説明

着氷雪抑制シート

【課題】長期にわたって、安定的に着氷雪が抑制され、且つ容易に使用しうる着氷雪抑制シートを提供する。
【解決手段】フィルムと繊維布帛が積層されてなる複合構造体であり、該フィルムの繊維布帛積層面と反対側表面に光触媒を含有する表面層が形成されてなり、該構造体の初期引張強度が500N/インチ以上で、且つ、フィルム表面の初期表面摩擦係数およびJIS B 7753の耐候性試験後の表面摩擦係数がともに0.6以下である着氷雪抑制シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着氷雪、特に水分を多く含んだ湿雪に対しての着氷雪を抑制するとともに、付着した場合でも早期に滑雪させることができ、更に、その効果が長期間にわたり持続する、施工性の良い、建築物、橋梁、送電鉄塔、信号機、道路標識等に使用される着氷雪抑制シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
冬期豪雪地帯では、建築物や、橋梁、送電鉄塔などの構造建築物において積雪や、氷結による被害が多発している。特に湿雪は、粉雪に比べ積層しやすく、単位体積あたりの重量が大きいため、積もった場合には建築物などに対して、相当の重量がかかり、建築物を傷めることになる。更に、積もった雪が落下した場合、人や自動車などに対して甚大な被害を及ぼす虞がある。
【0003】
そこで従来、様々な積雪防止方法が考えられている。例えば、特許文献1には屋根に袋体を設置し、袋体に気体を導入し、膨張・収縮を繰り返して袋体上に積もった雪を押し上げて滑り落とす方法が記載されている。特許文献2には屋根にベルトコンベア構造のシート状物を設置して落とす方法が記載されている。特許文献3には屋根に加熱手段を設けて雪を融かしながら落とす方法が記載されている。しかし前記のような除雪設備を設けることは屋根の改造が必要で、また経費も掛かり一般的ではないため、簡便で安価な着氷雪防止方法や除雪方法が求められていた。
また、簡便な着氷雪防止方法としては、従来、ビニールシート、高密度繊維シート、金属板等が着氷雪抑制用部材として利用され、更に、これらの部材表面にシリコーン、フッ素等の疎水性の高い樹脂層を形成したものが着氷雪防止部材として利用されてきた。また、逆に親水性の高い樹脂層を表面に形成することで、表面に水膜を形成し雪を滑りやすくして積雪を防止する製品も利用されてきた。しかし、撥水性樹脂や、親水性樹脂を表面に付与したものは、初期の着氷雪抑制性や滑雪性などは優れているが長期間屋外で使用していると樹脂表面が汚れたり、樹脂の劣化により、性能が落ちてくるという欠点がある。
ビニールシートについては施工性に優れており、価格も安価であるが、腰がなく、シワが入りしやすく、引張強度が低いため、橋梁や送電鉄塔等の風の影響を大きく受けるような場所での利用は困難である。
高密度繊維シートは有る程度の着氷雪抑制効果はあるが、施工時にシワが入りやすく、シワが入ることでシート表面に凹凸ができてしまい、着氷雪抑制性や滑雪性が低下する虞がある。
金属板はシワの発生は起こらないが、硬く重量も重めであるため取り扱いがしにくい虞がある。また、金属板は錆びることにより金属板表面に凹凸ができ、摩擦係数が大きくなるため、滑雪性が損なわれる虞がある。また金属は比熱が小さく、気温が氷点下になると結氷し付着した雪が滑雪せずに冠雪することがある。
さらに従来利用されてきた撥水性又は親水性の樹脂層が付与されただけの構造体では、施工の際、表面にシワが入り凹凸面ができてしまい、着雪してしまうことがあった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−140879号公報
【特許文献2】特開平10−140877号公報
【特許文献3】実開平6−24114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、シワの発生を抑えて、着氷雪抑制性や滑雪性に優れ、且つ、その耐久性に優れた着氷雪抑制シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は次のような構成としている。
すなわち、(1)に、フィルムと繊維布帛が積層されてなる複合構造体であり、該フィルムの繊維布帛積層面と反対側表面に光触媒を含有する表面層が形成されてなり、該構造体の初期引張強度が500N/インチ以上で、且つ、フィルム表面の初期表面摩擦係数およびJIS B 7753の耐候性試験後の表面摩擦係数がともに0.6以下である着氷雪抑制シートである。
また、(2)に、フィルムの剛軟度が10〜30cmであることを特徴とする(1)記載の着氷雪抑制シートである。
また、(3)に、フィルムがアクリル樹脂であることを特徴とする(1)〜(2)記載の着氷雪抑制シートである。
また、(4)に、フィルムと繊維布帛が湿気硬化型ポリウレタン樹脂で接着積層されていることを特徴とする(1)〜(3)記載の着氷雪抑制シートである。
また、(5)に、フィルムと繊維布帛の剥離強度が、−20℃で30日間保持、或いは80℃65%RHで30日間保持したときの耐久性試験後でも15N/インチ以上であることを特徴とする(1)〜(4)いずれか記載の着氷雪抑制シートである。
また、(6)に、複合構造体にロープ固定できるハトメが設けられており、ハトメ部一点荷重引張試験にて150N以上の強度を有する(1)〜(5)のいずれか記載の着氷雪抑制シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明の着氷雪抑制シートは、シワが入りにくく、長期にわたりすぐれた着氷雪抑制性及び滑雪性を発揮するため、屋根の雪下ろしの肉体的、精神的な疲労や経済的負担を軽減でき、更には、建造物などの積雪並びにその落雪による被害を軽減できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いることのできるフィルム用の樹脂としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、ビニル系、ポリウレタン系などの合成樹脂が挙げられるが、耐候性の点からアクリル系のフィルムが好ましく用いられる。
フィルムの厚みは50〜300μmが好ましい。厚さが50μm未満では十分な強度が得られず、施工時に破れてしまう虞がある。また、施工時にハリコシ不足となり、シワが入って凹凸が発生し、着氷雪しやすくなる。また、強度が不十分で風雨、降雪にて破れて飛散する虞がある。また、300μmより厚くなると重量が重く、硬くなるため、施工時の取り扱い性が悪くなる虞がある。
【0009】
繊維布帛に使用できる素材としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニル系などの合成繊維が挙げられ、詳しくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン、アクリル、ポリ塩化ビニルなどを挙げることができる。
【0010】
その形態としては、織物、編物、不織布などを用いることができるが、強度や耐久性、及び、フィルムと積層する際の連続加工性の点で伸縮性が少なく、テンションが掛かった時に幅入りが少ない織物が好ましく、特に二重朱子織物などが好ましく用いられる。二重朱子織物などを用いることによりフィルムと貼り合わせた時にもシワが入りにくくなり、表面に凹凸が少ない複合構造体を得ることができ、凹凸の発生が抑えられ、優れた着氷雪抑制効果や滑雪効果を有するものが得られる。
【0011】
また、本発明の着氷雪抑制シートは、フィルムと繊維布帛を積層して得られるが、積層方法としてはフィルムラミネート法を用いることができる。ラミネートの方法はフィルムを構成する樹脂を溶融接着することも可能であるが、フィルムと繊維布帛を接着性樹脂を用いて接合させることが好ましい。本発明の着氷雪抑制シートは建造物の表面に取り付けて使用することが多いので、概ねー20〜80℃の範囲にわたって使用されることを前提として剥離強度が維持されることが好ましく、EVA系や合成ゴム系などの接着剤を使用することができるが、耐久性の点で湿気硬化型ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0012】
接着性樹脂の塗布方法としては、グラビアロールコーター、加熱式リバースロールコーター、加熱式ダイコーターなどによるコーティング方法やカーテンスプレー法などが挙げられるがこれらの方法に限定されるものではない。
【0013】
また、接着性樹脂の塗布量は30〜300g/mが好ましい。30g未満では十分な貼り合わせ強度が得られず、施工時に剥離等で破損する可能性があり、更に、長期間耐久性が望めず剥がれて飛散する懸念がある。
また、300g/m以上より重くなると、施工上での問題が生じ好ましくない。
【0014】
また、得られた複合構造体の剛軟度はカンチレバー法で10〜30cm、好ましくは12〜20cmであることが好ましい。10cm未満であるとシワが入りやすく着氷雪抑制性や滑雪性が悪くなる虞があり、30cmより大きくなると、硬くなり施工性が損なわれる虞がある。
【0015】
繊維布帛の強度はJIS L 1096の引張試験法にて少なくとも500N以上の強度を有していることが好ましい。500N未満であるとフィルムと貼り合わせた後の着氷雪抑制シートの施工時に破損したりする虞があり、更に、施工後も強風にあおられた場合には耐久性が十分でなく破損する虞がある。
【0016】
また、フィルムは着氷雪する面であるため、平滑性能を現す表面摩擦係数の値がKES試験機を使用した平滑性試験において表面摩擦係数が0.6以下である必要があり、表面凹凸の少ない平滑フィルム状の形態がより好ましい。
【0017】
また、本発明の着氷雪抑制シートのフィルムの繊維布帛積層面と反対側表面に光触媒を含有する表面層が形成されてなることが好ましい。使用できる光触媒としては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン、及びチタン酸ストロンチウムが挙げられる。
これらの光触媒は、フッ素樹脂やシリコーン樹脂などにより、フィルム表面に付与され、表面層が形成されることが好ましい。
【0018】
また、使用用途が屋外であり、耐久性が必要であることから、フィルムに紫外線吸収剤、耐候向上剤など紫外線による劣化を抑制する物質を練り込んで使用することが好ましい。その使用量はフィルムの強度低下をおこさず、紫外線劣化を抑制できる範囲であれば特に添加量、種類などは問わない。
【0019】
また、本発明の着氷雪抑制シートには、施工用の係合部材が配されていることが好ましい。係合部材としてはハトメやフックなど形状は問わないが、施工時にロープ等を用いて耐久性のある取り付け方法を用いることが多いため、ハトメを設けることが好ましい。ここで言うハトメとはシート部材の端に鋼鉄治具で穴を開け、ステンレス又はプラスチックなどでできた円形保護材を取り付けた状態のことを指し、ロープを通してシート材を構造物に固定する際に破損するのを防ぐ目的で使用される。
本発明で用いられるハトメは、ハトメ部一点荷重引張試験にて150N以上の強度を有することが好ましい。150N未満であるとロープを通して構造物に固定する際にハトメ部分から破損する虞がある。
以上の内容より、耐久性、平滑性、強度、コストのバランスに優れた着氷雪抑制する土木構造物被覆用構成部材を提供するものである。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を用いて本発明の着氷雪抑制シート及びその評価方法を具体的に説明する。
〔評価方法〕
1.耐候性試験
JIS B 7753に準じて処理したサンプルにて、ハトメ部一点荷重強度と表面摩擦係数と滑雪性を評価した。
2.引張強度(N/インチ)
JIS L 1096引張強度試験に準じて、タテおよびヨコ方向の引張強度を測定した。
3.ハトメ部一点加重強度(N)
TENSILON UTM−4−100(東洋ボールドウィン社製)引張試験機を用い、試験セルに取り付け可能な一点荷重用引張強度測定用器具(525〜530g重量鋼鉄製)をハトメ部にセットし、50mm/分のスピードで試験布に対して垂直に上降させて試験布の切断時の最大荷重値で評価した。ハトメ治具はステンレス製で内径12mmのものを試験片(1インチ巾)の片端から5mm内側に設置して使用した。
4.摩擦係数
KES試験機 KES−FB4(カトーテック株式会社製)を用い、フィルム表面の摩擦係数を測定した。
5.フィルムと繊維布帛の剥離強度
各サンプルについて、初期のもの、−20℃で30日間放置したものと80℃65%RHで30日間放置したものについて、フィルムと繊維布帛との剥離強度をJIS L 1089に準じて測定した。単位はN/インチ。
6.施工性
橋梁の鉄骨部と同等品を使用し、実際の施工同様に構成材を被覆設置し、シワの入りやすさや破れなどを確認した。
○ 施工時シワ及び/または破れがない
× 施工時シワ及び/または破れがある
7.滑雪性
図3,4に示すように45°と60°に傾斜した台の上に、シワが入らないように着氷雪抑制シートを取り付けたものを、外気温−2〜0℃、積雪量70〜80mm/時の時に暴露し、滑雪状態を確認した。
○ 1時間に2回以上滑雪がある
△ 1時間に1回滑雪がある
× 1時間に1回滑雪がない
8.剛軟度
JIS L 1096 カンチレバー法に準じて測定した。
【0021】
〔実施例1〕
タテ糸にポリエステル セミダル加工糸(白) 84dtex/36f(帝人株式会社製)、ヨコ糸にポリエステル加工糸 167dtex/48f(帝人株式会社製)を用いて、二重朱子織物(密度:経250本/インチ、緯94本/インチ)を織成し、この織物に、75μm厚の光触媒コーティングフィルム(株式会社KIMOTO製のラクリーンATタイプ)をタケメルトMA(湿気硬化型反応性ホットメルトポリウレタン、三井化学ポリウレタン(株)製)を用いて貼り合わせて100℃で熱処理し、着氷雪抑制シートを作成した。評価結果を表1に示す。
【0022】
〔比較例1〕
実施例1で用いた布帛の一方の面に100μm厚のフッ素コーティングフィルム(DAIKIN工業株式会社製のネオフロンTM−ETFE)を実施例1で用いた接着剤を用いて貼り合わせ100℃で熱処理し、着氷雪抑制シートを作成した。評価結果を表1に示す。
【0023】
〔比較例2〕
実施例1で用いた布帛の一方の面に75μm厚のPETフィルムの表面に側鎖に親水基を持つアクリル系グラフトポリマー(綜研化学株式会社製のケミトリーL−40M)をコンマコーター法により40g/m付着させ、100℃で乾燥後、PETフィルム上に厚み10μmの親水性の層を付与し、85μmの親水性の高いPETフィルムを作成した。このフィルムを実施例1で用いた接着剤を用いて貼り合わせ100℃で熱処理し、着氷雪抑制シートを作成した。評価結果を表1に示す。
【0024】
〔比較例3〕
実施例1で用いた布帛の一方の面に、25μm厚の光触媒コーティングフィルム(株式会社KIMOTO製のラクリーンFTタイプ)をタケメルトMA(湿気硬化型反応性ホットメルトポリウレタン、三井化学ポリウレタン(株)製)を用いて貼り合わせて100℃で熱処理し、着氷雪抑制シートを作成した。評価結果を表1に示す。
【0025】
〔比較例4〕
比較例2の平織物に、厚さ10μmになるように下記の処方1の樹脂にて湿式撥水ウレタンコーティングを行い、150℃で熱処理を行い、着氷雪抑制シートを作成作製し評価した。評価結果を表1に示す。
〔処方1〕
エステル系ポリウレタン樹脂(大日精化工業(株)製 CU4555HV)100重量部
炭酸カルシウムコンパウンド(大日精化工業(株)製 BS1015) 20重量部
架橋剤(日本ポリウレタン工業(株)製 コロネートHX) 1重量部
DMF 20重量部

【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の着氷雪抑制シートを構造物の鉄骨部に取り付けた状態を表した概略図である。
【図2】本発明の着氷雪抑制シートの構造を示した概略図である。
【図3】本発明の着氷雪抑制シートの滑雪性を調べる45°に傾けた試験台の概略図である。
【図4】本発明の着氷雪抑制シートの滑雪性を調べる60°に傾けた試験台の概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 着氷雪抑制シート
2 構造物
3 ロープ
4 フィルム
5 接着性樹脂
6 繊維布帛
7 試験台
8 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムと繊維布帛が積層されてなる複合構造体であり、該フィルムの繊維布帛積層面と反対側表面に光触媒を含有する表面層が形成されてなり、該構造体の初期引張強度が500N/インチ以上で、且つ、フィルム表面の初期表面摩擦係数およびJIS B 7753の耐候性試験後の表面摩擦係数がともに0.6以下である着氷雪抑制シート。
【請求項2】
フィルムの剛軟度が10〜30cmであることを特徴とする請求項1記載の着氷雪抑制シート。
【請求項3】
フィルムがアクリル樹脂からなることを特徴とする請求項2記載の着氷雪抑制シート。
【請求項4】
フィルムと繊維布帛が湿気硬化型ポリウレタン樹脂にて接着積層されていることを特徴とする請求項1〜3記載の着氷雪抑制シート。
【請求項5】
フィルムと繊維布帛の剥離強度が−20℃で30日間保持、或いは80℃65%RHで30日間保持したときの耐久性試験後の剥離強度15N/インチ以上であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の着氷雪抑制シート。
【請求項6】
複合構造体にロープ固定できるハトメが設けられており、ハトメ加工部一点荷重引張試験にて150N以上の強度を有する請求項1〜5のいずれか記載の着氷雪抑制シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−62370(P2007−62370A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212145(P2006−212145)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】