説明

研磨器具、研磨器具の製造方法、及び被研磨体の製造方法

【課題】種々の形状へと高精度に研磨できる研磨器具、研磨器具の製造方法、及び被研磨体の製造方法を提供すること。
【解決手段】研磨器具10は、駆動源に接続される回転軸11と、この回転軸11の先端に位置する球状のポリッシャ13と、を備え、このポリッシャ13は、弾性樹脂で構成されている。ポリッシャ13の周囲に研磨パッド15を配置し、この研磨パッド15を砥粒を介して研磨対象Wに当接させた状態で、回転軸11を回転させることで、研磨対象Wを研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨器具、研磨器具の製造方法、及び被研磨体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球面等の曲面を有するレンズ、ミラー等の光学素子等は、その形状に近似した研磨対象を研磨することで製造される。研磨に用いられる研磨器具は、回転軸の先端に位置する球状のポリッシャを備えており、回転軸の回転に伴ってポリッシャが回転することで研磨対象を研磨する。
【0003】
従来の研磨器具は、その製造効率を向上させる観点から、回転軸とポリッシャとを同一素材で構成し、一体成形により製造されている。ここで、回転軸には高い強度が要求されるため、金属又は非弾性樹脂で構成され、必然的にポリッシャも金属又は非弾性樹脂で構成されることになる。
【0004】
しかし、金属又は非弾性樹脂で構成されたポリッシャは、変形性に乏しいため、研磨対象の形状に十分に追従できず、微細なうねりやアス等を研磨対象に発生させやすい。そこで、特許文献1には、ポリッシャに弾性樹脂が被覆された研磨器具が開示されており、弾性樹脂の変形により、研磨対象の形状への追従性の向上が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−323252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示される研磨器具では、十分な追従性を得るために相当な厚みの弾性樹脂をポリッシャに被覆する必要がある。すると、研磨部分の大径化が避けがたく、かかる大径の研磨部分では、研磨し得る形状が制限されてしまう。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、種々の形状へと高精度に研磨できる研磨器具、研磨器具の製造方法、及び被研磨体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリッシャそのものを弾性樹脂で構成することで、研磨対象の形状への追従性に優れかつ小径の部分で研磨し得るを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 駆動源に接続される回転軸と、この回転軸の先端に位置する球状のポリッシャと、を備える研磨器具であって、
前記ポリッシャは、弾性樹脂で構成されている研磨器具。
【0010】
(2) 前記回転軸は前記ポリッシャと一体成形されている(1)記載の研磨器具。
【0011】
(3) 前記弾性樹脂は、ポリウレタン樹脂を含む(1)又は(2)記載の研磨器具。
【0012】
(4) 曲面を有する研磨対象の研磨に用いられる(1)から(3)いずれか記載の研磨器具。
【0013】
(5) ガラス部材の研磨に用いられる(1)から(4)いずれか記載の研磨器具。
【0014】
(6) 駆動源に接続される回転軸と、この回転軸の先端に位置する球状のポリッシャと、を備える研磨器具の製造方法であって、
前記ポリッシャの形状と対称的な注型空間が内部に形成された注型型を用い、
減圧された前記注型空間へと弾性樹脂を流し込み、硬化させることで前記ポリッシャを製造する工程を有する製造方法。
【0015】
(7) 前記弾性樹脂は、ポリウレタン樹脂を含む(6)記載の製造方法。
【0016】
(8) 被研磨体の製造方法であって、
(1)から(5)いずれか記載の研磨器具を用い、
前記ポリッシャの周囲に、研磨パッドを配置し、
前記研磨パッドを砥粒を介して研磨対象に当接させた状態で、前記回転軸を回転させることで、前記研磨対象を研磨する工程を有する被研磨体の製造方法。
【0017】
(9) 前記研磨対象として、曲面を有するものを用いる(8)記載の製造方法。
【0018】
(10) 前記研磨対象として、ガラス部材を用いる(8)又は(9)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリッシャを弾性樹脂で構成したので、研磨に用いる部分を、研磨対象の形状への追従性に優れかつ小径にすることができる。これにより、種々の形状へと高精度に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る研磨器具の使用状態を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る研磨器具の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る研磨器具10の使用状態を示す図である。研磨器具10は、図示しない駆動源に接続される回転軸11と、この回転軸11の先端に位置する球状のポリッシャ13と、を備える。このポリッシャ13には、少なくとも使用時に研磨パッド15が被覆される。駆動源を稼動し回転軸11を回転させることで、ポリッシャ13が回転し、研磨パッド15との摩擦によって研磨対象Wの被研磨面Waが研磨されることになる。
【0023】
本発明において、ポリッシャ13は弾性樹脂で構成されている。弾性樹脂は変形性に優れるため、ポリッシャ13は被研磨面Waの形状への追従性に優れる。また、ポリッシャ13自体が弾性樹脂で構成されるため、ポリッシャ13に更に弾性樹脂を被覆する必要がなく、また研磨パッド15の消耗が抑制されるため、15を薄くすることができる。これにより、研磨に用いる部分(本実施形態では、ポリッシャ13及び研磨パッド15)を小径にすることができ、被研磨面Waに微細な形状(例えば微小な凹凸)を形成することもできる。従って、研磨対象Wを種々の形状へと高精度に研磨することができる。
【0024】
弾性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリウレタン樹脂の2液、3液タイプが挙げられる。中でも、研磨の際に研磨パッド15と被研磨面Waとの間に供給される潤滑液に侵されにくい(潤滑液に侵されると、ポリッシャ13が膨潤して大径化する)点で、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0025】
ポリッシャ13は、硬すぎると、被研磨面Waの形状への追従性が不充分となりやすい一方、柔らかすぎると研磨効率が低下する。そこで、ポリッシャ13の硬度の下限は、ショア硬さ10HSであることが好ましく、より好ましくは50HS、最も好ましくは60HSであり、上限はショア硬さ120HSであることが好ましく、より好ましくは110HS、最も好ましくは100HSである。なお、ショア硬さとは、JIS−Z−2246にて定義されるダイヤモンドハンマーを一定高さから落下させ、その跳ね上がり高さに比例する値として求められる硬さをいう。
【0026】
ポリッシャ13の形状は、特に限定されず、球形、楕円形、円柱形等又はこれらの組み合わせの形状から、製造すべき形状に応じて適宜設定されてよいが、種々の形状への研磨に対応しやすい点で球形又は楕円形が好ましい。
【0027】
ポリッシャ13の大きさは、製造すべき形状に応じて適宜設定されてよく、小径である程、微細な形状も含む多様な形状を高精度に製造しやすい一方、研磨速度が低下する傾向がある。ポリッシャ13の下部が曲面で構成されている場合、この曲面の曲率半径は、下限が1.0mmであることが好ましく、より好ましくは1.2mm、最も好ましくは1.5mmである。
【0028】
研磨パッド15は、従来周知の研磨用のパッドであってよく、通常はダイヤモンド等製の砥粒を含む。ただし、研磨パッド15は必ずしも砥粒を含んでいなくてもよく、この場合には砥粒を研磨パッド15と被研磨面Waとの間に外部から供給する。
【0029】
研磨パッド15は被研磨面Waと直接接触する部分であるため、消耗が懸念されるが、本発明ではポリッシャ13が比較的柔らかい弾性樹脂で構成されているため、消耗が抑制される。このため、研磨パッド15は従来よりも薄くすることもできる。研磨パッド15の厚みの上限は、0.30mmであることが好ましく、より好ましくは0.25mm、最も好ましくは0.20mmであり、下限は0.10mmであることが好ましく、より好ましくは0.12mm、最も好ましくは0.15mmである。
【0030】
回転軸11は、特に限定されず、金属、弾性樹脂、非弾性樹脂等の1種又は2種以上の任意の素材で構成されてよい。かかる回転軸11は、ポリッシャ13と別体成形された後に固定されてもよく、一体成形されてもよいが、回転軸11及びポリッシャ13の位置関係のズレを予防できる点で一体成形されることが好ましい。
【0031】
以上の研磨器具10の製造方法の一例を、図2を参照しつつ説明する。まず、ポリッシャ13の形状と対称的な注型空間Sが内部に形成された注型型Mを用い、注型空間Sを減圧する(図2(A))。本実施形態では、製造部100の耐圧容器110内に注型型Mを設置し、耐圧容器110の内気を排出することで耐圧容器110の内圧を下げ、注型空間Sを減圧している。この状態で、注型空間Sから注型型Mの外周へと延びる注入孔Gに液状の弾性樹脂Pを導入すると、注型空間Sが減圧されているため、弾性樹脂Pが注型空間Sへと流れ込む。減圧が不充分であると、微小な空間であるS内に空気が閉じ込められてしまい、注型空間S内に弾性樹脂Pが充満しにくいので、充分に減圧することが望ましい。なお、注型型Mは、後でポリッシャ13を取り出すことができるように、注型空間Sの略中央を通る分割面SLで分割可能である。
【0032】
注型空間S内に弾性樹脂Pを充満させ(図2(B))、弾性樹脂Pからの脱泡を充分に促した後、注型空間Sを昇圧(通常は常圧に戻す)し、注型型Mを加熱して弾性樹脂Pを硬化させることでポリッシャ13を製造する。このポリッシャ13は、注型型Mを分割面SLに沿って分割することで取り出される。硬化条件は、用いる弾性樹脂Pの特性に応じて適宜設定されてよい。
【0033】
本実施形態では、ポリッシャ13を別途に製造した後に回転軸11と固定する。しかし、これに限られず、ポリッシャ13及び回転軸11を一体成形してもよい。この場合には、注型空間Sから注型型Mの外周へと延び11が挿通される挿通孔を形成し、この挿通孔を通じて注型空間S内に回転軸11を挿通した状態で、弾性樹脂Pを注型空間Sに流し込めばよい。
【0034】
このような製造方法は、小径のポリッシャ13を製造する際に極めて有用である。ただし、研磨器具10の製造方法は、上記のものに限られず、例えば比較的大径のポリッシャ13を備える研磨器具10を製造する場合には、従来周知の他の方法による製造も可能である。
【0035】
図1に戻って、本発明に係る被研磨体の製造方法を説明する。まず、製造すべき研磨対象Wの被研磨面Waの形状に応じて、適切な形状及び寸法を有するポリッシャ13を選択する。かかるポリッシャ13の周囲に研磨パッド15を配置し、この研磨パッド15を砥粒を介して研磨対象Wの被研磨面Waに当接させた状態で、回転軸11を回転させることで、研磨対象Wを研磨する。なお、必要に応じて摩擦熱を低減するために、研磨パッド15及び被研磨面Waの間に潤滑液を供給する。また、回転軸11の回転速度は、研磨対象W及びポリッシャ13の硬度等を考慮して適宜設定する。
【0036】
そして、研磨器具10及び/又は支持台20を移動させることにより、研磨パッド15を被研磨面Waに対して相対移動させ、被研磨面Waの所望の範囲を研磨する。この間、ポリッシャ13が被研磨面Waの形状に沿って容易に変形するため、被研磨面Waを種々の形状へと研磨できる。また、相対移動の速度は、研磨対象W及びポリッシャ13の硬度等を考慮して適宜設定する。
【0037】
このように、本発明の研磨器具10によれば、ポリッシャ13の被研磨面Waへの追従性が優れるため、研磨が困難とされる曲面(特に非球面)を有する研磨対象の研磨も高精度に行うことができる。また、研磨対象Wは、特に限定されず任意のものであってよいが、特にガラス部材であることが好ましい。これにより、高精度の光学素子等を容易に製造することができる。
【実施例】
【0038】
<実施例>
図2に示すようにして、ステンレス鋼製の回転軸の先端に、直径1.5mの球状のポリウレタン製ポリッシャが位置する研磨器具を製造した。ポリッシャの周囲に、ナイロン(登録商標)及びポリエステルからなる研磨パッド(厚み約0.2mm)を配置し、回転軸を駆動源に接続した。研磨対象として、WC、無電解ニッケル、又はガラスで形成され、球面、非球面、又は自由曲面を有するものを用いた。研磨パッドを砥粒を介して研磨対象に当接させた状態で、回転軸を50〜600rpmの速度で回転させながら、適当な速度で移動させ、研磨対象を研磨した。このようにして得た各被研磨体の表面を観察したところ、いずれにも、うねりやアスは全く確認されなかった。
【0039】
(比較例)
回転軸及びポリッシャの双方がステンレス鋼製である点を除き、実施例1と同様の研磨器具を用い、実施例1と同様の条件で研磨対象を研磨した。得られた各被研磨体の表面を観察したところ、うねりやアスが観察されなかった被研磨体は全体の60%にすぎず、残る被研磨体には軽度〜重度のうねりやアスが観察された。
【0040】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0041】
10 研磨器具
11 回転軸
13 ポリッシャ
15 研磨パッド
20 支持台
100 製造部
110 耐圧容器
G 注入孔
M 注型型
P 弾性樹脂材料
S 注型空間
W 研磨対象
Wa 被研磨面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に接続される回転軸と、この回転軸の先端に位置する球状のポリッシャと、を備える研磨器具であって、
前記ポリッシャは、弾性樹脂で構成されている研磨器具。
【請求項2】
前記回転軸は、前記ポリッシャと一体成形されている請求項1記載の研磨器具。
【請求項3】
前記弾性樹脂は、ポリウレタン樹脂を含む請求項1又は2記載の研磨器具。
【請求項4】
曲面を有する研磨対象の研磨に用いられる請求項1から3いずれか記載の研磨器具。
【請求項5】
ガラス部材の研磨に用いられる請求項1から4いずれか記載の研磨器具。
【請求項6】
駆動源に接続される回転軸と、この回転軸の先端に位置する球状のポリッシャと、を備える研磨器具の製造方法であって、
前記ポリッシャの形状と対称的な注型空間が内部に形成された注型型を用い、
減圧された前記注型空間へと弾性樹脂を流し込み、硬化させることで前記ポリッシャを製造する工程を有する製造方法。
【請求項7】
前記弾性樹脂は、ポリウレタン樹脂を含む請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
被研磨体の製造方法であって、
請求項1から5いずれか記載の研磨器具を用い、
前記ポリッシャの周囲に、研磨パッドを配置し、
前記研磨パッドを砥粒を介して研磨対象に当接させた状態で、前記回転軸を回転させることで、前記研磨対象を研磨する工程を有する被研磨体の製造方法。
【請求項9】
前記研磨対象として、曲面を有するものを用いる請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記研磨対象として、ガラス部材を用いる請求項8又は9記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−218466(P2011−218466A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87907(P2010−87907)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】