説明

石炭灰の地盤材料化方法

【課題】簡単な構成で効率良く微細粒子を分離して微量元素を除去し石炭灰を無害化して地盤材料として利用する石炭灰の地盤材料化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】石炭灰の地盤材料化方法において、石炭灰に界面活性剤と水性媒体を加えて攪拌混合してスラリーとするスラリー化工程と、前記スラリーを分級・分離手段により5μm以上の粒子を分級・分離する分級・分離工程と、分級・分離した5μm以上の粒子を清浄な水で洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電所や石炭焚ボイラ等から排出される石炭灰(フライアッシュ)に含まれる微量元素を除去して地盤材料として利用する石炭灰地盤材料化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭は植物の化石であることから、植物が土壌から吸収した微量元素を含有している。石炭を燃焼させたあとに15%程度の石炭灰が排出される。石炭灰の内、70%以上を占めるのがボイラ中を飛散するフライアッシュである。石炭灰中に微量元素が濃縮含有している。フライアッシュは細粒であるため、これが水に触れると微量元素が溶出し、場合によっては環境基準値を超してしまうことがあった。石炭灰は石炭火力発電所などから年間1000万トン以上排出され、その発生量は年々増加している。石炭灰の大部分はセメント原料として活用されている。しかし、セメントの消費量は徐々に減少している。そのため、石炭灰の盛土や道路の地盤材料としての活用が必須となっている。ここで問題になるのは溶出成分であり、特に六価クロムやホウ素、ヒ素などの制御が課題となっている。
【0003】
こうした溶出成分を固定化する技術として、セメントや石膏を添加するなど古くから用いられている方法に有効性が認められている。例えば、特開2004−148288号公報には、多硫化カルシウムやチオ硫酸ナトリウムの添加によって六価クロムの溶出を抑制する技術が開示されている。特開2004−97944号公報には、含水比を調整した石炭灰に石灰/石膏を添加し、ホウ素の溶出を抑制する技術が開示されている。特開2001−157884号公報には、木酢液や竹酢液によって重金属の溶出を抑制する技術が開示されている。また、溶出成分を除去する方法としては、古くから用いられている洗浄による方法が知られており、ここに添加剤を用いて除去効果の向上を図る方法が提案されている。例えば、特開2003−320342号公報には、酸性の水溶液で洗浄することによってホウ素を除去する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−148288公報
【特許文献2】特開2004−97944号公報
【特許文献3】特開2001−157884号公報
【特許文献4】特開2003−320342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の固定化による溶出成分の制御の技術は、微量成分を除去するわけではなく、環境条件の変化によって微量元素が再溶出する可能性が残っている。又、洗浄による微量成分の除去する技術に関しては、洗浄にかかる労力が甚だ大きく、洗浄後の排水量も多大となるため現実的ではなかった。
【0005】
石炭灰中の微量成分の含有形態を調査研究した結果、(1)石炭灰表面に強く吸着している成分、(2)石炭灰の主成分であるシリカやアルミナなどの中に固溶している成分の2種類があることが判明した。溶出が問題になるのは、前記(1)のケースであるが、この除去が困難であった。検討の結果、除去の困難さは、微量成分が石炭灰の微細粒子や未燃カーボン粒子に強く吸着しており、これらの微細粒子は粗い石炭灰粒子に強く配位(凝集)しているためであることが判明した。このため、こうした微細粒子を効果的に除去することが微量成分を除去する上で重要な問題であり、微細粒子を除去したものは地盤材料として利用できることが判明した。
【0006】
本発明は、前記従来技術の問題を解決する、簡単な構成で効率良く微細粒子を分離して微量元素を除去し石炭灰を無害化して地盤材料として利用する石炭灰の地盤材料化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本第1発明は、前記課題を解決するために、石炭灰の地盤材料化方法において、石炭灰に界面活性剤と水性媒体を加えて攪拌混合してスラリーとするスラリー化工程と、前記スラリーを分級・分離手段により5μm以上の粒子を分級・分離する分級・分離工程と、分級・分離した5μm以上の粒子を清浄な水で洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする。
【0008】
本第2発明は、本第1発明の石炭灰の地盤材料化方法において、前記スラリー化工程は、石炭灰に対して0.2〜3重量%の界面活性剤を添加し、石炭灰に対して100〜150重量%の水を加えることを特徴とする。
【0009】
本第3発明は、本第1又は第2発明の石炭灰の地盤材料化方法において、前記スラリー化工程において、最初に最終添加量の2/3の水性媒体を加えて攪拌混合する予備混合工程を備えることを特徴とする。界面活性剤は、2/3の水性媒体に添加しても良いし、後に添加する1/3の水性媒体に添加しても良い。
【0010】
本第4発明は、本第1〜第3発明のいずれかの石炭灰の地盤材料化方法において、分級・分離された5μm以上の粒子をさらに50μm以上の粒子を分級・分離する第2分級・分離工程を備えることを特徴とする。
【0011】
本第5発明は、本第1〜第4発明のいずれかの石炭灰の地盤材料化方法において、洗浄工程の残余の水から水面に浮遊する浮遊粒子、未燃カーボンを分離し、その後残余の水から遠心分離により5μm以下の粒子を分離してセメント原料とし、固形分が分離された水は界面活性剤を添加して前記スラリー化工程の界面活性材水溶液として使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の石炭灰に界面活性剤と水性媒体を加えて攪拌混合してスラリーとするスラリー化工程と、前記スラリーを分級・分離手段により5μm以上の粒子を分級・分離する分級・分離工程と、分級・分離した5μm以上の粒子を清浄な水で洗浄する洗浄工程を備える構成により、スラリー化工程で粗い粒子に強く凝集していた微細粒子が分離されて界面活性剤水溶液中に分散し、続く分級・分離工程で微細粒子が5μm以上の粒子から分離され、さらに、洗浄工程で5μm以上の粒子に付着していた微細粒子と浮遊粒子、未燃カーボンが除去されるので、微量元素を多く含有する微細粒子を効率良く分離できる。
スラリー化工程において、最初に最終添加量の2/3の水性媒体を加えて攪拌混合する予備混合工程を備える構成により、強いせん断力を生じさせることができ、この時に微粒分を引き剥がすことができる。界面活性剤は、この予備混合水に添加しても良いし、残余の混合水に添加しても良い。
分級・分離された5μm以上の粒子をさらに50μm以上の粒子を分級・分離する第2分級・分離工程を備える構成により、地盤材料としての用途に応じた粒度の異なる石炭灰を用意できる。
洗浄工程の残余の水から水面に浮遊する浮遊粒子、未燃カーボンを分離し、その後残余の水から遠心分離により5μm以下の粒子を分離してセメント原料とし、固形分が分離された水は界面活性剤を添加して前記スラリー化工程の界面活性材水溶液として使用する構成により、洗浄水を無駄なく使用でき後処理が容易になる。微量元素の濃度が濃くなった洗浄後の水で再度スラリー化工程を実施しても、その後の洗浄工程で微量元素を除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の石炭灰の地盤材料化方法を工程順に説明する。スラリー化工程では、石炭灰に界面活性剤と水性媒体を加えて攪拌混合してスラリーにする工程である。水性媒体としては、水道水、井戸水、雨水等入手が容易なもを使用する。使用する界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などである。ナフタレンスルホン酸塩やリグニンスルホン酸塩などの陰イオン系界面活性剤が安価で好適である。
【0014】
石炭灰に対して界面活性剤は0.2〜3重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%添加する。0.2重量%以下では界面活性剤添加効果がほとんど得られず、3重量%以上では石炭灰中の未燃カーボンが溶出し、スラリーが黒濁化し後処理が困難となる。石炭灰に対して水性媒体は100〜150重量%加える。水性媒体の量が100重量%以下であると粘性が高くなり分級、分離効果が悪化し、150重量%以上では石炭灰の沈殿が生じやすく、プロセス上での閉塞を生じたり、排水処理量が嵩む等の問題が生じる。また、後述のように、フッ素、ホウ素の沈殿物を効果的に作るために必要である。
【0015】
石炭灰は、粗大粒子表面に微細粒子が強力に凝集している。微細粒子を分級・分離するためには、粗大粒子表面に凝集している微細粒子を分離する必要がある。そのため、本発明では、石炭灰に界面活性剤と水性媒体を加えて攪拌・混合してスラリーとする。界面活性剤を添加した水中で攪拌・混合する過程で、粗大粒子表面に強力に凝集していた微細粒子が分離し、界面活性剤水溶液中に均一に分散したスラリーとなる。
【0016】
スラリー化工程において、石炭灰に対して、最終添加量の2/3程度の水性媒体を加えて攪拌混合する予備混合工程を実施しても良い。界面活性剤は、2/3の水性媒体に添加しても良いし、後に添加する1/3の水性媒体に添加しても良い。必要最終添加量の2/3に相当する予備混合水と石炭灰を混合し、予備攪拌することで、強いせん断力を生じさせることができ、この時に微粒分を引き剥がすことができる。
【0017】
スライー化工程で生成されたスラリーは、水しや篩い分けなどによる分級分離工程で、5μm以上の粒子とそれ以下の粒子が分級分離される。均一に微細粒子、粗大粒子が分散したスラリーとなっているので、分級分離工程で粉塵が発生することがない。分級分離された5μm以下の粒子が分散したスラリーは、遠心分離装置で5μm以下の粒子が分離され、分離された5μm以下の粒子はセメント材料として使用される。固形分が除去された界面活性剤水溶液は再度スラリー化工程で使用される。
【0018】
粗大粒子が多く含有する石炭灰の場合は、分級分離された5μm以上の粒子を第2分級分離工程で、50μm以上と5〜50μmとに分級分離される。粗大粒子は地盤材料として使いやすいので、50μm以上と5〜50μmの粒子を別々に洗浄工程で洗浄し、粒度の異なる地盤材料としても良い。
【0019】
分級分離された5μm以上の粒子は、洗浄工程により洗浄される。洗浄工程は、5μm以上の粒子の表面に残った微細粒子や微量成分を洗浄分離すると共に、比重の軽い浮遊成分や未燃カーボンを洗浄水表面に浮かせて分離する機能を有する。洗浄水の量は、スラリー化工程で添加した水性媒体の30〜50%である。洗浄後の5μm以上の粒子は地盤材料として利用する。
【0020】
洗浄後の洗浄水には、5μm以上の粒子の表面から洗浄分離された5μm以下の粒子と微量成分が存在する。洗浄後の洗浄水を遠心分離装置に投入し、5μm以下の固形粒子を分離し、分離された5μm以下の固形粒子はセメント材料として利用する。固形分が分離された洗浄後の洗浄水には微量成分が残存しているが、界面活性剤を添加し、スラリー化工程で再利用する。洗浄後の洗浄水中の微量成分は、スラリー化工程の後の洗浄工程で簡単に洗浄分離できるので問題にならない。洗浄水を再利用することで使用水量を減らすことができ、後処理の処理量を減らすことができる。
【0021】
以下の表1に種類の異なるA、B、C、D4種の石炭灰に対して、本発明の石炭灰の地盤材料化方法を実施した結果を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示されるように、本発明の石炭灰の地盤材料化方法によって、大幅に溶出成分が石炭灰から分離している状況がわかる。ただし、D種のヒ素に関しては、特異的に溶出濃度が高いため二次処理を行う必要がある。なお、ホウ素とフッ素に関しては、A種とC種でマスバランスが合っていない。これは、高固形分濃度下での分級分離処理過程で、自成分間の化学反応が生じたためである。すなわち、石炭灰に含まれているカルシウムは高pH下でホウ素、フッ素と反応し、それぞれホウ酸カルシウムとフッ化カルシウムを生成して沈殿したため溶出が抑えられた結果である。添加水量が多くなると沈殿量が少なくなり、ホウ素等の溶出量を下げることができない。
【0024】
以上のように、本発明の石炭灰の地盤材料化方法によって、極めて高い分離効率が達成できるとともに、副次的にホウ素、フッ素の溶出を抑制でき、分離された5μm以上の粒子は地盤材料として十分利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰に界面活性剤と水性媒体を加えて攪拌混合してスラリーとするスラリー化工程と、前記スラリーを分級・分離手段により5μm以上の粒子を分級・分離する分級・分離工程と、分級・分離した5μm以上の粒子を清浄な水で洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする石炭灰の地盤材料化方法。
【請求項2】
前記スラリー化工程は、石炭灰に対して0.2〜3重量%の界面活性剤を添加し、石炭灰に対して100〜150重量%の水を加えることを特徴とする請求項1に記載の石炭灰の地盤材料化方法。
【請求項3】
前記スラリー化工程において、最初に最終添加量の2/3の水性媒体を加えて攪拌混合する予備混合工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭灰の地盤材料化方法。
【請求項4】
分級・分離された5μm以上の粒子をさらに50μm以上の粒子を分級・分離する第2分級・分離工程を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の石炭灰の地盤材料化方法。
【請求項5】
洗浄工程の残余の水から水面に浮遊する浮遊粒子、未燃カーボンを分離し、その後残余の水から遠心分離により5μm以下の粒子を分離してセメント原料とし、固形分が分離された水は界面活性剤を添加して前記スラリー化工程の界面活性材水溶液として使用することを特徴とする石炭灰の地盤材料化方法。

【公開番号】特開2008−291497(P2008−291497A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137616(P2007−137616)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】