説明

研削方法および研削盤

【課題】砥粒の脱落を防止し研削面粗さを許容限度に保つことで、砥石車の寿命が長い研削を実現する研削方法および研削盤を提供する。
【解決手段】研削中の砥石車7と工作物Wの接触弧の長さを所定の接触弧長さとすることで、砥石車7の砥粒のボンド層からの突出量である砥粒突出し量を所定の値以下とし、砥粒保持力を所定の値以上とする。さらに、切屑の厚さを所定の厚さ以下とし砥粒に加わる研削力を砥粒保持力以下とすることで、砥粒の脱落を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤の研削方法に関するものであり、詳しくは、砥石車の円筒面を用いた研削において、研削条件により砥粒の脱落を防止する研削方法および研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削加工においては研削能率の向上と研削精度の向上の両立が重要である。研削精度としては寸法精度、形状精度、表面粗さ、表面品位(焼け、軟化)の品質を所定の目標値以内とすることが求められる。また、経済性の観点から砥石の寿命についても考慮する必要がある。この研削能率、研削精度、砥石寿命の3つを最適にバランスした研削条件で研削工程を構成することが求められている。
この条件を達成する研削方法として、研削切屑の形状と研削特性の関係に注目し、研削切屑の形状を所定の形状とするべく砥石回転速度、工作物回転速度、砥石切込み速度を制御する従来技術1(例えば、特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51−147091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、研削切屑の切込角と厚さを所望の値となるように研削条件を設定することで、砥石車径が変化しても砥粒に加わる力、研削面粗さを許容限度に保ちながら能率のよい研削を実現している。つまり、砥粒に加わる力を制御することで砥粒の脱落を制御して砥石車の研削作用面の研削作用に有効な砥粒数を所定の値以上とすることで研削面粗さを許容限度に保っている。
しかしながら、砥粒の脱落は砥粒に加わる力のみで決まるのではなく、砥粒の保持力によっても大きく異なり、研削により砥粒の保持力は変動するが、従来技術1では保持力に関しては言及されていない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、砥粒に加わる力と砥粒の保持力の両方を制御して砥粒の脱落を防止しすることで、研削面粗さを許容限度に保ちながら所望の能率で砥石車の寿命が長い研削を実現する研削方法および研削盤を提供する
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、研削時の研削切屑を所定の長さである所定切屑長さとし、前記研削切屑を所定の厚さである所定切屑厚さとすることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記所定切屑長さをLとしたときLを

で算出し、
前記所定切屑厚さをgとしたときgを、

で算出し、
前記砥石車の直径をDとし、前記工作物の直径をdとし、前記砥石車の前記工作物に対する切込みをtとし、前記砥石車の研削に寄与する砥粒の間隔である有効砥粒間隔をaとし、前記砥石車の周速度をVとし、前記工作物の周速度をvとすることである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記所定切屑長さと前記所定切屑厚さを選択して研削した前記工作物の研削粗さが所望の値であることである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、円筒状の工作物を支持して回転駆動させる工作物支持手段と、
砥石車を支持し回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記砥石車で前記工作物を研削するべく、前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを相対移動させる駆動手段と、
所定切屑長さをLとしたときLを

で算出し、所定切屑厚さをgとしたときgを、

で算出し、前記砥石車の直径をDとし、前記工作物の直径をdとし、前記砥石車の前記工作物に対する切込みをtとし、前記砥石車の研削に寄与する砥粒の間隔である有効砥粒間隔をaとし、前記砥石車の周速度をVとし、前記工作物の周速度をvとするべく、前記駆動手段と、前記砥石車支持手段と、前記工作物支持手段とを制御する制御手段と、
を備えたことである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、研削切屑を所定の長さである所定切屑長さとし、研削切屑を所定の厚さである所定切屑厚さとすることで砥粒の保持力より砥粒に加わる研削力を小さい値に制御することができる。このため、砥粒の脱落の少ない研削が可能となり、砥石寿命の長い研削加工が可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、所定切屑長さと所定切屑厚さを、砥石車の直径Dと、工作物の直径dと、砥石車の工作物に対する切込みtと、砥石車の有効砥粒間隔aと、砥石車の周速度Vと、工作物の周速度vにより算出して正確に設定できる。このため、砥粒の保持力より砥粒に加わる研削力をわずかに小さい値に設定でき、砥粒の脱落の少ない最大の研削能率による研削加工が可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、所定切屑長さと所定切屑厚さを選択して研削することで所望の粗さを有した工作物を研削できる、また、その粗さを維持できる総研削除去量が大きいので砥石の寿命が長くなる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、所定切屑長さと、所定切屑厚さを砥石車の直径Dと、工作物の直径dと、砥石車の工作物に対する切込みtと、砥石車の有効砥粒間隔aと、砥石車の周速度Vと、工作物の周速度vにより算出して設定することで所望の表面粗さに研削することができ、またその状態を長く維持できる砥石寿命の長い研削加工が可能となる研削盤を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の研削盤の全体構成を示す概略図である。
【図2】研削時の砥粒突出し量の違いによる有効砥粒数の差を示す概念図である。
【図3】本実施形態の研削による切屑の生成状況を示す概念図である。
【図4】本実施形態の研削による長い切屑の生成状況を示す概念図である。
【図5】本実施形態の研削中の砥石車と工作物の接触状態を示す概念図である。
【図6】本実施形態の研削条件設定の工程を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を円筒研削盤の事例に基づき、図1〜図6を参照しつつ説明する。
図1に示すように、研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能な砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石車7を回転自在に支持し、砥石車7を回転させる砥石回転モータ(図示省略する)を備えている。テーブル4上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押し台6を備えており、工作物Wは主軸5と心押し台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。ツルーイングモータ10により回転駆動されるツルーイングロール9を回転自在に支持したツルーイング装置8が、主軸5に付設されている。
【0016】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで研削加工やツルーイングを実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御手段31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御手段32、ツルーイング装置8を制御するツルーイング制御手段33、砥石車7の回転を制御する砥石車制御手段34、主軸5の回転を制御する主軸制御手段35などを具備している。
【0017】
研削による工作物の表面は砥石車の研削作用面の有効砥粒による研削条痕の包絡面として形成されると考えられる。このため工作物の表面粗さは有効砥粒の分布密度により大きな影響を受け、分布密度が大きいほど表面粗さは小さくなる。研削による工作物の表面粗さを所望の値にするため、砥石車の有効砥粒の分布密度が所望の値となるようにツルーイングやドレッシングが行われる。一方、研削中に砥石車は研削抵抗や研削切屑との接触により消耗する。この消耗は、摩耗、破砕、脱落による砥粒の消耗と、切屑がボンド層に接触して移動することによるボンドの消耗からなっている。特に、砥粒の脱落は実際に研削に寄与する有効砥粒の分布密度の低下を招き、表面粗さが大きくなる。許容の表面粗さを越えたときが砥石寿命となり新たにツルーイングやドレッシングを行う必要がある。表面粗さによる砥石寿命を長くするには研削による砥粒の脱落を防止することが有効である。
【0018】
砥粒の脱落は砥粒に作用する研削力が砥粒保持力より大きくなったときに発生するので、研削力の増大を抑え、砥粒保持力の低下を抑制すれば砥石の寿命が長くなる。適正な研削力の制御に関しては特許文献1に示されるように、研削切屑の厚さを制御することで研削力を制御することが知られている。
本発明は、砥粒保持力の低下を防止する点に着目してなされたものである。
研削作用面の砥粒は下部をボンドにより接触保持されており、砥粒やボンドの種類により保持部における保持力の単位面積当りの強さは異なるが、どのような種類でも、接触部の深さが大きいほど保持力が大きくなる。砥粒の先端からボンド層までの距離を砥粒突出し量とすると、砥粒突出し量が大きいほど砥粒とボンドの接触部の深さは小さくなるため砥粒の保持力が小さくなる。つまり、砥粒突出し量と砥粒保持力は逆相関の関係となる。
【0019】
ここで、工作物を研削中の切屑と砥石車の振る舞いを図3、図4、図5に示す。1つの砥粒が研削中に連続して削り取る工作物の長さを接触弧長さLとする、接触弧長さが小さい場合を図3に示す。切込み初期の砥粒71により切屑51が発生し、砥石車7と工作物Wの回転に連れて切屑の長さは長くなり、接触弧の終端部付近の砥粒72の生成する切屑52が最長となる。このとき、砥粒突出し量が小さいと、切屑51、52がボンド層に接触しながら成長しボンドを削り取ることで砥粒突出し量が大きくなる。砥粒72の生成する切屑52がボンド層に接触する限界の砥粒突出し量に達すると、ボンドの除去は非常に小さくなるため砥粒突出し量はほぼ一定量で推移する。接触弧長さLが大きい場合を図4に示す、この場合は砥粒73の生成する切屑53が最長となり、図3の切屑よりもさらに長い切屑が生成される。それに応じてより大きな砥粒突出し量までボンド除去が進行して後に一定量で推移する。つまり、切屑の長さが長いほど、定常状態の砥粒突出し量が大きくなる。結局、接触弧長さLにより切屑の長さを制御することで砥粒を保持する力である砥粒保持力Phを制御できる。
接触弧長さLと砥粒保持力Phの関係は工作物Wの材質や砥石車7のボンド材質により異なるのであらかじめ研削して工作物の材質と砥石車の組合せ毎にデータ化してL−Ph関係データ表を作成しておく。
一方、図5に示すように研削中に1つの砥粒に作用する研削力である研削抵抗Prの大きさは、斜線で示す1つの砥粒により研削される切屑の形状により決まる。切屑の最大厚さである切屑厚さgが大きいほど研削抵抗Prは大きくなる正相関の関係があり、切屑厚さgを制御することで研削抵抗Prを制御できる。
切屑厚さgと研削抵抗Prの関係は工作物Wの材質により異なるのであらかじめ研削して工作物の材質毎にデータ化してg−Pr関係データ表を作成しておく。
さらに、接触弧長さLと実際に研削を行う砥粒の間隔である有効砥粒間隔aの関係は、砥石車7のボンド材質や砥粒の集中度と砥粒径によって異なるのであらかじめ研削して砥石車毎にL−a関係データ表を作成しておく。ここで、個々の有効砥粒間隔aは砥石車の砥粒の分散状態によりばらつきがあるので平均値を用いる。
【0020】
研削盤1で工作物Wを研削するときの砥石車7と工作物Wの接触部における、接触弧長さLと切屑厚さgの計算式を示す。ここで、砥石車7の直径をD(mm)、工作物Wの直径をd(mm)、工作物Wに対する砥石車7の切込み深さをt(mm)、有効砥粒間隔をa(mm)、工作物Wの周速度をv(mm/s)、砥石車7の周速度をV(mm/s)とする。このときの、接触弧長さL(mm)と切屑厚さg(mm)は以下の数式(1)と数式(2)で表されることが知られている。
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

【0023】
砥石車の単位幅、単位時間当りの研削除去体積である研削能率Z’(mm/mm/s)はZ’=t・vで表される。砥石車7の工作物Wに対する切込速度をF(mm/s)、工作物の回転速度をn(/s)とすると切込み深さtはt=F/nとなり、工作物Wの周速度vはv=π・d・nなので、Z’は以下の数式(3)で表される。
【0024】
【数3】

【0025】
以上のように、研削能率Z’と切屑厚さgと接触弧長さLは所望の値を選択することが可能である。
具体的な研削条件の設定方法を図6のフローチャートに基づき説明する。
工作物Wの直径d、砥石車7の直径D、所望の研削能率Z’ を入力する(STP1)。対象となる工作物の切屑厚さgと研削抵抗Prの関係を示すg−Pr関係データ表と、用いる砥石車の接触弧長さLと砥粒保持力Phの関係を示すL−Ph関係データ表から、Pr<Phとなる切屑厚さgと接触弧長さLの組み合せを選定する(STP2)。用いる砥石車の接触弧長さLと有効砥粒間隔aの関係を示すL−a関係データ表から有効砥粒間隔aを選定する(STP3)。Z’=2・π・d・FからF=Z’/(2・π・d)により砥石車7の切込速度Fを算出する(STP4)。

と、t=F/nからn=F/(L(1/D+1/d))により工作物Wの回転速度nを算出する(STP5)。

と、v=π・d・nと、V=π・D・Nと、t=F/nからN=2・a・d((1/D+1/d)n・F)0.5/(D・g)により砥石車回転速度Nを算出する(STP6)。
以上により、研削条件を決定するための、工作物回転速度n、砥石車回転速度N、砥石車の切込速度Fを決定することができる。
【0026】
上記の工程で決定した研削条件は砥石車の消耗の少ない研削条件となり、粗研削、中仕上げ研削に適用することが好適である。仕上研削については寸法精度、表面粗さなどを勘案し、上記条件の切込速度よりも遅い切込速度と工作物回転速度を用いて研削することが好適である。
【符号の説明】
【0027】
W:工作物 3:砥石台 4:テーブル 5:主軸 6:心押し台 7:砥石車 6:ツルーイング装置 9:ツルーイングロール 10:ツルーイングモータ 30:制御装置 71、72、73:砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削時の研削切屑を所定の長さである所定切屑長さとし、前記研削切屑を所定の厚さである所定切屑厚さとする研削方法。
【請求項2】
前記所定切屑長さをLとしたときLを

で算出し、
前記所定切屑厚さをgとしたときgを、

で算出し、
前記砥石車の直径をDとし、前記工作物の直径をdとし、前記砥石車の前記工作物に対する切込みをtとし、前記砥石車の研削に寄与する砥粒の間隔である有効砥粒間隔をaとし、前記砥石車の周速度をVとし、前記工作物の周速度をvとする、請求項1に記載の研削方法。
【請求項3】
前記所定切屑長さと前記所定切屑厚さを選択して研削した前記工作物の研削粗さが所望の値である請求項1または請求項2に記載の研削方法。
【請求項4】
円筒状の工作物を支持して回転駆動させる工作物支持手段と、
砥石車を支持し回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記砥石車で前記工作物を研削するべく、前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを相対移動させる駆動手段と、
所定切屑長さをLとしたときLを

で算出し、所定切屑厚さをgとしたときgを、

で算出し、前記砥石車の直径をDとし、前記工作物の直径をdとし、前記砥石車の前記工作物に対する切込みをtとし、前記砥石車の研削に寄与する砥粒の間隔である有効砥粒間隔をaとし、前記砥石車の周速度をVとし、前記工作物の周速度をvとするべく、前記駆動手段と、前記砥石車支持手段と、前記工作物支持手段とを制御する制御手段と、
を備えた研削盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−66356(P2012−66356A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214018(P2010−214018)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】