説明

研磨パッド

【課題】ドレス処理を均一化し表面平坦性を確保することができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド10は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有するウレタンシート2を備えている。ウレタンシート2は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂でシート状に形成されている。ウレタンシート2は、研磨面P側に、緻密な微多孔が形成されたスキン層2aを有している。スキン層2aの研磨面Pと反対側には、厚み方向に沿って丸みを帯びた断面三角状のセル3が形成された発泡層2bを有している。スキン層2aには、湿式成膜時に形成された微多孔より大きく均一な孔径の細孔5が均等に形成されている。細孔5は、湿式成膜後に穿孔処理することで形成されている。細孔5のうち少なくとも一部は、セル3まで通じている。スキン層4表面の摩擦抵抗が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに係り、特に、湿式成膜法により作製され微多孔が形成された表面層とセルが形成された発泡層とを有する樹脂製シートを備えた仕上げ加工用の研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用基板、シリコンウエハ、液晶ガラス等、高精度に平坦性が要求される材料(被研磨物)の研磨加工では、平坦性の向上を図るために一度研磨加工(一次研磨)した後に仕上げ加工(二次研磨)が行われている。一般に、研磨加工に用いられる軟質の研磨パッドでは、湿式成膜法により作製され多数のセルが内部に形成された樹脂製シートを備えている。湿式成膜法では、水混和性の有機溶媒に樹脂を溶解させ得られた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させる。凝固再生に伴い樹脂製シートの一面側にはスキン層(表面層)を構成する微多孔が厚さ数μm程度にわたり緻密に形成され、スキン層より内側には発泡層を構成する多数のセルが連続状に形成される。
【0003】
微多孔が形成されたスキン層の表面は、平坦性に優れているため、研磨加工、とりわけ仕上げ加工で被研磨物の表面(加工面)の平坦性を向上させることが期待できる。その反面、スキン層の表面は平滑性にも富んでいるため、研磨加工時に研磨粒子を含む研磨液(スラリ)を被研磨物の表面およびスキン層の表面間で保持することが難しい、という問題がある。このため、研磨加工中に外部からスラリを供給しても被研磨物の表面およびスキン層の表面間から流出してしまうので、研磨加工の効率が低下し研磨加工ができなくなることもある。また、被研磨物と研磨パッドとの表面間にスタック(くっつく現象)が生じやすい、という問題も発生する。スラリの流出や被研磨物のスタック等の問題を解決するために、通常、研磨加工前には、スキン層表面にドレス処理が施されている。ドレス処理では、基材に砥粒が固定された治具を備えたドレッサが用いられ、砥粒の粗さで表される番手によりドレス処理の度合を変えることができる。ドレス処理によりスキン層表面が軽度にサンディングされ、スラリ保持性の改善やスタックの低減が図られている。
【0004】
ところが、研磨加工前のドレス処理がスムーズにできないと、スキン層表面の平坦性、平滑性のために摩擦抵抗が大きくなり、ドレッサに負荷がかかることがある。このような機械的負荷が大きくなると、不均一なドレスとなってしまい、ドレス処理が不十分となることがある。ドレス処理を十分に行い、スラリ保持性やスタックを改善するために、例えば、スキン層を残しつつ表面をバフ処理(表面サンディング)した研磨パッドの技術が開示されている(特許文献1参照)。また、樹脂製シートを作製後、樹脂溶解用の溶剤でスキン層を部分的に溶解除去した研磨パッドの技術が開示されている(特許文献2参照)。更に、スキン層表面に条痕を形成しスキン層を傷つけた研磨パッドの技術が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−62704号公報
【特許文献2】特開2002−264006号公報
【特許文献3】特開2004−136432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術において、ドレス未処理の場合にはスキン層を残すことで平坦性を確保することができるものの、高番手のドレッサを用いたドレス処理をした場合には表面の摩擦抵抗による機械的負荷が大きくドレス初期の機械的負荷が高くなり、ドレス処理が不十分になると、研磨加工時に被研磨物やキャリア(テンプレート)が損傷することがある。また、特許文献2の技術では、スキン層を3〜75%部分的に溶解して剥ぎ取るため、表面平滑性が低下しスキン層の平坦性を維持することができず、被研磨物のうねりの低減が難しくなる。また、表面の均一な溶解除去ができず、不均一性を高めてしまう。特許文献3の技術では、条痕によりスキン層表面に連続的な溝が形成されるため、特にケミカル性(酸、アルカリ等の性質)を高めた研磨液を使用する場合、研磨加工後に洗浄しても研磨液が残留しやすい、という問題がある。研磨液が残留していると、引き続き行われる研磨加工時に条痕の形状が被研磨物に転写されてしまい平坦性を損なうこととなる。また、当該条痕が細かすぎるため、スタックを低減するには不十分である。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、ドレス処理を均一化し表面平坦性を確保することができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、湿式成膜法により作製され微多孔が形成された表面層と多数のセルが連続状に形成された発泡層とを有する樹脂製シートを備えた仕上げ加工用の研磨パッドにおいて、前記セルのうち少なくとも一部のセルは前記シートの厚みの1/2以上の長さを有しており、前記表面層には前記微多孔より大きく均一な孔径の細孔が均等に形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、樹脂製シートの発泡層に形成されたセルのうち少なくとも一部のセルがシートの厚みの1/2以上の長さを有することで、研磨加工時にクッション性を発揮するため、仕上げ加工に好適に使用することができると共に、微多孔が形成された表面層に細孔が均等に形成されたことで、表面層の表面摩擦抵抗が低減し研磨加工前のドレス処理時に機械的負荷が低減するため、ドレス処理を均一化し表面平坦性を確保することができる。
【0010】
この場合において、細孔のうち少なくとも一部の細孔が発泡層に形成されたセルまで通じていることが好ましい。このとき、細孔が少なくとも表面層を貫通していてもよい。また、細孔の孔径を0.4〜1.2mmの範囲に形成することができる。細孔が表面層の表面に4〜9個/cmの割合で形成されていてもよい。細孔を湿式成膜法により作製された樹脂製シートの表面層に穿孔処理を施すことで形成することができる。また、シートをポリウレタン樹脂製としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、湿式成膜法により作製された樹脂製シートの微多孔が形成された表面層に細孔が均等に形成されたことで、表面層の表面摩擦抵抗が低減し研磨加工前のドレス処理時に機械的負荷が低減するため、ドレス処理を均一化し表面平坦性を確保することができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドを構成するウレタンシートの穿孔処理に用いた穿孔機を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0014】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有する樹脂製シートとしてのウレタンシート2を備えている。
【0015】
ウレタンシート2は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂でシート状に形成されている。ウレタンシート2は、研磨面P側に、湿式成膜時に厚み数μmにわたり緻密な微多孔が形成されたスキン層(表面層)2aを有している。ウレタンシート2は、スキン層2aの研磨面Pと反対側に、発泡層2bを有している。発泡層2bには、厚み方向に沿って丸みを帯びた断面三角状の多数のセル3が略均等に分散した状態で形成されている。セル3は、ウレタンシート2のスキン層2aより内部側に形成されており、研磨面P側の孔径が研磨面Pと反対の面側より小さく形成されている。すなわち、セル3は研磨面P側で縮径されている。セル3のうち少なくとも一部のセルは、ウレタンシート2の厚みの1/2以上の長さに形成されている。セル3の間のポリウレタン樹脂中には、セル3より小さい孔径の図示しない発泡が形成されている。ウレタンシート2のセル3および図示しない発泡は、不図示の連通孔で網目状に連通されている。すなわち、ウレタンシート2は連続状の発泡構造を有している。
【0016】
スキン層2aには、湿式成膜時に形成された微多孔より大きく均一な孔径の細孔5が均等に形成されている。細孔5は、湿式成膜後に尖端を有する針等で穿孔処理することで形成されている。細孔5の孔径は、本例では、0.4〜1.2mmの範囲に設定されている。細孔5の深さ、すなわち、ウレタンシート2の厚み方向における長さは、少なくともスキン層2aを貫通し発泡層2bに達する長さに調整されている。細孔5の孔径、深さは、穿孔処理に用いた針等の外径、長さで調整することができる。細孔5のうち少なくとも一部は、スキン層2aを貫通することで、セル3まで通じている。研磨面Pでは、細孔5が4〜9個/cmの割合で形成されている。
【0017】
また、研磨パッド10は、ウレタンシート2の研磨面Pと反対側の面に、研磨機に研磨パッド10を装着するために、支持材6を介して両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の可撓性フィルムの基材(不図示)を有しており、基材の両面にアクリル系粘着剤等の粘着剤層が形成されている。また、支持材6にはPET等のフィルムが用いられており、両面テープ7と同様の粘着剤でウレタンシート2と貼り合わされている。両面テープ7は、基材の一面側の粘着剤層で支持材6と貼り合わされており、他面側の粘着剤層が剥離紙8で覆われている。
【0018】
(製造)
研磨パッド10は、湿式成膜法により作製され穿孔処理が施されたウレタンシート2に支持材6、両面テープ7を貼り合わせることで製造される。ウレタンシート2は、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄・乾燥させる洗浄・乾燥工程、スキン層2a側に穿孔処理を施す穿孔処理工程を経て作製される。以下、工程順に説明する。
【0019】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、セル3の大きさや数量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、気孔形成を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してウレタン樹脂溶液を得る。
【0020】
塗布工程では、準備工程で調製されたウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材に略均一に塗布する。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙を調整することで、ウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)を調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができるが、本例では、液体の浸透性を有していないPET製フィルムを用いる。
【0021】
凝固再生工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたウレタン樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内し浸漬する。凝固液中では、まず、塗布されたウレタン樹脂溶液の表面側に厚さ数μm程度のスキン層2aが形成される。その後、ウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材にシート状に凝固再生する。DMFがウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層2aより内側(ポリウレタン樹脂中)に発泡層2bを構成するセル3および図示しない発泡が形成され、セル3および図示しない発泡を網目状に連通する不図示の連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層2a側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きなセル3が形成される。
【0022】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂をロール状に巻き取る。
【0023】
穿孔処理工程では、乾燥後の成膜樹脂に、スキン層2a側に穿孔処理が施される。穿孔処理には穿孔機が用いられる。図2に示すように、穿孔機40は、成膜樹脂32のスキン層2aと反対側の面(以下、裏面という。)に圧接し成膜樹脂32を略平坦に支持するために、表面が略平坦に形成された支持ローラ24を備えている。支持ローラ24の表層には、ゴム等の弾性材で弾性層24aが形成されている。この弾性層24aの表面が略平坦に形成されている。支持ローラ24の上流側には、洗浄・乾燥工程でロール状に巻き取られた成膜樹脂32を送り出すための送出ローラ22が配置されている。
【0024】
また、支持ローラ24の送出ローラ22と反対側には、成膜樹脂32を介して支持ローラ24と対向するように、成膜樹脂32のスキン層2a側に穿孔処理を施すための穿孔ローラ26が配置されている。すなわち、穿孔ローラ26は成膜樹脂32を介して支持ローラ24と対向配置されている。穿孔ローラ26の表面には、穿孔針26aが、尖端を穿孔ローラ26の径方向外側に突出させて固定されている。穿孔針26aは、外径が0.4〜1.2mmの範囲、突出長さが0.2〜0.7mmの範囲に設定されている。穿孔針26aの穿孔ローラ26の表面に対する固定密度は、4〜9本/cmの割合に設定されている。支持ローラ24、穿孔ローラ26は、いずれも、成膜樹脂32の幅以上の長さを有しており、図示を省略した駆動モータ等で駆動される駆動ローラ(回転体)である。
【0025】
支持ローラ24の下流側には、穿孔処理された成膜樹脂32、すなわち、ウレタンシート2の搬送方向を変えるために従動ローラが配置されている。従動ローラの下流側には、ウレタンシート2をロール状に巻き取るための巻取ローラ28が配置されている。穿孔機40では、送出ローラ22および巻取ローラ28が、いずれも支持ローラ24に対して穿孔ローラ26と反対側に配置されている。
【0026】
穿孔処理時には、送出ローラ22から引き出された成膜樹脂32が支持ローラ24の方向(図2の矢印A方向)に搬送され、支持ローラ24の表面に成膜樹脂32の裏面を圧接させる。成膜樹脂32が支持ローラ24(弾性層24a)の表面で略平坦に支持された状態で、スキン層2a側に穿孔ローラ26で穿孔処理が施される。このとき、支持ローラ24が成膜樹脂32を下流側に送り出す方向(矢印a方向)に回転し、穿孔ローラ26が圧接ローラ24と反対方向(矢印b方向)に回転することで成膜樹脂32のスキン層2a側に穿孔処理が施されウレタンシート2が形成される。ウレタンシート2は、支持ローラ24から従動ローラを介して巻取ローラ28の方向(矢印B方向)に搬送され、巻取ローラ28に巻き取られる。穿孔処理が施されたウレタンシート2では、湿式成膜時に形成されたスキン層2aに、穿孔針26aの外径、長さに対応する細孔5が形成される。
【0027】
穿孔処理が施されたウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に、支持材6を介して両面テープ7を一面側の粘着剤層で貼り合わせる。そして、円形等の所望の形状に裁断した後、汚れや異物等の付着が無いことを確認する等の検査を行い研磨パッド10を完成させる。
【0028】
得られた研磨パッド10で被研磨物の研磨加工を行うときは、例えば、両面研磨機の対向配置された2つの定盤にそれぞれ研磨パッド10が装着される。研磨パッド10の装着時には、剥離紙8を取り除き露出した両面テープ7の粘着剤層で貼付する。2つの定盤に貼付された研磨パッド10では、いずれも研磨面Pが略平坦となる。湿式成膜法で形成されたスキン層2aの表面(研磨面P)が平滑性を有しているため、被研磨物の研磨加工前に、ドレス処理が施される。ドレス処理には、基材表面に砥粒が固定された治具を備えたドレッサが用いられる。この砥粒の粗さで表される番手によりドレス処理の度合を変えることができる。ドレス処理によりスキン層表面が軽度にサンディングされる。被研磨物は、2枚の研磨パッド10の間に挟まれて両面が同時に研磨加工される。このとき、被研磨物には研磨圧がかけられ、研磨粒子を含む研磨液(スラリ)が供給される。
【0029】
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0030】
本実施形態では、湿式成膜法により得られた成膜樹脂32のスキン層2a側に穿孔処理を施すことでウレタンシート2が作製されている。このため、スキン層2aに湿式成膜時に形成された微多孔より孔径の大きな細孔5が形成されるので、スキン層2a表面の摩擦抵抗を低減することができる。これにより、研磨加工前のドレス処理時にドレッサにかかる機械的負荷が低減するので、ドレッサが停止することなくドレス処理の均一化を図ることができ、研磨面Pの表面平坦性を確保することができる。このような研磨パッド10を仕上げ研磨加工に使用することで、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態では、スキン層2aに形成された細孔5の一部がセル3まで通じている。このため、ドレス時に水を供給する(含ませておく)ことで、セル3に入り込んだ水が細孔5を通じて研磨面Pとドレッサとの間にスムーズに循環供給される。これにより、スキン層2a表面の摩擦抵抗が一層低減するので、ウレタンシート2に均一なドレス処理を効率よく施すことができる。従って、研磨パッド10の立ち上がり時間(研磨加工に使用するまでの時間)が短縮されるので、研磨加工の効率を向上させることができる。
【0032】
更に、本実施形態では、湿式成膜法により形成された成膜樹脂32に穿孔処理が施され細孔5が形成される。このため、スキン層2aに細孔5が形成されたウレタンシート2でもスキン層2aの本来の平坦表面が保持されているので、研磨加工時に被研磨物のうねりを改善することが期待できる。また、発泡層2bに形成されたセル3のうち、少なくとも一部のセルがウレタンシート2の厚みの1/2以上の長さを有している。セル3が研磨面P側で縮径されることから、研磨面Pと反対の面側で孔径が大きくなる。従って、ウレタンシート2では、発泡層2bの研磨面Pと反対側に比較的大きな空間が形成されていることとなる。これにより、研磨加工時にクッション性が発揮されるため、仕上げ加工で高精度な平坦性を期待することができる。
【0033】
また、湿式成膜法により形成されたスキン層では、緻密な微多孔が形成されるため、本来被研磨物との密着性が優れている。このため、研磨加工時に研磨パッドのスキン層と被研磨物とが密着しすぎると、スラリの循環供給性が損なわれるばかりではなく、回転する研磨機の定盤を停止させるおそれもある。本実施形態では、スキン層2aに細孔5が形成されているため、研磨加工時に被研磨物(加工面)に対する密着性が制限される。このため、高番手のドレッサを用いてもドレス処理を均一化することができる。また、スキン層2aと被研磨物との間にスラリを循環供給することができ、定盤の回転を停止させることなく研磨加工を継続することができる。これにより、研磨加工の効率を確保することができると共に、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。
【0034】
なお、本実施形態では、穿孔針26aを固定した穿孔ローラ26を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、基材の表面に穿孔針26aが尖端を突出させて固定されていればよい。また、穿孔針26aの外径を0.4〜1.2mmの範囲、深さ(突出長さ)を0.2〜0.7mmの範囲に設定する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、細孔5のサイズに合わせて調整すればよい。細孔5の孔径が大きすぎると研磨面Pの平坦性を損なうことがあり、反対に、小さすぎると摩擦抵抗の低減が難しくなる。また、細孔5の深さが小さすぎるとドレス処理時の水や研磨加工時のスラリを循環供給することが難しくなり、ウレタンシート2の厚みより大きすぎると穿孔機等の設備によっては穿孔処理が難しくなることがある。従って、穿孔針26aの外径、長さを上述した範囲に設定することが好ましい。
【0035】
また、本実施形態では、穿孔針26aの穿孔ローラ26の表面に対する固定密度を4〜9本/cmの割合に設定する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。穿孔針26aの固定密度は細孔5の形成割合に合わせて調整すればよい。細孔5の形成割合が大きくなると研磨面Pの表面平坦性を低下させることとなり、反対に、小さくなると摩擦抵抗の低減が難しくなる。このため、細孔5の形成割合、換言すれば、穿孔針26aの固定密度を上述した範囲とすることが好ましい。
【0036】
更に、本実施形態では、特に言及していないが、成膜樹脂32のスキン層2aの表面側ないしスキン層2aと反対の面側に、ウレタンシート2の厚みが均一となるようにバフ処理やスライス処理を施すようにしてもよい。ウレタンシート2の厚みの均一化を図ることで、被研磨物の平坦性を向上させることが期待できる。例えば、スキン層2aと反対側にバフ処理を施す場合、成膜樹脂32のスキン層2a側を圧接治具の平坦表面に圧接させ、圧接治具と対向配置されたサンドペーパ等のバフシートでバフ処理を施すようにすれば、ウレタンシート2の厚み精度を向上させることができる。
【0037】
また更に、本実施形態では、研磨パッド10がポリウレタン樹脂製のウレタンシート2を備える例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。ポリウレタン樹脂に代えて、例えば、ポリエチレン等の樹脂を用いた研磨パッドにも適用することができる。
【0038】
更にまた、本実施形態では、ウレタンシート2の裏面に支持材6を介して両面テープ7を貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ウレタンシート2と両面テープ7との間に別のフィルムや不織布、織布等を貼り合わせるようにしてもよい。支持材6を有することで、運搬時や研磨機への装着時に研磨パッド10を支持する機能を果たすことができる。もちろん、支持材を介することなくウレタンシ−ト2と両面テープ7とを貼り合わせてもよい。また、本実施形態では、湿式成膜時の成膜基材にPET製フィルムを使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、不織布や織布を使用してもよい。この場合には、ポリウレタン樹脂の凝固再生後に成膜基材を剥離することが難しいため、成膜基材が支持材6の機能を果たすことができる。
【実施例】
【0039】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、ウレタンシート2の作製にポリウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂を溶解させた30重量%溶液の100部に対して、溶媒のDMFの45部、顔料としてカーボンブラックの30重量%を含むDMF分散液の40部を添加し混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。得られた成膜樹脂32に穿孔処理を施すことでウレタンシート2を得た。穿孔処理に用いた穿孔機40の穿孔針26aは、外径を0.5mm、突出長さを0.5mm、固定密度を4本/cmにそれぞれ設定した、得られたウレタンシート2と支持材6、両面テープ7とを貼り合わせることで実施例1の研磨パッド10を製造した。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、穿孔処理をしない以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。すなわち、比較例1は細孔5が形成されていない従来の研磨パッドである。
【0042】
(評価)
実施例および比較例の研磨パッドについて、ウレタンシートの厚みを測定した。厚みの測定では、ダイヤルゲージ(最小目盛り0.01mm)を使用し加重100g/cmをかけて測定した。縦1m×横1mのウレタンシートを縦横10cmピッチで最小目盛りの10分の1(0.001mm)まで読み取り、厚みの平均値を求めた。また、細孔5の孔径および形成割合を測定した。測定では、マイクロスコープ(KEYENCE製、VH−6300)で研磨面Pを50倍に拡大して観察し、研磨面Pの1cmあたりの全細孔数をカウントし形成割合とした。また、細孔5の孔径は、マイクロスコープ(KEYENCE製、VH−6300)で研磨面Pを150倍に拡大して観察することで求めた。厚み、孔径および形成割合の結果を下表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、実施例1、比較例1共に厚みが同程度であった。穿孔処理を施した実施例1のウレタンシート2では、孔径の平均値が426μm、形成割合が4個/cmであった。実施例1および比較例1の研磨パッドについて、両面研磨機に貼着し、325番手のドレッサにて毎分3リットルの水を供給しながらドレス処理を1分間行い、研磨加工を行った。その結果、実施例1の研磨パッド10の場合に比べ、比較例1の研磨パッドでは、うねりの低減(改善)が不十分であり、まだ研磨加工に使用できる状態ではなく、立ち上がっていない状態であった。また、1000番手のドレッサによるドレス処理においては、実施例1の研磨パッド10では研磨加工ができたものの、比較例1の研磨パッドでは研磨機に対する負荷が高くなったためか、研磨機に装備されたサーマルリレーの作動により研磨機が停止した。従って、穿孔処理によりスキン層2aに細孔5を形成することで表面摩擦抵抗が低減し、ドレス処理を効率よく施すことができることが判った。これと同様に、研磨加工時には、スラリの循環供給性を確保して、研磨効率を向上させることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明はドレス処理を均一化し表面平坦性を確保することができる研磨パッドを提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0046】
2 ウレタンシート(樹脂製シート)
2a スキン層(表面層)
2b 発泡層
3 セル
5 細孔
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により作製され微多孔が形成された表面層と多数のセルが連続状に形成された発泡層とを有する樹脂製シートを備えた仕上げ加工用の研磨パッドにおいて、前記セルのうち少なくとも一部のセルは前記シートの厚みの1/2以上の長さを有しており、前記表面層には前記微多孔より大きく均一な孔径の細孔が均等に形成されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記細孔のうち少なくとも一部の細孔は、前記発泡層に形成されたセルまで通じていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記細孔は、少なくとも前記表面層を貫通していることを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記細孔は、孔径が0.4〜1.2mmの範囲に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記細孔は、前記表面層の表面に4〜9個/cmの割合で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記細孔は、前記湿式成膜法により作製された樹脂製シートの表面層に穿孔処理を施すことで形成されたことを特徴とする請求項5に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記シートは、ポリウレタン樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−201547(P2010−201547A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48830(P2009−48830)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】