説明

研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法及び研削・研磨用炭化珪素粉末並びに研削・研磨用スラリー

【課題】炭化珪素粉末の表面に付着した珪素酸化物、或いは炭化珪素粉末に混入した未反応の珪素及び炭素などを簡単に除去して高純度化する研磨用炭化珪素粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法は、珪素と炭素との直接反応で得た原料炭化珪素粉末を弗酸水溶液2に浸漬して、該炭化珪素粉末の表面に付着した珪素酸化物を溶解除去して溌水性表面にする第1工程と、前記第1工程の後に、前記炭化珪素粉末の粒度と形状を揃える分級工程からなる第2工程を備えていることを特徴とする。前記第1工程の前処理工程として、原料炭化水素粉末を加温した水中で処理することによって炭素粉末を除去する工程を付加してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法及びこの製法によって製造された研削・研磨用炭化珪素粉末並びにこの研削・研磨用炭化珪素粉末を混入した研削・研磨用スラリーに関するものである。詳しくは、バンドソー或いはワイヤーソーなどの切断装置を用いて半導体シリコンインゴットを分断し、或いは所定大きさに分断されたシリコンブロックを薄板にスライスするとき、或いはシリコンブロックの表面を研磨砥石やダイヤモンドホィールなどで研磨するときなどに使用するのに好適な研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法及び研削・研磨用炭化珪素粉末並びに研削・研磨用スラリーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン半導体材料は、半導体集積回路(IC)或いは太陽電池などの基板材料として多く使用されている。特に、太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池の基板材料は薄膜型の有機物からなるものがあり、特にシリコン半導体基板からなるものが多く使用されている。
【0003】
シリコン半導体基板を用いた太陽電池は、多結晶或いは単結晶シリコン半導体材料を加工したシリコンウェハー(以下、半導体ウェハー又はウェハーともいう)を用いて製造されている。このウェハーは、所定大きさのシリコンインゴットを所定大きさのシリコンブロックに分断し、その後、このシリコンブロックを所定の厚さの薄板にスライスすることによって製造されている。
【0004】
以下、図3を参照して、一般的な多結晶シリコン半導体材料からウェハーを製造する工程を説明する。なお、図3は公知の多結晶シリコンウェハーの製造工程図である。まず、シリコンインゴット製造メーカにおいて、所定大きさのシリコンインゴットが製造される。このシリコンインゴットは、加工メーカ、すなわちスライス専門メーカへ受け入れられる(S1)。このスライス専門メーカでは、このシリコンインゴットをダイヤモンドバンドソーなどの大型バンドソーを用いて所定の大きさの、例えば複数本の角柱状のシリコンブロックに分断される(S2)。これらのシリコンブロックは、次いで同様の小型バンドソーを用いて端部が切り落とされて所定形状のシリコンブロックに成形される(S3)。これらのシリコンブロックは、ダイヤモンドホィールなどを用いてシリコンブロックの陵部の面取りが行なわれるとともに研磨砥石などを用いて側面が研磨なされる(S4、S5)。その後、所定個のシリコンブロックが所定大きさのワーク(台座)へガラス板などを介在させて接着剤で接着固定される(S6)。ワークに固定されたシリコンブロックは、マルチワイヤーソーを用いて所定肉厚の薄板にスライスされる。このマルチワイヤーソーを用いたスライシングは所定のスラリーを使用して行なわれる。このスラリー及び工程S6で使用された接着剤を除去するために、スライスされたウェハーは所定の洗浄液に浸漬されてスラリーの除去及び接着剤の剥離が行なわれる(S8)。その後、洗浄されたウェハーは、所定の検査工程(S9)を経た後に、製品として太陽電池の製造メーカなどへ出荷される(S10)。
【0005】
単結晶シリコンウェハーの場合は、シリコンインゴット及びシリコンブロックが若干異なるのみで、その他の加工工程は略同じになっている。すなわち、この単結晶シリコンインゴットは、CZ法(引き上げ法)などの製造法により略円筒型のシリコンインゴットが製造されて、この形状のシリコンインゴットから、バンドソーなどを用いて、円断面の壁面が切断されて平坦部が作られて角型の単結晶のシリコンブロックに加工される。その後は、上記シリコンブロックと同様にスライスされてウェハーが作成される。
【0006】
多結晶及び単結晶シリコンウェハーは、それぞれ上記の加工工程を経て製造されるが、これら加工工程のうち、シリコンインゴットの分断(S2)、シリコンブロックの切断(S3)、面取り・表面研磨(S4、S5)及びスライシングなどの工程は、いずれも所定の研削・研磨用スラリーを使用した分断、研磨及び切断作業となっている。この研削・研磨用スラリーには、所定の切削液ないし研磨液に所定の研磨材(砥粒)を所定の割合で混合したものが使用されている。一般的な研削・研磨用スラリーは、切削液ないし研磨液として水、鉱油などの液体が使用され、また、研削材ないし研磨材(砥粒)としてアランダム(A)、ホワイトアランダム(WA)、グリーンカーボランダム(GC)、カーボランダム(C)などが使用されている。
【0007】
また、炭化珪素粉末を高純度化する技術は知られている(例えば、下記特許文献1参照)。この特許文献に記載されて炭化珪素粉末は、粉砕した合成炭化珪素粉末を酸洗いする工程の前又は後に、炭化珪素粉末をアルカリ水溶液で洗浄することによって、不純物を除去して高純度化するものであり、酸洗い用の酸として、塩酸、弗酸、硝酸、硫酸、酢酸、燐酸などが使用され、アルカリ洗浄に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなどが使用されている。合成炭化珪素粉末は、この粉末に含まれる不純物のうち、Fe、Alはその一部が酸洗いによって除去され、この酸洗いで残留しているSiO及びSiはアルカリ洗浄によって溶解除去されている。この精製された炭化珪素粉末は、セラミック成形品の内装用導電塗料の原料として使用されるものである。
【0008】
【特許文献1】特許第3315172号公報(段落〔0008〕〜〔0014〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
研磨精度は、使用されるスラリーの特性、特に研磨材(砥粒)の特性によって左右される。研磨材として、例えば、アランダム(A)、ホワイトアランダム(WA)などを使用すると、これらの研磨材は硬度が高く研削力などの研磨性能が優れているので、高精度の加工が可能になる。しかしながら、これらの研磨材は、精製して高純度化されているために高価格となるので、一般的な工業研磨材として使用されておらず、特殊用途、例えば宝石用研磨材として使用されている。一方、太陽電池用ウェハーは、高級なホワイトアランダム(WA)で研磨するまでの研磨精度が要求されないので、一般的な工業用研磨材としてのグリーンカーボランダム(GC)が低価格(ホワイトアランダムの約3分の1程度)であるために使用されている。
【0010】
ところが、このグリーンカーボランダム(GC)は、不純物を含んでいるので、グリーンカーボランダムによって研磨した場合、研磨表面に研磨ムラが発生してしまい微細加工の妨げとなる。なお、炭化珪素系のグリーンカーボランダム(研磨用炭化珪素粉末)は、珪素と炭素とを熱的もしくは電気アークによって直接反応させた後に、機械的に粉砕して粉末化されているが、この直接反応によって得られた炭化珪素は、その表面に珪素酸化物が存在しているため緑色を呈し、それを粉末化したものも緑色となり、その色調から「グリーンカーボランダム」と呼ばれている。この緑色を呈する化合物は珪素酸化物であり、この珪素酸化物が不純物となっている。
【0011】
このグリーンカーボランダムと称される珪素炭化粉末は、更に珪素酸化物の他に未反応の珪素及び炭素が混入しており、これらの珪素及び炭素も不純物となっている。炭化珪素粉末を構成する炭化珪素、未反応の珪素及び炭素並びに二酸化珪素のモース硬度は、それぞれ炭化珪素は9、未反応珪素は7、炭素は1及び珪素酸化物は7である。このような硬度が異なる不純物を含む炭化珪素粉末を研磨材として使用して被研磨材を研磨する場合、例えば、硬度7の珪素酸化物が付着したままの炭化珪素粉末を用いて硬度7の珪素を研磨すると、研磨の初期は同じ硬度の珪素酸化物と珪素とが互いに研磨し合うため、研磨速度が低下してしまうことになる。また、同様に珪素酸化物が付着したままの炭化珪素粉末を用いてワイヤーソーによってシリコンインゴットをスライシングした場合も、同じ硬度の珪素酸化物と珪素とが互いに研磨し合うので切断時間が長くなってしまう。更に、未反応の珪素及び炭素並びに研磨によって微粉化された珪素酸化物が存在している研磨材を用いて研磨した場合と純炭化珪素粉末を用いて研磨した場合とでは、研磨速度が異なるため、加工表面に厚みムラ或いは光沢ムラが発生する。
【0012】
近年は、半導体デバイスの微細化が進み、半導体表面の均一化(PN接合形成)、ライフタイムを長くするための清浄化が要求されてきており、また、これらを低価格で実現することが求められている。太陽電池用ウェハーにおいても、低価格の研磨材によって高精度な研磨が行えることが要求されてきている。
【0013】
本発明者らは、低価格の研磨用炭化珪素粉末(グリーンカーボランダム)には、未反応の珪素及び炭素が混入していること、また水分や酸素等による副反応として生成され二酸化珪素が炭化珪素粉末に付着していることに着目し、これらの珪素、炭素及び二酸化珪素の硬度は、炭化珪素よりも低いことから、この硬度が低い成分を効率よく除去できれば、低価格のグリーンカーボランダムでも研磨精度を上げることができるはずとして種々実験を繰り返したところ、一般的な酸洗いで使用する酸のうち、所定濃度の弗酸水溶液に浸漬すれば、これらの不純物を効率よく除去できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。なお、上記特許文献1には、炭化珪素粉末を酸洗いする記述あるが、この酸洗いはFe、Alを除去するもので、二酸化珪素や珪素はアルカリ洗浄によって除去するものであり、しかも、Fe、Alの除去工程と二酸化珪素及び珪素の除去工程の2工程を必要としている。更に、上記特許文献1に示されている炭化珪素粉末は、導電塗料の原料として使用されるものであって、研削材ないし研磨材として使用されるものでない。
【0014】
すなわち、本発明の目的は、炭化珪素粉末の表面に付着した珪素酸化物、或いは炭化珪素粉末に混入した未反応の珪素及び炭素などを簡単に除去して高純度化する研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、珪素酸化物、未反応の珪素及び炭素などを除去した高純度の研削・研磨用炭化珪素粉末を提供することにある。
【0016】
本発明のまた他の目的は、表面珪素酸化物、未反応珪素及び炭素などを除去した高純度の研削・研磨用炭化珪素粉末を混入した研削・研磨用スラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法は、以下の(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする。
(1)珪素と炭素との直接反応で得た炭化珪素粉末を弗酸水溶液に浸漬して、該炭化珪素粉末の表面に付着した酸化物を溶解除去して溌水性表面にする工程、
(2)前記(1)の工程後、前記炭化珪素粉末の粒度と形状を揃える分級工程。
【0018】
本発明の炭化珪素粉末の製造方法は、珪素と炭素との直接反応で得た炭化珪素粉末を弗酸水溶液に浸漬して、この炭化珪素粉末の表面に付着した酸化物を溶解除去して溌水性表面にする第1工程と、この第1工程後に、炭化珪素粉末の粒度と形状を揃える分級工程である第2工程とを有している。すなわち、第1工程において、珪素と炭素との直接反応で得た炭化珪素粉末の表面に形成された酸化物は溶解除去されて、その表面が溌水性となる。その後、第2工程において、ろ過もしくは遠心分離などによって分級すると所定の粒度と形状の炭化珪素粉末を得ることができる。なお、珪素と炭素との直接反応で得た炭化珪素粉末中には未反応の炭素が含まれているが、この炭素は第1工程において弗酸水溶液の表面に浮遊するので、簡単に濾別することにより除去することができる。
【0019】
従って、本発明の本発明の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法によれば、炭化珪素粉末の製造工程において、炭化珪素粉末に付着した二酸化珪素を効率よく簡単に除去して炭化珪素粉末を高純度化できる。しかも、この炭化珪素粉末を研削・研磨材(砥粒)として使用することにより、低価格で且つ高性能な研磨が可能になる。
【0020】
また、本発明の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法においては、前記(1)の工程の前に、珪素と炭素との直接反応で得た炭化珪素粉末を水溶液中で所定温度に加熱して前記炭化珪素表面を親水化させると同時に未反応物質の炭素を選別分離する工程を含むことが好ましい。
【0021】
炭化珪素粉末を弗酸水溶液に浸漬する前に、炭化珪素粉末を水溶液中で加熱して炭化珪素表面を親水化させると、未反応物質の炭素が分離されるので、未反応物質の炭素を簡単に除去できる。そのため、係る態様の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法によれば、より高純度化された炭化珪素粉末を得ることができるようになる。
【0022】
また、本発明の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法においては、前記弗酸水溶液として、弗酸濃度が5〜30質量%のものを用いることが好ましい。
【0023】
係る態様の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法によれば、弗酸濃度を5〜30質量%にすることにより、良好に炭化珪素粉末を高純度化することができるようになる。なお、弗酸濃度が5質量%未満では二酸化珪素の溶解に時間が掛かり過ぎる欠点があり、また30質量%を超えると、作業の開始前後に弗酸水溶液の雫が飛散した場合等、作業の安全性や装置の腐蝕問題を招く恐れがあるので好ましくない。なお、濃弗酸として市場から入荷可能な最高濃度は約47質量%程度である。
【0024】
また、係る態様の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法においては、前記弗酸水溶液として、弗化アンモニウムを含むものを用いることが好ましい。
【0025】
係る態様の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法によれば、弗化アンモニウムは緩衝剤として作用するため、弗酸水溶液のpH変動を抑えることができ、延いては得られる炭化珪素粉末の品質が安定化する。
【0026】
更に、本発明の研削・研磨用炭化珪素粉末は、前記本発明の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法によって製造されたものであることを特徴とする。
【0027】
係る態様の研削・研磨用炭化珪素粉末によれば、低価格で且つ高性能な研磨材を提供できる。
【0028】
更に、本発明の研削・研磨用スラリーは、前記本発明の研削・研磨用炭化珪素粉末と研削液又は研磨液との混合物からなることを特徴とする。
【0029】
係る態様の研削・研磨用スラリーによれば、半導体材料を表面加工ないし切削加工すると、うねりや凹凸の少ない高精度に加工された表面が得られると共に、加工速度を高めることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の最良の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法及び研削・研磨用炭化珪素粉末並びに研削・研磨用スラリーを例示するものであって、本発明をこれらに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
【0031】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0032】
[実施例1]
図1を参照して、実施例1における研削・研磨用炭化珪素粉末の製造工程を説明する。なお、図1は実施例1で使用した処理槽の内部の状態を示す断面図である。この図1は炭化珪素表面上の珪素酸化物皮膜を弗酸溶液に浸漬して溶解除去している状態を示している。
【0033】
処理槽3は、上方が開口し有底で比較的底深の筒状の合成樹脂製容器からなり、この容器内に例えば5質量%の弗酸水溶液2を所定量貯留し、この水溶液に粒度#1200相当の市販のホワイトカーボランダムと称される炭化珪素原料粉末を浸漬した。この炭化珪素原料粉末の表面には、部分的に粒径1〜2μmの珪素酸化物が存在している。攪拌装置4を用いて30分攪拌させて炭化珪素原料粉末の表面に付着している珪素酸化物を溶解除去した。そうすると、殆どの炭化珪素粉末1は弗酸水溶液2の下部に沈殿するが、一部の微粉状炭化珪素及び炭化珪素原料粉末中に含まれていた炭素は液表面に浮遊物5となって浮遊する。この浮遊物5をデカンテーションすることによって微粉状炭化珪素及び未反応の炭素を除去する。その後、沈殿した炭化珪素粉末1を濾別後、水洗及び乾燥して実施例1の研削・研磨用炭化珪素粉末を得た。得られた実施例1の研削・研磨用炭化珪素粉末の表面は、撥水性であり、水をはじく状態となっていた。
【0034】
この炭化珪素粉末1を常用されている研磨液中に分散させて実施例1の研磨用スラリーを調製すると共に、上述の市販のホワイトカーボランダムと称される炭化珪素原料粉末をそのまま常用されている研磨液中に分散させて比較例1の研磨用スラリーを調製した。これらの研磨用スラリーを用いて直径4インチの珪素ウェハーを機械研磨した。実施例1の研磨用スラリーを用いた場合の研磨後のウェハーのうねりや凹凸は3μm、表面粗さは0.3μmであったが、比較例1の研磨用スラリーを用いた場合のうねりや凹凸は5μm、表面粗さは0.8μmであった。以上の実施例1及び比較例1の測定結果から、酸化珪素や炭素が混入している市販のホワイトカーボランダムと称される炭化珪素原料粉末を弗酸水溶液で処理すると、酸化珪素や炭素が効率よく除去されるので、研磨精度が良好となることが分かる。
【0035】
従って、実施例1で得られた研磨用炭化珪素粉末は、不純物が除去されているので、低価格でありながら、高性能の研磨材として使用できる。また、実施例1の炭化珪素粉末の製造方法によれば、炭化珪素粉末の製造工程で炭化珪素粉末に付着した二酸化珪素を効率よく簡単に除去でき、炭化珪素粉末を高純度化できる。この炭化珪素粉末を研磨材(砥粒)に使用することにより、低価格で且つ研磨性能を高めた研磨が可能になる。更に、このようにして得られた炭化珪素粉末をスラリーとして用いてシリコンウェハーを研磨した場合、厚みバラツキの少ないウェハーを短い加工時間によって得ることができる。
【0036】
なお、実施例1では得られた炭化珪素粉末を研磨用として使用した例を示したが、研削用として用いても良好な効果を奏する。また、実施例1では弗酸水溶液として弗酸のみが含まれているものを使用した例を示したが、緩衝剤として弗化アンモニウムを添加すると弗酸水溶液のpH変動を抑制することができるため、延いては得られる炭化珪素粉末の品質が安定化する。また、実施例1では弗酸水溶液として弗酸濃度5質量%のものを用いた例を示したが、弗酸濃度は5〜30質量%の範囲が好ましい。弗酸濃度が5質量%未満では二酸化珪素の溶解に時間が掛かり過ぎる欠点があり、また30質量%を超えると、作業の開始前後に弗酸水溶液の雫が飛散した場合等、作業の安全性や装置の腐蝕問題を招く恐れがあるので好ましくない。更にまた、弗酸水溶液中には、炭化水素原料粉末との接触角を低くするために、表面活性剤を添加してもよい。
【0037】
[実施例2]
次に、図2を参照して、実施例2における研削・研磨用炭化珪素粉末の製造工程を説明する。なお、図2は実施例2で使用した処理槽の内部の状態を示す断面図である。この図2は、実施例1の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造工程の前処理工程として、炭化珪素粉末原料を例えば60℃に加熱した水溶液に浸漬して未反応の炭素を除去している状態を示している。
【0038】
処理槽3は、上方が開口し有底で比較的底深の筒状の合成樹脂製容器からなり、この容器内に例えば60℃に加熱した水6を所定量貯留し、この水中に粒度#1200相当の市販のホワイトカーボランダムと称される炭化珪素原料粉末を浸漬し、攪拌装置4を用いて30分攪拌する。そうすると、炭化珪素原料粉末中に含まれていた炭素粉末は、溌水性のため浮遊物5となって浮遊するが、殆どの炭化珪素粉末1は水6の下部に沈殿する。このとき、沈殿した炭化珪素粉末1の表面は親水性表面となって水6とよくなじむ状態となり、しかも、実施例1の工程を採用するよりも短時間で効果的に炭素を分離することができる。
【0039】
次いで、この浮遊物5をデカンテーションすることによって浮遊物5を除去する。その後、沈殿した炭化珪素粉末1を濾別後、水洗し、更に、実施例1の場合と同様にして弗酸水溶液による処理を行い、実施例2の研削・研磨用炭化珪素粉末を得た。得られた実施例2の研削・研磨用炭化珪素粉末の表面は、撥水性であり、水をはじく状態となっていた。
【0040】
得られた炭化珪素粉末1を常用されている研削液中に分散させて実施例2の研削用スラリーを調製すると共に、上述の市販のホワイトカーボランダムと称される炭化珪素原料粉末をそのまま常用されている研削液中に分散させて比較例2の研削用スラリーを調製した。これらの研削用スラリーを用い、直径130μmのピアノ線をワイヤーソーとして用いて一片約160mmの珪素インゴットを一方向にスライシングした。切断に要した時間は、実施例2の場合は約10時間であり、比較例2の場合は12時間であった。また、加工表面のうねりや凹凸及び表面粗さは、実施例2の場合はそれぞれ±15μm及び±1.3μmであったのに対し、比較例2ではそれぞれ±20μm及び±1.8μmであった。以上の結果から、市販のホワイトカーボランダムと称される炭化珪素原料粉末を所定温度に加熱した水中で処理すると原料である炭化珪素粉末中に含まれていた炭素を除去でき、更に実施例1と同様の弗酸水溶液で処理することによって良好な研削用炭化珪素粉末が得られることが分かる。
【0041】
なお、炭化珪素粉末原料を直接弗酸水溶液に浸漬すると、炭化珪素粉末の表面に付着していた珪素酸化物は弗酸と反応して溶解するが、このときガスが発生するために炭化珪素粉末や炭素粉末或いは弗酸水溶液が飛散することがある。そのため、実施例2の場合のように、加温した水中に浸漬して親水性表面とした後に、弗酸水溶液で処理するようにすると、これらの飛散等を抑制することができるとともに、炭素粉末を効果的に分離することができるようになる。
【0042】
また、実施例2では60℃に加熱した水を用いた例を示したが、水の温度は高いほど処理に要する時間を短縮することができるが、あまり高いと危険性が高まるとともに加熱用のエネルギーを多く必要とするようになるので、50℃〜90℃程度に加熱した水を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は製造装置を構成する処理槽の断面図である。
【図2】図2は製造装置を構成する処理槽の断面図である。
【図3】図3は公知の多結晶シリコンウェハーの製造工程図である。
【符号の説明】
【0044】
1 炭化珪素粉末
2 弗酸水溶液
3 処理槽
4 攪拌装置
5 浮遊物
6 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法。
(1)珪素と炭素との直接反応で得た炭化珪素粉末を弗酸水溶液に浸漬して、該炭化珪素粉末の表面に付着した酸化物を溶解除去して溌水性表面にする工程、
(2)前記(1)の工程後に、前記炭化珪素粉末の粒度と形状を揃える分級工程。
【請求項2】
前記工程(1)の工程の前に、珪素と炭素との直接反応で得た炭化珪素粉末を水溶液中で所定温度に加熱して前記炭化珪素表面を親水化させると同時に未反応物質の炭素を選別分離する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法。
【請求項3】
前記弗酸水溶液として、弗酸濃度が5〜30質量%のものを用いたことを特徴とする請求項1に記載の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法。
【請求項4】
前記弗酸水溶液として、弗化アンモニウムを含むものを用いたことを特徴とする請求項3記載の研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの1つの研削・研磨用炭化珪素粉末の製造方法によって製造された研削・研磨用炭化珪素粉末。
【請求項6】
請求項5の研削・研磨用炭化珪素粉末と研削液又は研磨液との混合物からなることを特徴とする研削・研磨用スラリー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−179726(P2009−179726A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20385(P2008−20385)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000133685)株式会社ティ・ケー・エックス (8)
【Fターム(参考)】