説明

研磨パッド

【課題】被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド20は、厚みが一様となるようにバフ処理された弾性シート1および弾性シート1のバフ処理面側に略均一な厚みで塗着された表面層11を備えている。表面層11は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有している。弾性シート1は湿式成膜されている。弾性シート1の少なくともスキン層の一部はバフ処理により取り除かれている。弾性シート1の内部には、多数の気孔2が略均等に分散した状態で形成されている。弾性シート1のバフ処理面には、気孔2の少なくとも一部が開孔して開孔3が形成されている。開孔3の全てが表面層11により閉塞されている。表面層11の表面の表面粗さRaが0.5μm以下に設定されている。研磨パッド20全体の厚みが均一化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに係り、特に、湿式成膜された樹脂製の弾性層を備え、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク、液晶ディスプレイ用ガラス基板、カラーフィルタ、インジウム錫酸化物(ITO)成膜済み基板等の材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。通常、これらの被研磨物の研磨加工では、研磨装置に研磨パッドを装着し、研磨粒子を含む研磨液(スラリ)を供給しながら被研磨物の被研磨面(以下、加工面という。)が研磨加工されている。研磨パッドとしては、例えば、湿式成膜された樹脂シートを備えた研磨パッドが挙げられる。
【0003】
一般に、湿式成膜された樹脂シートは、水混和性の有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させることで製造される。凝固再生に伴い、樹脂シートの表面には微多孔が厚み数μm程度に亘り緻密に形成されたスキン層が形成され、スキン層より内側には有機溶媒の水系凝固液との置換(脱溶媒)により多数の発泡が形成される。従来研磨パッドでは、スラリの保持性を向上させるためにスキン層がバフ処理などにより取り除かれ、研磨パッドの表面(研磨面)側で内部に形成された多数の発泡を開孔させる。この研磨パッドでは、開孔した発泡内にスラリを保持することで、研磨面全面に亘って略均等にスラリを供給することができる。
【0004】
ところが、上述した研磨パッドでは、研磨面に研磨粒子より大きな開孔が多数形成されるため、研磨面の表面粗さが大きくなる。このため、研磨面を加工面にスラリを介して略均一に当接させることが難しくなり、加工面にうねり(waviness)等の研磨斑が生じ易くなる。
【0005】
被研磨物のうねりを抑制するために、例えば、樹脂シートのスキン層を残し内部に形成された発泡を開孔させない研磨パッドが開示されている(特許文献1参照)。特許文献1の研磨パッドでは、スキン層が非発泡で研磨面に開孔が形成されておらず、かつ、内部に形成された発泡がクッション性を付与する役目を果たすため、研磨面を加工面のほぼ全面にスラリを介して略均一に当接させることができる。
【0006】
【特許文献1】特許第3697963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、湿式成膜された樹脂シートでは、樹脂溶液が粘性を有するため、成膜基材への塗布時に厚みのバラツキ(厚み斑)が生じやすく、凝固再生時の有機溶媒と水系凝固液との置換でも厚み斑が生じやすい。厚み斑が生じた樹脂シートを用いた研磨パッドでは、研磨加工時に研磨パッドの厚みの大きな部分で被研磨物にかかる圧力が大きくなるため、当該部分の加工面が大きく研磨されて平坦性を損なうこととなる。特許文献1の研磨パッドでは、スキン層を残し発泡が開孔しないようにバフ処理するため、厚み斑を解消することが難しい。一方、厚み斑を解消するようにバフ処理すると、スキン層が除去されてしまい、研磨面に形成される開孔が大きくなるため、被研磨物のうねりを改善することが難しくなる。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、湿式成膜された樹脂製で、厚みが一様となるようにバフもしくはスライス処理により、少なくともスキン層の一部が取り除かれているとともに、内部に形成された多数の発泡のうち少なくとも一部の発泡が一面側で開孔した弾性層と、前記弾性層の一面側に配された樹脂製であって、前記開孔の半数以上を閉塞するように略均一な厚みで前記一面に塗着され、表面の表面粗さRaが0.5μm以下であり、被研磨物を研磨加工するための研磨面を形成する薄膜表面層と、を備えた研磨パッドである。
【0010】
本発明では、弾性層の厚みが一様となるようにバフもしくはスライス処理により、少なくともスキン層の一部が取り除かれており、薄膜表面層が略均一な厚みで弾性層に塗着されているので、研磨パッド全体の厚みを略均一にすることができ、かつ、弾性層の一面に形成された開孔の半数以上が閉塞されることで、薄膜表面層の表面の表面粗さRaが0.5μm以下となることから、研磨面を加工面のほぼ全面にスラリを介して略均一に当接させることができるので、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0011】
この場合において、弾性層の厚み斑をCV値で7.5%以下とすることができる。弾性層の開孔の平均開孔径を5μm〜20μmの範囲としてもよい。薄膜表面層の厚みを10μm〜100μmの範囲とすることが好ましい。薄膜表面層の厚みを弾性層の厚みの4分の1以下とすることができる。薄膜表面層を弾性層と同一組成の樹脂で形成してもよい。薄膜表面層を弾性層の一面に塗布された樹脂溶液を湿式または乾式で脱溶媒し形成することができる。薄膜表面層を湿式で脱溶媒させて形成し、内部に形成された微多孔のうち少なくとも一部を表面で開孔させてもよい。このとき、薄膜表面層の開孔の平均開孔径を5μm以下にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性層の厚みが一様となるようにバフもしくはスライス処理により、少なくともスキン層の一部が取り除かれており、薄膜表面層が略均一な厚みで弾性層に塗着されているので、研磨パッド全体の厚みを略均一にすることができ、かつ、弾性層の一面に形成された開孔の半数以上が閉塞されることで、薄膜表面層の表面の表面粗さRaが0.5μm以下となることから、研磨面を加工面のほぼ全面にスラリを介して略均一に当接させることができるので、被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド20は、厚みが一様となるようにバフ処理されたポリウレタン樹脂製の弾性シート(弾性層)1と、弾性シート1のバフ処理面側(一面側)に配されたポリウレタン樹脂製で被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを形成する薄膜状の表面層(薄膜表面層)11と、を備えている。
【0015】
弾性シート1は、水系凝固液(水を主成分とする凝固液)により(湿式で)脱溶媒され形成(湿式成膜)されている。弾性シート1の表面層11側(図1の上側)は、厚みが一様となるようにバフ処理されており、湿式成膜で形成されたスキン層の少なくとも一部が取り除かれている。本例では、弾性シート1の厚み斑がCV値で7.5%以下になるようにバフ処理されている。弾性シート1の厚みのCV値は、バフ処理後の弾性シート1の厚みの平均値Avおよび標準偏差σから、CV値=(σ/Av)×100で算出される。弾性シート1の内部には、弾性シート1の厚み方向に沿って丸みを帯びた断面略三角状の気孔(発泡)2が略均等に分散した状態で多数形成されている。気孔2は上側の孔径が表面層11と反対側(図1の下側)の孔径より小さく形成されている。すなわち、気孔2は上側で縮径されている。弾性シート1の内部の気孔2同士の間には、気孔2より小さい孔径の図示しない気孔が形成されている。気孔2及び図示しない気孔は、不図示の連通孔で立体網目状に連通されている。
【0016】
図2に示すように、弾性シート1のバフ処理面には、バフ処理により気孔2のうち少なくとも一部の気孔2が開孔して開孔3が形成されている。本例では、開孔3の平均開孔径が5〜20μmの範囲となるようにバフ処理されている。弾性シート1のバフ処理面側には、表面層11が略均一な厚みで薄膜状に塗着されている。このとき、開孔3の全てが表面層11により閉塞されている。表面層11は弾性シート1と同一組成のポリウレタン樹脂製であり、湿式で脱溶媒され形成されている。表面層11の内部には、気孔2より平均孔径が小さな微多孔12が略均等に形成されている。表面層11の表面には、微多孔12のうち少なくとも一部が開孔して開孔13が形成されている。本例では、弾性シート1の厚みが0.4〜3.0mmの範囲に調整されており、表面層11の厚みが10〜100μmの範囲に調整されている。すなわち、表面層11の厚みは弾性シート1の厚みの4分の1以下となる。この表面層11では、表面の表面粗さRaが0.5μm以下、開孔13の平均開孔径が5μm以下となる。
【0017】
図1に示すように、弾性シート1の下側(表面層11と反対側)には、研磨機に研磨パッド20を装着するための両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の可撓性フィルムの基材7aを有しており、基材7aの両面にアクリル系接着剤等の接着剤層が形成されている。両面テープ7は、基材7aの一面側の接着剤層で弾性シート1に貼り合わされており、他面側(弾性シート1と反対側)の接着剤層が剥離紙7bで覆われている。
【0018】
(研磨パッドの製造)
研磨パッド20は、図3に示すように、ポリウレタン樹脂溶液を調製する準備工程、ポリウレタン樹脂溶液を成膜基材上に塗布し湿式で脱溶媒させてポリウレタン樹脂を凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生させたポリウレタン樹脂を洗浄・乾燥する洗浄・乾燥工程、ポリウレタン樹脂をバフ処理して弾性シート1を形成するバフ処理工程、弾性シート1の一面に表面層11を薄膜状に塗着する表面層形成工程および表面層11が塗着された弾性シート1に両面テープ7を貼付する貼り合わせ工程の各工程を経て製造されるが、以下、工程順に説明する。
【0019】
準備工程では、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に溶解させたポリウレタン樹脂溶液を調製する。ポリウレタン樹脂溶液は、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒及び添加剤を混合しポリウレタン樹脂を溶解させ、濾過により凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡することで調製される。有機溶媒には、本例では、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)を用いる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用いる。添加剤としては、カーボンブラック等の顔料、発泡を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。本例では、弾性シート1用と表面層11用とでポリウレタン樹脂の濃度を変える以外は同一組成のポリウレタン樹脂溶液を調製した。すなわち、ポリウレタン樹脂の濃度は、弾性シート1用で30重量%、表面層11用で18重量%とした。
【0020】
凝固再生工程では、弾性シート1用のポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液に浸漬することでポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる。すなわち、湿式でポリウレタン樹脂溶液から有機溶媒を脱溶媒させる。調製した弾性シート1用のポリウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布機により帯状の成膜基材に略均一に塗布する。このとき、塗布機と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)を調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。不織布、織布を用いる場合は、ポリウレタン樹脂溶液の塗布時に成膜基材内部へのポリウレタン樹脂溶液の浸透を抑制するため、予め水またはDMF水溶液(DMFと水との混合液)等に浸漬する前処理(目止め)が行われる。成膜基材としてPET製等の可撓性フィルムを用いる場合は、液体の浸透性を有していないため、前処理が不要となる。本例では、成膜基材にPET製フィルムを用いる。
【0021】
ポリウレタン樹脂溶液が塗布された成膜基材は、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする水系凝固液に浸漬される。水系凝固液中では、まず、塗布されたポリウレタン樹脂溶液の表面にスキン層を構成する微多孔が厚み数μm程度にわたって形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFと水系凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材の片面にシート状に凝固再生される。DMFがポリウレタン樹脂溶液から脱溶媒され、DMFと水系凝固液とが置換されることにより、スキン層より内側のポリウレタン樹脂中に多数の気孔2および図示しない気孔が形成され、気孔2および図示しない気孔を立体網目状に連通する不図示の連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ポリウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな孔径の気孔2が形成される。
【0022】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生した帯状(長尺状)のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を洗浄した後乾燥させる。成膜樹脂が成膜基材から剥離され、水等の洗浄液中で洗浄され成膜樹脂中に残留するDMFが除去される。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥される。乾燥後の成膜樹脂はロール状に巻き取られる。
【0023】
バフ処理工程では、成膜樹脂のスキン層側に厚みが一様となるようにバフ処理を施し、スキン層の少なくとも一部を取り除いて弾性シート1を形成する。湿式成膜時には成膜樹脂の厚みにバラツキ(厚み斑)が生じている。このため、巻き取られた成膜樹脂を引き出し、成膜樹脂のスキン層と反対側の面に、表面が平坦な圧接ローラの表面を圧接することで、スキン層側に凹凸が出現する。この凹凸がバフ処理で除去される。本例では、連続的に製造された成膜樹脂が帯状のため、成膜樹脂のスキン層と反対側の面に圧接ローラを圧接しながら、連続的にバフ処理する。これにより、成膜樹脂の厚み斑が低減してCV値で7.5%以下となり、バフ処理された面側に気孔2および図示しない気孔の一部が開孔した開孔3が形成された弾性シート1が形成される。弾性シート1は、バフ処理に伴う汚れや異物を除去した後にロール状に巻き取られる。本例では、弾性シート1の厚みを0.4〜3.0mmの範囲に調整する。
【0024】
表面層形成工程では、バフ処理工程で形成された弾性シート1のバフ処理された面側(一面側)にポリウレタン樹脂を薄膜状に塗着し表面層11を形成する。すなわち、巻き取られた弾性シート1を引き出し、表面層11用のポリウレタン樹脂溶液を連続的に略均一な厚みで塗布する。このとき、弾性シート1の開孔3の全てを閉塞するように表面層11用のポリウレタン樹脂溶液を塗布する。また、表面層11の厚みが弾性シート1の厚みの4分の1以下となるように、すなわち、表面層11の厚みが10〜100μmの範囲となるように表面層11用のポリウレタン樹脂溶液の塗布量を調整する。ポリウレタン樹脂溶液の塗布には、ナイフコータ等の一般的な塗布機が使用される。表面層11用のポリウレタン樹脂溶液を塗布した弾性シート1を再度水系凝固液に浸漬することでポリウレタン樹脂を凝固再生させる。換言すれば、湿式でポリウレタン樹脂溶液から有機溶媒を脱溶媒させることで、弾性シート1に表面層11を塗着する。凝固再生に伴い、ポリウレタン樹脂の内部には微多孔12が形成され、ポリウレタン樹脂の表面には開孔13が形成される。表面層11および弾性シート1を洗浄した後乾燥させる。表面層11が塗着された弾性シート1は、汚れや異物を除去した後にロール状に巻き取られる。
【0025】
貼り合わせ工程では、表面層11が塗着された弾性シート1の表面層11と反対の面側に、一面側を剥離紙7bで覆われた両面テープ7の他面側を粘着剤層で貼付する。所望のサイズ、形状に裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド20を完成させる。
【0026】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨パッド20の作用等について説明する。
【0027】
本実施形態では、弾性シート1の厚みが一様となるように、少なくともスキン層の一部がバフ処理により取り除かれているため、弾性シート1の厚み斑が低減し、弾性シート1の厚み斑がCV値で7.5%以下となる。弾性シート1の厚み斑がCV値で7.5%より大きい場合には、厚み斑が大きすぎるため、研磨加工時に加工面にうねり等の研磨斑が生じる可能性がある。表面層11は略均一な厚みで薄膜状に塗着されている。このため、研磨パッド20全体の厚みを略均一にすることができる。また、表面層11が開孔3の全てを閉塞するように塗着されているため、表面層11の表面の表面粗さRaを0.5μm以下とすることができる。さらに、弾性シート1の内部に気孔2が略均等に分散した状態で多数形成されているため、弾性シート1が研磨パッド20にクッション性を付与する機能を果たす。従って、研磨面Pを加工面のほぼ全面にスラリを介して略均一に当接させることができるので、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0028】
また、本実施形態では、表面層11が湿式で脱溶媒され形成されている。このため、表面層11には微多孔12が略均等に形成され、研磨面Pでは開孔13が形成され、かつ、開孔13の平均開孔径が5μm以下となる。このような研磨パッド20では、スラリの研磨粒子が開孔13に引っかかり、研磨粒子で加工面を研磨することができ、被研磨物の平坦性を向上させることができる。このため、例えば、ハードディスク用アルミニウム基板等を仕上げ研磨加工する際の研磨パッドとして好適に使用することができる。一方、開孔13の平均開孔径が5μmより大きくなった場合には、研磨面Pの表面粗さRaが大きくなり、研磨加工時に加工面にうねり等の研磨斑が生じる可能性がある。また、本実施形態では、弾性シート1の表面層11側で気孔2が縮径されており、開孔3の平均開孔径が5〜20μmの範囲に調整されている。さらに、表面層11が弾性シート1と同一組成のポリウレタン樹脂で形成されている。このため、表面層11が研磨加工により摩耗しても、弾性シート1の気孔2が縮径している部分では研磨加工を継続することができる。これに対して、開孔3の平均開孔径が20μmより大きい場合には、研磨面Pの表面粗さRaが大きくなり、研磨加工時に加工面にうねり等の研磨斑が生じる可能性がある。一方、開孔3の平均開孔径が5μmより小さい場合には、表面層11が弾性シート1から剥離しやすくなる可能性がある。
【0029】
さらに、本実施形態では、表面層11の厚みが弾性シート1の厚みの4分の1以下に調製されている。また、表面層11の厚みが10〜100μmの範囲に調整されている。表面層11の厚みが弾性シート1の厚みの4分の1より大きく、または、表面層11の厚みが100μmより大きくなるように樹脂溶液を塗布した場合には、ポリウレタン樹脂溶液の塗布量が多くなり、表面層11の厚み斑や表面の凹凸が大きくなる可能性がある。また、表面層11の厚みが10μmより小さくなるように樹脂溶液を塗布した場合には、開孔3の半数以上を閉塞させることが難しくなり、表面の凹凸が大きくなる可能性がある。これに対して、表面層11の厚みを弾性シート1の厚みの4分の1以下、または、表面層11の厚みを10〜100μmmの範囲とすることで、表面層11の厚み斑や表面の凹凸を小さくすることができる。このため、表面層11の表面の表面粗さRaを0.5μm以下にすることができる。また、弾性シート1の気孔形成と比較して、表面層11の内部に形成される気孔の大きさが制限され、表面層11の内部に気孔2より平均孔径が小さな微多孔12を形成することができ、研磨面Pに開孔13を形成することができる。従って、表面層11の平坦性が向上するので、研磨パッド20全体の平坦性が向上し、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0030】
またさらに、本実施形態では、弾性シート1の厚み斑がCV値で7.5%以下に調整されている。また、表面層11は略均一な厚みで塗着されており、表面層11の表面の表面粗さRaが0.5μm以下である。従来研磨装置に研磨パッドを装着して被研磨物の研磨加工を行うには、その前段の作業としてダミーの被研磨物を用いて研磨パッドの表面を平坦化する作業を行う必要がある。この平坦化作業には長い時間が掛かることがあり、研磨効率を低下させる原因の一つになっている。本実施形態の研磨パッド20は表面の表面粗さが小さく、厚みが略均一なため、平坦化作業の時間を低減することができ、研磨効率を向上させることができる。
【0031】
さらにまた、本実施形態では、表面層11の厚みが10〜100μmの範囲で調整できる。仕上げ研磨では、湿式成膜時に形成されたスキン層の厚み分で研磨加工が行われる。これに対して、表面層11がスキン層に相当するため、厚みが数μm〜十数μm程度のスキン層より厚くすることができるので、研磨パッド20では、従来の研磨パッドに比べて、研磨加工時の耐久性を向上させることができる。
【0032】
なお、本実施形態では、弾性シート1の厚みが一様となるようにバフ処理しスキン層の少なくとも一部が取り除かれ、内部に形成された気孔2のうち少なくとも一部の気孔2が開孔した例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。弾性シート1の厚み斑の程度により、弾性シート1の厚みが一様となるようにバフ処理し、スキン層を全て取り除いてもよく、気孔2を全て開孔させてもよい。
【0033】
また、本実施形態では、弾性シート1の厚みを一様にする手段として、バフ処理を行う例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、スライス処理を行うようにしてもよい。また、弾性シート1の厚みが一様となるように弾性シート1のスキン層側だけでなく、反対(裏面)側をバフもしくはスライス処理してもよい。
【0034】
さらに、本実施形態では、表面層11が開孔3の全てを閉塞するように弾性シート1に塗着された例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。表面層11の表面の表面粗さの向上を考慮すると、開孔3の半数以上を閉塞するように表面層11を塗着することが好ましい。
【0035】
またさらに、本実施形態では、弾性シート1の厚みを0.4〜3.0mmの範囲に設定する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。弾性シート1の厚みが大きくなりすぎると、樹脂の凝固再生時に脱溶媒されにくくなる。反対に、弾性シート1の厚みが0.4mmより小さくなりすぎると、樹脂溶液を塗布することが難しくなる。弾性シート1を湿式成膜することを考慮すると、厚みを0.8〜2.0mmの範囲に設定することがより好ましい。
【0036】
またさらに、本実施形態では、表面層11と弾性シート1とが同一組成のポリウレタン樹脂により形成された例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、表面層11を弾性シート1と異なる樹脂で形成してもよい。また、表面層11および弾性シート1をポリウレタン樹脂以外の樹脂で形成してもよいが、湿式成膜で発泡構造を形成することを考慮すれば、いずれもポリウレタン樹脂で形成することが好ましい。
【0037】
さらにまた、本実施形態では、水系凝固液を用いる湿式で脱溶媒し表面層11を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、温風などにより乾式で脱溶媒し表面層を形成することも可能である。
【0038】
また、本実施形態では、弾性シート1用のポリウレタン樹脂溶液には、ポリウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させ、表面層11用のポリウレタン樹脂溶液には、ポリウレタン樹脂が18重量%となるようにDMFに溶解させる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。表面層11用のポリウレタン樹脂溶液の濃度が高く、粘性が高い場合には、表面層11の塗着時に厚み斑が大きくなる可能がある。一方、表面層11用のポリウレタン樹脂溶液の濃度が低く、粘性が低い場合には、弾性シート1の開孔3の半数以上を閉塞するように略均一な厚みで塗着することが難しくなる。従って、表面層11用のポリウレタン樹脂溶液の濃度を10〜30重量%の範囲にすることが好ましい。
【0039】
さらに、本実施形態では、ポリウレタン樹脂の湿式成膜時に有機溶媒としてDMFを用いる例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒を用いることができる。例えば、DMF以外にジメチルアセトアミド(DMAC)等の有機溶媒を用いてもよく、また、DMFに他の有機溶媒を混合して弾性シート1および表面層11を形成するようにしてもよい。
【0040】
またさらに、本実施形態では、表面層11にバフ処理などの平坦化処理を行わない例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。従来研磨機に研磨パッド20を装着した後、研磨面Pに軽度のサンディング処理が施されることを考慮すれば、表面層11をバフ処理しないままでもよいが、例えば、バフ処理により表面層11の表面の平坦性を向上させるようにしてもよい。
【0041】
さらにまた、本実施形態では、弾性シート1に両面テープ7を貼り合わせ、両面テープ7の基材7aが研磨パッド20の基材を兼ねる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、弾性シート1と両面テープ7との間にPETフィルム等の基材を貼り合わせるようにしてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド20の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0043】
(実施例1)
実施例1では、ポリウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂のDMF溶液(30重量%および18重量%)100部に対して、顔料のカーボンブラックを30重量%含むDMF分散液の40部、疎水性活性剤の2部を混合して弾性シート1用および表面層11用のポリウレタン樹脂溶液をそれぞれ調製した。弾性シート1用のポリウレタン樹脂溶液をPET製の成膜基材に塗布した後、凝固再生により形成された成膜樹脂のスキン層側をバフ番手♯180のサンドペーパーを使用してバフ処理してスキン層の一部を取り除くとともに、気孔2の一部を開孔させ、開孔3の平均開孔径が13μmの弾性シート1を形成した。弾性シート1のバフ処理面側に表面層11用のポリウレタン樹脂溶液を弾性シート1の開孔3を全て閉塞するように略均一に塗布し表面層11を形成して研磨パッド20を製造した。弾性シート1の厚みを1.8mm、表面層11の厚みを20μmに設定した。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、バフ処理せず、表面層11を形成しないこと以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。すなわち、弾性シート1用のポリウレタン樹脂溶液をPET製の成膜基材に塗布した後、凝固再生により形成された成膜樹脂をバフ処理しないで弾性シートを形成し、弾性シートのみで研磨パッドを製造した。弾性シートの厚みを1.8mmに設定した。
【0045】
(物性評価)
次に、実施例1、比較例1の研磨パッドについて、平均開孔径、表面粗さRaおよび厚み斑をそれぞれ測定した。平均開孔径は、マイクロスコープ(KEYENCE製、VH−6300)で約1.3mm四方の範囲を175倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(Image Analyzer V20LAB Ver.1.3)により処理し算出した。表面粗さRaは、表面粗さ測定機(ミツトヨ社製、SURFTEST)を使用し、速度0.5mm/s、基準長さ0.8mmとして縦方向及び横方向についてそれぞれ5区間の粗さ曲線を各2回測定した。得られた粗さ曲線から、平均線から測定曲線までの偏差の絶対値の平均を表面粗さRaとして求めた。厚み斑は、厚みの平均値Avおよび標準偏差σからCV値として求めた。厚みは、ダイヤルゲージ(最小目盛り0.01mm)を使用し、縦1m×横1mの研磨パッドに加重100g/cmをかけ、縦横8cmピッチで縦10ケ所と横10ケ所とを最小目盛りの10分の1(0.001mm)まで測定した。実施例1、比較例1の研磨パッドの平均開孔径、表面粗さRaおよび厚み斑の測定結果を下表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、実施例1の研磨パッド20では、平均開孔径が2.8μm、厚み斑がCV値で4.8%を示した。これに対して、比較例1の研磨パッドでは、平均開孔径が2.7μm、厚み斑がCV値で8.6%を示した。実施例1の研磨パッド20は、バフ処理によって弾性シート1の厚み斑を低減した上で、表面層11の厚みを弾性シート1の厚みの4分の1以下の20μm(100μm以下)で形成したため、表面層11の形成による新たな厚み斑が抑えられ、結果、研磨パッド20全体の厚み斑がCV値で7.5%以下の略均一であることが確認された。また、実施例1の研磨パッド20では、表面の表面粗さRaが0.35μmを示した。これに対して、比較例1の研磨パッドでは、表面の表面粗さRaが0.89μmを示した。実施例1の表面では、気孔2が開孔した開孔3が全て閉塞されており、気孔2より平均開孔径が小さな微多孔12が開孔した開孔13が形成され、比較例1より厚み斑も低減しているので、表面粗さRaが小さくなったと考えられる。
【0048】
(研磨性能評価)
次に、実施例1、比較例1の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でハードディスク用のアルミニウム基板の研磨加工を行い、被研磨物の加工面のうねりおよびスクラッチの有無を測定した。うねりは、ディスク基板、シリコンウエハなどに対する表面精度(平坦性)を評価するための測定項目の一つであり、光学式非接触表面粗さ計で観察した単位面積当たりの表面像のうねり量(Wa)を、オングストローム(Å)単位で表したものである。試験評価機として、オプチフラットを用いて評価した。スクラッチの有無については、研磨加工後のアルミニウム基板の表面を顕微鏡観察することでスクラッチの有無を判定した。被研磨物の加工面のうねりおよびスクラッチの有無の測定結果を下表2に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:100g/cm
スラリ:アルミナスラリ
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:ハードディスク用アルミニウム基板
(外径95mmφ、内径25mm、厚み1.27mm)
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すように、実施例1の研磨パッド20では、研磨加工した加工面のうねりが0.30Åを示した。これに対して、比較例1の研磨パッドでは、研磨加工した加工面のうねりが1.11Åを示した。実施例1の研磨パッド20は、比較例1の研磨パッドに比べて、表面粗さRaが小さい。また、実施例1の弾性シートの厚みが略均一であり、表面層11が略均一な厚みで塗着されているので、実施例1の研磨パッド20全体の厚みが略均一であると考えられる。このため、実施例1の研磨パッド20は、比較例1の研磨パッドに比べて、平坦性が向上しており、研磨加工した加工面のうねりが小さくなったと考えられる(表1参照)。また、実施例1の研磨パッド20では、研磨加工した加工面にスクラッチが発生しなかった。一方、比較例1の研磨パッドでは、研磨加工した加工面にスクラッチが発生した。実施例1の研磨パッド20は、比較例1の研磨パッドに比べて平均開孔径が小さいことから、スラリの研磨粒子などが開孔内に入らないため、スクラッチの発生が防止されたと考えられる(表1参照)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】図1のA部を拡大して示す断面図である。
【図3】実施形態の研磨パッドの製造方法の要部を示す工程図である。
【符号の説明】
【0053】
1 弾性シート(弾性層)
2 気孔(発泡)
3 開孔
11 表面層(薄膜表面層)
20 研磨パッド
P 研磨面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜された樹脂製で、厚みが一様となるようにバフもしくはスライス処理により、少なくともスキン層の一部が取り除かれているとともに、内部に形成された多数の発泡のうち少なくとも一部の発泡が一面側で開孔した弾性層と、
前記弾性層の一面側に配された樹脂製であって、前記開孔の半数以上を閉塞するように略均一な厚みで前記一面に塗着され、表面の表面粗さRaが0.5μm以下であり、被研磨物を研磨加工するための研磨面を形成する薄膜表面層と、
を備えたことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記弾性層は、厚み斑がCV値で7.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記弾性層の一面に形成された開孔は、平均開孔径が5μm〜20μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記薄膜表面層の厚みは、10μm〜100μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記薄膜表面層の厚みは、前記弾性層の厚みの4分の1以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記薄膜表面層は、前記弾性層と同一組成の樹脂により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記薄膜表面層は、前記弾性層の一面に塗布された樹脂溶液が湿式または乾式で脱溶媒され形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項8】
前記薄膜表面層は、湿式で脱溶媒され形成されたものであり、内部に形成された微多孔のうち少なくとも一部が前記表面で開孔したことを特徴とする請求項7に記載の研磨パッド。
【請求項9】
前記薄膜表面層の表面に形成された開孔は、平均開孔径が5μm以下であることを特徴とする請求項8に記載の研磨パッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−58189(P2010−58189A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224493(P2008−224493)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【特許番号】特許第4364291号(P4364291)
【特許公報発行日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】