説明

着色廃水用処理材および着色廃水の処理方法

【課題】種々の着色廃水に有効で、効率良く着色物質を固定化除去することができ、また、BODやCODをも低減可能な着色廃水用処理材を提供する。
【解決手段】水酸化カルシウムとカルシウムアルミネート系化合物を含有する着色廃水用処理材であり、粉末度がブレーン比表面積で3000cm2/g以上である前記着色廃水用処理材であり、カルシウムアルミネート系化合物のCaO/Al2O3モル比が0.5〜3である前記着色廃水用処理材であり、さらに、前記着色廃水用処理材を用いる着色廃水の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、着色廃水用処理材および着色廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が顕在化している。最近では、着色廃水に関しても関心が寄せられるようになり、その対策が求められている。着色廃水としては、染色工業廃水、屎尿処理場の二次処理水、糖蜜廃液、熱処理分離液などが挙げられる。染色工業廃水とは、主に、合成染料や天然染料を用いる繊維、紙、文房具、化商品、食品の各工業から排出される工業廃水であり、染色工業廃水の着色物質は染料である。屎尿処理場の二次処理水の着色物質は、ヘモグロビンやウロビリンなどとされている。糖蜜廃液中の着色物質は、メラノイジンに類似した難分解性の窒素化合物であると考えられている。また、熱処理分離液は、下水処理場で生じる余剰汚泥の脱水プロセスで発生する脱水液で、その着色物質は高分子メラノイジン化合物である。
【0003】
前記の着色廃水は、環境基準も定められていないため、法的な規制のないまま抜本的な対策がとられていないのが現状である。
着色廃水を処理する方法としては、凝集・沈殿法(特許文献1〜特許文献3)や、色素を退色させる方法(特許文献4)、吸着剤に吸着させる方法(特許文献5)、分解触媒を担持した吸着剤を用いる方法(特許文献6)、さらには、酸化剤により着色物質を分解する方法なども提案されている(特許文献7)。
【0004】
【特許文献1】特開平06-218378号公報
【特許文献2】特開平06-233987号公報
【特許文献3】特開平09-290274号公報
【特許文献4】特開2000-117266号公報
【特許文献5】特開平07-284657号公報
【特許文献6】特開2004-181283号公報
【特許文献7】特開平10-309590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、着色廃液の色は、着色物質の濃度がppmのオーダーの低濃度でも退色しない場合が多く、十分な対策には至っていないのが実状である。また、着色廃水の種類によって、その着色物質も異なるため、従来の方法では、一部の廃液に有効でも他の廃液には効果が認められないなどの課題もあった。さらに、単に色素を退色させる方法や酸化剤を用いて色素を分解する方法では、有機分が残存しているため、BODやCOD対策には全く役立たないという課題もあった。
このような背景に鑑み、あらゆる着色廃液に万能で、BODやCOD対策にも役立つ着色廃液の処理材の開発も強く求められている。
【0006】
そこで、本発明者は、鋭意努力を重ね、前記課題を解決できる着色廃液の処理材及びその処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、水酸化カルシウムとカルシウムアルミネート系化合物を含有する着色廃水用処理材であり、カルシウムアルミネート系化合物の粉末度がブレーン比表面積で3000cm2/g以上であることを特徴とする前記着色廃水用処理材であり、カルシウムアルミネート系化合物のCaO/Al2O3モル比が0.5〜3であることを特徴とする前記着色廃水用処理材であり、前記着色廃水用処理材を用いることを特徴とする着色廃水の処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の着色廃水用処理材は、あらゆる着色廃水に有効で、効率良く着色物質を固定化除去することができ、また、BODやCODをも低減することが可能であるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0010】
本発明の水酸化カルシウムとは、特に限定されるものではない。Ca(OH)2と表される化合物を総称するものである。その不純物も環境に有害なものを含まなければ特に限定されるものではない。Ca(OH)2含有量で80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。不純物としては、炭酸カルシウムや酸化カルシウムを含む場合がある。
【0011】
水酸化カルシウムの比表面積は特に限定されるものではないが、通常、BET比表面積で2m2/g以上が好ましく、5m2/g以上がより好ましい。水酸化カルシウムのBET比表面積が2m2/g未満であると、カルシウムアルミネートとの相互作用が弱くなる傾向にあり、着色物質の除去スピードが十分でなくなる場合がある。
【0012】
本発明の着色廃水用処理材に係るカルシウムアルミネート系化合物とは、CaOとAl2O3を主体とする化合物を総称するものであり、特に限定されるものではなく、その具体例としては、CaOをC、Al2O3をA、アルカリ金属元素をRと表記すると、CA2(CaO・2Al2O3)、CA(CaO・Al2O3)、C12A7(12CaO・7Al2O3)、C11A7・CaF2(11CaO・7Al2O3・CaF2)、C3A(3CaO・Al2O3)、3CaO・3Al2O3・CaSO4などの結晶性の化合物、C8A3R(8CaO・3Al2O3・R2O)、C14A5R(14CaO・5Al2O3・R2O)、C3A5R2(3CaO・5Al2O3・2R2O)などのR2O成分を含む結晶性のCaO-Al2O3-R2O系化合物や、CaOとAl2O3を主成分とする非晶質の化合物などが挙げられる。
【0013】
本発明の着色廃水用処理材に係るカルシウムアルミネート系化合物を工業的に得る場合、不純物が含まれることがあるが、その種類及び含有量は、本発明を阻害しない範囲内であれば特に制限されるものではない。その具体例としては、Fe2O3、SiO2、MgO、TiO2、P2O5、Cl及びB2O3などが挙げられる。
【0014】
カルシウムアルミネート系化合物に前記不純物が含まれる場合、化合物としては、4CaO・Al2O3・Fe2O3、6CaO・2Al2O3・Fe2O3、6CaO・Al2O3・2Fe2O3などのカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe2O3やCaO・Fe2O3などのカルシウムフェライト、ゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2やアノーサイトCaO・Al2O3・2SiO2などのカルシウムアルミノシリケート、メルビナイト3CaO・MgO・2SiO2やアケルマナイト2CaO・MgO・2SiO2やモンチセライトCaO・MgO・SiO2などのカルシウムマグネシウムシリケート、トライカルシウムシリケート3CaO・SiO2やダイカルシウムシリケート2CaO・SiO2やランキナイト3CaO・2SiO2やワラストナイトCaO・SiO2などのカルシウムシリケートなどが混在する場合がある。これらの化合物は本発明の目的を実質的に阻害しない範囲であれば混在していてもよい。
【0015】
本発明の着色廃水用処理材に係るカルシウムアルミネート系化合物は、CaO/Al2O3のモル比が0.5〜3の範囲とすることが好ましく、1〜2がより好ましい。CaO/Al2O3のモル比が0.5未満では、着色物質の除去スピードが充分でない場合があり、3を超えると液相中でのカルシウムアルミネート系化合物の分散が悪くなる傾向にあり、効率良く着色物質を除去できない場合がある。
【0016】
本発明の着色廃水用処理材に係るカルシウムアルミネート系化合物の粉末度は、特に限定されるものではないが、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上が好ましく、4000cm2/g以上がより好ましい。カルシウムアルミネート系化合物の粉末度が3000cm2/g未満では、着色廃水中の着色物質の固定化・除去速度が遅くなり、効率が悪くなる場合がある。
【0017】
水酸化カルシウムとカルシウムアルミネート系化合物の配合割合は、特に限定されるものではないが、水酸化カルシウムとカルシウムアルミネート系化合物からなる着色排水用処理材のCaO/Al2O3のモル比が1〜6の範囲となるように配合することが好ましく、2〜4の範囲となるように配合することがより好ましい。
【0018】
本発明では、着色廃水用処理材に係るカルシウムアルミネート系化合物の他に、モンモリロナイトやカオリナイトなどに代表される層状化合物であるベントナイト類、クリノプチロライトやモルデナイトに代表されるゼオライト類、セピオライト、アパタイトやリン酸ジルコニウムなどのリン酸塩、ハイドロタルサイト類、活性炭、多硫化物や硫化物やチオ硫酸塩類や亜硫酸塩類などのイオウ化合物、アマルガム、硫酸第一鉄や塩化第一鉄などの鉄化合物、セルロース類、ポリビニルアルコール、キトサンなどの水溶性高分子類、ジアルキルジチオカルバミン酸類、キノリン化合物類、ポリアミン類、及び糖類などの公知の水処理材料を1種又は2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明に用いる着色廃水用処理材の形態は、特に限定されるものではなく、溶液状態、粉末、顆粒状、ペレット、カラム、及びフィルターなどのいずれの形態であってもよい。また、液状や粉末状や顆粒状の物質を汚水中に投入し、固液分離してもよく、水和物のカラムやフィルターとして、着色廃水を通水させてもよい。
【0020】
着色廃水用処理材の使用量は、廃水中の着色物質の濃度や廃水の種類によって異なるため、一義的に決定されるものではないが、通常、着色廃水1000ccあたり、0.5〜10gが好ましく、1〜5gがより好ましい。0.5g未満では、処理効果が充分でない場合があり、10gを超えて使用しても更なる効果の増進が期待できず不経済である。
【0021】
本発明に係る着色廃水のうち、染色工業廃水は多種多様なものがある。これは、染色工業廃水の着色物質が染料であり、染料には様々な種類が存在するためである。染料は一般的に染色上の分類がなされている。その具体例としては、直接染料、建染染料、硫化染料、ナフトール染料、反応染料、酸性染料、酸性媒染染料、金属策円酸性染料、分散染料、カチオン染料、蛍光増白剤などが挙げられる。また、発色団に着目した分類では、ニトロ系、アゾ系、スチルベン系、カルポニウム系、キノリン系、メチン系、チアゾール系、キノニミン系、アントラキノン系、インジゴイド系、フタロシアニン系などが挙げられる。本発明の着色廃水用処理材は、いずれの染色工業廃水にも有効であるが、廃水の溶媒が水を含むことが必要である。
【実施例】
【0022】
「実施例1」
水酸化カルシウムと各種のカルシウムアルミネート系化合物を表1に示すモル比で配合して着色廃水用処理材とした。この着色排水用処理材1.5gを着色廃水Aの1000ccに入れて攪拌し、15分後に廃液の色の変化を目視観察(色度観察)するとともに、着色物質の減少率やBODやCODの減少率を測定した。なお、比較のために、市販の着色廃水用処理材を用いた場合についても同様に行った。結果を表1に併記した。
【0023】
<使用材料>
水酸化カルシウム:市販の消石灰、BET比表面積m2/g。
カルシウムアルミネート系化合物(1):1モルの炭酸カルシウムと1モルの酸化アルミニウムを混合粉砕し、1500℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。CaO・Al2O3を主体、ブレーン比表面積5000cm2/g。
カルシウムアルミネート系化合物(2):12モルの炭酸カルシウムと7モルの酸化アルミニウムを混合粉砕し、1350℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。結晶質の12CaO・7Al2O3を主体、ブレーン比表面積5000cm2/g。
カルシウムアルミネート系化合物(3):非晶質の12CaO・7Al2O3にシリカを3%添加し、1650℃で溶融した後、急冷して合成した。ブレーン比表面積5000cm2/g。
カルシウムアルミネート系化合物(4):3モルの炭酸カルシウムと1モルの酸化アルミニウムを混合粉砕し、1350℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。3CaO・Al2O3を主体、ブレーン比表面積5000cm2/g。
カルシウムアルミネート系化合物(5):1モルの炭酸カルシウムと2モルの酸化アルミニウムとを混合粉砕し、1500℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。CaO・2Al2O3を主体、ブレーン比表面積5000cm2/g。
処理材イ:市販の次亜塩素酸ナトリウム
処理材ロ:市販のハイドロタルサイト
着色廃水A:染色工業廃水、アゾ系染料を含む廃液
【0024】
<測定方法>
着色物質の減少量:処理材で処理する前の廃液の全炭素量と、処理材で処理後の廃液の全炭素量を有機全炭素分析装置(TOC)で定量した。処理前の廃液の全炭素濃度を100%とした時の、処理後の廃液の全炭素濃度の相対値から、有機分が99.9%以上低減された場合は○、90%以上低減されたが99.9%まで低減できなかった場合を△、90%まで低減されなかった場合を×とした。
BODおよびCOD:処理材で処理する前の廃液のBODまたはCODと、処理材で処理後の廃液のBODまたはCODをJISK 0102に準じて測定した。処理前の廃液のBODまたはCODを100%とした時の、処理後の廃液のBODまたはCODとの相対値から、BODまたはCODが70%以上低減された場合は○、30%以上低減されたが70%まで低減できなかった場合を△、30%まで低減されなかった場合を×とした。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から、本発明により、廃水中の着色物質、及びBOD、CODが著しく低減することが判る。
【0027】
「実施例2」
カルシウムアルミネート系化合物(4)を使用し、ブレーン比表面積を表2に示すように変化させたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から、本発明により、廃水中の着色物質、及びBOD、CODが著しく低減することが判る。また、カルシウムアルミネート系化合物の粉末度がブレーン比表面積で3000cm2/g以上であることが好ましいことが判る。
【0030】
「実施例3」
水酸化カルシウムと表3に示すカルシウムアルミネート系化合物とを配合して、処理材のCaO/Al2O3モル比を変化させたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】


表3から、CaO/Al2O3モル比が1〜6にある本願発明の処理材は着色廃水に有効で、特に、CaO/Al2O3モル比が2〜4にある処理材は効率良く着色物質を固定化除去することが判る。
「実施例4」
カルシウムアルミネート系化合物(4)を使用し、廃液1000ccに対する処理材の使用量を表4に示すように変化させたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
表4から、本発明により、廃水中の着色物質、及びBOD、CODが著しく低減することが判る。また、処理剤材の使用量が所定量で効果が上がることが判る。
【0034】
「実施例5」
カルシウムアルミネート系化合物(4)を使用し、着色廃液の種類を表5に示すように変化させたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【0035】
<使用材料>
着色廃水B:屎尿処理場の二次処理水
着色廃水C:糖蜜廃液
着色廃水D:下水汚泥の脱水プロセスで発生する熱処理分離液
【0036】
【表5】

【0037】
表5より、本発明により、廃水の種類が異なっても着色物質、及びBOD、CODが著しく低減することが判る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の着色廃水用処理材および着色廃水の処理方法により、染色工業廃水、屎尿処理場の二次処理廃水、糖蜜廃水、熱処理分離水など様々な着色廃水に有効で、効果的に着色物質を固定化除去でき、BODやCODの対策にも有効であるため、着色廃水の処理用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウムとカルシウムアルミネート系化合物を含有する着色廃水用処理材。
【請求項2】
カルシウムアルミネート系化合物の粉末度がブレーン比表面積で3000cm2/g以上であることを特徴とする請求項1記載の着色廃水用処理材。
【請求項3】
カルシウムアルミネート系化合物のCaO/Al2O3モル比が0.5〜3であることを特徴とする請求項1または2の着色廃水用処理材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の着色廃水用処理材を用いることを特徴とする着色廃水の処理方法。


【公開番号】特開2007−117785(P2007−117785A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309210(P2005−309210)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】