説明

研削焼け検出装置

【課題】 検査対象物全体にわたる研削焼けの検出を行うことができ、且つ、検査対象物の局所的な研削焼けの検出に必要な時間を短縮することができる研削焼け検出装置を提供する。
【解決手段】 この研削焼け検出装置は。第1のコイル3と、第1の電源12と、磁界センサ5と、第2の電源13と、信号処理手段14とを有する。信号処理手段14は、磁界センサ5により検出した信号からバルクハウゼンノイズを求め、このバルクハウゼンノイズから、検査対象物全体にわたる研削焼けの有無を判断し、且つ、第2のコイル6により磁化された検査対象物Wが発する渦電流に基づく検出出力から、検査対象物Wの局所的な研削焼けの有無を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械のスピンドル等を支持する軸受、軸受部品等に使用される研削焼け検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受等の転動部品の製造工程では、熱処理部品に対して高い寸法精度、表面粗さが要求されるため、熱処理部品に仕上げ研削が施される。その際、研削条件が悪いと、研削面に研削焼けが発生して表面が軟化または硬化する。この研削焼け箇所はクラック発生の原因になるため、研削条件を調整するときに研削焼けの有無を検査する。この研削焼けの検査には、ナイタルエッチング等のマクロ試験が行われている。この試験では、部品表面を腐食させるため試験に使用された部品は廃棄されており、原材料の損失費用いわゆるマテリアルロスコストが大きくなる問題点がある。
【0003】
上記問題を解決するため、研削焼けの非破壊検査方法が提案されている。その非破壊検査方法として、バルクハウゼンノイズを利用した方法(特許文献1)と、渦電流を利用した方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−085195号公報
【特許文献2】特開2010−230484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルクハウゼンノイズおよび渦電流を利用した方法では、センサヘッドを測定試料に沿って摺動させながら測定する必要がある。バルクハウゼンノイズを利用した方法では、測定試料を励磁する周波数が数百Hz程度と低く、センサヘッドの摺動速度を高くすることができないため、測定に時間がかかる問題がある。
また、渦電流を利用した方法では、研削焼け箇所の透磁率変化をコイルのインダクタンスとして検出する。しかしコイル単体では変化が小さいため、コイルを2個試料に対向させ、研削焼け箇所と正常箇所の差をとってその差を増幅する必要がある。そのため、試料全体にわたる研削焼けの検出が困難である問題点がある。
【0006】
この発明の目的は、検査対象物全体にわたる研削焼けの検出を行うことができ、且つ、検査対象物の局所的な研削焼けの検出に必要な時間を短縮することができる研削焼け検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の研削焼け検出装置は、検査対象物を磁化する第1のコイルと、この第1のコイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する第1の電源と、前記第1のコイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを含む信号を検出する磁界センサと、前記第1のコイルよりも高周波の磁界を前記検査対象物に印加する第2のコイルと、この第2のコイルに磁化のための磁界を発生させる電流を供給する第2の電源と、前記磁界センサにより検出した信号からバルクハウゼンノイズを求め、このバルクハウゼンノイズから、検査対象物全体にわたる研削焼けの有無を判断し、且つ、第2のコイルにより磁化された前記検査対象物が発する渦電流に基づく検出出力から、検査対象物の局所的な研削焼けの有無を判断する信号処理手段とを有することを特徴とする。
【0008】
この構成によると、第1の電源から供給される交流電流により第1のコイルに交流磁界を発生させ、この第1のコイルにより検査対象物を磁化する。前記交流電流は例えば1kHz以下の低周波電流である。その際に磁化された検査対象物が発する信号を、磁界センサで検出する。信号処理手段は、磁界センサにより検出した信号からバルクハウゼンノイズを求める。検査対象物である焼入れ部品の研削焼け箇所では、焼戻しにより硬度が低下してバルクハウゼンノイズが大きくなるため、バルクハウゼンノイズから研削焼け箇所を検出することが可能である。
【0009】
バルクハウゼンノイズを検出するために検査対象物を磁化する磁界の周波数は、あまり高くすることができず、一般に1kHz以下の周波数の磁界が使用される。バルクハウゼンノイズは、検査対象物を磁化するサイクル毎に検出されるので、励磁周波数に合わせて、第1のコイルと磁界センサとを有するいわゆるヘッドの移動速度を決める必要がある。そのため、検査対象物に対しヘッドを高速で移動させながら研削焼けを検出することができず、検査対象物全面の研削焼けを検出するのに時間がかかる。
【0010】
そこで、第2の電源から供給される電流により第2のコイルに、第1のコイルよりも高周波の磁界を発生させる。これにより検査対象物に渦電流が発生する。信号処理手段は、この渦電流に基づく検出出力から検査対象物の局所的な研削焼けの有無を判断する。この場合、検査対象物に印加する磁界の周波数を、一般的な周波数よりも高くすることができるので、検査対象物に対するヘッドの相対的な移動速度を高めることができ、検査対象物全面の研削焼けを検出する時間を短縮することができる。第2のコイルが検査対象物に対向させた複数のコイルからなる場合、これらコイルが研削焼け箇所にかかっているときは、複数のコイルが対向している面の磁気特性が同じであるため、複数のコイルにかかる電圧は同一となり、研削焼けを検出することができない。そのため、検査対象物に対しヘッドを相対的に高速で移動させながら前記第2のコイルを用いて局所的な研削焼けを検出し、第1のコイルを用いてバルクハウゼンノイズで検査対象物全体にわたる研削焼けを検出する。これにより、検査対象物全面の研削焼けを検出する時間を短縮することができる。
【0011】
前記第2のコイルは、検査対象物に対向させた複数のコイルを直列に接続したものであっても良い。
第2のコイルが複数のコイルを直列に接続したものである場合に、前記信号処理手段は、前記複数のコイルを接続した接続点の電圧の変化を検出するブリッジ回路と、このブリッジ回路で検出された検出値から第2のコイルのインピーダンスの変化を検出する位相検波回路とを有するものであっても良い。
【0012】
前記複数のコイルの対向面の磁気特性が同じである場合、複数のコイルの接続点の電圧は、直列コイルに印加した電圧Vの半分であるV/2である。複数のコイルのうちいずれかのコイルが研削焼け箇所にさしかかると、研削焼け箇所の磁気特性が正常箇所と異なるため、複数のコイルにかかる電圧のバランスが変化し、前記接続点の電圧もV/2から変化する。その電圧の変化をブリッジ回路で検出し、位相検波回路はその検出値から第2のコイルのインピーダンスの変化を検出する。信号処理手段は、検出した値が閾値を超えたとき研削焼けと判断する。
【0013】
前記信号処理手段は、磁界センサにより検出した信号を増幅する増幅器と、この増幅器で増幅した信号からバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ抽出フィルタとを有するものであっても良い。磁界センサで検出した信号は増幅器で増幅され、バルクハウゼンノイズ抽出フィルタによりバルクハウゼンノイズを抽出する。この抽出されたバルクハウゼンノイズからバルクハウゼンノイズ値(以下「BN値」と称す)が計算される。ここでBN値とは、バルクハウゼンノイズ信号の実効値、波高値、積分値等のいずれか一つであり、これらのうち最適なものを検査対象物に応じて選択する。なお、実効値とは、周期波の電圧または電流の瞬間値の2乗の平均値の平方根である。波高値とは、それぞれの電圧および電流の到達する最高の瞬間値をいう。
【0014】
前記磁界センサはコイルを有するものであっても良い。前記コイルによりバルクハウゼンノイズを含む信号を検出し得る。
前記磁界センサがコイルを有する場合に、前記磁界センサは複数のコイルを直列に接続したものであり、これらのコイルが前記第2のコイルを兼ねるものであっても良い。この場合、コイルの数を低減することができ、研削焼け検出装置の小型化を図ることができる。コイルの数を低減できる分、製造コストの低減も図れる。
【0015】
前記磁界センサがコイルを有する場合に、前記磁界センサのコイルと、第2のコイルとを同軸に設けたものであっても良い。この場合、これらコイルと磁界センサとを有するヘッドの小型化を図ることができ、検査対象物に対する研削焼け検出装置の汎用性を高めることができる。
【0016】
前記信号処理手段は、前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズが閾値を超えるか、または第2のコイルにより磁化された前記検査対象物が発する渦電流に基づく検出出力が閾値を超えたとき、前記検査対象物に研削焼けが有ると判断する研削焼け検出回路を含むものであっても良い。
前記検査対象物が、転動装置または転動装置部品であっても良い。
この明細書において「転動装置」とは、転がり軸受や等速ボールジョイントなど転がり要素を含む部品から成る装置を言う。「転動装置部品」とは、転がり軸受の内外輪,転動体,保持器、等速ボールジョイントのボールねじ軸、ナット等の部品を言う。
【発明の効果】
【0017】
この発明の研削焼け検出装置は、検査対象物を磁化する第1のコイルと、この第1のコイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する第1の電源と、前記第1のコイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを含む信号を検出する磁界センサと、前記第1のコイルよりも高周波の磁界を前記検査対象物に印加する第2のコイルと、この第2のコイルに磁化のための磁界を発生させる電流を供給する第2の電源と、前記磁界センサにより検出した信号からバルクハウゼンノイズを求め、このバルクハウゼンノイズから、検査対象物全体にわたる研削焼けの有無を判断し、且つ、第2のコイルにより磁化された前記検査対象物が発する渦電流に基づく検出出力から、検査対象物の局所的な研削焼けの有無を判断する信号処理手段とを有する。このため、検査対象物全体にわたる研削焼けの検出を行うことができ、且つ、検査対象物の局所的な研削焼けの検出に必要な時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は、この発明の第1の実施形態に係る研削焼け検出装置の概略構成図、(B)は同研削焼け検出装置の要部の回路図である。
【図2】この発明の他の実施形態に係る研削焼け検出装置の概略構成図である。
【図3】この発明のさらに他の実施形態に係る研削焼け検出装置の概略構成図である。
【図4】内輪の転走面の研削焼け箇所を検出する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態を図1と共に説明する。以下の説明は、研削焼け検出方法についての説明をも含む。この実施形態に係る研削焼け検出装置は、研削焼けの非破壊検査を行う装置であって、センサヘッド1と測定器2とを備えている。
【0020】
センサヘッド1について説明する。
図1(A)に示すように、センサヘッド1は、検査対象物Wを磁化する第1のコイル3、およびこの第1のコイル3が巻かれる磁性体コアとなる鉄心4と、磁界センサ5と、検査対象物Wに高周波磁界を印加する第2のコイル6とを有する。前記鉄心4は凹形状に形成される。センサヘッド1は、この例では、第1のコイル3および鉄心4と、磁界センサ5と、第2のコイル6とが所定位置に配置されて、例えば、筒状のハウジング7からなる共通の外装体内にモールド剤等で互いに固定状態に一体化して設けられる。前記外装体は、例えば、樹脂等の非磁性体からなる。
【0021】
磁界センサ5は、磁化された検査対象物Wが発するバルクハウゼンノイズを含む信号を検出する。磁界センサ5は、棒状の磁性体コアとなる鉄心8およびその鉄心8に巻かれたコイル9により構成される。前記各鉄心4,8は、例えば、フェライト等の磁性酸化物や積層ケイ素鋼板等からなる。前記凹形状の鉄心4の両端、および棒状の鉄心8の一端は同一平面上に配置される。第2のコイル6は、第1のコイル3よりも高周波の磁界を検査対象物Wに印加するものであって、検査対象物Wに対向させた複数(この例では2個)のコイル10,11を直列に接続したものである。これら2個のコイル10,11および磁界センサ5のコイル9は、凹形状の鉄心4の両端間に配置され、各コイル9,10,11の軸心が平行となるように配置される。
【0022】
センサヘッド1の検出面は、検査対象物Wの表面に対向させる平坦面とされる。各コイル9,10,11は、検査対象物Wの被検査面付近に配置されている。鉄心4,8は、この例ではセンサヘッド1の外装体内に配置されるが、例えば、センサヘッド1の検出面で外装体から露出して外装体の表面と同一平面であっても良く、また、検出面から引込んだ位置にあっても、あるいは外装体で覆われていても良い。
【0023】
測定器2について説明する。
測定器2は、第1,第2の電源12,13と、信号処理手段14とを有する。第1の電源12は、第1のコイル3に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する。この交流電流は周波数1kHz以下の低周波電流である。第2の電源13は、第2のコイル6に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する。この交流電流は、周波数10kHz以上の高周波電流である。第2のコイル6により磁化された検査対象物Wは、渦電流を発するようになっている。信号処理手段14は、増幅器15と、バルクハウゼンノイズ抽出フィルタ16と、ブリッジ回路17と、位相検波回路18と、研削焼け検出回路19とを有する。増幅器15は、磁界センサ5により検出した信号を増幅するものであり、前記磁界センサ5のコイル9に電気的に接続されている。
【0024】
増幅器15の後段に、バルクハウゼンノイズ抽出フィルタ16を介して研削焼け検出回路19が電気的に接続されている。バルクハウゼンノイズ抽出フィルタ16は、増幅器15で増幅した信号から特定の周波数のバルクハウゼンノイズを抽出する。研削焼け検出回路19は、抽出したバルクハウゼンノイズからバルクハウゼンノイズ値(BN値)を計算する。ここでBN値とは、バルクハウゼンノイズ信号の実効値、波高値、積分値等のいずれか一つであり、これらのうち最適なものを検査対象物Wに応じて選択する。なお、実効値とは、周期波の電圧または電流の瞬間値の2乗の平均値の平方根である。波高値とは、それぞれの電圧および電流の到達する最高の瞬間値をいう。研削焼け検出回路19は得られたBN値が定められた閾値を超えたとき研削焼け有りと判断する。
【0025】
ブリッジ回路17は、前記2個のコイル10,11を接続した接続点20の電圧の変化を検出する回路であり、2個のコイル10,11に電気的に接続されている。ブリッジ回路17として交流ブリッジ回路が適用される。ブリッジ回路17は、測定器2の信号処理手段14内における構成部品と、前記2個のコイル10,11とで構成される。交流ブリッジ回路は、例えば、図1(B)に示すように、前記第2の電源13と、抵抗器21,22と、コイル10,11と、差動増幅器23とを有する。抵抗器21,22は直列接続され、これら抵抗器21,22とコイル10,11とが並列に接続されている。抵抗器21,22の接続点とコイル10,11の接続点20が差動増幅器23に接続されている。前記2個のコイル10,11の対向面の磁気特性が同じである場合、2個のコイル10,11の接続点20の電圧は、直列コイルに印加した電圧Vの半分であるV/2である。コイル10,11のうちいずれかのコイルが研削焼け箇所にさしかかると、研削焼け箇所の磁気特性が正常箇所と異なるため、コイル10,11にかかる電圧のバランスが変化し、前記接続点20の電圧もV/2から変化する。その電圧の変化をブリッジ回路17で検出する。
なお抵抗器21,22のうちいずれか一方の抵抗器は抵抗値を調整可能な可変抵抗器としても良い。この場合、コイル10,11にかかる電圧のバランスを容易に調整することができる。
【0026】
図1(A)に示すように、ブリッジ回路17の後段に、位相検波回路18を介して研削焼け検出回路19が電気的に接続されている。位相検波回路18は、ブリッジ回路17で検出された検出値から第2のコイル6のインピーダンス変化を検出する。図1(B)の電源13からブリッジに印加されるブリッジ電圧を基準信号にし、ブリッジ回路の出力の基準信号に対する同相成分と直交成分(90°位相差がある成分)を検出する。例えば基準信号に対する同相成分を検出する場合、基準信号と同相となる矩形波を作り、ONを「1」、OFFを「−1」と定義する。次に、この矩形波をブリッジ信号に乗ずる。そうそすると基準と同相成分は全波整流の波形になり、直交成分は積分すると±が相殺される波形になる。したがって、基準信号と同相成分のみを抽出することができる。直交成分の抽出は、基準信号と位相が90°ことなる矩形波をつくり、それをブリッジ回路の出力に乗算することで抽出する。これらの値から、ブリッジ回路の出力の振幅および基準信号に対する位相を計算する。研削焼け検出回路19は、抽出したブリッジの出力の振幅または位相の値が、定められた閾値を超えたとき研削焼け「有り」と判断する。
【0027】
以上説明した研削焼け検出装置によると、第1の電源12から供給される周波数1kHz以下の交流電流により第1のコイル3に交流磁界を発生させ、この第1のコイル3により検査対象物Wを磁化する。磁化された検査対象物Wが発する信号を、磁界センサ5で検出する。信号処理手段14において、磁界センサ5で検出した信号は増幅器15で増幅され、バルクハウゼンノイズ抽出フィルタ16によりバルクハウゼンノイズが抽出される。研削焼け検出回路19は、抽出したバルクハウゼンノイズからBN値を計算し、このBN値が定められた閾値を超えたとき研削焼け有りと判断する。
【0028】
バルクハウゼンノイズを検出するために検査対象物Wを磁化する磁界の周波数は、あまり高くすることができず、前述のように1kHz以下の周波数の磁界が使用される。バルクハウゼンノイズは、検査対象物Wを磁化するサイクル毎に検出されるので、励磁周波数に合わせて、検査対象物Wに対するセンサヘッド1の相対的な移動速度を決める必要がある。そのため、検査対象物Wに対しセンサヘッド1を高速で移動させながら研削焼けを検出することができず、検査対象物全面の研削焼けを検出するのに時間がかかる。
【0029】
そこで、第2の電源13から供給される電流により第2のコイル6に、第1のコイル3よりも高周波の磁界を発生させる。これにより検査対象物Wに渦電流が発生する。この渦電流に基づく検出出力から検査対象物Wの局所的な研削焼けの有無を判断する。この場合、検査対象物Wに印加する磁界の周波数を、一般的な1kH以下の周波数よりも高くすることができるので、検査対象物Wに対するセンサヘッド1の相対的な移動速度を高めることができ、検査対象物全面の研削焼けを検出する時間を短縮することができる。
【0030】
2個のコイル10,11が研削焼け箇所に共にかかっているときは、2個のコイル10,11が対向している面の磁気特性が同じであるため、2個のコイル10,11にかかる電圧が同一となり、研削焼けを検出することができない。そのため、検査対象物Wに対しセンサヘッド1を相対的に高速で移動させながら第2のコイル6を用いて局所的な研削焼けを検出し、第1のコイル3を用いてバルクハウゼンノイズで検査対象物全体にわたる研削焼けを検出する。これにより、検査対象物全面の研削焼けを検出する時間を短縮することができる。
【0031】
次に、この発明の他の実施形態を図2と共に説明する。以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0032】
図2に示すように、バルクハウゼンノイズを検出する磁界センサ5A,5Bのコイル9A,9Bを直列接続し、各コイル9A,9Bと同軸に、高周波磁界を印加するためのコイル10,11を設けても良い。コイル9A,10が巻かれる鉄心8A、コイル9B,11が巻かれる鉄心8Bは、平行に配置されて例えば、フェライト等の磁性酸化物や積層ケイ素鋼板もしくは非磁性のプラスチックやセラミックスからなる。この場合、各コイル9A,9Bと同軸に高周波磁界印加用のコイル10,11を設けることにより、センサヘッド1の小型化を図ることができる。したがって、検査対象物Wに対する研削焼け検出装置の汎用性を高めることができる。
【0033】
図3に示すように、バルクハウゼンノイズを検出する磁界センサ5A,5Bのコイル9A,9Bを直列接続し、これらのコイル9A,9Bと、高周波磁界を印加するためのコイル10,11とを兼用させても良い。この場合、図1,図2の構成よりもコイルの数を低減することができ、研削焼け検出装置の小型化を図ることができる。コイルの数を低減できる分、製造コストの低減も図れる。
【0034】
次に、軸受の研削焼けを検出している例を図4と共に説明する。
回転軸24の小径部24aに軸受の内輪W1が嵌合され、この回転軸24は図示外の駆動源により軸線L1回りに回転可能に構成されている。前記センサヘッド1の外周面は固定部材25により固定されている。ヘッド部進退駆動源26の駆動部先端に、前記固定部材25が固着され、センサヘッド1がこの固定部材25に着脱自在に設けられる。ヘッド部進退駆動源26の駆動により、固定部材25が前記軸線L1に平行に移動駆動可能になっている。ヘッド部進退駆動源26として、例えば、モータとボールねじ機構から成るものや、流体圧シリンダおよび電磁ソレノイド等を適用し得る。
【0035】
回転軸24を回転させつつ固定部材25を移動駆動させることにより、センサヘッド1が内輪W1の転走面表面を幅方向に沿って移動しながら周上全ての箇所の研削焼け箇所を検出し得る。この場合にも、内輪W1の転走面表面に対しセンサヘッド1を相対的に高速で移動させながら第2のコイルを用いて局所的な研削焼けを検出し、第1のコイルを用いてバルクハウゼンノイズで転走面全体にわたる研削焼けを検出する。これにより、内輪全面の研削焼けを検出する時間を短縮することができる。
【0036】
磁界センサのコイル、高周波磁界を印加するためのコイルは、それぞれコイル巻線のみからなる空心コイルであっても良い。
磁界センサを3個以上設けた構成としても良い。
検査対象物が、内輪以外の外輪、転動体、保持器等の軸受構成部品であっても良いし、等速ボールジョイントのボールねじ軸、ナット等の部品であっても良い。転がり軸受、等速ボールジョイント等の転動装置全体を検査対象物としても良い。
【符号の説明】
【0037】
3…第1のコイル
5…磁界センサ
6…第2のコイル
9,10,11…コイル
12…第1の電源
13…第2の電源
14…信号処理手段
15…増幅器
16…バルクハウゼンノイズ抽出フィルタ
17…ブリッジ回路
18…位相検波回路
19…研削焼け検出回路
W…検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を磁化する第1のコイルと、
この第1のコイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する第1の電源と、
前記第1のコイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを含む信号を検出する磁界センサと、
前記第1のコイルよりも高周波の磁界を前記検査対象物に印加する第2のコイルと、
この第2のコイルに磁化のための磁界を発生させる電流を供給する第2の電源と、
前記磁界センサにより検出した信号からバルクハウゼンノイズを求め、このバルクハウゼンノイズから、検査対象物全体にわたる研削焼けの有無を判断し、且つ、第2のコイルにより磁化された前記検査対象物が発する渦電流に基づく検出出力から、検査対象物の局所的な研削焼けの有無を判断する信号処理手段と、
を有することを特徴とする研削焼け検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第2のコイルは、検査対象物に対向させた複数のコイルを直列に接続したものである研削焼け検出装置。
【請求項3】
請求項2において、前記信号処理手段は、前記複数のコイルを接続した接続点の電圧の変化を検出するブリッジ回路と、このブリッジ回路で検出された検出値から第2のコイルのインピーダンスの変化を検出する位相検波回路とを有する研削焼け検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記信号処理手段は、磁界センサにより検出した信号を増幅する増幅器と、この増幅器で増幅した信号からバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ抽出フィルタとを有する研削焼け検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記磁界センサはコイルを有する研削焼け検出装置。
【請求項6】
請求項5において、前記磁界センサは複数のコイルを直列に接続したものであり、これらのコイルが前記第2のコイルを兼ねるものである研削焼け検出装置。
【請求項7】
請求項5において、前記磁界センサのコイルと、第2のコイルとを同軸に設けた研削焼け検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記信号処理手段は、前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズが閾値を超えるか、または第2のコイルにより磁化された前記検査対象物が発する渦電流に基づく検出出力が閾値を超えたとき、前記検査対象物に研削焼けが有ると判断する研削焼け検出回路を含む研削焼け検出装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記検査対象物が、転動装置または転動装置部品である研削焼け検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154660(P2012−154660A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11574(P2011−11574)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】