説明

着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法

【課題】 撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能な着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 熱交換器1に用いられる撥水性能又は滑水性能を有する着霜抑制被膜22が表面に設けられたフィン11の製造方法は、半硬化工程と、プレス加工工程S14とを備えている。半硬化工程は、板状の基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成される着霜抑制被膜22を半硬化状態にする。プレス加工工程S14は、半硬化工程後に、基材21のプレス加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法、特に、撥水性能又は滑水性能を有する着霜抑制被膜が表面に設けられた着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱交換器用フィン等の成型品は、板状の基材にプレス加工を施すことによって成型される。このような成型品は、空気の露点以下となる着霜雰囲気下で使用されると、その表面への水滴の付着、霜による凍り付き等に起因した様々な問題が生じやすい。そこで、近時、このような成型品は、その表面への水滴の付着、霜による凍り付き等を抑制するために、例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されるような撥水性能又は滑水性能を有する着霜抑制被膜が表面に形成された着霜抑制被膜付き成型品にすることが主流となっている。
【0003】
上記特許文献1では、撥水性能を有する着霜抑制被膜として、微粒子とバインダーとを含有する塗料からなる着霜抑制被膜が記載されている。この特許文献1の着霜抑制被膜は、その表面が上記の塗料に含有される微粒子に起因した微細な凹凸を有するように形成されており、その表面上で結露した水滴をはじいて転がり落とすことにより、撥水性能を発揮するようになっている。
【0004】
また、上記特許文献2及び特許文献3では、滑水性能を有する着霜抑制被膜として、ポリシロキサン系の組成物からなる着霜抑制被膜が記載されている。この特許文献2及び特許文献3の着霜抑制被膜は、その表面が上記のような微細な凹凸を有していない平滑面となるように形成されており、その表面上で結露した水滴を滑り落とすことにより、極めて優れた撥水性能、すなわち、滑水性能を発揮することができる。
【特許文献1】特開平5−117637号公報
【特許文献2】特開2000−119642号公報
【特許文献3】特開2002−323298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような着霜抑制被膜付き成型品を製造する場合、その製造方法には、大きく分けて2種の製造方法が存在する。第1の製造方法はプレス加工後の基材の表面に着霜抑制被膜を設ける製造方法であり、第2の製造方法は基材に着霜抑制被膜を設けた後にプレス加工を行う製造方法である。これらの2つの製造方法のうち、最終製品として得られる着霜抑制被膜付き成型品の製品の品質の安定化を図るという観点、製造コストの高騰を抑えるという観点等から製造方法を選択すると、前者の製造方法に比べて後者の製造方法が有利である。このように、後者の製造方法が有利であることの理由は、前者の製造方法ではバッチ処理によるディップ工程で基材を塗料等に浸漬させる必要があり、着霜抑制被膜の厚みが不均一となったり、バッチ処理を行うための設備に係るコストが嵩んだり等の問題が生じるためである。
【0006】
しかし、後者の製造方法においても、現状においては、最終製品として得られる着霜抑制被膜付き成型品の撥水性能又は滑水性能を低下させてしまうおそれがある。具体的には、このような着霜抑制被膜は、特許文献2に示されるようなシリコーン系の物質を主成分とした塗料が使用されるが、柔軟性や屈曲性、延伸性等の材料特性が良好なものではないため、例えば、塗料を塗布して硬化させることで着霜抑制被膜が設けられたアルミニウム材等の基材のプレス加工を行って熱交換器用フィンを成型加工する場合には、絞り加工、曲げ加工等の一連のプレス加工時に、硬化後の着霜抑制被膜が基材の変形に追従しきれずに、着霜抑制被膜の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜が基材の変形を妨げることにより、基材自体の破損が発生する等の不具合が生じることがある。
【0007】
このような不具合が生じると、良好な撥水性能又は滑水性能が得られなくなったり、また、後者の製造方法を採用できなくなるおそれもある。
本発明の課題は、上記のような不具合を解消して、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能な着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法は、撥水性能又は滑水性能を有する着霜抑制被膜が表面に設けられた着霜抑制被膜付き成型品の製造方法であって、半硬化工程と、プレス加工工程とを備えている。半硬化工程は、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成される着霜抑制被膜を半硬化状態にする。プレス加工工程は、半硬化工程後に、基材のプレス加工を行う。
【0009】
この着霜抑制被膜付き成型品の製造方法では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜を、プレス加工工程時に半硬化状態になるようにしている。ここで、半硬化状態とは、着霜抑制被膜の硬化が開始してから完全に硬化するまでの間の状態や、一旦完全に硬化した着霜抑制被膜を膨潤させる等の処理を行った状態をいい、実質的には、基材のプレス加工による変形に追従できる程度の柔軟性や屈曲性、延伸性等の材料特性を有する状態をいう。このような半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材のプレス加工を行うことにより、着霜抑制被膜が基材の変形に追従しきれずに、着霜抑制被膜の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜が基材の変形を妨げることにより、基材自体の破損が発生する等の不具合が生じることなくなり、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能な着霜抑制被膜付き成型品を製造することができる。
【0010】
第2の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法は、第1の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法において、半硬化工程は、塗料調整工程と、着霜抑制被膜形成工程とを有している。塗料調整工程は、撥水剤又は滑水剤に着霜抑制被膜の半硬化状態を維持するための硬化速度抑制触媒を混合する。着霜抑制被膜形成工程は、塗料調整工程後に、基材に硬化速度制御触媒を含む撥水剤又は滑水剤を塗布する。
【0011】
この着霜抑制被膜付き成型品の製造方法では、基材に塗布される撥水剤又は滑水剤に硬化速度抑制触媒を混合することで、プレス加工工程時においても着霜抑制被膜の半硬化状態を維持されるようにしている。ここで、着霜抑制被膜の半硬化状態を維持する時間は、着霜抑制被膜形成工程からプレス加工工程までの時間に対応する。このため、硬化速度抑制触媒としては、少なくとも24時間以上、好ましくは1週間以上、さらに好ましくは1ヶ月以上、着霜抑制被膜の半硬化状態を維持できる特性を有するものを採用することが望ましい。この製造方法では、塗料調整工程において、基材に塗布される撥水剤又は滑水剤に硬化速度抑制触媒を混合しておくだけで着霜抑制被膜の半硬化状態を維持できるため、着霜抑制被膜付き成型品の製造工程を大幅に変更することがない。
【0012】
第3の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法は、第1の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法において、半硬化工程は、着霜抑制被膜形成工程と、保護膜付与工程とを有している。着霜抑制被膜形成工程は、基材に撥水剤又は滑水剤を塗布する。保護膜付与工程は、着霜抑制被膜形成工程後に、半硬化状態の着霜抑制被膜の表面に着霜抑制被膜の硬化を抑制するための半硬化状態保護膜を設ける。そして、この発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法は、プレス加工工程後に、半硬化状態保護膜を除去する保護膜除去工程をさらに備えている。
【0013】
この着霜抑制被膜付き成型品の製造方法では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された半硬化状態の着霜抑制被膜の表面に半硬化状態保護膜を設けることで、プレス加工工程時においても着霜抑制被膜の半硬化状態が維持されるようにしている。ここで、半硬化状態保護膜としては、例えば、着霜抑制被膜が加水反応により硬化するものである場合には、空気との接触を防ぐ特性を有するものを採用することができる。この製造方法では、保護膜付与工程及び保護膜除去工程という2つの工程が追加されることになるが、プレス加工工程における着霜抑制被膜の表面の傷付き等を防ぐことにも寄与できる。
【0014】
第4の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法は、第1の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法において、半硬化工程は、着霜抑制被膜形成工程と、プレス油浸漬工程とを有している。着霜抑制被膜形成工程は、基材に撥水剤又は滑水剤を塗布する。プレス油浸漬工程は、着霜抑制被膜形成工程後に、着霜抑制被膜を膨潤させる作用を有する被膜膨潤化プレス油に浸漬する。
【0015】
この着霜抑制被膜付き成型品の製造方法では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜をプレス加工工程前に被膜膨潤化プレス油に浸漬することで、プレス加工工程時に半硬化状態の着霜抑制被膜が得られるようにしている。ここで、膨潤作用を有する被膜膨潤化プレス油としては、膨潤剤を添加したプレス油や、プレス油自体が着霜抑制被膜を膨潤させる特性を有するものを採用することができる。この製造方法では、プレス加工工程前に行われるプレス油浸漬工程において、膨潤作用を有する被膜膨潤化プレス油に浸漬することで、プレス加工工程時に半硬化状態の着霜抑制被膜を得ることができるため、プレス加工工程前における着霜抑制被膜の硬化状態にかかわらず、プレス加工工程時に着霜抑制被膜を半硬化状態にすることができる。
【0016】
第5の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法は、第1〜第4の発明のいずれかにかかる着霜抑制被膜付き成型品の製造方法において、プレス加工工程は、基材から空気調和装置に用いられる熱交換器用フィンを成型している。
この着霜抑制被膜付き成型品の製造方法では、撥水性能又は滑水性能を有する着霜抑制被膜が設けられた熱交換器用フィンを製造する際においても、半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられたフィンの基材のプレス加工を行うことができるため、例えば、着霜抑制被膜が基材の変形に追従しきれずに、着霜抑制被膜の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜が基材の変形を妨げることにより、基材自体の破損が発生する等の不具合が生じることなくなり、着霜抑制被膜の撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能である。
【0017】
第6の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品は、プレス加工により所定の形状に成型される板状の基材と、プレス加工前に基材に塗布されて形成される着霜抑制被膜とを備えている。そして、着霜抑制被膜は、プレス加工前における着霜抑制被膜の半硬化状態を維持するために塗布される硬化速度抑制触媒を含んでいる。
この着霜抑制被膜付き成型品は、硬化速度抑制触媒が混合された撥水剤又は滑水剤を基材に塗布することによって着霜抑制被膜を形成することで着霜抑制被膜の半硬化状態を維持し、この半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されているため、例えば、プレス加工時に、着霜抑制被膜が基材の変形に追従しきれずに、着霜抑制被膜の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜が基材の変形を妨げることにより、基材自体の破損が発生する等の不具合が生じることない。これにより、着霜抑制被膜付き成型品の着霜抑制被膜の撥水性能又は滑水性能を良好に確保することができる。尚、この着霜抑制被膜付き成型品は、硬化速度抑制触媒が含まれているため、上記のように、半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されたことを確認することができる。
【0018】
第7の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品は、プレス加工により所定の形状に成型される板状の基材と、プレス加工前に基材に塗布されて形成された着霜抑制被膜とを備えている。そして、着霜抑制被膜は、プレス加工前における半硬化状態の前記着霜抑制被膜の表面に前記着霜抑制被膜の硬化を抑制するために設けられ、プレス加工後に除去される半硬化状態保護膜を残滓として含んでいる。
【0019】
この着霜抑制被膜付き成型品は、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することによって着霜抑制被膜を形成し、半硬化状態保護膜を設けることで着霜抑制被膜の半硬化状態を維持し、この半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されているため、例えば、プレス加工時に、着霜抑制被膜が基材の変形に追従しきれずに、着霜抑制被膜の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜が基材の変形を妨げることにより、基材自体の破損が発生する等の不具合が生じることない。これにより、着霜抑制被膜付き成型品の着霜抑制被膜の撥水性能又は滑水性能を良好に確保することができる。尚、この着霜抑制被膜付き成型品は、着霜抑制被膜の表面等に半硬化状態保護膜の残滓が残るため、上記のように、半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されたことを確認することができる。
【0020】
第8の発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品は、プレス加工により所定の形状に成型される板状の基材と、プレス加工前に基材に塗布されて形成される着霜抑制被膜とを備えている。そして、着霜抑制被膜は、プレス加工前における着霜抑制被膜を膨潤させるために用いられ、プレス加工後に除去される被膜膨潤化プレス油を残滓として含んでいる。
この着霜抑制被膜付き成型品は、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することによって着霜抑制被膜を形成し、プレス加工工程前に被膜膨潤化プレス油に浸漬することで着霜抑制被膜を半硬化状態にし、この半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されているため、例えば、プレス加工時に、着霜抑制被膜が基材の変形に追従しきれずに、着霜抑制被膜の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜が基材の変形を妨げることにより、基材自体の破損が発生する等の不具合が生じることない。これにより、着霜抑制被膜付き成型品の着霜抑制被膜の撥水性能又は滑水性能を良好に確保することができる。尚、この着霜抑制被膜付き成型品は、着霜抑制被膜の表面等に被膜膨潤化プレス油の残滓が残るため、上記のように、半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されたことを確認することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
第1の発明では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜を、プレス加工工程時に半硬化状態になるようにしているため、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能な着霜抑制被膜付き成型品を製造することができる。
【0022】
第2の発明では、基材に塗布される撥水剤又は滑水剤に硬化速度抑制触媒を混合することで、プレス加工工程時においても着霜抑制被膜の半硬化状態を維持されるようにしているため、塗料調整工程において、基材に塗布される撥水剤又は滑水剤に硬化速度抑制触媒を混合しておくだけで着霜抑制被膜の半硬化状態を維持できるようになり、着霜抑制被膜付き成型品の製造工程を大幅に変更することがない。
【0023】
第3の発明では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された半硬化状態の着霜抑制被膜の表面に半硬化状態保護膜を設けることで、プレス加工工程時においても着霜抑制被膜の半硬化状態を維持されるようにしているため、プレス加工工程における着霜抑制被膜の表面の傷付き等を防ぐことにも寄与できる。
第4の発明では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜をプレス加工工程前に被膜膨潤化プレス油に浸漬することで、プレス加工工程時に半硬化状態の着霜抑制被膜が得られるようにしているため、プレス加工工程前における着霜抑制被膜の硬化状態にかかわらず、プレス加工工程時に着霜抑制被膜を半硬化状態にすることができる。
【0024】
第5の発明では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜を、プレス加工工程時に半硬化状態になるようにしているため、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能な熱交換器用フィンを製造することができる。
第6の発明では、硬化速度抑制触媒が混合された撥水剤又は滑水剤を基材に塗布することによって着霜抑制被膜を形成することで着霜抑制被膜の半硬化状態を維持し、この半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されているため、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能になる。
【0025】
第7の発明では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することによって着霜抑制被膜を形成し、半硬化状態保護膜を設けることで着霜抑制被膜の半硬化状態を維持し、この半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されているため、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能になる。
第8の発明では、板状の基材の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することによって着霜抑制被膜を形成し、プレス加工工程前に被膜膨潤化プレス油に浸漬することで着霜抑制被膜を半硬化状態にし、この半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材をプレス加工することによって製造されているため、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて、本発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法の第1実施形態が採用された空気調和装置に用いられる熱交換器用フィン及びその製造方法について説明する。
【0027】
(1)熱交換器の構造
図1に、空気調和装置に用いられる熱交換器1の概略構成を示す。熱交換器1は、空気と冷媒との間で熱交換を行うことを目的として構成されたクロスフィンチューブタイプの熱交換器であり、複数枚のフィン11と伝熱管12とを有している。フィン11は、薄い板状の部材であり、板厚方向に所定の間隔を空けて並んで平行に配置されている。伝熱管12は、複数枚のフィン11を板厚方向に貫通するように装着されている。そして、フィン11及び伝熱管12を介して、伝熱管12内を流れる冷媒と伝熱管12外を流れる空気との間で熱交換が行われる。
【0028】
熱交換器1は、空気と冷媒との間で熱交換を行うことから、空気の露点以下となる着霜雰囲気下での使用が多く、フィン11の表面で結露あるいは着霜を生じやすい。フィン11の表面に結露あるいは霜が生じたまま熱交換器1を放置した場合、結露に基づく結露水の付着によるフィン11の腐食、着霜に基づく霜の付着による通風抵抗の増大や熱交換効率の低下等といった種々の問題を生じるおそれがある。そこで、熱交換器1は、フィン11を着霜抑制被膜付き成型品として構成することにより、フィン11の表面における結露あるいは着霜の発生を抑制している。
【0029】
(2)フィンの構造
次に、着霜抑制被膜付き成型品であるフィン11について、図2及び図3を用いて説明する。ここで、図2はフィンの一部を示す斜視図であり、図3はフィンの断面図である。
フィン11には、後述のプレス加工によって、伝熱管12が貫通する複数のバーリング孔11aや、主として熱交換効率を向上させる機能等を有する複数の突出部11b(図2における矩形状の突出部分)が形成されている。そして、各バーリング孔11aの周囲には、板厚方向に向かって突出する筒状部11cが形成されている。
【0030】
このような形状を有するフィン11は、板状の基材21と、基材21の表面(図3における上面及び下面の両面)に設けられた着霜抑制被膜22とから構成されている。基材21は、鉄、アルミニウム、銅等の熱伝導率が良好な金属材料から形成されている。着霜抑制被膜22は、基材21の表面に液状の撥水剤又は液状の滑水剤を塗布し、乾燥硬化させることによって形成されている。
【0031】
撥水剤は、バインダー成分と、微粒子とを含んでいる。バインダー成分は、撥水性を有する合成樹脂を材料とした液体であり、合成樹脂としてフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂等が挙げられる。微粒子は、一次粒子径が10nm〜10μmの無機粉体又は有機粉体であり、その材料として二酸化ケイ素、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。撥水剤は、乾燥硬化して着霜抑制被膜22を形成した際、微粒子に起因した微細な凹凸を着霜抑制被膜22の表面に形成する。撥水剤から形成される着霜抑制被膜22においては、バインダー成分による撥水性に加え、その表面に形成された微細な凹凸によって着霜抑制被膜22の表面と水滴との接触面積が低減されることにより、着霜抑制被膜22の表面上での水滴の付着力が低下している。そして、着霜抑制被膜22は、その表面へ付着した水滴を転がり落とすことにより、撥水性能を発揮する。
【0032】
滑水剤は、主成分としてシリコーン樹脂であるオルガノポリシロキサンを含み、副成分として、ポリジアルキルシロキサン、ポリアルキル水素シロキサン、シラノール基を有するオルガノポリシロキサン(シリコーンオイル)等を含んでいる。滑水剤は、乾燥硬化して着霜抑制被膜22を形成した際、着霜抑制被膜22の表面を平滑面とする。滑水剤から形成される着霜抑制被膜22においては、シリコーン樹脂等による撥水性に加え、その表面を平滑面とすることで着霜抑制被膜22の表面と水滴との摩擦抵抗が軽減されることにより、着霜抑制被膜22の表面上での水滴の保持力が低下している。そして、着霜抑制被膜22は、その表面へ付着した水滴を滑り落とすことにより、極めて優れた撥水性能である滑水性能を発揮する。
【0033】
(3)熱交換器の製造方法
次に、熱交換器1の製造方法について、図2、図4及び図5を用いて説明する。ここで、図4は、熱交換器1の製造方法を示す概略図である。また、図5は、図2のA−A断面図であって、プレス加工工程においてバーリング孔11aのアイオニングを行う際の様子を示す図である。
【0034】
熱交換器1は、塗料調整工程S11と、着霜抑制被膜形成工程S12と、プレス油浸漬工程S13と、プレス加工工程S14と、組み立て工程S15と、乾燥工程S16とを経て製造される。
塗料調整工程S11では、基材21の表面に塗布される撥水剤又は滑水剤が準備され、調整される。この工程では、プレス加工工程S14時においても着霜抑制被膜22の半硬化状態が維持されるようにするために、撥水剤又は滑水剤の硬化速度を抑制する硬化速度抑制触媒を撥水剤又は滑水剤に混合しておく。
【0035】
ここで、半硬化状態とは、着霜抑制被膜の硬化が開始してから完全に硬化するまでの間の状態をいい、実質的には、基材のプレス加工による変形に追従できる程度の柔軟性や屈曲性、延伸性等の材料特性を有する状態をいう。また、着霜抑制被膜22の半硬化状態を維持する時間は、着霜抑制被膜形成工程S12からプレス加工工程S14までの時間に対応する。このため、硬化速度抑制触媒としては、少なくとも24時間以上、好ましくは1週間以上、さらに好ましくは1ヶ月以上、着霜抑制被膜22の半硬化状態を維持できる特性を有するものを採用することが望ましい。
【0036】
次に、着霜抑制被膜形成工程S12において、基材21の表面に硬化速度抑制触媒を含む撥水剤又は滑水剤を塗布して着霜抑制被膜22を形成する。ここで、撥水剤又は滑水剤の塗布方法としては、ロールコーティング法、フローコーティング法、浸漬塗布法、含浸法、刷毛塗り法、スプレー法等が挙げられる。ここで、上述の塗料調整工程S11において、撥水剤又は滑水剤には硬化速度抑制触媒が混合されているため、基材21に形成された着霜抑制被膜22は、完全に硬化することなく、長時間にわたって半硬化状態が維持されることとなる。また、着霜抑制被膜22の膜厚は、熱伝導率の低下を抑制しつつ、撥水性能又は滑水性能を確保するという観点から、好ましくは0.1〜50μmである。そして、半硬化状態の着霜抑制被膜22が設けられた基材21は、コイラー31に巻き取られる。
【0037】
次に、プレス油浸漬工程S13において、コイラー31に巻き取られた半硬化状態の着霜抑制被膜22が設けられた基材21をプレス油が入れられたプレス油槽32に送り、基材21を浸漬してプレス油を付着させる。尚、この工程においても、着霜抑制被膜22の半硬化状態が維持されている。
次に、プレス加工工程S14において、プレス油浸漬工程S13においてプレス油が付着した基材21をプレス加工機33に送り、金型を用いて所定の形状にプレス加工を行って、着霜抑制被膜付き成型品としてのフィン11を成型する。ここで、フィン11には、図2に示されるようなバーリング孔11a、突出部11bや筒状部11c等が形成される。この際、例えば、バーリング孔11aの周囲の筒状部11cのアイオニングが行われて、筒状部11cがフィン11の板厚方向に引き伸ばされることになるが、着霜抑制被膜22が半硬化状態であるため、着霜抑制被膜22が基材21の変形に追従して変形する。これにより、着霜抑制被膜22の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜22が基材21の変形を妨げることにより、基材21自体の破損が発生する等の不具合を生じることなく、プレス加工が行われる。そして、成型されたフィン11は、スタック34に溜められる。
【0038】
次に、組み立て工程S15において、伝熱管12を複数枚のフィン11のバーリング孔11aに挿入し、拡管することで装着して熱交換器1を組み立てる。そして、乾燥工程S16において、組み立てられた熱交換器1を乾燥炉35に入れて加熱して、油分の除去処理と、半硬化状態の着霜抑制被膜22の完全硬化処理とを行い、最終製品としての熱交換器1を得る。ここで、着霜抑制被膜22の完全硬化処理については、乾燥炉等を用いた加熱処理に限定されるものではなく、紫外線等の光照射処理により完全硬化させてもよい。また、本実施形態においては、熱交換器1を組み立てた後に、油分の除去処理及び着霜抑制被膜22の完全硬化処理とを行っているが、熱交換器1を組み立て前にフィン11の油分の除去処理及び着霜抑制被膜22の完全硬化処理とを行うようにしてもよい。
【0039】
尚、本実施形態の熱交換器1の製造方法によって得られるフィン11の着霜抑制被膜22には、成分として、撥水剤又は滑水剤とともに、プレス加工前における着霜抑制被膜22の半硬化状態を維持するために塗布された硬化速度抑制触媒が含まれている。
(4)熱交換器の製造方法の特徴
本実施形態の熱交換器1、特に、着霜抑制被膜付き成型品としてのフィン11及びその製造方法には、以下のような特徴がある。
【0040】
(A)
本実施形態のフィン11の製造方法では、板状の基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜22を、プレス加工工程S14時に半硬化状態になるようにしている。
具体的には、塗料調整工程S11において基材21に塗布される撥水剤又は滑水剤に硬化速度抑制触媒を混合することで、着霜抑制被膜形成工程S12において硬化速度抑制触媒が混合された撥水剤又は滑水剤が塗布されて形成された着霜抑制被膜22の半硬化状態が、プレス加工工程S14時においても維持されるようにしている。
【0041】
すなわち、本実施形態のフィン11の製造方法では、基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成される着霜抑制被膜22を半硬化状態にする半硬化工程(塗料調整工程S11及び着霜抑制被膜形成工程S12)を備えている。
このような半硬化工程を備えたフィン11の製造方法では、基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜22を、半硬化状態、すなわち、基材21のプレス加工による変形に追従できる程度の柔軟性や屈曲性、延伸性等の材料特性を有する状態にすることができるため、基材21のプレス加工を行うことにより、着霜抑制被膜22が基材21の変形に追従しきれずに、着霜抑制被膜22の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜22が基材21の変形を妨げることにより、基材21自体の破損が発生する等の不具合が生じることない。これに対して、着霜抑制被膜22を完全に硬化させた状態で基材21のプレス加工を行うと、図6に示されるように、着霜抑制被膜22が基材21の変形に追従しきれないため、着霜抑制被膜22が基材21の変形を妨げてしまい、基材21の筒状部11cが破断する等のように、基材21自体の破損が発生してしまうことがある。
【0042】
このように、本実施形態のフィン11の製造方法によれば、基材21に着霜抑制被膜22を設けた後にプレス加工を行う製造方法を採用しつつ、上記のようなプレス加工時の不具合を防ぐことができ、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能なフィン11及びこのようなフィン11を備えた熱交換器1を製造することができる。
(B)
また、本実施形態のフィン11の製造方法では、塗料調整工程S11において、基材21に塗布される撥水剤又は滑水剤に硬化速度抑制触媒を混合しておくだけで着霜抑制被膜22の半硬化状態を維持できるため、フィン11の製造工程を大幅に変更することがない。
【0043】
(C)
また、本実施形態のフィン11の製造方法によって得られたフィン11には、硬化速度抑制触媒が含まれているため、上記のように、半硬化状態の着霜抑制被膜22が設けられた基材21をプレス加工することによって製造されたことを確認することができる。
[第2実施形態]
以下、本発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法の第2実施形態が採用された空気調和装置に用いられる熱交換器用フィン及びその製造方法について説明する。尚、熱交換器1の構造及びフィン11の構造については、第1実施形態における熱交換器1の構造及びフィン11の構造と同様であるため、ここでは説明を省略し、熱交換器1の製造方法のみについて、以下に説明する。
【0044】
(1)熱交換器の製造方法
次に、熱交換器1の製造方法について、図2、図5及び図7を用いて説明する。ここで、図7は、熱交換器1の製造方法を示す概略図である。
熱交換器1は、塗料調整工程S21と、着霜抑制被膜形成工程S22と、保護膜付与工程S23と、プレス油浸漬工程S24と、プレス加工工程S25と、組み立て工程S26と、乾燥工程S27と、保護膜除去工程S28とを経て製造される。
【0045】
塗料調整工程S21では、基材21の表面に塗布される撥水剤又は滑水剤が準備され、調整される。本実施形態におけるこの工程では、第1実施形態の製造方法とは異なり、後述の保護膜付与工程S23において半硬化状態保護膜23を半硬化状態の着霜抑制被膜22の表面に設けるため、硬化速度抑制触媒を撥水剤又は滑水剤に必ずしも混合しておく必要はないが、後述の着霜抑制被膜形成工程S22から保護膜付与工程S23までの間の時間が長時間になる場合には、第1実施形態の製造方法と同様に、硬化速度抑制触媒を撥水剤又は滑水剤に混合しておくことが望ましい。
【0046】
次に、着霜抑制被膜形成工程S22において、基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布して着霜抑制被膜22を形成する。ここで、撥水剤又は滑水剤の塗布方法としては、ロールコーティング法、フローコーティング法、浸漬塗布法、含浸法、刷毛塗り法、スプレー法等が挙げられる。また、着霜抑制被膜22の膜厚は、熱伝導率の低下を抑制しつつ、撥水性能又は滑水性能を確保するという観点から、好ましくは0.1〜50μmである。
【0047】
次に、保護膜付与工程S23において、半硬化状態の着霜抑制被膜22の表面に着霜抑制被膜22の硬化を抑制するための半硬化状態保護膜23を設ける。これにより、後述のプレス加工工程S25時においても着霜抑制被膜22の半硬化状態が維持される。ここで、半硬化状態保護膜23としては、例えば、着霜抑制被膜22が加水反応により硬化するものである場合には、空気との接触を防ぐ特性を有するものを採用することができる。また、半硬化状態保護膜23が液状の塗料を塗布することによって形成される場合には、着霜抑制被膜形成工程S22で挙げた塗布方法と同じ方法で塗布することができる。また、半硬化状態保護膜23の膜厚は、後述のプレス加工工程S25における着霜抑制被膜22の傷付き等の防止を考慮して、着霜抑制被膜22を保護できる程度の厚みを有していることが望ましい。さらに、半硬化状態保護膜23は、その硬度が着霜抑制被膜22の硬度よりも軟らかいものであることが好ましい。そして、半硬化状態の着霜抑制被膜22の表面に半硬化状態保護膜23が設けられた基材21は、コイラー31に巻き取られる。
【0048】
次に、プレス油浸漬工程S24において、コイラー31に巻き取られた半硬化状態の着霜抑制被膜22の表面に半硬化状態保護膜23が設けられた基材21をプレス油が入れられたプレス油槽32に送り、基材21を浸漬してプレス油を付着させる。尚、この工程においても、着霜抑制被膜22の半硬化状態が維持されている。
次に、プレス加工工程S25において、プレス油浸漬工程S24においてプレス油が付着した基材21をプレス加工機33に送り、金型を用いて所定の形状にプレス加工を行って、着霜抑制被膜付き成型品としてのフィン11を成型する。ここで、フィン11には、図2に示されるようなバーリング孔11a、突出部11bや筒状部11c等が形成される。この際、例えば、バーリング孔11aの周囲の筒状部11cのアイオニングが行われて、筒状部11cがフィン11の板厚方向に引き伸ばされることになるが、着霜抑制被膜22が半硬化状態であるため、着霜抑制被膜22が基材21の変形に追従して変形する(図5参照)。これにより、着霜抑制被膜22の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜22が基材21の変形を妨げることにより、基材21自体の破損が発生する等の不具合を生じることなく、プレス加工が行われる。そして、成型されたフィン11は、スタック34に溜められる。また、着霜抑制被膜22の表面が半硬化状態保護膜23で保護されているため、プレス加工時の着霜抑制被膜22傷付き等も効果的に防止される。
【0049】
次に、組み立て工程S26において、伝熱管12を複数枚のフィン11のバーリング孔11aに挿入し、拡管することで装着して熱交換器1を組み立てる。そして、乾燥工程S27において、組み立てられた熱交換器1を乾燥炉35に入れて加熱して、油分の除去処理を行う。
次に、保護膜除去工程S28において、着霜抑制被膜22の表面に設けられた半硬化状態保護膜23を除去して、半硬化状態の着霜抑制被膜22を完全に硬化させて、最終製品としての熱交換器1を得る。
【0050】
ここで、保護膜除去工程S28は、組み立て工程S26や乾燥工程S27に先だって行ってもよい。例えば、フィン11の半硬化状態保護膜23を除去した後に、組み立て工程S26及び乾燥工程S27を行うことができる。この場合には、乾燥工程S27において、油分の除去処理と半硬化状態の着霜抑制被膜22の完全硬化処理とを同時に行うことが可能になる。また、着霜抑制被膜22の完全硬化処理については、乾燥炉等を用いた加熱処理に限定されるものではなく、紫外線等の光照射処理により完全硬化させてもよい。また、保護膜除去工程S28は、上記のように、半硬化状態の着霜抑制被膜22の表面から除去してもよいし、半硬化状態保護膜23を除去しなくても完全硬化することが可能な完全硬化処理方法を使用する場合には、完全硬化状態の着霜抑制被膜22の表面から除去してもよい。
【0051】
尚、本実施形態の熱交換器1の製造方法によって得られるフィン11の着霜抑制被膜22には、成分として、撥水剤又は滑水剤とともに、プレス加工前における着霜抑制被膜22の半硬化状態を維持するために着霜抑制被膜22の表面に設けられた半硬化状態保護膜23が、わずかであるが残滓として残る。
(2)熱交換器の製造方法の特徴
本実施形態の熱交換器1、特に、着霜抑制被膜付き成型品としてのフィン11及びその製造方法には、以下のような特徴がある。
【0052】
(A)
本実施形態のフィン11の製造方法では、第1実施形態のフィン11の製造方法と同様に、板状の基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜22を、プレス加工工程S25時に半硬化状態になるようにしている。
具体的には、基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された半硬化状態の着霜抑制被膜22の表面に半硬化状態保護膜23を設けることで、着霜抑制被膜形成工程S22において硬化速度抑制触媒が混合された撥水剤又は滑水剤が塗布されて形成された着霜抑制被膜22の半硬化状態が、プレス加工工程S25時においても維持されるようにしている。
【0053】
すなわち、本実施形態のフィン11の製造方法では、基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成される着霜抑制被膜22を半硬化状態にする半硬化工程(保護膜付与工程S23)を備えている。
このように、本実施形態のフィン11の製造方法によれば、第1実施形態のフィン11の製造方法と同様に、基材21に着霜抑制被膜22を設けた後にプレス加工を行う製造方法を採用しつつ、上記のようなプレス加工時の不具合を防ぐことができ、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能なフィン11及びこのようなフィン11を備えた熱交換器1を製造することができる。
【0054】
(B)
また、本実施形態のフィン11の製造方法では、保護膜付与工程S23及び保護膜除去工程S28という2つの工程が追加されることになるが、プレス加工工程S25における着霜抑制被膜22の表面の傷付き等を防ぐことにも寄与できる。
(C)
また、本実施形態のフィン11の製造方法によって得られたフィン11には、着霜抑制被膜22の表面等に半硬化状態保護膜23の残滓が残るため、上記のように、半硬化状態の着霜抑制被膜22が設けられた基材21をプレス加工することによって製造されたことを確認することができる。
【0055】
[第3実施形態]
以下、本発明にかかる着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法の第3実施形態が採用された空気調和装置に用いられる熱交換器用フィン及びその製造方法について説明する。尚、熱交換器1の構造及びフィン11の構造については、第1実施形態における熱交換器1の構造及びフィン11の構造と同様であるため、ここでは説明を省略し、熱交換器1の製造方法のみについて、以下に説明する。
【0056】
(1)熱交換器の製造方法
次に、熱交換器1の製造方法について、図2、図5及び図8を用いて説明する。ここで、図8は、熱交換器1の製造方法を示す概略図である。
熱交換器1は、塗料調整工程S31と、着霜抑制被膜形成工程S32と、プレス油浸漬工程S33と、プレス加工工程S34と、組み立て工程S35と、乾燥工程S36とを経て製造される。
【0057】
塗料調整工程S31では、基材21の表面に塗布される撥水剤又は滑水剤が準備され、調整される。本実施形態におけるこの工程では、第1及び第2実施形態の製造方法とは異なり、後述のプレス油浸漬工程S33において着霜抑制被膜22が設けられた基材21を被膜膨潤化プレス油に浸漬して半硬化状態にするため、着霜抑制被膜22の半硬化状態を長時間維持する必要がない。
【0058】
次に、着霜抑制被膜形成工程S32において、基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布して着霜抑制被膜22を形成する。ここで、撥水剤又は滑水剤の塗布方法としては、ロールコーティング法、フローコーティング法、浸漬塗布法、含浸法、刷毛塗り法、スプレー法等が挙げられる。また、着霜抑制被膜22の膜厚は、熱伝導率の低下を抑制しつつ、撥水性能又は滑水性能を確保するという観点から、好ましくは0.1〜50μmである。ここで、本実施形態では、第1及び第2実施形態のように、硬化速度抑制触媒を撥水剤又は滑水剤に混合せず、また、半硬化状態保護膜23を着霜抑制被膜22の表面に設けないため、次のプレス油浸漬工程S33までの時間に応じて、着霜抑制被膜22は、半硬化状態又は完全硬化状態になっている。
【0059】
次に、プレス油浸漬工程S33において、コイラー31に巻き取られた半硬化状態の着霜抑制被膜22の表面に半硬化状態保護膜23が設けられた基材21を着霜抑制被膜22を膨潤させる作用を有する被膜膨潤化プレス油が入れられたプレス油槽32に送り、基材21を浸漬してプレス油を付着させて、プレス加工工程S34時に半硬化状態の着霜抑制被膜22を得る。例えば、プレス油浸漬工程S33前に着霜抑制被膜22が完全硬化状態になっている場合には、再び、着霜抑制被膜22を半硬化状態にするということである。ここで、被膜膨潤化プレス油としては、膨潤剤を添加したプレス油や、プレス油自体が着霜抑制被膜を膨潤させる特性を有するものを採用することができる。
【0060】
次に、プレス加工工程S34において、プレス油浸漬工程S33において被膜膨潤化プレス油が付着することで半硬化状態になった着霜抑制被膜22が設けられた基材21をプレス加工機33に送り、金型を用いて所定の形状にプレス加工を行って、着霜抑制被膜付き成型品としてのフィン11を成型する。ここで、フィン11には、図2に示されるようなバーリング孔11a、突出部11bや筒状部11c等が形成される。この際、例えば、バーリング孔11aの周囲の筒状部11cのアイオニングが行われて、筒状部11cがフィン11の板厚方向に引き伸ばされることになるが、着霜抑制被膜22が半硬化状態であるため、着霜抑制被膜22が基材21の変形に追従して変形する(図5参照)。これにより、着霜抑制被膜22の亀裂、皺さらには剥離が発生したり、着霜抑制被膜22が基材21の変形を妨げることにより、基材21自体の破損が発生する等の不具合を生じることなく、プレス加工が行われる。そして、成型されたフィン11は、スタック34に溜められる。
【0061】
次に、組み立て工程S35において、伝熱管12を複数枚のフィン11のバーリング孔11aに挿入し、拡管することで装着して熱交換器1を組み立てる。そして、乾燥工程S36において、組み立てられた熱交換器1を乾燥炉35に入れて加熱して、油分の除去処理と、半硬化状態の着霜抑制被膜22の完全硬化処理とを行い、最終製品としての熱交換器1を得る。ここで、着霜抑制被膜22の完全硬化処理については、乾燥炉等を用いた加熱処理に限定されるものではなく、紫外線等の光照射処理により完全硬化させてもよい。また、本実施形態においては、熱交換器1を組み立てた後に、油分の除去処理及び着霜抑制被膜22の完全硬化処理とを行っているが、熱交換器1を組み立て前にフィン11の油分の除去処理及び着霜抑制被膜22の完全硬化処理とを行うようにしてもよい。
【0062】
尚、本実施形態の熱交換器1の製造方法によって得られるフィン11の着霜抑制被膜22には、成分として、撥水剤又は滑水剤とともに、プレス加工前における着霜抑制被膜22の半硬化状態を維持するために浸漬されて着霜抑制被膜22の表面に付着した被膜膨潤化プレス油が、わずかであるが残滓として残る。
(2)熱交換器の製造方法の特徴
本実施形態の熱交換器1、特に、着霜抑制被膜付き成型品としてのフィン11及びその製造方法には、以下のような特徴がある。
【0063】
(A)
本実施形態のフィン11の製造方法では、第1実施形態のフィン11の製造方法と同様に、板状の基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜22を、プレス加工工程S34時に半硬化状態になるようにしている。
具体的には、基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成された着霜抑制被膜22をプレス加工工程S34前に被膜膨潤化プレス油に浸漬することで、プレス加工工程S34時に半硬化状態の着霜抑制被膜22が得られるようにしている。
【0064】
すなわち、本実施形態のフィン11の製造方法では、基材21の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成される着霜抑制被膜22を半硬化状態にする半硬化工程(プレス油浸漬工程S33)を備えている。
このように、本実施形態のフィン11の製造方法によれば、第1及び第2実施形態のフィン11の製造方法と同様に、基材21に着霜抑制被膜22を設けた後にプレス加工を行う製造方法を採用しつつ、上記のようなプレス加工時の不具合を防ぐことができ、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能なフィン11及びこのようなフィン11を備えた熱交換器1を製造することができる。
【0065】
(B)
また、本実施形態のフィン11の製造方法では、プレス加工工程S34前に行われるプレス油浸漬工程S33において、膨潤作用を有する被膜膨潤化プレス油に浸漬することで、プレス加工工程S34時に半硬化状態の着霜抑制被膜22を得ることができるため、プレス加工工程S34前における着霜抑制被膜22の硬化状態にかかわらず、プレス加工工程S34時に着霜抑制被膜22を半硬化状態にすることができる。
【0066】
(C)
また、本実施形態のフィン11の製造方法によって得られたフィン11には、着霜抑制被膜22の表面等に被膜膨潤化プレス油の残滓が残るため、上記のように、半硬化状態の着霜抑制被膜22が設けられた基材21をプレス加工することによって製造されたことを確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明を利用すれば、撥水性能又は滑水性能を良好に確保することが可能な着霜抑制被膜付き成型品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】空気調和装置に用いられる熱交換器の概略構成図である。
【図2】フィンの一部を示す斜視図である。
【図3】フィンの断面図である。
【図4】第1実施形態の熱交換器の製造方法を示す概略図である。
【図5】図2のA−A断面図であって、半硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材のプレス加工工程においてバーリング孔のアイオニングを行う際の様子を示す図である。
【図6】図2のA−A断面図であって、完全硬化状態の着霜抑制被膜が設けられた基材のプレス加工工程においてバーリング孔のアイオニングを行う際の様子を示す図である。
【図7】第2実施形態の熱交換器の製造方法を示す概略図である。
【図8】第3実施形態の熱交換器の製造方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0069】
11 フィン(着霜抑制被膜付き成型品)
21 基材
22 着霜抑制被膜
23 半硬化状態保護膜
S11 塗料調整工程
S12、S22 着霜抑制被膜形成工程
S14、S25、S34 プレス加工工程
S23 保護膜付与工程
S28 保護膜除去工程
S33 プレス油浸漬工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水性能又は滑水性能を有する着霜抑制被膜(22)が表面に設けられた着霜抑制被膜付き成型品(11)の製造方法であって、
板状の基材(21)の表面に撥水剤又は滑水剤を塗布することにより形成される前記着霜抑制被膜を半硬化状態にする半硬化工程と、
前記半硬化工程後に、前記基材のプレス加工を行うプレス加工工程(S14、S25、S34)と、
を備えた着霜抑制被膜付き成型品の製造方法。
【請求項2】
前記半硬化工程は、
前記撥水剤又は前記滑水剤に前記着霜抑制被膜(22)の半硬化状態を維持するための硬化速度抑制触媒を混合する塗料調整工程(S11)と、
前記塗料調整工程後に、前記基材(21)に前記硬化速度制御触媒を含む前記撥水剤又は前記滑水剤を塗布する着霜抑制被膜形成工程(S12)と、
を有する、請求項1に記載の着霜抑制被膜付き成型品の製造方法。
【請求項3】
前記半硬化工程は、
前記基材(21)に前記撥水剤又は前記滑水剤を塗布する着霜抑制被膜形成工程(S22)と、
前記着霜抑制被膜形成工程後に、半硬化状態の前記着霜抑制被膜(22)の表面に前記着霜抑制被膜の硬化を抑制するための半硬化状態保護膜(23)を設ける保護膜付与工程(S23)と、
を有しており、
前記プレス加工工程(S25)後に、前記半硬化状態保護膜を除去する保護膜除去工程(S28)をさらに備えている、
請求項1に記載の着霜抑制被膜付き成型品の製造方法。
【請求項4】
前記半硬化工程は、
前記基材(21)に前記撥水剤又は前記滑水剤を塗布する着霜抑制被膜形成工程(S32)と、
前記着霜抑制被膜形成工程後に、前記着霜抑制被膜(22)を膨潤させる作用を有する被膜膨潤化プレス油に浸漬するプレス油浸漬工程(S33)と、
を有する、請求項1に記載の着霜抑制被膜付き成型品の製造方法。
【請求項5】
前記プレス加工工程(S14、S25、S34)は、前記基材(21)から空気調和装置に用いられる熱交換器用フィン(11)を成型している、請求項1〜4のいずれかに記載の着霜抑制被膜付き成型品の製造方法。
【請求項6】
プレス加工により所定の形状に成型される板状の基材(21)と、
前記プレス加工前に前記基材に塗布されて形成される着霜抑制被膜(22)とを備え、
前記着霜抑制被膜は、前記プレス加工前における前記着霜抑制被膜の半硬化状態を維持するために塗布される硬化速度抑制触媒を含んでいる、
着霜抑制被膜付き成型品(11)。
【請求項7】
プレス加工により所定の形状に成型される板状の基材(21)と、
前記プレス加工前に前記基材に塗布されて形成される着霜抑制被膜(22)とを備え、
前記着霜抑制被膜は、前記プレス加工前における半硬化状態の前記着霜抑制被膜の表面に前記着霜抑制被膜の硬化を抑制するために設けられ、前記プレス加工後に除去される半硬化状態保護膜(23)を残滓として含んでいる、
着霜抑制被膜付き成型品(11)。
【請求項8】
プレス加工により所定の形状に成型される板状の基材(21)と、
前記プレス加工前に前記基材に塗布されて形成される着霜抑制被膜(22)とを備え、
前記着霜抑制被膜は、前記プレス加工前における前記着霜抑制被膜を膨潤させるために用いられ、前記プレス加工後に除去される被膜膨潤化プレス油を残滓として含んでいる、
着霜抑制被膜付き成型品(11)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−122940(P2006−122940A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313240(P2004−313240)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】