説明

石油樹脂の製造方法

【課題】 本発明は、色調が良好で、かつ接着剤組成物に用いた場合に良好な接着性を発現することが可能な石油樹脂の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】 本発明は、ハロゲン化金属からなるルイス酸触媒(A)と、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)または炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)であるハロゲン化炭化水素(B)とを重合触媒として用い、飽和脂肪族炭化水素溶媒および/または芳香族炭化水素溶媒中、炭素数4〜6の脂肪族単量体および/または炭素数8〜10の芳香族単量体を重合して石油樹脂を得る石油樹脂の製造方法であって、重合反応を開始した後、上記ルイス酸触媒(A)の少なくとも一部および/または上記ハロゲン化炭化水素(B)の少なくとも一部を反応器に添加して重合することにより、溶液色調がガードナー色数で2以下である石油樹脂を得ることを特徴とする石油樹脂の製造方法を提供することにより上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色調が良好で、かつ接着剤組成物に用いた場合に良好な接着性を発現することが可能な石油樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体などの熱可塑性高分子化合物と粘着付与剤とからなる熱溶融型接着剤が様々な分野で用いられている。
【0003】
このような熱溶融型接着剤を、使い捨て紙おむつ、衛生ナプキンなどの衛生用品に使用する場合には、これらの製品が一般消費者向けの製品であるために、見かけ上の商品価値を損なわないよう、その接着剤の色調がよいことが求められる。
【0004】
上記熱溶融型接着剤には、その一成分として粘着付与剤が用いられており、この粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂およびこれらの水素添加物などが公知であるが、工業生産に適し、品質安定性にも優れたものとして石油樹脂が賞用されている。
【0005】
上記石油樹脂は、通常、塩化アルミニウムを重合触媒として用い、石油精製における特定の留分を重合して製造される。このような石油樹脂は暗色を呈しているため、上記のような衛生用品の熱溶融型接着剤に使用するには不適であった。色調のよい熱溶融型接着剤にするには、粘着付与剤として、石油樹脂の水素添加物を使用しているのが現状である。しかしながら、石油樹脂の水素添加物は、水素添加工程を必要とすることから、コストが上昇するといった問題がある。このため、水素添加を行なわなくても、色調の良好な石油樹脂が求められている。
従来、ハロゲン化有機アルミニウム化合物およびハロゲン化炭化水素からなる重合触媒を使用して、淡色の石油樹脂を得る方法が知られている(特許文献1および2参照)。しかしながら、得られた石油樹脂の色調は、溶液ガードナー色数で4程度と不十分なものであった。
【0006】
また、炭素数5のオレフィン性不飽和炭化水素を含む留分10〜70重量%およびα−メチルスチレン30〜90重量%からなる単量体混合物を、三フッ化ホウ素を用いて重合する方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法によれば、得られた石油樹脂を溶融して測定される溶融色調が、ガードナー色数で1未満と極めて色調に優れる石油樹脂が得られるものの、このような石油樹脂を用いた熱溶融型接着剤は接着性に劣るものであった。
【0007】
【特許文献1】特開昭48−86993号公報
【特許文献2】特開昭48−86994号公報
【特許文献3】特開平4−227675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、色調が良好で、かつ接着剤組成物に用いた場合に良好な接着性を発現することが可能な石油樹脂の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、石油樹脂の製造に際して、特定の重合触媒を用い、かつ重合時の上記重合触媒の投入方法を改良することにより、色調が良好であり、かつ接着剤組成物に用いた場合に良好な接着性を発現する石油樹脂が得られることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、以下の発明1〜3が提供される。
1.ハロゲン化金属からなるルイス酸触媒(A)と、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)または炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)であるハロゲン化炭化水素(B)とを重合触媒として用い、飽和脂肪族炭化水素溶媒および/または芳香族炭化水素溶媒中、炭素数4〜6の脂肪族単量体および/または炭素数8〜10の芳香族単量体を重合して石油樹脂を得る石油樹脂の製造方法であって、重合反応を開始した後、上記ルイス酸触媒(A)の少なくとも一部および/または上記ハロゲン化炭化水素(B)の少なくとも一部を反応器に添加して重合することにより石油樹脂を得ることを特徴とする石油樹脂の製造方法。
【0011】
2.上記ハロゲン化金属からなるルイス酸触媒が、周期律表第III族に属する元素のハロゲン化物またはその錯体であることを特徴とする前記1に記載の石油樹脂の製造方法。
3.上記単量体の一部を反応器に添加し、重合反応を開始した後に、残部を反応器に添加して重合することを特徴とする前記1または前記2に記載の石油樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の石油樹脂の製造方法によれば、得られる石油樹脂は、色調が良好で、かつ接着剤組成物に用いた場合に良好な接着性を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の石油樹脂の製造方法について詳細に説明する。本発明の石油樹脂の製造方法は、ハロゲン化金属からなるルイス酸触媒(A)と、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)または炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)であるハロゲン化炭化水素(B)とを重合触媒として用い、飽和脂肪族炭化水素溶媒および/または芳香族炭化水素溶媒中、炭素数4〜6の脂肪族単量体および/または炭素数8〜10の芳香族単量体を重合して石油樹脂を得る石油樹脂の製造方法であって、重合反応を開始した後、上記ルイス酸触媒(A)の少なくとも一部および/または上記ハロゲン化炭化水素(B)の少なくとも一部を反応器に添加して重合することにより石油樹脂を得ることを特徴とするものである。
【0014】
本発明においては、重合触媒として用いる上記ルイス酸触媒(A)および上記ハロゲン化炭化水素(B)を重合反応開始前に全て投入するのではなく、少なくとも一方の一部を重合反応が開始された後で投入することにより、重合に際しての反応器内の温度上昇の制御が容易となり、これにより得られる石油樹脂の着色を抑えることができる。
【0015】
本発明に用いられるルイス酸触媒(A)は、ハロゲン化金属からなるものであれば特に限定されるものではないが、良好な反応活性を有する点から、周期律表第III族に属する元素のハロゲン化物またはその錯体であることが好ましい。このようなルイス酸触媒としては、具体的には、三塩化アルミニウム(AlCl)、三臭化アルミニウム(AlBr)、三塩化ガリウム(GaCl)、三弗化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・EtO)等を挙げることができる。なかでも汎用性等の観点から、AlClまたはBF・EtOが好適に用いられる。
【0016】
このようなハロゲン化金属からなるルイス酸触媒(A)の使用量は、重合に使用する単量体混合物100重量部に対し、好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。前記記載の範囲より使用量が少ないと重合収率が低下して生産性に劣る場合があり、逆に多いと得られる石油樹脂の色調が悪化する可能性があるからである。
一方、本発明に重合触媒として用いられるハロゲン化炭化水素(B)としては、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)または炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)が用いられる。
このようなハロゲン化炭化水素(B)を、ハロゲン化金属からなるルイス酸触媒(A)と併用することにより、重合活性が著しく向上するという利点を有する。
【0017】
上記3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)としては、例えば、t−ブチルクロライド、t−ブチルブロマイド、2−クロロ−2−メチルブタン、トリフェニルメチルクロライドなどが挙げられる。なかでも、反応活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、t−ブチルクロライドが好適に用いられる。
また、上記炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)における不飽和結合としては、炭素−炭素2重結合および炭素−炭素3重結合が挙げられ、芳香族環等における炭素−炭素共役2重結合も含むものである。このような化合物の具体例としては、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1−クロロエチル)ベンゼン、アリルクロライド、3−クロロ−1−プロピン、3−クロロ−1−ブテン、3−クロロ−1−ブチン、ケイ皮クロライドなどが挙げられる。なかでも、反応活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、ベンジルクロライドが好適に用いられる。
なお、上記ハロゲン化炭化水素(B)は、1種類で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
ハロゲン化炭化水素(B)の使用量は、ハロゲン化金属からなるルイス酸触媒(A)に対するモル比で、好ましくは0.05〜50、より好ましくは0.1〜10の範囲である。この使用量が前記範囲より少ないと重合収率が低下して生産性が劣る可能性があり、逆に多いと得られる石油樹脂の色調が悪化する傾向がある。
本発明の石油樹脂の製造方法においては、重合反応を開始した後に、上述したハロゲン化金属からなるルイス酸触媒(A)およびハロゲン化炭化水素(B)の少なくとも一方の一部を反応器に添加する点に特徴を有する。ルイス酸触媒(A)およびハロゲン化炭化水素(B)の全量を反応器に一括して添加して重合反応を開始すると、反応が暴走し、反応熱の除去が困難になり、結果として得られる石油樹脂の色調に劣ることになるからである。
【0019】
本発明の重合反応を開始したときとは、反応器の内部において、単量体と重合触媒であるルイス酸触媒(A)とが均一に混合し、重合反応が実質的に開始されたときを言う。
ルイス酸触媒(A)を分割して添加する場合には、重合反応が開始した後に反応器へ添加するルイス酸触媒(A)の割合は、重合に使用するルイス酸触媒(A)全量に対して、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
重合反応の制御のしやすさ、さらには操作性にも優れる点で、ルイス酸触媒(A)の一部を重合反応が開始する前に、予め反応器に添加しておく方が好ましい。
【0020】
重合反応が開始した後に、添加するハロゲン化炭化水素(B)の割合は、重合に使用するハロゲン化炭化水素(B)全量に対して、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
重合反応の制御のしやすさに優れる点で、重合に使用するハロゲン化炭化水素(B)の全量を、重合反応が開始する前に、予め反応器に添加しないことが好ましい。
【0021】
ルイス酸触媒(A)およびハロゲン化炭化水素(B)の添加方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)予めルイス酸触媒(A)の全量を反応器に添加し、重合反応を開始した後、ハロゲン化炭化水素(B)の全量を反応器に添加する方法。
(2)予めルイス酸触媒(A)の全量とハロゲン化炭化水素(B)の一部とを反応器に添加し、重合反応を開始した後、ハロゲン化炭化水素(B)の残部を反応器に添加する方法。
(3)予めルイス酸触媒(A)の一部を反応器に添加し、重合反応を開始した後、ルイス酸触媒(A)の残部とハロゲン化炭化水素(B)の全量を反応器に添加する方法。
(4)予めルイス酸触媒(A)の一部とハロゲン化炭化水素(B)の一部とを反応器に添加し、重合反応を開始した後、ルイス酸触媒(A)の残部とハロゲン化炭化水素(B)の残部とを反応器に添加する方法。
(5)予めルイス酸触媒(A)の一部とハロゲン化炭化水素(B)の全量とを反応器に添加し、重合反応を開始した後、ルイス酸触媒(A)の残部を反応器に添加する方法。
なかでも、重合反応を制御しやすく、さらに操作性にも優れる点で、前記(1)および(2)の添加方法が好ましい。
【0022】
また、重合反応を開始した後に、ルイス酸触媒(A)および/またはハロゲン化炭化水素(B)を添加する方法としては、分割して添加する方法および連続的に添加する方法が挙げられる。なかでも、より色調に優れた石油樹脂が製造できる点で、連続的に添加する方法が好ましい。連続添加する際の添加速度は、一定でも、変化させてもよい。
なお、反応器に単量体が存在する状態で、ルイス酸触媒(A)の全量およびハロゲン化炭化水素(B)の全量を、それぞれ、反応器に連続的に添加する場合であって、かつルイス酸触媒(A)およびハロゲン化炭化水素(B)の連続添加の開始時点を同じにすると、重合反応の開始時点とルイス酸触媒(A)およびハロゲン化炭化水素(B)の連続添加の開始時点とがほぼ同時になる場合がある。
【0023】
また、ルイス酸触媒(A)の少なくとも一部および/またはハロゲン化炭化水素(B)の少なくとも一部を反応器に添加する際には、これらの成分を重合で使用する溶媒で希釈して添加することもできる。
本発明に用いられる単量体成分としては、炭素数4〜6の脂肪族単量体および炭素数8〜10の芳香族単量体の少なくとも一方が用いられる。
本発明に用いられる炭素数4〜6の脂肪族単量体としては、炭素数4〜6のモノオレフィン性不飽和炭化水素、炭素数4〜6ジオレフィン性不飽和炭化水素を挙げることができる。
【0024】
上記炭素数4〜6のモノオレフィン性不飽和炭化水素としては、例えば、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、メチルブテン、メチルペンテン、ヘキセンなどの鎖状モノオレフィン;シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセンなどの環状モノオレフィン;などが挙げられる。
一方、炭素数4〜6のジオレフィン性不飽和炭化水素としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの鎖状共役ジエン;シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンなどの環状共役ジエン;1,2−ブタジエン、1,4−ペンタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。
炭素数4〜6の脂肪族単量体の使用量は、単量体混合物全量に対して、50〜95重量%の範囲内が好ましく、特に65〜90重量%の範囲内が好ましい。この量が前記記載の範囲より少ないと接着性に劣る可能性があり、逆に多いと色調が悪化すると共に接着性に劣る可能性があるからである。
【0025】
上記炭素数4〜6のモノオレフィン性不飽和炭化水素と炭素数4〜6のジオレフィン性不飽和炭化水素との比率は、重量比で、20/80〜80/20の範囲内が好ましく、特に25/75〜75/25の範囲内にあることが好ましい。
また、接着性に優れる石油樹脂を得るために、炭素数4〜6の脂肪族単量体中に、1,3−ペンタジエンを25〜75重量%の範囲で含むことが好ましい。
さらに、得られる石油樹脂の軟化点を調節するために、炭素数4〜6の脂肪族単量体中に、イソプレンを1〜25重量%の範囲で含むことが好ましい。
本発明に用いられる炭素数8〜10の芳香族単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、クマロン等を挙げることができ、中でもスチレンが好適に用いられる。
【0026】
炭素数8〜10の芳香族単量体の使用量は、単量体混合物全量に対して、5〜50重量%の範囲内であることが好ましく、中でも10〜40重量%の範囲内であることが好ましい。この量が前記記載の範囲より少ないと、色調が悪化すると共に接着性に劣る可能性があり、逆に多いと接着性に劣る可能性がある。
本発明においては、本発明の効果を本質的に阻害しない範囲で、上記炭素数4〜6の脂肪族単量体および炭素数8〜10の芳香族単量体と共重合可能な他の単量体を用いてもよい。このような他の単量体としては、例えば、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、2,4,4−トリメチル−2−ペンテン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0027】
本発明の石油樹脂の製造方法においては、単量体混合物の一部を反応器に添加し、重合反応を開始した後に、残部を反応器に添加して重合することが好ましい。重合反応を開始する前に添加する単量体混合物の量は、単量体混合物全量に対して、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%である。
重合反応を開始した後に添加する単量体混合物の残部の添加方法は、分割して添加する方法であっても、連続的に添加する方法であってもよい。なかでも、反応温度の制御がし易く、色調に優れる石油樹脂を製造しやすい点で、連続的に添加する方法が好ましい。連続的に添加する場合の添加速度は、一定であっても、変化させてもよい。
単量体混合物の反応器への添加方法は、反応器に各単量体を別々に添加しても、予め混合して単量体混合物としたものを添加してもよく、重合に使用する溶媒で希釈して添加してもよい。
【0028】
重合反応を開始する前に、反応器に添加する単量体成分としては、環状モノオレフィンが好ましく挙げられる。その添加量は、予め反応器に添加されている溶媒100重量部に対して、5〜50重量部の範囲であることが好ましい。
単量体混合物の一部を反応器に添加し、重合反応を開始した後に、その残部を反応器に連続的に添加して重合する場合、その連続添加の開始時点と終了時点に、上記ルイス酸触媒(A)の少なくとも一部および/またはハロゲン化炭化水素(B)の少なくとも一部の連続添加の開始時点と終了時点を、それぞれ合わせることが好ましい。
【0029】
本発明の石油樹脂の製造方法は、飽和脂肪族炭化水素溶媒および/または芳香族炭化水素溶媒中で行われる。
この際、用いられる飽和脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、2,2,4−トリメチルペンタンなどの炭素数5〜10の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数5〜10の環状飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。
一方、芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭素数6〜10の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0030】
上記の溶媒は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。混合して使用する場合、その量比は適宜選択することができる。
上記の溶媒は、得られる石油樹脂の色調を良くする点で、塩素原子、臭素原子などのハロゲン置換基を有さないものであることが好ましい。
上記溶媒の使用量は、単量体混合物100重量部当り、好ましくは10〜1000重量部、より好ましくは50〜500重量部である。この量が前記記載の範囲より多いと生産性に劣る可能性があり、逆に少ないと反応熱の除熱が困難となる場合があると共に、得られる石油樹脂の色調が悪化する傾向にある。
上記溶媒は、予めその全量を反応器に添加しても、その一部を反応器に添加し、重合を開始した後に残部を添加してもよい。
【0031】
本発明の石油樹脂の製造方法における重合温度は、通常、−20〜100℃の範囲内であり、より好ましくは0〜80℃の範囲内である。重合温度が前記記載の範囲より低いと重合活性が低下して生産性が劣る可能性があり、逆に高いと石油樹脂の色調が悪化する傾向にある。重合反応時の圧力は、大気圧下でも加圧下でもよい。反応時間は、適宜選択できるが、通常、30分間〜12時間、好ましくは1〜6時間である。
【0032】
上述したような条件下で重合反応を行った後、所望の重合転化率となった時点で、メタノール、アンモニア水溶液などの重合停止剤を添加して、重合反応を停止する。なお、重合停止剤を添加して、重合触媒を不活性化した際に生成する、溶媒に不溶な触媒残渣は濾過等により除去してもよい。
重合反応停止後、未反応の単量体と溶媒を除去し、さらに水蒸気蒸留などにより低分子量のオリゴマー成分を除去し、冷却することにより、固体状の石油樹脂が得られる。
【0033】
本発明の石油樹脂の製造方法により得られた石油樹脂は、その溶液色調がガードナー色数で2以下であることが好ましい。溶液色調がガードナー色数で2を超えると、このような石油樹脂を用いた接着剤組成物の色調が劣ることになるため好ましくない。
この溶液色調は、石油樹脂の50重量%トルエン溶液の色調をガードナー色数標準液と比較して判定するものであり、ガードナー色数が小さい程、色調が良好であることを示す。なお、同一の石油樹脂を加熱溶融し、その溶融物のガードナー色数を測定した場合、前記溶液のガードナー色数は溶融ガードナー色数よりも2程度小さい値を示す。
【0034】
また、本発明の石油樹脂の製造方法により得られた石油樹脂の軟化点は60〜130℃の範囲内であることが好ましく、特に80〜120℃の範囲内であることが好ましい。また重量平均分子量が1,000〜10,000の範囲内であることが好ましく、特に1,500〜7,000の範囲内であることが好ましい。この重量平均分子量が前記記載の範囲より高いと、熱可塑性高分子化合物および粘着付与剤とからなる接着剤組成物に用いた場合、熱可塑性高分子化合物との相溶性が低下することにより、接着剤の曇点が高くなり、剥離接着強さが低下する傾向がある。
本発明により得られる石油樹脂における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.2〜4であることが好ましく、1.5〜3.5であることがより好ましい。この比が上記に範囲にあると、接着剤組成物に用いた場合の接着性に優れるからである。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0036】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、部または配合に関わる%は、特に記載しない限り、重量基準である。また、各特性評価試験は、下記の方法で行った。
【0037】
[石油樹脂の物性測定]
(1)溶液ガードナー色数
石油樹脂の50%トルエン溶液を調製し、この溶液の色数をJIS K 0071−2に従い測定し、ガードナー色数で示す。
(2)重量平均分子量
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算値の重量平均分子量(Mw)を求めた。
(3)軟化点(℃)
JIS K 6863に従い測定した。
【0038】
[接着剤組成物の物性測定]
(4)接着剤組成物の色調
接着剤組成物の色調を目視で観察する。着色していない接着剤組成物ほど色調が良好とする。
(5)接着剤の曇点(℃)
温度計を備えた試験管に接着剤組成物10gを投入し、これを180℃で加熱した後、室温にて放冷する。この際、温度計先端周辺の組成物に濁りが生じた温度を曇点とする。接着剤の曇点が高すぎると、石油樹脂と熱可塑性高分子化合物との相溶性が低下するため、高すぎないことが好ましい。
(6)T形剥離接着強さ(N/m)
所定温度で、JIS K 6854−3に従い測定した。
【0039】
(実施例1)
反応器にシクロペンタン100部およびシクロペンテン20部を仕込み、50℃に昇温した後、三弗化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・EtO)1.0部を含むトルエン溶液を添加した。引き続き、1,3−ペンタジエン40部、シクロペンテン10部、イソプレン8部、スチレン20部およびブテン類2部からなる単量体混合物と、BF・EtOに対して1倍モルに相当する量のベンジルクロライド(BzCl)とを、それぞれ、別のラインを通して、90分間に亘り、反応器に連続的に添加しながら重合を行なった。
【0040】
さらに、50℃で20分間、後反応を行なった後、メタノールとアンモニア水の混合物を反応器に添加して、重合反応を停止した。
重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去した後、得られた重合体溶液を蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去した。次いで、240℃以上で、飽和水蒸気を吹き込んで、低分子量のオリゴマー成分を留去した樹脂を得た。この時の重合収率は、61%であった。前記重合収率は、重合反応に用いた全単量体量に対する、ここで得られた樹脂量の比率として算出した。
溶融状態の樹脂100部に対して、老化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.3部を添加し、混合した後、蒸留釜から溶融樹脂を取り出し、室温まで放冷して、石油樹脂を得た。得られた石油樹脂の物性を測定し、その結果を表1に示す。
【0041】
得られた石油樹脂を40部、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量28%、メルトフローレイト=50g/10分(測定温度:190℃、荷重:21.18N))40部およびパラフィンワックス(融点=63℃)20部を180℃で、1時間混練して、接着剤組成物を得た。この接着剤組成物の色調を観察し、結果を表1に示す。
上記で得られた接着剤組成物を、厚みが100μmのアルミニウムシートに、厚みが50μmとなるように、溶融塗布した。この塗布シートを幅25mmで切断し、その塗布面を厚みが100μmのアルミニウムシートに接触させ、10N/mの加圧条件で、140℃で2秒間、加熱圧着させて、試験片を作製した。この試験片の30℃におけるT型剥離接着強さを測定し、表1に示す。
【0042】
(実施例2)
三弗化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・EtO)1.0部の代わりに、三塩化アルミニウム(AlCl)1.0部を使用し、ベンジルクロライドの量をAlClに対して1倍モルに相当する量に変更する以外は、実施例1と同様にして、石油樹脂を得た。得られた石油樹脂の物性を測定し、結果を表1に示す。
実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
ベンジルクロライドに代えて、AlClに対して1倍モルに相当する量のt−ブチルクロライドを使用する以外は、実施例2と同様にして、石油樹脂を得た。得られた石油樹脂の物性を測定し、その結果を表1に示す。
実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例4)
反応器にシクロペンタン100部およびシクロペンテン20部を仕込み、60℃に昇温した後、AlClを0.1部(AlCl全量の10%に相当)、および実施例3で用いた量と同量のt−ブチルクロライドを添加した。引き続き、1,3−ペンタジエン29部、シクロペンテン26部、イソプレン3部、スチレン20部およびブテン類2部からなる単量体混合物を含むトルエン溶液を、ラインを通して90分間に亘り、反応器に連続的に添加しながら重合を行なった。また、重合開始後、10分毎、6回に分けてAlClを0.15部ずつ、計0.9部(AlCl全量の90%に相当)を分割して添加した。その他は実施例1と同様にして、石油樹脂を得た。得られた石油樹脂の物性を測定し、その結果を表1に示す。
実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0045】
(実施例5)
t−ブチルクロライドの添加方法を、単量体混合物とは別のラインを通して、90分間に亘り、反応器に連続的に添加する方法とした以外は、実施例4と同様にして石油樹脂を得た。得られた石油樹脂の物性を測定し、その結果を表1に示す。
実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
t−ブチルクロライドをn−ブチルクロライドに代えた以外は、実施例3と同様にして石油樹脂を得た。得られた石油樹脂の物性を測定し、その結果を表1に示す。
実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
ベンジルクロライド(BzCl)全量を最初に添加した以外は、実施例2と同様にして石油樹脂を得た。得られた石油樹脂の物性を測定し、その結果を表1に示す。
実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
ハロゲン化炭化水素(B)として、n−ブチルクロライドを用いた比較例1は、接着剤組成物の曇点が高く、かつT型剥離接着強さが低いことが分かる。また、ルイス酸触媒(A)およびハロゲン化炭化水素(B)の両者を全量初期添加した比較例2は、石油樹脂の溶液ガードナー色数が3と高く、また接着剤組成物の色調も悪い。一方、各実施例の接着剤組成物は、接着強度が高く、かつ顕著に着色されていないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化金属からなるルイス酸触媒(A)と、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)または炭素−炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)であるハロゲン化炭化水素(B)とを重合触媒として用い、飽和脂肪族炭化水素溶媒および/または芳香族炭化水素溶媒中、炭素数4〜6の脂肪族単量体および/または炭素数8〜10の芳香族単量体を重合して石油樹脂を得る石油樹脂の製造方法であって、
重合反応を開始した後、上記ルイス酸触媒(A)の少なくとも一部および/または上記ハロゲン化炭化水素(B)の少なくとも一部を反応器に添加して重合することにより石油樹脂を得ることを特徴とする石油樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化金属からなるルイス酸触媒が、周期律表第III族に属する元素のハロゲン化物またはその錯体であることを特徴とする請求項1に記載の石油樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記単量体の一部を反応器に添加し、重合反応を開始した後に、残部を反応器に添加して重合することを特徴とする請求項1または2に記載の石油樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2006−16464(P2006−16464A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194500(P2004−194500)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】