾患または眼異常が処置される。各処理キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示すように設計される。
【0217】
本発明は、キトサンマトリックスと医薬有効量の眼薬とを含む眼薬物送達組成物を提供する。眼薬は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される。キトサンマトリックスは、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含み、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す。この組成物は、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して、低い医薬有効量で、等価な治療活性を与える。キトサンマトリックスを含む本発明の組成物は、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して、等価な組成物内薬物濃度で、組織薬物濃度を増加させる能力を持つ。したがって本発明の組成物は、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して低い、薬物の医薬有効量をもたらす。
【0218】
ある実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも10%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも20%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも30%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも40%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも50%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも60%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも70%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも80%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも90%少ない。別の実施形態では、その低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも95%少ない。
【0219】
医薬組成物は眼科的に許容できるものが有利であり、眼科用組成物に使用される一つ以上の通常の賦形剤を含みうる。本組成物は、好ましくは、多量の液状の水を含む。本組成物は、例えば眼に使用する前に、滅菌状態であることができ、そうであることが好ましい。
【0220】
本組成物は、好ましくは、組成物のpHを制御および/または維持するのに有効な量の少なくとも一つの緩衝剤成分、および/または組成物の張性またはオスモル濃度を制御するのに有効な量の少なくとも一つの張性成分を含み、好ましくは、その張性および/またはオスモル濃度は、硝子体液と実質的に等張であるだろう。より好ましくは、本組成物は、緩衝剤成分と張性成分をどちらも含む。
【0221】
緩衝剤成分および張性成分は、従来からあって眼科分野でよく知られているものから選択することができる。そのような緩衝剤成分の例としては、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤など、およびその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸緩衝剤はとりわけ有用である。有用な張性成分としては、塩類、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールおよび他の糖アルコール、ならびに他の適切な眼科的に許容できる張性成分、ならびにその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0222】
使用される緩衝剤成分の量は、好ましくは、その組成物のpHを約6〜約8の範囲、より好ましくは約7〜約7.5の範囲に維持するのに十分な量である。使用される張性成分の量は、好ましくは、本組成物に、約200〜約400mOsmol/kgの範囲、より好ましくは約250〜約350mOsmol/kgの範囲のオスモル濃度をそれぞれ与えるのに十分な量である。本組成物は実質的に等張性であることが有利である。
【0223】
本組成物は一つ以上の他の構成要素を、本組成物に一つ以上の有用な特性および/または恩恵を与えるのに有効な量で含みうる。例えば本組成物は添加された保存剤成分を実質的に含まなくてもよいが、別の実施形態では、本組成物が有効量の保存剤成分(好ましくは、その組成物が入れられる眼の後部にある組織と、ベンジルアルコールよりも良く適合するような成分)を含む。そのような保存剤成分の例としては、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容できる保存剤など、およびその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。本組成物中に保存剤成分が存在する場合、その濃度は、組成物を保存するのに有効な濃度であり、多くの場合、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の範囲にある。
【0224】
具体的薬物の眼送達に関係する実験
【実施例18】
【0225】
インビボ角膜保持モデル
この実施例は、インビボウサギ眼モデルの角膜表面での保持の動態を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を利用した。さらにまた、この実施例は、最終的に、調製されたキトサン材料内への遊離薬物の混合と、その後の、拡散による組織への薬物の溶出を伴うターゲット組織基体への接着とによって、薬物送達マトリックスとして作用する、修飾処理キトサン材料の能力を評価するために設計された。
【0226】
手法
この研究には体重5〜6ポンドのニュージーランドホワイトウサギを4匹使用した。ウサギの眼をランダム化した。1滴の滅菌BSSを対照眼に入れ、5〜50μLピペッターを使って20μLの実施例1の材料を実験眼に適用した。2時間時点で角膜を回収した。回収時には、40%/60%酸素/空気混合物中の2.0〜3.5%のイソフルオラン(isofluorane)で、ウサギを麻酔してから、安楽死させた。回収後直ちに解析する時間を見込んで、実験には1時間間隔の時間差を設けた。修飾キトサン材料の保持を評価するために、角膜をカルコフロールで染色し、蛍光顕微鏡法を使ってトポグラフ的に評価した。各角膜について、代表的画像を捕らえ、保存した。
【0227】
結果
蛍光顕微鏡法を使った角膜表面のトポグラフ的評価により、実施例1の材料は、適用2時間後に、引き続き存在することが確認された。図14を参照して、実験眼には陽性カルコフロール染色が観察されるのに対して、対照眼では非特異的染色が観察されることに注目されたい。
【0228】
結論
実施例1の材料は適用が容易であり、インビボ条件下で2時間までは依然として接着性である。このデータは、これらの製剤が、そこから持続的なまたは改善された薬物送達を与えるための、またはドライアイに対処するための、有用なマトリックスになりうることを示唆する。約10分〜約30日の期間にわたって角膜に接着するキトサン製剤を調製することができる。
【0229】
修飾キトサン/ケトロラクトロメタミン(KT)実験
【実施例19】
【0230】
修飾キトサン/KT製品の調製
この実施例では、ケトロラクトロメタミン(KT)送達系として使用するための、本発明のキトサン組成物へのKTの組み込みを例示する。
【0231】
まず、実施例1の凍結乾燥材料から、その固形材料をPBSで希釈することにより、10mg/mL溶液を調製した。その結果得られた溶液を蒸気滅菌した。次に、濃度が0.285%(w/v)のKT溶液を滅菌食塩水中に調製し、シリンジ式フィルター滅菌カートリッジ(Millex-GC)を使って滅菌した。最後に、修飾キトサン溶液とKT溶液を、3mg/mLの最終修飾キトサン濃度および0.2%の最終KT濃度が得られるように、滅菌バイアル中で合わせた。次に、合わせた材料を、リストアクション振とう器に1時間置くことによって、よく混合した。次に、最終製剤のpHを測定した。
【実施例20】
【0232】
修飾キトサン/KT製品からのKT薬物送達
この実施例は、現在市販されているKT製剤(AllerganのAcular LS(登録商標))の眼送達性能を、本発明の送達マトリックスと、インビボウサギモデルで比較するために設計された。この研究では実施例19の材料を使用した。
【0233】
手法
この研究には体重5〜7ポンドのニュージーランドホワイトウサギを9匹使用した。ウサギとその眼をさまざまな処置群にランダムに割り当てた(下記参照)。適当な化合物を実験眼に滴下し、他眼は無処置のままにしておいた。液剤の滴下後に、ウサギを最初の15〜20分間は絶えず監視し、その後は収集時まで15分ごとに監視した。眼房水の収集に先だって、40%/60%酸素/空気混合物中の2.0〜3.5%のイソフルオランで、ウサギを麻酔した。このタイプの薬物送達適用に関して文献調査すれば、眼に局所適用し、次に適用後さまざまな時点で角膜眼房水中の薬物レベルを定量することによって製剤を評価するのが、一般的慣行であることがわかるだろう。したがって、100μLの眼房水を適当な時点でそれぞれの眼から収集し、解析するまで-80℃で保存しておいた。
【0234】
第1群は3匹のウサギからなった。各ウサギの実験眼を3mg/mLの実施例19の材料50μLで処置した。他眼は無処置のままにしておいた。以下の時点に処置眼から眼房水を収集した:1時間および4時間。1時間時点でウサギの一匹の無処置眼から眼房水を収集して、必要ならば、解析のバックグラウンド対照とした。
【0235】
第2群は2匹のウサギからなった。各ウサギの実験眼を50μLのAcular LS(登録商標)(推奨用量)で処置した。他眼は無処置のままにしておいた。以下の時点に処置眼から眼房水を収集した:1時間および4時間。
【0236】
眼房水サンプルを逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で解析した。解析に先だって、サンプルをメタノールで1:1に希釈し、冷蔵庫で1時間冷却し、生物学的干渉を排除するために遠心分離した。全てのサンプルおよび標準をこのサンプル調製ステップに従って処理した。分析物の回収率を評価したところ、この解析にとっては許容できるようだった。HPLC分離は、標準的C18分析用カラム、メタノール/水/酢酸(55/44/1)からなる移動相および1.0mL/分の流速を使って行った。検出および定量は254nmでUV可視検出器を使って行った。
【0237】
結果
この研究で得られたデータを図15に示す。現在市販されているAcular-LS(登録商標)は、活性薬を0.4%の濃度で含有し、本発明の製剤では0.2%である。活性薬が50%少ないにもかかわらず、本発明の製剤からの送達は、適用後1時間および4時間の時点で、現在市販されている製品より多い。本発明の製剤によって送達されるKT濃度は、1時間時点および4時間時点で、それぞれAcular-LS(登録商標)の136%および157%だった。
【0238】
結論
実施例19の材料は、眼へのKTの送達を改善するための手段として極めて有望であり、活性医薬成分(API)をかなり減らしても、上回らないまでも同等な送達を得ることができる。
【0239】
本明細書に記載の修飾キトサン、KT組成物は、炎症および感染などの眼異常をうまく処置するために使用することができる。治療的に有効な修飾キトサン製剤は、他のNSAID、例えば(限定するわけではないが):(1)サリチレート、例えばアセチルサリチル酸、アモキシプリン(Amoxiprin)、ベノリラート、コリンマグネシウムサリチレート、ジフルニサル、ファイスラミン(Faislamine)、メチルサリチレート、マグネシウムサリチレート、サリチルサリチレート(サルサレート(salsalatee));(2)アリールアルカン酸、例えばジクロフェナク、アセクロフェナク、アセメタシン、ブロムフェナク、エトドラク、インドメタシン、ナブメトン、スリンダク、トルメチン;(3)2-アリールプロピオン酸(プロフェン類)、例えばイブプロフェン、カルプロフェン、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、チアプロフェン酸、スプロフェン;(4)N-アリールアントラニル酸(フェナム酸類)、例えばメフェナム酸、メクロフェナム酸;(5)ピラゾリジン誘導体、例えばフェニルブタゾン、アザプロパザン、メタミゾール、オキシフェンブタゾン、スルフィンピラゾン;(6)オキシム類、例えばピロキシカム、ロルノキシカム、メロキシカムおよびテノキシカム;(7)COX-2阻害剤、例えばセレコキシブ、エトリコキシブ、ルミラコキシブ、パレコキシブ、ロフェコキシブ、およびバルデコキシブ;(8)スルホンアニリド類、例えばニメスリド、ならびに他のNSAID、例えばリコフェロンおよびω-3脂肪酸などを使って調製することもできる。
【0240】
修飾キトサン/酢酸プレドニシロン(Prednisilone)実験
【実施例21】
【0241】
修飾キトサン/PA製品の調製
この実施例では、PA送達系として使用するための、本発明の修飾キトサン組成物への酢酸プレドニシロン(PA)の組み込みを例示する。
【0242】
手法
この特定の適用の場合、薬物は上述の再構成ステップ中に製剤に組み込まれる。これにより、本発明の製剤と並行して薬物製品の滅菌が行い易い。実施例4の凍結乾燥材料を量り取り、滅菌食塩水で希釈して、3mg/mLという所望の最終修飾キトサン濃度を得る。PAを添加する前に修飾キトサンを一晩可溶化させた。薬物をオートクレーブ処理する前に、薬物を量り取って、修飾キトサン/食塩水混合物に加えた時に所望の最終薬物濃度(0.05%)が得られるようにした。活性薬物の溶解を促進するために、オートクレーブ処理に先だって、その混合物を加熱してもよい。次に、その製剤をオートクレーブ処理した後、終夜撹拌した。滅菌された材料は、温かい間に、または冷却後に、適当な希釈剤で希釈することができる。そのような希釈剤としては、薬物送達に使用される任意の担体が挙げられる。
【実施例22】
【0243】
修飾キトサン/PA製品の代替的調製方法
この実施例では、PA送達系として使用するために、DMSOを補助溶媒として使用して、酢酸プレドニシロン(PA)を本発明の修飾キトサン組成物に組み込むための代替的手法を例示する。
【0244】
手法
10mg/mLの実施例4の材料の修飾キトサン溶液2.7mLを20mLバイアルに入れた。2%PA/DMSO溶液225μLをそのバイアルに滴下した。次に1mLのDI水をバイアルに加えた。次に500μLのメタノールをバイアルに滴下した。得られた溶液を丸底フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにかけて、ヒドロゲルを生成させた。次にそのヒドロゲルをフラスコから掻きだして、メスシリンダーに入れ、所望の体積(この実施例では9mL)に再構成させた。再構成した材料をオートクレーブで滅菌した。
【実施例23】
【0245】
修飾キトサン/PA製品の代替的調製方法
この実施例では、PA送達系として使用するために、酢酸エチルを補助溶媒として使用して、酢酸プレドニシロン(PA)を本発明の修飾キトサン組成物に組み込むための代替的手法を例示する。
【0246】
PAを酢酸エチルに溶解して、所望のPA濃度を持つPA酢酸エチル溶液を形成させた。所望する量の10mg/mLの実施例4の材料の修飾キトサン溶液を20mLバイアルに入れた。PA酢酸エチル溶液をそのバイアルに加えてPA濃度を0.05%にした。得られた溶液を約45℃の温度まで穏やかに加熱して、酢酸エチルを蒸発させた。場合によっては、酢酸エチルの除去を促進するために、または溶解した酢酸エチルの除去を容易にするために、穏やかなN2流を溶液の表面に向けることができる。
【実施例24】
【0247】
修飾キトサン/PA製品によるPA薬物送達
この実施例は、現在市販されている酢酸プレドニゾロン(PA)製剤(AllerganのPred Forte(登録商標))の眼送達性能を、本発明の送達マトリックスと、インビボウサギモデルで比較するために設計された。この研究では実施例21の材料を使用した。
【0248】
手法
体重5〜8ポンドのニュージーランドホワイトウサギ12匹をさまざまな処置群にランダムに割り当てた(下記参照)。適当な化合物を左眼に滴下し、右眼は無処置のままにしておいた。液剤の滴下後に、ウサギを最初の15〜20分間は絶えず監視し、その後は収集時まで15分ごとに監視した。眼房水の収集に先だって、40%/60%酸素/空気混合物中の2.0〜3.5%のイソフルランで、ウサギを麻酔した。このタイプの薬物送達適用に関して文献調査すれば、眼に局所適用し、次に適用後さまざまな時点で角膜眼房水中の薬物レベルを定量することによって製剤を評価するのが、一般的慣行であることがわかるだろう。したがって、100μLの眼房水を適当な時点でそれぞれの眼から収集し、解析するまで-80℃で保存しておいた。
【0249】
第1群は3匹のウサギからなった。各ウサギの左眼を35μLのPred Forte(登録商標)(推奨用量)で処置した。右眼は無処置のままにしておいた。4時間時点で両眼から眼房水を収集した。
【0250】
第2群は3匹のウサギからなった。各ウサギの左眼を7.2mg/mLの実施例21の材料35μLで処置した。右眼は無処置のままにしておいた。4時間時点で両眼から眼房水を収集した。
【0251】
第3群は3匹のウサギからなった。各ウサギの左眼を35μLのPred Forte(登録商標)(推奨投薬量)で処置した。右眼は無処置のままにしておいた。1時間時点で両眼から眼房水を収集した。
【0252】
第4群は3匹のウサギからなった。各ウサギの左眼を7.2mg/mLの実施例21の材料35μLで処置した。右眼は無処置のままにしておいた。1時間時点で両眼から眼房水を収集した。
【0253】
眼房水サンプルを逆相高速液体クロマトグラフィーで解析した。解析に先だって、サンプルをメタノールで1:1に希釈し、冷蔵庫で1時間冷却し、生物学的干渉を排除するために遠心分離した。全てのサンプルおよび標準をこのサンプル調製ステップに従って処理した。分析物の回収率を評価したところ、この解析にとっては許容できるようだった。HPLC分離は、標準的C18分析用カラム、IPA/水/H3PO4(25/74.8/0.2)からなる移動相および1.0mL/分の流速を使って行った。検出および定量は245nmでUV可視検出器を使って行った。
【0254】
結果
図16には、この研究で得られたデータを要約した棒グラフが含まれる。現在市販されているPred Forte(登録商標)は活性薬物を1.0%の濃度で含有し、本発明の製剤は0.05%である。活性薬物が20分の1であるにもかかわらず、本発明の製剤からの送達は、1時間時点で現在市販されている製品を越え(Pred Forte(登録商標)の138%)、適用後4時間でもわずかに少ないだけだった(Pred Forte(登録商標)の71%)。
【0255】
結論
実施例21の材料は、眼へのPAの送達を改善するための手段として極めて有望であり、活性医薬成分(API)をかなり減らしても、上回らないまでも同等な送達を得ることができる。
【0256】
本明細書に記載の修飾キトサン、酢酸プレドニシロン組成物は、炎症および感染などの前眼部異常をうまく処置するために使用することができる。治療的に有効な修飾キトサン製剤は、他のステロイド、例えば(限定するわけではないが)、21-アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾン、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、クロロプレドニゾン、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチコステロン、コルチゾン、コルチバゾール、デフラザコート、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドネート、エノキソロン、フルアザコート(fluazacort)、フルクロロニド(flucloronide)、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオコルチンブチル、フルオコルトロン、フルオロメトロン、酢酸フルペロロン、酢酸フルプレドニデン、フルプレドニゾロン、フルランドレノリド、プロピオン酸フルチカゾン、ホルモコータル、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、ハロメタゾン、酢酸ハロプレドン、ヒドロコルタメート、ヒドロコルチゾン、エタボン酸ロテプレドノール、マジプレドン(mazipredone)、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、フロ酸モメタゾン、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾロン、プレドニゾロン25-ジエチルアミノ-アセテート、リン酸プレドニゾロンナトリウム、プレドニゾン、プレドニバール(prednival)、プレドニリデン、リメキソロン、チキソコルトール、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンベネトニド、トリアムシノロンヘキサアセトニド、およびそれらの誘導体のいずれかなどを使って調製することもできる。
【0257】
1つの実施形態では、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、およびトリアムシノロン、ならびにそれらの誘導体が、好ましいステロイドである。
【0258】
修飾キトサン/ビマトプロスト実験
【実施例25】
【0259】
修飾キトサン/ビマトプロスト製品の調製
この実施例では、酵素放出型ビマトプロスト送達系として使用するための、本発明の修飾キトサン組成物へのビマトプロストの共有結合による付着を例示する。
【0260】
手法
ビマトプロストの共有結合による付着は2段階で行った。第1ステップ(図17参照)では、ビマトプロスト分子にテザーを付加して、キトサン骨格への付着に適した適切な分子構造にした。テザーへのビマトプロストの付着により、酵素的加水分解時に無修飾ビマトプロストの限局的放出をもたらすであろう酵素的に切断可能なリンクが形成された。第2ステップ(図17参照)では、リンカー修飾ビマトプロストを実施例1の修飾キトサン材料のキトサン骨格に付着させた。共有結合的に修飾され薬剤が負荷されたキトサン材料は、続いて、持続的送達相におけるビマトプロストの限局的送達に使用することができる。
【0261】
ステップ1:ビマトプロストへのリンカーの付着
200mgのビマトプロスト、48mgの無水コハク酸、147mgの4-ジメチルアミノピリジン、74μLのトリエチルアミンおよび4mLのジクロロメタンを混合し、室温で20分間、振とう機に乗せる。その溶液に4mLのヘキサンを加えて、リンカー修飾ビマトプロストを沈殿させた。沈殿後に、濃厚な油状の層だけが残るまで、溶媒を減圧下で蒸発させた。10mLの0.1M塩化カルシウム(pH=8)を加え、溶液の体積を、ほぼ乾固するまで減圧下で減少させた。10mLの脱イオン(DI)水を加えて全ての材料を再溶解した。次に、再溶解したサンプルを50mLの遠心分離バイアルに入れ、1M HClでpH4に酸性化した。生成物が沈殿するにつれて、溶液は乳白色に変化した。3850×Gで10分間の遠心分離によって生成物を集めた。
【0262】
ステップ2:修飾キトサンへの付着
実施例1の材料を滅菌食塩水に再構成して、総体積10mLの10mg/mL溶液にした。その溶液に0.11gのEDCおよび0.165gのNHSを、磁気撹拌子で撹拌しながら加えた。ステップ1で得たリンカー修飾ビマトプロストを、10mg/mL修飾キトサン溶液に加えた。溶液のpHを6M NaOHおよび/またはHClを使って6.5〜7に調整し、そのpH調整溶液を72時間撹拌した。次に、得られた溶液を、6M NaOHの添加によってpH9にし、反応をクエンチして修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を沈殿させた。沈殿した修飾キトサン/ビマトプロスト生成物と上清とを50mLビーカーに移し、30mLの10%乳酸を加え、沈殿物を再溶解させた。6M NaOHの添加によって修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を再沈殿させた。このステップは、上清の一部として捨てられる溶解した残留物を除去するために設計された。材料を遠心管に移し、3850×Gで10分間遠心分離した。沈殿物を収集し、固形の修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を透析チューブに移し、10%酸に対して、修飾キトサンが溶解するまで透析した。溶解した修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を水に対して最低3時間は透析した。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を水に対してさらに2回透析した。この透析ステップは過剰な酸および未付着のビマトプロスト/リンカーを修飾キトサン/プロトプラスト生成物から除去する。透析液のpHをpH試験紙で測定し、pHを記録した。次に、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を、滅菌PBSに対して、透析液が5.7〜6.0のpHを持つようになるまで透析した。次に、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を水に対して3時間透析し、それを合計2回繰り返した。次に、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を凍結乾燥フラスコに移し、-80℃で終夜冷蔵した。その修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を凍結乾燥した。凍結乾燥材料は貯蔵に有利であり、所望の濃度での再構成を簡単にする。次に、凍結乾燥製品を滅菌PBSを使って所望の濃度で再構成し、オートクレーブにかけて、滅菌製品を得ることができる。
【0263】
修飾キトサン/ビマトプロスト生成物のIR解析
実施例1の修飾キトサン材料へのビマトプロストの共有結合的付着を、以下の手法に従って、FTIRで調べた。
【0264】
100mgの乾燥臭化カリウム(KBr)を量り取った。1mgの凍結乾燥修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を量り取った。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物およびKBrを乳鉢と乳棒を使って微粉末に粉砕し、その混合物を底から掻き取り、完全な混合を保証するために粉砕を繰り返した。その混合物を80℃のオーブンに最低でも24時間は入れた。液圧プレスを使って、その混合物を減圧下に合計15,000ポンドの圧力で5分間プレスすることにより、半透明のペレットを得た。そのペレットをThermo-Nicolet FT-IR装置を使って解析し、各サンプルで16回のスキャンを行った。
【0265】
ここで図18を参照して説明すると、この図には、本発明の修飾キトサン組成物、純粋なビマトプロストおよび上で調製した修飾キトサン/ビマトプロスト生成物についての複合IRスペクトルが示されている。この図は、純粋なビマトプロスト、修飾キトサンマトリックス、および修飾キトサン/ビマトプロスト生成物について、アミド吸光度が現われるIRスペクトル領域を示している。修飾キトサンマトリックスIRスペクトルにおいて1540cm-1および1610cm-1に新しいIRバンドが現れることにより、修飾キトサンマトリックスへのビマトプロストの付着が確認される。
【実施例26】
【0266】
修飾キトサン/ビマトプロスト生成物の調製方法
この実施例では、酵素放出型ビマトプロスト送達系として使用するための実施例1の修飾キトサン材料にビマトプロストを付着させるもう一つの手法を例示する。この代替的手法では、実施例25に記載の手法よりも純粋なリンカー-ビマトプロストコンジュゲートが生成する。
【0267】
ステップ1:ビマトプロストへのリンカーの付着
200mgのビマトプロスト(0.48mmol)、48mgの無水コハク酸(0.48mmol)、147mgの4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(1.2mmol)、74μLのトリエチルアミン(TEA)(0.53mmol)、1gのDEAEセファデックス(粒径40〜125μm)を量り取った。次に、4mLのジクロロメタンをバイアルに入れた。そのバイアルに無水コハク酸を加え、ボルテックスにかけてジクロロメタンに溶解させた。次にDMAPを加え、ボルテックスにかけて溶解させた。次にビマトプロストを加え、ボルテックスにかけて溶解させた。次にTEAを加え、ボルテックスにかけて溶解させた。最後にDEAEを加え、ボルテックスにかけて混合し、そのバイアルにしっかりと蓋をした。次に、蓋をしたバイアルをリストアクション振とう器にのせ、室温で1時間振とうした。反応が進行している間に、10mLシリンジからプランジャを取り除いた。濾紙を小さな円形に切り取り、湿らせた。その円形の湿った濾紙を使って、シリンジの開口部に栓をした。濾紙はDEAEゲルの流れを遅らせるように設計された。シリンジに乾燥DEAEビーズを1mLラインまで充填した。ビーズを水で湿らせ、次にメタノールで湿らせた。反応混合物をピペットでシリンジに入れた。ゲルを40mLの75%メタノールと40mLの水で洗浄して、あらゆる不純物または未反応材料を除去した。次に、ゲルを40mLの1M NaClで洗浄して、生成物を溶出させた。
【0268】
ステップ2:修飾キトサンへの付着
修飾キトサンの可溶化
適当な量の実施例1の修飾キトサン材料を量り取り、1M NaClで洗浄したステップ1の生成物に加えた。その混合物を24時間撹拌した。修飾キトサンが溶解しない場合は、その混合物を穏やかに加熱して、60℃を越えないように注意しながら、修飾キトサンを溶解させた。
【0269】
修飾キトサンとビマトプロストスクシネート生成物のEDCカップリング
0.11gのEDC(修飾キトサン100mgあたり)および0.165gのNHS(修飾キトサン100mgあたり)を量り取り、先のステップで得た溶液に、磁気撹拌子を使って撹拌しながら加えた。溶液のpHを調べて、pH5〜6に維持した。反応溶液を室温で72時間撹拌した。
【0270】
精製および透析
72時間後に、溶液のpHを6M NaOHでpH9に調整して、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を沈殿させた。沈殿した修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を150mLビーカーに入れ、50mLの10%乳酸を加えた。沈殿した修飾キトサン/ビマトプロストを、全ての修飾キトサン/ビマトプロスト生成物が溶解するまで撹拌した。6M NaOHを使ってpHをpH9に調整することにより、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を沈殿させた。次にその混合物を50mL遠心管に移し、3850×Gで15分間遠心分離した。次に上清を取り出して、捨てた。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を透析チューブに移し、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物が溶解するまで、10%乳酸に対して透析した。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物が溶解した後、透析液をDI水に変え、生成物を最低3時間、最低3回の独立したDI水透析ステップで透析した。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物のpHを調べた後、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物をPBS(pH7.4)に対して、修飾キトサン/ビマトプロスト生成物が約6のpHに達するまで透析した。このPBS透析では、生成物が約6のpHに達するのに、通例、30分を要した。次に生成物をDI水に対して最低3時間、最低2回の独立したDI水透析ステップで透析した。修飾キトサン/ビマトプロスト生成物を透析チューブから取り出し、凍結乾燥器フラスコに入れた。そのフラスコを少なくとも1時間または一晩、-80℃のフリーザーに入れておいた。フラスコを-80℃のフリーザーから取り出し、生成物が完全に乾燥するまで凍結乾燥器に置いた。
【実施例27】
【0271】
眼周囲注射:基材の生体適合性および寿命
この実施例は、ウサギ眼を取り囲む結膜組織内に配置した場合の本発明の材料の生体適合性を評価するために設計されたものであり、実施例1の材料を使用した。
【0272】
手法
この研究には2匹のニュージーランドホワイトウサギを使用した。ウサギおよび処置はランダム化した。実験眼は10mg/mLの実施例1の材料100μLで処置し、対照眼はBSS 100μLで処置した。40%/60%酸素/空気混合物中、2.0〜3.5%のイソフルランで、ウサギを麻酔した。2滴の局所麻酔薬(テトラカイン-0.5%滴剤またはアルカイン)をウサギ眼に適用した。鉗子を使って、結膜を眼球の表面から静かに持ち上げて、結膜の「テンティング」を起こした。眼球の表面から十分に離して注射を行った。(この手技により眼球穿孔のリスクが著しく低減する)。針を眼球に対して接線方向に置いて、針先をテント中に挿入し、適当な製剤を送達した。23ゲージ針を使って注射を行った。実験眼の結膜には実施例1の材料100μLを注射した。対照眼の結膜にはBSS 100μLを注射した。注射後に、抗生物質滴剤(べガモックス(登録商標))を点眼した。1週間、毎日観察を行った後、研究が終了するまで週に1回観察した。24時間時点で結膜の写真を撮影した。29日目に、ウサギを安楽死させ、結膜を回収し、組織学的検査用に加工した。
【0273】
結果
眼瞼を下げる前にウサギを見ると、研究全体にわたって、対照眼と処置眼とを弁別することはできなかった。全てのウサギ眼は全ての観察点で明るく湿った外観を保っていた。24時間時点で、全ての結膜が(実験結膜も対照結膜も)正常に見えたことから、BSSも実施例1の材料の流動体構成要素も組織に吸収されたことが示された。どの結膜にも発赤は認めなかった。29日時点で、全ての眼が正常なようだった。どの眼にも隆起(bump)は存在しなかった。カルコフロール染色を使った組織学的評価により、注射29日後の実験眼の結膜における実施例1の材料の存在が確認された。ここで図19を参照して説明すると、顕微鏡像が、29日時点における材料の継続的存在を裏付けている。
【0274】
結論
実施例1の材料は、眼に持続的薬物送達を提供するための手段として有望である。眼周囲注射後に、本発明の材料は結膜空間内に、優れた生体適合性で少なくとも29日間は存在し続けた。
【実施例28】
【0275】
眼周囲注射:薬物を負荷した材料の生体適合性および寿命
この実施例は、ウサギ眼を取り囲む結膜組織内に配置した場合の、ビマトプロストの付加によって共有結合的に修飾されている本発明の材料の生体適合性を評価するために設計されたものであり、実施例25の材料を利用した。
【0276】
手法
この研究には4匹のニュージーランドホワイトウサギを使用した。この研究ではウサギおよび処置をランダム化した。実験眼は10mg/mLの実施例25の材料100μLで処置し、対照眼はBSS 100μLで処置した。40%/60%酸素/空気混合物中、2.0〜3.5%のイソフルランで、ウサギを麻酔した。2滴の局所麻酔薬(テトラカイン-0.5%滴剤またはアルカイン)をウサギ眼に適用した。鉗子を使って、結膜を眼球の表面から静かに持ち上げて、結膜の「テンティング」を起こした。眼球の表面から十分に離して注射を行った。(この手技により眼球穿孔のリスクが著しく低減する)。針を眼球に対して接線方向に置いて、針先をテント中に挿入し、適当な製剤を送達した。23ゲージ針を使って注射を行った。実験眼の結膜には実施例25の材料100μLを注射した。対照眼の結膜にはBSS 100μLを注射した。注射後に、抗生物質滴剤(ベガモックス(登録商標))を点眼した。1週間、毎日観察を行った後、研究が終了するまで週に1回観察した。注射時、1日目および7日目に、結膜の写真を撮影した。研究の終了時に、ウサギを安楽死させ、結膜を回収し、組織学的検査用に加工した。
【0277】
結果
眼瞼を下げる前にウサギを見ると、研究全体にわたって、対照眼と処置眼とを弁別することはできなかった。全てのウサギ眼は全ての観察点で明るく湿った外観を保っていた。24時間時点で、全ての対照結膜が正常に見えたことから、BSSは組織に吸収されたことが示された。全ての実験結膜には、わずかないし顕著なピロー(pillow)または隆起が、結膜組織のわずかな発赤と共に存在した。発赤は研究の進行と共にゆっくり減少した。(眼そのものおよび周囲組織は、研究全体にわたって、完全に正常なままだった)。最初の24時間以内に、相対的隆起サイズが減少し、その後は極めて小さくなった。29日時点で、全ての眼が正常なようだった。全ての実験眼に依然として隆起が存在した。切開時点で、どの結膜が実施例25の材料を含むかは、極めて明白だった。カルコフロール染色を使った組織学的評価により、注射29日後の実験眼の結膜における本発明のキトサン化合物の存在が確認された。ここで図20を参照して説明すると、この図には、29日時点におけるこの材料の継続的存在を裏付ける肉眼的および顕微鏡的証拠が示されている。
【0278】
結論
ビマトプロストにより共有結合的に修飾されている本発明の修飾キトサン材料は、眼に持続的薬物送達を提供するための手段として有望である。眼周囲注射後に、これらの材料は結膜空間内に、優れた生体適合性で少なくとも29日間は存在し続ける。実施例27での結果が基材のみからの刺激の徴候を示さなかったことを考えると、注射後にこれらの実験眼の結膜で観察されたわずかな発赤は、おそらくビマトプロスト修飾に起因するのだろう。
【実施例29】
【0279】
本発明のキトサン材料からのビマトプロストのインビトロ加水分解アッセイ
この実施例は、結合されたビマトプロストを酵素的に放出する能力を評価するために設計されたものである。これは、ブタエステラーゼおよびリゾチームを使用するインビトロ加水分解アッセイにより、以下の手法に従って証明された。
【0280】
手法
0.309gのホウ酸を50mLのDI水に加え、1M NaOHでpHを6.5に調整することにより、0.1Mホウ酸緩衝剤の溶液を調製した。実施例25の材料の5mg/mL溶液を滅菌食塩水中に無菌的に調製した。1ミリリットルあたり1000単位のブタエステラーゼおよび20単位の卵白リゾチームを0.1Mホウ酸緩衝液に溶解した。標準を以下のように調製した:1mLのホウ酸緩衝液(pH6.5)および1mLの5mg/mL実施例25の修飾キトサン材料を各バイアルに入れ、10秒間ボルテックスして、完全な混合を保証する。サンプルをリストアクション振とう器にのせて、72時間振とうする。エステラーゼサンプルを以下のように調製した:1mLのブタエステラーゼおよび卵白リゾチーム溶液(1mLあたり1000単位のブタエステラーゼおよび20単位の卵白リゾチーム)ならびに1mLの5mg/mL実施例25の修飾キトサン材料を各バイアルに入れ、10秒間ボルテックスして、完全な混合を保証する。サンプルをリストアクション振とう器にのせて、72時間振とうする。
【0281】
インキュベーション後に、サンプルを、放出されたビマトプロストについて、HPLCによって分析した。
【0282】
振とう器からサンプルを取り出し、10秒間ボルテックスし、50μlの1M NaOHを加えることによってその溶液をpH8〜9に調整し、サンプルを10秒間ボルテックスする。1mLのメタノールを加え、10秒間ボルテックスする。1mLのサンプルをピペットで微量遠心管に移し、各サンプルを10000rpmで15分間遠心分離する。HPLC分析用に200mLの各サンプルを取り出し、1mL/分の定組成メタノール/水/酢酸(70:30:0.1)を流した250mm×4.8mm C18エンドキャップカラム(VWR)にサンプルを流し、210nmで検出する。ビマトプロストピークは約5.6分に溶出し、そのピーク下の面積を積分して、標準曲線と比較することにより、濃度を決定する。
【0283】
結果
図21は、酵素の存在下および非存在下でのビマトプロストの放出プロファイルを示す。酵素が存在しない場合、検出可能なビマトプロストは観察されなかった。酵素が存在する場合は、かなりの量のビマトプロストが放出された。
【0284】
結論
この実施例は、共有結合されたビマトプロストを切断するエステラーゼおよびリゾチームの作用下で、ビマトプロストが本発明の修飾キトサン材料から効率よく放出されることを明確に示している。
【0285】
本明細書に記載の修飾キトサン、ビマトプロスト組成物は、緑内障などの眼異常をうまく処置するために、そして網膜細胞に神経保護を提供するために、使用することができる。治療的に有効な修飾キトサン製剤は、他のプロスタグランジンおよびプラスタミド、例えば(限定するわけではないが)PGD2、PGE2、PGF2、ラタノプロストおよびトラボプロストおよびイソプロピルウノプロストンなどを使って調製することもできる。
【0286】
本明細書で言及した全ての参考文献は参照により本明細書に組み込まれる。本発明をその好ましい実施形態に関して開示したが、この記載を参照することにより、上述し、特許請求の範囲にも記載する本発明の範囲および精神から逸脱せずに加えることができる改変および変更が、当業者にはわかるだろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼疾患または眼異常を処置するための医薬組成物であって、
処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物(ここに、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物は、対応する無処理キトサンと比較して、化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、
プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される治療剤
とを含み、
処置有効量の治療剤がある期間にわたって放出されるようにキトサン組成物を適合させた、医薬組成物。
【請求項2】
さらに保存剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
保存剤が、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベン、エチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに賦形剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
賦形剤が眼科適合性賦形剤である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
さらに緩衝剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
緩衝剤が、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
さらにビヒクルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ビヒクルが眼科適合性ビヒクルである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
治療剤がキトサン上の部位に共有結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスであって、
処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、処置有効量の医薬剤とを接触させて、実質的に均一な組成物を形成させること
を含み、
各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、
各修飾キトサンが、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、あるいはキトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、キトサンを、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加で変化させることによって、調製され、
医薬剤が、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される、プロセス。
【請求項13】
さらに保存剤を含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
保存剤が、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベン、エチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
さらに賦形剤を含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項16】
賦形剤が眼科適合性賦形剤である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
さらに緩衝剤を含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項18】
緩衝剤が、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
さらにビヒクルを含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項20】
ビヒクルが眼科適合性ビヒクルである、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
治療剤がキトサン上の部位に共有結合される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項22】
治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項23】
請求項12に記載のプロセスによって製造される医薬組成物。
【請求項24】
眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスであって、
処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、処置有効量の医薬剤とを、医薬剤がキトサン上の部位に共有結合されるような条件下で接触させることを含み、
各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、
各修飾キトサンが、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、あるいはキトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、キトサンを、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加で変化させることによって、調製され、
医薬剤が、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される、プロセス。
【請求項25】
さらに保存剤を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
保存剤が、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベン、エチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
さらに賦形剤を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項28】
賦形剤が眼科適合性賦形剤である、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
さらに緩衝剤を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項30】
緩衝剤が、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
さらにビヒクルを含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項32】
ビヒクルが眼科適合性ビヒクルである、請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
治療剤がキトサン上の部位に共有結合される、請求項24に記載のプロセス。
【請求項34】
治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される、請求項24に記載のプロセス。
【請求項35】
請求項24に記載のプロセスによって製造される医薬組成物。
【請求項36】
眼疾患または眼異常を処置するための方法であって、
処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される医薬剤とを含む医薬組成物を、患者に投与するステップを含み、
各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、
各修飾キトサンが、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、あるいはキトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、キトサンを、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加で変化させることによって、調製され、
処置有効量の医薬剤がある期間にわたって放出されるように医薬組成物を適合させ、眼疾患または眼異常を処置もしくは治療するように、または眼疾患もしくは眼異常の症状を軽減するように処置有効量を適合させた、方法。
【請求項37】
キトサンマトリックスと医薬有効量の眼薬とを含む眼薬物送達組成物であって、眼薬が、プロスタグランジン、プロスタミドもしくはその混合物、または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物、またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択され、キトサンマトリックスが、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物を含み、各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、処置有効量の眼薬がある期間にわたって放出されるように組成物を適合させた、眼薬物送達組成物。
【請求項38】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が1日〜約1年である、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約6ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項40】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約4ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項41】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも3ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項42】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも2ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項43】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも1ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項44】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約0.5時間〜約36時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項45】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約1時間〜約36時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項46】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも16時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項47】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも8時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項48】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも4時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項49】
眼薬物送達組成物を投与するための方法であって、
有効量の組成物を、ヒトを含む動物の眼または眼を取り囲む組織に注射によって投与することを含み、組成物が
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(ここに、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物
とを含む、方法。
【請求項50】
眼薬物送達組成物を投与するための方法であって、
有効量の組成物を、ヒトを含む動物の眼に局所投与することを含み、組成物が、
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(ここに、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物
とを含む、方法。
【請求項51】
眼疾患または眼異常を処置するための医薬組成物であって、
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物と、
プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される治療剤
とを含む、医薬組成物。
【請求項52】
眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスであって、
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物と、治療剤とを接触させるステップを含み、治療剤が、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される、プロセス。
【請求項53】
眼疾患または眼異常を処置するための方法であって、
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物と、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される治療剤とを含む医薬組成物を患者の眼に投与し、それによって眼疾患または眼異常を処置するステップを含む、方法。
【請求項54】
キトサンマトリックスと医薬有効量の眼薬とを含む眼薬物送達組成物であって、
眼薬が非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択され、
キトサンマトリックスが処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含み、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、
各処理キトサンが、可溶化したキトサンを、水、塩溶液および/またはアニオン溶液に対して透析することによって調製され、
各修飾キトサンが、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、あるいはキトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、キトサンを、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加で変化させることによって、調製され、
組成物が、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して組織薬物濃度を増加させることで、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して低い、薬物の医薬有効量をもたらす、眼薬物送達組成物。
【請求項55】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも10%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも20%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項57】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも30%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項58】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも40%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項59】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも50%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項1】
眼疾患または眼異常を処置するための医薬組成物であって、
処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物(ここに、処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物は、対応する無処理キトサンと比較して、化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、
プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される治療剤
とを含み、
処置有効量の治療剤がある期間にわたって放出されるようにキトサン組成物を適合させた、医薬組成物。
【請求項2】
さらに保存剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
保存剤が、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベン、エチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに賦形剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
賦形剤が眼科適合性賦形剤である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
さらに緩衝剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
緩衝剤が、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
さらにビヒクルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ビヒクルが眼科適合性ビヒクルである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
治療剤がキトサン上の部位に共有結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスであって、
処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、処置有効量の医薬剤とを接触させて、実質的に均一な組成物を形成させること
を含み、
各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、
各修飾キトサンが、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、あるいはキトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、キトサンを、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加で変化させることによって、調製され、
医薬剤が、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される、プロセス。
【請求項13】
さらに保存剤を含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
保存剤が、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベン、エチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
さらに賦形剤を含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項16】
賦形剤が眼科適合性賦形剤である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
さらに緩衝剤を含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項18】
緩衝剤が、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
さらにビヒクルを含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項20】
ビヒクルが眼科適合性ビヒクルである、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
治療剤がキトサン上の部位に共有結合される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項22】
治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項23】
請求項12に記載のプロセスによって製造される医薬組成物。
【請求項24】
眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスであって、
処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、処置有効量の医薬剤とを、医薬剤がキトサン上の部位に共有結合されるような条件下で接触させることを含み、
各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、
各修飾キトサンが、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、あるいはキトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、キトサンを、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加で変化させることによって、調製され、
医薬剤が、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される、プロセス。
【請求項25】
さらに保存剤を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
保存剤が、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の濃度範囲にある、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルパラベン、エチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、他の眼科的に許容できる保存剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
さらに賦形剤を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項28】
賦形剤が眼科適合性賦形剤である、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
さらに緩衝剤を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項30】
緩衝剤が、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびその混合物からなる群より選択される、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
さらにビヒクルを含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項32】
ビヒクルが眼科適合性ビヒクルである、請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
治療剤がキトサン上の部位に共有結合される、請求項24に記載のプロセス。
【請求項34】
治療剤がリンカーを介してキトサン上の部位に共有結合される、請求項24に記載のプロセス。
【請求項35】
請求項24に記載のプロセスによって製造される医薬組成物。
【請求項36】
眼疾患または眼異常を処置するための方法であって、
処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含むキトサン組成物と、プロスタグランジン、プロスタミドおよびその混合物、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびNSAIDの混合物、ならびにコルチコステロイドおよびコルチコステロイドの混合物からなる群より選択される医薬剤とを含む医薬組成物を、患者に投与するステップを含み、
各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、
各修飾キトサンが、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、あるいはキトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、キトサンを、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加で変化させることによって、調製され、
処置有効量の医薬剤がある期間にわたって放出されるように医薬組成物を適合させ、眼疾患または眼異常を処置もしくは治療するように、または眼疾患もしくは眼異常の症状を軽減するように処置有効量を適合させた、方法。
【請求項37】
キトサンマトリックスと医薬有効量の眼薬とを含む眼薬物送達組成物であって、眼薬が、プロスタグランジン、プロスタミドもしくはその混合物、または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物、またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択され、キトサンマトリックスが、処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物を含み、各キトサンが、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、処置有効量の眼薬がある期間にわたって放出されるように組成物を適合させた、眼薬物送達組成物。
【請求項38】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が1日〜約1年である、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約6ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項40】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が約1ヶ月〜約4ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項41】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも3ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項42】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも2ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項43】
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも1ヶ月である、請求項37に記載の組成物。
【請求項44】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約0.5時間〜約36時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項45】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が約1時間〜約36時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項46】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも16時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項47】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも8時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項48】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物を含む組成物に関して、期間が少なくとも4時間である、請求項37に記載の組成物。
【請求項49】
眼薬物送達組成物を投与するための方法であって、
有効量の組成物を、ヒトを含む動物の眼または眼を取り囲む組織に注射によって投与することを含み、組成物が
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(ここに、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、
プロスタグランジン、プロスタミドまたはその混合物
とを含む、方法。
【請求項50】
眼薬物送達組成物を投与するための方法であって、
有効量の組成物を、ヒトを含む動物の眼に局所投与することを含み、組成物が、
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物(ここに、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示す)と、
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物
とを含む、方法。
【請求項51】
眼疾患または眼異常を処置するための医薬組成物であって、
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物と、
プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される治療剤
とを含む、医薬組成物。
【請求項52】
眼異常を処置するための医薬組成物を製造するためのプロセスであって、
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物と、治療剤とを接触させるステップを含み、治療剤が、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される、プロセス。
【請求項53】
眼疾患または眼異常を処置するための方法であって、
処理キトサン、修飾キトサン、処理修飾キトサン、またはその混合物と、プロスタグランジン、プロスタミド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、およびコルチコステロイド、ならびにその混合物、誘導体、塩およびエステルからなる群より選択される治療剤とを含む医薬組成物を患者の眼に投与し、それによって眼疾患または眼異常を処置するステップを含む、方法。
【請求項54】
キトサンマトリックスと医薬有効量の眼薬とを含む眼薬物送達組成物であって、
眼薬が非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはNSAIDの混合物またはコルチコステロイドもしくはコルチコステロイドの混合物からなる群より選択され、
キトサンマトリックスが処理キトサン、修飾キトサン、修飾処理キトサン、またはその混合物を含み、各キトサンは、対応する無処理キトサンと比較して、一つ以上の化学的、物理的および/または性能的特性または特徴に変化を示し、
各処理キトサンが、可溶化したキトサンを、水、塩溶液および/またはアニオン溶液に対して透析することによって調製され、
各修飾キトサンが、キトサンと単一官能基または複数官能基との間に共有結合連結を形成させるか、キトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に非共有結合会合を形成させるか、あるいはキトサンと単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との間に混合物を形成させて、キトサンを、単一官能基または複数官能基の共有結合付着、単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤との非共有結合会合、および/または単一の原子もしくは分子剤または複数の原子および/もしくは分子剤の同時添加で変化させることによって、調製され、
組成物が、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して組織薬物濃度を増加させることで、キトサンマトリックスが存在しない場合の組成物と比較して低い、薬物の医薬有効量をもたらす、眼薬物送達組成物。
【請求項55】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも10%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも20%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項57】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも30%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項58】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも40%少ない、請求項54に記載の組成物。
【請求項59】
低い医薬有効量が、キトサンマトリックスが存在しない場合の同等な組成物中の薬物の量よりも少なくとも50%少ない、請求項54に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2010−516814(P2010−516814A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548305(P2009−548305)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/001301
【国際公開番号】WO2008/094659
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/001301
【国際公開番号】WO2008/094659
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】
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