説明

研磨方法、バフおよび研磨装置

【課題】容易にかつ効率的に硬化層を除去することができる研磨方法、バフおよび研磨装置を提供する。
【解決手段】バフ羽2の先端部分2bの剛性を低下する前処理工程と、前処理工程が実施されたバフ3で配管(被加工物)11の表面を研磨する研磨工程とを備える。前処理工程では、前処理用部材の表面研磨を、バフ2の回転数を200rpmとして約700秒実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の表面をバフで研磨する研磨方法、バフおよび研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加圧水型原子炉(PWR)は、1次系水中において、ステンレス鋼で形成された管体など被加工物の表面に溶接や機械加工によって生じた硬化層があると、応力腐食割れが発生することが懸念されている。
このため、被加工物の表面に生じた硬化層を除去することで被加工物の応力腐食割れを防止することが知られている。
【0003】
硬化層を除去する方法としては、例えば、放射状に配されたバフ羽を備えるバフ(フラップホイール)を回転させて、被加工物の硬化層にバフ羽の先端部分を押し付けることにより、硬化層を研磨して除去する方法が行われている。
【0004】
また、特許文献1には、被加工物においてfs域極短パルスkW級高平均出力レーザーの照射衝撃を用いて引っ張り残留応力層を除去し、さらには圧縮残留応力を発生させて硬化層を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−61966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、硬化層をバフで研磨して除去する方法では、研磨工程において硬化層が除去されるが、バフによる研磨により新たな硬化層が生じてしまうという問題がある。
【0007】
ここで、図8に、オーステナイト系ステンレス鋼の鋼板に切削加工をした後バフによる研磨を手作業によって行ったときの、各加工に伴う鋼板の表層の硬さを測定した結果を示す。バフによる研磨は、複数人の作業員によって複数回にわたり100〜220μm実施された。
切削加工後の鋼板の表層の硬さは、複数箇所で表面からの深さ10〜400μmで測定すると、その平均値は軌跡100のように変化している。これにより、鋼板には、表面から100μmの深さまでにビッカース硬さが300HVを超える硬化層が生じていることがわかる。
そして、バフによる研磨後の鋼板の表層の硬さは、1階の研磨毎に表面から深さ100μmまでの硬さを測定すると、深さ方向にそれぞれ軌跡102のように変化していることがわかる。
【0008】
そして、バフによる研磨後の鋼板には、表面から深さ10μmまでの表面近傍にビッカース硬さが300HVを超える硬化層が認められる。このように、バフによる研磨では、ビッカース硬さが300HVを超える硬化層を除去しつつも新たなビッカース硬さが300HVを超える硬化層が生じていることがわかる。
また、特許文献1による硬化層を除去する方法は、専用の装置が必要となるため、容易に実施することができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、容易にかつ確実に硬化層を除去することができる研磨方法、バフおよび研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る研磨方法は、放射状に複数設けられたバフ羽を有するバフで被加工物の表面を研磨する研磨方法であって、前記バフ羽の先端部分の剛性を低下させる前処理工程と、該前処理工程が実施された前記バフで前記被加工物の表面を研磨する研磨工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明では、前処理工程において先端部分の剛性が低下したバフ羽を有するバフで研磨工程を行うことにより、研磨工程において新たな硬化層が生じることを防ぐことができるため、硬化層を容易にかつ確実に除去することができる。
【0012】
また、本発明に係る研磨方法は、前記前処理工程では、前記バフ羽の先端部分における基材に研磨剤を固定する接着剤層に亀裂を形成して前記バフ羽の先端部分の剛性を低下させていることが好ましい。
このようにすることにより、バフ羽の先端部分の剛性を容易に低下させることができる。
【0013】
また、本発明に係る研磨方法では、前記前処理工程では、前記バフで所定時間、または、時間と回転数とが一定の関係となるように、研磨を実施することが好ましい。
このようにすることにより、前処理工程後のバフの剛性を一定とすることができる。
【0014】
また、本発明に係るバフは、円筒状の芯部と、基材と該基材の一面に配された研磨剤および前記基材の一面に形成され前記研磨剤を固定する接着剤層とを有した略板状で、基端が前記芯部に固定されて放射状に複数設けられたバフ羽とを備え、前記バフ羽は、前記接着剤層に亀裂が形成されて剛性が低下していることを特徴とする。
また、本発明に係る研磨装置は、上記バフを備えたことを特徴とする。
このように構成されることにより、バフにより研磨される被加工物の表面に新たな硬化層が生じることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前処理工程において先端部分の剛性を低下させたバフ羽を有するバフで研磨工程を行うことにより、研磨工程において新たな硬化層が生じることを防ぐことができるため、硬化層を容易にかつ確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本発明の実施形態による研磨装置の一例を示す図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図2】クラックのないバフ羽の先端部分を示す図である。
【図3】クラックのあるバフ羽の先端部分を示す図である。
【図4】(a)はクラックの小さい新品のバフ羽の表面を示す図、(b)は(a)の拡大図である。
【図5】(a)は所定時間使用した後のクラックのあるバフ羽の表面を示す図、(b)は(a)の拡大図である。
【図6】本実施形態におけるバフ研磨による、研磨時間、研磨量および表面から10μmの深さにおける前処理用部材の硬さの値を示す図である。
【図7】本実施形態におけるバフ研磨による、研磨時間と、表面から10μmの深さにおける前処理用部材の硬さとの関係を示す図である。
【図8】従来のバフ研磨による、被加工物の表面からの深さとその位置における硬さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態による研磨装置および研磨方法について、図1乃至図8に基づいて説明する。
まず、本実施形態による研磨装置について説明する。
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態による研磨装置1は、バフ羽2が放射状に複数配列されたバフ3と、バフ3を回転させる回転駆動部4(図1(b)参照)と、作業者がバフ3を把持するための把持部(不図示)またはバフ3を所定の位置に支持するための支持部(不図示)と、を備えている。
【0018】
図2に示すように、バフ羽2は、可撓性のある紙状の基材5と、基材5の一方の表面5a側に形成された接着剤層6と、この接着剤層6に接着された研磨剤7とを備えている。
本実施形態では、基材5は、幅寸法約30mm、高さ寸法約47.5mmの略長方形状で、その厚さが約200μmに形成されている。
【0019】
接着剤層6は、その厚さが約300μmとなるように基材5に接着剤が塗布されることで形成されている。バフ羽2は、基材5の一方の表面に接着剤層6が形成されることにより、基材5本体よりも剛性が高くなるように構成されている。
また、図3に示すように、接着剤層6には、加力によりクラック(亀裂)9が生じるように構成されている。なお、新品のバフ羽2には、クラック9は小さいかほとんどなく、研磨による衝撃やその他の加力によってクラック9が大きくなったり多く生じたりしている。
図4には、クラック9が小さい接着剤層6の表面を示し、図5には、クラック9が大きい接着剤層6の表面を示す。
バフ羽2は、接着剤層6にクラック9が生じることにより、接着剤層6にクラック9の無いバフ羽2よりも剛性が低下している。
研磨剤7は、その粒径が約100μmのものが使用され、その一部以上が接着剤層6の表面から突出するように接着剤層6に接着されている。
【0020】
図1(a)、(b)に戻り、複数のバフ羽2は、それぞれ高さ方向の一方の端部(基端部)側2aがバフ3の中心軸部と同軸に複数設置されたリング部材(芯部)8にそれぞれ固定されて、他方の端部側2bがリング部材8の径方向外側に位置している。ここで、バフ羽2の他方の端部側2bを先端部分2bとして以下説明する。
バフ3の中心軸部3aは、回転駆動部4の回転軸部4aと連結されている。
【0021】
回転駆動部4は、バフ3を回転させるエアモータ(不図示)を備えている。そして、回転しているバフ羽2の先端部分2bを研磨対象物10(図1(a)参照)に押しつけることで、研磨対象物10を研磨するように構成されている。
バフ3の回転数は、約200rpmに設定され、バフ羽2の研磨対象物10への押付力は約3kgに設定されている。なお、バフ3の回転数およびバフ羽2の研磨対象物10への押付力は、上記以外の値としてもよい。
本実施形態では、研磨対象物10は、加圧水型原子炉の配管(被加工物)11の表面に溶接や機械加工によって生じた硬化層12とする。この配管11は、SUS304またはSUS316などのステンレス鋼で形成されているものとする。
【0022】
次に、上述した本実施形態による研磨装置1を使用した研磨方法について説明する。
本実施形態による研磨装置1を使用した研磨方法は、バフ羽2の先端部分2bの剛性を低下する前処理工程と、該前処理工程が実施されたバフ3で配管11の表面の硬化層12を研磨する研磨工程とを備えている。
【0023】
(前処理工程)
まず、新品のバフ羽2を備えるバフ3を回転させ、配管11とは別の部材(以下、前処理用部材とする)を約700秒研磨する。前処理用部材は、例えば、SUS304またはSUS316などのステンレス鋼で形成された鋼板などとする。
そして、バフ羽2の先端部分2bの接着剤層6と前処理用部材とが衝突することで、バフ羽2の先端部分2bの接着剤層6にクラック9を生じさせる。このとき、クラック9は、その幅の平均が約10μm以上となっていることが好ましい。
そして、接着剤層6にクラック9が形成されることにより、バフ羽2を新品のときよりも剛性が低下した状態とすることができる。
【0024】
ここで、異なるバフ3においてそれぞれ前処理工程を行う場合に、各前処理工程におけるバフ3の回転数と回転時間との積が一定値となることで、バフ羽2の剛性が同等となると考えられる。
例えば、本実施形態では、前処理工程において回転数が約200rpmに設定されたバフ3を700秒回転させると、その積が140000となるが、前処理工程において回転数が140rpmに設定されたバフ3を1000秒回転させた場合も、その積が140000となるため、回転数が約200rpmに設定されたバフ3を700秒回転させたときとバフ羽2の剛性が同等となると考えられる。
【0025】
(研磨工程)
続いて、バフ羽2の剛性が低下したバフ3を回転させ、配管11の表面に形成された硬化層12にバフ羽2を押し付けて研磨し硬化層12を除去する。
【0026】
ここで、本実施形態による研磨装置1で、前処理工程において、研磨時間と、前処理用部材の位置(1)および(2)の2点における表面から10μm位置のビッカース硬さとを測定した。図6には、各数値を示し、図7には、研磨時間と、前処理用部材の表面から10μmの位置におけるビッカース硬さとの関係を示す。
図6および図7から、700秒間前処理工程を行うことによって、バフ羽2の剛性が低下し、試験用の材料の表面のビッカース硬さが300(HV)以下となったことがわかる。
【0027】
次に、上述した研磨装置1および研磨方法の効果について図面を用いて説明する。
本実施形態による研磨方法によれば、バフ羽2の剛性を低下させた後に配管11の表面の硬化層12を研磨して除去することにより、バフ3による研磨工程において配管11の表面にビッカース硬さが300(HV)を超える新たな硬化層が生じることがないため、硬化層12を容易にかつ確実に除去することができる。
そして、配管11の硬化層12が除去されるため、硬化層12による応力腐食割れを防止することができる。
【0028】
以上、本発明による研磨装置1および研磨方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、研磨対象物10を加圧水型原子炉の配管11としているが、研磨対象物10はこれ以外のものでもよく、SUS304またはSUS316以外の材料で形成されていてもよい。
【0029】
また、上述した実施形態では、前処理工程で前処理用部材を約700秒研磨しているが、研磨する時間は任意に設定されてもよい。例えば、実施形態において前処理工程で前処理用部材を約1800秒研磨することによって、バフ羽2の剛性をより低下させることができる。このとき、各前処理工程におけるバフ3の回転数と回転時間との積が360000となるため、回転数および回転時間が異なる場合でもその積が360000となれば、回転数200rpmで約1800秒研磨した場合とバフ羽2の剛性が同等となると考えられる。
【符号の説明】
【0030】
1 研磨装置
2 バフ羽
2b 先端部分
3 バフ
5 基材
6 接着剤層
7 研磨剤
8 リング部材(芯材)
9 クラック(亀裂)
11 配管(被加工物)
12 硬化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に複数設けられたバフ羽を有するバフで被加工物の表面を研磨する研磨方法であって、
前記バフ羽の先端部分の剛性を低下させる前処理工程と、
該前処理工程が実施された前記バフで前記被加工物の表面を研磨する研磨工程とを備えることを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
請求項1において
前記前処理工程では、前記バフ羽の先端部分における基材に研磨剤を固定する接着剤層に亀裂を形成して前記バフ羽の先端部分の剛性を低下させていることを特徴とする研磨方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記前処理工程では、前記バフで所定時間、または、時間と回転数とが一定の関係となるように、研磨を実施することを特徴とする研磨方法。
【請求項4】
円筒状の芯部と、
基材と該基材の一面に配された研磨剤および前記基材の一面に形成され前記研磨剤を固定する接着剤層とを有した略板状で、基端が前記芯部に固定されて放射状に複数設けられたバフ羽とを備え、
前記バフ羽は、前記接着剤層に亀裂が形成されて剛性が低下していることを特徴とするバフ。
【請求項5】
請求項4に記載のバフを備えたことを特徴とする研磨装置。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−148377(P2012−148377A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9684(P2011−9684)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】