説明

研磨パッド

【課題】研磨液の液性変化を抑制すると共に、ドレス性を向上させ長寿命化を図ることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド1は、ポリウレタン樹脂で形成された発泡体2を有している。発泡体2は、湿式成膜法により内部に発泡3が連続発泡状に形成された発泡構造を有している。発泡体2には、粘りを調整する調整剤のポリプロピレンオキサイドが略均一に含有されている。ポリプロピレンオキサイドの分子量は10,000〜100,000の範囲を有している。ポリプロピレンオキサイドは、研磨液に対して難溶出性であり、発泡体2を形成するポリウレタン樹脂との相溶性を有している。ポリプロピレンオキサイドで発泡体2の粘りが調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに係り、特に、湿式成膜法により形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂製発泡体を備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用アルミニウム基板、半導体デバイス用シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等、高精度に平坦性が要求される材料(被研磨物)では、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスでは、半導体回路の高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、シリコンウエハを一層高度に平坦化する技術が重要となっている。液晶ディスプレイでも、大型化に伴い、ガラス基板のより高度な平坦性が求められている。
【0003】
一般に、研磨パッドには、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の発泡体が使用されている。湿式成膜法では、ポリウレタン樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中に浸漬することで樹脂がシート状に凝固再生される。得られた発泡体では、内部にポリウレタン樹脂の凝固再生に伴う多数の発泡が形成されている。すなわち、被研磨物を研磨加工するための研磨面側に微多孔が形成された表面層(スキン層)を有し、表面層より内側に発泡が連続状に形成されている。このような発泡体では、内部に形成される発泡の大きさのバラツキや発泡形成の偏りが生じると、発泡体の弾性等の物性が安定せず被研磨物の高度な平坦性を得ることが難しくなる。発泡形成を均一化するために、樹脂溶液中に、各種の界面活性剤や成膜助剤が添加されることがある。
【0004】
ところが、ポリウレタン樹脂で形成された発泡体中に、発泡形成を均一化するために添加した界面活性剤等が残存していることで、被研磨物の研磨において泡が発生し、被研磨物の品質低下や製品の歩留まり低下を招くおそれがある。そのため、湿式成膜法では、樹脂溶液中に添加される界面活性剤の量を減らすか、発泡体中に残存した界面活性剤を後工程で減じた保持パッドが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、研磨パッドに残存した界面活性剤が溶出し研磨液と反応することにより、研磨砥粒が被研磨物に付着し、微小な凸状の表面欠陥が発生することがある。これを抑制するために、研磨加工前に、ダミー基板と水等の溶媒を使用して、ダミー基板を研磨と同様に加工することにより、界面活性剤を除去する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
一方、研磨パッドから溶出した界面活性剤が研磨液と反応すると、研磨液の液性が変わることで界面活性剤が研磨速度を下げ、被研磨物の表面粗さを悪化させる原因となることが知られている。そのため、研磨工程中に研磨液に界面活性剤が混入することを防ぐ方法として、実際の研磨工程と同じ状況下でダミーの研磨加工を行い、界面活性剤を十分に流出させることにより、実際の研磨工程において界面活性剤の溶出を低減する方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−94323号公報
【特許文献2】特開2005−59184号公報
【特許文献3】特開2008−87099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜特許文献3の技術では、界面活性剤の研磨パッドからの溶出を抑制することにより被研磨物の平坦性悪化を防ぐことができるものの、研磨パッドから界面活性剤を除去する工程が必要となり、時間がかかるため研磨効率が低下する。また、研磨パッドの粘りを調整することが難しいため、得られる発泡体の粘りにより、研磨性能を損なうことがある。発泡体の粘りが高すぎる場合は、研磨時に発生する摩耗屑が研磨面からはずれにくくなるため、ドレス性が悪化する。また、研磨粒子や摩耗屑が研磨液と凝集物を形成し、発泡体の微細孔が目詰まりを起こすことにより、被研磨物に対するスクラッチの発生が増大することがある。反対に、研磨パッドの粘りが低すぎる場合は、発泡体の摩耗が過度になり研磨パッドの寿命が短くなる上、摩耗屑によるスクラッチの発生が増大する。また、研磨面のドレッシングによる毛羽立ちがすぐに除去されるため、研磨速度が不十分となり効率低下を招く。従って、研磨性能を安定化させるためには発泡体の粘りを調整することが重要となる。
【0009】
本発明は上記事案に鑑み、研磨液の液性変化を抑制すると共に、ドレス性を向上させ長寿命化を図ることができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、湿式成膜法により形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂製発泡体を備えた研磨パッドにおいて、前記発泡体には該発泡体の粘りを調整する調整剤が略均一に含有されており、前記調整剤の分子量は10,000〜100,000の範囲であることを特徴とする。
【0011】
本発明では、調整剤の分子量範囲を制限したことで、調整剤の溶出が低減するため、研磨液の液性変化を抑制することができると共に、樹脂製発泡体に粘りを調整する調整剤が略均一に含有されたことで、ドレス時や研磨加工時の摩耗性が適正化されるため、発泡体の摩耗で生じた摩耗屑が研磨面から脱離しやすくなるので、ドレス性を向上させることができ、過度な摩耗が抑制されるので、長寿命化を図ることができる。
【0012】
この場合において、調整剤を非イオン系化合物としてもよい。このとき調整剤を少なくともポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系のポリアルキレンオキサイド付加物から選択される一種とすることができる。調整剤は、研磨加工時に供給される研磨液に対して、難溶出性であることが好ましい。また、発泡体は、粒径63μm〜100μmの砥粒を表面に付着させた磨研紙を外周に貼り付けた摩耗輪に研磨面を接触させて回転させたときに、研磨面での回転数1000回あたりの摩耗減量が100〜150mg/1000回の範囲とすることが好適である。また、調整剤は発泡体を形成する樹脂との相溶性を有することが好ましい。発泡体をポリウレタン樹脂製とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、調整剤の分子量範囲を制限したことで、調整剤の溶出が低減するため、研磨液の液性変化を抑制することができると共に、樹脂製発泡体に粘りを調整する調整剤が略均一に含有されたことで、ドレス時や研磨加工時の摩耗性が適正化されるため、発泡体の摩耗で生じた摩耗屑が研磨面から脱離しやすくなるので、ドレス性を向上させることができると共に、過度な摩耗が抑制されるので、長寿命化を図ることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照にして、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0016】
(研磨パッド)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド1は、ポリウレタン樹脂で形成された発泡体2を備えている。発泡体2は、略平坦な研磨面Pを有している。
【0017】
発泡体2には、研磨面P側に、図示しない緻密な微多孔が形成されておりミクロな平坦性を有するスキン層4が形成されている。発泡体2のスキン層4より内側には、発泡体2の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面三角状の発泡3が形成されている。発泡3は、研磨面P側の大きさが、研磨面Pと反対の面側より小さく形成されている。すなわち、発泡3は研磨面P側で縮径されている。発泡3の間のポリウレタン樹脂中には、発泡3より小さくスキン層4の微多孔より大きい微多孔が形成されているが、図1ではそれらの微多孔を省略している。発泡3および微多孔は、不図示の連通孔で網目状につながっている。すなわち、発泡体2は、湿式成膜法により形成された連続状の発泡構造を有している。
【0018】
発泡体2には調整剤が含有され、略均一に分散されている。研磨パッドの製造加工時に、被研磨物により適したpH等の液性を有する研磨液を使用することがあり、研磨液と調整剤との相互作用による研磨性能への影響を防ぐために、調整剤は、非イオン(ノニオン)系化合物であることが好ましい。このとき調整剤は、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレンエステル系、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル系、ショ糖、グルコース、マルトース、フラクトース等の糖脂肪酸エステル系、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、ポリオキシアルキレンアルキルグルコシド、ポリオキシアルキレンアルキルポリグルコシド等のアルキルポリグルコシド系のポリアルキレンオキサイド付加物から選択される一種を用いることができる。本例では、調整剤としてポリプロピレンオキサイドが用いられている。
【0019】
調整剤は、研磨加工時に研磨液に溶出すると、調整剤と研磨液との相互作用により凝集等が生じ研磨液の液性が変化することがあるため、研磨液に対して難溶出性であることが好ましい。このとき、調整剤の分子量を10,000〜100,000の範囲とすれば、難溶出性とすることができる。また、調整剤は、発泡体2に分散の偏りが生じないように、略均一に含有される必要があるため、樹脂との相溶性を有することが好ましい。このような調製剤が略均一に含有された発泡体2では、日本工業規格(JIS K 6902)のテーバー摩耗試験に準じた方法に従い測定した摩耗減量が100〜150mg/1000回の範囲の特性を有している。
【0020】
また、研磨パッド1は、研磨面Pと反対の面側に、発泡体2を支持する支持体6の一面側が貼り合わされている。支持体6には、本例では、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記する。)製のシートが用いられている。支持体6の他面側には、一面側(最下面側)に剥離紙8を有し研磨機に研磨パッド1を装着するための両面テープ7の他面側が貼り合わされている。
【0021】
(研磨パッドの製造)
研磨パッド1は、湿式成膜法の各工程を経て製造される。湿式成膜法では、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に溶解させ、それに調整剤を混合し、ポリウレタン樹脂溶液を得る準備工程、成膜基材にポリウレタン樹脂溶液を塗布し樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、シート状のポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄乾燥工程を経て発泡体2が作製される。以下、工程順に説明する。
【0022】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)、調整剤のポリプロピレンオキサイド及び添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30%となるようにDMFに溶解させる。ポリプロピレンオキサイドの配合量は、ポリウレタン樹脂の100部に対して1〜2部の範囲に調整する。添加剤としては、発泡3の大きや量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、発泡を促進させる親水性活性剤等及びポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を濾過することで凝集塊等を除去した後、減圧下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
【0023】
凝固再生工程では、準備工程で得られたポリウレタン樹脂溶液が常温下でナイフコータ等により帯状の成膜基材に略均一に塗布される。このときナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)が調整される。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布を用いることができる。以下、本例では、成膜基材をPET製フィルムとして説明する。
【0024】
成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液が、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液に浸漬される。凝固液中では、まず、塗布されたポリウレタン樹脂溶液の表面側に微多孔が形成され厚さ数μm程度のスキン層4が形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材上にシート状に凝固再生する。DMFがポリウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することで、スキン層4より内側のポリウレタン樹脂中に発泡3および微多孔が形成され、発泡3および微多孔が網目状に連通する。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ポリウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層4側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな発泡3が形成される。
【0025】
洗浄乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したポリウレタン樹脂が成膜基材から剥離され、水等の洗浄液中で洗浄されてポリウレタン樹脂中に残留するDMFが除去される。洗浄後、ポリウレタン樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させ発泡体2を得る。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。ポリウレタン樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。
【0026】
発泡体2の研磨面Pと反対の面側と支持体6の一面側とを貼り合わせ、支持体6の他面側に、一面側(最下面側)に剥離紙8が貼付された両面テープ7を貼り合わせる。汚れや
異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド1を完成させる。
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド1の作用等について説明する。
【0027】
従来湿式成膜で形成される発泡体を備えた研磨パッドでは、発泡体の粘りを適度に調整することが難しいため、得られた発泡体の粘りにより、研磨性能を損なうことがある。発泡体の粘りが高い場合、研磨時に発生する摩耗屑が研磨面から脱離しにくくなるため、ドレス性が悪化する。また、研磨粒子や摩耗屑が研磨液と凝集物を形成し、発泡体の微細孔が目詰まりを起こしやすくなり、被研磨物に対するスクラッチの発生が増大することがある。反対に、研磨パッドの粘りが低い場合は、摩耗が過度になることにより研磨パッドの寿命が短くなる上、摩耗屑によるスクラッチの発生が増大する。また、研磨面の毛羽立ちがすぐに除去されるため、研磨速度が不十分となり効率低下を招く。また、発泡形成を均一化するために発泡体に添加された界面活性剤が研磨加工時に溶出することがある。溶出した界面活性剤が研磨液と反応すると、研磨液の液性が変わることで研磨速度を下げ、被研磨物の表面粗さを悪化させることがある。そのため、研磨工程中に研磨液に界面活性剤が混入することを防ぐことも重要である。本実施形態は、これらを解決することができる研磨パッドである。
【0028】
本実施形態の研磨パッド1では、調整剤のポリプロピレンオキサイドが含有されていることにより、発泡体2の粘りが適正化されている。発泡体2の粘りは、摩耗のしやすさ(摩耗性)として表すことが可能である。摩耗のしやすさは、日本工業規格(JIS K 6902の耐摩耗性A法)のテーバー摩耗試験に準じた方法に従い、粒径が63〜100μmの砥粒を表面に付着させた磨研紙を外周に貼り付けた摩耗輪に研磨面Pを接触させて回転させたときに研磨面Pでの回転数1000回あたりの摩耗減量(mg/1000回)に相当する。発泡体2では、調整剤のポリプロピレンオキサイドが含有されていることにより、摩耗減量が100〜150mg/1000回の範囲の特性を有している。このため、発泡体2の粘りが適正化されるので、摩耗屑がはずれやすく(脱離しやすく)なり、ドレス性を向上させることができる。これにより、研磨粒子や摩耗屑が研磨液と凝集した凝集物がすぐに除去され、微細孔の目詰まりが起きにくくなる。また、摩耗が過度になるおそれがないため、長期間研磨加工を継続することができ、長寿命化を図ることができる。また摩耗屑によるスクラッチの発生が低減される。更に、研磨加工に必要な研磨面Pの毛羽立ちが適度に維持されるため、研磨液保持性を確保して研磨速度を高めることができ、安定した研磨加工を行うことができる。
【0029】
また、本実施形態の研磨パッド1では、調整剤には非イオン系化合物が用いられている。このため、研磨液と調整剤とのイオン性の相互作用を抑制することができるため、研磨パッド1の研磨性能に影響を与えることがない。そのため、被研磨物に合わせて、適したpH等の液性を有する研磨液を使用することができ、研磨効率を一層向上させることが可能となる。
【0030】
更に、本実施形態の研磨パッド1では、調整剤は、数平均分子量(Mn)が10,000〜100,000の範囲であり、研磨加工時に供給される研磨液に対して難溶出性である。調整剤が研磨液に対して溶出することがないため、研磨液と調整剤との反応ないし凝集が生じることなく、研磨液の液性変化を抑制することができる。これにより、研磨加工時にスクラッチの抑制効果が高められると共に、研磨速度が確保されるので、被研磨物の平坦性を向上させることができる。調整剤の分子量が10,000に満たない場合、研磨加工時に溶出した調整剤と研磨液とが反応して液性変化や凝集が生じ研磨性能の低下を招くおそれがある。分子量が100,000を超える場合、研磨加工時の調整剤の溶出を抑制することができるものの、発泡体2に均一に分散させることが難しく、摩耗減量を適正な範囲に調整しにくくなる。
【0031】
また更に、本実施形態の研磨パッド1では、調整剤は、発泡体2を形成するポリウレタン樹脂との相溶性を有するため、調整剤が発泡体2に略均一に分散された状態で含有されている。このため、発泡体2の粘りに偏りがなく、略均質に適正な粘りを有する発泡体2が形成されるため、安定した研磨加工を行うことができる。
【0032】
なお、本実施形態では、研磨パッド1は、製造過程でバフ処理を施さず、図示しない緻密な微多孔が形成されたミクロな平坦性を有するスキン層4を残しているため、仕上げ研磨(二次研磨)に適しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、製造過程でバフ処理を施して、スキン層4を除去してもよい。バフ処理を施した研磨パッド1では、スキン層4が除去され、研磨面Pに発泡3の開孔が形成される。そのため、研磨加工時に供給される研磨液が発泡3内に入出でき、研磨液保持性が高められるため、研磨量を多く要する一次研磨に適している。このバフ処理を施した研磨パッド1でも、製造過程で調整剤のポリプロピレンオキサイドが含有されることで、発泡体2の摩耗減量が100〜150mg/1000回の範囲の特性を有するため、発泡体2の粘りが適正化される。このため、研磨による摩耗屑がはずれやすくなり、ドレス性を向上させることができると共に、ドレス時の摩耗屑が小さくなるため、研磨面Pに形成された開孔の目詰まりが抑制される。
【0033】
また、本実施形態では、発泡体2がポリウレタン樹脂で形成される例を示したが、本発明はこれにより限定されるものではなく、他の樹脂を使用してもよい。例えば、ポリエステル樹脂等を使用してもよい。
【0034】
更に、本実施形態では、発泡体2に含有されている調整剤に、非イオン系化合物を使用する例を示したが、研磨加工時に使用する研磨液の液性に合わせて、研磨液と調整剤とが
イオン性の相互作用を起こさない組み合わせであれば、アニオン系化合物やカチオン系化合物を使用してもよい。
【0035】
また更に、本実施形態では、支持体6の一面側を発泡体2の研磨面Pと反対の面側と貼り合わせ、支持体6の他面側に、一面側(最下面側)に剥離紙8が貼付された両面テープ7を貼り合わせると例示したが、支持体6を用いる必要はなく、両面テープ7に基材を有していれば兼用してもよい。また、支持体6はPET樹脂製であると例示したが、可倒性の樹脂フィルムであれば、PET樹脂以外にポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等を用いてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド1の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0037】
まず、調整剤と研磨液との相溶性を評価する試験を行った。すなわち、調整剤のポリプロピレンオキサイドについて、分子量が3,000、6,000、30,000のものを用意し、研磨液のコロイダルシリカ(酸性)の100ccにそれぞれの調整剤の0.2ccずつを滴下して、攪拌をしながら沈殿の有無を確認し、液性の変化(相溶性)を観察した。評価基準として、沈殿が見られた場合を×とし、沈殿が見られなかった場合を○とした。調整剤と研磨液との相溶性の評価結果を下表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、分子量が3,000、6,000の調整剤を添加した研磨液では、沈殿が確認された。これは、研磨液と調整剤とが反応し凝集が生じることで、研磨液の液性が変化したためと考えられる。これに対して、分子量が30,000の調整剤を添加した研磨液では、沈殿は形成されず、液性は変化しなかった。これにより、調整剤として分子量が30,000(10,000〜100,000の範囲内)のものを用いると、研磨加工時に供給される研磨液に対して調整剤が溶出されにくくなるため、研磨液に対して反応ないし凝集を生じさせることなく、研磨液の液性変化を抑制することが期待できる。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、ポリウレタン樹脂としてポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を用いた。調整剤としては、研磨液との相溶性に優れることの確認された分子量30,000のポリプロピレンオキサイドを用いた。すなわち、ポリウレタン樹脂を30重量%でDMFに溶解させた溶液100部に対して、調整剤を2部、カーボンブラックを30%含むDMF分散液の40部、疎水性活性剤の2部を混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。得られたポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に塗布することにより、湿式成膜法により発泡体2を作製し研磨パッド1を製造した。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、調整剤のポリプロピレンオキサイドを使用することなく、実施例1と同じポリウレタン樹脂とカーボンブラックとDMFと疎水性活性剤を混合したポリウレタン樹脂溶液を調製した。すなわち、調整剤を使用しないこと以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。
【0042】
(比較例2)
比較例2では、調整剤のポリプロピレンオキサイド10部を混合し、実施例1と同じポリウレタン樹脂とカーボンブラックとDMFと疎水性活性剤を混合したポリウレタン樹脂溶液を調製した。すなわち、調整剤を10部使用すること以外は実施例1と同様にして比較例2の研磨パッドを製造した。
【0043】
(評価)
各実施例及び比較例の各発泡体2について、日本工業規格(JIS K6902)に準じて摩耗減量を測定した。すなわち、粒径が63〜100μmの砥粒を表面に付着させた磨研紙を外周に貼り付けた摩耗輪に研磨面Pを接触させて回転させたときに研磨面Pでの回転数1000回あたりの摩耗減量を測定した。すなわち、摩耗試験機は、試験試料が貼付され、回転駆動可能に軸支された回転盤を有している。回転盤の上方には、一対の円柱状の摩耗輪が端面を対向させて配置されている。摩耗輪の外周面が回転盤に貼付される試験試料と接触可能に配置されている。摩耗輪は、回転盤の回転軸に対して等距離となるように、回転盤の半径方向両側に配置されている。摩耗輪の外周には、粒径63μm〜100μmの酸化アルミニウム製の砥粒を表面に付着させた磨研紙(例えば、JIS R 6252の研磨紙)が貼り付けられている。磨研紙は、単位面積あたりの質量が70〜100g/mであり、摩耗輪の外周面に隙間が形成されず、互いに重なり合わないように貼り付けられている。摩耗減量の測定時には、回転盤と同形状に裁断された試験試料(研磨パッド)を回転盤に貼付する。磨研紙を貼り付けた摩耗輪を試験試料の上面に接触させ、接触面に及ぼす荷重が5.20±02Nとなるように押圧する。回転盤を回転させることで、外周面を試験試料に接触させた一対の摩耗輪が互いに反対方向に回転する。これにより、試験試料表面が摩耗され、環状の摩耗跡が残される。本例では、回転盤を1000回回転させる前後における試験試料の重量変化を摩耗減量とした。摩耗減量の測定結果を表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、調整剤を添加していない比較例1では、発泡体の摩耗減量が79.8mg/1000回を示した。このため、比較例1の研磨パッドでは、発泡体の粘りが高いため、研磨加工時に発生する摩耗屑がはずれにくく、ドレス性が悪化する。また、研磨粒子や摩耗屑が研磨液と凝集し、研磨面の微細孔で目詰まりを起こすことによりスクラッチ等を発生させる可能性があり、高精度な平坦性を期待することが難しくなる。調整剤を10部混合した比較例2では、発泡体の摩耗減量が199.6mg/1000回を示した。このため、比較例2の研磨パッドでは、発泡体の粘りが低くなるため、研磨加工時の摩耗が過度になり、寿命が短くなる上、摩耗屑により被研磨物にスクラッチの発生がする可能性があり、高精度な平坦性を期待することは難しい。更に、研磨加工に必要な研磨面の毛羽立ちが除去されるため、反応速度が低下し、研磨効率を損なうことが予想される。
【0046】
これに対して、調整剤を2部混合した実施例1の研磨パッド1では、発泡体2の摩耗減量が124.2mg/1000回を示し、摩耗減量が100〜150mg/1000回の範囲内であった。このことから、調整剤により発泡体2の粘りが適正化されたことが判った。従って、適正な粘りを有する発泡体2を備えた実施例1の研磨パッド1では、ドレス性が向上されるため、研磨屑によるスクラッチの発生を抑制することができ、過度な摩耗が起こらないため長寿命化が期待でき、安定した研磨性能を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、研磨液の液性変化を抑制すると共に、ドレス性を向上させ長寿命化を図ることができる研磨パッドを提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0048】
P 研磨面
1 研磨パッド
2 発泡体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂製発泡体を備えた研磨パッドにおいて、前記発泡体には該発泡体の粘りを調整する調整剤が略均一に含有されており、前記調整剤の分子量は10,000〜100,000の範囲であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記調整剤は、非イオン系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記調整剤は、少なくともポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪族エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系のポリアルキレンオキサイド付加物から選択される一種であることを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記調整剤は、研磨加工時に供給される研磨液に対して難溶出性であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記発泡体は、粒径63μm〜100μmの砥粒を表面に付着させた磨研紙を外周に貼り付けた摩耗輪に前記研磨面を接触させて回転させたときに、該研磨面での回転数1000回あたりの摩耗減量が100〜150mg/1000回の範囲の特性を有することを特徴とする請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記調整剤は、前記発泡体を形成する樹脂との相溶性を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記発泡体は、ポリウレタン樹脂製であることを特徴とする請求項6に記載の研磨パッド。

【図1】
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【公開番号】特開2011−73111(P2011−73111A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228621(P2009−228621)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】